(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ICチップと前記第1のアンテナ部、および前記ICチップと前記第2のアンテナ部は、超音波接合によって金属溶接されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の非接触ICラベル付き物品。
前記収容部の前記厚さ方向の長さは、前記ICチップの前記厚さ方向の長さより長いことを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の非接触ICラベル付き物品。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(参考例)
以下、本発明に係る非接触ICラベル付き物品(以下、「ラベル付き物品」とも称する。)の実施形態を説明する前に、参考例となるラベル付き物品について、
図1から
図7を参照しながら説明する。参考例のラベル付き物品は、不図示のデータ読み取り装置との間で非接触にて通信を行うものである。
図1に示すように、本参考例のラベル付き物品1は、スパナ(物品)10と、スパナ10に設けられた細長状の外面11に貼り付けられた非接触ICラベル20とを備えている。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率は適宜異ならせてある。
【0021】
この参考例では、物品であるスパナ10の全体が金属部材となっている。スパナ10は、全体がクロームモリブデン鋼などの金属で形成されている。
ここで言う金属部材とは、部材における重量比50%を超える部分が固体の金属で形成されているもののことを意味する。ただし、物品における金属部材以外の部分については、樹脂、セラミックス、および金属など、どのような材料で形成されていてもよい。
【0022】
図2および
図3に、非接触ICラベル20の平面図および側面図をそれぞれ示す。なお、
図2においては、後述する基材28は示していない。
非接触ICラベル20は、磁性シート21と、磁性シート21の一方の面21aに設けられた通信部22と、磁性シート21の他方の面21bに設けられた接着層23とを有している。
磁性シート21としては、磁性粒子、または磁性フレークとプラスチックまたはゴムとの複合材からなる、ラベル用途として柔軟性に富んだ公知の材料を用いることができる。
図2に示すように、磁性シート21の厚さ方向に見た平面視において、磁性シート21は矩形状に形成されている。
【0023】
通信部22は、平面視において磁性シート21の中心に配置されている。
通信部22は、ICチップ24と、ICチップ24に接続されたインピーダンス整合回路部25と、インピーダンス整合回路部25に接続されるとともにインピーダンス整合回路部25を挟むように配置された第1のアンテナエレメント26、第2のアンテナエレメント27と、を有している。
ICチップ24は公知の構成のものが用いられ、ICチップ24内には所定の情報が記憶されている。そして、ICチップ24に設けられた不図示の電気接点から電波方式により電波のエネルギーを供給することで、記憶された情報をこの電気接点から外部に電波として伝達させることができる。
【0024】
本参考例では、インピーダンス整合回路部25、および、第1のアンテナエレメント26、第2のアンテナエレメント27は、PETなどでフィルム状に形成された基材28の主面28a上に銀ペーストインキを印刷することで、一体に形成されている。
インピーダンス整合回路部25は、所定の形状に蛇行させた配線により形成されている。インピーダンス整合回路部25は、ICチップ24の不図示の電気接点に電気的に接続されている。インピーダンス整合回路部25は、ICチップ24と第1のアンテナエレメント26との間、およびICチップ24と第2のアンテナエレメント27との間に、互いに等しい所定のインピーダンスおよび抵抗値が生じるように構成されている。
【0025】
アンテナエレメント26、27は、平面視において、アンテナエレメント26、27がインピーダンス整合回路部25を挟む挟み方向Dが長い矩形状に形成されている。アンテナエレメント26、27は、挟み方向Dが磁性シート21の長辺21cに平行となるように配置されている。
このように構成された通信部22は、磁性シート21の一方の面21aに2つのアンテナエレメント26、27を有する、いわゆるダイポールアンテナとなっている。
接着層23としては、合成ゴム系やアクリル系といった公知の接着剤などを適宜選択して用いることができる。接着層23の厚さは、10〜30μmに設定されることが好ましい。
非接触ICラベル20は、
図1に示すように、細長状の外面11の長さ方向(外面11の平面視において寸法が大きくなる方向。)が挟み方向Dに対して平行となるように、接着層23により外面11に貼り付けられている。
【0026】
以上のように構成された本参考例の非接触ICラベル付き物品1は、磁性シート21の厚さ、外面11の幅(外面11の平面視において寸法が小さくなる方向の寸法。)を所定の範囲内に設定することで、データ読み取り装置との間で好適に通信可能であるとともに、薄型かつ小型に形成することができる。なお、外面11の幅が長さ方向において一定でない場合には、長さ方向における幅の平均値を外面11の幅とすればよい。外面11の長さについても同様である。
この目的を達成する磁性シート21の厚さの範囲、外面11の幅の範囲を検討するために、以下に説明する実験を行った。
【0027】
(実験)
実験には、下記に示す機材および材料を使用し、
図4に示すように構成した。
・磁性シート21:大同特殊鋼(株)製 NRC010(厚さ100μm)
磁性シート21の寸法 70mm×5mm
・ICチップ24:NXP社製 UCODE G2iL
・インピーダンス整合回路部25、およびアンテナエレメント26、27
:アンテナエレメント26、27の寸法 23mm×5mm
PETフィルム(基材28、厚さ50μm)上に銀ペーストインキでパターン印刷(厚さ8μm)、ICチップ24以外は自社製
・リーダライタR1:950MHz帯RFID用リーダライタ 三菱電機社製
RF−RW002(最大出力1W 30dBm)
・読み取りアンテナR2:950MHz帯RFID用アンテナ 三菱電機社製
RF−ATCP001(円偏波 最大利得6dBi)
・固定減衰器R3:ヒロセ電機製 AT−107(減衰量 7dB)
なお、リーダライタR1、読み取りアンテナR2、および固定減衰器R3で、データ読み取り装置R10を構成する。
・金属板30a:ステンレス製
250mm(長さ)×250mm(幅)×0.5mm(厚さ)
・金属板(物品)30b:アルミニウム製
100mm(長さ)×5mm(幅)×3mm(厚さ)
100mm×10mm×3mm
100mm×25mm×3mm
100mm×50mm×3mm
200mm×5mm×3mm
200mm×10mm×3mm
200mm×25mm×3mm
200mm×50mm×3mm
【0028】
(実験方法)
図4に示すように、金属板(物品)30の外面31の中央に非接触ICラベル20を取り付けてラベル付き物品2を構成した。データ読み取り装置R10の読み取りアンテナR2によって、ラベル付き物品2の通信距離(データ読み取り装置R10が非接触で通信部22から情報を読み取ることができる距離の最大値)の測定を行った。本実験に用いた非接触ICラベル20は、接着層23を有していない。通信部22とデータ読み取り装置R10との間の通信方式は、電波方式となる。
なお、非接触ICラベル20を貼り付ける対象は小型の物品であるため、外面31の幅が50mmを越えるもの、および、外面31の長さ(前述の長さ方向の寸法。)が400mmを越えるものは、実験の対象外とした。非接触ICラベル20を薄型にするために、磁性シート21の厚さとしては、500μm以下であることが好ましい。
当然のことではあるが、外面31の幅、および外面31の長さは0mmより大きいことになる。
【0029】
この実験では、金属板30の外面31と非接触ICラベル20の磁性シート21とを密着させるために、不図示の発砲スチロールを非接触ICラベル20上に置くとともに、金属板30から発泡スチロールまでをまとめて、バンドで固定した。なお、接着層23および発泡スチロールの有無は、通信距離の測定結果にはほとんど影響を与えないことが分かっている。
【0030】
実験に使用したリーダライタR1および読み取りアンテナR2は、非接触ICラベル20をある程度の通信距離にて読み取ることが可能なUHF帯高出力リーダライタおよびアンテナである。
リーダライタR1の最高出力は1W(30dBm)であるが、実験環境の都合上リーダライタR1と読み取りアンテナR2を結ぶ同軸ケーブル上に−7dBの固定減衰器R3を接続し、リーダライタR1の出力を0.2W(23dBm)に減衰させて実験をおこなった。
【0031】
読み取りアンテナR2を非接触ICラベル20に向け回転させ、非接触ICラベル20に対して0度と90度の2つの角度で読み取りをおこない、通信距離が長い方の値を実験結果とした。
実験に使用した磁性シート21は、100μm厚の磁性シートを重ね合わせて、200μm、300μm厚の磁性シートとした。
磁性シート21の寸法は、後述する実験の金属板30bの幅が最小5mmであることから、磁性シート21の幅もそれに合わせて5mmとした。
【0032】
(1−1 実験)
第1の実験として、比較例となる実験を行った。
前述の250mm×250mmの金属板30aの中心に非接触ICラベル20を置き、磁性シート21の厚さを変えて読み取りの実験を行った。実験結果を以下に示す。
【0033】
(1−2 結果)
・磁性シート21の厚さが100μmのとき、通信距離は95mm。
・磁性シート21の厚さが200μmのとき、通信距離は105mm。
・磁性シート21の厚さが300μmのとき、通信距離は115mm。
この実験は、非接触ICラベル20の外形寸法に対して金属板30aのサイズが十分に大きく、さらに金属板30aの中心に非接触ICラベル20を配した場合の比較例となる実験であり、後述する第2の実験と比較するために行った。なお、上記の実験結果(通信距離)は、金属部材に直接貼り付けても通信可能な薄型でかつ小型の非接触ICラベルとしては、不十分な通信距離となっている。
【0034】
(2−1 実験)
第2の実験として、参考例のラベル付き物品2の通信距離を確認する実験を行った。
前述の金属板30bを複数組み合わせて、幅を5mm、10mm、25mm、50mmの4種類として、長さを100mm、200mm、300mm、400mmの4種類とした計16種類のサイズの金属板30を作り、その金属板30の中心に非接触ICラベル20を置き、磁性シート21の厚さを変えて読み取りの実験を行った。
【0035】
(2−2 結果)
磁性シート21の厚さが100μm、200μm、および300μmの場合の実験結果(グラフ)を、
図5、
図6、および
図7にそれぞれ示す。
図5に示す磁性シート21の厚さが100μmの場合では、以下のような結果となった。すなわち、外面31の幅が5mmの場合においては、外面31の長さに関わらず通信距離が300mm以上と、第1の実験結果の95mmに対して3倍以上の通信距離が得られている。外面31の幅が10mmの場合においても、外面31の長さが300mm以下で通信距離が150mm以上と、第1の実験結果に対して1.5倍以上の通信距離が得られている。一方で、外面31の幅が25mmの場合では、第1の実験結果と変わらない結果となった。また、外面31の幅が50mmでは、第1の実験結果より通信距離が低下してしまった。
【0036】
図6に示す磁性シート21の厚さが200μmの場合では、前述の厚さが100μmの場合に対して磁性シート21の厚さが2倍になったことで、全体的に通信距離が上昇している。
外面31の幅が5mmのものは、外面31の長さが300mmの場合に通信距離が700mm以上まで達し、幅が10mmの場合でも、外面31の長さが300mm以下では通信距離が長くなる傾向がうかがえる。外面31の幅が25mmの場合では、外面31の長さが300mm以下において、第1の実験結果に対して1.5倍以上の通信距離が得られている。
【0037】
図7に示す磁性シート21の厚さが300μmの場合では、前述の厚さが200μmの場合に対して磁性シート21の厚さが1.5倍になったことで、局所的に通信距離の上昇がみられる。
外面31の幅が50mmの場合では、外面31の長さが300mm以下で、第1の実験結果に対して大きな差ではないが通信距離が長くなっている。外面31の幅が5mmのものは、外面31の長さが400mmの場合では通信距離が800mm以上まで達している。
なおこの実験においてデータとしては示さないが、外面31の幅が10mm以下で通信距離が概ね200mm以上の場合では、
図4に示す読み取り方向の他、金属板30bの裏面および両側面からもデータを読み取ることができた。このことは、金属板30bが交信電磁波の周波数に共振し、金属板30bそのものが通信部22の放射アンテナとして機能していると考えられる。
【0038】
なお、ラベル付き物品2を実際に使用してデータ読み取り装置R10との間で通信を行う場合には、データ読み取り装置R10に固定減衰器R3を用いないことで、リーダライタR1の出力を最大の1W(30dBm)まで上げられるので、通信距離がさらに伸びるのは言うまでもない。
また、磁性シート21の電気的な物性値(透磁率、磁性損失、誘電率、誘電損失など)を好適なものにすることと、インピーダンス整合回路部25のインピーダンス整合、アンテナエレメント26、27の形状を最適化することで、通信距離のさらなる向上、または磁性シート21をさらに薄くすることができると考えられる。
【0039】
なお、読み取りアンテナR2と対向する金属板30の外面31の幅および長さの方が、金属板30の厚さよりも通信距離に対して支配的である。金属板30の厚さの違いによる通信距離の変動は、ほとんどないことが分かっている。
【0040】
以上説明したように、本参考例のラベル付き物品2によれば、磁性シート21の厚さが100μm以上であり、かつ、金属板30の外面31の幅が10mm以下であることで、非接触ICラベル20が薄型かつ小型であっても、ラベル付き物品1とデータ読み取り装置R10との間で良好な通信を行うことができる。
この効果は、磁性シート21の厚さが200μm以上であり、かつ、金属板30の外面31の幅が25mm以下である場合、さらに、磁性シート21の厚さが300μm以上であり、かつ、金属板30の外面31の幅が50mm以下である場合においても、同様に奏することができる。
【0041】
本発明の実施対象となる金属部材を有する物品としては、例えば、人が手で持って使うメス、ピンセット等の医療器具などの小型金属物品を挙げることができる。医療器具では滅菌が必須であり、例えば滅菌用オーブンによる乾熱滅菌の場合では、一時的に160〜180℃という高温環境下に晒される。その他、高温の乾燥炉を通過する小型の金属部品など一時的に高温環境下に晒されるものが存在する。
これらの物品に非接触ICラベルを貼り付ける場合には、非接触ICラベルとしての通信性能に加え、高温に対する耐熱性能も必須となる。ここでいう高温とは概ね200℃を上限としている。
しかしながら、前述の参考例の非接触ICラベル20では、その使用温度の上限が85℃となっている。なお、ここでいう使用温度とは、被接着体である金属物体の表面温度、および、非接触ICラベルが金属物体に貼られた状態において非接触ICラベルの周辺温度(雰囲気温度)のことを意味する。
以下では、前述した参考例の非接触ICラベル20の使用温度を上昇させることで、実用性に極めて優れたものにした本発明の非接触ICラベル、および、その非接触ICラベルを用いたラベル付き物品について説明する。
【0042】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態について
図8および
図9を参照しながら説明するが、前記参考例と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
まず、本発明のラベル付き物品に用いられる非接触ICラベルの使用温度について説明する。
非接触ICラベルは、その使用温度の上限が200℃であり、ラベルとしてこの上限温度下において、変形、変色、変質、ラベル剥がれ、通信性能の劣化がないことなどを目的としている。ただし、この上限温度下における通信性能については本発明では対象外としている。たとえば、稼動していて約200℃の高温になっている被接着体に本発明の非接触ICラベルを貼り付けラベル付き物品とし、非接触ICラベルが約200℃になっている状態では、非接触ICラベルとデータ読み取り装置などとの間の通信は行わないものとする。
【0043】
従来の耐熱型の非接触ICラベルでは、ICインレットを樹脂などで覆う耐熱保護加工をしたり、ガラスなどの中に封止加工したりすることなどで耐熱性を高めている。しかし、これら耐熱保護加工や封止加工を行うと、非接触ICラベルが厚くなったり、非接触ICラベルの柔軟性が低下したりするという問題がある。
本発明の非接触ICラベルは、薄型で柔軟性を持ちかつ耐熱性能をも備えるために、前述の参考例の非接触ICラベル20に対して基本構造は変えず、各構成部材の耐熱温度の引き上げをおこなうことで、非接触ICラベルとしての耐熱性を高めることとした。その内容を以下に詳しく説明する。
【0044】
図8および
図9に示すように、本実施形態の非接触ICラベル120は、参考例の非接触ICラベル20の磁性シート21、インピーダンス整合回路部25、第1のアンテナエレメント26、第2のアンテナエレメント27、基材28、接着層23に代えて、磁性シート121、インピーダンス整合回路部(接続部)125、第1のアンテナエレメント(第1のアンテナ部)126、第2のアンテナエレメント(第2のアンテナ部)127、基材128、接着層123をそれぞれ備えている。本非接触ICラベル120は、前述のスパナ10の外面11などに貼り付けてラベル付き物品として用いることができる。なお、
図8においては、基材128は示していない。
この例では、磁性シート121、インピーダンス整合回路部125、第1のアンテナエレメント126、第2のアンテナエレメント127、基材128、接着層123は、非接触ICラベル20の磁性シート21、インピーダンス整合回路部25、第1のアンテナエレメント26、第2のアンテナエレメント27、基材28、接着層23とそれぞれ同一の形状に形成され、同一の配置となっている。
【0045】
前述の参考例の非接触ICラベル20に用いられた磁性シート21は、磁性粒子または磁性フレークとプラスチックまたはゴムとの複合材で形成されている。上述の実験に使用した磁性シート21の使用温度の上限は85℃(メーカー推奨値)である。磁性シート21が持つ固有の物性値の中で、アンテナ特性(アンテナ感度)に大きく影響するパラメーターとしては透磁率、磁性損失の値であり、一方の誘電率、誘電損失の値はそれに比べると小さいことがわかっている。
磁性シートの透磁率、磁性損失の値は、使用している磁性粒子または磁性フレークの造形、方向、密度などによって決まる。一方の誘電率、誘電損失の値は、磁性粒子または磁性フレークの造形、方向、密度に加え、磁性粒子または磁性フレークを固定させるバインダー(結合剤)自身の誘電率、誘電損失によって決まる。
【0046】
本実施形態の非接触ICラベル120が備える磁性シート121は、磁性シート21の磁性粒子または磁性フレークはそのままで、バインダーのみをシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ硬化系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリイミド(ポリアミド)系樹脂のうち少なくとも1つに変更し、耐熱温度が200℃を超えるバインダーに変更したものである。このように構成することで、磁性シート121そのものを耐熱磁性シートとすることができる。
磁性シート121において、使用しているバインダーを磁性シート21から変更することで、磁性シートとしての誘電率、誘電損失の値も変わってしまう。しかし、この二つのパラメーターは前述のとおりアンテナ特性への影響は少ないことと、インピーダンス整合回路部125のインピーダンス整合回路の最適化をおこなうことで、耐熱バインダーへの変更に伴う非接触ICラベルとしての通信性能の低下はほとんどないと考えられる。
【0047】
前述の参考例の非接触ICラベル20では、インピーダンス整合回路部25、アンテナエレメント26、27をPETなどでフィルム状に形成された基材28に銀ペーストインキでパターン印刷して形成している。しかし、前述の使用温度の上限である200℃の環境下においては、部材の耐熱温度が低すぎるためにこの構成では全く使えない。このことより、下記に示す構成部材の耐熱温度の引き上げをおこなった。
【0048】
本実施形態の非接触ICラベル120が備える基材128は、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの耐熱温度が200℃を超えるフィルム材料で形成されていて、基材128自体が、いわゆる耐熱基材となっている。なお、参考例の基材28がPETフィルムで形成されていて、本実施形態で基材128を用いることで基材の誘電率の値が変わることから、本実施形態の非接触ICラベル120においては、磁性シート121を用いたときと併せてインピーダンス整合回路部125のインピーダンス整合回路の最適化をおこなう必要がある。
【0049】
基材128の主面128a上には、不図示の接着剤を介して、前述のインピーダンス整合回路部125、第1のアンテナエレメント126、および第2のアンテナエレメント127が形成されている。
インピーダンス整合回路部125、第1のアンテナエレメント126、および第2のアンテナエレメント127は、基材128の主面128a上に数μmの厚さで塗布された前述の接着剤上にアルミニウムの薄膜または銅の薄膜を接着し、その薄膜をエッチング(腐食)法により加工することで、一体化して形成される。このように、本実施形態では、インピーダンス整合回路部125、第1のアンテナエレメント126、および第2のアンテナエレメント127は、同一の金属で形成されている。
接着層123は、耐熱温度が200℃を超えるアクリル系またはシリコーン系のものを好適に用いることができる。基材128にインピーダンス整合回路部125を接着する前述の接着剤としては、接着層123と同様のものを適宜選択して用いることができる。
【0050】
前述した参考例の非接触ICラベル20を用いた前述の実験では、ICチップ24のバンプとインピーダンス整合回路部25との接続には、接合材料であるACPによるフリップチップ実装接合法を用いて、そのACP材料の接着効果により、バンプとインピーダンス整合回路部25とを電気的に接続していた。
しかしながらこの実装方法では、使用温度の上限である200℃の環境下においては、ACPの耐熱温度が低すぎるためICチップ24とインピーダンス整合回路部25との電気的な接続が保証できない。
【0051】
この課題を解決する接合法としては、ACPなどの耐熱温度の低い接合材料などを全く使用しない超音波溶接法(超音波接合による金属溶接法。)があげられる。ICチップ24のバンプは、一般的に、電気的に接触抵抗の低い金(Au)で形成されている。この超音波溶接法では、ICチップ24のバンプとインピーダンス整合回路部125とを、超音波によってこれら異種金属同士を溶接することができる。
従来、非接触ICラベルにおいては、この超音波溶接法は高度な電気的な接触信頼性得るための手法であったが、本発明では非接触ICラベル120の使用温度の上限である200℃の環境での電気的な接続信頼性得るためにこの手法を用いた。
【0052】
なお、インピーダンス整合回路部125を構成する薄膜は、厚さが10〜20μmと非常に薄く形成される。このため、使用温度の上昇による膨張も少ないことから、インピーダンス整合回路部125の形状は安定しており、ICチップ24のバンプとインピーダンス整合回路部125との接合箇所において、機械的な内部応力の発生はほとんどない。
よって、超音波溶接法にて金属溶接されたICチップ24のバンプとインピーダンス整合回路部125との接合は、使用温度の上限である200℃の環境下においても電気的な接続信頼性を有しており、不測の外部応力が掛からなければ接合箇所が外れることはない。
【0053】
このように構成された本実施形態の非接触ICラベル120については、上述し、
図5から
図7に示した参考例の非接触ICラベル20のような実験は行わない。しかし、本発明の非接触ICラベル120は参考例の非接触ICラベル20に対して、磁性シート、インピーダンス整合回路部、アンテナエレメント、基材、および接着層の材質を変えただけであるため、非接触ICラベル20とほぼ同じ通信距離の実験結果が得られると考える。
【0054】
前述の金属製の物品の中には、ボイラー、電気ヒーター、内燃機関、蒸気タービン、モーター、光源などのように、物品自体が高温になるものや、高温の乾燥炉を通過する金属部品など一時的に高温環境下に晒されるものが数多く存在し、これらの物品に非接触ICラベルを取り付ける場合には、非接触ICラベルとしての通信性能に加え、高温に対する耐熱性能も必須となる。
【0055】
本実施形態のラベル付き物品に用いられる非接触ICラベル120によれば、磁性シート121、インピーダンス整合回路部125、アンテナエレメント126、127、基材128、および接着層123の耐熱温度を高めることで、薄型で柔軟性をもちつつ、使用温度の上限である200℃の環境でも耐えることが可能となった。これにより、ラベル付き物品は、200℃の環境でも耐えることができる実用性に極めて優れたものとなった。
【0056】
ICチップ24、インピーダンス整合回路部125、およびアンテナエレメント126、127は、基材128の主面128aに設けられた状態で、磁性シート121の一方の面121aに配置されている。このように、予め基材128上に複数の部品を設けることで、非接触ICラベル120の製造効率を高めることができる。
ICチップ24のバンプとインピーダンス整合回路部125とは、超音波溶接法を用いて接合されているため、非接触ICラベル120の使用温度の上限においてもバンプとインピーダンス整合回路部125とを確実に電気的に接続することができる
【0057】
磁性シート121は上記のように構成されているため、磁性シート121の耐熱温度を使用温度の上限である200℃まで高めることができる。
非接触ICラベル120が貼り付けられる外面の長さを300mm以下とすることで、非接触ICラベル120とデータ読み取り装置R10との通信距離をより長くすることができる。
インピーダンス整合回路部125、アンテナエレメント126、127が、アルミニウムの薄膜または銅の薄膜で形成されているため、インピーダンス整合回路部125、アンテナエレメント126、127の耐熱温度を使用温度の上限まで高めることができる。
金属板30の外面31の幅と長さを規定することで、非接触ICラベル120の層構成の中で、一般的に最も厚くなる磁性シート121の厚さを薄くしても、約200mm以上という通信距離が得られることが明らかになった。このことにより、薄型でかつ小型であっても良好な通信距離が得られるラベル付き物品となる。
【0058】
本実施形態では、使用温度の上限の目標値を200℃としているが、非接触ICラベル120に使用している構成部材の中で耐熱温度の最も低い部材が支障になっているので、その部材の耐熱温度を上げることができれば、非接触ICラベル120全体としての使用温度の上限値を引き上げることができるのは言うまでもない。
一方、使用温度が上限に満たないような使われ方である場合は、非接触ICラベル120の構成部材の中で耐熱温度引き上げによってコストアップになった部材、たとえば基材128を形成した高価なポリイミドフィルムを、耐熱温度は下がってしまうが、安価なポリエステルフィルムに変更するなどして、コストダウンを図ることもできる。
また、本実施形態では前述のとおり、上限温度下における通信性能については対象外としているが、非接触ICラベル120で使用しているICチップ24の使用温度の上限が上がれば、非接触ICラベル120としての上限温度下における通信性能も保証できようになる。
【0059】
なお、本実施形態の非接触ICラベル120が実際に用いられる際には、図には示さないが、目視または機械読み取りのための文字、図形などの情報が記載された耐熱フィルム、耐熱紙類が、ICチップ24の保護も兼ねて、ICチップ24に対する磁性シート121とは反対側に設けられてもよい。なお、この情報は、非接触ICラベル120に耐熱フィルムなどを設けた後に、プリンタ等により耐熱フィルムに記載しても構わない。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図10から
図13を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図10および
図11に示すように、本実施形態のラベル付き物品に用いられる非接触ICラベル220は、前述した参考例の非接触ICラベル20の磁性シート21、インピーダンス整合回路部25、に代えて、磁性シート221、インピーダンス整合回路部225、および保護部材40を備えている。本非接触ICラベル220は、前述のスパナ10の外面11などに貼り付けてラベル付き物品として用いることができる。なお、
図10においては基材28は示していない。
【0061】
磁性シート221は、前述の磁性シート21に対して、磁性シート221の厚さ方向Eに貫通するように孔部221cが形成されている。この例では、孔部221cは厚さ方向Eに平行な軸線を有する円柱状に形成されている。
保護部材40は、
図10から
図12に示すように、磁性シート221の孔部221cの内径よりわずかに小さい外径を有する円柱状に形成されている。保護部材40には、磁性シート221の一方の面221a側から厚さ方向Eに延びるように収容部41が形成されている。保護部材40には、収容部41に連通するとともに保護部材40の外周面に開口する連通部42が形成されている。収容部41および連通部42は、それぞれが厚さ方向Eに貫通するように形成されている。
保護部材40の厚さ方向Eの長さ(以下、単に「厚さ」と称する。)は、磁性シート221の厚さにほぼ等しく設定されている。収容部41の厚さは、ICチップ24の厚さ(例えば、75μm。)より長く(厚く)設定されている。
【0062】
このように構成された保護部材40は、厚さ方向Eに見たときにほぼC字形に形成され、磁性シート221の孔部221cに収容されている。
保護部材40を形成する材料としては、例えば、データ読み取り装置R10を接触させてしまう等の想定される衝撃力に耐えうる材料であればよく、金属、非金属を問わず様々な材料を用いることができる。ただし、ICチップ24より硬い金属などで形成することが好ましい。
【0063】
ICチップ24は、基材28に設けられるとともに、保護部材40の収容部41内に配置されている。すなわち、ICチップ24は、基材28を磁性シート221の一方の面221aに配置したときに収容部41内に配置されるように、基材28に設けられている。
インピーダンス整合回路部225の一部をなす凸形状部225aは、保護部材40の連通部42内に配置されている。
ICチップ24の不図示の電気接点は、インピーダンス整合回路部225の凸形状部225aに電気的に接続されている。
【0064】
このように構成された本実施形態の非接触ICラベル220については、上述し、
図5から
図7に示した参考例の非接触ICラベル20のような実験は行わない。しかし、本発明の非接触ICラベル220は参考例の非接触ICラベル20に対して、磁性シート221の孔部221cを形成し保護部材40を備えただけであるため、非接触ICラベル20とほぼ同じ通信距離の実験結果が得られると考える。
【0065】
非接触ICラベル220が
図11に示す厚さ方向Eの一方側E1から衝撃力を受けた際には、ICチップ24及びインピーダンス整合回路部225の凸形状部225aが収容部41および連通部42内で厚さ方向Eの他方側E2に移動する。このため、衝撃力は保護部材40のみに作用し、ICチップ24及びインピーダンス整合回路部225の凸形状部225aへは作用することがない。
【0066】
前述の参考例のラベル付き物品1では、一般的に、ICチップ24が単結晶シリコンからなるため非常に割れやすいという特性を持つとともに、非接触ICラベル20が貼り付けられる被接着体である金属部材が硬い。このため、例えば、非接触ICラベル20が外部からの応力または衝撃を受けた場合に、金属部材が沈み込むことで外部からの衝撃を吸収して非接触ICラベル20の損傷を抑制することは難しい。さらに、非接触ICラベル20自身の厚さが薄いと、その厚さ方向Eに衝撃を吸収、緩衝する部分が少なくなる。よって、外部からの応力または衝撃によって非接触ICラベル20内のICチップ24が容易に割れてしまうという問題があった。
【0067】
これに対して、本実施形態のラベル付き物品に用いられる非接触ICラベル220によれば、保護部材40の収容部41内にICチップ24が配置されているため、厚さ方向Eに衝撃力を受けた際などにICチップ24が損傷するのを抑え、実用性に極めて優れたものとなる。
収容部41の厚さはICチップ24の厚さより厚いため、収容部41内にICチップ24全体を収容し、ICチップ24に衝撃が加えられるのを確実に抑制することができる。
収容部41は保護部材40を厚さ方向Eに貫通しているため、収容部41内でICチップ24が厚さ方向Eに移動できる範囲が広くなる。したがって、ICチップ24に衝撃が加えられるのをより確実に抑制することができる。
【0068】
凸形状部225aが連通部42内に配置されているため、非接触ICラベル220が衝撃力を受けた際などに凸形状部225aが損傷するのを抑えることができる。
連通部42は保護部材40を厚さ方向Eに貫通しているため、連通部42内で凸形状部225aが厚さ方向Eに移動できる範囲が広くなる。したがって、凸形状部225aに衝撃が加えられるのをより確実に抑制することができる。
保護部材40の厚さは磁性シート221の厚さにほぼ等しく設定されているため、非接触ICラベル220を薄型に構成することができる。
【0069】
なお、本実施形態では、保護部材40は厚さ方向Eに見たときにC字形に形成されているとした。しかし、保護部材の形状は、保護部材の収容部にICチップ24を配置可能であれば特に限定されない。例えば、
図13に示すように、保護部材50が直方体状に形成されていてもよい。
この変形例では、収容部51および連通部52は、磁性シート221における厚さ方向Eの一方の面221a側のみに形成され、保護部材50を厚さ方向Eに貫通していない。
保護部材50をこのように構成しても、保護部材50の収容部51内にICチップ24の一部を配置することで、ICチップ24に衝撃が加えられるのを抑制することができる。
【0070】
また、凸形状部225aの強度が比較的高い場合などには、保護部材40に連通部42は形成されなくてもよい。
【0071】
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
たとえば、前記第1実施形態および第2実施形態では、インピーダンス整合回路部やアンテナエレメントが比較的厚く形成され扱いやすい場合には、非接触ICラベルに基材を備えることなく、インピーダンス整合回路部やアンテナエレメントを磁性シートに直接形成してもよい。
【0072】
従来、一般的な非接触ICラベルを液体容器の側面中央に貼り付けた場合、その容器の壁面の厚さが薄い場合では、容器の内容物がアンテナエレメントの片面全体に密着したのと同じ状態となるために、内容物の誘電率、誘電損によってアンテナエレメントの共振周波数が非常に変化しやすいという状況になる。容器内の液体の有無および液体の種類によって容器内の内容物の誘電率、誘電損が変化することで、上記理由によりアンテナエレメントの共振周波数が変化し、その結果、通信距離が低下したり、非接触ICラベルを外部のデータ読み取り装置で読み取り不能となったりするという問題があった。
前述の構成で金属部材を薄い金属板(膜)に変えて液体容器の側面に貼り付けることで、金属板が金属反射板となり、その背面に位置する容器、およびその内容物の影響が少なくなることから、アンテナエレメントの共振周波数変動が抑えられ、よって通信距離の変動を少なくすることもできる。