【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の共同研究の成果に係る特許出願(平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2の方法は、ナノオーダーの分解能が必要な場合、対物レンズの移動のステップ数増大による情報量の増大のため高速な処理ができず、また、分解能を保証する対物レンズの移動精度を得るのが困難であった。即ち、上記特許文献2の方法では、高速且つ高精度な測定が行えないという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、高速且つ高精度に多層膜の厚さ測定を行うことのできる厚さ測定装置及び厚さ測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、
請求項1に記載の発明は、
搬送される、可撓性を有する長尺な基材上に形成される複数の多層膜の厚さを測定する厚さ測定装置であって、
前記多層膜の各層が形成される毎に、当該形成された層に対して、前記基材の搬送方向と直交する直交方向に沿ってライン状に光を照射するライン状光源、及び、前記ライン状光源により光の照射された層からの透過光又は反射光を受光するラインCCDカメラを備え、前記多層膜の各層が形成される毎に、当該形成された層に対して光を照射して、前記光の照射された層からの透過光又は反射光の光強度分布に応じたライン状の画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データ取得手段で画像データを取得する際に、当該画像データを取得した多層膜を識別する識別情報を取得する識別情報取得手段と、
前記画像データ取得手段で取得した画像データより
、直交方向に沿った厚さ分布データで示される各層の厚さを算出する算出手段と、
前記算出手段により算出した各層の厚さを、前記識別情報取得手段により取得した識別情報と対応付けて記憶する記憶手段と、
を備え、
前記算出手段は、
前記基材上の1層目の第一層の画像データを、予め記憶された基準データと比較して前記第一層の厚さを算出し、
前記第一層上に順次形成される2層目以降の各層の厚さを算出する場合、前記2層目以降の各層の画像データと、下層の厚さに関するデータを所定の理論式に当てはめることで作成された前記光強度分布のシミュレーションデータとを比較して前記2層目以降の各層の厚さを算出し、
前記画像データ取得手段は、
前記2層目以降の各層の画像データを取得する場合、1つ下層の識別情報を参照して位置合わせを行うことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の厚さ測定装置において、
前記算出手段は、
前記第一膜上に順次形成される2層目以降の各層の厚さを算出する場合、前記2層目以降の各層の画像データと、前記
シミュレーションデータとを比較して、その差が最も少ない値を厚さとして算出することを特徴とする。
【0010】
また、請求項
3に記載の発明は、請求項1
又は2に記載の厚さ測定装置において、
前記画像データ取得手段は、複数の不連続な所定の波長の光を照射することを特徴とする。
【0011】
また、請求項
4に記載の発明は、
請求項1〜
3の何れか一項に記載の厚さ測定装置を用いた厚さ測定方法であって、
前記基材上に1層目の第一層が形成された場合に、前記画像データ取得手段により前記第一層の画像データを取得すると共に、前記識別情報取得手段により前記第一層の識別情報を取得する第1取得工程と、
前記第1取得工程により取得した前記第一層の画像データを、予め記憶された基準データと比較して前記第一層の厚さを算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程により算出した前記第一層の厚さを、前記識別情報取得手段により取得した前記第一層の識別情報と対応付けて前記記憶手段に記憶する第1記憶工程と、
前記第一層上に2層目の第二層が形成された場合に、前記画像データ取得手段により前記第二層の画像データを取得すると共に、前記識別情報取得手段により前記第二層の識別情報を取得する第2取得工程と、
前記第2取得工程により取得した前記第二層の画像データを、前記記憶手段に記憶された厚さに関するデータを所定の理論式に当てはめることで作成されたシミュレーションデータと比較して前記第二層の厚さを算出する第2算出工程と、
前記第2算出工程により算出した前記第二層の厚さを、前記識別情報取得手段により取得した前記第二層の識別情報とともに記憶する第2記憶工程と、
を有することを特徴とする。
【0012】
また、請求項
5に記載の発明は、請求項
4に記載の厚さ測定方法において、
前記第2算出工程は、
前記第二層の画像データと、前記シミュレーションデータとを比較して、その差が最も少ない値を厚さとして算出することを特徴とする。
【0013】
また、請求項
6に記載の発明は、請求項
4又は
5に記載の厚さ測定方法において、
前記第1算出工程及び第2算出工程により算出した各層の厚さは、前記基材の搬送方向と直交する直交方向に沿った厚さ分布データで示されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項
7に記載の発明は、請求項
4〜
6の何れか一項に記載の厚さ測定方法において、
前記基材を、ロール・ツー・ロール方式により搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、搬送される基材上に形成される多層膜の膜厚測定において、基材上の第一層の厚さを算出する場合、第一層の画像データを、予め記憶された基準データと比較して厚さを算出し、第一層上に順次形成される2層目以降の各層の厚さを算出する場合、2層目以降の各層の画像データを、下層の厚さを所定の理論式に当てはめることで作成される
シミュレーションデータと比較して厚さを算出する。
また、2層目以降の各層の画像データを取得する場合、1つ下層の位置情報を参照して位置合わせを行う。
このため、高速且つ高精度に多層膜の厚さ測定を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0018】
<厚さ測定装置>
先ず、本発明の実施形態に係る厚さ測定装置100について説明する。
厚さ測定装置100は、
図1に示すように、基材Kをロール・ツー・ロール方式により連続搬送している過程において、図示しない成膜部により基材K上に形成される多層膜10の厚さを測定する装置である。
具体的に、厚さ測定装置100は、基材K上に多層膜10を構成する各層が形成される毎に、後述する厚さ測定処理を実行してその各層の物理層厚を算出し、最終的に多層膜10の膜厚を測定することが可能となっている。
なお、以下の説明において、基材Kの幅方向(基材Kの搬送方向と直交する方向)をX方向とし、基材Kの搬送方向をY方向とする。
【0019】
ここで、厚さ測定装置100の測定対象である多層膜10について説明する。
多層膜10は、
図2に示すように、長尺な基材Kの長手方向(Y方向)に延在した平面視略長方形状をなしており、基材K上に幅方向(X方向)において2列で、かつ、長手方向に沿って複数所定間隔で設けられている。
多層膜10とは、例えば、有機エレクトロルミネッセンスパネルや有機薄膜太陽電池などの電子デバイスに備えられるものであって、
図3に示すように、基材K上に、複数の薄膜(第一層10
1〜第N層10
N)が積層された構成である。
なお、以下の説明において、基材K上に形成される1層目の膜を第一層10
1とし、第一層上に形成される2層目の膜を第二層10
2とし、これ以降も同様に、基材Kに近い方から数えてN層目の膜を第N層10
Nとする。
多層膜を構成する各層(第一層10
1〜第N層10
N)は、基材Kが搬送方向(Y方向)に沿ってロール・ツー・ロール方式により連続搬送される過程において、図示しない成膜部による塗布、蒸着、またはスパッタリング等の方法により基材K上に成膜・積層される。
【0020】
基材Kとしては、例えば、樹脂フィルム、ガラス等であって、特に、可撓性を有する長尺な材料が用いられる。
図2に示すように、この基材K上の幅方向一端部には、アライメントマーク11が設けられ、他端部には、バーコード12が設けられている。
アライメントマーク11及びバーコード12は、何れも、搬送方向(Y方向)に沿って所定間隔毎に設けられ、基材Kの幅方向(X方向)に並んだ2つの多層膜10、10に対して一つずつ対応している。
アライメントマーク11は、厚さ測定装置100による膜厚測定時に、1つのバーコード12にて付与されるID毎に保存される画像データ領域を把握するために設けられたものである。アライメントマーク11は、基材KのX方向に並んだ2つの多層膜10、10の撮像時に、同時にラインCCDカメラ42(後述)にて撮像される。
また、バーコード12は、厚さ測定装置100による測定時に、基材KのX方向に並んだ2つの多層膜10、10を一組として、各組を識別するIDを付与するために設けられたものである。バーコード12は、バーコードリーダー52(後述)にて読み取られる。
【0021】
厚さ測定装置100は、
図4に示すように、基材Kを連続搬送する搬送部20と、搬送部20を駆動する搬送制御部30と、基材K上に形成された膜に対して光を照射して画像データを取得する画像データ取得部40と、画像取得用のインターフェース43と、画像データ取得部40で画像データを取得した膜のIDを取得するID情報取得部50と、機器制御部60と、厚さ測定装置100の動作を統括的に制御する制御部70と、表示部80と、データベース90等を備えている。
【0022】
搬送部(搬送手段)20は、例えば、搬送方向の上流側に配置された繰出ロール21と、搬送方向の下流側に配置された巻取ロール22とを有し、基材Kを繰出ロール21から繰り出して常時一定速度にて搬送し、巻取ロール22にて巻き取る構成となっている。
なお、本実施形態においては、搬送部20は、基材K上に膜を一層形成する度に基材Kを繰出ロール21から巻き出して巻取ロール22にて巻き取るようになっている。つまり、基材K上の薄膜に更に膜を積層する場合には、再度、基材Kを繰出ロール21から巻き出すこととなる。
【0023】
また、繰出ロール21と及び巻取ロール22の間には、搬送された基材Kを表面で支持するガイドロール23が設けられている。
搬送された基材Kは、ガイドロール23の表面で支持されることで、平滑性が維持された状態となっている。
【0024】
また、繰出ロール21には、カップリング等を介してロータリーエンコーダー24が接続されている。ロータリーエンコーダー24は繰出ロール21の回転に同期してパルスを発生する。搬送部20においては、基材Kと繰出ロール21の間に滑りがなく、機構的な精度が確保されているため、ロータリーエンコーダー24のパルスは基材Kの搬送と同期している。
【0025】
搬送制御部(搬送手段)30は、図示しないモーターを備え、制御部70の制御によって、モーターを駆動して繰出ロール21、巻取ロール22、及びガイドロール23を回転駆動させる。
【0026】
画像データ取得部(画像データ取得手段)40は、基材Kの幅方向(X方向)に沿って、基材Kの幅全体に亘ってライン状に光を照射するライン状の光源41と、光源41により光の照射された膜からの透過光を受光するラインCCDカメラ42と、を備えている。
この画像データ取得部40は、多層膜10を構成する各層毎に画像データを得るものである。
【0027】
光源41は、繰出ロール21とガイドロール23との間で基材Kの下方に配置され、所定波長の照射光を基材Kに対して照射する。
光源41からの照射光は、常時、所定位置にライン状に照射されるようになっており、基材Kに形成された膜は、その所定位置を通る際に光が照射される。
【0028】
ラインCCDカメラ42は、基材Kの上方において、当該基材Kを挟んで光源41と対向する位置に設けられ、光源41より光の照射された膜からの透過光に基づき、基材Kの幅方向(X方向)に並んだ2つの多層膜10、10を撮像して画像データを取得し、制御部70に出力する。
ラインCCDカメラ42としては、R、G、B専用のCCD素子が平行に配置され、R信号、G信号、B信号の3原色信号を出力するカラーラインCCDカメラが用いられる。 従って、ラインCCDカメラ42は、基材K上の膜からの透過光の光強度分布に応じたR、G、Bの3種類の画像データを出力する。出力された画像データは、後述する制御部70において、厚さ算出処理に用いられることとなる。
【0029】
具体的に、ラインCCDカメラ42は、ロータリーエンコーダー24から発信されるパルスのカウント値が所定値に達したときに機器制御部60から送信されるタイミング信号に基づいて、所定寸法の撮像エリアの画像データの取得を開始する。かかる画像データの取得は、ロータリーエンコーダー24から発信されるパルスのカウント値に応じて、所定距離に対応するライン数分、行われる。
【0030】
このときラインCCDカメラ42は、アライメントマーク11も同時に撮像している。
アライメントマーク11は、取得した画像データのうちの、保存する画像データ領域(以下、「保存画像データ領域」という)を認識するために利用される。
具体的には、
図5に示すように、ラインCCDカメラ42が、アライメントマーク11を含む撮像エリアを撮像すると、制御部70の制御に基づき、アライメントマーク11の重心位置が求められ、その重心位置を0点として予め設定された複数の点(0,0)〜(X
W,Y
L)からなる領域が保存画像データ領域として求められる。各保存画像データ領域には、バーコード12によってIDが付与される。そして、各ID毎に、各点(0,0)〜(X
W,Y
L)に対応する画像データが一時メモリー734に保存されるようになっている。
また、
図6に示すように、保存画像データ領域のうちの所定領域が、厚さを算出する際に用いる計算領域として用いられる。保存画像データ領域が一時メモリー734に保存された後、計算領域のみを抽出した画像データが新たに作成され、一時メモリー734に保存される。
【0031】
また、ラインCCDカメラ42には、画像取得用のインターフェース43が備えられている。インターフェース43は、制御部70に対して取得した画像データの送信を行う。
【0032】
ID情報取得部(識別情報取得手段)50は、バーコード12によって反射された光を検出して検知信号を得るための光電センサー51と、バーコード12を読み取るバーコードリーダー52と等を備えている。
【0033】
光電センサー51は、投光部及び受光部(何れも図示省略)を備えて構成され、投光部から可視光線や赤外線などの光を出射し、受光部によりバーコード12によって反射された光を検出して検知信号を出力する。
この光電センサー51から出力された検知信号をトリガー信号として、ロータリーエンコーダー24から発信されるパルスのカウントが開始される。
【0034】
バーコードリーダー52は、ロータリーエンコーダー24から発信されるパルスのカウント値が、所定値に達したときに機器制御部60から送信されるタイミング信号に基づいてバーコード12の読取りを開始し、IDを取得する。
バーコード12は、基材K上のX方向に並んだ2つの多層膜10、10毎に設けられ、バーコード12により付与されるIDは、この一組の多層膜10、10のそれぞれを識別するための識別情報として利用される。
即ち、IDは、画像データ取得部40により取得された画像データ(保存画像データ領域、計算領域)や、後述の厚さ算出処理により算出される厚さと対応づけられて一時メモリー734に記憶される。
【0035】
機器制御部60は、シーケンサーを備え、ロータリーエンコーダー24のパルスのカウント、バーコードリーダー52によるバーコード12の読み取りを開始するためのタイミング信号の生成、ラインCCDカメラ42による画像データ取得を開始するためのタイミング信号の生成、光源41の光量制御などを実現する。
【0036】
制御部70は、CPU(Central Processing Unit)71、RAM(Random Access Memory)72、記憶部73等を備えて構成される。
【0037】
CPU71は、記憶部73に格納された処理プログラム等を読み出して、RAM72に展開して実行することにより、厚さ測定装置100全体の制御を行う。
【0038】
RAM72は、CPU71により実行された処理プログラム等を、RAM72内のプログラム格納領域に展開するとともに、入力データや上記処理プログラムが実行される際に生じる処理結果等をデータ格納領域に格納する。
【0039】
記憶部73は、例えば、プログラムやデータ等を記憶する記録媒体(図示省略)を有しており、この記録媒体は、半導体メモリー等で構成されている。
また、記憶部73は、CPU71が厚さ測定装置100全体を制御する機能を実現させるための各種データ、各種処理プログラム、これらプログラムの実行により処理されたデータ等を記憶する。
具体的には、記憶部73には、取得プログラム731、算出プログラム732、記憶プログラム733、一時メモリー(記憶手段)734等が格納されている。
【0040】
取得プログラム731は、CPU71に、画像データ取得部40により画像データを取得させると共に、ID情報取得部50により画像データを取得した層を識別する識別情報(ID)を取得させる機能を実現させるプログラムである。
【0041】
具体的に、CPU71は、取得プログラム731を実行することにより、ラインCCDカメラ42によりアライメントマーク11を含む撮像エリアを撮像して上述した画像データ(保存画像データ領域及び計算領域)を求めると共に、バーコードリーダー52によりバーコード12を読み取って、当該画像データを取得した層を識別するための識別情報(ID)を取得する。
【0042】
また、CPU71は、取得プログラム731を実行することにより、2層目以降の各層10
2〜10
Nの画像データを取得する場合、後述する一時メモリー734に記憶された1つ下層10
1〜10
N−1の識別情報を参照し、位置合わせを行うようになっている。
例えば、第二層10
2の光学データを取得する場合には、CPU71は、そのとき一時メモリー734に記憶されている第一層10
1の識別情報を参照し、第一層10
1と同一位置で画像データの測定がなされるよう制御している。
【0043】
CPU71は、かかる取得プログラム731を実行することにより、画像データ取得部40と共に画像データ取得手段として機能している。
また、CPU71は、かかる取得プログラム731を実行することにより、ID情報取得部50と共に識別情報取得手段として機能している。
【0044】
算出プログラム732は、CPU71に、上記取得プログラム731の実行により取得した画像データを用いて、各層の厚さを算出する機能を実現させるプログラムである。
【0045】
具体的に、基材K上の第一層10
1の厚さを算出する場合、CPU71は、算出プログラム732を実行することにより、第一層10
1の画像データを、予め記憶された基準データと比較して厚さを算出する。
この基準データとは、基材K及び第一層10
1の複素屈折率やCCD受光スペクトル及び光源の発光スペクトルを元にユーザにより予め作成されて記憶されたものである。
【0046】
また、第一層10
1上に順次形成される2層目以降の各層10
2〜10
Nの厚さを算出する場合、CPU71は、算出プログラム732を実行することにより、一時メモリー734に記憶されている下層10
1〜10
N−1の計算領域を参照し、2層目以降の各層10
2〜10
Nの画像データと、当該下層10
1〜10
N−1の厚さに関するデータを下記の所定の理論式に当てはめることで作成される
シミュレーションデータとを比較して、各層の厚さを算出する。
【0047】
ここで、2層目以降の各層10
2〜10
Nの厚さを算出するために作成されるシュミレーションデータの作成方法について説明する。
【0048】
各層10
2〜10
Nの厚さをパラメータとするN層の多層膜10におけるエネルギー透過率の理論式は、多層膜10の表面に対して入射角が垂直(90度)であるとして、下式(1)に示す振幅反射率の式、および下式(2)〜(6)により与えられる。
【0049】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0050】
ここで、式(1)におけるtは、式(2)で表され、また、式(2)に示すパラメータm
11、m
12、m
21、m
22は、式(3)で与えられる全N層での特性行列Mの各要素であり、M
i(iは、1、2、・・・のように1から順にNまで1ずつ増える整数)の総積によって与えられ、第i層の特性行列M
iは、式(4)で与えられる。式(4)に示すδ
iは、式(5)により表されるものであり、式(4)に示すP
Siは、式(6)により表されるものである。また、n
iは複素屈折率、d
iは、第i層の物理層厚であり、λは、エネルギー透過率を求める波長が代入される。
【0051】
そこで、これらの式(1)〜式(6)を用い、算出しようとする最上層以外を固定値とし、使用する3色の波長ごとに、最上層の層厚値を変えていったときのエネルギー透過率、並びにエネルギー反射率を
シミュレーションデータとして生成することができる。
【0052】
図7は、第二層10
2の実測した光学データの一例であり、
図8は、第二層10
2の層厚算出のために作成された
シミュレーションデータの一例である。
なお、
図7、8において、縦軸はエネルギー透過率(%)、横軸は層厚(nm)である。また、破線、実線、一点鎖線は、それぞれR、B、Gを示す。
【0053】
また、
図9は、実測データと、
シミュレーションデータとを重ね合わせた(比較した)フィッティングデータの一例である。
図9に示すように、実測データと
シミュレーションデータとで、R、B、Gの各値の差が最も少ないところ(
図9では、140nm)が層厚として算出される。
なお、算出された層厚は、位置情報と対応づけられて一時メモリー734及びデータベース90に記憶される。
【0054】
なお、上記厚さ算出処理に用いる波長を複数の非連続的な波長に限定し、且つ比較対象となる層厚の範囲を所望の層厚を含んだ所定の範囲に制限することとしても良い。
また、測定の信頼性を上げるため、ノイズの少ない波長に重みづけをしたり、安定な工程である場合には極力層厚範囲を狭くするのが好ましい。
【0055】
CPU71は、かかる算出プログラム732を実行することで、算出手段として機能している。
【0056】
記憶プログラム733は、CPU71に、上記算出プログラム732の実行により算出した層厚を、上記取得プログラム731の実行により取得した識別情報と対応付けて一時メモリー734に記憶させる機能を実現させるプログラムである。
【0057】
具体的に、CPU71は、上記算出プログラム732の実行により、例えば第一層10
1の厚さが算出されると、この第一層10
1の厚さを識別情報と共に、一時メモリー734に格納する。
また、CPU71は、上記算出プログラム732の実行により、例えば第二層10
2の厚さが算出されると、既に一時メモリー734に格納された第一層10
1の厚さ及び識別情報と共に、第二層10
2の厚さを一時メモリー734に格納する。
【0058】
CPU71は、かかる記憶プログラム733を実行することで、一時メモリー734と共に記憶手段として機能している。
【0059】
一時メモリー(記憶手段)734は、厚さ測定処理において取得及び算出したデータを格納する。
この一時メモリー734には、厚さ測定対象ロットの全ての層の厚さ測定処置が終了するまで当該厚さ測定処置にて取得及び算出した全データが記憶され、ロットの変更に応じて当該データが上書き或いは消去されるようになっている。
【0060】
表示部80は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等のモニタを備えて構成されており、制御部70から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。
例えば、表示部80には、画像データや
シミュレーションデータ、これらを比較するためのフィッティングデータ等が表示される。
【0061】
データベース90は、HDD(Hard Disk Drive)等により構成され、複数ロットの厚さ測定処理を実行した場合にも、当該複数ロットの厚さ測定処理にて取得及び算出した全データを保存可能な大容量のデータベースである。
即ち、データベース90には、一時メモリー734と同一なデータが格納されており、一時メモリー734ではロット変更時にデータが上書き或いは消去されるのに対し、データベース90ではロットが変更されてもデータが上書きや消去されることなく、蓄積されていく。
従って、例えばデータ破損時等、必要に応じてデータベース90を参照し、データの復元を行うことができる。
【0062】
<厚さ測定方法>
次に、本発明の実施形態に係る厚さ測定方法について
図10のフローチャートを参照しつつ説明する。
なお、下記のフローチャートでは、基材Kに二層の膜(第一層10
1、第二層10
2)を形成する場合を例示して説明する。
また、厚さ測定方法の前提として、繰出ロール21、巻取ロール22、及びガイドロール23が回転して基材Kが搬送されており、また、光源41からの照射光は、常時ガイドロール23の所定位置に照射され、ラインCCDカメラ42は透過光を受光可能となっている。
【0063】
先ず、基材K上に第一層10
1が形成されると、制御部70は、ラインCCDカメラ42により、第一層10
1の画像データを取得し、バーコードリーダー52により、第一層10
1の識別情報を取得する(第1取得工程:ステップS1)。
【0064】
次いで、制御部70は、第一層10
1の画像データを、予め記憶された基準データと比較して、第一層10
1の厚さを算出する(第1算出工程:ステップS2)。
【0065】
次いで、制御部70は、算出した第一層10
1の厚さを、第一層10
1の識別情報と対応づけて一時メモリー734に記憶する(第1記憶工程:ステップS3)。
【0066】
次いで、第一層10
1上に第二層12が形成されると、制御部70は、ラインCCDカメラ42により、第二層10
2の画像データを取得し、バーコードリーダー52により、第二層10
2の識別情報を取得する(第2取得工程:ステップS4)。
このとき、制御部70は、上記ステップS3において一時メモリー734に記憶した第一層10
1の識別情報を参照し、画像データ取得位置の位置合わせを行っている。
【0067】
次いで、制御部70は、第二層10
2の画像データを、上記ステップS3において一時メモリー734に記憶した第一層10
1の厚さに関するデータを所定の理論式に当てはめることで作成された
シミュレーションデータと比較して、第二層10
2の厚さを算出する(第2算出工程:ステップS5)。
【0068】
次いで、ステップS6において、制御部70は、算出した第二層10
2の厚さを、第二層10
2の識別情報とともに一時メモリー734に記憶する(第2記憶工程)。
【0069】
なお、上記のフローチャートでは、基材Kに二層の膜を形成する場合を例示して説明したが、三層以上の膜を形成する場合は、上記ステップS4〜ステップS6を繰り返すこととなる。即ち、三層以上の膜を形成する場合も同様にして、最表面の層の画像データを取得し、その時点で既に一時メモリー734に記憶されている下層の厚さに関するデータ及び識別情報を用いて、位置合わせを行いつつ当該最表面の層の厚さを算出していくこととなる。
【0070】
以上のように、本実施形態によれば、基材K上の第一層10
1の厚さを算出する場合、第一層10
1の画像データを、予め記憶された基準データと比較して厚さを算出し、第一層10
1上に順次形成される2層目以降の各層10
2〜10
Nの厚さを算出する場合、2層目以降の各層10
2〜10
Nの画像データを、下層10
1〜10
N−1の厚さを所定の理論式に当てはめることで作成される
シミュレーションデータと比較してその差が最も少ない値を厚さとして算出する。
また、2層目以降の各層10
2〜10
Nの画像データを取得する場合、1つ下層10
1〜10
N−1の識別情報を参照して位置合わせを行う。
このため、高速且つ高精度に多層膜の厚さ測定を行うことができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、算出される各層毎の厚さの層厚データは、基材Kの幅方向に沿った厚さ分布データである。
このため、より高精度に多層膜の厚さ測定を行うことができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、基材Kは、ロール・ツー・ロール方式により搬送される。
このため、より生産性の高い方式で生産される基材Kに対して、効率よく厚さ測定を行うことができる。
【0073】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
以下に、本発明に係る厚さ測定装置の変形例について説明する。
【0074】
<変形例1>
変形例1の厚さ測定装置100Aは、
図11に示すように、光源41は、ガイドロール23の上方に配置され、基材Kに対して光を照射し、ラインCCDカメラ42は、光源41より光の照射された膜からの反射光に基づき、基材Kの幅方向(X方向)に並んだ2つの多層膜10、10を撮像して画像データを取得し、制御部70に出力する構成となっている。
なお、光源41からの照射光は、常時、ガイドロール23の所定位置にライン状に照射されるようになっており、基材Kに形成された膜は、そのガイドロール23の所定位置を通る際に光が照射される。
また、搬送された基材Kがガイドロール23に支持された際に、画像データ取得部40により基材K上に形成された膜の画像データが取得されるようになっている。
【0075】
<変形例2>
変形例2の厚さ測定装置100Bは、
図12に示すように、3つの光源41a〜21cと、3つの光源41a〜21cに対応する3つのモノクロラインCCDカメラ42a〜22cとが、設けられた構成である。
3つの光源41a〜21cからは、それぞれR、B、Gに対応する異なる波長の光が出射するようになっており、各モノクロラインCCDカメラ42は、R、B、Gに対応する画像データを取得することができる。
なお、3つのモノクロラインCCDカメラ42a〜22cのぞれぞれに、R、B、Gに対応するフィルタを設け、3つの光源41a〜21cからは同一波長の光が出射される構成としても良い。
【0076】
上記変形例1及び変形例2の構成であっても、厚さ測定装置100と同様の画像データを取得することができ、厚さ測定装置100と同様の厚さ測定処理を実行することができる。
【0077】
なお、上記実施形態及び変形例1、2では、搬送部20は、膜を一層形成するごとに巻き取る構成であったが、繰出ロール21と及び巻取ロール22の間に、成膜部と、画像データ取得部40と、ID情報取得部50とを複数組備え、連続的に処理を行う構成としても良い。