特許第5941864号(P5941864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941864
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】車両用樹脂製ウインドパネル
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/00 20060101AFI20160616BHJP
   B32B 1/04 20060101ALI20160616BHJP
   B05D 1/30 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   B60J1/00 H
   B32B1/04
   B05D1/30
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-70860(P2013-70860)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-193687(P2014-193687A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平木 和良
【審査官】 菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−077740(JP,A)
【文献】 特開2011−079463(JP,A)
【文献】 特開2008−094087(JP,A)
【文献】 特開2000−218211(JP,A)
【文献】 特開平10−329165(JP,A)
【文献】 特開平07−328507(JP,A)
【文献】 特開昭55−134668(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0081148(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
B32B 1/04
B05D 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の樹脂からなるウインドパネル本体(3)と、該ウインドパネル本体(3)の外周縁部における車内側の面に形成された不透光性の樹脂からなる隠蔽層(5)とを備え、前記ウインドパネル本体(3)の前記隠蔽層(5)よりも内側の領域が窓部領域(1w)を構成し、該窓部領域(1w)の車内側の面に液状のハードコート剤(L)の塗布により塗膜(7)が形成された車両用樹脂製ウインドパネルであって、
前記隠蔽層(5)には、前記窓部領域(1w)の外周に沿って周方向に延びる突条部(11)が車内側に向かって突設され、
前記突条部(11)は、各々前記窓部領域(1w)の1辺(1b)に沿って延び互いに接近するに従って前記窓部領域(1w)から外側方に遠ざかると共に該窓部領域(1w)から遠ざかった端部同士が連結された一対の傾斜部(11e)を有し、
前記一対の傾斜部(11e)の連結部分(11f)は、前記ハードコート剤(L)の塗布時に斜め下方に向けられて前記ハードコート剤(L)の余剰分を排出する排出部を構成する
ことを特徴とする車両用樹脂製ウインドパネル。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用樹脂製ウインドパネルにおいて、
前記突条部(11)は、前記窓部領域(1w)の外周に環状に延びている
ことを特徴とする車両用樹脂製ウインドパネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された車両用樹脂製ウインドパネルにおいて、
前記一対の傾斜部(11e)の連結部分(11f)には、車内側に延出した延出部(13, 15)が形成されている
ことを特徴とする車両用樹脂製ウインドパネル。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用樹脂製ウインドパネルにおいて、
前記延出部(15)は、当該ウインドパネル(1)を車体へ取り付ける際の位置決めピンとして利用される
ことを特徴とする車両用樹脂製ウインドパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状のハードコート剤の塗布により窓部領域に塗膜が形成された車両用樹脂製ウインドパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、透明樹脂からなる略板状のウインドパネル本体を備え、このウインドパネル本体の周縁近傍に室内側に向けて突出する補強リブを略矩形環状に形成することで、曲げや捩りに対する剛性を向上させた樹脂製のウインドパネルが開示されている。このようなウインドパネルでは、補強リブの内側に採光のための窓部領域が形成され、この窓部領域に、傷つき防止などの目的で液状のハードコート剤の塗布により塗膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−77740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウインドパネルの窓部領域に液状のハードコート剤を塗布する方法としては、ウインドパネル本体を補強リブ形成側が下方に向くように水平方向に対して傾斜させた姿勢とし、その状態で、窓部領域の上側からハードコート剤をフローコート等により塗布して窓部領域の下側にまで流すことにより、窓部領域の全面にハードコート剤を行き渡らせることが考えられる。
【0005】
しかし、窓部領域から流下したハードコート剤の余剰分を受ける補強リブが水平方向に延びている場合には、この補強リブの基端側角部に表面張力によってハードコート剤が滞留して液塊ができ易く、この液塊部分が乾燥に至る過程で剥がれることがある。
【0006】
また、上記の場合には、ハードコート剤の余剰分が、これを受けた補強リブの先端から流れ落ちる際に乾燥し、補強リブの先端から氷柱状に垂れ下がった状態で固まることがある。このようなハードコート剤の固形片は、ハードコート剤を受ける補強リブの先端において複数箇所にランダムに発生するため、ウインドパネルを車体へ取り付けるための治具や作業者が触れた際に引っ掛かって、その周辺部分と共に剥がれてしまい易い。
【0007】
このように、補強リブの基端側角部にできたハードコート剤の液塊や補強リブの先端に形成されたハードコート剤の固形片が剥がれると、これを基点としてハードコート剤の塗膜の剥離が窓部領域にまで及ぶおそれがあると共に、剥離した固形片が塵埃の原因となり、品質の低下に繋がる。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、曲げや捩りに対する剛性を向上させつつ、ハードコート剤の塗膜が剥離するおそれの少ない高品質な樹脂製のウインドパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、窓部領域に塗布された液状のハードコート剤を突条部の基端側角部に滞留させず、且つ、突条部の先端にハードコート剤の固形片が形成されるおそれのある箇所を特定の箇所に限定するように突条部の形状を工夫した。
【0010】
具体的には、本発明は、透光性の樹脂からなるウインドパネル本体と、このウインドパネル本体の外周縁部における車内側の面に形成された不透光性の樹脂からなる隠蔽層とを備え、ウインドパネル本体の隠蔽層よりも内側の領域が窓部領域を構成し、この窓部領域の車内側の面に液状のハードコート剤の塗布により塗膜が形成された車両用樹脂製ウインドパネルを対象とし、以下の解決手段を講じたものである。
【0011】
すなわち、第1の発明は、隠蔽層に、窓部領域の外周に沿って周方向に延びる突条部が車内側に向かって突設された構造を有する。突条部は、各々窓部領域の1辺に沿って延びる一対の傾斜部を有している。これら一対の傾斜部は、互いに接近するに従って窓部領域から外側方に遠ざかると共に、窓部領域から遠ざかった端部同士が連結されている。そして、第1の発明は、一対の傾斜部の連結部分が、ハードコート剤の塗布時に斜め下方に向けられてハードコート剤の余剰分を排出する排出部を構成することを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の車両用樹脂製ウインドパネルにおいて、突条部が窓部領域の外周に環状に延びていることを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第1又は第2の発明の車両用樹脂製ウインドパネルにおいて、一対の傾斜部の連結部分に、車内側に延出した延出部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
第4の発明は、第3の発明の車両用樹脂製ウインドパネルにおいて、延出部が当該ウインドパネルを車体へ取り付ける際の位置決めピンとして利用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、窓部領域の外周に周方向に延びる突条部が補強リブとして作用するので、ウインドパネルの曲げや捩りに対する剛性を向上させることができる。また、このウインドパネルの製造において窓部領域に塗膜を形成するに際し、ウインドパネル本体を、隠蔽層が下方に向き且つ一対の傾斜部が窓部領域よりも下側に位置するように傾斜させた姿勢とし、その状態で、窓部領域に液状のハードコート剤を塗布すると、窓部領域から流下したハードコート剤の余剰分は、一対の傾斜部で受けられて、これら一対の傾斜部の連結部分へ速やかに誘導されて流れる。これにより、突条部の基端側角部にハードコート剤が滞留し難くなり、この角部にハードコート剤の液塊が形成されることを抑制できる。そして、このように各傾斜部によって誘導されたハードコート剤の余剰分は、ハードコート剤の塗布時に斜め下方に向けられた一対の傾斜部の連結部分に集められ、この連結部分が構成する排出部から下方に排出される。これにより、突条部の先端にハードコート剤の固形片が形成されるおそれのある箇所を、排出部を構成する一対の傾斜部の連結部分に限定することができる。したがって、曲げや捩りに対する剛性を向上させつつ、ハードコート剤の塗膜が剥離するおそれの少ない高品質な樹脂製のウインドパネルを実現することができる。
【0016】
さらに、第1の発明によれば、窓部領域から流下したハードコート剤の余剰分が突条部を越えて突条部よりもウインドパネルの外側の領域に流出するとしても、その流出箇所が一対の傾斜部の連結部分に対応する箇所に限定される。これにより、ウインドパネルの突条部よりも外側の領域が当該ウインドパネルを車体へ取り付ける際に接着剤で車体と接着される接着領域である場合には、この接着領域にハードコート剤が掛かることに起因して当該ウインドパネルと車体との接着性が低下することを抑制できる。
【0017】
また、第1の発明によれば、ハードコート剤の余剰分の排出箇所が一対の傾斜部の連結部分に限定されるので、ハードコート剤の余剰分を回収することが容易になる。
【0018】
第2の発明によれば、窓部領域に塗布した液状のハードコート剤がウインドパネルの突条部よりも外側の領域に掛かることをウインドパネルの全周に亘って抑制できる。これにより、ウインドパネルの突条部よりも外側の領域が当該ウインドパネルを車体へ取り付ける際に接着剤で車体と接着される接着領域である場合には、この接着領域にハードコート剤が掛かることに起因して当該ウインドパネルと車体との接着性が低下することを抑制できる。
【0019】
第3の発明によれば、一対の傾斜部の連結部分に集められたハードコート剤の余剰分が延出部を伝ってウインドパネル本体から離間する方向に誘導された後に排出されるので、ハードコート剤の余剰分が排出部の下側面を伝ってウインドパネルの突条部よりも外側の領域に流出することを防止できる。
【0020】
第4の発明によれば、延出部とは別個に位置決めピンを設ける必要がなく、ウインドパネルの構成を簡略化することができる。また、延出部を位置決めピンとして利用することで、車体へのウインドパネルの円滑な組付けが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る車両用樹脂製ウインドパネルの斜視図である。
図2図2は、図1のII−II線における断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態1に係る車両用樹脂製ウインドパネルの製造における塗膜形成工程の様子を示す図2対応箇所の断面図である。
図4図4(a)は、本発明の実施形態2に係る車両用樹脂製ウインドパネルの斜視図である。図4(b)は、図4(a)のIV−Bで囲む部分の拡大図である。
図5図5は、本発明の実施形態2に係る車両用樹脂製ウインドパネルの製造における塗膜形成工程の様子を示す図4(a)のV−V線に対応する箇所の断面図である。
図6図6(a)は、本発明の実施形態3に係る車両用樹脂製ウインドパネルの斜視図である。図6(b)は、図6(a)のVI−Bで囲む部分の拡大図である。
図7図7は、本発明の実施形態3に係る車両用樹脂製ウインドパネルの製造における塗膜形成工程の様子を示す図6(a)のVII−VII線に対応する箇所の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、或いはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0023】
《発明の実施形態1》
この実施形態1に係る車両用樹脂製ウインドパネル1を図1に示す。また、図1のII−II線における断面構造を図2に示す。本実施形態のウインドパネル1は、例えば、図示しない車両の側面後部に形成された略矩形状の窓用開口に対して嵌殺し状態に取り付けられる。
【0024】
このウインドパネル1は、図1及び図2に示すように、例えばポリカーボネート(PC)やアクリル樹脂(PMMA)などの透光性の樹脂からなる略矩形状のウインドパネル本体3を備えている。このウインドパネル本体3の車内側の面には、例えばポリカーボネート(PC)やポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの不透光性の樹脂からなる隠蔽層5が、当該ウインドパネル本体3の外周縁部全周に亘って2色成形により略矩形枠状に形成されている。ウインドパネル1においてこの隠蔽層5が形成された枠状の領域は、光を遮蔽する遮光領域1sとなっている。
【0025】
ウインドパネル本体3の隠蔽層5よりも内側の領域、すなわち遮光領域1sに囲まれた領域は、車外の光を車内に採光可能な窓部領域1wを構成している。本実施形態の窓部領域1wは、略矩形状に形成されていて、上下の2辺1a,1bと両サイドの2辺1c,1dとを有している。そして、ウインドパネル1の車外側の面と窓部領域1wの車内側の面には、後述する液状のハードコート剤Lの塗布により、図2に示すように全面に亘って透明な塗膜7,9がそれぞれ形成されている。
【0026】
また、隠蔽層5には、窓部領域1wの外周に沿って周方向に延びる突条部11が車内側に向かって一体に突設されている。突条部11は、窓部領域1wの周囲に全周に亘って延び、全体として環状に形成されていている。このように環状に形成された突条部11は、補強リブとして作用するので、ウインドパネル1の曲げや捩りに対する剛性を向上させることができる。本実施形態の突条部11は、窓部領域1wの上辺1aに沿って延びる上辺部11aと、窓部領域1wの下辺1bに沿って延びる下辺部11bと、窓部領域1wの両サイドの辺1c,1dに沿ってそれぞれ延びる2つの側辺部11c,11dとで構成されている。
【0027】
突条部11を構成する上辺部11a及び下辺部11bと2つの側辺部11c,11dとの連結部分は、湾曲状の角部を構成している。また、突条部11のうち上辺部11aと2つの側辺部11c,11dとは、それぞれ直線状に形成され、窓部領域1wからウインドパネル1の外側方に一定の距離をあけて配置されている。そして、本実施形態では、突条部11のうち下辺部11bだけが、各々窓部領域1wの下辺1bに対して傾斜すると共に互いに交差する方向にそれぞれ直線状に延びる一対の傾斜部11eで構成されている。
【0028】
これら一対の傾斜部11eは、ウインドパネル1の右側半分と左側半分とに分けて1つずつ設けられ、互いに接近するに従って窓部領域1wから外側方(図1で下側)に遠ざかると共に、その窓部領域1wから遠ざかった端部同士が連結されている。そして、一対の傾斜部11eの連結部分11fは、後述するハードコート剤Lの塗布時に、斜め下方に向けられてハードコート剤Lの余剰分を排出する排出部を構成する。
【0029】
上記構成のウインドパネル1は、突条部11よりも外側の遮光領域1sが車体の窓用開口の周縁に全周に亘って接着剤で接着される接着領域となっている。このウインドパネル1は、ウインドパネル本体3における車外側の面及び窓部領域1wの車内側の面に対し、以下に示す方法で塗膜7,9を形成して製造される。このウインドパネル1の製造における塗膜7形成工程の様子を図3に示す。この図3は、図2に対応する箇所の断面図である。
【0030】
まず、予め2色成形により隠蔽層5が形成されたウインドパネル本体3を、図1及び図3に示すように、隠蔽層5が下方に向き且つ突条部11のうち下辺部11b、つまり一対の傾斜部11eが上辺部11a及び窓部領域1wよりも下側に位置するように水平方向に対して例えば30°度程度傾斜させた姿勢とし、その状態で、窓部領域1wの車内側の全面に塗布ノズル101を用いて液状のハードコート剤Lをフローコートにより塗布する。
【0031】
具体的には、このハードコート剤Lの塗布は、塗布ノズル101(図1に二点鎖線で示す)を、突条部11のうち上辺部11aに沿って両側辺部11c,11dの間を略全体に亘って1往復させ(図1に一点鎖線の矢印で経路を示す)、その過程で、上辺部11aの下側近傍の領域に塗布ノズル101からハードコート剤Lを注ぎ掛けて塗布し、塗布したハードコート剤Lを窓部領域1wの下側にまで流して窓部領域1wの全面にハードコート剤Lを行き渡らせることで行われる。なお、ハードコート剤Lとしては、シリコーン形やアクリル系、シラザン系などのものを用いることができる。
【0032】
このように窓部領域1wにハードコート剤Lを塗布すると、図1及び図3に示すように、ハードコート剤Lの余剰分は窓部領域1wから突条部11よりも内側の隠蔽層5部分を伝って流下し、窓部領域1wよりも下側に位置する一対の傾斜部11eで受けられる。これら一対の傾斜部11eで受けられたハードコート剤Lの余剰分は、一対の傾斜部11eの連結部分11fへ速やかに誘導されて流れる(図1及び図3に二点鎖線の矢印でハードコート剤Lの流れを示す)。これにより、突条部11のうち窓部領域1wから流下したハードコート剤Lの余剰分を受ける下辺部11bの基端側角部にはハードコート剤Lが滞留し難くなるので、この角部にハードコート剤Lの液塊が形成されることを抑制できる。
【0033】
そして、このように各傾斜部11eによって誘導されたハードコート剤Lの余剰分は、下方に向けられた一対の傾斜部11eの連結部分11fに集められ、図3に示すように、この連結部分11fから下方に排出される。これにより、突条部11の先端にハードコート剤Lの固形片が形成されるおそれのある箇所を、ハードコート剤Lの排出部を構成する一対の傾斜部11eの連結部分11f、1箇所だけに限定することができる。
【0034】
しかる後、塗布したハードコート剤Lを乾燥させることにより、ウインドパネル本体3の窓部領域1wにおける車内側の面に塗膜7を形成する。また、ウインドパネル本体3の車外側の面にも、液状のハードコート剤Lをフローコートにより全面に亘って塗布した後に、塗布したハードコート剤Lを乾燥させることで塗膜9を形成する。なお、これらウインドパネル本体1の車外側の面に対する塗膜9の形成と、同本体1の窓部領域1wの車内側の面に対する塗膜7の形成とは、どちらを先に行っても構わない。
【0035】
−実施形態1の効果−
この実施形態1によると、ウインドパネル1の外周縁部に形成された環状の突条部11でウインドパネル1の曲げや捩りに対する剛性を向上させつつ、突条部11の基端側角部にハードコート剤Lの液塊ができることを防止できると共に、突条部11の先端にハードコート剤Lの固形片が形成されるおそれのある箇所を1箇所に限定できるので、ハードコート剤Lの塗膜7が剥離するおそれの少ない高品質な樹脂製のウインドパネル1を実現することができる。
【0036】
さらに、この実施形態1によると、窓部領域1wから流下したハードコート剤Lの余剰分が突条部11を越えてその外側の接着領域に流出するおそれのある箇所が一対の傾斜部11eの連結部分11fに対応する箇所に限定される。したがって、ウインドパネル1の接着領域にハードコート剤Lが掛かることに起因して当該ウインドパネル1と車体との接着性が低下することを抑制できる。
【0037】
また、この実施形態1によると、ハードコート剤Lの余剰分の排出箇所が一対の傾斜部11eの連結部分11f、1箇所に限定されるので、そこから排出されるハードコート剤Lを下方で容器等に受けるだけで、ハードコート剤Lの余剰分を容易に回収することができる。
【0038】
《発明の実施形態2》
この実施形態2に係るウインドパネル1は、突条部11とハードコート剤Lを排出する排出部の構成が上記実施形態1と異なる。なお、以降の各実施形態では、突条部11及びハードコート剤の排出部Lの構成が上記実施形態1と異なる他はウインドパネル1について上記実施形態1と同様に構成されているので、構成の異なる突条部11及びハードコート剤Lの排出部についてのみ説明し、同一の構成箇所は図1図3に基づく上記実施形態1の説明に譲ることにして、その詳細な説明を省略する。
【0039】
本実施形態に係るウインドパネル1を図4(a)に示す。また、図4(a)のIV−Bで囲む部分の拡大図を図4(b)に示す。上記実施形態1では、突条部11のうち上辺部11aは両側辺部11c,11dと共に直線状に形成されているとしたが、本実施形態では、図4(a)に示すように、下辺部11bだけでなく上辺部11aも、各々窓部領域1wの上辺1aに対して傾斜すると共に互いに交差する方向にそれぞれ直線状に延びる一対の傾斜部11gで構成されている。
【0040】
この上辺部11aを構成する一対の傾斜部11gは、ウインドパネル1の右側半分と左側半分とに分けて1つずつ設けられている。これら一対の傾斜部11gは、互いに接近するに従って窓部領域1wから外側方(図4(a)で上側)に遠ざかると共に、その窓部領域1wから遠ざかった端部同士が連結されていて、全体として切妻屋根状に形成されている。
【0041】
そして、本実施形態では、図4(b)に示すように、突条部11の下辺部11bを構成する一対の傾斜部11eの連結部分11fに、車内側に延出した延出部13が形成されている。この延出部13は、各傾斜部11eから延出した一対の延出片13aが一体に形成されてなる。これら各延出片13aは、延出基の傾斜部11eよりも薄く形成され、当該傾斜部11eと平行に延びている。
【0042】
延出部13の窓部領域1w側の面は、その幅方向の中央に向かうに従ってウインドパネル1の外側方に凹む断面V字状に形成され、窓部領域1wの車内側の面に塗膜7を形成する際にハードコート剤Lの余剰分を案内する案内面13bを構成している。延出部13は、やや先鋭に形成されていて、ハードコート剤Lの塗布時に、延出基の一対の傾斜部11eの連結部分11fと共に斜め下方に向けられてハードコート剤Lの余剰分を排出する排出部を構成する。
【0043】
本実施形態のウインドパネル1の製造における塗膜形成工程の様子を図5に示す。この図5は、図4(a)のV−V線に対応する箇所の断面図である。本実施形態のウインドパネル1における窓部領域1wの車内側の面に対する塗膜7を形成も、上記実施形態1と同様に、予め隠蔽層5が形成されたウインドパネル本体3を、図4(a)及び図5に示すように、隠蔽層5が下方に向き且つ突条部11のうち下辺部11b、つまりこれを構成する一対の傾斜部11eが上辺部11a及び窓部領域1wよりも下側に位置するように水平方向に対して傾斜させた姿勢とし、その状態で、窓部領域1wの車内側の全面に塗布ノズル101を用いて液状のハードコート剤Lをフローコートにより塗布した後に乾燥させることで行う。
【0044】
ハードコート剤Lの塗布は、塗布ノズル101を、突条部11のうち上辺部11a、つまりこれを構成する各傾斜部11gに沿って両側辺部11c,11dの間を略全体に亘って1往復させ、その過程で、上辺部11aの下側近傍の領域に塗布ノズル101からハードコート剤Lを掛け流して塗布することで行う。このとき、突条部11のうち上辺部11aの基端側角部にハードコート剤Lが塗布されても、この上辺部11aを構成する一対の傾斜部11gは、互いの連結部分から両側辺部11c,11d側に向かって下傾しているので、これら一対の傾斜部11gの基端側角部に塗布されたハードコート剤Lの余剰分は、各傾斜部11gを伝って下方へ速やかに誘導されて流れる。これにより、上辺部11aの基端側角部にハードコート剤Lが滞留して液塊ができることを抑制できる。
【0045】
また、突条部11の下辺部11bを構成する一対の傾斜部11eの連結部分11fに集められたハードコート剤Lの余剰分は、延出部13の案内面13b上を流れてウインドパネル本体3から離間する方向に誘導された後に排出される。したがって、ハードコート剤Lの余剰分がハードコート剤Lの排出部を構成する一対の傾斜部11eの連結部分11fの下側面を伝ってウインドパネル1の突条部11よりも外側の接着領域に流出することを防止できる。
【0046】
なお、ウインドパネル1を車体へ取り付ける際に、車体の窓用開口への取付け構造上の関係で延出部13が邪魔になる場合には、ウインドパネル本体3に塗膜7を形成した後に当該延出部13をハサミなどの切断手段で切断して除去すればよい。
【0047】
−実施形態2の効果−
この実施形態2によると、突条部11の上辺部11aの基端側角部にハードコート剤Lの液塊ができることも抑制できる。さらに、ハードコート剤Lの余剰分がウインドパネル1の突条部11よりも外側の接着領域に流出することを防止でき、この接着領域にハードコトート剤Lが掛かることに起因してウインドパネル1と車体との接着性が低下することを回避できる。
【0048】
《発明の実施形態3》
この実施形態3に係るウインドパネル1を図6(a)に示す。また、図6(a)のVI−Bで囲む部分の拡大図を図6(b)に示す。本実施形態でも、図6(a)に示すように、下辺部11bだけでなく上辺部11aが、上記実施形態2と同様に、各々窓部領域1wの上辺1aに対して傾斜すると共に互いに交差する方向にそれぞれ直線状に延びる一対の傾斜部11gで構成されていると共に、図6(b)に示すように、突条部11の下辺部11bを構成する一対の傾斜部11eの連結部分11fに、車内側に延出した延出部15が形成されている。
【0049】
本実施形態における一対の傾斜部11eの連結部分11fは、ウインドパネル1の外側方に向かって膨出し、窓部領域1w側に当該連結部分11fの高さ方向、つまり車内外方向に延びる断面略円形の溝部11hを有しており、円筒管を長さ方向に一部カットしたような形状(カット部分が溝部に対応)に形成されている。そして、本実施形態の延出部15は、このような一対の傾斜部11eの連結部分11fに連続して延びる略円筒形のピン形状を有し、ウインドパネル1を車体へ取り付ける際の位置決めピンとして利用される。
【0050】
この延出部15には、一対の傾斜部11eの連結部分11fに形成された溝部11hに連通すると共に当該延出部15の先端で解放された溝部15aが形成されている。この延出部15の溝部15a内面は、一対の傾斜部11eの連結部分11fに集められてこの連結部分11fの溝部11hから流れるハードコート剤Lの余剰分を案内する案内面を構成している。そして、本実施形態の延出部15も、ハードコート剤Lの塗布時に、延出基の一対の傾斜部11eの連結部分11fと共に斜め下方に向けられてハードコート剤Lの余剰分を排出する排出部を構成する。
【0051】
本実施形態のウインドパネル1の製造における塗膜7形成工程の様子を図7に示す。この図7は、図6(a)のVII−VII線に対応する箇所の断面図である。本実施形態のウインドパネル1における窓部領域1wの車内側の面に対する塗膜7を形成も、上記実施形態1と同様に、予め隠蔽層5が形成されたウインドパネル本体3を、図6(a)及び図7に示すように、隠蔽層5が下方に向き且つ突条部11のうち下辺部11b、つまり一対の傾斜部11eが上辺部11a及び窓部領域1wよりも下側に位置するように水平方向に対して傾斜させた姿勢とし、その状態で、窓部領域1wの車内側の全面に塗布ノズル101を用いて液状のハードコート剤Lをフローコートにより塗布した後に乾燥させることで行う。
【0052】
このような塗膜7の形成においてハードコート剤Lを塗布した際に、突条部11の下辺部11bを構成する一対の傾斜部11eの連結部分11fに集められたハードコート剤Lの余剰分は、当該連結部分11fに形成された溝部11hから延出部15の溝部15aを流れてウインドパネル本体3から離間する方向に誘導された後に排出される。したがって、ハードコート剤Lの余剰分がハードコート剤Lの排出部を構成する一対の傾斜部11eの連結部分11fの下側面を伝ってウインドパネル1の突条部11よりも外側の接着領域に流出することを防止できる。
【0053】
−実施形態3の効果−
この実施形態3によると、延出部15とは別個に位置決めピンを設ける必要がなく、ウインドパネル1の構成を簡略化することができる。また、延出部15を位置決めピンとして利用することで、ウインドパネル1を車体へ円滑に組み付けることができる。その他は、上記実施形態2と同様の効果を得ることができる。
【0054】
なお、上記実施形態1〜3では、突条部の下辺部11bが一対の傾斜部11eで構成されていて、これら一対の傾斜部11eの連結部分11fでハードコート剤Lの排出部が1箇所だけに設けられた構成を例示したが、本発明はこれに限らず、突条部11の下辺部11bは、一対の傾斜部11eが複数組連結されて構成され、各組一対の傾斜部11eにおける連結部分11fがハードコート剤Lの排出部を構成し、ハードコート剤Lの排出部が複数箇所に設けられた構成であってもよい。
【0055】
さらに、上記実施形態1〜3では、突条部11のうち下辺部11bを構成する一対の傾斜部11eの連結部分11fが塗膜7形成時のハードコート剤Lの余剰分を排出する排出部を構成するとしたが、本発明はこれに限らず、突条部11のうち側辺部11c,11dが一対の傾斜部11eで構成されていてこれら一対の傾斜部11eの連結部分11fが塗膜7形成時のハードコート剤Lの余剰分を排出する排出部を構成していてもよい。また、上記実施形態2及び3においては、突条部11のうち上辺部11aを構成する一対の傾斜部11gの連結部分を塗膜7形成時のハードコート剤Lの余剰分を排出する排出部としても構わない。
【0056】
また、上記実施形態2及び3では、延出部13,15が一対の傾斜部11eの連結部分11fからハードコート剤Lの余剰分を受けて案内する案内面を有しているとしたが、本発明はこれに限らず、延出部13,15は、案内面を特段有していない、例えば単純な円柱ピン形状などに形成されていてもよく、一対の傾斜部11eの連結部分11fから排出されるハードコート剤Lの余剰分を伝わせてウインドパネル本体3から離間する方向に誘導するものであればよい。
【0057】
また、上記実施形態1〜3では、ハードコート剤Lの塗布をフローコートによって行うとしたが、本発明はこれに限らず、ハードコート剤Lの塗布は、スプレー塗布などの他の方法によって行ってもよい。
【0058】
その他、上記実施形態1〜3では、ウインドパネル1が車両の側面後部に形成された窓用開口に取り付けられるものを例示したが、本発明はこれに限らず、車両の前部及び後部のウインドパネルやルーフに取り付けられるウインドパネルにも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明は、車両用樹脂製ウインドパネルについて有用であり、特に、曲げや捩りに対する剛性を向上させつつハードコート剤の塗膜が剥離するおそれの少ないことが要望される車両用樹脂製ウインドパネルに適している。
【符号の説明】
【0060】
L ハードコート剤
1 車両用樹脂製ウインドパネル
1w 窓部領域
1b 窓部領域の下辺
3 ウインドパネル本体
5 隠蔽層
7 塗膜
11 突条部
11e 傾斜部
11f 一対の傾斜部の連結部分
13,15 延出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7