(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、無水マレイン酸とジイソブチレンとの共重合体と、中和剤とを混合して得られる重合体組成物の製造方法であって、
工程1 前記共重合体及び水を含有する組成物と、前記一般式(I)で表される化合物からなる第1の中和剤とを、混合する工程、
工程2 工程1で得られた混合物と、アルカリ金属水酸化物からなる第2の中和剤とを、混合する工程、を含む重合体組成物の製造方法により、共重合体の中和工程での凝集や反応槽への付着を抑制することによって、中和工程の負荷を大幅に低減するとともに、得られる重合体組成物の分散剤としての性能を向上できるという知見に基づく。
【0010】
本発明の効果発現のメカニズムの詳細は不明であるが、以下の様に推定している。本発明における共重合体及び水を含有する組成物と、アルカリ性化合物とを混合すると、まず共重合体の塊状粒子表面で中和反応が起こり、塊状粒子を覆う膜(中和膜)が形成される。この際、前記アルカリ性化合物としてアルカリ金属水酸化物を用いると、高密度で粘性の高い中和膜が形成されるため、塊状粒子表面の中和膜同士が粘着して塊状粒子の凝集が進行する。一方、アルカリ性化合物として一般式(I)で表される化合物を用いた場合、カチオン基が嵩高いために中和膜は低密度で高水溶性となる。そのため、中和膜が共重合体の塊状粒子の分散剤として作用し、塊状粒子の流動性が向上すると共に中和膜同士の粘着による凝集が抑制される。また、その状態の共重合体と水を含有する組成物にアルカリ金属水酸化物を混合しても、塊状粒子の良好な分散状態が維持されるので、中和工程での共重合体の凝集や反応槽への付着が抑制され、中和工程における負荷が大幅に低減する。更には、中和が均一に進行しやすくなるため、得られる重合体組成物の分散剤としての性能も向上する。但し、これらは推定であって、本発明は、これらメカニズムに限定されない。
【0011】
すなわち本発明は、一つの態様において、無水マレイン酸とジイソブチレンとの共重合体と、中和剤とを混合して得られる重合体組成物の製造方法であって、
工程1 前記共重合体及び水を含有する組成物と、前記一般式(I)で表される化合物からなる第1の中和剤とを、混合する工程、
工程2 工程1で得られた混合物と、アルカリ金属水酸化物からなる第2の中和剤とを、混合する工程、を有する重合体組成物の製造方法に関する。本発明の重合体組成物の製造方法によれば、共重合体の中和工程での凝集や反応槽への付着を抑制することによって、中和工程における負荷を大幅に低減するとともに、得られる重合体組成物の分散剤としての性能を向上できるという効果が奏されうる。
【0012】
[共重合体]
ジイソブチレンと無水マレイン酸との共重合体は、例えば特開昭55−40797記載の公知の方法によって製造することができる。
【0013】
また、前記共重合体の製造は、例えば以下の方法による。すなわち、有機溶媒とモノマーとしてのジイソブチレンとを含有する液を加熱および攪拌しながら、前記液に開始剤及びモノマーとしての無水マレイン酸を添加して重合を行い、共重合体を含有する溶液を得る。更に前記共重合体溶液に含まれる有機溶媒を水系溶媒に置換する溶媒置換を行って共重合体を沈殿させ、共重合体と水とを含有する組成物を得る。製造の容易性の観点、安価に製造できる観点から、重合法は沈殿重合法が好ましい。
【0014】
前記共重合体は、分散性に優れる重合体組成物、すなわち無機粒子、有機顔料などの粉体用の分散剤として使用した際に水系分散剤として性能が高い重合体組成物を製造する観点及び共重合体の製造の容易性の観点から、ジイソブチレンと無水マレイン酸との交互共重合体が好ましい。前記共重合体を構成する、ジイソブチレンに由来する構成単位と無水マレイン酸に由来する構成単位とのモル比(ジイソブチレン由来の構成単位/無水マレイン酸由来の構成単位)は、水溶性及び分散性に優れる重合体組成物を製造する観点並びに共重合体の製造の容易性の観点から、実質的に1/1であることが好ましい。
【0015】
前記共重合体の合成を効率良く行う観点から、共重合体を製造する際の仕込み量において、無水マレイン酸に対しジイソブチレンを過剰に用いることが好ましい。また、無水マレイン酸に対する過剰のジイソブチレンが、共重合体の合成における有機溶媒として利用できる観点からも好ましい。無水マレイン酸の仕込み量に対するジイソブチレンの仕込み量のモル比(ジイソブチレン/無水マレイン酸)は、共重合体の合成においてモノマーの反応速度を確保する観点から、1.2以上が好ましく、2以上がより好ましく、2.5以上が更に好ましい。また、前記モル比(ジイソブチレン/無水マレイン酸)は、共重合体を含有する溶液を得た後に、ジイソブチレンの回収を効率よく行う観点から、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3.5以下が更に好ましい。
【0016】
前記共重合体の製造において、本発明の重合体組成物の水系分散剤としての性能及び水溶性を損なわない範囲で、モノマーとしてジイソブチレン以外のオレフィンを加えても良い。前記ジイソブチレン以外のオレフィンとしては、イソブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。また同様に、モノマーとして、重合性二価カルボン酸及び/又は無水マレイン酸以外の重合性二価カルボン酸の無水物を加えても良い。前記重合性二価カルボン酸としては、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0017】
前記重合体組成物の水系分散剤としての性能を向上する観点、前記共重合体の製造容易性の観点、及び合成を効率良く行う観点から、共重合体を製造する際の仕込み量において、ジイソブチレンに対する前記ジイソブチレン以外のオレフィンのモル比(ジイソブチレン以外のオレフィン/ジイソブチレン)は、0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下が更に好ましく、実質的に0が更により好ましい。また、同様の観点から、共重合体を製造する際の仕込み量において、前記無水マレイン酸に対する重合性二価カルボン酸及び/又は無水マレイン酸以外の重合性二価カルボン酸の無水物のモル比[(重合性二価カルボン酸及び/又は無水マレイン酸以外の重合性二価カルボン酸の無水物)/無水マレイン酸]は、0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下が更に好ましく、実質的に0が更により好ましい。
【0018】
前記共重合体の重量平均分子量は、分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、10000以上が好ましく、15000以上がより好ましく、20000以上が更に好ましい。また、前記共重合体の重量平均分子量は、同様の観点から、100000以下が好ましく、80000以下がより好ましく、60000以下が更に好ましく、30000以下が更により好ましい。共重合体の重量平均分子量の測定方法は実施例記載の通りである。
【0019】
[工程1]
工程1は、前記共重合体及び水を含有する組成物と、一般式(I)で表される化合物からなる第1の中和剤とを、混合する工程である。
【化2】
(式中、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なって、水素原子が水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を示す)
【0020】
中和工程における凝集を抑制する観点及び分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、一般式(I)におけるR
1、R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子が水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子である。一般式(I)で表される化合物としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。一般式(I)で表される化合物としては、取扱いの容易性の観点、重合体組成物の製造容易性の観点及び分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、アンモニア、並びにR
1、R
2及びR
3のいずれか1つ以上がヒドロキシエチル基若しくはヒドロキシプロピル基である化合物が好ましく、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びトリイソプロパノールアミンがより好ましく、アンモニア及びトリエタノールアミンが更に好ましく、アンモニアが更により好ましい。
【0021】
工程1における共重合体及び水を含有する組成物に対する前記一般式(I)で表される化合物の混合量は、中和工程における凝集を抑制する観点及び分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、前記共重合体に含まれる無水マレイン酸由来の構成単位100molに対し、1mol以上が好ましく、2mol以上がより好ましく、4mol以上が更に好ましく、5mol以上が更により好ましい。また、共重合体及び水を含有する組成物に対する前記一般式(I)で表される化合物の混合量は、分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、前記共重合体に含まれる無水マレイン酸由来の構成単位100molに対し、15mol以下が好ましく、10mol以下がより好ましく、8mol以下が更に好ましい。
【0022】
第1の中和剤は、水に溶解され水溶液の状態で前記組成物と混合されてもよい。一般式(I)で表される化合物の沸点が100℃より低い場合、取扱い容易性の観点から、第1の中和剤は水溶液の状態で用いることが好ましい。第1の中和剤を水溶液の状態で用いる場合、前記水溶液における一般式(I)で表される化合物と水との質量比(一般式(I)で表される化合物/水)は、重合体組成物の収率向上の観点から、10/90以上がより好ましく、20/80以上がより好ましい。また、第1の中和剤の取扱い容易性の観点から、40/60以下が好ましく、30/70以下がより好ましい。
【0023】
更に第1の中和剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般式(I)で表される化合物以外の成分を含有してもよい。第1の中和剤は、中和工程での凝集を抑制する観点から、アルカリ金属水酸化物を含まないことが好ましい。第1の中和剤における一般式(I)で表される化合物の含有量は、中和工程おける凝集を抑制する観点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%が更に好ましく、100質量%が更により好ましい。
【0024】
工程1における共重合体及び水を含有する組成物と第1の中和剤との混合方法は、特に限定されないが、重合体組成物の製造の容易性の観点から、共重合体及び水を含有する組成物を攪拌しながら第1の中和剤を加える方法が好ましい。また、第1の中和剤は、一度に加えても滴下して加えても良い。第1の中和剤を添加してから第2の中和剤を添加するまでの時間は、中和を均一に進行させる観点及び中和速度向上の観点から、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。また、重合体組成物を効率よく製造できる観点から、30分以下が好ましく、20分以下がより好ましい。
【0025】
工程1における前記共重合体及び水を含有する組成物の温度は、中和を均一に進行させる観点及び中和速度向上の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。また、工程1における前記共重合体及び水を含有する組成物の温度は、前記共重合体及び水を含有する組成物の泡立ちを抑制して攪拌性を向上する観点並びに第1の中和剤の揮発及び水の蒸発を抑制する観点から、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0026】
工程1における前記共重合体及び水を含有する組成物の固形分は、収率向上の観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。また、増粘の抑制による攪拌性向上の観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0027】
[工程2]
工程2は、工程1で得られた混合物と、アルカリ金属水酸化物からなる第2の中和剤とを、混合する工程である。
【0028】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。アルカリ金属水酸化物としては、分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0029】
工程2における工程1で得られた混合物に対する前記アルカリ金属水酸化物の混合量は、中和工程における凝集を抑制する観点及び分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、前記共重合体に含まれる無水マレイン酸由来の構成単位100molに対し、50mol以上が好ましく、70mol以上がより好ましく、90mol以上が更に好ましく、140mol以上が更により好ましい。また、工程1で得られた混合物に対する前記アルカリ金属水酸化物の混合量は、同様の観点から、前記共重合体に含まれる無水マレイン酸由来の構成単位100molに対し、300mol以下が好ましく、250mol以下がより好ましく、230mol以下が更に好ましい。
【0030】
工程1における一般式(I)で表される化合物と、工程2におけるアルカリ金属水酸化物との合計は、中和工程における凝集を抑制する観点及び分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、前記共重合体に含まれる無水マレイン酸由来の構成単位100molに対し、50mol以上が好ましく、70mol以上がより好ましく、100mol以上が更に好ましく、130mol以上が更により好ましく、150mol以上が更によりより好ましい。また、工程1における一般式(I)で表される化合物と、工程2におけるアルカリ金属水酸化物との合計は、中和工程における凝集を抑制する観点、分散性に優れる重合体組成物を製造する観点及び第1の中和剤に由来する臭いを抑制する観点から、300mol以下が好ましく、260mol以下がより好ましく、230mol以下が更に好ましく、200mol以下が更により好ましく、180mol以下が更によりより好ましい。
【0031】
第2の中和剤は、取扱い容易性の観点から、水に溶解され水溶液の状態で用いることが好ましい。第2の中和剤を水溶液の状態で用いる場合、前記水溶液におけるアルカリ金属水酸化物と水との質量比(アルカリ金属水酸化物/水)は、重合体組成物の収率向上の観点から、15/85以上がより好ましく、25/75以上がより好ましい。また、第2の中和剤の取扱い容易性の観点から、50/50以下が好ましく、更に、アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムの場合は、40/60以下がより好ましい。
【0032】
更に第2の中和剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、アルカリ金属水酸化物以外の成分を含有してもよい。第2の中和剤におけるアルカリ金属水酸化物の含有量は、重合体組成物を効率よく製造できる観点及び分散性に優れる重合体組成物を製造する観点から、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%が更に好ましく、実質的に100質量%が更により好ましい。
【0033】
工程2における工程1で得られた混合物と第2の中和剤との混合方法は、特に限定されないが、重合体組成物の製造の容易性の観点から、工程1で得られた混合物を攪拌しながら、第2の中和剤を前記混合物中に加える方法が好ましく、滴下する方法が更に好ましい。第2の中和剤を滴下する時間は、共重合体の凝集や反応槽への付着を抑制する観点から、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、1.2時間以上が更に好ましい。また、第2の中和剤を滴下する時間は、重合体組成物を効率よく製造できる観点から、3時間以下が好ましく、2.5時間以下がより好ましく、2時間以下が更に好ましい。
【0034】
工程2における工程1で得られた混合物の温度は、中和を均一に進行させる観点及び中和速度向上の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。また、工程1で得られた混合物の泡立ちを抑制して攪拌性を向上する観点及び水の蒸発を抑制する観点から、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0035】
[重合体組成物]
本発明の重合体組成物に含まれる重合体は、ジイソブチレン由来の構成単位とマレイン酸のアルカリ金属塩由来の構成単位とを含む。前記アルカリ金属としては、重合体組成物の水系分散剤としての性能を向上する観点から、ナトリウム及びカリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。
【0036】
本発明の重合体組成物は、前記共重合体に含まれる無水マレイン酸由来の構成単位の一部又は全てが加水分解し、更に加水分解によって生じたカルボキシ基の一部又は全てが塩となった重合体を含有する。また、本発明の重合体組成物は、重合体組成物の製造の容易性の観点及び重合体組成物の取扱い容易性の観点から、前記重合体と水とを含有することが好ましく、前記重合体の水溶液であることがより好ましい。
【0037】
本発明の重合体組成物は、無水マレイン酸とジイソブチレンとの共重合体と、中和剤とを混合する工程を含む製造方法であって、
工程1 前記共重合体及び水を含有する組成物と、前記一般式(I)で表される化合物からなる第1の中和剤とを、混合する工程、
工程2 工程1で得られた混合物と、アルカリ金属水酸化物からなる第2の中和剤とを、混合する工程、を含む製造方法によって製造される。
【0038】
本発明の重合体組成物の製造方法において、更に工程2で得られた組成物に対して濾過処理を行って、不溶物を除去しても良い。前記濾過処理は工程2の後に行われることが好ましい。濾過処理方法としては、フィルタープレス、セラミックフィルター、リキッドフィルター等の処理方法が挙げられる。前記濾過処理において、濾過助剤を併用することも好ましい。濾過助剤としては、珪藻土、ゼオライト、活性炭等が挙げられる。
【0039】
本発明の重合体組成物の固形分は、重合体組成物の耐防腐性向上の観点及び分散性向上の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。また、本発明の重合体組成物の固形分は、重合体組成物の増粘を抑制して取扱い性を向上する観点から、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。
【0040】
本発明の重合体組成物のpHは、水溶性向上の観点及び分散性向上の観点から、7.5以上が好ましく、9以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、11以上が更により好ましい。また、本発明の重合体組成物のpHは、分散性向上の観点及び第1の中和剤に由来する臭いを抑制する観点から、13.8以下が好ましく、13.5以下がより好ましく、13以下が更に好ましく、12.5以下が更により好ましく、12以下が更によりより好ましい。
【0041】
本発明の重合体組成物は、無機粒子、有機顔料などの粉体用の水系分散剤として好ましく用いられる。無機粒子としては、酸化チタン、シリカ、アルミナ等が挙げられる。また有機顔料としては、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、アントラキノン等が挙げられる。
【0042】
本発明の重合体組成物を粉体用の水系分散剤として使用するにあたっては、重合体組成物の使用量は、粉体の分散性向上の観点から、粉体100質量部に対し、重合体組成物の固形分で0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.15質量部以上が更に好ましい。また、同様の観点から、5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましく、3質量部以下が更に好ましい。
【実施例】
【0043】
[共重合体の製造例1:共重合体Aの製造]
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えたガラス製反応容器内に、ジイソブチレン(丸善石油化学社製) 621.8g及びルトナールA−50(BASF社製、ポリビニルエチルエーテル) 3.1gを仕込んだ。反応容器内を窒素雰囲気とし、攪拌を開始した。反応容器内容物を105℃まで加熱し、これ以降、重合反応を完結させるまで、反応容器内容物の温度を105℃に保った。70℃に保温した液体の無水マレイン酸(三井化学ポリウレタン社製) 190.0g、及び開始剤溶液としてジイソブチレン 23.1gに溶解させたパーブチルO(日油社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート) 10.3gを、それぞれ別の滴下ロートから反応容器内に4時間かけて滴下した。滴下の終了から20分後に、ジイソブチレン7.3gに溶解させたパーブチルO 1.2gを反応容器内に加え、更に2時間40分熟成を行って重合反応を完結させ、共重合体Aを含む溶液を得た。反応容器内にイオン交換水 800gを加え、共重合体Aの沈殿を析出させた。次いで、水蒸気蒸留によって、未反応のジイソブチレンの留去を行った。前記水蒸気蒸留は、常圧で反応容器を加熱し、反応容器内容物が100℃に達し、ジイソブチレンの留出が無くなるまで行った。以上の操作を経て、共重合体Aと水とを含有する組成物を得た。前記組成物の固形分は37質量%であった。また、共重合体Aの重量平均分子量は25000であった。
【0044】
[共重合体の製造例2:共重合体Bの製造]
開始剤溶液としてジイソブチレン(丸善石油化学社製) 23.1gに溶解させたパーブチルO(日油社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート) 13.5gを用いたこと以外は、前記共重合体Aの製造例1に従い、共重合体Bと水とを含有する組成物を得た。前記組成物の固形分は37質量%であった。また、共重合体Bの重量平均分子量は12000であった。
【0045】
[共重合体の製造例3:共重合体Cの製造]
開始剤溶液としてジイソブチレン(丸善石油化学社製) 23.1gに溶解させたパーブチルO(日油社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート) 2.6gを用いたこと以外は、前記共重合体Aの製造例1に従い、共重合体Cと水とを含有する組成物を得た。前記組成物の固形分は37質量%であった。また、共重合体Cの重量平均分子量は97000であった。
【0046】
[重合体組成物の製造例1:重合体組成物A1の製造]
前記共重合体の製造例1記載の方法に従い、共重合体Aと水とを含有する組成物を得た操作に続いて、以下に示す中和工程を行った。反応容器内容物を75℃まで冷却し、これ以降、中和反応を完結させるまで、反応容器内の液体の温度を75℃に保った。工程1として、25質量%アンモニア水溶液(昭和電工社製) 8.4gを反応容器内に加えて15分間保持した。次に、工程2として、32質量%水酸化ナトリウム水溶液(南海化学社製) 387.4gを反応容器内に1.5時間かけて滴下し、中和反応を完結させた。室温まで冷却し、固形分が25質量%となるようにイオン交換水を加え、30分間保持してから攪拌を停止し、ジイソブチレンとマレイン酸塩とを構成単位として含む重合体組成物A1を得た。
【0047】
[重合体組成物の製造例2:重合体組成物A51の製造]
工程1を行わなかったこと以外は、前記重合体組成物の製造例1に従い、重合体組成物A51を得た。
【0048】
[重合体組成物の製造例3:重合体組成物A52の製造]
工程2における、32質量%水酸化ナトリウム水溶液 387.4gを、25質量%アンモニア水溶液(昭和電工社製) 211.1gに代えたこと以外は、前記重合体組成物の製造例2に従い、重合体組成物A52を得た。
【0049】
[重合体組成物の製造例4:重合体組成物A53の製造]
工程2における、32質量%水酸化ナトリウム水溶液 387.4gを、予め調製した25質量%アンモニア水溶液(昭和電工社製) 8.4gと、32質量%水酸化ナトリウム水溶液(南海化学社製) 387.4gとを混合した、均一な水酸化ナトリウム−アンモニア混合水溶液に代えたこと以外は、前記重合体組成物の製造例2に従い、重合体組成物A53を得た。
【0050】
[重合体組成物の製造例5:重合体組成物A54の製造]
前記共重合体の製造例1記載の方法に従い、共重合体Aと水とを含有する組成物を得た操作に続いて、以下に示す中和工程を行った。反応容器内容物を75℃まで冷却し、これ以降、中和反応を完結させるまで、反応容器内の液体の温度を75℃に保った。工程1として、32質量%水酸化ナトリウム水溶液(南海化学社製) 387.4gを反応容器内に1.5時間かけて滴下した。次に、工程2として、25質量%アンモニア水溶液(昭和電工社製) 8.4gを反応容器内に加えて15分間保持し、中和反応を完結させた。室温まで冷却し、固形分が25質量%となるようにイオン交換水を加え、30分間保持してから攪拌を停止し、重合体組成物A54を得た。
【0051】
[重合体組成物の製造例6:重合体組成物A2〜A14の製造]
工程1における25質量%アンモニア水溶液、及び、工程2における32質量%水酸化ナトリウム水溶液の量を、表1に記載の量とした以外は、前記重合体組成物の製造例1に従い、重合体組成物A2〜A14を得た。
【0052】
[重合体組成物の製造例7:重合体組成物A15の製造]
工程1における25質量%アンモニア水溶液 8.4gをトリエタノールアミン(日本触媒社製) 18.4gに代えたこと以外は、前記重合体組成物の製造例1に従い、重合体組成物A15を得た。
【0053】
[重合体組成物の製造例8:重合体組成物A16の製造]
工程2における32質量%水酸化ナトリウム水溶液 387.4gを48質量%水酸化カリウム水溶液(AGC旭硝子社製) 362.2gに代えたこと以外は、前記重合体組成物の製造例1に従い、重合体組成物A16を得た。
【0054】
[重合体組成物の製造例9:重合体組成物B1の製造]
前記共重合体の製造例2記載の方法に従い、共重合体Bと水とを含有する組成物を得た操作に続いて、前記重合体組成物の製造例1に示した中和工程を行い、重合体組成物B1を得た。
【0055】
[重合体組成物の製造例10:重合体組成物C1の製造]
前記共重合体の製造例3記載の方法に従い、共重合体Cと水とを含有する組成物を得た操作に続いて、前記重合体組成物の製造例1に示した中和工程を行い、重合体組成物C1を得た。
【0056】
[共重合体の重量平均分子量測定]
共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記条件で測定した。重量平均分子量は、予め作成した検量線に基づき算出した。検量線の作成には、下記の標準試料を用いた。
測定装置:HLC−8120GPC(東ソー社製)
カラム:TSK α−M + α−M(いずれも東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶離液:H
3PO
4(60mmol/L)及びLiBr(50mmol/L)を加えたN,N−ジメチルホルムアミド溶液
流速:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%(固形分)
試料注入量:0.1mL
標準試料:東ソー社製ポリスチレン 5.26×10
2、1.02×10
5、8.42×10
6;西尾工業社製ポリスチレン 4.0×10
3、3.0×10
4、9.0×10
5(数字はそれぞれ分子量)
【0057】
[固形分の測定]
実施例における、各固形分の測定は以下の方法で行った。質量W
3(g)のシャーレに試料1gを採り、前記試料を含んだシャーレ全体の質量を測定し、W
1(g)とした。シャーレ全体を、熱風循環型乾燥機(いすゞ製作所製 Hot Air Rapid Drying Oven Soyokaze)で170℃2時間の条件で乾燥させ、更にデシケータで30分放冷した後、前記試料の不揮発分を含んだシャーレ全体の質量を測定し、W
2(g)とした。次式より得られた値を固形分とした。
固形分(質量%)=100−(W
1−W
2)/(W
1−W
3)×100
【0058】
[沈殿物量の測定]
重合体組成物(固形分として25質量%)100gを100メッシュワイヤーにて濾過を行い、メッシュ上の残渣を105℃、2時間、乾燥機中に入れ、冷却後乾燥させた沈殿物質量(g)を測定した。沈殿物質量が少ないほど、中和工程での凝集を抑制する効果が優れることを示す。
【0059】
[分散性の測定]
50mLのガラス製サンプルびん(マルエム社製スクリュー管No.7)に平均粒径0.5μmの酸化チタン粒子(東邦チタニウム製HT0514) 0.3gと、固形分に換算して重合体組成物 0.6mgとを加え、更にイオン交換水を加えて、酸化チタン粒子、重合体組成物及び水の合計を30gとし、密栓した後、ヤマト科学(株)製の超音波洗浄器yamato1510で30分間超音波処理を行い、1質量%の酸化チタンスラリーを調製した。得られたスラリーを内径10mmの沈降試験管に移して25℃にて静置し、酸化チタン粒子の沈降によって生じるスラリー上層の透明層の高さ(mm)を、静置時間1分、3分、5分、10分、30分、60分及び120分で測定した。透明層の高さが小さい程、重合体組成物の分散剤としての性能が優れることを示す。
【0060】
重合体組成物の製造例で得られた重合体組成物A1〜A16、B1、C1及びA51〜A54を用い、実施例1〜18及び比較例1〜4として、前述の[沈殿物量の測定]及び[分散性試験]を行った。また比較例5として、重合体組成物を用いずに[分散性試験]を行った。結果を表1に示す。
【0061】
工程1に一般式(I)で表される化合物を用い、工程2でアルカリ金属水酸化物を用いて得られた重合体組成物を使用した実施例1〜18は、比較例1〜4に比べて沈殿物質量が少なく、中和工程での凝集を抑制する効果が優れていることが示された。また、比較例1〜5に比べて透明層の高さが小さく、重合体組成物の分散剤としての性能が優れていることが示された。
【0062】
【表1】