(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
溶融金属或は溶接部等の温度、温度分布を非接触で測定する方法として2色測温法がある。該2色測温法は、波長の異なる2つの光を用いて同一点の画像を取得し、光強度と測定対象物の放射率から温度を測定するものである。又、放射率は測定対象物の状態、固体、液体或は表面状態(表面酸化膜の有無)等で変化する。2色測温法では、2波長でそれぞれ温度と放射率の関係を示す関係式(関係式については後述)が2式得られ、又同時に同一点の画像を取得するので、2式に於ける放射率は同じである。2式に於ける放射率が同じであることを利用して、測定対象物の温度を測定するものである。
【0003】
従来の2色測温法に用いられる温度分布観察装置では、2つのカメラで測定対象物の同一箇所を撮像するものであり、2つのカメラは測定対象物の所定点、例えば溶接部の溶融プールの中心で、2つのカメラの光軸が合致する様設定され、光軸の合致した点を中心とした画像を取得する様になっている。又、前記2つのカメラにはそれぞれ異なる波長を透過する波長フィルタが設けられ、前記2つのカメラによって測定対象物について2波長の画像の光強度分布を取得する。又、2つの画像の光強度分布から上記2色測温法により、測定対象物の温度が測定できる。
【0004】
従来の様に、2つのカメラを用いた温度分布観察装置では、視野のずれ等を補正する為のキャリブレーションが必要であり、又2つのカメラを用いることで装置が大型化し、或は設備コストが嵩む等の問題があった。
【0005】
尚、特許文献1には、測定対象物からの光束をプリズムにより複数の光束に分割し、分割した光束に対してそれぞれ波長選択フィルタを設け、複数の波長により複数の画像を取得できる様にした多波長複数画面光学系が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0015】
先ず、
図1に於いて、本発明の実施例に係る温度分布観察装置の概略構成を説明する。
【0016】
図1中、1は測定対象物、2は観察ユニット、3はCPU等に代表される演算用計算機を示す。
【0017】
前記観察ユニット2で撮像した測定対象物1の画像は、デジタル画像データとして前記演算用計算機3に出力される。該演算用計算機3では画像データに所要の信号処理をし、2色測温法により温度、温度分布を算出する。
【0018】
次に、前記観察ユニット2について説明する。
【0019】
撮像光軸4上に対物レンズ5、光束分割手段であるプリズム6、光束収束手段であるプリズム7、結像レンズとしてのテレセントリックレンズ8、撮像素子9が順次配設される。前記プリズム6は、前記対物レンズ5によって測定対象物1の像が結像される位置に配設される。前記撮像素子9としてはCCD或はCMOSセンサ等であり、該撮像素子9は、多数の画素の集合体であり、各画素毎に受光信号を出力すると共に、受光信号を出力した画素を特定でき、更に各画素の撮像素子9上での位置を特定できる様に構成されている。
【0020】
尚、前記テレセントリックレンズ8は、図示では簡略して単一のレンズで示しているが、実際は複数のレンズから構成されたレンズユニットである。又、前記観察ユニット2にデジタルカメラを接続し、前記撮像素子9として前記デジタルカメラが具備する撮像素子を用いてもよい。
【0021】
前記プリズム6により分割された光束の一方(第1分割光束11)の第1光軸上には光路偏向光学部材であるミラー12、第1波長フィルタ13、ミラー14が配設されている。
【0022】
前記プリズム6によって分割された前記第1分割光束11は、前記ミラー12によって前記撮像光軸4と平行に偏向され、前記ミラー14によって前記プリズム7に入射される。該プリズム7は、前記第1分割光束11を前記撮像光軸4と平行に反射し、前記テレセントリックレンズ8に入射させる。該テレセントリックレンズ8は、入射された前記第1分割光束11を平行光束として前記撮像素子9に結像(投影)させる。
【0023】
前記第1波長フィルタ13は、特定の波長λ1を透過する様に設定されており、前記テレセントリックレンズ8を経て前記撮像素子9に投影される画像は波長λ1で形成される。
【0024】
又、前記プリズム6により分割された光束の他方(第2分割光束15)の第2光軸上には光路偏向光学部材であるミラー16、第2波長フィルタ17、ミラー18が配設されている。前記プリズム6によって分割された前記第2分割光束15は、前記ミラー16によって前記撮像光軸4と平行に偏向され、前記ミラー18によって前記プリズム7に入射される。
【0025】
該プリズム7は、前記第2分割光束15を前記撮像光軸4と平行に反射し、前記テレセントリックレンズ8に入射させる。該テレセントリックレンズ8は、入射された前記第2分割光束15を平行光束として前記撮像素子9に結像(投影)させる。
【0026】
前記第2波長フィルタ17は、前記波長λ1とは異なる特定の波長λ2を透過する様に設定されており、前記テレセントリックレンズ8を経て前記撮像素子9に投影される画像は波長λ2で形成される。
【0027】
ここで、前記第1分割光束11と前記第2分割光束15は、前記プリズム7でそれぞれ反射され前記撮像光軸4と平行に前記テレセントリックレンズ8に入射するが、入射する際の前記第1分割光束11と前記第2分割光束15の光軸4a,4b間の距離Dは、前記第1分割光束11、前記第2分割光束15が重ならず、完全に分離する距離、即ち分割光束の直径よりも大きい値に設定される。更に、前記プリズム7によって収束された前記第1分割光束11、前記第2分割光束15の光軸4a,4bの前記撮像素子9上での位置は、既知となっている。
【0028】
前記テレセントリックレンズ8は、平行に入射した前記第1分割光束11、前記第2分割光束15を平行に且つ平行光束として前記撮像素子9に投影する。従って、分割された光束は互いに混合することなく完全に分離された2つの像として、又異なる波長を有する2つの像として前記撮像素子9に投影される。
【0029】
前記ミラー12、前記ミラー14で構成される光路偏向手段、前記ミラー16、前記ミラー18で構成される光路偏向手段は、それぞれ前記プリズム6で分割された光束を前記プリズム7に導く作用を奏する。
【0030】
又、前記対物レンズ5から前記撮像素子9に至る光学的距離は、完全又は略完全に一致する様に光学系が構成されている。
【0031】
上記した様に、前記第1分割光束11、前記第2分割光束15は測定対象物1からの光束を分割したものであり、又前記第1分割光束11、前記第2分割光束15の光軸4a,4bの前記撮像素子9上での位置が既知であり、更に光軸間距離Dも既知であるので、前記第1分割光束11で投影される画像、前記第2分割光束15で投影される画像は完全に一致し、更に前記撮像素子9に投影される画像間での対応付もキャリブレーションをすることなく、又対応付の為の画像処理を行うことなく直ちに対応付が可能である。
【0032】
尚、
図2は、通常のレンズとテレセントリックレンズ8の光路上での光束の相違を示している。
図2(A)は通常のレンズ19を示しており、
図2(B)はテレセントリックレンズ8を示している。
【0033】
通常のレンズ19では、光束は通常のレンズ19に対して角度を持って入射し、又射出する為、測定対象物の距離に対応して結像位置が変化する。この為、測定対象物が立体である場合は、焦点の合っていない部分がぼけてしまう。又、
図3(A)に示される様に測定対象物が立体であった場合には、側面からの光も入射し、像としては、
図3(B)に示される様に側面迄含まれた像となる。
【0034】
これに対し、
図2(B)に示される様に、テレセントリックレンズ8ではテレセントリックレンズ8に対し平行光束で入射し、テレセントリックレンズ8から平行光束で射出される為、テレセントリックレンズ8に対する測定対象物の位置に変動があったとしても、結像される像のぼけは生じない。又、
図3(A)に示される様に測定対象物が立体であった場合にでも、平行光が入射するので、側面からの光は入射せず、
図3(C)に示される様に正確な平面像が撮像素子に投影される。
【0035】
従って、前記撮像素子9で受光した像を補正することなく、該撮像素子9の画素の位置から測定対象物の部位(位置)を特定することができる。
【0036】
尚、上記実施例に於いて、前記第1波長フィルタ13、前記第2波長フィルタ17を交換可能とし、異なる波長選択機能を有する他の波長フィルタに交換することで、又撮像素子9を交換可能とすることで、種々の測定条件で画像の取得を行うことができる。
【0037】
前記撮像素子9からの画像データは前記演算用計算機3に出力され、該演算用計算機3は画像データから、前記第1分割光束11による画像、前記第2分割光束15による画像を分離し、2色測温法に基づき、測定対象物の温度、温度分布を演算する。
【0038】
上記した様に、本実施例では、補正、校正をする必要のない、2色の画像信号が簡単に得られる。以下に、2色で撮像した画像から温度を測定する場合の、温度の導出式を示す。
【0039】
物体が放出する電磁波の強度は温度、波長に対して以下のプランクの放射則に従う。
【0040】
I=ε(2Ca /λ
5 )×(1/[exp(Cb /λT)−1])・・・(式1)
【0041】
ここで、I:光強度、ε:放射率、λ:波長、T:温度、Ca 、Cb :プランク定数とする。
【0042】
2つの波長λ1、λ2により光強度I1、I2を求めることで、以下の式2で温度Tを求めることができる。
【0043】
T=[Cb (λ1−λ2)/λ1・λ2]×[1/ln(I1λ1
5 /I2λ2
5 )]・・・(式2)
【0044】
次に、
図4を参照して具体的な実施例を説明する。
【0045】
尚、
図4中、
図1中で示したものと同等のものには同符号を付してある。又、
図4中、21は光束分割光学ユニットを示している。
【0046】
該光束分割光学ユニット21の対物側に対物レンズ5が配設され、前記光束分割光学ユニット21の結像側にテレセントリックレンズ8が設けられ、前記対物レンズ5、前記光束分割光学ユニット21、前記テレセントリックレンズ8は撮像光軸4上に配設されている。前記テレセントリックレンズ8の結像側には撮像素子9を有する撮像装置10(例えばCCDカメラ等)が配設されている。
【0047】
前記光束分割光学ユニット21は光学部材を収納するケーシング22を有し、該ケーシング22の底板23にL字状の基板24が固着され、該基板24に対し結像側に前記撮像光軸4と平行な方向に変位可能に第1スライドブロック25が設けられ、該第1スライドブロック25は第1調整螺子26によって位置が調整可能となっている。
【0048】
前記基板24に隣接し、前記撮像光軸4に対して直交する方向に変位可能に第2スライドブロック27が設けられ、該第2スライドブロック27は第2調整螺子28によって位置調整可能となっている。又、前記第2スライドブロック27に隣接し、前記撮像光軸4に関し、前記第1スライドブロック25と対称な位置に第3スライドブロック29が前記撮像光軸4と平行な方向に変位可能に設けられ、前記第3スライドブロック29は第3調整螺子31によって前記撮像光軸4と平行な方向に位置調整可能となっている。
【0049】
前記基板24の凹部に位置し、該基板24と前記第1スライドブロック25との間に第1フィルタ保持ブロック32が前記底板23に対して着脱可能に設けられ、前記第2スライドブロック27上には第2フィルタ保持ブロック33が前記第2スライドブロック27に対して着脱可能に設けられている。
【0050】
前記撮像光軸4上に配置されたハーフミラー35が、前記対物レンズ5の焦点位置に設けられ、前記ハーフミラー35の透過側に、副偏向ミラー36がミラーホルダ37を介して前記基板24に取付けられている。更に前記ハーフミラー35の反射側にミラーホルダ38を介してミラー12が前記基板24に取付けられている。ここで、前記ハーフミラー35及び前記副偏向ミラー36は光束分割手段として機能する。
【0051】
前記ミラー12に対向してミラー14が配置され、該ミラー14はミラーホルダ39を介して前記第1スライドブロック25に取付けられている。
【0052】
前記ミラー12と前記ミラー14との間に第1波長フィルタ13が配置され、該第1波長フィルタ13はフィルタホルダ41を介して前記第1フィルタ保持ブロック32に固定されている。前記第1波長フィルタ13は、第1分割光束11の光路上に位置し、該第1分割光束11が前記第1波長フィルタ13を透過する様になっている。
【0053】
前記副偏向ミラー36に対向してミラー16が配置され、該ミラー16はミラーホルダ42を介して前記第2スライドブロック27に取付けられている。
【0054】
前記ミラー16に対向し、且つ前記撮像光軸4に関し、前記ミラー14と対称な位置にミラー18が配置され、該ミラー18はミラーホルダ43を介して前記第3スライドブロック29に取付けられている。
【0055】
前記ミラー16と前記ミラー18との間に第2波長フィルタ17が配置され、該第2波長フィルタ17はフィルタホルダ44を介して前記第2フィルタ保持ブロック33に固定されている。前記第2波長フィルタ17は、第2分割光束15の光路上に位置し、該第2分割光束15が前記第2波長フィルタ17を透過する様になっている。
【0056】
前記ミラー14と前記ミラー18との中間で、且つ前記撮像光軸4の光軸上に、プリズム7が配設されている。而して、前記光束分割光学ユニット21に於いて、前記ハーフミラー35から前記ミラー12、前記ミラー14を経て前記プリズム7に至る光路長と、前記ハーフミラー35から前記副偏向ミラー36、前記ミラー16、前記ミラー18を経て前記プリズム7に至る光路長とは同一の長さとなる様に構成されている。
【0058】
前記対物レンズ5に入射した測定対象物からの光束は、前記対物レンズ5によって前記ハーフミラー35上に結像される。該ハーフミラー35によって、光束が2分割され、反射された光束は前記第1分割光束11として前記ミラー12で反射され、前記第1波長フィルタ13を透過する。該第1波長フィルタ13は特定の波長λ1を透過し、特定の波長λ1となった前記第1分割光束11は前記ミラー14、前記プリズム7で反射され、前記テレセントリックレンズ8に入射し、該テレセントリックレンズ8から平行光束で射出され、前記撮像素子9上に波長λ1の像を結像する。
【0059】
前記ハーフミラー35を透過した光束は前記第2分割光束15として前記副偏向ミラー36、前記ミラー16で反射され、前記第2波長フィルタ17を透過する。該第2波長フィルタ17は特定の波長λ2を透過し、特定の波長λ2となった前記第2分割光束15は前記ミラー18、前記プリズム7で反射され、前記テレセントリックレンズ8に入射し、該テレセントリックレンズ8から平行光束で射出され、前記撮像素子9上に波長λ2の像を結像する。
【0060】
前記プリズム7で反射された前記第1分割光束11、前記第2分割光束15の両光軸間の距離は、前記第1分割光束11、前記第2分割光束15の光束の太さより大きくなっており、前記第1分割光束11、前記第2分割光束15は完全に分離されて、前記撮像素子9に投影され、分離された2つの測定対象物の像が前記撮像素子9上に結像される。
【0061】
上記した様に、前記第1分割光束11の光路長、前記第2分割光束15の光路長は同一に構成されているが、部品差、組立て誤差で両光路長に誤差が生じる場合がある。この場合、前記第1調整螺子26、前記第2調整螺子28、前記第3調整螺子31のいずれか、或は所要の調整螺子を調整して、前記第1スライドブロック25、前記第2スライドブロック27、前記第3スライドブロック29の少なくとも1つを変位させることで光路長の調整が行え、両光路長を同一、或は相違を微小(誤差内)とすることができる。
【0062】
又、本実施例では前記第1フィルタ保持ブロック32、前記第2フィルタ保持ブロック33を着脱可能としており、調整の完了した選択波長の異なる波長フィルタが取付けられている別の第1フィルタ保持ブロック32、第2フィルタ保持ブロック33と交換することで、測定条件を容易に変更することができる。
【0063】
更に、前記第1波長フィルタ13、前記第2波長フィルタ17の選択波長を変更することで、前記光路長が微妙に変化するが、この場合にも前記第1調整螺子26、前記第2調整螺子28、前記第3調整螺子31を調整して、前記ミラー14、前記ミラー16、前記ミラー18の位置を変位させることで、両光路長を合致させることができる。
【0064】
尚、前記第1波長フィルタ13、前記第2波長フィルタ17を変更する場合、波長フィルタとフィルタホルダとを一体として交換可能としてもよい。
【0065】
又、光束収束手段として、3角プリズム7を用いたが、2つのミラーに変更してもよい。その他、ハーフミラー、波長選択板、ダイクロイックミラー、ビームスプリッタ等、光束を反射或は分割する他の光学部材を用いること、或は組合せることが可能であることは言う迄もない。更に又、前記両光路長を調整する手段としては、前記ミラー14、前記ミラー16、前記ミラー18の少なくとも1つが変位可能となっていればよい。