(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記矢板の軸方向の所定範囲で、前記矢板と、前記正面板と、前記取付板とによって形成され、硬化性充填材が充填される空間部と、前記空間部の上端部を閉塞する上部閉塞板及び前記空間部の下端部を閉塞する下部閉塞板の何れか一方又は両方とを備えること
を特徴とする請求項1又は2に記載の矢板壁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、従来の鋼製カバー90を有する鋼矢板91は、鋼矢板91のフランジ92と同じ方向に鋼製カバー90が設置されるため、鋼製カバー90の断面の重心位置と鋼矢板91の断面の重心位置とが近くなり(重心の離間距離が小さい)、断面2次モーメントが小さくなることから、曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることができないという問題点があった。
【0014】
また、取付用帯状鋼板96は、鋼製カバー90と鋼矢板91の各々に溶接により固定されるため、溶接不良等によって取付用帯状鋼板96が鋼製カバー90から脱離するおそれがあり、溶接箇所が2箇所となることで、溶接作業に必要となる手間やコストが増大するという問題点があった。取付用帯状鋼板96は、アーム部94に略垂直に当接されて溶接によって固定されるため、隣り合う取付用帯状鋼板96が相互に接近することになり、現位置における補修溶接作業が困難なものとなって、溶接作業に必要となる手間やコストが増大するという問題点があった。取付用帯状鋼板96は、アーム部94に固定されるため、継手部95の鋼面が露出しており、腐食や磨耗が進行して断面性能の低下を招くおそれがあるという問題点があった。
【0015】
さらに、鋼製カバー90は、ハット形鋼矢板の両側継手部を切断したものが用いられるため、継手部の切断コストや切断に伴う発生ひずみの矯正コストが嵩み、切断した継手に対応した分だけ曲げ剛性及びねじり剛性が低下するおそれがあるという問題点があった。従来の鋼製カバー90を有する鋼矢板91は、荒天等によって波が荒くなった場合に、海底の底質(海底を構成する砂等の土粒子)が空間部98の上端部から侵入し、空間部98に砂や漂流物等が堆積することになり、空間部98に硬化性充填材99を充填するときに、空間部98に堆積した砂や漂流物等を除去することが必要となるため、この除去作業が必要となることで工期が長期化するとともに、施工コストが増大することになるという問題点があった。
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、現位置における補修溶接作業に必要となる手間やコストを削減するとともに、矢板の腐食や磨耗を型枠によって広い範囲で防止して、さらに、型枠付矢板の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることのできる矢板壁、矢板壁の構築方法及び型枠付矢板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1発明の矢板壁は、前面側と背面側とを隔てる境界に設けられる矢板壁であって、鋼矢
板の矢板と、前記矢板に取り付けられる型枠とを備え、前記矢板は、軸方向の下部が地盤に打設されるとともに、軸方向の上部が
前記境界に設けられ、前記型枠は、前記矢板と所定の間隔を空けて
前記矢板の継手部に対して前記矢板のフランジと反対側に設けられる正面板と、前記正面板の幅方向の両端から前記矢板に向けて延びるように連続して設けられる平板部が形成された取付板とを有し、前記取付板における前記平板部の端面が
前記矢板の継手部に対して前記矢板のウェブと反対側から前記矢板に取り付けられることで、前記矢板における軸方向の所定範囲に固定されることを特徴とする。
【0018】
第2発明の矢板壁は、第1発明において、前記平板部は、前記正面板の幅方向の両端から外側に向けて拡がるようにして、前記矢板に向けて延びるように連続して設けられることを特徴とする。
【0019】
第3発明の矢板壁は、第1発明又は第2発明において、前記矢板の軸方向の所定範囲で、前記矢板と、前記正面板と、前記取付板とによって形成され、硬化性充填材が充填される空間部と、前記空間部の上端部を閉塞する上部閉塞板及び前記空間部の下端部を閉塞する下部閉塞板の何れか一方又は両方とを備えることを特徴とする。
【0020】
第4発明の矢板壁は、第1発明〜第3発明の何れかにおいて、前記型枠は、前記正面板及び前記取付板の何れか一方又は両方の所定範囲に、所定厚さの鋼板が取り付けられることを特徴とする。
【0021】
第5発明の矢板壁は、第1発明〜第4発明の何れかにおいて、前記型枠は、前記正面板及び前記取付板の何れか一方又は両方の板厚の一部が、他の部位に比較して部分的に厚くなっていることを特徴とする。
【0022】
第6発明の矢板壁の構築方法は、前面側と背面側とを隔てる境界に設けられる矢板壁の構築方法であって、鋼矢
板の矢板における軸方向の下部を地盤に打設するとともに、軸方向の上部を
前記境界に設ける第1工程と、前記矢板と、前記矢板と所定の間隔を空けて
前記矢板の継手部に対して前記矢板のフランジと反対側に設けられる型枠の正面板と、前記正面板の幅方向の両端から前記矢板に向けて延びるように連続して設けられる平板部が形成されて前記平板部の端面が
前記矢板の継手部に対して前記矢板のウェブと反対側から前記矢板に取り付けられる型枠の取付板とによって形成される空間部に、硬化性充填材を充填する第2工程とを備えることを特徴とする。
【0023】
第7発明の矢板壁の構築方法は、前面側と背面側とを隔てる境界に設けられる矢板壁の構築方法であって、鋼矢
板の矢板と、前記矢板と所定の間隔を空けて
前記矢板の継手部に対して前記矢板のフランジと反対側に設けられる型枠の正面板と、前記正面板の幅方向の両端から前記矢板に向けて延びるように連続して設けられる平板部が形成されて前記平板部の端面が
前記矢板の継手部に対して前記矢板のウェブと反対側から前記矢板に取り付けられる型枠の取付板とによって形成される空間部に、硬化性充填材を充填する第1工程と、前記矢板における軸方向の下部を地盤に打設するとともに、軸方向の上部を
前記境界に設ける第2工程とを備えることを特徴とする。
【0024】
第8発明の
矢板壁は、
前面側と背面側とを隔てる境界に設けられる矢板壁であって、鋼管矢板の矢板と、前記矢板に取り付けられる型枠とを備え、前記矢板は、軸方向の下部が地盤に打設されるとともに、軸方向の上部が前記境界に設けられ、前記型枠は、前記矢板と所定の間隔を空けて設けられる正面板と、前記正面板の幅方向の両端から前記矢板に向けて延びるように連続して設けられる平板部が形成された取付板とを有し、前記取付板における前記平板部の端面が前記矢板に取り付けられることで、前記矢板における軸方向の所定範囲に固定されることを特徴とする。
【0025】
第9発明の型枠付矢板は、
前面側と背面側とを隔てる境界に設けられる矢板壁を構築するための型枠付矢板であって、鋼矢板又は鋼管矢板の矢板と、前記矢板に取り付けられる型枠とを備え、前記矢板は、軸方向の下部が地盤に打設されるとともに、軸方向の上部が前記境界に設けられ、前記型枠は、前記矢板と所定の間隔を空けて設けられる正面板と、前記正面板の幅方向の両端から前記矢板に向けて延びるように連続して設けられる平板部が形成された取付板とを有し、前記取付板における前記平板部の端面が前記矢板に取り付けられることで、前記矢板における軸方向の所定範囲に固定されて、前記矢板又は前記型枠の何れか一方に基端部が固定されるとともに、前記矢板又は前記型枠の何れか他方に形成されたスリットに先端部が挿通され、中間部に凹部又は孔部が設けられた係止用鋼板をさらに備えることを特徴とする。
【0026】
第10発明の型枠付矢板は、
前面側と背面側とを隔てる境界に設けられる矢板壁を構築するための型枠付矢板であって、鋼矢板又は鋼管矢板の矢板と、前記矢板に取り付けられる型枠とを備え、前記矢板は、軸方向の下部が地盤に打設されるとともに、軸方向の上部が前記境界に設けられ、前記型枠は、前記矢板と所定の間隔を空けて設けられる正面板と、前記正面板の幅方向の両端から前記矢板に向けて延びるように連続して設けられる平板部が形成された取付板とを有し、前記取付板における前記平板部の端面が前記矢板に取り付けられることで、前記矢板における軸方向の所定範囲に固定されて、前記矢板と前記型枠とを連結するとともに、上部コンクリートに埋設される箇所に凹部又は孔部が設けられた間隔保持材をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
第1発明〜第10発明によれば、取付板が正面板の幅方向の両端から溶接等を用いることなく連続して設けられるため、取付板と正面板とが脱離することを防止することが可能となる。第1発明〜第10発明によれば、平板部の端面が矢板のアーム部や継手部等に溶接等によって取り付けられるため、各々の平板部において溶接箇所を1箇所とすることができ、溶接作業に必要となる手間やコストを削減することが可能となる。第1発明〜第10発明によれば、矢板に型枠が取り付けられることで、全体として矢板の腐食や磨耗を型枠によって広い範囲で防止することが可能となるとともに、曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。
【0028】
特に、第2発明によれば、正面板の幅方向の両端から外側に向けて拡がるように傾斜して平板部が設けられるため、隣り合う型枠付矢板における各々の平板部が相互に離間されて空隙が形成され、この空隙において、平板部と矢板のアーム部や継手部等との現位置における補修溶接作業を容易にすることができ、溶接作業に必要となる手間やコストを削減することが可能となる。
【0029】
特に、第3発明によれば、空間部に硬化性充填材が充填されることで、さらに、矢板の腐食や磨耗を防止することが可能となるとともに、型枠付矢板の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。第3発明によれば、空間部の上端部を閉塞する上部閉塞板を備えるものとすることで、型枠付矢板を打設した後、硬化性充填材を充填するまでの間に、荒天等で波が荒くなった場合であっても、海底の底質の砂や漂流物等が空間部の上端部から侵入することを防止することができ、空間部に硬化性充填材を充填するときに、空間部に砂や漂流物等が堆積しないため、砂や漂流物等を空間部から除去することを必要とせず、この除去作業が必要としないことで工期を短縮して、施工コストの増大を抑制することが可能となる。第3発明によれば、型枠付矢板の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。
【0030】
特に、第9発明、第10発明によれば、凹部又は孔部が設けられた係止用鋼板や間隔保持材を備えるものとすることで、空間部に充填された硬化性充填材や、上部コンクリートにおいて、これらにジベルとしての機能を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明を適用した矢板壁を水域構造物の境界に設けた状態を示す斜視図である。
【
図2】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態を示す平面図である。
【
図3】(a)は、本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における型枠付矢板を示す平面図であり、(b)は、その底面図である。
【
図4】(a)は、本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における型枠付矢板を示す左側面図であり、(b)は、その正面図であり、(c)は、その背面図であり、(d)は、その右側面図である。
【
図5】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態及び第2実施形態における溝付鋼矢板を示す平面図である。
【
図6】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における型枠付矢板を示す平面図である。
【
図7】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における型枠付矢板の第1変形例を示す平面図である。
【
図8】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における型枠付矢板の第2変形例を示す平面図である。
【
図9】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における型枠付矢板の第3変形例を示す平面図である。
【
図10】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における型枠付矢板の第4変形例を示す平面図である。
【
図11】本発明を適用した矢板壁の型枠が取り付けられる範囲を説明する側面図である。
【
図12】本発明を適用した矢板壁の型枠が取り付けられる態様を示す側面図である。
【
図13】本発明を適用した矢板壁のタイロッド式鋼矢板壁を示す側面図である。
【
図14】(a)は、本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における硬化性充填材が充填された型枠付矢板を示す平面図であり、(b)は、そのA−A断面図である。
【
図15】本発明を適用した矢板壁の上部閉塞板を拡大して示す拡大側方断面図である。
【
図16】本発明を適用した矢板壁の上部閉塞板を示す平面図である。
【
図17】本発明を適用した矢板壁の上部閉塞板の充填孔を拡大して示す拡大側方断面図である。
【
図18】本発明を適用した矢板壁の下部閉塞板を拡大して示す拡大側方断面図である。
【
図19】本発明を適用した矢板壁の空間部にジベルを設けた状態を示す平面図である。
【
図20】本発明を適用した矢板壁の空間部にジベルを設けた状態の他の変形例を示す平面図である。
【
図21】(a)は、本発明を適用した矢板壁の矢板にスリットを設けた状態を示す拡大側方断面図であり、(b)は、その拡大正面図である。
【
図22】(a)は、本発明を適用した矢板壁の矢板に孔部を設けた状態を示す拡大側方断面図であり、(b)は、その拡大正面図である。
【
図23】(a)は、本発明を適用した矢板壁に間隔保持材を設けた状態を示す平面図であり、(b)は、そのB−B断面図である。
【
図24】本発明を適用した矢板壁に間隔保持材を設けた状態の変形例を示す側方断面図である。
【
図25】(a)は、本発明を適用した矢板壁の空間部に硬化性充填材を充填する過程を示す拡大側方断面図であり、(b)、(c)は、空間部に硬化性充填材を充填した後で棒状補強部材が配設された状態を示す拡大側方断面図である。
【
図26】(a)は、本発明を適用した矢板壁における型枠の取付板に形成された溝部を示す斜視図であり、(b)は、突起部を示す斜視図であり、(c)は、スタッドボルトを示す斜視図であり、(d)は、取付板に付着した海洋生物を示す斜視図である。
【
図27】本発明を適用した矢板壁の第1実施形態における硬化性充填材が充填された状態を示す平面図である。
【
図28】本発明を適用した矢板壁の第2実施形態における型枠付矢板を示す平面図である。
【
図29】本発明を適用した矢板壁の第2実施形態における型枠付矢板の第1変形例を示す平面図である。
【
図30】本発明を適用した矢板壁の第2実施形態における型枠付矢板の第2変形例を示す平面図である。
【
図31】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における硬化性充填材が充填された状態を示す平面図である。
【
図32】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板を示す平面図である。
【
図33】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板の第1変形例を示す平面図である。
【
図34】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板の第2変形例を示す平面図である。
【
図35】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板の第3変形例を示す平面図である。
【
図36】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板の第4変形例を示す平面図である。
【
図37】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板の第5変形例を示す平面図である。
【
図38】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板の第6変形例を示す平面図である。
【
図39】本発明を適用した矢板壁の第3実施形態における型枠付矢板の第7変形例を示す平面図である。
【
図40】従来の鋼製カバーを有する鋼矢板を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を適用した矢板壁1を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
本発明を適用した矢板壁1は、
図1に示すように、主に、港湾鋼構造物等の水域構造物、擁壁、土留壁等の陸域構造物で、前面側と背面側とを隔てる境界81に設けられる。
【0034】
本発明を適用した矢板壁1は、矢板2と型枠3とを備え、矢板2における軸方向Xの下部2aが地盤80に打設されるとともに、矢板2における軸方向Xの上部2bが境界81に設けられる。
【0035】
本発明を適用した矢板壁1は、
図2に示すように、第1実施形態において、ハット形鋼矢板等の溝付鋼矢板21が矢板2として用いられ、平板部33が傾斜して形成された取付板32を備える型枠3が用いられる。
【0036】
本発明を適用した型枠付矢板7は、
図3、
図4に示すように、ハット形鋼矢板の溝付鋼矢板21に、平板部33が傾斜して形成された取付板32を有する型枠3が取り付けられる。
【0037】
溝付鋼矢板21は、
図5に示すように、主として曲げモーメントに抵抗するフランジ22、アーム部24及び継手部25と、主としてせん断力に抵抗するウェブ23とを備える。溝付鋼矢板21は、フランジ22の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるようにして一対のウェブ23が連続して設けられる。溝付鋼矢板21は、各々のウェブ23にフランジ22と略平行の一対のアーム部24が連続して設けられ、各々のアーム部24に一対の継手部25が連続して設けられる。
【0038】
溝付鋼矢板21は、継手部25に嵌合溝25aと係止爪25bとが形成され、一対の継手部25がアーム部24の中心軸線の中央点に対して点対称形状となっている。複数の溝付鋼矢板21は、隣り合う溝付鋼矢板21の一方の継手部25の嵌合溝25aに、他方の継手部25の係止爪25bを嵌合させることで、アーム部24の中心軸線上に並べて設置される。
【0039】
型枠3は、
図6〜
図9に示すように、平板状の正面板31と、正面板31の幅方向Yの両端から延びるように連続して設けられる取付板32とを備える。型枠3は、1枚の平板状の鋼板等を折り曲げ加工することにより、正面板31と取付板32とが設けられる。正面板31は、溝付鋼矢板21のフランジ22と奥行方向Zに所定の間隔を空けて設けられる。取付板32は、正面板31の幅方向Yの両端から溝付鋼矢板21に向けて延びるように連続して設けられる平板状の平板部33が形成される。
【0040】
正面板31は、
図6(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対するフランジ22とは反対側となる前面側で平板状に設けられる。取付板32は、正面板31の幅方向Yの両端から溝付鋼矢板21のアーム部24に向けて、溶接等を用いることなく連続して設けられる。平板部33は、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられ、右側端面33aが溝付鋼矢板21のアーム部24に溶接等によって取り付けられ、左側端面33bが溝付鋼矢板21の継手部25に溶接等によって取り付けられる。型枠3は、
図6(b)に示すように、短い取付板32を備えるものとしてもよい。
【0041】
正面板31は、第1変形例において、
図7(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対するフランジ22とは反対側となる前面側で、溝付鋼矢板21のフランジ22、ウェブ23及びアーム部24と略同一の間隔を空けて設けられる。平板部33は、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられ、右側端面33aが溝付鋼矢板21のアーム部24に溶接等によって取り付けられ、左側端面33bが溝付鋼矢板21の継手部25に溶接等によって取り付けられる。型枠3は、
図7(b)に示すように、短い取付板32を備えるものとしてもよい。
【0042】
正面板31は、第2変形例において、
図8(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対してフランジ22が設けられる背面側で平板状に設けられる。平板部33は、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられ、右側端面33aが溝付鋼矢板21の継手部25に溶接等によって取り付けられ、左側端面33bが溝付鋼矢板21のアーム部24に溶接等によって取り付けられる。型枠3は、
図8(b)に示すように、フランジ22との間隔を狭くした正面板31を備えるものとしてもよい。
【0043】
正面板31は、第3変形例において、
図9(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対してフランジ22が設けられる背面側で、幅広の平板状に設けられる。平板部33は、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられ、右側端面33aが溝付鋼矢板21の継手部25に溶接等によって取り付けられ、左側端面33bが溝付鋼矢板21のアーム部24に溶接等によって取り付けられる。型枠3は、
図9(b)に示すように、一方の取付板32の平板部33を2段階に傾斜させてもよい。
【0044】
正面板31は、第4変形例において、
図10(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対するフランジ22とは反対側となる前面側で、円弧状に設けられてもよい。また、正面板31は、
図10(b)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対してフランジ22が設けられる背面側で、円弧状に設けられてもよい。
【0045】
本発明を適用した矢板壁1は、
図11(a)に示すように、溝付鋼矢板21における軸方向Xの所定範囲Lに型枠3が取り付けられて固定される。この所定範囲Lは、構造設計(計算)や、設置環境(劣化環境、腐食環境、漂砂・流砂環境、漂流物環境等)によって決定される。この所定範囲Lは、例えば、大きな曲げモーメントが作用する部位をカバーする範囲や、溝付鋼矢板21の変位を抑制するのに効果的な範囲に決定される。この所定範囲Lは、標準的な海洋環境において集中腐食が生じるおそれのある干満帯付近をカバーする範囲に決定されてもよい。この所定範囲Lは、例えば、
図11(b)に示すように、波や河川流の影響による洗掘を考慮する場合に、水底の地盤80に対する所定深度までカバーする範囲に決定されてもよい。
【0046】
本発明を適用した矢板壁1は、
図12(a)に示すように、自立式鋼矢板壁において、水底の地盤80から水中82に亘って、溝付鋼矢板21の前面側に型枠3が取り付けられる。また、本発明を適用した矢板壁1は、
図12(b)に示すように、自立式鋼矢板壁と裏埋土83との間で、溝付鋼矢板21の背面側に型枠3が取り付けられてもよい。このとき、水底の地盤80で砂等の動きが激しい場合に、砂等による溝付鋼矢板21の摩耗を背面側で防止することができる。型枠3は、正面板31及び取付板32の何れか一方又は両方の所定範囲Lで、型枠3の表面に所定厚さの鋼板を溶接等の適宜手段で取り付けたり、正面板31及び取付板32の何れか一方又は両方の板厚の一部を、他の部位に比較して部分的に厚くすることができる。これにより、水底の底質(砂、砂礫等)の移動が激しく鋼材の摩耗による減厚が激しい部位の型枠3の板厚を大きくしておくことができ、また、海洋、港湾環境で鋼材の腐食が激しい(集中腐食)部位の型枠3の板厚を予め大きくして、耐腐食性能を向上させることができる。
【0047】
本発明を適用した矢板壁1は、型枠付矢板7の上端部を上部コンクリート84に埋め込むようにしてもよい。このとき、本発明を適用した矢板壁1は、
図12(c)に示すように、水底の地盤80から水中82及び上部コンクリート84まで、溝付鋼矢板21の前面側に型枠3が連続して取り付けられる。本発明を適用した矢板壁1は、
図12(d)に示すように、水底の地盤80から水中82及び上部コンクリート84まで、溝付鋼矢板21の背面側に型枠3が連続して取り付けられてもよい。
【0048】
本発明を適用した矢板壁1は、
図13に示すように、タイロッド式(控え工式)鋼矢板壁に用いられてもよい。このとき、本発明を適用した矢板壁1は、控え工85と溝付鋼矢板21の上端部とが、受梁及び支承板を介在させたタイロッド86で連結される。
【0049】
本発明を適用した矢板壁1は、
図6〜
図9に示すように、溝付鋼矢板21と、型枠3の正面板31と、型枠3の取付板32とによって形成される空間部34を備える。空間部34は、
図14に示すように、硬化性充填材11が充填される。なお、硬化性充填材11は、空間部34の全長に亘って充填される場合と、必要な範囲にのみ充填される場合とがある。硬化性充填材11は、セメント系経時硬化性充填材(セメントミルク、モルタル、コンクリート、レジンモルタル等)、高分子樹脂系充填材(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等)、ソイル系充填材(ソイルセメント等)又は歴性質系充填材(アスファルト等)が用いられる。硬化性充填材11は、ガラス繊維等の繊維や、スチールファイバー等が混入されてもよい。
【0050】
本発明を適用した矢板壁1は、空間部34の上端部を閉塞する上部閉塞板35、及び、空間部34の下端部を閉塞する下部閉塞板36の何れか一方又は両方を備えるものとすることもできる。本発明を適用した矢板壁1は、上部閉塞板35及び下部閉塞板36の何れか一方又は両方を備えることで、型枠付矢板7の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。
【0051】
上部閉塞板35は、
図15に示すように、型枠3及び溝付鋼矢板21の何れか一方又は両方に固定されて設けられる。上部閉塞板35は、溝付鋼矢板21の表面から型枠3の上端に架設され、型枠付矢板7を打設する前に、又は型枠付矢板7を打設した後速やかに設置される。
【0052】
上部閉塞板35は、
図15(a)に示すように、上部閉塞板35の上面35aと、溝付鋼矢板21の表面とを溶接し、上部閉塞板35の下面35bと、型枠3の外面とを溶接することによって固定される。上部閉塞板35は、
図15(b)に示すように、上部閉塞板35の上面35aと、溝付鋼矢板21の表面とを溶接し、上部閉塞板35の端面と、型枠3の上端面とを溶接することによって固定されてもよい。上部閉塞板35は、
図15(c)に示すように、上部閉塞板35の上面35aと、溝付鋼矢板21の表面及び型枠3の内面とを溶接することによって固定されてもよい。上部閉塞板35は、
図15(d)に示すように、上部閉塞板35の上面35a及び下面35bに接続金具37を取り付けるとともに、溝付鋼矢板21の表面及び型枠3の外面に接続金具37を取り付けて、これらの接続金具37をボルトナットで連結させることで、機械的に固定されてもよい。
【0053】
上部閉塞板35は、溝付鋼矢板21の表面と型枠3の上端とに溶接によって固定される場合に、幅方向Yに連続させて溶接されてもよいし、断続的に溶接されてもよい。上部閉塞板35は、断続的に溶接された場合に、溶接されていない箇所にコーキング等の止水手段を施し、連続させて溶接された場合に比べて、溶接に必要となる費用、手間を軽減させることができる。上部閉塞板35は、機械的に固定した場合にも、上部閉塞板35と、溝付鋼矢板21の表面及び型枠3の上端との間に、コーキング等の止水手段を施すことができる。
【0054】
上部閉塞板35は、
図16に示すように、硬化性充填材11を充填するための充填孔35cと、硬化性充填材11を充填するときの空気抜き及び水抜きとして用いられる空気孔35dとが溶断等の手段で形成される。充填孔35c及び空気孔35dは、型枠付矢板7を打設する前に設けられ、
図17(a)に示すように、硬化性充填材11の充填作業を開始するまで蓋35eが設置される。充填孔35c及び空気孔35dは、型枠付矢板7を打設した後で、硬化性充填材11の充填作業を開始するときに溶断等の手段で形成されてもよい。充填孔35c及び空気孔35dは、
図17(b)に示すように、外面がネジ切りされた短管35fが設けられ、硬化性充填材11の充填作業を開始するまで袋ナット35gが取り付けられてもよい。
【0055】
下部閉塞板36は、
図14(b)に示すように、溝付鋼矢板21及び型枠3の何れか一方又は両方に固定されて設けられる。なお、下部閉塞板36は、溝付鋼矢板21に対して水平方向で突出しているため、型枠3を地盤80の中に位置するまで打設する場合には、型枠付矢板7の打設抵抗が大きくなるおそれがある。このとき、下部閉塞板36は、
図18(a)に示すように、下部閉塞板36の先端から溝付鋼矢板21に向けて傾斜する傾斜板36aを溶接等によって固定して設けることで、打設抵抗を低減させることができる。なお、下部閉塞板36は、
図18(b)に示すように、傾斜板36aを下部閉塞板36として用いることもできる。
【0056】
型枠付矢板7は、
図19に示すように、空間部34における溝付鋼矢板21の表面及び型枠3の内面に、全ネジボルト等のジベル71が上下方向及び左右方向に間隔をおいて設けられてもよい。型枠付矢板7は、必要に応じて溶接金網等のメッシュ材72や鉄筋73等をジベル71に固定させてもよい。型枠付矢板7は、
図20に示すように、空間部34における溝付鋼矢板21の表面及び型枠3の内面に、全ネジボルト等の基端部を溶接等によって固定してナットを締結したジベル71が設けられてもよい。
【0057】
型枠付矢板7は、
図21に示すように、溝付鋼矢板21のフランジ22にスリット22aを形成するとともに、型枠3の内面でスリット22aに対応した箇所に、長方形等の係止用鋼板22bの基端部を溶接等の手段で固定して、係止用鋼板22bの先端部をスリット22aに挿通させて溶接等の手段により固定させてもよい。型枠付矢板7は、これに限らず、型枠3の正面板31にスリット22aを形成するとともに、溝付鋼矢板21のフランジ22でスリット22aに対応した箇所に、係止用鋼板22bの基端部を溶接等の手段で固定させてもよい。このとき、型枠付矢板7は、
図14に示す型枠3における平板部33の右側端面33a及び左側端面33bの溶接箇所が損耗した場合であっても、型枠3が溝付鋼矢板21から脱離することを防止することができ、溝付鋼矢板21に対する正面板31の位置を保持することができる。係止用鋼板22bは、中間部に凹部又は孔部22cを設けておくこともでき、ジベル71としての機能を発揮させることもできる。なお、型枠付矢板7は、
図22に示すように、スリット22aの代わりに孔部22cを形成して、係止用鋼板22bの代わりに棒状部材22dを孔部22cに挿通させて、ナットによる締結や溶接等の手段により棒状部材22dを固定させることもできる。
【0058】
型枠付矢板7は、
図23に示すように、溝付鋼矢板21と型枠3の間に鋼板等の間隔保持材74を介在させて溶接等の適宜手段で連結することにより、溝付鋼矢板21と正面板31との間隔を保持するようにしてもよい。間隔保持材74は、
図24(a)に示すように、溝付鋼矢板21の表面と型枠3の外面とに溶接により固定してもよく、また、
図24(b)に示すように、型枠3の外面及び内面の少なくとも一部に固定させずに、溝付鋼矢板21の表面に溶接により固定することもできる。間隔保持材74は、型枠付矢板7の打設完了後、全部または一部を溶断などにより撤去してもよく、また、上部コンクリート84(笠コンクリート)に埋設される箇所において、凹部または孔部22cを設けるとジベル効果を発揮して、型枠3及び溝付鋼矢板21と上部コンクリート84(笠コンクリート)との密着性・一体性を向上させることができる。型枠付矢板7には打設されるときに溝付鋼矢板21と型枠3とを相互にずらすような力や型枠3をばたつかすような力が作用することがあり、溶接箇所に不測の応力が発生して亀裂が生じるおそれがあるが、間隔保持材74が設けられることによって、溝付鋼矢板21と型枠3とのずれ止め防止やバタツキ防止の効果を得ることができる。なお、間隔保持材74に開孔を設けると、吊り金具の役目を果たすことができる。
【0059】
硬化性充填材11は、
図25(a)に示すように、上部閉塞板35の充填孔35cからホース等の充填管35hで空間部34に注入されて、空間部34に充填されて硬化することになる。硬化性充填材11は、
図25(b)に示すように、上部閉塞板35の充填孔35c及び空気孔35dの何れか一方又は両方に鉄筋73等のフック付の棒状補強部材75が挿通されてもよく、このとき、硬化性充填材11は、フック付の棒状補強部材75が内部に配設された状態で硬化するものとなる。フック付の棒状補強部材75は、
図25(c)に示すように、硬化性充填材11から上部コンクリート84の内部まで跨るように配設されることで、型枠付矢板7と上部コンクリート84の一体性・密着性を向上させることが可能となる。
【0060】
取付板32は、
図26(a)に示すように、内側に向けた溝部32aが形成されてもよい。取付板32は、
図26(b)に示すように、外側に向けて突出させた突起部32bが形成されてもよい。また、取付板32は、
図26(c)に示すように、スタッドボルト32cを設けることもできる。このとき、型枠3は、海中に長期間設置されることで、
図26(d)に示すように、取付板32にフジツボ等の海洋生物87を付着しやすくするとともに、取付板32からフジツボ等の海洋生物87が脱落することを防止することができる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、
図27に示すように、取付板32近傍の継手部25がフジツボ等の海洋生物87で保護されて、流砂・漂砂・浮遊砂や漂流物の接触・衝突による継手部25の損耗を回避することが可能となる。
【0061】
本発明を適用した矢板壁1は、
図27に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24又は継手部25が平板部33の内側に奥まっており、また、アーム部24又は継手部25の露出部分が格段に少なくなっているため、流砂・漂砂・浮遊砂や漂流物の接触・衝突によるアーム部24又は継手部25の損耗を防止することが可能となる。溝付鋼矢板21は、有機溶剤等で被覆されることによって防食層12を形成することができ、さらに、型枠3は、正面板31の前面側が有機溶剤等で被覆されることによって防食層12が形成されたものとすることもできる。
【0062】
防食層12は、溝付鋼矢板21の表面、裏面の何れか一方又は両方に有機ライニング(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等)を施すことによって形成することができ、また、正面板31の海側の側壁面や取付板32の海側の表面に有機ライニング(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等)を施すことによって形成することもできる。さらに、防食層12は、空間部34の内面を構成する各面に有機ライニング(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等)を施すことによって形成することもできる。また、防食層12は、有機ライニングに代えて、ステンレスやチタンなどの金属ライニングを施しても良い。その際、型枠付矢板7と前記金属ライニングとの接続部及びその近傍には異種金属接触腐食を防止するための措置(塗装等)を施すことが望ましい。
【0063】
本発明を適用した矢板壁1は、取付板32が正面板31の幅方向Yの両端から溶接等を用いることなく連続して設けられるため、取付板32と正面板31とが脱離することを防止することが可能となる。本発明を適用した矢板壁1は、平板部33の右側端面33aが溝付鋼矢板21のアーム部24に溶接等によって取り付けられるとともに、平板部33の左側端面33bが溝付鋼矢板21の継手部25に溶接等によって取り付けられる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、各々の平板部33において溶接箇所を1箇所とすることができ、溶接作業に必要となる手間やコストを削減することが可能となる。
【0064】
本発明を適用した矢板壁1は、
図6〜
図10に示すように、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して平板部33が設けられるため、
図27に示すように、隣り合う型枠付矢板7における各々の平板部33が相互に離間されて空隙Gが形成される。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、この空隙Gにおいて、平板部33と溝付鋼矢板21のアーム部24又は継手部25との現位置における補修溶接作業を容易にすることができ、溶接作業に必要となる手間やコストを削減することが可能となる。
【0065】
本発明を適用した矢板壁1は、溝付鋼矢板21に型枠3が取り付けられることで、溝付鋼矢板21の腐食や磨耗を型枠3によって広い範囲で防止することが可能となるとともに、型枠付矢板7の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、空間部34に硬化性充填材11が充填されていなくても、全体として腐食や磨耗を防止することが可能となるとともに、曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。本発明を適用した矢板壁1は、さらに、空間部34に硬化性充填材11が充填されることで、より全体として腐食や磨耗を防止することが可能となるとともに、より曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。
【0066】
本発明を適用した矢板壁1は、
図6に示すように、溝付鋼矢板21のフランジ22とは反対側に正面板31を設けると、壁厚寸法を大きくすることができ、曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となるとともに、硬化性充填材11による耐腐食性能を向上させることが可能となる。
【0067】
本発明を適用した矢板壁1は、
図15に示すように、空間部34の上端部を閉塞する上部閉塞板35を備えるものとすることで、型枠付矢板7を打設した後、硬化性充填材11を充填するまでの間に、荒天等によって波が荒くなった場合であっても、海底の底質の砂や漂流物等が空間部34の上端部から侵入することを防止することができる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、空間部34に硬化性充填材11を充填するときに、空間部34に砂や漂流物等が堆積しないため、砂や漂流物等を空間部34から除去することを必要とせず、この除去作業が必要としないことで工期を短縮して、施工コストの増大を抑制することが可能となる。本発明を適用した矢板壁1は、型枠3及び溝付鋼矢板21の何れか一方又は両方に固定されて設けられることで、型枠付矢板7の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。
【0068】
本発明を適用した矢板壁1は、さらに、下記(1)〜(6)のような効果を発揮することもできるものである。
(1)溝付鋼矢板21に鋼製の型枠3が設けられるので、溝付鋼矢板21における集中腐食部位を型枠3によって防護することができ、溝付鋼矢板21の集中腐食を回避することが可能となる。
(2)鋼製の型枠3が使用されるので、流木や氷盤が衝突しても機械的損傷を受けづらい。
(3)工場等であらかじめ溝付鋼矢板21に型枠3を取り付けることができるので、安価な型枠付矢板7とすることが可能となる。
(4)型枠3で集中腐食部位の腐食が進行した場合には、当該部位を覆うように鋼板を溶接するだけで、容易に型枠3としての機能を回復させることが可能となる。
(5)空間部34に硬化性充填材11が充填されている形態では、鋼矢板壁の点検作業時において、型枠3における集中腐食の進行を見逃して型枠3に貫通孔が生じても、セメント硬化体等の硬化性充填材11が溝付鋼矢板21を保護することが可能となる。
【0069】
次に、本発明を適用した矢板壁1の第2実施形態について説明する。なお、上述した構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0070】
本発明を適用した矢板壁1は、
図28に示すように、第2実施形態において、ハット形鋼矢板等の溝付鋼矢板21が矢板2として用いられ、平板部33が形成された取付板32を備える型枠3が用いられる。
【0071】
正面板31は、
図28(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対するフランジ22とは反対側となる前面側で平板状に設けられる。取付板32は、正面板31の幅方向Yの両端から溝付鋼矢板21のアーム部24に向けて、溶接等を用いることなく連続して設けられる。平板部33は、正面板31の幅方向Yの両端から溝付鋼矢板21のアーム部24又は継手部25に対して略垂直に溶接等によって取り付けられる。型枠3は、
図28(b)に示すように、短い取付板32を備えるものとしてもよい。
【0072】
正面板31は、第1変形例において、
図29(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対するフランジ22とは反対側となる前面側で、溝付鋼矢板21のフランジ22、ウェブ23及びアーム部24と略同一の間隔を空けて設けられる。平板部33は、正面板31の幅方向Yの両端から溝付鋼矢板21のアーム部24又は継手部25に対して略垂直に溶接等によって取り付けられる。型枠3は、
図29(b)に示すように、短い取付板32を備えるものとしてもよい。
【0073】
正面板31は、第2変形例において、
図30(a)に示すように、溝付鋼矢板21のアーム部24に対してフランジ22が設けられる背面側で平板状に設けられる。平板部33は、正面板31の幅方向Yの両端から溝付鋼矢板21のアーム部24又は継手部25に対して略垂直に溶接等によって取り付けられる。型枠3は、
図30(b)に示すように、短い取付板32を備えるものとしてもよい。また、型枠3は、
図30(c)に示すように、一方の取付板32の平板部33を他方の取付板32の平板部33よりも長くさせてもよい。
【0074】
本発明を適用した矢板壁1は、第2実施形態においても、取付板32が正面板31の幅方向Yの両端から溶接等を用いることなく連続して設けられるため、取付板32と正面板31とが脱離することを防止することが可能となる。本発明を適用した矢板壁1は、平板部33の右側端面33aが溝付鋼矢板21のアーム部24に溶接等によって取り付けられるとともに、平板部33の左側端面33bが溝付鋼矢板21の継手部25に溶接等によって取り付けられる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、各々の平板部33において溶接箇所を1箇所とすることができ、溶接作業に必要となる手間やコストを削減することが可能となる。
【0075】
本発明を適用した矢板壁1は、第2実施形態においても、溝付鋼矢板21に型枠3が取り付けられることで、溝付鋼矢板21の腐食や磨耗を型枠3によって広い範囲で防止することが可能となるとともに、型枠付矢板7の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、空間部34に硬化性充填材11が充填されていなくても、全体として腐食や磨耗を防止することが可能となるとともに、曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。本発明を適用した矢板壁1は、
図25に示すように、さらに、空間部34に硬化性充填材11が充填されることで、より全体として腐食や磨耗を防止することが可能となるとともに、より曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。
【0076】
次に、本発明を適用した矢板壁1の第3実施形態について説明する。なお、上述した構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0077】
本発明を適用した矢板壁1は、
図31に示すように、第3実施形態において、鋼管矢板4が矢板2として用いられるとともに、平板部33が湾曲されて形成された取付板32を備える型枠3が用いられる。
【0078】
鋼管矢板4は、
図32(a)に示すように、鋼管の本体部41と、本体部41の幅方向Yの両側に設けられるパイプ継手部42とを備える。型枠3は、鋼管の本体部41と略同一の間隔を空けて、正面板31が取付板32と一体的に設けられる。取付板32は、正面板31の幅方向Yの両端から鋼管矢板4のパイプ継手部42に向けて延びるように連続して設けられる平板部33が湾曲して形成される。平板部33は、鋼管矢板4のパイプ継手部42の外面に端面が溶接等によって取り付けられる。パイプ継手部42は、
図32(b)に示すように、軸方向Xに延びるようにパイプスリット42aが形成され、隣り合う鋼管矢板4においてパイプ継手部42を相互に嵌合させることで、複数の鋼管矢板4が並べて設置される。
【0079】
このとき、型枠3は、第1変形例において、
図33(a)に示すように、幅広の平板状に正面板31が設けられるとともに、アーム部24又は継手部25に対して平板部33が略垂直に設けられてもよい。平板部33は、
図33(b)に示すように、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられてもよい。
【0080】
鋼管矢板4は、第2変形例において、
図34(a)に示すように、鋼管の本体部41と、本体部41の幅方向Yの両側に設けられるパイプ継手部42及びT形継手部43とを備える。型枠3は、鋼管の本体部41と略同一の間隔を空けて、正面板31が取付板32と一体的に設けられる。取付板32は、正面板31の幅方向Yの両端から鋼管矢板4のパイプ継手部42及びT形継手部43に向けて延びるように連続して設けられる平板部33が湾曲して形成される。平板部33は、鋼管矢板4のパイプ継手部42の外面及びT形継手部43に端面が溶接等によって取り付けられる。パイプ継手部42は、
図34(b)に示すように、軸方向Xに延びるようにパイプスリット42aが形成され、隣り合う鋼管矢板4のT形継手部43をパイプ継手部42に嵌合させることで、複数の鋼管矢板4が並べて設置される。
【0081】
このとき、型枠3は、第3変形例において、
図35(a)に示すように、幅広の平板状に正面板31が設けられるとともに、アーム部24又は継手部25に対して平板部33が略垂直に設けられてもよい。平板部33は、
図35(b)に示すように、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられてもよい。
【0082】
鋼管矢板4は、第4変形例において、
図36(a)に示すように、鋼管の本体部41と、本体部41の幅方向Yの両側に設けられる矩形継手部44及びT形継手部43とを備える。型枠3は、鋼管の本体部41と略同一の間隔を空けて、正面板31が取付板32と一体的に設けられる。取付板32は、正面板31の幅方向Yの両端から鋼管矢板4の矩形継手部44及びT形継手部43に向けて延びるように連続して設けられる平板部33が湾曲して形成される。平板部33は、鋼管矢板4の矩形継手部44の外面及びT形継手部43に端面が溶接等によって取り付けられる。矩形継手部44は、
図36(b)に示すように、軸方向Xに延びるように矩形継手スリット44aが形成され、隣り合う鋼管矢板4のT形継手部43を矩形継手部44に嵌合させることで、複数の鋼管矢板4が並べて設置される。
【0083】
このとき、型枠3は、第5変形例において、
図37(a)に示すように、幅広の平板状に正面板31が設けられるとともに、アーム部24又は継手部25に対して平板部33が略垂直に設けられてもよい。平板部33は、
図37(b)に示すように、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられてもよい。
【0084】
鋼管矢板4は、第6変形例において、
図38(a)に示すように、鋼管の本体部41と、本体部41の幅方向Yの両側に設けられる矩形継手部44及び一対のL形継手部45とを備える。型枠3は、鋼管の本体部41と略同一の間隔を空けて、正面板31が取付板32と一体的に設けられる。取付板32は、正面板31の幅方向Yの両端から鋼管矢板4の矩形継手部44及びL形継手部45に向けて延びるように連続して設けられる平板部33が湾曲して形成される。平板部33は、鋼管矢板4の矩形継手部44の外面及びL形継手部45に溶接等によって端面が取り付けられる。矩形継手部44及び一対のL形継手部45は、
図38(b)に示すように、幅を狭くしたものを用いてもよい。矩形継手部44は、
図38(c)に示すように、軸方向Xに延びるように矩形継手スリット44aが形成され、隣り合う鋼管矢板4のL形継手部45を矩形継手部44に嵌合させることで、複数の鋼管矢板4が並べて設置される。
【0085】
このとき、型枠3は、第7変形例において、
図39(a)に示すように、幅広の平板状に正面板31が設けられるとともに、アーム部24又は継手部25に対して平板部33が略垂直に設けられてもよい。平板部33は、
図39(b)に示すように、正面板31の幅方向Yの両端から外側に向けて拡がるように傾斜して設けられてもよい。
【0086】
本発明を適用した矢板壁1は、
図31に示すように、第3実施形態においても、取付板32が正面板31の幅方向Yの両端から溶接等を用いることなく連続して設けられるため、取付板32と正面板31とが脱離することを防止することが可能となる。本発明を適用した矢板壁1は、平板部33の端面が鋼管矢板4のパイプ継手部42等に溶接等によって取り付けられる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、各々の平板部33において溶接箇所を1箇所とすることができ、溶接作業に必要となる手間やコストを削減することが可能となる。
【0087】
本発明を適用した矢板壁1は、正面板31の幅方向Yの両端から湾曲させて平板部33が設けられるため、隣り合う型枠付矢板7における各々の平板部33が相互に離間されて空隙Gが形成される。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、この空隙Gにおいて、平板部33と鋼管矢板4のパイプ継手部42等との溶接作業を容易にすることができ、溶接作業に必要となる手間やコストを削減することが可能となる。
【0088】
本発明を適用した矢板壁1は、第3実施形態においても、鋼管矢板4に型枠3が取り付けられることで、鋼管矢板4の腐食や磨耗を型枠3によって広い範囲で防止することが可能となるとともに、型枠付矢板7の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、空間部34に硬化性充填材11が充填されていなくても、全体として腐食や磨耗を防止することが可能となるとともに、曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。本発明を適用した矢板壁1は、さらに、空間部34に硬化性充填材11が充填されることで、より全体として腐食や磨耗を防止することが可能となるとともに、より曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることが可能となる。
【0089】
本発明を適用した矢板壁1の構築方法は、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態の何れにおいても、
図11に示すように、型枠付矢板7を水底の地盤80に打設するとともに、隣り合う
図2に示す溝付鋼矢板21の継手部25、又は、
図31に示す鋼管矢板4のパイプ継手部42、T形継手部43、矩形継手部44及び一対のL形継手部45を相互を噛み合わせて打設して、前面側と背面側とを隔てる境界81に設けられる矢板壁1に構築するものである。
【0090】
本発明を適用した矢板壁1の構築方法は、矢板2と、型枠3の正面板31と、型枠3の取付板32とによって形成される空間部34に、硬化性充填材11が充填されていない状態の型枠付矢板7を工場等で製作し、
図11に示すように、溝付鋼矢板21又は鋼管矢板4の矢板2における軸方向Xの下部2aを地盤80に打設するとともに、軸方向Xの上部2bを境界81に設ける第1工程と、この第1工程の後に、
図25に示すように、型枠付矢板7の空間部34に、硬化性充填材11を充填する第2工程とを備えるものである。
【0091】
本発明を適用した矢板壁1の構築方法は、これに限らず、型枠付矢板7を工場等で製作するときに、
図25に示すように、空間部34に硬化性充填材11を充填する第1工程と、この第1工程の後に、
図11に示すように、溝付鋼矢板21又は鋼管矢板4の矢板2における軸方向Xの下部2aを地盤80に打設するとともに、軸方向Xの上部2bを境界81に設ける第2工程とを備えるものとすることもできる。
【0092】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、上述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0093】
例えば、本発明を適用した矢板壁1は、本発明を適用した型枠付矢板7のみを用いて構築されてもよく、また、本発明を適用した型枠付矢板7と、型枠3が設けられていない溝付鋼矢板21又は鋼管矢板4の矢板2とを組み合わせて構築されるものであってもよい。
【0094】
なお、本発明を適用した矢板壁1は、型枠付矢板7の打設前に工場や陸上ヤードなどであらかじめ矢板2に溶接等の手段で型枠3を固定するものであり、既設の鋼矢板壁に対して型枠3を後付けで固定するものではなく、既に型枠3が固定された型枠付矢板7を打設して新設の鋼矢板壁を構築することができる。これにより、本発明を適用した矢板壁1は、地盤80に打設されて新設の鋼矢板壁を構築し、その後、現位置で空間部34に硬化性充填材11を充填し・硬化させるだけなので、波浪の影響も受けづらく、工事期間が短く、経済性の高い型枠3付きの鋼矢板壁を提供できるものとなる。
【0095】
一般的に、異形鋼矢板等の製作の際に、鋼矢板に鋼材を溶接すると、熱影響で鋼矢板が変形することになり、この変形を矯正するために多くの手間とコストと時間とを要しており、この熱影響による鋼矢板の変形を極力少なくするために、厚めの鋼片を変形抑止治具として異形鋼矢板構成部材(鋼矢板、鋼矢板片、鋼板)に取り付け、加工終了後に、この鋼片を切断撤去するという方法が、従来より採用されていた。しかしながら、本発明を適用した型枠付矢板7は、型枠3に使用する鋼部材が変形抑止治具の役割を果たすため、溶接熱の影響による矢板2の変形は極めて少なく、また、型枠3を切断撤去する必要もないので、極めて合理的に製作することを可能とするものとなる。