特許第5942558号(P5942558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5942558
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】微小空洞形成方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/02 20060101AFI20160616BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20160616BHJP
   B23K 26/40 20140101ALI20160616BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20160616BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20160616BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20160616BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C03B33/02
   C03C15/00 Z
   B23K26/40
   C03C23/00 D
   C03C19/00 Z
   B81C1/00
   B81B1/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-91948(P2012-91948)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-220958(P2013-220958A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】畑澤 亮仁
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−178642(JP,A)
【文献】 特開2008−156200(JP,A)
【文献】 特開2006−290630(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/096958(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/096356(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/031912(WO,A1)
【文献】 特開2013−215766(JP,A)
【文献】 特開2013−215767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/02
B23K 26/40
C03C 15/00
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にパルスレーザ光の集光照射を行って、前記被加工物内に外部に露出しない連続する改質領域を形成するレーザ加工工程と、前記被加工物の一部を機械加工により除去することで前記改質領域に露出部分を形成する機械加工工程と、前記露出部分を始点にして前記改質領域をエッチング除去し微小空洞を形成するエッチング工程と、を含み、
前記機械加工工程では、機械加工によって前記被加工物に前記改質領域に連通する連通孔を形成することを特徴とする微小空洞形成方法。
【請求項2】
前記微小空洞として貫通孔を形成するようにしたことを特徴とする請求項1記載の微小空洞形成方法。
【請求項3】
前記機械加工が、研削加工、研磨加工、又は切削加工であることを特徴とする請求項1又は2記載の微小空洞形成方法。
【請求項4】
前記機械加工工程では、機械加工によって前記被加工物の少なくとも一面を、全面にわたって略同厚みに除去することを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の微小空洞形成方法。
【請求項5】
前記レーザ加工工程後に、前記機械加工を前記被加工物の一面側のみに施して前記改質領域に前記露出部分を形成し、
次に前記露出部分を始点にして前記改質領域を前記エッチング工程によりエッチング除去して前記微小空洞を形成し、
次に前記機械加工を前記被加工物のもう一方の面側に施して前記貫通孔を形成するようにしたことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項記載の微小空洞形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザ光によって外部に連通した微小空洞を形成する方法に関し、特に、シリカガラス等の被加工物に対しパルスレーザ光の集光照射によって、被加工物を局所的に改質させて改質領域を形成し、該改質領域をエッチングにより除去することにより、微小孔,微小溝,微小凹部等の微小空洞を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微小孔,微小溝,微小凹部等の外部に連通した微小空洞を有するガラス材料は、マイクロノズルやバイオチップ・ケミストリーチップなどとしての利用が期待されている。そして、パルスレーザ光、特にフェムト秒レーザを用いてガラスに微小構造を形成する手法では、3次元的な構造への加工を行うことが可能である等の長所を有している。
【0003】
フェムト秒レーザを用いてガラスに微小構造を形成する技術として、例えば特許文献1に示す技術が知られている。この技術は、シリカガラス等の透明材料からなる被加工物に対し、パルスの持続時間がフェムト秒乃至ピコ秒オーダのパルスレーザ光を集光して照射し、この際、パルスレーザ光の照射位置を、少なくとも1箇所は該被加工物の表面上である位置を含めて走査することで、前記被加工物における前記表面上から内部にかけて、パルスレーザ光の照射によって改質された改質領域を形成し、この改質領域を、前記表面上を始点としてエッチングにより除去することで、前記改質領域が除去された跡の孔を形成するようにしている。
【0004】
ところで、前記従来技術では、エッチングの進行は被加工物の表面から内部へ進むため、特に、エッチング液の入口付近では、孔径が奥側よりも大きくなったり、孔縁にバリが生じたり、孔形状が不安定になったり、孔の周囲が変質したり等、品質の低下のおそれがある。また、レーザ加工により被加工物の表面又は裏面を含むように改質領域を形成した場合、パルスレーザ光が被加工物の表面又は裏面で乱反射や屈折等を生じることに起因して、改質領域の加工精度が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、特許文献2に記載される従来技術では、パルスレーザ光の照射により平板状の被加工物の内部のみに改質領域を形成し、この後、被加工物の表面と裏面の改質領域に対応する部分を開口して他の部分を覆うようにエッチング保護膜を形成し、次に、被加工物及びエッチング保護膜をエッチング液に浸し、改質領域を挟んで向かい合う表面と裏面の前記開口の間の材料を除去して貫通孔を形成するようにしている。
【0006】
しかしながら、後者の従来技術によれば、改質領域に対応する特定の位置に前記開口を残してエッチング保護膜を形成しなければならず、前記開口及びエッチング保護膜の形成自体に精度を要し、工数がかかってしまう。
また、前記開口と改質領域の径が一致しなかったり、ずれてしまった場合には、完成後の貫通孔に段差が生じたり、同軸度にばらつきを生じたり等するおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−210730号公報
【特許文献2】特開2004−351494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来事情に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、外部に露出した微小空洞の形成において、寸法精度の高い安定した形状の微小空洞を形成すること、微小空洞周囲の品質低下を防ぐこと、生産性を向上すること等、が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための一手段は、被加工物にパルスレーザ光の集光照射を行って、前記被加工物内に外部に露出しない連続する改質領域を形成するレーザ加工工程と、前記被加工物の一部を機械加工により除去することで前記改質領域に露出部分を形成する機械加工工程と、前記露出部分を始点にして前記改質領域をエッチング除去し微小空洞を形成するエッチング工程と、を含み、前記機械加工工程では、機械加工によって前記被加工物に前記改質領域に連通する連通孔を形成することを特徴とする。
この微小空洞形成方法によれば、レーザ加工工程では、被加工物の表面や裏面にパルスレーザ光を集光照射しないため、被加工物の内部にのみに、寸法精度の高い安定した形状の改質領域を形成することができる。
そして、機械加工工程では、エッチング保護膜を形成する工程や被加工物の改質領域以外の部分をエッチングする工程等を要することなく、機械加工のみによって、改質領域に露出部分を形成することができる。
次に、エッチング工程では、改質領域を、前記露出部分を始点にしてエッチング除去することで、その除去の跡として、寸法精度の高い安定した形状の微小空洞を得ることができる。
なお、前記機械加工とは、工具や工作機械を用いて被加工物の一部を外側から削る加工を意味し、この機械加工には、研削加工、研磨加工、切削加工を含むが、レーザ加工やエッチング処理は含まない。
更にこの手段では、被加工物に対し、改質領域に連通する部分のみを孔加工するため、機械加工による削り代が少なく、歩留まりのよいスピーディな加工が可能である。
【0010】
また、他の手段では、前記微小空洞として貫通孔を形成するようにしたことを特徴とする。前記貫通孔は、例えばマイクロノズル等として有用である。
【0011】
また、他の手段では、特に生産性の良好な加工方法として、前記機械加工が、研削加工、研磨加工、又は切削加工であることを特徴とする。
ここで、前記研削加工には、ラッピング、平面研削、ホーニング、超音波研削加工等を含む。前記研磨加工には、機械研磨、化学機械研磨、バレル研磨、バフ研磨、ブラシ研磨等を含む。また、前記切削加工には、ドリル穿孔、超音波切削加工、ダイヤモンド切削加工、フライス加工、旋盤加工等を含む。
【0012】
また、他の手段では、前記機械加工工程では、機械加工によって前記被加工物の表面を同厚みで除去することを特徴とする。
この手段は、特に、前記微小空洞として、ストレート孔を形成するのに適している。
【0014】
また、他の手段では、前記レーザ加工工程後に、前記機械加工を前記被加工物の一面側のみに施して前記改質領域に前記露出部分を形成し、
次に前記露出部分を始点にして前記改質領域を前記エッチング工程によりエッチング除去して前記微小空洞を形成し、
次に前記機械加工を前記被加工物のもう一方の面側に施して前記貫通孔を形成するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上説明したように構成されているので、寸法精度の高い安定した形状の微小空洞を形成すること、微小空洞周囲の品質低下を防ぐこと、生産性を向上すること等、本発明の目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る微小空洞形成方法の一例を示す模式図であり、(a)は加工前の被加工物、(b)はレーザ加工により改質領域を形成した状態、(c)は機械加工により改質領域を露出させた状態、(d)は微小空洞が形成された状態を示す。
図2】レーザ加工工程の一例を示す模式図である。
図3】エッチング工程の一例を示す模式図である。
図4】本発明に係る微小空洞形成方法の他例を示す模式図であり、(a)は加工前の被加工物、(b)はレーザ加工により改質領域を形成した状態、(c)は機械加工により改質領域を露出させた状態、(d)は微小空洞が形成された状態を示す。
図5】微小空洞を有底孔とした一例を示す断面図である。
図6】微小空洞を有底孔とした他例を示す断面図である。
図7図1の微小空洞形成方法の変更例を示す模式図である。
図8図4の微小空洞形成方法の変更例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の特に好ましい実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施の形態の微小空洞形成方法は、図1〜3に示すように、被加工物10にレーザ加工装置20から発せられるパルスレーザ光aの集光照射を行って、被加工物10内に外部に露出しない連続する改質領域11を形成するレーザ加工工程と、被加工物10の一部を機械加工により除去することで前記改質領域11に露出部分11aを形成する機械加工工程と、前記露出部分11aを始点にして前記改質領域11をエッチング除去し微小空洞12を形成するエッチング工程とを有する。
【0018】
被加工物10は、平板状の透明なシリカガラスであり、例えば、厚みが数ミリ程度の薄板状のものを用いる。
【0019】
レーザ加工装置20は、パルスレーザ光aを発する発光源21と、パルスレーザ光aを集光するレンズ22とを具備している。
パルスレーザ光aは、加工閾値以上のレーザ強度を有している必要がある。具体的には、パルスレーザ光aのパルス幅は150fs〜1psで、繰返し周期1kHz〜300kHz、波長780nm〜800nm、平均出力1W前後のものが使用可能である。特に、微小空洞12の内面をより平滑にするためには、パルスレーザ光aの繰返し周期を大きくして、レーザ強度は小さく抑えることが好ましい。
【0020】
より好ましいパルスレーザ光aとしては、1ps以下のパルス幅を持つパルスレーザ光が用いられる。なぜならば、パルス幅の短いレーザは10TW/cm以上のレーザ強度を有しており、シリカガラスが当該強度を有するパルスレーザ光を多光子吸収することで、シリカガラスの改質を引き起こすことができるためである。多光子吸収されたパルスレーザ光は熱拡散をほとんど起こさず、レーザ集光照射部近傍のみを改質させることができるため、本実施形態のような微小加工には非常に好適である。
【0021】
また、被加工物10(シリカガラス)内部での改質を空間選択的に起こすためには、パルスレーザ光aの波長が被加工物10を透過する波長であることが好ましい。なぜならば、被加工物10にパルスレーザ光aを照射する際に、使用するパルスレーザ光aの波長が被加工物10の固有吸収内であると、被加工物10の表面でレーザの吸収が起こって当該部分が改質してしまうために、被加工物10内部への加工を行う際の妨げになりやすいからである。
【0022】
本実施形態の微小空洞形成方法では、レーザ加工工程の前工程として、被加工物10における、少なくともレーザ照射側の面(より好ましくは表裏両面)に、研磨加工を施す。この研磨加工は、パルスレーザ光aがシリカガラス表面の凹凸等の影響により屈折や散乱等してしまうのを防ぐためである。
被加工物10は、前記前工程の研磨の後、載置台30に載置される。
【0023】
レーザ加工工程では、上述した条件に適合したパルスレーザ光aを、図1(b)及び図2に示すように、レンズ22で集光して被加工物10に照射し、パルスレーザ光aの焦点の近傍の被加工物10の改質を行う。そして載置台をXYZステージ等の手段により移動させて焦点を走査させながら被加工物10の改質を行ってゆく。
【0024】
ここで、パルスレーザ光aによる改質は、被加工物10に、貫通孔や有底孔等のように厚み方向へ連続する微小空洞を形成する場合には、被加工物10の加工領域における表面から最も深い位置を起点a1として、表側へ向かって焦点を走査させて行うことが好ましい。すなわち、仮に前記と逆に表側から裏側へ向かう走査をした場合には、照射したパルスレーザ光aが被加工物10(シリカガラス)の先に改質された部分によって屈折・散乱してしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、このようなことを防ぐために、前記のように走査する。
【0025】
前記レーザ加工工程によって、被加工物10内には、外部に露出しない連続した改質領域11が形成される。この改質領域11は、図1に示す一例によれば、被加工物10の厚み方向へ連続する略円柱状に形成される。
【0026】
次に、前記機械加工工程では、図1(c)に示すように、被加工物10の表層部13と裏層部14が研磨加工によって削り取られる。
ここで、前記表層部13と裏層部14は、被加工物10の厚み方向において、改質領域11を挟むようにして両側に位置する部位である。前記表層部13には、改質領域11におけるレーザ走査方向の一端側(図示例によれば上端側)の一部分が含まれる。同様に、前記裏層部14には、改質領域11におけるレーザ走査方向の他端側の一部分が含まれる。
したがって、これら表層部13及び裏層部14が除去されると、改質領域11の両端側には、外部に露出した露出部分11aが形成される。
【0027】
前記研磨加工は、好ましい具体例としては、機械研磨、化学機械研磨、バレル研磨、バフ研磨、ブラシ研磨等であり、図1の一例では、被加工物10の表面と、裏面とを、それぞれ、全面にわたって略同厚みに削り取るようにしている。
なお、前記研磨加工に換えて、研削加工により表層部13と裏層部14を削り取っても良いし、研削加工と前記研磨加工を組み合わせ、研削加工後に前記研磨加工を行って、表層部13と裏層部14を削り取っても良い。研削加工の好ましい具体例としては、平面研削、ホーニング、超音波研削加工等が挙げられる。
【0028】
次に、エッチング工程では、前記のようにしてレーザ加工工程及び機械加工工程を終えた被加工物10を、エッチング槽40内に浸漬することで、露出部分11aを始点にして改質領域11をエッチング除去し、微小空洞12を形成する。
エッチング槽40の中に入れるエッチャント41としては、水酸化カリウム水溶液を用いる。水酸化カリウム水溶液の濃度は、50wt%のものから0.1wt%の希薄な水溶液まで適用可能である。この濃度範囲の水酸化カリウム水溶液を用いれば、被加工物10(シリカガラス)の未改質領域を適度にエッチングし易く、この未改質領域のエッチングによって、形成後の微小空洞12(貫通孔)の内面にテーパーが生じるのを防ぐことができる。
【0029】
また、エッチング槽40内のエッチャント41は、エッチング槽40の下部側に設けられるヒータ42によって適温に加熱される。エッチャント41の液温は、20℃から60℃の範囲内、特に50℃から60℃の範囲内にあることが好ましい。なぜならば、液温が60℃より高いと被加工物10(シリカガラス)の未改質領域をエッチングし過ぎてしまうおそれがあり、逆に液温が20℃より低いと、微小空洞12の深さ方向へのエッチングの進行が殆ど進行しなくなるからである。
【0030】
そして、エッチングにより改質領域11を除去した被加工物10から、付着したエッチャント41を、洗浄等の手段により除去する。このようにして、被加工物10には、ストレートな貫通孔状の微小空洞12が形成される。
【0031】
上記微小空洞形成方法によれば、被加工物10の表面及び裏面にはパルスレーザ光aを集光照射しないため、不要な改質部分を形成することなく、被加工物10の内部にのみに、寸法精度の高い安定した形状の改質領域11を形成することができる。
また、機械加工のみによって、改質領域11に露出部分11aを形成するようにしているため、従来技術のようにエッチング保護膜を形成する工程や被加工物の改質領域以外の部分をエッチングする工程等を要することなく、加工設備を簡素化できる上、加工スピードも比較的速い。
そして、エッチング工程では、従来技術のように被加工物の表層側の未改質領域から深層側の改質領域に跨る範囲でエッチングを行うことなく、改質領域11のみにエッチングを行うようにしているため、改質領域11を除去した後の微小空洞12の内面の連続性を良好にすることができる。
よって、微小空洞12周囲の品質低下が少ない上、寸法精度の高い、安定した形状の高品質な微小空洞12を得ることができ、しかも、簡素な生産設備でもって生産性を向上することができる。
【0032】
次に、本発明に係る微小空洞形成方法の他例を、図4に基づいて説明する。
なお、以下に示す微小空洞形成方法の他例は、上記微小空洞形成方法を一部変更したものであるため、主にその変更箇所について詳細に説明し、重複する詳細説明を省略する。
【0033】
図4に示す微小空洞形成方法は、上記微小空洞形成方法(図1参照)に対し、機械加工工程(図4(c)参照)を変更したものである。
すなわち、この微小空洞形成方法の機械加工工程では、レーザ加工工程を経た被加工物10に対し、機械加工によって改質領域11に連通する連通孔15を穿設する。
【0034】
前記機械加工は、ドリル等の穿孔工具を用いる工作機械(例えば、ボール盤等)による切削加工であり、被加工物10の表面と裏面の両面に対し、それぞれ施される。
各連通孔15の深さは、少なくとも改質領域11のレーザ走査方向の端部に届く深さとされる。したがって、前記機械加工によって被加工物10の表面と裏面に連通孔15が穿設されると、改質領域11の両端側には、外部に露出した露出部分11aが形成される。
【0035】
次に、エッチング工程では、前記のようにしてレーザ加工工程及び機械加工工程を終えた被加工物10を、上述した微小空洞形成方法(図1及び図3参照)と同様に、エッチング槽40内に浸漬すことで、露出部分11aを始点にして改質領域11をエッチング除去し、微小空洞16を得る。
【0036】
この微小空洞16は、改質領域11をエッチング除去することにより形成された円筒状部分16aと、該円筒状部分16aの両端に連続する前記連通孔15,15とからなる空間であり、被加工物10を厚さ方向へ貫通して被加工物10の外部に連通している。
【0037】
なお、図1及び図4に示す例では、被加工物10を貫通するようにして微小空洞を形成したが、他例としては、図5図6に示すように有底孔状の微小空洞17,18を形成することも可能である。
【0038】
図5に示す微小空洞17は、図1に示す微小空洞形成方法において、機械加工工程(図1(c)参照)にて、被加工物10から表層部13のみを削り、裏層部14を削らないようにしている。したがって、次のエッチング工程にて改質領域11がエッチング除去された後には、有底孔状の微小空洞17が形成される。
【0039】
図6に示す微小空洞18は、図4に示す微小空洞形成方法において、機械加工工程(図4(c)参照)にて、被加工物10に対し表面側の連通孔15のみを穿設している。したがって、次のエッチング工程にて改質領域11がエッチング除去された後には、改質領域11が除去された跡の円筒状部分18aと表面側の連通孔15とからなる、有底孔状の微小空洞18が形成される。
【0040】
また、図4(d)及び図6に示す微小空洞16,18では、円筒状部分16a,18aよりも連通孔15の内径を大きくしているが、これらの孔径を略同径にしたり、円筒状部分16a,18aよりも連通孔15の内径を小さくしたり等することも可能である。
【0041】
また、上記形態では、被加工物10の厚み方向に長尺な微小空間を形成したが、他例としては、被加工物10の厚み方向に対し傾斜した微小空間や、厚み方向に対し略直交する微小空間等とすることも可能である。
【0042】
微小空洞12,16,17,18の径寸法は、0.5μm〜25μmである。
また、上記形態では、略円筒状の微小空洞を例示したが、この微小空洞の形状は、例えば、角筒状や、溝状、凹部等、円筒状以外の任意の形状とすることが可能である。
【0043】
また、上記形態では、平板状の被加工物10に対し微小空洞を形成したが、他例としては、平板状以外の立体形状(例えば、立方体や直方体、球等)に対し、上記同様の微小空洞を形成することが可能である。
【0044】
また、上記形態では、被加工物10をシリカガラスとしたが、この被加工物10は、例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等のように、シリカガラス以外の材料とすることも可能である。
【0045】
また、上記形態では、エッチング工程でのエッチャント41として水酸化カリウム水溶液を用いたが、エッチャントの他例としては、フッ酸、バファードフッ酸、フッ酸及び硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等との混合液等を用いることも可能である。
【0046】
また、レーザ加工工程後に、機械加工を被加工物10の一面側のみに施して改質領域11に露出部分11aを形成し、次に露出部分11aを始点にして改質領域11をエッチング工程によりエッチング除去して、微小空洞12又は16を形成し、次に機械加工を被加工物10のもう一方の面側に施して貫通孔を形成するように、本実施の形態の微小空洞形成方法を変更しても良い。例えば、図1の微小空洞形成方法の変更例を図7に示すと共に、図4の微小空洞形成方法の変更例を図8に、それぞれ示す。
【0047】
図7の微小空洞形成方法が図1と異なる点は、図7では被加工物10の一面側である表層部13のみを、まず研磨加工によって削り取り(図7(c)参照)、改質領域11に露出部分11aを形成し、次に改質領域11をエッチング除去して微小空洞12を形成後(図7(d)参照)、被加工物10のもう一方の面側である裏層部14を研磨加工によって削り取り(図7(e)参照)、貫通孔を形成(図7(f)参照)している点である。即ち、裏層部14の研磨加工を、改質領域11のエッチング工程後にしている点で、図1と異なる。従って、図1の微小空洞形成方法が有する効果は、図7の微小空洞形成方法も有する。
【0048】
また図8の微小空洞形成方法が図4と異なる点は、図8ではまず被加工物10の一面側のみに連通孔15をドリル等を用いた切削加工で穿設し(図8(c)参照)、次に改質領域11をエッチング除去して微小空洞16を形成後(図8(d)参照)、被加工物10のもう一方の面側に連通孔15を穿設して、貫通孔を形成(図8(e)参照)している点である。即ち、一方の連通孔15を穿設する切削加工を、改質領域11のエッチング工程後にしている点で、図4と異なる。従って、図4の微小空洞形成方法が有する効果は、図8の微小空洞形成方法も有する。
【符号の説明】
【0049】
10:被加工物
11:改質領域
11a:露出部分
12,16,17,18:微小空洞
15:連通孔
a:パルスレーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8