特許第5941966号(P5941966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000002
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000003
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000004
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000005
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000006
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000007
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000008
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000009
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000010
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000011
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000012
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000013
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000014
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000015
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000016
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000017
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000018
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000019
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000020
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000021
  • 特許5941966-流体封入式防振装置 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941966
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   F16F13/10 L
   F16F13/10 E
   F16F13/10 H
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-247734(P2014-247734)
(22)【出願日】2014年12月8日
(65)【公開番号】特開2016-109216(P2016-109216A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年4月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】安東 哲史
(72)【発明者】
【氏名】村岡 睦
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−117258(JP,A)
【文献】 特開昭58−37337(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2381127(EP,A1)
【文献】 国際公開第2012/085766(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と環状の第二の取付部材が本体ゴム弾性体で弾性連結されていると共に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体を封入された流体室を有する流体封入式防振装置において、
前記第二の取付部材には筒状の封止用部材が取り付けられて、該封止用部材が段差部の両側に取付筒部とシール筒部の各一方を備えていると共に、該取付筒部の内周面と該第二の取付部材の外周面との少なくとも一方に圧入突部が周上で部分的に形成されて、該第二の取付部材が該取付筒部に差し入れられて該圧入突部の形成部分で圧入固定されている一方、
該封止用部材の該段差部には該取付筒部から該シール筒部への圧入に伴う応力の伝達部分に応力伝達を低減する伝達防止部が設けられていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
複数の前記圧入突部が前記第二の取付部材および前記取付筒部の周上で形成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記圧入突部が前記封止用部材における前記取付筒部の内周面に突出して形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記第二の取付部材および前記取付筒部における前記圧入突部の突出先端と該圧入突部の突出先端の当接面とが、何れも軸方向に非傾斜で延びている請求項1〜3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記圧入突部が周方向に所定長さで連続して延びており、該圧入突部の突出先端が周方向に広がっている請求項1〜4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記圧入突部が前記取付筒部の基端まで軸方向に延びている請求項1〜5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記伝達防止部の周方向長さが前記圧入突部の周方向長さ以上とされており、該圧入突部が該伝達防止部の周方向中間に配置されている請求項1〜6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記伝達防止部が前記段差部を貫通する伝達防止孔とされている請求項1〜7の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
前記伝達防止部が前記段差部における前記取付筒部の内周面の延長線を含む部位に設けられている請求項1〜8の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項10】
前記段差部の変形剛性を高める補強リブが、該段差部における前記伝達防止部を外れた部位に設けられている請求項1〜9の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項11】
前記第二の取付部材が前記封止用部材の前記取付筒部に圧入されてシールゴムが圧縮されることにより前記流体室が仮封止されると共に、
該第二の取付部材に連結部材が装着されて、該第二の取付部材と該封止用部材の間に圧入方向への押圧力が該連結部材によって及ぼされて該シールゴムの圧縮率が高められることにより該流体室が本封止されている請求項1〜10の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項12】
前記流体室が壁部の一部を前記本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部を可撓性膜で構成された平衡室とを含んで構成されており、それら受圧室と平衡室が前記第二の取付部材によって支持される仕切部材を挟んだ軸方向両側に配されていると共に、該仕切部材が前記封止用部材における前記シール筒部の内周側に配設されて、該仕切部材の外周面が該シール筒部の内周面に重ね合わされている一方、
該第二の取付部材と該仕切部材の間にシールゴムが配されており、該第二の取付部材の前記取付筒部への圧入によって該シールゴムが該第二の取付部材と該仕切部材の間で圧縮されて流体密に封止されている請求項1〜11の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項13】
前記第二の取付部材と前記封止用部材の前記取付筒部とを周方向で相互に位置決めする位置決め手段が設けられている請求項1〜12の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウントなどに用いられる流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されてそれら部材を相互に防振連結する防振支持体乃至は防振連結体の一種として、流体封入式防振装置が知られている。流体封入式防振装置は、例えば特許第4113889号公報(特許文献1)などに示されているように、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、内部に非圧縮性流体を封入された流体室が形成された構造を有している。
【0003】
ところで、特許文献1の流体封入式防振装置では、第二の取付部材に封止用部材としての軸受カバーが取り付けられており、隔壁や可撓性膜としてのベローズが封止用部材によって支持されている。また、特許文献1では、軸受カバーの第二の取付部材への取付部分が段付き筒状とされており、大径の上部に設けられた鉤状部材が第二の取付部材の外周縁部に引掛け係合されることにより、軸受カバーが第二の取付部材に取り付けられている。
【0004】
しかし、特許文献1の構造では、内周へ突出する鉤状部材が第二の取付部材の外周縁部を乗り越える際に、軸受カバーの変形が大きくなって、流体密性への悪影響や軸受カバーの損傷などが問題になるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4113889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、簡単な組み付けによって流体室のシール性を有利に得ることができる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0008】
先ず、本発明者らは、第二の取付部材と封止用部材を圧入によって組み付ける構造の採用を検討して試作などを行うことで、圧入時に封止用部材が変形して流体密性の低下などの不具合が生じる可能性を確認した。そこで、圧入時に生じる封止用部材の変形が流体密性に及ぼす影響を低減するために、試作と検討を繰り返して本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と環状の第二の取付部材が本体ゴム弾性体で弾性連結されていると共に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体を封入された流体室を有する流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材には筒状の封止用部材が取り付けられて、該封止用部材が段差部の両側に取付筒部とシール筒部の各一方を備えていると共に、該取付筒部の内周面と該第二の取付部材の外周面との少なくとも一方に圧入突部が周上で部分的に形成されて、該第二の取付部材が該取付筒部に差し入れられて該圧入突部の形成部分で圧入固定されている一方、該封止用部材の該段差部には該取付筒部から該シール筒部への圧入に伴う応力の伝達部分に応力伝達を低減する伝達防止部が設けられていることを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置では、第二の取付部材と封止用部材における取付筒部との圧入面が、圧入突部によって周上で部分的に設定されることから、第二の取付部材の圧入に伴う応力が、主として取付筒部における圧入突部の形成部分に作用する。更に、封止用部材の段差部には、応力伝達を低減する伝達防止部が形成されており、伝達防止部が圧入に伴う応力の取付筒部からシール筒部への伝達部分に配置されている。これらにより、第二の取付部材の圧入に伴って取付筒部に作用する応力が、伝達防止部によってシール筒部への伝達を低減されることから、応力伝達によるシール筒部の変形が低減されて、目的とするシール性能などを安定して有効に得ることができる。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、複数の前記圧入突部が前記第二の取付部材および前記取付筒部の周上で形成されているものである。
【0012】
第二の態様によれば、周上の複数箇所に圧入突部が形成されることにより、第二の取付部材と取付筒部の圧入面が周上の複数箇所に設けられて、圧入によって発揮されるシール反力に対する抗力や取付筒部に作用する圧入による応力などを、適宜に調節し易くなる。なお、好適には、複数の圧入突部が全周に亘って分散して配置されることが望ましく、それによって、第二の取付部材の取付筒部への圧入時に傾きなどが生じ難くなると共に、圧入後には全周に亘って安定したシール性能を得ることができる。また、より好適には、段差部における伝達防止部も、周上の複数箇所に設けられた圧入突部に対応する位置で、段差部の周上において複数箇所に設けられることとなる。
【0013】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記圧入突部が前記封止用部材における前記取付筒部の内周面に突出して形成されているものである。
【0014】
第三の態様によれば、圧入突部と伝達防止部が何れも封止用部材側に設けられることにより、第二の取付部材と封止用部材の取付筒部との圧入時に周方向の相対的な位置合わせを要することなく、取付筒部における圧入突部の形成部分からシール筒部への応力伝達部分に伝達防止部を配することができる。
【0015】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材および前記取付筒部における前記圧入突部の突出先端と該圧入突部の突出先端の当接面とが、何れも軸方向に非傾斜で延びているものである。
【0016】
第四の態様によれば、第二の取付部材が取付筒部にスムーズに圧入されると共に、第二の取付部材の取付筒部からの抜けに対する抗力が有効に発揮されて、目的とするシール性能を得ることができる。なお、圧入突部の突出先端と圧入突部の突出先端の当接する面とが軸方向に厳密に非傾斜である場合だけでなく、成形時に金型を取り外し易くするために設けられる抜きテーパ程度の僅かな傾斜がある場合なども、実質的に非傾斜であって、本態様に含まれる。
【0017】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記圧入突部が周方向に所定長さで連続して延びており、該圧入突部の突出先端が周方向に広がっているものである。
【0018】
第五の態様によれば、第二の取付部材が取付筒部に対して各圧入突部の形成部分で周方向に所定の幅をもって圧入されることから、第二の取付部材と取付筒部の圧入によるシール反力への抗力が有利に発揮される。
【0019】
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記圧入突部が前記取付筒部の基端まで軸方向に延びているものである。
【0020】
第六の態様によれば、第二の取付部材と取付筒部が圧入突部の形成部分で軸方向の広い範囲に亘って圧入されることから、圧入面積が大きく確保されて圧入によるシール反力への抗力が有利に発揮されると共に、第二の取付部材と取付筒部が圧入時に相対的に傾くのも回避される。
【0021】
また、圧入突部を封止用部材側に設ける場合には、圧入突部を取付筒部の基端まで軸方向に延びるように形成すると、圧入突部がリブとして機能して取付筒部および段差部の変形剛性が大きくなって、圧入に伴う応力が取付筒部からシール筒部に伝達され易くなる。そこにおいて、本発明では、段差部に伝達防止部を形成することで取付筒部からシール筒部への応力伝達が低減されることから、軸方向で圧入部分を大きく得ることによるシール反力への効力の確保や圧入時の傾斜の回避などを実現しながら、シール筒部への応力伝達によるシール性能の低下なども防ぐことができる。
【0022】
本発明の第七の態様は、第一〜第六の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記伝達防止部の周方向長さが前記圧入突部の周方向長さ以上とされており、該圧入突部が該伝達防止部の周方向中間に配置されているものである。
【0023】
第七の態様によれば、第二の取付部材の圧入時に取付筒部に作用する応力は、取付筒部の周上において圧入突部が配される部分を外周側へ押し広げる力に基づくことから、圧入突部によって設定される圧入面と対応する周上位置に伝達防止部を配することで、シール筒部への応力伝達を有効に低減することができる。しかも、伝達防止部の周方向長さを圧入突部の周方向長さ以上として、圧入突部を伝達防止部の周方向中間に位置せしめることにより、伝達防止部を周方向に外れた部分での応力伝達が低減されて、シール筒部の変形をより有利に防ぐことができる。
【0024】
本発明の第八の態様は、第一〜第七の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記伝達防止部が前記段差部を貫通する伝達防止孔とされているものである。
【0025】
第八の態様によれば、伝達防止部が段差部を貫通する孔とされていることで、応力の伝達がより効果的に低減されると共に、内周面が当接乃至は近接している切込みなどで伝達防止部が構成されている場合に比して、段差部の変形時に伝達防止部の内周面が相互に接触して応力が伝達され易くなることも回避し易くなる。
【0026】
本発明の第九の態様は、第一〜第八の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記伝達防止部が前記段差部における前記取付筒部の内周面の延長線を含む部位に設けられているものである。
【0027】
第九の態様によれば、取付筒部から段差部への応力伝達が、それら取付筒部と段差部の境界部分に設けられる伝達防止部によって効率的に低減される。しかも、取付筒部と段差部の接続部分に薄肉部や孔などで構成される伝達防止部を設けることにより、取付筒部および段差部の変形剛性が効果的に低減されて、第二の取付部材の圧入によって取付筒部に作用する応力も低減される。
【0028】
本発明の第十の態様は、第一〜第九の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記段差部の変形剛性を高める補強リブが、該段差部における前記伝達防止部を外れた部位に設けられているものである。
【0029】
第十の態様によれば、段差部を補強する補強リブが設けられることによって、伝達防止部が段差部の周上における広い範囲に形成される場合にも、段差部の変形剛性が必要以上に小さくなるのを防ぐことができる。特に、補強リブが伝達防止部を外れた部位に設けられることにより、補強リブが伝達防止部による応力伝達の低減効果に対して悪影響を及ぼすことも回避される。
【0030】
本発明の第十一の態様は、第一〜第十の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材が前記封止用部材の前記取付筒部に圧入されてシールゴムが圧縮されることにより前記流体室が仮封止されると共に、該第二の取付部材に連結部材が装着されて、該第二の取付部材と該封止用部材の間に圧入方向への押圧力が該連結部材によって及ぼされて該シールゴムの圧縮率が高められることにより該流体室が本封止されているものである。
【0031】
第十一の態様によれば、第二の取付部材の取付筒部への圧入による仮封止状態では、シールゴムのシール反力に対する抗力を確保できればよく、振動入力時に第二の取付部材の取付筒部からの抜けを防止し得る程の大きな抗力は不要とされる。それ故、第二の取付部材の圧入によって取付筒部に作用する応力を比較的に小さくすることができて、シール筒部への応力伝達を有効に防ぐことができる。
【0032】
本発明の第十二の態様は、第一〜第十一の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記流体室が壁部の一部を前記本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部を可撓性膜で構成された平衡室とを含んで構成されており、それら受圧室と平衡室が前記第二の取付部材によって支持される仕切部材を挟んだ軸方向両側に配されていると共に、該仕切部材が前記封止用部材における前記シール筒部の内周側に配設されて、該仕切部材の外周面が該シール筒部の内周面に重ね合わされている一方、該第二の取付部材と該仕切部材の間にシールゴムが配されており、該第二の取付部材の前記取付筒部への圧入によって該シールゴムが該第二の取付部材と該仕切部材の間で圧縮されて流体密に封止されているものである。
【0033】
第十二の態様において、第二の取付部材の圧入に伴う応力のシール筒部への伝達が低減されて、シール筒部が外周側に広がるように変形するのを防ぐことができることから、シール筒部の内周面と仕切部材の外周面との間に隙間が形成されるのを防ぐことができる。それ故、第二の取付部材と仕切部材の間で圧縮されるべきシールゴムが、シール筒部と仕切部材の間に入り込む等の不具合が回避されて、目的とするシール性能を安定して得ることができる。
【0034】
本発明の第十三の態様は、第一〜第十二の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材と前記封止用部材の前記取付筒部とを周方向で相互に位置決めする位置決め手段が設けられているものである。
【0035】
第十三の態様によれば、例えば、防振対象部材への締結構造や周上でのばね特性の違い、圧入突部や伝達防止部の周方向での配置などによって、第二の取付部材と封止用部材を周方向に特定の相対向きで組み付ける必要がある場合にも、簡単に対応することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、第二の取付部材の外周面と封止用部材の取付筒部の内周面との少なくとも一方に周上で部分的に圧入突部が形成されて、第二の取付部材が圧入突部の形成部分で取付筒部に圧入されていると共に、封止用部材の段差部には、応力伝達を低減する伝達防止部が、第二の取付部材の圧入による応力の伝達部分に形成されている。それ故、第二の取付部材の圧入によって取付筒部に及ぼされる応力が、封止用部材の段差部を介してシール筒部に伝達されるのを防止できて、シール筒部の変形によるシール性能の低下などが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
図2図1に示すエンジンマウントにインナブラケットを装着した状態の縦断面図であって、図3のII−II断面図。
図3図2のIII−III断面図。
図4図1に示すエンジンマウントを構成するマウント本体の斜視図。
図5図4に示すマウント本体の平面図。
図6図5のVI−VI断面図。
図7図5のVII−VII断面図。
図8図6のVIII−VIII断面図。
図9図4に示すマウント本体の分解斜視図。
図10図4に示すマウント本体を構成する本体ゴム弾性体の一体加硫成形品の正面図。
図11図10に示す本体ゴム弾性体の一体加硫成形品の左側面図。
図12図10に示す本体ゴム弾性体の一体加硫成形品の平面図。
図13図10に示す本体ゴム弾性体の一体加硫成形品の底面図。
図14図4に示すマウント本体を構成する封止用部材の正面図。
図15図14に示す封止用部材の左側面図。
図16図14に示す封止用部材の平面図。
図17図14に示す封止用部材の底面図。
図18図8のA部を拡大して示す要部拡大横断面図。
図19図1に示すエンジンマウントのシールを説明する要部の縦断面図であって、(a)が仮封止状態を、(b)が本封止状態を、それぞれ示す。
図20】本発明の別の一実施形態としてのエンジンマウントの要部を示す縦断面図。
図21】本発明のまた別の一実施形態としてのエンジンマウントを構成する封止用部材の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0039】
図1〜3には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、図4〜9に示されている防振装置本体としてのマウント本体12に対して、連結部材としてのアウタブラケット14が装着された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則としてマウント軸方向である図2中の上下方向を言う。また、マウント本体12を示す図5〜8と、後述する本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品を示す図10〜13と、後述する押圧部材72を示す図14〜17は、何れも見易さのために図2,3に対して拡大して示されている。
【0040】
より詳細には、マウント本体12は、図4〜9に示されているように、第一の取付部材16と第二の取付部材18とが、本体ゴム弾性体20で相互に弾性連結された構造を有している。
【0041】
第一の取付部材16は、ストレートに延びる中空孔22を備えた略矩形の筒形状を有する嵌着部24と、嵌着部24の周上の一辺から下方に突出する逆向きの略円錐台殻形状を有する固着部26とを、一体で備えており、鉄やアルミニウム合金、硬質の合成樹脂等で形成された高剛性の部材が用いられている。そして、第一の取付部材16は、嵌着部24の中心軸がマウント軸方向に対して略直交する方向に延びるように配されている。また、嵌着部24の内周面には、嵌着ゴム層28が全周を覆うように被着形成されている一方、嵌着部24の外周面には、被覆ゴム層30が全周を覆うように被着形成されている。更に、嵌着部24の上壁部分には、マウント軸方向の上方に向かって突出する上部緩衝ゴム層31が、被覆ゴム層30と一体的に形成されている。
【0042】
そして、かかる第一の取付部材16には、図2に示されているように、インナブラケット32が嵌着部24に側方から圧入状態で組み付けられて嵌着固定されるようになっており、かかるインナブラケット32を介して、第一の取付部材16がパワーユニットに取り付けられるようになっている。即ち、インナブラケット32の基端部分には、パワーユニット側への固定用ボルトの挿通孔が複数形成されている一方、インナブラケット32の先端部分は、略H形断面形状とされており、第一の取付部材16の中空孔22に対応した外周寸法をもって直線的に延びている。
【0043】
また、第二の取付部材18は金属製の高剛性部材とされており、中央部分をマウント軸方向に貫通する大径の透孔34が設けられた厚肉の略円環形状とされている。なお、第二の取付部材18の内周面は、上方に向かって拡径するテーパ状の傾斜面とされている。
【0044】
さらに、第二の取付部材18には、外周面上に突出して一対の固定部36,36が一体形成されている。これら一対の固定部36,36は、それぞれ第二の取付部材18の外周面上で軸直角方向に広がる厚肉の略ブロック状とされており、第二の取付部材18の外周部分において軸直角方向で対向位置する部位に設けられている。そして、これら一対の固定部36,36のそれぞれは、第二の取付部材18の径方向一方向で対向位置する一対の外周部位からそれぞれ接線方向で略平行に延び出した外周面38,38を有している。また、一対の固定部36,36には、下方に向かって突出する挿通ピン40がそれぞれ形成されている。なお、本実施形態では、かかる一対の固定部36,36における外周面38,38が、第二の取付部材18の径方向一方向での対向部位から接線方向に向かって延び出すに従って、相互に次第に拡開する方向に数度以下の僅かな傾斜角が付された傾斜面とされている。
【0045】
また、第二の取付部材18の下部には、外周に向かって突出する圧入部42が全周に亘って連続して形成されている。かかる圧入部42が形成されることにより、第二の取付部材18の外周面が段付き円筒形状を呈しており、第二の取付部材18の下部が上部よりも外径寸法を大きくされている。更に、第二の取付部材18の外周部分には、下方に突出する環状の当接部44が一体形成されており、内周部分の下面が外周部分よりも上方に位置している。なお、圧入部42の外周面は、軸方向に実質的に非傾斜で直線的に延びている。ここで言う実質的に非傾斜は、第二の取付部材18の成形時に金型の取外しを容易にするための抜きテーパ程度であれば許容するものである。
【0046】
そして、第二の取付部材18の中心軸上で上方に所定距離を隔てて、第一の取付部材16が配置されており、これら第一の取付部材16と第二の取付部材18が、本体ゴム弾性体20によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体20は、厚肉大径の略円錐台形状とされており、小径側の端部に第一の取付部材16が加硫接着されていると共に、大径側の端部の外周面に第二の取付部材18の内周面が加硫接着されている。
【0047】
なお、本体ゴム弾性体20には、第一の取付部材16の内外周面に被着された嵌着ゴム層28と被覆ゴム層30および上部緩衝ゴム層31が、一体的に形成されている。そして、本体ゴム弾性体20は、図10〜13に示すような第一の取付部材16と第二の取付部材18を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0048】
また、本体ゴム弾性体20には、図11,12に示すように、小径側端部付近において、第一の取付部材16の嵌着部24の一方の開口縁部における下壁部分から軸方向外方に向かって所定厚さの舌片状または平板状に延び出す下部緩衝ゴム層46が一体的に形成されている。更にまた、本体ゴム弾性体20には、大径凹所48が形成されている。大径凹所48は、逆向きの略すり鉢形状を呈する凹所であって、本体ゴム弾性体20の大径側の端面に開口している。また、本体ゴム弾性体20には、内外に貫通して延びる注入用孔50が設けられている。この注入用孔50は、本体ゴム弾性体20の弾性主軸上を一定の円形断面で直線的に延びており、大径凹所48の上底部の中央に設けられた内側開口部から、第一の取付部材16を貫通して中空孔22内に設けられた外側開口部にまで延びている。
【0049】
さらに、本体ゴム弾性体20の大径凹所48の外周側には、図13に示すように、シール部材としてのシールゴム52が形成されている。シールゴム52は、第二の取付部材18の下面を覆うように固着された薄肉のゴム層であって、本実施形態では本体ゴム弾性体20と一体形成されており、第二の取付部材18の下面において当接部44の内周側の略全面を覆っている。
【0050】
更にまた、本体ゴム弾性体20の被覆ゴム層30には、第一の取付部材16の外方に突出する一対の側方緩衝ゴム層54,54が形成されている。これらの側方緩衝ゴム層54,54は、第一の取付部材16の中空孔22の延出方向(図11中の左右方向)に直交する方向(図10中の左右方向)に、それぞれ反対向きに突出している。かかる側方緩衝ゴム層54,54は略台形の断面を有する山型とされており、図1に示されているように、エンジンマウント10の単体状態では、側方緩衝ゴム層54,54の突出先端面と後述するマウントホルダ部110の周壁内面108との対向面間に所定距離の隙間が形成されている。
【0051】
また、本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品を構成する第二の取付部材18には、その下側に仕切部材58と可撓性膜60が、重ね合わされて配設されている。換言すれば、第二の取付部材18におけるマウント中心軸方向で、本体ゴム弾性体20が配設される側と反対の側に仕切部材58と可撓性膜60が、重ね合わされて配設されている。
【0052】
仕切部材58は、全体として厚肉の略大径円板形状とされており、金属や硬質の合成樹脂等で形成されている。また、仕切部材58には、外周部分を周方向の略一周弱の長さで延びる周溝62が上面に開口して形成されている。そして、仕切部材58の上面に薄肉の円板形状の蓋板64が重ね合わされて、周溝62の開口が覆蓋されることにより、周方向に延びるオリフィス通路66が形成されている。なお、このオリフィス通路66の周方向一方の端部は、仕切部材58を貫通して下方に開口せしめられていると共に、周方向他方の端部は、蓋板64を貫通して上方に開口せしめられている。
【0053】
一方、可撓性膜60は、全体として薄肉の略円板形状を有するゴム弾性膜や変形容易な樹脂膜等によって構成されており、径方向の中間部分に所定の弛みが設けられることで変形が容易に許容されるようになっている。また、可撓性膜60の外周縁部には、厚肉とされた環状シール部68が一体的に形成されている。そして、仕切部材58の外周部分の下面に対して環状シール部68が密着状態で重ね合わされることによって、可撓性膜60が、仕切部材58の下面を全体に亘って覆うようにして配設されている。なお、仕切部材58の外周部分には、下面に開口して周方向に延びる環状の位置決め溝70が形成されており、この位置決め溝70に環状シール部68の上端が入り込むようにしてセットされている。
【0054】
そして、このように互いに重ね合わされた仕切部材58と可撓性膜60には、更にそれらの外周面を覆うようにして封止用部材としての押圧部材72が組み付けられている。
【0055】
かかる押圧部材72は、図14〜17に示すように、全体として略円筒形状を有しており、硬質の合成樹脂や金属等によって形成されている。押圧部材72のシール筒部74は、仕切部材58の軸方向長さと略同じか僅かに小さくされており、下端開口部には内周側に広がる内フランジ状の環状当接部76が一体形成されている。
【0056】
また、押圧部材72のシール筒部74の上端開口部には、外周側に広がる外フランジ状の段差部としての環状板部78が形成されている。更にまた、かかる環状板部78の外周縁部には、上方に向かって突出する取付筒部80が全周に連続して形成されている。また、押圧部材72におけるシール筒部74の外周面には、補強リブ81が突出形成されている。補強リブ81は、下方に行くに従って径方向寸法が小さくなる略三角板状であって、シール筒部74の外周面と環状板部78の下面とに一体で繋がって形成されている。
【0057】
ここにおいて、押圧部材72の取付筒部80には、周上に複数の圧入突部82が形成されている。圧入突部82は、図9,16に示すように、取付筒部80の内周面に突出形成されており、圧入突部82の形成部分で取付筒部80の軸直角方向の内法寸法が周上部分的に小さくなっている。これにより、取付筒部80の内法寸法は、圧入突部82の形成部分において、第二の取付部材18における圧入部42の軸直角方向の外形寸法よりも小さくされている一方、圧入突部82を周方向に外れた部分において、圧入部42の軸直角方向の外形寸法よりも大きくされている。また、本実施形態の各圧入突部82は、周方向および軸方向にそれぞれ所定の長さで連続して延びており、圧入突部82の突出先端が第二の取付部材18における圧入部42の外周面に対応する面とされている。更に、圧入突部82の突出先端面は、周方向に湾曲して広がっていると共に、軸方向には実質的に非傾斜でストレートに延びている。更にまた、圧入突部82は、軸方向で取付筒部80の基端まで達する長さで形成されており、取付筒部80の軸方向全長に亘って連続的に設けられている。
【0058】
また、押圧部材72の環状板部78には、周上の複数箇所に伝達防止部としての伝達防止孔84が形成されている。伝達防止孔84は、環状板部78を厚さ方向上下に貫通して形成されており、周方向に所定の長さで延びる略角丸矩形断面を有している。本実施形態では、複数の伝達防止孔84が略全周に亘って分散して配置されていると共に、比較的に変形剛性の大きくなる一対の固定部36,36への対応部分に形成された伝達防止孔84aが、他の伝達防止孔84bよりも周方向の長さを大きくされている。また、本実施形態の伝達防止孔84は、複数の圧入突部82と周方向で同じ位置に形成されており、圧入突部82の内周面の軸方向延長線を含む部分に開口形成されている。換言すれば、上面視において、伝達防止孔84の外周端が圧入突部82の内周端まで達している。なお、環状板部78の下面に設けられた補強リブ81は、環状板部78における伝達防止孔84の開口部分を外れて配置されている。
【0059】
さらに、伝達防止孔84の周方向長さ寸法が、同じ位置に形成された圧入突部82の周方向長さ寸法と略同じとされている。従って、伝達防止孔84aに対応する位置に設けられる圧入突部82aが、伝達防止孔84bに対応する位置に設けられる圧入突部82bよりも、周方向の長さを大きくされている。なお、伝達防止孔84の周方向長さ寸法は、圧入突部82の周方向長さ寸法よりも小さくされていても良いが、圧入突部82の周方向長さ寸法以上とされて、圧入突部82が伝達防止孔84の周方向中間部分に配置されていることが望ましい。
【0060】
また、押圧部材72の環状板部78において第二の取付部材18の一対の固定部36,36に対応する部分には、それぞれ位置決め孔86が形成されている。位置決め孔86は、伝達防止孔84aを周方向に外れた部分に形成されており、略一定の角丸矩形断面で環状板部78を上下に貫通している。
【0061】
そして、押圧部材72のシール筒部74が仕切部材58に対して外挿されており、押圧部材72の環状当接部76の上には、載置された仕切部材58の下端面との間で可撓性膜60の環状シール部68が挟まれて保持されている。また、第二の取付部材18が押圧部材72の取付筒部80に差し入れられて、押圧部材72の環状板部78が、第二の取付部材18における当接部44の下端面に重ね合わされていると共に、押圧部材72の取付筒部80が第二の取付部材18の圧入部42の外周面に重ね合わされている。更に、図18に拡大して示されているように、第二の取付部材18の圧入部42は、押圧部材72の取付筒部80における圧入突部82の形成部分に圧入されており、それによって、押圧部材72が第二の取付部材18に組み付けられていると共に、第二の取付部材18と取付筒部80の間には軸方向の抜けに対する抗力が作用している。図18にも示されているように、圧入突部82を周方向に外れた部分では、取付筒部80の内周面と第二の取付部材18の外周面との間に隙間が形成されている。
【0062】
また、第二の取付部材18が取付筒部80に圧入されることによって、周上における圧入突部82の形成部分では抜け抗力に対する反力が取付筒部80に及ぼされて、取付筒部80に応力が作用する。この応力は、環状板部78を介してシール筒部74側へ伝達されるが、その伝達経路上に伝達防止孔84が形成されていることから、シール筒部74への応力伝達が低減されている。これにより、シール筒部74の変形量が低減されて、シール筒部74の内周面が仕切部材58の外周面に重ね合わされた状態に保持される。
【0063】
なお、本実施形態では、第二の取付部材18の一対の固定部36,36が押圧部材72の取付筒部80の内周面に周方向で係止されることにより、第二の取付部材18と押圧部材72の周方向への相対回転量が制限されている。更に、第二の取付部材18の一対の固定部36,36にそれぞれ形成された挿通ピン40が、押圧部材72の環状板部78に形成された位置決め孔86に挿通されることによって、第二の取付部材18と押圧部材72の軸直角方向での相対的な位置が相互に合わせられるようになっている。そして、それら挿通ピン40の位置決め孔86に対する周方向での係止と、第二の取付部材18の一対の固定部36,36と取付筒部80の内周面との周方向での係止とによって、第二の取付部材18と押圧部材72を周方向で相対的に位置決めする位置決め手段が構成されている。
【0064】
このように第二の取付部材18の取付筒部80への圧入によって押圧部材72が第二の取付部材18に組み付けられることにより、押圧部材72の内部に収容状態で位置決めされた仕切部材58と可撓性膜60が、第二の取付部材18の下側に重ね合わされて組み付けられている。そして、本体ゴム弾性体20の大径凹所48と可撓性膜60との軸方向対向面間には、外部空間に対して流体密に封止されて非圧縮性流体が封入された流体室88が画成されている。
【0065】
また、かかる流体室88は、仕切部材58によって仕切られており、仕切部材58の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体20で構成されて、第一及び第二の取付部材16,18間への略マウント軸方向への振動入力時に本体ゴム弾性体20の弾性変形に基づいて圧力変動が直接的に惹起される受圧室90が形成されている。一方、仕切部材58の下側には、壁部の一部が可撓性膜60で構成されて、可撓性膜60の可撓変形に基づいて内部の圧力変動が吸収軽減され得る平衡室92が形成されている。
【0066】
更にまた、これら受圧室90と平衡室92は、仕切部材58に形成されたオリフィス通路66を通じて相互に連通されており、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路66を通じて封入流体が流動せしめられるようになっている。而して、オリフィス通路66を流動する流体の共振作用等を利用して、入力振動に対する防振効果が発揮されるようになっている。
【0067】
なお、流体室88への非圧縮性流体の注入は、例えば本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品に対する仕切部材58や可撓性膜60、押圧部材72の組み付けを非圧縮性流体中で行うこと等によっても実現可能であるが、本実施形態では、それら各部材の組付後に、注入用孔50を通じて非圧縮性流体を注入し、その後に、かかる注入用孔50に封止用の球体を圧入固着することによって為され得る。
【0068】
ここにおいて、本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品に対して仕切部材58や可撓性膜60、押圧部材72を組み付けた状態、即ちアウタブラケット14の下側部分へ組み付けられる前のマウント本体12単体の状態では、流体室88の外部空間に対する封止が、第二の取付部材18の押圧部材72に対する圧入による仮封止によって実現されている。
【0069】
すなわち、押圧部材72は、その環状当接部76に対して可撓性膜60の環状シール部68を挟んで仕切部材58が重ね合わされており、それら環状当接部76と仕切部材58との間で環状シール部68に軸方向の押圧力を及ぼし得るようになっている。また、押圧部材72のシール筒部74に収容された仕切部材58の上面が、当接部44よりも内周側の第二の取付部材18の下端面に対して、シールゴム52を挟んで重ね合わされており、それら仕切部材58と第二の取付部材18との間でシールゴム52に軸方向の押圧力を及ぼし得るようになっている。
【0070】
これにより、これら環状シール部68とシールゴム52とを軸方向に押圧する反力が、第二の取付部材18と押圧部材72の間で軸方向離隔側に向かって及ぼされている。そして、押圧部材72は、第二の取付部材18が押圧部材72に圧入されることによって、かかる押圧反力に抗して、第二の取付部材18に対して軸方向の接近位置に保持されている。その結果、第二の取付部材18の押圧部材72への圧入による摩擦力などの保持力をもって、環状シール部68とシールゴム52とに対して軸方向のシール圧力が及ぼされているのであり、これら各シール部52,68によって第二の取付部材18と仕切部材58の間および仕切部材58と押圧部材72との間が、それぞれ流体密に仮封止されて、流体室88の流体密性が保持されるようになっている。
【0071】
なお、シールゴム52が、押圧部材72の環状板部78と第二の取付部材18における当接部44よりも内周部分との重ね合わせ面間にも挟まれることにより、シール性の向上が図られるようにしても良い。
【0072】
また、第二の取付部材18が押圧部材72の取付筒部80に圧入されると、取付筒部80には径方向で押し広げる向きの力が作用する。そして、取付筒部80に作用する圧入に伴う応力は、環状板部78を介してシール筒部74に伝達される。ここにおいて、取付筒部80には圧入突部82が形成されており、第二の取付部材18が圧入突部82の形成部分で取付筒部80に対して周上部分的に圧入されていると共に、環状板部78の周上において各圧入突部82と同じ周方向位置には、それぞれ伝達防止孔84が形成されている。
【0073】
これにより、第二の取付部材18の取付筒部80への圧入に伴う応力が、周上で圧入突部82が形成された部分に主として作用すると共に、取付筒部80における圧入突部82の形成部分からシール筒部74に伝達される応力が、応力のシール筒部74への伝達部分に形成された伝達防止孔84によって低減される。即ち、伝達防止孔84が圧入突部82と同じ周方向位置に形成されることにより、周上で圧入突部82が形成された部分において取付筒部80および環状板部78が変形し易くなっており、変形剛性の低減によってシール筒部74に伝達される圧入に伴う応力が低減される。
【0074】
それ故、圧入に伴う応力の伝達に起因するシール筒部74の変形が低減乃至は防止されて、シール筒部74の内周面と仕切部材58の外周面との間に大きな隙間が形成されるのを回避できる。従って、シールゴム52がシール筒部74と仕切部材58の径方向間に入り込むなどの不具合を回避して、目的とするシール性能を有効に得ることができる。
【0075】
かくの如き構造とされたマウント本体12には、アウタブラケット14が取り付けられており、アウタブラケット14の略中央に形成された組付スペース内にマウント本体12が側方から差し入れられるようにして組み付けられている。なお、アウタブラケット14は、鉄やアルミニウム合金などで形成された高剛性の部材であって、軽量で且つ部材厚による剛性確保も容易であって設計自由度も大きい等の理由から、アルミニウム合金製のダイキャスト成形品が好適に採用される。
【0076】
詳細には、図1〜3に示されているように、アウタブラケット14は、組付スペースを跨いで設けられた門形部94を有しており、この門形部94の両脚下端には、相互に離隔する方向に広がる平板形状をもって一対のベース部96,96が設けられている。これらのベース部96,96のそれぞれには、固定ボルトを挿通する挿通孔98が形成されており、この挿通孔98に挿通される固定ボルトにより、アウタブラケット14が車両ボデーに対してボルト固定可能とされている。なお、門形部94の両脚部分と各ベース部96との間には、部材幅方向の両縁をつなぐ補強部100,100がそれぞれ一体形成されている。
【0077】
また、門形部94の下端開口部分には、一対のベース部96,96間に跨がって広がる押圧底部102が一体形成されている。押圧底部102の中央部分には、円形の透孔104が形成されており、この透孔104の内径寸法が、マウント本体12の押圧部材72の環状当接部76の内径寸法と略同じとされている。
【0078】
更にまた、門形部94には、一方の側方開口の下側部分を覆うように側方竪壁106が一体形成されている。この側方竪壁106は、押圧底部102の透孔104と略同心的に略円弧状に湾曲しており、門形部94の一方の側方開口から外方に向かって突出されている。
【0079】
そして、かかる側方竪壁106が設けられることで、門形部94の下側部分には、周方向に半周以上の長さで延びる略円弧状の周壁内面108と、透孔104を有する押圧底部102とを備えた組付スペースとしてのマウントホルダ部110が形成されている。かかるマウントホルダ部110は、側方竪壁106と反対側に向かって開口しており、かかる開口部が、マウント本体12を差し入れられて組み付ける差入口となっている。
【0080】
また、マウントホルダ部110の周壁内面108には、門形部94の一対の脚部112,112の対向内面において、押圧底部102の上面と上下方向に対向する段差状の押圧天面114が形成されている。そして、これら押圧底部102上面と押圧天面114との対向面間において、差入口に向かって開口する挟持溝116,116が形成されている。
【0081】
なお、本実施形態では、マウントホルダ部110における一対の脚部112,112の内面において、高さ方向中間部分を脚部112の幅方向(図2中の紙面直交方向)の略全長に亘って延びる段差118が形成されており、段差118より下方の押圧底部102側が、段差118より上方の押圧天面114側に比して大径の内周面形状とされている。
【0082】
また、門形部94の一対の脚部112,112の対向内面に形成された挟持溝116,116の溝底面120,120は、マウントホルダ部110におけるマウント本体12の差入口側に向かって次第に対向面間距離が大きくなるように拡開する傾斜面とされている。また、これら傾斜した溝底面120,120の傾斜角度が、マウント本体12における第二の取付部材18の一対の固定部36,36における外周面38,38の傾斜角度に対応して、略同じとされている。
【0083】
そして、このような構造とされたアウタブラケット14に対して、マウント本体12が、マウントホルダ部110の側方から差し入れられて組み付けられている。そして、マウント本体12の第二の取付部材18よりも軸方向下側部分が、差入口から挟持溝116に嵌め入れられて嵌合固定されている。
【0084】
すなわち、第二の取付部材18における一対の固定部36,36が、挟持溝116,116に対して差入口から差し入れられることにより、各固定部36,36の外周面38,38が挟持溝116,116の各溝底面120,120に当接せしめられる。これにより、各固定部36,36が各挟持溝116,116に対して圧入状態で嵌着固定されている。
【0085】
また、本実施形態では、挟持溝116,116の各溝底面120,120が傾斜面とされており、アウタブラケット14の型成形時における脱型に際して、型抜テーパとして利用され得る。これにより、アウタブラケット14のダイキャスト成形の作業が一層容易とされ得る。更に、一対の挟持溝116,116における溝底面120,120の対向面間距離が、挟持溝116の差入口に向かって次第に拡開するように傾斜していることから、マウントホルダ部110内にマウント本体12を差し入れることも容易に可能とされる。
【0086】
さらに、マウント本体12は、アウタブラケット14の挟持溝116に嵌め入れられることにより、第二の取付部材18と押圧部材72とに対して、軸方向で相互に接近する方向の押圧力が及ぼされている。即ち、図6,7に示されている如きマウント本体12の単体においては、第二の取付部材18が押圧部材72の取付筒部80に圧入されることによって、仮封止状態のシールゴム52と環状シール部68の押圧反力に対する抗力が発揮されている。かかる仮封止状態下での第二の取付部材18の上端面と押圧部材72の下端面との間のマウント軸方向距離に比して、アウタブラケット14の挟持溝116における押圧底部102上面と押圧天面114との対向面間距離が小さく設定されている。
【0087】
これにより、仮封止状態のマウント本体12がアウタブラケット14の挟持溝116に嵌め入れられると、図19に拡大図示されているように、第二の取付部材18と押圧部材72とが、マウント軸方向で更に相互に接近方向へ相対変位せしめられ、その分だけシールゴム52と環状シール部68に対して更なる圧縮がおよぼされる。この状態でマウント本体12の第二の取付部材18がアウタブラケット14に組付固定されることで、本封止状態とされて流体室88に高度な流体密性が設定されている。
【0088】
このように、本実施形態のエンジンマウント10は、アウタブラケット14の第二の取付部材18への装着によって本封止状態とされることから、第二の取付部材18を押圧部材72の取付筒部80に圧入したマウント本体12では、高度な流体密性や大きな抜け抗力は必要とされない。それ故、第二の取付部材18の外形寸法と取付筒部80における圧入突部82の形成部分での内法寸法との差(圧入代)を比較的に小さく設定して、取付筒部80に作用する圧入に伴う応力が低減される。
【0089】
本実施形態では、押圧部材72の環状当接部76に対して、アウタブラケット14の押圧底部102が、押圧部材72の下面において周上で全周に亘って押圧している。一方、第二の取付部材18の上面に対して、挟持溝116の押圧天面114が、第二の取付部材18の周上で部分的に押圧している。
【0090】
なお、アウタブラケット14の挟持溝116の底壁部分に対して潰しカシメ加工を施すことによって、マウント本体12の第二の取付部材18に差入れ方向で係合するカシメ係合部を形成して、第二の取付部材18の固定部36,36がアウタブラケット14の挟持溝116,116から抜け出すことを防止しても良い。
【0091】
このようにマウント本体12がアウタブラケット14に組み付けられた組付体における第一の取付部材16の中空孔22に対して、インナブラケット32が先端側から挿入されて、エンジンマウント10が構成されている。
【0092】
より詳細には、第一の取付部材16の中空孔22に対して、アウタブラケット14へのマウント本体12の差入方向と反対の方向から、インナブラケット32の先端側が挿入される。この中空孔22の内面には嵌着ゴム層28が被着形成されており、インナブラケット32の先端部分の外周寸法が中空孔22の寸法と略等しくされていることから、インナブラケット32は中空孔22に対して、嵌着ゴム層28に当接して、または嵌着ゴム層28を僅かに圧縮して挿入される。これにより、インナブラケット32と第一の取付部材16が嵌着ゴム層28を介して密着状態で当接しており、インナブラケット32と嵌着ゴム層28との摩擦作用により、インナブラケット32の第一の取付部材16からの抜出しが効果的に防止され得る。
【0093】
そして、図2にも示されているように、マウント本体12とアウタブラケット14とインナブラケット32とが組み付けられたエンジンマウント10では、第一の取付部材16の上側に形成されている上部緩衝ゴム層31が圧縮されて、アウタブラケット14における門形部94内面の天面に対して押し付けられている。
【0094】
上記の如き構造とされたエンジンマウント10は、インナブラケット32の挿通孔にボルトが挿通されてパワーユニットに固定される一方、アウタブラケット14の挿通孔98にボルトが挿通されて車両ボデーに固定される。これにより、パワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10により弾性連結される。なお、かかる車両装着状態では、エンジンマウント10に対してパワーユニット重量の分担荷重が及ぼされて、本体ゴム弾性体20が弾性変形せしめられる。これにより、第一の取付部材16と第二の取付部材18がマウント中心軸方向で相対的に接近方向へ変位せしめられて、所定の離隔距離をもって対向位置している。また、例えば、エンジンマウント10は、図2中の上下方向が車両の上下方向、図2中の左右方向が車両の前後または左右方向となるように、車両に装着される。
【0095】
かかるエンジンマウント10に対して、インナブラケット32を介してエンジンシェイク等の振動が入力されると、オリフィス通路66を通じて非圧縮性流体が流動することによる共振作用等により、入力振動に対する防振効果が発揮され得る。
【0096】
ここにおいて、エンジンマウント10に対して下方への過大な振動が入力されると、インナブラケット32が図11,12に示す下部緩衝ゴム層46を介してアウタブラケット14の側方竪壁106の上端面に当接する。これにより、第一の取付部材16と第二の取付部材18のマウント中心軸方向における相対的な接近方向での変位量を緩衝的に制限する、バウンドストッパ機能が発揮され得る。
【0097】
一方、エンジンマウント10に対して上方への過大な振動が入力されると、第一の取付部材16が上部緩衝ゴム層31を介してアウタブラケット14における門形部94の天面に当接する。これにより、第一の取付部材16と第二の取付部材18のマウント中心軸方向における相対的な離隔方向での変位量を緩衝的に制限する、リバウンドストッパ機能が発揮され得る。
【0098】
さらに、エンジンマウント10に対して車両前後または左右方向での過大な振動が入力されると、第一の取付部材16が両側方緩衝ゴム層54,54を介してアウタブラケット14における周壁内面108に当接する。これにより、第一の取付部材16と第二の取付部材18の車両前後または左右方向における相対的な変位量を緩衝的に制限する、軸直角方向ストッパ機能が発揮され得る。
【0099】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10では、マウント本体12において、第二の取付部材18が押圧部材72の取付筒部80に圧入されることにより、第二の取付部材18と仕切部材58の間および仕切部材58と可撓性膜60の間がそれぞれ流体密に封止されて、流体室88に流体を封入できる。
【0100】
ここにおいて、取付筒部80の内周面には複数の圧入突部82が形成されており、第二の取付部材18が圧入突部82の形成部分で取付筒部80に圧入されていると共に、圧入突部82を周方向に外れた部分では、第二の取付部材18の外周面と取付筒部80の内周面が相互に離隔している。これにより、第二の取付部材18の圧入による応力が、取付筒部80の周上における圧入突部82の形成部分に主として及ぼされるようになっている。更に、環状板部78における各圧入突部82と同じ周方向位置では、環状板部78を貫通する伝達防止孔84がそれぞれ形成されており、取付筒部80および環状板部78の変形剛性が低減されている。
【0101】
これらによって、第二の取付部材18の圧入によって取付筒部80に及ぼされる応力が、環状板部78を介してシール筒部74に伝達されるのが防止されて、圧入時の応力に起因するシール筒部74の変形が制限される。その結果、シール筒部74の内周面と仕切部材58の外周面との間に隙間を生じるのが防止されることから、シールゴム52がシール筒部74と仕切部材58の間に入り込むことなく第二の取付部材18と仕切部材58の間で軸方向に圧縮されて、目的とするシール性能が安定して発揮される。
【0102】
特に本実施形態では、全ての圧入突部82に対して各一つの対応する伝達防止孔84が形成されており、それら圧入突部82と伝達防止孔84が周上の同じ位置に配されている。それ故、各圧入突部82の形成部分で取付筒部80に作用する応力が、それぞれ伝達防止孔84によって伝達を低減されて、シール筒部74の変形がより有利に防止されている。なお、本実施形態に示されているように、圧入突部82が周上で部分的に形成されていることから、伝達防止孔84を環状板部78の全周に連続して設ける必要がなく、環状板部78ひいては押圧部材72の部材強度の確保も良好に達成され得る。
【0103】
しかも、伝達防止孔84の周方向長さが、周上の同じ位置に配された対応する圧入突部82の周方向長さ以上とされていることにより、伝達防止孔84が圧入による応力の主たる伝達部分に対して周方向の全体に亘って形成されており、シール筒部74への応力の伝達が伝達防止孔84によって効果的に低減される。加えて、本実施形態では、伝達防止孔84の周方向長さが対応する圧入突部82の周方向長さと略同じであることから、応力伝達を有効に低減しつつ、環状板部78の強度が伝達防止孔84の形成によって小さくなり過ぎるのを回避できる。
【0104】
また、圧入突部82が周方向および軸方向にそれぞれある程度の長さで延びており、圧入突部82の突出先端が周方向および軸方向に広がる面とされている。それ故、第二の取付部材18と取付筒部80の圧入面を十分な面積で確保することができて、圧入によって発揮されるシール反力に対する抗力、換言すれば抜けに対する抗力を有効に得ることができる。
【0105】
さらに、本実施形態では、圧入突部82が取付筒部80の基端まで軸方向に延びており、圧入面積が効率的に確保されると共に、圧入時に第二の取付部材18と取付筒部80の相対的な傾斜が生じ難くなっている。しかも、圧入突部82の形成部分では、環状板部78に伝達防止孔84が形成されていることから、圧入突部82が取付筒部80の基端まで形成されていても、取付筒部80および環状板部78が圧入突部82によって補強されて応力の伝達効率が高まるのを回避することができる。特に、伝達防止孔84は、取付筒部80の内周面(圧入突部82の突出先端面)の軸方向への延長線を含む環状板部78の外周端部に形成されていることから、圧入突部82による補強作用が有利に回避されて、取付筒部80から環状板部78への応力伝達が効果的に低減される。
【0106】
更にまた、圧入面を構成する圧入突部82の内周面(圧入突部82の突出先端面)と第二の取付部材18の圧入部42の外周面(圧入突部82の突出先端の当接面)とが、何れも軸方向に非傾斜で延びている。それ故、圧入面の面積が効率的に大きく確保されると共に、引っ掛かり等の少ないスムーズな圧入作業を実現しつつ、圧入によって発揮される抗力を有効に得ることができる。
【0107】
尤も、圧入突部82の内周面と第二の取付部材18の圧入部42の外周面とが相対的に傾斜していても、少なくとも一部において圧入状態で目的とする抗力が発揮されていれば良い。即ち、圧入突部82と圧入部42が、軸方向で部分的に当接していると共に、他の部分ではそれら圧入突部82と圧入部42の径方向間に隙間が形成された構造も採用可能である。更には、圧入突部82の内周面と第二の取付部材18の圧入部42の外周面とが、相互に平行で且つ何れも軸方向に対して傾斜する傾斜面とされていても良く、例えば、圧入突部82の内周面が取付筒部80の上開口部に向かって拡開する傾斜面とされていれば、第二の取付部材18を取付筒部80に差し入れ易くなる。
【0108】
また、圧入突部82が取付筒部80の内周面に突出して形成されて、圧入突部82と伝達防止孔84が何れも押圧部材72に形成されている。それ故、圧入突部82と伝達防止孔84が周方向で予め相互に位置決めされて、圧入突部82の形成位置に応じて設定される応力の伝達部分に伝達防止孔84を配置することができる。
【0109】
また、本実施形態の伝達防止部が伝達防止孔84とされており、内周面が径方向で十分に離れていることから、内周面が径方向で接触乃至は近接しているスリット(切込み)などに比して、環状板部78の変形時などにも応力の伝達が有効に低減される。しかも、伝達防止孔84は、スリットなどに比して環状板部78を成形する際に形成し易く、伝達防止部を形成するための後加工なども不要になる。
【0110】
さらに、環状板部78は、複数の伝達防止孔84の形成によって低下した変形剛性が、補強リブ81によって補われている。これにより、圧入突部82の突出先端面で設定される圧入面を大きく確保すると共に、各圧入突部82からシール筒部74への応力伝達を伝達防止孔84によって有効に低減しながら、環状板部78の著しい強度の低下を防ぐことができる。特に、補強リブ81が伝達防止孔84の形成部分を外れて配置されていることから、補強リブ81によって応力伝達率が高められるのを防ぐこともできる。
【0111】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、伝達防止部は、前記実施形態で示す孔状のものに限定されず、内面が径方向で相互に当接したスリット状などの他、図20に示すような構造も採用される。即ち、図20に示された封止用部材としての押圧部材130の環状板部78には、下面に開口する凹所状乃至は切欠き状の肉抜部132が形成されており、環状板部78における肉抜部132の形成部分が、変形剛性の小さい伝達防止部としての薄肉部134とされている。このような伝達防止部によっても、圧入に伴う応力の伝達が低減される。
【0112】
さらに、図21に示された封止用部材としての押圧部材140の環状板部78には、環状板部78を貫通する伝達防止孔84と、環状板部78の上面に開口して周方向に延びる凹所状乃至は凹溝状の肉抜部142とが形成されている。これにより、押圧部材140では、伝達防止孔84に加えて、肉抜部142の形成部分に設けられて肉抜部142で変形剛性が小さくされることにより応力伝達率が低下させしめられた薄肉部144によっても、環状板部78の伝達防止部が構成されている。また、薄肉部144は、各圧入突部82に対応する位置ごとに設けられていても良いが、図21に示すように、周方向に半周以上の長さで連続して設けられて、複数の圧入突部82が薄肉部144の周方向中間に配置されていても良い。更に、押圧部材140では、伝達防止部が全ての圧入突部82の内周側には設けられておらず、幾つかの圧入突部82の内周側には伝達防止孔84と薄肉部144の何れも設けられていない。図21の構造からも明らかなように、複数の互いに構造の異なる複数種類の伝達防止部を組み合わせて採用することができると共に、圧入突部82からシール筒部74への応力伝達部分の全てに伝達防止部を設ける必要はない。なお、図20,21において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0113】
また、圧入突部と伝達防止部は、必ずしも周方向に同じ長さで形成されていなくても良く、それら圧入突部と伝達防止部の周方向長さが互いに異なっており、それら圧入突部と伝達防止部の何れか一方が他方よりも周方向の外側にまで延びていても良い。なお、圧入突部と伝達防止部の周方向長さが互いに異なっている場合には、伝達防止部の周方向長さが圧入突部の周方向長さよりも大きくされて、伝達防止部が圧入突部よりも周方向外側まで延びていることが望ましい。
【0114】
また、伝達防止部は、圧入による応力の伝達部分に形成されていれば、必ずしも圧入突部と同じ周方向位置に配される必要はない。特に、伝達防止部と圧入突部の周方向長さが相互に異なる場合には、それら伝達防止部と圧入突部が周方向で互いに異なる位置に配置され得る。
【0115】
また、伝達防止部は、必ずしも段差部における取付筒部側の端部に形成されていなくても良く、例えば、伝達防止部は、段差部の径方向中央部分に形成されて、取付筒部に対して内周へ離れて位置せしめられていても良い。
【0116】
前記第一の実施形態では、第二の取付部材18の取付筒部80への圧入によって仮シール状態のマウント本体12が構成されて、マウント本体12にアウタブラケット14が装着されることで、本シール状態のエンジンマウント10が構成されるようになっているが、例えば圧入代などを適宜に設定することで、第二の取付部材18の取付筒部80への圧入によって、流体室88に高度な流体密性が設定された本シール状態のマウント本体12が構成されるようにもできる。
【0117】
また、インナブラケットおよびアウタブラケットの具体的な構造は何等限定されるものではない。例えば、アウタブラケットにおいて、門形部の頂部を有しない構造が採用されてもよい。かかる構造のアウタブラケットが採用される場合においてリバウンドストッパ機能が必要とされる場合には、別構造のリバウンドストッパを別途採用する等してもよい。更にまた、第一の取付部材は、ブロック形状等の構造も適宜採用可能である。
【0118】
さらに、本発明は、エンジンマウントだけに適用されるものではなく、例えばサブフレームマウントやデフマウントなどにも適用され得る。更にまた、本発明に係る流体封入式防振装置は、自動車用に限定されるものではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などにも用いられ得る。
【符号の説明】
【0119】
10:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、12:マウント本体、14:アウタブラケット(連結部材)、16:第一の取付部材、18:第二の取付部材、20:本体ゴム弾性体、40:挿通ピン(位置決め手段)、52:シールゴム、58:仕切部材、60:可撓性膜、72:押圧部材(封止用部材)、74:シール筒部、78:環状板部(段差部)、80:取付筒部、81:補強リブ、82:圧入突部、84:伝達防止孔(伝達防止部)、86:位置決め孔(位置決め手段)、88:流体室、90:受圧室、92:平衡室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21