(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定閾値を第1閾値とし、該第1閾値よりも大きい閾値を第2閾値とするとともに、前記時間閾値を第1閾値とし、該第1時間閾値よりも時間的に大きい時間閾値を第2時間閾値として、
前記判定工程において、
前記第1閾値以上の前記スペクトル値が連続する前記時間長さが、前記第1時間閾値以上かつ前記第2時間閾値未満の場合、前記グラウト充填状態を充填不足と判定し、前記第2閾値以上の前記スペクトル値が連続する前記時間長さが、前記第2時間閾値以上の場合、前記グラウト充填状態を未充填と判定する
請求項1に記載の非破壊検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑み、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、安定した判定結果を得られる非破壊検査方法、及び非破壊検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、プレストレストコンクリート構造物に埋設されたシース管の直上で、前記プレストレストコンクリート構造物の表面を連続打撃して弾性波を入力する打撃探触子と、前記プレストレストコンクリート構造物の表面で前記弾性波を連続的に受信する受信探触子と、該受信探触子が受信した前記弾性波を受信波として取得するとともに、該受信波に基づいて前記シース管のグラウト充填状態を解析する解析機器とを備えた非破壊検査装置、及びこれを用いた非破壊検査方法であって、前記解析機器に、前記受信波をウェーブレット変換してスペクトルの時間的推移データを生成する変換工程と、シースかぶり厚に基づいて予め算出した周波数を判定周波数とし、前記スペクトルの時間的推移データにおける所定閾値以上のスペクトル値が連続する時間を時間長さとして、前記判定周波数における前記時間長さが、前記時間長さに対する閾値である時間閾値以上の場合、前記グラウト充填状態を未充填、または充填不足と判定する判定工程とを備えたことを特徴とする。
【0015】
上記打撃探触子は、1つの打撃探触子、あるいは複数の打撃探触子を束ねて構成した面打撃ユニットにおける打撃探触子とすることができる。
上記受信探触子が受信した弾性波とは、プレストレストコンクリート構造物の表面とシース管との間やプレストレストコンクリート構造物の端面間で弾性波が重複反射した共振波、プレストレストコンクリート構造物の端面で弾性波が反射した反射波、並びにプレストレストコンクリート構造物の表層に沿って伝播する弾性波のことをいう。
【0016】
上記受信探触子は、1つの受信探触子、あるいは複数の受信探触子を束ねて構成した面受信ユニットにおける受信探触子とすることができる。
上記解析機器は、打撃探触子、及び受信探触子が接続された単独の解析機器、あるいは、打撃探触子、及び受信探触子が接続され、打撃探触子、及び受信探触子を制御する機器と、グラウト充填状態を解析判定する機器とで構成された解析機器などとすることができる。
【0017】
上記ウェーブレット変換は、例えば、マザーウェーブレットとしてGABORウェーブレットを用いた変換などとすることができる。
上記所定閾値、及び時間閾値は、シース管の外径、シースかぶり厚、及びコンクリート縦波音速に基づいて設定された閾値とすることができる。
上記スペクトル値は、絶対値で示される値、あるいは最大スペクトル値を基準値として、スペクトルの時間的推移データのスペクトル値を基準値に対する相対値に置換した値とすることができる。
【0018】
この発明により、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、安定した判定結果を得ることができる。
具体的には、受信波をウェーブレット変換して生成したスペクトルの時間的推移データにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、例えば、減衰時間の違いによって、妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを識別することができる。
【0019】
つまり、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、周波数情報、及び時間情報に基づいて妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを識別することができる。このため、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、妨害波に起因するスペクトルによる誤判定頻度を低減することができる。
【0020】
さらに、グラウトが未充填または充填不足のシース管とプレストレストコンクリート構造物の表面との間で重複反射した共振波は、グラウトが完全充填されたシース管とプレストレストコンクリート構造物の表面との間で重複反射した共振波に比べて、スペクトル値が大きく、かつ減衰時間が長い傾向がある。
【0021】
そこで、判定周波数において、スペクトルの時間的推移データにおける所定閾値以上のスペクトル値が連続する時間長さに基づいてグラウト充填状態を判定することにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、完全充填であるか否かを数値判定することができる。
【0022】
これにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、スカログラムを用いた目視判定に比べて、充填不足、または完全充填の判定を、容易に、かつ安定して判定することができる。
特に、スカログラムを用いた目視判定の場合では、完全充填と充填不足との境界が判定者の技量や判断に左右されるのに対して、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、数値判定によって完全充填と充填不足とを安定して判定することができる。
【0023】
このため、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、妨害波に起因するスペクトルによる誤判定頻度だけでなく、判定手段に起因する誤判定頻度をも低減することができる。
従って、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置は、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、安定した判定結果を得ることができる。
【0024】
この発明の態様として、前記所定閾値を第1閾値とし、該第1閾値よりも大きい閾値を第2閾値とするとともに、前記時間閾値を第1閾値とし、該第1時間閾値よりも時間的に大きい時間閾値を第2時間閾値として、前記判定工程において、前記第1閾値以上の前記スペクトル値が連続する前記時間長さが、前記第1時間閾値以上かつ前記第2時間閾値未満の場合、前記グラウト充填状態を充填不足と判定し、前記第2閾値以上の前記スペクトル値が連続する前記時間長さが、前記第2時間閾値以上の場合、前記グラウト充填状態を未充填と判定することができる。
【0025】
上記第1閾値、及び第2閾値は、シース管の外径、シースかぶり厚、及びコンクリート縦波音速に基づいて設定された閾値とすることができる。さらに、第1閾値、及び第2閾値は、単位時間毎の最大スペクトル値を基準値として、スペクトルの時間的推移データにおける単位時間毎のスペクトル値を基準値に対する相対値に置換した場合の基準値とすることができる。
上記第1時間閾値、及び第2時間閾値は、シース管の外径、シースかぶり厚、及びコンクリート縦波音速に基づいて設定された閾値とすることができる。
【0026】
この発明により、非破壊検査方法は、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より詳細で安定した判定結果を得ることができる。
具体的には、判定周波数におけるスペクトル値は、グラウト充填状態が未充填ほど大きくなり易い。
【0027】
そこで、判定周波数におけるスペクトル値をさらに数値判定することで、非破壊検査方法は、グラウト充填状態をより詳細に判定することができる。つまり、非破壊検査方法は、未充填または充填不足かをスペクトル値情報に基づいてより詳細に判定することができる。
【0028】
さらに、非破壊検査方法は、判定者の技量や判断に左右されるスカログラムを用いた目視判定に比べて、未充填または充填不足かをより安定して判定することができる。このため、非破壊検査方法は、判定手段による誤判定頻度をより抑制することができる。
【0029】
従って、非破壊検査方法は、判定周波数におけるスペクトル値をさらに数値判定することで、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より詳細で安定した判定結果を得ることができる。
【0030】
またこの発明の態様として、前記解析機器に、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値として、前記スペクトルの時間的推移データにおける前記単位時間毎の前記スペクトル値を、前記基準値に対する相対値に置換する置換工程を備えることができる。
【0031】
この発明により、非破壊検査方法は、プレストレストコンクリート構造物におけるグラウト充填状態の誤判定頻度をより確実に低減することができる。
具体的には、受信波のうち、プレストレストコンクリート構造物の表層を伝播する振動のような妨害波に起因する成分波は、打撃開始直後に発生し易く、かつ共振波でないため、短時間で減衰し易い傾向がある。
【0032】
これに対して、受信波のうち、グラウト充填状態に起因する成分波は、共振波であるため、打撃開始時刻よりも遅れて発生するとともに、妨害波に起因する成分波の減衰時間に比べて減衰時間が長い。
【0033】
このため、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データにおいて、妨害波に起因するスペクトルの最大スペクトル値と、グラウト充填状態に起因するスペクトルの最大スペクトル値とが、同一時間帯に出現し難い。
【0034】
そこで、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値として、スペクトル値を相対値に置換したことで、非破壊検査方法は、妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを、時間帯によって明確に異ならせることができる。
【0035】
さらに、例えば、妨害波に起因するスペクトルのスペクトル値が全時間帯における最大値となるスペクトルの時間的推移データにおいて、全時間帯におけるスペクトル値の最大値を基準値として、スペクトル値を相対値に置換した場合、グラウト充填状態に起因するスペクトルの相対値が、妨害波に起因するスペクトルのスペクトル値に左右され易くなる。
【0036】
これに対して、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値としたことで、非破壊検査方法は、妨害波に起因するスペクトルに左右されることなく、グラウト充填状態に起因するスペクトルを相対値に置換することができる。
【0037】
このため、非破壊検査方法は、妨害波に起因するスペクトル、及びグラウト充填状態に起因するスペクトルの双方を、それぞれ異なる時間帯で、かつ大きな相対値で表示可能なスペクトルの時間的推移データを得ることができる。
【0038】
これにより、非破壊検査方法は、全時間帯におけるスペクトル値の最大値を基準値とした場合に比べて、妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを確実に識別することができる。このため、非破壊検査方法は、多くの妨害波成分が重畳した受信波を取得した場合であっても、グラウト充填状態の判定精度が低下することを抑制できる。
【0039】
従って、非破壊検査方法は、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値として、スペクトル値を相対値に置換したことで、プレストレストコンクリート構造物におけるグラウト充填状態の誤判定頻度をより確実に低減することができる。
【0040】
またこの発明の態様として、前記解析機器に、前記判定周波数に所定係数を乗算した値を遮断周波数とするハイパスフィルタによって前記受信波をフィルタリングするフィルタリング工程を備え、前記変換工程において、前記フィルタリング工程でフィルタリングされた前記受信波を、ウェーブレット変換することができる。
【0041】
上記所定係数は、シース管の外径、シースかぶり厚、及びコンクリート縦波音速に基づいて設定された定数であって、グラウト充填状態の誤判定頻度を抑制できる値とすることができる。
【0042】
この発明により、非破壊検査方法は、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より安定した判定結果を得ることができる。
具体的には、妨害波としては、上述したプレストレストコンクリート構造物の表層を伝播する振動に起因するものの他に、プレストレストコンクリート構造物の表層を伝播する振動が、プレストレストコンクリート構造物の端部で反射した振動に起因するものなどがある。
【0043】
このような妨害波は、非共振波であるため、判定周波数よりも低い低周波成分が支配的であることが多い。このため、非破壊検査方法は、ハイパスフィルタによって受信波をフィルタリングすることで、遮断周波数よりも低い低周波数帯の妨害波成分を、全時間帯において低減または除去することができる。
【0044】
これにより、非破壊検査方法は、妨害波成分によって隠蔽されたシース管に起因するスペクトル、及び版厚に起因するスペクトルを識別することができる。このため、非破壊検査方法は、プレストレストコンクリート構造物の内部状態に応じたスペクトルの時間的推移データをより確実に得ることができる。
【0045】
従って、非破壊検査方法は、受信波をハイパスフィルタでフィルタリングしたことにより、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より安定した判定結果を得ることができる。
【0046】
またこの発明の態様として、複数の前記打撃探触子を束ねて一体的に構成した面打撃ユニットにおける前記複数の打撃探触子が、前記プレストレストコンクリート構造物の表面を同時打撃する工程と、複数の前記受信探触子を束ねて一体的に構成した面受信ユニットにおける前記複数の受信探触子が、前記弾性波を同時受信する工程とを備え、前記解析機器に、前記面受信ユニットが同時受信した前記弾性波を合成して前記受信波を生成する合成工程を備えることができる。
【0047】
この発明により、非破壊検査方法は、グラウト充填状態の探査を効率よく行うことができるとともに、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、さらに安定した判定結果を得ることができる。
【0048】
具体的には、既存のプレストレストコンクリート構造物において、施工図面どおりにシース管が配置されていないことが往々にしてあるため、グラウト充填状態を探査する際、電磁波レーダを用いた探査でシース管の位置を特定する必要があった。
【0049】
しかしながら、電磁波レーダを用いたシース管の探査では、最大で3cm程度の誤差が生じることがあるため、グラウト充填状態を探査する際、打撃探触子及び受信探触子が、シース管の直上に位置しないことがあった。このような場合、シース管で生じた共振波を、シース管の直上で捉えることが困難となる。
【0050】
このため、打撃探触子による一点打撃、及び受信探触子よる一点受信では、打撃探触子、及び受信探触子の位置を細かく変えながら複数回探査する必要があり、グラウト充填状態の探査を効率よく行うことができないという問題があった。
【0051】
これに対して、複数の打撃探触子で構成した面打撃ユニット、及び複数の受信探触子で構成した面受信ユニットにより、非破壊検査方法は、多点同時打撃、及び多点同時受信を実現することができる。このため、非破壊検査方法は、1つの打撃探触子による一点打撃に比べて、広範囲に弾性波を効率よく入力することができる。
【0052】
これにより、電磁波レーダによるシース管の位置探査に誤差が生じた場合であっても、非破壊検査方法は、弾性波をシース管に容易に到達させることができる。さらに、面受信ユニットによってプレストレストコンクリート構造物の内部を伝播する弾性波を同時受信できるため、非破壊検査方法は、プレストレストコンクリート構造物の表面とシース管との間で重複反射した共振波をより確実に、かつ効率よく受信することができる。
【0053】
そして、同時受信した弾性波を合成して受信波を生成することで、非破壊検査方法は、電磁波レーダによるシース管の位置探査に誤差が生じた場合であっても、1回の打撃に対する受信波の精度を向上することができる。
【0054】
これにより、非破壊検査方法は、スペクトルの時間的推移データの精度を向上でき、電磁波レーダによるシース管の位置探査で生じた誤差に起因する誤判定頻度を抑制することができる。
従って、非破壊検査方法は、グラウト充填状態の探査を効率よく行うことができるとともに、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、さらに安定した判定結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0055】
本発明により、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、安定した判定結果を得られる非破壊検査方法、及び非破壊検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0057】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態における非破壊検査装置10は、道路や鉄道における橋梁などの主桁、横桁、あるいは床板を構成するコンクリート構造物、ポストテンション法で製造されたプレストレストコンクリート構造物の内部を非破壊検査する装置である。このような非破壊検査装置10について、
図1から
図6を用いて詳しく説明する。
【0058】
なお、
図1は非破壊検査装置10の構成図を示し、
図2はグラウト充填状態を説明する説明図を示し、
図3は非破壊検査装置10のブロック図を示し、
図4は面打撃ユニット11、及び面受信ユニット12を説明する説明図を示し、
図5及び
図6は入射波Rを説明する説明図を示している。
【0059】
さらに、
図2(a)はグラウト充填状態が完全充填の状態におけるシース管2の断面図を示し、
図2(b)はグラウト充填状態が充填不足の状態におけるシース管2の断面図を示し、
図2(c)はグラウト充填状態が未充填の状態におけるシース管2の断面図を示している。
【0060】
加えて、
図4(a)は面打撃ユニット11の底面図を示し、
図4(b)は面受信ユニット12の底面図を示し、
図4(c)は弾性波E、及び入射波Rを説明する説明図を示している。なお、
図4(c)中において、図示を明確にするため、コンクリート4のハッチングを省略している。
【0061】
また、
図5(a)はシース共振波Rsを説明する説明図を示し、
図5(b)は版厚共振波Rwを説明する説明図を示し、
図6(a)はコンクリート上面4a側の表層に沿って伝搬する弾性波E、及び端面反射波Reを説明する説明図を示し、
図6(b)は鉄筋共振波Rfを説明する説明図を示している。
【0062】
まず、検査対象物であるプレストレストコンクリート構造物1について説明する。
プレストレストコンクリート構造物1は、
図1及び
図2(a)に示すように、略円筒状のシース管2と、複数の鋼線3aを撚り合せて形成するとともに、シース管2の内部に配置したPC鋼材3と、シース管2の外周面側に打設したコンクリート4とで構成している。
【0063】
このプレストレストコンクリート構造物1は、型枠内の所定位置にシース管2を配置したのち、型枠内にコンクリート4を打設する前、あるいは型枠内にコンクリート4を打設した後、シース管2内にPC鋼材3を挿入している。そして、所定の養生期間が経過したのち、緊張させたPC鋼材3をコンクリート4に定着させて形成している。
【0064】
さらに、シース管2の内部には、
図2(a)に示すように、PC鋼材3の防錆のために、モルタルなどのグラウト5を充填している。このグラウト5が、
図2(a)に示すように、シース管2の内部に隙間なく充填されたグラウト充填状態を完全充填とする。
【0065】
なお、グラウト充填状態の他の態様として、グラウト5が、
図2(b)に示すように、シース管2の内部に十分充填されていないグラウト充填状態を充填不足とする。さらに、グラウト5が、
図2(c)に示すように、シース管2の内部に充填されていないグラウト充填状態を未充填とする。
【0066】
そして、本実施形態における非破壊検査装置10は、上述したグラウト充填状態を非破壊検査する装置である。
この非破壊検査装置10は、
図1及び
図3に示すように、プレストレストコンクリート構造物1のコンクリート上面4aに配設される面打撃ユニット11、及び面受信ユニット12と、面打撃ユニット11、及び面受信ユニット12が電気的に接続される解析機器13とで構成している。
【0067】
面打撃ユニット11は、
図4(a)及び
図4(c)に示すように、コンクリート上面4aに接触する12本の打撃探触子11aと、12本の打撃探触子11aを内部に収容保持するハウジング11bなどで構成している。なお、12本の打撃探触子11aは、ハウジング11bの内部において、所定間隔を隔てて均等配置している。
【0068】
この面打撃ユニット11は、電気的に接続された解析機器13からの打撃信号を受付ける機能と、打撃信号に基づいて全ての打撃探触子11aが同時にコンクリート上面4aを打撃して、プレストレストコンクリート構造物1の内部に弾性波Eを入力する機能とを有している。
【0069】
面受信ユニット12は、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、コンクリート上面4aに接触する12本の受信探触子12aと、12本の受信探触子12aを内部に収容保持する略円筒状のハウジング12bなどで構成している。なお、12本の受信探触子12aは、ハウジング12bの内部において、所定間隔を隔てて均等配置している。
【0070】
この面受信ユニット12は、入射波Rを受信探触子12aで受信する機能と、受信した入射波Rを示す受信信号を解析機器13に送信する機能とを有している。
ここで、面受信ユニット12が受信する入射波Rについて、面打撃ユニット11の打撃探触子11aのひとつが入力した弾性波Eを用いて説明する。なお、その他の打撃探触子11aが入力した弾性波Eも同様に伝播するものとする。
【0071】
面受信ユニット12が受信する入射波Rには、
図5及び
図6に示すように、プレストレストコンクリート構造物1の内部で弾性波Eが反射したものと、コンクリート上面4a側の表層に沿って伝搬する弾性波E(
図6(a)参照)とが重畳している。加えて、プレストレストコンクリート構造物1が供用中の橋梁の場合、面受信ユニット12が受信する入射波Rには、車両の通行に伴う振動のような外的要因に起因する成分波も重畳している。
【0072】
なお、プレストレストコンクリート構造物1の内部で弾性波Eが反射したものとして、シース管2とコンクリート上面4aとの間で重複反射した共振波であるシース共振波Rs(
図5(a)参照)、コンクリート上面4aとコンクリート底面4bとの間で重複反射した共振波である版厚共振波Rw(
図5(b)参照)とがある。
【0073】
さらに、プレストレストコンクリート構造物1の内部で弾性波Eが反射したものとしては、コンクリート上面4a側の表層に沿って伝播する弾性波Eが、プレストレストコンクリート構造物1の端面で反射した反射波である端面反射波Re(
図6(a)参照)がある。加えて、コンクリート上面4aとシース管2との間に鉄筋6が埋設されている場合、鉄筋6とコンクリート上面4aとの間で重複反射した共振波である鉄筋共振波Rf(
図6(b)参照)がある。
【0074】
解析機器13は、
図3に示すように、面打撃ユニット11が接続される打撃ユニット接続部131と、面受信ユニット12が接続される受信ユニット接続部132と、各種情報を記憶する記憶部133と、作業者の操作を受付ける操作部134と、各種情報を表示する表示部135と、これらを制御する制御部136とで構成している。
【0075】
打撃ユニット接続部131は、制御部136から指示によって、面打撃ユニット11に対して打撃信号を出力する機能を有している。
受信ユニット接続部132は、面受信ユニット12からの受信信号を受付ける機能と、受信信号を制御部136に送信する機能とを有している。
【0076】
記憶部133は、ハードディスクあるいは不揮発性メモリなどで構成し、各種情報を書き込んで記憶する機能と、各種情報を読み出す機能とを有している。この記憶部133は、グラウト充填状態を解析する解析プログラム、作業者が入力した各種パラメーターなどを記憶している。
【0077】
操作部134は、キーボードなどで構成し、作業者による入力操作を受け付ける機能を有している。
表示部135は、液晶ディスプレイなどで構成し、各種パラメーターの入力を促す入力画面や、解析結果を示す解析結果画面などの各種情報を表示する機能を有している。
【0078】
制御部136は、CPU及びメモリなどで構成し、面打撃ユニット11への打撃信号の出力に係る各種処理機能と、面受信ユニット12からの受信信号に基づいたグラウト充填状態の解析に係る各種処理機能と、所定のバスを介して接続された各部の動作を制御する機能とを有している。
【0079】
さらに、制御部136は、グラウト充填状態の解析に係る各種手段として、受信信号に基づいて入射波Rを合成した合成波を生成する合成手段と、ハイパスフィルタによって合成波をフィルタリングするフィルタリング手段と、合成波をウェーブレット変換してスペクトルの時間的推移データを生成する変換手段と、スペクトルの時間的推移データのスペクトル値を相対値に置換する置換手段と、スペクトルの時間的推移データに基づいてグラウト充填状態を判定する判定手段とを、解析プログラムを実行することで実現する機能を有している。
【0080】
次に、プレストレストコンクリート構造物1に埋設されたシース管2のグラウト充填状態を、上述した非破壊検査装置10を用いて解析する工程について、
図7から
図16を用いて詳しく説明する。
【0081】
なお、
図7はプレストレストコンクリート構造物1の詳細を説明する説明図を示し、
図8は解析機器13の制御部136における動作のフローチャートを示し、
図9及び
図10はシース共振波Rsの合成波を説明する説明図を示し、
図11はハイパスフィルタA(f)を説明する説明図を示し、
図12は共振波のフィルタリング処理を説明する説明図を示し、
図13は非共振波のフィルタリング処理を説明する説明図を示している。
【0082】
さらに、
図14は判定処理における動作のフローチャートを示し、
図15はグラウト充填状態が完全充填のスペクトルの時間的推移データを説明する説明図を示し、
図16はグラウト充填状態が未充填のスペクトルの時間的推移データを説明する説明図を示している。
【0083】
また、
図7(a)はプレストレストコンクリート構造物1の縦断面図を示し、
図7(b)はコンクリート4の図示を省略したプレストレストコンクリート構造物1の平面図を示している。
【0084】
さらに、
図15(a)は完全充填におけるスペクトルの時間的推移データのスカログラムを示し、
図15(b)は完全充填におけるスペクトルの時間的推移データのスペクトログラムを示し、
図16(a)は未充填におけるスペクトルの時間的推移データのスカログラムを示し、
図16(b)は未充填におけるスペクトルの時間的推移データのスペクトログラムを示している。
【0085】
まず、解析対象物であるプレストレストコンクリート構造物1は、
図7(a)に示すように、コンクリート上面4aからコンクリート底面4bまでの距離、すなわちコンクリート版厚dwが300mmとなるように形成されている。
【0086】
さらに、プレストレストコンクリート構造物1の内部には、コンクリート上面4aから70mmの位置に、外径φが60mmのシース管2が埋設されている。このコンクリート上面4aからシース管2までの距離をシースかぶり厚dsとする。
【0087】
そして、プレストレストコンクリート構造物1の内部には、コンクリート上面4aとシース管2との間に、シース管2の径方向に長い略棒状の鉄筋7と、シース管2の軸方向に長い略棒状の通し筋8とが略格子状に接合された状態で埋設されている。
【0088】
より詳しくは、プレストレストコンクリート構造物1の内部には、シース管2の軸方向に沿って複数の鉄筋7が所定間隔を隔てて配置されるとともに、シース管2の径方向に沿って複数の通し筋8が所定間隔を隔てて配置されている。そして、複数の鉄筋7と複数の通し筋8との交差部分を接合して略格子状に形成している。なお、シース管2の直下には、複数の通し筋8のうち1本の通し筋8が位置している。
【0089】
このようなプレストレストコンクリート構造物1に対して、作業者は、施工図面等に基づいてシース管2の位置を、電磁波レーダを用いて探査したのち、シース管2の直上のコンクリート上面4aに面打撃ユニット11、及び面受信ユニット12を隣接して配置する。この際、作業者は、鉄筋7の間に位置するように、面打撃ユニット11、及び面受信ユニット12を配置する。
【0090】
その後、作業者による開始操作を受付けると、解析機器13の制御部136は、
図8に示すように、パラメーター入力受付処理を開始して(ステップS101)、各種パラメーターの入力を促す入力画面(図示省略)を表示部135に表示させる。
【0091】
この入力画面には、各種情報の入力を案内するメッセージや、面打撃ユニット11に出力する打撃信号を生成するための打撃パラメーターの入力欄や、グラウト充填状態を解析するための解析パラメーターの入力欄などが表示されている。
【0092】
なお、打撃パラメーターとしては、例えば、打撃間隔、打撃回数の上限を示す設定回数、及び打撃強さなどがある。さらに、解析パラメーターとしては、例えば、コンクリート版厚dw、シースかぶり厚ds、予め計測したコンクリート縦波音速C
p、シース管2の外径φ、及び後述するウェーブレット変換に係る各種設定値などがある。
【0093】
作業員が操作部134を操作して各種パラメーターの入力が完了すると、制御部136は、入力された各種パラメーターを記憶部133に記憶する。その後、作業員が操作部134を操作して、グラウト充填状態の解析を開始する開始ボタンを押下すると、制御部136は、シース共振波Rsに起因するシース共振周波数f
sと、版厚共振波Rwに起因する版厚共振周波数f
wとを、解析パラメーターに基づいて算出する。
このシース共振周波数f
s、及び版厚共振周波数f
wは、それぞれ以下の数1、及び数2で定義される。
【0095】
【数2】
ここで、上記数1、及び数2における補正係数βは、0.85以上0.96以下の範囲である。本実施形態では、シース共振周波数f
sの補正係数βを0.85に設定し、版厚共振周波数f
wの補正係数βを0.96に設定している。
【0096】
そして、予め計測したコンクリート縦波音速C
pが4400mm/secの場合、上述したようにシースかぶり厚dsが70mmで、コンクリート版厚dwが300mmであるため、シース共振周波数f
sは、上記数1により、0.85×{4400/(2×70)}=27kHzとなる。一方、版厚共振周波数f
wは、上記数2により、0.96×{4400/(2×300)}=7kHzとなる。
【0097】
シース共振周波数f
s、及び版厚共振周波数f
wを算出すると、制御部136は、打撃開始処理を開始し(ステップS102)、打撃パラメーターに基づいて打撃信号を生成するとともに、打撃ユニット接続部131を介して打撃信号を面打撃ユニット11に出力する。
【0098】
打撃信号を受信すると、面打撃ユニット11は、全ての打撃探触子11aがコンクリート上面4aを同時に打撃する。換言すると、面打撃ユニット11は、コンクリート上面4aを多点同時打撃する。なお、一回の多点同時打撃を、打撃回数1回とカウントする。
【0099】
一方、面受信ユニット12は、全ての受信探触子12aが入射波Rを同時に受信するとともに、受信探触子12aごとに受信信号に変換して解析機器13へ出力する。換言すると、面受信ユニット12は、プレストレストコンクリート構造物1の内部を伝播する振動を多点同時受信する。
【0100】
この際、面受信ユニット12は、シース共振波Rs、版厚共振波Rw、端面反射波Re、コンクリート上面4a側の表層に沿って伝播する弾性波E、及び通し筋8で重複反射した鉄筋共振波Rfなどが重畳した入射波Rを受信探触子12aで受信する。
【0101】
面打撃ユニット11による多点同時打撃、及び面受信ユニット12による多点同時受信が完了すると、制御部136は、合成波生成処理を開始して(ステップS103)、受信探触子12aごとの入射波Rを合成して合成波を生成するとともに、合成波を記憶部133に記憶する。この際、制御部136は、1回の多点同時打撃に対して、1つの合成波を生成する。
【0102】
このようにして得られた合成波は、シース共振波Rsなどのように重複反射した共振波である時系列波(
図12(a)参照)と、コンクリート上面4a側の表層に沿って伝播する弾性波Eなどの非共振波である時系列波(
図13(a)参照)とが重畳した時系列波となる。
【0103】
ここで、
図8のステップS103で生成した合成波について、
図9及び
図10を用いて詳しく説明する。
なお、
図9及び
図10中において、受信探触子12aが受信したシース共振波Rsの説明を容易にするため、シース共振波Rsの1次共振振動数を(fs)とし、対応する波長(Δt)をΔt=1/fsとして、最初の1波のみを図示している。
【0104】
面打撃ユニット11における任意の1つの打撃探触子11aからの距離が、面受信ユニット12の受信探触子12aごとに異なるため、
図5(a)の受信探触子12aが図中の左から右へ順に受信した非共振波(コンクリート表面4a側の表層を伝播する弾性波Eや、端面反射波Reなど)は、受信探触子12aごとに、その位相が異なることになる。このように受信探触子12aごとに位相が異なる非共振波を合成した場合、合成波における非共振波成分は、その振幅が大きく減衰することになる。
【0105】
一方、
図5(a)の受信探触子12aが図中の左から右へ順に受信したシース共振波Rsは、コンクリート表面4aとシース管2との間で重複反射した共振波であるため、その位相が同じになる。
【0106】
このため、隣接する受信探触子12aの間での重複反射回数をn回とした場合、
図5(a)中の受信探触子12aが左から順にシース共振波Rsを受信した受信時刻は、
図9に示すように、共振波1波に重複反射回数n(
図9中ではn=1として図示)を乗算した時間間隔で、時間軸tの時刻後方へ変化していく。このようなシース共振波Rsを合成した場合、合成波における共振波成分は、その振幅が減少することなく長時間に渡り継続する。
【0107】
さらに、重複反射回数nをn=1として、
図5(a)中の左から3番目の受信探触子12aが受信したシース反射共振波Rsと、重複反射回数nをn=2として、
図5(a)中の左から2番目の受信探触子12aが受信したシース反射共振波Rsとは、ともに重複反射回数が2回であるとともに、伝達長が同一となる。
【0108】
このため、左から3番目の受信探触子12aが受信したシース反射共振波Rsの受信時刻と、左から2番目の受信探触子12aが受信したシース反射共振波Rsの受信時刻とは、
図10に示すように、同時刻となる。つまり、この2つの波の合成波の振幅は、個々の波に比べて増幅することになる。
【0109】
このような現象は、面打撃ユニット11の他の全ての打撃探触子11aによる打撃において成立するため、全ての受信探触子12aが受信するシース共振波Rsの合成波は、その振幅が大きくなるとともに、長時間にわたって継続することになる。
【0110】
また、面受信ユニット12が受信した版厚共振波Rw及び鉄筋共振波Rfは、シース共振波Rsと同様に振幅が大きくなるとともに、長時間にわたって継続する。しかしながら、反射経路がシース共振波Rsに比べて、版厚共振波Rwの方が長く、鉄筋共振波Rfが短くなるため、版厚共振波Rwの共振周波数、鉄筋共振波Rfの共振周波数、及びシース共振波Rsの共振周波数が、それぞれ異なる周波数となる。つまり、上述した合成波において、版厚共振波Rw成分、鉄筋共振波Rf成分、及びシース共振波Rs成分の識別が可能となる。
【0111】
図8のステップ103に戻り、合成波生成処理を完了すると、制御部136は、
図8のステップS101で設定した設定回数に打撃回数が到達したか否かを判定する(ステップS104)。
打撃回数が設定回数に到達してなければ(ステップS104:No)、制御部136は、処理をステップS102に戻し、打撃回数が設定回数に達するまでステップS102、及びステップS103の処理を繰返す。つまり、制御部136は、面打撃ユニット11による多点同時打撃、及び面受信ユニット12による多点同時受信を設定回数まで繰り返して、設定回数分の合成波を記憶部133に記憶させる。
【0112】
一方、打撃回数が設定回数に到達した場合(ステップS104:Yes)、制御部136は、記憶部133から設定回数分の合成波を読み出す。その後、制御部136は、シース共振周波数f
sに係数γを乗算した値を遮断周波数f
kとするハイパスフィルタA(f)によって、各合成波をフィルタリングするフィルタリング処理を開始する(ステップS105)。
【0113】
ここで、ハイパスフィルタA(f)によるフィルタリング処理を、横軸を周波数、縦軸を相対値とする二次元グラフの模式図を用いて簡単に説明する。なお、縦軸の相対値は、合成波の最大スペクトル値を基準値「1.0」とする相対値とする。
【0114】
ハイパスフィルタA(f)は、
図11中の細い実線で示すように、周波数0kHzにおいて相対値が0.0で、遮断周波数f
kにかけて非線形で相対値が大きくなり、遮断周波数f
k以上の周波数帯において相対値が1.0となる周波数窓関数である。
【0115】
そして、ハイパスフィルタA(f)によるフィルタリング処理は、合成波に対してハイパスフィルタA(f)を乗算することで、遮断周波数f
kよりも低い低周波成分を低減または除去した波形を得る処理である。
なお、遮断周波数f
kは、以下の数3で定義される。
【0116】
【数3】
ここで、上記数3における係数γは、グラウト充填状態の誤判定頻度を可能な限り低減する値であって、本実施形態では係数γを0.6と設定している。このため、本実施形態における遮断周波数f
kは、シース共振周波数f
sが27kHzであることから、上記数3により、0.6×27=16kHzとなる。
【0117】
例えば、周波数6kHz帯にピークを有する合成波(
図11中の太い破線)に対してフィルタリング処理を行った場合、制御部136は、
図11に示すように、遮断周波数f
kよりも低い低周波成分を除去し、周波数13kHzにピークを有するスペクトル(
図11中の太い実線)を出力する。
【0118】
その後、制御部136は、ハイパスフィルタA(f)を乗算した合成波に対して、逆フーリエ変換して分析用時系列波を得る。この分析用時系列波は、例えば、
図12(a)に示した合成波に含まれる共振波成分が、その振幅が殆ど変化することなく残存した共振波成分の時系列波(
図12(b)参照)と、
図13(a)に示した合成波のうち非共振波成分が、その振幅の全継続時間帯にわたって振幅が小さくなった非共振波成分の時系列波(
図13(b)参照)とが重量した時系列波となる。このため、フィルタリング処理後の合成波は、時間軸tの時刻後方においても、非共振波成分に比べて共振波成分の振幅が大きく残存することになる。
【0119】
全ての合成波に対するフィルタリング処理が完了すると、制御部136は、フィルタリング処理で得た分析用時系列波をウェーブレット変換するウェーブレット変換処理を開始する(ステップS106)。
【0120】
具体的には、制御部136は、設定回数分の分析用時系列波を加算平均する。この際、シース共振波Rsなどの共振波の位相が全ての合成波で同じため、加算平均した分析用時系列波の共振波成分は、加算平均処理の前後で、その強度が保たれたままとなる。一方、端面反射波Reなどの非共振波の位相が合成波毎に異なるため、加算平均した分析用時系列波の非共振波成分は、加算平均処理の過程に伴い、その強度が大幅に低下する。
【0121】
分析用時系列波を加算平均すると、制御部136は、加算平均した分析用時系列波をウェーブレット変換して、周波数情報、スペクトル値情報、及び時間情報を有するスペクトルの時間的推移データを生成する。
なお、ウェーブレット変換は、マザーウェーブレット関数として、GABOR関数ψ(t)を用いた変換であって、以下の数4、及び数5で定義される。
【0123】
【数5】
ここで、上記数5における時間窓の幅σは、1,2,4,8のいずれかであって、例えば
図8のステップS101で予め選択設定するものする。なお、本実施形態では時間窓の幅σを4に設定している。
【0124】
ウェーブレット変換処理を完了すると、制御部136は、スペクトルの時間的推移データのスペクトル値を相対値に置換する置換処理を開始する(ステップS107)。
具体的には、制御部136は、単位時間毎のスペクトルにおける最大スペクトル値を基準値「1.0」として、周波数毎のスペクトル値を基準値「1.0」に対する相対値に置換する。そして、制御部136は、同様の処理を全時間帯のスペクトルに対して繰り返し行い、スペクトル値情報にかえて相対値情報を有するスペクトルの時間的推移データを生成する。
【0125】
置換処理が完了すると、制御部136は、スペクトルの時間的推移データに基づいてグラウト充填状態を判定する判定処理を開始する(ステップS108)。
具体的には、制御部136は、
図14に示すように、相対値に対する上限側の閾値である上限閾値Z1と、シース共振周波数f
sにおける相対値とを比較して、シース共振周波数f
sにおける上限閾値Z1以上の相対値が連続する時間的な長さを時間長さT1として算出する(ステップS121)。
【0126】
ここで、上限閾値Z1は、シース管2の外径φ、シースかぶり厚ds、及びコンクリート縦波音速C
pに基づいて設定された値であって、本実施形態では1.0に設定している。
つまり、
図14のステップS121において、制御部136は、シース共振周波数f
sにおける相対値1.0が連続する時間長さT1を算出している。
【0127】
時間長さT1を算出すると、制御部136は、時間長さT1に対する上限側の閾値である上限時間閾値TL1と、時間長さT1とを比較して、時間長さT1が上限時間閾値TL1以上であるか否かを判定する(ステップS122)。
なお、上限時間閾値TL1は、シース管2の外径φ、シースかぶり厚ds、及びコンクリート縦波音速C
pに基づいて設定された値であって、本実施形態では500μ秒に設定している。
【0128】
そして、時間長さT1が上限時間閾値TL1(500μ秒)以上である場合(ステップS122:Yes)、制御部136は、グラウト充填状態を未充填と判定するとともに(ステップS123)、判定処理を終了して
図8のステップS108に戻る。
【0129】
一方、ステップS122において、時間長さT1が上限時間閾値TL1(500μ秒)未満の場合、(ステップS122:No)、制御部136は、上限閾値Z1よりも小さい下限閾値Z2と、シース共振周波数f
sにおける相対値とを比較して、下限閾値Z2以上の相対値が連続する時間的な長さを時間長さT2として算出する(ステップS124)。
【0130】
ここで、下限閾値Z2は、シース管2の外径φ、シースかぶり厚ds、及びコンクリート縦波音速C
pに基づいて設定された値であって、本実施形態では0.5に設定している。
つまり、ステップS124において、制御部136は、シース共振周波数f
sにおいて、0.5以上の相対値が連続する時間長さT2を算出している。
【0131】
時間長さT2を算出すると、制御部136は、上限時間閾値TL1よりも時間的に小さく、かつ時間長さT2に対する下限側の閾値である下限時間閾値TL2と、時間長さT2とを比較して、時間長さT2が下限時間閾値TL2以上であるか否かを判定する(ステップS125)。
なお、下限時間閾値TL2は、シース管2の外径φ、シースかぶり厚ds、及びコンクリート縦波音速C
pに基づいて設定された値であって、本実施形態では400μ秒に設定している。
【0132】
時間長さT2が下限時間閾値TL2(400μ秒)以上である場合(ステップS125:Yes)、制御部136は、グラウト充填状態を充填不足と判定するとともに(ステップS126)、判定処理を終了して
図8のステップS108に戻る。
【0133】
ステップS125において、時間長さT2が下限時間閾値TL2(400μ秒)未満の場合(ステップS125:No)、制御部136は、グラウト充填状態を完全充填と判定するとともに(ステップS127)、判定処理を終了して
図8のステップS108に戻る。
【0134】
図8のステップS108に戻り、判定処理が完了すると、制御部136は、判定結果を表示部135に表示する解析結果出力処理を開始する(ステップS109)。この際、制御部136は、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいて、例えば、
図15(b)に示すように、横軸を周波数、縦軸を相対値、斜軸を時間とするウェーブレットスペクトログラムを生成して、表示部135に表示させる。
さらに、制御部136は、ウェーブレットスペクトログラムとともに、グラウト充填状態の判定結果を表示部135に表示させて、解析を終了する。
【0135】
引き続き、上述した判定処理について、グラウト充填状態が完全充填(
図2(a)を参照)のプレストレストコンクリート構造物1を解析したスペクトルの時間的推移データ(以下、「完全充填のスペクトルの時間的推移データ」と呼ぶ)と、グラウト充填状態が未充填(
図2(c)を参照)のプレストレストコンクリート構造物1を解析したスペクトルの時間的推移データ(以下、「未充填のスペクトルの時間的推移データ」と呼ぶ)とを用いて詳しく説明する。
なお、スペクトルの時間的推移データは、いずれも上述した置換処理(
図8のステップS107)において、スペクトル値を相対値に置換したスペクトルの時間的推移データとする。
【0136】
まず、完全充填のスペクトルの時間的推移データを、横軸を周波数、縦軸を時間とするスカログラムでみると、
図15(a)に示すように、相対値が大きいことを示す白色部分が、12kHz帯、14kHz帯、及び21kHz帯に生じていることが確認できる。
【0137】
このうち、14kHz帯、及び21kHz帯の白色部分は、版厚共振周波数f
wの1次共振が7kHzであることから、版厚共振周波数f
wの2次共振14kHz、3次共振21kHzに起因して生じたものであることがわかる。
【0138】
また、12kHz帯の白色部分は、版厚共振周波数f
wの1次共振7kHz、2次共振14kHz、及び3次共振21kHzのいずれとも合致しないことから、ハイパスフィルタA(f)で除去しきれなかった妨害波に起因して生じたものであると推測される。そして、シース共振周波数f
sの1次共振である27kHz帯では、白色部分をほとんど確認することができない。
【0139】
この完全充填のスペクトルの時間的推移データを、横軸を周波数、縦軸をスペクトル値の相対値、斜軸を時間とするウェーブレットスペクトログラムでみると、27kHz帯における相対値が、時刻th=510μ秒で最大値0.25を示している。
【0140】
このようなスペクトルの時間的推移データの場合、上述した判定処理における
図14のステップS121において、制御部136は、シース共振周波数f
sにおける相対値1.0が連続する時間長さT1を0秒と算出する。そして、上限時間閾値TL1=500μ秒を時間長さT1が下回るため(ステップS122:No)、制御部136は、処理をステップS124に進める。
【0141】
ステップS124において、27kHz帯における相対値が時刻th=510μ秒で最大値0.25のため、制御部136は、0.5以上の相対値が連続する時間長さT2を0秒と算出する。そして、下限時間閾値TL2=400μ秒を時間長さT2が下回るため(ステップS125:No)、制御部136は、ステップS127において、グラウト充填状態が完全充填であると判定する。
このようにして、非破壊検査装置10は、スペクトルの時間的推移データからグラウト充填状態が完全充填であると解析することができる。
【0142】
一方、未充填のスペクトルの時間的推移データをスカログラムでみると、
図16(a)に示すように、相対値が大きいことを示す白色部分が、12kHz帯、及び27kHz帯に生じていることが確認できる。
【0143】
このうち、12kHz帯の白色部分は、版厚共振周波数f
wの1次共振7kHz、2次共振14kHz、及び3次共振21kHzのいずれとも合致しないことから、ハイパスフィルタA(f)で除去しきれなかった妨害波に起因して生じたものであると推測される。
そして、27kHz帯の白色部分は、シース共振周波数f
sの1次共振が27kHzであることから、シース共振波Rsに起因して生じたものであることがわかる。
【0144】
この未充填のスペクトルの時間的推移データを、横軸を周波数、縦軸をスペクトル値の相対値、斜軸を時間とするウェーブレットスペクトログラムでみると、27kHz帯における相対値が、時刻th=150μ秒から900μ秒の間で最大値1.0を示している。
【0145】
このようなスペクトルの時間的推移データの場合、上述した判定処理における
図14のステップS121において、制御部136は、シース共振周波数f
sにおける相対値1.0が連続する時間長さT1を750μ秒と算出する。
【0146】
そして、上限時間閾値TL1=500μ秒を時間長さT1が上回るため(ステップS122:Yes)、制御部136は、ステップS123において、グラウト充填状態が未充填であると判定する。
このようにして、非破壊検査装置10は、スペクトルの時間的推移データからグラウト充填状態が未充填であると解析することができる。
【0147】
以上のような動作を実現する非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、ウェーブレット変換したスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、安定した判定結果を得ることができる。
【0148】
具体的には、合成波をウェーブレット変換して生成したスペクトルの時間的推移データにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、例えば、減衰時間の違いによって、妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを識別することができる。
【0149】
つまり、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、周波数情報、及び時間情報に基づいて妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを識別することができる。このため、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、妨害波に起因するスペクトルによる誤判定頻度を低減することができる。
【0150】
さらに、グラウト5が未充填または充填不足のシース管2とコンクリート表面4aとの間で重複反射したシース共振波Rsは、グラウト5が完全充填されたシース管2とコンクリート表面4aとの間で重複反射したシース共振波Rsに比べて、相対値が大きく、かつ減衰時間が長い傾向がある。
【0151】
そこで、シース共振周波数f
sにおいて、スペクトルの時間的推移データにおける下限閾値Z2以上の相対値が連続する時間長さT2に基づいてグラウト充填状態を判定することにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、完全充填であるか否かを数値判定することができる。
【0152】
これにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、スカログラムを用いた目視判定に比べて、充填不足、または完全充填の判定を、容易に、かつ安定して判定することができる。
【0153】
特に、スカログラムを用いた目視判定の場合では、完全充填と充填不足との境界が判定者の技量や判断に左右されるのに対して、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、数値判定によって完全充填と充填不足とを安定して判定することができる。
【0154】
このため、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、妨害波に起因するスペクトルによる誤判定頻度だけでなく、判定手段に起因する誤判定頻度をも低減することができる。
従って、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、安定した判定結果を得ることができる。
【0155】
また、下限閾値Z2以上の相対値が連続する時間長さT2が、下限時間閾値TL2以上かつ上限時間閾値TL1未満の場合、グラウト充填状態を充填不足と判定し、上限閾値Z1以上の相対値が連続する時間長さT1が、上限時間閾値TL1以上の場合、グラウト充填状態を未充填と判定することにより、非破壊検査方法は、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より詳細で安定した判定結果を得ることができる。
【0156】
具体的には、シース共振周波数f
sにおける相対値は、グラウト充填状態が未充填ほど大きくなり易い。
そこで、シース共振周波数f
sにおける相対値をさらに数値判定することで、非破壊検査方法は、グラウト充填状態をより詳細に判定することができる。つまり、非破壊検査方法は、未充填または充填不足かを相対値情報に基づいてより詳細に判定することができる。
【0157】
さらに、非破壊検査方法は、判定者の技量や判断に左右されるスカログラムを用いた目視判定に比べて、未充填または充填不足かをより安定して判定することができる。このため、非破壊検査方法は、判定手段による誤判定頻度をより抑制することができる。
【0158】
従って、非破壊検査方法は、シース共振周波数f
sにおける相対値をさらに数値判定することで、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より詳細で安定した判定結果を得ることができる。
【0159】
また、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値として、スペクトルの時間的推移データにおける単位時間毎のスペクトル値を、基準値に対する相対値に置換することにより、非破壊検査方法は、プレストレストコンクリート構造物1におけるグラウト充填状態の誤判定頻度をより確実に低減することができる。
【0160】
具体的には、受信波のうち、コンクリート上面4a側の表層を伝播する振動のような妨害波に起因する成分波は、打撃開始直後に発生し易く、かつ共振波でないため、短時間で減衰し易い傾向がある。
【0161】
これに対して、受信波のうち、グラウト充填状態に起因する成分波は、共振波であるため、打撃開始時刻よりも遅れて発生するとともに、妨害波に起因する成分波の減衰時間に比べて減衰時間が長い。
【0162】
このため、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データにおいて、妨害波に起因するスペクトルの最大スペクトル値と、グラウト充填状態に起因するスペクトルの最大スペクトル値とが、同一時間帯に出現し難い。
【0163】
そこで、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値として、スペクトル値を相対値に置換したことで、非破壊検査方法は、妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを、時間帯によって明確に異ならせることができる。
【0164】
さらに、例えば、妨害波に起因するスペクトルのスペクトル値が全時間帯における最大値となるスペクトルの時間的推移データにおいて、全時間帯におけるスペクトル値の最大値を基準値として、スペクトル値を相対値に置換した場合、グラウト充填状態に起因するスペクトルの相対値が、妨害波に起因するスペクトルの相対値に左右され易くなる。
【0165】
これに対して、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値としたことで、非破壊検査方法は、妨害波に起因するスペクトルに左右されることなく、グラウト充填状態に起因するスペクトルを相対値に置換することができる。
【0166】
このため、非破壊検査方法は、妨害波に起因するスペクトル、及びグラウト充填状態に起因するスペクトルの双方を、それぞれ異なる時間帯で、かつ大きな相対値で表示可能なスペクトルの時間的推移データを得ることができる。
【0167】
これにより、非破壊検査方法は、全時間帯におけるスペクトル値の最大値を基準値とした場合に比べて、妨害波に起因するスペクトルと、グラウト充填状態に起因するスペクトルとを確実に識別することができる。このため、非破壊検査方法は、多くの妨害波成分が重畳した合成波を取得した場合であっても、グラウト充填状態の判定精度が低下することを抑制できる。
【0168】
従って、非破壊検査方法は、単位時間毎のスペクトル値における最大値を基準値として、スペクトル値を相対値に置換したことで、プレストレストコンクリート構造物1におけるグラウト充填状態の誤判定頻度をより確実に低減することができる。
【0169】
また、シース共振周波数f
sに係数γを乗算した値を遮断周波数f
kとするハイパスフィルタA(f)によって合成波をフィルタリングして、フィルタリングされた合成波をウェーブレット変換することにより、非破壊検査方法は、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より安定した判定結果を得ることができる。
【0170】
具体的には、妨害波としては、上述したコンクリート上面4a側の表層を伝播する振動に起因するものの他に、コンクリート上面4a側の表層を伝播する振動が、プレストレストコンクリート構造物1の端部で反射した振動に起因するものなどがある。
【0171】
このような妨害波は、非共振波であるため、シース共振周波数f
sよりも低い低周波成分が支配的であることが多い。このため、非破壊検査方法は、ハイパスフィルタA(f)によって合成波をフィルタリングすることで、遮断周波数f
kよりも低い低周波数帯の妨害波成分を、全時間帯において低減または除去することができる。
【0172】
これにより、非破壊検査方法は、妨害波成分によって隠蔽されたシース管2に起因するスペクトル、及び版厚に起因するスペクトルを識別することができる。このため、非破壊検査方法は、プレストレストコンクリート構造物1の内部状態に応じたスペクトルの時間的推移データをより確実に得ることができる。
【0173】
従って、非破壊検査方法は、合成波をハイパスフィルタA(f)でフィルタリングしたことにより、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、より安定した判定結果を得ることができる。
【0174】
また、コンクリート上面4aを同時打撃する複数の打撃探触子11aで構成した面打撃ユニット11と、入射波Rを同時受信する複数の受信探触子12aで構成した面受信ユニット12とを備え、面受信ユニット12が同時受信した入射波Rを合成して合成波を生成することにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、グラウト充填状態の探査を効率よく行うことができるとともに、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、さらに安定した判定結果を得ることができる。
【0175】
具体的には、既存のプレストレストコンクリート構造物1において、施工図面どおりにシース管2が配置されていないことが往々にしてあるため、グラウト充填状態を探査する際、電磁波レーダを用いた探査でシース管2の位置を特定する必要があった。
【0176】
しかしながら、電磁波レーダを用いたシース管2の探査では、最大で3cm程度の誤差が生じることがあるため、グラウト充填状態を探査する際、打撃探触子11a及び受信探触子12aが、シース管2の直上に位置しないことがあった。このような場合、シース管2で生じたシース共振波Rsを、シース管2の直上で捉えることが困難となる。
【0177】
このため、打撃探触子11aによる一点打撃、及び受信探触子12aよる一点受信では、打撃探触子11a、及び受信探触子12aの位置を細かく変えながら複数回探査する探査する必要があり、グラウト充填状態の探査を効率よく行うことができないという問題があった。
【0178】
これに対して、複数の打撃探触子11aで構成した面打撃ユニット11、及び複数の受信探触子12aで構成した面受信ユニット12により、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、多点同時打撃、及び多点同時受信を実現することができる。このため、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、1つの打撃探触子11aによる一点打撃に比べて、広範囲に弾性波Eを効率よく入力することができる。
【0179】
これにより、電磁波レーダによるシース管2の位置探査に誤差が生じた場合であっても、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、弾性波Eをシース管2に容易に到達させることができる。さらに、面受信ユニット12によって入射波Rを同時受信できるため、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、プレストレストコンクリート構造物1のコンクリート表面4aとシース管2との間で重複反射したシース共振波Rsをより確実に、かつ効率よく受信することができる。
【0180】
そして、同時受信した入射波Rを合成して合成波を生成することで、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は電磁波レーダによるシース管2の位置探査に誤差が生じた場合であっても、1回の打撃に対する合成波の精度を向上することができる。
【0181】
これにより、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、スペクトルの時間的推移データの精度を向上でき、電磁波レーダによるシース管2の位置探査で生じた誤差に起因する誤判定頻度を抑制することができる。
従って、非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10は、グラウト充填状態の探査を効率よく行うことができるとともに、ウェーブレット変換で得たスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、さらに安定した判定結果を得ることができる。
【0182】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のプレストレストコンクリート構造物の表面は、実施形態のコンクリート上面4aに対応し、
以下同様に、
受信探触子が受信した弾性波は、入射波Rに対応し、
受信波は、合成波に対応し、
グラウト充填状態は、完全充填、または充填不足、または未充填に対応し、
変換工程は、
図8のステップS106に対応し、
判定周波数は、シース共振周波数f
sに対応し、
所定閾値、及び第1閾値は、下限閾値Z2に対応し、
判定工程は、
図8のステップS108に対応し、
第2閾値は、上限閾値Z1に対応し、
時間閾値、及び第1時間閾値は、下限時間閾値TL2に対応し、
第2時間閾値は、上限時間閾値TL1に対応し、
第1閾値以上のスペクトル値が連続する時間長さは、時間長さT2に対応し、
第2閾値以上のスペクトル値が連続する時間長さは、時間長さT1に対応し、
置換工程は、
図8のステップS107に対応し、
所定係数は、係数γに対応し、
フィルタリング工程は、
図8のステップS105に対応し、
合成工程は、
図8のステップS103に対応し、
変換手段、判定手段、及び合成手段は、制御部136に対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0183】
例えば、上述した実施形態において、GABORウェーブレットを用いたウェーブレット変換としたが、これに限定せず、その他のマザーウェーブレットを用いたウェーブレット変換としてもよい。
また、上限閾値Z1を「1.0」とし、下限閾値Z2を「0.5」としたが、これに限定せず、例えば、上限閾値Z1を「0.9」とし、下限閾値Z2を「0.4」とするなど、適宜の値としてもよい。
【0184】
また、スペクトルの時間的推移データのスペクトル値を相対値に置換したが、これに限定せず、相対値ではなく絶対値であってもよい。この場合、上限閾値Z1、及び下限閾値Z2を、スペクトル値を示す絶対値とする。
また、上限時間閾値TL1を500μ秒とし、下限時間閾値TL2を400μ秒としたが、これに限定せず、適宜の値としてもよい。
【0185】
また、シース共振周波数f
sを算出する際の補正係数βを0.85とし、版厚共振周波数f
wを算出する際の補正係数βを0.96としたが、これに限定せず、補正係数βを適宜の値としてもよい。なお、補正係数βとしては、0.85以上0.96以下の範囲が望ましい。
また、遮断周波数f
kを算出する際の係数γを0.6としたが、これに限定せず、グラウト充填状態の誤判定頻度を可能な限り低減できる値であれば、適宜の値としてもよい。
【0186】
また、フィルタリング処理で得た分析用時系列波をウェーブレット変換したが、これに限定せず、
図8のステップS105におけるフィルタリング処理をスキップしてもよい。より詳しくは、
図8のステップS103で取得した合成波を加算平均する加算平均処理を行ったのち、ウェーブレット変換してスペクトルの時間的推移データを生成してもよい。この場合であっても、非共振波の位相が受信時間毎に異なるため、加算平均処理によって、非共振波の振幅だけを大幅に小さくすることができる。
【0187】
また、12本の打撃探触子11aで面打撃ユニット11を構成し、12本の受信探触子12aで面受信ユニット12を構成したが、これに限定せず、打撃探触子11a、及び受信探触子12aは適宜の本数としてもよい。または、1本の打撃探触子11aと、1本の受信探触子12aとを備えた非破壊検査装置10としてもよい。
【0188】
また、コンクリート版厚dwが300mm、シースかぶり厚dsが70mm、シース管2の外径φが60mmのプレストレストコンクリート構造物1としたが、これに限定せず、コンクリート版厚dw、シースかぶり厚ds、及びシース管2の外径φが適宜の値のプレストレストコンクリート構造物1であってもよい。
また、複数の鋼線3aを撚り合せたPC鋼材3としたが、これに限定せず、鋼棒、あるいは鋼線であってもよい。
【0189】
また、面打撃ユニット11、及び面受信ユニット12が接続された解析装置13を備えた非破壊検査装置10としたが、これに限定せず、面打撃ユニット11、及び面受信ユニット12を制御するとともに、取得した入射波Rを記憶する制御装置と、取得した入射波Rを解析してグラウト充填状態を判定する解析判定装置とを備えた非破壊検査装置としてもよい。
【0190】
また、ウェーブレットスペクトログラムとともに、グラウト充填状態の判定結果を表示部135に表示させたが、これに限定せず、解析機器13に接続したプリンタなどの出力機器に、ウェーブレットスペクトログラム、及びグラウト充填状態の判定結果などを出力する構成としてもよい。
【課題】ウェーブレット変換したスペクトルの時間的推移データに基づいたグラウト充填状態の判定において、安定した判定結果を得られる非破壊検査方法、及び非破壊検査装置10を提供することを目的とする。
【解決手段】打撃探触子11aと、受信探触子12aと、解析機器13とを備え、プレストレストコンクリート構造物1に埋設されたシース管2のグラウト充填状態を検査する非破壊検査方法であって、解析機器13に、受信探触子12aから取得した合成波をウェーブレット変換してスペクトルの時間的推移データを生成する変換工程と、スペクトルの時間的推移データにおける下限閾値Z2以上の相対値が連続する時間を時間長さT2として、シース共振周波数f