特許第5941729号(P5941729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5941729分解速度が調節された生分解性プラスチック製品並びに当該製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941729
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】分解速度が調節された生分解性プラスチック製品並びに当該製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20160616BHJP
   C08L 99/00 20060101ALI20160616BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20160616BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08L99/00
   C12N1/20 F
   C12N1/20 A
   C12N1/20 D
   !C08L101/16
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-82189(P2012-82189)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209587(P2013-209587A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀之
【審査官】 杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−206370(JP,A)
【文献】 特開2006−137917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/14
C08K 3/00 − 13/08
C12N 1/00 − 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸を含む生分解性プラスチックの製造方法であって、ポリヒドロキシアルカン酸分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌の少なくとも1つを、成型されたプラスチックの表面が固化する前に該プラスチックの表面に噴霧または塗布し、次いでプラスチック表面を加圧することによって、当該プラスチックの成形時に添加することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
微生物の胞子を添加する請求項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解速度が調節された生分解性プラスチック製品並びに当該製品の製造方法に関する。詳しくは、分解速度が調節されたポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を成分とする生分解性プラスチック製品並びに当該製品の製造方法に関する。より詳しくは、デポリメラーゼを生産する菌株及び/または当該菌株の胞子を固定したPHAを成分とする生分解性プラスチック製品並びに当該製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による埋立て処分場の不足や環境汚染が深刻化な問題として取り上げられている。このため環境中や埋立て処分場、コンポスト中で微生物の作用によって分解される生分解性プラスチックが注目されてきた。
【0003】
生分解性プラスチックは環境中で利用される農林水産業用資材、使用後の回収・再利用が困難な食品容器、包装材料、衛生用品、ゴミ袋などへの幅広い応用を目指して開発が進められている。
【0004】
生分解性プラスチックには、バイオマス系並びに石油系生分解性プラスチックがある。前者としては天然物系(デンプン、セルロースなど)、微生物産生系(ポリヒドロキシアルカン酸(PHA))、植物系(ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA))、後者としてはポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAT)、ポリカプロラクトン(PCL)などが上げられる。
【0005】
これらのうちPHAは微生物が菌体内に蓄積する熱可塑性高分子で、3−ヒドロキシアルカン酸のホモポリマーあるいは共重合ポリマーが知られている。代表的なホモポリマーはポリヒドロキシ酪酸(PHB)であり、多くの微生物が生産する。また、共重合ポリマーには3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合ポリマー(PHBV)や3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合ポリマー(PHBH)などがある。これらの共重合ポリマーは硬質から軟質の幅広い性質を示すことから、広範な用途に適用することができる。
【0006】
しかし、生分解性プラスチックを用いた農林水産業用資材などは、使用する環境によって分解速度が異なることが予想される。これは環境中に存在する生分解性プラスチックを分解・資化できる微生物の分布と密度が大きく異なることに起因する。このため、当該資材の分解を加速するために種々の方法が提案されてきた。
【0007】
例えば、生分解性素材(ポリ乳酸)に微生物培地成分を配合する方法(特許文献1)、生分解性プラスチック素材にリパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、乳酸脱水素酵素などの加水分解酵素を添加する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0008】
PHAに関しても、これを分解・資化できる微生物の探索が行なわれ、PHBを分解する微生物が多数報告されている。一例として、土壌より分離したシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物が分離され、本菌株がPHBを分解する酵素であるデポリメラーゼ(Depolymerase)を産生することが見出された(特許文献3)。また、アルカリジェネス(Alkaligenes)属の生産するデポリメラーゼ遺伝子がクローニングされ、当該酵素の製造法とその利用法も提案案されている(特許文献4)。
【0009】
しかし、特許文献1のように培地成分を配合する方法では、分解速度は依然として、環境中の微生物の存在状況に左右される。また、特許文献2の方法では、酵素は一般に耐熱性に乏しく、使用態様が制限される。
【0010】
分解酵素を、使用中の農業資材やコンポストに散布することで、生分解性プラスチックの分解を加速し、分解速度を調節することも考えられるが、当該微生物や分解酵素製剤の製造や輸送にかかる費用や散布の手間を考えると事実上困難である。
【0011】
また、生分解性素材に同素材を分解する酵素活性を有する微生物を塗布あるいは配合させることも提案されている。例えば、特許文献5では、微生物が配合されたポリビニルアルコールまたはデンプンからなる分解促進層を生分解プラスチックの表面に塗着している。また、特許文献6では、微生物を予めマイクロカプセル化して、生分解性素材に含有させている。更に、デンプンあるいはセルロースを生分解性素材として含む複合樹脂フィルムにおいては、樹脂製造の過程で、アミラーゼあるいはセルラーゼを生産し得る微生物を、胞子の形態で樹脂中に含有させることも提案されている(特許文献7)。
【0012】
しかし、特許文献5の方法では、プラスチック内部の分解を促進するため、前記分解促進層の塗着に先立ち、プラスチック表面を粗面化あるいは浸透孔を設ける等の処理を行っている。特許文献6の方法でもマイクロカプセル化の処理が必要である。また特許文献7では、分解酵素が付着した生分解性プラスチックと当該酵素を産生する微生物の胞子を植物油で被覆する工程が必要である。従ってこれらの方法は、煩雑でコスト面でも有利ではない。しかも、上記の微生物を利用する方法は、いずれもPHAとは異なる生分解素材に対する報告であり、PHAに関しては、簡便な方法でその分解を促進し、適切な期間で分解させる有力な方法は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−168150号公報
【特許文献2】特開平4−168149号公報
【特許文献3】特開平7−155180号公報
【特許文献4】特開平9−191887号公報
【特許文献5】特開2006−137917号公報
【特許文献6】特開2002−356623号公報
【特許文献7】特開平03−179036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記現状に鑑み、農林水産業用資材などの環境中で使用される生分解性プラスチック、特にはPHAの分解速度を調節する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、PHA分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌の少なくとも1つを、PHAを含む生分解性プラスチックに含有させる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(15)を提供するものである。
(1)ポリヒドロキシアルカン酸を含む生分解性プラスチックであって、ポリヒドロキシアルカン酸分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌の少なくとも1つ含有することを特徴とする、生分解性プラスチック。
(2)ポリヒドロキシアルカン酸分解酵素を生産する微生物の胞子を含有する(1)の生分解性プラスチック。
(3)前記ポリヒドロキシアルカン酸が、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−co−3-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−co−3-ヒドロキシ吉草酸−co−3-ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−co−3-ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−4-ヒドロキシ酪酸)である(1)または(2)の生分解性プラスチック。
(4)ポリヒドロキシアルカン酸が、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシ吉草酸)またはポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシヘキサン酸)である(3)の生分解性プラスチック。
(5)Acidovorax属、Alcaligenes属、Aureobacterium属、Comamonas属、Marinobacter属、Paucimonas属、Pseudomonas属、Steptomyces属、Ilyobacter属、Clostridum属、Paecilomayces属、Penicillium属、Aspergillus属、Xanthomonas属、Bacillus属、Thermobifida属、Celluromonas属、のいずれかに属する微生物またはその胞子を含有する(1)〜(4)のいずれかの生分解性プラスチック。
(6)Steptomyces属、Clostridum属、Penicillium属、Aspergillus属、Bacillus属、Thermobifida属のいずれかに属する微生物の胞子を含有する(1)〜(4)のいずれかの生分解性プラスチック。
(7)前記微生物またはその胞子が、Bacillus megateriumまたはThermobifida fusca、またはその胞子である(5)または(6)の生分解性プラスチック。
(8)ポリヒドロキシアルカン酸を含む生分解性プラスチックの製造方法であって、ポリヒドロキシアルカン酸分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌の少なくとも1つを、当該プラスチックの溶融混錬時に添加することを特徴とする、製造方法。
(9)微生物の胞子添加する(8)の製造方法。
(10)ポリヒドロキシアルカン酸を含む生分解性プラスチックの製造方法であって、ポリヒドロキシアルカン酸分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌の少なくとも1つを、当該プラスチックの成型時に添加することを特徴とする、製造方法。
(11)前記微生物の胞子または好熱菌の少なくとも一つを、成型されたプラスチックの表面が固化する前に該プラスチックの表面に噴霧または塗布し、次いでプラスチック表面を加圧する(10)の製造方法。
(12)微生物の胞子を添加する(10)または(11)の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、環境中で使用される生分解性プラスチックの分解速度を調節することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
(ポリヒドキシアルカン酸)
本発明において、分解速度調整の対象とする生分解性プラスチックは、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含む生分解性プラスチックである。
【0020】
PHAは微生物が菌体内に蓄積する熱可塑性高分子で、3−ヒドロキシアルカン酸のホモポリマーあるいは共重合ポリマーが知られている。なかでも、共重合ポリマーは、構成モノマー成分の組成比によって硬質から軟質の幅広い性質を示し、広範な用途に適用することができる。
【0021】
共重合PHAとしては、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−co−3-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−co−3-ヒドロキシ吉草酸−co−3-ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−co−3-ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−4-ヒドロキシ酪酸)等が挙げられ、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシ吉草酸)またはポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシヘキサン酸)がより好ましい。
【0022】
なお、前記特許文献7に記載のデンプンやセルロースの場合、粒度調整には酵素処理が不可欠であり、結果、適切な粒度が得られた段階で、酵素や微生物の胞子を植物油で被覆し、分解が進み過ぎるのを抑止する必要があった。一方、PHAの場合、生産菌の培養条件や、菌体から分離後に化学的な加水分解処理を施すことによって、分子量調整が可能である。このため、前記特許文献7のように、植物油での被覆といった煩雑な工程を経ることなく、PHA分解酵素を生産する微生物や胞子を含有させることができる。
【0023】
(ポリヒドロキシアルカン酸分解微生物、その胞子)
本発明の微生物は土壌、堆肥、活性汚泥、河川、海水などの環境中より分離することができる。微生物の分離には種々の方法が知られているが(農芸化学実験書、第2巻)、生分解性プラスチックを分解する微生物を分離できればどのような分離方法を用いてもよい。一例として、環境から得られた種々のサンプルを滅菌した水や生理的食塩水に懸濁し、菌体懸濁液を作製する。この懸濁液を適当な菌濃度に希釈後、ポリヒドロキシアルカン酸を唯一または主な炭素源として含有する固体培地上に塗布し、菌株の生育できる温度で培養する。培養温度は微生物が生育できる温度であれば特に制限されないが、好熱菌を分離する場合は培養温度を高温に設定する。また、培地中に加える生分解性プラスチックはどのような形状のものであっても利用できるが、微細な粉末が好適である。濃度は特に制限されないが、固体培地が加えた生分解性プラスチックによって白濁する濃度が好適である。生分解性プラスチックを分解する微生物は、生育してきた菌体コロニーの周囲に同ポリマーを分解したことを示すハローを形成することにより、検出・分離することができる。
【0024】
このようにして、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−co−3-ヒドロキシヘキサン酸)のようなポリヒドロキシアルカン酸を分解する微生物として、Acidovorax属、Alcaligenes属、Aureobacterium属、Comamonas属、Marinobacter属、Paucimonas属、Pseudomonas属、Steptomyces属、Ilyobacter属、Clostridum属、Paecilomayces属、Penicillium属、Aspergillus属、Xanthomonas属、Bacillus属、またはThermobifida属に属する微生物が取得できる。
【0025】
プラスチック製品の製造においては、溶融混練時や成型加工時に高温条件となる場合が多く、上記の微生物の中でも、好熱菌が好ましい。本発明において好熱菌とは、42℃以上で生育可能な微生物を表し、生育至適温度が45℃以上である微生物がより好ましく、生育至適温度が55℃以上である微生物が更に好ましい。
【0026】
また、これら微生物から胞子形成菌を選別し、胞子の形態で生分解性プラスチックに含有させることが好ましい。胞子は耐久性が高く、生分解性プラスチック製品の製造時の高温条件下において微生物(生菌体)より生存率が高く、分解速度が調節された生分解性プラスチック製品の製造に好適に用いることができる。
【0027】
胞子は、内生胞子(芽胞を含む)、外生胞子のいずれであってもよい。胞子形成菌は前記微生物を当業者に周知の胞子形成条件で培養し、顕微下で観察することで、選別することができる。
【0028】
本発明に好適な胞子形成微生物としては、Steptomyces属、Clostridum属、Penicillium属、Aspergillus属、Bacillus属、Thermobifida属に属する微生物が挙げられ、これら微生物の胞子を用いるのが好ましい。
【0029】
中でも、Bacillus属またはThermobifida属に属する微生物がより好ましく、Bacillus megateriumまたはThermobifida fuscaが更に好ましく、これら微生物の胞子が特に好ましい。
【0030】
前記微生物を培養し、培養ブロスを洗浄、遠心分離することで菌体ケーキを生産することができる。また菌体ケーキを凍結乾燥や噴霧乾燥を行うことで乾燥菌体を生産することもできる。生分解性プラスチックの分解は生菌数によって影響を受けることから、凍結乾燥のような菌体にマイルドな方法が好適であるが、当該微生物が生存しているかぎり利用することができる。
【0031】
また、胞子を形成する微生物を胞子形成条件で培養することにより、当該胞子を大量に調整することができる。形成された胞子を種々の方法で微生物より分離し、回収することができる。この場合、当該微生物と胞子を分離せずに用いることもできる。
【0032】
(PHAへの微生物、胞子の添加)
前記生分解性プラスチックの分解酵素を生産する微生物の胞子や該酵素を生産する好熱菌を、成型加工前の混練状態で添加することで、当該微生物または胞子を含有する生分解性プラスチック製品を製造することができる。本発明にかかる生分解性プラスチック製品は、公知の樹脂組成物の調製方法として一般に用いられる公知の方法により容易に調製できる。
【0033】
本発明においては、当該胞子や好熱菌を植物油で被覆したり、マイクロカプセル化したりといった付加的な処理を行うことなく、生分解性ブラスチックに添加することができる。ただし、胞子や好熱菌は一般的な微生物に比べて耐熱性を有するけれども、胞子や好熱菌に対して熱履歴が最小となる加工方法を適用することが好適である。例えば、生分解性プラスチックと生分解性プラスチックの分解酵素を生産する微生物胞子または該酵素を生産する好熱菌と、さらに必要であれば他の成分とを混合した後、直ちに押出機、ロールミル、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の溶融混錬機により混練してペレットとしてから成形に供する方法が挙げられる。
【0034】
また、当該胞子や好熱菌を含有する高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これを生分解性プラスチックに所望の割合で混合してから直ちに成形に供する方法、などが利用できる。
【0035】
当該胞子や好熱菌は生分解性プラスチックと同時に溶融混錬機に投入して混錬する方法のほか、生分解性プラスチックを予め溶融させておき、次いで後から分解酵素を生産する微生物の胞子や該酵素を生産する好熱菌を添加し混錬する方法も利用できる。
【0036】
また、押出機のように生分解性プラスチックが連続的にストランド状に製造される場合は、分解酵素を生産する微生物の胞子や該酵素を生産する好熱菌を含有する浴槽等に当該ストランドを浸して通過させることによってストランド表面に付着させる方法なども好適に利用できる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、公知の方法で成形加工が可能である。例えば、インフレーション成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。前述したように、生分解性プラスチックと分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌は、溶融混錬時に添加するかまたは溶融混錬後に表面に付着させた後に成形加工に供せられるが、成形加工時に生分解性プラスチックと分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌を混合して直接成形する方法も利用できる。
【0038】
また、分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌を、成型加工時に生分解性プラスチック製品に直接噴霧または塗布することで、当該胞子または好熱菌が固定された生分解性プラスチック製品を製造することができる。成型加工された生分解性プラスチックの表面が固化する前に、胞子または好熱菌を噴霧または塗布し、次いで生分解性プラスチック表面を加圧するのがより好ましい。本方法によれば、胞子や好熱菌をより強固に生分解プラスチックの表面により強固に固定することができる。
【0039】
例えば、繊維の紡糸成形のように連続的に紡糸される場合は、分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌を含有する浴槽に当該繊維を浸して通すことによって繊維表面に塗布して付着させることができる。シート成形の場合には、シートが固化する前に分解酵素を生産する微生物の胞子や該酵素を生産する好熱菌を塗布または噴霧して表面に付着させ、次いで加圧ロールによってシートの両面から圧を加えることによって表面に付着した微生物や当該微生物の胞子をシートに固定することができる。
【0040】
本製造法では、上述した好熱菌や胞子を特に制限なく使用できるが、当該プラスチック製品の成型加工時に高温にさらされることから、前述の好熱菌、胞子のなかでも、より耐熱性に優れた好熱菌や胞子を利用することがより好適であり、耐熱性に優れた胞子を用いるのが更に好適である。
【0041】
生分解性プラスチック製品の生分解性は、製品表面および/または製品内部に固定された増殖可能な当該微生物または胞子の数に依存することから、当該微生物の生菌数または生育可能な胞子の数を調整することで、生分解性プラスチック製品の分解速度を調節することができる。製品内部に固定された場合、当該製品の表面が生分解を受けたあと、内部に存在する微生物および/または胞子が増殖することで分解が加速されることになる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術範囲を限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)生分解性プラスチック(PHA)分解菌の単離
新潟県新津市において1次、2次発酵した堆肥から得られた抽出液を用い、NB培地上で30℃、37℃または55℃にてコロニーを形成した微生物を、NB培地に0.3%PHBH粉末(株式会社カネカ製、商品名アオニレックス)を混合した寒天培地上で37℃または55℃にて培養し、溶解ゾーンを形成する微生物を探索した。
その結果、37℃で培養した寒天培地より種々の微生物が分離され、16SrDNA配列に基づき、Bacullus megaterium、Cellulomnas cellurans、Cellulosimicrobium celluransと同定された。また、55度で培養した寒天培地より高温微生物が分離され、16SrDNA配列に基づき、Thermobifida fuscaと同定した。このうちBacullus megateriumとThermobifida fuscaは胞子を形成する。
【0044】
なお、前記Bacullus megaterium、Cellulomnas celluransは、それぞれFERM P−20422、FERM P−20423の受託番号にて、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(城県つくば市東1丁目11)に寄託されている。
【0045】
(実施例2)生分解性プラスチック(PHA)分解菌の胞子調整
Thermobifida fusca(特願2008−054082)を、10mg/LのPHBH粉末を含有するLB培地で50℃、二日間培養した。添加したPHBH粉末が分解されたこと及び胞子形成を顕微鏡にて確認後、遠心分離にて菌体ならびに胞子を取得した。滅菌水にて2度洗浄し、遠心分離にて菌体及び胞子ペレットを調整した。得られたペレットを凍結乾燥することで、菌体及び胞子パウダーを得た。パウダーの一部を滅菌水に再懸濁し、希釈液をLB寒天培地に塗布して50℃で培養することで生菌数を確認した。
【0046】
なお、本実施例では本発明者らが取得したThermobifida fuscaを使用したが、本発明の効果はこの特定の菌株に限られるものではなく、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)等の微生物保存機関から入手できる、他の系統のThermobifida fuscaを用いてもよいことは、言うまでもない。
【0047】
(実施例3〜5)生分解速度が調節された生分解性プラスチック製品の製造
2軸押出機(日本製鋼所製、TEX30)を用い、シリンダー設定温度110℃〜120℃にてPHBH粉末(株式会社カネカ製、商品名アオニレックス)を溶融混練してペレット化した。得られたペレットは、幅150mm、リップ厚0.25mmのT型ダイスを装着した1軸押出機(東洋精機製作所製、ラボプラストミル20C200型)を用いて、成形温度130℃、スクリュー回転数80rpmの条件で押出成形した。冷却ロールで急冷し、シート表面が固化する前に実施例2で調整した分解酵素を生産する微生物および当該胞子の水懸濁液を塗布し、次いで加圧ロールでシート両面から圧力を加えることによって上記微生物の微生物および胞子をシート表面に固定した。水懸濁液の微生物および胞子の濃度(コロニー形成単位:CFU)は103/ml、105/ml、107/mlを用いた。得られたシートの厚みは約100μmであった。
得られたシートは約10cm四方にカットし、ガーデンファンタジー社製植栽用まき土「花と野菜の土」(成分:ピートモス、バーク堆肥)の中で生分解試験を実施した。シートの表面状態を目視にて観察し、分解開始に要する日数および消滅に要する日数で評価した。評価結果は表1に示した。
(比較例1)
分解酵素を生産する微生物および胞子を塗布しない以外は、実施例3と同様の方法でシートを成形し、生分解試験を実施した。結果は表1に示した。
【0048】
【表1】