特許第5942472号(P5942472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5942472
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】光量調整装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20160616BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20160616BHJP
   G03B 11/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   G02B5/00 A
   G02B5/28
   G03B11/00
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-40589(P2012-40589)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-174818(P2013-174818A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075948
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100181928
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安紘
(72)【発明者】
【氏名】柳 道男
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−237638(JP,A)
【文献】 特開2012−037610(JP,A)
【文献】 特開2002−107509(JP,A)
【文献】 特開2003−279747(JP,A)
【文献】 特開2005−099208(JP,A)
【文献】 米国特許第05070407(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を形成する絞り装置と、前記開口内で光軸上の光量を調節する光学フィルタと、前記開口に対して前記光学フィルタを駆動する駆動部とを備えた光量調整装置であって、
前記光学フィルタは、透明基板の片面に形成され可視光波長から赤外光波長の光透過を減衰する光波長減衰膜、前記透明基板の他面の一部に形成された赤外光波長遮蔽膜とを有し、更に前記光学フィルタの厚さ方向において前記赤外光波長遮蔽膜が存在せずに前記光波長減衰膜が存在する部分を有し、
前記駆動部によって前記光学フィルタを駆動することにより、前記光学フィルタの前記光波長減衰膜が存在する部分のみで前記開口を覆う状態を形成するようにしたことを特徴とする光量調整装置。
【請求項2】
可視光波長或いは赤外光波長の何れか一方又は双方の光を制限しない領域を前記透明基板に有することを特徴とする請求項1に記載の光量調整装置
【請求項3】
前記光学フィルタは、前記透明基板の他面側に、赤外光波長透過膜を有し、前記駆動部によって前記光学フィルタを駆動することにより、前記光学フィルタの前記光波長減衰膜及び前記赤外光波長透過膜が存在する部分のみで前記開口を覆う状態を形成するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に光量調整装置。
【請求項4】
開口を形成する絞り装置と、前記開口内で光軸上の光量を調節する光学フィルタと、前記開口に対して前記光学フィルタを駆動する駆動部とを備えた光量調整装置であって、
前記光学フィルタは、光波長減衰膜として、透明基板の一方面の平行する方向に可視光波長減衰膜と赤外光波長減衰膜をそれぞれ形成し、前記透明基板の前記可視光波長減衰膜と前記赤外光波長減衰膜とを形成した面に対向する前記透明基板の他面に赤外光波長遮蔽膜とを有し、更に前記光学フィルタの厚さ方向において前記赤外光波長遮蔽膜が存在せずに前記赤外光波長減衰膜が存在する部分を有し、
前記駆動部によって前記光学フィルタを駆動することにより、前記光学フィルタの前記赤外光波長減衰膜が存在する部分のみで前記開口を覆う状態を形成するようにしたことを特徴とする光量調整装置
【請求項5】
前記可視光波長減衰膜と赤外光波長減衰膜とを形成した面に対向する前記透明基板の前記他面において、前記可視光波長減衰膜と対向する領域のみに前記赤外光波長遮蔽膜を形成していることを特徴とする請求項に記載の光量調整装置
【請求項6】
前記可視光波長減衰膜と前記赤外光波長減衰膜の対応する波長に対する光学濃度が異なることを特徴とする請求項又はに記載の光量調整装置
【請求項7】
前記赤外光波長減衰膜と対向する前記透明基板の前記他面に、少なくとも赤外光波長の光を透過する赤外光波長透過膜を設けたことを特徴とする請求項の何れか1項に記載の光量調整装置
【請求項8】
前記透明基板が合成樹脂製基板であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の光量調整装置
【請求項9】
前記光学フィルタは撮像光学系に挿脱されるNDフィルタであることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の撮像装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視カメラ等のカラー撮影、モノクロ撮影を行うカメラに搭載される光量調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、デジタルスチルカメラ或いはビデオカメラ等の撮影系には、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ等から成る撮像素子が用いられている。そして、この撮像素子に入射する光量を調節するために、絞り装置や赤外線カットフィルタが設けられている。
【0003】
絞り装置は、被写体の輝度により絞り羽根を駆動させ開口径を調整し、被写体の輝度が大きくなるに従って、撮像素子に入射する光量を低減させるために開口径は小さくなる。しかし、開口径が小さくなり過ぎると、ハンチング現象や光の回折による画質の劣化を引き起こしてしまう。
【0004】
更に近年では、撮像素子の感度が向上しており、より光量を抑制する要求が高まっている。そこで、絞り羽根の近辺にND(Neutral Density)フィルタを配置し、開口径を大きく維持したまま光量を抑制している。具体的には、被写体の輝度が大きくなるに従い、開口径を徐々に小さくしてゆくが、開口径が或る一定の大きさとなると開口径はその大きさで維持し、光路上にNDフィルタを挿入し撮像素子に入射する光量を調整している。NDフィルタは絞り羽根に接着させて絞り羽根と一緒に駆動させたり、絞り羽根には直接接着させずに、別の駆動手段により独立して駆動することにより光路上に挿入する。
【0005】
また、近年の撮像素子の感度の向上により、開口径が小さくなり過ぎないように、光学濃度の濃いNDフィルタの需要も高まってきている。NDフィルタは基板上に、真空蒸着法やスパッタリング法を介して誘電体層と光吸収層とを交互に成膜したり、光吸収を有する染料や顔料等の色素を基板に練り込んだり、或いは基板上にコーティングすることにより作製している。
【0006】
近年、NDフィルタは小型化、軽量化や任意形状への加工性の要求が年々高まってきており、これに対応するために基板に合成樹脂製のものも使用されるようになってきている。
【0007】
一方、赤外線カットフィルタはカラー撮影時において可視光波長の光量が十分な際に、不要な赤外光波長の光が撮像素子に入射することを防止するために、光路上に挿入して使用される。これにより、撮像素子が人眼には感知することのできない赤外光波長の光を認知することなく、人眼で感じた色味とほぼ同様の色味の映像を得ることができる。
【0008】
また、赤外光波長の光を使用したモノクロ撮影時においては、光路上から赤外線カットフィルタを退避させ、赤外光波長の光を利用したモノクロ撮影が可能となる。赤外線カットフィルタはガラスや樹脂基板に赤外光吸収剤を練り込んだり、赤外光吸収剤を基板上にコーティングしたり、真空蒸着法やスパッタリング法等により複数層の誘電体と吸収層を交互に積層することにより作製している。
【0009】
また、近年では、赤外線カットフィルタもNDフィルタと同様に、薄型化を目的として合成樹脂製の基板が用いられてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−107509号公報
【特許文献2】特開2007−219210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的な撮像光学系においては、可視光の透過光量を調整するNDフィルタと、赤外光波長の光を遮蔽する赤外線カットフィルタとは別個に設けられている。
【0012】
しかし、近年の撮像装置の小型化に対応し、撮像光学系の小型化の要望が高まっており、この要望に対応するために特許文献1においては、1枚の基板の両面にND膜と赤外線カット膜をそれぞれ設けた光学フィルタが開示されている。
【0013】
また、特許文献2においては、赤外光波長を吸収する特性を有する基板上にND膜を形成する技術が開示されている。
【0014】
従来のカメラ用途においては、NDフィルタは可視光波長領域において略均一な透過率を有していれば十分であった。しかし、監視カメラ等の用途においては、可視光波長を用いたカラー撮影のみでなく、赤外光波長を用いたモノクロ撮影を行うことがある。モノクロ撮影においては、赤外光波長の光量を調整するために、赤外光波長における透過率を略均一に制限する光学フィルタが求められる。
【0015】
特許文献1、2の光学フィルタは、可視光波長を用いた撮影の際に、光路上に挿入され、可視光波長の光量を調整すると共に、赤外光波長の光を遮蔽することにより、良好な映像を得ることができる。しかし、赤外光波長の光を用いた撮影の際には、光学フィルタは光路上から退避しているため、赤外光波長の光量を調整することができなかった。
【0016】
更には、特許文献2におけるフィルタにおいて、赤外光領域の光を十分に遮蔽しようとすると、基板が厚くなり、近年求められている小型化への要望に相反してしまうと云う問題を有している。
【0017】
本発明の目的は、小型化の要望を満たし、可視光波長によるカラー撮影、赤外光波長によるモノクロ撮影の何れにおいても光量を調整でき、良好な映像を得ることが可能な光量調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る光量調整装置は、開口を形成する絞り装置と、前記開口内で光軸上の光量を調節する光学フィルタと、前記開口に対して前記光学フィルタを駆動する駆動部とを備えた光量調整装置であって、前記光学フィルタは、透明基板の片面に形成され可視光波長から赤外光波長の光透過を減衰する光波長減衰膜、前記透明基板の他面の一部に形成された赤外光波長遮蔽膜とを有し、更に前記光学フィルタの厚さ方向において前記赤外光波長遮蔽膜が存在せずに前記光波長減衰膜が存在する部分を有し、前記駆動部によって前記光学フィルタを駆動することにより、前記光学フィルタの前記光波長減衰膜が存在する部分のみで前記開口を覆う状態を形成するようにしたことを特徴とする。
また、本発明に係る光量調整装置は、開口を形成する絞り装置と、前記開口内で光軸上の光量を調節する光学フィルタと、前記開口に対して前記光学フィルタを駆動する駆動部とを備えた光量調整装置であって、前記光学フィルタは、光波長減衰膜として、透明基板の一方面の平行する方向に可視光波長減衰膜と赤外光波長減衰膜をそれぞれ形成し、前記透明基板の前記可視光波長減衰膜と前記赤外光波長減衰膜とを形成した面に対向する前記透明基板の他面に赤外光波長遮蔽膜とを有し、更に前記光学フィルタの厚さ方向において前記赤外光波長遮蔽膜が存在せずに前記赤外光波長減衰膜が存在する部分を有し、前記駆動部によって前記光学フィルタを駆動することにより、前記光学フィルタの前記赤外光波長減衰膜が存在する部分のみで前記開口を覆う状態を形成するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光量調整装置は、可視光波長を使用したカラー撮影や赤外光波長を利用したモノクロ撮影の何れにおいても光量調整が可能となる。
【0020】
また、本発明の光量調整装置はNDフィルタと赤外線カットフィルタの双方の機能を有しており、撮像光学系の小型化に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1の撮像光学系の構成図である。
図2】光学フィルタの構成図である。
図3】光波長減衰膜の分光特性図である。
図4】赤外光波長遮蔽膜の分光特性図である。
図5】光学フィルタの構成図である。
図6】赤外光波長透過膜の分光特性図である。
図7】実施例2の光学フィルタの構成図である。
図8】可視光波長減衰膜の分光特性図である。
図9】赤外光波長減衰膜の分光特性である。
図10】撮像素子の相対感度を示したグラフ図である。
図11】実施例3の光学フィルタの構成図である。
図12】変形例の光学フィルタの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は本実施例1における撮像光学系の構成図を示し、光軸Lに沿って、レンズ1、光量調整装置2、レンズ3〜5、ローパスフィルタ6、CCD等から成る撮像素子7が順次に配列されている。撮像素子7の出力は光量制御部8を介してフィルタ駆動部9に接続されている。
【0024】
光量調整装置2においては、絞り羽根支持板10に一対の絞り羽根11a、11bが可動に取り付けられている。更に、絞り羽根11a、11bの近傍には、絞り羽根11a、11bにより形成される開口を通過する光量を調整するための例えばNDフィルタから成る光学フィルタ12が光軸Lに対して挿脱自在に設けられている。また、光学フィルタ12はフィルタ駆動部9により駆動されるようになっている。
【0025】
絞り羽根11a、11bは、光軸Lと直交する方向に自在に進退可能となっており、光量に応じて絞り羽根11a、11bを図示しない駆動部により駆動し、絞り羽根11a、11bによって形成される開口の大きさを調整する。光学フィルタ12は撮影に使用する光波長に応じて、絞り羽根11a、11bによって形成される開口を覆う領域が異なる。
【0026】
図2は本実施例1の光学フィルタ12の膜構成図を示し、PETから成る透明基板21の片面には、図3に示すような可視光から赤外光波長領域において略均一又は略同程度な透過特性を有する光波長減衰膜22が全面に成膜されている。一方、透明基板21の他面の領域Aには、図4に示すように可視光波長(λ=400〜700nm程度)の光を透過させ、赤外光波長(λ=700〜1200nm程度)の光に対して遮光する赤外光波長遮蔽膜23が成膜されている。
【0027】
透明基板21の両面に上述のような分光特性を有する光波長減衰膜22、赤外光波長遮蔽膜23を成膜することにより、赤外光波長遮蔽膜23を成膜した領域Aにおいては、可視光領域の光量を調整すると同時に、赤外光波長の光を遮蔽することができる。また、赤外光波長遮蔽膜23が成膜されていない領域Bにおいては、可視光波長の光量を調整することができる。
【0028】
光学フィルタ12は図1に示す撮像光学系に組み込まれ、カラー撮影を行う際には赤外光波長遮蔽膜23を有する領域Aが絞り羽根11a、11bによって形成される開口を覆うように配置される。一方、モノクロ撮影を行う際には赤外光波長遮蔽膜23を有しない領域Bが開口を覆うように配置される。
【0029】
光学フィルタ12の透明基板21は、少なくとも可視光から赤外光波長の波長領域において透明であるものが用いられる。具体的には、ガラス又はポリエステル系、ノルボルネン系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、PES(ポリエーテルスルホン)、ポリスルホン、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリイミド系樹脂等の種々の合成樹脂製基板が挙げられる。なお、本実施例においては薄型化が可能な合成樹脂製基板を用い、具体的には板厚75μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)が用いられている。
【0030】
本実施例1では透明基板21にPETを用いたが、光波長減衰膜22や赤外光波長遮蔽膜23の成膜による膜応力や熱応力による変形、水分による分光変化等を考慮すると、ガラス転移温度Tgが高く、曲げ弾性率が大きく、吸水性の小さいものが好ましい。具体的には、ノルボルネン系やポリイミド系樹脂は最適な材料の1つである。
【0031】
また、透明基板21の板厚としては、厚過ぎると透明基板21内での光の散乱等により画質に悪影響が生ずる虞れがある。板厚tは剛性を保てる範囲で可能な限り薄い方が良く、10μm≦t≦100μmが好適であり、25μm≦t≦75μmであることが更に好ましい。
【0032】
光波長減衰膜22は複数層の誘電体層と光吸収層とを交互に積層することにより、任意の透過率を得ることができる。本実施例においては、誘電体層としてAl23膜、光吸収層としてTiOx膜を用いている。しかし、これらの材料に限らず、誘電体層としてはSiO2、MgF2、光吸収層としてはNi、Cr、Nb、Ta、Ti、Zr、Si、Ge等の金属やその合金、酸化物等を用いることもできる。
【0033】
光波長減衰膜22の成膜には、先ず透明基板21を成膜冶具に固定し、透明基板21上の所望の領域に成膜できる蒸着マスクをセットし、これを図示しない蒸着器の蒸着傘に取り付ける。蒸着傘は基板21の取付位置により、膜厚や透明基板21の温度の変化が生じないように、任意の速度で回転させる。
【0034】
蒸着器内の温度・圧力が所定の温度・圧力となると、1層目の蒸着材料であるAl23の収納されているハースライナを加熱してシャッタを開き、所定の膜厚となった後にシャッタを閉じる。次に、2層目の蒸着材料であるTiOxの収納されているハースライナを加熱し、Al23膜と同様に所定の膜厚を成膜する。
【0035】
そして、Al23膜とTiOx膜を交互に任意の層数を積層した後に、最表層にMgF2膜を成膜する。最表層をMgF2膜としたのは、MgF2は屈折率が小さく反射防止効果があるためであり、より反射防止効果を高めるために、膜厚は光学膜厚(n・d)でλ/4程度となっている。ここで、λは対応する光波長領域の中心となる光波長である。
【0036】
光波長減衰膜22としては、合成樹脂基板に光吸収剤を練り込んだり、基板上に光吸収材を分散させた樹脂をコーティングすることでも得られるが、本実施例のように誘電体層と光吸収層との干渉を利用した方が分光特性が良好で、薄く作製することができる。
【0037】
本実施例の赤外光波長遮蔽膜23は、複数層の低屈折材料であるSiO2膜と高屈折材料であるTiO2膜を交互に積層することにより成膜する。この他にも、低屈折材料としてはMgF2等、高屈折材料としてはTa25、ZrO2、Nb25等を用いることができ、必要に応じて中間的な屈折率を有するAl23、MgO等の層を設けてもよい。このように成膜した赤外光波長遮蔽膜23は、各層の光学膜厚を調整することにより可視光波長の光を透過し、赤外光波長の光を反射させる分光を得ることができる。本実施例における赤外光波長遮蔽膜23は、光波長(λ=450〜650nm)における平均透過率が90%以上、平均反射率が5%以下で、かつ光波長(λ=750〜900nm)における平均光透過率が3%以下となっている。
【0038】
赤外光波長遮蔽膜23の成膜方法については、蒸着材料は異なるが、上述の光波長減衰膜22の成膜方法とほぼ同様である。赤外光波長遮蔽膜23としては、基板上に赤外光波長吸収剤を分散させた樹脂をコーティングすることでも得られる。しかし、本実施例に示すように屈折率が異なる薄膜の多重干渉を利用した方が、透過帯と不透過帯との遷移領域が急峻となり、また透過帯の透過率をより高く維持できるため、カラーバランスの良好な赤外光波長遮蔽膜23を成膜することができる。
【0039】
本実施例においては、光波長減衰膜22、赤外光波長遮蔽膜23の成膜は何れも真空蒸着法で行ったが、スパッタリング法やイオンプレーティング法、イオンアシスト法等で成膜することも可能であり、目的や条件に適した成膜方法を適宜に選択すればよい。
【0040】
また図5に示すように、透明基板21の赤外光波長遮蔽膜23を形成した面の赤外光波長遮蔽膜23が形成されていない領域Bに、図6に示すように、少なくとも赤外光波長の光を透過する分光特性を有する赤外光波長透過膜24を成膜するようにしてもよい。
【0041】
本実施例において、赤外光波長透過膜24は赤外光波長遮蔽膜23と同様に、屈折率が異なる薄膜の多重干渉を利用して所望の分光特性を得ている。低屈折材料としてSiO2、高屈折材料としてTiO2を使用しているが、赤外光波長遮蔽膜23と同様にMgF2、Al23、MgO、Ta23、ZrO2、Nb25等を用いることもできる。赤外光波長透過膜24の成膜には、光波長減衰膜22、赤外光波長遮蔽膜23と同様に真空蒸着法で成膜したが、スパッタリング法やイオンプレーティング法、イオンアシスト法等で成膜することも可能である。ここで、赤外光波長透過膜24の膜厚は、赤外光波長遮蔽膜23と略等しい光学膜厚とすることが最適である。
【0042】
このようにすることにより、光学フィルタ12の赤外光波長遮蔽膜23を有する領域A、赤外光波長透過膜24を有する領域Bの何れを絞り開口上に配置しても、撮影光のピント位置が大きくずれることがない。従って、赤外光波長遮蔽膜23を有する領域A、赤外光波長透過膜24を有する領域Bの何れの領域を用いて撮影しても良好な映像を得ることができる。
【実施例2】
【0043】
図7は実施例2の光学フィルタ12の構成図を示しており、実施例1と同一の部材には同一の符号を付し、説明は省略する。PETから成る透明基板21の一方の面の領域Aには、可視光波長の光を略均一又は略同程度に減衰する可視光波長減衰膜31が成膜され、領域Bには赤外光波長の光を略均一に減衰する赤外光波長減衰膜32がそれぞれ成膜されている。一方、透明基板21の他面の領域Aには、実施例1と同様に赤外光波長の光を遮蔽する赤外光波長遮蔽膜23が成膜されている。
【0044】
可視光波長減衰膜31の可視光波長における光学濃度(OD)と赤外光波長減衰膜32における赤外光波長における光学濃度は異なり、本実施例2においては赤外光波長減衰膜32の光学濃度が可視光波長減衰膜31の光学濃度よりも小さくなっている。ここで、光学濃度(OD)は透過率をTとすると、OD=Log(1/T)で示される。
【0045】
本実施例2では、可視光波長減衰膜31、赤外光波長減衰膜32の分光特性はそれぞれ図8図9に示すようになっており、それぞれの光学濃度は1.5、0.55とされている。本実施例2においては、赤外光波長減衰膜32の光学濃度を可視光波長減衰膜31の光学濃度よりも小さくした。これはカラー撮影を行う撮像装置に組み込まれる一般的な撮像素子7の相対感度が図10に示すように、可視光波長の感度の方が赤外光波長における感度よりも高くなっているためである。撮像素子の感度や組み込む光学系によっては、赤外光波長減衰膜32の光学濃度の方が高くなるようにしてもよい。
【0046】
また、実施例1と同様に、透明基板21の赤外光波長遮蔽膜23を有する面の領域Bに、赤外光波長透過膜24を成膜するようにしてもよい。この際に、赤外光波長透過膜24は赤外光波長減衰膜32と対向して透明基板21の反対面に成膜される。
【0047】
このような光学フィルタ12を撮像光学系に組み込むことにより、撮像素子7の感度が異なる可視光波長、赤外光波長の何れの光を用いた撮影を行っても、最適な光量調整が可能となる。
【実施例3】
【0048】
図11は本実施例3における光学フィルタ12の構成図を示し、実施例1、2と同一の部材には同一の符号を付している。本実施例3の光学フィルタ12は、透明基板21の片面の一部に光波長減衰膜22を設け、透明基板21の他面の一部に赤外光波長遮蔽膜23を設け、可視光波長或いは赤外光波長又はその両方の透過率を制限しない領域Fが設けられている。なお、領域Fは絞り羽根11a、11bによって形成される開口を覆うだけの面積を有している。
【0049】
図11に示す光学フィルタ12が撮像光学系に組み込まれ、カラー撮影を行う際には、撮影に使用する光量が、絞り羽根11a、11bの開口径の調整のみで制御可能な場合には、領域Cが光軸上に配置される。また、可視光の光量が多く開口径が一定の大きさ以下となる場合は領域Dが光軸上に配置される。
【0050】
一方、モノクロ撮影を行う際に、撮影に使用する光量が絞り羽根11a、11bの開口径の調整のみで制御できる場合は領域Fが光軸上に配置され、光量が多く開口径が一定の大きさ以下となる場合は領域Eが光軸上に配置される。
【0051】
また、図12に示す変形例の光学フィルタ12は、透明基板21の片面の一部ずつに可視光波長減衰膜31、赤外光波長減衰膜32が平行して設けられている。透明基板21の他面の一部に赤外光波長遮蔽膜23が可視光波長減衰膜31の領域G及び透明部分の領域Hに対応する位置に設けられている。
【0052】
そして、この光学フィルタ12を撮像光学系に組み込み、カラー撮影を行う際には、絞り羽根11a、11bのみで光量調整が可能な場合には領域Hが光軸上に配置され、絞り羽根11a、11bの開口径が一定以下となる光量の場合には領域Gが光軸に配置される。
【0053】
一方、モノクロ撮影を行う際に、絞り羽根11a、11bのみで光量調整が可能な場合は領域Jが光軸L上に配置され、絞り羽根11a、11bの開口径が一定以下となる光量の場合は領域Iが光軸L上に配置される。
【0054】
実施例3の光学フィルタ12は、図11又は図12のような形態としているが、可視光波長又は赤外光波長の透過率を制限しない領域を有していればよく、図11図12の形態に限定されるものではない。
【0055】
また、実施例1と同様に、透明基板21の赤外光波長遮蔽膜23を有する面の赤外光波長遮蔽膜23が形成されていない領域に、赤外光波長透過膜24を形成してもよい。赤外光波長透過膜24は赤外光波長遮蔽膜23と光学膜厚を略等しくすると、カラー撮影、モノクロ撮影切換え時のピント調整が容易となりより好ましい。
【0056】
実施例3に示す光学フィルタ12を内蔵した撮像光学系は、カラー撮影、モノクロ撮影の両撮影方法において、より広い範囲で光量の調整が可能となり、より最適な映像を得ることができる。
【0057】
昼間のような可視光波長の光量が十分な際には、光学フィルタ12の赤外光波長遮蔽膜23を有する領域C、D、G、Hが、絞り11a、11bによって形成される開口を覆うように配置され、カラー撮影が行われる。一方、可視光波長の光量が不十分な際には、光学フィルタ12の赤外光波長遮蔽膜23が形成されていない領域E、F、I、Jが開口を覆うように配置され、主に赤外光波長を利用したモノクロ撮影が行われる。
【0058】
実施例3の光学フィルタ12を用いる際は、撮影に使用する光波長の光量に応じて、撮影に使用する光波長を減衰しない領域、減衰する領域の何れかが光軸L上に配置される。
【0059】
このように、光学フィルタ12の光軸Lに掛かる領域を調整することにより、可視光波長を利用した撮影の際には、人眼が感ずる色味に近いカラー映像が得られると共に、赤外光波長を利用したモノクロ撮影においても良好な画質を有する映像を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
1、3〜5 レンズ
2 光量調整装置
6 ローパスフィルタ
7 撮像素子
8 光量制御部
9 フィルタ駆動部
11a、11b 絞り羽根
12 光学フィルタ
21 透明基板
22 光波長減衰膜
23 赤外光波長遮蔽膜
24 赤外光波長透過膜
31 可視光波長減衰膜
32 赤外光波長減衰膜
図1
図2
図3
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図12