特許第5941709号(P5941709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIエアロスペースの特許一覧

<>
  • 特許5941709-音響特性の計測装置及び計測方法 図000002
  • 特許5941709-音響特性の計測装置及び計測方法 図000003
  • 特許5941709-音響特性の計測装置及び計測方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941709
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】音響特性の計測装置及び計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   G01H17/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-51618(P2012-51618)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-185976(P2013-185976A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】山本 研吾
(72)【発明者】
【氏名】梅林 孝
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−194768(JP,A)
【文献】 特開平10−197332(JP,A)
【文献】 特開2002−199493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空であり、内部と外部とを連通する貫通孔が穿設されている構造体と、
前記貫通孔を塞ぐように前記構造体の外面に取り付けられた膜部材と、
前記貫通孔よりも大きな音発生面を具備して該貫通孔から前記構造体内部に音を供給するスピーカと、
前記スピーカと前記膜部材との間に設けられる集音部材と、
前記構造体の内部に設けられ、前記スピーカより供給される音を受音する受音手段と、
前記受音手段により受音された音の特性を解析する音響解析手段と、
を備え
前記集音部材は、前記スピーカの前記音発生面の周縁から前記貫通孔入口周縁まで漏斗状に縮小した形状をなし、該集音部材の大開口部は前記スピーカにおける前記音発生面の周縁と接触していると共に該集音部材の小開口部は前記貫通孔入口周縁と前記膜部材を介して接触していることを特徴とする音響特性の計測装置。
【請求項2】
前記膜部材は、ポリイミドテープであることを特徴とする請求項1記載の音響特性の計測装置。
【請求項3】
中空であり、内部と外部とを連通する貫通孔が穿設されている構造体の外面に、当該貫通孔を塞ぐように膜部材を取り付け、
前記構造体の外部には、前記貫通孔よりも大きな音発生面を有するスピーカを配置すると共に、前記スピーカと前記膜部材との間には、漏斗状をなして大開口部が前記スピーカの前記音発生面の周縁に接触し且つ小開口部が前記貫通孔入口周縁と前記膜部材を介して接触する集音部材を配置して、
前記スピーカにより前記集音部材及び前記膜部材を介して前記貫通孔から前記構造体内部に音を供給し、
前記構造体の内部に設けられた受音手段により受音し
前記受音した音の特性を音響解析手段により解析する
ことを特徴とする音響特性の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空の構造体内部における音響特性を計測する計測装置及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空の構造体内部の音響特性を計測する方法としては、構造体内部にスピーカ等の音発生装置を配置して当該スピーカ等の音発生機器から発せられる音を、同じく構造体内部に配置したマイク等の受音機器で受音すれば、途中に障害物等なく構造体内部の音響特性を直接的に計測することができて好ましい。ただし、構造体内部の空間がスピーカより小さい場合には、スピーカを構造体内部に設置することができず、このような計測方法は採用できない。例えば、比較的低周波な音を発生させるスピーカは構造上大きなものとなるが、当該スピーカを用いて音響特性の計測を行う場合には、構造体内部にスピーカを設置することが難しい。
【0003】
そこで、構造体外部に配置したスピーカから構造体内部へと音を発して、構造体内部のマイクにより受音するという方法が考えられる。
また、配管系或いは容器の音響特性を同定すべく、同定対象である配管等の内部にインパルス状の流動変動を与える方法等も開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−66627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、構造体外部から音を発した場合、構造体自体による音の減衰が大きいため内部のマイクで正確に受音することが困難となる。この減衰分を考慮してスピーカからの音を大きくするのは効率が悪化するし、騒音問題が生じ好ましくない。
また、上記特許文献1に記載された技術では、圧縮ガス等を用いてインパルス状の流量変化を起こしているが、これはスピーカ及びマイクを用いた音響特性の計測方法を解決するものではなく、計測対象が限定される等の問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、簡易な構成で、効率よく構造体の音響特性の計測を行うことのできる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1の音響特性の計測装置では、中空であり、内部と外部とを連通する貫通孔が穿設されている構造体と、前記貫通孔を塞ぐように前記構造体の外面に取り付けられた膜部材と、前記貫通孔よりも大きな音発生面を具備して該貫通孔から前記構造体内部に音を供給するスピーカと、前記スピーカと前記膜部材との間に設けられる集音部材と、前記構造体の内部に設けられ、前記音発生手段より供給される音を受音する受音手段と、前記受音手段により受音された音の特性を解析する音響解析手段と、を備え、前記集音部材は、前記スピーカの前記音発生面の周縁から前記貫通孔入口周縁まで漏斗状に縮小した形状をなし、該集音部材の大開口部は前記スピーカにおける前記音発生面の周縁と接触していると共に該集音部材の小開口部は前記貫通孔入口周縁と前記膜部材を介して接触していることを特徴としている。
【0008】
求項の音響特性の計測装置では、請求項1において、前記膜部材は、ポリイミドテープであることを特徴としている。
【0009】
請求項の音響特性の計測方法では、中空であり、内部と外部とを連通する貫通孔が穿設されている構造体の外面に、当該貫通孔を塞ぐように膜部材を取り付け、前記構造体の外部には、前記貫通孔よりも大きな音発生面を有するスピーカを配置すると共に、前記スピーカと前記膜部材との間には、漏斗状をなして大開口部が前記スピーカの前記音発生面の周縁に接触し且つ小開口部が前記貫通孔入口周縁と前記膜部材を介して接触する集音部材を配置して、前記スピーカにより前記集音部材及び前記膜部材を介して前記貫通孔から前記構造体内部に音を供給し、前記構造体の内部に設けられた受音手段により受音し、前記受音した音の特性を音響解析手段により解析することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記手段を用いる本発明の請求項1の音響特性の計測装置及び請求項の音響特性の計測方法によれば、中空の構造体に貫通孔を穿設し、当該貫通孔を膜部材で塞いだ上で、当該膜部材を介して構造体外部から内部に音を供給する。そして、供給された音を構造体内部に設けられた受音手段により受音して、音響解析手段により解析を行う。
このように外部から音を供給するための貫通孔を膜部材で塞いでいることで、貫通孔が穿設されていることによる構造体の音響特性の変化を最小限に抑えることができる。また、膜部材は薄く音の減衰が小さいことから、小さな音でも計測を行うことができ、騒音等もなく効率よく計測を行うことができる。
【0011】
また、スピーカを構造体外部に配置できることから、スピーカの構造が大きくなる低周波の音を用いた計測も容易に行うことができる。
さらに、請求項の音響特性の計測装置によれば、貫通孔及びスピーカの形状に対応させた集音部材を用いることで、スピーカの音をより効率よく構造体内部に伝達させることができる。
【0012】
請求項によれば、ポリイミドテープは薄くて伸縮性の低いものであり、構造体に貼り付けることができることから、膜部材として用いることで、取付容易な上、減衰少なく効率の良い計測を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る音響特性の計測装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る音響特性の計測装置を用いた場合と薄膜テープがない場合の共振周波数の実測値と理論値との比を示した表である。
図3】本発明の変形例に係る音響特性の計測装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1を参照すると、本発明の実施形態に係る音響特性の計測装置の概略構成図が示されている。
図1には、本実施形態における音響特性の計測対象として有底筒状の構造体1が示されている。当該構造体1としては、中空の構造体であればよく、具体的には、ロケットモータ、自動車のマフラー、ダクト等が挙げられる。
【0015】
当該構造体1の外周には長手方向に3つ並んでマイク2、2、2(受音手段)が設けられている。各マイク2は、構造体1の外周面を貫通して設けられており、先端の受音部2aが構造体1内部に臨んでいる。
また、構造体1の一側端面の中心部には貫通孔1aが穿設されている。当該貫通孔1aは例えば直径10mm程度の円孔である。
【0016】
さらに、当該一側端面には、貫通孔1aを塞ぐように薄膜テープ4(膜部材)が貼り付けられている。薄膜テープ4は、少なくとも構造体1の外殻よりも薄い厚さであり、且つ伸縮性の低い膜部材であって、例えばポリイミドテープが好ましい。
そして、構造体1の一側端面には、薄膜テープ4を介して集音器6(集音部材)が取り付けられている。当該集音器6は、一方が大きく開口した大開口部6a、他方が小さく開口した小開口部6bをなし、当該一方から他方に向けて漏斗状に収縮した形状をなしている。小開口部6bは、貫通孔1aの径と略同径をなし、当該貫通孔1aと同軸上に配置され、薄膜テープ4と接触している。集音器6の大開口部6aは、当該大開口部6aと略同径の音発生面8aを有するスピーカ8が配置されている。スピーカ8は音発生面8aから音響特性の計測のための所定の音を発するものである。
【0017】
また、スピーカ8と、各マイク2は音響計測器10(音響解析手段)に電気的に接続されている。音響計測器10は計測に応じた周波数や音圧等に調整して所定の音を発するようスピーカ8を制御して、各マイク2で受音した音を受信して解析するものである。
このように構成された音響特性の計測装置において、以下当該構造物1の音響特性の計測方法について説明する。
【0018】
音響計測器10において、予め所定の音を1または複数設定しておき、計測時には計測に応じた所定の音を選択して、選択した音をスピーカ8より発するよう制御する。当該スピーカ8から発せられた音は集音器6の大開口部6aから小開口部6bに向かうことで集音されて、小開口部6bから薄膜テープ4を介して貫通孔1aへと伝達され、当該貫通孔1aから構造体1の内部に音が供給される。
【0019】
各マイク2は、当該構造体1内部に供給された音を各々配置された位置にて受音して、受音した音情報を音響計測器10に送る。音響計測器10では各マイク2から受けた情報を解析することで当該構造体1の各位置での音響特性を分析する。
ここで図2を参照すると、本発明の一実施形態に係る音響特性の計測装置を用いた場合と薄膜テープがない場合の共振周波数の実測値と理論値との比を示した表が示されている。なお、図2では、同一の構造体1に対し同じ特性の音を供給し、図1に示す貫通孔1aに最も近いマイク2により受音した音の周波数を1次の値、中央のマイク2で受音した音の周波数を2次の値、貫通孔1aから最も遠いマイク2により受音した音の周波数を3次の値として示している。
【0020】
図2に示すように、対象が同じ構造体1であっても、貫通孔1aを塞がずに計測を行った場合には、各マイク2で受音した実測値と理論値との比は低い値となり、実測値と理論値とが離れている。特にスピーカ8に近いマイク2で受音した場合ほど、実測値が理論値と離れることがわかる。一方、薄膜テープ4により貫通孔1aを塞いだ本実施形態の場合には、各マイク2で受音した実測値と理論値との比はいずれも1に近い値となり、マイク2の位置に関わらずほぼ実際の音響特性を計測できていることがわかる。
【0021】
このように、スピーカ8が構造体1外部にあり、当該スピーカ8から発せられる音を貫通孔1aを通して構造体1内部に伝達しているが、当該貫通孔1aを薄膜テープ4で塞いでいることで、貫通孔1aが穿設されていることによる構造体1の音響特性の変化を最小限に抑えることができる。また、薄膜テープ4は薄く音の減衰が小さいことから、小さな音でも計測を行うことができ、騒音等もなく効率よく計測を行うことができる。特に薄く伸縮性の低いポリイミドテープを用いることで取付容易な上、減衰少なく効率の良い計測を実現することができる。
【0022】
スピーカ8を構造体1外部に配置できることから、スピーカ8の構造が大きくなる低周波の音を用いた計測も容易に行うことができる。また、貫通孔1a及びスピーカ8の形状に対応させた集音器6を用いることで、スピーカ8の音をより効率よく構造体1内部に伝達させることができる。
以上のことから本発明に係る音響特性の計測装置及び計測方法によれば、内部空間の小さい構造体等であっても、簡易な構成で効率よく音響特性の計測を行うことができる。
【0023】
以上で本発明に係る音響特性の計測装置及び計測方法の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、上記実施形態では、構造体1の一側端面に貫通孔1aを穿設し、当該構造体1と略同軸上にスピーカ8を配置しているが、当該貫通孔1aの位置及びスピーカ8の位置等はこれに限られるものではない。例えば、図3に示す変形例のように、構造体1’の外周面の一側に貫通孔1a’を穿設し、当該外周面に薄膜テープ4’を貼り付けた上で、構造体1’の軸方向に対して垂直に集音器6’及びスピーカ8’を配置した構成としても構わない。
【0024】
また、上記実施形態では、構造体1は有底筒状をなしているが、端面が開放された筒状の構造体であったり、径が一定でなく一側から他側に径が拡大または縮小した形状であったり、断面が円形でない四角等の多角形であったりしても適用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1、1’ 構造体
1a、1a’ 貫通孔
2 マイク(受音手段)
4 薄膜テープ(膜部材)
6 集音器(集音部材)
8 スピー
10 音響計測器(音響解析手段)
図1
図2
図3