(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る回転機構は、回転軸105とシールハウジング108で構成される。回転軸105とシールハウジング108とは、所定の間隙117を設けて配設される。回転軸105の外表面(外壁面119)及びシールハウジング108の内表面(内壁面118)の少なくとも一方には、構造式1で示されるPFAの膜が設けてある。
図1においては、便宜上シールハウジング108の内表面にPFA膜120を設けた例を示す。
【0027】
回転軸105とシールハウジング108(両者合わせて「回転機構部材」という。)の少なくとも一方の表面に設けられるPFA膜120は、回転機構部材の少なくとも間隙117を形成する壁面にPFAを塗装後、溶融と再溶融の過程を経て形成されることによって、その自由表面に高い平滑性が付与されている。
【0028】
本発明において採用される構造式1のPFAは、多くの企業により製造・販売されている。その中で、本発明においては、好ましくは、融点:298〜310℃、密度:2.12〜2.17のものが望ましい。また、高温で使用する場合を考慮する必要がある際は、最高連続使用温度が、好ましくは、少なくとも260℃であるものから選択するのが望ましい。
【0029】
発熱反応等放熱を考慮する必要がある場合は、熱伝導率として、例えば、0.25W/m・k以上あるのが望ましい。
【0030】
PFAの溶融粘度は、表面平滑性が高く、うねりのない膜を形成するのに重要なファクターである。溶融粘度が余り高いと、高い表面平滑性が得られ難くなるし、うねりも生じやすくなる。本発明において、PFAの溶融粘度は、ASTMD3307準拠で、好ましくは、10g/10分以上、より好ましくは、20g/10分以上であるのが望ましい。勿論、塗装を均一とし溶融時間を十分にとれば、ある程度高い溶融粘度のものであっても、うねりのない高い表面平滑性を有するPFA膜を得ることが出来る。
【0031】
PFAとして具体的には、以下に示されるものが、好ましく採用される。
【0032】
(1)ダイキン工業株式会社製
AC−5539(静電塗装高分子厚塗り用、紛体)
AC系列としては、この他には、AC−5600、ACX−21、ACX−31、ACX−31WH、ACX−34、ACX−41が挙げられる。
【0033】
この他、AD−2CRE(塗装膜厚:10〜15μm)、AW−5000L(塗装膜厚:30〜40μm)が使用出来る。AD−2CREは、塗料を100〜150メッシュの金網で、AW−5000Lは、塗料を60〜80メッシュの金網で、それぞれ濾過後使用することがメーカーより推奨される。AD−2CREの塗装条件は、好ましくは、エアースプレー条件として、スプレーガンのノズル径1.0mmφ、霧化圧力0.2MPaであるのが望ましい。AW−5000Lの塗装条件は、好ましくは、エアースプレー条件として、スプレーガンのノズル径1.0〜1.2mmφ、霧化圧力0.2〜0.4MPaであるのが望ましい。
【0034】
プライマーとして本発明に於いて好ましく使用されるダイキン工業株式会社製のものでは、以下のものが挙げられる。水系のプライマーとしては、ED−1939D21L、EK−1908S21L、EK−1909S21L、EK−1959S21L、EK−1983S21L、EK−1208M1L、EK−1209BKEL、EK−1209M10L、EK−1283S1L、溶剤系のプライマーとしては、TC−1509M1、TC−1559M2、TC−11000、などである。
【0035】
これらのプライマーは、例えば、プライマーEK−1909S21Lの場合は、宇治電気化学工業製トサエメリーエキストラ♯80/♯100=50・50で粗面化後、約10μmエアースプレー塗装される。その上に、PFA膜が設けられる。
【0036】
プライマー塗布の塗装条件は、例えば、スプレーガンのノズル径1.0〜1.2mmφ、霧化圧力0.2〜0.4MPa、或いは、スプレーガンのノズル径1.0〜1.5mmφ、霧化圧力0.2〜0.3MPa、とされる。乾燥は、例えば、温度:80〜90℃、時間:10〜15分とされる。
【0037】
(2)三井・デュポンフロロケミカル社製
EM−500CL(水性トップコート用)、EM−500GN(水性トップコート用)、EM−700CL(水性トップコート用)、EM−700GN(水性トップコート用)、EM−700GY(水性トップコート用)が挙げられ、これらは、複雑な形状のためで静電塗装が出来ない物品向きである。
【0038】
この他、本発明に於いて使用できるのは、MP―102(マイクロパウダー、トップコート用)、MP−103(マイクロパウダー、トップコート用)、MP−300(フッ素化パウダー、トップコート用)、MP−310(フッ素化パウダー、トップコート用)、MP−630(導電性パウダー)、MP−642(導電性パウダー)、MP−620(熱伝導性が高い)、MP−621(熱伝導性が高い)、MP−622(熱伝導性が高い)、MP−623(熱伝導性が高い)、MP−501(複雑な形状のためで静電塗装が出来ない物品向き)、MP−502(複雑な形状のためで静電塗装が出来ない物品向き)、SL−800BK(カーボンフィラー入り)、SL−800LT(ガラスフィラー入り)等が挙げられる。
【0039】
この中で、MP−103、MP−300、MP−310は、得られる膜が平面平滑性に優れているので、本発明に於いて好ましいものである。その中でも、MP−310は、球晶コントロールが約5μmと微小・均一性に於いて優れているので、特に好ましいものである。
【0040】
SL−800BKは、熱伝導が良く放熱性に優れているので、放熱性の点で本発明に於いては好ましい。熱伝導が良く放熱性に優れていという点では、MP−630,642(導電性マイクロパウダー)も好ましいPFA材料として本発明においては使用される。
【0041】
これらの三井・デュポンフロロケミカル社製のPFAの中で、特に好ましく用いられるのは、構造式1におけるRfが、「-CF2CF2CF3」のPFAで、分子量:数10万〜100万で、融点:300〜310℃、粘度:104〜105poise(380℃)、最高連続使用温度:260℃のものである。
【0042】
プライマーとしては、一般水性汎用プライマーとして販売されているPFAプライマーPL―902シリーズ、耐熱性・耐食性に優れたプライマーとして販売されているPFAプライマーPL―910シリーズのものが、好ましい。具体的には、PL−902YL、PL−902BN,PL−902AL,PL−910YL,PL−910BN、PL−910AL、PL−914ALの銘柄で販売されている。
【0043】
(3)株式会社パッキンランド製
NK−108(潤滑性、標準膜厚50μm、耐熱温度260℃)、NK−372,379(潤滑、帯電防止、標準膜厚100、300μm、耐熱温度260℃)、NK−013,013C(耐摩耗、標準膜厚300μm、耐熱温度150℃)が挙げられる。
【0044】
(4)日本フッソ工業株式会社製
NF−015(標準膜厚50μm)、NF−015EC(標準膜厚40μm、帯電防止)、NF−020AC(標準膜厚600μm、帯電防止)が挙げられる。
【0045】
本発明における回転機構部材に加工処理される基材として、好ましくは、ステンレス、アルミやアルミ合金などのアルミ系金属など、熱伝導が良好で加工に適し得る被加部材用の金属基材が採用される。
【0046】
本発明に係るスクリューポンプは、回転軸とシールハウジングとがアンギュラーベアリングを介して回転軸が回転自在になるように係合されているが、高速回転を長時間維持すると、回転軸とアンギュラーベアリングの間で摩擦熱が発生するので、回転軸やシールハウジングは放熱効果を一段と高めるために熱伝導の良好な基材を選択するのが望ましい。
【0047】
そのような基材としては、軽量であることからアルミ系金属を選択するのが望ましいが、出来るだけ硬質で熱膨張係数の小さいものを選択するのが望ましい。アルミ製の基材としては、純アルミの他、他の金属を含有させたアルミ合金が本発明に於いては採用される。
【0048】
本発明に於けるアルミ合金とは、アルミニウムを主成分とする金属からなる。アルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを通常50質量%以上含む金属であり、好ましくはこの金属はアルミニウムを80質量%以上含み、より好ましくはアルミニウムを90質量%以上、更に好ましくは94質量%以上含むのが望ましい。アルミ合金に含有される好ましい金属としては、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミ合金の強度を向上できる利点があり特に好ましい。
【0049】
また、本発明に於いては、アルミ合金は、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量が抑制された高純度アルミニウムを主成分とする金属であってもよい。これら特定元素の含有量の合計は、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。
【0050】
高純度アルミニウムを主成分とするアルミ合金は、必要に応じてアルミニウムと合金を形成しうる他の金属を1種以上含有してもよい。そのような金属は、上記特定元素以外であれば特に限定されないが、好ましい金属としては、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミ合金の強度を向上できる利点があり特に好ましい。マグネシウム濃度としては、アルミニウムと合金を形成しうる範囲であれば特に制限はないが、十分な強度向上をもたらすためには、通常0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上とする。またアルミニウムと均一な固溶体を形成する為には、6.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0質量%、更に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0051】
本発明に於けるアルミ合金は、上記の金属の他、結晶調整剤としてその他の金属成分を含有していてもよい。結晶制御に対する十分な効果を持つものであれば特に制限はないが、好ましくはジルコニウム等が用いられる。
【0052】
本発明に於いては、アルミ合金に積極的に含有されるアルミニウム以外の他の金属の個々の含有量は、アルミ合金全体に対して、通常は、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、より好ましくは、0.1質量%以上とするのが望ましい。この含有量の下限は含有する金属による特性を十分に発現させるために必要である。ただし、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、特に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下とする。この上限は、アルミニウムとアルミニウム以外の他の金属成分とが均一な固溶体となり、良好な材料特性を維持するために必要である。
【0053】
ステンレス製の基材としては、硬度を重視するならば、SCM440、S45、耐食性重視なら、SUS316、低炭素鋼ならSUS316L、表面平滑な基材なら、予め電解研磨で表面を鏡面仕上げしてあるSUS316L−EPなどが本発明に於いては好ましく採用されるが、使用の目的・条件に合致するなら、これらの基材に限られるものではない。
【0054】
本発明に係るスクリューポンプ用の回転機構部材として加工される基材(「被加工部材」ともいう。)は、シールガスの通路を構成する壁面を形成するためのPFA膜を設けるために、そのPFA膜設置面は、電解研磨、機械研磨あるいは両者などの手段で平滑加工がされて所望の平滑性が与えられるのが好ましい。この段階での研磨面の平滑度は、PFAのパウダーを研磨面に静電塗着する場合には、好ましくは、PFAパウダーの平均粒径以下とするのが望ましい。ただ、基材の研磨面に直にPFA膜を設けない場合は、この限りでなくとも良い。
【0055】
形成されるPFA膜の自由表面の平滑性及び膜品質の向上をより容易かつ確実にするには、Al
2O
3やNiもしくはNiF
2からなる膜(「下地膜」という。)を予め基材のPFA膜設置面に設けておくのが望ましい。NiもしくはNiF
2からなる膜を予め基材のPFA膜設置面に設けておくと、その上に設けるPFA膜を溶融したり再溶融したりする際に、PFAの熱分解を抑制する効果が大きいので、他の下地材に比べ溶融温度をより高くセットしても品質の良い膜が得られる。さらに、Ni膜は高い耐食性がり且つPFA膜との接着性も高いので、PFA膜の下地膜として好ましいものである。
【0056】
Ni膜を基材(被加工部材)のPFA膜設置面上に設けるには、例えば、無電解ニッケルメッキ法、Niをスパッタリングして成膜するプラズマスパッタリング法が採用され、他には、Niの有機錯体を使用したMOCVDを採用することも出来る。無電解ニッケルメッキ法による場合、メッキ液には、還元剤が含まれているが、使用する還元剤によって、得られるNi膜に、P(燐)またはB(ボロン)を含有させることが出来る。還元剤に、次亜リン酸塩を使用すると、得られるNi膜にP(燐)を含有させることが出来、ジメチルアミンボラン(DMAB)を使用すると、Ni膜中にB(ボロン)を含有させることが出来る。Ni膜中にB(ボロン)を含有させると、Ni膜にP(燐)を含有させる場合と比較して、膜の硬度を高め、膜の電気抵抗を下げることができるので、反応容器の用途に応じて使い分けることができる。還元剤にヒドラジンを使用すると、次亜リン酸やDMABの場合と違って反応中に水素ガスを発生しないので好都合である。
【0057】
Ni膜中に含有されるP(燐)の量は、反応容器の用途に応じて適宜決められるが、化学組成で、好ましくは、Ni:83〜98%,P:2〜15%,その他:0〜2%、とするのが望ましい。B(ボロン)の場合は、化学組成で、Ni:97〜99.7%,B:0.3〜3%,その他:0〜2.7%とするのが望ましい。
【0058】
無電解ニッケルメッキは、無電解ニッケルメッキ液自身市販されているし自身で調合することも出来るので、自身で行っても良いが、仕様に基づいて第3者に加工処理させても本発明の目的は達成される。市販されている無電解ニッケルメッキ液は、例えば、ツールシステム株式会社、株式会社ワールドメタル、株式会社金属加工技術研究所、奥野製薬工業株式会社、上村工業株式会社等から製造或いは販売されている。無電解ニッケルメッキ加工処理を行う企業としては、日本カニゼン株式会社、日立協和エンジニアリング株式会社、三和メッキ工業株式会社、株式会社コダマ、清水長金属工業株式会社、大和電機工業株式会社、仁科工業株式会社、藤間精練株式会社等がある。
【0059】
被加工部材のPFA膜設置面上にNiF
2膜を設けるには、被加工部材のPFA膜設置面に設けたNi膜の自由表面をフッ化処理すれば良い。フッ化処理は、例えば、表面にNi膜を設けた基材を真空容器内にセットし、所定の真空度に達してから真空容器内にF
2ガスを供給してNi膜表面をF
2ガスに晒せば良い。この場合、F
2ガスに晒す時間をコントロールすることで、Ni膜全体をNiF
2膜化することも出来るし、下部がNi膜、上部がNiF
2膜というように2層構成にすることも出来る。或いは、F原子の膜の厚み方向の分布を変化させることも可能である。例えば、自由表面から膜下方に向かってF原子の膜中の分布量を連続的に減少させることも可能である。この場合、基材との密着とPFA膜との密着とをより強固にすることが出来る。勿論、上記のようにP(燐)またはB(ボロン)が含有させてあるNi膜をフッ化処理して得られるNiF
2膜には、上記化学組成でP(燐)またはB(ボロン)が膜中に含まれることは言うまでもない。
【0060】
Ni膜及びNi系の膜を下地膜として設ける場合は、無電解メッキ処理後、希ガスや窒素ガスなどの雰囲気で所望の温度で所望の時間、アニール処理することによって、膜の基材への付着力と硬度を大幅に高めることが出来るので、この方法は本発明に於いては好ましい下地膜後処理法である。
【0061】
本発明においては、好ましくは、例えば、窒素雰囲気で、260〜350℃の温度範囲で1時間程度アニール処理することが望ましい。
【0062】
アルミ製の被加工部材のPFA膜設置面に下地膜としてAl
2O
3膜を設けるのに、好ましく採用されるのは、無孔質のAl
2O
3膜が形成できる陽極酸化法である。この陽極酸化法によって形成される膜は、少なくとも被加工部材のPFA膜設置面に、後述する陽極酸化法によって形成される。このAl
2O
3陽極酸化膜は、アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚は10nm以上の厚さのものが容易に形成できる。この膜は不動態膜であることからアルミ製反応容器本体の内表面に形成すると保護膜として高い性能を示す。
【0063】
Al
2O
3陽極酸化膜の膜厚は、好ましくは100μm以下であるのが望ましい。膜厚が厚いとクラックが入りやすく、またアウトガスを放出しやすい。したがって、Al
2O
3陽極酸化膜の膜厚は、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは1μm以下、一層好ましくは0.8μm以下、特に好ましくは0.6μm以下であるのが望ましい。膜厚の下限としては、10nm以上とするのが望ましい。これ以上、膜厚が薄すぎると十分な耐食性が得られなくなる。Al
2O
3陽極酸化膜の膜厚は、より好ましくは20nm以上、より一層好ましくは30nm以上であるのが望ましい。
【0064】
本発明に於ける無孔質のAl
2O
3膜は、従来用いられていたポーラス構造を有する多孔質のAl
2O
3膜に対して、薄膜でありながら耐食性に優れ、微細孔や気孔を全くか、或いは殆ど有しない(実質的に有しない)ので水分等を吸着しないか殆ど吸着しないという利点がある。
【0065】
Al
2O
3陽極酸化膜は、アルミ製容器本体若しくは構造体の内表面を、pH4〜10の化成液を用いて、陽極酸化することで得られる。この方法によれば、緻密で無孔質の陽極酸化被膜を容易に得ることができる利点がある。
【0066】
また、この方法は、金属表面の不均一性に起因する欠陥を修復する機能を有するために、緻密で平滑な陽極酸化膜を形成することができる利点がある。化成液のpH値の下限は、上述した通り4以上であるが、好ましくは5以上、より好ましくは6以上であるのが望ましい。また、化成液のpH値の上限は、通常は、10以下、好ましくは9以下、より好ましくは8以下であるのが望ましい。陽極酸化により生成したAl
2O
3陽極酸化膜の化成液への溶解を確実に防止するには、pH値は中性か中性に近いpH値、若しくは中性に出来るだけ近いpH値にすることが望ましい。
【0067】
本発明に於いては、化成液は、陽極酸化中の各種物質の濃度変動を緩衝してpHを所定範囲に保つ(緩衝作用)ためにも、pH4〜10の範囲とするのが望ましい。このため緩衝作用を示す酸や塩などの化合物(以後「化合物(A)」と記す場合がある。)を含むことが望ましい。このような化合物の種類は特に限定されないが、化成液への溶解性が高く溶解安定性もよい点で、好ましくは硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種である。より好ましくは陽極酸化被膜中に硼素、燐元素の残留がほとんどない有機カルボン酸又はその塩である。
【0068】
これら化合物(A)の濃度は、目的に応じて適宜選択すればよいが、化成液全体に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上とする。電気伝導率を上げ陽極酸化膜の形成を十分に行うためには多くすることが望ましい。ただし通常30質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下とする。陽極酸化膜の性能を高く保ち、またコストを抑えるためには10質量%以下が望ましい。
【0069】
本発明に於ける化成液は、非水溶媒を含有することが好ましい。非水溶媒を含む化成液を用いると、水溶液系の化成液に比べて、定電流化成に要する時間が短くて済むため、高いスループットで処理できる利点がある。また、水溶液を化成液として用いると、水の電気分解によって生じたOHイオンが陽極酸化膜をエッチングして多孔質にしてしまうので、水の電気分解を抑制できるような誘電率の小さい主溶媒を用いることが好ましい。
【0070】
非水溶媒の種類は、良好に陽極酸化ができ、溶質に対する十分な溶解度を持つものであれば特に制限はないが、1以上のアルコール性水酸基及び/又は1以上のフェノール性水酸基を有する溶媒、若しくは非プロトン性有機溶媒が好ましい。なかでも、保存安定性の点でアルコール性水酸基を有する溶媒が好ましい。
【0071】
アルコール性水酸基を有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、シクロヘキサノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,4−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール等を用いることができる。また、分子内にアルコール性水酸基以外の官能基を有する溶媒も使用することができる。なかでも水との混和性及び蒸気圧の点で二つ以上のアルコール性水酸基を有するものが好ましく、2価アルコールや3価アルコールがより好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールが特に好ましい。
【0072】
これらアルコール性水酸基及び/又はフェノール性水酸基を有する化合物は、さらに分子内に他の官能基を有していてもよい。例えば、メチルセロソルブやセロソルブ等のように、アルコール性水酸基とともにアルコキシ基を有する溶媒も用いることができる。
【0073】
非プロトン性有機溶媒としては、極性溶媒又は非極性溶媒のいずれを使用してもよい。極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類;トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等の燐酸エステル類が挙げられる。非極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、ヘキサン、トルエン、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0074】
これらの溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。陽極酸化膜の形成に用いる化成液の非水溶媒として特に好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はジエチレングリコールであり、これらを単独又は組み合わせて用いてもよい。また非水溶媒を含有していれば、水を含有していてもよい。非水溶媒は、化成液全体に対して通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上の割合で含まれ、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下の割合で含まれる。化成液が非水溶媒に加えて水を含む場合、その含有量は化成液全体に対して、下限値としては、通常、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、10質量%以上、特に好ましくは、15質量%以上であり、上限値としては、通常、85質量%以下、好ましくは、50質量%以下、特に好ましくは、40質量%以下である。非水溶媒に対する水の割合は、下限値としては、好ましくは、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、更に、好ましくは、7質量%以上、特に好ましくは、10質量%以上であり、上限値としては、通常、90質量%以下、好ましくは、60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0075】
化成液は、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、陽極酸化膜の成膜性及び膜特性を向上させるための添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、特に制限されず、公知の化成液で用いられる添加剤やそれ以外の物質の中から選択する一種以上の物質を添加して用いることができる。このとき、添加剤の添加量には特段の制限はなく、その効果とコスト等を勘案して適切な量とすればよい。
【0076】
陽極酸化のための電解法は、特に制限はない。電流波形としては、例えば直流の他に、印加電圧が周期的に断続するパルス法、極性が反転するPR法、その他交流や交直重畳、不完全整流、三角波などの変調電流等を用いることができるが、好ましくは直流を用いる。
【0077】
陽極酸化の電流及び電圧の制御方法は特に制限はなく、アルミ合金製容器本体の内表面に酸化物膜が形成される条件を適宜組み合わせることができる。通常は定電流及び定電圧にて陽極酸化処理することが好ましい。即ちあらかじめ定められた化成電圧Vfまで定電流にて化成し、化成電圧に達した後にその電圧に一定時間保持して陽極酸化を行うことが好ましい。
【0078】
この際、効率的に酸化膜を形成する為に、電流密度は、通常、0.001mA/cm
2以上とし、好ましくは、0.01mA/cm
2以上とする。ただし表面平坦性の良好な酸化膜を得る為に、電流密度は、通常、100mA/cm
2以下とし、好ましくは、10mA/cm
2以下とする。
【0079】
また、化成電圧Vfは、通常、3V以上とし、好ましくは、10V以上、より好ましくは、20V以上とする。得られる酸化膜厚は化成電圧Vfと関連するので、酸化物膜に一定の厚みを付与するために、前記電圧以上を印加することが好ましい。ただし、通常、1000V以下とし、好ましくは、700V以下とし、より好ましくは、500V以下とする。得られる酸化物膜は高絶縁性を有するので、高絶縁破壊を起こすことなく、良質な酸化膜を形成する為には、前記の電圧以下で行うことが好ましい。
【0080】
なお、化成電圧に至るまで直流電源の代わりにピーク電流値が一定の交流を使用し、化成電圧に達したところで直流電圧に切り替えて一定時間保持する方法を用いてもよい。
【0081】
陽極酸化の他の条件は特に制限されるものではない。ただし陽極酸化時の温度は、化成液が安定に液体として存在する温度範囲とする。通常、−20℃以上であり、好ましくは、5℃以上であり、より好ましくは、10℃以上である。陽極酸化時の生産・エネルギー効率等を勘案して、前記温度以上にて処理することが好ましい。ただし、通常、150℃以下であり、好ましくは、100℃以下であり、より好ましくは、80℃以下である。化成液の組成を保持して均一な陽極酸化を行う為に、前記温度以下にて処理することが好ましい。
【0082】
前記陽極酸化は、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体の内表面と対向電極(たとえば白金)とを前記化成液中に配置する第1の工程と、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体にプラスを、前記電極にマイナスを印加して一定の電流を所定の時間流す第2の工程と、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体と前記電極との間に一定の電圧を所定の時間印加する第3の工程とを含むのが好ましい。前記第2の工程の前記所定の時間は、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体と所定の電極との間の電圧が所定の値になるまで(例えば、エチレングリコールを用いた場合は200Vになるまで)とするのが好ましい。
【0083】
前記第3の工程の前記所定の時間は、好ましくは、前記アルミ合金製容器本体若しくはその構造体と所定の電極との間の電流が所定の値になるまでとするのが望ましい。電流値は、電圧が上記の所定値になると急激に減少し、後は時間とともに徐々に減少する(「残留電流」という)が、定電圧処理終了の所定の電流値以下になるには、例えば、24時間を要する。しかし、得られるAl
2O
3陽極酸化膜の膜質は熱処理をしたものと同等になる。又、この残留電流が少ないほど、Al
2O
3陽極酸化膜の膜質は向上する。これらのことを考慮すると、生産性を上げるためには、適当な時間で定電圧処理を打ち切り、次工程で熱処理(アニール)を施すのが望ましい。熱処理は、好ましくは、150℃以上、より好ましくは、300℃程度で0.5〜1時間行うのが望ましい。残留電流の継続にもよるが、残留電流の継続時間がそれ程長くなければ、継続して定電圧処理を施せばよいし、長ければ、熱処理に切り替えてもよい。
【0084】
前記第2の工程において平方cm当たり、通常は、0.01〜100mA、好ましくは、0.1〜10mAの電流、さらに好ましくは、0.5〜2mAの電流を流すのが望ましい。
【0085】
先に述べたように前記第3の工程において前記電圧は前記化成液が電気分解を起こさないような電圧とする。
【0086】
如何なる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らが得た知見からでは、化成処理時に形成された無孔質のAl
2O
3陽極酸化膜は、膜全体がアモルファス構造となっており、結晶等の粒界がほとんど存在しないと考えられる。また、更に緩衝作用を有する化合物を添加したり、溶媒として非水溶媒を用いたりすることにより、陽極酸化膜中に微量の炭素成分が取り込まれてAl−Oの結合強度が弱くなっており、これにより膜全体のアモルファス構造が安定化されているものと推定される。
【0087】
以上のように製造されたAl
2O
3陽極酸化膜は、膜中の水分の完全除去を行うなどの目的で、加熱処理を行うのが望ましい。特に、前記特定元素をほぼ含まない高純度アルミニウムを主成分とするアルミ合金製基材上に形成したAlの陽極酸化膜は、熱安定性が高く、ボイドやガス溜まり等が形成されにくいという特性がある。このため300℃程度以上のアニール処理によってもAlの陽極酸化膜にボイドやシームが殆ど発生しないので、パーティクルの発生やアルミニウムの露出に起因する反応液中へのアルミニウムの溶出が抑えられる。
【0088】
加熱処理の温度は、特に制限はないが、通常、100℃以上であり、好ましくは、200℃以上であり、より好ましくは、250℃以上である。加熱処理によるAl
2O
3陽極酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記温度以上で処理することが望ましい。ただし、通常、600℃以下であり、好ましくは、550℃以下であり、より好ましくは、500℃以下とするのが望ましい。Al
2O
3陽極酸化膜のアモルファス構造を保持して、表面の平坦性を維持するためにも前記温度で処理することが望ましい。
【0089】
加熱処理の時間は、特に制限はないが、加熱処理による表面荒れ、生産性等を勘案して適宜設定すればよいが、通常、1分以上、好ましくは、5分以上、特に好ましくは、15分以上である。Al
2O
3陽極酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記時間以上で処理することが好ましい。ただし、通常、180分以下、好ましくは、120分以下、より好ましくは、60分以下である。Al
2O
3陽極酸化膜構造及び表面平坦性を維持するためにも前記時間内で処理することが望ましい。
【0090】
アニール処理の際の炉内ガス雰囲気は、特に制限はないが、通常、窒素、酸素あるいはこれらの混合ガスなどを適宜用いることができる。中でも酸素濃度が、18vol%以上の雰囲気が好ましく、20vol%以上の条件がより好ましく、酸素濃度が100vol%の条件が最も好ましい。
【0091】
PFAの膜を直に設ける下地面には、該下地面との接着性を増す為にPFA膜を設ける際にPFAのプライマー処理を施すのが望ましい。
【0092】
本発明に於いて、下地膜の厚みは、PFA膜が設けられる面の平滑性が所望通り十分確保できるように、基材のPFA膜設置面の平滑度、使用されるPFAパウダーの平均粒径またはPFA塗料中に分散するPFA粒子の平均粒径などに鑑みて適時所望に従って選択される。
【0093】
本発明に於いては、好ましくは、0.1〜30μm、より好ましくは、1〜20μm、より一層好ましくは、2〜15μmであるのが望ましい。
【0094】
被加工部材のPFA膜設置面上或いは下地膜面上(両者を合わせて「PFA膜形成面」という。)に、PFA膜を設けるには、後述の実験1,2及び実施例にも記載されているが、以下の通りにするのが好ましい。
【0095】
PFA膜を形成するに際し、用意されるPFAは、静電塗着用に微粉末状とされたもの、一般の塗料と同じく液状とされたものがある。本発明に於いては、被加工部材の形状に多少複雑な凹凸形状があっても均一厚みに塗膜しやすいということから静電塗着用の微粉末状のものを用いるのが好ましい。
【0096】
塗装方法としては、一般の塗料と同じく液状塗料の場合は、スプレーコーティングにより塗装加工されるのが望ましいが、基材によってはディップコーティング、ディップスピンコーティング、ロールコーティング、及びスピンフローコーティングにより塗装加工することも適宜採用される。また粉体塗料は静電粉体コーティングや静電流動浸漬法により塗装加工するのが望ましい。
【0097】
そして、そのようにして塗装されたPFA塗料は、被加工部材のPFA膜形成面に焼付けされるが、その際に、溶融、再溶融の工程が付与されて最後に所望の平滑性能をもつPFA塗膜が得られる。
【0098】
被加工部材のPFA膜形成面への塗膜加工方法は、基材の種類、用途、選択する塗料の種類によって異なるが、好ましくは、以下に記す加工処理を施すのが望ましい。
(1)金属基材(被塗装材)(電解研磨処理済)の準備 → (2)脱脂またはカラ焼き → (3)粗面化処理(ブラスト処理)又は/及び下地膜形成 ⇒ (4)清浄化⇒ (5)プライマー塗装 → (6)予備乾燥 → (7)トップコート(PFA)塗装 → (8)予備乾燥 → (9)一次焼成(溶融) → (10)一次冷却(使用するPFAの融点より低くする) → (11)二次焼成(再溶融) → (12)二次冷却(室温)
【0099】
厚めのトップコート層を設ける場合は、上記工程に於いて、「 (7)トップコート(PFA)塗装 → (8)予備乾燥 → (9)一次焼成(溶融)」を繰り返し行うことで所望の厚さにトップコート層を形成することができる。この場合の一回当たりの塗装厚は、使用するPFAの形態(パウダーか塗料か)、溶融処理時の粘度、塗料の場合はPFAの分散濃度と粒径、パウダーの場合はパウダーの粒径等によって適宜決められる。
【0100】
本発明の場合、好ましくは1〜100μmとするのが望ましい。
【0101】
複数回の塗装の場合、初回、中間の塗装における一次焼成温度は、中間一次焼成温度として設定され、最終回の塗装における一次焼成温度は、最終一次焼成温度として設定される。PFAの種類、塗装回数によっては、前記中間一次焼成温度と前記最終一次焼成温度とを同じ温度に設定されることもあるが、好ましくは、前記中間一次焼成温度は前記最終一次焼成温度より低く設定されるのが望ましい。
【0102】
(3)、(5)、(6)の加工処理は、場合によっては省略される。例えば、被加工部材の表面に直にトップコートを設けても被加工部材表面とトップコート面との間に接着力が十分あるならば、(3)、(5)、(6)の加工処理は省略できるし、プライマー塗装を行うことで基材とトップコートがプライマーによって強固に接着されるなら(3)の加工処理は省略できる。
【0103】
本発明に於ける一次焼成温度と焼成時間は、二次焼成において、本発明の目的を達成するのに十分な平滑性を得るのに重要なファクターであり、使用するPFAと金属被加工部材、必要に応じて採用するプライマーの特定化に応じて適宜決められる。
【0104】
本発明に於ける一次焼成の温度及び時間は、塗装されたPFA膜から、一次焼成によってPFA材料(パウダー状や塗料状で入手できる)中に含まれる不純物(低分子量成分、未フッ素化末端基を有する成分、合成途中での生成物、及び界面活性剤などの添加物等)を膜外に排出させるために十分な温度と時間とされることが望ましい。一次焼成の温度の上限は、高い平滑性を与えるPFA膜を構成するのに必要な分子量を有するPFAが分解しない温度(「PFA分解温度」と記す。)、若しくはその分解温度よりやや高い温度(「Th」と記す。)とされるのが望ましい。Thは、一次焼成において、その温度でPFA塗装膜を保持する時間との関係で決められる。
【0105】
本発明におけるThとしては、使用するPFAの融点より30〜70℃高めに設定するのが好ましい。設定温度が低すぎると二次焼成において十分な平滑性が得られない場合が生じ、高すぎるとPFAの分解を助長することになる場合がある。より好ましくは、35〜60℃、より一層好ましくは、40〜50℃とするのが望ましい。
【0106】
本発明における一次焼成時間は、一次焼成温度まで昇温する時間(一次焼成昇温時間)と一次焼成温度を保持する時間(一次焼成温度保持時間)からなる。一次焼成昇温時間においては、PFA塗装膜のいかなるところにも万遍なく熱が伝わりPFA塗装膜が均一に焼成されるように昇温スピードが制御装置によって制御される。一次焼成温度保持時間は、PFA塗装膜の自由表面全体が出来るだけ均一に溶融し場所的不均一さが視覚的にも見て取れないようにする時間である。本発明に於いては、一次焼成温度保持時間は、PFA塗装膜の厚さや大きさに左右されるので、PFA塗装膜の厚さや大きさに応じてその都度適宜決められるが、好ましくは、10〜50分、より好ましくは、15〜40分とするのが望ましい。
【0107】
一次焼成における、焼成温度、焼成温度に至る昇温スピード及び焼成温度での保持時間の設定次第で、二次焼成を経て得られる膜の平滑性が左右されることから、一次焼成における、焼成温度、焼成温度に至る昇温スピード及び焼成温度での保持時間は、基材、PAF,PFA塗装膜の厚さや大きさを十分考慮して適宜決められる。
【0108】
一次焼成に於いては、PFA材料(パウダー状や塗料状で入手できる)中に含まれる不純物が分解されてPFA膜から除去されるものと考えられる。余計な不純物が一次焼成でPFA膜から除かれることで、二次焼成を経たPFA膜の平滑性が格段に良くなるものと思われる。
【0109】
本発明においては、一次焼成は、20vol%O
2/Arガス雰囲気など、希ガスに酸素を混合したガス雰囲気で行われる。
【0110】
一次焼成の雰囲気ガスは、希ガス・酸素混合ガスの使用が望ましいが、本発明においてはこれに限定される訳ではなく、酸素ガス単独でも良いし、窒素・酸素混合ガスでも良い。窒素の代わりにNOやNO
2を酸素と混合した混合ガスを使用してもよい。NOやNO
2は、単独で使用してもよい。酸素ガスの代わりにオゾンも使用できる。
【0111】
一次焼成が終了した段階で、試料は、使用するPFAの融点以下の温度(「Tl」という。)まで降温されて固化される(一次冷却・固化)。この際の融点以下の温度Tlとしては、使用するPFAの融点より、好ましくは、5〜60℃、より好ましくは、10〜50℃、より一層好ましくは、20〜50℃低くするのが望ましい。PFAの分子量分布具合、分子量の異なる複数のPFAの混合等によって融点に幅がある場合は、その幅の温度範囲の最低温度に対して一次焼成温度が上記の範囲で所望に従って適宜選択される。
【0112】
PFAの融点より低くする温度の幅が、小さ過ぎるとスムースな固化が望めないし、大き過ぎると再溶融に至たる時間がかかり過ぎ生産効率が低下する。
【0113】
上記の融点以下の温度(一次冷却・固化温度)Tlから二次焼成温度まで昇温する昇温スピード及び二次焼成温度での保持時間は、室温まで二次冷却されて得られるPFA膜の自由表面の平滑性が十分確保されるように設定される。
【0114】
二次焼成温度は、一次焼成処理を経て一旦固化されたPFA膜を再溶融するための温度であり、一次焼成処理を受けたPFA塗装膜が次に施される室温までの降温過程を経て固化する際の平滑化を促進させる温度である。
【0115】
二次焼成は、使用するPFAの融点又はこの融点より15℃以内の高い温度で行うのが好ましい。より好ましいのは使用するPFAの融点若しくはその前後の融点と僅かな差がある温度で行うのが望ましい。
【0116】
次に、溶融、再溶融の工程の一例を以下に説明する。構造式1におけるRfが、「-CF
2CF
2CF
3」の場合(融点は、310℃)、例えば、被加工部材のPFA膜形成面に静電塗着によってPFA微粉末を所定の厚さに塗膜し、プログラムされた加熱速度で345℃まで加熱して、この345℃の状態を30分間保持する(溶融工程)。この溶融工程は、20vol%O
2/Arガス雰囲気で行われる。次いで、100vol%アルゴン雰囲気に切り替えて、280℃まで所定の速度で温度を下げ、280℃になったらその温度で30分間保持する。引き続き、再び所定の速度で310℃まで加熱し(再溶融工程)、この温度を30分間保持する。30分間保持後、加熱を停止し自然放置することで室温まで温度を下げる。このような工程を経ることで自由表面が極めて良好な平滑性を有するPFA膜が形成され得る。
【0117】
Rfが、「-CF
2CF
2CF
3」のPFAの場合、融点が310℃といわれるが、295℃から305℃の間ですでに溶融が開始される。従って、再溶融工程の温度としては、295℃から315℃の範囲の温度を選択することができる。好ましくは、305℃から315℃の範囲の温度を選択するのが望ましい。
【0118】
また、平滑性が一番良好なのは、310℃若しくはその前後の融点と僅かな差がある温度であるが、本発明の目的に適う平滑性を得るのには、305℃から315℃の範囲の温度で再溶融するのが望ましい。
【0119】
実験1:PFAの溶融、再溶融の実験と平滑度測定
鏡面研磨処理した後、所定の洗浄処理を施した板状のSUS基材(SUS316LーEP:10x10mm
2、厚さ2mm)を2枚(基材1,2)、用意した。これらの基材の鏡面加工面の表面平滑度を市販の面粗さ測定装置(Veeco社製 dektak 6M)で測定したところ、何れも面粗度Raは、0.006μmであった。
【0120】
その中の1枚(基材1)の表面平滑度を測定した面には、無電解メッキによってNiの膜(厚さ:2μm)を設けた。無電解メッキの条件を、以下に記す。
無電解メッキ液(A):硫酸ニッケル・・・・・・・26.3g/l
次亜リン酸ナトリウム・・・21.2g/l
クエン酸・・・・・・・・・25.0g/l
酢酸・・・・・・・・・・・12.5g/l
ロッセル塩・・・・・・・・16.0g/l
尿素・・・・・・・・・・・12.5g/l
pH・・・・・・・・・・・6.0
浴温・・・・・・・・・・・80℃
【0121】
基材1の鏡面加工面には、以下の処理を施して後、上記無電解メッキ液(A)の浴槽に浸漬してNi膜を形成した。
【0122】
基材1を市販の脱脂剤(OPC−370コンディクリーンM(商標)、奥野製薬工業株式会社製)中に60℃で5分間浸した。次いで、脱脂剤中より引き上げて半導体用の超純水で鏡面加工面を十分洗浄した。その後、市販の触媒付与剤(OPC−80キャタリスト(商標)、奥野製薬工業株式会社製)中に25℃で5分間浸した。次いで、触媒付与剤中より引き上げて半導体用の超純水で鏡面加工面を十分洗浄した。この洗浄の後に、市販の活性化液(OPC−505アクセレータ(商標)、奥野製薬工業株式会社製)中に35℃で5分間浸した。次いで、活性化液中より引き上げて半導体用の超純水で鏡面加工面を十分洗浄した。
【0123】
この様に処理を施した基材1を無電解メッキ液(A)に、70分間浸漬した。次いで、無電解メッキ液(A)より引き上げて半導体用の超純水で十分洗浄した。目視観察したところ鏡面加工面全体にNi膜が均一に形成されており、指で触るとその自由表面は、極めて滑らかであった。
【0124】
Ni膜の自由表面の平滑度を前記の市販の装置で測定したところ、Ra=0.006μmと基材の鏡面加工面と変わらない面粗度であった。
【0125】
上記のようにしてNi膜を設けた基材1と基材2とを、市販の脱脂剤(OPC−370コンディクリーンM(商標)、奥野製薬工業株式会社製)中に60℃で5分間浸して脱脂処理を施した。次いで、脱脂剤中より引き上げて半導体用の超純水で十分洗浄した。
【0126】
このような処理を施した基材1のNi膜表面(Ni膜の自由表面)と基材2の平滑度を測定した面(鏡面加工面)に、以下の条件でプレコート材(プライマー)を塗布し、乾燥させた。
【0127】
プレコート材(プライマー):EK−1908S21L(ダイキン工業株式会社製)
塗装条件:スプレーガンのノズル径・・・・・1.2mmφ
霧化圧力・・・・・・・・・・・・0.3MPa
乾燥条件:85℃、15分
【0128】
次いで、基材1,2のプレコート材処理面に、以下の条件で、静電塗装によりPFAパウダーの膜を20μm厚に設けた後、これら基材を赤外線加熱炉内に収容してある石英製の容器(石英容器)に設置した。
【0129】
トップコート材: AC−5600(ダイキン工業株式会社製)
静電塗装装置(ランズバーグ株式会社製):ハンドガン・・・・・REA90/L
高圧コントローラ・・9040
重ね塗り回数・・・・3回
一回当たりの塗装量・・・・120±10μm
塗装間での中間焼成・・・・・約340℃、15分
本実験で使用した赤外線加熱炉は、未使用時でも、石英容器の設置された内部に常に100%アルゴンを1l/minの流量で流して内部の清浄度を保っている。
【0130】
この赤外線加熱炉は、石英容器の外周に熱伝対が取り付けられており、この熱伝対からの温度情報をもとにプログラムした温度通りになるよう温調器により赤外光源の出力を制御する構成となっている。
【0131】
石英製の容器には、炉外からガスを導入するためのガス管が配設されており、例えば、100vol%アルゴン、酸素を20vol%混ぜたアルゴンなどのガスを炉内に導入することで炉内を所望の雰囲気に調整できる構造になっている。
【0132】
PFA塗装処理した2枚の基材1,2を石英容器内に設置し、開閉扉を閉じて大気遮断状態にして、20vol%O
2/Arガスを1l/minの流量で赤外線加熱炉内へ供給開始した。この状態を保持して石英容器設置近傍の空間の雰囲気温度及び石英容器の温度が一定になるのを待った。温度が一定になった後、赤外光源をONにした。赤外光源ON直前の石英容器の温度は、25℃であった。続いて、赤外光源の出力を徐々に上げて1時間で345℃にまで略一次関数的に昇温した。次いで、この345℃の状態を30分維持した。その後、Ar100vol%ガスに切替えて、このガスを5l/minの流量で10分間流し、石英容器の温度を280℃にした。この状態を30分保持した。基材1、2のPFA処理表面を目視観察すると、表面の凹凸が見られた。この30分の保持後Ar100vol%ガスの流量を1l/minにして、6分間で280℃から310℃にまで昇温した。310℃になった段階で、赤外光源の出力を制御してその状態を30分間保持した。その後、石英容器を外部に取り出して、基材1,2をデシケータ内に収容し自然冷却した。
【0133】
この時の基材1,2のPFA処理表面を目視観察すると鏡面に近い状態であった。
【0134】
室温になるまで基材1,2を充分自然冷却した後、表面粗度測定装置にセットして、PFA表面の平滑度を測定した。以後、便宜上、基材1上のPFA膜を試料1−1、基材2上のPFA膜を試料1−2と呼ぶことにする。測定は、各資料のPFA膜の自由表面を2cm毎に1辺に平行(便宜上X軸方向という)に5分割し各分割面を試料の端から端まで直線上を測定した。次いで、該直線に垂直方向(便宜上Y軸方向という)の平滑度も各資料のPFA膜の自由表面を2cm毎に5分割して各分割領域において測定した。
測定結果が、表1に示される。
【0136】
実験2
実験1における板状基材に代えて、内面が円筒凹面の半円筒基材にした以外は、実験1と同様にして、各基材をNi処理やPFA処理を施して平滑度測定用の試料2−1(Ni処理が施されている)、2−2(Ni処理が施されてない)を得た。これらについて、実験1と同様にして平滑度を測定した。その結果を表2−1及び表2−2に示す。
【0139】
実験3:PFA膜の再溶融の有無の実験と平滑度測定
鏡面研磨がされている板状SUS基板(SUS316L―EP:2cm×5cm)を2枚(試料3−1,3−2)用意し、実験1と同様にしてSUS基板の鏡面研磨した面上にNi膜を設けた。実験1と同様に、2枚のSUS基板の鏡面研磨面とNi膜面の表面粗さを測定したところ、実験1と略同様の結果を得た。
【0140】
2枚の表面にNi膜を設けたSUS基板のNi膜上に、外部委託により仕様に従ってPFAを塗装した。
委託先:日本フッソ工業株式会社
トップコート材:ACX-31(ダイキン工業株式会社製)
塗装法:静電塗装
PFA塗装厚:20μm
【0141】
次いで、PFAを塗装した2枚のSUS基板に、以下の工程で焼成処理を施した。焼成炉は、実験1で使用したのと同じ炉を使用した。
【0142】
2つの試料に対して、石英製の簀の子にPFAパウダーを静電塗着したSUA基板を設置して石英容器内に入れ、以下の手順で焼成を行った。
(1)20%O
2/Arを1l/minの流量で流し室温から345℃まで1時間で昇温する。
(2)雰囲気はそのままで345℃を30分間保持する。
(3)Ar100%を5l/minの流量で流し10分で280℃に下げる。この段階で、試料3−2は、不加熱位置に移動させ、その後の加熱履歴(再溶融)が生じないようにする。
(4)雰囲気はそのままで280℃を30分間保持する
(5)雰囲気をAr100%、1l/minの流量に変えて6分で280℃から310℃まで昇温する。
(6)雰囲気はそのままで310℃を30分間保持する。
(7)加熱をOFFにし石英製の簀の子(試料3−1の)を不加熱位置に移動させて自然放冷させる。
【0145】
このようにしてPFA膜を形成した試料3−1(再溶融履歴あり)、試料3−2(再溶融履歴なし)のPFA膜の自由表面の平滑度を実験1と同様に測定したところ、以下の結果が示すように試料3−1は極めて良好な平滑性で、且つうねりは全く観察されなかった。
試料3−1:Ra=0.061μm、PV=0.302μm
試料3−2:Ra=0.354μm、PV=2.141μm
【0146】
実験4
トップコート材を変え、表4に記載の条件にした以外は、実験1と同様にして板状SUS基材の鏡面研磨面上にPFA膜を設けて、実験1と同様にしてPFA膜表面の平滑度を測定した。結果は、表4に示す。
トップコート材
MP−310(三井・デュポンフロロケミカル社)
EM−500CL(三井・デュポンフロロケミカル社),
EM−700CL(三井・デュポンフロロケミカル社)
AW−5000L(ダイキン工業株式会社)
【実施例】
【0148】
回転軸105、円筒状のシールハウジング108を以下のようにして作成した。
【0149】
回転軸105内部には、潤滑油供給路109を設けた。回転軸、シールハウジングとも複数組用意した。基材としては、SUS316Lを使用した。
【0150】
切削面は、実験1と同様に清浄化処理を施した後、電解研磨を行って鏡面仕上げを行った。
【0151】
電解研磨した回転軸とシールハウジングは、脱脂処理、超純水洗浄を施して電解研磨面を清浄化した。このように処理した回転軸、シールハウジングの中、鏡面仕上げした上に(回転軸はその外壁面に、シールハウジングはその内壁面に)実験1と同様にしてPFA膜を均一厚に設けたものも用意した。
【0152】
回転軸の径、シールハウジングの内径、PFA膜厚は、ポンプを組み立てた際の回転軸の最表面とシールハウジングの最内表面との間隔の幅が、表5−2に示す幅になるように、各試料の回転軸とシールハウジングを加工した。
【0153】
以上のようにして準備した回転軸とシールハウジングを一対にして、表5−1に示す通りの4つの組み合わせを作り、それぞれを交互にスクリューポンプに組み込んで、シールガスの消費量と継続回転のテストを行った。その結果を表5−2に示す。ここで、シールガス消費量は、試料11を「1」とした場合の相対値である。
【0154】
試料aa,ab,ba,bbの回転機構部材(本実施例では、回転軸、シールハウジング)をそれぞれ組込んで組み立てたポンプは、何れも、1万時間、連続回転運転をしても、初期状態の滑らかな回転を維持し何の支障も発生しなかった。
【0155】
【表6】
【0156】
【表7】