(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が前記表面電位値と同一以上である電圧が前記転写部材に印加されるときに、当該転写部材に流れる電流を前記先端電流として設定する請求項1に記載の画像形成装置。
前記制御部は、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値において前記表面電位値に対する割合が0.9以上である電圧が前記転写部材に印加されるときに、当該転写部材に流れる電流を前記先端電流として設定する請求項1に記載の画像形成装置。
前記制御部は、前記記録用紙の搬送方向先端部が前記転写ニップ部を通過し始めてから通過し終わるまでの間、前記転写部材に前記先端電流が流れるように前記電圧印加部を制御する請求項1〜3の何れか1項に記載の画像形成装置。
前記制御部は、前記転写ニップ部に前記記録用紙が介在しない状態において、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が前記表面電位値と略同一以上である電圧が前記転写部材に印加されるときに、当該転写部材に流れる電流を前記先端電流として設定する請求項1〜4の何れか1項に記載の画像形成装置。
【背景技術】
【0002】
近年、ベルト転写方式の画像形成装置が知られている。ベルト転写方式では、感光ドラムと接触するように転写ベルトを走行させ、感光体ドラム上に形成したトナー像と同期して記録用紙を搬送する。転写ベルトにトナーの帯電極性とは逆極性(転写極性)の転写電圧を印加し、静電引力により感光体ドラム上のトナー像を記録紙側に転写させる。
【0003】
しかし、ベルト転写方式には次の問題があった。すなわち、転写ベルトが高湿環境下に長時間放置された場合、転写ベルトは空気中の水分を吸収して、その電気抵抗が低くなる。
図7は、高湿環境(30[℃]、80[%])下での放置時間による転写ベルトの表面抵抗変化を示すグラフである。曲線L0は新品の転写ベルトの表面抵抗変化を示し、曲線L1は200万枚数プリント後の転写ベルトの表面抵抗変化を示す。何れの転写ベルトにおいても高湿環境下での放置時間が長くなるにつれて抵抗値が低下している。
【0004】
転写ベルトの表面抵抗が低下すると、記録用紙先端部の転写電荷が拡散するために、転写ベルトと記録用紙先端部との間の吸着力が弱くなり、感光体ドラムからの記録用紙の分離性能が大きく低下してしまう。また、転写ベルトの使用履歴(例えば、画像形成装置における総プリント枚数)が増大すると、転写ベルトの内周面に放電生成物等が形成されて当該転写ベルトは吸湿しやすくなるため、記録用紙の分離性能が低下する現象は悪化する傾向にある。
【0005】
さらに言えば、湿度環境、転写ベルトの放置時間、転写ベルトの使用履歴、およびプリント開始からの出力数等、多くのパラメーターによって、転写ベルトや感光体ドラムの抵抗値、および記録用紙先端部に作用する転写電界は様々に変化する。そのため、高湿環境下における感光体ドラムからの記録用紙の分離性能を制御することは困難である。
【0006】
図8は、高湿環境(30[℃]、80[%])下での放置時間による分離不良発生率(「分離ジャム発生率」とも言う)の変化を示すグラフである。曲線L2は新品の転写ベルトを使用した場合の分離不良発生率の変化を示し、曲線L3は200万枚数プリント後の転写ベルトを使用した場合の分離不良発生率の変化を示す。何れの転写ベルトを使用した場合においても高湿環境下での放置時間が長くなるにつれて分離不良発生率が増大している。
【0007】
特許文献1には、転写搬送手段(転写ベルト)の抵抗値に応じて、先端転写電流の切り替えのタイミングと紙間転写電流値とを切り替える制御を行うことによって、感光体からの転写紙の分離性を向上させる技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、転写ベルトの抵抗値が低ければ、先端転写電流の切り替えのタイミングを遅らせるとともに紙間転写電流値を小さくする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
[画像形成装置100の構成]
図1に示す画像形成装置100は、電子写真プロセスにより記録用紙に画像を形成する。
図1に示すように、画像形成装置100は、原稿読み取り部110、操作表示部120、画像処理部130、画像書き込み部135、画像形成部140、搬送部150、定着部160、通信部171、記憶部172、電圧印加部180、表面電位検出部190および制御部200を備えている。なお、バックアップローラー63、電圧印加部180および電流計192については後述する。
【0016】
制御部200は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203等を備えている。CPU201は、ROM202から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM203に展開し、展開したプログラムと協働して画像形成装置100の各ブロックの動作を制御する。このとき、記憶部172に格納されている各種データが参照される。記憶部172は、例えば不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)やハードディスクドライブで構成される。
【0017】
制御部200は、通信部171を介して、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の通信ネットワークに接続された外部装置(例えば、パーソナルコンピューター)との間で各種データの送受信を行う。制御部200は、例えば、外部装置から送信された画像データを受信し、当該受信した画像データに基づいて記録用紙に画像を形成させる。通信部171は、例えばLANカード等の通信制御カードで構成される。
【0018】
原稿読み取り部110は、コンタクトガラス上に搬送された原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサーの受光面上に結像させ、原稿を読み取る。なお、コンタクトガラス上への原稿の搬送は、自動原稿給紙装置(ADF)により行われるが、手作業で原稿をコンタクトガラス上に載置する場合もある。
【0019】
操作表示部120は、タッチパネル式の画面を有する。ユーザーが行う各種の指示および設定のための入力操作は、タッチパネル式の画面を介して行うことができる。これらの指示および設定の情報は、ジョブ情報として制御部200により扱われる。ジョブ情報としては例えば、用紙サイズ、プリント枚数等がある。
【0020】
画像処理部130は、アナログディジタル(A/D)変換処理を行う回路およびディジタル画像処理を行う回路を含む。画像処理部130は、原稿読み取り部110のCCDセンサーにより取得されたアナログ画像信号から、A/D変換処理によりディジタル画像データを生成して画像書き込み部135に出力する。
【0021】
画像書き込み部135は、画像処理部130により生成されたディジタル画像データに基づいてレーザー光を発光し、当該発光したレーザー光を、画像形成部140の感光体ドラムに照射することにより、感光体ドラム上に静電潜像を形成する(露光工程)。
【0022】
画像形成部140は、上記の露光工程に加え、露光工程前に行われる帯電工程、露光工程後に行われる現像工程、現像工程後の転写工程および転写工程後のクリーニング工程をそれぞれ実行するための構成を備えている。帯電工程では、画像形成部140は、帯電装置からのコロナ放電により、感光体ドラムの表面を一様に帯電させる。現像工程では、画像形成部140は、現像装置内の現像剤に含まれるトナーを感光体ドラム上の静電潜像に付着させることにより、感光体ドラム上にトナー像を形成する。
【0023】
転写工程では、画像形成部140は、電圧印加部180から転写電圧が印加されることにより、感光体ドラム上のトナー像を、搬送部150により搬送された記録用紙に転写する。クリーニング工程では、画像形成部140は、ブラシ等のクリーニング装置を感光体ドラムに接触させることにより、転写工程後の感光体ドラムに残留しているトナーを除去する。
【0024】
定着部160は、定着ローラーおよび加圧ローラーを備える。加圧ローラーは、定着ローラーと圧接した状態で配置されている。定着ローラーと加圧ローラーとの圧接部には定着ニップ部が形成されている。定着部160は、定着ニップ部に導入された記録用紙上のトナー像に熱および圧力を加えること(加熱定着)により、トナー像を記録用紙に定着させる(定着工程)。この結果、記録用紙上には定着トナー像が形成される。定着部160により加熱定着された記録用紙は、画像形成装置100の外部に排出される。
【0025】
表面電位検出部190は、例えば表面電位センサーであり、感光体ドラム1の近傍に配置されている。表面電位検出部190は、帯電装置からのコロナ放電により帯電させられた感光体ドラム1の表面上の電位値(表面電位値)を非接触で検出し、その検出信号を制御部200に出力する。
【0026】
次に、
図2を参照し、画像形成部140付近の具体的な構成について説明する。
図2において、1は像担持体として機能する感光体ドラムであり、この感光体ドラム1の回転方向(矢印方向)に沿って、帯電部として機能する帯電装置2、画像書き込み部135、現像装置4、表面電位検出部190、記録用紙Pを転写領域に導く転写搬送路5、感光体ドラム1上に形成されたトナー像を記録用紙Pに転写する転写ベルト6(転写部材)、感光体ドラム1に残留しているトナーを除去するクリーニング装置7が設けられている。また、転写ベルト6の記録用紙搬送方向の下流には、定着部160が設けられ、記録用紙Pのトナー像を定着する。
【0027】
転写ベルト6には、厚さ0.5[mm]のクロロプレーンゴム等により構成される基材の表面に、コート層として厚さ3[μm]のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を施したものが用いられる。転写ベルト6は、所定の環境(温度:20[℃]、相対湿度:50[%]、電圧印加:500[V])下において、体積抵抗率が9.5[log(=10
9.5)Ω・cm]で、表面抵抗率が10.5[log(=10
10.5)Ω/□]である。
【0028】
転写ベルト6は、従動ローラー61、駆動ローラー62および他のローラーの間に張架され、感光体ドラム1の下方で、転写ベルト6の表面が感光体ドラム1の外周面の一部と接触するように配置されている。すなわち、転写ベルト6と感光体ドラム1との間において、転写領域としての転写ニップ部NPが形成される。記録用紙Pは、転写ニップ部NPにおいて転写ベルト6により感光体ドラム1に押圧されながら搬送される。
【0029】
感光体ドラム1の外周面の一部と接触する転写ベルト6の内側には、転写ベルト6に対して転写電圧を印加可能なバックアップローラー63が配置されている。バックアップローラー63には、転写ベルト6に転写電圧を印加する電源としての電圧印加部180が接続される。制御部200は、一定の電流がバックアップローラー63から電圧印加部180に流れるように、電圧印加部180が印加すべき電圧を制御する。より詳細には、制御部200は、電圧印加部180とバックアップローラー63との間を流れる電流を電流計192にて検知し、この検知電流に基づいて電圧印加部180を制御する。転写ベルト6に正極性の転写電圧が印加されることによって、感光体ドラム1に接触中の記録用紙Pに、感光体ドラム1上の負極性のトナー像が転写される。制御部200は、記録用紙Pが転写ニップ部NPを通過する際、電圧印加部180を制御することによって、転写ベルト6に印加される電圧の値を切り替える。
【0030】
記録用紙Pは、給紙カセット9に収納されており、給紙搬送路90を通って転写搬送路5に供給される。定着部160の下流には、ゲート91が設けられ、外部に記録用紙Pを排出する場合と両面プリントのための両面搬送路92に記録用紙Pを給送する場合とで切り替えを行っている。両面搬送路92に入った記録用紙Pは、一旦、反転搬送路93に進み、ここで反転されて再給紙搬送路94から転写搬送路5に合流する。
【0031】
次に、記録用紙Pが転写ニップ部NPを通過する際、転写ベルト6に印加される電圧の値を切り替える動作について
図3(a)を参照しながら説明する。
【0032】
制御部200は、記録用紙Pにトナー像が形成される前に、転写極性と逆極性(負極性)であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位と同一以上である電圧(以下、「先端電圧」と言う)が電圧印加部180により転写ベルト6に印加されるときに、当該転写ベルト6に流れる電流を先端電流として設定する。そして、制御部200は、
図3(a)に示すように、点線で示される記録用紙Pのうち非画像領域である先端部(A〜B)の近傍が転写ニップ部NPを通過する際、設定された先端電流が転写ベルト6に流れるように電圧印加部180を制御する。すなわち、制御部200は、電圧印加部180を制御し、絶対値が感光体ドラム1の表面電位と同一以上である先端電圧を転写部材ベルト6に印加させる。
【0033】
これにより、記録用紙P(誘電体)の先端部に誘電分極が発生し、記録用紙Pのうち転写ベルト6に対向する側に正極性の電荷が偏り、感光体ドラム1に対向する側に負極性の電荷が偏る。よって、記録用紙Pの先端部のうち転写ベルト6に対向する側(正極性)と転写ベルト6(負極性)とは静電的に引き合いやすくなる一方、感光体ドラム1に対向する側(負極性)と感光体ドラム1(負極性)とは静電的に反発しやすくなる。その結果として、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が強くなり、記録用紙Pの先端部における感光体ドラム1からの分離性能を向上させることができる。
【0034】
ところで、転写ベルト6が所定の絶対湿度(例えば、1500[g/m
3])以上の環境に所定時間(例えば、5時間)以上放置された場合、転写ベルト6は空気中の水分を吸収してその電気抵抗が低くなり、小さな電圧の印加によって転写ベルト6に多量の電流が流れやすくなる。この場合、
図3(b)に示すように、記録用紙Pの先端部(A〜B)の近傍が転写ニップ部NPを通過する際、予め設定された先端電流が転写ベルト6に流れるように電圧印加部180を制御すると、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位と同一未満である電圧が転写ベルト6に印加される状況となる。この状況でも記録用紙Pの先端部に誘電分極が発生するが、
図3(a)とは異なり、記録用紙Pのうち転写ベルト6に対向する側に負極性の電荷が偏り、感光体ドラム1に対向する側に正極性の電荷が偏る。よって、記録用紙Pの先端部のうち転写ベルト6に対向する側(負極性)と転写ベルト6(負極性)とは静電的に反発しやすくなる一方、感光体ドラム1に対向する側(正極性)と感光体ドラム1(負極性)とは静電的に引き合いやすくなる。その結果として、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が弱くなり、記録用紙Pの先端部における感光体ドラム1からの分離性能が大きく低下してしまう。そこで、本実施の形態では、転写ベルト6が所定の絶対湿度以上の環境に所定時間以上放置された場合、制御部200は、電圧印加部180を制御し、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位と同一以上である先端電圧を転写部材ベルト6に印加させる。
【0035】
また、制御部200は、
図3(a)に示すように、記録用紙Pのうち画像領域であるB〜Cの範囲が転写ニップ部NPを通過する際、感光体ドラム1上に形成されたトナー像を記録用紙Pに転写するため、転写ベルト6に正極性の転写電圧を印加するように電圧印加部180を制御する。
【0036】
図4は、本実施の形態における画像形成装置100の制御動作例を示すフローチャートである。ステップS100の処理は、画像形成装置100が電源オンにされて起動することにより開始する。
【0037】
まず、制御部200は、表面電位検出部190から出力された検出信号を入力することによって、感光体ドラム1の表面電位値(例えば、−600[V])を取得する(ステップS100)。次に、制御部200は、電流計192の検知結果を参照しながら、電圧印加部180とバックアップローラー63との間を流れる電流値が、転写極性と逆極性であり、かつ、予め設定された電流値(例えば、−10[μA])となるように電圧印加部180を制御する(ステップS120)。
【0038】
次に、制御部200は、電圧印加部180から、一定の電流値(ステップS120において流される電流の電流値、または、ステップS240において流される電流の電流値)の電流が流れる際、転写ベルト6に印加すべき電圧値を取得する(ステップS140)。次に、制御部200は、電圧印加部180から取得した電圧値の絶対値が、表面電位検出部190から取得した感光体ドラム1の表面電位値の絶対値以上であるか否かについて判定する(ステップS160)。この判定の結果、電圧値の絶対値が、感光体ドラム1の表面電位値の絶対値以上である場合(ステップS160、YES)、制御部200は、当該電圧が転写ベルト6に印加されているときに、電圧印加部180とバックアップローラー63との間、ひいては転写ベルト6に流れる電流の値を先端電流値として設定する(ステップS180)。
【0039】
最後に、制御部200は、画像形成装置100による画像形成処理が開始した後、記録用紙Pの搬送方向先端部が転写ニップ部NPを通過する際、ステップS180において先端電流値として設定された先端電流が転写ベルト6に流れるように電圧印加部180を制御する(ステップS200)。ステップS200の処理が完了することによって、画像形成装置100は
図4における処理を終了する。
【0040】
ステップS160の判定処理に戻り、電圧値の絶対値が、感光体ドラム1の表面電位値の絶対値以上でない場合(ステップS160、NO)、制御部200は、当該電圧が転写ベルト6に印加されているときに、転写ベルト6に流れる電流の値(現在の電流値)から所定値(例えば、−5[μA])を加算した値を算出する(ステップS220)。次に、制御部200は、電流計192の検知結果を参照しながら、電圧印加部180とバックアップローラー63との間を流れる電流値が、ステップS220において算出された値(例えば、−15[μA])となるように電圧印加部180を制御する(ステップS240)。その後、処理はステップS140に遷移する。
【0041】
なお、本実施の形態では、制御部200は、画像形成装置100が電源オンにされて起動した後のプリント前、すなわち転写ニップ部NPに記録用紙Pが介在しない状態において、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位と同一以上である電圧が転写ベルト6に印加されるときに、転写ベルト6に流れる電流を先端電流として設定する。これは、記録用紙Pの先端部における分離性能に相関があるのは、当該先端部がある程度、転写ニップ部NPを通過し、記録用紙Pの介在により定常状態となった際に発生する電界ではなく、記録用紙Pの最先端部(転写ニップ部NPにおいて記録用紙Pが介在しない部分と介在する部分との境界)が転写ニップ部NPを通過する際に発生する電界であるからである。
【0042】
[本実施の形態の効果]
以上詳しく説明したように、本実施の形態における画像形成装置100は、トナー像を担持する回転可能な感光体ドラム1と、感光体ドラム1との間で転写ニップ部NPを形成する転写ベルト6と、転写ベルト6に一定の電流が流れるように、当該転写ベルト6に電圧を印加する電圧印加部180と、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位値と同一以上である先端電圧が電圧印加部180により転写ベルト6に印加されるときに、当該転写ベルト6に流れる電流を先端電流として設定し、記録用紙Pの搬送方向先端部が転写ニップ部NPを通過する際、当該設定された先端電流が転写ベルト6に流れるように電圧印加部180を制御する制御部200とを備える。
【0043】
このように構成した本実施の形態によれば、画像形成装置100が高湿環境下に長時間放置された場合でも、感光体ドラム1、記録用紙Pおよび転写ベルト6間において、記録用紙Pの先端部と転写ベルト6とが静電的に引き合いやすくなるとともに、記録用紙Pの先端部と感光体ドラム1とが静電的に反発しやすくなる電界が発生する。したがって、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が強くなり、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能を向上させることができる。
【0044】
また、本実施の形態では、制御部200は、記録用紙Pの搬送方向先端部が転写ニップ部NPを通過し始めてから通過し終わるまでの間、転写ベルト6に先端電流が流れるように電圧印加部180を制御する。この構成により、記録用紙Pの搬送方向先端部の全域に対して、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位値と同一以上である先端電圧が転写ベルト6に印加される。そのため、記録用紙Pの搬送方向先端部の一部に上記先端電圧が印加されない箇所がある場合よりも、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が強くなり、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能を向上させることができる。
【0045】
[変形例]
なお、上記実施の形態において、転写ベルト6の抵抗値の低下量が小さく、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力がそれほど弱くならない場合(例えば、転写ベルト6の周囲の絶対湿度がそれほど高くない場合、または、高湿環境下における転写ベルト6の放置時間が短い場合)においては、
図4のフローチャートに示される制御動作を実行しなくても良い。
【0046】
また、上記実施の形態では、転写ニップ部NPに記録用紙Pが介在しない状態として、画像形成装置100が電源オンにされて起動した後のプリント前において、絶対値が感光体ドラム1の表面電位と同一以上である電圧が転写ベルト6に印加されるときに、当該転写ベルト6に流れる電流を先端電流として設定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。転写ニップ部NPに記録用紙Pが介在しない状態の別例として、例えば、画像形成装置100により連続的な画像形成が行われる場合における記録用紙Pの紙間のタイミング、または、印刷ジョブの実行が終了したタイミングにおいて、絶対値が感光体ドラム1の表面電位と同一以上である電圧が転写ベルト6に印加されるときに、当該転写ベルト6に流れる電流を先端電流として設定しても良い。
【0047】
また、上記実施の形態では、制御部200が、表面電位検出部190から出力された検出信号を入力することによって、感光体ドラム1の表面電位値を取得する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、制御部200は、感光体ドラム1の表面を帯電させる帯電装置2に印加される帯電グリッド電圧に基づいて、感光体ドラム1の表面電位値を推定しても良い。十分な帯電電流が付与された条件では、感光体ドラム1の表面電位値は、帯電グリッド電圧に近い値に制御されるからである。また、制御部200は、帯電装置2から感光体ドラム1に流れる帯電電流に基づいて、感光体ドラム1の表面電位値を推定しても良い。感光体ドラム1の表面電位値は、帯電極による感光体ドラム1への放電電荷量に比例するため、高い表面電位値を得ようとする場合、帯電電流値を大きく設定する必要がある。逆に言うと、帯電電流値により感光体ドラム1の表面電位値を推定することができる。
【0048】
また、上記実施の形態では、感光体ドラム1が本発明の像担持体として機能する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、中間ベルト転写方式の画像形成装置100である場合、当該中間転写ベルトが像担持体として機能するようにしても良い。また、本発明は、単色画像を形成するモノクロ画像形成装置100、カラー画像を形成するカラー画像形成装置100の何れにも適用することができる。
【0049】
その他、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0050】
[実施例]
最後に、本発明者が行った、本発明の有効性を確認する実験1,2の結果について説明する。
【0051】
(実験1)
実験1では、画像形成装置100の電源オン直後、使用環境(温度および相対湿度)、転写ベルト6の放置時間、転写ベルト6の使用履歴(転写ベルト6を用いたプリント枚数)、先端電流の値、先端電圧の値および感光体ドラム1の表面電位値を異ならせた各条件において、30枚のプリント処理を行い、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能(具体的には、分離ジャムの発生の有無)を確認した。
図5は、記録用紙Pの分離性能を下記評価基準により評価した結果を示す。なお、プリント処理では、坪量40[g/m
2]の分離性能の悪い記録用紙Pを用いた。また、画像形成装置100における先端電流のデフォルト値は、−10[μA]に設定した。
【0052】
(記録用紙Pの分離性能)
○:分離ジャムは発生せず、分離性能は良好である。
×:分離ジャムが発生し、分離性能は実用上問題となるレベルである。
【0053】
図5に示すように、実施例1では、高湿環境下での長時間放置に加えて、転写ベルト6の使用履歴が大きいことにより、転写ベルト6の表面抵抗が低下し、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能確保が困難な状態である。そこで、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])と同一以上である先端電圧(−650[V])が電圧印加部180により転写ベルト6に印加されるときに、当該転写ベルト6に流れる電流(−30[μA])を先端電流として設定した。その結果、記録用紙Pの先端部と転写ベルト6とは静電的に引き合いやすくなる一方、記録用紙Pの先端部と感光体ドラム1とは静電的に反発しやすくなり、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が強くなった。したがって、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。
【0054】
比較例1Aでは、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])と同一未満である先端電圧(−250[V])が電圧印加部180により転写ベルト6に印加されるときに、当該転写ベルト6に流れる電流(−10[μA])を先端電流として設定した。その結果、記録用紙Pの先端部と転写ベルト6とは静電的に反発しやすくなる一方、記録用紙Pの先端部と感光体ドラム1とは静電的に引き合いやすくなり、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が弱くなった。したがって、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は実用上問題となるレベルであった。
【0055】
比較例1Bでは、比較例1Aに対して先端電流の絶対値を10[μA]増大させたが、依然として、絶対値において先端電圧(−470[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])未満であった。その結果、記録用紙Pの先端部と転写ベルト6とは静電的に反発しやすくなる一方、記録用紙Pの先端部と感光体ドラム1とは静電的に引き合いやすくなり、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が弱くなった。したがって、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は実用上問題となるレベルであった。
【0056】
実施例2では、実施例1に対して転写ベルト6の放置時間が7[h]と短いため、実施例1と同レベルまで先端電流の絶対値を増大させなくても、絶対値において先端電圧(−540[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])と略同一となり、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。ここで、略同一とは、絶対値において先端電圧が感光体ドラム1の表面電位値未満であっても、絶対値において感光体ドラム1の表面電位値に対する先端電圧の割合が0.9以上であることを指す。
【0057】
絶対値において先端電圧が感光体ドラム1の表面電位値と略同一の場合でも、記録用紙P(誘電体)の先端部に誘電分極が発生し、記録用紙Pのうち転写ベルト6に対向する側に正極性の電荷が偏り、感光体ドラム1に対向する側に負極性の電荷が偏る。よって、記録用紙Pの先端部のうち転写ベルト6に対向する側(正極性)と転写ベルト6(負極性)とは静電的に引き合いやすくなる一方、感光体ドラム1に対向する側(負極性)と感光体ドラム1(負極性)とは静電的に反発しやすくなる。その結果として、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が強くなり、記録用紙Pの先端部における感光体ドラム1からの分離性能を向上させることができる。
【0058】
比較例2では、実施例1に対して転写ベルト6の放置時間が7[h]と短いが、実施例2と同レベルまで先端電流の絶対値を増大させていないため、絶対値において先端電圧(−350[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])未満であった。その結果、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は実用上問題となるレベルであった。
【0059】
実施例3では、実施例1に対して転写ベルト6の放置時間が7[h]と短く、実施例2以上に先端電流の絶対値を増大させたため、絶対値において先端電圧(−700[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])以上となった。その結果、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。
【0060】
実施例4では、実施例1に対して転写ベルト6の放置時間が7[h]と短く、転写ベルト6の使用履歴が0(新品)であるため、先端電流の絶対値をデフォルト値から増大させなくても、絶対値において先端電圧(−620[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])以上となった。その結果、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。
【0061】
実施例5では、転写ベルト6の放置時間が2[h]と短いため、先端電流の絶対値をデフォルト値から増大させなくても、絶対値において先端電圧(−570[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])と略同一となった。その結果、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。
【0062】
実施例6では、実施例5に対して先端電流の絶対値を増大させたため、絶対値において先端電圧(−1150[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])以上となった。その結果、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。なお、絶対値において先端電圧が感光体ドラム1の表面電位値より高すぎると、負極性の先端電圧から正極性の転写電圧への立ち上がりが遅くなり、記録用紙Pの先端部近傍の画像領域において画像抜け(転写抜け)が発生するおそれがある。よって、絶対値において先端電圧が感光体ドラム1の表面電位値より高くなりすぎないことが好ましい。
【0063】
実施例7では、放置時間が20[h]と長く、かつ、転写ベルト6の使用履歴が大きいが、常湿環境であるため、先端電流の絶対値をデフォルト値から増大させなくても、絶対値において先端電圧(−950[V])は感光体ドラム1の表面電位値(−750[V])以上となった。その結果、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。なお、常湿環境では、高湿環境と比べて、トナーの帯電量が大きくなる。そのため、所定のトナー量を感光体ドラム1に現像するための現像電位を高く設定し、それに伴い、非画像部に現像させないための感光体ドラム1の表面電位値も高く設定している。
【0064】
(実験2)
実験2では、転写ベルト6が高湿環境(30[℃]/80[%])下に長時間(20[h])放置され、転写ベルト6の使用履歴が200万枚数プリントである場合において、300枚のプリント処理を行い、所定枚数のプリント処理が終了したタイミングで、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能(具体的には、分離ジャムの発生の有無)を確認した。
図6は、記録用紙Pの分離性能を下記評価基準により評価した結果を示す。なお、プリント処理では、坪量40[g/m
2]の分離性能の悪い記録用紙Pを用いた。また、画像形成装置100における先端電流のデフォルト値は、−10[μA]に設定した。
【0065】
(記録用紙Pの分離性能)
○:分離ジャムは発生せず、分離性能は良好である。
×:分離ジャムが発生し、分離性能は実用上問題となるレベルである。
【0066】
実施例8では、所定枚数のプリント処理が終了した紙間のタイミングにおいて、転写極性と逆極性であり、かつ、絶対値が感光体ドラム1の表面電位値(−600[V])と同一以上である先端電圧が電圧印加部180により転写ベルト6に印加されるときに、当該転写ベルト6に流れる電流を先端電流として設定した。その結果、記録用紙Pの先端部と転写ベルト6とは静電的に引き合いやすくなる一方、記録用紙Pの先端部と感光体ドラム1とは静電的に反発しやすくなり、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が強くなった。したがって、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。なお、プリント数が増加するにしたがって、転写ベルト6周囲の温度が高くなり、すなわち転写ベルト6が除湿されて転写ベルト6の抵抗値が高くなる。そのため、プリント数の増加によって、転写ベルト6に印加すべき電圧値が大きく変動しなくても、設定される先端電流の絶対値は低下することとなる。
【0067】
なお、300枚プリントした後は、転写ベルト6の抵抗値がほぼ変動しなくなり(回復した状態)、先端電流の値をデフォルト値から補正する必要はなくなった。
図6に示すように、300枚プリントした後の先端電流の値をプリント開始時の値(−30[μA])と同じにすると、絶対値において先端電圧が感光体ドラム1の表面電位値より高くなりすぎる。この場合、負極性の先端電圧から正極性の転写電圧への立ち上がりが遅くなり、記録用紙Pの先端部近傍の画像領域において画像抜け(転写抜け)が発生するおそれがある。よって、絶対値において先端電圧が感光体ドラム1の表面電位値より高くなりすぎないことが好ましい。
【0068】
比較例8では、所定枚数のプリント処理が終了した紙間のタイミングにおいて、先端電流値の補正を行わず、そのデフォルト値(−10[μA])に設定し続けた。この場合、実施例8で説明したように、300枚のプリント処理が終了するまでの過程において、転写ベルト6が除湿されて転写ベルト6の抵抗値が次第に高くなる結果、先端電圧の絶対値も次第に高くなった。しかしながら、100枚のプリント処理が終了するまでは常に、絶対値において先端電圧は感光体ドラム1の表面電位値未満であった。その結果、記録用紙Pの先端部と転写ベルト6とは静電的に反発しやすくなる一方、記録用紙Pの先端部と感光体ドラム1とは静電的に引き合いやすくなり、転写ベルト6と記録用紙Pの先端部との間の吸着力が弱くなった。したがって、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は実用上問題となるレベルであった。300枚のプリント処理が終了した後は、絶対値において先端電圧は感光体ドラム1の表面電位値と同一となった。その結果、感光体ドラム1からの記録用紙Pの分離性能は良好となった。