(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0025】
本発明の一形態によれば、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子の少なくとも一部が炭素数1〜8のアシル基で置換された、表面修飾セルロースナノファイバーを含有し、マトリックス樹脂の含有量が前記セルロースナノファイバーと前記マトリックス樹脂との合計量に対して10質量%以下であるシート状基材と、前記シート状基材の少なくとも片面に形成されたガスバリア層と、を有するガスバリア性フィルムが提供される。
【0026】
本発明は、特定の表面修飾セルロースナノファイバーから構成され、マトリックス樹脂の含有量が小さい(マトリックス樹脂を実質的に含有しない)基材上にガスバリア層を形成することを特徴とする。すなわち、マトリックス樹脂を実質的に含有せず、表面修飾セルロースナノファイバーを製膜したフィルム基材を使用することで、従来のマトリックス樹脂を用いた樹脂含浸フィルムに比べて、高いレベルの透明性、表面平滑性、ガスバリア性、および接着性を実現することができることを見出し、本発明を完成するに至った次第である。
【0027】
本発明の詳細なメカニズムは明らかになっていないが、マトリックス樹脂を実質的に含有せず、セルロースナノファイバーの表面がアシル基で置換されたセルロースナノファイバーを使用することで、セルロースナノファイバー成分の絡み合いを維持しつつ、表層の非晶性の樹脂成分(アシル基成分)が溶融して均一に広がるため、マトリックス樹脂を混合する系に比べて、屈折率差が少なく、膜内のナノファイバーの均一性も良好である。このため、後の電子素子の製造工程での熱加工された際にでも、透明性や接着性が維持されうる。
【0029】
図1は本発明の一実施形態であるガスバリア性フィルムの基本構成を示す模式断面図である。
図1に示すように、ガスバリア性フィルム10は、シート状基材1と、これを挟持する1対の中間層(中間層2aおよび中間層2b)と、シート状基材1および中間層(2aおよび2b)の積層体を挟持する1対のガスバリア層(ガスバリア層3aおよびガスバリア層3b)とから構成されている。具体的には、シート状基材1の両面に中間層(2a、2b)が設けられ、この中間層(2a、2b)の上部にガスバリア層3が積層されている。
【0030】
図1に示す形態では、シート状基材1とガスバリア層3との間には、中間層(2aおよび2b)が介在している。シート状基材1とガスバリア層(3a、3b)との間に中間層(2a、2b)が介在する場合、その分の膜厚が増え、かつ、ガスバリア層の形成が均一に行われるため、ガスバリア性が向上しうる。なお、中間層によるガスバリア特性の向上効果は限定的であり、中間層単独では十分なガスバリア特性を発揮し得ない。ただし、本発明は、シート状基材上にガスバリア層が形成されていればよく、中間層(2a、2b)を配置せず、シート状基材1の上面にガスバリア層(3a、3b)を直接積層させてもよい。
【0031】
また、
図1に示す形態では、ガスバリア層(3a、3b)がシート状基材1の両面に形成されているが、ガスバリア層(3aまたは3b)はシート状基材1の片面のみに形成されていてもよい。
【0032】
さらに、シート状基材1の一方の面に中間層(2aまたは2b)を設け、他方の面には中間層を設けない構成としてももちろんよい。
【0033】
以下、ガスバリア性フィルム10を構成する部材について説明する。
【0034】
(シート状基材)
シート状基材1は、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子の少なくとも一部が炭素数1〜8のアシル基で置換された、表面修飾セルロースナノファイバー(以下、単に「表面修飾セルロースナノファイバー」とも称する)、ならびに必要に応じて、微量のマトリックス樹脂、および、炭素ラジカル捕捉剤、一次酸化防止剤、二次酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤、可塑剤、マット剤、光学異方性コントロール剤、架橋剤等の添加剤を含んで構成される。
【0035】
(a)セルロースナノファイバー
本発明で用いられるセルロースナノファイバーとは、平均繊維径1〜1000nmであるセルロース繊維をいう。好ましくは4〜400nmの繊維径の繊維である。繊維の平均繊維径が400nm以下であれば、可視光の波長よりも小さいため透明性の低下が抑制されうる。平均繊維径4nm以上であれば製造が容易である。より好ましくは、シート状基材の強度を向上させるために、4〜200nm、より好ましくは4〜100nm、さらに好ましくは4〜50nmの繊維径の繊維である。
【0036】
「セルロース繊維」とは、植物細胞壁の基本骨格等を構成するセルロースのミクロフィブリルまたはこの構成繊維をいい、通常、繊維径4nm程度の単繊維(セルロース分子鎖が数十本水素結合で結合した結晶性の繊維)からなる集合体である。セルロース繊維は、結晶構造を40%以上含有するものが、高い強度と低い熱膨張を得る上で好ましい。
【0037】
セルロースナノファイバーは、単繊維が、引き揃えられることなく、相互間に入り込むように十分に離隔して存在するものより成ってもよい。この場合、繊維径は単繊維の径となる。あるいは、複数本の単繊維が束状に集合して1本の糸条を構成しているものであってもよく、この場合、繊維径は1本の糸条の径として定義される。
【0038】
なお、本発明で用いるセルロースナノファイバーは、平均繊維径が上記範囲内であればよく、上記範囲外の繊維径のファイバーが含まれていてもよい。ただし、上記範囲外の繊維径のファイバーの、セルロースナノファイバー全体に対する割合は、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは全てのセルロースナノファイバーの繊維径が上記範囲内である。
【0039】
ナノファイバーの長さについては特に限定されないが、平均繊維長で50nm以上が好ましく、更に好ましくは100nm以上が好ましい。かような範囲であれば、繊維の絡み合いが良好で補強効果が高く、熱膨張の増大が抑制されうる。
【0040】
本発明において、「平均繊維径」、「平均繊維長」は、セルロースナノファイバーを透過型電子顕微鏡(TEM)(例えば、H−1700FA型(日立製作所社製))または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍の倍率で観察した画像から無作為に繊維を100本選び、画像処理ソフト(例えば、WINROOF)を用いて一本毎の繊維径(直径)および繊維長を解析し、これらの単純な数平均値として算出される。
【0041】
セルロースナノファイバーは、原料セルロース繊維を解繊処理することにより得られる。原料セルロース繊維としては、植物由来のパルプ、木材、コットン、麻、竹、綿、ケナフ、ヘンプ、ジュート、バナナ、ココナッツ、海草等の植物繊維から分離した繊維、海産動物であるホヤが産生する動物繊維から分離した繊維、または酢酸菌より産生させたバクテリアセルロース等が挙げられる。中でも、植物繊維から分離した繊維が好ましく、より好ましくはパルプ、コットンから得られる繊維である。
【0042】
原料セルロース繊維の解繊処理の方法としては、セルロース繊維が繊維状態を保持している限り何ら制限はないが、ホモジナイザーやグラインダー等を用いた機械的解繊処理、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル(TEMPO)等の酸化触媒を用いた化学的解繊処理が挙げられる。さらに、これらの解繊処理を促進するために酵素等を利用して、ミクロフィブリル状に微細化してもよい。
【0043】
機械的解繊処理の具体的な方法としては、例えば、まず、パルプ等の原料セルロース繊維を、水を入れた分散容器に0.1〜3質量%となるように投入し、これを高圧ホモジナイザーで解繊処理して、平均繊維径0.1〜10μm程度のミクロフィブリルに解繊されたセルロース繊維の水分散液を得る。次いで、グラインダー等で繰り返し磨砕処理することで、平均繊維径2〜数百nm程度のセルロースナノファイバーを得ることができる。上記磨砕処理に用いられるグラインダーとしては、例えば、ピュアファインミル(栗田機械製作所社製)等が挙げられる。
【0044】
また、別の方法として、原料セルロース繊維の分散液を一対のノズルから250MPa程度の高圧でそれぞれ噴射させ、その噴射流を互いに高速で衝突させることによってセルロース繊維を粉砕する、高圧ホモジナイザーを用いる方法が知られている。用いられる装置としては、例えば、三和機械社製の「ホモジナイザー」、スギノマシン(株)製の「アルテマイザーシステム」、等が挙げられる。
【0045】
化学的解繊処理の具体的な方法としては、例えば、酸化触媒および必要に応じて共酸化剤を使用し、原料セルロース繊維を酸化処理する方法が挙げられる。これにより、ピラノース単位のC6位に存在する一級水酸基がカルボキシルへと酸化され、フィブリル相互の静電反発により化学的に解繊される。なお、酸化反応処理を経ることにより、原料セルロース繊維の分子にはカルボキシル基が導入されるが、部分的に、酸化処理の進行度合いによっては、アルデヒド基が導入される場合もある。したがって、酸化処理後の解繊繊維の水酸基は、アルデヒド基およびカルボキシル基の少なくとも一方で置換されていることになる。
【0046】
酸化触媒としては、N−オキシル化合物が使用できる。例えば、2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO、2−アザアダマンタン−N−オキシル、1−メチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル、および1,3−ジメチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル(DMAO)からなる群から選択される少なくとも1つが、常温での反応速度が良好な点において好ましい。中でも、フィルムの高い透明性と耐熱性を実現するために、酸化触媒として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル(TEMPO)を使用し、セルロース非晶領域の一級水酸基を酸化してカルボキシルを導入し、フィブリル相互の静電反発を利用して化学的に解繊する方法が好ましい。
【0047】
共酸化剤としては、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。上記の共酸化剤のうち塩であるものについてはアルカリ金属、マグネシウムおよびアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1つの塩が好ましく、中でもアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムがより好ましい。次亜塩素酸ナトリウムのような次亜ハロゲン酸塩を使用する場合、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応速度を高めるにおいて特に好ましい。共酸化剤を酸化触媒と共に作用させて酸化反応を進行させた場合には、ピラノース単位から構成される高分子鎖が分子鎖レベルで、しかもC6位の一級水酸基のみが選択的に酸化され、アルデヒドを経由してカルボキシル基にまで酸化されるため好ましい。
【0048】
上記酸化反応は、原料セルロース繊維を溶媒中に分散させて行うのが好ましい。溶媒としては原料セルロース繊維、酸化触媒、および共酸化剤と、酸化反応や取り扱いの条件下で顕著な反応性を示さず、かつ解繊繊維とカルボキシル基導入後の繊維が良好に分散するものであることが必要である。中でも、安価で扱い易いなどの点で水が最も好ましい。この際、溶媒である水に対する原料セルロース繊維の濃度を、0.1質量%以上3質量%以下とすることが好ましい。
【0049】
解繊繊維に、上記酸化触媒、および、必要に応じて共酸化剤を作用させ、カルボキシル基が導入された修飾解繊繊維を得る際の具体的な方法、条件については、特開2008−1728号公報に開示されたものを好適に使用することができる。
【0050】
このようなC6位のカルボキシル基の静電反発に基づく化学的解繊は、機械的解繊に比べて、均一でより小さな繊維径を得ることができる。
【0051】
セルロース繊維は、一般に、重合度が1,000〜3,000(重量平均分子量で数万〜数百万)の範囲である、不溶性の天然繊維である。本発明では、解繊後の結晶性フィブリルの繊維径が重要であり、重合度(重量平均分子量)がこの範囲にある不溶性の天然繊維を使用すればよい。
【0052】
本発明において「重量平均分子量」は高速液体クロマトグラフィーを用いて下記の測定条件で測定した値を採用する。
【0053】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1重量%
検知器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株))製)重量平均分子量1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用
(b)表面修飾セルロースナノファイバー
本発明における表面修飾セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーを構成するセルロースのグルコース単位の2位、3位および/または6位の水酸基(−OH)の水素原子の少なくとも一部が化学修飾によって炭素数1〜8のアシル基で置換されたたものである。
【0054】
セルロースとは、多数のβ−グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合したものであり、C2位、C3位、およびC6位に水酸基を有する。よって、一般的に、化学修飾されていないセルロースナノファイバーは、下記化学式(A)を繰り返し単位として含む。
【0056】
本形態に係る表面修飾セルロースナノファイバーは、上記セルロースナノファイバーのC2位、C3位、およびC6位の少なくとも一つの水酸基がエステル化されている。すなわち、本形態に係るセルロースナノファイバーは、C2位、C3位、およびC6位の少なくとも一つに炭素数1〜8のアシル基を有している。
【0057】
より具体的には、本発明の表面修飾セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの表面の水酸基の水素原子がアシル基に置換されていると推定され、結晶性のナノファイバー成分がコアに、非晶性の修飾したセルロースエステル成分(アシル基成分)がシェルになったコアシェル形の断面を有するファイバーになっていると考えられる。
【0058】
表面修飾セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、上述したセルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長の規定と同様である。
【0059】
炭素数1〜8のアシル基は特に制限されず、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、イソプロピオニル基、ブタノイル基(ブチリル基)、イソブタノイル基(イソブチリル基)、バレリル基、イソバレリル基、2−メチルバレリル基、3−メチルバレリル基、4−メチルバレリル基、t−ブチルアセチル基、ピバロイル基、カプロイル基、2−エチルヘキサノイル基、2−メチルヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基などが挙げられる。これらのうち、炭素数2〜4のアシル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基がより好ましく、プロピオニル基が特に好ましい。すなわち、特に好ましい形態において、アシル基はプロピオニル基を含む。プロピオネート成分は他のアシル基成分に比べて流動性等が良好であるため、透明性および平滑性が向上しうる。なお、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子は、単一種のアシル基によって置換されていてもよいし、複数のアシル基によって置換されていてもよい。
【0060】
セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子の少なくとも一部をアシル基で置換することにより、ファイバーの表層を非晶化(樹脂化)することができ、セルロースナノファイバー成分の絡み合いを維持しつつ、結晶性のセルロースナノファイバーに柔軟性を付与できる。これにより、マトリックス樹脂と混合しない場合であっても、成形加工性に優れ、均一な製膜が可能となる。さらに、ファイバーの表層を非晶化(樹脂化)することにより、透明性および表面平滑性を向上しうる。
【0061】
セルロースナノファイバーのアシル基の置換度は、0.5〜2.5であることが好ましい。置換度が0.5以上であればファイバー表面の樹脂成分(アシル成分)が多くなり、製膜性および透明性が向上し、さらに欠陥を低減できるため好ましい。置換度が2.5以下であれば、結晶性ナノファイバー部分(コア部)が多くなり、ナノファイバーの絡み合いが増大して、熱線膨張性が優れるため好ましい。より好ましくは、置換度が0.5〜2.0である。
【0062】
上記化学式(A)に示すように、セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基(−OH)を有している。「セルロースナノファイバーのアシル基の置換度」とは、1グルコース単位あたりのアシル基の平均数を示し、1グルコース単位の2位、3位および6位の水酸基の水素原子のいずれかがアシル基に置換されているかを示す。すなわち、2位、3位および6位の水酸基の水素原子がすべてアシル基で置換されたとき置換度(最大の置換度)は3.0となる。アシル基は、グルコース単位の2位、3位、6位に平均的に置換していてもよいし、分布をもって置換していてもよい。置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求められる。
【0063】
表面修飾セルロースナノファイバーの結晶化度は、30〜90%であることが好ましい。結晶化度が30%以上であれば、ナノファイバーの熱線膨張特性の劣化およびこれに伴うフィルムの熱線膨張特性の劣化が抑制されうる。一方、90%以下であれば、製膜性、透明性および表面平滑性の低下が抑制されうる。より好ましくは、結晶化度は50〜90%であり、さらに好ましくは、40〜80%である。
【0064】
結晶化度は以下に記載の方法にて算出できる。
【0065】
[結晶化度の算出方法]
X線回折強度を測定し、下記数式(1)に基づき結晶化度CrIを算出した。なお、I
8は2θ=8°回折ピーク強度を、I
18は2θ=18°の回折ピーク強度を示す。
【0066】
回折ピーク強度は樹脂により異なるが、各スペクトルのピークの強度からベースラインの強度を差し引くことにより算出することができる。
【0068】
(置換度と結晶化度の異なるセルロースナノファイバーを混合)
本発明において、表面修飾セルロースナノファイバーは、アシル基の置換度および結晶化度が異なる表面修飾セルロースナノファイバーを混合したものであることが好ましい。置換度と結晶化度の異なるナノファイバーを混合することで、性能(透明性、生産性)の安定性が向上するので有効である。具体的には、アシル基の置換度が小さくかつ結晶化度の高い表面修飾セルロースナノファイバーと、アシル基の置換度が大きくかつ結晶化度の小さい表面修飾セルロースナノファイバーとを混合して使用することが好ましい。前者は熱膨張性の低下に有利なファイバーで、後者は透明性、生産性に有利なファイバーである。これらを混合することで、本発明の効果である性能の安定性がより安定するので、好ましい。
【0069】
本発明における表面修飾セルロースナノファイバーは、本発明の効果を損ねない範囲で、アシル基以外の官能基で置換、修飾することができる。修飾方法は、セルロースナノファイバーの水酸基を、酸、アルコール類、ハロゲン化試薬、酸無水物、イソシアナート類、シランカップリング剤等の修飾剤を用いて化学修飾する等の公知の方法が使用できる。
【0070】
(c)マトリックス樹脂
本発明において、シート状基材1は、マトリックス樹脂の含有量がセルロースナノファイバーと前記マトリックス樹脂との合計量に対して10質量%以下であることが特徴の一つである。当該マトリックス樹脂の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0質量%、すなわち、マトリックス樹脂を含有しない。
【0071】
本発明において、「マトリックス樹脂」とは、分子量が10,000以上の無機高分子または有機高分子をいう。具体的には、無機高分子としては、ガラス、シリケート材料、チタネート材料等のセラミックス等が挙げられ、有機高分子としては、セルロース樹脂、セルロースエステル樹脂などのセルロース系樹脂、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂等が挙げられる。
【0072】
(d)その他の添加剤
シート状基材は、ガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムを用いて作製した電子素子用基板の性能を更に向上させる目的で、以下(1)炭素ラジカル捕捉剤、(2)一次酸化防止剤、(3)二次酸化防止剤、(4)酸捕捉剤、(5)紫外線吸収剤、(6)可塑剤、(7)マット剤、(8)光学異方性コントロール剤、(9)架橋剤等の添加剤を添加することが好ましい。中でも、後述する溶融押出法を用いる場合には(2)一次酸化防止剤、(3)二次酸化防止剤、(6)可塑剤の添加剤のうち少なくとも1種以上を添加することが好ましく、特に好ましくは(2)、(3)、(6)のすべてを添加する。一方、溶融キャスト法を用いる場合には、(6)可塑剤、(9)架橋剤のうち少なくとも1種以上を添加することが好ましく、特に好ましくは(6)および(9)の2種すべてを添加する。
【0073】
(1)炭素ラジカル捕捉剤
シート状基材は、炭素ラジカル捕捉剤を少なくとも1種以上含有することが好ましい。「炭素ラジカル捕捉剤」とは、炭素ラジカルが速やかに付加反応しうる基(例えば2重結合、3重結合等の不飽和基)を有し、かつ炭素ラジカル付加後に重合等の後続反応が起こらない安定な生成物を与える化合物を意味する。
【0074】
上記炭素ラジカル捕捉剤としては分子内に速やかに炭素ラジカルと反応する基((メタ)アクリロイル基、アリール基等の不飽和基)およびフェノール系、ラクトン系化合物等のラジカル重合禁止能を有する化合物が有用であり、特に下記一般式(1)または一般式(2)で表わされる化合物が好ましい。
【0076】
一般式(1)において、R
11は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、好ましくは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、特に好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0077】
R
12およびR
13は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表し、直鎖でも、分岐構造または環構造を有してもよい。
【0078】
R
12およびR
13は、好ましくは4級炭素を含む「*−C(CH
3)
2−R’」で表される構造(*は芳香環への連結部位を表し、R’は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)である。
【0079】
R
12は、より好ましくはtert−ブチル基、tert−アミル基またはtert−オクチル基である。R
13は、より好ましくはtert−ブチル基、tert−アミル基である。上記一般式(1)で表される化合物として、市販のものでは「SumilizerGM、SumilizerGS」(共に商品名、住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0080】
以下に上記一般式(1)で表される化合物の具体例(I−1〜I−18)を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
前記一般式(2)において、R
22〜R
25はそれぞれ独立して水素原子または置換基を表し、R
22〜R
25で表される置換基としては特に制限はないが、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−プロペニル基、3−ペンテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、4−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基等)、ホスホノ基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、シアノ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、複素環オキシ基、シロキシ基、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホン酸基、スルホン酸の塩、アミノカルボニルオキシ基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ基、クロロフェニルアミノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、イミド基、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、フェノキシカルボニルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、複素環チオ基、チオウレイド基、カルボキシル基、カルボン酸の塩、ヒドロキシル基、メルカプト基、ニトロ基等の各基が挙げられる。これらの置換基は同様の置換基によって更に置換されていてもよい。
【0085】
前記一般式(2)において、R
26は水素原子または置換基を表し、R
26で表される置換基は、前記R
22〜R
25で表される置換基と同様な基を挙げることができる。
【0086】
前記一般式(2)において、nは1または2を表す。
【0087】
前記一般式(2)において、nが1であるとき、R
21は置換基を表し、nが2であるとき、R
21は2価の連結基を表す。R
21が置換基を表すとき、置換基としては、前記R
22〜R
25で表される置換基と同様な基を挙げることができる。
【0088】
R
21は2価の連結基を表すとき、2価の連結基として例えば、置換基を有しても良いアルキレン基、置換基を有しても良いアリーレン基、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、或いはこれらの連結基の組み合わせを挙げることができる。
【0089】
前記一般式(2)において、nは1が好ましい。
【0090】
次に、本発明における前記一般式(2)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によって限定されるものではない。
【0094】
上記、炭素ラジカル捕捉剤は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、通常0.001〜10.0質量部添加することが好ましく、更に好ましくは0.01〜5.0質量部、特に好ましくは、0.1〜1.0質量部である。
【0095】
(2)一次酸化防止剤
シート状基材は、パーオキシラジカルに対する水素ラジカル供与能を有する一次酸化防止剤を少なくとも1種以上含有することが好ましい。
【0096】
「パーオキシラジカルに対する水素ラジカル供与能を有する一次酸化防止剤」とは、パーオキシラジカルによって速やかに引き抜かれる水素原子を分子内に少なくとも1つ以上有する化合物であり、水酸基あるいは1級または2級のアミノ基によって置換された芳香族化合物または立体障害性基を有する複素環化合物であることが好ましく、より好ましくは、オルト位にアルキル基を有するフェノール系化合物あるいはヒンダードアミン系化合物である。
【0097】
(フェノール系化合物)
本発明に好ましく用いられるフェノール化合物は、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されているもの等の、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物には、下記一般式(3)で表される化合物が含まれる。
【0099】
式中、R
31〜R
36は水素原子または置換基を表す。置換基としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子等)、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基等)、シクロアルキル基(例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アラルキル基(例えばベンジル基、2−フェネチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、シアノ基、アシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、ブチルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)、スルホニルアミノ基(例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基等)、ウレイド基(例えば3−メチルウレイド基、3,3−ジメチルウレイド基、1,3−ジメチルウレイド基等)、スルファモイルアミノ基(ジメチルスルファモイルアミノ基等)、カルバモイル基(例えばメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基等)、スルファモイル基(例えばエチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基等)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル基、ブタンスルホニル基、フェニルスルホニル基等)、アシル基(例えばアセチル基、プロパノイル基、ブチロイル基等)、アミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基等)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ニトロソ基、アミンオキシド基(例えばピリジン−オキシド基)、イミド基(例えばフタルイミド基等)、ジスルフィド基(例えばベンゼンジスルフィド基、ベンゾチアゾリル−2−ジスルフィド基等)、カルボキシル基、スルホ基、ヘテロ環基(例えば、ピロール基、ピロリジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基等)等が挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。
【0100】
また、R
31は水素原子、R
32、R
36はt−ブチル基である化合物が好ましい。フェノール系化合物の具体例としては、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシルβ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス−{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのフェノール化合物は、例えば、BASFジャパン社から、「Irganox1076」および「Irganox1010」という商品名で市販されている。
【0101】
上記、フェノール化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、通常0.001〜10.0質量部添加することが好ましく、更に好ましくは0.05〜5.0質量部、特に好ましくは、0.1〜2.0質量部である。
【0102】
(ヒンダードアミン系化合物)
ヒンダードアミン系化合物としては、下記一般式(4)で表される化合物が好ましい。
【0104】
式中、R
41〜R
47は置換基を表す。置換基としては前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義である。R
44は水素原子、メチル基、R
47は水素原子、R
42、R
43、R
45、R
46はメチル基が好ましい。ヒンダードアミン系化合物の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)スクシネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)デカンジオエート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。
【0105】
また、高分子タイプの化合物でもよく、具体例としては、N,N’,N”,N”’−テトラキス−[4,6−ビス−〔ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ〕−トリアジン−2−イル]−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、1,6−ヘキサンジアミン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕]等の、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物等の、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、高分子タイプのヒンダードアミン系化合物の数平均分子量(Mn)は500〜10,000である。
【0106】
これらの中でも、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物等で、数平均分子量(Mn)が2,000〜5,000のものが好ましい。
【0107】
上記タイプのヒンダードアミン化合物は、例えば、BASFジャパン社から、“Tinuvin144”及び“Tinuvin770”、株式会社ADEKAから“アデカスタブ LA−52”という商品名で市販されている。
【0108】
上記、ヒンダードアミン化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、通常0.001〜10.0質量部添加することが好ましく、更に好ましくは0.05〜5.0質量部、特に好ましくは、0.1〜2.0質量部である。
【0109】
(3)二次酸化防止剤
シート状基材は、パーオキサイドに対する還元作用を有する二次酸化防止剤を少なくとも1種以上含有することが好ましい。
【0110】
「パーオキサイドに対する還元作用を有する二次酸化防止剤」とは、パーオキサイドを速やかに還元して水酸基に変換する還元剤を意味する。
【0111】
パーオキサイドに対する還元能を有する二次酸化防止剤としてはリン系化合物または硫黄系化合物が好ましい。
【0112】
(リン系化合物)
リン系化合物としては、ホスファイト(phosphite)、ホスホナイト(phosphonite)、ホスフィナイト(phosphinite)、または第3級ホスファン(phosphane)からなる群より選ばれるリン系化合物が好ましく、具体的には下記一般式(5−1)、(5−2)、(5−3)、(5−4)、(C−5)で表される部分構造を分子内に有する化合物が好ましい。
【0114】
式中、Ph
1及びPh
1’は置換基を表す。置換基としては前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義である。より好ましくは、Ph
1及びPh
1’はフェニレン基を表し、当該フェニレン基の水素原子はフェニル基、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基または炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。Ph
1及びPh
1’は互いに同一でもよく、異なってもよい。Xは単結合、硫黄原子または−CHR−基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を表す。また、これらは前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義の置換基により置換されてもよい。
【0116】
式中、Ph
2及びPh
2’は置換基を表す。置換基としては前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義である。より好ましくは、Ph
2及びPh
2’はフェニル基またはビフェニル基を表し、当該フェニル基またはビフェニル基の水素原子は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基または炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。Ph
2及びPh
2’は互いに同一でもよく、異なってもよい。また、これらは前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義の置換基により置換されてもよい。
【0118】
式中、Ph
3は置換基を表す。置換基としては前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義である。より好ましくは、Ph
3はフェニル基またはビフェニル基を表し、当該フェニル基またはビフェニル基の水素原子は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基または炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。また、これらは前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義の置換基により置換されてもよい。
【0120】
式中、Ph
4は置換基を表す。置換基としては前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義である。より好ましくは、Ph
4は炭素数1〜20のアルキル基またはフェニル基を表し、当該アルキル基またはフェニル基は前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義の置換基により置換されてもよい。
【0122】
式中、Ph
5、Ph
5’及びPh
5”は置換基を表す。置換基としては前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義である。より好ましくは、Ph
5、Ph
5’及びPh
5”は炭素数1〜20のアルキル基またはフェニル基を表し、当該アルキル基またはフェニル基は前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義の置換基により置換されてもよい。
【0123】
リン系化合物の具体例としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、トリデシルホスファイト等のモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)等のジホスファイト系化合物;トリフェニルホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト等のホスホナイト系化合物;トリフェニルホスフィナイト、2,6−ジメチルフェニルジフェニルホスフィナイト等のホスフィナイト系化合物;トリフェニルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン系化合物;等が挙げられる。
【0124】
上記タイプのリン系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“SumilizerGP”、株式会社ADEKAから“アデカスタブ PEP−24G”、“アデカスタブ PEP−36”及び“アデカスタブ 3010”、BASFジャパン社から“IRGAFOS P−EPQ”、堺化学工業株式会社から“GSY−P101”という商品名で市販されている。
【0125】
上記、リン系化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、通常0.001〜10.0質量部添加することが好ましく、更に好ましくは0.05〜5.0質量部、特に好ましくは、0.05〜2.0質量部である。
【0126】
(硫黄系化合物)
硫黄系化合物としては、下記一般式(6)で表される硫黄系化合物が好ましい。
【0128】
式中、R
61及びR
62は置換基を表す。置換基としては前記一般式(3)のR
31〜R
36で表される置換基と同義である。
【0129】
硫黄系化合物の具体例としては、ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル−3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0130】
上記タイプの硫黄系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“Sumilizer
TPL−R”及び“Sumilizer TP−D”という商品名で市販されている。
【0131】
上記硫黄系化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、通常0.001〜10.0質量部添加することが好ましく、更に好ましくは0.05〜5.0質量部、特に好ましくは、0.05〜2.0質量部である。
【0132】
(4)酸捕捉剤
溶融製膜が行われるような高温環境下では酸によっても分解が促進されるため、シート用基材は安定化剤として酸捕捉剤を含有することが好ましい。
【0133】
酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシド等の縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテル等、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22個の炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)等)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド等(例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815C、及び下記一般式(7)の他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物も好ましく用いることができる。
【0135】
式中、nは0〜12の整数である。用いることができるその他の酸捕捉剤としては、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されているものが含まれる。
【0136】
酸捕捉剤は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、通常0.001〜10.0質量部添加することが好ましく、更に好ましくは0.05〜5.0質量部、特に好ましくは、0.05〜2.0質量部である。
【0137】
なお酸捕捉剤は、樹脂に対して酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることができる。
【0138】
(5)紫外線吸収剤
シート状基材は、紫外線吸収剤を含みうる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。さらに、液晶表示装置用途では、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ない好ましい。
【0139】
前記紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。好ましくは、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物である。
【0140】
ベンゾトリアゾール系化合物の具体例として、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(2−オクチルオキシカルボニルエチル)−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(1−メチル−1−フェニルエチル)−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0141】
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)900、チヌビン(TINUVIN)928、チヌビン(TINUVIN)360(いずれもBASFジャパン社製)、LA31(株式会社ADEKA社製)、RUVA−100(大塚化学製)が挙げられる。
【0142】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0143】
なお、ベンゾトリアゾール構造やトリアジン構造を、可塑剤、酸化防止剤、酸掃去剤等の他の添加剤の分子構造の一部に導入させることにより、紫外線吸収剤としての機能を付与してもよい。
【0144】
上記紫外線吸収剤は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0145】
紫外線吸収剤の配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、通常0.1〜5質量部添加することが好ましく、更に好ましくは0.2〜3質量部であり、特に好ましくは0.5〜2質量部である。
【0146】
(6)可塑剤
シート状基材は可塑剤を含みうる。本発明において、可塑剤とは、分子量が500〜10,000である、脆弱性を改善したり、柔軟性を付与したりすることができる化合物をいう。本発明において、可塑剤は、表面修飾セルロースナノファイバーの親水性を改善し、ガスバリア性フィルムの透湿度を改善することができ、透湿防止剤としての機能を有する。
【0147】
また、本発明の好ましい実施形態においては、溶融押出時のフィルム構成材料の溶融温度や溶融粘度を低下させるために、可塑剤が添加される。ここで、溶融温度とは、材料が加熱され流動性が発現された状態の温度を意味する。高分子材料を溶融流動させるためには、少なくともガラス転移温度よりも高い温度に加熱する必要がある。ガラス転移温度以上においては、熱量の吸収により弾性率や粘度が低下し、流動性が発現する。ただし、高温下では、溶融と同時に熱分解によって表面修飾セルロースナノファイバーの分子量の低下が発生し、得られるフィルムの力学特性等に悪影響を及ぼすことがあり、低い温度で樹脂を溶融させる必要がある。したがって、フィルム構成材料の溶融温度を低下させるべく、表面修飾セルロースナノファイバーのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤が添加されうる。
【0148】
可塑剤としては特に限定されないが、好ましくは、多価アルコールと1価のカルボン酸とからなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤が好ましい。
【0149】
(多価アルコールエステル系可塑剤)
エステル系可塑剤の原料である多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール等を挙げることができる。特に、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0150】
多価アルコールエステル系の一つであるエチレングリコールエステル系の可塑剤としては、具体的には、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジブチレート等のエチレングリコールアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジシクロプロピルカルボキシレート、エチレングリコールジシクロヘキルカルボキシレート等のエチレングリコールシクロアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジ4−メチルベンゾエート等のエチレングリコールアリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にエチレングリコール部も置換されていてもよく、エチレングリコールエステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0151】
多価アルコールエステル系の一つであるグリセリンエステル系の可塑剤としては、具体的にはトリアセチン、トリブチリン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンオレートプロピオネート等のグリセリンアルキルエステル、グリセリントリシクロプロピルカルボキシレート、グリセリントリシクロヘキシルカルボキシレート等のグリセリンシクロアルキルエステル、グリセリントリベンゾエート、グリセリン4−メチルベンゾエート等のグリセリンアリールエステル、ジグリセリンテトラアセチレート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンテトララウレート等のジグリセリンアルキルエステル、ジグリセリンテトラシクロブチルカルボキシレート、ジグリセリンテトラシクロペンチルカルボキシレート等のジグリセリンシクロアルキルエステル、ジグリセリンテトラベンゾエート、ジグリセリン3−メチルベンゾエート等のジグリセリンアリールエステル等が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にグリセリン、ジグリセリン部も置換されていてもよく、グリセリンエステル、ジグリセリンエステルの部分構造がポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0152】
その他の多価アルコールエステル系の可塑剤としては、具体的には特開2003−12823号公報の段落30〜33記載の多価アルコールエステル系可塑剤、特開2006−188663号公報の段落64〜74記載の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
【0153】
これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更に多価アルコール部も置換されていてもよく、多価アルコールの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0154】
上記多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤の中では、アルキル多価アルコールアリールエステルが好ましく、具体的には上記のエチレングリコールジベンゾエート、グリセリントリベンゾエート、ジグリセリンテトラベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、特開2003−12823号公報の段落31記載例示化合物16、特開2006−188663号公報の段落71記載例示化合物48が挙げられる。
【0155】
(多価カルボン酸エステル系可塑剤)
多価カルボン酸エステル系の一つであるジカルボン酸エステル系の可塑剤としては、具体的には、ジドデシルマロネート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基は更に置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。
【0156】
またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、または規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0157】
また、1価のアルコール由来のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基の水素原子は、アルコキシカルボニル基で置換されていてもよい。かような可塑剤としては、例えば、エチルフタリルエチルグリコレートが挙げられる。
【0158】
その他の多価カルボン酸エステル系の可塑剤としては、具体的にはトリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また1置換でもよく、これらの置換基は更に置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造がポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0159】
上記多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の中では、アルキルジカルボン酸アルキルエステルが好ましく、具体的には上記のジオクチルアジペートが挙げられる。
【0160】
(その他の可塑剤)
本発明に用いられるその他の可塑剤としては、燐酸エステル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。
【0161】
(燐酸エステル系可塑剤)
燐酸エステル系可塑剤としては、具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の燐酸アルキルエステル、トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等の燐酸シクロアルキルエステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート等の燐酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
【0162】
また、エチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等の燐酸エステルが挙げられる。これらの置換基は同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
【0163】
更に燐酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。上記化合物の中では、燐酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
【0164】
(炭水化物エステル系可塑剤)
炭水化物とは、糖類がピラノースまたはフラノース(6員環または5員環)の形態で存在する単糖類、二糖類または三糖類を意味する。炭水化物の非限定的例としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、セロビオース、マンノース、キシロース、リボース、ガラクトース、アラビノース、フルクトース、ソルボース、セロトリオース及びラフィノース等が挙げられる。炭水化物エステルとは、炭水化物の水酸基とカルボン酸が脱水縮合してエステル化合物を形成したものを指し、詳しくは、炭水化物の脂肪族カルボン酸エステル、或いは芳香族カルボン酸エステルを意味する。脂肪族カルボン酸として、例えば酢酸、プロピオン酸等を挙げることができ、芳香族カルボン酸として、例えば安息香酸、トルイル酸、アニス酸等を挙げることができる。炭水化物は、その種類に応じた水酸基の数を有するが、水酸基の一部とカルボン酸が反応してエステル化合物を形成しても、水酸基の全部とカルボン酸が反応してエステル化合物を形成してもよい。本発明においては、水酸基の全部とカルボン酸が反応してエステル化合物を形成するのが好ましい。
【0165】
炭水化物エステル系可塑剤として、具体的には、グルコースペンタアセテート、グルコースペンタプロピオネート、グルコースペンタブチレート、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエート等を好ましく挙げることができ、この内、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエートがより好ましく、サッカロースオクタベンゾエートが特に好ましい。
【0166】
これらの化合物の一例を下記に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0167】
モノペットSB :第一工業製薬社製
モノペットSOA:第一工業製薬社製。
【0168】
(ポリマー可塑剤)
ポリマー可塑剤としては、具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルとの共重合体(例えば、共重合比1:99〜99:1の間の任意の比率)等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は1,000〜10,000程度が好ましく、特に好ましくは、5,000〜10,000である。1,000以上であれば揮発性の問題を抑制でき、10,000以下であれば可塑剤の機能を発揮でき、光学フィルムの機械的性質が向上しうる。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。
【0169】
上記可塑剤は1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができるが、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0170】
可塑剤の配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾ナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、0.1〜20質量%添加することが好ましく、更に好ましくは0.2〜10質量部である。
【0171】
(7)マット剤
シート状基材は、滑り性や光学的、機械的機能を付与するためにマット剤を含みうる。
【0172】
マット剤としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。マット剤の形状は、球状、棒状、針状、層状、平板状等の形状のものが好ましく用いられる。
【0173】
マット剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の金属の酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることができる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低くできるので好ましい。
【0174】
これらの微粒子は有機物により表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下できるため好ましい。表面処理は、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等で行うことが好ましい。
【0175】
微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。通常、微粒子の一次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましくは、7〜14nmである。これらの微粒子は、基材表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。
【0176】
かような二酸化ケイ素の微粒子は、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600、NAX50等、日本触媒(株)製のKE−P10、KE−P30、KE−P100、KE−P150等の商品名で市販されており、使用することができる。
【0177】
中でも、フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため、好ましくはアエロジル200V、R972V、NAX50、KE−P30、KE−P100である。
【0178】
これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
【0179】
マット剤を添加するほど、得られるフィルムの滑り性は向上するが、添加するほどヘイズが上昇するため、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。一例をあげると、表面修飾ナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、0.001〜5質量部添加することが好ましく、より好ましくは0.005〜1質量部であり、更に好ましくは0.01〜0.5質量部である。
【0180】
(8)光学異方性コントロール剤
光学異方性をコントロールするためのリターデーション上昇剤が、場合により添加されうる。これらは、フィルムのリターデーションを調整するため、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をリターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、0.01〜20質量部の範囲で使用する。さらには、0.05〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は、一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は、一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。これらについては、特開2004−109410号、特開2003−344655号、特開2000−275434号、特開2000−111914号、特開平12−275434号公報などに詳細が記載されている。
【0181】
(9)架橋剤
シート状基材は、架橋剤を含有することができる。架橋剤を添加することで、セルロースナノファイバー間の絡み合いを密にでき、透明性が向上し、かつ、熱膨張性が低下するので好ましい。
【0182】
架橋剤としては、金属酸化物、例えば酸化アルミニウム、ホウ酸、酸化コバルト等が好ましい。また、メタキシレンビニルスルホン酸等のビニルスルホン基を有する化合物、ビスフェノールグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、ブロックドイソシアネート基を有する化合物、2−メトキシ−4,6−ジクロルトリアジン、2−ソディウムオキシ−4,6−ジクロルトリアジン等の活性ハロゲン基を有する化合物、ホルムアルデヒド、グリオキザール等のアルデヒド基を有する化合物、ムコクロル酸、テトラメチレン−1,4−ビス(エチレンウレア)、ヘキサメチレン−1,6−ビス(エチレンウレア)等のエチレンイミン基を有する化合物および活性エステル生成基を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。これらの架橋剤は2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうち、金属酸化物、ビニルスルホン基を有する化合物、エチレンイミン基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物が特に好ましい。
【0183】
本発明において、ビニルスルホン基を有する化合物とは、スルホニル基に結合したビニル基あるいはビニル基を形成しうる基を有する化合物であり、好ましくはスルホニル基に結合したビニル基またはビニル基を形成しうる基を少なくとも2つ有しており、下記一般式(8)で表されるものが好ましい。
【0185】
式中、Aはn価の連結基であり、例えばアルキレン基、置換アルキレン基、フェニレン基、置換フェニレン基であり、間にアミド連結部分、アミノ連結部分、エーテル連結部分あるいはチオエーテル連結部分を有していても良い。置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、アミノ基、スルホン酸基、硫酸エステル基等が挙げられる。nは1、2、3又は4である。
【0186】
以下にビニルスルホン系架橋剤の代表的具体例を挙げる。
【0189】
エポキシ基を有する化合物としては、特にエポキシ基を2つ以上有し1つの官能基当たりの分子量が300以下のものが好ましい。以下にエポキシ基を有する架橋剤の具体例を挙げる。
【0192】
エチレンイミン基を有する化合物としては、特に2官能、3官能で分子量が700以下のものが好ましく用いられる。以下にエチレンイミン基を有する架橋剤の具体例を挙げる。
【0194】
架橋剤の使用量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、表面修飾セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対し、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0195】
シート状基材の厚さは特に制限されないが、10〜200μmが好ましく、さらに好ましくは50〜150μmであって、50〜125μmであることが特に好ましい。
【0196】
(ガスバリア層)
ガスバリア層は、シート状基材1の少なくとも片面に形成され、主に水蒸気と酸素に対するガスバリア性の高い層をいう。ガスバリア層は、特に高湿度に対する基材および当該基材で保護される各種電子素子の劣化を防止するためのものである。
【0197】
ガスバリア層は上記機能を有する透明性の良好な無機膜であれば特に制限はない。透明性、ガスバリア性の観点から、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素酸化窒素化物、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化窒化アルミニウム、SiAlON等が使用できる。
【0198】
さらに耐酸性、耐アルカリ性の観点から、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、および/またはケイ素酸化窒素化物を主成分(ガスバリア層の構成材料100質量%に対して30質量%以上)とすることが好ましく、ガスバリア層の構成材料100質量%に対して40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。ガスバリア層は、単層構造を有していても、ガスバリア性をより向上させる上で複数の層から形成される積層構造を有していてもよい。
【0199】
ガスバリア層の表面の表面粗さ(Ra)は、2nm以下が好ましく、さらに好ましくは1nm以下である。表面粗さが、上記範囲にあることで有機電子素子用基板として使用する際に、凹凸が少ない平滑な膜面による光透過効率の向上効果と、電極間リーク電流の低減によるエネルギー変換効率の向上効果が得られる。なお、ガスバリア層の表面粗さ(Ra)は、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、実施例に記載の方法により算出される。
【0200】
ガスバリア層の厚さは特に制限されないが、0.01〜5μm、より好ましくは0.05〜3μm、最も好ましくは0.1〜1μmである。
【0201】
(中間層)
本発明のガスバリア性フィルムは、シート状基材とガスバリア層との間に、中間層を介在させてもよい。かような中間層としては、例えば、平滑層やブリードアウト防止層、アンカーコート層などが挙げられる。かような中間層を形成することにより、ガスバリア層と基材との密着性やガスバリア特性の向上が図られうる。
【0202】
(ガスバリア性フィルムの物性)
ガスバリア性は、JIS−K7129:1992に準拠した方法により測定することができる。酸素透過度は、JIS−K7126:1987に準拠した方法により測定することができる。本発明では、水蒸気透過度(60±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10
−3g/(m
2・24h)以下であればよい。一般に、水蒸気透過度より酸素透過度の方が小さいため、上記水蒸気透過度をみたすものであれば、有機素子として、問題になることは少ない。
【0203】
透明性は、全光線透過率が85%以上、特に90%以上の高い透明性を有することが好ましい。85%未満では、適用用途の幅が狭まり、特に画像が乱れたり、鮮鋭性が劣化したりするおそれがある。また上記の高い透明性は製造工程での熱加工後においても必要とされる。光線透過率は、分光光度計により測定することができる。
【0204】
ヘイズ値は好ましくは1.5%未満、より好ましくは1%未満、さらに好ましくは0.5%未満である。ヘイズは濁度計を用いて測定することができる。
【0205】
着色性の指標としては黄色度(イエローインデックス、YI)を用いることができ、好ましくは3.0以下、より好ましくは1.0以下である。黄色度はJIS−K7103:1994に基づいて測定することができる。
【0206】
20〜200℃における線熱膨張係数は、好ましくは15ppm/K以下であり、より好ましくは10ppm/K以下であり、さらに好ましくは5ppm/K以下である。15ppm/Kより大きいと、素子デバイスを形成する導電膜やバリア膜等の無機膜、さらにガラスとの線熱膨張係数との違いから、製造工程での熱加工等により、膜が割れて機能を発揮できなくなったり、フィルムにたわみや歪みが発生したり、素子用部品として結像性能や屈折率が狂う等の問題が発生したりする場合がある。
【0207】
ガスバリア性フィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが好ましく用いられる。特に膜厚は50〜150μmであることが特に好ましい。さらに好ましくは75〜125μmである。
【0208】
(ガスバリア性フィルムの製造方法)
上記ガスバリア性フィルムの製造方法は特に制限されず、従来公知の方法を適宜参照して作製することができる。
【0209】
本発明の他の一形態によればガスバリア性フィルムの製造方法が提供される。本形態の製造方法は、(1)セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子の少なくとも一部を炭素数1〜8のアシル基で置換して表面修飾セルロースナノファイバーを得、前記表面修飾セルロースナノファイバーを溶融押出法または溶液キャスト法で製膜してシート状基材を得る工程Aと、(2)前記シート状基材上にガスバリア層を形成する工程Bと、を有する。
【0210】
(1)工程A
(1−1)表面修飾セルロースナノファイバーの製造
まず、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子の少なくとも一部をアシル基で置換して表面修飾セルロースナノファイバーを得る。
【0211】
セルロースナノファイバーとしては、上述のように、原料セルロース繊維の解繊処理によって得られたものを使用すればよい。
【0212】
セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子をアシル基で置換する方法は特に制限されず、公知の方法に従って行うことができる。例えば、解繊処理によって得られたセルロースナノファイバーを、水、または適当な溶媒に添加して分散させた後、これにカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物、カルボン酸、またはアルデヒドを添加して適当な反応条件下で反応させれば良い。
【0213】
この際、必要に応じて、反応触媒を添加することができ、例えば、ピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができるが、反応速度や重合度の低下を防止するため、ピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。反応温度としては、セルロース繊維の黄変や重合度の低下等の変質を抑制し、反応速度を確保する観点で、40〜100℃程度が好ましい。反応時間については用いるアシル化剤や処理条件により適宜選定すればよい。
【0214】
(1−2)製膜
次いで、上記で得た表面修飾セルロースナノファイバーを溶融押出法または溶液キャスト法で製膜してシート状基材を得る。
【0215】
(a)溶融押出法
溶融押出法(溶融流延法)を使用する場合には、表面修飾セルロースナノファイバーおよび必要に応じて、微量のマトリックス樹脂、添加剤を含むセルロースナノファイバー組成物を高温で溶融して得た溶融物を加圧ダイ等から押出して、例えば、無限に移送する無端の金属ベルトまたは回転する金属ドラムの流延用支持体上に流延し製膜する方法でシート状基材を製造することができる。
【0216】
(a―1)セルロースナノファイバー組成物の調製
まず、セルロースナノファイバーおよび必要に応じて添加されるマトリックス樹脂、添加剤を含むセルロースナノファイバー組成物を調製する。当該組成物の調製は、セルロースナノファイバーの解繊処理後から溶融前のいかなる工程において行ってもよい。好ましくは、当該組成物は、溶融する前に混合され、さらに好ましくは、加熱前に混合される。あるいは、添加剤を樹脂溶融物の製造過程で添加してもよい。この際、複数の添加剤を使用する場合には、予め溶媒にこれらを混合分散させた後、溶媒を揮発または沈殿させた固形物を得て、これを樹脂溶融物の製造過程で添加することができる。
【0217】
混合手段は特に制限されないが、例えば、V型混合機、円錐スクリュー型混合機、水平円筒型混合機等、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、伸長流動分散機等の一般的な混合機を用いることができる。
【0218】
さらに、セルロースナノファイバー組成物は溶融前に、熱風乾燥または真空乾燥することが好ましい。
【0219】
(a−2)溶融押出
上記で得たセルロースナノファイバー組成物を、押出し機を用いて溶融して製膜する。この際、セルロースナノファイバー組成物を調製した後、該組成物を押出し機を用いて直接溶融して製膜するようにしてもよし、または、セルロースナノファイバー組成物をペレット化した後、該ペレットを押出し機で溶融して製膜するようにしてもよい。
【0220】
また、セルロースナノファイバー組成物が、融点の異なる複数の材料を含む場合には、融点の低い材料のみが溶融する温度で一旦、いわゆるおこし状の半溶融物を作製し、半溶融物を押出し機に投入して製膜することも可能である。
【0221】
セルロースナノファイバー組成物に熱分解しやすい材料が含まれる場合には、溶融回数を減らす目的で、ペレットを作製せずに直接製膜する方法や、上記のようなおこし状の半溶融物を作ってから製膜する方法が好ましい。
【0222】
押出し機は、市場で入手可能な種々の押出し機を使用可能であるが、溶融混練押出し機が好ましく、単軸押出し機でも2軸押出し機でもよい。セルロースナノファイバー組成物からペレットを作製せずに、直接製膜を行う場合、適当な混練度が必要であるため2軸押出し機を用いることが好ましいが、単軸押出し機でも、スクリューの形状をマドック型、ユニメルト、ダルメージ等の混練型のスクリューに変更することにより、適度の混練が得られるので、使用可能である。一旦、ペレットやおこし状の半溶融物を使用する場合は、単軸押出し機でも2軸押出し機でも使用可能である。
【0223】
溶融温度は、セルロースナノファイバー組成物(フィルム構成材料)の粘度や吐出量、製造するシートの厚み等によって好ましい条件が異なるが、一般的には、フィルムのガラス転移温度Tgに対して、Tg以上、Tg+100℃以下、好ましくはTg+10℃以上、Tg+90℃以下である。
【0224】
本発明においては、セルロースナノファイバーのアシル基で修飾された部分のTgが目安となる。ただし、高温下においてはセルロースナノファイバーの熱分解も懸念されるので、具体的には、溶融押出し時の温度は、好ましくは150〜300℃であり、より好ましくは180〜270℃の範囲であり、さらに好ましくは200〜250℃の範囲である。
【0225】
押出し時の溶融粘度は、好ましくは10〜100000P(1〜10000Pa・s)であり、より好ましくは100〜10000P(10〜1000Pa・s)である。
【0226】
押出し機内でのセルロースナノファイバー組成物の滞留時間は短い方が好ましく、好ましくは5分以内、より好ましくは3分以内、さらに好ましくは2分以内である。滞留時間は、押出し機1の種類、押出す条件にも左右されるが、組成物の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
【0227】
(a−3)冷却
溶融押出は、T型ダイよりフィルム状に押出すことが好ましい。さらに、押出後、フィルム状の押出物を、静電印加法等により冷却ドラムに密着させ、冷却固化させ、未延伸フィルムを得ることが好ましい。この際、冷却ドラムの温度は90〜150℃に維持されていることが好ましい。
【0228】
押出し機内及び押出した後の冷却工程は、窒素ガス等の不活性ガスで置換するか、あるいは減圧することにより、酸素の濃度を下げることが好ましい。
【0229】
上記工程により、未延伸フィルム(シート状基材)が得られる。
【0230】
(b)溶液キャスト法
溶液キャスト法を使用する場合には、工程Aは、表面修飾セルロースナノファイバーおよび必要に応じて、微量のマトリックス樹脂、添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、前記ウェブを金属支持体から剥離する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程を含む。
【0231】
(b−1)ドープ調製工程
まず、表面修飾セルロースナノファイバーおよび必要に応じて、微量のマトリックス樹脂、添加剤を溶剤に溶解させ、ドープを得る。
【0232】
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、表面修飾セルロースナノファイバーの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方が表面修飾セルロースナノファイバーの溶解性の点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が2〜30質量%であり、貧溶剤が70〜98質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースナノファイバーを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。これらは、表面修飾セルロースナノファイバーのアシル基の置換度や結晶化度によって変化するので、便宜選択することができる。
【0233】
前記良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0234】
前記貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。
【0235】
ドープ中の表面修飾セルロースナノファイバー濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、表面修飾セルロースナノファイバーの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0236】
上記記載のドープを調製する時の、表面修飾セルロースナノファイバーの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できるため好ましい。すなわち、溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
【0237】
また、表面修飾セルロースナノファイバーを貧溶剤と混合して湿潤または膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を発現させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0238】
溶剤添加後の加熱温度は、高い方がセルロースナノファイバーの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。もしくは冷却溶解法も好ましく用いられる。
【0239】
各種添加剤は製膜前のドープにバッチ添加してもよいし、添加剤をメタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に溶解させた溶液を別途用意してインライン添加してもよい。特に微粒子はろ過材への負荷を減らすために、一部または全量をインライン添加することが好ましい。インライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
【0240】
表面修飾セルロースナノファイバーを溶解させたドープは、濾過により、原料のセルロースナノファイバーに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm
2以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm
2以下であり、更に好ましくは50個/m
2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm
2以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0241】
濾過の方法は特に制限されず、通常の方法で行うことができ、濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過することが好ましい。
【0242】
濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0243】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0244】
濾過条件としては特に制限されないが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の発現が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0245】
(b−2)ドープ流延工程
続いて、ドープを金属支持体上に流延(キャスト)する。
【0246】
金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることができる。
【0247】
(b−3)乾燥工程
続いて、流延したドープをウェブとして乾燥させる。
【0248】
金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度である。温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化したりする場合がある。好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃が更に好ましい。
【0249】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0250】
なお、乾燥工程において除去される溶媒を回収し、上記(b−1)ドープ調製工程における上記表面修飾セルロースナノファイバーの溶解に用いられる溶媒として再利用して用いることができる。なお、回収溶剤中に、添加剤(例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分等)が微量含有される場合もあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
【0251】
(b−4)剥離工程
次いで、ウェブを金属支持体から剥離する。
【0252】
製膜後のフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0253】
本発明においては、残留溶媒量は下記数式(2)で定義される。
【0255】
式中、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、Nは前記採取した試料(質量Mの試料)を115℃で1時間の加熱した後の質量である。
【0256】
ただし、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0257】
なお、剥離したウェブはさらに乾燥し、残留溶媒量を好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0〜0.01質量%以下とすることが望ましい。
【0258】
当該乾燥は、一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0259】
(b−5)フィルム巻き取り工程
最後に、得られたウェブ(仕上がったフィルム)を巻取ることにより、シート状基材が得られる。
【0260】
(1−3)延伸処理
上記で得たシート状基材は、製膜後、少なくとも一方向に延伸することができる。延伸処理することでフィルムのリターデーションを調整することができ、光学特性が向上しうる。
【0261】
延伸方法としては、前述の冷却ドラムから剥離され、得られた未延伸フィルムを複数のロール群および/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介してセルロースナノファイバーのアシル基で修飾された部分のガラス転移温度(Tg)−50℃からTg+100℃の範囲内に加熱し、フィルム搬送方向(長手方向ともいう)に、一段または多段縦延伸することが好ましい。次に、上記のようにして得られた延伸された表面修飾セルロースフィルムを、フィルム搬送方向に直交する方向(幅手方向ともいう)に延伸することも好ましい。フィルムを幅手方向に延伸するには、テンター装置を用いることが好ましい。
【0262】
フィルム搬送方向またはフィルム搬送方向に直交する方向に延伸する場合は、2.5倍以下の倍率で延伸することが好ましく、より好ましくは1.1〜2.0倍の範囲である。2.5倍以下であれば、ナノファイバー周辺の空隙発生を防止でき、透明性の劣化を抑制できる。
【0263】
また、延伸に引き続き熱加工することもできる。熱加工は、Tg−100℃〜Tg+50℃の範囲内で通常0.5〜300秒間搬送しながら行うことが好ましい。
【0264】
熱加工手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で、熱風で行うことが好ましい。フィルムの加熱は段階的に高くしていくことが好ましい。
【0265】
熱加工されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。また冷却は、最終熱加工温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。
【0266】
冷却する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。尚、冷却速度は、最終熱加工温度をT1、フィルムが最終熱加工温度からTgに達するまでの時間をtとしたとき、(T1−Tg)/tで求めた値である。
【0267】
(c)多層化
また、共流延法によって多層構成としたフィルムを得てもよい。多層構成にすることで、製造工程の熱加工での反りや歪み等を調整したり、透明性や熱膨張性を調整したりできるので、有効である。例えば、アシル基の置換度が小さく結晶化度が高いファイバーをセンターに配置し、アシル基の置換度が大きく結晶化度が小さいファイバーを両面に配置した構成とすることにより、熱加工での反りや歪み等を改善できる。共流延法によって多層構成にする場合の膜厚構成は、適宜調整することができる。
【0268】
(1−4)カレンダー処理
上記で得たシート状基材は、製膜後、加熱カレンダー処理で透明、平滑化することができる。なお、加熱カレンダー処理に加えて延伸処理を行ってもよく、製膜後、延伸処理およびカレンダー処理の両方を行う場合、その順序は特に制限されず、どちらを先に行ってもよい。
【0269】
加熱カレンダー処理により、セルロースナノファイバーの修飾した樹脂成分(アシル基成分)をフィルム中に拡散させることができ、これにより、透明性、生産性、熱膨張、平滑性が向上する。
【0270】
加熱カレンダー処理としては、単一プレスロールによる通常のカレンダー装置の他に、これらが多段式に設置された構造をもつスーパーカレンダー装置を用いてもよい。これらの装置、およびカレンダー処理時におけるロール両側それぞれの材質(材質硬度)や線圧を目的に応じて選定することができる。
【0271】
(2)工程B
続いて、上記シート状基材上にガスバリア層を形成する。
【0272】
ガスバリア層の形成方法は、特に制限されず、塗布、ゾルゲル法、蒸着法、CVD(化学気相成長法)、スパッタリング法、等の公知手法を使用することができる。
【0273】
ただし、CVD法のように膜材料をガスとして供給するよりも、基材表面に塗布したほうがより均一で、平滑なガスバリア層を形成することができる。特に、CVDを使用した場合には気相で反応性が増した原料物質が基材表面に堆積する工程と同時に、気相中で不必要なパーティクルとよばれる異物が生成するおそれがある。かかる観点から、前記シート状基材上にガスバリア層の前駆体材料を塗布した後に、塗布膜を改質する方法が好ましく用いられる。塗布法では、原料を気相反応空間に存在させないことで、これらパーティクルの発生を抑制することが可能になる。
【0274】
当該前駆体材料は、ガスバリア層の材料にあわせて選択すればよく、ポリシラザン化合物、ゾル状の有機金属化合物などが挙げられる。有機金属化合物としては、加水分解が可能なものであればよく、特に限定されるものではないが、好ましい有機金属化合物としては、金属アルコキシドが挙げられる。
【0275】
好ましくは、ガスバリア層の前駆体材料としてポリシラザン化合物を使用する。すなわち、工程Bは、前記シート状基材上にポリシラザン化合物を含有する塗布液を塗布(塗布工程)後、改質処理をすること(改質工程)を含むことが好ましい。
【0276】
マトリックス樹脂をセルロースナノファイバーの周囲に存在させた従来のセルロースナノファイバー基材表面に、ポリシラザン化合物を用いてガスバリア層を形成した場合には、ポリシラザン含有液の塗布後の紫外線照射などの改質処理によって、マトリックス樹脂が影響を受け、基材表面近傍での層分離や微小な表面性状の不均一を引き起こし、ガスバリア性が向上されないだけでなく、基材とガスバリア層との接着性や表面の平滑性が損なわれるという問題があった。さらに、平滑性や接着性の問題を解決すべく、基材とガスバリア層との間に中間層を設けた場合であっても、長期保存した際の接着性が損なわれ、保存性が悪化する結果となっていた。
【0277】
本発明の詳細なメカニズムは明らかになっていないが、本発明のシート状基材はマトリックス樹脂を実質的に含有しないため、シート状基材とガスバリア層との接着性、特に長期保存した際の接着性(保存性)を向上しうる。
【0278】
以下、当該好ましい形態について説明する。
【0279】
(2−1)ポリシラザン化合物含有塗布液の塗布工程
まず、ポリシラザン化合物を有機溶媒に溶解させ、ポリシラザン化合物を含有する塗布液を調製する。
【0280】
「ポリシラザン化合物」とは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO
2、Si
3N
4及び両方の中間固溶体SiO
xN
y等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
【0281】
シート状基材上に均一な塗工層を形成し、改質後に良好なガスバリア性を有するガスバリア層とせしめるとともに基材の特性を損なわないようにするためには、比較的低温でセラミック化してシリカに変性する下記一般式(9)で示される構成単位を有するポリシラザン化合物を用いるのがよい。
【0283】
式中、R
91、R
92、およびR
93は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数2〜3のアルケニル基、炭素数1〜3のアルキルシリル基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【0284】
得られるガスバリア膜の緻密性の観点からは、R
91、R
92、およびR
93のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
【0285】
パーヒドロポリシラザンは直鎖構造と6員環および8員環を中心とする環構造とが存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で600〜2000程度(ポリスチレン換算)であり、常温で液体または固体の物質であり、分子量により異なる。これらは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
【0286】
一方、Siと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換されたオルガノポリシラザン(R
91、R
92、および/またはR
93がアルキル基を有する化合物)は、メチル基等のアルキル基を有することにより下地基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より(平均)膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。
【0287】
したがって、用途に応じて適宜、パーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンとを選択してもよく、混合して使用することもできる。
【0288】
低温でセラミック化するポリシラザン化合物の別の例としては、上記一般式(9)のポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等が挙げられる。
【0289】
有機溶媒としては、ポリシラザン化合物と容易に反応するアルコール系や水分を含有しないものであれば特に制限されない。具体的には、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリコロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等がある。これらの溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度等を考慮し目的にあわせて選択され、複数の溶剤を混合してもよい。
【0290】
ポリシラザン化合物含有塗布液中のポリシラザン濃度は目的とするガスバリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、塗布液の全質量に対して0.2〜35質量%程度である。
【0291】
ポリシラザン化合物を含有する塗布液には、酸化珪素化合物への転化を促進するために、アミンや金属の触媒を添加することもできる。具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製 アクアミカ NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140などが挙げられる。
【0292】
次いで、少なくとも1層のポリシラザン化合物を含有する塗布液を、シート状基材上に塗布する。
【0293】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0294】
塗布厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗布厚さは、乾燥後の厚さが好ましくは1nm〜100μm程度、さらに好ましくは10nm〜10μm程度、最も好ましくは10nm〜1μm程度となるように設定され得る。
【0295】
(2−2)除湿工程
上記塗布工程後、続く改質工程を行う前または改質工程中に、ポリシラザン含有液の塗布膜から水分を除去する工程(除湿工程)を含むことが好ましい。改質処理前または改質中に水分が除去されることでシラノールに転化したポリシラザン膜の脱水反応を促進することができる。したがって、ポリシラザン膜は除湿工程により水分が取り除かれた後、その状態を維持されて改質処理されることが好ましい。
【0296】
〈ポリシラザン膜の含水量〉
ポリシラザン膜中の含水率は、下記の分析方法により得られる含水量からポリシラザン膜の体積で除した値と定義される。除湿工程により水分が取り除かれた状態のポリシラザン膜中の含水率は、好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは0.01%以下(検出限界以下)である。
【0297】
ポリシラザン膜の含水率は以下の分析方法で検出できる。
【0298】
ヘッドスペース−ガスクロマトグラフ/質量分析法
装置:HP6890GC/HP5973MSD
オーブン:40℃(2min)、その後、10℃/minの速度で150℃まで昇温
カラム:DB−624(0.25mmid×30m)
注入口:230℃
検出器:SIM m/z=18
HS条件:190℃・30min。
【0299】
より好ましくは、除湿工程は、ポリシラザン膜中の溶媒を取り除く第一の除湿工程と、それに続くポリシラザン膜中の水分を取り除く第二の除湿工程を含む。
【0300】
第一の除湿工程においては、主に溶媒を取り除くための乾燥条件を、熱処理などの方法で適宜設定すればよい。ただし、この際の条件により、水分が除去されてもよい。
【0301】
熱処理温度は迅速処理の観点から高い温度が好ましいが、樹脂基材への熱ダメージを考慮し、温度と処理時間とを設定することができる。一例をあげると、シート状基材(表面修飾セルロースナノファイバー)のガラス転位温度(Tg)が70℃である場合には熱処理温度は200℃以下に設定することができる。
【0302】
処理時間は溶媒が除去され、かつ基材への熱ダメージがすくなくなるように短時間に設定することが好ましく、例えば熱処理温度が200℃以下である場合には30分以内とすることが好ましい。
【0303】
第二の除湿工程は、ポリシラザン膜中の水分を取り除くための工程である。
【0304】
好ましい方法としては、低湿度環境に維持される形態である。低湿度環境における湿度は、温度により変化するので温度と湿度の関係は露点の規定により好ましい形態が示される。好ましい露点は4度以下(温度25度/湿度25%)で、より好ましい露点は−8度(温度25度/湿度10%)以下であり、維持される時間はポリシラザン膜の膜厚によって適宜変わる。例えば、ポリシラザン膜厚1μ以下の条件においては、好ましい露点は−8度以下で、維持される時間は5分以上である。また、水分を取り除きやすくするために減圧乾燥してもよい。減圧乾燥における圧力は常圧〜0.1MPaを選ぶことができる。
【0305】
第一の除湿工程および第二の除湿工程の好ましい条件の組み合わせとしては、例えば、第一の除湿工程で温度60〜150℃、処理時間1分〜30分間で溶媒を除去し、第二の除湿工程の露点は4度以下で処理時間は5分〜120分により水分を除去する条件がある。第一の除湿工程および第二の除湿工程を設ける場合のこれらの区分は露点の変化、すなわち、工程環境の露点の差が10度以上変化する時点で区別することができる。
【0306】
(2−3)改質工程
本発明において改質処理とは、ガスバリア層の前駆体材料であるポリシラザン化合物を活性エネルギー線の照射または熱処理などによりケイ素酸化物または窒化ケイ素酸化物に添加する処理をいう。
【0307】
改質処理の方法は、ポリシラザン化合物の転化反応に基づく公知の方法を選択することができる。ただし、熱処理によるシラザン化合物の転化反応には450℃以上の高温が必要となるため、改質処理により基材の性能が劣化するおそれがある。かような観点から、本発明においてはより低温で転化反応が可能なプラズマ、紫外線の照射を用いた転化反応が好ましく、紫外線の照射、特にエキシマ照射による添加反応がより好ましい。
【0308】
(a)プラズマ処理
プラズマ処理としては、公知の方法を用いることができるが、大気圧プラズマ処理が好ましい。大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガスおよび/または希ガス(具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等)が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
【0309】
《異なる周波数の電界を二つ以上形成した大気圧プラズマ》
次に、前記大気圧プラズマについて好ましい形態を説明する。大気圧プラズマは、具体的には、国際公開第2007−026545号に記載される様に、放電空間に異なる周波数の電界を2つ以上形成したもので、第1の高周波電界と第2の高周波電界とを重畳した電界を形成することが好ましい。
【0310】
前記第1の高周波電界の周波数ω
1より前記第2の高周波電界の周波数ω
2が高く、且つ、前記第1の高周波電界の強さV
1と、前記第2の高周波電界の強さV
2と、放電開始電界の強さIVとの関係が、
【0312】
を満たし、前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm
2以上である。
【0313】
この様な放電条件をとることにより、例えば窒素ガスのように放電開始電界強度が高い放電ガスでも、放電を開始し、高密度で安定なプラズマ状態を維持でき、高性能な薄膜形成を行うことができる。
【0314】
上記の測定により放電ガスを窒素ガスとした場合、その放電開始電界強度IV(1/2Vp−p)は3.7kV/mm程度であり、従って、上記の関係において、第1の印加電界強度を、V1≧3.7kV/mmとして印加することによって窒素ガスを励起し、プラズマ状態にすることができる。
【0315】
ここで、第1電源の周波数としては、200kHz以下が好ましく用いることができる。またこの電界波形としては、連続波でもパルス波でもよい。下限は1kHz程度が望ましい。
【0316】
一方、第2電源の周波数としては、800kHz以上が好ましく用いられる。この第2電源の周波数が高い程、プラズマ密度が高くなり、緻密で良質な薄膜が得られる。上限は200MHz程度が望ましい。
【0317】
このような2つの電源から高周波電界を形成することは、第1の高周波電界によって高い放電開始電界強度を有する放電ガスの放電を開始するのに必要であり、また第2の高周波電界の高い周波数及び高い出力密度によりプラズマ密度を高くして緻密で良質な薄膜を形成することができる。
【0318】
(b)紫外線照射処理
改質処理の方法として、紫外線照射による処理も好ましい。本発明において、「紫外線」とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜350nmの紫外線を用いる。
【0319】
紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化ケイ素膜または酸化窒化珪素膜を作製することが可能である。
【0320】
この紫外線照射により、基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO
2とH
2Oや、紫外線吸収剤、ポリシラザン化合物自身が励起し、活性化されるため、ポリシラザン化合物のセラミックス化(転化反応)が促進され、また得られるガスバリア層が一層緻密になる。紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
【0321】
紫外線照射装置としては、常用されるいずれの紫外線発生装置でも使用可能である。
【0322】
紫外線の照射は、照射される塗膜を担持している基材がダメージを受けない範囲で照射強度及び/又は照射時間を設定すべきである。一例をあげると、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm
2、好ましくは50〜200mW/cm
2になるように基材−ランプ間距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
【0323】
一般に、紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には基材が変形したり、その強度が劣化したりするなど、基材が損なわれる。従って、この紫外線照射時の基材温度は150℃未満が好ましい。なお、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
【0324】
このような紫外線の発生方法としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機(株)製)、UV光レーザー、等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線をポリシラザン塗膜に照射する際には、効率の向上のため均一な照射を達成するためにも、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから塗膜に当てることが望ましい。
【0325】
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、被塗布基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材(例、シリコンウェハー)を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス(株)製を使用することができる。また、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。
【0326】
紫外線照射に要する時間は、塗布される基材や塗布膜の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分、好ましくは0.5秒〜3分である。
【0327】
本発明において、特に好ましくは、真空紫外線(エキシマ)照射による改質である。すなわち、本発明の特に好ましい実施形態において、工程Bは、前記シート状基材上にポリシラザン化合物を含有する塗布液を塗布後、エキシマ照射処理をすることを含む。
【0328】
(エキシマ照射処理)
エキシマ光とは、希ガスエキシマーまたはヘテロエキシマーを動作媒質とするレーザー光である。Xe,Kr,Ar,Neなどの希ガスの原子は放電などによりエネルギーを得て励起し、他の原子と結合して分子を作ることができる。例えば、希ガスがキセノンの場合には
【0330】
となり、励起されたエキシマ分子であるXe
2*が基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光を発光する。
【0331】
真空紫外線(エキシマ)照射による処理は、シラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nm(好ましくは100〜180nm)の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみによる作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温で、酸化シリコン膜の形成を行う方法である。
【0332】
エキシマ照射に必要な真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動・再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。このため、熱の影響を受けやすいとされるフレシキブルフィルム材料に適している。
【0333】
より好ましくは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから発光効率に優れるXeエキシマランプである。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン膜の改質を実現できる。したがって、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板などへの照射を可能としている。
【0334】
エキシマランプの種類は特に制限されず、二重円筒型ランプや細管エキシマランプが使用できる。二重円筒型ランプは細管ランプに比べ取り扱いや輸送で破損しやすい。細管エキシマランプは構造がシンプルであり、非常に安価な光源を提供できる。ただし、細管ランプの管の外径があまり太いと始動に高い電圧が必要になる。
【0335】
放電の形態は、誘電体バリア放電であってもよいし、無電極電界放電であってもよい。誘電体バリア放電とは両電極間に誘電体(エキシマランプの場合は透明石英)を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じる、雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電である。一方、無電極電界放電は、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極およびその配置は基本的には誘電体バリア放電と同じで良いが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られるため、誘電体バリア放電に比して、チラツキが無い長寿命のランプが得られる。
【0336】
電極の形状はランプに接する面が平面であっても良いが、ランプの曲面に合わせた形状にすればランプをしっかり固定できるとともに、電極がランプに密着することにより放電がより安定する。また、アルミで曲面を鏡面にすれば光の反射板にもなる。
【0337】
なお、シート状基材とガスバリア層との間に中間層を配置する場合には、シート状基材の製膜後、該シート状基材上に中間層を形成し、前記中間層上にガスバリア層を形成すればよい。中間層の形成方法は特に制限されず、特許文献5に記載の方法を参照して、または、これを適宜改変して適用することができる。
【0338】
[電子素子用基板]
上記ガスバリア性フィルムは、透明性、表面平滑性、ガスバリア性、および接着性に優れていることから、電子素子用の透明基板(電子素子用基板)として使用することができる。特に、液晶や有機素子用基板に適用でき、有機素子としては、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機光電変換素子等が挙げられる。
【0339】
本発明のガスバリア性フィルムを電子素子用の透明基板として使用する場合には、必要に応じて、ガスバリア性フィルム上に透明導電膜、ハードコート層を設置することができる。
【0340】
(透明導電膜)
本発明の電子素子用基板に用いることができる透明導電膜は特に限定なく、素子構成により選択することができる。例えば、透明電極として用いる場合、好ましくは380〜800nmの光を透過する電極である。材料としては、例えば、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO
2、ZnO等の透明導電性金属酸化物、金、銀、白金等の金属薄膜、金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ用いることができる。また、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる導電性高分子等も用いることができる。また、これらの導電性化合物を複数組み合わせて使用することもできる。
【0341】
(ハードコート層)
本発明の電子素子用基板に用いることができるハードコート層は特に限定なく、素子構成により選択することができる。ハードコートを設置することで、基材に硬度、平滑性、透明性、耐熱性が付与することができる。
【0342】
適用可能なハードコート樹脂としては、硬化によって透明な樹脂組成物を形成するものであれば、特に制限なく使用でき、例えば、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル系樹脂、アリルエステル系樹脂等が挙げられる。特に好ましくは、できる点でアクリル系樹脂を用いることができる。硬化方法は光、熱いずれも可能であるが、生産性の点から光、特にUV光による硬化が好ましい。
【実施例】
【0343】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0344】
なお、実施例において「%」、「部」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」、「質量部」を表す。
【0345】
また、実施例において、置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により、結晶化度は下記装置を用いて、X線回折法により測定した回折ピーク強度から算出した。
【0346】
X線発生装置 :理学電機製RINT TTR2
X線源 :CuKα
出力 :50kV/300mA
1stスリット:0.04mm
2ndスリット:0.03mm
受光スリット:0.1mm
〈計数記録装置〉
2θ/θ :連続スキャン
測定範囲 :2θ=2〜45°
サンプリング :0.02°
積算時間 :1.2秒。
【0347】
〔セルロースナノファイバーの作製〕
(製造例1.セルロースナノファイバーA)
針葉樹から得られた亜硫酸漂白パルプ(セルロース繊維)を純水に0.1質量%となるように添加し、石臼式粉砕機(ピュアファインミルKMG1−10;栗田機械製作所社製)を用いて50回、磨砕処理(回転数:1500回転/分)してセルロース繊維を解繊した。この水分散液を濾過後、純水で洗浄し、70℃で乾燥させてセルロースナノファイバーAを得た。
【0348】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、得られたセルロースナノファイバーAは、平均繊維径32nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0349】
(製造例2.セルロースナノファイバーB)
無水プロピオン酸/ピリジン(モル比1/1)溶液 500質量部に、上記製造例1で得たセルロースナノファイバーA 10質量部を添加して分散させ、室温で1時間攪拌した。続いて、分散したセルロースナノファイバーを濾過し、500質量部の水で3回水洗した後、200質量部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500質量部の水で2回水洗を行った後、70℃にて乾燥させ、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子をプロパノイル基で置換したセルロースナノファイバーBを得た。
【0350】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、得られたセルロースナノファイバーBは、平均繊維径が32nmに保たれていることを確認した。
【0351】
プロパノイル基の置換度は0.5、結晶化度は89%であった。
【0352】
(製造例3.セルロースナノファイバーC)
セルロースナノファイバーAを無水プロピオン酸/ピリジン(モル比1/1)溶液に分散させた溶液の撹拌時間を6時間に変更したこと以外は、製造例2と同様にして、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子をプロパノイル基で置換したセルロースナノファイバーCを得た。
【0353】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、得られたセルロースナノファイバーCは、平均繊維径が32nmに保たれていることを確認した。
【0354】
プロパノイル基の置換度は2.0、結晶化度は56%であった。
【0355】
(製造例4.セルロースナノファイバーD)
乾燥質量で1g相当分のセルロースナノファイバーA、0.0125gのTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)および0.125gの臭化ナトリウムを水100mlに分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなる量)を添加して反応を開始した。反応中、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pH変化が確認されなくなった時点を反応終了と見なした。反応物をガラスフィルターにて濾過した後、十分な量の水による水洗および濾過を5回繰り返し、さらに超音波分散機にて1時間処理をした。これを70℃で乾燥させてセルロースナノファイバーDを得た。
【0356】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果、セルロースナノファイバーDの平均繊維径4nmであった。
【0357】
(製造例5.セルロースナノファイバーE)
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーDに変更したこと以外は、製造例2と同様にして、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子をプロパノイル基で置換したセルロースナノファイバーEを得た。
【0358】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、得られたセルロースナノファイバーEは、平均繊維径が4nmに保たれていることを確認した。
【0359】
プロパノイル基の置換度は0.6、結晶化度は88%であった。
【0360】
(製造例6.セルロースナノファイバーF)
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーDに変更したこと以外は、製造例3と同様にして、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子をプロパノイル基で置換したセルロースナノファイバーFを得た。
【0361】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、得られたセルロースナノファイバーFは、平均繊維径が4nmに保たれていることを確認した。
【0362】
プロパノイル基の置換度は2.2、結晶化度は52%であった。
【0363】
(製造例7.セルロースナノファイバーG)
無水プロピオン酸を無水酢酸に変更したこと以外は、製造例2と同様にして、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子をアセチル基で置換したセルロースナノファイバーGを得た。
【0364】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、得られたセルロースナノファイバーGは、平均繊維径が32nmに保たれていることを確認した。
【0365】
アセチル基の置換度は1.0、結晶化度は82%であった。
【0366】
(製造例8.セルロースナノファイバーH)
無水プロピオン酸を無水ブタン酸に変更したこと以外は、製造例2と同様にして、セルロースナノファイバーの水酸基の水素原子をブタノイル基で置換したセルロースナノファイバーHを得た。
【0367】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、得られたセルロースナノファイバーHは、平均繊維径が32nmに保たれていることを確認した。
【0368】
ブタノイル基の置換度は0.9、結晶化度は84%であった。
【0369】
上記製造例1〜8で作製したセルロースナノファイバーA、B、C、D、E、F、G、Hについて、製造方法、置換度、結晶化度および平均繊維径を表1に示す。
【0370】
【表1】
【0371】
〔フィルム基材の作製〕
(溶融製膜方法)
(製膜例1.フィルム基材1)
1.溶融押出
上記製造例1で得たセルロースナノファイバーA:100質量部を、(株)松井製作所製除湿熱風式乾燥機により熱風温度150℃、露点−36℃で乾燥した後、可塑剤P−1:8質量部、酸化防止剤A−1:1質量部、酸化防止剤A−2:0.5質量部と一緒にV型タンブラーで30分間混合した。なお、可塑剤P−1、酸化防止剤A−1、A−2としては下記を使用した。
【0372】
可塑剤P−1:トリメチロールプロパントリベンゾエート
一次酸化防止剤A−1:IRGANOX−1010(BASFジャパン社製)
二次酸化防止剤A−2:スミライザーGP(住友化学株式会社)
次いで、混合物を二軸押出し機(テクノベル株式会社製)に120kg/hrで供給した。スクリューデザインはニーディングディスクを少なめにして、混練発熱を抑えるようにした。バレルの温度設定は200℃から250℃とし、先端近傍にはベント口を設け、揮発分を除去した。押出し機下流にフィルター、ギヤポンプ、フィルターを配置し、コートハンガー型Tダイから押出し、120℃に温調した2本のクロムメッキ鏡面ロールの間に落として引き取り、3本ロール間を通して、エッヂをスリットした後、ワインダーに巻き取った。押出し機内でのセルロースナノファイバー組成物の滞留時間は1分30秒であった。巻き取ったフィルムの厚みが125μmになるように、押出し量と引取りロールの回転速度とを調整した。
【0373】
2.カレンダー処理
得られたフィルムに、由利ロール社製ロールプレス装置を使用して、カレンダー処理を施した。カレンダー処理は、上部下部ともに金属ロールを使用し、ロール温度として200℃に設定して、線圧0.5トンで2m/minの走行速度で行った。
【0374】
3.延伸処理
次いで、カレンダー処理により得られたフィルムを予熱後、ロール速度差によりフィルム搬送方向に延伸(長手延伸)し、次いでテンター式延伸機に導き、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸(幅手延伸)した。延伸倍率は長手延伸1.5倍、幅手延伸1.5倍とした。
【0375】
上記工程により、フィルム基材1を得た。
【0376】
(製膜例2〜7.フィルム基材2〜7)
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーD、G、H、B、C,またはEに変更したこと以外は、製膜例1と同様にして、フィルム基材2〜7を得た。
【0377】
(製膜例8.フィルム基材8)
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーEおよびセルロースナノファイバーFの混合物(E:Fの質量比=70:30)に変更したこと以外は、製膜例1と同様にして、フィルム基材8を得た。
【0378】
(製膜例9.フィルム基材9)
ダイから溶融したポリマーをフィードブロックを用いた同時押出し法により、フィルム基材を得た。すなわち、セルロースナノファイバーC/セルロースナノファイバーB/セルロースナノファイバーCとなるように積層し、各層の質量比に応じた流量比で製膜例1〜8と同じ総送液量としてダイに展開して押出しを実施することによって、下層から上層に向かってセルロースナノファイバーC、セルロースナノファイバーB、およびセルロースナノファイバーCの3層構造を有するセルロースナノファイバーC/B/Cによるフィルム基材(各層の質量比=15:70:15)を作製した。
【0379】
セルロースナノファイバーAを上記セルロースナノファイバーC/B/Cに変更したこと以外は、製膜例1と同様にして、フィルム基材9を得た。
【0380】
(製膜例10.フィルム基材10)
セルロースナノファイバーA:95質量部を、(株)松井製作所製除湿熱風式乾燥機により熱風温度150℃、露点−36℃で乾燥した後、マトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(アセチル基置換度=1.5、プロピオニル基置換度1.2、数平均分子量Mn=70000、重量平均分子量Mw=220000、Mw/Mn=3):5質量部、可塑剤P−1:8質量部、酸化防止剤A−1:1質量部、酸化防止剤A−2:0.5質量部と一緒にV型タンブラーで30分間混合した。なお、可塑剤P−1、酸化防止剤A−1、A−2は上記比較例1で使用したものと同一である。
【0381】
上記混合物を用いて、溶融押出、カレンダー処理、および延伸処理を行ったこと以外は、製膜例1と同様にして、フィルム基材10を得た。
【0382】
(製膜例11.フィルム基材11)
セルロースナノファイバーA:90質量部、マトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP):10質量部、可塑剤P−1:8質量部、酸化防止剤A−1:1質量部、酸化防止剤A−2:0.5質量部を混合したこと以外は、製膜例10と同様にして、フィルム基材11を得た。
【0383】
(製膜例12.フィルム基材12)
セルロースナノファイバーA:85質量部、マトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP):15質量部、可塑剤P−1:8質量部、酸化防止剤A−1:1質量部、酸化防止剤A−2:0.5質量部を混合したこと以外は、製膜例10と同様にして、フィルム基材12を得た。
【0384】
(製膜例13.フィルム基材13)
セルロースナノファイバーC:95質量部、マトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP):5質量部、可塑剤P−1:8質量部、酸化防止剤A−1:1質量部、酸化防止剤A−2:0.5質量部を混合したこと以外は、製膜例10と同様にして、フィルム基材13を得た。
【0385】
(製膜例14.フィルム基材14)
セルロースナノファイバーC:90質量部、マトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP):10質量部、可塑剤P−1:8質量部、酸化防止剤A−1:1質量部、酸化防止剤A−2:0.5質量部を混合したこと以外は、製膜例10と同様にして、フィルム基材14を得た。
【0386】
(製膜例15.フィルム基材15)
セルロースナノファイバーC:85質量部、マトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP):15質量部、可塑剤P−1:8質量部、酸化防止剤A−1:1質量部、酸化防止剤A−2:0.5質量部を混合したこと以外は、製膜例10と同様にして、フィルム基材15を得た。
【0387】
(溶液キャスト製膜方法)
(製膜例16.フィルム基材16)
1.溶液キャスト
セルロースナノファイバーAのエタノール溶液(固形分10質量%)を、攪拌しながら密閉容器に投入し、加熱、撹拌しながら、30分間混合し、ドープ液を調製した。
【0388】
次いで、ドープ液:840質量部に、可塑剤としてのトリフェニルホスフェート:10質量部、可塑剤としてのエチルフタリルエチルグリコレート:5質量部、良溶剤としてのメチレンクロライド:140質量部、および架橋剤E−5:5質量部を添加し、70℃で完全に混合し、流延する温度まで冷却して一晩静置し、脱泡操作を施した後、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、ドープAを得た。
【0389】
上記で調製したドープA(温度:35℃)を、ベルト流延装置を用い、30℃のステンレスベルト支持体上に均一に流延した。その後、剥離可能な範囲まで乾燥させた後、ステンレスベルト支持体上からウェブを剥離した。このときのウェブの残留溶媒量は80質量%であった。
【0390】
上記で得たウェブを、85℃の乾燥ゾーンをロール搬送しながら乾燥させ、フィルム(膜厚:125μm)を得た。巻き取り時の残留溶媒量は0.1質量%未満であった。
【0391】
2.延伸処理
得られたフィルムを、残留溶媒量が35質量%未満となったところで、予熱後、ロール速度差によりフィルム搬送方向に延伸(長手延伸)し、次いでテンター式延伸機に導き、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸(幅手延伸)した。延伸倍率は長手延伸1.5倍、幅手延伸1.5倍とした。
【0392】
3.カレンダー処理
得られたフィルムに、由利ロール社製ロールプレス装置を用いて、カレンダー処理を施した。カレンダー処理は、上部下部ともに金属ロールを使用し、ロール温度として200℃に設定して、線圧0.5トンで2m/分の走行速度で行った。
【0393】
上記工程により、フィルム基材16を得た。
【0394】
(製膜例17〜22.フィルム基材17〜22)
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーD、G、H、B、C,またはEに変更したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材17〜22を得た。
【0395】
(製膜例23.フィルム基材23)
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーEおよびセルロースナノファイバーFの混合物(E:Fの質量比=70:30)に変更したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材23を得た。
【0396】
(製膜例24.フィルム基材24)
3系列の供給ラインから各層の質量比に応じた流量比で製膜例16〜23と同じ総送液量として送液することによって分割キャストにより下層から上層に向かってセルロースナノファイバーC、セルロースナノファイバーB、およびセルロースナノファイバーCの3層構造を有するセルロースナノファイバーC/B/Cのフィルム基材24(各層の質量比=15:70:15)を作製した。なお、分割キャストは、金属支持体上に3か所のダイコーターを配置し、表2の層構成の組成、膜厚比になるように製膜することにより実施した。なお、上記以外の製膜条件は製膜例16と同様にした。
【0397】
(製膜例25.フィルム基材25)
セルロースナノファイバーAのエタノール溶液(固形分10質量%)の代わりに、セルロースナノファイバーA:95質量部およびマトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(アセチル基置換度=1.5、プロピオニル基置換度1.2、数平均分子量Mn=70000、重量平均分子量Mw=220000、Mw/Mn=3):5質量部のエタノール溶液(固形分10質量%)を使用したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材25を得た。
【0398】
(製膜例26.フィルム基材26)
セルロースナノファイバーAのエタノール溶液(固形分10質量%)の代わりに、セルロースナノファイバーA:90質量部およびマトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(アセチル基置換度=1.5、プロピオニル基置換度1.2、数平均分子量Mn=70000、重量平均分子量Mw=220000、Mw/Mn=3):10質量部のエタノール溶液(固形分10質量%)を使用したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材26を得た。
【0399】
(製膜例27.フィルム基材27)
セルロースナノファイバーAのエタノール溶液(固形分10質量%)の代わりに、セルロースナノファイバーA:80質量部およびマトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(アセチル基置換度=1.5、プロピオニル基置換度1.2、数平均分子量Mn=70000、重量平均分子量Mw=220000、Mw/Mn=3):20質量部のエタノール溶液(固形分10質量%)を使用したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材27を得た。
【0400】
(製膜例28.フィルム基材28)
セルロースナノファイバーAのエタノール溶液(固形分10質量%)の代わりに、セルロースナノファイバーC:95質量部およびマトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(アセチル基置換度=1.5、プロピオニル基置換度1.2、数平均分子量Mn=70000、重量平均分子量Mw=220000、Mw/Mn=3):5質量部のエタノール溶液(固形分10質量%)を使用したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材28を得た。
【0401】
(製膜例29.フィルム基材29)
セルロースナノファイバーAのエタノール溶液(固形分10質量%)の代わりに、セルロースナノファイバーC:90質量部およびマトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(アセチル基置換度=1.5、プロピオニル基置換度1.2、数平均分子量Mn=70000、重量平均分子量Mw=220000、Mw/Mn=3):10質量部のエタノール溶液(固形分10質量%)を使用したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材29を得た。
【0402】
(製膜例30.フィルム基材30)
セルロースナノファイバーAのエタノール溶液(固形分10質量%)の代わりに、セルロースナノファイバーC:85質量部およびマトリックス樹脂としてのセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(アセチル基置換度=1.5、プロピオニル基置換度1.2、数平均分子量Mn=70000、重量平均分子量Mw=220000、Mw/Mn=3):15質量部のエタノール溶液(固形分10質量%)を使用したこと以外は、製膜例16と同様にして、フィルム基材30を得た。
【0403】
上記製膜例1〜30で作製したフィルム基材1〜30の構成および製造方法を表2に示す。
【0404】
【表2】
【0405】
〔ガスバリア性フィルムの作製〕
(中間層の形成)
フィルム基材1〜30を30m/分の速度で搬送しながら、以下の形成方法により、表面側に中間層1、裏面側に中間層2を形成し、フィルム積層体1〜30を得た。
【0406】
(中間層1
)
フィルム基材の片面に、JSR株式会社製UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材OPSTAR Z7535を、乾燥後の平均膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した。その後、乾燥条件(80℃、3分)の下で乾燥させた後、1.0J/cm
2の硬化条件で、空気雰囲気下、高圧水銀ランプを使用して硬化を行い、中間層1を形成した。
【0407】
(中間層2)
フィルム基材の反対面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を、乾燥後の平均膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した。その後、乾燥条件(80℃、3分)下で乾燥させた後、1.0J/cm
2の硬化条件で、空気雰囲気下、高圧水銀ランプを使用して硬化を行い、中間層2を形成した。
【0408】
中間層2の最大断面高さRt(p)は8nmであった。
【0409】
(ガスバリア層の形成)
A.溶融押出フィルム
(ポリシラザン膜のエキシマ照射)
(比較例1.ガスバリア性フィルム1)
1.塗布工程
ポリシラザン含有塗布液として、パーヒドロポリシラザン(PHPS;AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN320)の20質量%ジブチルエーテル溶液を調製した。
【0410】
上記中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体1の両面に、ワイヤレスバーにて、乾燥後の平均膜厚が、0.30μmとなるように塗布した。
【0411】
2.除湿工程
得られた塗膜を温度85℃、湿度55%RHの雰囲気(露点:70℃)下で1分乾燥させ、乾燥試料を得た(第一の除湿工程)。
【0412】
上記乾燥試料をさらに温度25℃、湿度10%RH(露点:−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行った(第二の除湿工程)。
【0413】
3.改質工程
除湿処理を行った試料を、下記改質処理装置の稼動ステージ上に固定し、以下の条件で改質処理を行い、ガスバリア性フィルム1を得た。改質処理時の露点は−8℃であった。
【0414】
(改質処理装置)
株式会社 エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200、波長 172nm、ランプ封入ガス Xe
(改質処理条件)
エキシマ光強度 130mW/cm
2(172nm)
試料と光源の距離 1mm
ステージ加熱温度 70℃
照射装置内の酸素濃度 1%
エキシマ照射時間 3秒。
【0415】
(比較例2、実施例1〜
4、参考例5〜6、実施例7、比較例3〜5、実施例8〜9、比較例6.ガスバリア性フィルム2〜15)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体1を中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体2〜15に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、ガスバリア性フィルム2〜15を得た。
【0416】
(比較例7、実施例10.ガスバリア性フィルム16〜17)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体1を中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材1またはフィルム基材6に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、ガスバリア性フィルム16〜17を得た。
【0417】
(比較例8.ガスバリア性フィルム18)
改質工程における改質処理条件のエキシマ光強度130mW/cm
2(172nm)を180mW/cm
2(172nm)に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、ガスバリア性フィルム18を得た。
【0418】
(実施例11.ガスバリア性フィルム19)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体1を中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体6に変更したこと以外は、比較例8と同様にして、ガスバリア性フィルム19を得た。
【0419】
(比較例9.ガスバリア性フィルム20)
改質工程における改質処理条件のエキシマ光強度130mW/cm
2(172nm)を80mW/cm
2(172nm)に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、ガスバリア性フィルム20を得た。
【0420】
(実施例12.ガスバリア性フィルム21)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体1を中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体6に変更したこと以外は、比較例9と同様にして、ガスバリア性フィルム21を得た。
【0421】
(比較例10、実施例13.ガスバリア性フィルム22〜23)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体1を中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材1またはフィルム基材6に変更したこと以外は、比較例9と同様にして、ガスバリア性フィルム22〜23を得た。
【0422】
(SiO
xのプラズマスパッタ)
(比較例11.ガスバリア性フィルム24)
中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材1の両面に、プラズマ発生スパッタロールコート装置を用いて、DCマグネトロンスパッタにより、Siをターゲットとして使用し、成膜温度180℃で、プロセスガスとしてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入した反応性スパッタにより、膜厚70nmのSiO
x(x=1.8,XPSによる)のガスバリア層を形成し、ガスバリア性フィルム24を得た。この際、ガスバリア層の膜厚は、反応時間によって調整した。
【0423】
(実施例14.ガスバリア性フィルム25)
中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材1を中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材6に変更したこと以外は、比較例11と同様にして、ガスバリア性フィルム25を得た。
【0424】
B.溶液キャストフィルム
(ポリシラザン膜のエキシマ照射)
(比較例
12.ガスバリア性フィルム26)
1.塗布工程
ポリシラザン含有塗布液として、パーヒドロポリシラザン(PHPS;AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカNN320)の20質量%ジブチルエーテル溶液を調製した。
【0425】
上記中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体16の両面に、ワイヤレスバーにて、乾燥後の平均膜厚が、0.30μmとなるように塗布した。
【0426】
2.乾燥工程
得られた塗膜を温度85℃、湿度55%RHの雰囲気下で1分乾燥させ、乾燥試料を得た。
【0427】
3.除湿工程
上記乾燥試料をさらに温度25℃、湿度10%RH(露点−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行った。
【0428】
4.改質工程
除湿処理を行った試料を、下記改質処理装置の稼動ステージ上に固定し、以下の条件で改質処理を行い、ガスバリア性フィルム26を得た。改質処理時の露点は−8℃であった。
【0429】
(改質処理装置)
株式会社 エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200、波長 172nm、ランプ封入ガス Xe
(改質処理条件)
エキシマ光強度 130mW/cm
2(172nm)
試料と光源の距離 1mm
ステージ加熱温度 70℃
照射装置内の酸素濃度 1%
エキシマ照射時間 3秒。
【0430】
(比較例13、実施例15〜
18、参考例19〜20、実施例21、比較例14〜16、実施例22〜23、比較例17.ガスバリア性フィルム27〜40)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体16を中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体17〜30に変更したこと以外は、比較例12と同様にして、ガスバリア性フィルム27〜40を得た。
【0431】
(比較例18、実施例24.ガスバリア性フィルム41〜42)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体16を中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材16またはフィルム基材21に変更したこと以外は、比較例12と同様にして、ガスバリア性フィルム41〜42を得た。
【0432】
(比較例19.ガスバリア性フィルム43)
改質工程における改質処理条件のエキシマ光強度130mW/cm
2(172nm)を180mW/cm
2(172nm)に変更したこと以外は、比較例12と同様にして、ガスバリア性フィルム43を得た。
【0433】
(実施例25.ガスバリア性フィルム44)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体16を中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体21に変更したこと以外は、比較例19と同様にして、ガスバリア性フィルム44を得た。
【0434】
(比較例20.ガスバリア性フィルム45)
改質工程における改質処理条件のエキシマ光強度130mW/cm
2(172nm)を80mW/cm
2(172nm)に変更したこと以外は、比較例12と同様にして、ガスバリア性フィルム45を得た。
【0435】
(実施例26.ガスバリア性フィルム46)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体16を中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体21に変更したこと以外は、比較例20と同様にして、ガスバリア性フィルム46を得た。
【0436】
(比較例21、実施例27.ガスバリア性フィルム47〜48)
中間層1および中間層2を設けたフィルム積層体16を中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材16はフィルム基材21に変更したこと以外は、比較例20と同様にして、ガスバリア性フィルム47〜48を得た。
【0437】
(SiO
xのプラズマスパッタ)
(比較例22.ガスバリア性フィルム49)
中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材16の両面に、プラズマ発生スパッタロールコート装置を用いて、DCマグネトロンスパッタにより、Siをターゲットとして使用し、成膜温度180℃で、プロセスガスとしてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入した反応性スパッタにより、膜厚70nmのSiO
x(x=1.8,XPSによる)のガスバリア層を形成し、ガスバリア性フィルム49を得た。この際、ガスバリア層の膜厚は、反応時間によって調整した。
【0438】
(実施例28.ガスバリア性フィルム50)
中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材16を中間層1および中間層2を設けていないフィルム基材21に変更したこと以外は、比較例22と同様にして、ガスバリア性フィルム50を得た。
【0439】
上記比較例1〜22、実施例1〜28で作製したガスバリア性フィルム1〜50の構成および製造方法を表3および表4に示す。
【0440】
〔評価〕
ガスバリア性フィルム1〜50の水蒸気透過性(水蒸気バリア評価)、表面粗さ(表面平滑性評価)、透明性、折り曲げ特性、断裁加工性、保存性を以下の方法で評価した。
【0441】
(水蒸気透過性)
1.水蒸気バリア性評価用セルの作製
ガスバリア性フィルム1〜50のガスバリア層の片面に、真空蒸着装置(日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400)を用いて、透明導電膜としての金属カルシウム(粒状)を蒸着させた。この際、透明導電膜を蒸着させる部分(12mm×12mmを9箇所)以外をマスクして蒸着を行った。なお、カルシウムは水分と反応して腐食する金属である。
【0442】
その後、真空状態のままマスクを除去し、もう一つの金属蒸着源から、ガスバリア性フィルム1〜44のもう一方の片面全体に、水蒸気不透過性の金属であるアルミニウム(φ3〜5mm、粒状)を蒸着させた。
【0443】
アルミニウム封止後、真空状態を解除し、乾燥窒素ガス雰囲気下で速やかに、厚さ0.2mmの石英ガラスに、封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介してアルミニウム封止側と対面させ、紫外線を照射することで、評価用セルを作製した。
【0444】
2.透過水分量の測定
得られた両面を封止した評価用セルを、恒温恒湿度オーブン(Yamato Humidic ChamberIG47M)を用いて、60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005−283561号公報に記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。
【0445】
なお、バリアフィルム面から以外の水蒸気の透過が無いことを確認するために、比較試料としてガスバリア性フィルムの代わりに、厚さ0.2mmの石英ガラス板に金属カルシウムを蒸着した試料を、上記と同様に、恒温恒湿度オーブン(Yamato Humidic ChamberIG47M)を用いて、60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、1000時間経過後でも金属カルシウム腐食が発生しないことを確認した。
【0446】
得られた透過水分量を以下の5段階に分類した。
【0447】
5:1×10
−4g/m
2/day未満
4:1×10
−4g/m
2/day以上、1×10
−3g/m
2/day未満
3:1×10
−3g/m
2/day以上、1×10
−2g/m
2/day未満
2:1×10
−2g/m
2/day以上、1×10
−1g/m
2/day未満
1:1×10
−1g/m
2/day以上
結果を表3および表4に示す。
【0448】
(表面粗さRa:表面平滑性)
表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM;Digital Instruments社製DI3100)を用いて、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が30μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する平均の粗さから求めた。
【0449】
結果を表3および表4に示す。
【0450】
(透明性:ヘイズ値)
透明性の尺度としてヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)を用いてヘイズ値(%)を測定した。
【0451】
結果を表3および表4に示す。
【0452】
(折り曲げ特性)
ガスバリア性フィルム1〜50について、半径10mmの曲率になるように、180度の角度で100回の屈曲を繰り返した。
【0453】
屈曲後のガスバリア性フィルム1〜50を用いて上記と同様の方法で水蒸気バリア性評価用セルを作製し、水蒸気透過率の評価を行った。
【0454】
屈曲前のガスバリア性フィルムの水蒸気透過度に対する、屈曲後のガスバリア性フィルムの水蒸気透過度の割合(屈曲後の水蒸気透過度/屈曲前の水蒸気透過度×100(%))を算出し、屈曲による劣化度合いを評価した。
【0455】
屈曲後の水蒸気透過度/屈曲前の水蒸気透過度×100(%)
○:85%以上
△:60%未満
×:30%未満
結果を表3および表4に示す。
【0456】
(断裁加工性)
ガスバリア性フィルム1〜50を、ディスクカッターDC−230(CADL社)を用いてB5サイズに断裁した際に、断裁した端部に発生するクラックを評価した。
【0457】
○:クラック発生なし
△:クラック発生5本以下
×:クラック発生5本以上。
【0458】
(接着性)
ガスバリア性フィルム1〜50に対し、100℃のオーブンの中で5時間加熱処理を施した。
【0459】
この加熱処理の前後に、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験に準拠し、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて碁盤目状に切り傷をつけ、テープを用いて180°剥離を行い、フィルムの残存率(%)を測定し、これを接着性として評価した。
【0460】
結果を表3および表4に示す。
【0461】
【表3】
【0462】
【表4】
【0463】
表3および表4に示した結果より、本発明に係るセルロースナノファイバーの表面のセルロースの水酸基の水素原子の少なくとも一部がアシル基で置換された表面修飾セルロースナノファイバーを含有し、マトリックス樹脂を実質的に含有しないシート状基材にガスバリア層を形成した実施例のガスバリア性フィルムは、透明性、平滑性(表面粗さRa)、ガスバリア性(水蒸気透過性)、接着性、折り曲げ特性、断裁加工性に優れることが確認される。特に、実施例のガスバリア性フィルムは、熱処理された場合であっても、良好な接着性が維持されうる。
【0464】
ポリシラザン化合物の塗布膜のエキシマ照射によってガスバリア層を形成した実施例のガスバリア性フィルムは、プラズマによる反応性スパッタによってガスバリア層を形成した実施例14および28のガスバリア性フィルム(No.25,50)に比べてガスバリア性および断裁加工性が有意に向上している。
【0465】
セルロースナノファイバーをプロパノイル基で置換したガスバリア性フィルムは、アセチル基またはブタノイル基で置換された場合(実施例1,2,15,16)に比べて、平滑性および透明性が有意に向上している。
【0466】
中間層を配置した場合(実施例4,12,18,26)は中間層を配置しない場合(実施例10,13,24,27)に比べて、ガスバリア性が向上することがわかる。
【0467】
これに対して、非置換のセルロースナノファイバーを使用した比較例のガスバリア性フィルムは実施例のガスバリア性フィルムに比べて、透明性、平滑性(表面粗さRa)、ガスバリア性(水蒸気透過性)、保存性(接着性)の面で劣っている。特に、マトリックス樹脂の含有量が多い、比較例5および比較例16のガスバリア性フィルム(No.12,37)は平滑性や保存性が有意に悪化している。