(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに直交するX軸方向とY軸方向とで規定される水平面を上面に有する床部と、壁及び柱として機能し、互いに直交する壁幅方向及び壁厚方向を有する平板状の壁柱と、を備えた建物であって、
前記壁幅方向を前記X軸方向に沿わせて配置されるX軸壁柱と、
前記壁幅方向を前記Y軸方向に沿わせて配置されるY軸壁柱と、
前記Y軸方向に間隔を隔てて配置される一対の前記X軸壁柱同士の間に架け渡されて接合されるY軸梁と、
前記X軸方向に間隔を隔てて配置される一対の前記Y軸壁柱同士の間に架け渡されて接合されるX軸梁と、を備え、
前記X軸梁及び前記Y軸梁の各小口断面形状は、その梁幅が梁せいよりも大きな扁平形状であるとともに、前記X軸梁と前記Y軸梁とは剛接合されており、
前記X軸壁柱、前記Y軸壁柱、前記X軸梁、及び前記Y軸梁は、木造であることを特徴とする建物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、
図2Aの横断面図に示すように、当該壁柱11を、上述の柱111に代えて建物の外周に沿って配置すれば、柱型111pの発生を防ぐことができるものと考えられる。
【0005】
他方、梁121の大断面化の方法の一案としては、梁121の梁せいを大きくすることが挙げられるが、そうすると、
図2Bの縦断面図に示すように、一般に梁幅よりも梁せいの方が大きい縦長形状の梁121の縦断面形状が、更に縦長になってしまう。そして、このような場合に、天井高さを確保しようとすると、階高を高くせざるを得ず、その結果、全体的に建物の高さが高くなって建設コストが上昇するという問題があった。
【0006】
また、地域によっては法令や条例等で建物の高さ制限が課せられおり、そのような地域に建物を建てる際には、階高の増大分だけ建物の階数を減らさざるを得ず、延べ床面積が減少してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、壁柱を有した建物において梁のロングスパン化を図る際に、階高の増大を防ぎながら梁の強度を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
互いに直交するX軸方向とY軸方向とで規定される水平面を上面に有する床部と、壁及び柱として機能し、互いに直交する壁幅方向及び壁厚方向を有する平板状の壁柱と、を備えた建物であって、
前記壁幅方向を前記X軸方向に沿わせて配置されるX軸壁柱と、
前記壁幅方向を前記Y軸方向に沿わせて配置されるY軸壁柱と、
前記Y軸方向に間隔を隔てて配置される一対の前記X軸壁柱同士の間に架け渡されて接合されるY軸梁と、
前記X軸方向に間隔を隔てて配置される一対の前記Y軸壁柱同士の間に架け渡されて接合されるX軸梁と、を備え、
前記X軸梁及び前記Y軸梁の各小口断面形状は、その梁幅が梁せいよりも大きな扁平形状であるとともに、前記X軸梁と前記Y軸梁とは
剛接合されており、
前記X軸壁柱、前記Y軸壁柱、前記X軸梁、及び前記Y軸梁は、木造であることを特徴とする。
【0009】
上記請求項1に示す発明によれば、X軸梁及びY軸梁は共に、梁幅の方が梁せいよりも大きな扁平形状(つまり横長形状)の梁である。そのため、梁幅を大きく設計することで梁の大断面化を達成することができて、つまり、梁せいを大きくせずに梁の強度確保を図れる。これにより、階高の増大を防ぎながら梁の強度確保が可能となる。
また、上記の建物は、X軸梁及びY軸梁という互いに直交する2方向にそれぞれ梁を有し、これら梁同士は、互いに剛接合されている。よって、X軸梁は、架け渡されるY軸壁柱だけでなく、Y軸梁を介してX軸壁柱にも支持され、同様にY軸梁は、架け渡されるX軸壁柱だけでなく、X軸梁を介してY軸壁柱にも支持されていることになる。つまり、X軸梁及びY軸梁は、それぞれ、X軸壁柱とY軸壁柱との両者から支持されており、これにより、各梁の下方撓みの抑制を図れて、このことも各梁の強度確保に大きく貢献する。
【0010】
また、前記X軸壁柱及び前記Y軸壁柱は、荷重を支持するための木製の荷重支持層と、前記荷重支持層の外側に該荷重支持層を取り囲むように設けられた燃え止まり層と、前記燃え止まり層の外側に該燃え止まり層を取り囲むように設けられた木製の燃えしろ層と、を有することとしてもよい。
【0011】
また、前記X軸壁柱と前記Y軸梁とは剛接合されており、
前記Y軸壁柱と前記X軸梁とは剛接合されていることとしてもよい。
【0012】
また、互いに直交するX軸方向とY軸方向とで規定される水平面を上面に有する床部と、壁及び柱として機能し、互いに直交する壁幅方向及び壁厚方向を有する平板状の壁柱と、を備えた建物であって、
前記壁幅方向を前記X軸方向に沿わせて配置されるX軸壁柱と、
前記壁幅方向を前記Y軸方向に沿わせて配置されるY軸壁柱と、
前記Y軸方向に間隔を隔てて配置される一対の前記X軸壁柱同士の間に架け渡されて接合されるY軸梁と、
前記X軸方向に間隔を隔てて配置される一対の前記Y軸壁柱同士の間に架け渡されて接合されるX軸梁と、を備え、
前記X軸梁及び前記Y軸梁の各小口断面形状は、その梁幅が梁せいよりも大きな扁平形状であるとともに、前記X軸梁と前記Y軸梁とは剛接合されており、
前記建物は複数の階を有し、
前記Y軸梁及び前記X軸梁は、前記建物の階毎にそれぞれ配されており、
前記X軸壁柱及び前記Y軸壁柱は、それぞれ、前記建物の全階に亘って延在するような高さ寸法に形成されており、
すべての前記X軸壁柱は、前記建物のすべての階において前記Y軸梁と剛接合されており、
すべての前記Y軸壁柱は、前記建物のすべての階において前記X軸梁と剛接合されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記X軸梁及び前記Y軸梁の上方には、前記X軸梁及び前記Y軸梁との間に間隔を空けて二重床部が設けられ、
前記X軸梁及び前記Y軸梁と前記二重床部との間には、前記建物用の設備機器を収容する空間が区画形成されていることとしてもよい。
【0014】
また、前記X軸梁の梁せいと前記Y軸梁の梁せいとは互いに同寸であり、
前記X軸梁の下面と前記Y軸梁の下面とは互いに面一に配されていることとしてもよい。
【0015】
また、前記X軸壁柱の前記壁幅方向の寸法と、前記Y軸梁の前記梁幅とは互いに同寸であり、
前記Y軸壁柱の前記壁幅方向の寸法と、前記X軸梁の前記梁幅とは互いに同寸であることとしてもよい。
【0016】
また、前記X軸壁柱は、前記建物の外周に沿って前記X軸方向に所定ピッチで間欠的に複数並んで設けられ、
前記Y軸壁柱は、前記建物の外周に沿って前記Y軸方向に所定ピッチで間欠的に複数並んで設けられ、
前記Y軸梁は、前記複数の前記X軸壁柱に対応してそれぞれ前記Y軸方向に沿って複数設けられ、
前記X軸梁は、前記複数の前記Y軸壁柱に対応してそれぞれ前記X軸方向に沿って複数設けられ、
前記複数の前記Y軸梁と前記複数の前記X軸梁とは、平面視格子状に接合されていることとしてもよい。
【0017】
また、
剛接合された前記X軸梁と前記Y軸梁とは互いに協働して、複数の升目状の空間を区画する平面視格子状の梁をなし、
前記升目状の空間には、照明ユニット或いは空調ユニットが配置されていることとしてもよい。
【0018】
また、前記X軸壁柱及び前記Y軸壁柱は前記建物の外周部を構成し、
前記建物の少なくとも一つの隅角部には、前記X軸壁柱及び前記Y軸壁柱が設けられていないことを特徴とする建物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、壁柱を有した建物において梁のロングスパン化を図る際に、階高の増大を防ぎながら梁の強度を確保可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図3Bに示すように、この建物1は、例えば複数階の一例としての四階建て事務所ビルであり、地面Gに埋設された鉄筋コンクリート製(以下、RC製と言う)の基礎3を有する。基礎3の上面3aは概ね水平面に形成されているが、上面3aの一部が水平面で無くても良い。以下では、当該水平面内において互いに直交する2方向のことを、「X軸方向」及び「Y軸方向」と言う(
図3Aを参照)。
【0024】
図3Aに示すように、基礎3の上面3aには、構築されるべき建物1の外周に沿って複数のRC造の壁柱11,11…が立設されており、これら壁柱11,11…は、その内方に設けられる複数の梁21,21…に連結されて、当該梁21,21…と協働して建物1の構造躯体として機能する。この
図3Aの例では、これら複数の壁柱11,11…が周囲から囲むことで基礎3上に区画される空間は、柱が一本も無い無柱空間とされているが、場合によっては、柱を設けても良い。但し、無柱空間の方が好ましいのは言うまでもない。また、各壁柱11,11…は基礎3に剛接合されている。ここで、剛接合とは、外力を受けても接合状態が変化しない接合方式のことであり、これにより、曲げモーメントも速やかに伝達され、各壁柱11の傾倒が有効に抑制される。かかる剛接合は、基礎3と壁柱11との接合部の形成の際に、例えば基礎3及び壁柱11の互いの鉄筋を接合部の位置まで延長させて互いにオーバーラップさせた状態で同位置にコンクリート打設して同接合部を形成することにより実現される。また、この例では、基礎3及び壁柱11のどちらも、現場打ちコンクリートで形成されているが、壁柱11については現場打ちコンクリートに限らず、プレキャストコンクリートパネルを用いても良い。これについては後述する。
【0025】
建物1の外周の平面形状は、二つの短辺と二つの長辺とを有する略矩形状であり、各短辺はX軸方向に沿っており、各長辺はY軸方向に沿っている。そして、前者のX軸方向に沿った各短辺には、それぞれ、複数の一例としての二つの壁柱11,11が、壁幅方向をX軸方向に沿わせつつX軸方向に間欠的に所定ピッチで配置されており、また、後者のY軸方向に沿った各長辺には、それぞれ、複数の一例としての三つの壁柱11,11,11が、壁幅方向をY軸方向に沿わせつつY軸方向に間欠的に所定ピッチで配置されている。以下、X軸方向に沿う各短辺のことを「X軸辺」と言い、Y軸方向に沿う各長辺のことを「Y軸辺」と言う。また、壁幅方向をX軸方向に沿わせて配置された壁柱11のことを「X軸壁柱11x」と言い、壁幅方向をY軸方向に沿わせて配置された壁柱11のことを「Y軸壁柱11y」と言う。
【0026】
ちなみに、本実施形態では、X軸壁柱11x及びY軸壁柱11yのどちらにあっても、壁厚方向の断面二次モーメントよりも壁幅方向の断面二次モーメントの方が大きくなるように設定されている。つまり、X軸壁柱11xについてはY軸方向よりもX軸方向の断面二次モーメントの方が大きく設定され、且つY軸壁柱11yについてはX軸方向よりもY軸方向の断面二次モーメントの方が大きく設定されている。
【0027】
これら何れの壁柱11x,11y…も、
図3Bに示すように高さ方向の全階に亘って延在するような長さ(以下、壁高とも言う)で形成されており、この例では、建物1が四階建てであるので、各壁柱11x,11y…は、略四階建てに相当する壁高を有している。一方、
図3Aに示すように、各壁柱11x,11y…の壁厚方向の寸法たる壁厚は、当然ながら壁幅方向の寸法たる壁幅よりも小さく設定されている。
【0028】
また、同
図3Aに示すように、一方のX軸辺に配置された各X軸壁柱11x,11xと、もう一方のX軸辺に配置された各X軸壁柱11x,11xとは、互いに対応するX軸壁柱11x,11x同士のX軸方向の位置が揃った状態でX軸方向に沿って整列されている。よって、互いに対応する一対のX軸壁柱11x,11x同士が、Y軸方向の間隔を空けつつ互いに対向して配されている。同様に、一方のY軸辺に配置された各Y軸壁柱11y,11y,11yと、もう一方のY軸辺に配置された各Y軸壁柱11y,11y,11yとは、互いに対応するY軸壁柱11y,11y同士のY軸方向の位置が揃った状態でY軸方向に沿って整列されている。よって、互いに対応する一対のY軸壁柱11y,11y同士が、X軸方向の間隔を空けつつ互いに対向して配されている。
【0029】
そして、互いに対向する一対のX軸壁柱11x,11x同士の間には、Y軸梁21yとして、Y軸方向に沿った真っ直ぐな梁21yが架け渡されており、同様に、互いに対向する一対のY軸壁柱11y,11y同士の間には、X軸梁21xとして、X軸方向に沿った真っ直ぐな梁21xが架け渡されている。ここで、X軸梁21xとY軸梁21yとの高さ方向の設置位置は揃っており、これにより、X軸梁21xとY軸梁21yとは、互いが交差する交差部位において剛接合されている。よって、X軸梁21xは、架け渡されるY軸壁柱11yだけでなく、Y軸梁21yを介してX軸壁柱11xにも支持され、同様にY軸梁21yは、架け渡されるX軸壁柱11xだけでなく、X軸梁21xを介してY軸壁柱11yにも支持されている。つまり、X軸梁21x及びY軸梁21yは、それぞれ、X軸壁柱11xとY軸壁柱11yとの両者から支持されており、その結果として、各梁21x,21yの下方撓みの抑制を図れ、全体として梁21x,21yの強度確保を図れる。また、これら剛接合されたX軸梁21x,21x,21xとY軸梁21y,21yとは、全体として平面視格子状に組まれた格子梁G21なっており、このことも下方撓みの抑制に寄与する。
【0030】
かかる格子梁G21は、階毎に、対応する階の床面レベルよりも若干低い位置に配されており、当該位置にて、X軸梁21xの梁端がY軸壁柱11yに剛接合され、Y軸梁21yの梁端がX軸壁柱11xに剛接合されている。そして、当該剛接合によりX軸梁21xからY軸壁柱11yへの曲げモーメントの伝達が円滑になされ、同じくY軸梁21yからX軸壁柱11xへの曲げモーメントの伝達も円滑になされるので、格子梁G21の下方撓みを有効に抑制可能となる。
【0031】
かかるX軸梁21x及びY軸梁21yは、例えば現場打ちコンクリートで形成される。そして、この場合には、壁柱11x(11y)と梁21y(21x)との剛接合は、壁柱11x(11y)と梁21y(21x)との接合部の形成の際に、壁柱11x(11y)及び梁21y(21x)の互いの鉄筋を接合部の位置まで延長させて互いにオーバーラップさせた状態で同位置にコンクリート打設して同接合部を形成することにより実現される。また、X軸梁21xとY軸梁21yとの剛接合も、それぞれ、X軸梁21xとY軸梁21yとの接合部の形成の際に、X軸梁21x及びY軸梁21yの互いの鉄筋を接合部の位置まで延長させて互いにオーバーラップさせた状態で同位置にコンクリート打設して同接合部を形成することにより実現される。但し、X軸梁21x及びY軸梁21yの形成は、現場打ちコンクリートに限るものではなく、プレキャストコンクリートパネルを用いても良く、これについては後述する。
【0032】
かかるX軸梁21x及びY軸梁21yの各小口断面形状は、
図4の縦断面図に示すように、梁幅が梁せいよりも大きな扁平矩形形状(横長矩形形状)である。これにより、梁幅を大きく設計することで梁21x,21yの大断面化を達成することができて、つまり、梁せいを大きくせずに梁21x,21yの強度確保を図れる。これにより、階高の増大を防ぎながら梁21x,21yの強度を確保可能となる。
【0033】
また、この例では、X軸梁21xの梁せいとY軸梁21yの梁せいとは互いに同寸に設定されており、X軸梁21xの下面とY軸梁21yの下面とは互いに面一に配されている。これにより、梁下の室内空間の高さ寸法を、床面の略全面に亘って大きく確保できて、結果、階高の増大を防止可能となる。但し、必ずしも同寸にしなくても良く、一方の梁21x(21y)の梁せいをもう一方の梁21y(21x)の梁せいよりも若干大きくても良い。例えば、梁21の下方撓み抑制を鑑みた場合には、X軸梁21xよりも梁長の長いY軸梁21yの方の梁せいを、X軸梁21xの梁せいより大きくしても良い。
【0034】
更に、この例では、
図3A及び
図3Bに示すように、X軸方向に隣り合うX軸壁柱11x,11x同士の間の間隔D、及びY軸方向に隣り合うY軸壁柱11y,11y同士の間の間隔Dには、それぞれ窓枠31,31…が階毎又は複数階に跨って設置されている。そして、これにより、いわゆる縦連窓様式(単数又は複数の窓が鉛直方向に連なって並んだ配置様式)の開放感のある建物1が実現されている。なお、一階に位置する間隔Dに対しては、ドアを設けても良い。また、これら間隔D,D…に配置されるべき全部の窓枠31又は一部の窓枠31に代えて、同間隔Dにガラス制振壁(不図示)を介装しても良く、このようにすれば、窓としての機能以外に、隣り合う壁柱11,11同士の間の相対変位を抑制する減衰効果も奏し得て、制震性の優れた建物1となる。ガラス制振壁の一例としては、例えば、上記の間隔Dに介装される板ガラスと、同間隔Dを隔てて互いに隣り合う壁柱11,11同士の各対向面にそれぞれ設けられて、板ガラスの自重を支持する粘弾性体と、を有した構成を挙げることができる。
【0035】
また、X軸壁柱11x,11x同士の間の間隔Dに適宜な鋼材等からなる連結部材(不図示)を介装することにより、X軸方向に隣り合うX軸壁柱11x,11x同士を連結して相対変位を規制しても良く、また同様に、Y軸壁柱11y,11y同士の間の間隔Dに適宜な鋼材等からなる連結部材(不図示)を介装することにより、Y軸方向に隣り合うY軸壁柱11y,11y同士を連結して相対変位を規制しても良い。このようにすれば、建物1の強度や水平剛性を更に高めることができる。
【0036】
更には、これらの間隔D,D…に、上述の連結部材に代えてオイルダンパー等の制振部材(不図示)を介装しても良い。これによれば、壁柱11,11同士が相対変位をした際に、当該相対変位に係る振動エネルギーを制振部材が吸収し、これにより壁柱11,11の変位を抑制することができる。なお、制振部材としては、上記のオイルダンパー以外に、摩擦ダンパーや粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、鋼材ダンパー等を適用可能である。
【0037】
また、建物1の外周の四つの隅角部の少なくとも一つには、X軸壁柱11x及びY軸壁柱11yを配置しないのが望ましい。例えば、
図3Aの例では、四つの全ての隅角部にX軸壁柱11x及びY軸壁柱11yが配置されていない。そして、このようにすれば、隅角部での視界が良好となり、開放感のある建物1が実現される。この隅角部の空間、つまり隅角部の近傍に位置するX軸壁柱11xとY軸壁柱11yとの間の間隔Daには、例えば横断面形状がL字状の窓枠31aが配され、同窓枠31aは、隅角部の近傍のX軸壁柱11x及びY軸壁柱11yにそれぞれ固定されている。なお、この間隔Daに、上述のガラス制振壁や連結部材、制振部材等を設けても良い。
【0038】
また、前述のように各X軸辺及び各Y軸辺がそれぞれ建物1の外周をなす場合に、望ましくは、
図3Aに示すようにX軸辺に隣接する位置にはX軸梁21xを設けず、同様に、Y軸辺に隣接する位置にはY軸梁21yを設けないようにすると良い。このようにすれば、建物1の外方からX軸梁21x及びY軸梁21yが見え難くなって、建物1の外観の意匠性が良好になる。また、このX軸辺及びY軸辺に隣接する空間を、カーテンボックスやブラインドボックス等の屋内装備品の設置スペースとして利用しても良い。
【0039】
また、望ましくは、
図3Aに示すように、X軸壁柱11xの壁幅方向の寸法たる壁幅と、Y軸梁21yの梁幅とを互いに同寸に設計し、且つ、Y軸壁柱11yの壁幅方向の寸法たる壁幅と、X軸梁21xの梁幅とを互いに同寸に設計すると良い。このようにすれば、現場打ちコンクリートによってX軸壁柱11xとY軸梁21yとの接合部やY軸壁柱11yとX軸梁21xとの接合部を形成する際に、型枠を配置し易くなる。また、この施工性の向上に伴って施工精度も向上する。
【0040】
ところで、
図3Cに示すように、二階以上の各階の床部41,41…は、それぞれ対応する格子梁G21(X軸梁21x,21x,21x及びY軸梁21y,21y)の上にそれぞれ設けられ、そして、各床部41,41…は、その上面に水平面を有している。かかる床部41にあっては、その下面を、格子梁G21の上面に当接させて略一体化しても良いが、場合によっては、
図3Cに示すようにフリーアクセスフロア(OAフロア)の如き二重床構造を採用しても良い。二重床構造は、例えば、格子梁G21の上面に離散的に立設される複数の支柱(不図示)と、これら支柱に支持されつつ格子梁G21の上面との間に間隔を空けて配されて二重床部41となる複数のパネル部材と、を有する。そして、かかる二重床構造によれば、格子梁G21とパネル部材との間に区画された空間SP41を、電気配線、ガスや水道の配管、空調ダクト等の各種設備機器の収容スペースSP41として用いることができる。
【0041】
また、
図3Aに示す格子梁G21の各升目状の空間SP21,SP21…は、
図3Cの照明ユニット51や空調ユニット52の設置スペースに供される。これにより、これらユニット51,52の下面高さを、格子梁G21をなすX軸梁21x,21x,21x及びY軸梁21y,21yの下面高さと概ね揃えて略面一にすることができて、その結果、これらユニット51,52の配置下においても、室内空間の天井高さを略全面に亘って高く維持可能となる。ちなみに、空調ユニット51は、空気の吹き出し口と吸い込み口とを有し、そして、これら吹き出し口及び吸い込み口は、空調ダクト(不図示)に接続されて空調に供されるが、かかる空調ダクトは例えば上述の二重床構造の設備機器の収容スペースSP41に収容されている。
【0042】
また、この建物1を本棟1とした場合に、
図3Aに示すように、この本棟1の隣に別棟1aを設けても良い。この別棟1aは、例えば内部に階段やエレベータ、トイレなどを有した建物1aである。そして、階毎に本棟1の床部41と別棟1aの床部41aとが渡り廊下61で連結されており、これにより人の行き来が可能に構成されている。
図3Aの例では、本棟1のY軸方向の隣に別棟1aが建てられているので、別棟1aから延長した渡り廊下61は、本棟1におけるX軸方向に隣り合うX軸壁柱11x,11x同士の間の間隔Dに架け渡されている。つまり、当該間隔Dを、渡り廊下61等の連絡通路部材の設置スペースとして利用しても良い。また、本棟1と別棟1aとの間をオイルダンパー等の制振部材(不図示)で連結することにより、いわゆる連結制振を行っても良い。すなわち、水平振動の固有周期を本棟1と別棟1aとの間で互いに異ならせて設定すれば、本棟1及び別棟1aが水平変位した際に、互いの間に相対変位が生じるので、当該相対変位を制振部材に入力すれば、相対変位の振動エネルギーが熱エネルギー等に変換されて相対変位が減衰され、これにより本棟1及び別棟1aの水平変位が抑制される。
【0043】
ところで、上述の実施形態では、建物1の基礎3だけでなく、X軸壁柱11x、Y軸壁柱11y、X軸梁21x、及びY軸梁21yの何れも現場打ちコンクリートで形成していたが、何等これに限るものではない。例えば、壁柱11x,11yや梁21x,21yについてはプレキャストコンクリートパネル(以下、PCパネルと言う)を用いて形成しても良い。
【0044】
その場合には、X軸壁柱11x、Y軸壁柱11y、X軸梁21x、及びY軸梁21yは、それぞれ複数のPCパネルに分割されているのが好ましい。分割の単位は、前者の壁柱11x,11yであれば、例えば階毎或いは複数階毎であり、また、後者の梁21x,21yであれば、例えば
図3Aの一つの升目状の空間SP21に隣接する部分毎である。
【0045】
PCパネル同士の連結は、例えば次のようにして行われる。先ず、PCパネルにおいて、連結時に突き合わせられるべき面(以下、突き合わせ面と言う)には、PCパネルの内部に配筋された複数の鉄筋の端部が突出しているとともに、同突き合わせ面には、突き合わせられる相手側のPCパネルの突き合わせ面から突出する複数の鉄筋の端部を挿入するための継ぎ手用鞘菅が埋設されている。なお、継ぎ手用鞘菅は、当該鞘菅が埋設されている方のPCパネル内の鉄筋に連結されている。そして、連結すべきPCパネル同士を各突き合わせ面にて突き合わせる際に、互いに自身の突き合わせ面の継ぎ手用鞘菅に相手の鉄筋の端部を差し込みながら、モルタル等を接着材として使用して突き合わせ面同士を接合し、これによりPCパネル同士は剛接合される。
なお、X軸壁柱11xとY軸梁21yとの剛接合、Y軸壁柱11yとX軸梁21xとの剛接合も、上述と同様に、鉄筋の継ぎ手用鞘菅への挿入と接着材とを組み合わせた手法を用いてなされ、また、基礎3とX軸壁柱11xとの剛接合、及び基礎3とY軸壁柱11yとの剛接合も、上述と同様の手法を用いてなされる。
【0046】
ところで、上述の実施形態では、建物1をRC造で形成していたが、何等これに限るものではない。例えばX軸壁柱11x、Y軸壁柱11y、X軸梁21x、及びY軸梁21yは木造でも良い。但し、基礎3はRC造である。
【0047】
ここで望ましくは、
図5Aの横断面図に示すように、X軸壁柱11x及びY軸壁柱11yを、柱心側から外側に向かうに従って複数の層を有した層構造で構成し、そして、当該層として、荷重を支持するための木製の荷重支持層L11aと、荷重支持層L11aの外側に荷重支持層L11aを取り囲むように設けられた燃え止まり層L11b(1時間耐火で約3cm)と、燃え止まり層L11bの外側に燃え止まり層L11bを取り囲むように設けられた木製の燃えしろ層L11c(1時間耐火で約5〜6cm)と、を有していると良い。
【0048】
また、同様に、X軸梁21x及びY軸梁21yも、
図5Bの縦断面図に示すように、梁心側から外側に向かうに従って複数の層を有した層構造で構成し、そして、当該層として、荷重を支持するための木製の荷重支持層L21aと、荷重支持層L21aの外側に荷重支持層L21aを取り囲むように設けられた燃え止まり層L21bと、燃え止まり層L21bの外側に燃え止まり層L21bを取り囲むように設けられた木製の燃えしろ層L21cと、を有していると良い。
【0049】
そして、このような層構造によれば、X軸壁柱11x、Y軸壁柱11y、X軸梁21x、及びY軸梁21yの何れについても、火が荷重支持層L11a,L21aに到達する前に燃え止まり層L11b,L21bで燃焼が止まり、これにより、荷重支持層L11a,L21aへの延焼は防止されて、建物の構造躯体の健全性は維持される。
【0050】
荷重支持層L11a,L21a及び燃えしろ層L11c,L21cに用いられる木材としては、米松、唐松、檜、杉、あすなろなどの木材(以下、一般木材と言う)が挙げられる。
また、燃え止まり層L11b,L21bとしては、例えば、上記一般木材より熱容量(熱吸収量)が大きな高熱容量材、不燃材にしてかつ断熱性を有する断熱材、難燃処理木材または上記一般木材より熱慣性が高い樹種等の異種材が用いられる。ここで高熱容量材としては、例えば、モルタル、石材、ガラス、繊維補強セメント等の無機質材料、各種の金属材料の他、中空矩形断面の金属製のパイプ内に無機材料、液体金属、水、無機水和塩、消石灰等の蓄熱材料を充填して一体化したもの等が挙げられる。また、不燃材にしてかつ断熱性を有する断熱材としては、例えば、珪酸カルシウム板、ロックウール、グラスウール等が挙げられる。また、上記一般木材より熱慣性が高い木材としては、セランガンバツ、ジャラ、ボンゴシ等が挙げられる。
【0051】
なお、当該木造の場合にあっても、X軸壁柱11x、Y軸壁柱11y、X軸梁21x、及びY軸梁21yは、前述のPCパネルと同様の単位で分割されていても良い。そして、かかるパネル同士の連結は、例えば、連結時に突き合わされるべき各突き合わせ面に形成された凹部に、鉄板や棒鋼等の差物をパネル同士に跨るように差し込みながら、木工用ボンド等の適宜な接着材を併用して突き合わせ面同士を接合することでなされ、これにより、パネル同士は剛接合される。なお、X軸壁柱11xとY軸梁21yとの剛接合、Y軸壁柱11yとX軸梁21xとの剛接合も、上述と同様の差物と接着材とを組み合わせた手法を用いてなされる。
【0052】
但し、上述のように基礎3はRC造であるため、基礎3とX軸壁柱11xとの剛接合、及び基礎3とY軸壁柱11yとの剛接合については、
図6の縦断面図に示すように、例えば基礎3と壁柱11x,11yとに跨って固定される金物71を用いて行われる。金物71は、水平板部71aと鉛直板部71bとを一体に有する縦断面L字状の鋼製部材71であり、同鋼製部材71の水平板部71aを、基礎3の上面3aに当接してアンカーボルト73などの締結部材73で同上面に固定し、鉛直板部71bを、壁柱11x,11yの鉛直壁面11bに当接させて同締結部材73で同鉛直面11bに固定する。そして、かかる鋼製部材71を、壁柱11x,11yの両側の鉛直壁面11b,11bに対してそれぞれ設けることにより、基礎3と壁柱11x,11yとの剛接合が実現される。
【0053】
ちなみに、上述のパネル同士の連結手法、つまり差物と接着剤とを用いる連結手法は、前述のPCパネルの連結に適用することもできる。
【0054】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0055】
上述の実施形態では、建物1の外周の位置たるX軸辺及びY軸辺に、それぞれX軸壁柱11x及びY軸壁柱11yを配置し、これにより、これらX軸壁柱11x及びY軸壁柱11yは、建物1の外周部を構成していたが、何等これに限るものではない。例えば、
図7の横断面図に示すように、X軸辺及びY軸辺には、板ガラス等の非構造部材81を配置してこれら非構造部材81を建物1bの外周部とし、これら非構造部材81によって囲まれる平面視矩形の空間内に、非構造部材81と間隔を隔てて、X軸壁柱11x及びY軸壁柱11yを配置するようにしても良い。
【0056】
上述の実施形態では、X軸壁柱11xとY軸梁21yとの接合、及びY軸壁柱11yとX軸梁21xとの接合を剛接合としていたが、何等これに限るものではなく、ピン接合でもよい。なお、ピン接合とは、連結位置での相対回転を許容しつつ、これ以外の相対移動を不能に規制する接合構造のことである。
【0057】
上述の実施形態では、
図5Aに示すように、木造のX軸壁柱11x及びY軸壁柱11yとして、荷重支持層L11aの壁厚方向の両面に、それぞれ燃え止まり層L11b,L11bと、燃えしろ層L11c,L11cとを有した5層構造の壁柱を例示したが、何等これに限るものではない。例えば、荷重支持層L11aの壁厚方向の片面にのみ燃え止まり層L11b及び燃えしろ層L11cを有するようにしても良い。なお、その場合には、荷重支持層L11aの両面のうちで、これら燃え止まり層L11b及び燃えしろ層L11が設けられない方の面を、ケイ酸カルシウム板等の耐火材で被覆しておくのが望ましい。
【0058】
上述の実施形態では、
図5Bに示すように、木造のX軸梁21x及びY軸梁21yとして、荷重支持層L21aの上面及び下面の両方に、それぞれ燃え止まり層L21b,L21bと、燃えしろ層L21c,L21cと、を有した5層構造の梁を例示したが、何等これに限るものではない。例えば、荷重支持層L21aの下面及び上面のうちのどちらか一方の面にのみ燃え止まり層L21b及び燃えしろ層L21cを有するようにしても良い。なお、その場合にも、荷重支持層L21aの上面及び下面のうちで、これら燃え止まり層L21b及び燃えしろ層L21が設けられない方の面を、ケイ酸カルシウム板等の耐火材で被覆しておくのが望ましい。
【0059】
上述の実施形態では、格子梁G21の一例として、
図3Aに示すように、複数の一例としての三本のX軸梁21x,21x,21xと、同じく複数の一例としての二本のY軸梁21y,21yとを有した構成を示したが、何等これに限るものではなく、X軸梁21x及びY軸梁21yはそれぞれ単数でも良い。その場合には、X軸梁21xが架け渡されるべきY軸壁柱11yは、各Y軸辺に一つずつ設けられ、またY軸梁21yが架け渡されるべきX軸壁柱11xは、各X軸辺に一つずつ設けられることになる。そして、このとき、Y軸壁柱11yを各Y軸辺の中央に配置し、X軸壁柱11xを各X軸辺の中央に配置するようにすれば、X軸梁21x及びY軸梁21yは互いに協働して、平面視十文字状の梁をなすようになるが、かかる十文字状の梁も、上述の格子梁G21の一例に含まれるものである。なお、この場合には、建物1の四つの隅角部には、十文字状の梁によりそれぞれ升目状の空間SP21,SP21…が区画されるが、かかる升目状の空間SP21に対して前述の照明ユニット51や空調ユニット52を収容しても良いのは言うまでもない。