特許第5941918号(P5941918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5941918石灰スラリー及びこれを用いたクリンカーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941918
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】石灰スラリー及びこれを用いたクリンカーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/14 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   C04B22/14 E
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-533601(P2013-533601)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2012071881
(87)【国際公開番号】WO2013038908
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-200970(P2011-200970)
(32)【優先日】2011年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西岡 朝明
(72)【発明者】
【氏名】向 永治郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】那須 一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩波 和英
(72)【発明者】
【氏名】白井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 一平
(72)【発明者】
【氏名】吉野 亮悦
【審査官】 粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭42−021840(JP,B1)
【文献】 特開2011−111376(JP,A)
【文献】 特開2001−172063(JP,A)
【文献】 特開2010−159347(JP,A)
【文献】 特開平07−206494(JP,A)
【文献】 特開平07−237950(JP,A)
【文献】 特開平07−277800(JP,A)
【文献】 特開平09−156978(JP,A)
【文献】 特開平11−079816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
C01F 11/00−11/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が4μm以上80μm以下の消石灰、石膏、アルミナ、水及び減水剤を含有し、ハイドロタルサイトの含有量が0.5質量%未満であり、フロー値が200mm以上である石灰スラリー。
【請求項2】
減水剤がリグニン系、メラミン系、ポリカルボン酸系、及びナフタレン系よりなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の石灰スラリー。
【請求項3】
以下の何れか一つ以上の条件を満たす請求項2に記載の石灰スラリー:
(a)ポリカルボン酸系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して0.20質量%以上を占める、
(b)ナフタレン系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して0.28質量%以上を占める、
(c)リグニン系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して1.00質量%以上を占める、
(d)メラミン系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して1.00質量%以上を占める。
【請求項4】
カルシウムカーバイドからアセチレンを発生する際に副生する消石灰を含有する請求項1〜3の何れか一項に記載の石灰スラリー。
【請求項5】
平均粒径が4μm以上80μm以下の消石灰、石膏、アルミナ、水、ポリカルボン酸系の減水剤を含有し、ハイドロタルサイトの含有量が0.5質量%以上8質量%以下であり、フロー値が200mm以上である石灰スラリー。
【請求項6】
カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲され、消石灰及びハイドロタルサイトを含みチクソトロピー性を有するダストを含有する請求項5に記載の石灰スラリー。
【請求項7】
ポリカルボン酸系の減水剤が消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して1.00質量%以上を占める請求項5又は6に記載の石灰スラリー。
【請求項8】
石灰スラリー中の水の含有量は8〜25質量%であり、アルミナに対する石膏のモル比(CaSO4/Al23)が2〜10であり、アルミナに対する消石灰のモル比(Ca(OH)2/Al23)が2〜30である請求項1〜7の何れか一項に記載の石灰スラリー。
【請求項9】
クリンカーの製造原料である請求項1〜8の何れか一項に記載の石灰スラリー。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の石灰スラリーを配管輸送後に焼成する工程を含むクリンカーの製造方法。
【請求項11】
クリンカーが、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)である請求項10に記載のクリンカーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石灰分を含有するスラリーに関する。また、本発明は当該スラリーを原料としてクリンカーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウムサルフォアルミネート(3CaO・3Al23・CaSO4、以下「CSA」という。)は膨張性混和材料としてセメントに混和する事で膨張性能を有する為、コンクリートのひび割れ防止、ヒューム管等コンクリートのケミカルプレストレスを導入する材料として用いられている(国際公開第2007/029399号;特許文献1)。
【0003】
CSAの製造方法においては、原料調合精度が要求される為、石灰分(石灰石、生石灰、消石灰、アセチレン発生屑等)、石膏(化学石膏、天然石膏等)、アルミナ原料(ボーキサイト、アルミ残灰等)、及び水からなる湿式スラリーベーズンを、モル比でCaO/Al23=1〜5又は2〜6、CaSO4/Al23=2〜4となるように調合し、スラリーベーズンをキルンにフィードしCSAクリンカーを製造する湿式焼成方法が採用されてきた。これらのCSAクリンカーの製造方法に関する特許文献としては、特公昭42−21840号公報(特許文献2)、特公昭47−840号公報(特許文献3)、特公昭51−22013号公報(特許文献4)、特許第2672008号公報(特許文献5)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/029399号
【特許文献2】特公昭42−21840号公報
【特許文献3】特公昭47−840号公報
【特許文献4】特公昭51−22013号公報
【特許文献5】特許第2672008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、CSAの原料となる石灰分として石灰石を使用することが一般的であったが、石灰石を原料として用いてCSAクリンカーをロータリーキルンなどの焼成炉で焼成すると、脱炭酸エネルギーを必要とする為、焼成燃料率が悪く、また、CO2も多量に発生することから地球環境への負荷が大きいという問題がある。また、キルン内で次第に圧力障害が起こり、燃焼空気量が不足し、原料供給量を抑制せざるを得ず、又、不完全燃焼を呈する為、COガスが発生した段階で、爆発を回避する為、キルンの運転を停止しなければならなくなる事象が生じていた。これは、オリフィス状のコーティングがキルン内壁に徐々に成長し、キルン内の断面積を狭めていたことが原因であった。焼成炉内でコーティングが成長する箇所はランダムではなく、特定箇所において成長することが経験的に分かっている。
【0006】
一方、消石灰は石灰石と比較して、原材料として用いた場合、焼成段階で脱炭酸エネルギーを不要とする為、焼成燃料率が低減出来るのみならず、CO2発生量が低減出来、地球環境への負荷低減に有効である。また、脱炭酸反応が起きないことからコーティングの発生も抑制することができる。しかし、消石灰を含有する湿式スラリーベーズンを混練すると湿式スラリーベーズンがゲル化を起し、粘度が上昇する為、ポンプ閉塞、及びスラリー攪拌機の負荷過多を起し、配管輸送する事が出来ないという問題があった。
特に、カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストは、消石灰を主体とする為、スラリーの原料として使用すれば、石灰石代替の石灰原料として使用可能であり、CO2発生量を低減する事が可能となり、その使用の効用は大きいが、該ダストはチクソトロピー性を有する為、スラリー製造段階でスラリー攪拌機の故障を発生させ、又は、輸送段階でポンプ等の輸送機の故障を発生させるため、その大量使用が阻まれていた。
【0007】
また、生石灰をスラリー原料として使用する方法も考えられるが、コストや安全面の観点から使用が難しい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものである。すなわち、本発明は、少ない地球環境への負荷でクリンカーを製造でき、クリンカー焼成時にキルン内でのオリフィス状コーティングの発生を抑制可能で、且つ、ポンプ輸送時の配管閉塞を抑制可能な石灰スラリーを提供することを課題の一つとする。また、本発明は、本発明に係る石灰スラリーを原料としてクリンカーを製造する方法を提供することを別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、消石灰を原料として使用することにより焼成時のCO2及びコーティングの発生を抑制しつつ、スラリーの原料として減水剤を添加することによってゲル化が防止され、スラリー輸送時の配管の閉塞も低減できることが分かった。本発明は当該知見を基礎として完成したものであり、以下によって特定される。
【0010】
本発明は第一の側面において、平均粒径が4μm以上の消石灰、石膏、アルミナ、水及び減水剤を含有し、ハイドロタルサイトの含有量が0.5質量%未満であり、フロー値が200mm以上である石灰スラリーである。
【0011】
本発明の第一の側面に係る石灰スラリーの一実施形態においては、減水剤がリグニン系、メラミン系、ポリカルボン酸系、及びナフタレン系よりなる群から選択される1種以上である。
【0012】
本発明の第一の側面に係る石灰スラリーの別の一実施形態においては、以下の何れか一つ以上の条件を満たす。
(a)ポリカルボン酸系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して0.20質量%以上を占める、
(b)ナフタレン系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して0.28質量%以上を占める、
(c)リグニン系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して1.00質量%以上を占める、
(d)メラミン系の減水剤が、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して1.00質量%以上を占める。
【0013】
本発明の第一の側面に係る石灰スラリーの更に別の一実施形態においては、カルシウムカーバイドからアセチレンを発生する際に副生する消石灰を含有する。
【0014】
本発明は第二の一側面において、平均粒径が4μm以上の消石灰、石膏、アルミナ、水、ポリカルボン酸系の減水剤を含有し、ハイドロタルサイトの含有量が0.5質量%以上であり、フロー値が200mm以上である石灰スラリーである。
【0015】
本発明の第二の側面に係る石灰スラリーの一実施形態においては、カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲され、消石灰及びハイドロタルサイトを含みチクソトロピー性を有するダストを含有する。
【0016】
本発明の第二の側面に係る石灰スラリーの更に別の一実施形態においては、ポリカルボン酸系の減水剤が消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して1.00質量%以上を占める。
【0017】
本発明の第一又は第二の側面に係る石灰スラリーの更に別の一実施形態においては、石灰スラリー中の水の含有量は8〜25質量%であり、アルミナに対する石膏のモル比(CaSO4/Al23)が2〜10であり、アルミナに対する消石灰のモル比(Ca(OH)2/Al23)が2〜30である。
【0018】
本発明の第一又は第二の側面に係る石灰スラリーの更に別の一実施形態においては、石灰スラリーはクリンカーの製造原料である。
【0019】
本発明は更に別の側面において、上記記載の石灰スラリーを配管輸送後に焼成する工程を含むクリンカーの製造方法である。
【0020】
本発明に係るクリンカーの製造方法の一実施形態においては、クリンカーが、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る石灰スラリーを原料としてクリンカーを製造することで、CO2発生が抑制され、少ないエネルギーでクリンカーを製造できるため、地球環境への負荷を小さくすることができる。また、本発明に係る石灰スラリーを原料とすれば、クリンカー焼成時にキルン内でのオリフィス状コーティングの発生を抑制可能である。更に、本発明に係る石灰スラリーは、ゲル化が抑制されることで粘度が適正値に確保されるため、ポンプ輸送時の配管閉塞が抑制可能であり、また、ベーズンレーキへの負荷も小さくて済む。よって、本発明の工業的利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】フロー値測定時のフローコーン反転及び打突後の試料の様子を示す模式図である。
図2】本発明に係るCSA製造システムの一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る石灰スラリーは水、消石灰、石膏、アルミナ、及び減水剤を含有する。当該石灰スラリーはクリンカーの製造原料として利用できる。クリンカーとは、一種又は二種以上の鉱物を含有する粉砕物をその成分の一部が溶融する(半融状態)まで焼成し、全体を塊状に焼きしめたものであり、その種類に特に制限はないが、例示的には、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)、及びセメント等のクリンカーが挙げられる。カルシウムサルフォアルミネートは、典型的には化学組成としてCaO、CaSO4、及びAl23を有し、主要鉱物としてCaO、CaSO4、3CaO・3Al23・CaSO4(Yeelimite、或いは、Hauyneと称され、CAS No.12005−25−3で定義される化学物質)を含有する反応生成物質である。
【0024】
本発明で用いる水としては、地下水、水道水、雨水等いずれも利用可能である。これらの水は硬度等に限定されず、いずれも利用可能である。水は流動性を付与する役割を果たす。石灰スラリー中の水の含有量はこの点を考慮して適宜調整すればよいが、少なすぎるとポンプ輸送が困難となる一方で、多すぎると他成分と相分離を起こしてしまう。そこで、石灰スラリー中の好ましい水の含有量は8〜25質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。
【0025】
本発明で用いる石灰分は消石灰とする。石灰石を焼成すると脱炭酸反応のためのエネルギーを要するため、エネルギー的に不利となる。また、石灰石を焼成すると脱炭酸反応が原因となって炉内を閉塞させるようにオリフィス状のコーティングが生成する点でも不利である。消石灰を使用すればこのような不都合は解消される。消石灰としては、特に制限はないが、例えば化学的に沈降法により製造される微粉消石灰、微粉消石灰を粉砕する事により得られる焼却炉のダイオキシン吸着用微粉消石灰、カルシウムカーバイド法によるアセチレンガスの製造工程で副生される消石灰、カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲されるダスト中に含まれる副生消石灰等が挙げられる。
【0026】
特に、カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲されるダストはハイドロタルサイトを含有し(典型的には1〜10質量%、より典型的には2〜8質量%)、これによりチクソトロピー性を有することから配管輸送が困難であった。そのため、利用用途がなく一般に廃棄されていたが、本発明によって石灰スラリーの原料としてリサイクルできるようになる。すなわち、本発明は廃棄物の減量にも寄与することになる。
【0027】
消石灰は、減水剤による流動性の向上効果を十分に得るためには、平均粒径が4μm以上であることが必要であり、5μm以上であることが好ましい。消石灰の平均粒径が4μm未満の場合は、減水剤による流動性の向上効果が小さいためにスラリーのゲル化が起こりやすく、粘度が上昇し、スラリーの輸送が困難となる。一方で、消石灰の平均粒径が100μmを超えると、スラリーベーズンの材料分離、キルンでの焼成不良等が起こりやすく、運転が困難となる可能性がある。そのため、消石灰の平均粒径は80μm以下とすることが好ましく、60μm以下がより好ましく、50μm以下が更により好ましい。これらの消石灰を用いる事により、従来、石灰石、石膏、アルミナ原料、及び水からなる湿式スラリーを湿式ミルにより粉砕する工程での動力原単位が大幅に低下する。
【0028】
本発明において、平均粒径は「JIS R 1629ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」により測定した体積基準の積算分率における50%径とする。
【0029】
石灰スラリー中の消石灰の含有量は製造するクリンカーの種類によって適宜調整すればよいが、例えばCSAを製造する場合はモル比でCa(OH)2/Al23=2〜30、好ましくはCa(OH)2/Al23=2〜25となるように配合することができる。
【0030】
本発明で用いる石膏としては、二水石膏、半水石膏、無水石膏等いずれも利用可能であり、例えば二水石膏としては、天然二水石膏、火力発電所から発生する排煙脱硫二水石膏、産業廃棄物として発生する排石膏ボード、焼き石膏と称される半水石膏、燐酸副生無水石膏、天然無水石膏等が利用可能である。粒度は限定されず、塊、粉砕物等いずれも利用可能である。
【0031】
石灰スラリー中の石膏の含有量は製造するクリンカーの種類によって適宜調整すればよいが、例えばCSAを製造する場合はモル比でCaSO4/Al23=2〜10となるように配合することができる。
【0032】
本発明で用いるアルミナとしては、天然バンド頁岩、アルミドロスとして発生するアルミ残灰、仮焼アルミナ、産業廃棄物として発生するアルミナスラリー等いずれも利用可能である。粒度は限定されず、塊、粉砕物等いずれも利用可能である。
【0033】
本発明において、減水剤は石灰スラリーのゲル化を防止する役割を果たし、粘度を低下させて流動性を高める。これにより、石灰スラリーを配管輸送する際に配管が閉塞することが防止される。石灰スラリー中に添加する減水剤の量は特に制限はないが、添加量が過剰だと効果が飽和して非経済であり、逆に添加量が過小だと十分な効果が得られないので、石灰スラリー中の消石灰、アルミナ、石膏及び減水剤の合計量に対する減水剤の量を適切に管理する必要がある。この適切な量は、後述するように、減水剤の種類に応じて変化し、また、石灰スラリーがチクソトロピー性を示すか否かによっても変化するため、賢明な選択が要求される。
【0034】
本発明で用いる減水剤としては、リグニン系(典型的にはリグニンスルホン酸塩系)、メラミン系(典型的にはメラミンスルホン酸塩系)、ポリカルボン酸系(典型的にはポリカルボン酸系高分子化合物系)、ナフタレン系(典型的にはナフタレンスルホン酸系)が用いられる。これらの中でも、流動性向上効果が大きいことから、ポリカルボン酸系及びナフタレン系が好ましく、ポリカルボン酸系が最も好ましい。例示的には、リグニン系減水剤として、リグニンスルホン酸塩を主体とした「ダーレックスF−1、WRDA」(グレースケミカルズ株式会社)、「ポゾリスNo.70シリーズ」(BASFポゾリス株式会社)、メラミン系減水剤として、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩を主体とした「FT−700Nシリーズ」(グレースケミカルズ株式会社)、ポリカルボン酸系減水剤として、ポリカルボン酸系高分子化合物の「ダーレックススーパー100、200、300、1000N」シリーズ(グレースケミカルズ株式会社)、ナフタレン系減水剤として、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を主体とした「FT−500Vシリーズ」(グレースケミカルズ株式会社)等が挙げられる。また、リグニン系とナフタレン系の混合物である「FT−80」(グレースケミカルズ株式会社)等も挙げられる。
【0035】
添加すべき減水剤の量は、石灰スラリー中のハイドロタルサイトの含有量で大きく異なる。ハイドロタルサイトの含有量が0.5質量%未満、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0質量%においては、使用可能な減水剤の種類に特段制限はなく、後述するフロー値が200mm以上となるように適宜添加量を調整すればよい。ただし、過剰に添加しても効果が飽和することに注意する必要がある。
【0036】
この場合の減水剤の添加量は、例えば、以下の何れか一つ以上の条件を満たすことが望ましい。
(a)ポリカルボン酸系の減水剤は、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して下限値が0.20質量%以上、好ましくは0.25質量%以上であり、上限値が10.00質量%以下、好ましくは5.00質量%以下、より好ましくは1.00質量%以下である。
(b)ナフタレン系の減水剤は、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して下限値が0.28質量%以上、好ましくは0.50質量以上であり、上限値が10.00質量%以下、好ましくは5.00質量%以下、より好ましくは1質量以下である。
(c)リグニン系の減水剤は、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して下限値が1.00質量%以上、好ましくは2.00質量%以上であり、上限値が10.00質量%以下、好ましくは5.00質量%以下であり、より好ましくは3.00質量%以下である。
(d)メラミン系の減水剤は、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して1.00質量%以上、好ましくは2.00質量%以上であり、上限値が10.00質量%以下、好ましくは5.00質量%以下であり、より好ましくは3.00質量%以下である。
【0037】
石灰スラリー中のハイドロタルサイトの含有量が0.5質量%以上、典型的には1〜8質量%、より典型的には2〜5質量%においては、使用可能な減水剤の種類は制約を受ける。具体的には、ポリカルボン酸系の減水剤以外は実用上有効な効果が認められないのでポリカルボン酸系の減水剤を使用する必要がある。この場合の減水剤の添加量は、消石灰、石膏及びアルミナの合計質量に対して下限値が1.00質量%以上、好ましくは2.00質量以上であり、上限値は10.00質量%以下、好ましくは5.00質量以下、より好ましくは3.00質量%以下である。
【0038】
本発明に係る石灰スラリーは上述した成分をボールミル等で混練することで製造可能である。このようにして得られた本発明に係る石灰スラリーの一実施形態において、フロー値を200mm以上とすることができ、好ましい一実施形態において、250mm以上とすることができ、典型的な実施形態においては200〜300mmである。フロー値はスラリーの流動性の指標であり、その値が高いほど流動性が優れていることを表す。フロー値は減水剤の添加量を増加させることで上昇させることができる。従って、フロー値が所望の値に上昇するまで減水剤の添加量を増やせばよい。ただし、石灰スラリーの原料となる消石灰の平均粒径によって必要な添加量が変化し、消石灰の平均粒径が大きいほど流動性の向上効果は高い。
【0039】
本発明において、フロー値の測定方法は、JIS R 5201セメントの物理試験方法(フロー試験)による。尚、粉体状を示す時は、フローコーン反転後、15回(1回/1秒)打突後の被試験塑性体は図1の様相を呈し、粉体はW2、W3に加えW1の広がりを示す。粉体状では、フローコーン反転時のW1値に対する15秒15回打突後のW1値は1.5より大きな値を示し、より好ましくは2.0より大きな値を示す。
【0040】
得られた石灰スラリーは輸送ポンプにより配管輸送することができ、例えば、クリンカー焼成炉へ輸送することができる。本発明に係る石灰スラリーはゲル化が抑制されており、粘度の上昇も生じにくいので、配管輸送が可能となる。焼成炉としては、限定的ではないが、ロータリーキルンが一般的である。焼成炉の条件はクリンカーの種類によって適宜調節すればよいが、例えばCSAを焼成する場合には1100〜1300℃程度の温度で焼成する。先述したように、本発明に係る石灰スラリーは焼成段階で脱炭酸エネルギーを不要とする為、焼成燃料率が低減出来るのみならず、CO2発生量が低減出来、地球環境への負荷低減に有効である。また、脱炭酸反応が起きないことからコーティングの発生も抑制することができる。
【0041】
図2に、本発明に係る石灰スラリーを利用したクリンカー製造システムの一例を模式的に示す。石灰スラリーの原料である水、消石灰、石膏、アルミナ及び減水剤はそれぞれ水フィーダー1、消石灰フィーダー2、石膏フィーダー3、アルミナフィーダー4、及び減水剤フィーダー5から湿式原料ミル6へ配管を通じて供給される。各原料は湿式原料ミル6内で十分に混練されて石灰スラリーとなった後、スラリー輸送ポンプ7により、配管を通じていったん攪拌機付きのバッファータンク8に貯蔵され、その後、スラリー輸送ポンプ9によって配管を通じて焼成炉10へ投入され、クリンカーが製造される。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、これらは例示目的であって本発明が限定されることを意図するものではない。
【0043】
<1.原料>
以下に、発明例及び比較例に使用した石灰スラリーの原料を示す。
(1)石灰分
石灰1:カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲されたダストである。
石灰2:カーバイド法によるアセチレンガスの製造工程で発生する副産消石灰である。
石灰3:石灰2を粉砕したものである。
石灰4:市販品の消石灰である(「ヒシカール」菱光石灰工業株式会社)。
石灰5:電気化学工業株式会社の青海工場で生産された石灰石である。
表1にこれら石灰分の組成及び平均粒径を示す。
【表1】
(2)石膏
すべての発明例及び比較例において下記の表2に記載の組成を有する排脱石膏を使用した。当該排脱石膏は火力発電所からの排煙から排煙脱硫装置によってSO2ガスを回収し、石膏化したものである。
【表2】
(3)アルミナ
すべての発明例及び比較例においてAl23が約90質量%を占めるアルミ残灰を使用した。
(4)水
すべての発明例及び比較例において水は一般的な工業用水を使用した。
(5)減水剤
・「FT−500V」(グレースケミカルズ株式会社):アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(以降、「β−NS」と呼ぶ。)
・「ダーレックススーパー1000N」(グレースケミカルズ株式会社):ポリカルボン酸系高分子化合物(以降、「スーパー1000」と呼ぶ。)
・「FT−80」(グレースケミカルズ株式会社):リグニンスルホン酸塩とアルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の1:1(質量比)の混合物(グレースケミカルズ株式会社)(以降、「FT−80」と呼ぶ。)
・「FT−700N」(グレースケミカルズ株式会社):メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩(以降、「FT−700N」と呼ぶ。)
・「ダーレックスWRDA」(グレースケミカルズ株式会社):リグニンスルホン酸塩系(以降、「WRDA」と呼ぶ。)
【0044】
<2.石灰スラリーの特性試験>
上記の各原料を表3に記載の各配合比で原料毎にフィーダーから供給して湿式原料ボールミル内で混練し、発明例及び比較例の石灰スラリーを得た。各スラリーについて、フロー値及び湿式原料ボールミルの動力原単位を測定したので、結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
次に、各スラリーを輸送ポンプで撹拌レーキ付きのバッファータンクに送り、そこから更に輸送ポンプを用いて配管輸送して、ロータリーキルン(内径3m、長さ70m)へ300t/日の流量で投入し、CSAクリンカーの焼成試験を行った。
石灰スラリーの原料として石灰石を用いたNo.1では、運転開始から3日程度経過した後にキルン内圧力が上昇し、1週間程度で運転不可能になったため、ロータリーキルン内を点検したところ、オリフィス状コーティングがキルン内部に発生していた。
No.2〜8では、石灰1(カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲されたダスト)を使用した例である。石灰1はハイドロタルサイトを有意に含有するため、減水剤はポリカルボン酸系のスーパー1000しか実用的な流動性向上効果がなかった。そのため、1時間程度で撹拌レーキが停止してしまった。また、輸送ポンプも閉塞してしまった。なお、表には示していないが、スーパー1000以外は減水剤の添加量を増やしても流動性の向上はほとんど見られなかった。
No.9〜21は、石灰2(カーバイド法によるアセチレンガスの製造工程で発生する副産消石灰)を使用した例である。石灰2はハイドロタルサイトを含有しないため、各種の減水剤が有効に機能したことが分かる。
No.22〜23は石灰3(石灰2の粉砕物)を使用した例である。石灰3は平均粒径が小さすぎたため、減水剤を添加しても実用的な流動性向上効果を得ることはできなかった。そのため、1時間程度で撹拌レーキが停止してしまった。また、輸送ポンプも閉塞してしまった。
No.24〜25は石灰4(市販品の消石灰)を使用した例である。石灰4は平均粒径が小さすぎたため、減水剤を添加しても実用的な流動性向上効果を得ることはできなかった。そのため、1時間程度で撹拌レーキが停止してしまった。また、輸送ポンプも閉塞してしまった。
【符号の説明】
【0047】
1 水フィーダー
2 消石灰フィーダー
3 石膏フィーダー
4 アルミナフィーダー
5 減水剤フィーダー
6 湿式原料ミル
7 スラリー輸送ポンプ
8 バッファータンク
9 スラリー輸送ポンプ
10 焼成炉
図1
図2