【実施例】
【0035】
(実施例1)
凹凸部を有する板材にかかる実施例につき、
図1〜
図3を参照して説明する。
【0036】
図1は、本例に示す凹凸部20を有する板材1の平面図を示すものであり、同図面中に示す破線は、中間基準面K3と凹凸部20の交線を示すものである。
また、
図3は、本例に示す板材1が有する凹凸部20の形状を、中間基準面K3における第1基準領域213及び第2基準領域223の配置によって表したものである。同図中において、太実線は、第1基準領域213及び第2基準領域223の輪郭線を示すものであり、第1基準領域213の輪郭線の内側に描かれた細実線は、X領域214とY領域215の境界を示すものである。また、同図中の破線は、中間基準面K3上に配された仮想の枡24の輪郭線を示すものである。また、第1基準領域213の内側に記された記号L1、L2は、その第1基準領域213が属する第1基準領域列を示すものである。
【0037】
本例の板材1は、
図1〜
図3に示すごとく、凹凸部20を形成することによって、剛性を高めたものである。
凹凸部20は、次のように構成される。
凹凸部20は、
図2に示すごとく、間隔をあけて順次平行に配された仮想の3つの面である第1基準面K1、中間基準面K3及び第2基準面K2を基準とする。中間基準面K3は、
図3に示すごとく、同じ大きさの仮想の矩形(正方形)からなる枡24を敷き詰めた枡目をなすものと仮定し、枡24をなす仮想の矩形の一辺と平行な方向をX方向とし、該X方向に垂直な方向をY方向とする。中間基準面K3においては、X方向に連なる3つの枡24をX領域214とし、Y方向に連なる3つの枡24をY領域215とする。1つのY領域215の両端部に該Y領域215の端部とX領域214の中央の枡とが接するようにそれぞれ1つずつX領域214を配してあり、該X領域214の両端部に該X領域214の端部とY領域215の中央の枡とが接するようにそれぞれ1つずつY領域215を配してなる領域を第1基準領域213とする。
【0038】
中間基準面K3上には、
図3に示すごとく、第1基準領域213が同じ向きで配列されており、X方向において複数の第1基準領域213同士を一枡開けた状態で一列に配列した第1基準領域列L1、L2が複数形成してある。中間基準面K3上のY方向において、第1基準領域列L1と第1基準領域列L2とは、交互に配されると共に、隣接する第1基準領域列L1、L2は、互いにX方向に3つの枡目分移動した位置に配してある。また、中間基準面K3において、第1基準領域213以外の全ての領域を第2基準領域223とした。
【0039】
凹凸部20は、
図1及び
図2に示すごとく、中間基準面K3(
図3)上において定められた第1基準領域213(
図3)から第1基準面K1に向かって突出する第1領域21と、中間基準面K3上において定められた第2基準領域223(
図3)から第2基準面K2に向かって突出する第2領域22とからなる。第1領域21は、第1基準領域213を第1基準面K1上に縮小して投影した第1頂面211と、該第1頂面211の輪郭と第1基準領域213の輪郭とをつなぐ第1側面212とからなる。第2領域22は、第2基準領域223を第2基準面K2上に縮小して投影した第2頂面221と、該第2頂面221の輪郭と第2基準領域223の輪郭とをつなぐ第2側面222とからなる。
【0040】
また、
図2に示すごとく、本例における第1基準面K1、中間基準面K3及び第2基準面K2は、互いに平行な平面である。第1頂面211は、その板厚中心が第1基準面K1と重なるように構成されており、第2頂面221は、その板厚中心が第2基準面K2と重なるように構成されている。そして、第1基準面K1と中間基準面K3との間の距離を突出高さH
1とし、本例においては、第1領域21の突出高さH
1は、1.5mmとした。また、第2基準面K2と中間基準面K3との間の距離を突出高さH
2とし、本例においては、第2領域22の突出高さH
2は、1.5mmとした。
また、
図3に示すごとく、枡24をなすX方向と平行に配された辺の長さL(mm)及びY方向と平行に配された辺の長さM(mm)は、共に8mmとし、枡24は正方形をなしている。
【0041】
また、
図2に示すごとく、中間基準面K3に対する第1側面212の傾斜角度θ
1と中間基準面K3に対する第2側面222の傾斜角度θ
2とは、共に30°である。
また、本例の凹凸部20を有する板材1は、板厚t=0.3mmの1000系のアルミニウム板である。凹凸部20は、一対の金型を用いたプレス成形により形成される。尚、この成形方法は、表面に所望の凹凸形状を付けた一対の成形ロールによって成形するロール成形等の他の塑性加工方法を採用することも可能である。
【0042】
また、X方向と平行に配された辺の長さL(mm)と、上記アルミニウム板の板厚t(mm)との比L/tは26.67であり、10〜2000の範囲内にある。
また、第1領域21の突出高さH
1(mm)と板厚t(mm)との比H
1/tは、5である。また、第1側面212と中間基準面K3とがなす傾斜角度θ
1=30°であり、−3θ
1+272=182である。したがって、1≦H
1/t≦182の関係を満たしている。同様に、第2領域22の突出高さH
2(mm)と板厚t(mm)との比H
2/tは、5である。また、第2側面222と中間基準面K3とがなす傾斜角度θ
2=30°であり、−3θ
2+272=182である。したがって、1≦H
2/t≦182の関係を満たしている。
【0043】
次に、本例における凹凸部20を有する板材1の作用効果について説明する。
凹凸部20は、上記のごとく、中間基準面K3上において定められた第1基準領域213から第1基準面K1に向かって突出する第1領域21と、中間基準面K3上において定められた第2基準領域223から第2基準面K2に向かって突出する第2領域22とを設けてなる。そして、第1領域21は、第1頂面211と、該第1頂面211の輪郭と第1基準領域213の輪郭とをつなぐ第1側面212とからなり、第2領域22は、第2頂面221と、該第2頂面221の輪郭と第2基準領域223の輪郭とをつなぐ第2側面222とからなる。
【0044】
このような構造を有しているので、本例の凹凸部20を有する板材1は曲げ剛性に優れると共に、エネルギー吸収特性に優れたものとなる。
剛性が向上する理由は、次のように考えられる。即ち、
図2に示すごとく、第1領域21は、板材1の中立面から離れた位置に配される第1基準面K1上に配置した第1頂面211と、板材1の厚さ方向に交差した第1側面212とからなる。また、第2領域22は、板材1の中立面から離れた位置に配される第2基準面K2上に配置した第2頂面221と、板材1の厚さ方向に交差した第2側面222とからなる。そのため、板材1の中立面から離れた位置に多くの材料を配置できる。したがって、多くの材料を効果的に使用することができ、剛性向上効果を高めることができる。
【0045】
特に、第1領域21及び第2領域22は、上記のごとく形状及び位置関係を設定した第1基準領域213及び第2基準領域223を基に形成されている。基本形状である第1基準領域213の形状及び位置関係を上記のごとく設定してある。これにより、任意の断面においても断面2次モーメントを向上させることができ、優れた曲げ剛性向上効果を有し、かつ剛性の異方性が少ない凹凸形状を得ることができる。これにより、板厚の薄い材料においても、必要な剛性が得られるため軽量化が可能となる。また、剛性の向上に伴い、制振性の向上効果と、凹凸形状による音の反響抑制効果を得ることができる。
【0046】
(FEM解析)
本例の板材1の剛性向上効果を定量的に判断するために、FEM解析を用いた片持ち梁による曲げ剛性評価を行った。
上記FEM解析は、試験片における凹凸部20の形成方向を変化させることにより、0°、45°、90°の3方向における曲げ剛性評価を行った。
【0047】
FEM解析に用いた試験片形状は、120mm×120mmの矩形形状を有しており、その全面に凹凸部20を形成してある。尚、表面積の増加を考慮して板厚は、t=0.272mmとした。
上記試験片の端部において、一端を固定端とし、該固定端と対向して配される端部を自由端とした。該自由端をなす辺の中央部に1Nの負荷を加え、FEM解析を行うことで板材1のたわみ量を求めた。
評価は、凹凸部20を形成していない平板状の元板について、同様のFEM解析を行い得られたたわみ量と比較することで行った。
【0048】
<0°方向>
図1に示すごとく、中間基準面K3(
図3)におけるX方向と板材1のなす辺とが平行となるよう凹凸部20を形成した試験片において、同図中の上方に位置する端部Z1を固定端とし、端部Z1と対向する端部Z2を自由端とする方向を0°方向とした。
実施例1の凹凸部20を有する板材1は、前述した0°方向において、平板状の元板と比べて、曲げ剛性が22.46倍に向上することが明らかとなった。
【0049】
<45°方向>
中間基準面K3(
図3)におけるX方向と板材1のなす辺とが45°となるよう凹凸部20を形成した試験片において、上方に位置する端部を固定端とし、固定端と対向する端部を自由端とする方向を45°方向とした。
実施例1の凹凸部20を有する板材1は、前述した45°方向において、平板状の元板と比べて、曲げ剛性が13.06倍に向上することが明らかとなった。
【0050】
<90°方向>
図1に示すごとく、中間基準面K3(
図3)におけるX方向と板材1のなす辺とが平行となるよう凹凸部20を形成した試験片において、同図中の左側に位置する端部Z3を固定端とし、端部Z3と対向する端部Z4を自由端とする方向を90°方向とした。
実施例1の凹凸部20を有する板材1は、前述した90°方向において、平板状の元板と比べて、曲げ剛性が12.22倍に向上することが明らかとなった。
【0051】
上記のFEM解析の結果、本例に示す凹凸部20を有する板材1は、最も曲げ剛性向上効果が低い90°方向においても、平板に比べ12.22倍の剛性倍率Gを有し、軽量化率W(%)は少なくとも56%程度が見込まれる。尚、軽量化率W(%)は、剛性倍率Gを用いて、W=(1−1/
3√G)×100の計算式より算出したものである。
また、本例においては、135°方向における凹凸部20の形状は、45°方向と同様であり、180°方向における凹凸部20の形状は、0°方向と同様である。したがって、FEM解析の結果は、135°方向と45°方向とが同一となり、180°方向と0°方向とが同一となる。
【0052】
(実施例2)
本例にかかる凹凸部20を有する板材1について、
図4及び
図5を参照して説明する。
本例は、実施例1と同様の中間基準面K3(
図3)を用いて、凹凸部20の構成を変更した例を示すものである。尚、本例においては、第1基準面K1及び中間基準面K3の2つの面を基準とし、第2基準面K2は用いない。
【0053】
図4に示す板材1は、第1領域21及び第1基準面K1に向かって突出した第2領域22により構成される凹凸部20を有するものである。本例の第2領域22は、
図4及び
図5に示すごとく、第2基準領域223(
図3)を第1基準面K1上に縮小して投影した第2頂面221と、該第2頂面221の輪郭と第2基準領域223の輪郭とをつなぐ第2側面222とからなる。本例の第2領域22は、上記のごとく中間基準面K3から第1基準面K1に対して突出するように形成されており、突出方向が実施例1とは反対となる。したがって、本例において、第2領域22の突出高さH
2と第1領域21の突出高さH
1とは同一である。その他の第1領域21及び第2領域22の構成については実施例1と同様である。
【0054】
(実施例3)
本例にかかる凹凸部20を有する板材1について、
図6及び
図7を参照して説明する。
本例は、実施例1と同様の中間基準面K3(
図3)を用いて、凹凸部20の構成を変更した例を示すものである。尚、本例においては、第1基準面K1及び中間基準面K3の2つの面を基準とし、第2基準面K2は用いない。
【0055】
図6に示す板材1は、第1領域21及び平面領域23からなる凹凸部20を有するものである。平面領域23は、
図6及び
図7に示すごとく、中間基準面K3(
図3)上において第2基準領域223(
図3)の輪郭により形成される。また、第1領域21の構成については実施例1と同様である。
【0056】
本例に示す凹凸部20を有する板材1においても、曲げ剛性の異方性が少なく、高い曲げ剛性向上効果を有する板材1を得ることができる。
【0057】
(実施例4)
本例は、
図8に示すごとく、凹凸部20を円筒材11に設けた例である。本例においては、第1基準面K1、中間基準面K3及び第2基準面K2は、平行に配された円筒状の曲面からなる。本例の中間基準面K3は、実施例1〜実施例3のいずれかに記載の平面状をなす中間基準面K3を円筒状に湾曲させたものである。凹凸部20をなす第1領域21、第2領域22及び平面領域23の構成は、実施例1及び実施例2と同様である。
本例に示すごとく、優れた特性を備えた凹凸部20を有する板材1を様々な形状に変形させることができ、用途を拡大することができる。
【0058】
また、本例に示す凹凸部20を有する円筒材11を、飲料缶やロケットのような円筒形の構造物に用いることで、材料の板厚を増加させることなく、剛性を高めることができる。また、本例の円筒材11は、優れたエネルギー吸収特性を有している。そのため、自動車などの車体に使用することで、高い剛性と優れたエネルギー吸収特性を付与することができる。
【0059】
(実施例5)
本例は、
図9に示すごとく、実施例1の凹凸部20を有する板材1をコア材として用いて積層構造体5を構成した例である。
即ち、積層構造体5は、凹凸部20を有する1枚の板材1よりなるコア材の両側の表面に面板42、43を接合してなる。
面板42、43は、材質3000系、板厚1.0mmのアルミニウム合金板よりなる。
【0060】
本例の積層構造体5は、前述したような優れた剛性を有する凹凸部20を有する板材1をコア材として用い、その第1領域21の第1頂面211と第2領域22の第2頂面221に対して面板42、43を接着、ろう付け等により接合することによって、凹凸部20を有する板材1単体の場合よりも格段に剛性が高い積層構造体5が得られる。しかも、板材1も面板42、43もアルミニウム合金板よりなるため、軽量化することができる。
【0061】
また、剛性向上に伴う制振性の向上効果と、空気層を包容することによる吸音性の向上効果を得ることができる。また、良く知られているように、面板42、43のいずれか一方に貫通孔を形成することにより、ヘルムホルツ型吸音構造となり、さらに吸音性を向上させることができる。
尚、面板42、43としては、アルミニウム合金以外の金属の板、たとえば、鋼板、チタン板等や、樹脂板等を適用することも可能である。
【0062】
(実施例6)
本例は、
図10に示すごとく、実施例1〜実施例3のいずれかに記載した板材1をインナーパネルとして用い、板材1における第1基準面K1側の面をアウターパネル61の裏面側に向けて配置して構成する車両パネル6の例である。上記インナーパネルは、その外周部においてアウターパネル61とヘム加工等により接合されている。尚、前述したインナーパネルにおいて、凹凸部20の形成方向を限定するものではなく、板材1における第1基準面K1と反対側の面をアウターパネル61の裏面側に向けて配置して構成することもできる。
【0063】
本例の車両パネル6は、そのインナーパネルを構成する凹凸部20を有する板材1が、上記のごとく剛性向上効果に優れているので、歩行者が衝突した際の一次衝突のエネルギー及び二次衝突のエネルギーを吸収する特性に優れたものとなる。また、剛性向上に伴う制振性の向上効果と、空気層を包容することによる吸音性の向上効果を得ることができる。
尚、本例においては、凹凸部20を有する板材1をインナーパネルとして用いたが、インナーパネルとアウターパネル61のいずれか一方又は両方に用いることができる。