特許第5941904号(P5941904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941904
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】脂質に結合する核酸
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20160616BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160616BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C12N15/00 HZNA
   C12Q1/68 A
   C12M1/34 Z
   A61K31/7088
【請求項の数】22
【全頁数】64
(21)【出願番号】特願2013-505367(P2013-505367)
(86)(22)【出願日】2011年4月21日
(65)【公表番号】特表2013-524792(P2013-524792A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2011002068
(87)【国際公開番号】WO2011131371
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2014年4月16日
(31)【優先権主張番号】11000117.9
(32)【優先日】2011年1月10日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】10004253.0
(32)【優先日】2010年4月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511085275
【氏名又は名称】ノクソン ファーマ エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】パーシェク,ウェルナー
(72)【発明者】
【氏名】クラスマン,スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】バフナー,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】シュウォベル,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ホフリグ,カイ
【審査官】 水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/124654(WO,A1)
【文献】 米国特許第06225063(US,B1)
【文献】 Biol. Chem.,2003年,Vol.384,pp.1497-1500
【文献】 PNAS,2001年,Vol.98, No.14,pp.7706-7711
【文献】 PNAS,1999年,Vol.96,pp.10649-10654
【文献】 Nucleic Acids Research,2006年,Vol.34, No.7,pp.2128-2136
【文献】 Cellular & Molecular Biology Letters,2010年 6月,Vol.16,pp.25-39
【文献】 PNAS,2004年,Vol.101, No.36,pp.13174-13179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴシン1−リン酸に結合することができるL−核酸分子であって、前記核酸分子は5’→3’の方向にヌクレオチドの第1の末端ストレッチと、ヌクレオチドの中心ストレッチと、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチを含むか、または、5’→3’の方向にヌクレオチドの第2の末端ストレッチと、ヌクレオチドの中心ストレッチと、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチを含み、
前記ヌクレオチドの第1の末端ストレッチが3〜6のヌクレオチドからなり
前記ヌクレオチドの第2の末端ストレッチが3〜6のヌクレオチドからなり
前記ヌクレオチドの中心ストレッチが、
5’ AAUAGCCGUUGAAACGCCUUUAGAGAAGCACUAG 3’、 5’ AAUAGCCGAUGAAACGCCUUUAGAGAAGCACUAG 3’、 および、
5’ AAUAGCCGAAUGAAACGCCUUAAGAGAAGCACUAG 3’
からなる群から選択されるヌクレオチド配列からなる、L−核酸分子。
【請求項2】
前記核酸がスフィンゴシン1−リン酸によって媒介される活性のアンタゴニストである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記ヌクレオチドの第1の末端ストレッチが、5’XSUG3’のヌクレオチド配列からなり、および前記ヌクレオチドの第2の末端ストレッチが5’CASX3’のヌクレオチド配列からなり
ここで、
はAまたは不在であり、XはGまたは不在であり、XはSまたは不在であり、XはSまたは不在であり、XはCまたは不在であり、およびXはUまたは不在である、請求項1または2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記ヌクレオチドの第1の末端ストレッチが、5’XSUG3’のヌクレオチド配列からなり、および前記ヌクレオチドの第2の末端ストレッチが5’CASX3’のヌクレオチド配列からなり
ここで、
a)XはAであり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXはUであり、または
b)Xは不在であり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXはUであり、または
c)XはAであり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXは不在であり、または
d)Xは不在であり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXは不在である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記ヌクレオチドの第1の末端ストレッチが、5’XSUG3’ヌクレオチド配列からなり、および前記ヌクレオチドの第2の末端ストレッチが5’CASX3’のヌクレオチド配列からなり
ここで、
a)Xは不在であり、Xは不在であり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXは不在であり、または
b)Xは不であり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、Xは不在であり、およびXは不在であり、または
c)Xは不在であり、Xは不在であり、XはSであり、XはSであり、Xは不在であり、およびXは不在である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記ヌクレオチドの第1の末端ストレッチが5’XSUG3’のヌクレオチド配列からなり、および前記ヌクレオチドの第2の末端ストレッチが5’CASX3’のヌクレオチド配列からなり
ここで、
は不在であり、Xは不在であり、XはSまたは不在であり、XはSまたは不在であり、Xは不在であり、およびXは不在である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記核酸分子が、配列番号12、13、15、18、19および23〜26のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記核酸分子が、配列番号18に記載の核酸配列またはそれと相同である核酸分子からなり、その相同性が少なくとも85%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項9】
スフィンゴシン1−リン酸に結合することができるL−核酸分子であって、参照核酸分子と比較して、前記核酸分子の親和性が増加し、前記参照核酸分子が配列番号18に記載のヌクレオチド配列からなり、および前記参照核酸分子がリボヌクレオチドからなり、前記核酸分子が配列番号18に記載のヌクレオチド配列からなりかつ配列番号18に記載のヌクレオチド配列の1つまたは複数のヌクレオチドがデオキシリボヌクレオチドで置換されている、L−核酸分子。
【請求項10】
前記核酸分子が、配列番号27〜37、39および40のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列からなる、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
前記核酸分子が、配列番号36に記載の核酸配列またはそれと相同である核酸分子からなり、その相同性が少なくとも85%であり、前記相同核酸がリボヌクレオチドおよび少なくとも1つのデオキシリボヌクレオチドを含む、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項12】
前記核酸分子が修飾基を含み、生物体由来の前記修飾基を含む前記核酸分子の排泄速度が、前記修飾基を含まない核酸と比較して低下する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項13】
前記核酸分子が修飾基を含み、前記修飾基を含む前記核酸分子が、前記修飾基を含まない核酸分子と比較して、生物体における滞留時間が増加する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項14】
疾患の治療および/または予防のための方法で用いる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子と、任意にさらなる成分とを含む医薬組成物であって、前記さらなる成分が、医薬的に許容される賦形剤、医薬的に許容される担体、および医薬的に活性な薬剤を含む群から選択される、医薬組成物。
【請求項16】
薬物の製造のための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸分子の使用。
【請求項17】
診断手段の製造のための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸分子の使用。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸分子と、スフィンゴシン1−リン酸とを含む複合体。
【請求項19】
スフィンゴシン1−リン酸の検出のための請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸分子の使用。
【請求項20】
スフィンゴシン1−リン酸またはスフィンゴシン1−リン酸の類似体によって媒介される活性のアンタゴニストをスクリーニングする方法であって、
前記スフィンゴシン1−リン酸および/または前記スフィンゴシン1−リン酸の類似体によって媒介される活性の候補アンタゴニストを提供するステップと、
請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸を提供するステップと、
前記スフィンゴシン1−リン酸および/または前記スフィンゴシン1−リン酸の類似体によって媒介される活性のアンタゴニストの存在下でシグナルを供給する試験系を提供するステップと、
前記スフィンゴシン1−リン酸によって媒介される活性の前記候補アンタゴニストが、前記スフィンゴシン1−リン酸および/または前記スフィンゴシン1−リン酸の類似体によって媒介される活性のアンタゴニストであるかどうかを決定するステップとを含む、方法。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸分子を含むスフィンゴシン1−リン酸を検出するためのキット。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸を試料において検出する方法であって、前記方法が、
a)捕捉プローブが請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子の第1の部分と少なくとも部分的に相補的である捕捉プローブと、請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子の第2の部分と少なくとも部分的に相補的である検出プローブとを、またはその代わりに、請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子の第2の部分と少なくとも部分的に相補的である捕捉プローブと、請求項1〜13いずれか1項に定義される核酸分子の第1の部分と少なくとも部分的に相補的である検出プローブとを提供するステップと;
b)請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子を含有する、または請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子を含有すると推定される試料に、前記捕捉プローブおよび前記検出プローブを別々に、または組み合わせて添加するステップと;
c)前記捕捉プローブおよび前記検出プローブが、請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子またはその一部と、同時にまたは任意の順番のいずれかで反応できるようにするステップと;
d)前記捕捉プローブが、ステップa)で提供される請求項1〜13のいずれか1項に定義される核酸分子とハイブリッド形成するかどうかを任意に検出するステップと;
e)請求項1〜13のいずれか1項に定義される前記核酸分子と、前記捕捉プローブと、前記検出プローブとからなる、ステップc)で形成される複合体を検出するステップとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質、好ましくはリン脂質、より好ましくはスフィンゴシン1−リン酸に結合することができる核酸分子と、薬物、診断薬、および検出薬それぞれの製造でのそのような核酸分子の使用と、そのような核酸分子を含む組成物と、そのような核酸分子を含む複合体と、そのような核酸分子を用いることにより脂質または脂質類似体が媒介する活性のアンタゴニストをスクリーニングするための方法と、そのような核酸分子を検出するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
脂質および脂質誘導体は、細胞膜内の構造要素として、またはβ酸化もしくは解糖のための基質としてのそれらの機能が最もよく知られている。ごく最近では、脂質および脂質誘導体は、疾患において重要な役割を果たすシグナル分子として認識されるようになった。生理活性脂質シグナル分子の例は数多くあり、ホスファチジルイノシトール(略語PI)、ホスファチジルセリン(略語PS)、ジアシルグリセリド(略語DAG)、ホスファチジルグリセロール(略語PG)とホスファチジン酸(略語PA)などのリン酸脂質、リゾホスファチジルコリン、血小板活性化因子およびカルジオリピンが挙げられる。他の脂質シグナル分子の例としては、カンナビノイド、プロスタグランジン、イソエイコサノイドおよびロイコトリエンを包含するエイコサノイドが挙げられる。脂質は、第2メッセンジャーとして、または自身の特定の受容体との直接的な相互作用を介して作用することができる。脂質シグナル経路は、種々の異なる刺激を介して活性化され、かつ接着、運動性、増殖、アポトーシスおよび分化を含む多様な一連の細胞内プロセスの調節に関与している。スフィンゴ脂質およびそれらの誘導体には、細胞外および細胞内のシグナル伝達機能があり、ヒト疾患において重要な役割を果たしている。脂質シグナル分子のさらなる重要な種類は、スフィンゴ脂質であり、それらにはセラミド、セラミド−1−リン酸、スフィンゴミエリン、スフィンゴシン、スフィンゴシン−1−リン酸、スフィンガニン、およびスフィンガニン−1−リン酸が含まれる。
【0003】
スフィンゴシン1−リン酸(略語S1P)は、380ダルトンのリン脂質であり、分子式C1838NOPを有する。かつては単にセラミドの分解産物と思われていたが、今やS1Pは、細胞成長、細胞増殖、血管新生、およびリンパ球輸送などの多様な生物学的プロセスにおいて重要な機能を有することが知られている。(概説は、Kimら,Biochim Biophys Acta.2009 1791:692−6;Maceykaら,J Lipid Res. 2009 50 Suppl:S272−6;Takabeら,Pharmacol Rev. 2008 60(2):181−95を参照されたい)。
【0004】
その他のS1Pの機能の中には、抗アポトーシス効果があり、かつS1Pは細胞成長および細胞増殖を促進する。その前駆体のスフィンゴシンとセラミドには、逆の機能があり、細胞周期停止と細胞死を誘発する。S1Pとその前駆体は、そのような反対作用を示すので、それらの絶対量(スフィンゴシンホスファターゼおよびスフィンゴシンキナーゼの相互作用によって主に制御される)よりはむしろ異なるスフィンゴシン代謝産物の相対的な均衡が、細胞運命を決定すると考えられている。この複雑な制御系は、「スフィンゴ脂質レオスタット」と呼ばれる。
【0005】
最近の研究では、S1Pとその代謝産物ならびにその前駆体セラミドをTNF−α、IL1β、および他のサイトカインのための二次メッセンジャーとして関係づけている。種々の証拠は、細胞増殖と生存に関与する二次メッセンジャーとしてのS1Pの役割を裏付けている。だが同時に、S1Pの生物学的効果の多くは、細胞表面でS1P受容体(略語S1PR)に結合した5つのGタンパク質の配位子として作用する結果である。オーファン受容体として最初に同定され、内皮分化遺伝子(略語EDG)と命名されたGタンパク質は、現在、EDG1/S1P、EDG5/S1P、EDG3/S1P、EDG6/S1P、EDG8/S1Pに新たに命名され、特性が明らかにされている。各受容体は、Rhoファミリーの低分子GTPアーゼ(Gq、G1、G12〜13)などの下流シグナル分子を活性化するヘテロ二量体Gタンパク質(ZhouとMurthy,Am J Physiol Cell Physiol.2004,286:C1130−C1 138;Kumeら,J Pharmacol Exp Ther.2007 320:766−773)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(Guoら,Eur J Biochem.1998 257:403−408;Satoら,Mol Pharmacol.1999 55:126−133;Dikicら,Nature.1996 383:547−550)、ホスホリパーゼC/D(Okamotoら,J Biol Chem.1998 273:27104−27110;Gondaら,Biochem J.1999 337:67−75;Bannoら,J Biol Chem.1999 274:27385−27391)およびその他に結合する。S1PRの発現は広範囲にわたり、およびS1Pは、接着、収縮、運動性、形態形成、増殖と分化を含む広範囲の細胞応答に影響し、血管緊張の調節、創傷治癒、免疫細胞の輸送、神経細胞シグナリング、血管新生、生殖と心血管機能に関係する。応答の範囲は、細胞および組織における受容体発現のパターンと、対応するエフェクターとに依存する。このように、特定のS1PRの活性化には、例えば、内皮細胞における別の活性化と逆の効果があり得る(Leeら,Mol Cell.2001 8:693−704.;Kimuraら,Biochem J.2000 348:71−76.;Ryuら,Circ Res.2002 90:325−332)。1つのS1PRの活性化は、RhoファミリーのGTPアーゼを差動的に調節することができる(Garciaら,J Clin Invest.2001 108:689−701;Gonら,Proc Natl Acad Sci USA.2005 102:9270−9275;Liuら,J Clin Invest.2000 106:951−961)。加えて、他の成長因子シグナル経路へのクロストークがある。
【0006】
S1Pは循環血液中に存在し、リンパは、血小板、活性化マスト細胞および単核食細胞によって主に作られ、分泌される。S1Pの濃度は、0.1〜1mMの範囲で、時として最高5mMが見られるが、ほとんどのS1Pはアルブミンまたは他の血漿タンパク質に結合しているので、S1PRを活性化するのに利用できるのは、ごく一部にすぎない。S1Pの内在レベルが変化すると、炎症と自己免疫疾患、喘息、血管新生、心疾患、癌、眼疾患、および脳血管疾患を含む病態生理学的状態をもたらし得る。
【0007】
S1P効果の多くは、S1Pと、1つもしくはいくつかのS1PRとの相互作用または結合によって媒介されると思われるので、治療的なアプローチは受容体を標的とすることに集中していた。多数の異なるS1P受容体アンタゴニストとアゴニストが、同定され説明されてきた。それらは、種々のS1PRに対する特異性と親和性が異なり、したがって種々の機能プロフィルを示す。最新化合物のフィンゴリモド(FTY720としても知られている)は、プロドラッグであり、in vivoでリン酸化される。リン酸化形態は、S1PR、S1P、S1P、S1PおよびS1Pに対するアゴニストであり、移植および自己免疫疾患のモデルにおいて非常に有効であることが示された。フィンゴリモドは、現在、多発性硬化症の治療のための第3相臨床試験中である。異なるS1PRの拮抗作用のため、種々の受容体に対して特異的な選択性で分子を同定することに関心がもたれている。S1Pに依存する病態生理に干渉するもう一つのアプローチは、S1P内在レベルに影響を及ぼすことである。これは、スフィンゴシンのリン酸化を介して作られるS1Pの量を変えるS1Pキナーゼを標的にすることによって、または脱リン酸化されるS1Pの量に影響を及ぼすS1Pホスファターゼを標的にすることによって達成され得る。生理活性S1Pの内在レベルに影響を及ぼす別のアプローチは、分子の中和剤との相互作用によってS1P作用の直接抑制を介することである。本発明は、S1Pを中和する方法を説明する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の根本的な課題は、脂質、好ましくはリン脂質、より好ましくはS1Pと特異的に相互作用する手段を提供することである。より具体的には、本発明の根本的な課題は、脂質と、および/または脂質に、好ましくはリン脂質と、および/またはリン脂質に、より好ましくはS1Pと、および/またはS1Pに特異的に相互作用する手段に基づいた核酸を提供することである。
【0009】
さらなる本発明の根本的な課題は、ヒト疾患または非ヒト疾患を治療するための薬物を製造する手段を提供することであり、それにより該疾患は、そのような疾患の発症機序に直接的にまたは間接的にのいずれかで関与する脂質、好ましくはリン脂質、より好ましくはS1Pによって特徴づけられる。
【0010】
さらなる本発明の根本的な課題は、疾患を診断するための診断薬を製造する手段を提供することであり、それにより該疾患は、そのような疾患の発症機序に直接的または間接的にのいずれかで関与する脂質、好ましくはリン脂質、より好ましくはS1Pによって特徴づけられる。
【0011】
本発明の根本的なこれらおよび他の課題は、添付の独立請求項に記載の発明の主題によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項から引き出され得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
より具体的には、本発明の根本的な課題は、脂質に結合することができる核酸分子によって、第1態様において解決される。この第1の態様は、第1の実施形態でもある。
【0013】
第1の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第2の実施形態では、核酸は、脂質によって媒介される活性のアンタゴニストである。
【0014】
第1の態様の第1および第2の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第3の実施形態では、脂質はリン脂質であり、好ましくは、リン脂質はスフィンゴシン1−リン酸である。
【0015】
第1の態様の第1、第2、および第3の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第4の実施形態では、核酸分子は、ヌクレオチドの中心ストレッチを含み、該ヌクレオチドの中心ストレッチは、
5’WAUUGCCGAWUGUAACGCCUUWAGAGAAAGCACUAG3’または
5’WAUUGCCGWUGUAACGCCUUWAGAGAAAGCACUAG3’
のヌクレオチド配列を含み、および
該脂質は、好ましくはスフィンゴシン1−リン酸である。
【0016】
第1の態様の第4の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第5の実施形態では、ヌクレオチドの中心ストレッチは、
5’AAUAGCCGUUGAAACGCCUUUAGAGAAGCACUAG3’、
5’AAUAGCCGAUGAAACGCCUUUAGAGAAGCACUAG3’、
および
5’AAUAGCCGAAUGAAACGCCUUAAGAGAAGCACUAG3’の群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0017】
第1の態様の第4および第5の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第6の実施形態では、核酸分子は、5’→3’の方向に、ヌクレオチドの中心ストレッチと、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチとを含み、
ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、3〜6のヌクレオチドを含み、および
ヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、3〜6のヌクレオチドを含む。
【0018】
第1の態様の第4および第5の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第7の実施形態では、核酸分子は、5’→3’方向にヌクレオチドの第2の末端ストレッチと、ヌクレオチドの中心ストレッチと、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチとを含み、
ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは3〜6のヌクレオチドを含み、および
ヌクレオチドの第2の末端ストレッチは3〜6のヌクレオチドを含む。
【0019】
第1の態様の第6および第7の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第8の実施形態では、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’XSUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CASX3’のヌクレオチド配列を含み、
ここで、
はAもしくは不在であり、XはGもしくは不在であり、XはSもしくは不在であり、XはSもしくは不在であり、XはCもしくは不在であり、およびXはUもしくは不在である。
【0020】
第1の態様の第6、第7および第8の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第9の実施形態では、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’XSUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CASX3’のヌクレオチド配列を含み、
ここで、
a)XはAであり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXはUである、または
b)Xは不在であり、Xは Gであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXはUである、または
c)XはAであり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXは不在である、または
d)Xは、不在であり、Xは、Gであり、Xは、Sであり、Xは、Sであり、Xは、Cであり、および6は、不在である。
【0021】
第1の態様の第6、第7、第8および第9の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第10の実施形態では、a)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’AGCGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACGCU3’のヌクレオチド配列を含む、または
b)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’GCGUG’3のヌクレオチド配列を含み、および第2の末端ストレッチは、5’CACGC’3のヌクレオチド配列を含む。
【0022】
第1の態様の第6、第7および第8の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第11の実施形態では、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’XSUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CASX3’のヌクレオチド配列を含み、
ここで、
a)Xは不在であり、Xは不在であり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXは不在である、または
b)Xは不在であり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、Xは不在であり、およびXは不在である、または
c)Xは不在であり、Xは不在であり、XはSであり、XはSであり、Xは不在であり、およびXは不在である。
【0023】
第1の態様の第6、第7、第8および第11の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第12の実施形態では、a)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’CGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACG3’のヌクレオチド配列を含む、または
b)ヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’GCUG’3のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CAGC3’のヌクレオチド配列を含む、または
c)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’GGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACC3’のヌクレオチド配列を含み、好ましくは、
ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’CGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2のヌクレオチドストレッチは、5’CACG3’のヌクレオチド配列を含む。
【0024】
第1の態様の第6、第7および第8の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第13の実施形態では、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’XSUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CASX3’のヌクレオチド配列を含み、
ここで
は不在であり、Xは不在であり、XはSもしくは不在であり、XはSもしくは不在であり、Xは不在であり、およびXは不在である。
【0025】
第1の態様の第6、第7、第8および第13の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第14の実施形態では、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’GUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CAC3’のヌクレオチドを含む。
【0026】
第1の態様の第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13および第14の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第15の実施形態では、ヌクレオチドの中心ストレッチは、スフィンゴシン1−リン酸と結合するために不可欠である。
【0027】
第1の態様の第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14および第15の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第16の実施形態では、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチとヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、任意に互いにハイブリッド形成し、ハイブリッドすると、二本鎖構造が形成される。
【0028】
第1の態様の第16の実施形態の一実施形態でもある第1の態様の第17の実施形態では、二本鎖構造は、3〜6の塩基対からなる。
【0029】
第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16および第17の一実施形態の実施形態でもある、第1の態様の第18の実施形態では、核酸分子は、配列番号12〜26、41および42のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列、好ましくは、配列番号12、13、15、18、19、23〜26、41および42のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列、より好ましくは、配列番号12、18、23、24、41および42のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含む。
【0030】
第1の態様の第1、第2および第3の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第19の実施形態では、核酸分子は、配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはそれと相同であり、その相同性が少なくとも85%である1つの核酸分子を含む。
【0031】
第1の態様の第1、第2および第3の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第20の実施形態では、核酸分子は、配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはそれと相同であり、その相同性が少なくとも85%である1つの核酸分子を含む。
【0032】
第1の態様の第1、第2および第3の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第21の実施形態では、核酸分子は、配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはそれと相同であり、その相同性が少なくとも85%である1つの核酸分子を含む。
【0033】
第1の態様の第1、第2および第3の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第22の実施形態では、核酸分子の親和性は、参照核酸分子と比較して増加し、該参照核酸分子は、配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含み、かつ該参照核酸分子はリボヌクレオチドからなり、核酸分子は、配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含み、かつ配列番号18に記載のヌクレオチド配列の1つまたは複数のヌクレオチドは、リボヌクレオチドよりはむしろデオキシリボヌクレオチドである。
【0034】
第1の態様の第22の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第23の実施形態では、核酸分子は、配列番号27〜37、39および40のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列、好ましくは、配列番号30、34〜37、39および40のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列、より好ましくは配列番号36、37、39および40のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含む。
【0035】
第1の態様の第23の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第24の実施形態では、核酸分子は、配列番号36に記載のヌクレオチド配列またはそれと相同であり、その相同性が少なくとも85%である1つの核酸を含み、該相同核酸はリボヌクレオチドと、少なくとも1つのデオキシリボヌクレオチドとを含む。
第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22、第23および第24の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第25の実施形態では、核酸分子は、修飾基を含み、該修飾基を含む核酸分子の生物体からの排泄率は、該修飾基を含まない核酸と比較して、低下する。
【0036】
第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22、第23および第24の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第26の実施形態では、核酸分子は、修飾基を含み、該修飾基を含む核酸分子は、該修飾基を含まない核酸分子と比較して、保持時間が増加する。
【0037】
第1の態様の第25および第26の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第27の実施形態では、修飾基は、生分解性および非生分解性の修飾体を含む基から選択され、好ましくは、該修飾基は、ポリエチレングリコール、直鎖型ポリエチレングリコール、分岐型ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、ペプチド、タンパク質、多糖、ステロール、ポリオキシプロピレン、ポリオキシアミド、およびポリ(2−ヒドロキシエチル)−L−グルタミンを含む群から選択される。
【0038】
第1の態様の第27の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第28の実施形態では、修飾基は、好ましくは、直鎖型ポリエチレングリコールまたは分岐型ポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールであり、該ポリエチレングリコールの分子量は、好ましくは、約20,000〜約120,000Da、より好ましくは約30,000〜約80,000Da、および最も好ましくは約40,000Daである。
【0039】
第1の態様の第27の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第29の実施形態では、修飾基は、ヒドロキシエチルデンプンであり、該ヒドロキシエチルデンプンの分子量は、好ましくは、約50〜約1000kDa、より好ましくは、約100〜約700kDa、および最も好ましくは、200〜500kDaである。
【0040】
第1の態様の第25、第26、第27、第28および第29の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第30の実施形態では、修飾基はリンカーを介して核酸分子と結合し、該リンカーは、好ましくは、生分解性リンカーである。
【0041】
第1の態様の第25、第26、第27、第28、第29および第30の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第31の実施形態では、修飾基は、核酸分子の5’末端ヌクレオチドおよび/もしくは3’末端ヌクレオチド、および/または核酸分子の5’末端ヌクレオチドと該核酸分子の3’末端ヌクレオチドとの間の核酸分子のヌクレオチドと結合する。
【0042】
第1の態様の第25、第26、第27、第28、第29、第30および第31の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第32の実施形態では、生物体は、動物体またはヒトの体、好ましくはヒトの体である。
【0043】
第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22.第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31および第32の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第33の実施形態では、核酸分子のヌクレオチドまたは核酸分子を形成するヌクレオチドは、L−ヌクレオチドである。
【0044】
第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22.第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32および第33の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第34の実施形態では、核酸分子のヌクレオチドまたは核酸分子を形成するヌクレオチドは、L−ヌクレオチドである。
【0045】
第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22.第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32、第33および第34の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第35の実施形態では、核酸分子は、スフィンゴシン1−リン酸を結合することができる少なくとも1つの結合部分を含み、そのような結合部分は、L−ヌクレオチドからなる。
【0046】
第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22.第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32、第33、第34および第35の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第36の実施形態では、核酸分子は、ある疾患の治療および/または予防のための方法で用いる。
【0047】
第1の態様の第36の実施形態の一実施形態でもある第1の態様の第37の実施形態では、疾患は、血管新生および/または線維症を抑制することによって治療される、または、寛解する。
【0048】
第1の態様の第36および第37の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第38の実施形態では、疾患は、眼疾患であり、好ましくは、そのような眼疾患は、加齢黄斑変性症、糖尿病黄斑浮腫をともなう糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症または糖尿病網膜症のいずれかでの網膜色素上皮剥離、増殖性硝子体網膜症、および加齢黄斑変性症または糖尿病網膜症での網膜線維症を含む群から選択される。
【0049】
第1の態様の第36の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第39の実施形態では、疾患は、血管新生および/または増殖を抑制することによって治療される、または寛解する。
【0050】
第1の態様の第36、第37、第38および第39の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第40の実施形態では、疾患は癌であり、好ましくは、そのような癌は、乳癌、卵巣癌、黒色腫、肺癌、前立腺肥大症などの過形成を含む群から選択される。
【0051】
第1の態様の第36の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第41の実施形態では、疾患は炎症性疾患であり、そのような炎症性疾患は、自己免疫疾患、肺炎、敗血症
および人工呼吸器誘発肺損傷などの外傷を含む群から選択される。
【0052】
第1の態様の第41の実施形態の一実施形態でもある、第1の態様の第42の実施形態では、自己免疫疾患は、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、喘息および炎症性腸疾患を含む群から選択される。
【0053】
本発明の根本的な課題は、第2の態様の第1の実施形態でもある第2の態様において、第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子と、任意にさらなる成分とを含む医薬組成物によって解決され、さらなる成分は、医薬的に許容される賦形剤、医薬的に許容される担体、および医薬的に活性な薬剤を含む群から選択される。
【0054】
第2の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある、第2の態様の第2の実施形態では、医薬組成物は、第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子と、薬学的に許容される担体とを含む。
【0055】
本発明の根本的な課題は、第3の態様の第1の実施形態でもある第3の態様において、薬物の製造のための第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22、第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32、第33、第34、第35、第36、第37、第38、第39、第40、第41および第42の実施形態のいずれか1つに記載の核酸分子を用いることによって解決される。
【0056】
第3の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある、第3の態様の第2の実施形態では、薬物は人間医学、または獣医学で用いられる。
【0057】
本発明の根本的な課題は、第4の態様の第1の実施形態でもある第4の態様において、診断手段の製造のための第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22、第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32、第33、第34、第35、第36、第37、第38、第39、第40、第41および第42の実施形態のいずれか1つに記載の核酸分子を用いることによって解決される。
【0058】
第3の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある、第3の態様の第3の実施形態では、薬物は、眼疾患、癌、または炎症性疾患の治療および/または予防のためである。
【0059】
第3の態様の第3の実施形態の一実施形態でもある、第3の態様の第4の実施形態では、眼疾患は、加齢黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫を伴う糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症または糖尿病性網膜症のいずれかにおける網膜色素上皮剥離、加齢黄斑変性症または糖尿病性網膜症における増殖性硝子体網膜症および網膜線維症を含む群から選択される。
【0060】
第3の態様の第3の実施形態の一実施形態でもある第3の態様の第5実施形態では、癌は、乳癌、卵巣癌、黒色腫、肺癌、前立腺肥大症などの過形成を含む群から選択される。
【0061】
第3の態様の第3の実施形態の一実施形態でもある、第3の態様の第6の実施形態では、炎症性疾患は、自己免疫疾患、肺炎、敗血症および人工呼吸器誘発肺損傷などの外傷を含む群から選択される。
【0062】
第3の態様の第6の実施形態の一実施形態でもある、第3の態様の第7の実施形態では、自己免疫疾患は、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、喘息および炎症性腸疾患を含む群から選択される。
【0063】
本発明の根本的な課題は、第5の態様の第1の実施形態でもある第5の態様において、第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22、第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32、第33、第34、第35、第36、第37、第38、第39、第40、第41および第42の実施形態のいずれか1つに記載の核酸分子と、脂質とを含む複合体によって解決され、好ましくは、該複合体は、結晶性複合体である。
【0064】
第5の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある、第5の態様の第2の実施形態では、脂質は、リン脂質であり、好ましくは、リン脂質は、スフィンゴシン1−リン酸である。
【0065】
本発明の根本的な課題は、第6の態様の第1の実施形態でもある第6の態様において、脂質を検出するための第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22、第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32、第33、第34、第35、第36、第37、第38、第39、第40、第41および第42の実施形態のいずれか1つに記載の核酸分子を用いることによって解決される。
【0066】
第6の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある、第6の態様の第2の実施形態では、脂質は、リン脂質であり、好ましくは、リン脂質はスフィンゴシン1−リン酸である。
【0067】
本発明の根本的な課題は、第7の態様の第1の実施形態でもある第7の態様において、脂質または脂質の類似体によって媒介される活性のアンタゴニストをスクリーニングする方法によって解決され、該方法は、
前述の脂質および/またはその脂質の類似体によって媒介される活性の候補アンタゴニストを提供するステップと、
第1の態様のいずれか1つの実施形態に定義される核酸を提供するステップと、
前述の脂質および/またはその脂質の類似体によって媒介される活性のアンタゴニストの存在下で、シグナルを供給する試験系を提供するステップと、
前述の脂質によって媒介される活性の候補アンタゴニストが、前述の脂質および/またはその脂質の類似体のアンタゴニストであるかどうかを決定するステップとを含む。
【0068】
第7の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある第7の態様の第2の実施形態では、脂質はリン脂質であり、好ましくは、リン脂質はスフィンゴシン1−リン酸である。
【0069】
本発明の根本的な課題は、第8の態様の第1の実施形態でもある第8の態様において、第1の態様の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20、第21、第22、第23、第24、第25、第26、第27、第28、第29、第30、第31、第32、第33、第34、第35、第36、第37、第38、第39、第40、第41および第42の実施形態のいずれか1つに記載の核酸分子を含む脂質を検出するためのキットによって解決され、好ましくは、該脂質は、リン酸脂質であり、より好ましくは、リン酸脂質は、スフィンゴシン1−リン酸である。
【0070】
本発明の根本的な課題は、第9の態様の第1の実施形態でもある第9の態様において、第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸を試料において検出する方法によって解決され、該方法は、
a)第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子の第1の部分と少なくとも部分的に相補的である捕捉プローブと、第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子の第2の部分と少なくとも部分的に相補的である検出プローブとを、またはその代わりに、第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子の第2の部分と少なくとも部分的に相補的である捕捉プローブと、第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子の第1の部分と少なくとも相補的である検出プローブとを提供するステップと;
b)第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子を含有する、または含有すると推定される試料に、捕捉プローブおよび検出プローブを別々に、または組み合わせて添加するステップと;
c)第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子またはその一部と、捕捉プローブおよび検出プローブが同時に、または任意の順番のいずれかで反応できるようにするステップと;
d)ステップa)で提供される第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子と、捕捉プローブがハイブリッド形成するかどうかを任意に検出するステップと;
e)第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子と、捕捉プローブと、検出プローブとからなる、ステップc)で形成される複合体を検出するステップとを含む。
【0071】
第9の態様の第1の実施形態の一実施形態でもある、第9の態様の第2の実施形態では、検出プローブは、検出手段を含み、および/または捕捉プローブは、支持体、好ましくは固体支持体に固定化される。
【0072】
第9の態様の第1および第2の実施形態の一実施形態でもある、第9の態様の第3の実施形態では、複合体の一部である検出プローブだけがステップe)で検出されるように、複合体の一部でないいずれの検出プローブも反応物から除去される。
【0073】
第9の態様の第1、第2および第3の実施形態の一実施形態でもある、第9の態様の第4の実施形態では、捕捉プローブおよび検出プローブが、第1の態様のいずれか1つの実施形態で定義される核酸分子またはその一部の存在下で、および前述の核酸またはその一部の非存在下でハイブリッド形成されるとき、ステップe)は、検出手段によって生成されるシグナルを比較するステップを含む。
【0074】
本発明は、以下の驚くべき発見に基づいている:
a)脂質、好ましくはリン脂質、より好ましくは、S1Pに特異的に、かつ高親和性で結合する核酸分子を作ることができる;
b)本発明による核酸分子であるそのような核酸分子は、ヌクレオチドの共通配列を共有し、本発明による核酸分子の共通配列は、好ましくは、本発明による核酸分子の結合特性に不可欠であり、より好ましくは、S1Pへの結合特性に不可欠である;
c)脂質に対する、好ましくはリン脂質に対する、より好ましくはS1Pに対する本発明による核酸分子の結合親和性は、限定された数のリボヌクレオチドを2’−デオキシリボヌクレオチドと置換することによって改善される。
【0075】
そのような核酸は、好ましくは、本明細書では、本発明による核酸分子、本発明による核酸、本発明に関する核酸、または本発明に関する核酸分子と呼ぶ。
【0076】
それとは反対に示されない場合、核酸および核酸分子の用語は、本明細書では同義語で用いられる。
【0077】
本明細書に記述するように、本発明による核酸の特徴は、単独で、または任意の組み合わせのいずれかで核酸が用いられる本発明のいずれの態様でも実現され得る。
【0078】
脂質、リン脂質および特にS1Pに対して親和性が高い、短い核酸分子が同定され得るという発見は、脂質、リン脂質および特にS1Pに結合する核酸分子が同定され得ない限り驚くべきことであるが、しかしペプチド、タンパク質、核酸、小分子、抗生物質、アミノ酸、ヌクレオチドなどの標的の種類のほぼすべてに向けられている核酸分子は、’The aptamer handbook’(Klussmann,Klussmann,S.(編集者);The Aptamer Handbook,第1版−February 2006,Wiley−VCH,Weinheim)に記述されるように同定された。脂質、特にリン脂質の構造および電荷は、脂質結合核酸分子の同定が今まで成功しなかった、および/または考慮されることもなかった理由を解明する。S1Pなどのリン脂質は、その無電荷の脂肪族部分と、負の電荷をもつリン酸基とによって主に特徴づけられる。そのような脂質のリン酸基の電荷と負電荷を考慮に入れることで、驚くべきことに、発明者らは、脂質に、より具体的にリン脂質に結合する核酸分子を同定することができた。核酸分子の糖骨格のリン酸塩のために、核酸分子それ自体は、負の電荷をもっている。したがって、核酸分子が別の負の電荷をもつ分子または部分に結合する可能性は、きわめて低い。電荷以外に反発作用も、三次元構造をもつ核酸分子によって標的分子の送到達性に影響を握っている。小分子に結合するいくつかの核酸分子が発表されてきたが、概して、小分子に対する核酸分子の親和性は、ミクロモルの範囲であり(James,2000 Encyclopedia of Analytical Chemistry,pp.4848−4871)、この親和性では、治療用途には不適切である。しかしながら、本発明による最良のS1P結合核酸分子は、K値によって表される高結合親和性を示す。これにより、そのような核酸分子がin vivoで、より具体的には、哺乳類、好ましくはヒトを治療するまたは診断する方法で用いることが可能になる。好ましくは、本発明による核酸分子のK値は、100nM未満、より好ましくは、50nM未満である。ある実施形態では、本発明による核酸分子値のK値は、5〜53nMの範囲で定義されるいずれの値以下である。さらなる実施形態では、本発明による核酸分子は、5〜31nMの範囲で定義されるいずれの値以下であるIC50値を有する。
【0079】
本発明による核酸分子は、S1P(D−エリスロ−スフィンゴシン1−1−リン酸とも呼ばれる)に特異的に結合するが、リン酸基が不足しているD−エリスロ−スフィンゴシには結合しない。
【0080】
S1Pなどの脂質の効果の多くは、相互作用によって、より具体的には、いくつかの脂質受容体、好ましくはS1P受容体、のうちの1つと脂質が結合することによって媒介されると考えられるので、治療的なアプローチは、脂質受容体、特にS1P受容体を標的にすることに焦点を合わせてきた。したがって、本発明による核酸分子が、脂質によって、好ましくは、リン脂質によって、より好ましくはS1Pによって媒介される活性の好ましくはアンタゴニストであることを、当業者は認識するであろう。多数の異なるS1P受容体のアンタゴニストおよびアゴニストが同定され、記述されてきた。これは、前述の脂質に結合するそれらの受容体のために、これらの脂質が媒介する1活性/複数の活性に影響を及ぼす。それらのS1P受容体は、S1P、S1P、S1PおよびS1Pなどの種々のS1PRに対する特異性と親和性において異なり、したがって種々の機能プロフィルを示す。本発明による核酸分子の利点の一つは、本発明による核酸分子がS1Pのアンタゴニストであり、それによって単一のS1P受容体に対処すること、より具体的には単一のS1P受容体に結合することよりはむしろ、すべてのS1P受容体の機能を媒介するということである。
【0081】
本発明による脂質は、好ましくは、ワックス、ステロール、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、EおよびKなど)、モノグリセリド、ジグリセリド、リン脂質、その他を含む群から選択されるが、それに限定されるものではない。
【0082】
脂質は、大まかに疎水性小分子または両親媒性小分子に定義され得るが、一部の脂質の両親媒性の性質によって、脂質は、水性の環境下でベシクル、リポソーム、または膜などの構造を形成することが可能になる。生体脂質は、完全に、または部分的に、2種類の異なる生化学サブユニットまたは「構成要素」、すなわち、ケトアシル基およびイソプレン基から生ずる。このアプローチを用いて、脂質は、8のカテゴリー、すなわち脂肪酸アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質およびプレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)に分類し得る。
【0083】
用語「脂質」は、時には脂肪の同義語として用いられるが、しかし脂肪は、トリグリセリドと呼ばれる脂質のサブグループである。脂質も、脂肪酸およびそれらの誘導体(トリグリセリド、ジグリセリドとモノグリセリドおよびリン脂質を含む)、ならびにコレステロールなどの他のステロール含有代謝産物を包含する。
【0084】
リン脂質は、脂質の1種類であり、リン脂質は脂質二重層を形成することができるので、すべての細胞膜の主要な成分である。大部分のリン脂質は、ジグリセリド、リン酸基、およびコリンなどの単純な有機分子を含むが、この規則に対する一例外は、グリセロールのその代わりにスフィンゴシンに由来するスフィンゴミエリンである。
【0085】
スフィンゴ脂質は、脂肪族アミノアルコールスフィンゴシンに由来する脂質の1種類である。時には単にスフィンゴイド塩基として知られている、長鎖塩基は、酵母および哺乳類においてスフィンゴ脂質のデノボ合成の第1の非過渡生成物である。これらの化合物、具体的にはフィトスフィンゴシンおよびジヒドロスフィンゴシン(スフィンガニンとしても知られている、とはいえこの用語はあまり一般的でない)は、主にC18化合物であり、多少低いレベルのC20塩基を有する。セラミドおよびグリコスフィンゴリピドは、これらの化合物のN−アシル誘導体である。スフィンゴシン骨格は、エタノールアミン、セリン、またはコリンなどの(通常)荷電頭部にO結合している。この骨格は、脂肪酸などのアシル基にもアミド結合している。
【0086】
スフィンゴシン1−リン酸(略語S1P)は、分子式C1838NOPを有する380ダルトンのリン脂質である。S1Pの同義語には、
D−エリスロ−スフィンゴシン−1−リン酸、
4−オクタデセン−1,3−ジオール,2−アミノ−,1−(リン酸二水素),(2S,3R,4E)−、
(2S,3R,4E)−2−アミノ−3−ヒドロキシオクタデカ−4−エン−1−イル リン酸二水素、
4−オクタデセン−l,3−ジオール、2−アミノ−、1−(リン酸二水素)、(R−(R,S−(E)))−、
4−オクタデセン−l,3−ジオール、2−アミノ−、1−(リン酸二水素)、[R−[R,S−(E)]]−、
スフィンゴシン−4−エニン1−リン酸、
C18−スフィンゴシン1−リン酸、
スフィンゴシン、D−エリスロ−1−リン酸、
D−エリスロ−ジヒドロスフィンゴシン1−リン酸、
(2S,3R,E)−2−アミノ−3−ヒドロキシオクタデカ−4−エニル リン酸二水素、
(2S,3R,4E)−2−アミノ−4−オクタデセン−l,3−ジオール1−(リン酸二水素塩)、
(2S,3R,4E)−2−アンモニオ−3−ヒドロキシオクタデカ−4−エン−1−イル リン酸水素、
(E)−(1S,2R)−2−ヒドロキシ−1−ホスホノオキシメチル−ヘプタデカ−3−エニル−アンモニウムがある。
【0087】
本発明のS1P結合核酸分子は、本明細書でボックスとも呼ばれるヌクレオチドのストレッチに関して特徴づけられることができる。異なる種類のS1P結合核酸は、ヌクレオチドの異なるストレッチを含む。通常は、本発明のS1P結合核酸分子は、それらの5’末端および3’末端にヌクレオチドのストレッチ、すなわちヌクレオチドの第1の末端ストレッチとヌクレオチドの第2の末端ストレッチを含む。ヌクレオチドの第1の末端ストレッチおよびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、互いにハイブリッド形成することができ、それによりハイブリッドすると、二本鎖構造が形成される。しかしながら、そのようなハイブリダイゼーションは、生理的および/または非生理的条件下で、分子中で必ずしも実現されるものではない。S1P結合核酸のヌクレオチドの3つのストレッチ(ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ、ヌクレオチドの中心ストレッチ、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチ)は、5’→3’の方向に、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ−ヌクレオチドの中心ストレッチ−ヌクレオチドの第2の末端ストレッチと、互いに対して配列される。しかしながら、その代わりに、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチ、ヌクレオチドの中心ストレッチおよびヌクレオチドの第1の末端ストレッチが、5’→3’の方向に互いに対して配列される。
【0088】
異なるS1P結合核酸分子間の定義されたボックスまたはストレッチの配列における差異は、S1Pに対する結合親和性に影響する。本発明の異なるS1P結合核酸分子の結合分析に基づいて、中心ストレッチおよびそれらのヌクレオチド配列は、個別で、より好ましくは、それら全体で、ヒトS1Pに結合するために不可欠である。
【0089】
本発明による核酸分子またはそのストレッチもしくはその任意の(一部分または複数の)部分は、原理的には互いにハイブリッド形成することができる。そのようにハイブリッドすると、二本鎖構造が形成される。そのようなハイブリダイゼーションは、特にin vitro条件および/またはin vivo条件下で起こり得ることも、または起こらないこともあると当業者は認識するであろう。また、そのようなハイブリダイゼーションの場合、塩基対形成に関する規則に少なくとも基づいた場合、ハイブリダイゼーションが、2つのストレッチの全長にわたって生じ、そのようなハブリダイゼーションおよびしたがって二本鎖構造の形成が、原理的には起こり得ることは、必ずしも当てはまるわけではない。好ましくは本明細書で用いる場合、二本鎖構造とは、2つ以上の別々の鎖または単一の鎖の空間的に分離した2つのストレッチによって形成される分子または構造の一部であり、それによって少なくとも1つの塩基対、好ましくは2つ以上の塩基対が存在し、好ましくはワトソン・クリック塩基対形成の規則に従う塩基対形成である。また、フーグスティーン塩基対形成などの他の塩基対形成が存在し得る、またはそのような二本鎖構造を形成し得ることを、当業者は認識するであろう。
【0090】
好ましい実施形態では、本明細書で用いる場合、用語「配置」とは、本明細書で開示する核酸分子と関連して、本明細書に記述する構造的もしくは機能的な特徴または要素の順もしくは配列を意味する。
【0091】
本発明による核酸分子が、本発明の分子をS1Pと結合させることができることを当業者は認識するであろう。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは想定していることは、S1P結合が、個々の核酸分子の三次元構造的な形質または要素の組み合わせの結果生じ、これは、そのような形質または要素を形成するヌクレオチドの配列の方向づけと折りたたみのパターンに起因し、好ましくは、そのような形質または要素は、S1P結合核酸分子のヌクレオチドの第1の末端ストレッチ、ヌクレオチドの中心ストレッチ、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチによるということである。個々の形質または要素は、したがって種々の異なる個々の配列によって形成され、その変化の程度はそのような要素または形質が形成する必要がある三次元構造に依存して変わり得ることは、明らかである。核酸分子の全体の結合特性は、種々の要素および形質のそれぞれの相互作用から生じ、最終的には、その標的、すなわちS1Pによる核酸分子の相互作用、より具体的には結合をもたらす。さらに、いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明のS1P結合核酸の特徴である中心ストレッチは、クレームの核酸のS1Pとの結合を媒介するおよび/または確立するために重要であると思われる。実質的に、本発明による核酸分子は、S1Pの検出に好適である。また、本発明による核酸分子がS1Pによって媒介される活性のアンタゴニストであることを、当業者は認識するであろう。このため、本発明による核酸分子が、S1Pが関連するか、または起因するいずれの疾患の治療および予防のそれぞれに好適である。科学的な理論的根拠は、S1Pが種々の疾患および状態とそれぞれ関与するかまたは関連することを確証する先行技術から取られることもあり、それを参照によって本明細書に組み込む。
【0092】
また、本発明による核酸分子は、特定の配列と、好ましくは、本明細書に開示する本発明による核酸分子の配列と実質的に相同である核酸分子を含む。用語「実質的に相同」とは、その相同性が少なくとも75%、好ましくは85%、より好ましくは90%であり、最も好ましくは95%、96%、97%、98%または99%を超えると理解されるものとする。
【0093】
本発明による参照ヌクレオチド配列または参照核酸分子と関連して本発明による核酸分子中に存在する相同ヌクレオチドの実際のパーセンテージは、核酸分子中に存在するヌクレオチドの総数に依存する。修飾パーセントは、核酸分子中に存在するヌクレオチドの総数に基づき得る。好ましくは、本発明の核酸分子の相同ヌクレオチドは、リボヌクレオチドおよび2’−デオキシリボヌクレオチドを含む群から選択される。
【0094】
相同性は、当業者に周知のように決定されることができる。より具体的には、配列比較アルゴリズムは、次いで、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列と比較して(1つまたは複数の)試験配列のための配列同一性パーセントを算出する。試験配列は、好ましくは、相同であると言われる、または相同であるかどうかを試験される配列または核酸分子であり、および相同であれば、その相同の程度、別の核酸分子に対する相同性を試験され、それによってそのような別の核酸分子も参照配列と呼ばれる。ある実施形態では、参照配列は、本明細書に記述するように核酸分子、より好ましくは配列番号12、18、36、41および42のいずれかに記載の配列を有する核酸分子である。
【0095】
比較のための配列の最適なアライメントは、例えば、Smith&Waterman(Smith&Waterman,1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman&Wunsch(Needleman&Wunsch,1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson&Lipman(Pearson&Lipman,1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズの実行をコンピュータで処理することによって(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.)のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、または目視検査によって行うことができる。
【0096】
配列同一性パーセントの決定に好適であるアルゴリズムの一例は、基本的局所アライメント検索ツール”basic local alignment search tool”(以下「BLAST」と呼ぶ)で使用されているアルゴリズムであり、例えばAltschulら(Altschulら,1990およびAltschulら,1997)を参照されたい。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター”National Center for Biotechnology Information”(以下「NCBI」と呼ぶ)を通して公的に入手可能である。NCBIから入手可能なソフトウェア、例えばBLASTN(ヌクレオチド配列用)およびBLASTP(アミノ酸配列用)を用いることで配列同一性を決定する際に使用されるデフォルトパラメータは、MicGinnisら(McGinnisら,2004)に記述されている。本発明による核酸分子は、本明細書に開示する核酸配列の1つもしくはいくつか、またはその一部を含む核酸分子を含み、好ましくは、核酸分子または前述の一部が、ヒトS1Pへの結合に関与する程度まで含む。ある実施形態では、そのような核酸分子は、本明細書に記述する核酸分子の1つ、またはその誘導体および/もしくは代謝産物であり、そのような誘導体および/または代謝産物は、本明細書に記述する核酸分子と比較して、好ましくは、切断型核酸分子である。切断は、本明細書に開示するように核酸分子のいずれかの端または両端に関連することもある。また、切断は、核酸分子のヌクレオチドの内側配列に関連があり得る、すなわちそれぞれ、5’末端ヌクレオチドと3’末端ヌクレオチドとの間の(1つまたは複数の)ヌクレオチドに関連することもある。さらに、切断は、本明細書に開示する核酸分子の配列からわずかに1つの核酸の欠失を含むこともあろう。また、切断は、本発明の(1つまたは複数の)核酸分子の1つまたは複数のストレッチに関連することもあり、それにより該ストレッチは、わずかに1ヌクレオチド長であり得る。
【0097】
本発明による核酸分子の結合は、ルーチンの実験を用いることで、または本明細書に記述する、好ましくは本明細書の実施例の部に記述する方法を用いるまたは採用することによって当業者が決定することができる。
本発明による核酸分子は、D−核酸分子(D−核酸分子)またはL−核酸(L−核酸分子)のいずれかであってもよい。好ましくは、核酸はL−核酸分子である。加えて、核酸分子の1部分もしくはいくつかの部分がD−核酸として存在し、または核酸の少なくとも1部分もしくはいくつかの部分がL−核酸であることも可能である。用語、核酸分子の「部分」とは、わずかに1ヌクレオチドを意味するものとする。そのような核酸分子は、通常、本明細書では、それぞれD−核酸とL−核酸を指す。したがって、特に好ましい実施形態では、本発明による核酸分子は、L−ヌクレオチドからなり、および少なくとも1つのD−ヌクレオチドを含む。そのようなD−ヌクレオチドは、本発明による核酸を定義するストレッチと異なる一部に、好ましくは該核酸分子の他の部分との相互作用が関連するその部分に、好ましくは付着している。好ましくは、そのようなD−ヌクレオチドは、いずれのストレッチの終端に、および本発明によるいずれの核酸分子の終端にそれぞれ付着している。さらに好ましい実施形態では、そのようなD−ヌクレオチドは、好ましくは、修飾体またはPEGおよびHESなどの修飾基を本発明による核酸に付着するスペーサーまたはリンカーとして作用することもある。
【0098】
それらの(1つまたは複数の)核酸配列に関してそれら全体を本明細書に記述される核酸分子の各々およびいずれかが、(1つまたは複数の)特定のヌクレオチド配列を限定することも、本発明の実施形態である。言い換えれば、用語「含んでいる」または「含む」とはそのような実施形態では、含有している、またはからなるの意味で解釈されるものとする。
【0099】
本発明による核酸分子が、より長い核酸分子の一部であり、このより長い核酸がいくつかの部分を含み、そのような部分の少なくとも1つが本発明による核酸分子またはその一部であることも本発明の範囲内である。これらのより長い核酸分子の他の(1つまたは複数の)部分は、1つもしくはいくつかのD−核酸、または1つもしくはいくつかのL−核酸のいずれかであり得る。いずれの組み合わせでも、本発明と関連して用いてもよい。より長い核酸のこれらの他の(1つまたは複数の)部分は、単独またはまとめてのいずれかで、それら全体でまたは特定の組み合わせでのいずれかで、結合、好ましくはS1Pへの結合と異なる機能を示すことができる。1つの可能な機能としては、1つの分子または他の分子との相互作用を可能にすることであり、それによりそのような1つまたは他の分子は、例えば、固定化、架橋結合、検出または増幅に関して、好ましくは、S1Pと異なる。本発明のさらなる実施形態では、本発明による核酸分子は、個々で、または組み合わせた部分として、本発明の核酸分子のいくつかを含む。また、本発明の核酸分子のいくつかを含むそのような核酸分子は、用語「より長い核酸分子」によって包含される。
【0100】
明細書で用いる場合、L−核酸またはL−核酸分子は、L−ヌクレオチドからなる、好ましくは完全にL−ヌクレオチドからなる核酸である。
【0101】
本明細書で用いる場合、D−核酸またはD−核酸分子は、D−ヌクレオチドからなる、好ましくは完全にD−ヌクレオチドからなる核酸である。
【0102】
また、それとは反対を示さない場合、いかなるヌクレオチド配列も、本明細書では5’→3’方向に記載する。
【0103】
好ましくは本明細書で用いる場合、ヌクレオチドのいずれの位置も、配列、ストレッチまたはサブストレッチの5’末端に対して決定される、または言及される。したがって、第2のヌクレオチドは、配列、ストレッチおよびサブストレッチ、それぞれの5’末端から数えて2番目のヌクレオチドである。また、それにしたがって、最後から2番目のヌクレオチドは、配列、ストレッチおよびスブストレッチ、それぞれの3’末端から数えて2番目のヌクレオチドである。
【0104】
本発明の核酸分子が、D−ヌクレオチド、L−ヌクレオチドもしくは、例えば、ランダムな組み合わせなどの組み合わせによる両ヌクレオチドの組み合わせ、または少なくとも1つのL−ヌクレオチドと少なくとも1つのD−核酸からなる定義された配列のストレッチからなるかどうかとは無関係に、核酸は(1つまたは複数の)デゾキシリボヌクレオチド、(1つまたは複数の)リボヌクレオチドまたはその組み合わせからなり得る。
【0105】
L−核酸分子として本発明による核酸分子を設計することは、いくつかの理由で有利である。L−核酸分子は、天然に存在する核酸分子のエナンチオマーである。しかし、D−核酸分子は、ヌクレアーゼが広く存在しているために、水溶液中で、特に生体系または生体試料中であまり安定でない。天然に存在するヌクレアーゼ、特に動物細胞由来のヌクレアーゼは、L−核酸分子を分解する能力がない。このため、L−核酸分子の生物学的半減期は、動物およびヒトの体を含むそのような系において著しく増加する。L−核酸の分解性不足のため、ヌクレアーゼ分解産物は、そのようなL−核酸分子から生成されず、したがってそこから生ずる副作用は観察されない。この態様のため、S1Pが関わるまたは媒介する疾患および/または障害の治療で用いられるすべての他の化合物についてL−核酸分子は事実上、限定されている。ワトソン・クリック塩基対形成とは異なる機序を介して標的分子に特異的に結合するL−核酸分子、または部分的にもしくは完全にL−ヌクレオチドからなるアプタマー、特に、標的分子へのアプタマーの結合に関与する部分を有するアプタマーは、スピーゲマーとも呼ばれる。
【0106】
D−核酸、L−核酸またはD、L−核酸として存在するかどうか、あるいはDNAまたはRNAであるかどうかに関係なく、本発明の本発明に関する核酸分子は、一本鎖核酸または二本鎖核酸として存在し得ることも本発明の範囲内である。典型的には、本発明による核酸分子は、一次配列のため定義された二次構造を示す一本鎖核酸であり、したがって三次構造を形成することもある。しかしながら、本発明による核酸分子は、互いに相補的である、または部分的に相補的である2本の鎖が、互いにハイブリッド形成するという意味で二本鎖であり得る。これは、核酸分子に安定性を与え、特に、核酸分子がL型ではなくむしろ天然に存在するD型に存在する場合、有利であろう。
【0107】
本発明の核酸分子は、修飾されることもる。そのような修飾体は、核酸の単一ヌクレオチドに関連することもあり、当技術分野では周知である。そのような修飾体の例は、特に、Venkatesan(2003);Kusser(2000);Aurup(1994);Cummins(1995);Eaton(1995);Green(1995);Kawasaki(1993);Lesnik(1993);およびMiller(1993)に記述されている。そのような修飾体は、核酸分子が含む個々のヌクレオチドの2’位でのH原子、F原子、またはO−CH3基もしくはNH2基であり得る。また、本発明による核酸分子は、少なくとも1つのLNAヌクレオチドを含むことができる。ある実施形態では、本発明による核酸分子は、LNAヌクレオチドからなる。
【0108】
本発明のS1P結合RNA分子、すなわち、L−リボヌクレオチドからなる本発明のL−核酸分子において非化学修飾または置換が、本発明による親S1P結合RNA核酸分子、すなわち、(1つまたは複数の)非化学修飾または(1つまたは複数の)置換を含まないリボヌクレオチドからなる本発明の核酸分子と比較して、本発明のS1P結合RNA分子の結合親和性の改善をもたらすことを本発明者らが見いだしたことは驚くべきことである。非化学修飾または置換は、好ましくは、本発明によるRNA核酸分子、すなわちリボヌクレオチドからなる本発明の核酸分子において1つまたは複数のL−リボヌクレオチドを1つまたは複数のL−デオキシリボヌクレオチドと置換する群から選択される。
【0109】
好ましい実施形態では、S1P結合核酸(リボヌクレオチドだけからなるRNAスピーゲルマーL−S1P−215−F9−002)の結合親和性は、最高5個までのリボヌクレオチドを最高5個までのデオキシリボヌクレオチドと置換することによって、好ましくは4個のリボヌクレオチドを4個のデオキシリボヌクレオチドと置換することによって改善した。
【0110】
ある実施形態では、本発明による核酸分子は、多分割の核酸であり得る。本明細書で用いる場合、多分割の核酸分子は、少なくとも2本の核酸鎖からなる核酸である。これらの少なくとも2本の核酸鎖は、機能単位を形成し、該機能単位は標的分子に対する配位子になる。この少なくとも2本の核酸鎖は、2本鎖を生成するために核酸を切断すること、または本発明の第1の部分、すなわち核酸分子全体に対応する1つの核酸と、本発明に関する核酸分子の第2の部分の核酸分子全体に対応する別の核酸とを合成することのいずれかによって、本発明に関する核酸分子のいずれかに由来し得る。上で例示したように2本以上の鎖を有する多分割の核酸を生成するために、切断および合成を適用し得ることは認識されることになる。言い換えると、少なくとも2本の核酸鎖は、典型的には、互いに相補的であり、かつハイブリッド形成する2本の鎖とは異なるのが、種々の核酸の部分の間では、ある程度の相補性が存在し得る。
【0111】
最終的に、本発明による核酸の完全に閉ざされた構造、すなわち環状構造が実現される、すなわち、本発明による核酸は、好ましくは、共有結合を介して閉ざされ、より好ましくは、そのような共有結合が、本明細書に開示する核酸配列の5’末端から3’末端までの間で行われることも本発明の範囲内である。
【0112】
本発明者らは、本発明による核酸が非常に有利なK値範囲を示すということを発見した。
【0113】
本発明による核酸の結合定数を決定することは、実施例4および6に記述した表面プラズモン共鳴法を用いることで可能になり、これによって本発明による核酸が有利なK値範囲を示す。個々の核酸分子間と、本発明の場合S1Pである標的との結合の強度を表すための適切な基準は、いわゆるK値であり、そのようなものとしてそれを決定するための方法も、当業者には周知である。
【0114】
本発明による核酸は、あるK値によって特徴づけられる。好ましくは、本発明による核酸が示すK値は、1μM未満である。約1μMのK値は、核酸の標的との非特異的結合の特徴であると言われている。当業者が認識するように、本発明による核酸などの化合物の群のK値は、ある特定範囲内にある。約1μMの上述のKは、好ましいK値の上限である。標的結合核酸のKの好ましい下限は、約10ピコモル以上であり得る。S1Pに結合する個々の核酸のK値が好ましくはこの範囲内であることは、本発明の範囲内である。好ましい範囲は、この範囲内の任意の第1の数およびこの範囲内の任意の第2の数を選択することで定義されることができる。好ましい上限値は、250nMおよび100nMであり、好ましい下限値は、50nM、10nM、1nM、100pMおよび10pMである。
【0115】
本発明による核酸分子は、標的分子に依然として結合できるという条件で任意の長さであってもよい。本発明による核酸の好ましい長さがあることは、当技術分野で認識されるであろう。典型的には、その長さは15ヌクレオチドと120ヌクレオチドとの間である。本発明による核酸の可能な長さは、15と120との間の任意の整数であることを、当業者は認識するであろう。本発明による核酸の長さのより好ましい範囲は、約20〜100のヌクレオチド、約20〜80のヌクレオチド、約20〜60のヌクレオチド、約20〜50のヌクレオチドおよび約30〜50のヌクレオチドの長さである。
【0116】
本明細書に開示する核酸は、好ましくは高分子量部分でありおよび/または好ましくは、特に、動物の体内、好ましくはヒトの体内における滞留時間に関して、核酸の特徴を修飾できるようにする部分を含むことは本発明の範囲内である。そのような修飾の特に好ましい実施形態は、本発明による核酸のPEG化およびHES化である。本明細書で用いる場合、PEGはポリ(エチレングリコール)を表し、およびHESはヒドロキシエチルデンプンを表す。好ましくは本明細書で用いる場合、PEG化は、本発明による核酸の修飾であり、そのような修飾体は、本発明による核酸に付着するPEG部分からなる。本明細書で用いる場合、HES化は、本発明による核酸の修飾であり、そのような修飾体は、本発明による核酸に付着するHES部分からなる。直鎖型ポリ(エチレン)グリコール、分岐型ポリ(エチレン)グリコール、ヒドロキシエチレンデンプン、ペプチド、タンパク質、多糖、ステロール、ポリオキシプロピレン、ポリオキシアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチル)−L−グルタミン、およびポリエチレングリコールなどの修飾体、ならびにそのような修飾体を用いることによる核酸を修飾するプロセスは、欧州特許出願EP第13063621号に記述されており、その開示を、その全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0117】
そのように高分子量部分であるPEGの場合、その分子量は、好ましくは約20,000〜約120,000Da、より好ましくは約30,000〜約80,000Da、最も好ましくは約40,000Daである。そのように高分子量部分であるHESの場合、その分子量は、好ましくは約50〜約1000kDa、より好ましくは約100〜約700kDa、最も好ましくは200〜500kDaである。HESは、0.1〜1.5、より好ましくは1〜1.5のモル置換を示し、かつC2/C6の割合をおよそ0.1対15、好ましくはおよそ3対10で表す置換試料を示す。HES修飾のプロセスは、例えば、独国特許出願DE第12004006249.8号に記述されており、その開示を、その全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0118】
修飾は、原則として、本発明の核酸分子に対して、その任意の位置で行うことができる。好ましくは、そのような修飾は、核酸分子の5’−末端ククレオチド、3’−末端ヌクレオチドおよび/または5’ヌクレオチドと3’ヌクレオチドとの間の任意のヌクレオチドで行われる。
【0119】
修飾体および好ましくはPEG部分および/またはHES部分は、直接的にまたはリンカーを介してのいずれかで本発明の核酸部分に付着され得る。本発明による核酸分子が、1つまたは複数の修飾体、好ましくは1つまたは複数のPEG部分および/またはHES部分を含むことも、本発明の範囲内である。ある実施形態では、個々のリンカー分子は、本発明による核酸分子に、複数のPEG部分またはHES部分を付着させる。本発明と関連して用いられるリンカーは、それ自身が直鎖型または分岐型のいずれかであり得る。この種類のリンカーは、当業者にとって周知であり、国際公開WO第2005074993号およびWO第2003035665号にさらに記述されている。
【0120】
好ましい実施形態では、前述のリンカーは生分解性リンカーである。生分解性リンカーは、本発明による核酸から修飾体が放出されるために、とりわけ、動物の体内、好ましくはヒトの体内における滞留時間に関して、本発明による核酸の特徴を修飾することを可能にする。生分解性リンカーを使用することで、本発明による核酸の滞留時間をより良好に制御することが可能になる。そのような生分解性リンカーの好ましい実施形態は、国際公開WO第2006/052790号、WO第2008/034122号、WO第2004/092191号、およびWO第2005/099768号に記述される生分解性リンカーがあるが、これらに限定されないものとする。国際公開WO第2004/092191号およびWO第2005/099768号において、生分解性リンカーは、本明細書に記述する1つまたは2つの修飾体、核酸分子、および介在する生分解性リンカーからなる重合体オリゴヌクレオチドプロドラッグの一部である。
【0121】
修飾体または修飾基が生分解性修飾体であり、生分解性修飾体が、直接的にまたはリンカーを介してのいずれかで本発明の核酸分子に付着され得ることは、本発明の範囲内である。生分解性修飾体は、本発明による核酸から修飾体が放出されるために、とりわけ、動物の体内、好ましくはヒトの体内における滞留時間に関して、本発明による核酸の特徴を修飾することを可能にする。生分解性修飾体を使用することで、本発明による核酸の滞留時間をより良好に制御することが可能になる。そのような生分解性修飾体の好ましい実施形態は、国際公開WO第2002/065963号、WO第2003/070823号、WO第2004/113394号、およびWO第2000/41647号、WO第2000/41647号では、好ましくは18頁、4〜24行目に記述されるように生分解性であるが、これらに限定されないものとする。
【0122】
上述の修飾体以外に、他の修飾体を用いて、本発明による核酸の特徴を修飾することができ、そのような修飾体は、タンパク質、コレステロールなどの脂質、およびアミラーゼ、デキストラン他などの糖鎖の群から選択される。
【0123】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明による核酸を、重合体およびより詳細には、本明細書に開示した、好ましくは生理学的に許容される重合体類などの高分子量部分で修飾することによって、排泄速度が変わると思われる。より詳細には、そのように修飾された発明に関する核酸の分子量が増加するため、および核酸が特にL型において代謝作用の対象でないために動物の体内から、好ましくは哺乳類の体内から、より好ましくはヒトの体内からの排泄が減少すると思われる。排泄は、典型的には腎臓を介して生じるので、本発明者らは、このように修飾された核酸の糸球体濾過速度が、この種類の高分子量修飾を施してない核酸と比較すると、著しく減少し、体内の滞留時間の増加をもたらすと考える。それと関連して、高分子量修飾にもかかわらず、本発明による核酸の特異性が有害な様式で影響を受けないことは、特に注目すべきことである。その範囲において、本発明による核酸は、驚くべき特徴があり(通常は、医薬的に活性な化合物からは期待できない)、したがって徐放をもたらす医薬製剤は、徐放を与えるために必ずしも必要とされない。むしろ、高分子量部分を含むその修飾型での本発明による核酸は、徐放製剤としてすでに用いられることができる。その範囲において、本明細書に開示する核酸分子の(1つまたは複数の)修飾体と、したがって修飾型核酸分子と、修飾体を含むいずれの組成物とは、明確な薬物動態、好ましくは制御された薬物動態およびその体内分布を与え得る。これは、循環における滞留時間および組織への分布も含む。そのような修飾体は、国際公開WO第2003035665号にさらに記述されている。
【0124】
しかしながら、本明細書に開示する核酸が、いかなる修飾も含まず、特にPEG化またはHES化などの高分子量修飾を何ら含まないことも本発明の範囲内であるそのような実施形態は、核酸が、体内における任意の標的器官または標的組織への優先的分布を示す場合、または投与後、体内からの核酸の速やかなクリアランスが望ましい場合、特に好ましい。体内における任意の標的器官または標的組織への優先的分布プロフィルを有する、本明細書に開示する核酸は、核酸の全身濃度を低く保持しながら、標的組織では有効な局所濃度を確立することを可能にするであろう。これは、低用量の使用を可能し、経済的観点から有益であるばかりでなく、核酸薬剤に対する他の組織の不必要な曝露も減少させ、したがって副作用の潜在的リスクを低下させるであろう。本明細書に開示する核酸の投与後の、体内からの速やかなクリアランスは、各本発明による核酸またはこれを含む薬物を使用するin vivo画像診断または特定の治療的投与の必要性がある場合には、望ましいかも知れない。
【0125】
本明細書では本発明による核酸とも呼ばれる本発明に関する核酸、および/または本発明によるアンタゴニストは、薬物の生成または製造で用いてもよい。本発明によるそのような薬物または医薬組成物は、本発明に関する少なくとも1つの核酸を、任意にさらに医薬的に活性の化合物とともに含み、本発明に関する核酸は、好ましくはそれ自体が医薬的に活性な化合物として作用する。好ましい実施形態では、そのような薬物は、医薬的に許容される担体を少なくとも含む。そのような担体は、例えば、水、緩衝液、PBS、グルコース溶液であってもよく、好ましくは、5%グルコース平衡塩液、デンプン、糖、ゼラチンまたは任意の他の許容される担体物質であってもよい。そのような担体は、一般に、当業者に知られている。本発明の任意の実施形態、用途および態様または本発明の薬物に関連する任意の実施形態、用途および態様は、本発明の医薬組成物にも適用可能であり、逆もまた同じであることを、当業者は認識するであろう。
【0126】
治療および/または予防のために、本発明による、または本発明にしたがって調製された核酸、医薬組成物および薬物を使用することができる兆候、疾患および障害は、それぞれの発症機序においてS1Pが直接的または間接的にのいずれかでの関与の結果生ずる。
【0127】
本発明は、同定によってS1Pを中和する手段と、S1P結合核酸の用途とを提供する。本発明による核酸がヒトおよび動物のS1Pと相互作用するため、本発明のS1P結合核酸は、本明細書に記述するヒトおよび動物のいかなる疾患の治療、予防および/または診断で用いられる得ることを当業者は理解すると思われる。それと関連して、そのような疾患、障害、および状態の根本的な作用様式に無関係に、本発明の核酸は、本明細書に開示する疾患、障害、または状態の治療および予防で用いられ得ることが認識されることになる。
【0128】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、以下において、種々の疾患、障害および状態と関連して、本発明による核酸分子を用いる理論的根拠を提供し、したがって主張する本発明による核酸分子の治療、予防および診断への適用を妥当なものとする。いずれの不必要な繰り返しを避けるために、それと関連して概要を述べるようにS1Pとその受容体のS1P、S1P、S1P、S1PおよびS1Pが関与するため、前述の相互作用は、本発明による核酸分子よって対処することができ、したがって主張する治療、予防および診断の効果が達成されることを、認識すべきである。患者の疾患、障害および状態の詳細な事項、ならびにそれと関連して記述する治療レジメンのいずれの詳細も、本出願の好ましい実施形態の対象となり得ることを、さらに認識すべきである。
【0129】
治療および/または予防のために、本発明による、または本発明にしたがって調製された核酸分子、医薬組成物および薬物を使用することができる兆候、疾患および障害は、それぞれの発症機序においてS1Pが直接的または間接的にのいずれかでの関与の結果生ずる。S1Pの中和は、少なくとも部分的には、S1Pが調節する1つまたは複数の病理過程、例えば、過剰増殖、異常な新血管新生、血管新生、線維形成、線維症、瘢痕、異常な細胞輸送、異常な血管完全性、炎症、および自己免疫応答によって特徴づけられる疾患および状態において有益であり得る。本明細書に表す分類は、記述的な利便性のためであって、本発明を限定するものではない。
【0130】
S1Pは、細胞増殖および生存を促進することによって、細胞成長を促進する。このように、S1Pの有効なin vivo濃度を減少させることは、過剰増殖性障害を治療する、または予防する際に有益であると思われる。過剰増殖性障害は、細胞の制御されない激増と関連した疾患および/または障害および/または疾患状態と定義される。S1P関連の過剰増殖性障害には、過形成、組織異常増殖、内皮細胞増殖と関連した障害、および線維芽細胞増殖と関連した障害が挙げられる。ほとんどの場合、組織異常増殖は癌である。
【0131】
内皮細胞と関連した過剰増殖性障害は、血管新生の疾患をもたらし得る。そのような疾患および状態の例としては、固形腫瘍または血液腫瘍に起因する癌、血管腫、子宮内膜症、肥満、加齢黄斑変性症、および種々の網膜症、ならびにアテローム動脈硬化症の治療でステント留置の結果としての再狭窄に起因する内皮細胞および平滑筋細胞の増殖がある。
【0132】
増加している証拠は、S1Pを非常に強力な血管新生促進剤として関係づけている。S1Pは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の走化性運動性を刺激し、かつ多細胞性構造の分化[[Liuら,J Clin Invest.2000 106:951−961]を誘発し、かつ新血管新生部位へのEC前駆体の移動[Annabi, Exp Hematol.2003 Jul; 31(7):640−9]を促進する。ネズミ抗S1P抗体による最近の研究では、抗体によるS1P中和が細胞保護効果と血管内皮細胞の移動を抑制することが種々のin vitroアッセイで示された。In vivo研究では、同じ抗体は、マウスでのマトリゲルプラグアッセイにおいてVEGF誘導血管新生、ならび腫瘍細胞からのVEGF、bFGF、IL−6、およびIL−8などの血管新生促進サイトカインの放出を抑制した。ヒト癌細胞を保有する異種移植したマウスにおいて、マウス抗S1P抗体による処置は、腫瘍増殖を著しく遅らせた[Visentin,Cancer Cell.2006 Mar;9(3):225−38]。したがって、S1Pに直接的に結合して中和する薬剤は、癌と、加齢黄斑変性症などの網膜および脈絡膜新生血管(Caballero,Exp Eye Res 2009,88:367−377;Skoura,J Clin Invest 2007,117:2506−2516;Xie,J Cell Physiol 2009,218:192−198)に関連する眼疾患とを含むがこれらに限定されない病状での血管新生促進活性の治療において、S1Pが媒介する影響を無効にするのに有用である。
【0133】
線維芽細胞が関与する過剰増殖性障害には、加齢黄斑変性症などの過剰な瘢痕(例えば、線維症)の障害[Caballero,Exp Eye Res.2009 Mar;88(3):367−7]、心筋と関連する心臓リモデリングおよび心不全[Takuwa Cardiovasc Res.2010 Feb l;85(3):484−93]、強皮症[Bu, Arthritis Rheum.2010 Jul;62(7):2117−26]、嚢胞性線維症[Uhlig,Am J Respir Crit Care Med.2008 Dec 1;178(11):1 100−14]、および例えば、手術または損傷、ケロイド、および類線維腫瘍とステント留置の結果として一般に起こる過剰な創傷治癒が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0134】
S1Pは、線維芽細胞移動、増殖を活性化し、かつそれらのコラーゲンの産生を刺激する。したがって、細胞損傷および/または炎症が生じると、損傷した細胞によって局所的に作られたS1Pは、異常な創傷治癒、線維形成および線維症に関与し得る。したがって、S1Pに直接的に結合して中和する薬剤は、加齢黄斑変性症などの眼疾患、心血管疾患、および強皮症を含むがこれらに限定されない、線維芽細胞の過剰活性または過剰な数と関連する疾患および状態の治療においてS1Pが媒介する影響を無効にするのに有用である。
【0135】
S1Pは、リンパ球の運動性、癒着および輸送を調節する。リンパ組織からのリンパ球の放出は、組織中のS1P低濃度および血行中のS1P高濃度によるS1Pn勾配が続いて起こると思われる。この認知は、S1P分解酵素であるS1Pリアーゼを抑制するとリンパ球減少症に結果としてなることを示す複数の研究によって裏付けられている[Schwab,Science 2005,309(5741):1735−9]。薬物FTY720(フィンゴリモド)は、S1P受容体上で作用することによってリンパ球減少を引き起こし、移植および自己免疫疾患での使用に成功した(JaptokおよびKleuser,Curr Opin Investig Drugs.2009 Nov;10(11):1 183−94)。リンパ球に加えて、S1Pも好中球、マスト細胞および樹状細胞などの他の免疫細胞、ならびに線維芽細胞、上皮細胞、周皮細胞および他の細胞型の移動、増殖および生存を、新血管新生および血管透過性を調節するこれらの手段によって刺激する[Annabi,Exp Hematol.2003 Jul;31(7):640−9;Paik,Genes Dev.2004 Oct l;18(19):2392−403;Chae,J Clin Invest 2004,114,1082−9]。したがって、例えばS1Pなどの特定のin vivo標的脂質の有効な血漿中濃度を、S1P結合核酸分子などの中和剤によって下げることを使用して、炎症部位から離れたエフェクターTリンパ球を指示することが可能であり、それによって、加齢性黄斑変性症で見られる脈絡膜新生血管などの炎症性成分による自己免疫疾患および眼疾患を含むがこれらに限定されない疾患を治療するのに有用である。
【0136】
S1Pは、内皮および上皮のバリアの調節において重要な役割を果たしている[MarsolaisおよびRosen,Nat Rev Drug Discov,2009 Apr;8(4):297−307]。血管内皮細胞バリアは、間質から血管成分を分離する。これらのバリアが破壊すると、血管浸透性が高くなり、炎症を引き起こし、次いで器官機能に影響を及ぼす。S1Pは、このバリアの完全性を維持する。これは、S1PとS1P1との相互作用によって主に媒介される[Singleton,FASEB J. 2005 Oct;19(12):1646−56;FreistritzerおよびRiewald,Blood.2005 Apr 15;105(8):3178−84]と考えられるが、他のS1PRも同様に関与し得る、S1P1の拮抗作用は、血管漏出を誘発する[Sannaら,Nat Chem Biol.2006 Aug;2(8):434−41]ことが示されており、S1P1とS1P2との間の平衡が、S1Pが媒介する血管透過性の調節において重要であるという証拠がある。通常の状態で、内皮および上皮のバリアの完全性を維持することは重要であり得、血管透過性が上昇すると、急性肺損傷よび敗血症の一因となる[Wang,Microvasc Res.,2009 Jan;77(1):39−45]。他方では、そのようなバリアの一時的な破壊が望ましいまたは有益である疾患または病的状態があり得る。腫瘍性疾患において、血管安定化は、新血管新生および腫瘍転移にとって重要である[Paik,Genes Dev.2004 Oct 1;18(19):2392−403]。siRNAによってS1P1の発現を減少させることで、腫瘍異種移植モデルにおいて血管安定性を抑制し、腫瘍増殖の劇的な抑制をもたらす[Chae,J Clin Invest 2004,114,1082−9]。機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720は、マウス黒色腫モデルにおいてVEGF誘導血管透過性、腫瘍血管新生および増殖を抑制することを示した[LaMontagne,Cancer Res.2006 Jan 1;66(1):221−31]。さらに、S1Pの一時的な直接中和は、内皮または上皮のバリアの破壊がある病的状態をそのままでまたは1つもしくは複数のさらなる治療薬と併用のいずれかで治療するのに有用である状態において、有益であり得。その治療薬の効果または病的状態の治療は、該バリアのそのような破壊によって増強され得る。直接S1P自体に干渉し、このように血管透過性に関しすべての細胞外S1P受容体の活性化を阻止する薬剤の効果は、まだ示されてなかった。血管透過性が増加するまたは減少するかどうかは、依然として推測の対象のままである。双方とも上記に示した疾患の治療に対して有用である。
【0137】
過剰増殖、新血管新生、血管新生、異所性線維形成、炎症および血管安定性を含む種々の病理過程において生理活性脂質が関与するため、S1P結合核酸分子などの中和剤との直接的な相互作用を介してS1Pの有効なin vivo濃度を下げることは、したがってS1Pがその状態を引き起こし得る、または一因となり得る。そのような疾患および状態は、全身性、または1つもしくは複数の特異的全体的である可能性があるが、1つ以上の特定の身体系、部分または器官に局在化され得る。そのような方法による治療を受け入れられる疾患または障害のクラスとしては、癌、感染症と炎症、自己免疫障害、脳血管疾患、心血管疾患、眼疾患、人工呼吸誘発肺損傷、皮膚疾患、過剰線維形成および線維症に関連する癌、病的血管新生に関連する疾患または障害、異常な新血管新生に関連する疾患または障害、異常な血管安定性に関連した疾患または障害、および以下にさらに詳細に記述する移植に関連した疾患または障害が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0138】
癌細胞は、常に変異して、進化することによって治療レジメンから逃れることが多く、したがって細胞傷害性薬物または抗血管新生薬に耐性を持つようになる。癌細胞がどのように治療に耐性を持つようになるかの重要な機序は、スフィンゴシンキナーゼ1(SphK1)のアップレギュレーションに次いで、今度は腫瘍微小環境へのS1Pの放出である[Raguz,Br J Cancer 2008,99:387−3912008;Cuvillier, Curr Mol Pharmacol 2010,3:53−65)。S1P媒介化学療法抵抗性の起こり得る機序は、S1Pと、低酸素誘導転写因子(HIF)との間のクロストークを含み、低酸素に対する癌細胞の応答はS1P/SphK系のアップレギュレーションを含む[Ader,Cancer Res 2009,68:8635−8642]。まとめると、S1P結合核酸分子などのS1P中和剤によって過剰生成されるS1Pと結びついた薬物耐性を克服することは、有望なアプローチになり得る。
【0139】
異常な血管新生/新血管新生、異常なリモデリング、線維形成、瘢痕および炎症などのS1Pによって調節される種々の過程は、眼疾患と関連して生じる[Eichlerら,(2006),Curr Pharm Des, vol 12:2645−60]。
【0140】
加齢黄斑変性症(AMD)は、西欧諸国において60歳以上の患者での失明の主要な原因である[BylsmaおよびGuymer(2005),Clin Exp Optom, vol 88:322−34,Gryziewicz(2005),Adv Drug Deliv Rev, vol 57:2092−8,ならびにLiuおよびRegillo(2004),Curr Opin Ophthalmol,vol 15:221−6]。AMDの正確な原因は完全には理解されていないにもかかわらず、脈絡膜新血管(CNV)、網膜下線維症、浮腫および炎症などの種々のS1P調節プロセスは、AMDの病変形成およびAMD関連失明の一因となる[TezelおよびKaplan(2004),Trends Mol Med,vol 10:417−20,ならびにAmbatiら,(2003),Surv Ophthalmol,vol 48:257−93]。VEGFは、CNV増加と、網膜内および網膜下浮腫の発生をもたらす血管浸透性増加とによるAMDの病変形成の一因となる。したがって、現在の治療は、抗VEGFモノクローナル抗体の硝子体内注入によるVEGFの抑制に焦点を合わせている。増加する証拠タは、滲出型(湿性)AMD関連CNV、線維形成および炎症におけるS1Pの役割を示唆している。S1Pは、血管新生部位に上皮細胞の動員を誘導し、かつ初期の血管構造の生成を刺激する[Lee,Biochem Biophys Res Commun 1999,264:743−750]。またS1Pは、VEGF非依存的様式で、上皮細胞と壁細胞との間にN−カドヘリンが媒介する接合部の形成を促進する[Paik,Genes Dev.2004 Oct l;18(19):2392−403]。S1Pは、さらに、bFGFおよびVEGFなどの血管新生促進因子を交差活性化することによって新血管新生を補助する[Igarashi,Proc Natl Acad Sci USA 2003,100:10664−9]。S1Pと、TGFb、PDGFなどの線維化促進因子および結合組織増殖因子およびS1Pを介する網膜色素上皮細胞によるコラーゲン発現の誘発とのクロストークは、AMD関連線維形成におけるS1Pの役割を強く示唆している[Xin,J Biol Chem 2004,279:35255−35262;Hobson,Science 2001,291:1800−1803;Katsuma,FEBS Lett 2005,579:2576−2582;Swaney,Exp Eye Res 2008,87:367−375]。加えて、S1Pが媒介する炎症性イベントがAMDの病変形成の一因となるという証拠が蓄積されている。マクロファージの全身枯渇によりレーザー誘導CNVを減弱させ[Sakurai,Invest Ophthalmol Vis Sci 2003,44:3578−3585]、かつ抗S1P抗体を中和することでマクロファージ浸潤を減少させた[Xie,J Cell Physiol 2009,218:192−198]。さらに、S1Pは、C5a作用の主要な下流メディエーターとして意味づけられており[Vlasenko,J Immunol 2005,174:6456−6461]、眼の炎症性プロセスは、例えばAMDの間に生じるので、C5a−S1P−軸が眼の炎症性プロセスに決定的に関与し得ることを示唆している。これらのデータと一致して、滲出型AMDのモデルであるブルック膜のレーザー誘導破壊の後に、抗S1P抗体を中和する硝子体内注射によって、CNV形成と網膜下線維症を阻止した[Caballero,Exp Eye Res 2009,88:367−377;O’Brien,J Lipid Res 2009,50:2245−2257]。さらに、単回投与第Ia相臨床試験では、抗体を中和するS1Pは、一部の患者において新血管構造の退行をもたらし、これは単回投与後の抗VEGF治療で見られなかった効果である[Sabbadini,Br J Pharmacol.2011 Mar;162(6):1225−38]。まとめると、S1P結合核酸分子などの、S1Pの硝子体内濃度を下げる中和剤は、新血管新生、線維症および炎症と関連した滲出型AMDおよび他の眼疾患の治療に有望なアプローチになるであろう有力な証拠である。
【0141】
糖尿病性網膜症(DR)は、糖尿病患者においてよく見られる合併症である。DRは、虚血型網膜症であり、したがって網膜血流障害によって特徴づけられる。DRの病状は、最終的に眼内大量出血、小部分の網膜剥離および血管透過性の増加をもたらし得るVEGF駆動型網膜血管新生を含む。新血管形成、血管透過性および線維症におけるS1Pの役割は、S1Pを拮抗することがDRの治療にとって有益であり得ることを示唆した。実際、ラットにおいて、SPHKの小分子アンタゴニストによるS1P形成の抑制により、VEGF誘導血管新生およびストレプトゾトシン誘導糖尿病性網膜症における網膜血管漏出の初期イベントが減弱した[Maines,Invest Ophthalmol Vis Sci 2006,47:5022−5031]。糖尿病性網膜症患者における視力障害の主な原因の1つは、糖尿病性黄斑浮腫(DME)の発現である。VEGF誘導血管新生および血管漏出は、DME発現および進行に広く関与する[Aiello,Diabetes 1997,46:1473−1480]。したがって、抗VEGF抗体(ラニビズマブ、ルセンティス)治療は、DMEにおいて成功し、[Massin,Diabetes Care. 2010,33(11):2399−405]最近、認可された。抗S1P抗体の中和のVEGF媒介血管新生および血管漏出への効果[LaMontagne Cancer Res 2006 Jan 1;66(1):221−31;Visentin,Cancer Cell.2006 Mar;9(3):225−38]を考慮すると、S1P結合核酸分子などの、硝子体内および網膜の濃度を下げる中和剤は、DMEの治療にとって有望なアプローチになることが予想される。
【0142】
網膜色素上皮(RPE)剥離は、AMDおよびDRなどの新血管新生、血管浸透性の上昇、および線維形成の刺激に関連する眼疾患に二次的に生じる。S1Pは、レーザー誘導損傷後、RPEによって強くアップレギュレートされる[Caballero,Exp Eye Res 2009,88:367−377]。RPE剥離でのS1Pに拮抗する有益な効果の証拠は、薬効の証拠は、モノクローナル抗S1P抗体ソネプシズマブについての第I相臨床試験によって提供される。潜在性疾患の患者は、RPE剥離の回復、すなわち抗VEGF治療について検討されなかった効果を経験した[Sabbadini,Br J Pharmacol.2011 Mar;162(6):1225−38]。
【0143】
増殖性硝子体網膜症(PVR)は、網膜剥離の最も頻度の高い合併症である。PVR病態生理は、最終的に網膜の過剰な瘢痕をもたらす。S1Pと、VEGF、bFGF、IL−6、およびIL−8などの増殖因子との間の記述したクロストーク、およびこれらの因子上で抗S1P抗体を中和する抑制効果[Visentin,Cancer Cell 2006,vol 9:1−14;MilstienおよびSpiegel,Cancer Cell 2006,vol 9:148−150]を考慮し、PVRで見られる過剰な瘢痕および機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720の、これらの同じ重要なメディエーターへの周知の効果、ならびに網膜剥離の患者においてソネプシズマブの治療効果[Sabbadini,Br J Pharmacol.2011 Mar;162(6):1225−38]を最終的にもたらす病態生理を考慮すると、S1P結合核酸分子などの、S1Pの硝子体内濃度を下げる中和剤は、PVRの治療の有望なアプローチになると予想される。
【0144】
網膜線維症は、AMDおよびDRにおいて光受容体および失明の回復不可能な損傷をもたらす。このプロセスは、現在利用できる治療法によって、対処されない。滲出型AMDのモデルでのブルック膜のレーザー誘導破壊において、抗S1P抗体を中和すると、CNV形成を阻止した[Caballero,Exp Eye Res 2009,88:367−377]。
【0145】
未熟児網膜症(ROP)のモデルにおいて、S1P2欠損マウスは、硝子体腔において病的血管新生の減少を示した[Skoura,J Clin Invest 2007,117:2506−2516]。虚血誘導血管新生のROPモデルにおいて、抗S1P抗体を中和すると、網膜血管新生および血管の漏れやすさを効果的に阻止した[Xie,J Cell Physiol 2009 218:192−198]。抗S1P抗体を中和すると、ROPの間、マクロファージの浸潤をさらに制限することができた[Xie,J Cell Physiol 2009,218:192−198]。
【0146】
眼圧の上昇は、緑内障において主要なリスク因子である。S1Pは、ブタおよびヒトの眼において房水流出能を低下減少させ、したがって流出抵抗および眼圧を増加させた[Mettu, Invest Ophthalmol Vis Sci.2004 Jul;45(7):2263−71;Stamer,Exp Eye Res.2009 Dec;89(6):980−8]。S1P2受容体活性化は、従来の流出抵抗を増加させる[Sumida,Am J Physiol Cell Physiol.2011 Feb 2]。このように、異常な新血管新生(例えばS1P結合核酸分子)によってSIPの硝子体内の集中を減らすことは、緑内障の治療のための有望なアプローチである。
【0147】
S1Pの知られている多面的効果およびVEGFと、関連する増殖因子と、サイトカインとのS1Pの相互作用を考慮すると、S1Pの有効な眼球濃度を下げることは、病理的網膜血管新生のVEGF駆動型増殖と関連する虚血網膜症を抑制するのに有効であることが予想される。これらには、鎌状赤血球網膜症、網膜静脈閉塞疾患、黄斑パッカ(セロハン網膜症)、増殖糖尿病網膜症(PDR)、および網膜血管新生疾患が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0148】
異常新血管新生または血管新生によって特徴づけられる他の眼状態には、少なくとも1つには、コンタクトレンズ過剰装着;単純ヘルペス、帯状ヘルペスおよび原虫感染症を含む角膜感染症:翼状片;感染性ぶどう膜炎;角膜移植後のリンパ脈管新生および移植拒絶反応;慢性網膜剥離;かすみ、角膜実質瘢痕および退行などの屈折矯正手術の合併症;鎌状赤血球網膜症;静脈閉塞疾患;網膜血管腫増殖;および特発性ポリープ状脈絡膜脈管障害が挙げられる。
【0149】
炎症性または免疫成分による他の眼疾患には、慢性硝子体炎、自己免疫網膜ぶどう膜炎、アレルギー結膜炎、春季カタル、単純ヘルペス、帯状ヘルペス、および原虫感染症[Ciullaら,(2001),Curr Opin Ophthalmol,vol 12:442−9]および他の眼ヒストプラスマ症が挙げられる。
【0150】
S1Pは、瘢痕の調節に関与している。前眼部の瘢痕は、外傷(空気中の破片から、例えば外科手術から生じ得る鈍的外傷、および化学薬品までの範囲の種々の危険を引き起こす原因から生じる)[Dartら(2003),Eye,vol 17:886−92]、眼部瘢痕類天疱瘡(OCP)(慢性的に瘢痕ができる(瘢痕形成)自己免疫疾患)、主に結膜に影響を及ぼす自己免疫疾患)、スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)、および中毒性表皮壊死症(TEN)(薬物に対する重篤な有害反応)、翼状片(結果として失明することがあり得る眼瞼裂の間に起こる翼のような三角形膜;VEGFは、翼状片の発現において、重要な役割を果たすことがある[Doughertyら(1996),Cornea,vol 15:537−540,およびLeeら,(2001),Cornea,vol 20:238−42]に関与する。
【0151】
S1Pは、過形成の間、細胞増殖を促進して、アポトーシスから保護することによって、過剰増殖を促進する。
【0152】
異常増殖とは、異常な、制御されない、かつ混乱した細胞成長をいう。ほとんどの場合、異常増殖は癌である。いくつかの一連の証拠は、それは、細胞運命を決定する、スフィンゴシンとセラミドに関するS1Pのバランスであることを示唆する[Moritaら,2000,MelendezおよびKhaw,2002;BaumrukerおよびPrieschl,2000]。癌細胞は、SPHK1をアップレギュレートし、それによって腫瘍微小環境におけるS1P濃度を増加させることが示された[Pyne,Nat Rev Cancer 2010,10:489−503]。乳腺腺癌、組織球白血病、グリア芽細胞腫異種移植、およびAML異種移植のモデルにおいて、SPHK1の発現が低下すると、腫瘍増殖が減少したSPHKの乳癌細胞および低分子インヒビターにおいて細胞周期停止およびアポトーシスが誘発される[Sabbadini,Br J Pharmacol.2011 Mar;162(6):1225−38]。
【0153】
動物モデルからのこれらの結果と一致して、SPHKは、固形腫瘍、特に、乳房、結腸、肺、卵巣、胃、子宮、腎臓、前立腺、および直腸の腫瘍の患者において過剰発現した[Frenchら,Cancer Res 63:5962−5969,2003;Fyrst, Nat Chemical Biology 2010,489−497]。SPHKの発現の増加は、いくつかの癌の種類の患者において生存率の著しい低下と相関する[Sabbadini,Br J Pharmacol.2011 Mar;162(6):1225−38]。S1P中和抗体は、癌細胞系、すなわち、A549、HT−29、MCF−7細胞の増殖を抑制し、それらの侵襲性およびin vitroでのドキソルビシン誘導アポトーシスに対するそれらの抵抗性が示された[Visentin,Cancer Cell.2006 Mar;9(3):225−38]。
【0154】
その過剰増殖作用に加えて、S1Pは、新血管新生、血管新生および転移を促進する。これらは、癌病理学において重大なプロセスである。最も強力な血管新生促進剤の1つとしてS1Pを関係づける、増加している最近の証拠は、VEGFおよびbFGFなどの薬剤とS1Pを直接的に比較する研究から来ている。S1Pは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のDNA合成および走化性運動性を刺激するが、その一方で多細胞性構造の分化を誘導し、そのすべてが初期の血管形成においてS1Pの役割を示唆している(Argravesら,2004;Leeら,1999;Liuら,J Clin Invest.2000 106:951−961)。また、S1Pは、骨髄由来EC前駆体の新血管新生部位への移動を促進する(Annabi,Exp Hematol.2003 Jul;31(7):640−9)。S1Pを過剰発現させる細胞は、抗血管新生剤サリドマイドおよびネオバスタットに抵抗性である(Annabi,Exp Hematol.2003 Jul;31(7):640−9)。加えて、S1Pと、VEGF、EGF、PDGF、bFGFおよびIL−8などの他の血管新生促進増殖因子との間に実質的なクロストークが存在することが示された。例えば、S1Pは、EGF(Shidaら,2004)とVEGF2受容体(Spiegel&Milstien,2003)をトランス活性化し、およびVEGFは、S1P受容体発現をアップレギュレートする(Igarashiら,2003)。また、S1Pと「VEGF軸」を介して作用する、S1Pは、後肢血管新生および新血管新生に必要とされる(Chaeら,2004)。抗血管新生薬であるモノクローナル抗VEGF抗体ベバシズマブ(Avastin,Genentech)は、化学療法との併用で大腸癌の治療のために認可された。S1Pは、転移に関与していることも示された[Takuwa,Biochim Biophys Acta 2002,1582:112−120]。
【0155】
機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720は、肝細胞癌、急性転化慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、リンパ芽球性白血病/リンパ腫および肺腫瘍のモデルにおいて腫瘍増殖および腫瘍関連血管新生を抑制した[Ho,Mol Cancer Ther 2005,4:1430−1438;Neviani,J Clin Invest 2007,117:2408−2421;Liu,Blood 2008,111:275−284;Lucas da Silva,J Exp Ther Oncol 2008,7:9−15]。これらの研究は、S1Pの腫瘍促進機能の腫瘍大部分が、その細胞表面受容体によって媒介されることを強く示唆しているにもかかわらず、そのS1Pは、しかも細胞内二次メッセンジャーとして作用すると考えられるべきである[Hait,Science 2009,325:1254−1257;Alvarez,Nature 2010,465:1084−1088]。S1Pは、例えば、ヒストン脱アセチル化酵素の直接的な細胞内リガンドとして同定さえた。これはしかも癌の発現および進行において関係づけられる[Hait,Science 2009,325:1254−1257]。
【0156】
中和抗S1P抗体は、腫瘍増殖および腫瘍関連血管新生を著しく阻止した。抗体は、マウスマトリゲルプラグアッセイにおいて、bFGF誘導血管新生およびVEGF誘導血管新生を抑制し、および該抗体は、in vitroおよびin vivoで腫瘍細胞からの血管新生促進成長因子(VEGF、IL−8、IL−6)の放出を抑制した。それは、乳癌、卵巣癌のマウスモデルにおいて、肺腺癌異種移植モデルにおいて、およびマウス黒色腫の同種移植モデルにおいて腫瘍の進行を抑制した[Visentin,Cancer Cell.2006 Mar;9(3):225−38]。過形成は、正常な組織または器官の細胞の過剰増殖と呼ばれる。臨床的に関連する例は、良性の前立腺肥大である。S1Pの過剰増殖作用は、過形成と関連していた。S1P含有量減少をもたらすフェノクソディオールは、異なる種類の癌および前立腺癌で試験された[Marshall Edwards press release June 1,2010]。
【0157】
要するに、S1Pの過剰増殖、血管新生および転移への関与の有力な証拠がある。病変形成への個々の過程にかかわりなく、S1P結合核酸分子などの中和剤によるS1Pの直接標的によって、ほとんどの種類の腫瘍および癌などの過剰な増殖、血管新生、転移、およびアポトーシスに対する抵抗性によって特徴づけられる疾患の有効な治療を提供すると予想される。
【0158】
S1Pは、リンパ球の運動性、接着性および輸送を調節する。S1Pは、リンパ器官からのリンパ球の放出および炎症部位でのそれらの保持を調節する[Matloubian,Nature 2004,427,355−360;Ledgerwood,Nat. Immunol.2008,9,42−53]。このように、血漿S1Pレベルが減少すると、結果としてリンパ球減少症になり、したがって病原性Tリンパ球を炎症部位から移動させ、それによって炎症性疾患の治療において有用になる[Schwab,Science 2005,309(5741):1735−9;JaptokおよびKleuser,Curr Opin Investig Drugs.2009 Nov;10(11):1183−94]。さらに、S1Pは、プロスタグランジン、TNF−αおよびIL−6などの炎症促進因子の産生を誘導することが示された[Lai,J Immunol 2008,181:8010−17;Lai,J Immunol 2009,183:2097−2103]。
【0159】
FTY720は、in vivoでリン酸化されて、すべてのS1P受容体(1、3、4、および5)に対するアゴニストとして役立つ。次に、FTY720によってS1P受容体が活性化されると、細胞表面で利用可能な受容体がダウンレギュレートされる。これにより、非応答の細胞がS1Pに提供され、リンパ組織からのリンパ球の放出を阻止し、FTY720の免疫抑制作用がもたらされる[Mandala,Science 2002,296:346−349;Graler,Faseb J 2004,18:551−553]。FTY720は、種々の自己免疫モデルにおいて有効性を示し、多発性硬化症の治療のために認可されている。
【0160】
S1PおよびS1P1受容体の発現により、変形性関節炎の患者と比較して、滑膜関節リウマチにおいて滑膜表層細胞、血管内皮細胞、および炎症性単核細胞がアップレギュレートされることが報告されている[Kitano,Arthritis Rheum.2006 Mar;54(3):742−53;Lai,J Immunol. 2008 Dec l;181(11):8010−7]。コラーゲン誘導関節炎のモデルでは、スフィンゴシンキナーゼインヒビターは、疾患重症度を著しく抑制し、関節炎症および関節破壊を減少させた[Lai,J Immunol.2008 Dec l;181(11):8010−7]。これと一致して、機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720は、関節リウマチのSKGマウスモデルにおいて骨破壊を抑制した[Tsunemi,Clin Immunol.2010 Aug;136(2):197−204]。
【0161】
S1P受容体機能的アンタゴニストFTY720の免疫抑制性作用のため、S1P結合核酸分子などの中和剤で、S1Pの有効なin vivo濃度を下げると、紅斑性狼蒼、乾癬、およびアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患の治療にとって有益であることが示唆される[Herzinger,Am J Clin Dermatol.2007;8(6):329−36]。
【0162】
S1Pの全身投与は、マウスにおいて気管支過感受性を増加させることが示された[Roviezzo,Am J Respir Cell Mol Biol.2010 May;42(5):572−7]。吸入による機能的S1P受容体アンタゴニストFTY7200の局所投与は、喘息のアレルギー性気道炎症マウスモデルを抑制した[Idzko,J Clin Invest 2006,116:2935−2944;Nishiuma,Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.2008 Jun;294(6):L1085−93]。
【0163】
SPHキナーゼ欠乏マウスは、炎症性腸疾患(IBD)のモデルにおいて、発症した疾患を著しく寛解させた[Snider,FASEB J.2009 Jan;23(1):143−52]。これと一致して、機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720は、マウスIBDモデルにおいて、疾患の発症を効率的に抑制した[Deguchi,Oncol Rep.2006 Oct;16(4):699−703]。
【0164】
低用量で、機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720は、内皮バリア機能を増強し、人工呼吸器誘発肺損傷(VILI)のマウスモデルにおいて肺透過性を低下させることが示された(Miiller,Pulm Pharmacol Ther.2011 Mar 23, Epub ahead of print)。このように、有効な肺S1P濃度を低下させると、炎症を抑制し、肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または肺高血圧症(PAH)などの異なる臨床的に関連する状態において肺内皮バリア機能を増強し得る。スフィンゴシンキナーゼの抑制とそれによって有効なS1Pレベルの減少が、外傷および出血ショックの後の肺損傷を寛解させ得るというさらなる証拠がある[Lee,J Trauma.2004,57(5):955−60]。
【0165】
細菌産物は、in vitroでヒト貪食細胞において、ならびに敗血症患者においてSphK1発現および機能を増加させる。SphK1を遮断する、ヒト貪食細胞においてLPS誘導サイトカイン産生を抑制して、敗血症マウスの生存を増加させた。重要なことに、敗血症の生存に関する抗生物質治療の治療効果は、SphK1遮断によって増強された[Puneet,Science, 2010 Jun 4;328(5983):1290−4]。
【0166】
臓器移植の動物モデルにおいて、S1P1アンタゴニストは皮膚および心臓同種移植の生存を延ばし、かつ慢性拒絶反応を減弱させた[Shimizu,Circulation 2005,111,222−229]。同様に、機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720は、角膜移植の同所移植マウスモデルにおいて、および角膜異種移植のラット−マウスモデルにおいて移植片生着を著しく延ばした[Zhangら,(2003),Transplantation,vol 76:1511−3;Sedlakovaら,(2005),Transplantation,vol 79,297−303]。
【0167】
1型糖尿病の養子移植マウスモデルにおいて、機能的S1Pアンタゴニストのフィンゴリモドは、疾患進行を遅らせた[Morris, Autoimmunity. 2011 Mar;44(2): 115−28]。
【0168】
フィンゴリモドによる治療は、炎症性前立腺炎のモデルにおいて、炎症性浸潤と組織破壊を著しく減少させた[Zhang,Scand J Immunol.2011 Feb 15]。
【0169】
機能的S1P受容体アンタゴニストFTY720による治療は、ストレプトゾトシン処置ラットにおいてタンパク尿および細管損傷を著しく減少させた。これは、S1P結合核酸分子などの中和剤によるS1Pの抑制が糖尿病性腎症に有益であり得ることを示す。
【0170】
スフィンゴシンキナーゼ−2の抑制は、ラットにおいてヨード酢酸ナトリウム誘導変形性関節炎に伴う膝関節の組織学的損傷および疼痛を減弱すると報告された[Fitzpatrick,Pharmacology.2011;87(3−4):135−43]。
【0171】
S1P2受容体シグナル伝達は、アテローム性動脈硬化症の病変形成に関係した[Skoura,Arterioscler Thromb Vase Biol.2011 Jan;31(1):81−5]。
【0172】
SPHK1が過剰発現しているマウスは、心筋線維症を伴う重度の心臓リモデリングを示す[Takuwa,Cardiovasc Res 2009,85:484−493]。抗S1P抗体を中和すると、原発性心臓線維芽細胞によって、コラーゲン産生を抑制する[Gellings Lowe,Cardiovasc Res 2009,82:303−312]。
【0173】
したがって、治療および/または予防のために本発明による薬物を用いてもよい疾患および/または障害および/または疾患状態は、以下が挙げられるがこれらに限定されるものではない:
a)眼疾患、好ましくは、加齢黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫を伴う糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症または糖尿病性網膜症のいずれかにおける網膜色素上皮剥離、加齢黄斑変性症または糖尿病性網膜症における増殖性硝子体網膜症および網膜線維症を含む群から選択されるような眼疾患、
b)癌、好ましくは、乳癌、卵巣癌、黒色腫、肺癌、前立腺肥大などの過形成を含む群から選択されるような癌、
c)炎症性疾患、好ましくは、そのような炎症性疾患は、自己免疫疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、喘息、炎症性腸疾患、肺炎、敗血症、および人工呼吸器誘発肺損傷などの外傷を含む群から選択され、好ましくは、自己免疫疾患は、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、喘息、および炎症性腸疾患を含む群から選択される。
【0174】
さらなる実施形態では、薬物は、さらなる医薬的に活性な化合物を含む。
【0175】
その代わりに、または加えて、そのようなさらなる医薬的に活性な化合物は、本発明によるさらなる核酸である。その代わりに、薬物は、S1Pと異なる標的分子に結合する、または本発明による核酸の1つと異なる機能を示す、少なくともあと1つの核酸を含む。好ましくは、そのような少なくともあと1つの核酸は、本明細書に開示するさらなる医薬的に活性な化合物のうちの1つまたはいくつかと同じような、または同一の機能を示す。
【0176】
該薬物は、原則として、前述の疾患の治療のための薬物の用途と関連して、開示されるいずれの疾患の予防のために、その代わりに、または加えて用いられることも本発明の範囲内である。それぞれのマーカー、したがって、それぞれの疾患のマーカーは、当業者にとって周知である。好ましくは、それぞれのマーカーは、S1Pである。
【0177】
本発明の薬物の一実施形態では、そのような薬物は、本明細書に開示する疾患、特に、本発明の薬物が用いられることになる疾患のいずれかのための他の治療と併用で用いる。
【0178】
本発明による組成物は、別の治療薬または治療レジメントと組み合わせて投与されることも可能である。加えて、中和剤を介してのS1Pの調節は、血管透過性の一時的な調節を誘導するのに有用であり、そのような併用治療を介して増加するまたは改善する効果のある第2の治療用薬剤による治療を可能するまたは増強する。
【0179】
本発明による薬物は、第2の薬物または第2の医薬的に活性な薬剤との組み合わせで癌の治療および/または予防に用いられてもよく、第2の薬物または第2の医薬的に活性な薬剤は癌細胞を損傷する、破壊するおよび/または標識する。そのような第2の薬物または第2の医薬的に活性な薬剤は、好ましくは、以下を含む群から選択されるが、これらに限定されるものではない:
a)リツキシマブ(標的はCD20)、セツキシマブ(標的は上皮増殖因子受容体)、イブリツモマブ−チウキセタン(標的はCD20)、トシツモマブ(標的はCD20)、トラスツズマブ(標的はHER2/neu)、ベバシズマブ(標的はVEGF)などの抗体:
b)アルキル化剤(例えばシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、ドキソルビシン、メルファラン);
c)プリンアザチオプリン、メルカプトプリン、フルダラビンなどの代謝拮抗薬;
d)ビンカアルカロイドなどの植物アルカロイド植物、タキサン、好ましくはドセタキセル、パクリタキセル、ポドフィロトキシン、エポチロンなどの植物テルペノイド;
e)カンプトセシン、イリノテカンなどの;トポイソメラーゼインヒビター;および
f)ロイコボリン、メトトレキセート、タモキシフェン、ソラフェニブ、レナリドミド、ボルテゾミブ、デキサメサゾン、フルオロウラシルなどのその他の薬剤。
【0180】
本発明による薬物は、第2の薬物または第2の医薬的に活性の薬剤との組み合わせで眼疾患の治療および/または予防に用いられてもよく、第2の薬物または第2の医薬的に活性な薬剤は、好ましくは、以下を含む群から選択されるが、これらに限定されるものではない:
a)カルシニュリンインヒビター、サイクロスポリン、メトトレキセート、アザチオプリン、タクロリムス、ラパマイシン、クロラムブシル、レフルノミド、ミコフェノール酸モフェチル、ブレキナル、ミゾリビン、サリドマイド、またはデオキシスパガリンなどの免疫系を抑制することが知られている薬剤;プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメサゾン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、エファーブセント、またはブデソニドのようなコルチコステロイド;
b)抗炎症性または抗血管新生の生物製剤は、組み合わせて用いることができる。例えば、IL−10、エルリズマブ(erlizumab)、トレルマブ、リツキシマブ、ゴミリキシマブ、バシリキシマブ、ダクリズマブ、HuMax−TAC、ビシリズマブ、HuMaxCD4、クレノリキシマブ、MAX16H5、TNX100、フォントリズマブ、J695(抗IL12)、HuMaxIL−15、メポリズマブ、エルシリモマブ、HuDREG、アナキンラ、Xoma−052、アダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブ、アフェリモマブ、CytoFab、AME527、バパリキシマブ、ベバシズマブ、ラニビズマブ、ビタキシン、ベリムマブ、MLN1202、ボロシキシマブ、F200(抗α5β1)、エファリズマブ、m60.11(抗CD11b)、エタナーセプト、オネルセプト、ナタリズマブ、またはシプリズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ABT−874、VEGFトラップアイ。
【0181】
「併用療法」(または「同時療法」)は、本発明の薬物と、特定の治療レジメンの一部としての少なくとも第2の薬剤との投与を含み、これらの治療薬、すなわち、本発明の薬物と、前述の第2の薬剤との相互作用からの有益な効果を提供するように意図される。この組み合わせの有益な効果としては、治療薬の組み合わせから生じる薬物動態学的または薬力学的な相互作用が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの治療薬の組み合わせでの投与は、典型的には、定義した期間(通常、選択される組み合わせに応じて、分、時間、日または週)にわたり行われる。
【0182】
「併用療法」は、一般にはそうでないが、偶発的かつ任意に本発明の組み合わせを生じる別々の単独療法レジメンの一部として、これらの治療薬のうちの2つ以上の投与を包含することを意図し得る。「併用療法」は、これらの治療薬を順次、投与すること、すなわち、各治療薬を異なる時期に投与すること、ならびにこれらの治療薬、または該治療薬のうち少なくとも2つを実質的に同時に投与することを包含することを意図する。実質的な同時投与は、例えば、対象者に、各治療薬を一定の比率で含む単一のカプセル剤を投与する、または各々の治療薬のついて単一のカプセル剤を複数投与することによって達成することができる。
【0183】
各治療薬の順次投与または実質的な同時投与は、これらに限定されるものではないが、局所経路、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、および粘膜組織を介しての直接的な吸収を含む任意の適切な経路によって達成されることができる。複数の治療薬は、同じ経路で、または異なる経路で投与されることができる。例えば、選択された組み合わせの第1の治療薬は、注射によって投与され、一方、組み合わせの他の治療薬は局所的に投与されてもよい。
【0184】
その代わりに、例えば、すべての治療薬は、局所的に投与されてもよく、またはすべての治療薬は、注射によって投与されてもよい。治療薬が投与される順番は、特に明記しない限り厳密な重要性はない。「併用療法」は、上述の治療薬と、さらに他の生物学的に活性な成分との組み合わせでの投与も包含し得る。併用療法が非薬物療法をさらに含む場合、治療薬と、非薬物療法の組み合わせの相互作用から有益な効果が達成される限り、該非薬物療法は、任意の適切な時期に行われてもよい。例えば、適切な場合は、非薬物療法が、該治療薬の投与から一時的、好ましくは数日または数週間の間、除かれる場合でも、有益な効果は依然として達成される。
【0185】
上記の一般用語で概要を述べたように、本発明による薬物は、原則として、当業者に周知のいずれの形態で投与されることができる。好ましい投与経路は、全身投与であり、より好ましくは非経口投与による、好ましくは注射による経路である。代わりとして、該薬物は、局所投与されてもよい。他の投与経路は、筋肉内、腹腔内、および皮下、経口、鼻腔内、気管内、または肺からの経路であり、優先権が与えられる投与経路は、侵襲性が最も少ないが、確実に効率の良い経路である。
【0186】
非経口投与は、通常、皮下、筋肉内、または静脈内への注射および注入で用いられる。さらに、非経口投与の1つのアプローチは、徐放性または持続放出性のシステムの埋め込みを使用することである。これは、一定レベルの投与量を確実に維持し、当業者にとって周知の投与経路である。
【0187】
さらに、本発明の好ましい薬物は、好適な鼻腔内ビヒクル、すなわち吸入剤の局所的使用を介して鼻腔内用形態で、または当業者には周知の経皮皮膚パッチの形態を用いる経皮経路を介して投与されることもできる。経皮送達系の形態で投与されるために、投与量は、もちろん、投与計画全体を通して、断続的ではなくむしろ連続的投与される。他の好ましい局所製剤としては、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤、エアゾールスプレー剤およびゲル剤が挙げられる。
【0188】
本発明の薬物は、通常、これに限定されものではないが、医薬的に許容される媒剤中に溶解したまたは分散した本発明の核酸分子を含む、治療の(1つまたは複数)活性成分の有効量を含む。医薬的に許容される媒質または担体には、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。医薬活性物質のためにそのような媒剤および薬剤を用いることは、当技術分野では周知である。補助的な活性成分も、本発明の薬物に組み込むことができる。
【0189】
さらなる態様では、本発明は医薬組成物に関する。そのような医薬組成物は、本発明による少なくとも1つの核酸と、好ましくは医薬的に許容されるビヒクルとを含む。そのようなビヒクルは、当技術分野で使用されているおよび/または知られている任意のビヒクルまたは任意の結合剤であってもよい。より具体的には、そのような結合剤またはビヒクルは、本明細書に開示する薬物の製造と関連して記述するいずれの結合剤またはビヒクルである。さらなる実施形態では、医薬組成物は、さらなる医薬的に活性な薬剤を含む。
【0190】
薬物および医薬組成物の調製は、本開示を考慮すると、当業者にとって理解されるであろう。典型的には、そのような組成物は、溶液剤または懸濁液剤のいずれかで注射剤として;注射より前に、溶液中の、または懸濁液中の好適な固形剤として;経口投与のための錠剤または他の固形剤として;持続放出カプセル剤として;または点眼剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤、吸入剤などを含む現在使用されるいかなる他の形態にでも調製され得る。外科医、医師またはヘルスケア従事者が手術野の特定の区域を扱うために、生理食塩水をベースにした洗浄剤などの滅菌製剤を使用することも、特に有用であり得る。また、組成物は、微小デバイス、微小粒子またはスポンジを介して送達され得る。
【0191】
製剤後、薬物は、投与製剤に適合した様式で、かつ薬理学的に有効である量で投与される。製剤は、上述の種類の注射剤などの種々の剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセル剤なども使用することができる。
【0192】
本発明の薬物は、持続放出型および徐放型の錠剤またはカプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁剤、シロップ剤、および乳剤などの経口剤形で投与されることもできる。坐薬は、脂肪乳剤または脂肪懸濁剤から調製される。
【0193】
医薬組成物または薬物は、無菌化され、および/または保存剤、安定化剤、湿潤剤、または乳化剤、溶液促進剤、浸透圧を調節するための塩類および/または緩衝剤などのアジュバントを含有してもよい。加えて、医薬組成物は、他の治療的に有益な物質を含むこともある。医薬組成物は、従来の混合方法、顆粒化、またはコーティング方法で調製され、かつ典型的には、活性成分を約0.1%〜75%、好ましくは約1%〜50%を含有する。
【0194】
液体組成物、特に注射用組成物は、例えば、溶解させ、分散させることなどによって調製される。活性化合物は、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセリン、エタノールなどの医薬的純溶媒に溶解される、または該溶媒と混合され、それによって注射剤または懸濁注射剤を形成する。さらに、注射に先立つ液体に溶解させるのに好適な固形剤を、製剤化することができる。
【0195】
本発明の薬物および核酸分子は、それぞれ、小さな単層ベシクル、大きな単層ベシクルおよび多層状ベシクルなどのリポソーム送達系の形状で投与されることもできる。リポソームは、種々のリン脂質から形成でき、コレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリンを含む。一部の実施形態では、脂質成分の被膜を、薬物の水溶液と水和させて、脂質層を形成し、薬物をカプセルに包む。これは、当業者には周知の技術である。例えば、本明細書に記述する核酸分子は、当技術分野で知られている方法を用いて構築した親油性化合物または非免疫原性の高分子量化合物との複合体として提供されることができる。さらに、細胞死滅を媒介することを標的とし、かつ内部に細胞傷害性薬物を保有するためのそのような核酸分子をリポソームはその表面に有し得る。核酸関連の複合体の例は、米国特許第6,6011,020号に記載されている。
【0196】
また、本発明の薬物および核酸分子は、それぞれ、標的化可能な薬物担体として可溶性重合体に結合され得る。そのような重合体としては、ポリビニルピロリドン、ピラン共重合体、ポリヒドロキシプロピルーメタクリルアミドーフェノール、ポリヒドロキシエチルアスパンアミドフェノール、またはパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリジンを含むことができる。さらに、本発明の薬物および核酸分子は、それぞれ、例えば、ポリ乳酸、ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、および架橋結合したもしくは両親媒性ブロック共重合体のハイドロゲルなどの薬物の制御放出を達成するのに有用な生分解性重合体の種類に結合され得る。
【0197】
本発明による核酸の有効な血漿レベルは、本明細書に開示するいずれかの疾患の治療において、好ましくは、500μM〜200μM、好ましくは1nM〜20μM、より好ましくは5nM〜20μM、最も好ましくは50nM〜20μMにわたる。
【0198】
本発明の核酸分子および薬物は、それぞれ、好ましくは毎日1回、2日もしくは3日に1回、毎週1回、隔週1回、毎月1回または3カ月に1回投与されてもよい。
【0199】
本明細書に記述する薬物が、本明細書に開示する医薬組成物を構成することも本発明の範囲内である。
【0200】
さらなる態様では、本発明は、そのような治療を必要とする対象者の治療のための方法に関し、該方法は、本発明による核酸のうちの少なくとも1つの医薬的に有効な量を投与することを含む。ある実施形態では、対象者は、ある疾患を患うか、またはそのような疾患を発症するリスクがあり、前述の疾患は本明細書に開示するいずれかであり、具体的には、本発明による核酸のうちのいずれかをある薬物の製造で用いることに関連して開示する疾患のいずれかである。
【0201】
本発明による核酸ならびにアンタゴニストは、薬物としてまたは薬物の製造で用いられるだけでなく、具体的には、炎症をおこした皮膚の局所病変においてS1Pを介入させることに関して、美容目的でも用いることができることを理解すべきである。したがって、本発明による核酸、薬物および/または医薬組成物を用いることができる治療または予防のさらなる状態または疾患は、炎症を起こした皮膚の局所病変である。
【0202】
好ましくは本明細書に用いる場合、診断もしくは診断薬もしくは診断手段は、直接的にまたは間接的にのいずれかでS1Pを、本明細書に記述するように好ましくはS1Pを、より好ましくは本明細書に記述する種々の障害および疾患に関連して、本明細書に記述するS1Pを検出するのに好適である。診断薬は、本明細書に記述するいずれの障害および疾患のそれぞれの検出および/または経過観察に好適である。そのような検出は、本発明による核酸のS1Pとの結合を介して可能である。そのような結合は、直接的にまたは間接的にのいずれかで検出され得る。それぞれの方法および手段は、当業者には周知である。特に、本発明による核酸は、本発明による核酸の検出、好ましくはS1Pに結合した核酸の検出を可能にする標識を含む。そのような標識は、放射性標識、酵素標識のおよび蛍光標識を含む群から、好ましは選択される。原則として、抗体のために開発されたすべての既知のアッセイを本発明による核酸のために採用することができ、他方では標的結合抗体を標的結合核酸に置き換える。非標識標的結合抗体を用いる抗体アッセイでは、検出は、好ましくは、放射性標識、酵素標識および蛍光標識で修飾され、かつそのFcフラグメントで標的結合抗体に結合する二次抗体によって行われる。核酸、好ましくは、本発明による核酸の場合、該核酸はそのような標識で修飾され、好ましくは、そのような標識はビオチン、Cy−3およびCy−5を含む群から選択され、およびそのような標識は、そのような標識に対して作られた抗体、例えば、抗ビオチン抗体、抗Cy3抗体または抗Cy5抗体によって検出され、または該標識がビオチンの場合、該標識は、自然にビオチンに結合するストレプトアビジンまたはアビジンによって検出される。そのような抗体、ストレプトアビジンまたはアビジンは、今度は、それぞれの標識、例えば、放射性標識、酵素標識または蛍光標識によって好ましくは修飾される(ニ次抗体のように)。
【0203】
さらなる実施形態では、本発明による核酸分子は、第2の検出手段によって検出または分析され、該検出手段は、分子ビーコンである。分子ビーコンの方法論は、当業者には周知であり、Mairalらによって概説されている(Mairalら,2008,Anal Bioanl Chem 390(4),989−1007)。
【0204】
本発明による核酸を用いてS1Pを検出すると、具体的に、本明細書に定義したS1Pの検出が可能になることが認識されるであろう。
【0205】
S1Pの検出と関連して、好ましい方法は、以下のステップを含む:
(a)S1Pの存在を試験する試料を提供すること、
(b)本発明による核酸を提供すること、
(c)好ましくは反応容器中で、該核酸と、該試料とを反応させること、
ステップ(a)は、ステップ(b)より前に行われる、またはステップ(b)はステップ(a)より前に行われることができる。
【0206】
好ましい実施形態では、核酸によって試料の反応を検出することを含む、さらなるステップd)が提供される。好ましくは、ステップb)の核酸は、表面に固定化される。該表面は、反応試験管、プレートのウェル、または例えばビーズなどの反応容器などに含まれるデバイスの表面であってもよい。該表面への核酸の固定化は、非共有結合または共有結合を含むがこれらに限定されるものではない、当業者に周知のいずれの手段によって行われることもできる。好ましくは、共有結合は、該表面と該核酸との間の共有化学結合を介して確立される。しかしながら、核酸が表面に間接的に固定化され、そのような間接的な固定化が、さらなる成分または一対の相互作用パートナーの使用を含むことも本発明の範囲内である。そのようなさらなる成分は、好ましくは、固定化される核酸と特異的に相互作用し、相互作用パートナーとしても呼ばれ、かつこのようにして核酸の該表面への付着を媒介する化合物である。相互作用パートナーは、核酸、ポリペプチド、タンパク質および抗体を含む群から、好ましくは選択される。好ましくは、相互作用パートナーは、抗体であり、より好ましくはモノクローナル抗体である。あるいは、相互作用パートナーは、核酸であり、好ましくは、機能的核酸である。より好ましくは、そのような機能的核酸は、アプタマー、スピーゲルマー、および該核酸と少なくとも部分的に相補的である核酸を含む群から選択される。さらに別の実施形態では、核酸の表面への結合は、多分割の相互作用パートナーによって媒介される。そのような多分割の相互作用パートナーは、好ましくは、一対の相互作用パートナー、または第1のメンバーと第2のメンバーとからなる相互作用パートナーであり、該第1のメンバーは、核酸に含まれるか、もしくは核酸に付着しており、および第2のメンバーは、表面に付着しているか、もしくは表面に含まれる。多分割の相互作用パートナーは、ビオチンとアビジン、ビオチンとストレプトアビジン、およびビオチンとニュートラアビジンを含む相互作用パートナーの対の群から、好ましくは選択される。好ましくは、相互作用パートナーの対の第1のメンバーは、ビオチンである。
【0207】
そのような方法の好ましい結果は、S1Pと核酸の固定化複合体を形成し、より好ましくは、前述の複合体が検出される。該複合体からS1Pが検出されることも実施形態の範囲である。
【0208】
この必要性に応じて各検出手段は、例えば、S1Pのそのパートナー/それらのパートナーに特異的である任意の検出手段である。特に好ましい検出手段は、核酸、ポリペプチド、タンパク質および抗体を含む群から選択される検出手段であり、その生成は、当業者には周知である。
【0209】
S1Pの検出のための方法も、好ましくはステップc)を行った反応容器から試料を取り出すことを含む。
【0210】
さらなる実施形態では、該方法は、S1Pの相互作用パートナーをある表面、好ましくは上記に定義した表面に固定化するステップも含み、相互作用パートナーは、本明細書で、好ましくはそれぞれの方法に関連して上記のように定義され、およびより好ましくは、それらの種々の実施形態での核酸、ポリペプチド、タンパク質および抗体を含む。本実施形態では、特に好ましい検出手段は、本発明による核酸であり、そのような核酸は、好ましくは標識されても、または非標識でもよい。そのような核酸が標識される場合、該核酸は直接的、または間接的に検出される。また、そのような検出は、好ましくは、本明細書に記述する種々の実施形態での核酸、ポリペプチド、タンパク質および実施形態を含む群からも選択される第2の検出手段の使用を含み得る。そのような検出手段は、好ましくは、本発明による核酸に特異的である。より好ましい実施形態では、第2の検出手段は、分子ビーコンである。好ましい実施形態では、核酸もしくは第2の検出手段のいずれかまたは両方とも、検出標識を含み得る。該検出標識は、ビオチン、ブロモデソキシウリジン標識、ジゴキシゲニン標識、蛍光標識、UV標識、放射性標識、およびキレーター分子を含む群から、好ましくは選択される。あるいは、第2の検出手段は、好ましくは、該核酸に含有される、含まれる、または該核酸に付着する検出標識と相互作用する。特に好ましい組み合わせは以下の通りである:
検出標識はビオチンであり、および第2の検出手段はビオチンに対して作られる抗体であり、または
検出標識はビオチンであり、第2の検出手段は、アビジンもしくは分子を保有するアビジンであり、または
検出標識はビオチンであり、および第2の検出手段は、ストレプトアビジンもしくは分子を保有するストレプトアビジンであり、または
検出標識はビオチンであり、および第2の検出手段は、ニュートラアビジンもしくは分子を保有するニュートラアビジンであり、または
検出標識はブロモデソキシウリジンであり、および第2の検出手段はブロモデソキシウリジンに対して作られる抗体であり、または
検出標識はジゴキシゲニンであり、および第2の検出手段はジゴキシゲニンに対して作られる抗体であり、または
検出標識はキレーターであり、および第2の検出手段は放射性核種であり、前述の検出標識が核酸に付着されることが好ましい。この種の組み合わせは、核酸が表面に付着される実施形態にも適用できることが認識されることになる。そのような実施形態では、検出標識が相互作用パートナーに付着されることが好ましい。
【0211】
最後に、第2の検出手段は、第3の検出手段を用いて検出され、好ましくは、第3の検出手段は酵素であり、より好ましくは第2の検出手段が検出されると、酵素反応を示し、または第3の検出手段は、放射線、より好ましくは放射性核種によって放射される放射線を検出するための手段である。好ましくは、第3の検出手段は、第2の検出手段を特異的に検出するおよび/または第2の検出手段と相互作用する。
【0212】
また、S1Pの相互作用パートナーが表面に固定化され、かつ本発明による核酸が、好ましくは該相互作用パートナーと該S1Pとの間に形成された複合体に添加される実施形態では、試料は、反応から、より好ましくは、ステップc)および/またはd)が行われる反応容器から取り除かれることができる。
【0213】
ある実施形態では、本発明による核酸は、蛍光部分を含み、および蛍光部分の蛍光は、該核酸とS1Pおよび遊離S1Pとの間に複合体が形成されと異なる。
【0214】
さらなる実施形態では、核酸は本発明による核酸の誘導体であり、核酸の誘導体は、アデノシンを置換する少なくとも1つのアデノシンの蛍光誘導体を含む。好ましい実施形態では、アデノシンの蛍光誘導体は、エテノアデノシンである。
【0215】
さらなる実施形態では、本発明による核酸の誘導体と、S1Pとからなる複合体は、蛍光を用いて検出される。
【0216】
方法のある実施形態では、シグナルは、ステップ(c)またはステップ(d)で生成され、好ましくは、該シグナルは試料中のS1Pの濃度と相関する。
【0217】
好ましい態様では、アッセイは、96ウェルプレートで行われ得る。該プレートでは、成分は、上述のように反応容器中および反応容器として作用するウェル中で固定化される。
【0218】
本発明に関連する核酸は、創薬の出発物質としてさらに用いられ得る。基本的に、可能なアプローチが2つある。一アプローチは、化合物ライブラリーのスクリーニングであり、他方では、そのような化合物ライブラリーは、好ましくは低分子量化合物のライブラリーである。ある実施形態では、該スクリーニングは、高スループットスクリーニングである。好ましくは、高スループットスクリーニングは、標的ベースのアッセイにおいて化合物の高速で、効率的な試行錯誤の評価である。最高の場合、該分析は測色測定である。それと関連して用いられるライブラリーは、当業者には周知である。
【0219】
化合物ライブラリーのスクリーニングの場合は、当業者には周知の競合アッセイなどを用いることによって、適切なS1P類似体、S1PアゴニストまたはS1Pアンタゴニストが見つけられこともある。そのような競合アッセイは、以下のように構成されることもある。本発明に関連する核酸、好ましくは、標的結合L−核酸であるスピーゲルマーは、固相に結合する。S1Pを同定するために、S1P標識したS1P類似体をアッセイに加えてもよい。可能性のある類似体は、それぞれの標的によって得られるシグナルの減少にしたがうスピーゲルマーに結合しているS1P分子と競合する。アゴニストまたはアンタゴニストのスクリーニングは、当業者に周知の細胞培養アッセイを用いることを含む。
【0220】
本発明によるキットは、好ましくは脂質の検出のため、より好ましくはS1Pの検出のために、少なくとも1つまたはいくつかの本発明に関する核酸を含んでもよい。さらに、該キットは、少なくとも1つまたはいくつかの陽性対照もしくは陰性対照を含んでよい。例えば、陽性対照は、S1P、具体的には、本発明に関する核酸がそれに対して選択され、または、好ましくは液体形状でそれに結合するS1Pであってもよい。陰性対照は、例えば、S1Pと同様の生物物理学的特性に関して定義されるが、本発明に関する核酸によって認識されないペプチドであってもよい。さらに、前述のキットは、1つまたはいくつかの緩衝剤を含んでもよい。種々の成分は、乾燥させた形状でもしくは凍結乾燥した形状でまたは液体に溶解させてキットに含まれてもよい。該キットは、1つまたは複数の容器を含んでおり、次にそれにはキットの1つまたは複数の成分が含まれ得る。さらなる実施形態では、該キットは、そのキットの使用方法および種々の成分についてのユーザ情報を記載する説明書または説明リーフレットを含む。
【0221】
本発明による核酸の医薬的および生物学的な決定は、基本的には、ヒト身体および非ヒト身体のいくつかの種類のホルモン、組織および器官におけるその薬物動態プロファイルおよび生体機能プロファイルのアセスメントに関する。そのような目的のために、本明細書に開示する検出方法または当業者に周知の検出方法のいずれも用いられてもよい。本発明のさらなる態様では、本発明による核酸の検出のためのサンドイッチハイブリダイゼーションアッセイを提供する。検出アッセイ内では、捕獲プローブおよび検出プローブが用いられる。該捕獲プローブは、本発明による核酸の第1の部分に対して、および検出プローブは、第2の部分に対して相補的である。捕獲プローブは表面またはマトリックスに固定化される。検出プローブは、好ましくは、本明細書の前述のように検出されることができるマーカー分子または標識を保有する。
【0222】
本発明による核酸の検出は、以下のように行われることができる:本発明による核酸は、捕獲プローブのその両端のうちの1端と、および他端は検出プローブとハイブリッド形成する。その後、非結合検出プローブは、例えば1ステップまたはいくつかのステップでの洗浄によって取り除かれる。好ましくは、標的またはマーカー分子を保有する検出プローブの結合量を、続いて、例えば、国際公開第WO/2008/05277号により詳細に概略を述べられているように測定することができ、これを参照によって本明細書に組み込む。
【0223】
好ましくは本明細書で用いる場合、好ましい実施形態では、用語「治療」は、さらに、またはその代わりに予防および/または経過観察を含む。
【0224】
好ましくは本明細書で用いる場合、用語「疾患」および「障害」は、それとは反対に示されない場合、互換的に使用されるものとする。
【0225】
本明細書で用いる場合、用語「含む」は、そのような用語に続く、または該用語によって記述される主題を限定しないことを意図する。しかしながら、代替実施形態では、用語「含む」は、「含有している」の意味で理解され、したがってそのような用語に続く、または該用語によって記述される主題を限定すると理解されるものとする。
【0226】
本発明による核酸分子および本明細書に用いる標的分子S1Pの種々の配列番号、化学的性質、その実際の配列および参照番号を、以下の表にまとめる。

【0227】
【表1】
【0228】
さらなる特徴、実施形態および利点が引き出される得る図、実施例および配列表によって、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0229】
図1】S1P結合核酸の配列アライメントを示す。
図2】S1P結合核酸215−F9−001およびその誘導体の最小結合配列を示す。
図3】S1P結合アプタマー215−F9−001(S1P−215−F9−001とも称す)の直接および競合プルダウンアッセイによる分析の結果を示す。
図4】スピーゲルマー215−F9−001−5’−PEG(NOX−S92とも称す)および215−F9−002−5’−PEG(NOX−S91とも称す)のEDG3受容体によるin vitro細胞培養抑制アッセイにおけるS1P活性への影響を示す。
図5】スピーゲルマーNOX−S92(215−F9−001−5’−PEGとも称す)およびNOX−S93(215−F9−002−D01−19−21−32−5’PEGとも称す)のin vivoでのS1P活性への影響を示し、NOX−S92およびNOX−S93は、S1Pへの結合のためにリンパ球減少症を誘発した。
図6】リボヌクレオチド(A、U、G、C)および少なくとも1つの2’−デオキシリボヌクレオチド(dA、dT、dG、dC)からなるS1P結合スピーゲルマー215−F9−002(L−S1P−215−F9−002とも称する)の誘導体を示す。
図7】リボヌクレオチド(A、U、G、C)および少なくとも1つの2’−デオキシリボヌクレオチド(dA、dT、dG、dC)からなるS1P結合スピーゲルマー215−F9−002(L−S1P−215−F9−002とも称する)の誘導体内で行われた競合スピーゲルマープルダウンアッセイの結果を示す。8nMのビオチン化D−e−S1Pに結合する0.3nMの放射活性物質で標識したL−S1P−215−F9−002−5’diD−Gを図のように50nMの非標識スピーゲルマーと37℃で競合させた(3通りで)。
図8図8Aはリボヌクレオチド(A、U、G、C)および少なくとも1つの2’−デオキシリボヌクレオチド(dA、dT、dG、dC)からなるS1P結合スピーゲルマー215−F9−002(L−S1P−215−F9−002とも称する)の誘導体の競合スピーゲルマープルダウンアッセイの結果を示す。8nMのビオチン化D−e−S1Pに結合する0.3nMの放射活性物質で標識したL−S1P−215−F9−002−5’diD−Gを図のように36nMの非標識スピーゲルマーと37℃で競合させた(3通りで)。図8Bはリボヌクレオチド(A、U、G、C)および少なくとも1つの2’−デオキシリボヌクレオチド(dA、dT、dG、dC)からなるS1P結合スピーゲルマー215−F9−002(L−S1P−215−F9−002とも称する)の誘導体の競合スピーゲルマープルダウンアッセイの結果を示す。7nMのビオチン化D−e−S1Pに結合する0.5nMの放射活性物質で標識したL−S1P−215−F9−002−5’diD−Gを、5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002(NOX−S91とも称する、●印)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する、■印)の濃度を滴定することによって37℃で25時間競合させた。
図9A】抑制の結果を示す(3通りの培養物の平均値±標準誤差を示す)。5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002(NOX−S91とも称する)による、EDG1を発現するリポーター細胞系における10nMのD−e−S1P誘導βアレスチン動員を示す。
図9B】抑制の結果を示す(3通りの培養物の平均値±標準誤差を示す)。5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する)による、EDG1を発現するリポーター細胞系における10nMのD−e−S1P誘導βアレスチン動員を示す。
図9C】抑制の結果を示す(3通りの培養物の平均値±標準誤差を示す)。5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002(NOC−S91とも称する)による、EDG3を発現する10nMのD−e−S1P−誘導カルシウム放出の抑制を示す。
図9D】抑制の結果を示す(3通りの培養物の平均値±標準誤差を示す)。5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOC−S93とも称する)による、EDG3を発現する10nMのD−e−S1P−誘導カルシウム放出の抑制を示す。
図10】スフェロイドをベースした細胞血管新生in vitroアッセイにおけるスピーゲルマーNOX−S91およびNOX−S93の影響を示す。該アッセイによって、VEGF−A(血管内皮増殖因子A)およびS1P(スフィンゴシン−1−リン酸)に誘導されるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の出芽を抑制するスピーゲルマーの能力を試験した。
【実施例1】
【0230】
スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)を結合する核酸
【0231】
標的としてビオチン化L−e−S1Pを用いて、いくつかのS1P結合核酸およびその誘導体を生成することができ得る。そのヌクレオチド配列を図1、2および6に示す。それらの核酸を、以下のように特徴づけた:
a)アプタマー、すなわち、直接プルダウンアッセイ(実施例3)および/または競合プルダウンアッセイ(実施例3)を用いるD−核酸。
b)スピーゲルマー、すなわち、競合プルダウンアッセイ(実施例6)、S1P受容体EDG−3/S1P3またはEDG−1/S1P1によるin vitroアッセイ(実施例4)を用いるL−核酸。さらに、スピーゲルマーをin vitro血管新生アッセイ(実施例7)およびin vivo(実施例5)で試験した。スピーゲルマーおよびアプタマーを実施例2に記述するように合成した。
【0232】
このように生成した核酸分子は、わずかに異なる配列を示す。それにより主要な1種類を同定して、S1P結合核酸と定義し、図1、2および6に示す。
【0233】
ヌクレオチド配列モチーフの定義に関して、曖昧なヌクレオチドについてはIUPAC略語を用いる:
S 強い GまたはC;
W 弱い AまたはU;
R プリン GまたはA;
Y ピリミジン CまたはU;
K ケト GまたはU;
M イミノ AまたはC;
B Aではない CまたはUまたはG;
D Cではない AまたはGまたはU;
H Gではない AまたはCまたはU;
V Uではない AまたはCまたはG;
N すべて AまたはGまたはCまたはU
【0234】
それとは反対の記載がなければ、いずれの核酸配列またはストレッチおよびボックスの配列は、それぞれ5’→3’の方向に示す。
1.1 S1P結合核酸
【0235】
図1および図2に示すように、S1P結合核酸は、潜在的なS1P結合モチーフを規定するヌクレオチドの1つの中心ストレッチを含む。
【0236】
通常は、S1P結合核酸は、それらの5’末端および3’末端にヌクレオチドの末端ストレッチ、すなわちヌクレオチドの第1の末端ストレッチおよびヌクレオチドの第2の末端ストレッチを含む。ヌクレオチドの第1の末端ストレッチおよびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、互いにハイブリッド形成することができ、ハイブリッドすると、2本鎖構造を形成する。しかしながら、そのようなハイブリダイゼーションは、必ずしも分子中に与えられるわけではない。
【0237】
S1P結合核酸のヌクレオチドの3つのストレッチ(ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ、ヌクレオチドの中心ストレッチ、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチ)は、互いに5’→3’の方向に、すなわち、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ−ヌクレオチドの中心ストレッチ−ヌクレオチドの第2の末端ストレッチに配列する。しかしながら、その代わりに、ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ、ヌクレオチドの中心ストレッチおよびヌクレオチドの末端第2のストレッチは、互いに5’→3’の方向に、すなわち、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチ−ヌクレオチドの中心ストレッチ−ヌクレオチドの第1の末端ストレッチに配列する。
【0238】
定義したボックスまたはストレッチの配列は、S1P結合核酸間で異なることがあり、これはS1Pへの結合親和性に影響する。異なるS1P結合核酸の結合分析に基づいて、以下に記述するように、中心ストレッチおよびそれらのヌクレオチド配列は、個々に、より好ましくは、それら全体でヒトS1Pへの結合に不可欠である。
【0239】
本発明によるS1P結合核酸を図1および2に示す。それらすべてを、アプタマーとして、S1Pに、より正確にはビオチン化L−e−S1P(L−e−S1P(bio)とも称する)に結合するそれらの能力を試験した。S1Pへのその結合親和性に関して特徴づけた第1のS1P結合核酸は、核酸215−F9−00である。平衡結合定数Kを、直接および競合プルダウン結合アッセイによって決定した(KDirect=34nM、KDcomp.=45nM;図1および3)。
【0240】
S1P結合核酸215−H11−001、215−H9−001、215−F10−001、222−A10−002および222−A12−002をアプタマーとして、S1P結合核酸215−F9−001と比較する競合プルダウンアッセイにおいて試験した。S1P結合核酸215−F10−001および215−H11−001は、215−F9−001と同様の結合親和性を示した(図1)。S1P結合核酸215−H9−001、222−A10−002および222−A12−002は、S1P結合核酸215−F9−001と比較して結合親和性の減少を示した(図1)。
【0241】
S1P結合核酸215−F9−001の誘導体215−F9−002および215−F9−003は、215−F9−001と同様のS1Pへの結合を示したが、一方、誘導体215−F9−004、215−F9−008および215−F9−009は、競合プルダウンアッセイにおいて、S1P結合核酸215−F9−001と比較して、結合親和性の減少を示した(図2)。
【0242】
本発明によるS1P結合核酸は、34または35nt長のヌクレオチドの中心ストレッチを含む。
【0243】
本発明によるS1P結合核酸は、ヌクレオチドの中心ストレッチに関して以下の配列を共有する:
5’WAUUGCCGAWUGUAACGCCUUWAGAGAAAGCACUAG3’または
ヌクレオチドの中心ストレッチについては、5’WAUUGCCGWUGUAACGCCUUWAGAGAAAGCACUAG3’。S1Pに対して最良の結合親和性を示したS1P結合核酸215−F9−001、215−H11−001、215−F10−001および215−F9−001の誘導体は、中心ストレッチについて以下の配列を含む:
a)215−F9−001および誘導体:AAUAGCCGUUGAAACGCCUUUAGAGAAGCACUAG
b)215−H11−001:AAUAGCCGAUGAAACGCCUUUAGAGAAGCACUAG
c)215−F10−001:AAUAGCCGAAUGAAACGCCUUAAGAGAAGCACUAG。
【0244】
S1P結合核酸の5’末端および3’末端のストレッチは、ヌクレオチドを3(例えば、215−F9−004)、4(例えば、215−F9−003)、5(例えば、215−F9−002)または6(例えば、215−F10−001)を含み(図1および2)、それにより該ストレッチは任意に互いにハイブリッド形成し、ハイブリッドすると、二本鎖構造が形成される。この二本鎖構造は、3〜6の塩基対からなり得る。しかしながら、そのようなハイブリダイゼーションは、分子中に必ずしも与えられるわけではない。
【0245】
試験したすべてのS1P結合核酸のヌクレオチドの第1の末端ストレッチと、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチとを組み合わせると、その一般式は5’XSUG3’(ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ)および5’CASX3’(ヌクレオチドの第2のストレッチ)になり、ここで、
はAまたは不在であり、XはGまたは不在であり、XはSまたは不在であり、XはSまたは不在であり、XはCまたは不在であり、およびXはUまたは不在である。
【0246】
3ヌクレオチド長の末端ストレッチと、S1P結合配列215−F9−001と同一の中心ストレッチとを有するS1P結合配列215−F9−004は、6ヌクレオチド長の末端ストレッチを有するS1P結合配列215−F9−001と比較して、結合親和性の減少を示した(図2)。したがって、本発明によるS1P結合核酸の末端ストレッチの好ましい長さは、4〜6ヌクレオチドである。
【0247】
5〜6のヌクレオチドを有するS1P結合核酸のヌクレオチドの第1の末端ストレッチと、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチとを組み合わせると、その一般式は5’XSUG3’’(ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ)および5’’CASX3’’(ヌクレオチドの第2のストレッチ)になり、式中、
a)XはAであり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXはUであり、または
b)Xは不在であり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXはUであり、または
c)XはAであり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXは不在であり、または
d)Xは不在であり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、およびXは不在であり、
好ましくは、
a)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’AGCGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACGCU3’のヌクレオチド配列(例えば215−F9−001を参照されたい)を含み、または
b)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’GCGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACGC3’のヌクレオチド配列(例えば215−F9−002を参照されたい)を含む。
【0248】
4〜5のヌクレオチドを有するS1P結合核酸のヌクレオチドの第1の末端ストレッチと、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチとを組み合わせると、その一般式は5’XSUG3’(ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ)および5’CASX3’(ヌクレオチドの第2のストレッチ)になり、ここで
a)Xは不在であり、Xは不在であり、XはSであり、XはSであり、XはCであり、Xは不在であり、または
b)Xは不在であり、XはGであり、XはSであり、XはSであり、Xは不在であり、Xは不在であり、または
c)Xは不在であり、Xは不在であり、XはSであり、XはSであり、Xは不在であり、Xは不在であり、
好ましくは、
a)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’CGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACG3’のヌクレオチド配列(215−F9−003を参照されたい)を含み、または
b)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’GCUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CAGC3’のヌクレオチド配列(215−F9−008を参照されたい)を含み、または
c)ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’GGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACC3’のヌクレオチド配列(215−F9−009を参照されたい)を含み、
より好ましくは、
ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’CGUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CACG3’のヌクレオチド配列を含む(215−F9−003を参照されたい)。
【0249】
3〜4のヌクレオチドを有するS1P結合核酸のヌクレオチドの第1の末端ストレッチと、ヌクレオチドの第2の末端ストレッチとを組み合わせると、その一般式は5’XSUG3’(ヌクレオチドの第1の末端ストレッチ)および5’CASX3’(ヌクレオチドの第2のストレッチ)になり、ここで、
は不在であり、Xは不在であり、XはSまたは不在であり、XはSまたは不在であり、Xは不在であり、Xは不在であり、
好ましくは、
ヌクレオチドの第1の末端ストレッチは、5’GUG3’のヌクレオチド配列を含み、およびヌクレオチドの第2の末端ストレッチは、5’CAC3’のヌクレオチド配列を含む(215−F9−009を参照されたい)。
【0250】
S1P結合核酸の機能性を立証するために、スピーゲルマー215−F9−001、215−F9−002を、その5’末端にアミノ基を含むスピーゲルマーとして合成した。アミノ修飾スピーゲルマー215−F9−001−5’−アミノおよび215−F9−002−5’−アミノに、40kDaのPEG部分を結合させ、S1P結合スピーゲルマー215−F9−001−5’−PEG(NOX−S92とも称する)および215−F9−002−5’−PEG(NOX−S91とも称する)をもたらした。スピーゲルマー合成およびPEG化は、実施例2に記述する。
【0251】
S1Pのin vitroおよびin vivo機能を抑制/拮抗するために、S1P結合スピーゲルマーを試験した。実施例4に示すように、S1P結合スピーゲルマーは、受容体EDG−3/S1P3およびEDG−1/S1P1へのS1Pのin vitroでの相互作用およびシグナル伝達を抑制する(図4および9)。実施例7に示すように、S1P結合スピーゲルマー215−F9−002−5’−PEG(NOX−S91とも称する)は、in vitroで血管新生を抑制する。スピーゲルマー215−F9−001−5’−PEG(NOX−S92とも称する)の有効性をin vivoで試験し、一方、215−F9−001−5’−PEG(NOX−S92とも称する)は、S1Pへの結合のためにリンパ球減少症を誘導した(実施例5、図5)。
1.2 リボヌクレオチドを2’−デオキシリボヌクレオチドと置換することによるS1P結合核酸215−F9−002の親和性の増加
【0252】
競合スピーゲルマープルダウンアッセイによって決定したように、スピーゲルマー215−F9−002(L−S1P−215−F9−002とも称する)は、31.5±3.1nM(n=4)の親和性でS1Pに結合する(プロトコル、実施例6、図6を参照されたい)。
【0253】
S1P結合スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002の結合親和性は、リボヌクレオチドを2’−デオキシリボヌクレオチドと置換することによって改善し、特に、S1P結合スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002の4つの位置でリボヌクレオチドを2’−デオキシリボヌクレオチドと置換すると、5倍以上の親和性の改善がもたらされたことを、驚くべきことに発明者らは観察した。スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002の配列において、1つのリボヌクレオチドを1つの2’−デオキシリボヌクレオチドと置換すると、ビオチン化D−e−S1P(図6を参照されたい;スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D01、L−S1P−215−F9−002−D11、L−S1P−215−F9−002−D19、L−S1P−215−F9−002−D21、L−S1P−215−F9−002−D22およびL−S1P−215−F9−002−D32)に対する結合親和性の改善がもたらされたことを、驚くべきことに、発明者らは見出した。スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D19およびL−S1P−215−F9−002−D21の場合、ビオチン化D−e−S1Pに対する結合親和性における改善は、2〜3倍だけ観察された(図6および7)。19位または21位で、1つのリボヌクレオチドを1つの2’−デオキシリボヌクレオチドと置換すると、それぞれ、16nM(n=2)と11.3±2.1nM(n=3)の結合親和性の改善がもたらされた(図6)。
【0254】
結合親和性を増加させるために好適であることが判明した単一ヌクレオチド置換から出発し、S1P結合スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002の配列において複数のリボヌクレオチドを複数の2’−デオキシリボヌクレオチドと置換すると、D−e−S1Pに対する結合親和性においてさらなる改善がもたらされるかどうかを評価するために、リボヌクレオチドと、2から最高5までの2’−デオキシリボヌクレオチドからなるスピーゲルマーを合成した:L−S1P−215−F9−002−D21−22、L−S1P−215−F9−002−D21−19、L−S1P−215−F9−002−D21−19−22、L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32およびL−S1P−215−F9−002−01−11−19−21−32(図6)。わずかに1つの2’−デオキシリボヌクレオチドまたは2つの2’−デオキシリボヌクレオチドを含むスピーゲルマーL−S1P−215−F9−002の誘導体と比較して、L−S1P−215−F9−002スピーゲルマーの複数の位置でリボヌクレオチドを2’−デオキシリボヌクレオチドと置換すると、前述の各位置は、それなりに結合親和性の増加に好適であると判明し、結合親和性にさらなる改善をもたらすことを競合スピーゲルマープルダウンランキングアッセイは示した(図6および7)。しかし、スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D21−19について示したように、2つのリボヌクレオチドを2つの2’−デオキシリボヌクレオチドと置換すると、スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D21と比較して、結合親和性の改善がもたらされた。この効果は、2つの2’−デオキシリボヌクレオチドも含むスピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D21−22で観察されなかった(図6および8)。3つのリボヌクレオチドを3つの2’−デオキシリボヌクレオチド(スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D21−19−22を参照されたい)と置換すると、スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D21−19と比較して、結合親和性のさらなる改善がもたらされなかった(図6および8)。しかし、4つの2’−デオキシリボヌクレオチドを含むスピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32の場合、2つの2’−デオキシリボヌクレオチドを有するL−S1P−215−F9−002−D21−19と比較して、D−e−S1Pに対する結合親和性の改善が観察された(図6および8)。競合スピーゲルマープルダウンアッセイにおいて、L−S1P−215−F9−002−D01−19−21は、5.4nM(n=2)の結合親和性を示した(図6)。5つのリボヌクレオチドを5つの2’−デオキシリボヌクレオチド(スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D01−11−19−21−32、図6を参照されたい)と置換すると、D−e−S1Pへの結合にさらなる改善がもたらされなかった(図6および8)。要約すると、D−e−S1P結合スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002の結合親和性は、リボヌクレオチドを1位、19位、21位および32位で2’−デオキシリボヌクレオチドに置換することによって5倍以上だけ改善した(スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32、図6を参照された)ことを発明者らが観察したのは驚くべきことである。
【0255】
In vitro細胞培養アッセイ(プロトコル、実施例4を参照されたい)で、D−e−S1Pへの親和性の改善がS1P機能の抑制の促進に変換されることを確認した。5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002(NOX−S91とも称する)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する)は、ヒトS1P−受容体EDG1を発現するリポーター細胞系においてS1P誘導アレスチン動員をそれぞれ、22.5nMおよび10.3nMのIC50値で抑制した(図9A、9B)ヒトS1P−受容体EDG3を発現する細胞系において、5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002(NOX−S91とも称する)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する)は、S1P誘導カルシウム放出をそれぞれ、10nMおよび5.5nMのIC50値で抑制した(図9C、9D)。
【0256】
S1P結合スピーゲルマー5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002(NOX−S91とも称する)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する)の試験をin vitro血管新生アッセイで成功した(実施例7、図10を参照されたい)。S1Pスピーゲルマー5’−4okDa−PEG−L−S1P−215−F9−001(NOX−S92とも称する)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する)の試験をin vivo研究で成功した(実施例5、図5を参照されたい)。
【実施例2】
【0257】
アプタマーおよびスピーゲルマーの合成と誘導体化
小規模合成
【0258】
アプタマー(D−RNA核酸またはD−DNA修飾型D−RNA核酸)およびスピーゲルマー(L−RNA核酸またはL−DNA修飾型L−RNA核酸)を、標準的環外アミン保護基とともに2’TBDMS RNAおよびDNAホスホラミダイト化学(DamhaおよびOgilvie,1993)を用いて、ABI394シンセサイザー(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)による固相合成によって生成した。オリゴヌクレオチドのRNA部分については、D−およびL−立体配置での、rA(N−Bz)−、rC(N−Ac)−、rG(N−ibu)−、およびrU−ホスホラミダイトを用いたが、DNA部分については、D−およびL−立体配置でのdA(N−Bz)−、dC(N−Ac)−、dG(N−ibu)−、およびdTを適用した。すべてのホスホラミダイトは、ChemGenes、Wilmington,MA.から購入した。合成と脱保護の後、アプタマーおよびスピーゲルマーをゲル電気泳動によって精製した。
大規模合成と修飾
【0259】
標準環外アミン保護基(DamhaおよびOgilvie,1993)とともに2’TBDMS RNAおよびDNAホスホラミダイト化学を用いてAktaPilot100シンセサイザー(GE Healthcare,Freilburg)による固相合成によってスピーゲルマーを生成した。L−rA(N−Bz)−、L−rC(N−Ac)−、L−rG(N−ibu)−、L−rU−、L−dA(N−Bz)−、L−dC(N−Ac)−、L−dG(N−ibu)−、およびL−dT−のホスホラミダイトをCemGenes,Wilmington,MA.から購入した。5’−アミノ修飾因子は、American International Chemicals Inc.(Framingham,MA,UAS)から購入した。無修飾スピーゲルマーまたは5’−アミノ修飾スピーゲルマーの合成を、L−riboA、L−riboC、L−riboG、L−riboU、L−2’デオキシA、L−2’デオキシC、L−2’デオキシG、またはL−2’デオキシT修飾CPG孔径1000A(Link Technology,Glasgow,UK)の上で開始した。RNAおよびDNAのホスホラミダイトの結合(1サイクルあたり15分間)については、アセトニトリル中0.3Mのベンジルチオテトラゾール、およびアセトニトリル中各0.2Mのホスホラミダイト溶液2当量を用いた。酸化キャッピングサイクルを用いた。オリゴヌクレオチド合成のためにさらに標準溶媒と試薬をBiosolve(Valkenswaard,NL)から購入した。スピーゲルマーをDMT−ONで合成し;脱保護の後、Source15RPC媒体(Amersham)を用いて調製用RP−HPLC(Wincottら,1995)を介して精製した。5’DMT−基を、80%の酢酸で除去した(室温で30分間)。5’アミノ修飾スピーゲルマーの場合は、5’MMT基は、80%酢酸で除去した(室温で90分間)。その後、2MのNaOAc水溶液を加え、次いで該スピーゲルマーを、5K再生セルロース膜(Millipore,Bedford,MA)を用いてタンジェント流濾過によって脱塩した。
スピーゲルマーのペグ化
【0260】
スピーゲルマーのin vivo血漿滞留時間を延ばすために、40kDaのポリエチレングリコール(PEG)部分をスピーゲルマーの5’末端で共有結合させた。
スピーゲルマーの5’−ペグ化
【0261】
ペグ化(ペグ化方法の技術的詳細については、欧州特許出願EP第1306382号を参照されたい)のために、精製した5’−アミノ修飾スピーゲルマーをHO(2.5mL)、DMF(5mL)、および緩衝液A(5mL;クエン酸+HO[7g]、ホウ酸[3.54g]、リン酸[2.26mL]、および1MのNaOH[343mL]を混合して、1Lの最終量になるまで水を加えて調製し;1MのHClでpH=8.4に調節した)の混合物中で溶解した。
【0262】
スピーゲルマー溶液のpHを、1MのNaOHで8.4に調節した。次いで、40kDaPEG−NHSエステル(Jenkem Technology,Allen,TX,USA)を75〜85%の最大収率に達するまで、37℃で、0.25当量を30分ごとに6回で加えた。PEG−NHSエステルを添加している間、反応混合物のpHを1MのNaOHで8〜8.5に保持した。
【0263】
反応混合物を4mLの尿素溶液(8M)および4mLの緩衝液B(HO中01Mの酢酸トリエチルアンモニウム)と混合して、15分間95℃まで加熱した。次いで、PEG化スピーゲルマーを、アセトニトリル勾配(緩衝液B;緩衝液C:アセトニトリル中0.1Mの酢酸トリエチルアンモニウム)を用いて、Source15RPC媒体(Amersham)によるRP−HPLCによって精製した。過剰なPEGを5%緩衝液Cで溶出し、PEG化スピーゲルマーを10〜15%緩衝液Cで溶出した。>95%の純度(HPLCによって評価した)の生成物画分を合わせて、3MのNaOAC40mLと混合した。PEG化スピーゲルマーを、タンジェント流濾過(5K再生セルロース膜、Millipore,Bedford、MA)によって脱塩した。
【実施例3】
【0264】
プルダウン結合アッセイによるS1P結合アプタマーの分析
直接プルダウンアッセイ
【0265】
S1P結合核酸の親和性を、アプタマー(D−RNA核酸)とビオチン化L−e−S1Pを用いて、37℃で、プルダウンアッセイフォーマットで測定した。アプタマーは、[γ−32P]標識ATP(Hartmann Analytic,Braunschweig,Germany)を用いて、T4ポリヌレオチドキナーゼによって5’末端で放射活性物質を標識した。標識したアプタマーの放射活性は、200,000〜800,000cpm/pmolであった。アプタマーは、選択緩衝液(20mMのTris−HCl(pH7.4);150mMのNaCl;5mMのKCl;1mMのMgCl;1mMのCaCl;0.1%[w/v]Tween−20;ウシ血清アルブミン4mg/mL)中、37℃、300pM濃度での変性と再生の後に、低濃度で平衡に達するために、ビオチン化L−e−S1Pの量を変えて、3〜12時間インキュベートした。使用したプラスチック製器具または固定化マトリックスの表面に結合相手が吸着されるのを防ぐために、選択緩衝液に10μg/mLの酵母RNA(Ambion,Austin,USA)を補充した。ビオチン化L−e−S1Pの濃度範囲を192pM〜3000nMに設定した;総反応量は0.1mLであった。結合反応物に添加する前に選択緩衝液で前平衡させた2μLのStreptavidin Ultralink Plusビーズ(Pierce Bioechnology Rockford,USA)上に、ビオチン化L−e−S1Pおよびアプタマーとビオチン化L−e−S1Pとの複合体を固定化した。ビオチン化L−e−S1Pおよびビオチン化L−e−S1Pと結合アプタマーとの複合体を固定化するために、ビーズは、懸濁液中、それぞれの温度で20分間保持した。上清を取り除いて適切に洗浄した後、固定化した放射活性の量をシンチレーションカウンターで量った。結合または規準化結合のパーセンテージをチオチン化L−e−S1Pの濃度に対してプロットし、および1:1のストイキオメトリを想定して、解離定数をソフトウェアアルゴリズム(GRAFIT;Erithacus Software;Surrey U.K.)を用いて得た。
合プルダウンアッセイ
【0266】
別のプルダウンアッセイフォーマットを用いて、S1P結合核酸の親和定数を、標識アプタマーと、種々の量の非標識アプタマーとの競合によって決定した。非標識アプタマーは、標識アプタマーとビオチン化L−e−S1Pとの結合において競合し、したがってL−e−S1Pに対するアプタマーの親和性による結合シグナルを減少させた。一定量の選択緩衝液0.4mL中20nMのビオチン化L−e−S1Pとともに150pM放射物質で標識したアプタマーを用いて、37℃で、3〜12時間このアッセイを行った。これらの条件は、NeutrAvidinアガロースまたはStreptavidin Ultralink Plus(両方ともPierce製)上で固定化し、洗浄した後、ビオチン化L−S1Pと約5〜10%の結合をもたらした。競合のために、96pM〜1500nMの濃度範囲で、一定量の標識アプタマーとともに非標識アプタマーを結合反応物に加えた。ビーズ上での結合、固定化、適切な洗浄、および固定化した放射性物質からの放射活性の測定の後、結合または規準化結合のパーセンテージを決定して、非標識アプタマーの濃度に対してプロットした。解離定数は、1:1のストイキオメトリを想定して、解離定数を、ソフトウェアアルゴリズム(上記を参照されたい)を用いて得た。
【0267】
同じアッセイフォーマットを一組の異なるアプタマーの比較ランキングで用いたが、全濃度範囲の代わりに各非標識アプタマーの3つの異なる濃度(例えば、5、50,500nM)のみを、参照として役立つ1つの標識アプタマーを含んだ試験管に適用した。次いで、この試験で最も活性であることが判明したアプタマーは、さらなるアプタマー変異体の比較分析のために新たな参照として役立つこともあり得る。
【実施例4】
【0268】
S1Pin vitro細胞培養アッセイ
4.1 S1P結合スピーゲルマーによるS1P誘導カルシウム放出の抑制
【0269】
ヒトS1P3受容体(EDG3/S1P)およびヒトG−タンパク質Gα15を発現する安定に形質移入したCHO−細胞を底が透明な黒の96ウェルプレート(Greiner)の各ウェルあたり5×10細胞で播種し、次いで100単位/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンおよび10μg/mLのブラストサイジンをさらに含有するUltraCHO培地(Lonza)中、37℃、5%COで一晩培養した。
【0270】
刺激溶液(D−e−S1P+種々の濃度のスピーゲルマー)を、「薄型」96ウェルPCRプレートで、20mMのHEPESおよび5mMのプロベネシド(CHO−U+)を含有するUltraCHO培地中の10倍濃度溶液として作製する。該溶液を十分に混合して、サーモミキサー上で、37℃で30~60分間イキュベートする。各(縦)列で、緩衝液対照(D−e−S1Pを含まない)およびD−e−S1P対照(スピーゲルマーを含まない)をインキュベートする。
【0271】
カルシウム指示色素FluoForte(Enzo LIfe Sciences)を添加する前に、200μLのCHO−U+で細胞を一度洗浄する。次いで、90μLの指示色素溶液(CHO−U+中、5.56μg/mLのFluoForte、0.044%プルロニック127(Invitrogen))を添加して、細胞を37℃で60分間インキュベートする。
【0272】
蛍光シグナルの測定は、Fluostar Optimaマルチ検出プレートリーダー(BMG)で、励起波長485nmおよび発光波長520nmで行う。
【0273】
いくつかの試料を平行分析するために、96ウェルプレートの1列(縦の列)のウェルを一緒に記録する。
【0274】
ベースラインの決定のために、3つの値を読み取ることによって測定を開始する。次いで、測定を中断し、プレートを測定器から移動させる。「薄型」プレートからの1列の刺激溶液10μLを、刺激する列のウェルに、マルチチャンネルピペットを使用して添加する。プレートを混合(プレートを静かに回しながら)して、測定器に戻し、測定を継続する(4秒間隔で、計20回の測定)。
【0275】
各ウェルに対して、最大蛍光値とベースライン値の差違を決定して、スピーゲルマー濃度に対してプロットする。ほとんどの場合、スピ−ゲルマーを含まない(D−e−S1Pのみ)の試料の値を100%に設定し、スピーゲルマーを含む試料の値をこのパーセントとして算出する。用量反応曲線のために、パーセント値をスピーゲルマー濃度に対してプロットし、次いでIC50値(スピーゲルマーを含まずに50%の活性が存在するスピーゲルマーの濃度)を、もたらされた曲線のグラフから決定する。
【0276】
抗S1Pスピーゲルマーの有効性を示すために、10nMのD−e−S1Pまたは種々の量のスピーゲルマー215−F9−001−5’−PEG(NOX−S92とも称する)および215−F9−002−5’−PEG(5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F2−002およびNOX−S91とも称する)で、もしくは種々の量の215−F9−002−5’−PEG(5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002およびNOX−S91とも称する)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する)でプレインキュベートしたD−e−S1Pで細胞を刺激した。結果は、スピーゲルマーを含まずに得られたシグナルに規準化した蛍光シグナルのパーセンテージを示す。
【0277】
スピーゲルマー215−F9−001−5’−PEG(NOX−S92とも称する)および215−F9−002−5’−PEG(5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002およびNOX−S91とも称する)が、S1P誘導Ca++−放出を約10nMのIC50(独立した3実験からの平均値±標準偏差)で抑制することが判明した(図4および9C)。スピーゲルマー5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93とも称する)は、S1P誘導Ca++−放出を約5.5nMのIC50で抑制することが判明した(図9D)。
4.2 EDG1受容体を介してS1Pによって誘導されたアレスチン動員の、S1P結合スピーゲルマーによる抑制
【0278】
PathHunter(商標)eXpress EDG−1CHO−K1 β−アレスチンGPCR細胞(DiscoverX)を、底が透明な白の96ウェルプレート(Greiner)の各ウェルあたり1×10細胞で播種し、100μL培地(DiscoverX)中、37℃、5%COで48時間培養した。刺激溶液(D−e−S1p+種々の濃度のスピーゲルマー)を、1mg/mLのBSAおよび20mMのHEPESを補充したHBSS(Gibco)中で、十分に混合し、37℃で30分間インキュベートして、11倍濃度溶液として作製する。10μLの刺激溶液を各ウェル(3組)に添加し、37℃、5%COで90分間インキュベートした。
【0279】
D−e−S1Pによって受容体が活性化すると、活性化EDG1とβ−アレスチンの相互作用によって、β−ガラクトシダーゼ酵素フラグメント相補性がもたらされる。
【0280】
β−ガラクトシダーゼ活性の定量化のために、55μLのWorking Detection Reagent Solution(DiscoverX)を添加して、室温で90分間インキュベートした。続いて、Fluostar Optimaマルチ検出プレートリーダ(BMG)で発光を測定した。
【0281】
抗S1Pスピーゲルマーの有効性を示すために、10nMのD−e−S1Pまたは種々の量の215−F9−002−5’−PEG(5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002もしくはNOX−S91とも称する)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S93)でプレインキュベートしたD−e−S1Pで細胞を刺激した。結果は、スピーゲルマーを添加せずに得られたシグナルに規準化した発光シグナルのパーセンテージを示す。3組培養物からの平均値±標準偏差を示す。
【0282】
5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002(215−F9−002−5’−PEGおよびNOX−S91とも称する)および5’−40kDa−PEG−L−S1P−215−F9−002−D01−19−21−32(NOX−S91とも称する)は、ヒトS1P−受容体EDG1を発現するリポーター細胞系において、S1P(D−e−S1P)誘導アレスチン動員をそれぞれ22.5nMと10.3nMのIC50値で抑制した(図9A、9B)。
【実施例5】
【0283】
S1P結合スピーゲルマーのin vivo活性
【0284】
スピーゲルマーNOX−S92またはNOX−S93のリンパ球の輸送を変える能力をマウスで試験するために計画した薬力学的研究を行った。1群および1時点あたり5匹の成熟雌マウス(体重(bw)20〜28g)に、静脈内ボーラス注射(10mL/kg bw)を尾静脈に投与した。スピーゲルマーNOX−S92またはNOX−S93の注射用量は、20mg/kgbwであり、注射用5%グルコースをビヒクルとして使用した。表示した時点で、EDTA−血液試料を採取して、scil Vet abc血液アナライザー(scil animal care company)でリンパ球数を決定した。スピーゲルマーNOX−S92またはNOX−S93による処置は、適用から8時間後、8.6×10の基底レベルから4.9×10リンパ球/(NOX−S92)への減少、または適用から24時間後、8.7×10の基底レベルから4.6×10リンパ球/μL血液(NOX−S93)への減少が示したようにリンパ球減少症を誘発した(図5を参照されたい)。
有意性は、Dunnettの多重比較検定を使用して決定した。
【実施例6】
【0285】
競合スピーゲルマープルダウンアッセイ
【0286】
S1P結合スピーゲルマーの親和定数は、競合プルダウンアッセイによって決定した。T4ポリヌクレオチドキナーゼによるスピーゲルマーの放射性標識を可能にするために、D−立体構造中の2つのグアノシン残基をL−S1P−215−F9−002スピーゲルマーの5’末端に添加した。次いで、非標識のスピーゲルマーは、300〜600pM放射標識したスピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−5’diD−Gと一定量のビオチン化D−e−S1Pへの結合において競合する、すなわち、非標識スピーゲルマーのD−e−S1Pに対する結合親和性による結合シグナルを低下させるその能力を試験した。D−e−S1Pを8nMの濃度で使用し、競合するスピーゲルマーの非存在下で、放射標識スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−5’diD−Gのおよそ10%の最終結合をもたらした。アッセイは、250μLの選択緩衝液(20mMのTris−HCl(pH7.4);150mMのNaCl;5mMのCl;1mMのMgCl;1mMのCaCl;0.1%(w/v)Tween−20;4mg/mLのウシ血清アルブミン;10μg/mLの酵母RNA)中、37℃で3〜4時間行った。ビオチン化D−e−S1Pおよびスピーゲルマーとビオチン化S1Pno複合体を、結合反応物に添加する前に選択緩衝液で前平衡させたニュートラアビジンUltralink Plusビーズ5μL上に固定化した。ビーズは、サーモミキサー内に37℃で30分間、懸濁液中で保持した。上清を取り除いて、適切に洗浄した後、固定化した放射活性の量をシンチレーションカウンターで量った。結合した放射標識スピーゲルマーL−S1P−215−F9−002−5’diD−Gの結合パーセンテージまたは規準化パーセンテージを、競合するスピーゲルマーの対応する濃度に対してプロットした。解離定数は、GraphPad Prismソフトウェアを使用して得た。同じアッセイフォーマットを一組の異なるスピーゲルマーの比較ランキングで用いた。この場合、表示したように競合するスピーゲルマーを単一の濃度で用いた。
【実施例7】
【0287】
NOX−S91およびNOX−S93の血管新生のin vitroでの抑制
【0288】
スフェロイドをベースした細胞血管新生in vitroアッセイにおいて、スピーゲルマーNOX−S91およびNOX−S93を、VEGF−A(血管内皮増殖因子A)およびS1P(スフィンゴシン−1−リン酸)に誘導されるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の出芽を抑制するそれらの能力に関して試験した。
【0289】
実験は、元々公開されているプロトコル(KorffおよびAugustin,J Cell Sci 112:3249−58,1999)を修飾して進めた。手短に述べると、(Korffおよびugustin,J Cell Biol 143:1341−52,1998)に記述されるように500HUVECをピペットでプラスチックシャーレに懸滴してスフェロイドを調製し、一晩スフェロイドを凝集させた。次いで、50HUVECスフェロイドを、0.9mLのコラーゲンゲルに播種し、24ウェルプレートの個々のウェルにピペットで取り分けて、重合させた。
【0290】
10倍濃縮した作業希釈液100μLをピペットで重合ゲルの表面に移してから30分後に、血管新生刺激物質S1P[100nMの最終アッセイ濃度]またはVEGF−A[25ng/mLの最終アッセイ濃度]を添加した。同様に、S1P結合スピーゲルマーの投与量範囲(10nM〜10μMの半対数単位刻み)を添加してIC50値を算出した。ビヒクルのみと、血管新生刺激物質単独またはスピーゲルマービヒクルを加えたもののいずれかとを対照ウェル(基底出芽および最大出芽の誘導)として使用した。VEGF誘導出芽アッセイでは、スニチニブを陽性対照として用いた。プレートを37℃で24時間インキュベートして、4%Roti−HIstofixを添加して固定させた。処置したHUVECスフェロイドの出芽強度を、倒立顕微鏡と、デジタル画像処理ソフトウェアAnalysis3.2(Soft imaging system,Munster,Germany)とからなる画像解析システムを使用して、1スフェロイドあたりの累積出芽長を決定することで定量化した。ランダムに選択した10スフェロイドの累世出芽長の平均を個々のデータポイントとして分析した。IC50値の決定は、GrapPad Prismソフトウェアバージョン5.02を用いて、変数ヒルスロープによる非線形回帰曲線適合を使用して下を0に上を100に限定して行った。方程式は、4パラメータロジスティック方程式である。算出のために、基底出芽の中央値は、他のすべてのデータポイントから減算した。対照VEGF−AまたはS1P出芽の中央値を100%に設定した。
【0291】
NOX−S91およびNOX−S93は双方とも、S1PまたはVEGF−Aのいずれかによって誘導された出芽を抑制した。NOX−S93は、S1P誘導EC出芽においてNOX−S91よりも、強い抑制を示した。S1P誘導出芽アッセイにおいて、NOX−S93は、NOX−S91(7.5×10M)よりも強い抑制(3.4×10M)を示した。両薬物は、VEGF−A誘導出芽においてIC50値よりも低い値を示した(図10を参照されたい)。NOX−S91およびNOX−S93に対するIC50値は、VEGF−A誘導出芽では、2.1×10−7Mおよび2.4×10−7Mであった。陽性対照として用いたスニチニブは、同じ範囲でHUVEC出芽の抑制を示し、IC50値は2.5×10−7Mであった(図10を参照されたい)。
【0292】
試験したスピーゲルマーは、細胞血管新生アッセイにおいてS1P誘導EC出芽またはVEGF−A誘導EC出芽を抑制した。これらの結果は、S1P抗体に関して発表されているデータ(Visentinら,Cancer Cell 2006 9(3):225−38)に一致している。
【0293】
明細書、特許請求の範囲、配列表および/または図面に開示した本発明の特徴は、別々におよびその任意の組み合わせで、本発明をその種々の形で実現するための材料になり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]