【実施例】
【0025】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
[製造例]懸濁性ローション剤の調製
表1に示す組成を有する実施例1〜8のローション剤を、以下の手順によって調製した。なお、イミダゾール系抗真菌薬として、ラノコナゾールを微粉砕した微粉品を使用した。このラノコナゾール微粉品の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製のSALD-2100)を用いて測定したところ、D
50が5.8μm、D
90が10.3μmであった。なお、カルボキシビニルポリマーとしては、日光ケミカルズ社製のカーボポール981を使用した。
【0026】
実施例1〜8のローション剤の製造方法
(1)1,3-ブチレングリコール(実施例4〜8では1,3-ブチレングリコールとグリセリン)とパラベン(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル)を加温撹拌し溶解させパラベン溶液を調製する。
(2)精製水とカルボキシビニルポリマー(CVP)を撹拌溶解させ、CVP水溶液を調製する。
(3)精製水とジイソプロパノールアミン(DIPA)を撹拌溶解させ、DIPA水溶液を調製する。
(4)パラベン溶液を撹拌しながら、CVP水溶液、精製水、エデト酸ナトリウム水和物を加え、撹拌混和・溶解させる。
(5)(4)にラノコナゾールを加え、攪拌分散する。
(6)(5)にDIPA水溶液を加え、撹拌混和後、精製水を適量加える。
【0027】
比較例1:上記製造方法の(1)において、1,3-ブチレングリコールを使用せず、グリセリンのみを用いた他は、実施例と同様の方法で、1,3-ブチレングリコールを含まない比較例1の懸濁性ローション剤を製造した。
比較例2:上記製造方法の(1)を行わず、(4)において、パラベン溶液以外を撹拌混和、溶解させた他は、実施例と同様の方法で、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、パラベンを含まない比較例2の懸濁性ローション剤を製造した。
比較例3:ラノコナゾールとして、未粉砕品(D
50=27.0μm、D
90=112.3μm)を用いた他は、実施例と同様の方法で、比較例3の懸濁性ローション剤を製造した。
【0028】
【表1】
【0029】
[試験例1]in vitroヒト皮膚透過性試験
実施例1〜7および比較例1,2のローション剤について、以下の方法により、in vitroヒト皮膚透過性試験を行った。また、コントロールには、市販のラノコナゾール製剤である、アスタット(登録商標)クリーム1%(アスタットクリーム:1g中にラノコナゾールを10mg含有するクリーム)を使用した。
【0030】
フランツ垂直型拡散セルをセットした自動経皮吸収試験システム(マイクロエッテプラス)を用いてin vitro透過性試験を行った。透過膜として厚さ0.5mmに調整したヒト皮膚を用い、透過膜上に被験物質10mgを塗布しレセプター液(15%エタノール含有リン酸緩衝生理食塩溶液)を32℃に保ちながら撹拌子で撹拌し、被験物質塗布後4,8,12,16時間後の皮膚透過量をLC/MS/MS(液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計)にて定量した。
【0031】
結果を
図1および表2に示す。
図1はラノコナゾールの累積透過量を示す。なお、本試験はヒトの皮膚組織を用いて行っている。皮膚への製剤の透過性には個人差があるため、in vitroの試験でも、用いる皮膚組織のドナーが異なると累積透過量は異なることが多い。したがって、皮膚組織を用いる試験では、コントロールと試験製剤の透過量を比較し、透過性の優劣を判断する必要があるため、表2においては、アスタットクリーム透過量に対する相対値により、各ローション剤の透過性を示している。
【0032】
【表2】
【0033】
図1および表2に示すように、本発明のローション剤は、アスタットクリームよりも優れた皮膚透過性を示した。これに対し、1,3-ブチレングリコールを含まず、グリセリンを含む比較例1のローション剤は、アスタットクリームより皮膚透過性が劣る結果となった。一方、1,3-ブチレングリコールとグリセリンを含まない比較例2のローション剤は、アスタットクリームとほぼ同等の皮膚透過性を示した。なお、比較例2のローション剤は、1,3-ブチレングリコールもグリセリンも含まないため、保存剤(パラベン)を溶解させることができず、実施例のローション剤やアスタットクリームと比べて保存性に劣る製剤であった。
【0034】
上記、実施例やその他の試験から、1,3-ブチレングリコールには、ラノコナゾールの皮膚透過性を促進する効果があることが分かった。したがって、実施例3のように1,3-ブチレングリコールを多量(45重量%)使用すると、イミダゾール系抗真菌薬の皮膚透過性は非常によくなるが、あまり多量に使用すると、べたつく等の使用感の低下や皮膚への刺激という問題が生じやすいため、皮膚透過性以外の製剤特性についても考慮すると、1,3-ブチレングリコールの量は50重量%以下(好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下)が適切である。
他方、グリセリンを添加した製剤では、添加しない製剤に比べて、ラノコナゾールの皮膚透過性が抑制される傾向が見られた。したがって、1,3-ブチレングリコールとグリセリンを併用することにより、ラノコナゾールの皮膚透過性を調節することが可能である。併用する場合のグリセリンの量は、1,3-ブチレングリコール添加による皮膚透過性促進効果を妨げない量の添加が好ましく、15重量%以下の濃度で使用することが好ましい。
【0035】
[試験例2]含量均一性(-5℃、13週間保管での均一性)の評価
実施例2および比較例3の各製剤を各々容器に分注し、-5℃条件下で13週間保存後、容器の上部、中部および下部からサンプリングした製剤のラノコナゾール濃度をHPLCにて測定し、開始時濃度(10mg/L)に対する割合を比較した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3から分かるように、ラノコナゾールの微粉砕品(D
90=10.3μm)を使用した実施例2のローション剤は、-5℃で13週間保管した際も、ラノコナゾールが製剤全体に均一に分散していた。これに対し、ラノコナゾールの未粉砕品(D
90=112.3μm)を使用した比較例3のローション剤は、ラノコナゾールが、下部に沈降して製剤全体に均一に分散していなかった。
【0038】
含量均一性と粒径の関係を検討した結果、所望の主薬含量均一性を達成するには、90%粒子径(D
90)が30μm以下の微粉品を使用することが好ましいことが分かった。特に、D
90が20μm以下(より好ましくは15μm以下)の微粉品を用いることにより、製剤中に主薬の偏りがほとんど存在しない優れたローション剤を得ることができる。
【0039】
[試験例3]皮膚刺激性の評価
ウサギの背部皮膚に損傷皮膚を設け、1日あたり被験物質(実施例2、8のローション剤又はアスタットクリーム)0.05gを23時間開放投与し、7日間連続投与した。動物数はそれぞれについて3とした。皮膚反応の判定は、Draizeの判定基準
1)に準拠して実施した。Draizeの判定基準を表4に示す。
【0040】
【表4】
1) Draize JH, Appraisal of the safety of chemicals in foods, drugs and cosmetics. The Association of Food and Drug Officials of the United States, Topeka, Kansas, 1965;46-59
【0041】
各被験物質について、各判定日における平均評点を合計し、判定日数で除して、投与期間における平均値を求めた。その平均値をもとに、表5に示す評価基準に従って皮膚反応を評価した。平均評点及び投与期間における平均値は、小数点第二位を四捨五入し、小数点第一位まで求めた。結果を表6に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
表6から分かるように、実施例2および実施例8のローション剤は、皮膚に適用した際にも、皮膚に紅斑や浮腫はまったく生じず、既存のアスタットクリームよりも刺激性が低く、水と同じく全く刺激性が無いことが分かった。
【0045】
[試験例4]粘度安定性試験
実施例2のローション剤について、粘度安定性試験を行った。試験方法を以下に示す。
(1)試験製剤(実施例2のローション剤)を40℃/75%RHまたは60℃の条件下で13週間保管する。
(2)上記保管前(initial)および保管後(13週間後)の製剤について、B型粘度計(B8H、ローター:HH-12、測定温度25℃、回転数50rpm、10秒間)を用いて粘度を測定した。
結果を表7に示す。
【0046】
【表7】
【0047】
表7から分かるように、実施例2のローション剤は、40℃・75%RHの加速条件または60℃の苛酷条件で13週間保管した場合にも、1500mPa・s以上の粘度を維持し、被髪頭部に適用した際に垂れにくく、目や耳への流れ落ちを防ぐことができた。
【0048】
適切な粘度について検討した結果、粘度が500mPa・s以下では、流動性が高く、水っぽくなり、被髪頭部に塗布した際に、垂れやすく、他方、粘度が3500mPa・s以上では、流動性が低く、ゲルに近い状態となり、被髪頭部に塗布しにくかった。
被髪頭部に塗りやすく、かつ、塗布時の頭部からの垂れを防ぐためには、1000〜3000mPa・sの粘度が適切であり、特に好ましい粘度は1500〜2500mPa・sであった。また、このような範囲に増粘させることにより、沈降による主薬不均一化の防止にも寄与すると考えられる。
【0049】
また、増粘剤について検討した結果、本発明のローション剤では、皮膚用外用剤で使用されることが多いセルロース系増粘剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース等)を用いるよりも、カルボキシビニルポリマーを用いることが好ましいことが分かった。セルロース系増粘剤を使用した場合、経時的な粘度低下や、ラノコナゾールの沈降が確認された。これに対し、カルボキシビニルポリマー(増粘剤)の添加では、適度な粘度や主薬均一化が維持できることが確認され、更にエデト酸ナトリウム水和物(粘度安定化剤)を添加することで、適度な粘度がより維持できることが確認された。
【0050】
[試験例5]使用感の評価(官能試験)
健常成人7名が、試験製剤を頭部に使用し、垂れ及びべたつきについて下記3段階にて評価した。
・試験製剤:
A.ケトコナゾールを含有する市販のO/W型乳剤性ローション剤:(ケトコナゾール[有効成分]、油性基剤[スクワラン]、界面活性剤[モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンセチルエーテル]含有)
B.実施例2のローション剤
【0051】
評価基準と結果を表8に示す。
【表8】
【0052】
表8から分かるように、実施例2のローション剤は、垂れやべたつきに関する評価が非常に良く、市販の製剤(試験製剤A)よりも使用感に優れていることが分かった。また、実施例2のローション剤は、ほとんど無臭のローション剤であり、毛髪に適用した際にも、毛髪への臭いの付着は生じなかった。