特許第5941587号(P5941587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941587
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/24 20160101AFI20160616BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20160616BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20160616BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160616BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20160616BHJP
【FI】
   H01M8/24 E
   H01M8/02 S
   H01M8/02 Y
   H01M8/02 E
   !H01M8/12
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-156327(P2015-156327)
(22)【出願日】2015年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-39149(P2016-39149A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-160524(P2014-160524)
(32)【優先日】2014年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
(72)【発明者】
【氏名】龍 崇
(72)【発明者】
【氏名】三浦 遥平
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−078455(JP,A)
【文献】 特開2014−078454(JP,A)
【文献】 特開2014−130804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/08 − 8/24
H01M 8/0202
H01M 8/0271
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板と、
前記支持基板の表面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、それぞれが燃料極、固体電解質膜、及び空気極がこの順で積層された複数の発電素子部と、
隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、それぞれが隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
前記支持基板の表面における前記発電素子部が設けられた領域を除いた部分を覆うように設けられ、前記ガス流路を経て前記燃料極に供給されるガスと前記空気極に供給されるガスとの混合を防止する、緻密質材料からなるシール膜と、
を備えた燃料電池であって、
前記各電気的接続部は、対応する前記空気極と接続するとともに前記シール膜の表面を覆うように設けられた第1部分であって、ストロンチウム又はランタンを含む導電性セラミックス材料からなる第1部分を有し、
前記各電気的接続部の前記第1部分は、複数の細隙を内部に含み、
前記複数の細隙のそれぞれは、前記電気的接続部の前記第1部分を構成する粒子間の粒界に沿って形成されており、
前記複数の細隙のうち少なくとも1つの細隙が、前記電気的接続部の前記第1部分の断面における任意の20視野(各視野サイズは、横4.2μm×縦3.3μm)を3万倍率の電子顕微鏡で観察した場合、前記20視野のうち少なくとも1視野に位置する、燃料電池。
【請求項2】
ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板と、
前記支持基板の表面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、それぞれが燃料極、固体電解質膜、及び空気極がこの順で積層された複数の発電素子部と、
隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、それぞれが隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
前記支持基板の表面における前記発電素子部が設けられた領域を除いた部分を覆うように設けられ、前記ガス流路を経て前記燃料極に供給されるガスと前記空気極に供給されるガスとの混合を防止する、緻密質材料からなるシール膜と、
を備えた燃料電池であって、
前記各電気的接続部は、対応する前記空気極と接続するとともに前記シール膜の表面を覆うように設けられた第1部分であって、ストロンチウム又はランタンを含む導電性セラミックス材料からなる第1部分を有し、
前記各電気的接続部の前記第1部分は、複数の細隙を内部に含み、
前記複数の細隙のそれぞれは、前記電気的接続部の前記第1部分を構成する粒子内を割くように形成されており、
前記複数の細隙のうち少なくとも1つの細隙が、前記電気的接続部の前記第1部分の断面における任意の20視野(各視野サイズは、横4.2μm×縦3.3μm)を3万倍率の電子顕微鏡で観察した場合、前記20視野のうち少なくとも1視野に位置する、燃料電池。
【請求項3】
ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板と、
前記支持基板の表面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、それぞれが燃料極、固体電解質膜、及び空気極がこの順で積層された複数の発電素子部と、
隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、それぞれが隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
前記支持基板の表面における前記発電素子部が設けられた領域を除いた部分を覆うように設けられ、前記ガス流路を経て前記燃料極に供給されるガスと前記空気極に供給されるガスとの混合を防止する、緻密質材料からなるシール膜と、
を備えた燃料電池であって、
前記各電気的接続部は、対応する前記空気極と接続するとともに前記シール膜の表面を覆うように設けられた第1部分であって、ストロンチウム又はランタンを含む導電性セラミックス材料からなる第1部分を有し、
前記各電気的接続部の前記第1部分は、複数の細隙を内部に含み、
前記複数の細隙のそれぞれは、前記電気的接続部の前記第1部分を構成する粒子間の粒界に沿った部分と前記粒子内を割く部分とが連なるように形成されており、
前記複数の細隙のうち少なくとも1つの細隙が、前記電気的接続部の前記第1部分の断面における任意の20視野(各視野サイズは、横4.2μm×縦3.3μm)を3万倍率の電子顕微鏡で観察した場合、前記20視野のうち少なくとも1視野に位置する、燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の燃料電池において、
前記複数の細隙のうち少なくとも1つの細隙が、前記電気的接続部の第1部分の断面における任意の20視野を3万倍率の電子顕微鏡で観察した場合、前記20視野のうち少なくとも2視野のそれぞれに位置する、燃料電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の燃料電池において、
前記複数の細隙の平均幅は、1nm以上且つ100nm以下である、燃料電池。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の燃料電池において、
前記複数の細隙の平均長さは、100nm以上且つ1000nm以下である、燃料電池。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の燃料電池において、
前記電気的接続部の前記第1部分は、La(Ni、Fe、Cu)O系材料を主成分として含有する、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板」と、「前記支持基板の表面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、それぞれが燃料極、固体電解質膜、及び空気極がこの順に積層された複数の発電素子部」と、「隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、それぞれが隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部」と、「前記支持基板の表面における前記発電素子部が設けられた領域を除いた部分を覆うように設けられ、前記ガス流路を経て前記燃料極に供給されるガスと前記空気極に供給されるガスとの混合を防止する、緻密質材料からなるシール膜」と、を備えた固体酸化物形燃料電池(SOFC)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。このような構成は、「横縞型」とも呼ばれる。
【0003】
前記文献に記載の燃料電池では、前記シール膜は、「前記発電素子部の固体電解質膜から前記支持基板の表面を覆うように延びる前記固体電解質膜と同じ材料(YSZ)からなる緻密質膜」に対応する。また、各電気的接続部が、「対応する前記空気極と接続するとともに前記シール膜の表面を覆うように(より正確には、前記シール膜の表面に形成された反応防止膜の表面に接触するように)設けられた第1部分」(所謂、空気極集電部)を備えている(後述する図2のZ部を参照)。この空気極集電部は、ストロンチウム又はランタンを含む導電性セラミックス材料からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4828663号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記文献に記載の燃料電池では、空気極集電部(焼成体)は、既に焼成されたシール膜(又は反応防止膜)上に配置された成形体を焼成することによって形成される。この空気極集電部の焼成後において、空気極集電部とシール膜(又は反応防止膜)との界面に剥離が発生し易い、という問題があった。これは、空気極集電部の焼成後の降温時において、空気極集電部にて過大な歪みが発生することに起因する、と考えられる。
【0006】
本発明は、以上の問題に対処するためのものであり、「横縞型」の燃料電池であって、「電気的接続部の第1部分」(空気極集電部)とシール膜(又は反応防止膜)との界面にて剥離が発生する可能性を低減できるものを提供することを目的とする。
【0007】
本発明に係る燃料電池は、「背景技術」の欄で記載した燃料電池と同様に、「支持基板」と、「複数の発電素子部」と、「1つ又は複数の電気的接続部」と、「シール膜」と、を備えた「横縞型」の燃料電池である。前記シール膜は、対応する前記発電素子部の固体電解質膜から前記支持基板の表面を覆うように延びる、前記固体電解質と同じ組成又は異なる組成を有する材料からなる緻密質膜で構成され得る。前記各電気的接続部は、「対応する前記空気極と接続するとともに前記シール膜の表面を覆うように設けられた第1部分であって、Sr又はLaを含む導電性セラミックス材料からなる第1部分」(空気極集電部)を有する。前記電気的接続部の前記第1部分は、La(Ni、Fe、Cu)O系材料を主成分として含有することが好適である。
【0008】
本発明に係る燃料電池の特徴は、前記各電気的接続部の第1部分が複数の細隙を内部に含むことにある。ここで、前記複数の細隙のそれぞれは、前記電気的接続部の第1部分を構成する粒子間の粒界に沿って形成され得る。或いは、前記複数の細隙のそれぞれは、前記電気的接続部の第1部分を構成する粒子内を割くように形成され得る。或いは、前記複数の細隙のそれぞれは、前記電気的接続部の第1部分を構成する粒子間の粒界に沿った部分と前記粒子内を割く部分とが連なるように形成され得る。複数の細隙のうち少なくとも1つの細隙は、電気的接続部の第1部分の断面における任意の20視野(各視野サイズは、横4.2μm×縦3.3μm)を3万倍率の電子顕微鏡で観察した場合、20視野のうち少なくとも1視野に位置する。
【0009】
本発明者は、上記のような複数の細隙が電気的接続部の第1部分の内部に含まれると、「電気的接続部の第1部分」の焼成後において、「電気的接続部の第1部分」とシール膜(又は反応防止膜)との界面にて剥離が発生する可能性を低減できることを見出した(詳細は後述する)。
【0010】
本発明に係る燃料電池では、前記複数の細隙の平均幅は、1nm以上且つ100nm以下であることが好適である。また、前記複数の細隙の平均長さは、100nm以上且つ1000nm以下であることが好適である。これらによれば、熱的により過酷な条件下においても、前記剥離が発生する可能性を低減できることが判明した(詳細は後述する)。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る燃料電池を示す斜視図である。
図2図1に示す燃料電池の2−2線に対応する断面図である。
図3図1に示す支持基板の凹部に埋設された燃料極及びインターコネクタの状態を示した平面図である。
図4図1に示す燃料電池の作動状態を説明するための図である。
図5図1に示す燃料電池の作動状態における電流の流れを説明するための図である。
図6図1に示す支持基板を示す斜視図である。
図7図1に示す燃料電池の製造過程における第1段階における図2に対応する断面図である。
図8図1に示す燃料電池の製造過程における第2段階における図2に対応する断面図である。
図9図1に示す燃料電池の製造過程における第3段階における図2に対応する断面図である。
図10図1に示す燃料電池の製造過程における第4段階における図2に対応する断面図である。
図11図1に示す燃料電池の製造過程における第5段階における図2に対応する断面図である。
図12図1に示す燃料電池の製造過程における第6段階における図2に対応する断面図である。
図13図1に示す燃料電池の製造過程における第7段階における図2に対応する断面図である。
図14図1に示す燃料電池の製造過程における第8段階における図2に対応する断面図である。
図15】本発明に係る燃料電池における固体電解質膜、反応防止膜、及び空気極集電部からなる積層体を模式的に示した図である。
図16】本発明に係る燃料電池の空気極集電部の断面を3万倍に拡大して示したSEM画像である。
図17】本発明に係る燃料電池の空気極集電部の断面を10万倍に拡大して示したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)を示す。このSOFCは、長手方向(x軸方向)を有する平板状の支持基板10の第1及び第2主面10P,10Qのそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
【0013】
このSOFCの全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが5〜50cmで長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さが1〜10cmの長方形である。このSOFCの全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCの全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、図1に加えて、このSOFCの図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このSOFCの詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
【0014】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する図6に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。
【0015】
また、支持基板10は、図1及び6に示すように、第1主面10Pと第2主面10Qを有する。第1主面10Pと第2主面10Qは、支持基板10の上下面である。第1主面10Pと第2主面10Qは、互いに対向する。第1主面10Pと第2主面10Qのそれぞれは、燃料ガス流路11に沿って形成される。本実施形態において、第1主面10Pと第2主面10Qのそれぞれは、長手方向と平行に形成される。第1及び第2主面10P,10Qのそれぞれには、各発電素子部Aに対応する箇所に凹部12がそれぞれ形成されている。本例では、各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0016】
支持基板10は、図1及び6に示すように、第1側端面10Sと第2側端面10Tを有する。第1側端面10Sと第2側端面10Tのそれぞれは、第1及び第2主面10P,10Qに連なる。第1側端面10Sと第2側端面10Tは、互いに対向する。第1側端面10Sと第2側端面10Tのそれぞれは、燃料ガス流路11に沿って形成される。本実施形態において、第1側端面10Sと第2側端面10Tのそれぞれは、長手方向と平行に形成される。第1側端面10Sと第2側端面10Tは、支持基板10の幅方向(y軸方向)の両端面である。
【0017】
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。
【0018】
支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」と、絶縁性セラミックスとを含んで構成され得る。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)が好適である。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
【0019】
また、絶縁性セラミックスとしては、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」が好適である。また、絶縁性セラミックスとして、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y(イットリア)が使用されてもよい。
【0020】
このように、支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが多孔質の支持基板10の内部の多数の気孔を介して燃料ガス流路11から燃料極に供給される過程において、上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
【0021】
支持基板10の厚さは、1〜5mmである。以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の第1主面10P側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の第2主面10Q側の構成についても同様である。
【0022】
図2及び図3に示すように、支持基板10の第1主面10Pに形成された各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0023】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0024】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0025】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密質材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0026】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の第1主面10P又は第2主面10Qとにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の第1主面10P又は第2主面10Qと同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の第1主面10P又は第2主面10Qとの間で、段差が形成されていない。
【0027】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。燃料極集電部21及び燃料極活性部22の気孔率は20〜60%である。
【0028】
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸素イオン伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0029】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0030】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。即ち、固体電解質膜40は、発電素子部Aの内部から支持基板10の表面を覆うように発電素子部Aの外部へ延びている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。即ち、固体電解質膜40は、ジルコニア(ZrO)を含む。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0031】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密質膜により覆われている。この緻密質膜は、緻密質膜の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密質膜の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。このガスシール機能を発揮するため、この緻密質膜(インターコネクタ30+固体電解質膜40)の気孔率は、10%以下である。この緻密質膜のうち「固体電解質膜40における発電素子部Aの外部に形成された部分」が、前記「シール膜」に対応する。即ち、図2に示す構成では、前記「シール膜」は、発電素子部A内の固体電解質膜40から支持基板10の表面を覆うように延びる、固体電解質膜40と同じ組成を有する材料からなる緻密質膜で構成されている。なお、後述する反応防止膜50(固体電解質膜40の上に形成される緻密質膜)も前記「シール膜」の一部と考えても良い。
【0032】
なお、図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20(集電部21+活性部22)の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の第1及び第2主面10P,10Qを覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の第1主面10P又は第2主面10Qとの間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0033】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極(空気極活性部)60が形成されている。反応防止膜50は、緻密質材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性、及び酸素イオン伝導性を有する多孔質材料からなる焼成体である。空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0034】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O(ガドリニウムドープセリア)、及び、SDC=(Ce,Sm)O(サマリウムドープセリア)等の希土類元素を含むセリアから構成され得る。即ち、反応防止膜50は、ジルコニア(ZrO)を含まない。ここで、「反応防止膜50がジルコニア(ZrO)を含まない」とは、反応防止膜50と前記シール膜との積層体について、反応防止膜50における前記シール膜との界面からの距離が2μm以内の領域内において、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、酸素(O)のうち、ジルコニウム濃度が、5at.%(原子分率、原子パーセント)以下(更に好ましくは、1at.%以下)であることを指す。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。反応防止膜50の気孔率は15%以下である。
【0035】
空気極(空気極活性部)60は、ペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含む材料で構成される。ペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含む材料としては、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSF=(La,Sr)FeO(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)等が挙げられる。なお、本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが好ましくは60重量%以上を占め、より好ましくは70重量%以上を占め、さらに好ましくは90重量%以上を占めること、を意味する。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。空気極60の気孔率は25〜50%である。
【0036】
なお、固体電解質膜40と空気極60との間に反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層(SrZrO、又は、LaZr)が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0037】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の第1主面10Pには、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0038】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電部70が形成されている。空気極集電部70は、電子伝導性を有する材料からなる焼成体である。空気極集電部70を上方からみた形状は、長方形である。
【0039】
空気極集電部70は、空気極(空気極活性部)60より高い電子伝導性を有していることが好適である。空気極集電部70は、酸素イオン伝導性を有していてもよいし、酸素イオン伝導性を有していなくてもよい。空気極集電部70は空気極60と共焼成されている。空気極集電部70は、ストロンチウム(Sr)又はランタン(La)を含む導電性セラミックスによって構成される。例えば、空気極集電部70は、ストロンチウム(Sr)又はランタン(La)を含むペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含む材料で構成することができる。このようなペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含む材料としては、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)等が挙げられる。
【0040】
また、空気極集電部70は、下記(1)式で表される酸化物で構成され得る。
La(Ni1−x−yFeCu3−δ …(1)
ただし、(1)式において、m及びnは0.95以上1.05以下であり、xは0.03以上0.3以下であり、yは0.05以上0.5以下であり、δは0以上0.8以下である。以下、(1)式に記載の酸化物を、La(Ni,Fe,Cu)Oと表記する。
【0041】
空気極集電部70の熱膨張係数は、空気極60の熱膨張係数より小さくてもよい。例えば、LSCFの熱膨張係数は14〜16ppm/Kであるのに対し、上記(1)式で表されるペロブスカイト型複合酸化物の熱膨張係数は、13〜14ppm/Kである。なお、空気極集電部70の内部に含まれる「細隙」については後に詳述する。
【0042】
このように各空気極集電部70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電部70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の第1主面10Pに配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電部70及びインターコネクタ30」が、前記「電気的接続部」に対応する。
【0043】
なお、空気極集電部70は、前記「電気的接続部」における前記「導電性セラミックス材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における前記「緻密質材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は10%以下である。
【0044】
図2に示す構成では、反応防止膜50が、発電素子部Aの内部(即ち、固体電解質膜40と空気極60との間の部分)から前記シール膜(=固体電解質膜40における発電素子部Aの外部に形成された部分)の表面を覆うように(表面に接触するように)発電素子部Aの外部へ延びている。空気極集電部70が、反応防止膜50(より具体的には、反応防止膜50における発電素子部Aの外部に形成された部分)の表面を覆うように(表面に接触するように)形成されている。空気極集電部70における前記シール膜の表面を覆うように形成された部分(より具体的には、反応防止膜50の表面に形成された部分)の厚さは、50〜500μmである。空気極集電部70と前記シール膜とが向かい合う全ての部分において、反応防止膜50(より具体的には、反応防止膜50における発電素子部Aの外部に形成された部分)が介装されている。
【0045】
以上、説明した「横縞型」のSOFCに対して、図4に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の第1及び第2主面10P,10Q(特に、各空気極集電部70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の第1及び第2主面10P,10Qに沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(2)、(3)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O+2e→O2− (於:空気極60) …(2)
+O2−→HO+2e (於:燃料極20) …(3)
【0046】
発電状態においては、図5に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図4に示すように、このSOFC全体から(具体的には、図4において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0047】
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のSOFCの製造方法の一例について図6図14を参照しながら簡単に説明する。図6図14において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0048】
先ず、図6に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図6に示す7−7線に対応する部分断面を表す図7図14を参照しながら説明を続ける。
【0049】
図7に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図8に示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各凹部に、燃料極集電部の成形体21gがそれぞれ埋設・形成される。次いで、図9に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各凹部に、燃料極活性部の成形体22gがそれぞれ埋設・形成される。各燃料極集電部の成形体21g、及び各燃料極活性部の成形体22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0050】
続いて、図10に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各凹部に、インターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成される。各インターコネクタの成形体30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0051】
次に、図11に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)及び複数のインターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面に、固体電解質膜の成形体40gが形成される。固体電解質膜の成形体40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0052】
次に、図12に示すように、固体電解質膜の成形体40gの外側面の全域に、反応防止膜の成形体50gが形成される。各反応防止膜の成形体50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0053】
そして、このように種々の成形体が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCにおいて空気極60及び空気極集電部70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0054】
次に、図13に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形体60gが形成される。各空気極の成形体60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0055】
次に、図14に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形体60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形体60g、反応防止膜50、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電部の成形体70gが形成される。各空気極集電部の成形体70gは、例えば、空気極集電部70の材料(例えば、LSCF、La(Ni、Fe、Cu)O)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、塗布等を利用して形成される。なお、空気極集電部70の内部に含まれる「細隙」の本数、長さ、及び幅の調整については後に詳述する。
【0056】
そして、このように成形体60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて900〜1100℃で1〜20時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCが得られる。このように、空気極集電部70(焼成体)は、既に焼成されたシール膜(より具体的には反応防止膜50)上に配置された成形体70gを焼成することによって形成される。なお、この時点では、酸素含有雰囲気での焼成により、燃料極20(集電部21+活性部22)中のNi成分が、NiOとなっている。従って、燃料極20(集電部21+活性部22)の電子伝導性を獲得するため、その後、支持基板10側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが800〜1000℃で1〜10時間に亘って還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。以上、図1に示したSOFCの製造方法の一例について説明した。
【0057】
(空気極集電部に含まれる細隙)
図15は、図2のZ部に含まれる固体電解質膜40(=シール膜)、反応防止膜50、及び空気極集電部70の積層体を模式的に示す。以下、説明の便宜上、図15に示すように、空気極集電部70の内部領域70aを定義する。内部領域70aは、空気極集電部70と反応防止膜50との界面P1、及び、空気極集電部70の上表面P2のそれぞれから離間した領域である。換言すれば、内部領域70aは、空気極集電部70における厚さ方向の両端部に挟まれた領域である。内部領域70aの厚さDaは、1μm〜50μmとすることができる。また、内部領域70aと界面P1及び界面P2とのそれぞれとの距離は、1μm〜50μmとすることができる。
【0058】
空気極集電部70は、内部領域70aにて、複数の細隙(割れ目)SLを含んでいる。図16及び図17はそれぞれ、空気極集電部70(焼成体)の内部領域70aの厚さ方向に沿う断面を3万倍及び10万倍に拡大して示したSEM画像(走査型電子顕微鏡を用いて得られた画像)の一例である。図16及び図17では、内部領域70aに含まれる複数の細隙SLのうちの一つ(同じ一つの細隙SL)が示されている。これらのSEM画像は、日本電子(株)製のJEM−2010F(電界放出形透過電子顕微鏡)を用いて、加速電圧が200kVの条件下にて得られた。図16に示す画像(3万倍)の視野サイズは横4.2μm×縦3.3μmであり、図17に示す画像(10万倍)の視野サイズは横1.3μm×縦1.0μmである。
【0059】
複数の細隙SLのうちの一部の細隙SLは、内部領域70aの側表面に露呈していてもよい。また、複数の細隙SLのうちの一部の細隙SLは、空気極集電部70における内部領域70a以外の領域(内部領域70aに対して反応防止膜50に近い側の領域、及び、内部領域70aに対して反応防止膜50から遠い側の領域)に形成されていてもよい。内部領域70aに対して反応防止膜50から遠い側に形成される場合、前記一部の細隙SLは、空気極集電部70の上表面P2に露呈していてもよい。
【0060】
細隙SLは、空気極集電部70を構成する粒子間の粒界に沿って形成されていてもよいし、空気極集電部70を構成する粒子内を割くように形成されていてもよい。更には、細隙SLは、空気極集電部70を構成する粒子間の粒界に沿った部分と前記粒子内を割く部分とが連なるように形成されていてもよい。即ち、細隙SLは、粒界及び/又は粒子内に形成されるマイクロクラックであり、導電性セラミックス材料で構成される空気極の内部の所謂「気孔」とは全く異なる。図16及び図17に示すSEM画像では、粒界に沿って形成された細隙SLが示されている。
【0061】
複数の細隙SLが形成される頻度は、内部領域70aの断面における任意の20視野を3万倍率のSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した場合、20視野のうち1視野において少なくとも1つの細隙SLが発見される程度であることが好ましく、20視野のうち2視野それぞれにおいて少なくとも1つの細隙SLが発見される程度であることが好ましい。なお、日本電子(株)製のJEM−2010Fを用いて得られた10万倍のSEM画像中で観察された全ての細隙が、3万倍のSEM画像中でも観察することができた。従って、3万倍のSEM画像を用いれば、10万倍のSEM画像中で観察されるような極めて小さい細隙も発見することができる。また、日本電子(株)製のJEM−2010Fを用いた場合には、観察条件や装置の状態に関わらず3万倍のSEM画像を良好な画質で取得できることが確認されている。
【0062】
なお、図16に示すSEM画像(3万倍)では、1つの視野に1つの細隙SLが観察された様子が示されているが、上述の通り、少なくとも内部領域70a内には複数の細隙SLが存在している。このような頻度で形成された複数の細隙SLのそれぞれが狭まったり広がったりすることによって、空気極集電部70の焼成後の降温時において、空気極集電部70に過大な歪みが発生し難くなる。この結果、空気極集電部70の焼成後において、空気極集電部70とシール膜(より具体的には、反応防止膜50)との界面にて剥離が発生する可能性が低減され得る。
【0063】
複数の細隙SLの平均長さは、100nm以上1000nm以下であることがより好ましい。本実施形態において、平均長さとは、SEM画像において細隙SLの両端を結ぶ線分の長さの平均値である。また、複数の細隙SLの平均幅は、1.0nm以上100nm以下であることがより好ましい。本実施形態において、平均幅とは、SEM画像における細隙SLの最大幅の平均値である。なお、細隙SLの平均長さ及び平均幅は、少なくとも10個以上の細隙SLの実測値に基づいて算出することが好ましい。
【0064】
細隙SLの本数の調整は、空気極集電部70を構成する材料の粉末の物性を調整することによってなされ得る。具体的には、その粉末の平均粒径及び最大粒径が大きければ大きいほど、或いは、その粉末の粒度分布が広ければ広いほど、細隙SLの本数が大きくなる。従って、例えば、厚さ方向に関して細隙SLが形成される頻度が異なる空気極集電部70を得るためには、空気極集電部70の成形体として、上記物性が異なる粉末を含む複数層の成形体を作成し、この複数層の成形体を焼成すればよい。
【0065】
また、細隙SLの長さ及び幅の調整は、空気極集電部70の焼成条件を調整することによってなされ得る。具体的には、焼成温度が高ければ高いほど、或いは、昇温速度又は降温速度が速ければ速いほど、細隙SLの長さ及び幅が大きくなる。
【0066】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、平板状の支持基板10の第1及び第2主面10P,10Qのそれぞれに複数の発電素子部Aが設けられているが、平板状の支持基板10の片側面のみに複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。また、支持基板10が円筒状を呈していてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、固体電解質膜40における「発電素子部Aの内側の部分」(燃料極活性部22と空気極活性部60との間の部分)と「発電素子部Aの外側の部分」(=前記シール膜)とが同じ組成で構成されているが、異なる組成で構成されてもよい。同様に、反応防止膜50における「発電素子部Aの内側の部分」(固体電解質膜40と空気極活性部60との間の部分)と「発電素子部Aの外側の部分」とが同じ組成で構成されているが、異なる組成で構成されてもよい。また、反応防止膜50が介装されなくてもよい。この場合、空気極集電部70は、固体電解質膜40(=前記シール膜)の上に直接形成される。
【0068】
なお、本発明は、「焼成体の上に配置される成形体を焼成して得られる空気極集電部70」が剥離する可能性を低減することを目的としている。従って、空気極集電部70が前記焼成体とは別の焼成工程を経て形成される限りにおいて、空気極集電部70が多孔質膜上に形成されていてもよい。即ち、空気極集電部70と前記シール膜との間に多孔質の焼成膜が介装されていてもよい。
【0069】
(空気極集電部に含まれる細隙による剥離抑制効果の確認)
以下、空気極集電部70の内部に細隙SLが含まれることによって空気極集電部70の剥離が抑制されること、を確認するために行った試験について、表1を参照しながら説明する。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、この試験では、24種類のサンプルが作製された。各サンプルは、上述した実施形態(図1及び図2を参照)と同様の形態を有する。各サンプルは、上述した製造方法を利用して作製された。なお、サンプルNo.1〜14では、シール膜(固体電解質膜40)と空気極集電部70との間に反応防止膜50が介装されている。即ち、空気極集電部70が反応防止膜50の上に直接形成されている。一方、サンプルNo.15〜24では、シール膜(固体電解質膜40)と空気極集電部70との間に反応防止膜50が介装されていない。即ち、空気極集電部70が固体電解質膜40の上に直接形成されている。
【0072】
表1に示すように、サンプル毎に、空気極集電部70の材料及び厚さ、並びに、細隙SLの本数、平均幅、平均長さの組み合わせが異なる。空気極集電部70の成形体は、反応防止膜50又は固体電解質膜40(焼成膜)の上にスラリーを複数回塗布することによって形成された。空気極集電部70の厚さの調整は、スラリーの塗布回数を変更することによってなされた。
【0073】
細隙SLの本数の調整は、スラリーに含まれる粉末(セラミック粉末)の平均粒径及び最大粒径を変更することによってなされた。細隙SLの長さ及び幅の調整は、焼成温度、並びに、昇温速度及び降温速度を変更することによってなされた。
【0074】
具体的には、サンプルNo.1、11、15、22(細隙SLが確認された視野数:ゼロ)では、平均粒径が0.2〜0.5μmとされ、最大粒径が1.0〜1.5μmとされ、焼成温度が950〜1000℃(1〜20時間)とされ、昇温速度が100℃/hrとされ、降温速度が100℃/hrとされた。
【0075】
サンプルNo.2、5、10、13、17、21(細隙SLが確認された視野数:1)では、平均粒径が0.2〜0.5μmとされ、最大粒径が1.0〜1.5μmとされ、焼成温度が950〜1000℃(1〜20時間)とされ、昇温速度が100〜150℃/hrとされ、降温速度が100〜150℃/hrとされた。
【0076】
上記以外の各サンプル(細隙SLが確認された視野数:2以上)では、平均粒径が0.5〜1.4μmとされ、最大粒径が2.0〜2.8μmとされ、焼成温度が1000〜1100℃(1〜20時間)とされ、昇温速度が200〜400℃/hrとされ、降温速度が200〜250℃/hrとされた。ただし、サンプルNo.9、20(特に、平均幅及び平均長さが大きい)については、平均粒径及び最大粒径は上記と同じ範囲とされたが、焼成温度が1050〜1100℃(1〜20時間)とされ、昇温速度が300〜400℃/hrとされ、降温速度が230〜250℃/hrとされた。
【0077】
この試験では、各サンプルについて、空気極集電部70の断面(図16を参照)を3万倍率のSEMで観察することによって、空気極集電部70の内部における細隙の有無が観察された。各サンプルについて、任意の20視野が観察された。
【0078】
焼成後の各サンプルについて、発見された全ての細隙について幅と長さを実測することによって細隙の平均幅及び平均長さが算出された。発見された細隙の数(頻度)、平均幅、及び平均長さは、表1に示すとおりである。なお、平均幅は、細隙の最大幅の平均値であり、平均長さは、細隙の両端を結ぶ線分の長さの平均値である。
【0079】
この試験では、焼成後の各サンプルについて、空気極集電部70と反応防止膜50(又は固体電解質膜40)との界面を含む断面を顕微鏡で観察することによって、前記界面における剥離の有無が確認された。その結果が表1に示されている。表1では、明らかに大きな剥離が確認されたサンプルが“×”と評価され、軽微な剥離のみが確認されたサンプルが“○”と評価され、剥離が確認されなかったサンプルが“◎”と評価された。
【0080】
この試験では、次に、焼成後にて剥離が確認されなかったサンプル(評価:◎)についてのみ、還元雰囲気を維持しながら、常温から800℃まで30分で昇温し、その後1時間で常温まで降温させるサイクルを10回繰り返した(熱サイクル試験)。その後、各サンプルについて、空気極集電部70と反応防止膜50(又は固体電解質膜40)との界面を含む断面を顕微鏡で観察することによって、前記界面における剥離の有無が再度確認された。その結果も表1に示されている。表1では、軽微な剥離が確認されたサンプルが“○”と評価され、剥離が確認されなかったサンプルが“◎”と評価された。
【0081】
表1から理解できるように、20視野のうち少なくとも1視野において細隙が観察されたサンプルでは、焼成後において、空気極集電部70と反応防止膜50(又は固体電解質膜40)との界面における剥離の発生を抑えることができた(焼成後の剥離の欄で、判定が“×”以外のサンプルを参照)。特に、20視野のうち少なくとも2視野それぞれで少なくとも1つの細隙が観察されたサンプルでは、焼成後において、軽微な剥離の発生も抑えることができた(焼成後の剥離の欄で、判定が“◎”のサンプルを参照)。これは、空気極集電部70の内部に形成された複数の細隙のそれぞれが狭まったり広がったりすることによって、空気極集電部70の焼成後の降温時において、空気極集電部70に過大な歪みが発生し難くなったことに起因する、と考えられる。
【0082】
更には、表1から理解できるように、細隙の平均幅が1.0nm以上100nm以下であり、且つ、平均長さが100nm以上1000nm以下のサンプルでは、熱サイクル試験後における軽微な剥離の発生も抑えることができた(熱サイクル試験後の剥離の欄で、判定が“◎”のサンプルを参照)。
【0083】
なお、この試験では、各サンプルについて、空気極集電部70用に複数回塗布されるそれぞれのスラリーに含まれる粉末の平均粒径及び最大粒径が同じとされた。換言すれば、各サンプルでは、空気極集電部70の内部にて細隙SLが形成される頻度が厚さ方向の全域に亘って均一となっている。これに対し、例えば、空気極集電部70の内部領域70aのみに細隙SLを形成し、それ以外の領域には細隙SLを形成しなくてもよい。この場合、複数回塗布されるスラリーのうち内部領域70aに対応するスラリーに含まれる粉末の平均粒径及び最大粒径を、それ以外の領域に対応するスラリーに含まれる粉末の平均粒径及び最大粒径に対して相対的に大きくすればよい。
【符号の説明】
【0084】
10…支持基板、10P、10Q・・・主面、10S,10T・・・側端面、11…燃料ガス流路、20…燃料極、30…インターコネクタ、40…固体電解質膜、50…反応防止膜、60…空気極(空気極活性部)、70…空気極集電部、A…発電素子部
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