(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水酸基を有する金属酸化物粒子と、エポキシ基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーと、両末端にエポキシ基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂と、架橋剤と、を含む組成物を硬化した誘電材料であって、
該ビスフェノール型エポキシ樹脂の両末端の該エポキシ基のうち、一方は該ゴムポリマーに結合され、他方は該金属酸化物粒子に結合されていることを特徴とするトランスデューサ用誘電材料。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された誘電材料においては、ゴムポリマーの架橋構造中に金属酸化物粒子が組み込まれている。このため、誘電材料の電気抵抗が大きくなり耐絶縁破壊性が向上している。しかしながら、本発明者が検討を重ねたところ、従来の誘電材料に80℃程度の高温下で通電し続けると、誘電材料が破壊されるおそれがあることがわかった。この原因は、次のように考えられる。通常、誘電材料には少量のイオン成分が含まれている。誘電材料が高温に晒されると、分子運動が活発になりイオン成分が動きやすくなる。このため、誘電材料の電気抵抗が低下する。すなわち、電圧印加時に誘電材料に電流が流れやすくなる(いわゆる漏れ電流が大きくなる)。よって、高温下で電圧を印加すると、漏れ電流により誘電材料の内部に大きなジュール熱が発生する。これにより、誘電材料が破壊されやすくなる。また、誘電材料中に凝集粒子のような粒子径の大きな粒子が存在すると、当該粒子を基点として欠陥が生じやすい。このことも、誘電材料の破壊を招く一因になる。このように、トランスデューサ用の誘電材料においては、高温下における耐久性の向上が課題である。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、トランスデューサの誘電層として好適で、高温下における耐久性に優れる誘電材料、およびその製造方法を提供することを課題とする。また、高温下においても長時間の使用が可能な耐久性に優れるトランスデューサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のトランスデューサ用誘電材料は、水酸基を有する金属酸化物粒子と、エポキシ基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーと、両末端にエポキシ基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂と、架橋剤と、を含む組成物から製造され、該金属酸化物粒子が該ビスフェノール型エポキシ樹脂を介して該ゴムポリマーに結合されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のトランスデューサ用誘電材料(以下適宜、「本発明の誘電材料」と称す)においては、原料として、テレケリックポリマーのエポキシ樹脂、すなわち両末端にエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いる。両末端の二つのエポキシ基のうち、一方はゴムポリマーの官能基と反応し、他方は金属酸化物粒子の水酸基と反応する。これにより、エポキシ樹脂は、ゴムポリマーと金属酸化物粒子との両方に共有結合する。
【0010】
図1に、本発明の誘電材料の構造を模式的に示す。比較のため、
図2に、上記特許文献1に記載された従来の誘電材料の構造を模式的に示す。
図1に示すように、誘電材料1においては、ゴムポリマー10とビスフェノール型エポキシ樹脂11とが共有結合している。また、金属酸化物粒子12とビスフェノール型エポキシ樹脂11とが共有結合している。これにより、金属酸化物粒子12がビスフェノール型エポキシ樹脂11を介してゴムポリマー10に結合されている。一方、
図2に示すように、従来の誘電材料9においては、ゴムポリマー90と金属酸化物粒子91とが、エポキシ樹脂を介してではなく直接結合している。そして、その結合の一部は、
図2中、一点鎖線で囲って示すように、水素結合である。
【0011】
本発明の誘電材料においては、エポキシ樹脂とゴムポリマーとの結合、およびエポキシ樹脂と金属酸化物粒子との結合は、いずれも共有結合である。このため、従来の誘電材料におけるゴムポリマーと金属酸化物粒子との結合と比較して、結合エネルギーが大きい。すなわち、本発明の誘電材料においては、ゴムポリマー−エポキシ樹脂−金属酸化物粒子の結合力が大きい。
【0012】
また、ゴムポリマーと金属酸化物粒子との間に介在するエポキシ樹脂は、ビスフェノール型である。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、直鎖上にベンゼン環が配置された構造を有するため、剛直である。剛直な成分を含むことにより、誘電材料の弾性率は大きくなる。 このように、本発明の誘電材料においては、ゴムポリマー−エポキシ樹脂−金属酸化物粒子の結合力が大きく、ビスフェノール構造という剛直な成分を含むため、室温下だけでなく高温下においても分子運動が抑制される。このため、誘電材料に含まれるイオン成分は動きにくくなる。これにより、高温下における電気抵抗の低下が抑制される。よって、高温下で電圧を印加しても、誘電材料の内部にジュール熱が発生しにくく、誘電材料は破壊されにくい。すなわち、本発明の誘電材料は、高温下における耐久性に優れる。
【0013】
また、本発明の誘電材料においては、配合する金属酸化物粒子をエポキシ樹脂と結合させてゴムポリマーに結合している。これにより、金属酸化物粒子の凝集が抑制され、架橋ゴムからなる母材中に金属酸化物粒子を均一に分散させることができる。このように、本発明の誘電材料は、均質性が高いという点においても破壊されにくく、耐久性に優れる。
【0014】
ちなみに、上記特許文献2に記載された誘電材料は、アルコキシシラン変性エポキシ樹脂を用いて製造されており、製造時に、アルコキシシラン変性エポキシ樹脂とゴムポリマーとを結合すると共に、アルコキシシランのゾルゲル反応によりシリカを生成させている。本発明の誘電材料においては、エポキシ樹脂とは別に金属酸化物粒子を配合し、エポキシ樹脂の両末端の一方のエポキシ基をゴムポリマーと、他方のエポキシ基を金属酸化物粒子と結合させるという点において、特許文献2に記載の誘電材料とは異なる。また、特許文献2に記載の誘電材料は、アルコキシシラン変性エポキシ樹脂が凝集して、母材の架橋ゴム中に大きな絶縁粒子が存在しているような状態になりやすい。このため、誘電材料の均質性が低く、高温下における耐久性を満足することはできない。
【0015】
上記特許文献3には、フィルムコンデンサ用の高誘電性フィルムが開示されている。高誘電性フィルムは、ポリカーボネート、セルロース等の熱可塑性ポリマーと、無機強誘電体粒子と、親和性向上剤と、を含むコーティング組成物から製造される。特許文献3に記載された高誘電性フィルムの母材は、架橋ゴムではなくポリカーボネートやセルロースである。このため、柔軟性に乏しく、トランスデューサの誘電層には適さない。特許文献3には、親和性向上剤として、エポキシ化合物が記載されている。しかし、記載されたエポキシ化合物は、熱可塑性ポリマーと無機強誘電体粒子との親和性を高めるという観点から、エポキシ基を一つしか持たない低分子量のものに過ぎない。また、実施例で使用されている無機強誘電体粒子は、ペロブスカイト型構造を有し、水酸基をほとんど有さないものである。このため、エポキシ化合物との反応性は乏しいと考えられる。同様に、熱可塑性ポリマーもエポキシ化合物とは反応しないと考えられる。
【0016】
上記特許文献4、5には、モジュール基板に搭載されるキャパシタに用いられる薄膜状の誘電体が開示されている。特許文献4、5に記載された誘電体においては、母材として架橋ゴムではなくエポキシ樹脂を使用している。このため、柔軟性に乏しく、トランスデューサの誘電層には適さない。
【0017】
(2)上記本発明の誘電材料を製造するための、本発明のトランスデューサ用誘電材料の製造方法は、有機金属化合物にキレート剤を添加して、該有機金属化合物のキレート化物を生成するキレート化工程と、該キレート化物に有機溶剤および水を添加して熱処理することにより、該有機金属化合物の加水分解反応により生成した金属酸化物粒子のゾルを得るゾル製造工程と、該金属酸化物粒子のゾルと、エポキシ基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーと、両末端にエポキシ基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂と、架橋剤と、を含む液状組成物を調製する液状組成物調製工程と、該液状組成物を基材上に塗布し、塗膜を硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の製造方法においては、有機金属化合物の加水分解反応により生成した金属酸化物粒子のゾルを用いて、上記本発明の誘電材料を製造する。まず、キレート化工程においては、キレート剤を用いて、原料の有機金属化合物をキレート化する。有機金属化合物は、水と反応して加水分解すると共に重縮合する(ゾルゲル反応)。有機金属化合物を予めキレート化しておくことにより、次工程において、有機金属化合物と水との急激な反応を抑制し、粒子径の小さな金属酸化物粒子を、凝集させることなく製造することができる。次に、ゾル製造工程においては、有機金属化合物のキレート化物に有機溶剤および水を添加した後、熱処理して、加水分解反応を進行させる。これにより、水酸基(−OH)を有する金属酸化物粒子が生成される。次に、液状組成物調製工程においては、前工程において製造された金属酸化物粒子のゾルと、ゴムポリマーと、両末端にエポキシ基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂と、架橋剤と、を含む液状組成物を調製する。ゾル中の金属酸化物粒子は、エポキシ基と反応可能な水酸基を有する。また、ゴムポリマーは、エポキシ基と反応可能な官能基を有する。このため、次の硬化工程において、ゴムポリマーが架橋して硬化すると共に、ビスフェノール型エポキシ樹脂の一方のエポキシ基が金属酸化物粒子の水酸基と、他方のエポキシ基がゴムポリマーの官能基と、各々反応して、金属酸化物粒子がビスフェノール型エポキシ樹脂を介してゴムポリマーに結合される。このように、本発明の製造方法によると、上記本発明の誘電材料を容易に製造することができる。
【0019】
(3)また、本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電材料からなる誘電層と、該誘電層を介して配置される複数の電極と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明のトランスデューサを構成する誘電層は、上記本発明の誘電材料からなる。上述したように、本発明の誘電材料は、高温下における耐久性に優れる。よって、本発明のトランスデューサは、高温下において長時間使用することができる。また、本発明の誘電材料においては、高温下で電圧を印加しても電流が流れにくい。このため、本発明のトランスデューサによると、誘電層中に多くの電荷を蓄えることができる。これにより、大きな静電引力が発生する。したがって、本発明のトランスデューサによると、高温下で使用しても、大きな力および変位量を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の誘電材料、その製造方法、およびトランスデューサの実施形態について説明する。なお、本発明の誘電材料、その製造方法、およびトランスデューサは、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0023】
<誘電材料>
本発明の誘電材料は、水酸基を有する金属酸化物粒子と、エポキシ基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーと、両末端にエポキシ基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂と、架橋剤と、を含む組成物から製造される。製造過程において、ビスフェノール型エポキシ樹脂の末端の二つのエポキシ基のうち、一方がゴムポリマーの官能基と反応し、他方が金属酸化物粒子の水酸基と反応する。これにより、金属酸化物粒子がビスフェノール型エポキシ樹脂を介してゴムポリマーに結合される。
【0024】
[金属酸化物粒子]
金属酸化物粒子は、自身の水酸基とエポキシ基との反応により、ビスフェノール型エポキシ樹脂に結合する。金属酸化物粒子としては、絶縁性が高いという観点から、チタン、ジルコニウム、およびケイ素から選ばれる一種以上の元素を含むものが望ましい。例えば、二酸化チタン(TiO
2)、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)、シリカ(SiO
2)等、各々単独の酸化物粒子や、これらの複合粒子(TiO
2/ZrO
2、TiO
2/SiO
2等)が挙げられる。誘電材料に含有される金属酸化物粒子は、一種でも二種以上でもよい。
【0025】
母材に対する分散性、得られる誘電材料の均質性等を考慮すると、金属酸化物粒子の粒子径は小さい方が望ましい。例えば、金属酸化物粒子のメジアン径が、5nm以上50nm以下であることが望ましい。メジアン径が、30nm以下、さらには20nm以下であるとより好適である。金属酸化物粒子の粒子径については、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察により測定することができる。また、小角X線散乱法により測定してもよい。
【0026】
金属酸化物粒子の製造方法は特に限定されない。例えば、有機金属化合物の加水分解反応(ゾルゲル法)や、メカノケミカル法等により製造することができる。有機金属化合物の加水分解反応によると、水酸基の数が多い金属酸化物粒子を製造することができる。有機金属化合物の加水分解反応においては、金属酸化物粒子のゾルが生成される。後の製造方法において説明するように、金属酸化物粒子のゾルを用いて誘電材料を製造する場合、得られる誘電材料中の金属酸化物粒子の粒子径は、ゾル中の金属酸化物粒子の粒子径と等しいと推定される。したがって、ゾル中の金属酸化物粒子の粒子径を、誘電材料中の金属酸化物粒子の粒子径として採用してもよい。ゾル中の金属酸化物粒子の粒子径は、例えば、日機装(株)製のレーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定することができる。また、ゾルを乾固して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。
【0027】
金属酸化物粒子の含有量は、誘電材料の体積抵抗率と柔軟性とを考慮して、適宜決定すればよい。例えば、金属酸化物粒子の配合量を、ゴムポリマーの100質量部に対して1質量部以上20質量部以下にするとよい。金属酸化物粒子の配合量が1質量部未満の場合には、電気抵抗の増加効果が小さいからである。一方、20質量部を超えると、電気抵抗の増加効果が飽和して、弾性率が増加するだけだからである。
【0028】
[ゴムポリマー]
ゴムポリマーとしては、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能な官能基を有するものを用いる。エポキシ基と反応可能な官能基としては、カルボキシル基(−COOH)、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH
2、−NHR、−NRR’(R、R’は炭化水素基))等が挙げられる。ゴムポリマーには、これらの官能基の一つ以上があればよい。また、ゴムポリマーとしては、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0029】
より小さな印加電圧で大きな変位量を得るという観点では、極性が大きい、つまり比誘電率が大きいゴムポリマーが望ましい。例えば、比誘電率が4以上(測定周波数100Hz)のゴムポリマーが好適である。比誘電率が大きいゴムポリマーとしては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)等が挙げられる。従って、これらのゴムポリマーを官能基を導入するなどして変性した、カルボキシル基変性ニトリルゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム、カルボキシル基変性アクリルゴム等が好適である。
【0030】
[ビスフェノール型エポキシ樹脂]
ビスフェノール型エポキシ樹脂の種類は、両末端にエポキシ基を有するものであれば特に限定されない。例えば、次式(1)で示されるビスフェノールA型エポキシ樹脂の他、ビスフェノールF型や、ビスフェノールAD型のエポキシ樹脂が挙げられる。
【化1】
【0031】
ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、160g/eq以上3000g/eq以下であることが望ましい。エポキシ当量は、1当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数である。エポキシ当量が160g/eq未満の場合には、エポキシ樹脂の分子量が小さい分、ビスフェノール構造を含む剛直な成分が少なくなる。このため、誘電材料の柔軟性を考慮した比較的少ない配合量では、補強効果が小さくなり、高温下における電気抵抗の低下を充分に抑制することができない。より好適なエポキシ当量は、180g/eq以上である。一方、エポキシ当量が3000g/eqを超えると、所定量のエポキシ基を導入するのに必要なエポキシ樹脂の配合量が多くなる。このため、誘電材料の弾性率が大きくなる。より好適なエポキシ当量は、1000g/eq以下、さらには500g/eq以下である。
【0032】
[架橋剤]
架橋剤の種類は、特に限定されない。しかし、架橋剤として硫黄を用いる場合、架橋後のゴム中に、未反応の硫黄や加硫促進剤等、および硫黄や加硫促進剤等の分解物(反応残渣)が残存することが多い。これらの反応残渣は、イオン化して、誘電材料の耐絶縁破壊性を低下させる一因となる。したがって、誘電材料中のイオン成分を少なくするという観点から、架橋剤として有機金属化合物を用いることが望ましい。この場合、有機金属化合物から生成した金属酸化物粒子も架橋ゴム中に分散される。よって、誘電材料の絶縁破壊強度をより大きくすることができる。
【0033】
有機金属化合物の種類は、特に限定されない。有機金属化合物としては、金属アルコキシド化合物、金属アシレート化合物、および金属キレート化合物が挙げられる。これらから選ばれる一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。有機金属化合物は、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、ホウ素、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ゲルマニウム、イットリウム、ニオブ、ランタン、セリウム、タンタル、タングステン、およびマグネシウムから選ばれる一種以上の元素を含むことが望ましい。
【0034】
金属アルコキシド化合物としては、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシシラン、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラエトキシシラン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、チタンブトキシドダイマー等が挙げられる。また、金属アシレート化合物としては、ポリヒドロキシチタンステアレート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等が挙げられる。また、金属キレート化合物としては、チタン−ジイソプロポキシ−ビス(アセチルアセトネート)、チタン−テトラアセチルアセトネート、チタン−ジオクチロキシ−ビス(オクチレングリコレート)、チタン−ジイソプロポキシ−ビス(エチルアセトアセテート)、チタン−ジイソプロポキシ−ビス(トリエタノールアミネート)、チタン−ジブトキシ−ビス(トリエタノールアミネート)等のチタンキレート化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネート−ビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシ−ビス(エチルアセトアセテート)等のジルコニウムキレート化合物等が挙げられる。
【0035】
[他の成分]
本発明の誘電材料は、上述した成分に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、補強剤、可塑剤、老化防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0036】
<誘電材料の製造方法>
本発明の誘電材料の製造方法は、キレート化工程と、ゾル製造工程と、液状組成物調製工程と、硬化工程と、を有する。以下、各工程を順に説明する。
【0037】
[キレート化工程]
本工程は、有機金属化合物にキレート剤を添加して、該有機金属化合物のキレート化物を生成する工程である。例えば、TiO
2/ZrO
2、TiO
2/SiO
2等の複合粒子のゾルを製造する場合には、複合粒子を構成する金属酸化物の原料となる複数の有機金属化合物を混合した後、キレート剤を添加すればよい。この場合、キレート剤を添加する前に熱処理を施すと、複数の有機金属化合物を予め反応させることができる。また、本工程において、複合粒子を構成する一つの金属酸化物の原料の有機金属化合物をキレート化しておき、次のゾル製造工程において、当該キレート化物に、他の金属酸化物の原料の有機金属化合物を添加してもよい。
【0038】
有機金属化合物は、目的とする金属酸化物粒子の種類に応じて、金属アルコキシド化合物や金属アシレート化合物の中から、適宜選択すればよい。金属アルコキシド化合物としては、テトラn−ブトキシチタン、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトラn−ブトキシシラン、テトラi−プロポキシチタン、テトラエトキシシラン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、チタンブトキシドダイマー等が挙げられる。また、金属アシレート化合物としては、ポリヒドロキシチタンステアレート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等が挙げられる。
【0039】
キレート剤としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン、アセト酢酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、トリエタノールアミン、乳酸、2-エチルヘキサンー1,3ジオール、1,3へキサンジオール等を用いることができる。キレート剤は、後述する液状組成物調製工程において、ゴムポリマーを溶解する溶剤と同じものが望ましい。
【0040】
[ゾル製造工程]
本工程は、生成されたキレート化物に有機溶剤および水を添加して熱処理することにより、有機金属化合物の加水分解反応により生成した金属酸化物粒子のゾルを得る工程である。本工程において、有機金属化合物の加水分解反応が進行し、金属酸化物粒子が生成される。
【0041】
有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン類、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類等を使用すればよい。例えば、IPAを添加すると、キレート化物と水との親和性が向上し、金属酸化物粒子の核が生成されやすくなる。また、MEKを添加すると、次の液状組成物調製工程において、金属酸化物粒子のゾルとポリマー溶液との相溶性を、向上させることができる。また、使用する有機溶剤の種類や添加量により、生成される金属酸化物粒子の粒子径が変化する。例えば、メジアン径が10〜50nm程度の金属酸化物粒子を生成したい場合には、IPAとMEKとを、IPAのモル数/MEKのモル数=0.6程度になるように添加し、かつ、IPAの添加量を、使用した有機金属化合物のモル数の7〜10倍量にするとよい。水は、有機金属化合物の加水分解に必要な量を添加すればよい。熱処理は、ゾルを40℃程度の温度下で、1〜数時間静置して行えばよい。
【0042】
[液状組成物調製工程]
本工程は、製造された金属酸化物粒子のゾルと、エポキシ基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーと、両末端にエポキシ基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂と、架橋剤と、を含む液状組成物を調製する工程である。
【0043】
液状組成物は、例えば、ゴムポリマーを溶剤に溶解した溶液に、金属酸化物粒子のゾル、ビスフェノール型エポキシ樹脂、架橋剤等を添加、撹拌して調製することができる。ここで使用する溶剤は、有機金属化合物をキレート化したキレート剤と同じものを用いることが望ましい。ゾルの配合量は、含有させる金属酸化物粒子の量に応じて、適宜決定すればよい。液状組成物には、必要に応じて他の成分が配合されていてもよい。
【0044】
架橋剤としては、有機金属化合物が好適である。架橋剤の反応残渣は、不純物となり、誘電材料の耐絶縁破壊性を低下させる一因となる。有機金属化合物を用いると、反応残渣が生じにくい。このため、誘電材料の耐絶縁破壊性を低下を抑制することができる。誘電材料の不純物を低減するという観点から、ゴムポリマーを溶剤に溶解した溶液および調製した液状組成物を、フィルタ処理することが望ましい。
【0045】
[硬化工程]
本工程は、調製された液状組成物を基材上に塗布し、塗膜を硬化させる工程である。液状組成物の塗布方法は、特に限定されない。例えば、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。また、塗膜の硬化温度は、用いた溶剤の種類や、反応速度を考慮して適宜決定すればよい。例えば、溶剤の沸点以上とすることが望ましい。
【0046】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、本発明の誘電材料からなる誘電層と、該誘電層を介して配置される複数の電極と、を備える。本発明の誘電材料の構成および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を省略する。なお、本発明のトランスデューサにおいても、本発明の誘電材料における好適な態様を採用することが望ましい。
【0047】
誘電層の厚さは、用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明のトランスデューサをアクチュエータとして用いる場合には、アクチュエータの小型化、低電位駆動化、および変位量を大きくする等の観点から、誘電層の厚さは薄い方が望ましい。この場合、耐絶縁破壊性等をも考慮して、誘電層の厚さを、1μm以上1000μm(1mm)以下とすることが望ましい。より好適な範囲は、5μm以上200μm以下である。
【0048】
本発明のトランスデューサにおいて、電極の材質は特に限定されない。電極は、誘電層の変形に追従して、伸縮可能であることが望ましい。この場合、誘電層の変形が電極により規制されにくいため、所望の出力を得やすくなる。例えば、オイル、エラストマー等のバインダーに導電材を混合した導電性塗料から電極を形成すればよい。導電材としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料、銀等の金属粉末を使用すればよい。また、炭素繊維や金属繊維をメッシュ状に編んで、電極を形成してもよい。
【0049】
また、本発明のトランスデューサを、複数の誘電層と電極とを交互に積層させた積層構造とすると、より大きな力を発生させることができる。したがって、積層構造を採用した場合には、例えば、アクチュエータの出力を大きくすることができる。これにより、駆動対象部材をより大きな力で駆動させることができる。
【0050】
以下、本発明のトランスデューサをアクチュエータに具現化した実施形態を説明する。
図3に、本実施形態のアクチュエータの断面模式図を示す。(a)は電圧オフ状態、(b)は電圧オン状態を各々示す。
【0051】
図3に示すように、アクチュエータ2は、誘電層20と、電極21a、21bと、配線22a、22bと、を備えている。誘電層20は、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(HX−NBR)を母材とする本発明の誘電材料からなる。当該誘電材料においては、メジアン径が10nmの二酸化チタン(TiO
2)粒子がビスフェノールA型エポキシ樹脂を介してHX−NBRのポリマーに共有結合されている。
【0052】
電極21aは、誘電層20の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極21bは、誘電層20の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極21a、21bは、各々、配線22a、22bを介して電源23に接続されている。
【0053】
オフ状態からオン状態に切り替える際は、一対の電極21a、21b間に電圧を印加する。電圧の印加により、誘電層20の厚さは薄くなり、その分だけ、
図3(b)中白抜き矢印で示すように、電極21a、21b面に対して平行方向に伸長する。これにより、アクチュエータ2は、図中上下方向および左右方向の駆動力を出力する。
【0054】
本実施形態によると、誘電層20を構成する誘電材料において、HX−NBRのポリマー−エポキシ樹脂−TiO
2粒子の結合力が大きい。また、エポキシ樹脂が剛直な成分を含むため、誘電材料の弾性率は大きい。さらに、TiO
2粒子が凝集せずに均一に分散されており、誘電層20の均質性が高い。したがって、誘電層20は、高い耐絶縁破壊性を有し、高温下における耐久性に優れる。これにより、アクチュエータ2は、高温下においても長時間の使用が可能であり耐久性に優れる。また、誘電層20には、高温下で電圧を印加しても電流が流れにくい。このため、アクチュエータ2によると、誘電層20中に多くの電荷を蓄えることができる。これにより、大きな静電引力が発生する。したがって、アクチュエータ2によると、高温下で使用しても、大きな力および変位量を得ることができる。
【実施例】
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0056】
<金属酸化物粒子の製造>
[TiO
2ゾル]
まず、有機金属化合物のテトラi−プロポキシチタン0.01molに、アセチルアセトン0.02molを加えてキレート化した。次に、得られたキレート化物に、イソプロピルアルコール(IPA)0.083mol、メチルエチルケトン(MEK)0.139mol、および水0.04molを添加した。これを40℃下で2時間静置して、二酸化チタン(TiO
2)粒子のゾルを得た。製造したゾルを、TiO
2ゾルと称す。TiO
2ゾルに含まれるTiO
2粒子のメジアン径を、日機装(株)製のレーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定したところ、14nmであった。
【0057】
[TiO
2/ZrO
2ゾル]
まず、テトラi−プロポキシチタン0.01molにジルコニウムアルコキシド0.005molおよびIPA0.083molを加えて、60℃下で2時間静置した。次に、アセチルアセトン0.02mol、MEK0.139mol、および水0.04molを添加した。その後、40℃下で1時間静置した。続いて、酢酸0.03mol、シランカップリング剤のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、「KBM−1003」)0.008mol、および水0.024molを添加して、さらに70℃下で6時間静置した。このようにして、二酸化チタン/二酸化ジルコニウム(TiO
2/ZrO
2)複合粒子のゾルを得た。製造したゾルを、TiO
2/ZrO
2ゾルと称す。TiO
2/ZrO
2ゾルに含まれるTiO
2/ZrO
2粒子のメジアン径を上記同様にして測定したところ、10nmであった。
【0058】
<誘電材料の製造>
[実施例1〜5]
まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)を、アセチルアセトンに溶解して、固形分濃度が12質量%のポリマー溶液を調製した。調製したポリマー溶液をフィルタ処理した。次に、ポリマー溶液100質量部に、TiO
2ゾル20.57質量部、架橋剤のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンのアセチルアセトン溶液(濃度20質量%)5質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、「jER(登録商標)828」、エポキシ当量189g/eq)1質量部、およびアセチルアセトン20質量部を添加して、撹拌した。さらに、TiO
2/ZrO
2ゾル14.346質量部を添加、撹拌して、液状組成物を調製した。調製した液状組成物をフィルタ処理した。それから、液状組成物を基材上に塗布して乾燥させた後、150℃で1時間加熱して、薄膜状の誘電材料を得た。製造した誘電材料を、実施例1の誘電材料とした。使用したビスフェノールA型エポキシ樹脂は、両末端にエポキシ基を有する。実施例1の誘電材料において、エラストマー(HX−NBR)100質量部に対する金属酸化物粒子の含有量を、使用したゾル中のチタン(Ti)量から換算すると、TiO
2粒子の含有量は6.6質量部、TiO
2/ZrO
2粒子の含有量は5.82質量部である。
【0059】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の配合量を変えた以外は、実施例1の誘電材料と同様にして、さらに四種類の誘電材料を製造した。製造した誘電材料を、実施例2〜5の誘電材料とした。
【0060】
一例として、実施例4の誘電材料をフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)にて分析した結果を示す。
図4に、実施例4の誘電材料の赤外線吸収スペクトルを示す。
図4においては、比較のため、使用したゴムポリマー(HX−NBR)およびビスフェノールA型エポキシ樹脂の赤外線吸収スペクトルも示す。
【0061】
図4に示すように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のスペクトルにおいては、918cm
−1付近にエポキシ基の吸収が現れる。これに対して、実施例4の誘電材料のスペクトルにおいては、918cm
−1付近の吸収は見られない。また、ゴムポリマーのスペクトルにおいては、1700cm
−1付近にカルボキシル基の吸収が現れる。これに対して、実施例4の誘電材料のスペクトルにおいては、1700cm
−1付近の吸収は見られない。以上より、実施例4の誘電材料においては、エポキシ基とカルボキシル基とが反応していることが確認できる。
【0062】
[実施例6]
TiO
2/ZrO
2ゾルを配合しない点以外は、実施例5の誘電材料と同様にして、誘電材料を製造した。製造した誘電材料を、実施例6の誘電材料とした。
【0063】
[実施例7]
TiO
2/ZrO
2ゾルを配合しない点、およびビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えてビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、「jER(登録商標)806」、エポキシ当量165g/eq)を10質量部配合した点以外は、実施例5の誘電材料と同様にして、誘電材料を製造した。製造した誘電材料を、実施例7の誘電材料とした。使用したビスフェノールF型エポキシ樹脂は、両末端にエポキシ基を有する。
【0064】
[比較例1]
TiO
2/ZrO
2ゾル、およびビスフェノールA型エポキシ樹脂を配合しない点以外は、実施例1の誘電材料と同様にして、誘電材料を製造した。製造した誘電材料を、比較例1の誘電材料とした。
【0065】
[比較例2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂を配合しない点以外は、実施例1の誘電材料と同様にして、誘電材料を製造した。製造した誘電材料を、比較例2の誘電材料とした。
【0066】
[比較例3]
TiO
2/ZrO
2ゾルの配合量を半分にした点、およびビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えてテルペン樹脂(田岡化学工業(株)製、「TACKIROL(登録商標)1201MB35」)を配合した点以外は、実施例1の誘電材料と同様にして、誘電材料を製造した。製造した誘電材料を、比較例3の誘電材料とした。
【0067】
<誘電材料の評価方法>
[比誘電率]
比誘電率の測定は、誘電材料をサンプルホルダー(ソーラトロン社製、12962A型)に設置して、誘電率測定インターフェイス(同社製、1296型)、および周波数応答アナライザー(同社製、1255B型)を併用して行った(周波数100Hz)。
【0068】
[引張特性]
誘電材料の切断時引張強さ、切断時伸び、および25%伸長時の引張応力(M
25)を、JIS K 6251:2010に準じて測定した。試験片としてはダンベル状2号形を使用した。
【0069】
[絶縁破壊特性]
製造した誘電材料を用いてアクチュエータを製造し、絶縁破壊試験を行った。まず、アクリルゴムポリマー溶液にカーボンブラックを混合、分散させて導電性塗料を調製した。次に、導電性塗料を、製造した誘電材料の表裏両面にスクリーン印刷して、電極を形成した。このようにして製造されたアクチュエータを、誘電材料の種類に対応させて、「実施例1のアクチュエータ」等と称す。実施例1〜7のアクチュエータは、本発明のトランスデューサに含まれる。
【0070】
以下に、絶縁破壊試験の方法について説明する。
図5に、試験装置に取り付けられたアクチュエータの表側正面図を示す。
図6に、
図5のVI−VI断面図を示す。
【0071】
図5、
図6に示すように、アクチュエータ5の上端は、試験装置の上側チャック52により把持されている。アクチュエータ5の下端は、下側チャック53により把持されている。アクチュエータ5は、予め上下方向に25%延伸された状態で、上側チャック52と下側チャック53との間に、取り付けられている。
【0072】
アクチュエータ5は、誘電材料50と一対の電極51a、51bとからなる。誘電材料50は、自然状態で、縦50mm、横25mmの長方形の薄膜状を呈している。電極51a、51bは、誘電材料50を挟んで表裏方向に対向するよう配置されている。電極51a、51bは、自然状態で、各々、縦40mm、横15mm、厚さ10μmの長方形の薄膜状を呈している。電極51a、51bは、上下方向に10mmずれた状態で配置されている。つまり、電極51a、51bは、誘電材料50を介して、縦30mm、横15mmの範囲で重なっている。電極51aの下端には、配線(図略)が接続されている。同様に、電極51bの上端には、配線(図略)が接続されている。電極51a、51bは、各々の配線を介して、電源(図略)に接続されている。電極51a、51b間に電圧を印加すると、電極51a、51b間に静電引力が生じて、誘電材料50を圧縮する。これにより、誘電材料50の厚さは薄くなり、延伸方向(上下方向)に伸長する。
【0073】
まず、室温下にて、電極51a、51b間に10V/μmの電圧を10秒間印加した。その後、15秒間、電圧の印加を停止した。この電圧印加−停止のサイクルを、印加電圧を10V/μmごとに上げながら繰り返した。試験は、誘電材料50が破壊されるまで行った。そして、誘電材料50が破壊される寸前の電圧値を測定し、当該電圧値を誘電材料50の膜厚で除した値を、絶縁破壊強度とした。また、印加電圧が50V/μmの時に電極51a、51b間に流れる電流を測定し、漏れ電流とした。また、50V/μmの電圧を印加した時の電気抵抗を測定し、体積抵抗率を算出した。
【0074】
[高温下における耐久性]
製造した誘電材料に対して、高温下における通電試験を行った。通電試験には、次のようにして作製したサンプルを使用した。まず、絶縁破壊試験において使用したアクチュエータと同様に、薄膜状の誘電材料の表裏両面に電極を形成した。次に、電極が表出しないよう、表裏各々の電極の外側にシリコーンゴム製の保護層を配置した。作製されたサンプルにおいて、一対の電極は、誘電材料を介して、70mm四方の範囲で重なっている。各々の電極は、配線を介して、電源に接続されている。
【0075】
以下に、通電試験の方法について説明する。まず、サンプルを80℃の恒温槽中に入れ、そのまま10分間静置した。次に、一対の電極間に、200秒間で60V/μmになるよう一定の昇圧速度で電圧を印加した。印加電圧が60V/μmの状態で通電を最大2時間続け、途中で誘電材料が破壊された場合にはその時間を記録した。このような通電試験を3回行った。
【0076】
<誘電材料の評価結果>
表1に、実施例1〜7および比較例1〜3の誘電材料の組成および評価結果を示す。表1中、金属酸化物粒子の含有量は、使用したゾル中のチタン(Ti)量から換算した値である(後出の表2においても同じ)。
【表1】
【0077】
表1に示すように、TiO
2/ZrO
2粒子を含み、エポキシ樹脂を配合した実施例1〜5の誘電材料においては、TiO
2/ZrO
2粒子を含み、エポキシ樹脂を配合しなかった比較例2の誘電材料と比較して、体積抵抗率が大きくなり、漏れ電流が小さくなった。実施例1の誘電材料の絶縁破壊強度は、比較例2の誘電材料と比較して小さくなったものの、それ以外の実施例2〜5の誘電材料の絶縁破壊強度は、比較例2の誘電材料と比較して同等以上になった。実施例1〜5の誘電材料を比較すると、エポキシ樹脂の配合量が多くなるに従って、絶縁破壊強度および体積抵抗率が大きくなる傾向が見られた。また、漏れ電流は小さくなる傾向が見られた。一方で、引張応力(M
25)が大きくなり、柔軟性は低下した。
【0078】
TiO
2/ZrO
2粒子を含まず、エポキシ樹脂を配合した実施例6、7の誘電材料においては、TiO
2/ZrO
2粒子を含まず、エポキシ樹脂を配合しなかった比較例1の誘電材料と比較して、体積抵抗率および絶縁破壊強度が大きくなり、漏れ電流が小さくなった。
【0079】
両末端にエポキシ基を有しないテルペン樹脂を配合した比較例3の誘電材料においては、同量のビスフェノールA型エポキシ樹脂を配合した実施例4の誘電材料と比較して、体積抵抗率が小さく、絶縁破壊特性の向上効果は小さかった。
【0080】
実施例1〜7の誘電材料は、いずれも高温下において高い耐久性を示した。特に、エポキシ樹脂の配合量が3.5質量部以上の実施例3〜7の誘電材料は、2時間通電しても破壊されなかった。以上より、本発明の誘電材料は、高温下における耐久性に優れることが確認された。
【0081】
<エポキシ当量の検討>
実施例1〜6の誘電材料の製造において使用したビスフェノールA型エポキシ樹脂とはエポキシ当量が異なる三種類のビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用して、六種類の誘電材料を製造した。そして、上記同様の評価方法により、誘電材料の物性および特性を評価した。製造した誘電材料を、実施例8〜13の誘電材料とした。使用したビスフェノールA型エポキシ樹脂は、次の三種類であり、いずれも両末端にエポキシ基を有する。
三菱化学(株)製、「jER1001」:エポキシ当量475g/eq
同社製、「jER1003」:エポキシ当量720g/eq
同社製、「jER1009」:エポキシ当量2850g/eq
表2に、実施例8〜13の誘電材料の組成および評価結果を示す。表2においては、比較のため、先に示した実施例4の誘電材料の組成および評価結果を併せて示す。
【表2】
【0082】
実施例8〜10の誘電材料においては、エポキシ樹脂の配合量を、実施例4の誘電材料に配合されているエポキシ樹脂とエポキシ基の量が同じになるように調整している。このため、エポキシ当量が大きいものほど、エポキシ樹脂の配合量が多くなる。その結果、実施例8〜10の誘電材料においては、実施例4の誘電材料と比較して、柔軟性が低下した。一方、実施例11〜13の誘電材料においては、エポキシ基の量を考慮せずに、エポキシ樹脂の配合量を、実施例4の誘電材料におけるエポキシ樹脂の配合量と同じにしている。このため、エポキシ当量が大きいものほど、エポキシ基の量が少なくなる。その結果、実施例4の誘電材料と比較して、配合されたエポキシ樹脂のエポキシ当量が大きい実施例11〜13の誘電材料においては、絶縁破壊特性の向上効果や高温下における耐久性の向上効果が小さくなった。