【実施例1】
【0023】
図1は本実施例1における撮像光学系の構成図を示し、光軸Lに沿って、レンズ1、光量調整装置2、レンズ3〜5、ローパスフィルタ6、CCD等から成る撮像素子7が順次に配列されている。撮像素子7の出力は光量制御部8を介してフィルタ駆動部9に接続されている。
【0024】
光量調整装置2においては、絞り羽根支持板10に一対の絞り羽根11a、11bが可動に取り付けられている。更に、絞り羽根11a、11bの近傍には、絞り羽根11a、11bにより形成される開口を通過する光量を調整するための例えばNDフィルタから成る光学フィルタ12が光軸Lに対して挿脱自在に設けられている。また、光学フィルタ12はフィルタ駆動部9により駆動されるようになっている。
【0025】
絞り羽根11a、11bは、光軸Lと直交する方向に自在に進退可能となっており、光量に応じて絞り羽根11a、11bを図示しない駆動部により駆動し、絞り羽根11a、11bによって形成される開口の大きさを調整する。光学フィルタ12は撮影に使用する光波長に応じて、絞り羽根11a、11bによって形成される開口を覆う領域が異なる。
【0026】
図2は本実施例1の光学フィルタ12の膜構成図を示し、PETから成る透明基板21の片面には、
図3に示すような可視光から赤外光波長領域において略均一又は略同程度な透過特性を有する光波長減衰膜22が全面に成膜されている。一方、透明基板21の他面の領域Aには、
図4に示すように可視光波長(λ=400〜700nm程度)の光を透過させ、赤外光波長(λ=700〜1200nm程度)の光に対して遮光する赤外光波長遮蔽膜23が成膜されている。
【0027】
透明基板21の両面に上述のような分光特性を有する光波長減衰膜22、赤外光波長遮蔽膜23を成膜することにより、赤外光波長遮蔽膜23を成膜した領域Aにおいては、可視光領域の光量を調整すると同時に、赤外光波長の光を遮蔽することができる。また、赤外光波長遮蔽膜23が成膜されていない領域Bにおいては、可視光波長の光量を調整することができる。
【0028】
光学フィルタ12は
図1に示す撮像光学系に組み込まれ、カラー撮影を行う際には赤外光波長遮蔽膜23を有する領域Aが絞り羽根11a、11bによって形成される開口を覆うように配置される。一方、モノクロ撮影を行う際には赤外光波長遮蔽膜23を有しない領域Bが開口を覆うように配置される。
【0029】
光学フィルタ12の透明基板21は、少なくとも可視光から赤外光波長の波長領域において透明であるものが用いられる。具体的には、ガラス又はポリエステル系、ノルボルネン系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、PES(ポリエーテルスルホン)、ポリスルホン、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリイミド系樹脂等の種々の合成樹脂製基板が挙げられる。なお、本実施例においては薄型化が可能な合成樹脂製基板を用い、具体的には板厚75μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)が用いられている。
【0030】
本実施例1では透明基板21にPETを用いたが、光波長減衰膜22や赤外光波長遮蔽膜23の成膜による膜応力や熱応力による変形、水分による分光変化等を考慮すると、ガラス転移温度Tgが高く、曲げ弾性率が大きく、吸水性の小さいものが好ましい。具体的には、ノルボルネン系やポリイミド系樹脂は最適な材料の1つである。
【0031】
また、透明基板21の板厚としては、厚過ぎると透明基板21内での光の散乱等により画質に悪影響が生ずる虞れがある。板厚tは剛性を保てる範囲で可能な限り薄い方が良く、10μm≦t≦100μmが好適であり、25μm≦t≦75μmであることが更に好ましい。
【0032】
光波長減衰膜22は複数層の誘電体層と光吸収層とを交互に積層することにより、任意の透過率を得ることができる。本実施例においては、誘電体層としてAl
2O
3膜、光吸収層としてTiO
x膜を用いている。しかし、これらの材料に限らず、誘電体層としてはSiO
2、MgF
2、光吸収層としてはNi、Cr、Nb、Ta、Ti、Zr、Si、Ge等の金属やその合金、酸化物等を用いることもできる。
【0033】
光波長減衰膜22の成膜には、先ず透明基板21を成膜冶具に固定し、透明基板21上の所望の領域に成膜できる蒸着マスクをセットし、これを図示しない蒸着器の蒸着傘に取り付ける。蒸着傘は基板21の取付位置により、膜厚や透明基板21の温度の変化が生じないように、任意の速度で回転させる。
【0034】
蒸着器内の温度・圧力が所定の温度・圧力となると、1層目の蒸着材料であるAl
2O
3の収納されているハースライナを加熱してシャッタを開き、所定の膜厚となった後にシャッタを閉じる。次に、2層目の蒸着材料であるTiO
xの収納されているハースライナを加熱し、Al
2O
3膜と同様に所定の膜厚を成膜する。
【0035】
そして、Al
2O
3膜とTiO
x膜を交互に任意の層数を積層した後に、最表層にMgF
2膜を成膜する。最表層をMgF
2膜としたのは、MgF
2は屈折率が小さく反射防止効果があるためであり、より反射防止効果を高めるために、膜厚は光学膜厚(n・d)でλ/4程度となっている。ここで、λは対応する光波長領域の中心となる光波長である。
【0036】
光波長減衰膜22としては、合成樹脂基板に光吸収剤を練り込んだり、基板上に光吸収材を分散させた樹脂をコーティングすることでも得られるが、本実施例のように誘電体層と光吸収層との干渉を利用した方が分光特性が良好で、薄く作製することができる。
【0037】
本実施例の赤外光波長遮蔽膜23は、複数層の低屈折材料であるSiO
2膜と高屈折材料であるTiO
2膜を交互に積層することにより成膜する。この他にも、低屈折材料としてはMgF
2等、高屈折材料としてはTa
2O
5、ZrO
2、Nb
2O
5等を用いることができ、必要に応じて中間的な屈折率を有するAl
2O
3、MgO等の層を設けてもよい。このように成膜した赤外光波長遮蔽膜23は、各層の光学膜厚を調整することにより可視光波長の光を透過し、赤外光波長の光を反射させる分光を得ることができる。本実施例における赤外光波長遮蔽膜23は、光波長(λ=450〜650nm)における平均透過率が90%以上、平均反射率が5%以下で、かつ光波長(λ=750〜900nm)における平均光透過率が3%以下となっている。
【0038】
赤外光波長遮蔽膜23の成膜方法については、蒸着材料は異なるが、上述の光波長減衰膜22の成膜方法とほぼ同様である。赤外光波長遮蔽膜23としては、基板上に赤外光波長吸収剤を分散させた樹脂をコーティングすることでも得られる。しかし、本実施例に示すように屈折率が異なる薄膜の多重干渉を利用した方が、透過帯と不透過帯との遷移領域が急峻となり、また透過帯の透過率をより高く維持できるため、カラーバランスの良好な赤外光波長遮蔽膜23を成膜することができる。
【0039】
本実施例においては、光波長減衰膜22、赤外光波長遮蔽膜23の成膜は何れも真空蒸着法で行ったが、スパッタリング法やイオンプレーティング法、イオンアシスト法等で成膜することも可能であり、目的や条件に適した成膜方法を適宜に選択すればよい。
【0040】
また
図5に示すように、透明基板21の赤外光波長遮蔽膜23を形成した面の赤外光波長遮蔽膜23が形成されていない領域Bに、
図6に示すように、少なくとも赤外光波長の光を透過する分光特性を有する赤外光波長透過膜24を成膜するようにしてもよい。
【0041】
本実施例において、赤外光波長透過膜24は赤外光波長遮蔽膜23と同様に、屈折率が異なる薄膜の多重干渉を利用して所望の分光特性を得ている。低屈折材料としてSiO
2、高屈折材料としてTiO
2を使用しているが、赤外光波長遮蔽膜23と同様にMgF
2、Al
2O
3、MgO、Ta
2O
3、ZrO
2、Nb
2O
5等を用いることもできる。赤外光波長透過膜24の成膜には、光波長減衰膜22、赤外光波長遮蔽膜23と同様に真空蒸着法で成膜したが、スパッタリング法やイオンプレーティング法、イオンアシスト法等で成膜することも可能である。ここで、赤外光波長透過膜24の膜厚は、赤外光波長遮蔽膜23と略等しい光学膜厚とすることが最適である。
【0042】
このようにすることにより、光学フィルタ12の赤外光波長遮蔽膜23を有する領域A、赤外光波長透過膜24を有する領域Bの何れを絞り開口上に配置しても、撮影光のピント位置が大きくずれることがない。従って、赤外光波長遮蔽膜23を有する領域A、赤外光波長透過膜24を有する領域Bの何れの領域を用いて撮影しても良好な映像を得ることができる。
【実施例2】
【0043】
図7は実施例2の光学フィルタ12の構成図を示しており、実施例1と同一の部材には同一の符号を付し、説明は省略する。PETから成る透明基板21の一方の面の領域Aには、可視光波長の光を略均一又は略同程度に減衰する可視光波長減衰膜31が成膜され、領域Bには赤外光波長の光を略均一に減衰する赤外光波長減衰膜32がそれぞれ成膜されている。一方、透明基板21の他面の領域Aには、実施例1と同様に赤外光波長の光を遮蔽する赤外光波長遮蔽膜23が成膜されている。
【0044】
可視光波長減衰膜31の可視光波長における光学濃度(OD)と赤外光波長減衰膜32における赤外光波長における光学濃度は異なり、本実施例2においては赤外光波長減衰膜32の光学濃度が可視光波長減衰膜31の光学濃度よりも小さくなっている。ここで、光学濃度(OD)は透過率をTとすると、OD=Log(1/T)で示される。
【0045】
本実施例2では、可視光波長減衰膜31、赤外光波長減衰膜32の分光特性はそれぞれ
図8、
図9に示すようになっており、それぞれの光学濃度は1.5、0.55とされている。本実施例2においては、赤外光波長減衰膜32の光学濃度を可視光波長減衰膜31の光学濃度よりも小さくした。これはカラー撮影を行う撮像装置に組み込まれる一般的な撮像素子7の相対感度が
図10に示すように、可視光波長の感度の方が赤外光波長における感度よりも高くなっているためである。撮像素子の感度や組み込む光学系によっては、赤外光波長減衰膜32の光学濃度の方が高くなるようにしてもよい。
【0046】
また、実施例1と同様に、透明基板21の赤外光波長遮蔽膜23を有する面の領域Bに、赤外光波長透過膜24を成膜するようにしてもよい。この際に、赤外光波長透過膜24は赤外光波長減衰膜32と対向して透明基板21の反対面に成膜される。
【0047】
このような光学フィルタ12を撮像光学系に組み込むことにより、撮像素子7の感度が異なる可視光波長、赤外光波長の何れの光を用いた撮影を行っても、最適な光量調整が可能となる。
【実施例3】
【0048】
図11は本実施例3における光学フィルタ12の構成図を示し、実施例1、2と同一の部材には同一の符号を付している。本実施例3の光学フィルタ12は、透明基板21の片面の一部に光波長減衰膜22を設け、透明基板21の他面の一部に赤外光波長遮蔽膜23を設け、可視光波長或いは赤外光波長又はその両方の透過率を制限しない領域Fが設けられている。なお、領域Fは絞り羽根11a、11bによって形成される開口を覆うだけの面積を有している。
【0049】
図11に示す光学フィルタ12が撮像光学系に組み込まれ、カラー撮影を行う際には、撮影に使用する光量が、絞り羽根11a、11bの開口径の調整のみで制御可能な場合には、領域Cが光軸上に配置される。また、可視光の光量が多く開口径が一定の大きさ以下となる場合は領域Dが光軸上に配置される。
【0050】
一方、モノクロ撮影を行う際に、撮影に使用する光量が絞り羽根11a、11bの開口径の調整のみで制御できる場合は領域Fが光軸上に配置され、光量が多く開口径が一定の大きさ以下となる場合は領域Eが光軸上に配置される。
【0051】
また、
図12に示す変形例の光学フィルタ12は、透明基板21の片面の一部ずつに可視光波長減衰膜31、赤外光波長減衰膜32が平行して設けられている。透明基板21の他面の一部に赤外光波長遮蔽膜23が可視光波長減衰膜31の領域G及び透明部分の領域Hに対応する位置に設けられている。
【0052】
そして、この光学フィルタ12を撮像光学系に組み込み、カラー撮影を行う際には、絞り羽根11a、11bのみで光量調整が可能な場合には領域Hが光軸上に配置され、絞り羽根11a、11bの開口径が一定以下となる光量の場合には領域Gが光軸に配置される。
【0053】
一方、モノクロ撮影を行う際に、絞り羽根11a、11bのみで光量調整が可能な場合は領域Jが光軸L上に配置され、絞り羽根11a、11bの開口径が一定以下となる光量の場合は領域Iが光軸L上に配置される。
【0054】
実施例3の光学フィルタ12は、
図11又は
図12のような形態としているが、可視光波長又は赤外光波長の透過率を制限しない領域を有していればよく、
図11、
図12の形態に限定されるものではない。
【0055】
また、実施例1と同様に、透明基板21の赤外光波長遮蔽膜23を有する面の赤外光波長遮蔽膜23が形成されていない領域に、赤外光波長透過膜24を形成してもよい。赤外光波長透過膜24は赤外光波長遮蔽膜23と光学膜厚を略等しくすると、カラー撮影、モノクロ撮影切換え時のピント調整が容易となりより好ましい。
【0056】
実施例3に示す光学フィルタ12を内蔵した撮像光学系は、カラー撮影、モノクロ撮影の両撮影方法において、より広い範囲で光量の調整が可能となり、より最適な映像を得ることができる。
【0057】
昼間のような可視光波長の光量が十分な際には、光学フィルタ12の赤外光波長遮蔽膜23を有する領域C、D、G、Hが、絞り11a、11bによって形成される開口を覆うように配置され、カラー撮影が行われる。一方、可視光波長の光量が不十分な際には、光学フィルタ12の赤外光波長遮蔽膜23が形成されていない領域E、F、I、Jが開口を覆うように配置され、主に赤外光波長を利用したモノクロ撮影が行われる。
【0058】
実施例3の光学フィルタ12を用いる際は、撮影に使用する光波長の光量に応じて、撮影に使用する光波長を減衰しない領域、減衰する領域の何れかが光軸L上に配置される。
【0059】
このように、光学フィルタ12の光軸Lに掛かる領域を調整することにより、可視光波長を利用した撮影の際には、人眼が感ずる色味に近いカラー映像が得られると共に、赤外光波長を利用したモノクロ撮影においても良好な画質を有する映像を得ることができる。