(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フレームと、前記フレームに回転可能に支持されてシートベルトを巻き取るスプールと、前記スプールを回転させるための動力を発生する電動モータと、クラッチで前記電動モータの動力の前記スプールへの伝達または遮断を行う動力伝達機構と、前記動力伝達機構を保持するリテーナとを少なくとも備えるモータリトラクタにおいて、
前記フレームと前記リテーナとの間に配設されたスペーサと、
前記クラッチの解除時に前記動力伝達機構により回転されたクラッチ部材が当接してその回転を停止させるストッパと
を備え、
前記スペーサと前記ストッパとが、ともに緩衝材からなり、一体となるように形成されている
ことを特徴とするモータリトラクタ。
前記クラッチは、前記動力伝達機構の回転で回転されるクラッチ作動部材と、前記クラッチ作動部材の回転で回転されかつクラッチの接続位置で前記スプールのベルト引出し方向の回転を阻止するクラッチパウルとを有し、
前記クラッチ部材は、前記クラッチ作動部材または前記クラッチパウルであることを特徴とする請求項2に記載のモータリトラクタ。
電動モータでスプールを回転することによりシートベルトのベルト巻取りを行うモータリトラクタと、このモータリトラクタから引き出されたシートベルトに摺動自在に支持されたタングと、このタングが係脱可能に係合されるバックルとを少なくとも備え、前記シートベルトによって乗員を拘束するシートベルト装置において、
前記モータリトラクタは、請求項1ないし6のいずれか1記載のモータリトラクタであることを特徴とするシートベルト装置。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車両に装備されているシートベルト装置は、車両衝突時等の緊急時に、シートベルトで乗員を拘束することにより乗員のシートからの飛び出しを阻止している。このようなシートベルト装置においては、シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタを備えている。このシートベルトリトラクタでは、シートベルトは非装着時にはスプールに巻き取られているが、装着時には引き出されて乗員に装着される。そして、前述のような緊急時にシートベルトリトラクタのロック手段が作動してスプールのベルト引出し方向の回転を阻止することにより、シートベルトの引出しが阻止される。これにより、緊急時にシートベルトは乗員を拘束する。
【0003】
従来のシートベルト装置として、シートベルトリトラクタとして構成され、かつ電動モータの動力でスプールを回転してベルト巻取りを行うとともにクラッチで電動モータの動力を伝達または遮断する動力伝達機構を有するモータリトラクタを備えたシートベルト装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図8(A),(B)に示すように、特許文献1に記載のモータリトラクタ100は、金
属製のフレームに回転可能に支持されてシートベルトを巻き取るスプールを回転させる動力を発生する電動モータ101と、電動モータ101の動力をスプールに伝達する動力伝達機構102と、動力伝達機構102に設けられて電動モータ101の動力のスプールへの伝達あるいは遮断を行うクラッチ103と、クラッチ103および動力伝達機構102が配設される金属製のリテーナ104とを備えている。また、クラッチ103は、リテーナ104に回動可能に設けられたクラッチパウル105と、動力伝達機構102と連動してクラッチパウル105を回動させる金属線材からなる作動ピン106と、作動ピン106の回動を制限するストッパ107とを有している。その場合、ストッパ107はリテーナ104にこのリテーナ104と一体に金属の単一部材で形成されている。
【0005】
そして、クラッチ103が
図8(B)に示す接続解除位置から動力伝達機構102のギヤ102aが時計回りに回転して作動ピン106も同方向に回転することで、クラッチパウル105が反時計回りに回転してクラッチ103が
図8(A)に示す接続位置に設定される。このクラッチ103の接続位置では、クラッチパウル105の係止爪105aが、動力伝達機構102における遊星歯車機構(キャリアはスプール9の回転軸に連結されている。詳細は特許文献1を参照。)のインターナルギヤ108のラチェット歯108aに係合する。これにより、インターナルギヤ108のベルト引出し方向(
図8(A)において時計回り)の回転が阻止され、スプールはベルト巻取り方向の回転のみが可能となる。このとき、作動ピン106がストッパ107から離間している。
【0006】
また、クラッチ103が
図8(A)に示す接続位置から動力伝達機構102のギヤ102aが反時計回りに回転して作動ピン106も同方向に回転することで、クラッチパウル105が時計回りに回転してクラッチ103が切り換えられて
図8(B)に示す接続解除位置に設定される。このクラッチ103の接続解除位置では、クラッチパウル105の係止爪105aがインターナルギヤ108のラチェット歯108aから離間する。これによ
り、インターナルギヤ108のベルト引出し方向およびベルト巻取り方向のいずれの方向の回転も可能となる。このとき、作動ピン106がストッパ107に当接している。
【0007】
ところで、クラッチ103の接続位置から接続解除位置への切換時に金属線材の作動ピン106が金属製のストッパ107に当接する際、当接音が発生する。しかし、特許文献1に記載のモータリトラクタ100では、作動ピン106が金属線材で形成されていることから、この当接音は一定の低減効果で低減される。また、特許文献1に記載のモータリトラクタでは、ストッパ107に緩衝材を被せて、金属線材の作動ピン106がストッパ107の緩衝材に当接するようにすることで、当接音を効果的に低減するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のモータリトラクタのようにストッパ107に緩衝材を被せて当接音を低減するようにした場合、一定の低減効果が得られるものの、ストッパ107が金属と緩衝材とからなるため、当接音の低減効果を更に向上させる余地があるばかりでなく、モータリトラクタの組立作業が繁雑となる。
【0010】
また、金属製のフレームに金属製のリテーナ104を取り付けるようにした場合、フレームおよびリテーナ104の加工誤差により、フレームとリテーナ104との間に隙間が生じるが、この隙間がばらつくという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、フレームとリテーナとの間の隙間をほぼ一定に調整しつつ、クラッチ切換時に発生する音を更に効果的に抑制することができるモータリトラクタおよびこれを備えたシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するために、本発明に係るモータリトラクタは、フレームと、前記フレームに回転可能に支持されてシートベルトを巻き取るスプールと、前記スプールを回転させるための動力を発生する電動モータと、クラッチで前記電動モータの動力の前記スプールへの伝達または遮断を行う動力伝達機構と、前記動力伝達機構
を保持するリテーナとを少なくとも備えるモータリトラクタにおいて、前記フレームと前記リテーナとの間に配設され
たスペーサ
と、前記クラッチの解除時に前記動力伝達機構により回転されたクラッチ部材が当接してその回転を停止させるストッパとを備え
、前記スペーサ
と前記ストッパとが、ともに緩衝材からなり、一体となるように形成されていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係るモータリトラクタは、前記動力伝達機構が前記リテーナのスペーサ配設側と反対側に配設されており、前記ストッパが前記リテーナに形成されたストッパ貫通用孔を貫通して動力伝達機構配設側に突出しており、前記クラッチ部材が動力伝達機構配設側に突出した前記ストッパに当接するようになっていることを特徴としている。
【0014】
更に、本発明に係るモータリトラクタは、前記クラッチが、前記動力伝達機構の回転で回転されるクラッチ作動部材と、前記クラッチ作動部材の回転で回転されかつクラッチの接続位置で前記スプールのベルト引出し方向の回転を阻止するクラッチパウルとを有し、
前記クラッチ部材が前記クラッチ作動部材または前記クラッチパウルであることを特徴としている。
【0015】
更に、本発明に係るモータリトラクタは、前記クラッチ作動部材がクラッチスプリングであることを特徴としている。
更に、本発明に係るモータリトラクタは、前記ストッパが、前記リテーナに対する前記スペーサの位置決め部材であることを特徴としている。
更に、本発明に係るモータリトラクタは、前記ストッパがピン状に形成されていることを特徴としている。
【0016】
一方、本発明に係るシートベルト装置は、電動モータでスプールを回転することによりシートベルトのベルト巻取りを行うモータリトラクタと、このモータリトラクタから引き出されたシートベルトに摺動自在に支持されたタングと、このタングが係脱可能に係合されるバックルとを少なくとも備え、前記シートベルトによって乗員を拘束するシートベルト装置において、前記モータリトラクタが前述の本発明のモータリトラクタのいずれか1つのモータリトラクタであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
このように構成された本発明のモータリトラクタおよびシートベルト装置によれば、緩衝材で形成されたスペーサが、スプールを回転可能に支持するフレームと動力伝達機構
を保持するリテーナとの間に配設される。また、クラッチが動力伝達機構の回転で回転されるクラッチ部材を有する。更に、スペーサがこのスペーサ
と一体に形成されかつクラッチ部材が当接することでクラッチ部材の回転を
停止させるストッパを有する。これにより、クラッチ部材が金属製である場合、クラッチの切換の際にクラッチ部材が緩衝材製のストッパに当接したときに発生する当接音をより効果的に低減することが可能となる。
【0018】
特に、フレームとリテーナとの間に配設されるスペーサのストッパを、リテーナのストッパ貫通用孔にリテーナのフレーム側から反対側の動力伝達機構配設側に貫通させて配設することで、緩衝材製のストッパを容易に設けることができるとともに、1部材のスペーサでフレームとリテーナとの間の隙間を調整しつつ、クラッチ部材とストッパとの当接音をより効果的に低減することができる。
【0019】
また、スペーサの所定位置に設けたストッパを、リテーナの所定位置に設けたストッパ貫通用孔に貫通させることで、リテーナに対する(つまり、スプールに対する)スペーサの相対位置を、比較的高い精度で位置決めすることが可能になるとともに、緩衝材製のストッパを金属製のリテーナで補強することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明にかかるモータリトラクタの実施の形態の一例を備えたシートベルト装置の実施の形態の一例を模式的に示す図である。
【0022】
この例のシートベルト装置は、
図1に示すようにモータリトラクタを用いた従来公知の三点式シートベルト装置と同じである。図中、1はシートベルト装置、2は車両シート、3は車両シート2の近傍の車体に配設されたシートベルトリトラクタであるモータリトラクタ、4はモータリトラクタ3のスプールに引き出し可能に巻き取られかつ先端のベルトアンカー4aが車体の床あるいは車両シート2に固定されるシートベルト、5はモータリトラクタ3から引き出されたシートベルト4を乗員のショルダーの方へガイドするベルトガイドアンカー、6はこのベルトガイドアンカー5からガイドされてきたシートベルト4に摺動自在に支持されたタング、7は車体の床あるいは車両シート2に固定されかつタング6が係脱可能に挿入係止されるバックルである。このシートベルト装置1におけるシートベルト4の装着操作および装着解除操作も、従来公知のシートベルト装置と同じである。
【0023】
図2および
図3(A),(B)に示すように、この例のモータリトラクタ3は従来公知
のモータリトラクタと同様に、鉄等の金属板をプレス加工で成形されたコ字状のフレーム8、フレーム8に回転可能に支持されるとともに図示しない従来公知のスプリング手段で常時巻取り方向に付勢されてシートベルト4を巻き取るスプール9、スプール9を回転するための動力を発生する電動モータ10、電動モータ10の動力を変速してスプール9に伝達する動力伝達機構11、鉄等の金属板をプレス加工で成形されるとともに電動モータ10および動力伝達機構11が配設されるリテーナ12、リテーナ12に取り付けられて動力伝達機構11を覆う、例えばアルミダイカスト加工で成形されたリテーナカバー13をそれぞれ備えている。なお、動力伝達機構11はリテーナカバー13で覆われているため
図2および
図3(A),(B)には図示されていないが、説明の便宜上、点線の引出し
線で示す。
【0024】
図4(A)はクラッチが接続された状態の動力伝達機構を示す図、
図4(B)はクラッチが接続解除された状態の動力伝達機構を示す図、(C)は(A)におけるIVC−IVC線に沿う部分断面図、(D)は(B)におけるIVD−IVD線に沿う部分断面図である。
【0025】
図4(A),(B)に示すように、動力伝達機構11は前述の特許文献1に記載された
動力伝達機構と実質的に同じであり、遊星歯車機構を含む。また、動力伝達機構11は、前述の特許文献1に記載されたクラッチと実質的に同じクラッチ23を有する。このクラッチ23は、特許文献1に記載のクラッチパウルとほぼ同じであるクラッチパウル24と、特許文献1に記載の作動ピンとほぼ同じクラッチスプリング25(この例における本発明のクラッチ部材およびクラッチ作動部材に相当)とを有する。
【0026】
図5(A)はクラッチパウルの正面図、
図5(B)はクラッチパウルの右側面図、
図5(C)はクラッチスプリングの斜視図である。
図5(A),(B)に示すように、クラッチパウル24は樹脂等で形成されている。こ
のクラッチパウル24は、凹溝で形成されかつクラッチスプリング25のパウル係合部25aが常時係合する後述するクラッチスプリング係合部24aおよび凹溝で形成された第1パウル傾き抑止部24bを有する。
【0027】
また、
図5(C)に示すように、クラッチスプリング25は金属の弾性線材から形成されており、クラッチパウル24を付勢するパウル係合部25aと、略円環状の支持部25bとを有する。
図4(A),(B)に示すようにクラッチスプリング25の支持部25b
が動力伝達機構11のギヤ26の回転軸27にギヤ26と一体回転可能に嵌合支持されるとともに、パウル係合部25aがクラッチパウル24のクラッチスプリング係合部24aに係合可能となるようにクラッチスプリング25が組み付けられる。
【0028】
図6(A)はリテーナの動力伝達機構側(フレーム側と反対側)の面を示す図、
図6(B)はリテーナのフレーム側の面を示す図、
図6(C)は
図6(A)におけるVIC−VIC線に沿う部分断面図、
図6(D)は
図6(B)におけるVID方向から見た矢視図、
図6(E
)は
図6(A)におけるVIE−VIE線に沿う部分断面図である。
【0029】
リテーナ12は特許文献1に記載のリテーナと同様に金属で形成されている。
図6(A)ないし(D)に示すように、このリテーナ12は略円形状に形成された比較的大きな開口12aを有している。また、リテーナ12の動力伝達機構11側の面には、ギヤ26の回転軸27が立設されている。更に、リテーナ12は、動力伝達機構11側からフレーム側に貫通するストッパ貫通用孔12bを有するとともに位置決め用突部12cを有する。ストッパ貫通用孔12bは、特許文献1に記載のストッパの位置とほぼ同じ所定位置に、つまり、モータリトラクタ3の車体への取付状態で開口12aより下方位置でかつクラッチパウル24をクラッチ接続解除位置に設定されたときにクラッチスプリング25が干渉する位置に配設されている。また、位置決め用突部12cは、開口12aに関し上下方向反対側の開口12aより上方位置に配設されている。
【0030】
更に、リテーナ12は、クラッチパウル24の傾きを抑制する第2パウル傾き抑止部12dを有する。
図6(E)に示すように、この第2パウル傾き抑止部12dは逆L字状に形成されて上端にパウル傾き抑止爪12eが形成されている。そして、
図4(C)に二点鎖線でまた
図6(E)に実線で示すように、パウル傾き抑止爪12eは、クラッチパウル24が
図4(C)に実線でまた
図6(E)に二点鎖線で示すようにクラッチ接続位置に設定されたときにクラッチパウル24の第1パウル傾き抑止部24b内に進入するようにされている。これにより、クラッチパウル24のクラッチ接続位置でクラッチパウル24の係止爪24cがインターナルギヤ28の歯28aに係合してスプール9がシートベルト引出し方向の回転を阻止されたとき、クラッチパウル24がスプール9からインターナルギヤ28を介してシートベルト引出し方向の力を受けて
図6(E)において上方に傾こうとしても、クラッチパウル24はパウル傾き抑止爪12eに押さえられる。したがって、クラッチパウル24の傾きが抑制される。
なお、動力伝達機構11はこれに限定されるものではなく、従来のモータリトラクタに用いられたクラッチを有する従来公知の動力伝達機構を用いることもできる。
【0031】
図7(A)はリテーナに対向するスペーサの面を示す図、
図7(B)はフレームの側壁に対向するスペーサの面を示す図、
図7(C)は
図7(A)におけるVIIC−VIIC線に沿う断面図である。
【0032】
図7(A)および(B)に示すように、スペーサ14は、樹脂あるいはゴム等の緩衝材
で形成された平板状のスペーサ本体14aを有しているとともに、このスペーサ本体14aに形成された比較的大きな円形孔14bを有している。
【0033】
フレーム8の側壁8aに対向するスペーサ14の対向面には、モータ側ハーネス15をガイドするように取り回して配線するためのモータ側ハーネス取り回し配線溝18が設けられている。平板状のスペーサ14がスプール9の軸方向と直交またはほぼ直交して配設されることから、モータ側ハーネス取り回し配線溝18はスプール9の軸方向と直交またはほぼ直交する平面内に配設される。
【0034】
このモータ側ハーネス取り回し配線溝18は、スペーサ本体14aから突設されて円形孔14bと同心円またはほぼ同心円の円弧状に形成された外周側壁14dと、スペーサ本体14aから突設されて外周側壁14dより小径で同じく円形孔14bと同心円またはほぼ同心円の円弧状に形成された内周側壁14eと、スペーサ本体14aで構成された底部14fとを有して、横断面(外、内周側壁14d,14eの径方向に沿う断面)形状が凹
状の凹溝に形成されている。
【0035】
したがって、モータ側ハーネス取り回し配線溝18は円形孔14bと同心円またはほぼ同心円の円弧状溝に形成される。また、モータ側ハーネス取り回し配線溝18は円形孔14bの中心14cより車室外側に、つまりスペーサ14のフレーム8への取付状態でスプール9の回転軸9aの中心9bより車室外側に位置するように配設されている。
【0036】
モータ側ハーネス取り回し配線溝18は、電動モータ側接続端18aと車体側接続端18bとを有する。モータ側ハーネス取り回し配線溝18の電動モータ側接続端18aは、モータリトラクタ3の車体への取付状態で円形孔14bの中心14cを通る鉛直線αより車室外側でかつこのの中心14cを通る水平線βより下方に位置している。その場合、この例のモータリトラクタ3では、電動モータ10のモータリトラクタ3への取付状態で電動モータ側接続端18aは電動モータ10のハーネス接続部の近傍位置に配設されるとともに、電動モータ側接続端18aの開口方向は、概略、電動モータ10のハーネス接続部が位置する方向となっている。また、車体側接続端18bは、モータリトラクタ3の車体への取付状態で鉛直線αより車室外側でかつ水平線βより上方に位置している。その場合、この例のシートベルト装置1では、モータリトラクタ3の車体への取付状態で車体側接続端18bは車体に取り付けられた車体側接続端子20の近傍位置に配設されるとともに、車体側接続端18bの開口方向は、概略、車体に取り付けられた車体側接続端子20の接続部が位置する方向(
図7(B)では、右斜め上方)となっている。
【0037】
そして、電動モータ10に接続されたモータ側ハーネス15は、電動モータ側接続端18aと車体側接続端18bとの間でモータ側ハーネス取り回し配線溝18内に収納される。モータ側ハーネス取り回し配線溝18がスプール9の軸方向と直交またはほぼ直交する平面内に配設されることから、このようにモータ側ハーネス取り回し配線溝18内に収納されたモータ側ハーネス15は、その大部分がモータ側ハーネス取り回し配線溝18にガイドされて円形孔14bの中心またはほぼ中心(つまり、スプール9の回転軸の中心またはほぼ中心)とする円の円弧に沿ってスプール9の軸方向と直交またはほぼ直交する平面内またはほぼ平面内で取り回されて配線されるようになる。また、モータ側ハーネス取り回し配線溝18内に収納されたモータ側ハーネス15は、外、内周側壁14d,14eか
らの作用力およびモータ側ハーネス15の保護材の少なくとも一方の作用力による比較的小さな保持力で保持されている。
【0038】
図7(A),(C)に示すように、スペーサ14はスペーサ本体14aのリテーナ12
に対向する面の所定位置に突設されたピン状のストッパ22を有する。このストッパ22はスペーサ本体14aと単一部材で一体に設けられている。したがって、ストッパ22も
スペーサ本体14aと同じ緩衝材で形成されている。また、
図7(A),(B)に示すよ
うにスペーサ14は円形孔14bの上方位置に形成された位置決め用溝部14gを有する。
【0039】
リテーナ12はスペーサ14を介してフレーム8の一方の側壁8aに取り付けられる。その場合、スペーサ14はスプール9の回転軸9aの軸方向と直交またはほぼ直交して配設される。このように、スペーサ14が金属製のフレーム8と金属製のリテーナ12との間に介在されることで、フレーム8およびリテーナ12の成形誤差に基づくフレーム8とリテーナ12との間の隙間のばらつきが吸収されるようになっている。すなわち、スペーサ14はクリアランス調整部材として機能する。
【0040】
また、リテーナ12とスペーサ14とが合わされて組み立てられた状態では、
図7(C)に示すようにスペーサ14のストッパ22がリテーナ12のストッパ貫通用孔12bをスプール9側からほとんど隙間なく貫通して動力伝達機構11側に所定量突出している。更に、スペーサ14の位置決め用溝部14gがリテーナ12の位置決め用突部12cにほとんど隙間なく嵌合する。そして、スペーサ14のストッパ22がリテーナ12のストッパ貫通用孔12bを貫通することで、リテーナ12に対する(つまり、スプール9に対する)スペーサ14の一部の相対位置が位置決めされるとともに、スペーサ14の位置決め用溝部14がリテーナ12の位置決め用突部12cに嵌合することで、スペーサ14の他部の相対位置が位置決めされる。このようにして、ストッパ22はリテーナ12に対するスペーサ14の位置決め部材としても機能する。
【0041】
電動モータ10は、モータリトラクタ3の車体への取付状態でスプール9より下方位置となるように配設される。この電動モータ10にはモータ側ハーネス15が接続されている。モータ側ハーネス15の電線はゴムあるいは樹脂等の可撓性材からなる保護材により保護されている。また、モータ側ハーネス15の先端(電動モータ10との接続端と反対側の端)には、モータ側接続端子16が接続されている。
【0042】
そして、特許文献1に記載のモータリトラクタのクラッチと同様にクラッチパウル24が接続解除される
図4(B)に示すクラッチ接続解除位置にある状態で、電動モータ10の駆動により動力伝達機構11のギヤ26が
図4(B)において時計回りに回転されると、クラッチスプリング25がこのギヤ26の回転と一体に時計回りに回転されるので、クラッチパウル24が回転軸26を中心に反時計回りに回転してクラッチ23が接続される
図4(A)に示すクラッチ接続位置に設定される。クラッチ23のクラッチ接続位置では、クラッチパウル24の係止爪24cがスプール9と一体に回転するインターナルギヤ28の歯28aに係合し、スプール9のシートベルト引出し方向の回転が阻止される。また、スプール9のシートベルト巻取り方向の回転は可能となっている。このとき、クラッチスプリング25はストッパ22から離間している。
【0043】
また、クラッチパウル24が
図4(A)に示すクラッチ接続位置にある状態で、電動モータ10の駆動によりギヤ26が
図4(A)において反時計回りに回転されると、クラッチスプリング25がこのギヤ26の回転と一体に反時計回りに回転されるので、クラッチパウル24が回転軸26を中心に時計回りに回転する。クラッチスプリング25がストッパ22に当接するとクラッチスプリング25の回転が規制されて停止するので、クラッチパウル24の回転も停止する。このとき、ストッパ22が緩衝材で形成されていることから、金属のクラッチスプリング25が緩衝材のストッパ22に当接したときに発生するクラッチスプリング25とストッパ22との当接音が抑制される。こうして、クラッチ23は
図4(B)に示すクラッチ接続解除位置に設定される。クラッチ23のクラッチ接続解除位置では、クラッチパウル24の係止爪24cがスプール9と一体に回転するインターナルギヤ28の歯28aから離間し、スプール9がシートベルト引出し方向およびシート
ベルト巻取り方向のいずれの方向にも回転自由となる。
【0044】
このように構成されたこの例のモータリトラクタ3は、フレーム8の背板8bに固定されたスティー17が例えばセンターピラー18等に取り付けられることで車体に固定される。その場合、
図3(A),(B)に示すようにモータリトラクタ3は、スプール9の回
転軸9aの軸方向が車両の前後方向となるようにかつフレーム8の背板8bが車室内側に向くように配設される。そして、モータ側接続端子16は、電源に接続された車体側ハーネス19の先端に接続された車体側接続端子20に接続される。
【0045】
図2に示すように、スペーサ14は、プリテンショナカバー21、リテーナ12、およびリテーナカバー13とともにフレーム8の側壁8aに取り付けられる。スペーサ14のフレーム8への取付状態では、スペーサ14の円形孔14bはその中心14cがスプール9の回転軸9aの中心9bと一致またはほぼ一致するようにされている。
【0046】
また、このようにスペーサ14が側壁8aに取り付けられた状態では、
図2および
図3(A),(B)に示すようにモータ側ハーネス取り回し配線溝18内に収納されたモータ
側ハーネス15は、その大部分がスペーサ14の外周側壁14dおよび内周側壁14eによって隠蔽されて外部に露出しない。また、電動モータ10と電動モータ側接続端18aとの間のモータ側ハーネス15は、リテーナカバー13で隠蔽されるようになっている。更に、モータ側ハーネス取り回し配線溝18の車体側接続端18bから脱出したモータ側ハーネス15のモータ側接続端子16までの長さは、リテーナカバー13で隠蔽されるモータ側ハーネス15の長さとモータ側ハーネス取り回し配線溝18内のモータ側ハーネス15の長さとを合わせた長さに比べて比較的短く設定されている。したがって、モータ側ハーネス15のモータ側ハーネス取り回し配線溝18の車体側接続端18bからモータ側接続端子16までのわずかな部分が外部に露出するだけでありモータ側ハーネス15のほとんどの部分が外部に露出しなく、モータ側ハーネス15は他の外部部材等と干渉する可能性が抑制される。こうして、この例ではスペーサ14のモータ側ハーネス取り回し配線溝18が本発明のハーネス干渉抑止部を構成する。
【0047】
また、モータ側ハーネス取り回し配線溝18の車体側接続端18bから脱出したモータ側ハーネス15のモータ側接続端子16の接続端16aが、自然状態(作業員の作用力が加えられない状態)で車体側接続端子20の接続端20aの方へ向いていることから、モータ側接続端子16と車体側接続端子20とはスムーズに接続される。すなわち、
図3(B)に示すようにモータ側接続端子16の接続端16aの向き(γ方向)が作業員の作用力により向きを変えられることなく、車体側接続端子20の接続端20aの向き(δ方向)と自然と対向することで、モータ側接続端子16と車体側接続端子20とがスムーズに接続される。したがって、モータ側接続端子16と車体側接続端子20との接続作業が容易となる。
【0048】
そして、モータ側接続端子16と車体側接続端子20とが接続されることで、電動モータ10は、電力が電源から車体側ハーネス19、車体側接続端子20、モータ側接続端子16、およびモータ側ハーネス15を介して供給されて回転駆動されるとともに図示しないコントローラ(CPU)により制御される。これにより、スプール9が回転されるとともにその回転が制御される。
【0049】
この例のクラッチ23の他の構成および他の作動は、前述の特許文献1に記載のクラッチのそれらと実質的に同じである。したがって、特許文献1の記載を参照すれば容易に理解することができるで、それらの詳細な説明は省略する。
また、モータリトラクタ3の他の構成は、例えば前述の特許文献1に記載されたモータリトラクタ等の従来公知のモータリトラクタの構成と同じである。
【0050】
このように構成されたこの例のモータリトラクタ3によれば、スプール9を支持する金属製のフレーム9と動力伝達機構11が配設される金属製のリテーナ12との間の隙間を調整するクリアランス調整部材であるスペーサ14に、動力伝達機構11のクラッチ23の金属製のクラッチスプリング25が当接して停止するストッパ22を一体に設けるとともに、これらのスペーサ14およびストッパ22を単一部材の緩衝材で形成している。これにより、クラッチ23の切換の際に金属製のクラッチスプリング25が緩衝材製のストッパ22に当接したときに発生する当接音をより効果的に低減することが可能となる。その場合、クラッチ作動部材としてクラッチスプリング25を用いることで、クラッチスプリング25をストッパ22に弾性的に当接させることができる。これにより、前述の当接音を更に一層効果的に低減することが可能となる。
【0051】
特に、フレーム8とリテーナ12との間に配設されるスペーサ14のストッパ22を、ストッパ貫通用孔12bにリテーナ12のフレーム8側からリテーナ12のフレーム8側と反対側、つまりリテーナ12の動力伝達機構11配設側にほとんど隙間なく貫通させて配設している。これにより、緩衝材製のストッパ22を容易に設けることができるとともに、1部材のスペーサ14でフレーム8とリテーナ12との間の隙間を調整しつつ、クラッチスプリング25とストッパ22との当接音をより効果的に低減することができる。
【0052】
また、スペーサ14の所定位置に設けたストッパ22を、リテーナ12の所定位置に設けたストッパ貫通用孔12bにほとんど隙間なく貫通させることで、リテーナ12に対する(つまり、スプール9に対する)スペーサ14の相対位置を、比較的高い精度で位置決めすることが可能になるとともに、緩衝材製のストッパ22を金属製のリテーナ12で補強することが可能となる。
【0053】
更に、電動モータ10に接続されたモータ側ハーネス15の大部分が、ハーネス干渉抑止部であるモータ側ハーネス取り回し配線溝18によりスペーサ14のフレーム8への取付状態でスプール9の回転軸9aの中心9bより車室外側に位置するようにガイドされるとともに隠蔽されて外部に露出することなく配設される。したがって、モータ側ハーネス15が他の外部部材等と干渉する可能性を抑制することが可能となる。
【0054】
なお、前述の例では、クラッチ23のクラッチパウル24を樹脂で形成するとともに、クラッチスプリング25を金属で形成するものとしているが、クラッチパウル24を金属で形成することもできる。クラッチパウル24を金属で形成した場合には、クラッチパウル24をストッパ22に当接させることもできる。この場合には、クラッチパウル24は本発明のクラッチ部材に相当する。しかし、当接音を効果的に低減するうえで、金属製のクラッチパウル24であってもクラッチスプリング25とストッパ22とを当接させることが好ましい。
要は、本発明は特許請求の範囲に記載された技術事項の範囲内で種々の設計変更が可能である。