特許第5941909号(P5941909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5941909イミダゾール系抗真菌薬を含有する懸濁性ローション剤
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  • 特許5941909-イミダゾール系抗真菌薬を含有する懸濁性ローション剤 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941909
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】イミダゾール系抗真菌薬を含有する懸濁性ローション剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/10 20060101AFI20160616BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 31/4174 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20160616BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20160616BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   A61K47/10
   A61K9/10
   A61K47/32
   A61K31/4174
   A61K31/4178
   A61P31/10
   A61P17/08
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-512294(P2013-512294)
(86)(22)【出願日】2012年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2012060465
(87)【国際公開番号】WO2012147584
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2015年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2011-99115(P2011-99115)
(32)【優先日】2011年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232623
【氏名又は名称】日本農薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】伊原 幹人
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−151117(JP,A)
【文献】 特開平11−021229(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/102243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/10
A61K 9/10
A61K 31/4174
A61K 31/4178
A61K 47/32
A61P 17/08
A61P 31/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾール系抗真菌薬を含むローション剤であって、
前記イミダゾール系抗真菌薬の90%粒子径(D90)が30μm以下であること、
1,3-ブチレングリコールと水を含む懸濁性のローション剤であること、
界面活性剤および低級一価アルコールを含まないこと、
カルボキシビニルポリマーを含むこと、
を特徴とするローション剤。
【請求項2】
1,3-ブチレングリコールの濃度が1〜50重量%である、請求項1に記載のローション剤。
【請求項3】
水と1,3-ブチレングリコールを合計で90重量%以上含むか、または水と1,3-ブチレングリコールとグリセリンを合計で90重量%以上含む、請求項1または2に記載のローション剤。
【請求項4】
粘度が1000mPa・s〜3000mPa・sである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のローション剤。
【請求項5】
前記イミダゾール系抗真菌薬が、ラノコナゾール、ルリコナゾールから選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のローション剤。
【請求項6】
pH値が4〜7である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のローション剤。
【請求項7】
溶媒が、水と1,3-ブチレングリコールのみからなるか、または水と1,3-ブチレングリコールとグリセリンのみからなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のローション剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾール系抗真菌薬を含有するローション剤に関する。より詳しくは、被髪頭部の脂漏性皮膚炎の治療に好適な、薬物分散型の懸濁性ローション剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂漏性皮膚炎は、頭部、顔面、胸などの脂漏部位や間擦部に生じる淡黄色脂性鱗屑を伴う皮膚炎である。乳幼児と成人に好発するが、乳幼児では一過性であるのに対し、成人では慢性、再発性の疾患である。成人での脂漏性皮膚炎は、ビタミンB群の代謝異常、皮脂分泌異常、ストレス等、多数の病因が考えられているが、最近では、真菌の一種であるマラセチア属の関与が示されており、イミダゾール系抗真菌薬による脂漏性皮膚炎治療の有用性について、様々な報告がなされている。
【0003】
特に中高年期の成人では、被髪頭部に脂漏性皮膚炎が発症する場合が多く、フケの増加や脱毛の誘因となることが報告されている。そのため、被髪頭部へ適用しやすいイミダゾール系抗真菌薬製剤が望まれている。
【0004】
しかし、現在市販されているイミダゾール系抗真菌薬の外用製剤は、軟膏剤、クリーム剤が大半である。軟膏剤やクリーム剤は、その粘性のため、被髪頭部に用いると、毛髪に付着して患部に適用しにくく、べとつくために使用感が悪いという問題がある。
べとつき等の不快な使用感を軽減するためには、液状の製剤を使用することが考えられるが、イミダゾール系抗真菌薬の多くは水難溶性であるため、水性成分のみで液状製剤を調製することは難しいという問題がある。すなわち、イミダゾール系抗真菌薬を溶解するためには、油性成分(油性基剤)や低級一価アルコール等の有機溶媒へ溶解することが必要であり、また、油性成分を水系溶媒に溶解・乳化させるためには界面活性剤が必須となる。油性成分を含む製剤は、さっぱりとした使用感に乏しく、また、低級一価アルコールや界面活性剤を含む製剤は、製剤を塗布した箇所に刺激を与えるという問題がある。さらに、油性成分を含む製剤では、溶媒臭が発生するため、被髪頭部に使用すると、毛髪に臭いが付着するという問題がある。
【0005】
例えば、特許文献1および特許文献2には、イミダゾール系抗真菌薬であるケトコナゾールを含有するローション剤が開示されており、特許文献3には、ルリコナゾール又はラノコナゾールを含有するローション剤が開示されている。
しかし、特許文献1のローション剤は、油性成分と水性成分からなる基剤を界面活性剤で乳化させてなる乳剤性ローション剤であり、その請求項に記載されているように、油性基剤と乳化剤(界面活性剤)を必須成分として含むものである。したがって、刺激性が強いという問題点や、さっぱりとした使用感に劣るという問題を有する。
また、特許文献2に開示されたローション剤(請求項5、実施例6)は、水にほとんど溶けないケトコナゾールを、有機溶媒(プロピレンカーボネートやエタノール)を用いて完全に溶解し、得られた溶液を水で希釈したローション剤(すなわち、溶液性ローション剤)である。このうちプロピレンカーボネートは、眼や呼吸器に対する刺激性があり、また、エタノールのような低級一価アルコールは揮発性が高く、外用剤に添加することによる皮膚への影響が懸念されるという問題がある。また、エタノール臭が発生するという問題がある。
特許文献3に開示されたローション剤は、請求項5に記載されているように、油性基剤と乳化剤を含む乳剤性ローション剤であるため、特許文献1のローション剤と同様、刺激性や使用感について懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-113083号公報
【特許文献2】特許第3007146号公報
【特許文献3】WO2009/028495
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、現在もなお、被髪頭部へ適用し易く、優れた抗真菌効果を発揮し、使用感が良い液状製剤であって、低刺激性で、溶媒臭の少ない液状製剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記状況に鑑み、イミダゾール系抗真菌薬を含む製剤について、エタノール等の低級一価アルコール、界面活性剤および油性基剤を含まず、べとつき等の使用感を改善し、かつ刺激性を抑えた溶液性ローション剤の製造を試みた。しかし、イミダゾール系抗真菌薬は水難溶性のものがほとんどであるため、製法の工夫では、低級一価アルコールを含まない水系溶媒中へ、イミダゾール系抗真菌薬を溶解するという課題を克服できなかった。
しかし、更に検討を重ねた結果、水系溶媒にイミダゾール系抗真菌薬を懸濁させてなるローション剤において、さっぱりとした使用感、優れた皮膚透過性および経時的な含量均一性を有する製剤を得ることに成功し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、イミダゾール系抗真菌薬を含むローション剤であって、
前記イミダゾール系抗真菌薬の90%粒子径(D90)が30μm以下であること、
1,3-ブチレングリコールと水を含む懸濁性のローション剤であること、
界面活性剤および低級一価アルコールを含まないこと、
カルボキシビニルポリマーを含むこと、
を特徴とする。
【0010】
上記ローション剤は、液状製剤であるため、被髪頭部に適用しやすく、界面活性剤と低級一価アルコールを含まないため、皮膚に対する刺激性が少ない。また、懸濁性ローション剤であり、油性成分(油性基剤)を含まないため、さっぱりとした使用感を有する。さらに、イミダゾール系抗真菌薬(主薬)として、90%粒子径(D90)が30μm以下の微粒子を使用することにより、沈降による製剤中の主薬含量の不均一化を防ぎ、製剤の経時的な含量均一性を確保することができる。また、1,3-ブチレングリコールを含むことにより、皮膚透過性を促進することができるため、優れた薬効を発揮することができる。また、油性成分や低級一価アルコールを含まない水系溶媒を使用しているため、溶媒臭がほとんどない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製剤は、ローション剤であるため、被髪頭部に適用しやすい。また、従来のイミダゾール系抗真菌薬を含むローション剤と異なり、低級一価アルコール、界面活性剤および油性成分を含まないため、刺激性が低く、さっぱりとした使用感を有し、ほぼ無臭である。さらに、有効成分の皮膚透過性や含量均一性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明および比較例のローション剤に関するin vitroヒト皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のローション剤は、懸濁性ローション剤に分類される。すなわち、ローション剤には、乳剤性ローション剤、溶液性ローション剤、懸濁性ローション剤があり、乳剤性ローション剤は、基剤が油性成分と水性成分から構成され、これらを界面活性剤で乳化させてなる。溶液性ローション剤と懸濁性ローション剤は、基剤が水性成分から構成されるローション剤であり、界面活性剤を含むことも含まないこともある点で共通するが、溶液性ローション剤では、主薬は溶解した形態で存在し、懸濁性ローション剤では、主薬が溶解せず分散した形態で存在する。
さらに、本発明の懸濁性ローション剤は、界面活性剤(乳化剤)や低級一価アルコール(エタノール、イソプロパノールなど炭素数1〜3の一価アルコール)を含まないことを特徴とする。
【0014】
本発明のローション剤の有効成分はイミダゾール系抗真菌薬である。イミダゾール系抗真菌薬として、ラノコナゾール、ルリコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、エコナゾール等が挙げられる。特にラノコナゾールまたはルリコナゾールが好適である。ローション剤における含有率は、0.1重量%〜3重量%程度が好ましく、0.5重量%〜3重量%がより好ましく、0.5〜2重量%が特に好ましい。
【0015】
前記イミダゾール系抗真菌薬は、その90%粒子径(D90)が30μm以下である必要がある。本発明において、90%粒子径(D90)とは、レーザー回折散乱法により測定される、微粒子側からの累積90%の粒径を意味する。すなわち、レーザー回折散乱法により測定される粒度分布において、90体積%の粒子が30μm以下(0.1μm程度〜30μm)の粒子径範囲に分布されていればよい。
D90が30μm以下のイミダゾール系抗真菌薬(主薬)を用いることにより、主薬の沈降を効果的に防ぐことができ、長期間保管した際にも、製剤中の主薬含量均一性の低下を抑制することができる。
より好ましいイミダゾール系抗真菌薬は、D90が20μm以下の微粉品であり、特に好ましくはD90が15μm以下の微粉品である。
【0016】
本発明のローション剤の基剤(溶媒)は、水性成分のみからなり、水と1,3-ブチレングリコールを必ず含む。また、さらにグリセリンを含んでもよく、他の水性成分(水性基剤)を含んでいてもよい。
なお、本発明のローション剤は、上述のように、油性成分(炭化水素類、脂肪酸エステル類、ロウ類、トリグリセライド類、高級脂肪酸類、高級アルコール類等)は含まない。
【0017】
前記ローション剤は、1,3-ブチレングリコールを1〜50重量%含むことが好ましく、2〜20重量%含むことがより好ましい。1,3-ブチレングリコールの濃度が1重量%未満だと、所望の皮膚透過性促進効果が得られにくく、50重量%より多く含むと、べたつく等の使用感の低下や皮膚への刺激という問題が発生しやすい。より好ましい1,3-ブチレングリコールの濃度は、5〜15重量%である。
また、水を40〜98重量%含むことが好ましく、50〜95重量%含むことがより好ましく、75〜94重量%含むことがさらに好ましい。
さらに、グリセリンを添加する場合は、15重量%以下の量とすることが好ましい。15重量%を超える量で使用すると、イミダゾール系抗真菌薬の皮膚透過性が低下する場合がある。
【0018】
本発明のローション剤は、水と1,3-ブチレングリコールを合計で90重量%(より好ましくは95重量%)以上含むか、または、水と1,3-ブチレングリコールとグリセリンを合計で90重量%(より好ましくは95重量%)以上含むことが好ましい。
本発明の特に好ましいローション剤では、溶媒は、水と1,3-ブチレングリコールのみから、または、水と1,3-ブチレングリコールとグリセリンのみからなる。溶媒をこれらの成分のみから構成することにより、刺激性や臭いがほとんどない優れたローション剤を得ることができる。
【0019】
本発明のローション剤は、粘度が1000〜3000mPa・sであることが好ましい。粘度が500mPa・s未満では、流動性が高く、頭部に塗布した際に垂れやすくなり、粘度が3500mPa・s以上だと、流動性が低く、ゲルに近くなるため、毛髪に付着しやすくなり、使用感も悪くなる。粘度を上記1000〜3000mPa・sの範囲とすることにより、頭部に使用した際に、製剤の流れ落ちを防ぐことができ、べたつき等の不快な使用感のない製剤を得ることができる。好ましい粘度範囲は1500〜2500mPa・sであり、より好ましい粘度範囲は、1500〜2200mPa・sである。本発明において、粘度とは、B型粘度計(B8H、ローター)にて、測定温度25℃、回転数50rpmで10秒間測定した際の粘度を意味する。
【0020】
本発明のローション剤は、上記粘度とするために、増粘剤を含むことが好ましい。特に好ましい増粘剤として、カルボキシビニルポリマーが挙げられる。ローション剤中の増粘剤の量は、前記粘度を達成できる量とすればよい。粘剤としてカルボキシビニルポリマーを使用する場合は、0.1〜1.0重量%(より好ましくは0.2〜0.5重量%)が適切である。適切なカルボキシビニルポリマーの例として、カルボキシル基を56〜68%、より好ましくは58〜63%(カルボキシビニルポリマーにおけるカルボキシル基の重量%)含有するポリマーが挙げられる。このようなカルボキシビニルポリマーは市場で入手可能である。
また、粘度安定化剤を添加してもよく、例えばエデト酸ナトリウム水和物を0.02〜0.1重量%程度の量で使用することができる。

【0021】
また、前記ローション剤は、pHが4〜7の範囲であることが好ましい。pHが9.0以上だと、主薬の分解が生じやすくなる。低刺激性、主薬及び物性の安定性を確保するためには、上記範囲のpHが好ましい。なお、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーを使用する場合には、pHを5.0以上とすることが好ましい。5.0以上とすることにより、カルボキシビニルポリマーを十分に増粘させることができる。
適切なpH調節剤として、ジイソプロパノールアミン、L-アルギニン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが挙げられる。特に好ましいpH調節剤は、pH調節のし易いジイソプロパノールアミンである。ローション剤中のpH調節剤の量は、前記pHを達成できる量とすればよい。例えば、ジイソプロパノールアミンの場合は、0.1〜1.5重量%程度が適切である。
【0022】
また、前記ローション剤は、保存剤(防腐剤)を含むことが好ましい。適切な保存剤として、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、フェノキシエタノール、塩化ベンザルコニウム、サリチル酸、クロロクレゾール等が挙げられる。特に好ましい保存剤は、パラオキシ安息香酸メチルまたはパラオキシ安息香酸エチルである。ローション剤中の保存剤の量は、皮膚用のローション剤において一般に使用されている量とすればよい。例えば、パラベン(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル)の場合は、0.05〜0.25重量%程度が適切である。
【0023】
また、本発明のローション剤は、必要に応じて、色素、香料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤など、通常の皮膚用ローション剤に配合される成分を含有していてもよい。
【0024】
本発明のローション剤(上述した保存剤、増粘剤、pH調節剤、粘度安定化剤を含むもの)の製造方法の一例を、以下に示す。
(1)保存剤と1,3-ブチレングリコール(グリセリンを使用する場合は、1,3-ブチレングリコールとグリセリン)を撹拌溶解させ保存剤溶液を調製する。
(2)精製水と増粘剤を撹拌溶解させ、増粘剤水溶液を調製する。
(3)精製水とpH調節剤を撹拌溶解させ、pH調節剤水溶液を調製する。
(4)保存剤溶液を撹拌しながら、増粘剤水溶液、精製水、粘度安定化剤を加え、撹拌混和、溶解させる。
(5)(4)の溶液にイミダゾール系抗真菌薬を加え、撹拌分散する。
(6)(5)にpH調節剤水溶液を加え、撹拌混和後、精製水を適量加える。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
[製造例]懸濁性ローション剤の調製
表1に示す組成を有する実施例1〜8のローション剤を、以下の手順によって調製した。なお、イミダゾール系抗真菌薬として、ラノコナゾールを微粉砕した微粉品を使用した。このラノコナゾール微粉品の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製のSALD-2100)を用いて測定したところ、D50が5.8μm、D90が10.3μmであった。なお、カルボキシビニルポリマーとしては、日光ケミカルズ社製のカーボポール981を使用した。
【0026】
実施例1〜8のローション剤の製造方法
(1)1,3-ブチレングリコール(実施例4〜8では1,3-ブチレングリコールとグリセリン)とパラベン(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル)を加温撹拌し溶解させパラベン溶液を調製する。
(2)精製水とカルボキシビニルポリマー(CVP)を撹拌溶解させ、CVP水溶液を調製する。
(3)精製水とジイソプロパノールアミン(DIPA)を撹拌溶解させ、DIPA水溶液を調製する。
(4)パラベン溶液を撹拌しながら、CVP水溶液、精製水、エデト酸ナトリウム水和物を加え、撹拌混和・溶解させる。
(5)(4)にラノコナゾールを加え、攪拌分散する。
(6)(5)にDIPA水溶液を加え、撹拌混和後、精製水を適量加える。
【0027】
比較例1:上記製造方法の(1)において、1,3-ブチレングリコールを使用せず、グリセリンのみを用いた他は、実施例と同様の方法で、1,3-ブチレングリコールを含まない比較例1の懸濁性ローション剤を製造した。
比較例2:上記製造方法の(1)を行わず、(4)において、パラベン溶液以外を撹拌混和、溶解させた他は、実施例と同様の方法で、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、パラベンを含まない比較例2の懸濁性ローション剤を製造した。
比較例3:ラノコナゾールとして、未粉砕品(D50=27.0μm、D90=112.3μm)を用いた他は、実施例と同様の方法で、比較例3の懸濁性ローション剤を製造した。
【0028】
【表1】
【0029】
[試験例1]in vitroヒト皮膚透過性試験
実施例1〜7および比較例1,2のローション剤について、以下の方法により、in vitroヒト皮膚透過性試験を行った。また、コントロールには、市販のラノコナゾール製剤である、アスタット(登録商標)クリーム1%(アスタットクリーム:1g中にラノコナゾールを10mg含有するクリーム)を使用した。
【0030】
フランツ垂直型拡散セルをセットした自動経皮吸収試験システム(マイクロエッテプラス)を用いてin vitro透過性試験を行った。透過膜として厚さ0.5mmに調整したヒト皮膚を用い、透過膜上に被験物質10mgを塗布しレセプター液(15%エタノール含有リン酸緩衝生理食塩溶液)を32℃に保ちながら撹拌子で撹拌し、被験物質塗布後4,8,12,16時間後の皮膚透過量をLC/MS/MS(液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計)にて定量した。
【0031】
結果を図1および表2に示す。図1はラノコナゾールの累積透過量を示す。なお、本試験はヒトの皮膚組織を用いて行っている。皮膚への製剤の透過性には個人差があるため、in vitroの試験でも、用いる皮膚組織のドナーが異なると累積透過量は異なることが多い。したがって、皮膚組織を用いる試験では、コントロールと試験製剤の透過量を比較し、透過性の優劣を判断する必要があるため、表2においては、アスタットクリーム透過量に対する相対値により、各ローション剤の透過性を示している。
【0032】
【表2】
【0033】
図1および表2に示すように、本発明のローション剤は、アスタットクリームよりも優れた皮膚透過性を示した。これに対し、1,3-ブチレングリコールを含まず、グリセリンを含む比較例1のローション剤は、アスタットクリームより皮膚透過性が劣る結果となった。一方、1,3-ブチレングリコールとグリセリンを含まない比較例2のローション剤は、アスタットクリームとほぼ同等の皮膚透過性を示した。なお、比較例2のローション剤は、1,3-ブチレングリコールもグリセリンも含まないため、保存剤(パラベン)を溶解させることができず、実施例のローション剤やアスタットクリームと比べて保存性に劣る製剤であった。
【0034】
上記、実施例やその他の試験から、1,3-ブチレングリコールには、ラノコナゾールの皮膚透過性を促進する効果があることが分かった。したがって、実施例3のように1,3-ブチレングリコールを多量(45重量%)使用すると、イミダゾール系抗真菌薬の皮膚透過性は非常によくなるが、あまり多量に使用すると、べたつく等の使用感の低下や皮膚への刺激という問題が生じやすいため、皮膚透過性以外の製剤特性についても考慮すると、1,3-ブチレングリコールの量は50重量%以下(好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下)が適切である。
他方、グリセリンを添加した製剤では、添加しない製剤に比べて、ラノコナゾールの皮膚透過性が抑制される傾向が見られた。したがって、1,3-ブチレングリコールとグリセリンを併用することにより、ラノコナゾールの皮膚透過性を調節することが可能である。併用する場合のグリセリンの量は、1,3-ブチレングリコール添加による皮膚透過性促進効果を妨げない量の添加が好ましく、15重量%以下の濃度で使用することが好ましい。
【0035】
[試験例2]含量均一性(-5℃、13週間保管での均一性)の評価
実施例2および比較例3の各製剤を各々容器に分注し、-5℃条件下で13週間保存後、容器の上部、中部および下部からサンプリングした製剤のラノコナゾール濃度をHPLCにて測定し、開始時濃度(10mg/L)に対する割合を比較した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3から分かるように、ラノコナゾールの微粉砕品(D90=10.3μm)を使用した実施例2のローション剤は、-5℃で13週間保管した際も、ラノコナゾールが製剤全体に均一に分散していた。これに対し、ラノコナゾールの未粉砕品(D90=112.3μm)を使用した比較例3のローション剤は、ラノコナゾールが、下部に沈降して製剤全体に均一に分散していなかった。
【0038】
含量均一性と粒径の関係を検討した結果、所望の主薬含量均一性を達成するには、90%粒子径(D90)が30μm以下の微粉品を使用することが好ましいことが分かった。特に、D90が20μm以下(より好ましくは15μm以下)の微粉品を用いることにより、製剤中に主薬の偏りがほとんど存在しない優れたローション剤を得ることができる。
【0039】
[試験例3]皮膚刺激性の評価
ウサギの背部皮膚に損傷皮膚を設け、1日あたり被験物質(実施例2、8のローション剤又はアスタットクリーム)0.05gを23時間開放投与し、7日間連続投与した。動物数はそれぞれについて3とした。皮膚反応の判定は、Draizeの判定基準1)に準拠して実施した。Draizeの判定基準を表4に示す。
【0040】
【表4】
1) Draize JH, Appraisal of the safety of chemicals in foods, drugs and cosmetics. The Association of Food and Drug Officials of the United States, Topeka, Kansas, 1965;46-59
【0041】
各被験物質について、各判定日における平均評点を合計し、判定日数で除して、投与期間における平均値を求めた。その平均値をもとに、表5に示す評価基準に従って皮膚反応を評価した。平均評点及び投与期間における平均値は、小数点第二位を四捨五入し、小数点第一位まで求めた。結果を表6に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
表6から分かるように、実施例2および実施例8のローション剤は、皮膚に適用した際にも、皮膚に紅斑や浮腫はまったく生じず、既存のアスタットクリームよりも刺激性が低く、水と同じく全く刺激性が無いことが分かった。
【0045】
[試験例4]粘度安定性試験
実施例2のローション剤について、粘度安定性試験を行った。試験方法を以下に示す。
(1)試験製剤(実施例2のローション剤)を40℃/75%RHまたは60℃の条件下で13週間保管する。
(2)上記保管前(initial)および保管後(13週間後)の製剤について、B型粘度計(B8H、ローター:HH-12、測定温度25℃、回転数50rpm、10秒間)を用いて粘度を測定した。
結果を表7に示す。
【0046】
【表7】
【0047】
表7から分かるように、実施例2のローション剤は、40℃・75%RHの加速条件または60℃の苛酷条件で13週間保管した場合にも、1500mPa・s以上の粘度を維持し、被髪頭部に適用した際に垂れにくく、目や耳への流れ落ちを防ぐことができた。
【0048】
適切な粘度について検討した結果、粘度が500mPa・s以下では、流動性が高く、水っぽくなり、被髪頭部に塗布した際に、垂れやすく、他方、粘度が3500mPa・s以上では、流動性が低く、ゲルに近い状態となり、被髪頭部に塗布しにくかった。
被髪頭部に塗りやすく、かつ、塗布時の頭部からの垂れを防ぐためには、1000〜3000mPa・sの粘度が適切であり、特に好ましい粘度は1500〜2500mPa・sであった。また、このような範囲に増粘させることにより、沈降による主薬不均一化の防止にも寄与すると考えられる。
【0049】
また、増粘剤について検討した結果、本発明のローション剤では、皮膚用外用剤で使用されることが多いセルロース系増粘剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース等)を用いるよりも、カルボキシビニルポリマーを用いることが好ましいことが分かった。セルロース系増粘剤を使用した場合、経時的な粘度低下や、ラノコナゾールの沈降が確認された。これに対し、カルボキシビニルポリマー(増粘剤)の添加では、適度な粘度や主薬均一化が維持できることが確認され、更にエデト酸ナトリウム水和物(粘度安定化剤)を添加することで、適度な粘度がより維持できることが確認された。
【0050】
[試験例5]使用感の評価(官能試験)
健常成人7名が、試験製剤を頭部に使用し、垂れ及びべたつきについて下記3段階にて評価した。
・試験製剤:
A.ケトコナゾールを含有する市販のO/W型乳剤性ローション剤:(ケトコナゾール[有効成分]、油性基剤[スクワラン]、界面活性剤[モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンセチルエーテル]含有)
B.実施例2のローション剤
【0051】
評価基準と結果を表8に示す。
【表8】
【0052】
表8から分かるように、実施例2のローション剤は、垂れやべたつきに関する評価が非常に良く、市販の製剤(試験製剤A)よりも使用感に優れていることが分かった。また、実施例2のローション剤は、ほとんど無臭のローション剤であり、毛髪に適用した際にも、毛髪への臭いの付着は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のローション剤は、従来のイミダゾール系抗真菌薬のローション剤と異なり、低級一価アルコール、界面活性剤、油性成分(油性基剤)を含まないため、非常に刺激性が低く、さっぱりとした使用感を有する。また、主薬の皮膚透過性に優れているため、優れた薬効を得ることができる。本発明のローション剤は、被髪頭部の脂漏性皮膚炎に用いるのに非常に好適である。
図1