(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
過酢酸含有廃水を活性炭と接触させて、前記過酢酸含有廃水中の過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部を分解し、酢酸を含む分解処理水を排出する過酸化物分解工程と、
前記分解処理水を活性炭が充填された嫌気性ろ床または嫌気性流動床を用いて処理して、前記分解処理水に含まれる前記酢酸をメタン発酵処理し、嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程と、
を備え、
前記過酸化物分解工程で過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部の分解による反応時に流出した活性炭を、前記嫌気性処理工程における嫌気性ろ床又は嫌気性流動床内に捕捉してメタン菌保持担体として使用することを特徴とする過酢酸含有廃水の処理方法。
過酢酸含有廃水を活性炭と接触させて、前記過酢酸含有廃水中の過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部を分解し、酢酸を含む分解処理水を排出し(過酸化物分解工程)、
前記分解処理水を活性炭が充填された嫌気性ろ床または嫌気性流動床を用いて、該分解処理水に含まれる前記酢酸をメタン発酵処理し、嫌気性処理水を排出し(嫌気性処理工程)、
前記嫌気性処理工程で嫌気性処理水の少なくとも一部を、前記分解処理水へ供給し、前記嫌気性処理水に含まれる還元性物質により、前記分解処理水に残留した過酸化水素又は過酢酸を還元して分解し、過酸化水素及び過酢酸を含む殺菌能力を除去した上でメタン発酵処理することを特徴とする過酢酸含有廃水の処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、過酢酸含有廃水を活性炭と接触させて、前記過酢酸含有廃水中の過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部を分解し、酢酸を含む分解処理水を排出する過酸化物分解工程と、前記分解処理水を活性炭が充填された嫌気性ろ床または嫌気性流動床を用いて処理して、前記分解処理水に含まれる前記酢酸をメタン発酵処理し、嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程と、を備える過酢酸含有廃水の処理方法である。
このような過酢酸含有廃水の処理方法を、以下では「本発明の方法」ともいう。
【0011】
また、本発明は、過酢酸含有廃水を活性炭と接触させて、前記過酢酸含有廃水中の過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部を分解し、酢酸を含む分解処理水を排出する過酸化物分解部と、前記分解処理水を活性炭が充填された嫌気性ろ床または嫌気性流動床を用いて処理して、前記分解処理水に含まれる前記酢酸をメタン発酵処理し、嫌気性処理水を排出する嫌気性処理部と、を有する過酢酸含有廃水の処理装置である。
このような過酢酸含有廃水の処理装置を、以下では「本発明の装置」ともいう。
【0012】
本発明の装置は、本発明の方法を実施することができる。
本発明の方法は、本発明の装置によって実施することが好ましい。
以下、単に「本発明」と記した場合、「本発明の方法」および「本発明の装置」のいずれをも意味するものとする。
【0013】
<過酢酸含有廃水>
本発明において過酢酸含有廃水は、過酸化水素および/または過酢酸を含む水であれば特に限定されない。通常、水中において過酢酸は過酸化水素および酢酸との平衡状態にあるため、過酢酸含有廃水は酢酸も含む。
食品工場においてPET容器等に各種食品を無菌充填する際にオキソニアと呼ばれる殺菌剤を用いて容器の殺菌が行われているが、このような工場から排出される殺菌廃水には、通常、過酸化水素および過酢酸が含まれているので、この廃水は本発明の方法における過酢酸含有廃水に該当する。
【0014】
過酢酸含有廃水中の各成分濃度は特に限定されないものの、過酢酸含有廃水中の過酢酸濃度が100mg/L以上であると、嫌気性処理工程においてメタン発酵を行う上で好ましい。過酢酸の上限濃度は10,000mg/L以下であることが好ましく、過酢酸濃度が10,000mg/Lを超える場合には、他の廃水や希釈水などを使用し、過酢酸濃度を10,000mg/L以下にすることが好ましい。
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0016】
図1は、本発明の方法を好ましく行うことができる本発明の装置の一態様を示す概略図である。
図1において廃水処理装置10は、活性炭が充填された反応槽12と、活性炭を沈降分離する沈殿池13とを有する。過酢酸含有廃水11を反応槽12へ供給して過酢酸含有廃水11と活性炭と接触させて、過酢酸含有廃水11中の過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部を分解する。過酢酸を分解することで酢酸を生成することができる。反応槽12から排出された処理液3は沈澱池13に供給され、これに含まれる活性炭を沈降分離する。沈澱池13における上澄液は、分解処理水4として排出される。また、沈澱池13において沈降分離した活性炭は返送配管14を介して反応槽12へ返送される。
【0017】
反応槽12、沈澱池13および返送配管14は、本発明の装置における過酸化物分解部に相当する。
【0018】
図1において廃水処理装置10は、活性炭を充填した上向流嫌気性流動床処理装置15を有する。分解処理水4を上向流嫌気性流動床処理装置15を用いて処理して、分解処理水に含まれる酢酸をメタン発酵処理してメタンを生成し、嫌気性処理水16を排出する。
【0019】
上向流嫌気性流動床処理装置15は、本発明の装置における嫌気性処理部に相当する。
【0020】
また、
図1に示した廃水処理装置10では、嫌気性処理水16の少なくとも一部を分解処理水4へ加えることができる循環配管17と、上向流嫌気性流動床処理装置15内から余剰の活性炭を抜き出して、反応槽12へ供給できる移送配管18とを有する。
【0021】
次に、廃水処理装置10が有する各部について説明する。
【0022】
反応槽12について説明する。
廃水処理装置10において反応槽12は、内部に活性炭が充填されていて、使用時において活性炭が流動撹拌状態となる態様のものである。流動撹拌状態とは、活性炭が反応槽内で懸濁状態にあることを意味し、具体的には、反応槽有効容量のうち活性炭の占める重量が1〜35W/V%であることを意味する。
このように使用時において活性炭が流動撹拌状態となる態様の反応槽を、以下では「活性炭流動接触槽」ともいう。
【0023】
反応槽12は、過酢酸含有廃水11を活性炭と接触させ、過酢酸含有廃水11に含まれる過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部を分解できる態様のものであれば特に限定されず、活性炭が内部に充填された固定床や流動床の反応槽であってもよいが、活性炭流動接触槽であることが好ましい。
前述のように、嫌気性処理部において過酸化物分解部から排出される分解処理水中に残存した酢酸をメタン発酵処理するためには、過酢酸含有廃水中の過酢酸濃度が100mg/L以上であることが好ましい。そして、過酢酸濃度が100mg/L以上の過酢酸含有廃水を活性炭と接触させて分解する場合、反応槽は活性炭流動接触槽を用いることが好ましい。過酢酸濃度が100mg/L以上の過酸化物濃度が高い過酢酸含有廃水を、活性炭が内部に充填された固定床や流動床の反応槽で処理する場合、発生するガス量の増大により、反応槽内でのガス偏流を形成し、充填層内で短絡流が生じて過酸化水素や過酢酸と活性炭との接触効率が低下し、未分解の過酸化水素や過酢酸を含む分解処理水が、過酸化物分解部から流出する場合があるからである。使用時において活性炭が流動撹拌状態となる反応槽(活性炭流動接触槽)であれば、過酢酸含有廃水中の過酢酸の濃度が高い場合でも発生ガスの影響を受けず、過酢酸および過酸化水素と活性炭との接触が良好に保つことができるので好ましい。
【0024】
活性炭流動接触槽において過酢酸含有廃水と活性炭とを流動撹拌状態で良好に接触させる撹拌方法としては、過酸化物(過酢酸および過酸化水素)の分解により発生するガスを利用した撹拌が適用できる。さらに、エアレーションによる撹拌の併用や撹拌機を用いた機械的撹拌を併用してもよい。
【0025】
活性炭流動接触槽を設計するにあたって、槽容量、撹拌方法、活性炭量、活性炭種類、活性炭粒径などの要因はその数値に特に制限は無く、接触方法や敷地面積などは個別の事情を考慮した選択が可能である。ただし、上記いずれの撹拌方法を用いても、過酢酸含有廃水と活性炭とを十分良好な接触状態におくと、活性炭は活性炭流動接触槽からオーバーフローする。そのため、活性炭流動接触槽は沈降部も含めた単一の水槽を用いることが好ましい。
【0026】
具体的には、
図2に示すような水槽を二重構造の槽とし、内側の接触部41からオーバーフローした処理水と活性炭との混合水を外槽(沈降部42)に導き、沈降部42で滞留させることで活性炭を沈降させ、上澄水は分解処理水として処理水排出管37から排出させることが好ましい。
つまり、
図2に示す態様は、
図1に示した廃水処理装置10が有する反応槽12、沈澱池13および返送配管14の全て機能を備えるものである。
図2に示す態様の場合、沈降した活性炭は内側の接触部41に自然に戻すことができる。または、この時に、ポンプなどを用い、沈降した活性炭を強制的に内側の接触部41に戻してもかまわない。
【0027】
また、
図2は二重構造の単一槽であるが、活性炭流動接触槽は二重構造である必要はない。例えば、接触部と処理水排出管の間に沈降部があり、そこで活性炭が沈降し、沈降した活性炭が接触部に戻る構造であってもよい。
【0028】
沈澱池13および返送配管14について説明する。
沈澱池13および返送配管14は従来公知のものを用いることができる。例えば沈澱池としては、シックナーを用いることができる。
【0029】
上向流嫌気性流動床処理装置15について説明する。
上向流嫌気性流動床処理装置15では、分解処理水4を上向流で導入して処理することができる。上向流嫌気性流動床装置15は嫌気性菌付着担体である活性炭を投入して使用することができる。
【0030】
分解処理水を処理する嫌気性処理工程におけるメタン発酵法としては、嫌気微生物を浮遊状態で保持する嫌気性消化法や、嫌気微生物を固定床充填材の表面に生物膜として保持する嫌気性ろ床法、嫌気微生物を砂や粒状活性炭等の流動性担体表面に保持する嫌気性流動床法、メタン菌を塊状凝集体であるグラニュール汚泥として保持するUASB法の適用が考えられる。
本発明ではメタン発酵処理の対象が、ほぼ酢酸単一基質の場合でも安定したメタン発酵処理が可能である、活性炭を充填した嫌気性ろ床または嫌気性流動床法を用いる。
【0031】
過酢酸含有廃水を活性炭と接触させ、過酸化水素および過酢酸の少なくとも一部を分解した後、残存する酢酸を効率よくメタン発酵処理するためには、メタン菌を固定化してリアクター内に保持できる嫌気性ろ床、嫌気性流動床、UASB法が、嫌気微生物を浮遊状態で保持する嫌気性消化法よりも適している。
【0032】
また、メタン発酵処理工程にグラニュール汚泥を保持したUASB法を適用する場合、対象基質がほぼ酢酸単一基質であるため、増殖するメタン菌の種類が限られ、微生物(メタン菌)の自己造粒による固定化能力を比較的低下させる傾向にあり、グラニュール汚泥の形成を困難とする。
また、グラニュール汚泥の緻密さを低下させるため、グラニュール汚泥の長期間の安定保持が困難となり、その結果、処理の継続が困難になる。
【0033】
そのため、メタン発酵処理装置としては、対象基質が酢酸単一基質でも、メタン菌を担体に固定化でき、安定したメタン発酵処理が可能である嫌気性ろ床または嫌気性流動床法が好適である。
【0034】
さらに、プラスチック製担体等の他の担体に比べ、活性炭はメタン菌の付着・保持能力に優れているため、本発明の嫌気性ろ床または嫌気性流動床法の担体として活性炭が適している。
【0035】
本発明の方法では、過酸化物分解工程(好ましくは活性炭流動接触槽を用いた過酸化物分解工程)と、嫌気性処理工程(好ましくは上向流嫌気性流動床装置を用いた嫌気性処理工程)との両方において活性炭を担体として使用する。
また、本発明の装置では、過酸化物分解部(好ましくは活性炭流動接触槽を含む過酸化物分解部)と、嫌気性処理部(好ましくは上向流嫌気性流動床装置を含む嫌気性処理部)との両方において活性炭を担体として使用する。
したがって、本発明では、過酸化水素および/または過酢酸の分解反応時に発生する酸素の発泡により、反応槽(活性炭流動接触槽等)から流出した活性炭が嫌気性ろ床または嫌気性流動床(上向流嫌気性流動床等)において捕捉され、メタン菌保持担体として使用できる。
【0036】
従来、
図2のような沈降部を備えた二重構造の活性炭接触流動槽を用いた場合でも、沈降部からの活性炭の流出は避けられず、年間数%〜10質量%程度の活性炭が流出していた。上向流嫌気性流動床装置においても、メタン発酵により発生したバイオガスが付着した活性炭や、バイオガスの上昇流に同伴した活性炭が上向流嫌気性流動床から排出される嫌気性処理水とともに流出してしまうことが避けられず、従来は、年間数%〜10質量%程度の活性炭が流出していた。
これに対して本発明では、過酸化物分解部から流出する活性炭を嫌気性処理部において補充するので、システム全体として活性炭は減少し難く、その結果、活性炭補充量を従来と比較して低減できる点で有効である。
【0037】
また、過酸化物分解部(活性炭接触流動槽等)から流出する活性炭を嫌気性処理部(上向流嫌気性流動床等)において捕捉することにより嫌気性処理部における上向流嫌気性流動床等の装置内部の活性炭保持量が所定量よりも多くなった場合には、余剰活性炭を引き抜き、過酸化物分解部における活性炭接触流動槽等の反応槽へ戻すことで、過酸化物分解材として使用することが好ましい。
嫌気性処理部における余剰活性炭を過酸化物分解部へ戻すことで、システム全体としてさらなる活性炭補充量低減が達成できる。嫌気性処理部における上向流嫌気性流動床等の装置の内部からの余剰活性炭の引き抜き方法等は特に限定されず、嫌気性処理部における上向流嫌気性流動床等の装置内の活性炭を活性炭流動接触槽等へ移送できる構造であればよい。例えば、上向流嫌気性流動床の下部から引き抜いた余剰活性炭をポンプで活性炭流動接触槽へ移送してもよいし、上向流嫌気性流動床の任意の高さに設けた余剰活性炭移送配管からバルブの開閉により余剰活性炭を活性炭流動接触槽へ移送してもよい。上向流嫌気性流動床の活性炭の保持量が所定量となる箇所に余剰活性炭の移送配管を設置し、余剰活性炭を活性炭流動接触槽へポンプにより移送、あるいは余剰活性炭の移送配管に設けたバルブの開閉により移送することで、上向流嫌気性流動床内の活性炭の所定量を保持し、余剰活性炭を活性炭流動接触槽へ移送することが可能となる。
【0038】
嫌気性処理部(上向流嫌気性流動床等)の余剰活性炭を過酸化物分解部(活性炭接触流動槽等)へ戻す場合、嫌気性処理部に用いる活性炭と過酸化物分解部に用いる活性炭は同一の活性炭であることが好ましい。
【0039】
本発明において嫌気性処理は、30度〜35℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、50度〜55℃を至適温度とした高温メタン発酵処理など、いずれの温度範囲の嫌気性処理であってもよい。
したがって、本発明の方法における嫌気性処理工程および本発明の装置における嫌気性処理部は、従来公知のメタン発酵菌を担持した活性炭に、前記分解処理水を接触させて処理できる態様のものであれば、特に限定されない。
【0040】
本発明の装置において、活性炭流動接触槽等を含む過酸化物分解部から上向流嫌気性流動床装置等を含む嫌気性処理部への送水は、例えば、ポンプ圧送による送水でも良いし、活性炭流動接触槽の水位を上向流嫌気性流動床装置の水位よりも高くすることによる水頭差による送水でも良い。活性炭流動接触槽流出水を上向流嫌気性流動床処理水の循環液や系外から供給する希釈水等により必要に応じて適宜希釈を行うことで、上向流嫌気性流動床内部での通水速度が2〜10m/hとなるように調節することが好ましい。
【0041】
本発明の方法における嫌気性処理工程において、例えば上向流嫌気性流動床から排出される嫌気性処理水の一部を前記分解処理水へ加え、前記分解処理水と共に上向流嫌気性流動床へ流入させる場合、活性炭流動接触槽等の過酸化物分解部から排出される分解処理水中に過酸化水素や過酢酸が残留していても、上向流嫌気性流動床等の嫌気性処理部から排出される嫌気性処理水中の溶存硫化物等の還元性物質と、残留している過酸化水素や過酢酸が反応するので、残留している過酸化水素や過酢酸が還元、分解され、過酸化水素と過酢酸の殺菌能力を除去した上で上向流嫌気性流動床装置へ流入させることができる。その結果、安定したメタン発酵処理が可能となる効果が得られる。特に、過酢酸含有廃水中の過酸化水素および過酢酸の濃度が高い場合、あるいは過酢酸含有廃水の水質および流量の変動が大きい場合には、分解処理水中に過酸化水素および過酢酸が残留する可能性が高くなるため、残留した過酸化水素および過酢酸の殺菌能力を除去し、安定したメタン発酵処理を行うために、上向流嫌気性流動床等の嫌気性処理部から排出される嫌気性処理水を循環水として前記分解処理水と混合させる効果は大きい。本発明の方法における嫌気性処理工程において、前記嫌気性処理水の少なくとも一部を前記分解処理水へ加え、その加えた嫌気性処理水を前記分解処理水と共に前記嫌気性ろ床または前記嫌気性流動床を用いて処理することが好ましい。すなわち、本発明の装置は、
図1に示した廃水処理装置10のように、循環配管17を備えるものであることが好ましい。
【0042】
本発明の方法における嫌気性処理工程において、前記嫌気性処理水の少なくとも一部を前記分解処理水へ加え、前記分解処理水と共に前記嫌気性ろ床または前記嫌気性流動床を用いて処理することが好ましい。この場合、分解処理水へ加える嫌気性処理水(循環水)の循環水量は25%以上とすることが好ましく、50%以上とすることがより好ましく、100%以上とすることがさらに好ましい。具体的には、分解処理水の水量が10m
3/dである場合の循環水量は、2.5m
3/d以上とすることが好ましく、5m
3/d以上とすることがより好ましく、さらに10m
3/d以上とすることがさらに好ましい。
また、このときに上向流嫌気性流動床装置に流入する分解処理水+循環水の合計水量が上向流嫌気性流動床内部での通水速度として2〜10m/hに調節することが好ましく、上向流嫌気性流動床内部での通水速度が2〜10m/hを超えないように循環水量の上限を設定することが好ましい。
分解処理水中に残留する過酸化水素および過酢酸を還元、分解し、過酸化水素と過酢酸の殺菌能力を除去した上で嫌気性処理工程において、より安定したメタン発酵処理を行うことができるからである。
【0043】
本発明の装置における嫌気性処理部は、上向流嫌気性流動床装置を用いることが好ましい。また、上向流嫌気性固定床装置を用いることもできる。
また、本発明の方法における嫌気性処理工程は、上向流嫌気性流動床装置を用いた工程であることが好ましい。また、上向流嫌気性固定床装置を用いることもできる。
上向流嫌気性流動床装置内の活性炭量、活性炭種類、活性炭粒径などの要因に特に制限はないが、上向流嫌気性流動床装置内での活性炭の流動状態を良好に保つためには活性炭として粒状活性炭を用いることが好ましい。粒状活性炭の有効径は0.05mm〜3mm、好ましくは0.1mm〜1mm、さらに好ましくは0.2mm〜0.7mmであり、均等係数は1.2〜2.0であることが好ましい。
【0044】
本発明における上向流嫌気性流動床装置等で発生するバイオガスにはカロリーの高いメタンが含まれているので、バイオガス回収して有効利用を図ることが好ましく、また、可燃性ガスに対する保安面からも望ましい。回収したバイオガスをボイラーの燃料として使用し、発生した蒸気を上向流嫌気性流動床装置等の熱源として利用することもできる。
なお、上向流嫌気性流動床装置の代わりに上向流嫌気性固定床装置を使用した場合でも、同様の効果が得られる。
【0045】
本発明によって排出された嫌気性処理水について、さらに浄化する場合には、活性汚泥処理法等の好気性処理が適用できる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
図3に概要を示す。
A系列は過酢酸含有廃水(以下「原水」ともいう)にチオ硫酸ナトリウムを添加し、過酸化水素と過酢酸を分解後、残存する酢酸をUASB装置によってメタン処理する系列(従来法)である。
B系列は過酢酸含有廃水にチオ硫酸ナトリウムを添加し、過酸化水素と過酢酸を分解後、残存する酢酸を上向流嫌気性流動床装置によりメタン発酵処理する系列(従来法)である。
C系列は過酢酸含有廃水を活性炭流動槽へ流入させ、過酸化水素と過酢酸を分解後、残存する酢酸を上向流嫌気性流動床装置でメタン発酵処理する系列(本願発明)である。
【0048】
過酢酸含有廃水としては、過酸化水素と過酢酸を含む模擬廃水を中和したものを使用した。過酢酸含有廃水の過酸化水素は1000mg/L、過酢酸は500mg/Lとした。また、過酢酸含有廃水には栄養剤として窒素とリンを加え、微量元素としてFe、Ni、Coを添加した。窒素、リンの添加量は、COD
Cr:N:P=500:5:1とした。微量金属の添加量は、COD
Cr:Fe:Ni:Co=1000:0.5:0.005:0.005とした。
【0049】
A系列およびB系列の還元槽の容量は0.3m
3であり、過酸化水素および過酢酸を十分に分解できる量のチオ硫酸ナトリウムを添加した。
C系列の活性炭接触流動槽には
図2に示す構造の装置を使用した。内側の接触部の容量は0.3m
3であり、有効径0.7mmの粒状活性炭を5W/V%充填した。撹拌は空気撹拌とした。
【0050】
A系列のUASB装置ならびにB系列およびC系列の上向流嫌気性流動床装置の容量は0.3m
3(0.25m×0.25m×5m)である。
B系列およびC系列の上向流嫌気性流動床装置に使用した活性炭は、C系列の活性炭流動接触槽と同一の粒状活性炭であり、充填量を75kgとした。A系列のUASB装置ならびにB系列およびC系列の上向流嫌気性流動床装置の水温を35℃に制御した。
【0051】
各系列ともに過酢酸含有廃水の流量を3m
3/dとした。なお、COD
Crの測定は、測定対象の水を還元処理した後に実施した(以下、同様)。
処理成績を第1表に示す。
【0052】
A系列およびB系列における還元槽から排出された水(以下「還元槽処理水」ともいう。)と、C系列の活性炭流動接触槽から排出された水(以下「活性炭流動接触処理水」ともいう。)とは、共に過酸化水素および過酢酸は1mg/L以下であり、過酸化物は除去されていた。
【0053】
A系列のUASB装置では、運転開始後のCOD
Cr除去は良好であったが、時間の経過に伴い、COD
Cr除去率が低下する傾向にあり、UASB装置への流入水(すなわち還元槽処理水)のCOD
Crは1000mg/L、UASB装置から排出された水(以下「UASB処理水」ともいう。)のCOD
Crは400mg/Lの処理であった。
UASB装置へ流入する還元槽処理水は、ほぼ酢酸単一基質であるため、増殖するメタン菌の種類が限られ、微生物(メタン菌)の自己造粒による固定化能力を比較的低下させる傾向にあり、グラニュール汚泥の形成を困難とし、また、グラニュール汚泥の緻密さを低下させるため、グラニュール汚泥の長期間の安定保持が困難となり、その結果、安定したメタン発酵処理の継続が困難になったものと考えられる。
【0054】
B系列およびC系列の上向流嫌気性流動床装置では、上向流嫌気性流動床装置へ流入する還元処理水または活性炭流動接触処理水のCOD
Crは1000mg/L、上向流嫌気性流動床装置から排出される水(以下「上向流嫌気性流動床処理水」ともいう)のCOD
Crは100mg/L以下であり、良好なメタン発酵処理が行えていた。B系列およびC系列ではメタン菌を活性炭担体に固定化することで、安定したメタン発酵処理が可能となった。
【0055】
B系列の上向流嫌気性流動床装置では、装置内の活性炭が上向流嫌気性流動床処理水と共に流出したことにより、活性炭量が2質量%/年の割合で減少した。
C系列の活性炭流動接触槽では、活性炭流動接触槽内の活性炭が活性炭流動接触処理水と共に流出し、活性炭流動接触槽内の活性炭は7質量%/年の割合で減少したが、活性炭流動接触槽から流出した活性炭は上向流嫌気性流動床装置で捕捉され、上向流嫌気性流動床装置内の活性炭量は5質量%/年の割合で増加した。
【0056】
本発明であるC系列は、活性炭流動接触槽にて過酢酸含有廃水を活性炭と接触させ、過酸化水素と過酢酸を分解後に残存する酢酸を上向流嫌気性流動床装置により分解、除去し、発生するメタンガスをエネルギーとして回収するものである。メタン発酵処理装置としてメタン菌を活性炭担体に固定化できる嫌気性流動床装置を用いることで、対象基質がほぼ酢酸単一基質の場合でも安定したメタン発酵処理が可能であり、また、過酸化物分解工程に活性炭流動接触槽を使用し、メタン発酵工程で活性炭を充填した上向流嫌気性流動床装置を用いることで、過酸化水素と過酢酸の分解反応時に発生する酸素の発泡により活性炭接触流動槽から流出する活性炭を上向流嫌気性流動床装置内で捕捉し、メタン菌保持担体としての使用が可能であった。
【0057】
【表1】
【0058】
<実施例2>
図4に概要を示す。
D系列はC系列と同様に、過酢酸含有廃水を活性炭流動接触槽へ流入させ、過酸化水素と過酢酸を分解後、残存する酢酸を上向流嫌気性流動床装置でメタン発酵処理する系列(本願発明)であり、D系列の上向流嫌気性流動床装置では、上向流嫌気性流動床装置内の余剰活性炭を活性炭流動接触槽に移送する余剰活性炭移送配管を備えている。余剰活性炭移送配管に取り付けられているバルブの開閉により余剰活性炭を上向流嫌気性流動床装置から活性炭流動接触槽へと移送する。余剰活性炭移送配管は上向流嫌気性流動床装置内の活性炭が所定量となる位置に取り付けられており、余剰活性炭移送配管取り付け位置よりも上部に存在する上向流嫌気性流動床装置内の活性炭を余剰活性炭として、活性炭接触流動槽へと移送できる。
【0059】
D系列で用いた過酢酸含有廃水、活性炭流動接触槽および上向流嫌気性流動床装置はC系列と同一であり、原水の水量を3m
3/d、上向流嫌気性流動床装置の水温を35℃に設定し、C系列と同一の条件とした。
処理成績を第2表に示す。
【0060】
C系列およびD系列の活性炭流動接触処理水では、過酸化水素および過酢酸は1mg/L以下であり、過酸化物は除去されていた。
C系列およびD系列の上向流嫌気性流動床装置では、上向流嫌気性流動床装置へ流入する活性炭流動接触処理水のCOD
Crは1000mg/L、上向流嫌気性流動床装置から排出される上向流嫌気性流動床処理水のCOD
Crは100mg/L以下であり、良好なメタン発酵処理が行えていた。
【0061】
C系列の活性炭流動接触槽では、活性炭流動接触槽内の活性炭が活性炭流動接触処理水とともに流出し、活性炭流動接触槽内の活性炭は7質量%/年の割合で減少したが、活性炭流動接触槽から流出した活性炭は上向流嫌気性流動床装置で捕捉され、上向流嫌気性流動床装置内の活性炭量は5質量%/年の割合で増加した。D系列では活性炭流動接触処理水と共に流出した活性炭は上向流嫌気性流動床装置で捕捉され、上向流嫌気性流動床装置内の余剰活性炭を活性炭接触流動槽に移送することで、活性炭流動接触槽の活性炭量は2質量%/年の割合で減少し、上向流嫌気性流動床装置の活性炭量の増減は無かった。
【0062】
上向流嫌気性流動床装置内の余剰活性炭を活性炭接触流動槽に移送したD系列ではC系列に比べ、活性炭接触流動槽での活性炭減少量が5質量%分少なく、活性炭接触流動槽の活性炭補充量を低減できる方法であった。
【0063】
【表2】
【0064】
<実施例3>
図5に概要を示す。
E〜G系列はC系列と同様に、過酢酸含有廃水を活性炭流動接触槽へ流入させ、過酸化水素と過酢酸を分解後、残存する酢酸を上向流嫌気性流動床装置でメタン発酵処理する系列であり、F系列の上向流嫌気性流動床装置では、上向流嫌気性流動床処理水の一部を循環し、活性炭流動接触処理水と混合した後、上向流嫌気性流動床装置に流入させる系列であり、G系列は活性炭流動接触処理水に工水を加え、希釈後に、上向流嫌気性流動床装置に流入させる系列である。E〜G系列の活性炭流動接触槽および上向流嫌気性流動床装置はC系列と同一であり、上向流嫌気性流動床装置の水温を35℃に設定した。
【0065】
過酢酸含有廃水には過酸化水素と過酢酸を含む模擬廃水を中和して使用した。過酢酸含有廃水の水質は過酸化水素2000〜3000mg/L、過酢酸1000〜1500mg/Lである。過酸化水素に添加した栄養剤および微量元素の添加条件は、C系列と同一である。
【0066】
過酢酸含有廃水の流量を3m
3/dとした。E系列では活性炭流動接触処理水3m
3/dがそのまま上向流嫌気性流動床装置に流入する。F系列では上向流嫌気性流動床処理水の循環量を3m
3/dとし、活性炭流動接触処理水3m
3/dと混合した後、上向流嫌気性流動床装置に流入する。G系列では、活性炭流動接触処理水3m
3/dに工水3m
3/dを加えた後、上向流嫌気性流動床装置へ流入させた。
処理成績を第3表に示す。
【0067】
E〜G系列の活性炭流動接触処理水では、過酸化水素が5〜100mg/Lおよび過酢酸は7mg/L以下の範囲で過酸化物が残留していた。
E系列では、過酢酸含有廃水の過酸化水素が2000mg/Lの場合、活性炭流動接触処理水の過酸化水素が5〜20mg/L、COD
Crが2000mg/Lであり、この時の上向流嫌気性流動床処理水COD
Crは100mg/L以下の良好な処理であった。過酢酸含有廃水の過酸化水素が3000mg/Lに高くなると、活性炭流動接触処理水の過酸化水素50〜100mg/L、COD
Cr3050mg/Lであり、この時の上向流嫌気性流動床処理水COD
Crは800mg/Lに上昇し、上向流嫌気性流動床における処理成績が悪化した。一旦、上向流嫌気性流動床処理水にCOD
Crが残留すると、過酢酸含有廃水の過酸化水素が2000mg/Lの条件に戻っても、上向流嫌気性流動床処理水の水質の回復には時間を要した。上向流嫌気性流動床装置に比較的高濃度の過酸化水素が流入したことにより、メタン菌がダメージを受け、活性が低下したことにより、処理性能の回復に時間を要したと考えられる。同様の傾向は、活性炭流動接触処理水に工水を加え、希釈後したG系列においても確認できた。
【0068】
一方、上向流嫌気性流動床処理水を循環したF系列では、活性炭流動接触処理水に過酸化水素が5〜100mg/L残留している場合でも活性炭流動接触処理水のCOD
Cr2000〜3050mg/Lに対し、上向流嫌気性流動床処理水のCOD
Cr100mg/L以下の良好なメタン発酵処理が行えていた。F系列の活性炭流動接触処理水と上向流嫌気性流動床処理水の循環液と混合後の活性炭流動接触処理水の過酸化水素濃度は10mg/L以下であり、上向流嫌気性流動床処理水中の溶存硫化物等の還元性物質と過酸化水素や過酢酸が反応することで残留していた過酸化水素や過酢酸を還元、分解し、過酸化水素と過酢酸の殺菌能力を除去した上で上向流嫌気性流動床装置へ流入させることができるため、安定したメタン発酵処理が可能になったと考えられる。
【0069】
F系列とG系列を比較すると、F系列では上向流嫌気性流動床処理水の循環による希釈であり、G系列は系外から加えた工水による希釈であるが、上向流嫌気性流動床処理の安定性はF系列のほうが上回っていた。これは、F系列の上向流嫌気性流動床処理水の循環が単なる希釈ではなく、上向流嫌気性流動床処理水中の溶存硫化物等の還元性物質と過酸化水素や過酢酸が反応することで残留していた過酸化水素や過酢酸を還元、分解し、過酸化水素と過酢酸の殺菌能力を除去した上で、安定した上向流嫌気性流動床処理が行える効果を示すものである。
【0070】
上向流嫌気性流動床処理水の一部を循環し、活性炭流動接触処理水と混合後に上向流嫌気性流動床装置に流入させているF系列では、活性炭流動接触処理水に過酸化水素および過酢酸が残存する場合にも、還元剤の添加により過酸化水素および過酢酸を還元後に生物処理する必要は無く、安定した上向流嫌気性流動床処理が可能であり、還元剤注入設備の設置や還元剤注入のコストを削減できる。
【0071】
【表3】