特許第5941902号(P5941902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マフィン・インコーポレイテッドの特許一覧

<>
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000002
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000003
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000004
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000005
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000006
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000007
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000008
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000009
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000010
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000011
  • 特許5941902-脳の冷却のためのシステム 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941902
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】脳の冷却のためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/10 20060101AFI20160616BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20160616BHJP
   A61F 7/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   A61M16/10 Z
   A61M16/00 375
   A61F7/00 331E
【請求項の数】29
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-500147(P2013-500147)
(86)(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公表番号】特表2013-521944(P2013-521944A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】US2011028475
(87)【国際公開番号】WO2011115964
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】61/313,865
(32)【優先日】2010年3月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512240408
【氏名又は名称】マフィン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MUFFIN INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン,イェスパー・テュアゴズ
(72)【発明者】
【氏名】フィアノット,ニール・イー
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−518544(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0123813(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/094505(WO,A1)
【文献】 特開昭58−001464(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0107950(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0133031(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/10
A61F 7/00
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の治療的冷却のためのシステムであって、
ストラップと穴とを有するマスクを含み、前記マスクは、前記マスクが患者の顔に載ると、患者の顔の少なくとも一部と前記マスクとの間にスペースが存在するように、少なくとも患者の鼻を覆うとともに前記ストラップによって患者の頭に対して保持されるように適合され、前記システムはさらに、
圧縮された呼吸可能なガスから本質的になる冷媒の源を含み、流路が前記源から前記マスクの前記穴を通るよう延在し、前記システムはさらに、
前記冷媒の源と前記マスクの前記穴との間において前記流路中に存在する、ガス圧を減少させるレギュレータと、
前記冷媒のための前記流路の少なくとも一部を規定する内腔を有する、前記冷媒を前記マスクに向かって運ぶための送達チューブとを含み、前記送達チューブは、前記送達チューブの一部であるかまたは前記送達チューブに一体化された断熱材料を含み、
前記冷媒は、前記源からの解放の際または解放の後、断熱的に冷却され、
該システムは、ガスの温度を設定または変更する外部装置を備えていない、システム。
【請求項2】
前記源は、圧縮された呼吸可能なガスのキャニスタである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記送達チューブに接続される第1および第2の挿入チューブをさらに含み、前記第1および第2の挿入チューブの各々は、開口部を有するそれぞれの自由端へと延在し、前記挿入チューブは、前記自由端が患者の鼻の前鼻甲介領域を超えて気道において位置決めされ、そのため前記ガスが前記挿入チューブを出る前に前記鼻の粘膜と甲介とを通過するように患者の鼻のそれぞれの鼻孔へと挿入されるようサイズ決めおよび構成され、
前記送達チューブおよび少なくとも1つの挿入チューブの少なくとも1つは、前記少なくとも1つの挿入チューブが患者の鼻の中に挿入される際に前記マスクが患者の顔に載るように前記マスクの前記穴を通って延在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記送達チューブの構成された条件は、発泡断熱材料の前記送達チューブを形成することを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記送達チューブの構成された条件は、発泡断熱材料の外層を有するプラスチック内腔の前記送達チューブを形成することを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記源は2つの圧縮ガスキャニスタを含み、前記システムはさらに前記送達チューブと前記キャニスタの各々とに接続されるY字型コネクタを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記源は、2つの圧縮ガスキャニスタを含み、前記システムはさらに前記キャニスタの各々と前記送達チューブとに接続される2ウェイの止め栓を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記レギュレータは、前記レギュレータの出力が前記マスクの前記穴に連通し、そのため前記レギュレータからの断熱的に冷却されたガスが前記マスクに入るように前記マスクに固定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記送達チューブは、前記源から前記レギュレータへの高圧チューブである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記マスクは、患者の目を覆うように適合される、請求項7に記載のシステム。
【請求項11】
前記マスクはフルフェイスマスクである、請求項7に記載のシステム。
【請求項12】
前記マスクは、患者の口を覆うように適合される、請求項7に記載のシステム。
【請求項13】
前記送達チューブ、レギュレータ、およびマスクのうち1つ以上に接続されるセンサと、前記センサに通信可能に接続される読取部とをさらに含み、前記読取部は、前記冷媒の温度および圧力の少なくとも1つの表示を提供する、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記読取部は前記マスクに固定され、前記マスクは、患者に装着されると患者の目の観察を可能にし、前記患者の目および前記読取部は両方とも、前記マスクが前記患者に装着されている際に、観察者の視野にある、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
圧縮ガスによって脳を冷却するためのシステムであって、
患者の頭における組織との熱伝達のための圧縮された呼吸可能なガスの供給部を含み、前記ガスは最初は大気圧よりも大きな第1の圧力にて少なくとも1つのキャニスタにおいて与えられ、前記システムはさらに、
少なくとも患者の鼻および目を覆うように患者の顔の上に装着するためのマスクを含み、前記マスクは、前記マスクに装着されたレギュレータを有し、前記システムはさらに、
前記少なくとも1つのキャニスタを前記レギュレータに接続する高圧送達チューブを含み、前記送達チューブは、前記送達チューブに沿って移動するガスが前記チューブに沿ってほぼ同じ温度のままであるように構成され、
前記ガスは、室温を下回る第1の温度まで断熱的に冷却され、前記ガスは、前記マスクの中にほぼ前記第1の温度で流れ込み、脳腔に隣接する組織を冷却する、システム。
【請求項16】
少なくとも部分的に前記マスクの中に存在する第1および第2の鼻チューブのセットをさらに含み、前記鼻チューブの各々は、患者のそれぞれの鼻孔内への挿入のためのものであり、前記第1および第2の鼻チューブの各々はそれぞれの穴を有するそれぞれの遠位端を有し、前記第1および第2の鼻チューブの各々は、前記第1および第2の鼻チューブが患者の中に完全に挿入されると、前記それぞれの遠位端が、いずれの鼻孔を通る気道を閉
じることなく患者の後鼻孔の1つ以上に位置決めされるようにサイズ決めおよび構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1の温度は、0℃と20℃との間である、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
呼吸可能なガスの前記供給部は、約1℃〜5℃だけ脳の少なくとも一部を冷却するのに、フロー、温度、および継続時間において十分である、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記供給部は、圧縮ガスの複数のキャニスタによって提供され、送達チューブは複数のキャニスタからのフローを容易に受け入れるよう適合される、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記送達チューブは止め栓に接続され、前記止め栓は圧縮ガスの前記複数のキャニスタに接続され、前記止め栓は、前記複数のキャニスタの間で、前記送達チューブへのフローを切り替えるよう動作可能である、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記送達チューブの構成された条件は、前記送達チューブ内または上に統合される断熱層を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項22】
前記送達チューブにおける流量と前記ガスの温度の少なくとも1つを検出するための少なくとも1つのセンサと、前記少なくとも1つのセンサに通信可能に接続される、前記センサから導出される情報を表示するための少なくとも1つの読取部とをさらに含み、前記読取部は前記マスクに固定される、請求項15に記載のシステム。
【請求項23】
局所的な低体温治療を適用するための冷却システムであって、
呼吸可能なガスから本質的になる熱伝達媒体を含み、前記ガスは、大気圧より大きな圧力にて少なくとも1つのキャニスタにおいて供給され、前記冷却システムはさらに、
前記キャニスタに接続される送達チューブを含み、前記送達チューブは、前記ガスが、前記長さに沿って前記ガスの温度における有意な変化なく前記送達チューブに沿って移動可能であるように構成され、前記冷却システムはさらに、
前記レギュレータの出力が前記マスク内に流れ込むように前記送達チューブに接続されるレギュレータを有するマスクを含み、前記マスクはさらに、前記マスクに取り付けられた読取ディスプレイを有し、前記読取ディスプレイは、システムの動作に関する情報を示し、前記冷却システムはさらに、
前記送達チューブに接続される止め栓を含み、前記止め栓は、第1の前記キャニスタから第2の前記キャニスタへ、前記送達チューブの中へのフローを変更するよう動作可能である、冷却システム。
【請求項24】
前記キャニスタは、前記システムが緊急応答者によって患者まで携行可能であるように、手で持ち運び可能なサイズおよび重量である、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記送達チューブの構成された条件は、前記送達チューブが完全に発泡断熱材料から形成されることを含む、請求項23に記載のシステム。
【請求項26】
前記送達チューブに接続される対の挿入チューブをさらに含み、前記対の挿入チューブは、前記挿入チューブの各々のそれぞれの遠位端が、前記挿入チューブが完全に患者に挿入される際に患者の後鼻孔に存在するようにサイズ決めおよび構成され、前記挿入チューブの各々は、前記挿入チューブの前記それぞれの遠位端に単一の出口を有することにより、前記ガスは前記チューブを一方向から出る、請求項23に記載のシステム。
【請求項27】
前記送達チューブは、発泡絶縁材料である、請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
前記送達チューブは、硬いプラスチック材料と柔らかい発泡材料との組み合わせである、請求項1に記載のシステム。
【請求項29】
前記送達チューブの長さが、約30.48cm以下である、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特定の組織または身体部分に冷却を施すのに有用な装置および方法に関する。特に、損傷を低減または制限するよう、脳のような内部組織または臓器を冷却するための、より高速かつあまり複雑ではないシステムおよび技術に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
低体温法、すなわち患者の体温を下げることは、血流が不十分である期間の後に発生する、たとえば心停止または卒中の後に発生する組織への虚血性の障害の危険性を低減するのを補助する治療として用いられている。このような低体温を引き起こすために様々なシステムおよび方法が提案されている。たとえば、冷却槽内に身体を浸すこと、冷却ラップで身体を包むこと、または血流を身体から出して冷却装置を通るよう経路付けすることといったことが提案されている。他のシステムでは、冷却機構または冷却フローを有するキャップ、ヘルメット、または襟の装着による頭の外部冷却が提案されている。他の方策は、揮発性の液体状のパーフルオロカーボン冷媒を鼻腔中に噴霧し、当該冷媒の蒸発によって頭の温度を下げること、またはたとえば冷液を用いて内部の気道の組織に対してバルーンを拡張することを含んでいる。
【0003】
しかしながら、冷却のためのこのようなシステムは、脳または他の特定の組織を冷却する目的に対しては最適ではない。槽またはラップによる全身冷却は、注意深く施されなければ、皮膚、筋肉、または他の組織に対する損傷への危険性が存在する。さらに、身体を覆うために巨大なまたは相対的に大きな装置が必要となる。さらに一般的に、脳または他の局所的な組織を治療するために全身が低体温法にさらされる必要がない場合、冷却の過剰使用となる。外部の冷却装置を通るよう血液を経路付けすることは、洗練された機器を必要とするだけでなく、限られた時間、たとえば患者が心肺バイパスに耐えることができる時間量の間だけしかなされ得ない。頭の外部冷却は、一般的に患者の頭および/または首にぴったりと装着されなければならない外部装着を必要とする。これにより、異なる患者について多くのサイズまたは調整性が必要になる。さらに頭の外部冷却は、その周囲環境への露出により、冷却が実質的に非効率であり得る。身体内での揮発性の冷媒の使用には、冷媒の潜在的な毒性レベルを監視する点と、当該冷媒が身体の部分に残留し、体がそれを許容することを保証する点とにおいて困難さが存在する。気道を塞ぐバルーンは、患者の呼吸への干渉により、かなりの期間に亘って使用可能とはなり得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、たとえば脳を治療するとともに、血流の欠乏(たとえば卒中または心停止)または外傷性障害から発生する悪影響から脳を保護するよう冷却を特定の組織に適用するための新規な装置および方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本開示は特に、圧縮された呼吸可能なガスから本質的になる冷媒の源と、当該冷媒の源に接続される近位端を有する送達チューブとを含む装置を含む。ガスが当該源から送達チューブの近位端へと解放されると、このガスは断熱的に冷却する。上記送達チューブは、当該ガスが、熱エネルギの実質的な取得なしで、たとえば20℃より高いかまたは約1℃〜5℃より高い温度を得ることなく、送達チューブを通過するよう構成される。少なくとも1つの挿入チューブが送達チューブに接続され、開口部を有する自由端へと延在する。この挿入チューブは、当該自由端が患者の鼻の前鼻甲介領域を超えて患者の気道内に位置決めされるように患者の鼻の中へと挿入されるようサイズ決めおよび構成される。そのため、当該ガスは、挿入チューブを出る前に鼻の粘膜および甲介を通過する。このガスは、送達チューブの近位端と上記少なくとも1つ挿入チューブとの間ではさらなる冷却を経験しない。
【0006】
いくつかの実施例では、ガスの源は、圧縮された呼吸可能なガスのキャニスタであり、このキャニスタは、手で持ち運び可能(たとえば小型の医療用キャニスタ)であってもよく、または持ち運び可能ではないスタンドアロンのタンクであってもよい。少なくとも患者の鼻を覆うとともに、患者の頭に対して保持されるようマスクが設けられてもよい。マスクは、少なくとも1つの挿入チューブが患者の鼻に挿入されると患者の顔に当該マスクが載った状態で、送達チューブおよび挿入チューブの少なくとも1つがマスクを通るよう延在するように設けられてもよい。送達チューブの上述した構成された条件は、送達チューブの長さが約1フィート以下であること、送達チューブの材料が断熱材料(たとえば発泡断熱材料)であること、および/または送達チューブが断熱材料の外層を有することを含んでもよい。ガスの源は、1つより多い圧縮ガスキャニスタであってもよく、たとえば、送達チューブおよびキャニスタの各々に接続されるY字型のコネクタを有する2つの圧縮ガスキャニスタであってもよい。2ウェイの止め栓が、キャニスタの各々と送達チューブとに接続されてもよい。
【0007】
他の実施例では、脳を圧縮ガスで冷却するためのシステムが開示される。このシステムは、患者の頭における組織との熱伝達のために圧縮された呼吸可能なガスの供給部を含み得、当該ガスは最初は大気圧よりも大きな第1の圧力にて少なくとも1つのキャニスタにおいて供給される。患者のそれぞれの鼻孔への挿入のための第1および第2の鼻チューブのセットは各々、それぞれの穴を有するそれぞれの遠位端を有してもよく、当該チューブが患者に完全に挿入されると、それらのそれぞれの遠位端が患者の後鼻孔の1つ以上に位置決めされるようにサイズ決めおよび構成されてもよい。送達チューブは、キャニスタを鼻チューブに接続し、送達チューブに沿って進むガスが、チューブに沿ってほぼ同じ温度のままであるように構成されてもよい。ガスは、送達チューブに入ると、室温を下回る第1の温度へと断熱的に冷却される。ガスは、如何なる付加された液体なしで、送達チューブおよび鼻チューブを通るよう流れ、ほぼ第1の温度にて鼻チューブのそれぞれの穴を出る。これにより、脳腔に隣接する組織が冷却される。
【0008】
ある実施例では、上記システムは、少なくとも1つのキャニスタと送達チューブとに接続される少なくとも1つのレギュレータを含み得る。レギュレータから送達チューブに入った際のガスの断熱冷却により、当該ガスは、約0℃と20℃との間の第1の温度まで冷却され、第1の温度以上であり約0℃と20℃との間の第2の温度にて鼻チューブを出る。呼吸可能なガスの供給は、約1℃〜5℃だけ脳の少なくともある部分を冷却するために、フロー、温度、および継続期間において十分である。この供給は、圧縮ガスの複数のキャニスタによって与えられ得る。送達チューブは複数のキャニスタからのフローを容易に受け入れるように適合される。送達チューブは止め栓に接続されてもよい。この止め栓は、圧縮ガスの複数のキャニスタに接続され、これらの複数のキャニスタの間で送達チューブへのフローを切り替えるよう動作可能である。送達チューブの構成された条件は、送達チューブの中または上に統合される断熱層を含んでもよい。
【0009】
大気圧よりも大きな圧力でキャニスタ内に供給される呼吸可能なガスから本質的になる熱伝達媒体を含む、局所化された低温治療を適用するための冷却システムが開示される。このガスは、いかなる液体も内部に有さず、またはいかなる液体も推進しない。送達チューブはキャニスタに接続され、ガスが送達チューブの長さに沿ってガスの温度の有意な変化なしに、送達チューブに沿って移動し得るように構成される。対の挿入チューブが送達チューブに接続される。当該対の挿入チューブは、これらの挿入チューブが完全に患者に挿入されると、各挿入チューブのそれぞれの遠位端が患者の後鼻孔内に存在するようにサイズ決めおよび構成される。キャニスタは、手で持ち運び可能なサイズおよび重量であってもよいので、当該システムは緊急応答者によって患者にまで携行可能である。上記の送達チューブの構成された条件は、完全に発泡断熱材料のような断熱材料の送達チューブを形成することを含み得る。これらの挿入チューブの各々は、ガスが一方向においてチューブから出るように、それぞれの遠位端に単一の出口を有してもよい。
【0010】
この開示は、(高圧チューブと一体的または高圧チューブを介する)レギュレータに取り付けられ得る圧縮ガス源(たとえばO、N)を含み、レギュレータからの出力チューブは、患者の口および鼻の上に配置されるマスクへと延在する。当該送達チューブは、マスクの中へと延在するとともに、鼻腔の中に挿入されて冷たいガスを洞領域の前へと直接的に送達する対のより小さいチューブとして分岐する。これらの鼻チューブは、鼻粘膜からこの入って来る気流への最も大きい熱伝達が発生するよう示される鼻の前鼻甲介領域をバイパスするまたは当該鼻の前鼻甲介領域を超えて開口するように、酸素の送達のための標準的な鼻チューブよりも長い長さとなっている。これにより、導入される冷たいガスの温度がより良好に維持されることが補助される。鼻チューブは、側穴を介してスプレーとして揮発性の化学物質を鼻の中に送達するよう用いられるシステムにおけるスプレーチューブよりも短い。当該スプレーチューブは、洞との接触が最大化されるように洞領域の後部までずっと延在する。
【0011】
本願明細書において開示され、上で示された治療的冷却のためのシステムはしたがって、ストラップと穴とを有するマスクを含み得、当該マスクは、少なくとも患者の鼻(ならびにおそらく目、口、および/または顔もしくは頭の他の部分)を覆うとともに、当該ストラップにより患者の頭に対して保持されるように適合される。マスクが患者の顔に載る際には、患者の顔の少なくとも一部とマスクとの間にスペースが存在する。たとえば単にまたは本質的に圧縮された呼吸可能なガスといった冷媒の源と、その源から上記マスクのマスク穴を通る流路とが設けられ得る。当該冷媒源と当該穴との間の流路においてレギュレータが存在してもよく、内腔を有する送達チューブが冷媒をマスクに向かって運ぶための流路の少なくとも一部を規定する。少なくとも1つのセンサは、送達チューブ、レギュレータ、およびマスクの1つ以上に接続されてもよく、冷媒に関する情報を提供するよう、読取部がセンサに通信可能に接続される。冷媒は源からの解放の後、断熱的に冷却される。
【0012】
上記源は、特定の実施例では、圧縮された呼吸可能なガスのキャニスタであり、当該キャニスタは、例として、手で持ち運び可能であるか、またはスタンドアロンのタンクである。挿入チューブは、送達チューブに接続されてもよい。当該挿入チューブの各々はたとえば、開口部を有するそれぞれの自由端に延在し、および/または当該自由端が患者の鼻の前鼻甲介領域を超えて気道内に位置決めされるように患者の鼻のそれぞれの鼻孔に挿入されるようサイズ決めおよび構成される。このような場合には、ガスは、挿入チューブを出る前に、鼻の粘膜および甲介を通過する。送達チューブまたは挿入チューブの少なくとも1つは、少なくとも1つの挿入チューブが患者の鼻に挿入されると、マスクが患者の顔に載るようにマスクの穴を通って延在する。いくつかの実施例は、送達チューブの長さが約1フィート以下であるという、送達チューブの構成された条件を含む。送達チューブの他の例示的な構成された条件は、発泡断熱材料で当該送達チューブを形成すること、および/または発泡断熱材料の外層を有するプラスチック内腔で形成することを含む。源は2つの圧縮ガスキャニスタを含み得る。このような場合、システムは、送達チューブおよびキャニスタの各々に接続されるY字型のコネクタと、キャニスタの各々および送達チューブに接続される2ウェイの止め栓との一方または両方をさらに含んでもよい。
【0013】
特定の実施例ではレギュレータは、レギュレータの出力がマスクの穴と連通するようにマスクに固定され、レギュレータからの断熱的に冷却されたガスがマスクに入る。上記の源から上記レギュレータまでの高圧チューブが用いられてもよい。さまざまなマスクの実施例では、マスクは患者の目および/または口と、鼻とを覆い得、フルフェイスマスクであってもよい。読取部は、マスクに固定され得、患者に装着された際には、当該マスクは患者の目の観察を可能にする。そのため、当該マスクが患者に装着される際には、患者の目および読取部はともに観察者の視野内に存在する。
【0014】
圧縮ガスを用いて脳を冷却するためのシステムはさらに、患者の頭における組織に対する熱伝達のための、最初は大気圧よりも大きな第1の圧力にて少なくとも1つのキャニスタにおいて与えられる圧縮された呼吸可能なガスの供給部と、少なくとも患者の鼻および目を覆うよう患者の顔の上に装着するためのマスクとを有するとして特徴付けられ得る。当該マスクは、マスクに取り付けられるレギュレータを有する。高圧送達チューブがキャニスタをレギュレータに接続する。この送達チューブは、当該チューブに沿って移動するガスがほぼ同じ温度のままであるように構成される。ガスは、レギュレータを通過することにより、室温を下回る第1の温度まで断熱的に冷却され、ほぼ第1の温度でマスクの中に流れ込み、これにより脳腔に隣接する組織を冷却する。いくつかの実施例では、患者のそれぞれの鼻孔への挿入のための第1および第2の鼻チューブのセットが設けられる。このようなチューブの各々は、穴をそれぞれ有するそれぞれの遠位端を有し、患者に完全に挿入されると、それぞれの遠位端が患者の後鼻孔の1つ以上の中に位置決めされるようサイズ決めおよび構成される。第1の温度はたとえば、0℃と20℃との間である。呼吸可能なガスの供給は、約1℃〜5℃だけ脳の少なくともある部分を冷却するために、フロー、温度、および継続期間において十分であってもよい。特定の実施例では、この供給は、圧縮ガスの複数のキャニスタによって与えられる。送達チューブは、複数のキャニスタからのフローを容易に受け入れるように適合される。たとえば送達チューブは止め栓に接続されてもよい。この止め栓は、圧縮ガスの複数のキャニスタに接続され、これらのキャニスタの間で送達チューブへのフローを切り替えるよう動作可能である。上述したように、送達チューブの構成された条件は、送達チューブの中または上に統合される断熱層を含み得る。
【0015】
局所化された低温治療を適用するための冷却システムは、呼吸可能なガスから本質的になる熱伝達媒体を含んでもよく、当該ガスは大気圧よりも大きな圧力で少なくとも1つのキャニスタ内に供給されてもよい。送達チューブはキャニスタに接続され、送達チューブの長さに沿ったガスの温度の有意な変化なしに、ガスが送達チューブに沿って移動し得るように構成される。マスクは、レギュレータの出力がマスク中へ流れるように送達チューブに接続されるレギュレータと、当該システムの動作に関する情報を示す読取部とを有する。この情報は、システムのマスク、送達チューブ、または他の部分における1つ以上のセンサ(たとえば流量または温度センサ)から得られてもよい。止め栓が送達チューブに接続され、当該止め栓は、第1のキャニスタから第2のキャニスタへ送達チューブへのフローを変更するよう動作可能である。上述したように、実施例は、送達チューブに接続される対の挿入チューブを含み得る。当該対の挿入チューブは、挿入チューブが完全に患者の中に挿入されると、挿入チューブの各々のそれぞれの遠位端が患者の後鼻孔に存在するようにサイズ決めおよび構成される。キャニスタは、手で持ち運び可能なサイズおよび重量であってもよいので、当該システムは緊急応答者によって患者にまで携行可能である。上記の送達チューブの構成された条件は、送達チューブを完全に発泡断熱材料から形成することを含んでもよく、用いられる場合、これらの挿入チューブの各々は、ガスが一方向においてチューブから出るように、それぞれの遠位端に単一の出口を有してもよい。
【0016】
現在の呼吸酸素送達システムについてのチューブの長さは、酸素が源タンクから解放され鼻チューブへと流れる際に、酸素の温暖化を最大化するよう選択される。本システムでは、当該チューブの長さは可能な限り短くされ、一実施例では、長さが約1フィートであり、これによりガスの低温または負の熱エネルギを維持する。ガスフローの周囲環境による温暖化または患者との直接接触による温暖化の影響をさらに制限するために、送達チューブおよび/または鼻チューブは、熱伝達を制限する発泡または他の好適な材料のような断熱材で被覆されてもよい。熱伝達を制限するよう短くされた送達チューブと、鼻腔によるガスの温暖化を制限するよう長くされた鼻チューブとにより、ガスの最も低い利用可能温度が最大の治療の利益のために洞に送達される。本システムは、EMTによって用いられ得る応急キットとしてユニットで構成されてもよく、またはたとえばAED(自動体外式除細動器)とともに壁に取り付けられて会社または他の場所に保持されてもよい。医療用ガスキャニスタまたはシリンダのサイズは、たとえば救急治療の到着の前に卒中患者を治療する(たとえば約10分もしくは約15分の供給)か、または他の処置がなされ得るまで病院への搬送中に治療するかどうかといった装置の意図する使用に応じて変動する。もちろん、ガスキャニスタまたはボトルは空になると、交換され得る。
【0017】
これらおよび他の特徴を以下に詳細に記載し、卒中、心停止、もしくは他の原因による乏血、外傷による腫脹、または他の損傷に対処するようたとえば脳といった特定の組織に対してより直接的な治療的冷却を施すためのあまり複雑ではなく、より洗練され、より持ち運び可能または移動可能なソリューションを開示する。揮発性の化学物質の取扱い、洗練された混合または監視装置の設置、電気的もしくは他の外部冷却または冷却要素の統合、バルーンまたは他の気道を塞ぐ構造の挿入、および他の複雑なことは不必要であり、本開示の実施例は、必要とされるときおよび場所において容易に持ち運び可能および利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示に従ったシステムの実施例の図である。
図2図1の実施例のガスキャニスタの実施例の図である。
図3A図1の実施例におけるマスク構造の実施例の斜視図である。
図3B図1の実施例において有用な別のタイプのマスク構造の実施例の斜視図である。
図4図1の実施例における送達チューブの実施例の図である。
図5】付加的な構造を有する、図1および図4における送達チューブの実施例の図である。
図6図1において断面図で示され、患者に適用される実施例の部分の概略図である。
図7A】ガスキャニスタと送達チューブとの間の接続部の実施例を有する、図1におけるシステムの部分の図である。
図7B】ガスキャニスタと送達チューブとの間の接続部の別の実施例を有する、図1におけるシステムの部分の図である。
図8】特定の実施例における、図1に示されるチューブまたはその部分の断面図である。
図9図3Bにおいて断面図で示され、患者に適用される実施例の部分の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
例示される実施例の説明
この開示の原理の理解を促進する目的で、図面において例示される実施例に対して参照がなされるとともに、これらを説明するために特定の文言が用いられることとなる。しかしながら、これにより請求の範囲の限定が意図されるものではなく、例示される装置における代替例および変形例、ならびに当該開示における例示される原理のさらなる適用例は、本願明細書において、当該開示が関する技術の当業者が通常想到するものとして考慮されるということが理解されるであろう。
【0020】
図面を一般的に参照して、人間または動物の身体における特定の組織を冷却するためのシステム20の実施例が示される。以下の議論を通じて、脳虚血を治療するための治療法の一部としての脳の冷却が、治療方法およびシステム20の使用の例として言及される。身体の他の特定部分の冷却もシステム20を用いて行われ得るということが理解されるであろう。
【0021】
例示される実施例では、システム20は、キャニスタ22のような圧縮ガスの源と、キャニスタ22に接続される送達チューブ24と、送達チューブ24に接続される対の挿入チューブ26,28とを含む。一般的に、さらに以下に論じるように、キャニスタ22または他の源から送達チューブ24(および、設けられる場合は、挿入チューブ26,28)を介して患者までの流路においてガスが流れる。
【0022】
例示される実施例におけるキャニスタ22は、加圧された状態でガスを保持するための標準的な容器である。したがってキャニスタ22は、バルブまたはレギュレータ32と、1つ以上の流量または圧力レベルにてキャニスタ22からガスが解放されるのを可能にするための開口部34とを有する。たとえば、当該要素32は、大気圧より高い低圧力までキャニスタ22における圧力を下げるよう設計されたレギュレータであってもよい。標準的なタンク、シリンダ、または他のキャニスタは一般的に約2000〜6000psiまで加圧されたガスを含み、レギュレータ32は、その圧力を、送達チューブ24の中に入るとともに当該送達チューブ24を通るガスの安定した、有害でないフローを可能にする、大気圧を上回るレベル(14.7psiまたは760mmHg)まで低下させる。いくつかの実施例では、バルブまたはレギュレータ32は、以下にさらに述べられるようにたとえばマスクといったように、キャニスタ22に固定または一体化されるのではなく、高圧力チューブまたは導管を介してキャニスタ22または他のガス源に接続されてもよい。
【0023】
キャニスタ22は、治療構成においてガスを送達するのに適切な任意のサイズのものであってもよい。特定の実施例では、キャニスタ22は、バルブまたはレギュレータ32によって許可される流量または圧力レベルでの短期(約10分〜15分)の供給に十分な量のガスを含む持ち運び可能なシリンダまたはボトルである。一例として、キャニスタ22は、適切なCGA(圧縮ガス協会)標準の接続部を有する標準的なC、D、またはEシリンダであってもよい。他の実施例では、キャニスタ22は、ほぼ消防士もしくはスキューバダイバーのための持ち運び可能なブリージングタンクのサイズのタンク、またはほぼ実験室にあるスタンドアロンのタンクのサイズのタンクであってもよい。後者の場合は、このようなタンクは手で持ち運び可能ではなく、建物(たとえば病院)または車両(たとえば救急車)における適切な位置に設置され得ると理解されるであろう。
【0024】
キャニスタ22内のガスは、呼吸可能なガスである。すなわち患者の気道および洞路への適用に対応している。そのため当該ガスは、適用された場合、毒性がなく、身体の呼吸系または他の部分に沿った組織に対して化学的または生物学的な損傷を与えることがほとんどまたは全くない。特定の実施例では、当該ガスは、空気、酸素(O)もしくは窒素(N)のような分子ガス、富化空気であるナイトロックス、ヘリオックス、またはこれらのガス同士または他のガスとの1つ以上の組合せである。ある実施例では、キャニスタ22内のガスは実質的に純粋であり、有意なパーセンテージの他の望まれないガスを有さず、生物学的に活性な成分を有さない。キャニスタ22内のガスは、キャニスタ22の充満度に依存する圧力であるが、大気圧よりも著しく大きく、すでに述べたように、いくつかの実施例では、実質的にいっぱいであるキャニスタ22内のガスは、圧力が約2000〜6000psiであるか、または医療用ガスキャニスタについて一般的な圧力である。したがって、一実施例では、キャニスタ22は、酸素が充填された医療グレードまたは医療用のキャニスタまたはタンクであり、酸素の圧力を大気圧よりも大きな圧力まで低下させるために当該キャニスタに固定またはそうでなければ接続されるバルブまたはレギュレータ32を有する。
【0025】
送達チューブ24は、キャニスタ22(たとえば設けられる場合、バルブまたはレギュレータ32にて)に接続される。この実施例では、キャニスタ22からのガスの伝達のための中心内腔36を含む。送達チューブ24は、例示される実施例において、柔軟性があり、相対的に軽量である。これにより、患者およびシステム20のユーザの必要性に従って、チューブ24の移動および配置が容易になる。特定の実施例では、送達チューブ24は、破断または深刻な漏れなしで連続的なガスフローを扱うことが可能なポリ塩化ビニル(PVC)または同様の材料のチューブであるか、または当該チューブを含む。ある実施例では、送達チューブ24はさらに良好な断熱性を有しており、内腔36内において環境からガスへの熱伝達を制限する。したがって、チューブ24が内腔36を構成するただ1つの層の場合、その材料は熱電導に対して良好な抵抗を有するべきであり、および/または当該層の厚さは内腔36とチューブ24の外側の環境との間の熱伝達を最小化するべきである。特に、当該チューブの材料は、チューブ24の外側から内腔36内に熱が伝わるのを防止するべきである。たとえば、チューブ24は、熱伝達を最小に保つ必要がある材料の厚さによって患者の鼻に挿入するには大きすぎるチューブを形成しないような材料から形成されてもよい。
【0026】
特定の実施例では、断熱材料は、チューブ24(および/またはさらに以下で論じるチューブ26,28)の一部または当該チューブに一体化されてもよい。たとえばチューブ24は、押出成形により完全に発泡断熱材料から形成されてもよい。さらに、断熱性を増加させるよう、1つより多い層がチューブ24に含まれてもよく、または発泡または他の断熱材料38の1つ以上の層が、その長さのいくつかまたはすべてに沿ってチューブ24の周りに設けられてもよく、または少なくとも部分的に混合されてもよい。たとえば、チューブ24は、発泡断熱材料38の外層を有するPVCまたは同様の材料(内腔Lを形成する)の薄層39の共有押出し成形を通じて作られ得る。このようなチューブは、内部においてPVCのガス非透過品質を有し、その一方外部は、より柔らかくかつより快適であるか、患者にとってより潜在的な有害性が少なく、断熱されている。チューブ24のこのような実施例は、キャニスタ22からのガスが送達チューブ24内において内腔36を通る際に、当該ガスが有意に温められることを防止する。
【0027】
送達チューブ24は、特定の実施例ではマスク40までまたはマスク40を通って延在する。マスク40は、チューブ24を保持するとともに患者に冷却を施す際の簡便さおよび安全性のために、少なくとも患者の鼻の上と、おそらくは顔の他の部分(たとえば目および/または口)上とへの配置のために適合されてもよい。例示される実施例ではマスク40は、送達チューブ24の一部が延在する穴44を正面に有する本体42と、マスク40を患者の顔に保持するための、本体42の対向する側に取り付けられるストラップ46とを有する。穴44は、送達チューブ24の外径とほぼ同じサイズである。ワッシャ、バルブ、Oリング、または他の封止部または保持部材(図示せず)も穴44の中または穴44の近傍に設けられてもよい。これにより、マスク40と送達チューブ24との間の少なくとも最小の封止部を形成し、および/またはマスク40に対してチューブ24が動くかもしくは著しく動くことを防止する。マスク40,40′は、プラスチックの実質的にガス不浸透性の材料から形成されてもよく、昏睡状態またはより反応の少ない患者に酸素を提供する(たとえば図3A)よう患者の鼻および口の上で用いられるものであってもよい。または、目および鼻を覆うマスクのような他のタイプのマスク(たとえば図3B)であってもよい。これらのマスクの各々は、患者に装着されると、当該マスクと患者の顔との間にスペースを提供する。上で示したように、マスク40は、患者に冷却ガスを施すことを可能にするよう少なくとも顔の一部を覆うよう意図される。
【0028】
前者の場合(図3A)、本体42の形状は、患者の少なくとも鼻および口を覆うよう概して円形または楕円形である。マスク40が装着されると、穴44はマスク40の中央または上側領域に存在し、患者の鼻にほぼ隣接する。送達チューブ24は、挿入チューブ26,28へとマスク40内で分岐する。挿入チューブ26,28は、身体への挿入のために分岐する送達チューブ24の部分であり、チューブ26,28の各々は、自身の内腔50,52を有する。この実施例では、内腔50,52はそれぞれのチューブ26,28内の中心に位置し、チューブ24の内腔36と連通または内腔36と連続している。他の実施例では、挿入チューブ26,28は、基部または茎部においてチューブ26,28を結合して概してY字型の構造を形成することにより、送達チューブ24とは別個に作られてもよい。当該Y字型の構造は、マスク40内の送達チューブ24の端部に取り付けられる(たとえば溶接またはまたは別の態様で封止される)。
【0029】
後者の場合では、マスク40′は一般的に、スキューバタイプのマスクの形態(図3B)にあってもよい。マスク40′は、穴44′を有する本体42′と、患者の顔に対してマスク40′を維持するよう患者の頭の周りまたは上を通過するためのストラップ46′とを含む。本体42′は、少なくとも患者の鼻および目を覆うようサイズ決めおよび構成される。マスク40′の例示される実施例は、顔に接触するマスク40′の部分の周りに封止部材43′を含み、当該封止部材43′は、周辺部または圧縮可能ゴム、ラテックス、もしくはプラスチック縁部の形態にあってもよい。マスク40′を顔に保持する際にストラップ46′が与える力がかかった封止部材43′は、流体密着(たとえば気密性の)封止部を本体42′と患者の顔との間に提供する。本体42′は、閉鎖的または一元的、すなわち一体であってもよい。すなわち、本体42′は、外部フレーム42′aと、内部部分または挿入部42′bとを有し得る。後者の場合の特定の実施例では、マスク40′が患者に装着されると、内部部分42′bは一般的に、患者の目の前に存在する。冷却されたガスをマスク40′の内部から取り除く何らかの必要性がある場合、または、取り除かなければマスク40′内の環境に影響を与えるか当該環境を変化させてしまう場合に、マスク40′内のスペースのガス抜きを行うために1つ以上のベント(図示せず)が本体42′に含まれてもよい(存在する場合は、フレーム42′aおよび内部部材42′bのいずれかまたは両方を含む)。内部部分42′bは、フレーム42′aとの流体密着または気密封止部を有し、医師、医療技術者、または他の専門家が、治療の間、患者の目および顔組織を観察するのを可能にするように透明であってもよい。マスク40′は、患者の目および鼻を覆う実施例において例示されるが、他の実施例は目、鼻、および口を覆うか、またはフルフェイスマスクであってもよいことは理解されるであろう。
【0030】
穴44′はマスク40′において相対的に中央の位置に存在し、キャニスタ22または他のガス源からのガスのための入口またはポートとして機能するか、または当該入口またはポートを含んでもよい。上に示されるように、レギュレータ32は、キャニスタ22から離れて配置されてもよいが、高圧チューブまたは導管を介してキャニスタ22に接続される。図3Bに示されるように、レギュレータ32は、レギュレータ32の出口または出力が穴44′と連通するようにマスク40′に接続または固定される。他の実施例では、短いチューブ(図示せず)がレギュレータ32の出口を穴44′に接続してもよい。ガスのための流路は、源(たとえばキャニスタ22)からチューブ24およびレギュレータ32を通ってマスク40′まで延在する。高圧ガスがレギュレータ32へと流れ、レギュレータ32を通り、圧力が低下(および温度が低減)され、マスク40′の内部に直接的に流れ込む。取り付けられたレギュレータ32がマスク40′に設けられるとともにチューブ24が高圧チューブから形成されるこのような実施例では、マスク40′は、空のガス源(たとえばキャニスタ)から容易に切り離され、一杯のキャニスタまたは他の源に再接続される。
【0031】
例示される実施例におけるマスク40′は、挿入チューブ26,28を含まないが、他の実施例は本願明細書において記載されるように構成および使用されるこのようなチューブを含み得るということは理解されるであろう。ガスを鼻に運ぶ挿入チューブ26,28がない場合、マスク40′の内部空間(マスク自体と患者の顔との間のマスク40′の内部)は冷却ガスを含む。当該ガスのいくつかは、鼻を通って吸入され、その一方、いくつかは患者の目、頬、鼻、およびおそらくはマスク40′が覆う他の顔の部分の上のスペースに留まる。吸引されたガスは、鼻を通過して、後鼻孔に到達し、冷却を施す。この実施例では、マスク40′へと流れるガスの温度は、マスク40に対して与えられるよりも幾分冷たくなり得る。これは、ガスは、鼻の組織を通る際に、幾分温められることになるからである。さらに、当該マスク内のガスは、目の組織のようなより柔らかい組織へ冷却を施すか、または当該組織を介して冷却を施す。鼻の気道内の軟組織と同様に、軟らかい目組織の冷却は、固い骨組織または同様の断熱体が干渉しないので、脳およびその血管系へと与えられ得る。目組織における血液は、洞を通じて眼静脈を経由して流れ出る。これにより、目組織からの冷却された静脈血が洞および脳組織に隣接して流れ出る。
【0032】
特定の実施例では、システム20は、正圧の呼吸可能なガスを患者のために提供するよう構成され得る。たとえば、レギュレータ32は、正圧を作り出すために、大気圧を十分上回る圧力にてガスを放出するように設定されてもよい。そのためガスは、患者が吸入する場合にいつでも利用可能であり、吐出は患者の口を通るよう一般的または全体的に方向づけされる。1.1気圧(atm)、1.5atm、2.0atm、または1.1atmと2.0atmとの間の他の圧力といった気圧を上回る圧力は、本願明細書において開示されるように治療を施す際に有利であると考えられる。マスク40′を用いる特定の例として、システム20は、マスク40′内において約1.5atmの正圧を与えるよう設定される。この正圧は、患者の鼻にて到達可能であるが、患者の口は、大気圧(たとえば1.0atm)に近いまたは大気圧内にある。患者が吸引すると、患者の鼻での正圧は、正圧の力により(実質的にすべてでなければ)実質的な割合の吸引されたガスが鼻および鼻咽腔を通ることを確実にする。したがってこのガスは、室温空気ではなく、システム20からの冷却用の呼吸可能なガスである。さらに、圧力が維持されれば、患者が呼吸をするたびに吸入に利用可能なガスが存在する。したがって、各吸入により、付加的な冷却ガスが鼻咽腔および患者の肺に与えられる。患者が息を吐き出す場合、吐出に対してもっとも抵抗が小さい経路は口である。口での圧力は、マスク40′および患者の鼻の気道における正圧よりも著しく小さい。結果として、患者の肺からまたは肺へと移動する際に温められるガスは鼻咽腔および関連する軟組織から少なくとも大きくまたは完全に離される。したがって、このような正圧は、マスク40′内の空間から鼻および鼻咽腔を通って肺へ、および肺から口を通って出るフローまたは循環を作り出し得、マスク40′内への息の吐出がほとんどないか全くない。冷却ガスの一貫した供給が適切な軟組織に吸入ごとに与えられ、より暖かいガスがそれらの軟組織に近づくことが低減または排除される。
【0033】
マスク40,40′はプラスチックの、実質的にガス不浸透性の材料からなってもよく、昏睡状態またはあまり反応のない患者などに酸素を供給するのに用いられるものであってもよい。他の実施例では、マスク40,40′は、長期間にわたる使用の間に患者の顔の皮膚への損傷を制限もしくは防止するよう、よりガス透過性の高い材料からなってもよく、またはベントもしくは他の開口部が設けられてもよい。マスク40が存在しない実施例では、送達チューブ24および/または鼻チューブ26,28は、サージカルテープもしくは接着テープ、クランプ、または他の構造によって患者に保持されてもよい。これにより、患者が動かされるかまたは治療される際に、患者に対するチューブ24,26,28の動きを最小限化または防止する。
【0034】
例示された実施例において、挿入チューブ26,28は鼻チューブであり、各々の直径はそれぞれの鼻孔(外鼻孔)への挿入のために適合されており、各々の長さは、適切に挿入されると、鼻の前鼻甲介領域(甲介)を超えて延在し、吸入された空気へ最大の熱量を伝達する鼻における領域をバイパスするような長さである。チューブ26および28は、特定の実施例では甲介と洞領域の前部分(すなわち鼻腔の後部分)との間に、甲介を超えるそれぞれの端部および出口54,56を有し、その領域には、蝶形骨、関連する軟骨、および他の組織が存在する。チューブ26,28は、洞のキャビティの中または周りに揮発性の冷媒を噴霧するチューブ、またはバルーンを用いて冷媒を保持または気道をブロックするチューブについて必要または重要であり得る場合、洞領域の後部に到達してもよい(がする必要はない)。
【0035】
例示された実施例において、挿入チューブ26,28の各々は、上で示したように脳に近接した特定の領域にガスを集中させるために、単一の遠位開口部54,56を有する。単一の遠位開口部は、所望の領域に対するガスの一貫したフローを可能にする。これにより、熱(または伝達された冷却)を受け取ったガスを新しい冷却ガスに連続して置き換える。他の実施例では、チューブ26および/もしくは28の遠位端にある付加的な開口部、またはチューブ26および/または28の側にある1つ以上の開口部のような付加的な開口部が設けられてもよい。チューブ26および/または28のたとえば側において、付加的または多くの開口部が設けられ得る。しかしながら、単一または少ない開口部のほうが、脳およびその後ろの血管構造物に冷却を集中させるよう、たとえば蝶形骨といったガスが必要とされるところに対して方向付けするのに有効である。さらなる開口部があれば、冷却が望まれない組織に向かって、またはあまり有効でない方向にガスが広がり得る。方向付けされたフローはさらに人工的にガスを特定の位置に維持する必要をなくし、かつ患者が、与えられたガスを自然に吸入することを補助する。
【0036】
なおガスが施される治療状況、たとえば、酸素が患者に提供されて酸素の濃度を増加させるかまたは他の呼吸補助のための治療状況において、ガスは、チューブに入る際に比較的高温(たとえば室温)にてユーザに送達されるか、または数フィートまたはより長い長さの断熱されていないチューブを通って送達され、これにより環境温度がガスをほぼ室温まで温めてからガスが患者に到達することが可能になる。さらに、ガスを提供するチューブまたはマスクは、ユーザの快適さのために、鼻孔の開口部またはそのすぐ内部にて終端するよう設計される。そのため、熱および湿気が、入って来るガスに粘膜を介して伝わり得る。ガスをほぼ室温にすることは、患者の快適さのために、かつ気管組織、気管支組織、または肺組織に対する冷たいガスの影響を制限するために重要である。対照的に、システム20は、組織に害を与えない冷却に合致しつつ、患者に提供されるガスが可能な限り冷たいことを確実にするよう設計される。送達チューブ24はしたがって、可能な限り短く維持され、いくつかの実施例では、約1フィートまたはそれ以下であり、断熱特性を有する。
【0037】
特定の実施例におけるシステム20は、救急医療士、医師、または他の明白な健康上の緊急事態に最初に応答した者によって携行および使用され得るキット(またはキットの一部)のような持ち運び可能または移動可能なシステムである。このようなキットは、たとえば壁に取り付けられる態様またはセキュリティエリアもしくは応急手当エリアに位置決めされる態様といったような、自動体外式除細動器(AED)が配置されているのと同じ態様で学校、会社、および公共建造物などの場所に保持されてもよい。当該構成では、システム20は、救急支援の到着の前および/または付加的な治療処置のための病院へ輸送中に、患者(たとえば卒中または心停止の患者)を治療するよう用いられてもよい。一時性の支援状況の場合、キャニスタ22は、サイズCもしくはDガスシリンダ、または消防士もしくはスキューバダイバーが一般的に携行するサイズのシリンダのような、相対的に短期のガスの供給を与えるようサイズ決めされてもよい。長期間の供給を行う若干大きなキャニスタ22(たとえばタンク)または圧縮ガスの他の源は、救急車または病院において利用可能であり得る。いずれの場合でも、治療が継続する際には、使用済みのキャニスタ22と交換するよう新しいガスキャニスタ22が提供され得る。上で論じたシステム20のサイズおよび構成、特に送達チューブ24の短い長さおよび小さいガスキャニスタの携帯性は、移動可能な救急システム20にとって特に有用であろうということは理解されるであろう。
【0038】
1つのキャニスタ22(たとえば空またはより小容量のキャニスタ)を別のキャニスタ22(たとえば一杯またはより大容量のキャニスタまたはタンク)に変更する際の容易さのために、特定のタイプの接続部が送達チューブ24の近位端に配置され得る。一例として、送達チューブ24上の接続部60は、たとえば酸素タンクのためのCGA接続部のような、特定のタイプのガスを保持するキャニスタのための標準的な接続部であってもよい。このような接続部は、送達チューブ24を誤ったガス源、IVチューブ、または他の潜在的な危険要因に接続する可能性を低減または除去する。
【0039】
代替的または付加的には、Y型接続部64または止め栓66が送達チューブ24に設けられてもよい。Y型接続部64が用いられる場合、別個のキャニスタ22(またはそれぞれのレギュレータもしくはバルブ)が接続部64のそれぞれの分岐部に接続され得る。1つのキャニスタがガスフローのために開かれ得るとともに、他のキャニスタが閉じたままであり得る。そのキャニスタが空に近づくまたは空になると、第2のキャニスタが開かれてフローを継続し、その一方、空のキャニスタが取り除かれ、一杯のキャニスタと交換される。このような実施例では、ガスが空のキャニスタから外された分岐部を通って逃げないように、1ウェイバルブ(図示せず)が、Y型接続部64の各分岐部に配置されてもよい。
【0040】
止め栓66は、それぞれのキャニスタ22に接続される2つの別個の入口と、送達チューブ24に接続される出口とを有する2ウェイの止め栓である。このような実施例では、両方のキャニスタ22が開かれ得る。止め栓66はキャニスタの1つからのフローを可能にする位置にある場合、他方のキャニスタからのフローはブロックされる。キャニスタが空に近づくまたは空になると、止め栓は当該他方のキャニスタからのフローを可能にするよう回転され得るとともに、空のキャニスタは取り除かれ、交換される。Y型接続部64および/または止め栓66は、空のキャニスタが交換される間に有意な中断なく、フローが送達チューブ24を通って患者へと継続するのを可能にする。
【0041】
上述したように、送達チューブ24は、システム20の使用の前にキャニスタ22に組み付けられるよう構成され得、キャニスタ22との容易な取付けおよび取外しを可能にする送達チューブ24上の接続部が設けられ得る。このような実施例では、キャニスタ22が空に近づくか、またはそうでなければ圧力低下によって冷却されるさらなるガスが提供され得ない場合、送達チューブ24は、そのキャニスタ22から迅速かつ容易に分離され得るとともに、別のキャニスタ22に再び取り付けられるか、またはフローがY型接続部64もしくは止め栓66を介して第2のキャニスタから得られ得る。したがって、患者がその場で治療される例では、第1のキャニスタ22からの冷却が使い尽くされた場合、第2のキャニスタ22が取り付けられ得る。救急車が到着すると、送達チューブ24が当該その場のシステム20から取り外されるとともに、救急車上のシステム20に接続され得る。同様に、救急車が病院に到着すると、冷却が病院でも継続される場合、送達チューブ24は救急車のシステム20から取り外され、手術室または他の治療エリアにおけるシステム20に接続され得る。送達チューブ24のこのような接続性は、送達チューブがキャニスタ22および/またはレギュレータ32のバルブに接続する端部、送達チューブ24の中央部における接続部、またはマスク40および/または挿入チューブ26,28に接続する送達チューブの端部に与えられてもよいということが分かるであろう。
【0042】
すべての患者、反応のない昏睡状態の(たとえば心臓および/または呼吸停止)の患者、または他の障害を有する患者を治療するのに有用であり得る、マスク40,40′への取付部を含むことも考慮される。たとえば、図9は、口が開いている状態を維持するための構造を含むマスク40′の実施例の代表例を含む。この構造は、舌に沿った口への挿入のためのチューブ80と、(チューブ80の一部またはチューブ80に取り付けられる)バイトブロック82と、(同様に、バイトブロック82および/またはチューブ80の一部またはバイトブロック82および/またはチューブ80に取り付けられ得る)唇または口カバー84とを含む。チューブ80は一般的に、息の吐出のために、口腔を開いた状態に維持し、機器もしくは計器の挿入もしくは取付のために用いられてもよく、および/または医療専門家の所望に応じてCPRの適用の間に人工呼吸を容易にするよう用いられてもよい。バイトブロック82は、口を開いた状態に保つとともに患者および医療専門家を噛付損傷から保護するために、患者の歯の間隔を維持する。カバー84は一般的に、医療専門家を患者の体液から保護するよう唇およびその近傍の組織を覆う。マスク40,40′を介して冷却ガスを提供することに加えて、マスク40,40′の一部として設けられるかまたはマスク40,40′に取り付けられるこのような構造は、安全のために患者に装着され得、かつ口を通過する開口路を維持する。上述したように、当該路を維持することにより、チューブ80を介して口を通る息の吐出が行われ得る。これにより、患者に対してより効率的な冷却が施され得る。マスク40′の実施例は、上述したように挿入チューブ26を含むので、マスク40′の当該実施例は、チューブ26および/または28を含んでもよく、マスク40の実施例にはそれらが設けられなくてもよいということが分かるであろう。
【0043】
使用時には、たとえば外傷性の頭もしくは脳の障害、卒中、心停止、ショック、または脳における腫脹または乏血を引き起こすもしくはそれにつながる他の状態を有すると診断された患者のような患者にシステム20が適用される。例示された実施例では使用の前にシステム20に、送達チューブ24にすでに接続または統合されたキャニスタ22と、上で論じたように送達チューブ24に接続される鼻チューブ26,28およびマスク40とが設けられている。すなわち、システム20は、すぐに使える状態で提供される。システム20にはさらに、キャニスタ22への送達チューブ24の組付、または送達チューブ24へのマスク40および/もしくは鼻チューブの組付といった、何らかの必要とされる組付が行われ得るということは理解されるであろう。組付が必要な場合、上で示したような迅速かつ確実な接続が好ましい。(特にキャニスタ22への送達チューブ24の)組付は、ガスキャニスタ22が安全性の理由から導管と別個に格納されるかまたは導管に接続されないままにされるべきである場合、必要とされ得る。さらに、上述したように、迅速な接続または他の容易な接続部が、新しいガス源をシステム20に接続する際に送達チューブ24の取外しおよび再接続を可能にするよう、送達チューブ24の一端もしくは両端および/または中央部に設けられてもよい。
【0044】
挿入チューブ26,28は、マスク40が患者の鼻および口に向かって動かされる際に、患者のそれぞれの鼻孔を通るよう配置される。チューブ26,28は、マスク40が鼻および口に近づくと、さらに鼻腔内に挿入される。そのため、チューブ26,28の端部は、マスク40が患者の鼻および口の上に位置決めされると、空気を温める鼻の前鼻甲介領域を超えて、たとえば患者の後鼻孔または洞領域の前まで延在する。挿入チューブ26,28は違和感または抵抗が少なく鼻通路を通って移動するよう意図されるが、マスク40および挿入チューブ26,28を配置する人は、必要な場合、鼻孔および隣接した組織および/または鼻チューブ26,28に医療用潤滑剤を適用してもよい。潤滑剤が用いられる場合、鼻チューブ26,28における開口部54,56は邪魔されないことが確実にされるべきである。ストラップ46が、患者の頭の周りに配置され、マスク40を患者の顔に対して保持するとともに、それらの端部が洞に隣接する状態で、鼻チューブ26,28を鼻の中の静止位置に保持する。
【0045】
キャニスタ22からのガスフローは、患者内におけるチューブ26,28の配置の前または後に開始されてもよいが、配置の後にフローを開始するほうが、ガスフローからの対抗する抵抗または力が存在しないので、配置が容易になる。たとえばバルブまたはレギュレータ32を開くことによりキャニスタ22が開かれると、キャニスタ22から送達チューブ24の中にガスが移動する。加圧されたガスがキャニスタ22から出て送達チューブ24に入ると、圧力降下により、ガスの温度の付随する降下が与えられる。これにより、送達チューブ24におけるガスが、実質的に室温または環境温度および体温を下回る温度となる。特定の実施例では、約0℃といったように、0℃と20℃との間である。上で論じたように、送達チューブ24は、チューブ24の長さをたとえば1フィートといった最小の長さまで制限し、および/またはチューブ24を断熱することにより、実質的な熱利得を低減または防止するとともにチューブ24に沿ってガスが通過する際にガスの負の熱エネルギを維持するよう構成される。鼻腔によってガスが温かくされるのを制限するよう酸素療法システムと比較して長くされた挿入チューブ26,28の長さにより、ガスは、冷たいままであるように送達チューブ24を通って移動されるとともに、挿入チューブ26,28の中および挿入チューブ26,28を通って移動する。たとえばガスは、チューブ26,28を出る際に、(送達チューブ24に沿って冷却がなされないとして)送達チューブ24の近位端での自身の温度以上の温度を有する。当該ガスは望ましくは、送達チューブ24の近位端での温度とほぼ同じ温度である。ガスの出口温度は、送達チューブ24の近位端での自身の温度の20℃以内であるべきであり、より望ましくは、その初期温度の0℃〜5℃以内である。これにより、十分な冷却を組織に施すのに十分な低い出口温度が与えられる。この実施例では、冷却もしくはガスの低い温度を維持するか、それを推進するか、またはその組成を保証するのに外部の冷却、ポンプ、または他の機器が必要とされない。これにより、システム20のこの実施例が非電気的となる。しかしながら、このような付加的な機器は他の実施例において用いられ得る。例示された実施例では、キャニスタ22からチューブ24での圧力降下により、冷却されたガスが提供され、チューブ24、26、および28はガスの冷たさまたは負の熱エネルギレベルを維持し、キャニスタ22からの圧力により治療部位へガスが移動する。
【0046】
この低い温度のガスは、鼻チューブ26,28における開口部54,56を通って、蝶形骨および洞に隣接する、後鼻孔および/または鼻咽腔のような脳に隣接する領域の中へ解放される。ガスは、蝶形骨および洞といった脳に近接した組織ならびに隣接した組織にその負の熱エネルギを伝達するか、または熱を当該組織から受け取る。ガスと、ガスが一方では脳組織に接触し他方では脳につながる血管に接触する組織との間の温度勾配が作り出され、これにより、脳および脳組織へと流れるとともに当該脳および脳組織内で流れる血液の温度を低減する。キャニスタ22からのガスは、治療管理者が望む限り、継続して流され、脳の基部への冷たいガスの連続した供給を行う。この供給は、所望の脳温度または所望の温度低減が達成された場合に低減され得る。そのため、後鼻孔に送達されたガスはさらに温度を低減しないが、単に温度を所望のレベルに維持する。たとえば、脳組織の腫脹を低下もしくは抑制するか、または乏血の発症もしくは影響を低減するよう、5℃までの脳温度の下降、特定の実施例では少なくとも3℃〜4℃の下降が求められ得る。臨床的に当該温度が少なくとも3℃〜4℃だけ低下されると、結果の向上が達成されることになるということが分かっている。他の実施例では、少なくとも1℃〜2℃の変更により、利点が提供され得る。システム20を用いる治療は、手術もしくは他の治療に干渉するか、または他の治療が終了して常温および脳機能の復帰が望まれる場合といったように、当該治療がもはや有効または必要でない場合には、中止され得る。
【0047】
上記議論は、システム20の使用の記載において、特にマスク40を特定した。マスク40′のような実施例の使用は非常に類似していることが理解されるであろう。要約すると、マスク40′は、送達チューブ24およびキャニスタ22に事前に接続されるよう設けられてもよく、または使用の際に接続されてもよい。このようなチューブを含まないマスク40′の実施例では、マスク40′は、上で示されるように、患者の鼻へのチューブの挿入なしで患者の頭にストラップ46′により装着される。冷却ガスが所望の温度(およびおそらく本願明細書において記載されるように大気圧を上回る圧力)でガスのフローが開始され、マスク40′に入る。上述したように、ガスが脳に隣接する軟組織(たとえば鼻の気道内の組織または目組織)を冷却して、治療が大きく行われる。所望の冷却効果が達成されると、フローは、冷却のレベルを維持するよう低減され得るか、または冷却がもはや必要でない場合は、停止され得る。
【0048】
分子酸素および窒素がシステム20における使用のためのガスとして示唆されているが、窒素/酸素の混合物、ヘリオックス、または空気といったような人間にとって好ましい他のガスが用いられてもよい。このような好ましいガスおよび上述したような構造の配置により、身体における使用のためのガスをいくつかまたはすべて、患者の組織および/または自然な呼吸プロセスによって吸収または吸引することになる。このようなガスの使用により、システム20が、ガスまたは他の物質を患者から取り除くための排出ラインまたは他の構造を含む必要性が除去される。低酸素症、液体または他の化学物質からの中毒作用、および他のマイナスの作用の可能性は低減されるか、または実質的に除去される。しかしながら、システム20のユーザが身体、ガス、または化学作用における異常について患者を監視することは良好な医療行為において要求され得ることである。
【0049】
患者を監視するために、システム20は1つ以上のモニタまたはセンサ70を含んでもよい。例示される実施例では、センサ70は、挿入チューブ26,28の1つの端部に接続され、他の実施例では、センサ70は、たとえばチューブ24またはマスクの上または中における他の適切な位置に配置され得るということが理解されるであろう。同様に、1つより多いセンサ70が設けられる場合、当該センサは、チューブ26,28の1つにすべてが設けられるか、それらの間で分割されるか、または別の態様では患者もしくはシステム20に対して位置決めもしくは取り付けられてもよい。センサ70は、システム20の使用に関連する任意の数の要因または条件に向けられ得る。たとえば、センサ70は、チューブ26および/または28におけるガスのフローにおける流量モニタまたはセンサであってもよい。別の例としては、センサ70は、チューブ26および/または28の外側に沿った(赤外線センサのような)温度センサであってもよく、マスク、組織、または腔(たとえば洞)に対してまたは中に位置決めされ、ガスの温度または組織(たとえば脳または脳腔に隣接する組織)の温度を監視してもよい。このような温度センサは、チューブ26および/もしくは28の外側に沿うか(またはチューブ26および/もしくは28が複式内腔チューブである場合には第2の内腔を通って)、またはマスクと患者の顔との間のスペース内に存在する。これにより、ガスまたは組織温度を示す読取値を得るとともに、所望ならば、ガスフローから温度センサが離された状態にする。
【0050】
センサ70は、配線、無線、または他の接続を介して、ユーザにアクセス可能な読取部72に接続される。ユーザまたは観察者(たとえば医師または救急看護員)が、このような読取部72を監視する際、ユーザまたは観察者は、システム20を所望のようにまたは必要に応じて調節し得る。たとえば、センサ70が流量センサである場合、キャニスタ22における低いガス供給を示すか、または他のフローを抑制もしくは低減する問題を示すフローの低下のユーザ通知を与えることとなる。センサ70は、組織温度センサである場合、温度減少または増加のユーザ通知を与えることとなり、ユーザは、所望の冷却温度を維持するか、または所望のレベルに温度を変更するようフローを調節し得る。フローおよびガス温度に基づき、ガスフローの目標量または継続時間は、所望の冷却効果を達成するための少なくともシステム20の使用のおよその期間が導出されるように計算され得る。その期間に亘るシステム20の使用により所望の効果が得られるはずであり、センサ70のさらなる監視はユーザが当該効果を維持する補助となる。
【0051】
1つ以上のこのような読取部72は、ユーザにモニタスクリーン、ハンドヘルド型のスクリーン、または他のタイプの読取ディスプレイにて提供され得る。特定の例は、マスク40′上に搭載または固定されるディスプレイ(たとえばスクリーン、LCDなど)である。このようなディスプレイは、患者の目の観察を損なうことのない場所および位置において、マスク40′の側面または上面に固定される。すなわち、観察者またはユーザが患者の顔に注目する際に、患者の目と読取部72との両方が観察者の視野内にある。このような配置は、少なくとも患者の目およびディスプレイの両方の容易な観察が同時に可能になるので有利である。
【0052】
上記の記載は、チューブ26,28を通って伝達するガスが、送達チューブ24内においてガスが有する温度またはほぼ当該温度である位置への、鼻孔を通る挿入チューブ26,28の配置を記載した。システム20の他の実施例では、チューブ26および/または28が、口、気管切開部、または他の開口部を通過するよう挿入され得るとともに鼻咽腔の中または鼻咽腔を通るように上方向に曲げられ得、これにより冷却ガスを送達するということが理解されるであろう。このような実施例では、(2つの鼻孔ではなく)たった1つの身体開口部がチューブの配置のために利用可能であるだけなので、単一のチューブ26が設けられ得る。さらに、チューブ26および/または28は、口または他の開口部を通る配置のために若干長くてもよい。配置は、催吐反射を活性化する可能性に鑑みて、注意深くなされるべきである。
【0053】
ガスをマスクの内部スペース、すなわちマスクと患者の顔との間の気密空間に適用することにより、同様に冷却が与えられる。目および頭の他の外部軟組織は、内部軟組織と同様に、このように冷却され得、これにより隣接する脳組織の温度を低減する。このような方法では、冷却ガスの吸入を介した内部冷却と、頭の外部軟組織に集中した外部冷却との両方が施され得る。
【0054】
このような実施例では、呼吸可能なガスの使用により、冷却と、患者の呼吸の支援との両方が与えられる。すでに述べたように、既存の呼吸支援システムは、たとえば冷凍された食品または冷たい飲料を口蓋に隣接する口において保持する際に時々感じられる「ブレインフリーズ」現象を患者が経験しないように、施されたガスが患者にとって快適であることを保証する。したがって、このようなシステムは、ガス温度をたとえば室温を上回るレベルといった快適なレベルまで上昇させるよう、長いチューブおよび/またはガス送達チューブに関連する電気もしくは他の加熱要素を一般的に用いることになる。本開示は、脳組織を冷却するために、患者が意識のある場合には患者に不快感を起こさせ得る程度まで冷却をするという反対の結果を提供するよう意図される。呼吸可能なガスの使用はさらに、心血管系疾患の間に富化を身体に提供するという点で有益である。このような疾患の間、血流は低減され、この結果、細胞に到達する酸素の量が低減する。本開示におけるように、呼吸可能なガスの安定したフローを提供することにより、血液中の酸素濃度が増加され得る。血流の低減の負の効果の少なくとも一部が、高い酸素濃度によって、補償され得る。マスク(たとえばマスク40′)において正圧を提供する上述した実施例は、血液における酸素濃度を増加させるのに特に有用であり得る。
【0055】
さらに、上記の記載は主として、脳への損傷を最小化するよう脳を冷却するシステム20の使用に注目した。システム20は、乏血または腫脹からの損傷を最小限にする以外の適切な治療の状況において脳を冷却するとともにその機能を低減するよう患者に適用され得るということが理解されるであろう。さらに、別の臓器、体組織、または体の部分が乏血または他の治療上の理由からの損傷を最小限にするために冷却されるべきである状況において、システム20は、直接的な冷却を提供するよう用いられ得る。このような場合、挿入チューブ26、28、および/またはマスク40は必要でない場合があり、設けられている場合、破棄されてもよい。送達チューブ24、挿入チューブ26および/もしくは28、または送達チューブ24に接続される他の導管が自然開口部、傷、切開部、または他の開口部を介して、冷却が望まれる患者の部位まで挿入されてもよい。上で論じたように、送達チューブ24によるガスの適用により、冷却が与えられる。
【0056】
当該開示を詳細に図面および上記の記載において例示および説明したが、これは性質において例示であり、限定的であると考えられるべきではない。好ましい実施例だけが提示および記載され、本開示の精神の範囲内のすべての変更例および修正例は保護されるよう望まれるということが理解される。1つの文脈または実施例において論じられた局面または特徴が他の文脈または実施例において適用可能であるということが、明細書より明らかとなるであろう。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9