(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記加熱手段による上記被記録媒体の加熱温度と、上記予備加熱手段による上記被記録媒体の加熱温度とを、異なる温度に制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷方法。
上記加熱手段による上記被記録媒体の加熱温度と、上記予備加熱手段による上記被記録媒体の加熱温度とを、同一温度に制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷方法。
上記被記録媒体として、コーティング剤が塗布されていない塩化ビニル系シート、PETシート、ターポリンシート、コート紙、並びに、コーティング処理されていないポリプロピレン樹脂、ガラス、金属、及びこれらの成型物からなる群より選択される被記録媒体を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の印刷方法。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の一実施形態に係る印刷方法は、プリントヘッドと被記録媒体とプリントヘッドとの位置を相対的に移動させる駆動手段と、上記プリントヘッドのインク吐出面に対向する位置に設けられ、上記駆動手段によって当該位置に配置された被記録媒体を、当該被記録媒体のインク着弾面に背向する面側から加熱する加熱手段と、上記被記録媒体が、上記プリントヘッドのインク吐出面に対向する位置に配置されるよりも前の位置で、当該被記録媒体を、そのインク着弾面に背向する面側から加熱する予備加熱手段とを備えたインクジェットプリンタを用いて、被記録媒体を印刷する印刷方法であって、上記被記録媒体のインク着弾面の表面温度が40℃以上、60℃以下になるように、上記加熱手段及び上記予備加熱手段により上記被記録媒体を加熱し、上記プリントヘッドから吐出するインクとして、溶媒、着色剤及びバインダ樹脂を含み、当該バインダ樹脂が当該溶媒に分散又は乳濁しているインクであって、当該バインダ樹脂の表面の最低造膜温度が0℃以下であるインクを用いることを特徴としている。
【0051】
<インクジェットプリンタ1>
まず、本発明の一実施形態に係る印刷方法において用いるインクジェットプリンタの例について、
図1及び2を参照して説明する。
図1は、本発明に係るインクジェットプリンタの概略構造を示す側面断面図であり、
図2は本発明に係るに係るインクジェットプリンタの概略構造を示す正面図である。
【0052】
図1及び2に示すように、インクジェットプリンタ1は、プリントヘッド14、プリント手段10、搬送手段60、プリントヒータ(加熱手段)70、及び、プリヒータ(予備加熱手段)40を備えている。プリントヘッド14を走査させるプリント手段10と、メディア30を搬送する搬送手段60とは、メディア30とプリントヘッド14との位置を相対的に移動させる駆動部(駆動手段)として機能する。
【0053】
〔プリントヘッド14〕
プリントヘッド14は、その下面に並ぶノズル12からピエゾ(piezo)方式等により後述するラテックスインクのインク滴を噴射させる構造を有している。また、プリントヘッド14は、
図2に示されたプリント手段10を構成するヘッド駆動ベルト16により、左右方向へ自在に走査可能に支持されている。
【0054】
〔プリント手段10〕
プリント手段10は、プリントヘッド14を、プラテン20の上方において、メディア30の搬送方向に交差する方向に走査させることによって、プリントヘッド14とメディア30との位置を相対的に移動させる。
【0055】
〔搬送手段60〕
搬送手段60は、プラテン20を挟んで、対向するように設けられた送りローラ62と押えローラ64とから構成されている。そして、その送りローラ62と押えローラ64との間にメディア30を挟み込んで、送りローラ62を前方(
図1の矢印方向)に回転させることにより、メディア30をプラテン20上において、前方に向けて搬送する構造を有している。
【0056】
〔プリントヒータ70〕
プリントヒータ70は、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に設けられ、搬送手段60によって当該位置に配置されたメディア30を、当該メディア30のインク着弾面に背向する面側から加熱する。プリントヒータ70は、メディア30を挟んで、プラテン中央部22に対向する位置に設けられている。プリントヒータ70は、プラテン中央部22上に搬送されたメディア30をインク滴の着弾面の背面から加熱する。
【0057】
プリントヒータ70は、プラテン20を介して、プラテン中央部22上に搬送されるメディア30に熱を伝えることで、メディア30を加熱する構造を有していればよい。このようなプリントヒータ70としては、セラミックやニクロム線を用いた電熱ヒータ等を用いることができる。
【0058】
〔プリヒータ40〕
プリヒータ40は、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置よりも前の位置で、当該メディア30を、インク着弾面に背向する面側から加熱する。プリヒータ40は、メディア30を挟んで、プラテン後部24に対向する位置に設けられている。プリヒータ40は、プラテン後部24上に搬送されたメディア30をインク滴の着弾面の背面から加熱することによって、メディア30を予備加熱する。
【0059】
プリヒータ40は、プラテン20を介して、プラテン後部24上に搬送されるメディア30に熱を伝えることで、メディア30を予備的に加熱する構造を有していればよい。このようなプリヒータ40としては、セラミックやニクロム線を用いた電熱ヒータ等を用いることができる。
【0060】
〔温度制御手段80〕
インクジェットプリンタ1は、さらに、温度制御手段80を備えていてもよい。温度制御手段80は、プリントヘッド14から吐出されたインクがメディア30に着弾するときの、メディア30のインク着弾面の表面温度が、40〜60℃となるように、プリヒータ40及びプリントヒータ70の加熱温度を制御する。温度制御手段80は、プリヒータ40及びプリントヒータ70の発熱温度を検知するセンサ及びその発熱温度を制御する電子回路等の組み合わせから構成することができる。
【0061】
温度制御手段80を、プリヒータ40及びプリントヒータ70の加熱温度をそれぞれ独立して制御可能に構成してもよい。すなわち、温度制御手段80は、プリヒータ40及びプリントヒータ70の加熱温度を、異なる温度に制御してもよい。これにより、温度制御手段80は、プリヒータ40及びプリントヒータ70の加熱温度のそれぞれを、メディア30の種類やその厚さ、インクジェットプリンタが置かれた周囲の温度等に応じて、別々に調整することができる。その結果、メディア30のインク着弾面の表面温度が、所望温度の40℃以上、60℃以下になるように、常に精確に加熱することができる。
【0062】
なお、温度制御手段80は、プリヒータ40及びプリントヒータ70の加熱温度を、同一温度に制御してもよい。これにより、プリヒータ40とプリントヒータ70との温度制御を同様に制御することができるので、温度制御を簡易化することができる。
【0063】
温度制御手段80は、プリヒータ40を、メディア30のインク着弾面の表面温度を30℃以上、50℃以下に加熱するように制御し、プリントヒータ70を、メディア30のインク着弾面の表面温度を40℃以上、60℃以下に加熱するように制御することが好ましい。これにより、メディア30にインク滴が着弾したとき、その表面温度が40℃以上、60℃以下となるように常に過不足なく確実に加熱することができる。
【0064】
〔メディア30〕
インクジェットプリンタ1においては、コーティング剤が塗布されていない塩化ビニル系シート、PETシート、ターポリンシート、コート紙、並びに、コーティング処理されていないポリプロピレン樹脂、ガラス、金属、及びこれらの成型物からなる群より選択されるメディアを、メディア30として用いることできる。
【0065】
インクジェットプリンタ1においては、コーティング剤等が塗布されていない汎用のメディアであっても、滲みのない高画質の絵図や文字を、定着安定性を持たせて印刷することができる。また、インクジェットプリンタ1においては、低温で軟化するメディアを含め、様々な種類のメディアを、適切に加熱して常に円滑に搬送することが可能である。すなわち、インクジェットプリンタ1においては、耐熱性の低いメディアから耐熱性の高いメディアまでの、種々のメディアを支障なく搬送し、このような種々のメディアに対して、滲みのない高画質の絵図や文字を、定着安定性を持たせて印刷することができる。
【0066】
〔ホストコンピュータ120〕
インクジェットプリンタ1は、さらに、ホストコンピュータ120を備えていてもよい。ホストコンピュータ120は、プリヒータ40及びプリントヒータ70による加熱、並びに、温度制御手段80による温度制御を制御する。また、ホストコンピュータ120は、プリントヘッド14からのインクの吐出、搬送手段60によるメディア30の搬送等のプリント動作を制御する。ホストコンピュータ120は、インクジェットプリンタ1付属のオペレーションパネルであってもよい。
【0067】
〔巻き戻し手段90及び巻き取り手段100〕
インクジェットプリンタ1は、さらに、巻き戻し手段90及び巻き取り手段100を備えていてもよい。巻き戻し手段90は、プラテン20の後方(
図1中矢印方向の反対方向)に設けられており、ロール状に巻かれたメディア30を巻き戻し、プラテン中央部22に向けてメディア30を送る。
【0068】
巻き取り手段100は、プラテン20の前方(
図1中矢印方向)に設けられており、プラテン前部26からその前方に送り出される印刷済みのメディア30をロール状に巻き取る。
【0069】
〔リフレッシュモード手段140〕
インクジェットプリンタ1は、
図2に示すように、リフレッシュモード手段140を備えていてもよい。リフレッシュモード手段140は、プリントヘッド14をメンテナンスステーション130に移動させて、プリントヘッド14のノズル12からインク滴をメンテナンスステーション130に備えられた受け皿110内等に試吐出(フラッシング)させる。これにより、当該ノズル12内でラテックスインクが固化して、目詰まりを起こすのを防ぐことができる。その結果、目詰まりを起こしたプリントヘッド14を用いることで、メディア30表面に印刷される絵図や文字の一部にドット抜けが生じることを防ぐことができる。
【0070】
また、リフレッシュモード手段140は、ラテックスインクを用いてメディア30の表面に絵図や文字を印刷する途中で、プリントヘッド14をメンテナンスステーション130に移動させて試吐出させてもよい。さらに、リフレッシュモード手段140は、ラテックスインクを用いて絵図や文字をメディア30表面に印刷する途中の一定時間毎に、プリントヘッド14をメンテナンスステーション130に移動させて、試吐出させることもできる。これにより、プリントの途中に、プリントヘッド14のノズル12からインク滴を試吐出させるのを怠ったために、そのプリントヘッドのノズル12内でラテックスインクが固化して、ノズル12が目詰まりを起こすのを確実に防ぐことができる。なお、リフレッシュモード手段140は、プリンタ制御用のホストコンピュータ120の電子回路等から構成してもよい。
【0071】
<インクジェットプリンタ2>
インクジェットプリンタ1は、さらに乾燥手段150を備えて、
図3に示すインクジェットプリンタ2のように構成してもよい。
図3は、本発明に係る他のインクジェットプリンタの概略構造を示す側面断面図である。
【0072】
〔乾燥手段150〕
図3に示すように、インクジェットプリンタ2は、プラテン前部26の上に搬送されるメディア30の表面に付着しているインク滴を乾燥させる乾燥手段150を備えている。そして、乾燥手段150は、プリントヘッド14から吐出されたメディア30の表面に着弾したインクのうち、一部未乾燥状態にあるインクを乾燥させることができる。これにより、プラテン前部26から、その前方の巻き取り手段100にロール状に巻き取られるメディア30の表面に付着している一部未乾燥状態のインク滴が、ロール状に巻き取られるメディア30の他の箇所に付着して、メディア30がインクで汚れるのを防ぐことができる。
【0073】
乾燥手段150は、
図3に示すように、メディア30のインク着弾面側からインク滴を乾燥させるものであってもよいし、メディア30のインク着弾面に背向する面側からインク滴を乾燥させるものであってもよい。このような乾燥手段150としては、温風乾燥機、赤外線乾燥機、セラミックやニクロム線等を用いたヒータ乾燥機等を、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0074】
<印刷方法>
上述したようなインクジェットプリンタ1を用いた、本発明に係る印刷方法について説明する。まず、ロール状に巻かれたメディア30を、巻き戻し手段90からプラテン後部24に向けて巻き戻し、搬送手段60によりプラテン後部24上に搬送する。そして、プラテン後部24上に搬送されたメディア30を、プリヒータ40により、そのインク着弾面に背向する面側から予備加熱する。
【0075】
次に、予備加熱したメディア30を、搬送手段60によりプラテン中央部22上に搬送する。ここでプリント手段10は、プリントヘッド14を走査させて、所望の位置において、プリントヘッド14のインク吐出面からラテックスインクを吐出させる。このとき、メディア30を、そのインク着弾面に背向する面から、プリントヒータ70により加熱する。
【0076】
温度制御手段80は、プリヒータ40及びプリントヒータ70による加熱を制御して、プリントヘッド14から吐出されたインクがメディア30に着弾するときの、メディア30のインク着弾面の表面温度を40℃以上、60℃以下にする。
【0077】
したがって、メディア30に着弾したインク滴を、その着弾箇所周囲に広く拡散させることなく、着弾箇所にドット状に定着させた状態のまま、時間をおかずに素早く乾燥及び定着させることができる。そして、メディア30の表面に複数のラテックスインクのドット配列からなる、滲みのない鮮明な絵図や文字を印刷することが可能である。
【0078】
ここで、メディア30の表面温度を40℃以上に加熱することにより、メディア30の表面に着弾したラテックスインク滴がメディア30から受ける加熱温度を十分なものとすることができる。また、メディア30の表面温度を60℃以下に加熱することにより、耐熱性の低い塩化ビニル系等のフィルムを被記録媒体として使用した場合でも、被記録媒体に熱によるダメージを与えることがなく、搬送手段60によってプラテン20の上を円滑に搬送させることができる。したがって、本実施形態に係る印刷方法は、耐熱性の低いメディア30から耐熱性の高いメディア30までのほぼ全てのメディア30を適用することができる。このように、メディア30を、その表面温度が40℃以上、60℃以下になるように加熱する理由は、本発明に係るインクジェットプリンタにより、ラテックスインクを用いて、各種のメディア30の表面に絵図や文字を実際に印刷した実験結果に基づいて、本発明者らが鋭意検討して導き出したものである。
【0079】
また、ラテックスインクに含まれるバインダ樹脂は、内部に位置するコア部と、表面に位置するシェル部とにより構成されたコア・シェル構造を有している。そして、当該バインダ樹脂の表面の最低造膜温度(MFT)は0℃以下であるため、表面温度が40℃以上、60℃以下になるように加熱されたメディア30上において、ラテックスインクの乾燥及び融着を速やかに開始させることができる。ラテックスインクの詳細については、後述する。
【0080】
さらに、プリヒータ40とプリントヒータ70とにより二段階に加熱して、最終的にインク着弾時のメディア30の表面温度を、ラテックスインクの乾燥及び融着に適した40℃以上、60℃以下にする。したがって、メディア30の厚みや、インクジェットプリンタ1が置かれた周囲温度等の影響により、プリントヒータ70のみでは、プラテン中央部22の上に搬送されるメディア30を適温まで十分に加熱できない場合であっても、プリヒータ40によりある程度の温度まで予め加熱しておくことによって、インク着弾時にメディア30の表面を所望の温度にまで加熱することができる。
【0081】
また、プリントヒータ70は、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に配置されているので、プリントヒータ70のみでメディア30の表面を40℃以上、60℃以下になるように加熱すると、プリントヒータ70からの発熱によりプリントヘッド14の細径のノズル内でインクが固化して目詰まりが生じるという問題がある。本実施形態に係る印刷方法においては、プリヒータ40とプリントヒータ70とにより二段階に加熱して、インク着弾時のメディア30の表面温度を40℃以上、60℃以下になるようにするので、例えば、プリヒータ40によりある程度の温度まで予め加熱しておくことによって、プリントヒータ70を高温で発熱させなくても、メディア30の表面を所望の温度にまで加熱することができる。したがって、プリントヒータ70からの発熱によりプリントヘッド14のノズル内でインクが固化して目詰まりが生じることを防ぐことができる。
【0082】
このようにして、その表面に複数のラテックスインクのドット配列からなる絵図や文字が印刷されたメディア30を、搬送手段60により、プラテン中央部22の上から、プラテン前部26の上に搬送する。そして、メディア30を、プラテン20前方の巻き取り手段100によりロール状に巻き取り、印刷を終了する。
【0083】
<ラテックスインク>
本実施形態に係る印刷方法において使用するインクは、溶媒、着色剤及びバインダ樹脂を含み、当該バインダ樹脂が当該溶媒に分散又は乳濁しているインクであって、当該バインダ樹脂の表面の最低造膜温度が0℃以下のインクである。溶媒、着色剤及びバインダ樹脂を含み、当該バインダ樹脂が当該溶媒に分散又は乳濁しているインクを、ラテックスインクと称する。ラテックスインクは、溶媒、着色剤、及び、バインダ樹脂を含み、バインダ樹脂が溶媒に分散又は乳濁したエマルションである。
【0084】
〔溶媒〕
ラテックスインクに含まれる溶媒は、水及び水溶性有機溶媒の少なくとも一方であることが好ましい。
【0085】
水溶性有機溶媒の具体的な例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ペトリオール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタンジオール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、トリエチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミイダゾリジノン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール、チオジグリコール等の含硫黄化合物類;プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、トリメチロールプロパン、テトラメチル尿素及び尿素等が挙げられる。
【0086】
これら水溶性有機溶媒の中でも、特にグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエシル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンがより好ましい。これらの水溶性有機溶媒は、溶解性に優れ、且つ、水分蒸発による噴射特性不良の防止に優れている。
【0087】
なお、ラテックスインクは、上述したような水溶性有機溶媒を単独又は2種類以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0088】
ラテックスインクにおける溶媒の含有量は、印刷の目的等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ラテックスインクの全量に対して50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが最も好ましい。ラテックスインクは、通常の水系インクジェットインクと比べて溶媒の含有量が高いことが好ましい。その理由は、ラテックスインクが環境負荷を低減するエコインクとして認識されているからである。
【0089】
〔着色剤〕
ラテックスインクに含まれる着色剤は、印刷の目的等に応じて適宜選択することができる。着色剤として、例えば、水溶性染料、油溶性染料、分散染料等の染料、顔料等が挙げられる。着色剤として、良好な吸着及び封入性の観点からは、油溶性染料及び分散染料が好ましいが、得られる画像の耐光性の観点からからは、顔料が好ましく用いられる。
【0090】
なお、着色剤は、ラテックスインク中に効率よく溶解させるために、水溶性有機溶媒に容易に溶解する物が好ましく、例えば、ケトン系溶媒に2g/L以上溶解するものであることが好ましく、20〜600g/L溶解することがより好ましい。
【0091】
ラテックスインク中の着色剤の含有量は、ラテックスインク100重量部に対して、10〜200重量部であることが好ましく、25〜150重量部であることがより好ましい。
【0092】
また、ラテックスインクに含まれる着色剤は、ポリマーグラフトしたものであることがより好ましい。ポリマーグラフトした着色剤としては、例えば、以下の実施例において、合成例1(カーボンブラック)、合成例2(イエロー顔料)、合成例3(マゼンタ顔料)、及び、合成例4(シアン顔料)に示すポリマーグラフト着色剤が挙げられる。
【0093】
また、ラテックスインクに含まれる着色剤は、ポリマーを内包したものであることがより好ましい。ポリマーを内包した着色剤としては、例えば、以下の実施例において、合成例5(樹脂合成)、合成例6(フタロシアニン)、合成例7(キナクリドン)、合成例8(モノアゾ黄色顔料)、及び、合成例9(カーボンブラック)に示すポリマー内包着色剤が挙げられる。
【0094】
さらに、ラテックスインクに含まれる着色剤として、樹脂被覆型の着色剤も好適に使用することができる。樹脂被覆型の着色剤は、ポリマー微粒子に水不溶性又は水難溶性の着色剤を含有させたポリマーエマルションからなる。本明細書において、「着色剤を含有させた」とは、ポリマー微粒子中に着色剤を封入した状態、及び、ポリマー微粒子の表面に着色剤を吸着させた状態の何れか又は双方を意味する。この場合、ラテックスインクに配合される着色剤は全て、ポリマー微粒子に封入または吸着されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、該着色剤がエマルション中に分散していてもよい。上記着色剤としては、水不溶性若しくは水難溶性であって、ポリマーによって吸着され得る着色剤であれば特に制限されない。
【0095】
なお、本明細書において、20℃の水100重量部に対して、着色剤が10重量部以上溶解しない場合、その着色剤は水不溶性又は水難溶性であるとする。同じ条件で、目視で水溶液表層または下層に着色剤の分離や沈降が認められない場合、その着色剤は水溶性であるとする。
【0096】
ポリマーエマルションを形成するポリマーとしては、例えば、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー及びポリウレタン系ポリマー等を用いることができる。特に好ましく用いられるポリマーはビニル系ポリマー及びポリエステル系ポリマーであり、具体的には、特開2000−53897号公報(参考文献1)、特開2001−139849号公報(参考文献2)に開示されているポリマーが好適に挙げられる。
【0097】
本発明に用いる着色剤は顔料がより好ましいが、上記、樹脂被覆型着色剤に関しては、染料を使用することもでき、この水溶性染料の一例を以下に示す。好ましくは耐水、耐光性が優れたものが用いられる。
【0098】
(顔料)
着色剤として用いる顔料の例としては、ブラック顔料としてのカーボンブラックが挙げられる。また、カラー顔料としては、例えば、アントラキノン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジアゾ、モノアゾ、ピラントロン、ペリレン、複素環式イエロー、キナクリドン、及び、(チオ)インジゴイドが挙げられる。フタロシアニンブルーの代表的な例には、銅フタロシアニンブルー及びその誘導体(ピグメントブルー15)を含む。キナクリドンの代表的な例には、ピグメントオレンジ48、ピグメントオレンジ49、ピグメントレッド122、ピグメントレッド192、ピグメントレッド202、ピグメントレッド206、ピグメントレッド207、ピグメントレッド209、ピグメントバイオレット19、及び、ピグメントバイオレット42を含む。アントラキノンの代表的な例には、ピグメントレッド43、ピグメントレッド194(ペリノンレッド)、ピグメントレッド216(臭素化ピラントロンレッド)、及び、ピグメントレッド226(ピラントロンレッド)を含む。ピレリンの代表的な例には、ピグメントレッド123(ベルミリオン)、ピグメントレッド149(スカーレット)、ピグメントレッド179(マルーン)、ピグメントレッド190(レッド)、ピグメントバイオレット、ピグメントレッド189(イエローシェードレッド)、及び、ピグメントレッド224を含む。チオインジゴイドの代表的な例には、ピグメントレッド86、ピグメントレッド87、ピグメントレッド88、ピグメントレッド181、ピグメントレッド198、ピグメントバイオレット36、及び、ピグメントバイオレット38を含む。複素環式イエローの代表的な例には、ピグメントイエロー117及びピグメントイエロー138を含む。
【0099】
他の適切な顔料の例は、The Color Index 第三版(The Society of Dyers and Colorists, 1982)に記載されているものが挙げられる。
【0100】
ラテックスインクに含まれる顔料としては、顔料表面に少なくとも一種の親水性基が直接若しくは他の原子団を介して結合しており、分散剤を使用することなく安定に分散させることができる顔料を用いることができる。表面に親水基を導入した顔料としては、イオン性を有するものが好ましく、アニオン性に帯電したものやカチオン性に帯電したものが好適である。
【0101】
アニオン性親水性基としては、例えば、−COOM、−SO
3M、−PO
3HM、−PO
3M
2、−SO
2NH
2、−SO
2NHCOR(但し、式中のMは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わし、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基を示す。)等が挙げられる。これらの中でも特に−COOM又は−SO
3Mが顔料表面に結合されたものを用いることが好ましい。アニオン性に帯電した顔料を得る方法としては、例えば顔料を次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法、スルホン化処理する方法、ジアゾニウム塩を反応させる方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0102】
カチオンに帯電したカラー顔料表面に結合されている親水基は、例えば第4級アンモニウム基であることができる。より好ましくは下記に挙げる第4級アンモニウム基の少なくともひとつが、顔料表面に結合された顔料が用いられる。
【0103】
(分散剤)
ラテックスインクに含まれる着色剤が顔料である場合、顔料を分散剤により溶媒中に分散させた顔料分散液を用いてもよい。
【0104】
好ましい分散剤としては、顔料分散液の調製に用いられる公知の分散剤を使用することができ、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等のポリマー型分散剤が挙げられる。
【0105】
また、顔料を分散するのに用いるノニオン系またはアニオン系分散剤としては顔料種別あるいはインク処方に応じて適宜選択できるが、ノニオン系分散剤としてはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンαナフチルエーテル、ポリオキシエチレンβナフチルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチリルナフチルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルナフチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0106】
また、上記の分散剤のポリオキシエチレンの一部をポリオキシプロピレンに置き換えた分散剤やポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の芳香環を有する化合物をホルマリン等で縮合させた分散剤も使用できる。
【0107】
ノニオン系分散剤のHLBは12以上19.5以下のものが好ましく、13以上19以下のものがより好ましい。HLBが12以上のノニオン系分散剤を使用することで、分散剤の分散媒へのなじみが良くなり、分散安定性が向上する。また、HLBが19.5以下のノニオン系分散剤を使用することで、分散剤が顔料に吸着しやすくなり、分散安定性が向上する。なお、ノニオン系分散剤を複数混合して使用する際には、混合後のHLBを12以上、19.5以下に調整してもよい。
【0108】
アニオン系分散剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、メラニンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、スルホコハク酸アルキル二塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩、アルキルスルホ酢酸塩、α―オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、N−アシルアミノ酸塩、アシル化ペプチド、石鹸等が挙げられるが、これらのうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルの硫酸塩もしくはリン酸塩が特に好ましい。
【0109】
分散剤の添加量は顔料の全重量に対して10重量%以上、50重量%以下であることが好ましい。分散剤の添加量を顔料の全重量に対して10重量%以上にすることで、顔料分散体及びインクの保存安定性を維持することができ、また分散のための時間を短縮できる。分散剤の添加量を顔料の全重量に対して50重量%以下にすることで、インクの粘度を低くすることができ、吐出安定性を向上させることができる。
【0110】
上述したポリマー型分散剤、ノニオン系分散剤、及びアニオン系分散剤は、目的に応じて適宜、単独又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0111】
(染料)
ラテックスインクに含まれる着色剤としての染料の例を具体的に示すと、酸性染料及び食用染料としては、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142;C.I.アシッドレッド1,8,13,14,18,26,27,35,37,42,52,82,87,89,92,97,106,111,114,115,134,186,249,254,289;C.I.アシッドブルー9,29,45,92,249;C.I.アシッドブラック1,2,7,24,26,94;C.I.フードイエロー3,4;C.I.フードレッド7,9,14;C.I.フードブラック1,2等が挙げられる。
【0112】
直接性染料としては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,26,33,44,50,86,120,132,142,144;C.I.ダイレクトレッド1,4,9,13,17,20,28,31,39,80,81,83,89,225,227;C.I.ダイレクトオレンジ26,29,62,102;C.I.ダイレクトブルー1,2,6,15,22,25,71,76,79,86,87,90,98,163,165,199,202;C.I.ダイレクトブラック19,22,32,38,51,56,71,74,75,77,154,168,171等が挙げられる。
【0113】
塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシックイエロー1,2,11,13,14,15,19,21,23,24,25,28,29,32,36,40,41,45,49,51,53,63,64,65,67,70,73,77,87,91;C.I.ベーシックレッド2,12,13,14,15,18,22,23,24,27,29,35,36,38,39,46,49,51,52,54,59,68,69,70,73,78,82,102,104,109,112;C.I.ベーシックブルー1,3,5,7,9,21,22,26,35,41,45,47,54,62,65,66,67,69,75,77,78,89,92,93,105,117,120,122,1
24,129,137,141,147,155;C.I.ベーシックブラック2,8等が挙げられる。
【0114】
反応性染料としては、例えば、C.I.リアクティブブラック3,4,7,11,12,17;C.I.リアクティブイエロー1,5,11,13,14,20,21,22,25,40,47,51,55,65,67;C.I.リアクティブレッド1,14,17,25,26,32,37,44,46,55,60,66,74,79,96,97;C.I.リアクティブブルー1,2,7,14,15,23,32,35,38,41,63,80,95等が挙げられる。
【0115】
ラテックスインクに含まれる着色剤として、上述した顔料及び染料は、印刷の目的等に応じて適宜選択することが可能であり、また、上述した顔料及び染料を、単独又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0116】
〔バインダ樹脂〕
ラテックスインクに含まれるバインダ樹脂は、コア部(内部)と当該コア部を覆うシェル部(表面)とにより構成されたコア・シェル構造を有しており、シェル部の最低造膜温度(MFT)が0℃以下である。これにより、表面温度が40℃以上、60℃以下になるように加熱されたメディア30上において、ラテックスインクの乾燥及び融着を速やかに開始させることができる。
【0117】
また、バインダ樹脂は、シェル部の最低造膜温度とコア部の最低造膜温度とが異なっていてもよい。
【0118】
これにより、バインダ樹脂のシェル部とコア部との乾燥及び融着のタイミングをずらし、機能分離効果を得ることができる。例えば、プリヒータ40及びプリントヒータ70により適切に加熱されたメディア30上において、バインダ樹脂のシェル部を乾燥及び融着させた後、バインダ樹脂のコア部は、例えば、インク着弾後の被記録媒体を乾燥させる乾燥手段150により乾燥及び融着させるように構成してもよい。
【0119】
従来のインクジェットプリンタにおいてインクを乾燥させるときの温度は、通常80℃程度に設定されているが、ラテックスインクの乾燥温度は、実際には、50〜60℃程度と想定される。バインダ樹脂のシェル部とコア部とを別々に乾燥及び融着させることによって、プリントヘッドのインク吐出面に対向する位置におけるプリントヒータ70による加熱温度を、インク詰まりを回避できる温度にしたとしても、プリヒータ40や、例えば乾燥手段等により、ラテックスインクの乾燥及び定着を確実に行うことができる。
【0120】
バインダ樹脂は、シェル部の最低造膜温度とコア部の最低造膜温度とを異ならせる他の理由は、バインダ樹脂の保存安定性がより安定することである。具体的には、最低造膜温度(MFT)(以下、単に「MFT」という。)の異なる両相、高MFT相と低MFT相とのそれぞれの特性を活かし、インクにおける定着性と保存性とのバランスをとりながら、定着性及び保存性の双方を特に高めることができる。また、このような構成のバインダ樹脂を含む本発明に係るラテックスインクは、信頼性、滲み等の印字品質、耐擦性及び吐出安定性についても良好なものである。
【0121】
また、シェル部のMFTが低いことにより、吐出され、着弾した後、直ちに造膜するため、高速な印刷にも対応できる。
【0122】
シェル部のMFTはコア部のMFTより低くければよいが、0℃以下であることがより好ましい。MFTが0℃以下のシェル部(以下、「低MFT相」ともいう。)は、常温で膜化することで、インク着弾時の定着性を高めることができる。低MFT相のMFTは0℃以下であればよいが、その効果をより高めるために、−20℃以上0℃以下であることが好ましい。
【0123】
また、コア部のMFTはシェル部のMFTより高ければよいが、10℃以上であることがより好ましい。MFTが10℃以上のコア部(以下、「高MFT相」ともいう。)は、メディア30上でバインダ樹脂粒子が広がりやすく、着色剤である顔料を被記録媒体上に定着させやすい。また、画像形成された画像支持体を特に加熱又は乾燥などの処理を行なうことなく、紙繊維の結着が自動的に進行することからも好ましい。高MFT相のMFTはこのように10℃以上であることが好ましいが、その効果をより高めるためには、20℃以上であることがさらに好ましい。
【0124】
ここで「最低造膜温度(MFT)」とは、バインダ樹脂を水に分散させて得られた水性エマルションを、アルミニウムなどの金属板の上に薄く流延し、温度を上げていったときに透明な連続フィルムの形成される最低温度として定義される。
【0125】
具体的には、MFTは、「造膜温度試験装置」(株式会社井元製作所製)、「TP−801 MFTテスター」(テスター産業株式会社製)等のMFT測定装置で測定される値である。また、JIS K6828−1996で示される測定方法でも測定できる。また、MFTは、例えば、バインダ樹脂の粒子のTg(ガラス転移点)をコントロールすること、特にバインダ樹脂の粒子が共重合体である場合には、該共重合体を形成するモノマーの割合(添加比率)等を変えること等により調整することができる。さらに、低MFTのバインダ樹脂の粒子を調製するために、高MFTのバインダ樹脂の粒子に造膜助剤を添加することもできる。これは、造膜助剤の添加により、バインダ樹脂の粒子の膜化温度、即ちMFTを低下させることができるためである。
【0126】
バインダ樹脂の例としては、例えば、「ポリマーエマルション」の粒子が挙げられる。「ポリマーエマルション」とは、連続相を水系とする溶媒中に、界面活性剤の存在下で、ポリマーが独立相として分散又は乳濁しているエマルションをいう。ポリマーエマルションは、エチレン性不飽和モノマーを乳化重合してなるポリマーのエマルションである。分散安定性の観点から、ポリマーエマルションはビニルポリマーエマルションであることが好ましい。これらのポリマーエマルション中のポリマーは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0127】
ポリマーエマルションのポリマーは、メディアに印刷した際に速乾性を向上させる観点から下記式(1)で表される構成単位を有するものであることがより好ましい。
【0128】
−CH
2−C(R
1)(COO−R
2−)− ・・・(1)
式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示す。R
2は、置換基を有していてもよい、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、さらに好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基、又は、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリール基を示す。置換基には、ヘテロ原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子が挙げられる。
【0129】
R
2の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基(フェニルエチル基)、フェノキシエチル基、ジフェニルメチル基、トリチル基等が挙げられる。
【0130】
置換基の具体例としては、好ましくは炭素数1〜9の、アルキル基、アルコキシ基若しくはアシロキシ基、水酸基、エーテル基、エステル基又はニトロ基等が挙げられる。
【0131】
式(1)で表される構成単位としては、高光沢性を発現させる観点から、特にベンジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位が好ましい。
【0132】
式(1)で表される構成単位は、下記式(1−1)で表されるモノマーを重合することによって得ることが好ましい。
【0133】
CH
2=CR
1COOR
2 ・・(1−1)
(式(1−1)中、R
1及びR
2は、前記式(1)と同一である。)
具体的には、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1−ナフタリルアクリレート、2−ナフタリル(メタ)アクリレート、フタルイミドメチル(メタ)アクリレート、p−ニトロフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸等を重合することで、式(1)で表される構成単位を有するポリマーを合成することができる。これらの中では、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。これら(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0134】
なお、本明細書にいう「(メタ)アクリ」とは、「アクリ」、「メタクリ」又はそれらの混合物を意味する。
【0135】
ラテックスインクに含まれるバインダ樹脂の好ましいモノマー構成について詳細に述べる。
【0136】
バインダ樹脂は、(b)マクロモノマー由来の構成単位、(c)疎水性モノマー由来の構成単位、(d)水酸基含有モノマー由来の構成単位、(e)オキシアルキレン基含有モノマー由来の構成単位を含むことが特に好ましい。
【0137】
(a)塩生成基含有モノマー由来の構成単位、(b)マクロモノマー由来の構成単位、(c)疎水性モノマー由来の構成単位、(d)水酸基含有モノマー由来の構成単位、(e)オキシアルキレン基含有モノマー由来の構成単位については、単独で含まれてもよいが、(a)〜(e)のうち、複数種類を含むことが好ましく、全種類を含むことがより好ましい。
【0138】
バインダ樹脂は、(a)塩生成基含有モノマー由来の構成単位を含むことがより好ましい。これにより、ポリマーの分散性を向上させることができる。(a)塩生成基含有モノマーに由来する構成単位は、塩生成基含有モノマーを重合することにより得ることができるが、ポリマーの重合後、ポリマー鎖に塩生成基(アニオン性基又はカチオン性基)を導入してもよい。塩生成基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などのアニオン性基、アミノ基、アンモニウム基等のカチオン性基が挙げられる。
【0139】
(a)塩生成基含有モノマーとしては、(a−1)アニオン性モノマー及び(a−2)カチオン性モノマーがより好ましい。
【0140】
(a−1)アニオン性モノマーとしては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0141】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
【0142】
不飽和スルホン酸モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
【0143】
不飽和リン酸モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0144】
(a−1)アニオン性モノマーの中では、インク粘度及び吐出性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0145】
(a−2)カチオン性モノマーとしては、不飽和3級アミン含有ビニルモノマー、不飽和アンモニウム塩含有ビニルモノマー等が挙げられる。
【0146】
不飽和3級アミン含有モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられる。
【0147】
不飽和アンモニウム塩含有モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ) アクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート四級化物等が挙げられる。
【0148】
(a−2)カチオン性モノマーの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ) アクリレート、N−N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンがより好ましい。
【0149】
上記(a)塩生成基含有モノマーは、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0150】
バインダ樹脂は、(b)マクロモノマー由来の構成単位を含むことがより好ましい。(b)マクロモノマー由来の構成単位は、保存安定性、耐擦過性を向上させる観点から用いられ、片末端に重合性官能基を有するマクロモノマーを重合することにより得ることができる。
【0151】
(b)マクロモノマーの中でも、(b−1)片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロモノマー、(b−2)片末端に重合性官能基を有するアルキル(メタ)アクリレート系マクロモノマー、(b−3)片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロモノマーがより好ましい。片末端に存在する重合性官能基は、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、これらを共重合させることで、マクロモノマー由来の構成単位を有するポリマーを得ることができる。
【0152】
(b−1)片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体、及び片末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。当該他のモノマーとしては、例えば、(i)アクリロニトリル、(ii)炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18の、ヒドロキシ基を有していてもよい、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(iii)スチレン以外の芳香環含有モノマー等が挙げられる。
【0153】
(ii)(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0154】
なお、本明細書にいう「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、「イソ」又は「ターシャリー」で表される枝分かれ構造が存在している場合と存在しない場合(ノルマル)の両者を示すものである。
【0155】
また、(iii)スチレン以外の芳香環含有モノマーとしては、例えば、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等の炭素数6〜22の芳香環を有するビニルモノマーが挙げられる。
【0156】
(b−1)スチレン系マクロモノマーにおける、スチレン由来の構成単位の含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。商業的に入手し得る(b−1)スチレン系マクロモノマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の製品名、AS−6、AS−6S、AN−6、AN−6S、HS−6、HS−6S等が挙げられる。
【0157】
(b−2)片末端に重合性官能基を有するアルキル(メタ)アクリレート系マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有するアルキル(メタ)アクリレート単独重合体、及び片末端に重合性官能基を有する、アルキル(メタ)アクリレートと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。好ましくは炭素数1〜8のアルキル(メタ)アクリレート系マクロモノマーであり、例えばメチルメタクリレート系マクロモノマー、ブチルアクリレート系マクロモノマー、イソブチルメタクリレート系マクロモノマー等が挙げられる。
【0158】
(b−3)片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロモノマーは、好ましくは下記式(2)で表されるマクロモノマーである。
【0159】
CH
2=C(CH
3)−COOC
3H
6−〔Si(CH
3)
2O〕t−Si(CH
3)
3 ・・・(2)
(式(2)中、tは8〜40の数を示す)。
【0160】
(b)マクロモノマーの数平均分子量は、分散安定性を高めるために共重合比を高めつつ、粘度を低く抑えるという観点から、1,000〜10,000が好ましく、2,000〜8,000がさらに好ましい。
【0161】
上記マクロモノマーの数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用い、50mmol/Lの酢酸を含有するテトラヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定したときの値である。
【0162】
上記(b)マクロモノマーは、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0163】
バインダ樹脂は、(c)疎水性モノマー由来の構成単位を含むことがより好ましい。
【0164】
(c)疎水性モノマーに由来する構成単位は、例えば、保存安定性及び耐擦過性の観点から用いられ、疎水性モノマーを重合することにより得ることができるが、ポリマーの重合後、ポリマー鎖に疎水性モノマーを導入してもよい。
【0165】
(c)疎水性モノマーとしては、(c−1)炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリレート又は(c−2)下記式(3)で表される芳香族基含有モノマーが好ましい。
【0166】
CH
2=C(R
3)−R
4 ・・・(3)
(式中、R
3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、R
4は炭素数6〜22の芳香族基含有炭化水素基を示す。)
(c−1)炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0167】
(c−2)上記式(4)で表される芳香族基含有モノマーとしては、耐擦過性の観点から、スチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレンから選ばれた一種以上が好ましい。これらの中では、耐擦過性及び保存安定性の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンがより好ましい。
【0168】
上記(c)疎水性モノマーは、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0169】
バインダ樹脂は、(d)水酸基含有モノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。
【0170】
(d)水酸基含有モノマー由来の構成単位を含むことによって、バインダ樹脂の分散安定性を高め、また印字した際に短時間で耐マーカー性を向上させることができる。(d)水酸基含有モノマー由来の構成単位は、水酸基含有モノマーを重合することにより得ることができる。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート2−エチルヘキシルエーテル等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート2−エチルヘキシルエーテル、ポリプロピレングリコールメタクリレートがより好ましい。
【0171】
上記(d)水酸基含有モノマーは、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0172】
バインダ樹脂は、(e)オキシアルキレン基含有モノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。
【0173】
(e)オキシアルキレン基含有モノマーとしては、例えば、下記式(4)で表されるモノマーが挙げられる。
【0174】
CH
2=C(R
5)COO(R
6O)pR
7 ・・・(4)
(式(4)中、R
5は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、R
6はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R
7はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは平均付加モル数を示し、1〜60、好ましくは1〜30の数である。)
バインダ樹脂が、(e)オキシアルキレン基含有モノマー由来の構成単位を含むことによって、水性インクの吐出安定性を高めることができる。(e)オキシアルキレン基含有モノマー由来の構成単位は、上記式(4)で表されるモノマーを重合することにより得ることができる。
【0175】
式(4)において、R
6又はR
7が有してもよいヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子又は硫黄原子が挙げられる。
【0176】
R
6又はR
7で示される基の代表例としては、炭素数6〜30の芳香族基、炭素数3〜30のヘテロ環基、炭素数1〜30のアルキレン基等が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。これらの基は2種類以上を組み合わせたものであってもよい。置換基としては、芳香族基、ヘテロ環基、アルキル基、ハロゲン原子、アミノ基等が挙げられる。
【0177】
R
6としては、炭素数1〜24の置換基を有していてもよいフェニレン基、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキレン基、芳香環を有する炭素数7〜30のアルキレン基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキレン基が好ましく挙げられる。R
6O基の特に好ましい具体例としては、オキシエチレン基、オキシ(イソ)プロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基又はこれらオキシアルキレンの1種以上からなる炭素数2〜7のオキシアルキレン基やオキシフェニレン基が挙げられる。
【0178】
R
7としては、フェニル基、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、芳香環を有する炭素数7〜30のアルキル基又はヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基が好ましく挙げられる。R
7のより好ましい例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、(イソ)ブチル基、(イソ)ペンチル基、(イソ)ヘキシル基、(イソ)オクチル基、(イソ)デシル基、(イソ)ドデシル基等の炭素数1〜12のアルキル基、及びフェニル基等が挙げられる。
【0179】
(e)オキシアルキレン基含有モノマーの具体例としては、メトキシポリエチレングリコール式(4)におけるpが1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(p=1〜30、その中のエチレングリコール部分は1〜29)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(p=1〜30、その中のエチレングリコール部分は1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(p=1〜30、その中のエチレングリコール部分は1〜29)(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0180】
上記(d)オキシアルキレン基含有モノマーは、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる
ラテックスインクに含まれるバインダ樹脂は、前記の式(1−1)で表されるモノマーを含有し、好ましくは塩生成基含有モノマー(a)をさらに含む。また、バインダ樹脂は、より好ましくはマクロモノマー(b)をさらに含む。さらに、最も好ましくは疎水性モノマー(c)をさらに含む。また、バインダ樹脂は、水酸基含有モノマー(d)及びオキシアルキレン基含有モノマー(e)からなる群から選ばれる1種以上のモノマーを含有するモノマー混合物(以下、「モノマー混合物」という)を共重合して得られるものであることが好ましい。
【0181】
モノマー混合物における前記式(1−1)で表されるモノマー含有量、又は、ポリマーにおける前記式(1)で表される構成単位の含有量は、インクの耐擦過性と光沢性の向上、及び分散安定性の観点から、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは25〜80重量%、特に好ましくは25〜75重量%である。
【0182】
モノマー混合物における(a)塩生成基含有モノマーの含有量(未中和量としての含有量。以下、塩生成基含有モノマーについて未中和量として計算する。)、又は、ポリマーにおける(a)塩生成基含有モノマーに由来する構成単位の含有量は、インクの印字濃度、光沢性の向上、及び、良好な分散安定性の観点から、好ましくは3〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%、特に好ましくは5〜20重量%である。
【0183】
[式(1)で表される構成単位/(a)塩生成基含有モノマー由来の構成単位]の重量比は、ポリマーの分散性及び光沢性を向上させる観点から、好ましくは10/1〜1/1、さらに好ましくは5/1〜1/1である。
【0184】
シリコーン系、又は、スチレン系マクロモノマーを含んだバインダ樹脂は、一般に分散安定性に優れる。これは単一モノマーを重合した場合は側鎖がランダムに配向する可能性が高いのに比べて、マクロモノマーの場合は、側鎖が同一形態に配向する可能性が高いという分子構造上の理由によるものと考えられる。
【0185】
モノマー混合物における(b)マクロモノマーの含有量、又は、ポリマーにおける(b)マクロモノマーに由来する構成単位の含有量は、インクの保存安定性及び耐擦過性の観点から、好ましくは0〜50重量%、さらに好ましくは5〜35重量%、特に好ましくは5〜30重量%である。(b)マクロモノマーがシリコーン系マクロモノマー又はスチレン系マクロモノマーである場合、特に当該(b)マクロモノマーの含有量はバインダ樹脂を構成するモノマー混合物全量に対して、30重量%以下であることがより好ましい。マクロモノマーの含有量が30重量%以下であることが好ましい理由は、バインダ樹脂には、分散安定性以外に、インクの造膜性、密着性、耐擦性、光沢性、反応性、保存安定性等、種々の機能が要求され、各々の機能は配合されるモノマーに依存するからである。他のモノマーにおける機能の実現を考えた場合に、マクロモノマーの含有量は30重量%以下が好ましい。
【0186】
[式(1)で表される構成単位/(b)マクロモノマー由来の構成単位]の重量比は、ポリマーの保存安定性、耐擦過性及び光沢性を向上させる観点から、好ましくは10/1〜1/1、更に好ましくは5/1〜1/1である。
【0187】
モノマー混合物における(c)疎水性モノマーの含有量、又は、ポリマーにおける(c)疎水性モノマーに由来する構成単位の含有量は、インクの保存安定性及び耐擦過性の観点から、好ましくは0〜40重量%、さらに好ましくは0〜20重量%である。
【0188】
モノマー混合物における(d)水酸基含有モノマーの含有量、又は、ポリマーにおける(d)水酸基含有モノマーに由来する構成単位の含有量は、インクに対する分散安定性の観点から、好ましくは0〜40重量%、さらに好ましくは0〜20重量%である。
【0189】
モノマー混合物における(e)オキシアルキレン基含有モノマーの含有量、又は、ポリマーにおける(e)オキシアルキレン基含有モノマーに由来する構成単位の含有量は、インクの吐出安定性の観点から、好ましくは0〜50重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。
【0190】
バインダ樹脂が塩生成基を有する場合、塩生成基含有モノマー由来の塩生成基を、後述する中和剤により中和して用いる。塩生成基の中和度は、好ましくは10〜200%、より好ましくは20〜150%、特に好ましくは50〜150%である。
【0191】
中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
【0192】
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合、中和度は、下記式によって求めることができる。
【0193】
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価(HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]}×100
酸価及びアミン価は、水不溶性ビニルポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。または、適当な溶媒(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0194】
バインダ樹脂の重量平均分子量は、インクの光沢性の観点から5,000〜500,000が好ましく、10,000〜400,000がさらに好ましく、10,000〜300,000が特に好ましい。
【0195】
なお、バインダ樹脂の重量平均分子量は、溶媒として60mmol/Lのリン酸及び50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0196】
バインダ樹脂の粒子の平均粒径は、ラテックスインク中において0.16μm以下であることが好ましい。
【0197】
また、ラテックスインクにおけるバインダ樹脂の含有量は、ラテックスインク全量において固形分で8〜20重量%が好ましく、8〜12重量%がより好ましい。
【0198】
バインダ樹脂は、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性塩化ビニル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の水分散性樹脂を含むことがより好ましい。これにより、水及び水溶性有機溶媒に対するバインダ樹脂の分散性が向上する。
【0199】
市販のバインダ樹脂製品としては、例えば、ウレタンディスパージョンではスーパーフレックス470(NV38%,第一工業製薬株式会社製)、ポリウレタンディスパージョンではスーパーフレックス126(固形分30%,第一工業製薬株式会社製)、ポリエステルエマルションではエリーテルKA-5071S(固形分30%,ユニチカ社製)、水性アクリル樹脂ではジョンクリル63(固形分30%,BASF社製)、スチレンアクリル系エマルション(固形分46%,BASF社製)が挙げられる。また、塩化ビニル−酢酸ビニル共重体ではソルバインCL(日信化学社製)などが実用化されている。
【0200】
バインダ樹脂は、乳化重合ポリマーであってもよい。乳化重合ポリマーは、界面活性剤及び/又は反応性界面活性剤の存在下、前記式(1−1)で表されるモノマーを含有し、さらに、必要により(a)塩生成基含有モノマー、(b)マクロモノマー、(c)疎水性モノマー、(d)水酸基含有モノマー、及び/又は(e)オキシアルキレン基含有モノマーを含有するモノマー混合物を常法により乳化重合して得られるポリマーである。
【0201】
反応性界面活性剤は、分子内にラジカル重合可能な不飽和2重結合を1個以上有し、優れたモノマー乳化性を有しているため、安定性に優れた水分散体の製造に有用である。
【0202】
反応性界面活性剤としては、炭素数8〜30、好ましくは12〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基等の疎水性基のうちの少なくともいずれか1個と、イオン性基、オキシアルキレン基等の親水性基のうちの少なくともいずれか1個とを有する、アニオン性又はノニオン性のものが好ましい。
【0203】
反応性界面活性剤の具体例としては、例えば、スルホコハク酸エステル系ではラテムルS−120P、S−180A(花王株式会社製)、及びエレミノールJS−2(三洋化成株式会社製)等が挙げられる。また、アルキルフェノールエーテル系ではアクアロンHS−10及びRN−20(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0204】
このようにして得られる乳化重合ポリマー(コア部)のD50(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積50%の値)は、水分散体の保存安定性、光沢性、耐擦過性の観点から、500nm以下が好ましく、300nm以下が更に好ましく、100nm以下が特に好ましい。また、製造の容易性から、その下限は10nm以上が好ましく、20nm以上がさらに好ましい。つまり、これらの観点から、10〜500nmが好ましく、50〜300nmが更に好ましく、特に60〜250nmであることが好ましい。このうち、コア部は50〜200nmであることが好ましい。その理由として、反応性と共に製膜性が要求されるため、コア部分に対しシェル部分が薄い方が好ましいからである。
【0205】
また乳化重合ポリマーのD90(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積90%の値)は、粗大粒子を減らして分散体の保存安定性を高める観点から、2000nm以下が好ましく、1000nm以下がさらに好ましく、500nm以下が特に好ましい。また、製造の容易性から、その下限は20nm以上が好ましく、50nm以上がさらに好ましい。
【0206】
なお、D50及びD90については、レーザー粒子解析システムELS−8000(大塚電子株式会社製)を用いて測定できる。
【0207】
ラテックスインクは、さらに、浸透剤を含んでもよい。浸透剤としては、例えばポリオールが挙げられ、炭素数7以上、11以下のポリオールがより好ましく、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール及び2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールがさらに好ましい。
【0208】
ラテックスインクに含まれる浸透剤の含有量は好ましくは0.1重量%〜20重量%、より好ましくは0.1重量%〜10重量%、さらに好ましくは0.1重量%〜7重量%、特に好ましくは0.5重量%〜10重量%の範囲である。浸透剤の含有量が0.1重量%以上であれば、メディア30への浸透性が上昇し、搬送時にコロで擦られて汚れが発生したり、印字のために搬送させる際、搬送ベルトにインクを付着させて汚れが発生したりすることを抑え、より高速な印字に対応できる。また、浸透剤の含有量が20重量%以下であれば、印字ドット径を小さくすることができ、文字の線幅が細くなり、画像鮮明度が向上する。
【0209】
また、ラテックスインクにおいて、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール又は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールとバインダ樹脂との重量配合比率が、1対1〜1対5であることがより好ましい。2−エチル−1,3−ヘキサンジオール又は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールは、水への溶解度が8重量%以下の油状物質である。そのため、バインダ樹脂との配合割合に制限がある。好ましい配合割合は、1対1から1対5であり、バインダ樹脂の割合と同等または同等以上が好ましい。
【0210】
浸透剤は、増粘剤としての作用がある。浸透剤は、水への溶解度が低いため、溶解度限度までの含有量で添加すると、水分蒸発に伴い急激に油成分として析出する。油成分の析出に伴い、ラテックスインク中のバインダ樹脂などの着色剤以外の成分の析出を促進し、急激にインクのゲル化が起こる。
【0211】
ラテックスインクは、これまで説明した成分以外の添加剤として防黴剤、防錆剤、pH調整剤、湿潤剤、界面活性剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性赤外線吸収剤等の成分をさらに含有してもよい。
【0212】
防黴剤としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン3−オンが挙げられる。ラテックスインクが防黴剤を含むことによって、保存安定性及び吐出安定性等の信頼性を確保しつつ、防黴効果に優れるインクが提供できる。特に上述した湿潤剤との組み合わせにおいては従来は菌や黴の発生を抑制することが難しいとされていた含有量であっても、十分に効果を発揮させることがでる。
【0213】
さらに、1,2−ベンズイソチアゾリン3−オンの含有量を抑制することによって、粒子の凝集やインクの増粘といった現象を防止することができる。従って、長期間に渡ってインクの性能を発揮させることが可能になる。ラテックスインクが、防黴剤として1,2−ベンズイソチアゾリン3−オンを含有する場合、その含有量は有効成分量としてインク全量の0.01〜0.04重量部であることが好ましい。含有量が0.01重量部以上であれば、十分な防黴効果が得られる。含有量が0.04重量部下であれば、インクを長期間(例えば、室温の場合で2年、50〜60℃の場合で1〜3ヶ月)保管したときの粒子の凝集を抑制できる。また、インク粘度が初期粘度から50%〜100%増になるという問題を解消し、長期保存安定性が向上する。そのため、初期のプリント性能をより長期間維持できる。
【0214】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響をおよぼさずにpHを7以上に調整できるものであれば、任意の物質を使用することができる。
【0215】
その例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等の他アミノプロパンジオール誘導体を挙げることができる。アミノプロパンジオール誘導体は水溶性の有機塩基性化合物であり、例えば、1−アミノ−2,3−プロパンジオール、1−メチルアミノ−2,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ
−2−エチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられ、特に2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールが好ましい例として挙げられる。
【0216】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が挙げられる。
【0217】
界面活性剤としては、例えばポリアルキレングリコール界面活性剤が挙げられる。ポリアルキレングリコール界面活性剤は、エチレンオキサイド付加物であり、水溶性を維持できる範囲で、エチレンオキサイドの一部をプロピレンオキサイドあるいはブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドに置換したものも有効である。置換率は50%以下が好ましい。また、ポリアルキレングリコール界面活性剤のHLB(親水性親油性比)は13〜19がより好ましい。当該範囲内にHLBを調整することで分散性がより向上する。
【0218】
ラテックスインクは、溶媒、着色剤及びバインダ樹脂として、上述したような材料を選択し、それぞれ混合することにより得ることができる。上記材料を混合する順序については、特に限定されない。各材料を混合するときの混合液の温度は、5〜50℃であることが好ましい。
【0219】
ラテックスインクは必要に応じて、湿潤剤、分散剤、消泡剤、防黴剤、キレート剤等の添加剤をさらに含有することができる。これらの各成分の混合方法に特に制限はない。
【0220】
ラテックスインク中において、着色剤に対するバインダ樹脂の重量比[バインダ樹脂/着色剤]は、インクの高印字濃度、耐擦過性、光沢性等の観点から、1/10〜10/1が好ましく、1/5〜5/1が更に好ましく、1/3〜3/1が特に好ましく、1/2〜2/1が最も好ましい。
【0221】
ラテックスインクの好ましい表面張力(20℃)は、水分散体(着色剤の分散体)としては、好ましくは30〜70mN/m、更に好ましくは35〜68mN/mであり、インクとしては、好ましくは25〜50mN/m、更に好ましくは27〜45mN/mである。
【0222】
水分散体の固形分10重量%における粘度(20℃)は、インクとした時に良好な粘度とするために、2〜6mPa・sが好ましく、2〜5mPa・sがさらに好ましい。また、ラテックスインクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、2〜12mPa・sが好ましく、2.5〜10mPa・sが更に好ましい。また、ラテックスインクのpHは4〜10が好ましい。
【0223】
<付記事項>
上記課題を解決するために、本発明に係る印刷方法は、プリントヘッド14と、メディア30とプリントヘッド14との位置を相対的に移動させる駆動手段と、上記プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に設けられ、上記駆動手段によって当該位置に配置されたメディア30を、当該メディア30のインク着弾面に背向する面側から加熱するプリントヒータ70と、上記メディア30が、上記プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に配置されるよりも前の位置で、当該メディア30を、そのインク着弾面に背向する面側から加熱する予備加熱手段とを備えたインクジェットプリンタ1を用いて、メディア30を印刷する印刷方法であって、上記メディア30のインク着弾面の表面温度が40℃以上、60℃以下になるように、上記プリントヒータ70及び上記プリヒータ40により上記メディア30を加熱し、上記プリントヘッド14から吐出するインクとして、溶媒、着色剤及びバインダ樹脂を含み、当該バインダ樹脂が当該溶媒に分散又は乳濁しているインクであって、当該バインダ樹脂の表面の最低造膜温度が0℃以下であるインクを用いる。
【0224】
上記の構成によれば、インクジェットプリンタ1を用いて、メディア30を印刷する。インクジェットプリンタ1においては、駆動手段により、プリントヘッド14とメディア30とを相対的に移動させることによって、メディア30の所望の位置に印刷する。印刷時には、まず、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置よりも前の位置において、そのインク着弾面に背向する面側からメディア30をプリヒータ40により加熱する。次に、プリヒータ40により加熱したメディア30を、駆動手段によりプリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に搬送する。搬送したメディア30を、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に設けられたプリントヒータ70により、そのインク着弾面に背向する面側から加熱する。そして、プリントヒータ70及びプリヒータ40によるメディア30の加熱は、メディア30のインク着弾面の表面温度が40℃以上、60℃以下になるように行う。
【0225】
また、プリントヘッド14から吐出するインクとしては、溶媒、着色剤及びバインダ樹脂を含み、当該バインダ樹脂が当該溶媒に分散又は乳濁しているインク(以下、ラテックスインクという)であって、当該バインダ樹脂の表面の最低造膜温度が0℃以下であるインクを用いる。このようなインクは、環境特性及びメディア特性に特に優れている。
【0226】
このように、プリヒータ40とプリントヒータ70とにより、その表面温度が40℃以上、60℃以下となるように加熱されたメディア30の表面に、プリントヘッド14のノズルから噴射されたラテックスインクのインク滴を着弾させることができる。したがって、当該インク滴を、その着弾箇所周囲のメディア30上に広く拡散させることなく、着弾箇所にドット状に定着させた状態のまま、時間をおかずに素早く乾燥及び定着させることができる。そして、そのメディア30の表面に複数のラテックスインクのドット配列からなる、滲みのない鮮明な絵図や文字を印刷することが可能である。
【0227】
ここで、メディア30の表面温度を40℃以上に加熱することにより、メディア30の表面に着弾したラテックスインク滴がメディア30から受ける加熱温度を十分なものとすることができる。また、メディア30の表面温度を60℃以下に加熱することにより、耐熱性の低い塩化ビニル系等のフィルムをメディア30として使用した場合でも、メディア30に熱によるダメージを与えることがなく、駆動手段によってプラテンの上を円滑に搬送させることができる。したがって、本発明によれば、耐熱性の低いメディア30から耐熱性の高いメディア30までのほぼ全てのメディア30を適用することができる。このように、メディア30を、その表面温度が40℃以上、60℃以下になるように加熱する理由は、本発明に係るインクジェットプリンタ1により、ラテックスインクを用いて、各種のメディア30の表面に絵図や文字を実際に印刷した実験結果に基づいて、本発明者らが鋭意検討して導き出したものである。
【0228】
また、本発明において使用するラテックスインクに含まれるバインダ樹脂は、内部に位置するコア部と、表面に位置するシェル部とにより構成されたコア・シェル構造を有している。そして、当該バインダ樹脂の表面の最低造膜温度(MFT)は0℃以下であるため、表面温度が40℃以上、60℃以下になるように加熱されたメディア30上において、ラテックスインクの乾燥及び融着を速やかに開始させることができる。
【0229】
さらに、プリヒータ40とプリントヒータ70とにより二段階に加熱して、最終的にインク着弾時のメディア30の表面温度を、ラテックスインクの乾燥及び融着に適した40℃以上、60℃以下にする。したがって、メディア30の厚みや、インクジェットプリンタ1が置かれた周囲温度等の影響により、プリントヒータ70のみでは、メディア30を適温まで十分に加熱できない場合であっても、プリヒータ40によりある程度の温度まで予め加熱しておくことによって、インク着弾時にメディア30の表面を所望の温度にまで加熱することができる。
【0230】
また、プリントヒータ70は、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に配置されているので、プリントヒータ70のみでメディア30の表面を40℃以上、60℃以下になるように加熱すると、プリントヒータ70からの発熱によりプリントヘッド14の細径のノズル内でインクが固化して目詰まりが生じるという問題がある。本発明によれば、プリヒータ40とプリントヒータ70とにより二段階に加熱して、インク着弾時のメディア30の表面温度を40℃以上、60℃以下になるようにするので、例えば、プリヒータ40によりある程度の温度まで予め加熱しておくことによって、プリントヒータ70を高温で発熱させなくても、メディア30の表面を所望の温度にまで加熱することができる。したがって、プリントヒータ70からの発熱によりプリントヘッド14のノズル内でインクが固化して目詰まりが生じることを防ぐことができる。
【0231】
本発明によれば、高い環境特性及びメディア特性が要求される屋外ディスプレイ広告用や産業用に使用されるメディア30に対してでも、印刷される絵図や文字の高画質性と定着安定性とを実現することができる。
【0232】
本発明に係る印刷方法において、バインダ樹脂は、表面と内部とで最低造膜温度が異なるようにする。
【0233】
上記の構成によれば、バインダ樹脂のコア・シェル構造の表面と内部とにおいて、最低造膜温度をそれぞれ異ならせることによって、バインダ樹脂の表面と内部との乾燥及び融着のタイミングをずらし、機能分離効果を得ることができる。例えば、プリヒータ40及びプリントヒータ70により適切に加熱されたメディア30上において、バインダ樹脂の表面を乾燥及び融着させた後、バインダ樹脂の内部は、例えば、インク着弾後のメディア30を乾燥させる乾燥手段により乾燥及び融着させるように構成してもよい。
【0234】
従来のインクジェットプリンタ1においてインクを乾燥させるときの温度は、通常80℃程度に設定されているが、ラテックスインクの乾燥温度は、実際には、50〜60℃程度と想定される。上述したように、バインダ樹脂の表面と内部とを別々に乾燥及び融着させることによって、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置におけるプリントヒータ70による加熱温度を、インク詰まりを回避できる温度にしたとしても、プリヒータ40や、例えばアフターヒータ等により、ラテックスインクの乾燥及び定着を確実に行うことができる。
【0235】
本発明に係る印刷方法において、バインダ樹脂は、表面の最低造膜温度を内部の最低造膜温度よりも低くする。
【0236】
上記の構成によれば、ラテックスインク中のバインダ樹脂の内部の最低造膜温度が表面の最低造膜温度よりも高いので、ラテックスインクの高温での貯蔵安定性を向上する。そして、最低造膜温度の低い上記バインダ樹脂の表面が、プリヒータ40及びプリントヒータ70で加熱されたメディア30上で、速やかに乾燥及び融着し始める。これにより、メディア30に対しての拡散性(濡れ広がり)が極めて高く、インク滴がその着弾箇所周囲に早期に広く拡散する傾向にあるラテックスインクにおいて、最低造膜温度の低いバインダ樹脂の表面を、その着弾箇所にドットの滲みなく鮮明に定着させることができる。その後、例えば、アフターヒータや乾燥手段等により、最低造膜温度の高いバインダ樹脂の内部を十分に乾燥及び融着させることによりメディア30の搬送方向に従って、メディア30上に着弾したラテックスインクを順次乾燥、融着、定着させることができる。
【0237】
本発明に係る印刷方法において、上記溶媒は、水及び親水性溶媒の少なくとも一方であり、ラテックスインクは、上記溶媒を、ラテックスインクの全重量に対して50重量%以上含む。
【0238】
上記の構成によれば、ラテックスインクにおける水及び親水性溶媒の少なくとも一方の含有量が高いことによって、インクの環境負荷を低減することができる。
【0239】
本発明に係る印刷方法において、上記プリントヒータ70による上記メディア30の加熱温度と、上記プリヒータ40による上記メディア30の加熱温度とは、異なる温度に制御する。
【0240】
上記構成によれば、搬送中のメディア30の温度を、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置、及び、当該位置よりも前の位置のそれぞれにおいて、別々に制御することができる。したがって、それぞれの位置におけるメディア30を、その種類や厚さ、プリンタが置かれた周囲の温度等に応じて、精確に調整することができる。したがって、プリントヘッド14のインク吐出面から噴射されたインク滴が着弾したときのメディア30の表面部分における温度を、40℃以上、60℃以下により精確に調整することができる。
【0241】
本発明に係る印刷方法において、上記プリヒータ40は、上記メディア30のインク着弾面の表面温度を30℃以上、50℃以下に加熱し、上記プリントヒータ70により上記メディア30のインク着弾面の表面温度を40℃以上、60℃以下に加熱する。
【0242】
上記構成によれば、メディア30を、プリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に搬送する前に、プリヒータ40により、そのインク着弾面の表面温度を30℃以上、50℃以下に予備加熱する。それに続けて、予備加熱後にプリントヘッド14のインク吐出面に対向する位置に搬送したメディア30を、プリントヒータ70により、そのインク着弾面の表面温度を40℃以上、60℃以下に加熱する。これにより、メディア30にプリントヘッド14のノズルから噴射されるインク滴が着弾したとき、その表面温度が40℃以上、60℃以下となるように常に過不足なく確実に加熱することができる。
【0243】
本発明に係る印刷方法において、上記プリントヒータ70による上記メディア30の加熱温度と、上記プリヒータ40による上記メディア30の加熱温度とは、同一温度に制御する。
【0244】
上記構成によれば、プリヒータ40の温度制御とプリントヒータ70の温度制御とを同様に制御することができるので、温度制御を簡易化することができる。
【0245】
本発明に係る印刷方法において、上記メディア30として、コーティング剤が塗布されていない塩化ビニル系シート、PETシート、ターポリンシート、コート紙、並びに、コーティング処理されていないポリプロピレン樹脂、ガラス、金属、及びこれらの成型物からなる群より選択されるメディア30を用いる。
【0246】
上記の構成によれば、コーティング剤等が塗布されていない汎用のメディア30であっても、滲みのない高画質の絵図や文字を、定着安定性を持たせて印刷することができる。また、上記の構成によれば、低温で軟化するメディア30を含め、様々な種類のメディア30を、適切に加熱して常に円滑に搬送することが可能である。すなわち、耐熱性の低いメディア30から耐熱性の高いメディア30までの、種々のメディア30を支障なく搬送し、このような種々のメディア30に対して、滲みのない高画質の絵図や文字を、定着安定性を持たせて印刷することができる。
【0247】
本発明に係る印刷方法においては、インクジェットプリンタ1は、上記メディア30を加熱するプリヒータ40及びプリントヒータ70の温度制御を、プリンタ付属のオペレーションパネル又はプリンタが接続されたプリンタ制御用のホストコンピュータにより、変更調整可能に構成する。
【0248】
上記の構成によれば、プリヒータ40及びプリントヒータ70による加熱温度を、メディア30の種類や厚さ、プリンタが置かれた周囲温度等に合わせて、プリンタ付属のオペレーションパネル又はプリンタ制御用のホストコンピュータにより変更調整できる。そして、低温で軟化する等の種々のメディア30を常に円滑に搬送可能であり、このような種々のメディア30に対して、滲みのない高画質の絵図や文字を、定着安定性を持たせて印刷することができる。
【0249】
本発明に係る方法において、インクジェットプリンタ1は、上記プリントヘッド14をメンテナンスステーションに移動させて、そのプリントヘッド14のノズルからインク滴を試吐出(フラッシング)させ、そのプリントヘッド14のノズル内でラテックスインクが固化して目詰まりを起こすのを防ぐリフレッシュモード手段を備える。
【0250】
上記構成によれば、ラテックスインクを用いて絵図や文字を印刷する途中で、リフレッシュモード手段を用いて、プリントヘッド14をメンテナンスステーションに移動させて、そのプリントヘッド14のノズルからインク滴を試吐出させることができる。これにより、そのプリントヘッド14のノズル内等でラテックスインクが固化して目詰まりを起こすのを防ぐことができる。その結果、その目詰まりを起こしたプリントヘッド14を用いてメディア30表面に印刷される絵図や文字の一部にドット抜け(インクのドットが存在すべき箇所に、インクのドットが存在しない状態をいう)が生ずるのを防ぐことができる。
【0251】
本発明に係る方法において、リフレッシュモード手段を備えたインクジェットプリンタ1は、そのリフレッシュモード手段を、一定の時間毎に、プリントヘッド14をメンテナンスステーションに移動させて、そのプリントヘッド14のノズルからインク滴を試吐出させる。
【0252】
上記構成によれば、ラテックスインクを用いて絵図や文字を印刷する途中の一定時間毎に、リフレッシュモード手段を用いて、プリントヘッド14をメンテナンスステーションに移動させて、そのプリントヘッド14のノズルからインク滴を強制的に試吐出させることができる。そして、ラテックスインクを用いて絵図や文字を印刷する途中で、リフレッシュモード手段を用いて、プリントヘッド14をメンテナンスステーションに移動させるので、そのプリントヘッド14のノズルからインク滴を試吐出させるのを怠ることによって、プリントヘッド14のノズル内でラテックスインクが固化してノズルが目詰まりを起こすのを、確実に防ぐことが可能となる。
【0253】
本発明に係る方法において、インクジェットプリンタ1は、プリントヘッド14から吐出したインク滴が着弾した後のメディア30を乾燥させることによって、メディア30の表面に付着しているインク滴を、乾燥させる乾燥手段を備える。
【0254】
上記構成によれば、メディア30表面に付着している一部未乾燥状態にあるインク滴を、乾燥手段により完全に乾燥させることができる。そして、搬送後に、例えば巻き取り手段によってメディア30が巻き取られるときに、ロール状等に巻き取られたメディア30表面の着弾箇所に付着している一部未乾燥状態のインク滴が、メディア30の他の箇所に付着して当該メディア30を汚すのを防ぐことができる。
【0255】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0256】
以下、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に記載の各成分の量は重量基準である。
【0257】
<樹脂分散着色剤の作製>
〔作製例1(フタロシアニン顔料分散体)〕
C.I.ピグメントシアン15:3を150g、SOLSPERSE43000(ポリマー型分散剤,ルブリゾール社製)を3.0%、SOLSPERSE44000(ポリマー型分散剤,ルブリゾール社製)を3.0%、蒸留水738gを混合し、この混合物をプレ分散させた後、ディスクタイプのビーズミル(シンマルエンタープライゼス社KDL型、メディア:0.3mmφジルコニアボール使用)で20時間循環分散し、フタロシアニン顔料分散体(C−1)を得た。
【0258】
〔作製例2(ジメチルキナクリドン顔料分散体)〕
C.I.ピグメントシアン15:3をC.Iピグメントレッド122に変更し、SOLSPERSE43000、3.38%、SOLSPERSE44000、3.38%に変更する以外は作製例1と同じ手順を行なって、ジメチルキナクリドン顔料分散体(M−1)を得た。
【0259】
〔作製例3(モノアゾ黄色顔料分散体)〕
C.I.ピグメントシアン15:3をC.Iピグメントイエロー74に変更し、SOLSPERSE43000、1.3%、SOLSPERSE44000、1.3%に変更する以外は作製例1と同じ手順を行なって、モノアゾ黄色顔料分散体(Y−1)を得た。
【0260】
〔作製例4(カーボンブラック顔料分散体)〕
C.I.ピグメントシアン15:3をC.カーボンブラックに変更し、SOLSPERSE43000、2.3%、SOLSPERSE44000、2.3%に変更する以外は作製例1と同じ手順を行なって、カーボンブラック顔料分散体(B−1)を得た。
【0261】
<ポリマーグラフト着色剤の作製>
〔合成例1(シアン顔料分散液)〕
C.I.ピグメントイエロー128の代わりに、C.I.ピグメントシアン15:3を用いた以外は、合成例2と同じ手順により、表面改質されたシアン顔料を調製した。合成例2と同様に、得られた表面改質された着色顔料は水性媒体中で攪拌時に容易に分散され、限外濾過膜にて脱塩濃縮し顔料濃度15%のシアン顔料分散液(C−2)とした。
【0262】
〔合成例2(マゼンタ顔料分散液)〕
C.I.ピグメントイエロー128の代わりに、ピグメントレッド122を用いた以外は合成例1と同じ手順により、表面改質されたマゼンタ顔料を調製した。合成例2と同様に、得られた表面改質された着色顔料は水性媒体中で攪拌時に容易に分散され、限外濾過膜にて脱塩濃縮し顔料濃度15%のマゼンタ顔料分散液(M−2)とした。
【0263】
〔合成例3(イエロー顔料分散液)〕
イエロー顔料としてC.I.ピグメントイエロー128を低温プラズマ処理してカルボン酸基を導入した顔料を作製した。これをイオン交換水に分散したものを、限外濾過膜にて脱塩濃縮し顔料濃度15%のイエロー顔料分散液(Y−2)とした。
【0264】
〔合成例4(カーボンブラック顔料分散液)〕
CTAB比表面積が150m
2/g、DBP吸油量100ml/100gのカーボンブラック90gを、2.5N規定の硫酸ナトリウム溶液3000mlに添加し、温度60℃、回転速度300rpmで攪拌し、10時間反応させ酸化処理を行なった。この反応液を濾過し、濾別したカーボンブラックを水酸化ナトリウム溶液で中和し、限外濾過を行なった。得られたカーボンブラック(B−2)を水洗いし乾燥させ、20重量%となるよう純水中に分散させた。
【0265】
<ポリマー内包着色剤の合成例>
〔合成例5(ポリマー分散液の調製)〕
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えた1Lフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー(製品名AS−6,東亜合成株式会社製)4.0g及びメルカプトエタノール0.4gを仕込み、65℃に昇温した。
【0266】
次にスチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー(製品名AS−6,東亜合成株式会社製)36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスジメチルバレロニトリル2.4g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて攪拌条件下で上記フラスコ内に滴下した。
【0267】
滴下終了後、アゾビスジメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて攪拌条件下で上記フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスジメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内に、メチルエチルケトン364gを添加し、固形分濃度が50%のポリマー溶液800gを得た。
【0268】
〔合成例6(フタロシアニン顔料内包ポリマー微粒子分散体)〕
合成例5で作製したポリマー溶液28gとフタロシアニン顔料26g、1mol/Lの水酸化カリウム溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、イオン交換水30gを十分に攪拌した後、三本ロールミルを用いて混練した。得られたペーストをイオン交換水200gに投入し、十分に攪拌した後、エバポレーターを用いてメチルエチルケトンおよび水を留去して、シアン色のポリマー微粒子分散体(C−3)を得た。
【0269】
〔合成例7(ジメチルキナクリドン顔料内包ポリマー微粒子分散体)〕
フタロシアニン顔料をピグメントレッド122に変更した以外は合成例5及び合成例6と同じ手順を行なってマゼンタ色のポリマー微粒子分散体(M−3)を得た。
【0270】
〔合成例8(モノアゾ黄色顔料内包ポリマー微粒子分散体)〕
フタロシアニン顔料をピグメントイエロー74に変更した以外は合成例5及び合成例6と同じ手順を行なって黄色のポリマー微粒子分散体(Y−3)を得た。
【0271】
〔合成例9(カーボンブラック顔料内包ポリマー微粒子分散体)〕
フタロシアニン顔料をカーボンブラックに変更した以外は合成例5及び合成例6と同じ手順を行なって黒色のポリマー微粒子分散体(B−3)を得た。
【0272】
<バインダ樹脂のコア部の合成>
次に、本発明に係るラテックスインクに含まれるコア・シェル構造を有するバインダ樹脂のコア部の合成例を示す。
【0273】
〔合成例10〕
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、アクアロンRN−20(アルキルフェノールエーテル系反応性界面活性剤,第一工業製薬株式会社製)を10g、過硫酸カリウムを1g及び純水286gを仕込み、65℃に昇温した。
【0274】
次に、メタクリル酸メチル150g、アクリル酸2−エチルヘキシル100g、アクリル酸20g、ビニルトリエトキシシラン20g、アクアロンRN−20を10g、アクアロンRN−20を10g、過硫酸カリウムを4gと純水398.3gの混合溶液を、2.5時間かけて攪拌条件下で上記フラスコ内に滴下した。80℃でさらに3時間加熱熟成した後冷却し、水酸化カリウムでpHを7〜8となるよう調整した。マイクロトラックUPAを用いて測定した樹脂の平均粒径は130nmであった。また、最低造膜温度(MFT)は10℃であった。
【0275】
〔合成例11〕
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、アクアロンRN−20(アルキルフェノールエーテル系反応性界面活性剤,第一工業製薬株式会社製)を10g、過硫酸カリウムを1g及び純水286gを仕込み、65℃に昇温した。次に、メタクリル酸メチル150g、アクリル酸2−エチルヘキシル100g、アクリル酸20g、ヘキシルトリメトキシシラン40g、アクアロンRN−20を10g、過硫酸カリウムを4gと純水398.3gの混合溶液を3時間かけて攪拌条件下で上記フラスコ内に滴下した。80℃でさらに3時間加熱熟成した後冷却し、水酸化カリウムでpHを7〜8となるよう調整した。マイクロトラックUPAを用いて測定した樹脂の平均粒径は148nmであった。また、最低造膜温度(MFT)は10℃であった。
【0276】
〔合成例12〕
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、純水100g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3gとポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル1gとを仕込み、過硫酸アンモニウム1g、亜硫酸水素ナトリウム0.2gを添加し、60℃に昇温した。
【0277】
次に、アクリル酸ブチル30g、メタクリル酸メチル40g、メタクリル酸ブチル19g、ビニルシラントリオールカリウム塩10gと3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン1gを3時間かけて攪拌条件下でフラスコ内に滴下した。このとき重合反応液をアンモニア水溶液でpH7となるように調整して重合を行なった。マイクロトラックUPAを用いて測定した樹脂の平均粒径は160nmであった。また、最低造膜温度(MFT)は15℃であった。
【0278】
<バインダ樹脂のシェル部の合成>
次に、本発明に係るラテックスインクに含まれるコア・シェル構造を有するバインダ樹脂のシェル部の合成例を示す。
【0279】
〔合成例13(実施例用)〕
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えたガラス製反応器にイオン交換水100g、反応性界面活性剤活性剤として、エーテルサルフェート型反応性界面活性剤(製品名ラテムルPD−104,有効分20%,花王株式会社製)8g、過硫酸カリウム0.24gを仕込み、窒素置換した後、湯浴にて温度を70℃に昇温した。
【0280】
これに、合成例10で合成したエマルション(P−10)100g(固形分45%)を加え、攪拌した。更に、(c)スチレン/(a)アクリル酸/(c)2−エチルへキシルアクリレート/(c)ブチルアクリレート=32/2/24/42のモノマー混合物30gを2時間かけて滴下し、その後80℃で2時間熟成してエマルション(P−13)を含む水分散体を得た。得られたエマルションの平均粒径は200nmであり、イオン交換水を適量加えることにより、コア・シェル構造のエマルション溶液の固形分含有量(有効分含有量)を45%に調整した。シェル部の最低造膜温度(MFT)は0℃であった。
【0281】
〔合成例14(実施例用)〕
モノマー混合物として、(c)スチレン/(a)アクリル酸/(c)2−エチルへキシルアクリレート=49/2/49を用い、これに、合成例11で合成したエマルション分散液(P−11)100g(固形分45%)を加えた以外は、合成例13と同じ手順を行ない、エマルション(P−14)を含む水分散体を得た。得られた水不溶性エマルションの平均粒径は200nm、水不溶性エマルション溶液の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は−10℃であった。
【0282】
〔合成例15(実施例用)〕
モノマー混合物として、(c)ベンジルメタクリレート/(a)メタクリル酸/(b)スチレンマクロマー(製品名AS−6,東亜合成株式会社製)/(e)ポリエチレングリコールメタクリレート2−エチルヘキシルエーテル(製品名NKエステルEH−4G,新中村化学株式会社製)=44/16/15/25(有効分重量比)のモノマー混合物合計200gを用い、これに、合成例12で合成したエマルション分散液(P−12)100g(固形分45%)を加えた以外は、合成例12と同じ手順を行なって、エマルション(P−15)を含む水分散体を得た。得られたエマルション(P−15)の平均粒径は200nm、水不溶性エマルション溶液の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は0℃であった。
【0283】
〔合成例16(実施例用)〕
モノマー組成を、(c)スチレン/(a)N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート/(c)2−エチルへキシルアクリレート=74/2/24に変えた以外は、合成例13と同じ手順を行なって、エマルション(P−24)を含む水分散体を得た。得られたエマルション(P−16)の平均粒径は200nm、エマルション溶液(P−16)の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は−13℃であった。
【0284】
〔合成例17(実施例用)〕
モノマー混合物として、(c)スチレン/(a)N−N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/(c)2−エチルへキシルアクリレート=32/2/66を用いた他は、合成例14と同じ手順を行なって、エマルション(P−17)を含む水分散体を得た。得られたエマルション(P−17)の平均粒径は200nm、エマルション溶液(P−17)の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は0℃であった。
【0285】
〔合成例18(実施例用)〕
モノマー組成を、(c)ベンジルメタクリレート/(a)ビニルピロリドン/(b)スチレンマクロマー(製品名AS−6,東亜合成株式会社製)/(e)ポリエチレングリコールメタクリレート2−エチルヘキシルエーテル(製品名NKエステルEH−4G,新中村化学株式会社製)に変えた以外は、合成例15と同じ手順を行なって、エマルション(P−18)を含む水分散体を得た。得られたエマルション(P−18)の平均粒径は200nm、エマルション溶液(P−18)の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は0℃であった。
【0286】
〔合成例19(比較例用)〕
モノマー混合物として、(c)スチレン/(a)アクリル酸/(c)2−エチルへキシルアクリレート/(c)ブチルアクリレート=49/2/24/25を用い、非反応性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(製品名ラテムルE−118B,有効分26%,花王株式会社製)62gを用いた以外は、合成例15と同じ手順を行なって、エマルション(P−19)を含む水分散体を得た。得られたエマルション(P−19)の平均粒径は215nm、エマルション(P−19)溶液の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は30℃であった。
【0287】
〔合成例20(比較例用)〕
モノマー混合物として、(c)スチレン/(a)アクリル酸/(c)2−エチルへキシルアクリレート=19/2/79を用いた他は、合成例13と同様の方法で、エマルション(P−20)を含む水分散体を得た。得られたエマルション(P−20)の平均粒径は230nm、エマルション(P−20)溶液の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は25℃であった。
【0288】
〔合成例21(比較例用)〕
モノマー混合物として、(c)スチレン/(a)N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート/(c)2−エチルへキシルアクリレート=89/2/9を用いた以外は、合成例14と同じ手順を行なって、エマルション(P−21)を含む水分散体を得た。得られたエマルション(P−21)の平均粒径は95nm、エマルション(P−21)溶液の固形分含有量(有効分含有量)は45%であった。シェル部の最低造膜温度(MFT)は30℃であった。
【0289】
(粒子径測定)
レーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析,大塚電子株式会社製)を用いて、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回、分散溶媒の屈折率1.333に条件を設定して粒子径測定を行った。
【0290】
<ラテックスインクの作製例>
水、水溶性有機溶媒、着色剤、バインダ樹脂、湿潤剤、界面活性剤などを配合してラテックスインクを作製した。
【0291】
〔インク製造例(1−1)〕
作製例1のシアン顔料分散液(C−1) 6wt%(固形分)
バインダ樹脂(P−13)(固形分45%) 10wt%
3−メチル−1,3−ブタンジオール 15wt%
グリセリン 15wt%
ポリアルキレングリコール系界面活性剤(旭電化製) 1wt%
2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 2wt%
イオン交換水を加えて100%とした。
【0292】
〔インク製造例(1−2)〕
作製例2のマゼンタ顔料分散液(M−1) 6wt%(固形分)
バインダ樹脂(P−14)(固形分45%) 10wt%
トリエチレングリコールイソブチルエーテル 2wt%
グリセリン 20wt%
ポリアルキレングリコール系界面活性剤(旭電化製) 1wt%
2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 2wt%
イオン交換水を加えて100%とした。
【0293】
〔インク製造例(1−3)〕
作製例3のイエロー顔料分散液(Y−1) 6wt%(固形分)
バインダ樹脂(P−15)(固形分45%) 10wt%
1,3−ブタンジオール 20wt%
グリセリン 20wt%
2−ピロリドン 1wt%
ポリアルキレングリコール系界面活性剤(旭電化製) 1wt%
2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール 2wt%
イオン交換水を加えて100%とした。
【0294】
〔インク製造例(1−4)〕
作製例4のカーボンブラック顔料分散液(B−1) 9wt%(固形分)
バインダ樹脂(P−16)(固形分45%) 10wt%
3−メチル−1,3−ブタンジオール 20wt%
グリセリン 15wt%
2−ピロリドン 2wt%
ポリアルキレングリコール系界面活性剤(旭電化製) 1wt%
2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 2wt%
イオン交換水を加えて100%とした。
【0295】
〔その他のインク製造例〕
インク製造例(2−1):
シアン顔料分散液(C−1)を(C−2)に変え、バインダ樹脂(P−13)を(P−17)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0296】
インク製造例(2―2):
マゼンタ顔料分散液(M−1)を(M−2)に変え、バインダ樹脂(P−14)(P−18)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0297】
インク製造例(2−3):
イエロー顔料分散液(Y−1)を(Y−2)に変え、バインダ樹脂(P−15)を(P−13)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0298】
インク製造例(2−4):
カーボンブラック顔料分散液(B−1)を(B−2)に変え、バインダ樹脂P−16)を(P−14)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0299】
インク製造例(3−1):
シアン顔料分散液(C−1)を(C−3)に変え、バインダ樹脂(P−13)を(P−15)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0300】
インク製造例(3―2):
マゼンタ顔料分散液(M−1)を(M−3)に変え、バインダ樹脂(P−14)を(P−16)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0301】
インク製造例(3−3):
イエロー顔料分散液(Y−1)を(Y−3)に変え、バインダ樹脂(P−15)を(P−17)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0302】
インク製造例(3−4):
カーボンブラック顔料分散液(B−1)を(B−3)に変え、バインダ樹脂(P−16)を(P−18)に変えた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0303】
インク製造例(4−1):
シアン顔料分散液(C−1)を用い、バインダ樹脂(P−19)を用いた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0304】
インク製造例(4−2):
マゼンタ顔料分散液(M−1)を用い、バインダ樹脂(P−20)を用いた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0305】
インク製造例(4−3):
イエロー顔料分散液(Y−1)を用い、バインダ樹脂(P−21)を用いた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0306】
インク製造例(4−4):
カーボンブラック顔料分散液(B−1)を用い、バインダ樹脂(P−21)を用いた以外は同様の配合にてラテックスインクを作製した。
【0307】
製造例毎のインクの色材とバインダ樹脂の組み合わせを表1に示す。また、各インクの物性を表2に示す。
【0308】
【表1】
【0309】
【表2】
【0310】
〔実施例・比較例に用いたインク〕
実施例と比較例には表3に示す各インクの組み合わせを用いた。
【0311】
【表3】
【0312】
<印刷画質の評価>
インクジェットプリンタ(製品名JV33,ミマキエンジニアリング社製)を用いて、ヘッドにGEN5(株式会社リコー製)を取り付け、各種メディア上に、製造例1−1〜4−4までの各インクを用いて、それぞれ下記の条件で印刷しながら、印刷物をメディア紙管に巻き取った。そして、巻き取った後の印刷面を目視にて確認し、滲みの発生の有無を調べた。このときの印刷速度を表4に示す。印刷濃度は、単位面積当たりのインクの塗布量を基準に設定した。
【0313】
【表4】
【0314】
〔印刷条件〕
印刷速度:
(1)Draft:540×1080dpi/高速モード
(2)Fine:720×1080dpi/高速モード
ヒータ温度:
(i)プリヒータ:OFF〜45℃
(ii)プリントヒータ:OFF〜45℃
(iii)アフターヒータ:OFF〜50℃
〔印刷画質の評価方法〕
フェザリング、カラーブリード、ビーディング、画像濃度、および光沢感の5の項目で印刷画像の画像特性を評価した。さらに、画像の信頼性として、耐擦過性を評価した。これらの結果を表5に示す。
【0315】
〔画像特性の評価〕
(フェザリング及びカラーブリードの評価)
実施例及び比較例のフェザリング及びカラーブリードの有無を目視で観察し、下記基準により評価した。
【0316】
(評価基準)
◎:全紙滲みの発生なく鮮明な印刷である。
○:一部の用紙(再生紙)にひげ状の滲みの発生がある。
△:全紙にひげ状の滲みの発生がある。
×:文字の輪郭がはっきりしないほど滲みが発生している。
【0317】
(ビーディングの評価)
実施例及び比較例のグリーンべた画像部のビーディングの程度を目視で観察し、下記基準により評価した。
【0318】
(評価基準)
5:ビーディングの発生なく均一な印刷である。
4:かすかにビーディングの発生が認められるが、全く気にならないレベルにある。
3:ビーディングの発生が認められるが、画像品位を損なわないレベルにある。
2:明確にビーディングの発生が認められる。
1:甚だしいビーディングの発生が認められる。
【0319】
(画像濃度の評価)
実施例及び比較例のマゼンタべた画像部の光学濃度をX−Rite932にて測定し、下記基準により評価した。
【0320】
(評価基準)
◎:マゼンタ画像濃度 1.6以上
○:マゼンタ画像濃度 1.3以上
△:マゼンタ画像濃度 1.0以上
×:マゼンタ画像濃度 1.0未満
(光沢感の評価)
実施例及び比較例の画像部の光沢感の程度を目視で観察し、下記基準により評価した。
【0321】
(評価基準)
:高い光沢感がある。
○:光沢感がある。
×:光沢感が認められない。
【0322】
〔画像信頼性の評価〕
(耐擦過性の評価)
評価画像として、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルーの正方形(3cm×3cm)を作製したものを使用した。印刷から24時間後、クロックメータ(CM−1型)を使用し、摩擦子に白綿布(JISL 0803 綿3号)を両面粘着フォームテープ(#4016,t=1.6,3M社製)で貼り付け、5往復摩擦し、綿布に付着した色材の濃度を分光測色濃度計(製品名Model−938,エックスライト社製)を使用して測定した。
【0323】
(評価基準)
◎:綿布に付着した色材濃度が0.05未満
○:綿布に付着した色材濃度が0.05以上0.1未満
×:綿布に付着した色材濃度が0.1以上
上記画像特性および画像信頼性評価の結果を表5に示す。
【0324】
【表5】
【0325】
〔ラテックスインク保存安定性の評価〕
各ラテックスインクをガラス容器に100ml入れて密封の上、以下の条件で保存し、それぞれの表面張力と粘度の変化を評価した。結果を表7に示す。
【0326】
(保存条件)
(i)常温(25℃)保存・28日間
(ii)高温(50℃)保存・14日間
(iii)低温(0℃)保存・28日間
(iv)サイクル試験(0〜50℃)・24時間毎温度を変えて14日間
それぞれの表面張力と粘度の変化を表7に示す。各インク共に物性値の変化が殆どなかった。
【0327】
【表6】
【0328】
〔印刷方法の評価〕
以上の試験結果をもとにして、実施例1〜3及び比較例1のインクを用いて、インクジェットプリンタ1により、様々のメディア表面に絵図や文字を印刷した場合をまとめた実施例を示す。各実施例共、インクジェットプリンタを、室温が約15〜20℃の常温状態の室内で実施した。下記の各表中の、プリヒータのメディア加熱温度は、プラテン後部の上を搬送されるメディア表面のプリヒータによる加熱温度を示し、プリントヒータのメディア加熱温度は、プラテン中央部の上に搬入されて、プリントヘッドから噴射させるインク滴を着弾させるメディア表面のプリントヒータによる加熱温度を示している。下記の各表中の、画質は、上記画像特性の評価(フェザリング、カラーブリード、ビーディング、画像濃度、光沢度)を総合的に評価したものであるが、ここでは更に10段階評価で、最高点は10点としている。下記の各表中の、OFFとは、プリヒータ又はプリントヒータに通電せずに、プリヒータ又はプリントヒータによるメディアの加熱を停止している状態を表している。
【0329】
〔実施例1のインク〕
メディアには、MacMarc:9829−00(製品名)を用いた。
【0330】
【表7】
【0331】
〔実施例2のインク〕
メディアには、Transparent PVC Film P−245RC:LINTEC(製品名)を用いた。
【0332】
【表8】
【0333】
〔実施例3のインク〕
メディアには、PVC Viewcal 880C:LINTEC(製品名)を用いた。
【0334】
【表9】
【0335】
〔比較例1のインク〕
メディアには、MacMarc:9829−00(製品名)を用いた。
【0336】
【表10】
【0337】
これらの実施例1〜3、及び、比較例1のインクを用いた場合の各結果に基づけば、バインダ樹脂の表面の最低造膜温度が0℃以下のラテックスインクを用いて、プリヒータによって、絵図や文字を印刷するメディアを予備的に加熱し、プリントヒータによって、プリントヘッドから噴射されるインク滴を着弾させるメディアを加熱する印刷方法を用いることによって、メディア表面に印刷される絵図や文字の画質が向上することが確認された。