特許第5941912号(P5941912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5941912体腔の灌注排出を行なうための手動操作型の装置および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941912
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】体腔の灌注排出を行なうための手動操作型の装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 3/02 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   A61M3/02 110
   A61M3/02 126
   A61M3/02 152
【請求項の数】14
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-517672(P2013-517672)
(86)(22)【出願日】2011年6月29日
(65)【公表番号】特表2013-533785(P2013-533785A)
(43)【公表日】2013年8月29日
(86)【国際出願番号】IL2011000520
(87)【国際公開番号】WO2012001691
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年5月30日
(31)【優先権主張番号】61/406,201
(32)【優先日】2010年10月25日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/359,404
(32)【優先日】2010年6月29日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508168789
【氏名又は名称】ホスピテック レスピレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】デュッシュ, イスラエル
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−502262(JP,A)
【文献】 米国特許第04457747(US,A)
【文献】 特表2004−535246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔に流体を灌注するための手持ち式の装置であって、前記装置は、第1体積の流体を体腔に吐出し、かつ第2体積の流体を体腔に吐出しながら同時に少なくとも前記第2体積の流体を体腔から抜き取るように構成された手持ち式の手動操作型ポンプ機構を含み、前記ポンプ機構は、第1ポンプおよび第2ポンプを有し、前記第1ポンプは、第1ノズルを含み、前記第2ポンプは、前記第1ノズルとは別個の第2ノズルを含み、前記第1ポンプは、流体を前記第2ノズルを介して体腔中に吐出すべく前記第2ポンプが作動すると、流体を前記第1ノズルを介して体腔から抜き取るべく前記第1ポンプが起動するように、第2ポンプに作動可能に連結される、装置。
【請求項2】
前記ポンプ機構は、第1体積流量で体腔に流体を吐出しかつ同時に第2体積流量で体腔から流体を抜き取るように構成され、前記第1および前記第2体積流量の間には直線関係が存在する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記機構は、各々が体腔と流体連通するように構成された第1ポンプおよび第2ポンプを含み、前記第1ポンプおよび前記第2ポンプは、前記第2体積の流体を体腔に吐出すべく前記第2ポンプが作動すると、少なくとも前記第2体積の流体を体腔から抜き取るべく前記第1ポンプが起動するように、作動可能に連結される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記機構は、各々が体腔と流体連通するように構成された第1ポンプおよび第2ポンプを含み、前記第1ポンプおよび前記第2ポンプは、少なくとも前記第2体積の流体を体腔から抜き取るべく前記第1ポンプが作動すると、前記第2体積の流体を体腔内に吐出すべく前記第2ポンプが起動するように、作動可能に連結される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記第1および前記第2ポンプはそれぞれ第1および第2ピストンポンプであり、前記第1ポンプの前記第1ピストンは前記第2ポンプの前記第2ピストンと作動可能に連結される、請求項3または4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1ピストンおよび前記第2ピストンは、事前設定された移動範囲での前記第1ピストンおよび前記第2ピストンの独立した移動、ならびに前記事前設定された移動範囲を超える前記第1ピストンおよび前記第2ピストンの連結移動を可能にするように連結される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
両方の前記ポンプが不作動状態である第1モードと、アクチュエータ部材が前記第1ポンプを起動させて初期体積の流体を装置から噴出させる第2モードとを有する、アクチュエータ部材をさらに含む、請求項3〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記アクチュエータ部材はさらに、前記アクチュエータ部材が前記第2ポンプを起動させてさらなる初期体積の流体を装置から噴出させる第3モードを有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記アクチュエータ部材はさらに、前記アクチュエータ部材が同時に、前記第2ポンプを起動させて流体を体腔内に吐出させ、かつ前記第1流体ポンプを起動させて体腔から流体を抜き取らせる、第4モードを有する、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記アクチュエータ部材はさらに、前記アクチュエータ部材が前記第1流体ポンプのみを起動させて体腔から流体を抜き取らせる、第5モードを有する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記第1および前記第2ポンプのうちの少なくとも1つは蠕動ポンプである、請求項3または4に記載の装置。
【請求項12】
前記第1ポンプは内部に負圧を有する容器であり、好ましくは前記第2ポンプは変形可能な袋である、請求項3または4に記載の装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の装置と、体腔内に導入するように適応されたチューブ組立体とを含む挿管システム。
【請求項14】
体腔に流体を灌注するための手持ち式の装置であって、装置は、連結されたプランジャを有する2つの手持ち式の手動操作型シリンジおよび別個の吐出ノズルを含み、第1シリンジの第1プランジャを予め定められた移動距離以上に押し込むと、第2シリンジの第2プランジャが引き戻され、前記第1プランジャにおいて前記予め定められた移動距離未満押し込むと、前記第2プランジャの移動は起動されない、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2010年6月29日に出願した米国特許出願第61/359404号及び2010年10月25日に出願した米国特許出願第61/406201号(それらの出願はともに参照として本明細書中に援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、その一部の実施形態では、体腔の灌注排出を行なうための手持ち式で任意選択的に手動操作型の装置に関し、特に、挿管対象被験者の声門下領域から分泌物を除去するために使用することのできる手動操作ポンプ機構に関するが、それに限定されない。
【背景技術】
【0003】
挿管は、被験者の気管を通って第2および第4胸椎間の位置の前方、気管竜骨の上の位置で終端する、気管内チューブ(ETT)または気管切開チューブのようなチューブの配置を含む。
【0004】
気管内挿管は、正常な呼吸が支持されないときに被験者の肺を機械的に換気するために、または外科的介入中に麻酔ガスを投与するために使用される。
【0005】
気管開口術は、頚部気管の間の位置の前方に外科的気道を形成する手術法である。結果的に得られたストーマは、気道として、または気管切開チューブを挿入するための部位として、独立して働くことができる。このチューブは、人が鼻または口を使用することなく呼吸すること、または入院時にまたは在宅介護環境で機械的に人工呼吸することを可能にする。
【0006】
機械的人工呼吸を達成するのに、かつチューブを通過したガスの漏出を防止するのに充分な空気圧を形成するために、チューブは例えば膨張可能なカフを用いて気管に封止される。
【0007】
膨張可能なカフは気管の壁に係合するように膨張され、それによって気管を封止し、気管チューブを介して導入されるガスがチューブの周りに単純に漏出することを防止する。膨張可能なカフの使用は、ETTの操作性にとって重要である一方、合併症の一因にもなり得る。
【0008】
挿管された患者は、咽頭蓋を迂回する消化内容物で汚染された貯留分泌物によって誘発される肺の感染症の結果、肺炎を発症することがあり得る。これらのリスクを克服するために、そのような分泌物の単一管腔吸引または二重管腔灌注および吸引を可能にする気管内チューブおよび気管切開チューブが開発されてきた。単一管腔吸引チューブは、吸引がしばしば気管粘膜に直接吸引を作用させ、それが次いで粘膜の損傷を引き起こすことがあるという点で、限界がある。二重管腔チューブは、分泌物の排除を可能にする点では非常に優れているが、複雑かつ高価な灌注ポンプの使用を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一部の実施形態の態様では、体腔に流体を灌注するための装置を提供する。本発明の種々の例示的実施形態において、装置は手持ち式の装置である。装置は、第1体積の流体を体腔に吐出し、かつ第2体積の流体を体腔に吐出しながら同時に少なくとも第2体積の流体を体腔から抜き取るように構成されたポンプ機構を含む。ポンプ機構は任意選択的に、かつ好ましくは、手動操作型ポンプ機構である。
【0010】
本発明の一部の実施形態では、ポンプ機構は、第1体積流量で体腔に流体を吐出しかつ同時に第2体積流量で体腔から流体を抜き取るように構成され、第1および第2体積流量の間には直線関係が存在する。
【0011】
本発明の一部の実施形態では、機構は、各々が体腔と流体連通するように構成された第1ポンプおよび第2ポンプを含み、第1ポンプおよび第2ポンプは、第2体積の流体を体腔に吐出すべく第2ポンプが作動すると、少なくとも第2体積の流体を体腔から抜き取るべく第1ポンプが起動するように、作動可能に連結される。
【0012】
本発明の一部の実施形態では、機構は、各々が体腔と流体連通するように構成された第1ポンプおよび第2ポンプを含み、第1ポンプおよび第2ポンプは、少なくとも第2体積の流体を体腔から抜き取るべく第1ポンプが作動すると、第2体積の流体を体腔内に吐出すべく第2ポンプが起動するように、作動可能に連結される。
【0013】
本発明の一部の実施形態では、第1および第2ポンプはそれぞれ第1および第2ピストンポンプであり、第1ポンプの第1ピストンは第2ポンプの第2ピストンと作動可能に連結される。
【0014】
本発明の一部の実施形態では、第1ピストンおよび第2ピストンは、事前設定された移動範囲での第1ピストンおよび第2ピストンの独立した移動、ならびに事前設定された移動範囲を超える第1ピストンおよび第2ピストンの連結移動を可能にするように連結される。
【0015】
本発明の一部の実施形態では、事前設定された移動範囲内の第1ピストンの移動により第1体積の流体が体腔に吐出され、さらに、事前設定された移動範囲を超える第2ピストンの移動により第2体積の流体が吐出され、かつ少なくとも第2体積の流体を抜き取るべく第1ピストンが作動する。
【0016】
本発明の一部の実施形態では、ピストンポンプは、手動操作可能なプランジャを有するシリンジである。
【0017】
本発明の一部の実施形態では、ピストンポンプは、第1ピストンポンプの抜取り方向が第2ピストンポンプの噴出方向と逆になるように、互いに平行に整列される。
【0018】
本発明の一部の実施形態では、ピストンポンプは、第1ピストンポンプの抜取り方向が第2ピストンポンプの噴出方向と平行になるように、互いに平行に整列される。
【0019】
本発明の一部の実施形態では、装置は、両方のポンプが不作動状態である第1モードと、アクチュエータ部材が第1ポンプを起動させて初期体積の流体を装置から噴出させる第2モードとを有する、アクチュエータ部材を含む。
【0020】
本発明の一部の実施形態では、アクチュエータ部材はさらに、アクチュエータ部材が第2ポンプを起動させてさらなる初期体積の流体を装置から噴出させる第3モードを有する。
【0021】
本発明の一部の実施形態では、アクチュエータ部材はさらに、アクチュエータ部材が同時に、第2ポンプを起動させて流体を体腔内に吐出させ、かつ第1流体ポンプを起動させて体腔から流体を抜き取らせる、第4モードを有する。
【0022】
本発明の一部の実施形態では、アクチュエータ部材はさらに、アクチュエータ部材が第1流体ポンプのみを起動させて体腔から流体を抜き取らせる、第5モードを有する。
【0023】
本発明の一部の実施形態では、アクチュエータ部材は機械的部材である。
【0024】
本発明の一部の実施形態では、第1および第2ポンプのうちの少なくとも1つは蠕動ポンプである。
【0025】
本発明の一部の実施形態では、第1ポンプは内部に負圧を有する容器である。
【0026】
本発明の一部の実施形態では、第2ポンプは変形可能な袋である。
【0027】
本発明の一部の実施形態では、装置は圧力測定装置を含む。
【0028】
本発明の一部の実施形態では、ポンプ機構はその中にバイオマーカを含む。
【0029】
本発明の一部の実施形態の態様では、請求項1ないし20のいずれかに記載の装置と、体腔内に導入するように適応されたチューブ組立体とを含む挿管システムを提供する。
【0030】
本発明の一部の実施形態の態様では、体腔に流体を灌注する方法を提供する。方法は、(a)第1体積の流体を体腔に吐出するステップと、(b)第2体積の流体を吐出し、かつ同時に少なくとも第2体積の流体を体腔から抜き取るステップとを含む。本発明の種々の例示的実施形態において、第1および第2体積は手動で吐出される。
【0031】
本発明の一部の実施形態では、方法は、各々が体腔と流体連通するように構成された第1ポンプおよび第2ポンプを含む装置であって、第2体積の流体を体腔内に吐出すべく第2ポンプが作動すると、少なくとも第2体積の流体を体腔から抜き取るべく第1ポンプが起動するように、第1ポンプおよび第2ポンプが作動可能に連結された装置によって達成される。
【0032】
本発明の一部の実施形態では、方法は、各々が体腔と流体連通するように構成された第1ポンプおよび第2ポンプを含む装置であって、少なくとも第2体積の流体を体腔から抜き取るべく第1ポンプが作動すると、第2体積の流体を体腔内に吐出すべく第2ポンプが起動するように、第1ポンプおよび第2ポンプが作動可能に連結された装置によって達成される。
【0033】
本発明の一部の実施形態では、(a)は、第1体積の流体を体腔に吐出するように第2ポンプを作動させることによって達成される。
【0034】
本発明の一部の実施形態では、(b)は、第2体積の流体を体腔に吐出するように第1ポンプを手動で作動させ、それによって体腔から流体を抜き取るように第2ポンプを作動させることによって達成される。
【0035】
本発明の一部の実施形態では、装置は、第1ポンプと流体連通する第1管路および第2ポンプと流体連通する別個の第2管路を有するチューブを介して、体腔に接続され、かつ方法は、流体を第2管路内に吐出するように第2ポンプを作動させて、第2管路を少なくとも充填させるステップと、第1管路に流体を吐出するように第1ポンプを作動させて、第1管路を少なくとも充填させるステップと、同時に、第1管路から流体を抜き取るように第1ポンプを作動させ、かつ第2管路内に流体を吐出するように第2ポンプを作動させるステップとを含む。
【0036】
本発明の一部の実施形態では、第2体積の流体の手動吐出は第1体積流量で行なわれ、少なくとも第2体積の流体の同時抜取りは第2体積流量で行なわれ、第1および第2体積流量の間には直線関係が存在する。
【0037】
本発明の一部の実施形態では、方法は、(b)の後に、流体を体腔内に吐出することなく体腔から流体を抜き取るステップを含む。
【0038】
本発明の一部の実施形態では、体腔は気管である。本発明の一部の実施形態では、方法は気管開口術挿管中に実行される。本発明の一部の実施形態では、方法は経口気管内挿管中に実行される。本発明の一部の実施形態では、方法は、灌注装置を挿管装置に接続するステップを含み、挿管装置は、被験者の気管内に挿入するように適応されかつ主管腔を画定する可撓性管状体と、管状体に関連しかつ患者の気管内の位置に設置されるように構成された膨張可能なカフとを含み、壁には、少なくとも(i)壁内で互いに側方に配列されたそれぞれの開口をカフの上に持つ2つの吸引管腔、(ii)カフに開口を持つカフ膨張管腔、および(iii)カフの上に開口を持つ灌注管腔が組み込まれる。
【0039】
本発明の一部の実施形態では、体腔は外耳道である。
【0040】
本発明の一部の実施形態では、体腔は腸である。
【0041】
本発明の一部の実施形態の態様では、体腔に流体を灌注するための装置を提供する。装置は、連結されたプランジャを有する2つの手動操作型シリンジを含み、第1シリンジの第1プランジャを予め定められた移動距離以上に押し込むと、第2シリンジの第2プランジャが引き戻される。
【0042】
本発明の一部の実施形態では、2つの手動操作型シリンジは体積および/またはプランジャ行程長が異なる。
【0043】
本発明の一部の実施形態の態様では、キットを提供する。キットは本書に記載する灌注装置と挿管装置とを含み、挿管装置は、被験者の気管内に導入するように適応されかつ主管腔を画定する可撓性管状体と、管状体に関連しかつ患者の気管内の位置に設置されるように構成された膨張可能なカフとを含み、壁には少なくとも、(i)壁内で互いに側方に配列されたそれぞれの開口をカフの上に持つ2つの吸引管腔、(ii)カフに開口を持つカフ膨張管腔、および(iii)カフの上に開口を持つ灌注管腔が組み込まれる。
【0044】
本発明の一部の実施形態では、壁は、管状体の長手軸線の両側に背側部分および腹側部分を有し、吸引管腔の開口は両方とも背側部分に設置される。好ましくは、吸引管腔の開口は長手軸線に対し垂直な断面の中心に対してαより小さい方位角だけ離れ、ここでアルファは100°未満、または90°未満、または80°未満、または70°未満、または60°未満、または50°未満、または40°未満、または30°未満、または20°未満である。本発明の一部の実施形態では、灌注管腔の開口は腹側部分に設置される。本発明の一部の実施形態では、排出管腔の開口は、吸引口を拡大するようにサイディアリアルにダクトを持つ開口を有する背側部分に設置される。
【0045】
本発明の一部の実施形態では、吸引管腔は管状体の外部の単一導管に統合される。
【0046】
本発明の一部の実施形態では、管状体は経口気管内挿管用に適応される。本発明の一部の実施形態では、管状体は気管開口術挿管用に適応される。
【0047】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
本明細書では本発明のいくつかの実施形態を単に例示し添付の図面及び画像を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の実施形態を例示考察することだけを目的としていることを強調するものである。この点について、図面について行う説明によって、本発明の実施形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0049】
図1A-1B】図1A−1Bは、本発明の一部の実施形態に係る装置の操作の段階の略図である。
図1C-1D】図1C−1Dは、本発明の一部の実施形態に係る装置の操作の段階の略図である。
【0050】
図2A-2B】図2A−2Bは、装置が気管内チューブに接続される、実施形態の装置の操作の段階を示す略図である。
図2C-2D】図2C−2Dは、装置が気管内チューブに接続される、実施形態の装置の操作の段階を示す略図である。
図2E-2F】図2Eは、装置が気管内チューブに接続される、実施形態の装置の操作の段階を示す略図であり、図2Fは、装置が気管切開チューブに接続される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
【0051】
図2G-2H】図2G−2Hは、装置が気管切開チューブに接続される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
図2I-2J】図2I−2Jは、装置が気管切開チューブに接続される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
【0052】
図3A-3C】図3A−3Cは、本発明の一部の実施形態に係る、特に異なるバレルおよびプランジャの直径を示す、装置の操作の段階の略図である。
【0053】
図4A-4B】図4A−4Bは、本装置が気管内チューブに取り付けられ、かつ一方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
図4C-4D】図4C−4Dは、本装置が気管内チューブに取り付けられ、かつ一方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
図4E-4F】図4Eは、装置が気管内チューブに取り付けられ、かつ一方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図であり、図4Fは、本装置が気管切開チューブに取り付けられ、かつ一方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
【0054】
図4G-4H】図4G−4Hは、本装置が気管切開チューブに取り付けられ、かつ一方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
図4I-4J】図4I−4Jは、本装置が気管切開チューブに取り付けられ、かつ一方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
【0055】
図5A-5B】図5A−5Bは、本装置が気管内チューブに取り付けられ、かつ双方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
図5C-5D】図5C−5Dは、本装置が気管内チューブに取り付けられ、かつ双方向ばねが使用される、実施形態の装置の操作の段階の略図である。
【0056】
図5E-5F】図5E−5Fは、本装置が気管切開チューブに取り付けられ、かつ双方向ばねが使用される、実施形態の操作の段階の略図である。
図5G-5H】図5G−5Hは、本装置が気管切開チューブに取り付けられ、かつ双方向ばねが使用される、実施形態の操作の段階の略図である。
【0057】
図6A-6D】図6A−6Dは、本発明の一部の実施形態に係るポンプ機構の略図である。
図6E-6G】図6E−6Gは、本発明の一部の実施形態に係るポンプ機構の略図である。
【0058】
図7A-7E】図7A−7Eは、アクチュエータ部材を含む、本発明の実施形態の装置の略図である。
【0059】
図8A-8B】図8A−8Bは、アクチュエータ部材およびチューブを含む装置を含む、システムの略図である。
【0060】
図9A-9B】図9A−9Bは、圧力測定装置を含む、本発明の実施形態の装置の略図である。
【0061】
図10図10は、本発明の一部の実施形態に係る2つの装置を含む、パックの略図である。
【0062】
図11A-11B】図11A−11Bは、本発明の一部の実施形態に従って実行される実験で使用される、装置および気管内チューブの略図および画像である。
【0063】
図12図12は、分泌物の排出前のヤギの気管と本発明の実施形態の気管内チューブの蛍光透視画像である。
【0064】
図13図13は、本発明の実施形態のプロトタイプ装置を用いた分泌物の排出後のヤギの気管と気管内チューブの蛍光透視画像である。
【0065】
図14図14は、分泌物の排出前のヤギの気管と従来のチューブの蛍光透視画像である。
【0066】
図15図15は、洗浄に続いて吸引することによる分泌物の排出後のヤギの気管と従来のチューブの蛍光透視画像である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明は、その一部の実施形態では、体腔の灌注排出を行なうための手持ち式で任意選択的に手動操作型の装置に関し、特に、挿管対象被験者の声門下領域から分泌物を除去するために使用することのできる手動操作ポンプ機構に関するが、それに限定されない。
【0068】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示されるか、および/または図面および/または実施例において例示される構成要素および/または方法の組み立ておよび構成の細部に必ずしも限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行されることが可能である。
【0069】
本発明者らは以前に、自動ポンプ機構を用いて声門下領域からの分泌物の除去を容易にするように設計された気管内チューブを記載した(参照によって本書に援用するWO2007/066332を参照されたい)。そのような気管内チューブ構成は、分泌物の肺内への移動に関連する合併症を軽減するのに極めて有効であるが、精巧なポンプ機構の操作性の要件は限定されることがあり得る。
【0070】
これらの要件を克服するために、本発明者らは、以下のうちの少なくとも1つを特徴とする手動操作型ポンプ機構を考案した。
(i)単純設計−製造コストおよび使用コストを低減する。
(ii)単純かつ容易な操作−設定および操作が単純であり、医療従事者が精通している操作性を達成するように設計されている。
(iii)使い捨て−汚染のリスクを軽減し、滅菌の必要性を回避する。
(iv)灌注および灌注された体腔から排出された分泌物/デブリが明示される。
(v)時間が短縮され、かつ処分する前に装置を排出された分泌物ごと検査室に送ることによって、より頻繁な診断が行なわれる。
【0071】
したがって、本発明の一部の実施形態の態様では、体腔の灌注および排出を行なうための装置を提供する。
【0072】
本書で使用する場合、用語「灌注」とは、分泌物、デブリ等を排出する目的で体腔に流体を流入出させることを指す。
【0073】
本書で使用する場合、「体腔」とは、組織構造内の自然発生的な空洞または人工的に形成された空洞を指す。空洞の一例として、声門の下および気管内チューブまたは気管切開チューブの膨張可能なカフの上に形成される空間がある。他の例として外耳道および腸が挙げられるが、それらに限定されない。
【0074】
装置が声門の下および膨張可能なカフの上で気管壁と気管内チューブまたは気管切開チューブとの間に画定される空間を手動で灌注および排出するように適応された発明の実施形態では、装置は声門下分泌物の手動吸引(MASS)装置と呼ばれる。
【0075】
本発明の実施形態の装置は、同時に(吸引を介して)体腔からある体積の流体を抜き取りながら、ある体積の流体を体腔に吐出することのできる手動操作型ポンプ機構を含む。そのような吐出は典型的には、各々の一端が本発明の実施形態のポンプ機構に別々に接続された2つの流体管路(吐出および吸引)を介して達成される。各流体管路の反対側の端は体腔内に配置されるか、あるいは体腔と流体連通している装置(例えば、図2A図2Eもしくは図4A図4Eもしくは図5A図5Dに示すような、あるいはWO2007/066332に記載されているような気管内チューブ、または図2F図2Jもしくは図4F図4Jもしくは図5E図5Hに示すような気管切開チューブ)に接続される。
【0076】
シリンジのような手動操作型ポンプ機構は、製造が比較的安価であり、かつ操作が容易である。しかし、そのような機構は典型的に、灌注処置の各段階(ポンプによる流体の汲上げおよび流体の汲出し)にポンプピストン(シリンジプランジャ)の別々の手動操作が要求されるという点で限界がある。連続作動(例えば蠕動)が可能な機械的ポンプは手動操作して空洞内に流体を循環させることができるが、操作が難しくなることがあり得、また滅菌条件下で低量の流体の周期的な急速灌注を必要とする医療用途における使用にはあまり適さない。
【0077】
本発明の実施形態の手動操作型ポンプ機構は、ある体積の流体を空洞内に吐出しながら、同時にまたは逐次的に(もしくは準逐次的に)単一の操作段階でその体積を抜き取るように構成され、こうして体腔の急速かつ容易な灌注を可能にし、かつ単純シリンジのような先行技術の装置の限界を回避する。
【0078】
ポンプ機構が流体を体腔に吐出し、かつ同時に体腔から流体を抜き取る操作段階中に、流体が吐出される体積流量Q1と流体が抜き取られる体積流量Q2との間には常に直線関係、例えばQ2=Q1、またはQ2=aQ1、またはQ2=aQ1+bが存在する。ここでaおよびbは定数である。本発明の一部の実施形態では、b=0である。
【0079】
本発明の実施形態の手動操作型ポンプ機構は、任意選択的に、かつ好ましくは、同時に流体を抜き取ることなく第1体積の流体が最初に空洞内に吐出されるプライミング操作を可能にするようにも構成される。そのようなプライミング段階は、ポンプ機構と体腔との間の流体連続体を確立しかつ吸引管路内の圧縮性ガス空隙を防止するために、吸引管路を充填させ、かつ任意選択的に体腔を部分的に充填させる。
【0080】
空気が充填された吸引管路は、吸引口の組織閉塞のため圧潰することがあり得るので、この特徴は特に重要である。吸引圧力下で、吸引口に吸い込まれる組織は吸引管路を圧潰させることがあり得る。吸引管路が生理食塩水(空気とは異なり圧縮不能である)のような流体で満たされると、ポンプ機構と体腔内の流体との間に連続体が形成され、それによって吸引管路の圧潰および吸引管路の閉塞が防止される。
【0081】
流体管路および特に流体吸引管路のそのような「プライミング」を確立するために、本発明の実施形態の機構は2段階の操作を可能にし、第1段階(プライミング)では灌注機構を介して(同時流体抜取り無く)第1体積の流体が体腔に吐出され、続いて第2操作段階(流体を空洞内に吐出する第2流体管路を用いる灌注)では、第2体積(典型的にはより大きい体積)の流体の吐出および同時抜取りが達成される。第2(吐出)管路も、吐出および同時抜取り前に、流体をプライミングすることが好ましい。
【0082】
本発明の実施形態の装置の幾つかの構成は、そのような機能性を可能にするために使用することができ、本発明の装置の1つの好適な構成は、単一手動操作を介して起動可能である逆向きに作動可能なピストンを有する2つの作動可能に連結されたピストンポンプから構築されたポンプ機構を含む。
【0083】
そのような連結作動は、第1ピストンポンプから体腔内に流体を吐出しながら、作動可能に連結された第2ピストンポンプを介して、同時に体腔から流体を抜き取るために使用することができる。
【0084】
幾つかのピストンポンプ構成は、そのような操作性を達成するために使用することができる。医療用途に特に有用な1つの構成は、作動可能に連結されたプランジャを有するデュアルシリンジ構成である。
【0085】
2つの相互接続されたシリンジを使用する装置構成は、製造が容易かつ安価であり、1回使用後に容易に処分することができ(それによって医療用途に役立ち)、かつ治療医に慣れ親しんだ操作性をもたらす。
【0086】
図1A図1Dは、本書で装置10と呼ぶデュアルシリンジ装置の1つの実施形態を示す。
【0087】
装置10は2つのポンプ12、例えば図1A図1Dにシリンジとして示すピストンポンプを含む。各シリンジは、シール(図示せず)およびバックストップ34を有するプランジャ18を収容するバレル(1つのシリンジに示すノズル14を持つ)から構成される。シリンジ12は、当業界で周知の材料および方法を用いて作製される。
【0088】
一方または両方のプランジャ18は、プランジャ18が押し込まれた後、プランジャのバレルからの引出しを容易にするために、ばね要素を含むことができる。ばね付きプランジャはプランジャの起動に対する制御度の増大を可能にし、したがって、流体の吐出を慎重に制御しなければならない場合に有利になり得る。ばね付勢プランジャ構成は当業者に周知である。
【0089】
シリンジ12は、取外し可能または取外し不能な取付け機構を用いて接続することができる。図1A図1Dは、シリンジ12が筐体22に取り付けられた装置10の構成を示す。筐体22は、可変サイズ、体積、およびプランジャ行程長のシリンジを収容するように作製することができる。図1A図1Dに示す構成は、非同一体積(非対称構成)のシリンジ12を含むが、シリンジ26および32が同一である対称構成を装置10で使用することができる。非対称構成では、吸引(32)に使用されるシリンジ12は、シリンジ26の吐出体積より大きいプランジャ18の1行程当たりの吸引体積を発生するように構成することができる(以下でさらに記載する図3A図3Cの構成を参照されたい)。これは、シリンジ26から吐出された灌注流体のみならず、空洞に含まれる任意の流体(例えば分泌物等)をも吸引することを可能にする。
【0090】
各シリンジの体積のみならずプランジャ18の行程長も、灌注手順に応じて選択される。例えば声門下灌注の場合、各シリンジは、約5〜10cmのプランジャ行程長を介して吐出可能な約2〜10mlを含むことができる。他の量も本発明の範囲から除外されない。図1A図1Dは「上下」構成のシリンジ12を示すが、図2A図8Bに示す構成のような他の配列も予想される。
【0091】
本書で上述したように、本発明の実施形態の装置10は、単一手動操作を介して流体の吐出および抜取りを達成するように構成される。そのような機能性を可能にするために、シリンジ12のプランジャ18は、(シリンジバレルに対して)反対方向に移動するように、要素23を介して作動可能に連結される。したがって、シリンジ26のプランジャ24がバレル28内に押し込まれてそこに含まれる流体を(ノズル14−図示せず−を介して)効果的に吐出すると、要素23はシリンジ32のプランジャ30をバレル32から引き出し、ノズル14を介して流体を抜き出すことのできる吸引力を発生させる(図1C図1D)。図1A図1Dに示す要素23は、シリンジ12のエンドストップ34間に配置されかつ筐体22の溝(要素23が前後に摺動することを可能にする)内に設置された細長いフレームである。要素23は、変化する機能性を達成するために交換可能とすることができる。
【0092】
要素23を介してプランジャ18を作動可能に接続することにより単一段階の灌注が可能になるが、プランジャ18の独立移動ができなくなり、したがって吸引管路をプライミングするためにシリンジ26または32を使用することが妨げられる。
【0093】
そのような機能性を可能にするために、いくつかの手法を使用することができる。例えば、シリンジ24および/または30を筐体22から取り外して、排出前に吸引管路および/または洗浄管路のプライミングのために使用することができ、あるいは事前設定された移動範囲でのプランジャ18の幾らかの非連結移動が可能になり、事前設定された移動範囲を超えるとプランジャ18の移動が連結されるように、要素23を構成することができる。
【0094】
後者の構成を図1A図1D図2A図2J、および図3A図3Cに示す。図1Aで分かるように、シリンジ32のプランジャ30は、バックストップ34が要素23に接触することなく、事前設定された距離を自由に移動することができる。プランジャ30のそのような自由移動は、プランジャ24の移動を起動することなく、事前設定された体積の流体を、ノズル14を介して吐出するためにシリンジ32を使用することを可能にする。これは、上述した吸引管路のプライミングを可能にする。ひとたびプランジャ30が押し込まれて、バックストップ34がリミタ36と係合し、かつシリンジ32からの流体の吐出が完了した後(図1B)、シリンジ26のプランジャ24が作動すると、要素23はシリンジ32のバックストップ34の方向に、要素23がシリンジ30のバックストップ34に接触するまで摺動し(図1C)、この段階は、流体吐出管路のプライミングのため、予め定められた量の流体を吐出するために(過剰流体は体腔内に吐出される)、非連結移動をも含むことができる。いずれの場合も、ひとたび要素23がシリンジ32のバックストップ34に接触すると、プランジャ24の内向きの移動によりプランジャ30がシリンジ32から押し出され(図1D)、それによってシリンジ26からの流体の吐出およびシリンジ32内の吸引が同時に発生する。
【0095】
したがって、プランジャ24を押し込む単一の操作を使用して、任意選択的に流体吐出管路をプライミングし、かつその後で、2つの別個の吐出ノズルを介して吐出および吸引を同時に行なうことができる。
【0096】
図1A図1Dに示す構成では、要素23は各プランジャ18に幾らかの独立移動をもたらすように設計されているが、プランジャ18の独立移動を可能にしない要素23、またはより独立した移動を可能にする要素を使用することもできることは理解されるであろう。
【0097】
図1A図8Bに示す構成は、2つの逆向きに装着されたシリンジを含み(両端を突き合わせるか上下配置かに関わらず)、一方のシリンジの抜取り方向は他方のシリンジの噴出方向と平行であるが、これは必ずしもそうする必要はなく、実施形態によっては、シリンジは同一方向に装着され(すなわち装置10の同じ側にノズルがある)、一方のシリンジの抜取り方向は他方のシリンジの噴出方向と逆になる。そのような構成は、1つのプランジャ18の移動を別のプランジャ18の逆向きの移動に変換するように構成された要素23を使用することができる。例えば要素23は、その両端をプランジャ18および蝶着された要素の真ん中に取り付けられ、それによって2つのプランジャ間のシーソーとしてまたは2つの対向する要素23を接続するはめば歯車として機能する、ビームとすることができる。
【0098】
本発明の実施形態の装置10は、膿を取り除きながら、形成された空隙に消毒薬または他の治療流体を充填することによって周囲組織の収縮を防止することによって、膿で満たされた組織空隙のような体腔に灌注するために使用することができる。本発明の装置は、泌尿器のような管内の障害物を除去するために使用することもできる。管の両側を吐出管路および流体管路に接続し、かつ生理食塩水または治療流体で同時に洗浄かつ吸引して、障害物を除去しかつ吸い出すことができる。
【0099】
自動灌注システムおよびポンプは、大きくかつ急速な吸引圧力のため空洞の圧潰を引き起こすことがあるという点で限界がある。灌注および吸引の手動制御をもたらすことにより、本発明の実施形態は操作者が灌注および吸引を慎重に制御し、したがって空洞の完全性を損なうことなく、あるいはそのような空洞を包囲しかつそれを画定する組織を損傷することなく、空洞から蓄積された流体およびデブリを除去することを可能にする。
【0100】
本発明の装置の1つの好適な用途は、経口気管内挿管中または気管開口術挿管中のいずれかの挿管患者の声門下領域の灌注である。そのような場合、本発明の装置は、少なくとも2つの別個の流体管路を有する気管内チューブまたは気管切開チューブをも含むシステムの一部を形成することが好ましい。適切な気管内チューブの一例は、参照によって本書に援用するWO2007/066332に記載されている。
【0101】
図2A図2Jは、流体吐出管路52および吸引管路54を介してチューブ60に接続された装置10を含む挿管システム50を示す。チューブ60は、図2A図2Eに概略的に示す気管内チューブ、または図2F図2Jに概略的に示す気管切開チューブとすることができる。チューブ60はカフ62、流体吸引口66、および流体吐出口68を含む。口66および68はそれぞれ外部吸引チューブ54および外部吐出チューブ52と流体連通する。
【0102】
図2A図2Jの装置10は、要素23を介してプランジャ18を相互接続した状態で背中合わせに接続されたシリンジ12を含む。
【0103】
この場合の要素23は、予め定められた長さの折畳み構成に圧縮可能でありあるいは予め定められた長さの直線状構成に伸長される、ストラットである。要素23のこの長さの変化が、各プランジャ18に事前設定された独立移動範囲をもたらす。
【0104】
図2Aおよび図2Fは初期状態のシステム50を示す。シリンジ32には約4mlの洗浄液(生理食塩水または/および希釈液または/および消毒液)が充填される一方、シリンジ26には約12mlの同じ溶液が充填される。他の量も本発明の範囲から除外されない。要素23は圧縮状態で示され、したがってプランジャ24および30の独立移動が可能である。
【0105】
図2B図2Cおよび図2G図2Hは、プランジャ30の起動を介する吸引管路54のプライミングを示す(図2Bおよび図2Gの矢印)。過剰な洗浄液は声門下領域70に充填される。図2Cおよび図2Hは、プランジャ24の起動を介する洗浄管路52のプライミングを示す。過剰な洗浄液は声門下領域70に充填される。ひとたびプランジャ24および30が完全に起動されると、要素23はまっすぐになる(図2Cおよび図2H)。次にプランジャ24が起動されて(図2Cおよび図2Hの矢印)シリンジ26から洗浄液を吐出させ、かつ同時にプランジャ30を引き出させて(図2Dおよび図2I)、シリンジ32の吸引を発生させる。同時吐出および吸引により声門下領域70が灌注され、この空洞に蓄積された分泌物がシリンジ32内に取り出される(図2Eおよび図2J)。次いで装置10は管路52および54から切り離すことができ、次いで管路に蓋が被せられる。次いで装置10は処分するか、あるいは診断のために検査室に送り、かつ追加の灌注/排出が必要な場合には、新しい装置10に取り替えることができる。
【0106】
図2A図2Jに描かれた装置10は、同時吐出−吸引段階で吐出される体積と同じ体積の流体を吸引する対称シリンジ構成を使用する。
【0107】
図3A図3Cに示す構成は、バレルおよびプランジャの直径が異なるシリンジ12を使用する。シリンジ32は、シリンジ26のバレル径より大きいバレル径(およびしたがって行程長当たりの体積がより大きいプランジャ18)を有する。
【0108】
そのような非対称シリンジ構成は、装置10のシリンジ32が同時吐出−吸引段階中に装置10のシリンジ26によって吐出されるより大量の流体を吸引することを可能にする。(図3C)。これは、装置10が空洞、特に過剰な体積の自然分泌物を含む空洞(例えば声門下腔)から流体をより効果的に除去することを可能にする。
【0109】
図3A〜Cの装置10は、舌片と溝の係止構造を介してシリンジ32の独立した移動を可能にする構成の要素23を組み込んでいる。要素23のこの構成は、溝27内の舌片25の制限された移動を可能にする。図3A図3Cから分かるように、ひとたびシリンジ32が完全に押し込まれると、舌片25は溝27から係止位置に移動し(図3B)、シリンジ26のプランジャ24が押し込まれてシリンジ32のプランジャ30を引き出し、シリンジ32に吸引力が生じる。この構成では、プランジャ30が押し込まれるプライミングの段階でばねが付勢され(例えば圧縮され)、付勢されたばねにより要素23が係止されるように、プランジャ30がばねを含むように変形することができることは理解されるであろう。要素23を解放すると、ばねが解放されてプランジャ30が自動的に引き出され、それによってプランジャ24が自動的に押し込まれる。
【0110】
図4A図4Jは、係止が解放されたときに伸張するばねを含む、本発明の装置の実施形態の操作段階を示す。図4A図4Eは、装置が気管内チューブに接続されたシステムを示し、図4F図4Jは、装置が気管切開チューブに接続されたシステムを示す。ばねは吸引管路の自動的作動を容易にし、操作者はレバーを一方向に端まで押すだけである。ばねは一方向または双方向とすることができる。図4A図4Jの図では、一方向ばねが使用されている。
【0111】
図4Aおよび図4Fは初期状態のシステム50を示す。上で詳述したように、シリンジには例えば4mlの洗浄液が充填され、他のシリンジには例えば12mlの同じ溶液が充填される。他の量も本発明の範囲から除外されない。図4B図4Cおよび図4G図4Hは、上で詳述した吸引管路(図4Bおよび図4G)および洗浄管路(図4Cおよび図4H)のプライミングを示す。図4Dおよび図4Iは同時の洗浄(洗浄管路を介する)および吸引(吸引管路を介する)を示す。同時に起こる吐出および吸引により、声門下領域が灌注され、かつこの空洞に蓄積された分泌物が除去される(図4Eおよび図4J)。
【0112】
図5A図5Hは、係止が解放されたときに伸張する双方向ばねが装置に含まれる実施形態の装置の操作の段階を示す。図5A図5Dは、装置が気管内チューブに接続されたシステムを示し、図5E図5Hは、装置が気管切開チューブに接続されたシステムを含む。
【0113】
図5A図5Bおよび図5E図5Fは初期状態のシステム50を示す。上で詳述した通り、シリンジには例えば4mlの洗浄液が充填され、他のシリンジには例えば12mlの同じ溶液が充填される。他の量も本発明の範囲から除外されない。図5Cおよび図5Gは、双方向ばねによる吸引管路および洗浄管路の略同時プライミングを示し、図5Dおよび図5Hは、同時の洗浄(洗浄管路を介する)および吸引(吸引管路を介する)を示す。
【0114】
上述した構成は2つのシリンジ型ピストンポンプを利用して、1工程の灌注(流体吐出および同時吸引)を可能にする。本書で例示するデュアルシリンジ構成は、設計の単純さ、低コストの構造および柔軟性、ならびに使い易さから好適である。
【0115】
しかし、同じ機能性を達成するために、ピストン型ポンプを利用する他の構成も利用できることは理解されるであろう。例えば、上述の通り、(バレル内に)逆方向または平行方向のクランク、カム、または、はめば歯車駆動ピストンを含む構成を使用して、同時に起きる吐出および吸引を達成することができる。
【0116】
本発明の一部の実施形態に適した幾つかの構成の代表的実施例を図6A図6Gに示す。
【0117】
図6Aおよび図6Bは、装置10がシリンジ62と、任意選択的にかつ好ましくは袋である容器64とを含む、本発明の実施形態の装置10の略図である。シリンジ62は主として体腔から流体を抜き取るために働くことができ、容器64は流体を体腔内に吐出するために働くことができる。したがって、容器64には流体を充填することが好ましい。容器64は、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、コポリエチレンテレフタレート(CoPET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のような任意の材料から作成することのできる変形可能な袋、例えば使い捨て袋であることが好ましい。
【0118】
次に、図6Aおよび図6Bの実施形態について、図6Eおよび図6Fを参照しながら説明する。
【0119】
図6Eは、図6Aに示す実施形態の断面図である。袋64はシリンジ62の外に存在するが、可動傾斜要素65を有する区画内で、シリンジ62と共に筐体22内に被包される。シリンジ62のプランジャ63は、要素65と係合する延長体67を含むか、あるいはそれに接続される。プランジャ63が引っ張られると、シリンジ62は体腔から流体を抜き取る一方、同時に延長体67が傾斜要素65上を摺動して、袋64に圧力を加えさせ、それによってシリンジ62による液体の抜取りと同時に袋64から流体を吐出させる。
【0120】
図6Fは、図6Bに示す実施形態の断面図である。プランジャ63が押込み位置にある間、袋64はシリンジ62のバレル71内に配置される。袋64は、プランジャ63の先端69が袋64とバレル71のノズル73との間にくるように配置される。プランジャ63が引っ張られると、シリンジ62はノズル73を介して体腔から流体を抜き取る一方、袋64を捩じり、それによって、ノズル73の横に、または図6Fに示すようにノズル73に対して外周に、配置することのできる第2ノズル75を介して、流体を袋64から吐出する。
【0121】
図6Cは、装置10が2つのシリンジ62および66を含み、シリンジ66が従来のシリンジであり、シリンジ62が特別に設計されたシリンジである、本発明の実施形態の装置10の略図である。この実施形態を、図6Cの実施形態の断面図である図6Gによりよく示す。
【0122】
シリンジ62には流体が充填される(図6Gには図示せず)。シリンジ62のプランジャ63には、シリンジ66のプランジャ79と係合する延長要素77が取り付けられるか、あるいは形成される。プランジャ79が引っ張られると、シリンジ66が体腔から流体を抜き取りながら、同時に要素77がプランジャ63をシリンジ62の噴出方向に移動させ、それによって流体がシリンジ62から吐出される。
【0123】
図6Dは、装置10の一方または両方のポンプに使用することのできる蠕動ポンプ68の略図である。蠕動ポンプは、それ自体公知であり、流体を搬送する弾性変形可能なチューブ70の長さに沿った数箇所の逐次変形および閉塞によって波状に流体を圧送する。そのようなポンプの作動は典型的に、弾性チューブ70の一部分と弾性チューブに沿って波状変形を発生させる蠕動機構72との間の機械的相互作用を伴う。本発明の種々の例示的実施形態で、蠕動ポンプ68は手動操作される。
【0124】
また、装置がシリンジおよび真空チューブを含む実施形態も予想される。
【0125】
図7A図7Eは、装置10がアクチュエータ部材74と、筐体22内に配設された2つのピストンポンプ(シリンジ32および26として図示)とを含む、本発明の実施形態の装置10の略図である。
【0126】
アクチュエータ部材74は機械的部材であることが好ましく、例えば安全ハッチ等の形にすることができる。本発明の種々の実施形態で、部材74は、電動もしくは磁石モータまたは音響トランスデューサのような任意の他の駆動手段を使用することなく、手動で操作される。
【0127】
ポンプ26およびポンプ32は、任意選択的に、かつ好ましくは、それぞれの初期体積76および78の流体、例えば灌注液が初期充填される。典型的には体積76は5ccであり、体積78は10ccであるが、他の量も本発明の範囲から除外されない。
【0128】
部材74は、両方のポンプが不作動状態である第1モード(図7A)を有する。このモード時に、部材74は安全ハッチとして働き、装置10は偶発的な作動の危険性なく、1つの位置から他の位置に移動することができる。制限とはみなされない図7Aの代表的実施例では、第1モード時に、部材74はピストンポンプの対称軸に対して垂直な向きを取る。部材74はまた、アクチュエータ部材がポンプ32を起動させて初期体積76の流体を装置から噴出させる第2モードをも有する。このモード時に、ポンプ26の体積78には依然として流体が充填される。第1モードから第2モードへの切替えは、例えば部材74を90°回転させてピストンポンプの対称軸と略平行な向きを取ることによって行なうことができる(図7B)。回転は、部材74の先端によってポンプ32のピストンに加えられる力を発生し、それによって体積76の流体が噴射される。
【0129】
本発明の種々の例示的実施形態では、部材74はまた、部材74がポンプ26を起動させて体積78の流体の初期部分を装置から噴出させる、第3モードをも有する。典型的には、部材74の第3モード時に約2ccが噴出される。他の量も本発明の範囲から除外されない。第2モードから第3モードへの切替えは、例えば部材74を外向きに引っ張ることによって行なうことができる(矢印80を参照されたい)。アクチュエータ部材74に接続された連係部材82は、部材74からポンプ26のピストンまで延びる。ポンプ26に近接する部材82の部分の係合要素84はピストンと係合し、ピストンをポンプ26の噴出方向に押し込み、それによって体積78の流体の一部分が噴出される(図7C)。
【0130】
本発明の種々の例示的実施形態では、部材74は、部材74が同時に、ポンプ26を起動させて流体を体腔に吐出させ、かつポンプ32を起動させて体腔から流体を抜き取らせる第4モードをも有する。典型的には、体積78における全ての残りの流体(本実施例では約8cc)は部材74の第3モード時に噴出される。第3モードから第4モードへの切替えは、例えば部材74をさらに外向きに引っ張ることによって行なうことができる(図7D)。係合要素84はポンプ26のピストンを噴出方向(本実施例では方向80)に押し続ける一方、レバー機構86はポンプ32のピストンをその抜取り方向(本実施例では同じく方向80)に引っ張る。したがって、同時に流体はポンプ26に流入し、かつポンプ26から流出する。
【0131】
本発明の種々の例示的実施形態では、部材74は、部材74がポンプ32だけを起動させて体腔から流体を抜き取らせる第5モードをも有する。第4モードから第5モードへの切替えは、例えば部材74をさらに外向きに引いて(図7E)、(レバー機構86を介して)ポンプ32のピストンの抜取り方向80の運動を達成し、それにより装置内への流体の抜き取りを容易にすることによって行なうことができる。ひとたび部材74がその第4モードに入ると、ポンプ26は流体を含まないので、第4モード後に部材74をさらに引っ張ってもポンプ26に影響を及ぼさない。
【0132】
アクチュエータ部材74を含む装置10は、上述したシステム50に実現することができる。図8Aおよび図8Bは、部材74を含む装置10がチューブ60に接続された本発明の実施形態のシステム50の略図である。図8Aは、チューブ60が(経口的にまたは気管開口処置で)気管内に導入されるように適応された実施形態のシステム50を示し、図8Bは、チューブ60が外耳道に挿入されるように適応された実施形態のシステム50を示す。当業者は、本書に記載する詳細説明によって、チューブ60が他の空洞内に例えば腸に導入される実施形態用に図面をいかに調整すべきかが分かるであろう。
【0133】
次に図9Aおよび図9Bを参照すると、それらは、装置10がアナログ(図9A)またはデジタル(図9B)圧力測定装置90を含む、本発明の実施形態における装置10の略図である。装置90は例えば装置10の筐体22上に取り付けることができる。装置90は、カフの膨張圧力を決定するために、例えばチューブ60のカフ膨張管路(図示せず、図2A図2J図4A図4J図5A図5H、および図8Aの94を参照されたい)に接続することのできる入口92を含む。この実施形態は、挿管された被験者がカフ膨張圧力の指標をもたらさない人工呼吸器または麻酔器に接続されたときに、特に有用である。測定装置は、圧力センサ、例えば圧電素子またはピエゾ抵抗素子、マノメータ、例えばキャパシタンスマノメータ、水銀圧力計、流量計等を組み込んだ装置をはじめ、それらに限らず、当業界で公知の任意の種類とすることができる。
【0134】
本発明の実施形態の装置は、希望するならば、FDA承認キットのようなパックで提示することができる。パックは、例えばブリスタパックのような金属箔またはプラスチック箔を含むことができる。パックは使い捨てパックとすることができる。パックには、投与説明書を添付することができる。パックにはまた、医薬品の製造、使用、または販売を規制する政府機関によって指定された形式で、ヒトまたは動物に投与するための成分の形の当該機関による承認を反映する通知書を添付することができる。そのような通知書は、例えば処方薬に対し米国食品医薬品局から承認されたラベルまたは商品製品説明書を含むことができる。
【0135】
本発明の一部の実施形態に係るパックの代表的実施例を図10に示す。2つの装置10を持つパック100が示されている。例えば図7A図7Fに示した装置は、プログラムモードで安全ハッチを引っ張りかつ排出プランジャを引き出すように構成された外部電動ピストンに手動での起動を置き換えた、自動シリンジポンプ内に設置することができる。自動装置は、同一管腔に接続された1つ以上の装置を含むことができる。
【0136】
本発明の実施形態の装置は任意選択的に、かつ好ましくは、疾患の存在の指標を提示することのできる1種類以上の物質をその中に含む。好ましくは、単数または複数の物質は、体腔から流体を抜き取るように働くポンプに組み込まれる。物質は、疾患分泌物と接触したときに、その特性、例えば光学特性(例えば色)を変化することができる。物質は、例えば関心疾患と反応してその存在の指標を提供する官能基を含むことができる。物質はまた、細胞、タンパク質、酵素、核酸、炭水化物マーカ、細胞表面マーカ、循環抗体、分泌型抗体、細胞関連抗体、細胞内マーカ、形態学的マーカ、機能パラメータ(例えば酵素活性)、pH、サイトカインおよびケモカイン、ウィルスマーカ、細菌、真菌、原虫、線虫、ならびに寄生虫のような、しかしそれらに限らない生物学的マーカとすることができる。
【0137】
本発明の一部の実施形態では、体腔に流体を灌注するのに適した方法を提供する。一般的に、方法は、第1体積の流体を体腔に手動で吐出するステップと、第2体積の流体を手動で吐出すると同時に、少なくとも第2体積の流体を体腔から抜き取るステップとを含む。方法は、例えば上で詳述した手動操作型ポンプ機構を含む装置、例えば装置10によって達成することができる。
【0138】
本発明の種々の例示的実施形態では、方法は、体積流量Q1で流体を吐出し、かつ同時に体積流量Q2で流体を抜き取り、上で詳述した通り、Q1とQ2との間には直線関係が存在する。
【0139】
方法は任意選択的に、かつ好ましくは、装置の第1ポンプと流体連通した第1管路および装置の第2ポンプと流体連通した別個の第2管路を有するチューブを介して、体腔に接続された装置を用いて実行される。次のプロトコルを使用することが好ましいが、必ずしもそうしなくてもよい。第2ポンプを作動させて流体を第2管路に吐出させ、少なくとも第2管路を充填させる。第1ポンプを作動させて流体を第1管路に吐出させ、少なくとも第1管路を充填させる。管路を充填させた後、第1ポンプを作動させて第1管路から流体を抜き取り、かつ同時に第2ポンプを作動させて流体を第2管路内に吐出させる。その後、第2ポンプを不作動状態に維持しながら、第1ポンプを作動させて第1管路から流体を抜き取る。
【0140】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0141】
用語「例示的」は、本明細書では「例(example,instance又はillustration)として作用する」ことを意味するために使用される。「例示的」として記載されたいかなる実施形態も必ずしも他の実施形態に対して好ましいもしくは有利なものとして解釈されたりかつ/または他の実施形態からの特徴の組み入れを除外するものではない。
【0142】
用語「任意選択的」は、本明細書では、「一部の実施形態に与えられるが、他の実施形態には与えられない」ことを意味するために使用される。本発明のいかなる特定の実施形態も対立しない限り複数の「任意選択的」な特徴を含むことができる。
【0143】
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。
【0144】
用語「からなる(consisting of)」は、「含み、それらに限定される(including and limited to)」ことを意味する。
【0145】
表現「から本質的になる(consisting essentially of)」は、さらなる成分、工程および/または部分が、主張される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物、方法または構造がさらなる成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。
【0146】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0147】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0148】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0149】
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
【0150】
本明細書中上記に描かれるような、および、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
【実施例】
【0151】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0152】
本発明の一部の実施形態に従って、プロトタイプMASS装置およびFDA/CE承認気管内チューブを製造し、試験した。プロトタイプMASS装置および気管内チューブを図11A図11Bに示す。
【0153】
プロトタイプMASS装置は、上で詳述したように、プランジャが同時に作動することができるように連結された、2つの逆向きに装着されたシリンジを含むものであった。
【0154】
気管内チューブは、主管腔と、チューブの背側の主管腔の壁に埋め込まれ、カフの上に遠位開口を持つ2つの吸引管腔と、チューブの腹側の主管腔の壁に埋め込まれ、カフの上に開口を有する灌注管腔とを含むものであった。埋め込まれた吸引管腔は1つの外部管腔に統一された。チューブの断面を図11Bに示す。
【0155】
材料および方法
実験1
プロトタイプMASS装置を使用した分泌物の排出
ヤギに麻酔をかけ(ケタミンおよびイソフルラン)、気管内チューブを挿管した。密閉は、例えばEfrati,MDらの「Optimization of Endotracheal Tube Cuff Filling by Continuous Upper Airway Carbon Dioxide Monitoring」、Anesth.Analg;第101巻、pp.1081〜1088(2005)に開示されたカフ上のCOの読出しによって確認した。COはチューブの通気管腔を介して監視した。1mmHg未満のCO分圧を適切な密閉の指標とみなした。
【0156】
カフ上の流体のシミュレーションのために、造影剤(OMNIPAQUE−IOHEXOL 350mgI/ml)を使用した。5ccの造影剤を蛍光透視記録下で、吸引管腔を介して注入した。
【0157】
同期化された灌注および吸引のためにプロトタイプMASS装置を使用した。灌注用に10ccの生理食塩水を使用した。灌注/吸引手順全体を監視し、蛍光透視法により記録した。排出された流体の量を測定し、記録した。
【0158】
上記手順を45、40、35、30、25、20、15、10、および5mmHgのカフ圧で繰り返した。5mmHgでカフ上のCOの読出しによってカフ上の漏れが検出された。
【0159】
実験2
従来の技術(洗浄に続く吸引)を使用した分泌物の排出
この実験では、同じ気管内チューブ(図11)を使用した。カフ圧を20mmHgに設定し、密閉を上述したカフ上のCOによって確認した。カフ上の流体/分泌物のシミュレーションのために、造影剤(OMNIPAQUE−IOHEXOL 350mgI/ml)を使用した。吸引管腔を介して5ccの造影剤を注入した。吸引管腔を介して10ccの生理食塩水を注入した。20ccのシリンジを用いて分泌物を排出した。排出された流体の量を測定し、記録した。
【0160】
実験を15、10、および5mmHgのカフ圧に対して繰り返した。5mmHgでカフ上のCOの読出しによってカフ上の漏れが検出された。
【0161】
実験3
従来のHi−Lo(登録商標)Evacチューブを用いた分泌物の排出
ヤギにHi−Lo Evac気管内チューブ(I.D 8.0 ポリウレタンカフ;Evac、Mallinckrodt,USA)を挿管した。カフ圧を20mmHgに設定し、上で詳述したように密閉をカフ上のCOの読出しによって確認した。COの読出しは吸引管腔を介して行なった。カフ上の流体/分泌物のシミュレーションのために、造影剤(OMNIPAQUE−IOHEXOL 350mgI/ml)を使用した。5ccの造影剤を蛍光透視記録下で、吸引管腔を介して注入した。吸引管腔を介して10ccの生理食塩水を注入した。20ccのシリンジにより分泌物を排出した。灌注/吸引手順全体を監視し、蛍光透視法により記録した。排出された流体の量を測定し、記録した。20、15、10および5mmHgのカフ圧で実験を繰り返した。
【0162】
結果
実験1の結果を表1に要約する。
【0163】
図12は、本発明の実施形態の気管内チューブが挿管されたヤギの気管の分泌物の排出前の蛍光透視画像である。分泌物(暗色領域)およびカフ(中心領域)が画像上で隣接している。
【0164】
図13は、気管内チューブが挿管されたヤギの気管の、本発明の実施形態のプロトタイプMASS装置を用いて分泌物が排出された後の蛍光透視画像である。図示する通り、分泌物は完全に取り除かれている。
【0165】
表1ならびに図12および図13は、MASS手順(実験1)後に、カフの周りの漏れが蛍光透視法によって検出されず、洗浄された流体の全量および造影剤の量が吸引されたことを実証している。本発明の実施形態のプロトタイプMASS装置は、それに関連する同期化された洗浄/吸引手順によるカフ上からの分泌物の包括的な排出を確実にした。
【0166】
実験2の結果を表2に要約する。
【0167】
表2は、気管内チューブでの洗浄に続いて吸引を使用した結果、カフ上の分泌物が完全に排出されたことを実証している。
【0168】
実験3の結果を表3に要約する。
【0169】
図14は、Hi−Lo(登録商標)Evacチューブが挿管されたヤギの気管の分泌物の排出前の蛍光透視画像である。分泌物(暗色領域)およびカフ(中心領域)が画像上で隣接している。
【0170】
図15は、Hi−Lo(登録商標)Evacチューブが挿管されたヤギの気管の、洗浄に続く吸引により分泌物が排出された後の蛍光透視画像である。分泌物(暗色領域)およびカフ(中心領域)が画像上で隣接している。
【0171】
表3ならびに図14および図15は、Hi−Lo(登録商標)Evacチューブでの洗浄に続いて吸引を使用した結果、分泌物が部分的にだけ排出され、手順の終了時に、希釈された分泌物がカフの上に残ったことを実証している。
【0172】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0173】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。
図1A-1B】
図1C-1D】
図2A-2B】
図2C-2D】
図2E-2F】
図2G-2H】
図2I-2J】
図3A-3C】
図4A-4B】
図4C-4D】
図4E-4F】
図4G-4H】
図4I-4J】
図5A-5B】
図5C-5D】
図5E-5F】
図5G-5H】
図6A-6D】
図6E-6G】
図7A-7E】
図8A-8B】
図9A-9B】
図10
図11A-11B】
図12
図13
図14
図15