(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周側に周方向に1以上の刃部を備える回転工具を用いて、当該回転工具を軸回りに回転しながら被加工物に対して相対移動することにより行う断続的な切削加工において、加工面性状を算出する加工面性状算出装置であって、
断続的な切削加工に伴って前記回転工具に生じる切削抵抗が変動する場合に、前記回転工具の切削抵抗に基づいて前記回転工具の回転中心の変位量を算出する工具中心変位量算出手段と、
前記回転工具の回転中心に対する前記刃部の相対刃先位置を算出する相対刃先位置算出手段と、
前記回転工具の回転中心の変位量と前記相対刃先位置とに基づいて前記被加工物に対する前記刃部の絶対刃先位置を算出する絶対刃先位置算出手段と、
前記絶対刃先位置を前記被加工物に転写させることにより前記被加工物の加工後形状を算出する加工後形状算出手段と、
算出された前記被加工物の加工後形状に基づいて、当該加工後形状おける加工面性状を算出する加工面性状算出手段と、
を備える加工面性状算出装置。
外周側に周方向に1以上の刃部を備える回転工具を用いて、当該回転工具を軸回りに回転しながら被加工物に対して相対移動することにより行う断続的な切削加工において、加工面性状を算出する加工面性状算出方法であって、
断続的な切削加工に伴って前記回転工具に生じる切削抵抗が変動する場合に、前記回転工具の切削抵抗に基づいて前記回転工具の回転中心の変位量を算出する工具中心変位量算出工程と、
前記回転工具の回転中心に対する前記刃部の相対刃先位置を算出する相対刃先位置算出工程と、
前記回転工具の回転中心の変位量と前記相対刃先位置とに基づいて前記被加工物に対する前記刃部の絶対刃先位置を算出する絶対刃先位置算出工程と、
前記絶対刃先位置を前記被加工物に転写させることにより前記被加工物の加工後形状を算出する加工後形状算出工程と、
算出された前記被加工物の加工後形状に基づいて、当該加工後形状おける加工面性状を算出する加工面性状算出工程と、
を備える加工面性状算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、加工面性状(加工後形状の表面状態)をシミュレーションすることができれば、加工面性状を向上することができる加工条件を見つけ出すことができる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、加工面性状をシミュレーションすることができる加工面性状算出装置および加工面性状算出方法、並びに、加工面性状算出装置を用いた加工条件決定装置、加工条件決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(加工面性状算出装置)
(請求項1)本発明に係る加工面性状算出装置は、外周側に周方向に1以上の刃部を備える回転工具を用いて、当該回転工具を軸回りに回転しながら被加工物に対して相対移動することにより行う断続的な切削加工において、加工面性状を算出する加工面性状算出装置であって、断続的な切削加工に伴って前記回転工具に生じる切削抵抗が変動する場合に、前記回転工具の切削抵抗に基づいて前記回転工具の回転中心の変位量を算出する工具中心変位量算出手段と、前記回転工具の回転中心に対する前記刃部の相対刃先位置を算出する相対刃先位置算出手段と、前記回転工具の回転中心の変位量と前記相対刃先位置とに基づいて前記被加工物に対する前記刃部の絶対刃先位置を算出する絶対刃先位置算出手段と、前記絶対刃先位置を前記被加工物に転写させることにより前記被加工物の加工後形状を算出する加工後形状算出手段と、算出された前記被加工物の加工後形状に基づいて、当該加工後形状おける加工面性状を算出する加工面性状算出手段とを備える。
【0006】
(請求項2)また、前記加工面性状算出手段により算出される前記加工面性状は、前記加工後形状における面粗さとしてもよい。
(請求項3)また、
前記加工後形状算出手段は、前記回転工具の1回転中における切込方向の最深位置を算出し、且つ、前記回転工具の複数の回転数分についての前記最深位置を前記加工後形状として算出し、前記加工面性状算出手段
は、前記加工後形状として算出された複数の前記最深位置の中における最大値と最小値の差
を前記加工面性状として算出するようにしてもよい。
【0007】
(加工条件決定装置)
(請求項4)本発明に係る加工条件決定装置は、前記加工面性状を算出する上述した加工面性状算出装置と、算出された前記加工面性状に基づいて加工条件を決定する加工条件決定手段とを備える。
(請求項5)また、前記加工制御装置は、前記被加工物の加工後形状と前記被加工物の目標形状との差に基づいて、前記被加工物の最小削り残し量を算出する削り残し量算出手段を備え、前記加工条件決定手段は、前記加工面性状および前記最小削り残し量に基づいて前記加工条件を決定するようにしてもよい。
【0008】
(請求項6)また、前記加工条件決定手段は、前記加工面性状および前記最小削り残し量に基づいて前記回転工具の回転速度を決定するようにしてもよい。
(請求項7)また、前記加工条件決定手段は、前記加工面性状に基づいて前記回転工具の回転速度を決定すると共に、前記最小削り残し量に基づいて前記回転工具の指令位置を切込方向にオフセットするようにしてもよい。
【0009】
(加工面性状算出方法)
(請求項8)本発明に係る加工面性状算出方法は、外周側に周方向に1以上の刃部を備える回転工具を用いて、当該回転工具を軸回りに回転しながら被加工物に対して相対移動することにより行う断続的な切削加工において、加工面性状を算出する加工面性状算出方法であって、断続的な切削加工に伴って前記回転工具に生じる切削抵抗が変動する場合に、前記回転工具の切削抵抗に基づいて前記回転工具の回転中心の変位量を算出する工具中心変位量算出工程と、前記回転工具の回転中心に対する前記刃部の相対刃先位置を算出する相対刃先位置算出工程と、前記回転工具の回転中心の変位量と前記相対刃先位置とに基づいて前記被加工物に対する前記刃部の絶対刃先位置を算出する絶対刃先位置算出工程と、前記絶対刃先位置を前記被加工物に転写させることにより前記被加工物の加工後形状を算出する加工後形状算出工程と、算出された前記被加工物の加工後形状に基づいて、当該加工後形状おける加工面性状を算出する加工面性状算出工程とを備える。
【0010】
(加工条件決定方法)
(請求項9)本発明に係る加工条件決定方法は、前記加工面性状を算出する上述した加工面性状算出方法と、前記加工面性状算出方法により算出された前記加工面性状に基づいて加工条件を決定する加工条件決定工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1)回転工具による断続的な切削加工においては、回転工具が1回転している間に、回転工具の刃部の位相によって、切削している瞬間と、切削していない空転している瞬間とが存在する。そのため、回転工具の回転中心の変位量が、そのまま加工面性状となるとは限らない。回転工具の回転中心とは、回転工具が変形していない状態での回転工具の軸方向の各断面の回転中心を意味する。さらに、回転工具が1回転している間であって切削している間においても、切削抵抗が変動することがある。
【0012】
ここで、本発明によれば、回転工具の回転中心の変位量に加えて、相対刃先位置を考慮することにより、被加工物に対する絶対刃先位置を算出している。つまり、回転工具が1回転している間において、絶対刃先位置の動きを高精度に把握できる。そして、絶対刃先位置を被加工物に転写させることにより、被加工物の加工後形状を算出しているため、加工後形状を高精度に算出することができる。このようにして算出した加工後形状により、当該加工後形状の加工面性状を算出している。従って、シミュレーションにより加工面性状を高精度に得ることができる。
【0013】
(請求項2)加工面性状を面粗さ、すなわち、切込方向の最深位置と最表面側位置との差としている。つまり、面粗さをシミュレーションにより算出することができる。
(請求項3)加工面性状を、複数の最深位置のうち最大値と最小値の差としている。当該差は容易に算出できる。そして、当該差は、十分に加工後形状の表面状態を表している。
【0014】
(請求項4)本発明の加工条件決定装置によれば、シミュレーションにより算出した加工面性状を用いて加工条件を決定するため、高い加工精度を得ることができる。ここで、加工条件決定装置は、NCデータの作成装置として適用することもでき、実際の加工において補正処理を行う装置として適用することもできる。ここで、加工条件には、例えば、回転工具の回転速度、切込方向の削り代、回転工具の相対的な送り速度、指令位置の軌跡(加工パス)の中の少なくとも一つである。
【0015】
(請求項5)加工後形状算出手段により算出された加工後形状は、目標形状との差を算出することにより、最小削り残し量を算出できる。そして、算出した最小削り残し量および加工面性状に基づいて加工条件を決定することで、最小削り残し量を低減しつつ、加工面性状を高精度にすることができる。つまり、加工精度を向上することができる。
【0016】
(請求項6)ここで、回転工具の回転速度に応じて加工面性状および最小削り残し量が変化することが分かった。そこで、算出した加工面性状および最小削り残し量に基づいて、回転速度を決定することで、最小削り残し量を低減しつつ、加工面性状を高精度にすることができる。
【0017】
(請求項7)現在の加工条件が最小削り残し量を大きく加工条件であるとしても、指令位置そのものをオフセットすることで、最小削り残し量を低減することができる。一方、加工面性状は、指令位置をオフセットしたとしても高精度にすることはできない。そこで、加工面性状は、回転工具の回転速度を決定することに適用する。このように、算出した加工面性状を回転速度の決定に適用し、算出した最小削り残し量を指令位置のオフセットに適用することで、最小削り残し量を低減すると共に、加工面性状を高精度にすることができる。
【0018】
(請求項8)本発明に係る加工面性状算出方法によれば、上述した加工面性状算出装置と同様に、高精度に加工面性状を算出できる。
(請求項9)本発明に係る加工条件決定方法は、上述した加工条件決定装置と同様に、加工面性状を高精度にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1.加工システムの概要)
加工システムの概要について説明する。加工システムは、回転工具により被加工物Wを切削加工する場合に、最小削り残し量を小さくすることと共に、加工面性状を高精度にすることを目的とする。つまり、加工誤差を低減することを目的とする。
【0021】
(2.対象工作機械の構成)
加工システムの適用対象の工作機械の構成について説明する。対象の工作機械は、被加工物Wを回転工具により切削加工する工作機械である。その工作機械の一例としての横型マシニングセンタについて、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、当該工作機械は、ベッド1と、ベッド1上にてX軸方向に移動可能なコラム2と、コラム2の前面(
図1の左面)にてY軸方向に移動可能なサドル3と、サドル3に回転可能に支持され回転工具5を保持する回転主軸4と、ベッド1上にてZ軸方向に移動可能であり被加工物Wを載置するテーブル6とを備える。
【0022】
ここで、回転工具5は、外周側に周方向に1以上の刃部5a,5bを備える。回転工具5は、例えば、ボールエンドミル、スクエアエンドミル、フライスなどを含む。つまり、当該工作機械は、回転工具5を軸回りに回転しながら、被加工物Wに対して相対移動することにより、断続的な切削加工を行う。なお、図示しないが、当該工作機械は、コラム2、サドル3およびテーブル6を移動するためのモータや、クーラントを供給するクーラントノズル、クーラントポンプなどを備える。
【0023】
(3.加工誤差の発生メカニズム)
次に、加工誤差の発生メカニズムについて、
図2〜
図6を参照して説明する。加工誤差とは、被加工物Wの実加工後形状と、被加工物Wの目標形状(設計値)との誤差である。
【0024】
図2に示すように、回転工具5が変形することにより、回転工具5における各Z軸方向断面の回転中心座標が指令座標からずれることが、加工誤差の原因の一つである。Z軸方向とは、回転主軸4の回転軸方向である。特に、L/D(=長さ/直径)の大きな回転工具5(細長い回転工具)を用いる場合には、当該回転工具5の剛性が低いため、切削抵抗Fyによって当該回転工具5の先端側が撓み変形しやすい。ここで、回転工具5の先端外周面に周方向に1以上の刃部5a,5bを備える。つまり、切削抵抗Fyによって、回転工具5の先端側(刃部5a,5bの部位)の回転中心Cが変位することにより、被加工物Wの加工後形状が変化する。その結果、加工誤差を生じる。ここで、回転中心Cとは、回転工具5が変形していない状態での回転工具5の軸方向(回転主軸4の回転軸方向)の各断面の回転中心、すなわち、回転工具5における各Z軸方向断面の回転中心を意味する。ただし、説明を分かりやすくするために、以下においては、回転中心Cは、あるZ軸座標における1箇所の回転中心として説明する。
【0025】
ここで、回転工具5に生じる切削抵抗Fyが一定であれば、回転工具5の先端側の撓み量は一定となる。しかし、回転工具5による断続的な切削加工においては、回転工具5に生じる切削抵抗Fyは逐次変化する。そのため、回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量は、主としてY方向に逐次変化する。このときの回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量と切削抵抗Fyとは、回転工具5の動特性に依存する。工具の動特性とは、入力された力に対する変形の挙動を示すものであり、伝達関数(コンプライアンスおよび位相遅れ)もしくはそれから算出される質量(M)、粘性減衰係数(C)、バネ定数(K)、共振周波数(ω)、減衰比(ζ)などにより表される。
図2において往復矢印は、回転工具5の先端側の回転中心Cが主としてY方向に往復移動することを意味する表示である。
【0026】
図2には、Y方向の切削抵抗Fyによる加工誤差について説明した。ただし、実際には、
図3に示すように、回転工具5には、反切込方向の切削抵抗Fyの他に、反送り方向の切削抵抗Fxおよび軸方向の切削抵抗Fzが生じる場合がある。つまり、回転工具5の先端側の回転中心Cは、各方向の切削抵抗Fx,Fy、Fzの合成抵抗Fxyz(図示せず)の方向に変位する。なお、
図3には、スクエアエンドミルを図示しているが、
図2に示すようなボールエンドミルの場合も同様である。
【0027】
次に、回転工具5を回転しかつ送りながら被加工物Wの断続的な切削加工を行う際において、回転工具5に生じる切削抵抗Fyおよび回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量Yaの経過時間tに対する挙動について、
図4および
図5を参照して説明する。ここでは、反切込方向(Y方向)における切削抵抗Fyおよび先端側の回転中心Cの変位量Yaを取り上げて説明する。これは、反切込方向(Y方向)が加工誤差に対して最も影響が大きいためである。
【0028】
図4と
図5(a)〜(e)を参照して、切削抵抗Fyの経過時間tに対する挙動について説明する。
図4に示すように、切削抵抗Fyは、ゼロから時刻t1にて大きな値に変化し、時刻t2に再びゼロに変化している。
図5(a)(b)が、それぞれ
図4の時刻t1,t2に対応する。
図5(a)に示すように、時刻t1は、一方の刃部5aが被加工物Wに接触開始した瞬間である。つまり、時刻t1は、一方の刃部5aにより切削加工を開始した瞬間である。一方、
図5(b)に示すように、時刻t2は、一方の刃部5aによる被加工物Wの切削加工を終了した瞬間である。このように、t1〜t2の間において、一方の刃部5aが切削加工している。
【0029】
その後、
図4に示すように、t2〜t4の間は、切削抵抗Fyがゼロとなっている。この間は、時刻t3に対応する
図5(c)に示すように、両方の刃部5a,5bが被加工物Wに接触していない。つまり、回転工具5は空転している。
【0030】
その後、
図4に示すように、切削抵抗Fyが時刻t4に再び大きな値に変化し、時刻t5に再びゼロに変化している。
図4の時刻t4には、対応する
図5(d)に示すように、他方の刃部5bが被加工物Wに接触開始している。つまり、他方の刃部5bにより切削加工を開始している。また、
図4の時刻t5には、対応する
図5(e)に示すように、他方の刃部5bによる切削加工を終了している。このように、t4〜t5の間において、他方の刃部5bが切削加工している。
【0031】
ここで、
図5における今回の切削領域より、t1〜t2、t4〜t5の各瞬間において、実切込量(瞬間的な切込量)が異なることが分かる。つまり、実切込量は、切削開始から一気に多くなり、ピークに達した後に徐々に少なくなっている。より詳細には、前回切削されていない部位と前回切削された部位との境界の前後で変化している。そして、
図4の切削抵抗Fyのうち急激に大きくなっている部分に示すように、切削加工中の切削抵抗Fyは、略三角形状になっており、実切込量に応じて変化していることが分かる。
【0032】
また、回転工具5は、時刻t1,t4において切削加工を開始するということは、換言すると、時刻t1,t4において被加工物Wに衝突するということになる。つまり、回転工具5が空転状態から切削加工を開始する瞬間には、回転工具5には、被加工物Wとの衝突による断続的な切削抵抗が発生する。
【0033】
つまり、回転工具5の先端側の回転中心Cは、切削加工している間の切削抵抗Fyの変動によって、少なくとも反切込方向(Y方向)への加速度を生じる。さらに、断続切削であることによって、回転工具5の先端側の回転中心Cは、切削加工している間の切削抵抗Fy(衝撃力のような力)に起因して、少なくとも反切込方向(Y方向)に振動する。
【0034】
従って、回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量Yaは、
図4に示すように、回転工具5の固有値に応じて振動している。特に、切削加工中に変動する切削抵抗Fyが発生した直後に、回転中心Cの変位量Yaが最も大きくなり、その後に減衰している。そして、再び、切削抵抗Fyにより変位量Yaが大きくなり、繰り返す。
【0035】
次に、回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量Yaが、加工誤差にどのように影響を与えるかについて
図6(a)〜
図6(c)を参照して説明する。回転工具5の回転位相φのそれぞれにおいて、回転工具5の先端側の回転中心Cに対する刃部5aの刃先の相対位置(相対刃先位置)は、
図6(a)に示すようになる。つまり、刃部5aが被加工物Wを切削加工している回転位相φは、約30°〜90°の位相範囲となる。
【0036】
そして、先端側の回転中心Cの変位量Yaとして、3種類について示す。ただし、これらはいずれも模式的に示しており、
図6(b)の縦軸は、
図6(a)の縦軸に対する縮尺は同一ではない。第一番(No.1)の変位量Yaは、
図4に示したような切込量に応じた挙動とする。第二番(No.2)の変位量Yaは、
図4にて示したような振動する挙動とする。第三番(No.3)の変位量Yaは、一定である場合とする。
【0037】
このように、第一番(No.1)〜第三番(No.3)の変位量Yaの場合に、被加工物Wに対する刃部5aの刃先位置(絶対刃先位置)は、
図6(c)に示すようになる。つまり、
図6(a)の挙動に、
図6(b)のそれぞれの挙動を合算した状態となる。ここで、
図6(c)において、ハッチングを付した回転位相φの範囲が、刃部5aにより切削加工を行っている。さらに、実加工においては、回転工具5の回転速度は、回転工具5の送り速度に対して非常に大きい。従って、今回の切削加工における切削面の大部分は、次の切削加工により削り取られる。そうすると、今回の切削加工における切削面のうち、最終加工後形状に表れる部分は、
図6(c)のハッチングを付した回転位相φのうち90°付近となる。つまり、少なくとも、ハッチングを付した回転位相φのうち最深位置が、最終加工後形状に表れる。
【0038】
このことを鑑みると、
図6(c)において、第一番(No.1)の変位量Yaの場合には、工具回転位相φが90°付近において最深位置となり、目標値に一致する。従って、第一番(No.1)の変位量Yaの場合には、加工誤差がほぼゼロとなる。第二番(No.2)の変位量Yaの場合には、工具回転位相φが90°より僅かに手前において最深位置となり、目標値を下回る。従って、第二番(No.2)の変位量Yaの場合には、削りすぎとなる加工誤差が生じる。ただし、第二番(No.2)の変位量Yaによっては、削り残しとなる加工誤差を生じる場合や、加工誤差がゼロとなる場合がある。第三番(No.3)の変位量Yaの場合には、工具回転位相φが90°付近において最深位置となり、目標値より上回る。従って、第三番(No.3)の変位量Yaの場合には、常に削り残しとなる加工誤差が生じる。
【0039】
このように、刃部5aの絶対刃先位置の最深位置およびその付近が、加工後形状を形成する。つまり、回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量Yaのみならず、刃部5aの刃先位置が回転中心Cに対してどの位置に位置しているかが、加工誤差に影響を及ぼすことが分かる。
【0040】
(4.加工システムの機能構成)
次に、加工システムの機能構成についての詳細を
図7〜
図16を参照して説明する。加工システムは、
図7の機能ブロック図に示すように構成される。以下に、
図7に示す加工システムの機能構成について説明する。
【0041】
機械情報記憶部10は、適用対象の工作機械に関する各種情報を記憶している。各種情報には、例えば、工作機械の機械構成、コーナー部減速パラメータ、回転主軸4の回転速度上限値、各送り軸の移動速度の上限値などの制御パラメータが含まれる。指令値算出部11は、既に作成されているNCデータおよび機械情報記憶部10に記憶されている機械情報に基づいて、回転工具5の中心位置指令値C0と、回転主軸4の位相指令値とを算出する。回転工具5の中心位置指令値C0は、機械座標系にて表される。
【0042】
工具中心座標算出部12は、指令値算出部11により算出された回転工具5の中心位置指令値C0と、工具中心変位量算出部42により算出された回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量とに基づいて、回転工具5の先端側の回転中心Cの座標を算出する。つまり、シミュレーションを続けることによって先端側の回転中心Cの変位量が変化した場合には、その変化を逐次反映させて先端側の回転中心Cの座標を算出する。刃先形状記憶部13は、1または複数の回転工具5の刃先形状を記憶している。刃先形状記憶部13には、例えば、
図2に示すボールエンドミルの場合には、図示する刃部5a,5bの形状が記憶されている。
【0043】
相対刃先位置算出部14は、回転工具5の先端側の回転中心Cに対する刃部5a,5bの相対刃先位置を算出する。ここでは、相対刃先位置算出部14は、指令値算出部11により算出された回転主軸4の位相指令値と、刃先形状記憶部13に記憶されている刃先形状とに基づいて、相対刃先位置を算出する。つまり、相対刃先位置算出部14は、回転工具5の回転位相φのそれぞれについて、刃部5a,5bの相対刃先位置を算出する。相対刃先位置は、例えば、
図6(a)に示すような情報である。
【0044】
絶対刃先位置算出部15は、回転工具5の先端側の回転中心Cの座標と相対刃先位置とに基づいて被加工物Wに対する刃部5a,5bの絶対刃先位置を算出する。この絶対刃先位置算出部15は、回転工具5の1回転中において経過時間tに応じて変化する絶対刃先位置を算出することができる。絶対刃先位置は、例えば、
図6(c)に示すような情報である。また、シミュレーションを続けることによって刃部5a,5bの相対刃先位置が変化した場合には、絶対刃先位置算出部15は、その変化を逐次反映させて絶対刃先位置を算出する。
【0045】
素材形状算出部21は、入力された形状データに基づいて、被加工物Wの素材形状を算出する。加工形状記憶部22は、素材形状算出部21にて算出された被加工物Wの素材形状、および、加工後形状算出部24にて算出された被加工物Wの加工形状の履歴を記憶する。つまり、記憶される情報には、最終加工後形状のみならず、加工途中において逐次変化する被加工物Wの形状が含まれる。
【0046】
実切込量算出部23は、加工の各瞬間において、刃部5a,5bによる実切込量hをシミュレーションにより算出する。実切込量hについて、
図8(a)を参照して説明する。
図8(a)には、回転工具5の回転位相φが約45°の瞬間の状態を示している。この瞬間において、刃部5aが被加工物Wに接触している部分のうち回転工具5の径方向長さが、実切込量hとなる。
図8(a)に示す状態から回転工具5が右回りに回転するとき、実切込量hは、徐々に少なくなっていく。そして、シミュレーションを続けることによって刃部5a,5bの絶対刃先位置が変化した場合には、実切込量算出部23は、その変化を逐次反映させて実切込量hを算出する。つまり、実切込量算出部23は、絶対刃先位置算出部15により算出された絶対刃先位置と加工形状記憶部22に記憶されているその時点の被加工物Wの形状とに基づいて、実切込量hを算出する。なお、
図8(a)において、Rdは、切込方向(−Y方向)の削り代である。
【0047】
加工後形状算出部24は、逐次移動していく絶対刃先位置を被加工物Wに転写させることにより、被加工物Wの加工後形状を算出する。そして、加工後形状算出部24により算出された被加工物Wの加工後形状は、加工形状記憶部22に記憶される。そして、演算を続けることによって絶対刃先位置が変化した場合には、加工後形状算出部24は、その変化を逐次反映させて新たな加工後形状を算出する。ここで、加工後形状算出部24により算出される加工後形状として、以下の2通りの何れかを採用できる。これらについて、
図9(a)(b)を参照して説明する。
【0048】
第一の加工後形状として、
図9(a)に示すように、加工後形状算出部24は、回転工具5の刃部5a,5bのそれぞれの1回転中において絶対刃先位置のうち切込方向(−Y方向)の最深位置P(n)を抽出し、当該最深位置P(n)を被加工物Wの加工後形状として算出する。そして、これを繰り返す。この場合、被加工物Wの加工後形状は、過去の最深位置P(1)〜P(n-1)および今回の最深位置P(n)としての点データとなる。ここで、隣り合う最深位置P(n-1)、P(n)の距離は微小であるため、最深位置P(n)を加工後形状とした場合であっても、十分高精度に加工後形状を認識することができる。
【0049】
第二の加工後形状として、加工後形状算出部24は、刃部5a,5bの絶対刃先位置の軌跡を被加工物Wに転写させることにより被加工物Wの加工後形状を算出する。そして、これを繰り返す。この場合、
図9(a)に示す最深位置P(n)のみではなく、その前後の位置についても加工後形状として記憶することになる。そして、今回切削により過去の形状履歴として記憶されている部分Qb(n-1)を削り取る場合には、削り取られた部分Qb(n-1)の形状情報を新たに形成された形状情報Q(n)に更新する。このようにして、最新の加工後形状が逐次形成されていく。最新の加工後形状としては、過去の形状情報Q(n-1)のうち削り取られていない部分Qa(n-1)と今回形成された部分Q(n)とにより構成される。このようにして形成された第二の加工後形状は、上述した第一の加工後形状に比べてより微細な点データ、もしくは、連続線として記憶される。従って、第二の加工後形状は、面粗さなどを把握することができる。
【0050】
切削抵抗算出部32は、実切込量算出部23により算出された実切込量h、および加工条件から取得される切削長さbを用いて、切削抵抗を算出する。なお、センサを用いて、切削抵抗を検出することもできる。
【0051】
工具動特性記憶部41は、回転工具5の動特性係数を記憶する。動特性係数には、質量係数M、粘性抵抗係数Cおよびばね定数Kが含まれる。これら動特性係数M,C,Kは、予め回転工具5に対してハンマリング試験を行ったり、シミュレーションを行ったり、機械に設置したセンサにより実際に測定したりすることにより、取得することができる。
【0052】
工具中心変位量算出部42は、切削抵抗算出部32により算出された切削抵抗と、工具動特性記憶部41に記憶されている動特性係数M,C,Kとに基づいて、回転中心Cの変位量を算出する。回転中心Cの変位量の算出に用いる基本式は、式(1)である。そして、工具中心変位量算出部42は、算出した回転中心Cの変位量を、工具中心座標算出部12にフィードバックする。従って、シミュレーションを続けることによって切削抵抗が変化した場合には、工具中心変位量算出部42は、その変化を逐次反映させて回転中心Cの変位量を算出する。ここで、工具中心変位量算出部42は、回転中心Cの変位量に基づいて回転工具5の振動の振幅を算出する。
【0054】
ここで、回転工具5に生じる切削抵抗が変動することによって、回転中心Cの変位量が変化する。また、回転中心Cの変位量は、回転工具5による切削加工中の切削抵抗Fyを受けるときの回転工具5の振動位相θによって変化する。より詳細には、
図10に示すように、回転工具5が第1回目の切削抵抗を受ける時を振動位相0°と定義した場合に、回転工具5が第2回目の切削抵抗を受ける時における回転工具5の振動位相θによって、回転中心Cの変位量が変化する。そこで、切削抵抗Fyを受けるときの回転工具5の振動位相θと反切込方向(Y方向)の回転中心Cの変位量(Ya)との関係について、
図10を参照して説明する。なお、以下の説明において、回転工具5が第2回目の切削抵抗を受ける時における回転工具5の振動位相θを、単に「振動位相θ」と称する。
【0055】
図10に示すように、回転工具5は、X方向に送り移動されながら、反切込方向(Y方向に)に振動する状態とする。そして、当該振動の振動位相θ=0°〜360°を
図10に示すように定義する。つまり、振動位相θ=0°,360°は、回転工具5が反切込方向に移動しかつ反切込方向の移動速度が最大となる振動位相である。振動位相θ=90°は、回転工具5が反切込方向から切込方向に切り替わる瞬間の振動位相である。振動位相θ=180°は、回転工具5が切込方向に移動しかつ切込方向の移動速度が最大となる振動位相である。振動位相θ=270°は、回転工具5が切込方向から反切込方向に切り替わる瞬間の振動位相である。
【0056】
図7に戻り、加工システムの機能構成について説明する。加工誤差算出部60は、加工後形状算出部24により算出された被加工物Wの加工後形状と被加工物Wの目標形状とに基づいて、加工誤差ΔYを算出する。ここで、加工誤差ΔYは、最小削り残し量ΔY1と面性状値ΔY2とにより表すことができる。
【0057】
図11および
図12を参照して説明する。回転工具5の回転中心Cが
図11の矢印方向へ送られている場合に、回転中心Cが
図11の一点鎖線のような軌跡で移動すると仮定する。そうすると、刃先は刃数分のトロコイドを描くが、一刃送り量が工具径に対して十分に小さければ、各瞬間において、回転工具5が、
図11のそれぞれの円で示すような軌跡を描くと言える。そして、被加工物Wの加工後形状は、
図11の各回転工具5の円の領域を除く部分の形状となる。ここで、目標形状は、Ptargetで示す位置とする。
【0058】
つまり、被加工物Wの加工後形状は、
図12に示すような形状となる。ここで、被加工物Wの加工後形状Qにおいて、目標形状(目標値)Ptargetと加工後形状Qの最深位置との差が最小削り残し量ΔY1となり、加工後形状Qの最深位置と最表面側位置との差である面粗さが、面性状値ΔY2となる。このように、加工誤差ΔYは、最小削り残し量ΔY1と面性状値ΔY2との合計値で表される。
【0059】
そこで、加工誤差算出部60は、最小削り残し量ΔY1を算出する削り残し量算出部61と、面性状値ΔY2を算出する加工面性状算出部62とを備える。ここで、
図12に示す加工後形状Qは、
図9(b)に示す第二の加工後形状に相当する。このとき、
図12に示す場合には、面性状値ΔY2は、回転工具5の刃部5a,5bの絶対刃先位置の軌跡を被加工物Wに転写させることにより被加工物Wの第二の加工後形状(
図9(b)に示す)を用いる場合には、面粗さRz(JIS B0633:2001)となる。このように、上記方法によれば、面粗さRzを算出できる。
【0060】
また、
図9(a)に示すような第一の加工後形状を用いた場合には、
図13に示すように、削り残し量算出部61は、最深位置Pの最大値Pmaxと目標形状Ptargetとの差を最小削り残し量ΔY1として算出し、加工面性状算出部62は、最深位置Pの最大値Pmaxと最深位置Pの最小値Pminとの差を面性状値ΔY2として算出する。この面性状値ΔY2は、面粗さRzの近似値となり、十分に加工後形状の表面状態を表している。そして、近似値の算出は、演算処理を容易に行うことができる。
【0061】
加工条件決定処理部70は、回転工具5の振動状態と回転工具5が第2回目の切削抵抗Fyを受ける時の回転工具5の振動位相θとに基づいて、回転工具5の加工誤差ΔYを小さくするように加工条件を決定する。加工条件決定処理部70により加工条件を決定して、NCデータそのものを変更することもできるし、加工中に加工条件を補正することもできる。
【0062】
図14〜
図16を参照して、加工条件決定処理部70による加工条件の決定処理について説明する。
図14は、回転主軸4の回転速度Sと削り残し量ΔY1との関係について示し、
図15は、回転主軸4の回転速度Sと回転工具5の最大振幅Amaxとの関係について示し、
図16は、回転主軸4の回転速度Sと面性状値ΔY2との関係について示す。また、
図14〜
図16において、振動位相θについても図示している。
【0063】
図16に示すように、面性状値ΔY2は、振動位相θ=0〜90°,180°付近において最も小さくなっている。そして、振動位相θを当該範囲の中で、最小削り残し量ΔY1が小さくなるのは、
図14に示すように、振動位相θ=180°付近である。この振動位相θの場合には、
図15に示すように、回転工具5の最大振幅Amaxも小さくなっている。そこで、加工条件決定処理部70は、振動位相θ=180°付近となるように、加工条件のうち回転速度Sを決定する。このようにすることで、加工誤差ΔYを小さくできる。
【0064】
当該決定方法とは異なる決定方法について説明する。
図16に示すように、振動位相θ=180°付近において、面性状値ΔY2が小さくなる範囲は、非常に僅かである。特に、細長い回転工具5の場合には、このようになりやすい。そのため、振動位相θが僅かにずれただけで、面性状値ΔY2が大きくなってしまう。そこで、面性状値ΔY2が小さくなる振動位相θ=0〜90°を考える。しかし、当該振動位相θ=0〜90°においては、
図14に示すように、最小削り残し量ΔY1が大きくなっている。そこで、加工条件決定処理部70は、回転速度Sを振動位相θ=0〜90°の範囲に決定する。これにより、面性状値ΔY2を小さくできる(加工面性状を高精度にできる)。そして、加工条件決定処理部70は、最小削り残し量ΔY1の分として、回転工具5の指令位置を切込方向にオフセットする。これにより、最小削り残し量ΔY1を小さくすることができる。
【0065】
機械制御部82は、NCデータに基づいて、各駆動部83を制御する。特に、機械制御部82は、加工条件決定処理部70にて決定されたNCデータの回転速度Sにより、回転主軸4の回転速度を制御すると共に、指令位置がオフセットされた場合には当該指令位置により回転工具5と被加工物Wの相対位置を制御する。
【0066】
補正部81は、加工中において加工条件決定処理部70にて加工条件が決定された場合には、当該加工条件に応じて補正する。さらに、補正部81は、上記の他、切込方向の削り代Rdまたは送り速度を変更するように指令値を補正することもできる。例えば、切込方向の削り代Rdを小さくまたは送り速度を低くすることで、回転工具5の回転中心Cの変位量を低減させる。その結果、加工誤差を低減できる。
【0067】
上述した加工システムによれば、以下のような効果を奏する。回転工具5による断続的な切削加工においては、回転工具5が1回転している間に、回転工具5の刃部5a,5bの位相によって、切削している瞬間と、切削していない空転している瞬間とが存在する。そのため、回転工具5の回転中心Cの変位量が、そのまま最小削り残し量ΔY1や面性状値ΔY2となるとは限らない。さらに、回転工具5が1回転している間であって切削している間においても、切削抵抗が変動することがある。
【0068】
そこで、回転工具5の回転中心Cの変位量に加えて、刃部5a,5b相対刃先位置を考慮することにより、被加工物Wに対する刃部5a,5bの絶対刃先位置を算出している。つまり、回転工具5が1回転している間において、絶対刃先位置の動きを高精度に把握できる。そして、絶対刃先位置を被加工物Wに転写させることにより、被加工物Wの加工後形状を算出しているため、加工後形状を高精度に算出することができる。このようにして算出した加工後形状により、当該加工後形状の削り残し量ΔY1および面性状値ΔY2を算出している。従って、シミュレーションにより削り残し量ΔY1および面性状値ΔY2を高精度に得ることができる。
【0069】
さらに、シミュレーションにより算出した削り残し量ΔY1および面性状値ΔY2を用いて上述した2通りの決定処理により加工条件を決定するため、高い加工精度を得ることができる。つまり、最小削り残し量ΔY1および面性状値ΔY2を小さくできる。