特許第5942982号(P5942982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5942982固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法及び製造装置、固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5942982
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法及び製造装置、固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20160616BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160616BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20160616BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20160616BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20160616BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   H01M4/88 K
   H01M8/02 E
   H01M8/10
   B05D1/28
   B05C1/08
   B05C11/10
【請求項の数】18
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-504658(P2013-504658)
(86)(22)【出願日】2012年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2012055555
(87)【国際公開番号】WO2012124518
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2015年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-56764(P2011-56764)
(32)【優先日】2011年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−236971(JP,A)
【文献】 特開2006−185762(JP,A)
【文献】 特開2010−205676(JP,A)
【文献】 特開2008−311012(JP,A)
【文献】 特開2001−038268(JP,A)
【文献】 特開平01−130472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
H01M 4/86
H01M 8/02
B05C 1/08
B05D 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両面に電極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法であって、
少なくともプロトン伝導性高分子と触媒担持カーボンと溶媒を含む触媒インクを、塗布液供給手段により転写ロールの表面に塗布して触媒層を形成する触媒インク塗布工程と、
前記触媒インク塗布工程で形成した触媒層を半乾燥状態で目的とするパターンと同じ形状または略同じ形状の凹部を有する余剰塗布液除去ロールに押圧して、余剰部分の触媒層を前記転写ロールから前記余剰塗布液除去ロールの凸部に転写除去する転写除去工程と、
前記転写除去工程により除去されず前記転写ロール上に残った目的とする形状の半乾燥触媒層を高分子電解質膜に押圧して、前記高分子電解質膜の表面に密着させる半乾燥触媒層密着工程と、
前記半乾燥触媒層密着工程で形成した半乾燥触媒層を備えた前記高分子電解質膜を乾燥させる高分子電解質膜乾燥工程と、を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記転写ロールと前記余剰塗布液除去ロールを、同一の速度で逆方向に回転させることを特徴とする請求項1に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項3】
余剰塗布液除去ロール洗浄手段を用いて、前記余剰塗布液除去ロールから余剰塗布液を除去することを特徴とする請求項2に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記余剰塗布液除去ロール洗浄手段を用いて、前記余剰塗布液除去ロールの洗浄と、洗浄された前記余剰塗布液除去ロールの乾燥と、を行うことを特徴とする請求項3に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記塗布液供給手段として、スリットダイコーターを用いることを特徴とする請求項4に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項6】
加熱手段を用いて、前記転写ロールを加熱することを特徴とする請求項5に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記転写ロールの表面を、フッ素化合物から成る材質とすることを特徴とする請求項6に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項8】
前記塗布液供給手段は、間欠的に前記転写ロールの表面へ前記触媒インクを塗布することを特徴とする請求項7に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項9】
複数の前記転写ロール及び複数の前記余剰塗布液除去ロールを用いることを特徴とする請求項8に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項10】
固体高分子電解質膜の両面に電極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置であって、
表面に形成した目的とする形状の半乾燥触媒層を高分子電解質膜に押圧して、前記高分子電解質膜の表面に前記半乾燥触媒層を密着させる転写ロールと、
前記転写ロールの表面に触媒インクを塗布して触媒層を形成する塗布液供給手段と、
前記塗布液供給手段により前記転写ロールの表面に形成した触媒層を半乾燥状態で押圧して余剰部分の触媒層を転写ロールから転写除去した、目的とするパターンと同じ形状または略同じ形状の凹部を有する余剰塗布液除去ロールと、
前記半乾燥触媒層を備えた前記高分子電解質膜を乾燥させる乾燥手段と、を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項11】
前記転写ロールと前記余剰塗布液除去ロールは、同一の速度で逆方向に回転することを特徴とする請求項10に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項12】
前記余剰塗布液除去ロールから余剰塗布液を除去する余剰塗布液除去ロール洗浄手段を有することを特徴とする請求項11に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項13】
前記余剰塗布液除去ロール洗浄手段は、前記余剰塗布液除去ロールの洗浄手段と、洗浄された前記余剰塗布液除去ロールの乾燥手段と、を有することを特徴とする請求項12に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項14】
前記塗布液供給手段は、スリットダイコーターであることを特徴とする請求項13に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項15】
前記転写ロールは、当該転写ロールを加熱する加熱手段を有することを特徴とする請求項14に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項16】
前記転写ロールは、表面がフッ素化合物から成る材質であることを特徴とする請求項15に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項17】
前記塗布液供給手段は、間欠的に前記転写ロールの表面へ前記触媒インクを塗布することを特徴とする請求項16に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【請求項18】
複数の前記転写ロール及び複数の前記余剰塗布液除去ロールを有することを特徴とする請求項17に記載した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法及び製造装置と、これらの製造方法及び製造装置を用いて製造した固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素を燃料として、水の電気分解の逆反応を起こさせることにより、電気を生み出す発電システムである。これは、従来の発電方式と比較して、高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。その中でも、室温付近で使用可能な固体高分子形燃料電池は、車載用電源や家庭用定置電源等への使用が有望視されており、近年、様々な研究開発が行われている。そして、固体高分子形燃料電池の実用化に向けての課題は、電池の性能向上、インフラ整備とともに、低コストで効率的な、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造技術を見出すことにある。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層されて構成されている。単セルは、酸化極と還元極の二つの電極で固体高分子電解質膜を挟んで接合した固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を、ガス流路を有するセパレーターで挟んだ構造をしている。典型的な固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体では、固体高分子電解質膜の両面に接合された触媒層の間を電気的に絶縁状態に保つため、固体高分子電解質膜に触媒層を接合した範囲の周辺に、触媒層が付いていない固体高分子電解質膜の範囲が設けられている。
固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を形成する方法としては、例えば、特許文献1に記載されているような、基材上に目的とする形状の触媒層を形成した転写シートを電解質膜の両面に配置し、触媒層を電解質膜に転写する方法がある。
【0004】
また、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を形成する別の方法としては、例えば、特許文献2に記載されているような、電解質膜に目的とする触媒層形状を切り抜いた額縁状のマスキングフィルムを貼り付けて、開口部よりも広い範囲に触媒インクを塗布した後にマスキングフィルムを剥がす方法や、例えば、特許文献3に記載されているような、塗工動作を制御することにより電解質膜へ間欠的に触媒インクを塗布する方法が知られている。なお、上述したいずれの方法においても、生産効率を高めるために、ロールトゥロールの方式が望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−185762号公報
【特許文献2】特開2010−129247号公報
【特許文献3】特開2006−43505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、副資材である転写シート基材を用いるため、基材自体だけでなく、ロールトゥロールの方式をとった場合には、その巻き出しや回収のための設備が必要であり、製造コスト低減が難しいという問題を有している。さらに、特許文献1に記載されている方法では、転写シート上に形成されて乾燥・固化した触媒層を、熱圧着等により電解質膜上に貼り合わせるため、電解質膜と触媒層を良好に密着させることが難しく、界面の抵抗が高いという性能上の問題も有している。
【0007】
また、特許文献2及び特許文献3に記載されている方法では、転写シートを用いず、直接、電解質膜に触媒インクを塗布するため、低コスト化が期待されるが、触媒インクに含まれる溶媒成分によって高分子電解質膜が膨潤し、次いで乾燥によって電極触媒層及び高分子電解質膜が収縮するために、電解質膜が変形して皺が発生するという問題や、触媒層の表面にひび割れが生じるという問題を有している。これらの問題は、電池性能や耐久性に悪影響を及ぼす。
さらに、特許文献2に記載されている方法では、副資材である目的とする触媒層形状を切り抜いた額縁状のマスキングフィルムが必要であり、特許文献1に記載されている方法と同様に、基材自体だけでなく、製造ラインの複雑化によってコスト低減が難しいという問題を有している。
【0008】
また、特許文献3に記載されている方法は、スリットダイコート等を用いて塗工動作を制御することにより、間欠的に触媒インクを塗布するものであるが、スリットダイ等による塗工では、塗工開始や塗工終わりの部分では膜厚が安定せず、全面に渡って均一な塗膜を得ることが難しい。さらに、特許文献3に記載されている方法は、塗工開始の部分では気泡や異物が混入することが多く、これによっても不均一な塗膜となってしまう。そして、上述したような塗膜を電極触媒層として用いた場合には、発電性能の低下や、電解質膜にダメージを与えて耐久性が低下したりする問題が生じる可能性がある。また、ダイコーティングにより間欠的に触媒インクを塗布する場合、その面形状は略矩形に限定されてしまう。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、目的とする形状で膜厚均一性の良い電極触媒層を電解質膜の両面に備えた、界面抵抗の低い固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を、副資材であるフィルム類を使用せずに低コストかつ高効率で製造する製造方法及びその製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、固体高分子電解質膜の両面に電極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法であって、
少なくともプロトン伝導性高分子と触媒担持カーボンと溶媒を含む触媒インクを、塗布液供給手段により転写ロールの表面に塗布して触媒層を形成する触媒インク塗布工程と、
前記触媒インク塗布工程で形成した触媒層を半乾燥状態で目的とするパターンと同じ形状または略同じ形状の凹部を有する余剰塗布液除去ロールに押圧して、余剰部分の触媒層を前記転写ロールから前記余剰塗布液除去ロールの凸部に転写除去する転写除去工程と、
前記転写除去工程により除去されず前記転写ロール上に残った目的とする形状の半乾燥触媒層を高分子電解質膜に押圧して、前記高分子電解質膜の表面に密着させる半乾燥触媒層密着工程と、
前記半乾燥触媒層密着工程で形成した半乾燥触媒層を備えた前記高分子電解質膜を乾燥させる高分子電解質膜乾燥工程と、を有することを特徴とするものである。
【0011】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記転写ロールと前記余剰塗布液除去ロールを、同一の速度で逆方向に回転させることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項2に従属する発明であって、余剰塗布液除去ロール洗浄手段を用いて、前記余剰塗布液除去ロールから余剰塗布液を除去することを特徴とするものである。
【0012】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項3に従属する発明であって、前記余剰塗布液除去ロール洗浄手段を用いて、前記余剰塗布液除去ロールの洗浄と、洗浄された前記余剰塗布液除去ロールの乾燥と、を行うことを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項4に従属する発明であって、前記塗布液供給手段として、スリットダイコーターを用いることを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、請求項5に従属する発明であって、加熱手段を用いて、前記転写ロールを加熱することを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項7に記載した発明は、請求項6に従属する発明であって、前記転写ロールの表面を、フッ素化合物から成る材質とすることを特徴とするものである。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項8に記載した発明は、請求項7に従属する発明であって、前記塗布液供給手段は、間欠的に前記転写ロールの表面へ前記触媒インクを塗布することを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項9に記載した発明は、請求項8に従属する発明であって、複数の前記転写ロール及び複数の前記余剰塗布液除去ロールを用いることを特徴とするものである。
【0015】
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、固体高分子電解質膜の両面に電極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置であって、
表面に形成した目的とする形状の半乾燥触媒層を高分子電解質膜に押圧して、前記高分子電解質膜の表面に前記半乾燥触媒層を密着させる転写ロールと、
前記転写ロールの表面に触媒インクを塗布して触媒層を形成する塗布液供給手段と、
前記塗布液供給手段により前記転写ロールの表面に形成した触媒層を半乾燥状態で押圧して余剰部分の触媒層を転写ロールから転写除去した、目的とするパターンと同じ形状または略同じ形状の凹部を有する余剰塗布液除去ロールと、
前記半乾燥触媒層を備えた前記高分子電解質膜を乾燥させる乾燥手段と、を有することを特徴とするものである。
【0016】
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記転写ロールと前記余剰塗布液除去ロールは、同一の速度で逆方向に回転することを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記余剰塗布液除去ロールから余剰塗布液を除去する余剰塗布液除去ロール洗浄手段を有することを特徴とするものである。
【0017】
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記余剰塗布液除去ロール洗浄手段は、前記余剰塗布液除去ロールの洗浄手段と、洗浄された前記余剰塗布液除去ロールの乾燥手段と、を有することを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記塗布液供給手段は、スリットダイコーターであることを特徴とするものである。
【0018】
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記転写ロールは、当該転写ロールを加熱する加熱手段を有することを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記転写ロールは、表面がフッ素化合物から成る材質であることを特徴とするものである。
【0019】
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記塗布液供給手段は、間欠的に前記転写ロールの表面に前記触媒インクを塗布することを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、複数の前記転写ロール及び複数の前記余剰塗布液除去ロールを有することを特徴とするものである
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によれば、目的とする形状の電極触媒層を電解質膜の両面に備えた、界面抵抗の低い、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を提供することが可能となる。また、請求項1に係る発明によれば、触媒インクに含まれる溶媒成分による高分子電解質膜の膨潤を抑え、電解質膜の皺や触媒層表面のひび割れ等の問題のない、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を提供することが可能となる。さらに、請求項1に係る発明によれば、転写シートやマスキングフィルム等の副資材およびその巻き出しや回収のための設備を使用することなく、低コストかつ高効率で、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を提供することが可能となる。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、余剰塗布液除去ロールが転写ロールの動きを妨げることなく、確実に、余剰部分の触媒層を転写ロールから転写除去することが可能となる。
請求項3に係る発明によれば、余剰塗布液除去ロールを繰り返し使用することが可能となる。
請求項4に係る発明によれば、洗浄された余剰塗布液除去ロールから洗浄液や溶媒成分を確実に除去することが可能となり、連続的に余剰塗布液除去ロールを使用することが可能となる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、膜厚均一性の良い電極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を提供することが可能となる。
請求項6に係る発明によれば、転写ロールが回転する間に触媒インク中の溶媒成分を適度に除去し、半乾燥触媒層を容易に形成することが可能となる。また、請求項6に係る発明によれば、転写ロールから電解質膜への転写性を向上させることが可能となる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、半乾燥触媒層の転写ロールからの離型性を向上させて、確実に、余剰部分の触媒層や目的とする形状の半乾燥触媒層を、転写ロールから転写除去することが可能となる。
請求項8に係る発明によれば、触媒インクの使用量を抑え、より、コストを削減することが可能となる。
【0024】
請求項9に係る発明によれば、電解質膜の両面へ同時に電極触媒層を形成することが可能となり、より高効率に、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を提供することが可能となる
【0025】
請求項1に係る発明によれば、目的とする形状の電極触媒層を電解質膜の両面に備えた、界面抵抗の低い、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造することが可能な製造装置を提供することが可能となる。また、請求項1に係る発明によれば、触媒インクに含まれる溶媒成分による高分子電解質膜の膨潤を抑え、電解質膜の皺や触媒層表面のひび割れ等の問題のない、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造することが可能な製造装置を提供することが可能となる。さらに、請求項1に係る発明によれば、転写シートやマスキングフィルム等の副資材およびその巻き出しや回収のための設備を使用することなく、低コストかつ高効率で、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造することが可能な製造装置を提供することが可能となる。
【0026】
請求項1に係る発明によれば、余剰塗布液除去ロールが転写ロールの動きを妨げることなく、確実に、余剰部分の触媒層を転写ロールから転写除去することが可能となる。
請求項1に係る発明によれば、余剰塗布液除去ロールを繰り返し使用することが可能となる。
請求項1に係る発明によれば、洗浄された余剰塗布液除去ロールから、洗浄液や溶媒成分を確実に除去することが可能となり、連続的に余剰塗布液除去ロールを使用することが可能となる。
【0027】
請求項1に係る発明によれば、膜厚均一性の良い電極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造することが可能な製造装置を提供することが可能となる。
請求項1に係る発明によれば、転写ロールが回転する間に触媒インク中の溶媒成分を適度に除去し、半乾燥触媒層を容易に形成することが可能となる。また、請求項15に係る発明によれば、転写ロールから電解質膜への転写性を向上させることが可能となる。
【0028】
請求項1に係る発明によれば、半乾燥触媒層の転写ロールからの離型性を向上させて、確実に、余剰部分の触媒層や目的とする形状の半乾燥触媒層を転写ロールから転写除去することが可能となる。
請求項1に係る発明によれば、触媒インクの使用量を抑え、より、コストを削減することが可能となる。
【0029】
請求項1に係る発明によれば、電解質膜の両面に同時に電極触媒層を形成することが可能となり、より高効率に固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造することのできる製造装置を提供することが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第一実施形態における、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置の概略構成を示す図である。
図2】本発明の第一実施形態における、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を示す説明図である。
図3】間欠塗工を行った場合における、本実施形態の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
本発明は、固体高分子形燃料電池が有する固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造する方法(製造方法)と、固体高分子形燃料電池が有する固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造する装置(製造装置)を提供するものである。
【0032】
具体的には、まず、少なくともプロトン伝導性高分子と触媒担持カーボンと溶媒を含む触媒インクを、塗布液供給手段により転写ロールの表面に塗布して触媒層を形成し、その転写ロール上の触媒層を、半乾燥状態で目的とするパターンと同じ形状または略同じ形状の凹部を有する余剰塗布液除去ロールに押圧する。ここで、「目的とするパターン」とは、例えば、高分子電解質膜の表面に備えた触媒層の形状を、所望のパターンに形成するために必要なパターンである。また、「略同じ形状」とは、余剰塗布液除去ロールが有する凹部の形状が、高分子電解質膜の表面に備えた触媒層の形状と厳密に一致していなくても、所望のパターンの触媒層の形状を形成することができれば、触媒層の形状と略同じ形状であってもよいという意味である。
【0033】
これに加え、余剰部分の触媒層を転写ロールから凸部に転写除去し、転写ロール上に残った目的とする形状の半乾燥触媒層を、高分子電解質膜に押圧して高分子電解質膜の表面に密着させ、電極触媒層を電解質膜の両面に備えた高分子電解質膜を乾燥させる。ここで、目的とする形状の半乾燥触媒層とは、触媒層の形状を、所望の形状に形成するために必要な、半乾燥触媒層の形状である。
以上により、目的とする形状で膜厚均一性の良い電極触媒層を電解質膜の両面に備えた、界面抵抗の低い固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を、副資材であるフィルム類を使用せずに、低コストかつ高効率で製造する方法及び装置を提供するものである。
【0034】
(構成)
まず、図1を用いて、本実施形態の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置(以下、「製造装置」と記載する場合がある)の構成を説明する。
図1は、本実施形態における、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造装置の概略構成を示す図である。
製造装置では、図1中に示すように、高分子電解質膜の通過する部分1を挟んで、アノード電極用およびカソード電極用の、各々の転写ロール11が配置されている。なお、両転写ロール11は、同速度で逆方向に回転するのが好ましいが、これに限定するものではない。
なお、高分子電解質膜およびプロトン伝導性高分子には、様々なものが用いられるが、電解質膜と電極の界面抵抗や、湿度変化時の電極と電解質膜における寸法変化率の点から考慮すると、使用する電解質膜と触媒層中のプロトン伝導性高分子は、同じ成分であることが好適である。
【0035】
また、本発明の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体に用いられるプロトン電導性高分子は、プロトン伝導性を有するものであればよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることが可能である。
この場合、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることが可能である。
【0036】
また、炭化水素系高分子電解質としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることが可能である。特に、高分子電解質膜としては、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることが可能である。
【0037】
また、本発明で使用される転写ロール11の表面には、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの転写性に優れたフッ素系樹脂や、シリコンゴム、フッ素ゴムなどを用いることが可能である。
【0038】
転写ロール11の高分子電解質膜の通過する部分1と異なる側には、転写ロール11に触媒インクを塗布するための塗布液供給手段12および余剰塗布液除去ロール13が配置されている。
なお、本発明で用いる触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属、または、これらの合金、または、酸化物、複酸化物、炭化物などを用いることが可能である。
【0039】
また、本発明で用いるこれらの触媒を担持するカーボンは、微粉末状で導電性を有し、触媒に侵されないものであれば、どのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレンを、好ましく用いることが可能である。
また、本発明で触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒粒子やプロトン伝導性高分子を浸食することがなく、流動性の高い状態でプロトン伝導性高分子を溶解、または、微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はない。
なお、溶媒には、プロトン伝導性高分子となじみがよい水が含まれていてもよい。この場合、水の添加量は、プロトン伝導性ポリマーが分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば、特に制限はない。
【0040】
また、揮発性の液体有機溶媒が少なくとも含まれることが望ましいが、溶剤として低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高いため、このような溶媒を用いる際は、水との混合溶媒にするのが好ましい。
また、本発明で用いられる塗布液供給手段12には、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、スキージーなど様々な塗工方法を用いることが可能であるが、塗布中間部分の膜厚が安定しており、間欠塗工にも対応可能であるダイコートを、特に好適に用いることが可能である。
【0041】
余剰塗布液除去ロール13の表面には、目的とするパターンと同じ形状または略同じ形状の凹部が設けられており、余剰塗布液除去ロール13と転写ロール11は、同速度で逆方向に回転する。
なお、余剰塗布液除去ロール13の表面には、金属や樹脂を、単体または複合して使用することが可能であるが、これに限定するものではない。また、表面層の内側に、クッション層があっても良い。
また、余剰塗布液除去ロール13の転写ロール11と異なる側には、余剰塗布液除去ロール洗浄手段14が設けられている。さらに、高分子電解質膜の通過方向前方には、乾燥手段15を備えている。なお、実際に高分子電解質膜を流す際には、ロールトゥロールの方式を用いることが可能である。
【0042】
(固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法)
以下、図1を参照しつつ、図2及び図3を用いて、本実施形態の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法(以下、「製造方法」と記載する場合がある)について説明する。
図2は、本実施形態における、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を示す説明図である。
【0043】
固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法では、まず、図2中に示すように、回転している転写ロール11の表面に、塗布液供給手段12により触媒インク16を塗布して、触媒層を形成する(触媒インク塗布工程)。ここで、転写ロール11が加熱手段を有し、この加熱手段で転写ロール11の表面を加熱することにより、塗布された触媒インク16は、転写ロール11の表面で半乾燥状態となる。
このときの転写ロール表面の温度は、50以上80以下[℃]の範囲内であることが好ましく、この温度範囲で塗布された触媒インク16を乾燥させると、塗布された触媒インク16は半乾燥状態となる。また、半乾燥状態となった触媒インク16の固形分濃度は、30.0重量%以上99.9重量%以下、好ましくは60.0重量%以上99.0重量%以下である。
【0044】
そして、表面に半乾燥触媒層を有した転写ロール11が回転して余剰塗布液除去ロール13と接触する位置に達すると、押圧されながら回転することによって、余剰塗布液除去ロール13の表面に設けられた凸部に、余剰部分の半乾燥触媒層が転写して、転写ロール11の表面から除去される(転写除去工程)。その結果、転写ロール11の表面には、目的とする形状の半乾燥触媒層が形成される。
【0045】
そして、転写ロール11がさらに回転して、高分子電解質膜4と接触する位置に達すると、押圧されながら回転することによって転写ロール11の表面に設けられた目的とする形状の半乾燥触媒層が、高分子電解質膜4の表面に転写して、転写ロール11の表面から除去される。
この際、アノード電極用およびカソード電極用の各々の転写ロール11が、同時に高分子電解質膜4を押圧することにより、転写ロール上に残った目的とする形状の半乾燥触媒層を高分子電解質膜4の表面に密着させて、高分子電解質膜4の両面に、アノードおよびカソードの電極触媒層を、同時に形成することが可能となる(半乾燥触媒層密着工程)。
なお、アノード電極用およびカソード電極用の各々の転写ロール11によって、アノードおよびカソードの電極触媒層を同時に形成することが、高効率で製造するという点で好ましいが、アノードまたはカソードの電極触媒層を同時ではなく、別々に形成してもよい。この場合、例えば、アノード電極用またはカソード電極用の転写ロール11が、高分子電解質膜4の一方の面を押圧し、他方の面を、半乾燥触媒層を備えていない他のロールで押圧することで、アノードまたはカソードの電極触媒層を形成することができる。
【0046】
ここで、転写ロール11で高分子電解質膜4を押圧する際に、電極触媒層にかかる圧力は、膜・電極接合体の電池性能に影響するため、電池性能の良い膜・電極接合体を得るにはロール間にかかる圧力は、0.5MPa以上20MPa以下の範囲内であることが望ましく、より望ましくは、2MPa以上15MPa以下の範囲内である。これ以上の圧力では、電極触媒層が圧縮されすぎ、また、これ以下の圧力では、電極触媒層と高分子電解質膜の接合性が低下して、電池性能が低下する。
半乾燥触媒層を両面に備えた高分子電解質膜が、前方に配置された乾燥手段15を通過することにより、触媒層に含まれる溶媒成分が除去され、高分子電解質膜4の両面にアノード触媒層2およびカソード触媒層3を備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体5が得られる(高分子電解質膜乾燥工程)。
【0047】
一方、余剰部分の半乾燥触媒層を転写ロール11から転写除去した余剰塗布液除去ロール13は、余剰塗布液除去ロール洗浄手段14を通過することによって、凸部に付着した触媒層を洗浄され、再び、余剰部分の触媒層を除去可能な状態に戻る。
図3は、間欠塗工を行った場合における、本実施形態の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を示す説明図である。
【0048】
間欠塗工を行った場合における、本実施形態の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の製造方法では、図3中に示すように、塗布液供給手段12により転写ロール11に触媒インクを塗布して触媒層を形成する際に、間欠的に塗布を行うことにより、余剰塗布液除去ロール13の凸部で転写除去する触媒インクを減らす効果があるため、触媒インクの使用量低減および余剰塗布液除去ロール洗浄工程の負荷低減により、製造コストをより削減することが可能である。
【0049】
(実施例)
以下、図1から図3を参照して、本発明例の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体と、比較例の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を用いて、これらの物性を比較した結果を説明する。
なお、比較例の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体としては、製造方法の異なる二種類の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を用いた。以下の説明では、製造方法の異なる二種類の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を、「比較例1」及び「比較例2」と記載する場合がある。
【0050】
(本発明例)
本発明例の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体は、上述した第一実施形態と同様の方法を用いて製造した。
具体的には、白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と水、エタノールの混合溶媒とプロトン伝導性高分子(ナフィオン:Nafion,デュポン社の登録商標)溶液を混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、触媒インクを調製した。
【0051】
そして、調製した触媒インクを、スリットダイコーターにより、回転している転写ロールに塗布した。このとき、80[℃]の転写ロール表面の触媒インクは、回転する間に半乾燥状態となった。
続いて、転写ロールを、略矩形の凹部を有する余剰塗布液除去ロールに接触させて回転させ、略矩形の周囲の余剰インクを、転写ロール上から除去した。さたに、塗布および余剰塗布液除去の工程を、アノード用とカソード用の各々について行い、二つの転写ロール表面に半乾燥触媒層を形成した。
【0052】
その後、上述した転写ロールを、高分子電解質膜(ナフィオン212:登録商標、Dupont社製)の両面に触媒層が対面するように配置し押圧して、同速度で逆方向に回転させることにより、転写ロール表面に形成されていた半乾燥触媒層を高分子電解質膜に転写した。このような、両面に半乾燥触媒層を有した高分子電解質膜を、100[℃]のIR炉内を通過させて乾燥させて、本発明例の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造した。
【0053】
(比較例1)
比較例1の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造する際には、本発明例と同様の触媒インクを、スリットダイコーターにより高分子電解質膜(ナフィオン212:登録商標、Dupont社製)の片側の面に塗布した。その際、塗布液の供給系を制御することによって略矩形に触媒インクを間欠塗布した。
そして、上記の触媒層付き電解質膜を80[℃]のオーブンで乾燥させた後、逆側の面に触媒層が対面するように、前記の方法と同様にして触媒インクを塗布し、さらに、この触媒層付き電解質膜を100[℃]のオーブンで乾燥させることで、比較例1の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造した。
【0054】
(比較例2)
比較例2の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造する際には、略矩形に切り抜いたマスキングフィルムを貼ったPTFEシートの表面に実施例の触媒インクを塗布し、100[℃]のオーブンで乾燥させた後、マスキングフィルムを剥離した。
そして、上記の転写用基材を2枚用意して、高分子電解質膜(ナフィオン212:登録商標、Dupont社製)の両面に触媒層が対面するように配置し、ホットプレスした後にPTFEシートを剥離することで、比較例2の固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を製造した。
【0055】
(比較結果)
本発明例においては、目的とする形状であり、且つひび割れのなく膜厚均一性の良い電極触媒層を電解質膜の両面に備えた、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体が得られた。
一方、比較例1においては、触媒インクに含まれる溶媒成分による高分子電解質膜の膨潤および収縮が発生し、得られた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体には、触媒層のひび割れおよびしわやうねりが見られた。さらに、間欠的に触媒インクを塗布したため、塗布開始部分の膜厚が大きくなっており、電極触媒層の膜厚均一性および形状が悪化する問題が生じた。
【0056】
また、比較例2においては、得られた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体の抵抗が、本発明例と比較して、やや大きくなった。また、固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を得るに際して、マスキングフィルムとPTFEシートが、使い捨ての副資材として必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法によれば、目的とする形状の電極触媒層を高分子電解質膜の両面に備えた固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体を、副資材のフィルム類を使用することなく、また、低コストかつ高効率で得ることが可能である。
また、本発明の製造方法による固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体は、電極触媒層と高分子電解質膜の界面抵抗の増大、電解質膜の皺や触媒層表面のひび割れ等の発生を抑えており、発電効率および耐久性が良好である。
したがって、本発明は、高分子電解質膜を用いた燃料電池、特に、定置型コジェネレーションシステムや電気自動車などに好適に用いることが可能な性能を有し、更にコスト削減が可能であるため、産業上の利用価値が大きい。
【符号の説明】
【0058】
1 高分子電解質膜の通過する部分
2 アノード触媒層
3 カソード触媒層
4 高分子電解質膜
5 固体高分子形燃料電池用膜・電極接合体
11 転写ロール
12 塗布液供給手段
13 余剰塗布液除去ロール
14 余剰塗布液除去ロール洗浄手段
15 乾燥手段
16 触媒インク
図1
図2
図3