(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化反応可能な元素又は/及びリチウムと合金化反応可能な元素化合物からなる負極活物質粒子を含む負極材であって、
前記負極活物質粒子のBET比表面積が2.5m2/g以上5.0m2/g以下で、前記負極活物質粒子のD50が4.5μm以上8.0μm以下、前記負極活物質粒子の粒度範囲が0.4μm以上30μm以下であり、
前記負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が粒径1μm以上であり、
前記負極活物質粒子は、SiOx(0.5≦x≦1.5)を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材(ただし、前記負極活物質粒子の表面が炭素皮膜で被覆されて前記炭素皮膜が熱プラズマ処理されたもの、及び前記負極活物質粒子の表面に導電性炭素皮膜を有するものを除く。)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(1)本発明の第1の態様の実施形態について詳細に説明する。
【0033】
第1の態様の実施形態の負極材は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化反応可能な元素又は/及びリチウムと合金化反応可能な元素化合物からなる負極活物質粒子を含む負極材であって、前記負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上であり、且つBET比表面積が6m
2/g以下で、前記負極活物質粒子のD
50が4.5μm以上であることを特徴とする。この場合には、電池のサイクル特性が向上する。その理由は以下のように考えられる。
【0034】
負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上とすることで、負極活物質粒子の微粒子が従来に比べて極めて少なく抑えられ、BET比表面積が小さくなり、またD
50が大きくなる。BET比表面積が小さくなり、且つD
50が大きくなると、充電時に、負極活物質粒子の表面に比較的薄い安定な被膜が形成される。負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化反応可能な元素又は/及びリチウムと合金化反応可能な元素化合物からなり、Liイオンを吸蔵・放出することにより膨張・収縮する。負極活物質粒子が膨張・収縮したときに、負極活物質粒子表面の被膜は比較的薄いため、被膜の外表面に加わる応力が軽減され、被膜の外表面に亀裂や欠損を生じることを抑えることができる。それゆえ、負極活物質粒子が電解液と接触し難く、負極活物質粒子に存在するLiイオンが溶出することを抑え、電解液の分解反応を抑えることができる。したがって、電池のサイクル特性を高めることができる。
【0035】
負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が1μm以上の粒径をもつ。粒径は、レーザー回折・散乱法により球形と仮定して得られる理論回折パターンと実測回折パターンを適合させて算出した有効径とする。
【0036】
負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、1μm以上の粒径をもつ負極活物質粒子が85体積%未満である場合には、負極活物質粒子全体のBET比表面積が大きくなり、充電時に形成される被膜の膜厚が大きくなる。膜厚の大きい被膜は、負極活物質粒子の体積変化に追従しにくく、亀裂が生じやすい。このため、負極活物質粒子が直接電解質に接触して、電解質が分解するおそれがある。ゆえに、電池のサイクル特性が低下するおそれがある。
【0037】
更に、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が1μm以上の粒径をもつことがよい。この場合には、負極活物質粒子の中に1μm未満の微粒子が更に微量となり、被膜の厚みが薄い負極活物質粒子が多くなり、負極活物質粒子の体積変化により被膜の亀裂が発生しにくくなり、電解液の劣化を更に抑えることができる。
【0038】
更に、負極活物質粒子のすべてが、粒径1μm以上であることが望ましい。この場合には、更に、被膜の亀裂が発生しにくくなり、電解液の劣化を効果的に抑制できる。
【0039】
さらに、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が2μm以上の粒径をもつことが好ましい。この場合には、被膜の膜厚が更に薄くなり、被膜に亀裂が生じにくく、電解質の分解を効果的に抑えることができる。
【0040】
負極活物質粒子のBET比表面積は6m
2/g以下である。負極活物質粒子のBET比表面積が6m
2/gを超える場合には、放電容量維持率が低下するそれがある。「BET比表面積」は、粒子表面に吸着占有面積の判った分子を吸着させ、その量から粒子の比表面積を求める方法である。
【0041】
負極活物質粒子のBET比表面積は、5m
2/g以下であることがよく、更には4m
2/g以下であることが好ましく、3.3m
2/g以下であることが望ましい。この場合には、放電容量維持率が更に向上する。
【0042】
負極活物質粒子のBET比表面積は、2.0m
2/g以上であることがよく、更には2.5m
2/g以上であることが好ましく、2.8m
2/g以上であることが望ましい。この場合には、負極活物質粒子同士の接触面積を比較的大きくすることができ、電子の導電パスが多く、大きな初回の放電容量を発揮することができる。
【0043】
負極活物質粒子のD
50が4.5μm未満である場合には、電池のサイクル特性が低下するおそれがある。「D
50」は、レーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径を指す。
【0044】
負極活物質粒子のD
50が5.5μm以上であることがよく、更には5.7μm以上であることが好ましい。この場合には、電池のサイクル特性が更に向上する。
【0045】
負極活物質粒子のD
50が8.0μm以下であることがよく、更には7.5μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
50が過大である場合には、負極活物質粒子の反応抵抗(Liイオンの負極活物質内部への拡散抵抗)が増大するおそれがある。
【0046】
負極活物質粒子の粒度範囲は0.4μm以上30μm以下の範囲内とすることが好ましい。「粒度範囲」は、負極活物質粒子の粒径をいう。「粒度範囲は0.4μm以上30μm以下の範囲内」にあるとは、負極活物質粒子の粒径が0.4μm以上30μmの範囲内にあることをいう。負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、その中で上記粒度範囲内の粒径をもつ負極活物質粒子の割合が95体積%以上であるとよい。「粒径」は、レーザー回折・散乱法により球形と仮定して得られる理論回折パターンと実測回折パターンを適合させて算出した有効径とする。
【0047】
0.4μm未満となる粒径の負極活物質粒子を含む場合には、負極活物質粒子の微粒子が多くなり、充電時に生成する被膜が厚くなるおそれがある。このため、被膜抵抗が増大するため電池のサイクル特性が低下するおそれがある。30μmを超えて過大となる粒径の負極活物質粒子を含む場合には、粒子内部へのLiイオン拡散抵抗が大きくなり、容量が低下するおそれがある。また、粒子の中で、電池反応に寄与し得る部分としない部分とが生じて、電池反応時に粒子内での膨張・収縮の程度が異なり、粒子内に亀裂が生じて、容量維持率が低下するおそれがある。
【0048】
負極活物質粒子の粒度範囲は0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、1.0μm以上20μm以下であり、1.37μm以上18.5μm以下であることが望ましい。この場合には、更にサイクル特性が向上する。
【0049】
負極活物質粒子のD
10は3μm以上であることが好ましい。この場合には更にサイクル特性が向上する。その理由は、負極活物質粒子のD
10が3μm以上であることにより、負極活物質粒子の微粒子が更に少なくなる。このため、負極活物質粒子表面の被膜が比較的薄くなり、被膜の外表面に加わる応力が軽減され、被膜の外表面に亀裂や欠損を生じることを抑えることができる。それゆえ、負極活物質粒子が電解液と接触し難く、負極活物質粒子に存在するLiイオンが溶出することを抑え、電解液の分解反応を抑えることができる。したがって、電池のサイクル特性を高めることができる。「D
10」とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が10%に相当する粒子径を指す。
【0050】
更に、負極活物質粒子のD
10は3.4μm以上であることがよく、更には4.0μm以上であることが好ましい。この場合には、電池のサイクル特性が更に向上する。
【0051】
負極活物質粒子のD
10は6.0μm以下であることがよく、更には5.5μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
10が過大である場合には、負極活物質粒子の反応抵抗(Liイオンの負極活物質内部への拡散抵抗)が増大するおそれがある。
【0052】
負極活物質粒子のD
90は8.0μmを超えて大きいことが好ましい。この場合には更にサイクル特性が向上する。その理由は、負極活物質粒子のD
90が8.0μmを超えて大きい場合には、粒径の大きい負極活物質粒子が多くなる。このため、負極活物質粒子表面の被膜が比較的薄くなり、被膜の外表面に亀裂や欠損を生じることを抑えられ、電解液の分解反応を効果的に抑えることができる。したがって、電池のサイクル特性を高めることができる。なお、「D
90」は、レーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が90%に相当する粒子径を指す。
【0053】
更に、負極活物質粒子のD
90は8.5μm以上であることがよく、更には9.0μm以上であることが好ましい。この場合には、電池のサイクル特性が更に向上する。
【0054】
負極活物質粒子のD
90は12μm以下であることがよく、更には10.5μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
90が過大である場合には、負極活物質粒子の内部抵抗(Liイオンの負極活物質内部への拡散抵抗)が増大するおそれがある。
【0055】
負極活物質粒子の表面には被膜が形成されているとよい。被膜は、充電時に負極活物質粒子表面に形成される固体電解質界面被膜(SEI:Solid Electrolyte Interphase)であるとよい。負極活物質粒子表面が固体電解質界面被膜で被覆されることで、負極活物質粒子が電解質と直接接触することが防止され、電解質の分解を抑えることができる。特に、本発明では、負極活物質粒子は、上記の粒径特性を有するため、微小な粒子が少なく、負極活物質粒子の単位体積に対する被膜の体積の比率が低く抑えられる。ゆえに、負極活物質粒子の体積変化による被膜に加わる応力を軽減でき、被膜に亀裂等の欠陥が生じることを抑えることができる。ゆえに、負極活物質粒子が電解質と直接接触することが抑えられ、電解質の分解反応を抑えることができ、電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0056】
前記負極活物質粒子のBET比表面積が5m
2/g以下で、前記負極活物質粒子のD
50が5.0μm以上8.0μm以下、前記負極活物質粒子の粒度範囲が0.4μm以上20μm以下であることが好ましい。この場合には、初回の放電容量が大きくなる。その理由は、以下のように考えられる。負極活物質粒子の反応抵抗は、負極活物質粒子の被膜抵抗及び粒子界面での粒子内部へのLiイオン拡散抵抗を示す。負極活物質粒子の粒径が小さくなるほど反応抵抗が小さくなる。負極活物質粒子の表面に被膜が形成されている場合には、粒子界面での被膜が薄くなるほど、負極活物質粒子の被膜抵抗が小さくなる。一方で、負極活物質粒子の粒径が小さいほど被膜が厚く形成される。粒子内部へのLiイオン拡散を大きくしない程度で、被膜の薄い粒径となるちょうどバランスのとれた範囲の粒径とすることで、負極反応抵抗を小さくすることができ、放電容量を大きくすることができる。
【0057】
負極活物質粒子のD
50が5.7μm以上7.2μm以下であることが好ましい。この場合には、負極活物質粒子の反応抵抗を小さくするためにバランスがとれた粒径とすることができ、更に電池容量を大きくすることができる。
【0058】
負極活物質粒子のBET比表面積が2.5m
2/g以上5.0m
2/g以下であることが好ましく、更には、2.5m
2/g以上4.0m
2/g以下であり、2.7m
2/g以上3.3m
2/g以下であることが望ましい。この場合には、負極活物質粒子を、粒子内部へのLiイオン拡散抵抗を大きくしない程度で、被膜の薄い粒径となるバランスのとれた範囲の粒径とすることができ、更に放電容量が大きくなる。
【0059】
負極活物質粒子のD
90が8.0μmを超えて大きいことが好ましく、更には8.5μm以上、9.0μm以上であることが望ましい。この場合には、更に放電容量が更に大きくなる。
【0060】
更に、負極活物質粒子の粒度範囲は、1.0μm以上18.5μm以下であることがよく、1.37μm以上18.5μm以下であることが好ましい。この場合には、更に放電容量が高くなる。
【0061】
また、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化反応可能な元素又は/及びリチウムと合金化反応可能な元素化合物からなる負極活物質粒子を含む負極材であって、前記負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上であり、且つBET比表面積が6m
2/g以下であってもよい。この場合にも、微細な負極活物質粒子が少ないため、サイクル特性が向上する。
【0062】
負極活物質粒子の粒度を調整するために、例えば、サイクロン分級、乾式分級(重量分級、慣性分級、遠心分級)、湿式分級(沈降分級、機械的分級、水力分級、遠心分級)、ふるい分け分級などの方法がある。
【0063】
サイクロン分級は、強制渦遠心式精密空気分級機を用いて行うことが好ましい。例えば、強制渦遠心式精密空気分級機を用いたサイクロン分級は、粒子に旋回運動を与えて、粒子に作用する遠心力と、遠心力に対する抗力とのバランスによって粒度の大きい粒子と小さい粒子とを分離するものである。例えば、分級羽根を有する分級ロータをケーシング内で高速で回転させ、分級ロータの上部から投入した粉体に分級ロータの回転によって遠心力を生じさせるとともに分級ロータの周縁から中心に向かって空気を導入させ、分級ロータによる遠心力を大きく受ける粒径の大きな粉体は分級ロータの外方に流出し、一方遠心力より空気流による作用を大きく受ける粒径の小さな粉体は空気とともに中心方向に移動させて粉体を分級する方法である。
【0064】
強制渦遠心式精密空気分級機を用いるサイクロン分級法により、上記の所定の範囲のBET比表面積、D
10、D
50、D
90、粒度範囲をもつ負極活物質粒子を分級するためには、遠心機の回転数は、3000rpm以上10000rpm以下であることがよい。また、負極活物質粒子の供給速度は0.5kg/h以上2.0kg/h以下であることがよく、また、風量は1.5m
3/min以上3.5m
3/min以下であることが好ましい。
【0065】
負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化可能な元素又は/及びリチウムと合金化可能な元素化合物からなる。
【0066】
前記リチウムと合金化反応可能な元素は珪素(Si)または錫(Sn)であるとよい。前記リチウムと合金化反応可能な元素化合物は珪素化合物または錫化合物であることがよい。珪素化合物は、SiOx(0.5≦x≦1.5)であることがよい。錫化合物は、例えば、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などが挙げられる。
【0067】
中でも、負極活物質粒子は、珪素(Si)を有するとよく、更にはSiOx(0.5≦x≦1.5)を有するとよい。珪素は、理論容量が大きい。一方で、充放電時の体積変化が大きいため、SiOxとすることで体積変化を少なくすることができる。
【0068】
また、負極活物質粒子は、Si相と、SiO
2相とをもつことが好ましい。Si相は、珪素単体からなり、Liイオンを吸蔵・放出し得る相であり、Liイオンの吸蔵・放出に伴って膨張・収縮する。SiO
2相は、SiO
2からなり、Si相の膨張・収縮を吸収する。Si相がSiO
2相により被覆されることで、Si相とSiO
2相とからなる負極活物質粒子を形成しているとよい。さらには、微細化された複数のSi相がSiO
2相により被覆されて一体となって、1つの粒子、即ち負極活物質粒子を形成しているとよい。この場合には、負極活物質粒子全体の体積変化を効果的に抑えることができる。
【0069】
負極活物質粒子でのSi相に対するSiO
2相の質量比は、1〜3であることが好ましい。前記質量比が1未満の場合には、負極活物質粒子の膨張・収縮が大きく、負極活物質粒子から構成された負極活物質層にクラックが生じるおそれがある。一方、前記質量比が3を超える場合には、負極活物質粒子でのLiイオンの吸蔵・放出量が少なく、放電容量が低くなるおそれがある。
【0070】
負極活物質粒子は、Si相とSiO
2相とのみから構成されていてもよい。また、負極活物質粒子は、Si相とSiO
2相とを主成分としているが、その他に、負極活物質粒子の成分として、公知の活物質を含んでいても良く、具体的には、Me
xSi
yO
z(MeはLi,Caなど)のうちの少なくとも1種を混合していてもよい。
【0071】
負極活物質粒子の原料として、一酸化珪素を含む原料粉末を用いるとよい。この場合、原料粉末中の一酸化珪素を、SiO
2相とSi相との二相に不均化する。一酸化珪素の不均化では、SiとOとの原子比が概ね1:1の均質な固体である一酸化珪素(SiOn:nは0.5≦n≦1.5)が固体内部の反応により、SiO
2相とSi相との二相に分離する。不均化により得られる酸化珪素粉末は、SiO
2相とSi相とを含む。
【0072】
原料粉末の一酸化珪素の不均化は、原料粉末にエネルギーを与えることにより進行する。一例として、原料粉末を加熱する、ミリングする、などの方法が挙げられる。
【0073】
原料粉末を加熱する場合、一般に、酸素を絶った状態であれば800℃以上で、ほぼすべての一酸化珪素が不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性の一酸化珪素粉末を含む原料粉末に対して、真空中又は不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800〜1200℃、1〜5時間の熱処理を行うことにより、非結晶性のSiO
2相と結晶性のSi相の二相を含む酸化珪素粉末が得られる。
【0074】
原料粉末をミリングする場合には、ミリングの機械的エネルギーの一部が、原料粉末の固相界面における化学的な原子拡散に寄与し、酸化物相と珪素相などを生成する。ミリングでは、原料粉末を、真空中、アルゴンガス中などの不活性ガス雰囲気下で、V型混合機、ボールミル、アトライタ、ジェットミル、振動ミル、高エネルギーボールミル等を使用して混合するとよい。ミリング後にさらに熱処理を施すことで、一酸化珪素の不均化をさらに促進させてもよい。
【0075】
負極活物質粒子は、負極材を構成している。負極材は、集電体表面に塗布されて負極活物質層を形成する。負極材は、上記の負極活物質粒子を主たる負極活物質とした上で、既に公知の他の負極活物質(たとえば黒鉛、Sn、Siなど)を添加して用いてもよい。
【0076】
負極材には、前記負極活物質粒子の他に、結着剤や、導電助材などを含んでいても良い。
【0077】
結着剤は、特に限定されるものではなく、既に公知のものを用いればよい。たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂など高電位においても分解しない樹脂を用いることができる。結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.05〜1:0.5であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0078】
導電助材としては、リチウム二次電池の電極で一般的に用いられている材料を用いればよい。たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック(炭素質微粒子)、炭素繊維などの導電性炭素材料を用いるのが好ましく、導電性炭素材料の他にも、導電性有機化合物などの既知の導電助剤を用いてもよい。これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を混合して用いるとよい。導電助材の配合割合は、質量比で、負極活物質:導電助材=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助材が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助材が多すぎると電極の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0079】
(リチウムイオン二次電池)
リチウムイオン二次電池は、上記の負極材からなる負極活物質層を有する負極と、リチウムイオンを吸蔵・放出し得る正極活物質からなる正極と、電解質とを備えている。
【0080】
負極材は、負極活物質層として集電体に圧着されることで負極を構成することが一般的である。集電体は、例えば、銅や銅合金などの金属製のメッシュや金属箔を用いるとよい。
【0081】
正極は、集電体と、正極活物質粒子を有し集電体の表面を被覆する正極材とからなるとよい。正極材は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含み、好ましくは、更に、結着剤及び/又は導電助材を含む。導電助材および結着剤は、特に限定はなく、リチウムイオン二次電池で使用可能なものであればよい。
【0082】
正極活物質としては、例えば、リチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物などのリチウムと遷移金属との金属複合酸化物を用いる。具体的には、LiCoO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、Li
2MnO
3、Sなどが挙げられる。正極活物質は、また、硫黄単体、硫黄変性化合物などを用いることもできる。ただし、正極及び負極ともに、リチウムを含まない場合には、リチウムをプレドープする必要がある。
【0083】
集電体は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼など、リチウムイオン二次電池の正極に一般的に使用されるものであればよい。集電体は、メッシュや金属箔などの形状であるとよい。
【0084】
セパレータは、必要に応じて用いられる。セパレータは、正極と負極とを分離し非水電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0085】
電解質は、非水電解液に含まれているとよい。非水電解液は、有機溶媒に電解質であるフッ化塩を溶解させたものである。電解質であるフッ化塩は、有機溶媒に可溶なアルカリ金属フッ化塩であることが好ましい。アルカリ金属フッ化塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、NaPF
6、NaBF
4、及びNaAsF
6の群から選ばれる少なくとも1種を用いるとよい。非水電解液の有機溶媒は、非プロトン性有機溶媒であることがよく、たとえば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いることができる。
【0086】
正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に電極体に非水電解液を含浸させてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0087】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定なく、円筒型、積層型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0088】
(車両など)
リチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。上記の粒径特性をもつ負極活物質粒子を用いたリチウムイオン二次電池で走行用モータを駆動することにより、大容量、大出力で、長時間使用することができる。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であれば良く,例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。
【0089】
リチウムイオン二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ,携帯通信機器など,電池で駆動される各種の家電製品,オフィス機器,産業機器が挙げられる。
【0090】
(2)本発明の第2の態様の実施形態について詳細に説明する。
【0091】
第2の態様の実施形態の負極材は、負極活物質粒子のBET比表面積が6m
2/g以下で、負極活物質粒子のD
50が4.5μm以上8.0μm以下、負極活物質粒子の粒度範囲が0.4μm以上30μm以下である。この場合には、放電容量を大きくすることができる。その理由は以下のように考えられる。
【0092】
負極活物質粒子のインピーダンスは、負極活物質粒子の内部及び粒子界面での抵抗を示す。負極活物質粒子の粒径が小さくなるほどインピーダンスが小さくなる。負極活物質粒子の界面に被膜が形成されている場合には、粒子界面での被膜が薄くなるほど、負極活物質粒子の被膜抵抗が小さくなる。一方で、負極活物質粒子の粒径が小さいほど被膜が厚く形成される。粒子内部へのLiイオン拡散抵抗を大きくしない程度で、被膜の薄い粒径となるちょうどバランスのとれた上記の範囲の粒径とすることで、インピーダンスを小さくすることができ、放電容量を大きくすることができると考えられる。
【0093】
負極活物質粒子のBET比表面積が6m
2/gを超える場合には、放電容量維持率が低下するそれがある。「BET比表面積」は、粒子表面に吸着占有面積の判った分子を吸着させ、その量から粒子の比表面積を求める方法である。
【0094】
負極活物質粒子のBET比表面積は、2.5m
2/g以上5.0m
2/g以下であることが好ましく、更には、2.5m
2/g以上4.0m
2/g以下であり、2.7m
2/g以上3.3m
2/g以下であることが望ましい。この場合には、負極活物質粒子を、粒子内部へのLiイオン拡散抵抗を大きくしない程度で、被膜の薄い粒径となるバランスのとれた範囲の粒径とすることができ、更に放電容量が向上する。
【0095】
負極活物質粒子のD
50は、4.5μm以上8.0μm以下である。「D
50」は、D
50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径を指す。つまり、D
50とは、体積基準で測定したメディアン径を指す。D
50が4.5μm未満の場合又は8.0μmを超える場合には、放電容量が低下するおそれがある。
【0096】
更に、D
50は、5.0μm以上7.2μm以下であることが好ましく、5.7μm以上7.2μm以下であることが望ましい。この場合には、負極活物質粒子の反応抵抗を小さくするためにバランスがとれた粒径とすることができ、更に放電容量が向上する。
【0097】
負極活物質粒子の粒度範囲は、0.4μm以上30μm以下の範囲内とする。「粒度範囲」は、負極活物質粒子の粒径をいう。「粒度範囲は0.4μm以上30μm以下の範囲内」にあるとは、負極活物質粒子の粒径が0.4μm以上30μmの範囲内にあることをいう。負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、その中で上記粒度範囲内の粒径をもつ負極活物質粒子の割合が95体積%以上であるとよい「粒径」は、レーザー回折・散乱法により球形と仮定して得られる理論回折パターンと実測回折パターンを適合させて算出した有効径とする。0.4μm未満となる粒度の負極活物質粒子を含む場合、負極活物質粒子の微粒子が多くなり、充電時に生成する被膜が厚くなり、放電容量が低下するおそれがある。30μmを超えて過大となる粒度の負極活物質粒子を含む場合には、負極活物質粒子の拡散抵抗が大きくなり、初回放電容量が低下するおそれがある。
【0098】
負極活物質粒子の粒度範囲は、0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、更には、1.0μm以上20μm以下であり、1.0μm以上18.5μm以下であり、1.37μm以上18.5μm以下であることが望ましい。この場合には、更に放電容量が大きくなる。
【0099】
負極活物質粒子のD
10は、3.0μm以上であることが好ましい。この場合には更に放電容量が大きくなる。その理由は、負極活物質粒子のD
10が3.0μm以上であることにより、負極活物質粒子の微粒子が更に少なくなる。このため、負極活物質粒子表面の被膜が比較的薄くなり、粒子の被膜抵抗が低くなるため、放電容量が大きくなったと考えられる。「D
10」は、レーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が10%に相当する粒子径を指す。
【0100】
更に、負極活物質粒子のD
10は、3.4μm以上であることがよく、更には4.0μm以上であることが好ましい。この場合には、放電容量が更に向上する。
【0101】
負極活物質粒子のD
10は、6.0μm以下であることがよく、更には5.5μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
10が過大である場合には、負極活物質粒子の反応抵抗(Liイオンの負極活物質内部への拡散抵抗)が増大するおそれがある。
【0102】
負極活物質粒子のD
90は、8.0μmを超えて大きいことがよく、且つ10.0μm以下であることが好ましい。この場合には更に初回放電容量が大きくなる。その理由は、負極活物質粒子表面の被膜が比較的薄くなり、粒子の被膜抵抗が抑えられ、且つ粒子の粒径も比較的小さいので負極の反応抵抗も低くでき、その結果放電容量を大きくすることができるものと考えられる。
【0103】
なお、「D
90」は、レーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が90%に相当する粒子径を指す。
【0104】
更に、負極活物質粒子のD
90は、8.5μm以上11μm以下であることがよく、更には8.8μm以上10.0μm以下であることが好ましい。この場合には、放電容量が更に大きくなる。
【0105】
負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が1μm以上の粒径をもつことが好ましい。粒径は、レーザー回折・散乱法により球形と仮定して得られる理論回折パターンと実測回折パターンを適合させて算出した有効径とする。
【0106】
負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、1μm以上の粒径をもつ負極活物質粒子が85体積%未満である場合には、負極活物質粒子全体のBET比表面積が大きくなり、充電時に形成される被膜の膜厚が大きくなる。膜厚の大きい被膜は、負極活物質粒子の被膜抵抗を大きくする。このため、放電容量が低下するおそれがある。負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が1μm以上の粒径をもつことが好ましい。
【0107】
さらに、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が1μm以上4μm以下の範囲の粒径をもつことが好ましい。この場合には、粒子の拡散抵抗と粒子界面での被膜抵抗とをバランスよく抑え、電池抵抗を効果的におさえることができる。
【0108】
第2の態様においても、第1の態様と同様に、負極活物質粒子の表面には被膜が形成されているとよい。また、負極活物質粒子の粒度を調製するために、例えば、遠心機を用いるサイクロン分級、乾式分級、湿式分級、ふるい分け分級などを行うと良い。第2の態様において、その他の点(負極活物質粒子の成分、製法、負極材の構成、リチウムイオン二次電池の構成など)は、第1の態様と同様であるとよい。
【0109】
(3)本発明の第3の態様の実施形態について詳細に説明する。
【0110】
本発明の第3の態様のリチウムイオン二次電池用負極においては、負極活物質層に含まれる負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上であり、負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
90の1.4倍以上である。このため、電池特性を向上させ且つ安定化させることができる。その理由は、以下のように考えられる。
【0111】
リチウムイオン二次電池に充放電を行うと、Liイオンが電解液を通じて正極活物質と負極活物質との間で挿入・脱離が行われる。その際には、電解液中に含まれる電解質が一部還元分解され、その分解生成物が、負極活物質粒子表面を被覆して被膜を形成する。この被膜は、Liイオンは通すが、電子は通さないという膜であり、固体電解質界面被膜(SEI:Solid Electrolyte Interphase)と言われている。この被膜は、負極活物質粒子表面を被覆することで、電解質と負極活物質とが直接接触することを防止して電解質の分解劣化を抑えている。
【0112】
負極活物質粒子が粒径1μm未満の微粒子である場合、負極活物質粒子表面に形成される被膜の膜厚が大きくなる傾向がある。被膜の膜厚が大きい場合には、充放電反応によるSiやSnの体積変化に追従できず、被膜表面に応力が集中し、亀裂や欠陥が生じやすい。このように被膜に損傷が生じると、被膜の損傷部分を通じて電解液が負極活物質粒子内部に浸入しやすくなり、電解液が負極活物質と接触することにより電解液成分が分解されやすくなり、充放電のサイクル特性が低下することになる。また、負極活物質粒子が微粒子の場合には、負極活物質粒子の比表面積が増大するため、表面に形成される被膜が増加し、Liイオンの出入りの抵抗となり、放電容量が低下するおそれがある。
【0113】
本発明においては、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上である。このため、負極活物質粒子には、粒径1μm未満の微粒子が非常に少なくなる。負極活物質粒子に含まれる微粒子の量を抑えているため、損傷しやすい厚膜の被膜で被覆された負極活物質粒子が極めて少なくなり、電解液の劣化を抑えることができ、サイクル特性を向上させることができる。また、負極活物質粒子の粒径が大きくなると、負極活物質粒子の比表面積が小さくなるため、負極活物質粒子表面に形成される被膜の量が少なくなり、負極活物質粒子の抵抗が低減し、放電容量が増大する。
【0114】
図6に示すように、負極は、集電体2の表面に、負極活物質粒子からなる負極活物質層1を形成している。負極活物質層1内の負極活物質粒子全体の中の85体積%以上が粒径1μm以上である場合には、負極活物質粒子全体の中の粒径1μm以上の負極活物質粒子の割合が多くなり、負極活物質層1の表面に存在する負極活物質粒子の比較的大きな大粒子11の間に凹凸が形成され、この凹凸の凹部10が負極活物質粒子の微粒子12で埋められず、負極活物質層1の表面粗さが大きくなる。負極活物質層1の薄い部分では、電解液が内部まで浸透しやすい。この場合、負極活物質粒子表面に形成される被膜に亀裂が発生していると、負極活物質粒子を構成している負極活物質と電解液とが接触しやすく、サイクル特性が低下しやすい。一方、負極活物質層1の厚い部分では、電解液が内部まで浸透しにくい。このため、被膜に亀裂が生じていても、薄い部分に比べて電解液と負極活物質とは接触しにくく、サイクル特性が低下しにくい。また、負極活物質層1の薄い部分では容量が小さく、厚い部分では容量が大きくなる。このように、サイクル特性、放電容量などの電池特性にバラツキが生じやすい。
【0115】
そこで、本発明においては、負極活物質層の厚みを、負極活物質粒子のD
90の1.4倍以上としている。この場合には、負極活物質層の多くの部分で、負極活物質層の厚み方向で1.4個以上の負極活物質粒子が配置されることになり、負極活物質層の厚みのバラツキが少なくなり、充放電サイクル特性が安定化する。また、放電容量のバラツキも少なくなる。ゆえに、サイクル特性、放電容量などの電池特性を安定化させることができる。
【0116】
即ち、負極活物質粒子が上記の粒径特性を有し、且つ負極活物質層の厚みが負極活物質粒子の粒径特性と上記の関係を有するため、電池特性を向上させ且つ安定化させることができる。
【0117】
一方、負極活物質層の厚みが、負極活物質粒子のD
90の1.4倍未満である場合には、負極活物質層の厚みのバラツキが大きく、電池特性にバラツキが生じやすくなる。
【0118】
更に、負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
90の2倍以上であることが好ましい。この場合には、負極活物質層の厚みのバラツキが更に少なくなり、電池特性が更に安定化される。
【0119】
負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
90の5倍以下であることが好ましい。この場合には、負極活物質層の内部まで電解液が十分に浸透し、また負極活物質層の内部へのLiイオンの拡散も速く、放電容量及びレート特性がよい。
【0120】
ここで、負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
10の3倍以上であることが好ましい。この場合には、負極活物質層の厚みに対する負極活物質粒子の相対的な大きさが小さい微粒子12が負極活物質粒子全体の中で多くなり、負極活物質層1の表面の凹部10に、微粒子12が多く入り込み、表面を平坦化させることができる。このため、更に電池特性を安定化させることができる。
【0121】
更に、負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
10の4倍以上であることが望ましい。この場合には、負極活物質層の表面を更に平坦化させることができ、電池特性を更に安定化させることができる。
【0122】
負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
10の10倍以下であることが好ましい。この場合には、負極活物質層の内部まで電解液が十分に浸透し、また負極活物質層の内部へのLiイオンの拡散も速く、放電容量及びレート特性がよい。
【0123】
負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
50の2倍以上さらには2.5倍以上であることが望ましい。負極活物質層の厚みが負極活物質粒子のD
50の2倍以上である場合には、負極活物質層の厚みが、負極活物質粒子のD
50に対して十分な大きさとなり、負極活物質層の厚みのバラツキが少なくなり、電池特性を更に安定化させることができる。
【0124】
負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子のD
50の7倍以下であることが好ましい。この場合には、負極活物質層の内部まで電解液が十分に浸透し、また負極活物質層の内部へのLiイオンの拡散も速く、放電容量及びレート特性がよい。
【0125】
負極活物質層の厚みが過小の場合には、充放電のサイクル特性の安定性が低くなるおそれがある。負極活物質層の厚みが過大である場合には、電解液が内部まで浸透しにくく、電解液と負極活物質とが接触しにくく、充放電特性が低下するおそれがある。
【0126】
また、負極活物質層の中の負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、粒径が1μm以上のものが85体積%未満である場合には、負極活物質粒子の中に1μm未満の微粒子が比較的多く含まれることになる。このため、負極活物質粒子の比表面積が大きくなり、被膜が多く生成される。そのため、負極活物質粒子が高抵抗となり、充放電特性が悪化するおそれがある。
【0127】
負極活物質層の中の負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が1μm以上の粒径をもつことがよい。この場合には、負極活物質粒子の中に1μm未満の微粒子が更に微量となり、被膜量が少なくなる。そのため、負極活物質粒子の抵抗を低く抑え、充放電特性が向上する。
【0128】
更に、負極活物質層の中の負極活物質粒子の全体が、粒径1μm以上であることが好ましい。この場合には、負極活物質層の中の負極活物質粒子の中に粒径1μm未満の微粒子が存在しなくなり、さらに被膜量が低減し、負極活物質粒子の抵抗を低く抑えることができる。
【0129】
負極活物質層の中の前記負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径2.0μm以上であることが好ましい。この場合には、粒径2.0μm未満の比較的小さい粒子を少なく抑えることができ、負極活物質粒子の粒径を更に大きくすることができる。ゆえに、負極活物質粒子表面の被膜量を更に少なくすることができ、負極活物質粒子の抵抗を更に下げることができる。更に、負極活物質層の中の前記負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が粒径2.0μm以上であることが好ましい。更に、電解液の劣化を効果的に抑えることができる。
【0130】
負極活物質層の中の負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径30μm以下であることが好ましい。Siを含む負極活物質は導電抵抗が高いため、粒径30μmを超える大きな粒子が多くなると、負極活物質粒子の内部抵抗が大きくなり、電池容量が低下するおそれがある。更に、負極活物質層の中の負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が粒径30μm以下であることが好ましい。この場合には、電池容量を高くすることができる。
【0131】
負極活物質粒子のD
50は5.5μm以上であることがよく、更には5.7μm以上であることが好ましい。この場合には、電池のサイクル特性が更に向上する。
【0132】
負極活物質粒子のD
50が8.0μm以下であることがよく、更には7.5μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
50が過大である場合には、負極活物質粒子の反応抵抗(Liイオンの負極活物質内部への拡散抵抗)が増大するおそれがある。
【0133】
負極活物質粒子のD
10は、3.0μm以上であることがよく、更には3.4μm以上、4.0μm以上であることが好ましい。この場合には、負極活物質粒子中で粒径3.0μm未満の小さい粒子が少なくなり、被膜損傷による電解液の分解を効果的に抑えることができる。
【0134】
負極活物質粒子のD
10は6.0μm以下であることがよく、更には5.5μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
10が過大である場合には、負極活物質粒子の反応抵抗(Liイオンの負極活物質内部への拡散抵抗)が増大するおそれがある。
【0135】
負極活物質粒子のD
90は、7.5μmを超えて大きいことがよく、更には、8.5μm以上、9.0μm以上であることが好ましい。この場合には、粒径の大きな負極活物質粒子の割合が増えて、被膜量が少なくなる。このため、負極活物質粒子の抵抗が低減され、充放電のサイクル特性が更に向上する。
【0136】
負極活物質粒子のD
90の上限は12μm以下であることがよく、更には10.5μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
90が過大である場合には、負極活物質粒子の内部抵抗(Liイオンの負極活物質内部への拡散抵抗)が増大するおそれがある。
【0137】
負極活物質粒子のD
90に対する負極活物質粒子のD
50の比率は、0.5以上0.8以下さらには0.65以上0.8以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
90に対する負極活物質粒子のD
50の比率が0.5未満の場合には、電解液の分解生成物が増大するおそれがあり、0.8を超える場合には、負極活物質層の厚みにバラツキが生じやすく、電池特性の安定性が低下するおそれがある。
【0138】
負極活物質粒子のD
90に対する負極活物質粒子のD
10の比率は、0.1以上0.6以下さらには0.4以上0.6以下であることが好ましい。負極活物質粒子のD
90に対する負極活物質粒子のD
10の比率が0.1未満の場合には、電解液の分解生成物が増大するおそれがあり、0.6を超える場合には、負極活物質層の厚みにバラツキが生じやすく、電池特性の安定性が低下するおそれがある。
【0139】
ここで、D
50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径をいい、メディアン径とも称される。D
10は、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における10%径の値をいう。D
90も、同様に、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における90%径の値をいう。D
50,D
10、D
90とも、粒度分布測定装置により測定される。
【0140】
負極活物質粒子の粒度範囲は、0.4μm以上30μm以下の範囲内とすることが好ましい。「粒度範囲」は、負極に含まれる負極活物質粒子の粒径の範囲をいう。負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、その中で上記粒度範囲内の粒径をもつ負極活物質粒子の割合が95体積%以上であるとよい。「粒径」は、レーザー回折・散乱法により球形と仮定して得られる理論回折パターンと実測回折パターンを適合させて算出した有効径とする。
【0141】
負極活物質粒子の粒度範囲に0.4μm未満が含まれる場合には、負極活物質粒子の微粒子が多くなり、充電時に生成する被膜が多くなり、被膜抵抗が増大するため、充放電のサイクル特性が低下するおそれがある。負極活物質粒子の粒度範囲に30μmを超える範囲が含まれる場合には、負極活物質粒子内部へのLiの拡散抵抗が大きくなり、容量が低下するおそれがある。また、負極活物質粒子の中で、電池反応に寄与し得る部分としない部分とが生じて、電池反応時に粒子内での膨張・収縮の程度が異なり、粒子内に亀裂が生じて、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0142】
負極活物質粒子の粒度範囲は0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、1.0μm以上20μm以下であり、1.37μm以上18.5μm以下であることが望ましい。この場合には、更にサイクル特性が向上する。
【0143】
負極活物質粒子のBET比表面積は6m
2/g以下であるとよく、更には5m
2/g以下、4m
2/g以下、3.3m
2/g以下であることが好ましい。この場合には、充放電時のサイクル特性が更に向上する。「BET比表面積」は、粒子表面に吸着占有面積のわかった分子を吸着させ、その量から粒子の比表面積を求める方法であり、吸脱着測定装置により測定される。
【0144】
負極活物質粒子のBET比表面積は2m
2/g以上であることがよく、更には2.5m
2/g以上であることが好ましい。この場合には、負極活物質粒子同士の接触面積を比較的大きくすることができ、電子の導電パスが多くなり、大きな初回放電容量を発揮することができる。
【0145】
上記の負極活物質粒子は、集電体の少なくとも表面を被覆する負極活物質層を構成する。
【0146】
負極活物質層の全体の
質量を100%としたとき、前記負極活物質粒子の
質量の比率は、20%以上90%以下であることが好ましい。負極活物質粒子の
質量の比率が20%未満の場合には、放電容量が低下するだけでなく、負極活物質層の部位によって負極活物質粒子が偏在しやすく、電池特性にバラツキが生じるおそれがある。一方、負極活物質粒子の
質量の比率が90%を超える場合には、負極活物質層内の負極活物質粒子が過密になり、Liイオンの伝導パスが少なくなり、導電性が低下するおそれがある。
【0147】
第3の態様において、第1の態様と同様に、負極活物質粒子の表面には被膜が形成されているとよい。また、負極活物質粒子の粒度を調製するために、例えば、遠心機を用いるサイクロン分級、乾式分級、湿式分級、ふるい分け分級などを行うと良い。負極活物質粒子の成分、負極活物質粒子の製法は、第1の態様と同様である。
【0148】
第3の態様において、負極活物質層は、上記の特徴をもつ負極活物質粒子を有する。負極活物質粒子のその他の点(成分、製法など)は、第1、第2の態様と同様であるとよい。負極活物質層は、第1の態様の負極材と同様に、負極活物質粒子の他に、結着剤や導電助剤などを含んでいても良い。
【0149】
負極は、集電体と、集電体表面に形成された負極活物質層とからなる。集電体の表面に負極活物質層を形成する方法としては、例えば、負極活物質粒子を含むスラリーを、ドクターブレードを用いて集電体表面に成膜する方法、負極活物質粒子を含むスラリーをシート化し、このシートを集電体表面に配置するシート法などが挙げられる。また、負極活物質層は、集電体表面に圧着させるとよい。圧着法としては、ロールプレス法などが挙げられるが、表面平坦化のためにロールプレス法がよい。集電体は、第1の態様における負極用の集電体を用いることがよい。
【0150】
リチウムイオン二次電池は、上記の負極を有するとともに、正極と電解質とで構成される。正極は、第1の態様における正極と同様のものを用いることがよい。セパレータも、第1の態様と同様に、必要に応じて用いられるとよい。
【0151】
電解質は、非水電解液に含まれているとよい。非水電解液は、有機溶媒に電解質を溶解させたものである。電解質は、フッ化塩であることがよく、有機溶媒に可溶なアルカリ金属フッ化塩であることが好ましい。アルカリ金属フッ化塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、NaPF
6、NaBF
4、及びNaAsF
6の群から選ばれる少なくとも1種を用いるとよい。
【0152】
非水電解液の有機溶媒は、非プロトン性有機溶媒であることがよく、たとえば、環状カーボネート、鎖状分子などを用いるとよい。電解液の溶媒は、環状カーボネートと鎖状分子との双方を有することが好ましい。環状カーボネートは誘電率が高く、鎖状分子は粘性が低いためLiイオンの移動を妨げず、電池容量を向上させることができる。
【0153】
電解液の溶媒全体を100体積%としたとき、環状カーボネートは30〜50体積%以下であり、前記鎖状分子は50〜70体積%であるとよい。環状カーボネートは、電解液の誘電率を高くする一方、粘性が高い。誘電率が上がると電解液の導電性が良くなる。粘性が高いとLiイオンの移動が妨げられ導電性が悪くなる。鎖状分子は、低い誘電率であるが、粘性は低い。両者を上記の配合比の範囲でバランスよく配合することで、溶媒の誘電率をある程度高く、また粘性も低くして、導電性のよい溶媒を調整でき、電池容量を向上させることができる。
【0154】
環状カーボネートは、フッ素化エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)の群から選ばれる1種以上を含んでいても良い。フッ素化エチレンカーボネートは、分子内に少なくとも1つのフッ素基をもつ環状カーボネートであり、このフッ素基が、負極活物質粒子表面に形成される被膜の構成元素となり、被膜を安定で強固にするからである。フッ素化エチレンカーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネートなどを用いることが好ましい。
【0155】
電解液の溶媒全体を100体積%としたときに、フッ素化エチレンカーボネートは、1体積%以上30体積%以下であることが好ましい。この場合には、充放電のサイクル特性を効果的に向上させることができるとともに、電解液の粘性も低く抑えてLiイオンを移動させやすくして電池容量を更に向上させることができる。
【0156】
有機溶媒に用いられる鎖状分子は、鎖状なら特に限定しない。例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いることができる。
【0157】
第3の態様において、上記の特徴の他は、第1の態様と同様であるとよい。
【0158】
(4)本発明の第4の態様の実施形態について詳細に説明する。
【0159】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極に含まれる負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上であり、かつ、電解液の溶媒は、フッ素化エチレンカーボネートを有する。このため、後述の実施例に示すように、電池特性、特に充放電のサイクル特性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0160】
リチウムイオン二次電池について充放電を行うと、Liイオンが電解液を通じて正極活物質と負極活物質との間で挿入・脱離が行われる。その際には、電解液中に含まれる電解質が一部還元分解され、その分解生成物が、負極活物質粒子表面を被覆して被膜を形成する。この被膜は、Liイオンは通すが、電子は通さないという膜であり、固体電解質界面被膜(SEI:Solid Electrolyte Interphase)と言われている。この被膜は、負極活物質粒子表面を被覆することで、電解質と負極活物質とが直接接触することを防止して電解質の分解劣化を抑えている。
【0161】
負極活物質粒子が粒径1μm以下の微粒子である場合、負極活物質粒子表面に形成される被膜の膜厚が大きくなる傾向がある。被膜の膜厚が大きい場合には、充放電反応によるSiの体積変化に追従できず、被膜表面に応力が集中し、亀裂や欠陥が生じやすい。このように被膜に損傷が生じると、被膜の損傷部分を通じて電解液が負極活物質粒子内部に浸入しやすくなり、電解液が負極活物質と接触することにより電解液成分が分解されやすくなり、充放電のサイクル特性が低下することになる。また、負極活物質粒子が微粒子の場合には、粉砕などによる負極活物質粒子の亀裂や欠陥などの活性点が多くなるため、表面に形成される被膜が緻密になり、Liイオンの出入りの抵抗となる。
【0162】
本発明においては、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上である。このため、負極活物質粒子には、粒径1μm未満の微粒子が非常に少なくなる。負極活物質粒子に含まれる微粒子の量を抑えているため、損傷しやすい厚膜の被膜で被覆された負極活物質粒子が極めて少なくなり、電解液の劣化を抑えることができ、サイクル特性を向上させることができる。また、負極活物質粒子の粒径が大きくなると、負極活物質粒子表面で均一に反応するため、表面に形成される被膜の構造が粗くなり、Liイオンが円滑に通過することができる。
【0163】
また、電解液は、フッ素化エチレンカーボネートを有している。フッ素化エチレンカーボネートに導入されたフッ素原子の多くは、SEI被膜中のLiFの構成成分になる。このため、電解液にフッ素化エチレンカーボネートを含めることにより、安定で強固なSEI被膜が生成され、負極活物質が電解液に直接接触することが抑制され、電解液の分解を抑えることができる。
【0164】
このように、本発明によれば、負極活物質が1μm以下の微粒子の量が極めて少なく、且つ電解液がフッ素化エチレンカーボネートを含むので、負極活物質粒子表面に安定で強固なSEI被膜が薄い厚みで形成される。ゆえに、損傷しやすい厚膜の被膜で被覆された負極活物質粒子が極めて少なくなり、電解液の劣化を抑えることができ、サイクル特性を向上させることができる。
【0165】
一方、負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、粒径が1μm以上のものが85体積%未満である場合には、負極活物質粒子の中に1μm未満の微粒子が比較的多く含まれることになる。このため、充放電時にSEI被膜に損傷が生じる負極活物質粒子が多くなり、電解液が負極活物質と直接接触して電解液の劣化が進行して、充放電のサイクル特性が低下するおそれがある。
【0166】
ここで、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が粒径1μm以上であることが好ましい。この場合には、電解液の劣化を更に抑えサイクル特性が更に向上し、また負極活物質粒子表面に形成される被膜を通過するLiイオンの通過抵抗が更に低下する。
【0167】
負極に含まれる負極活物質粒子の全体が、粒径1μm以上であることが好ましい。この場合には、負極に含まれる負極活物質粒子の中に粒径1μm未満の微粒子が存在しなくなり、SEI被膜損傷を効果的に抑え電解液の劣化を効果的に抑えることができる。
【0168】
前記負極に含まれる前記負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1.5μm以上であることが好ましく、更には、95体積%以上が粒径1.5μm以上であることが望ましい。この場合には、粒径1.5μm未満の比較的小さい粒子を少なく抑えることができ、負極活物質粒子の粒径を更に大きくすることができる。ゆえに、負極活物質粒子表面のSEI被膜の膜厚を更に薄くすることができ、充放電時の体積変化に被膜が十分に追従して、被膜への亀裂発生を効果的に抑えることができる。
【0169】
負極に含まれる負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が粒径30μm以下であることが好ましく、更には、95体積%以上が粒径30μm以下であることが望ましい。Siを含む負極活物質は導電抵抗が高いため、粒径30μmを超える大きな粒子が多くなると、負極活物質粒子の内部抵抗が大きくなり、電池容量が低下するおそれがある。
【0170】
負極活物質粒子のD
50は5μm以上10μm以下であることがよく、更には5.5μm以上8μm以下であることが好ましい。この場合には、充放電のサイクル特性が更に向上する。
【0171】
負極活物質粒子のD
10は、3μm以上であることがよく、更には3.4μm以上、4.0μm以上であることが好ましい。この場合には、負極活物質粒子中で粒径3μm未満の小さい粒子が少なくなり、SEI被膜損傷による電解液の分解を効果的に抑えることができる。
【0172】
負極活物質粒子のD
90は、8.0μmを超えて大きいことがよく、更には、8.5μm以上、9.0μm以上であることが好ましい。この場合には、粒径の大きな負極活物質粒子の割合が増えて、薄い被膜をもつ負極活物質粒子が多くなる。このため、薄い被膜は、負極活物質粒子の体積変化に柔軟に追従し得る。このため、被膜の損傷が少なく、負極活物質と電解液との直接接触が抑制され、電解液の劣化を効果的に抑えることができ、充放電のサイクル特性が更に向上する。
【0173】
負極活物質粒子のD
90の上限は30μm、更には25μmとすることがよい。負極活物質粒子の粒径が過大となり、負極活物質粒子の内部抵抗が大きくなり、電池容量が低下するおそれがあるからである。
【0174】
ここで、D
50は、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値をいい、メディアン径とも称される。D
10は、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における10%径の値をいう。D
90も、同様に、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における90%径の値をいう。D
50,D
10、D
90とも、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される。
【0175】
負極活物質粒子の粒度範囲は、0.4μm以上30μm以下の範囲内とすることが好ましい。「粒度範囲」は、負極に含まれる負極活物質粒子の粒径の範囲をいう。負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、その中で上記粒度範囲内の粒径をもつ負極活物質粒子の割合が95体積%以上であるとよい。
【0176】
負極活物質粒子の粒度範囲に0.4μm未満が含まれる場合には、負極活物質粒子の微粒子が多くなり、充電時に生成するSEI被膜が厚くなり、充放電のサイクル特性が低下するおそれがある。負極活物質の導電性は低いため、負極活物質粒子の粒度範囲に30μmを超える範囲が含まれる場合には、負極活物質粒子の内部抵抗が大きくなり、容量が低下するおそれがある。また、負極活物質粒子の中で、電池反応に寄与し得る部分としない部分とが生じて、電池反応時に粒子内での膨張・収縮の程度が異なり、粒子内に亀裂が生じて、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0177】
負極活物質粒子の粒度範囲は0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、1.0μm以上20μm以下であり、1.37μm以上18.5μm以下であることが望ましい。この場合には、更にサイクル特性が向上する。
【0178】
負極活物質粒子のBET比表面積は6m
2/g以下であるとよく、更には5m
2/g以下、4m
2/g以下、3.3m
2/g以下であることが好ましい。この場合には、充放電時のサイクル特性が更に向上する。「BET比表面積」は、粒子表面に吸着占有面積のわかった分子を吸着させ、その量から粒子の比表面積を求める方法である。
【0179】
この場合には、負極活物質粒子同士の接触面積を比較的大きくすることができ、電子の導電パスが多くなり、大きな初回放電容量を発揮することができる。
【0180】
前記負極活物質粒子は、Siを有する負極活物質からなる負極活物質粒子をサイクロン分級で粒径の大きい粒子と小さい粒子とに分級した粒子のうち、該大きい粒子からなることが好ましい。
【0181】
また、負極に含まれる負極活物質粒子は、上記サイクロン分級で粒度調整されたものに限らず、篩による分級法、浮沈分離法、湿式遠心分離法、乾式分級法などの方法により粒度調整されたものであってもよい。乾式分球法は、従来の気流式分級機とは異なる最新の分級理論に基づいて開発された乾式分級機を用いると良い。
【0182】
負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質からなる。負極活物質は、リチウムと合金化可能な元素又は/及びリチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物からなる。
【0183】
前記リチウムと合金化可能な元素は、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、及びBiの群から選ばれる少なくとも1種からなるとよい。中でも、珪素(Si)または錫(Sn)からなるとよい。前記リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物は珪素化合物または錫化合物であることがよい。珪素化合物は、SiOx(0.5≦x≦1.5)であることがよい。錫化合物は、例えば、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などが挙げられる。
【0184】
中でも、負極活物質粒子は、Si(珪素)を有するとよい。Siを有する負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であって珪素又は/及び珪素化合物からなるとよい。負極活物質は、SiOx(0.5≦x≦1.5)を有するとよい。珪素は、理論放電容量が大きい。一方で、充放電時の体積変化が大きいため、SiOxとすることで体積変化を少なくすることができる。第4の負極活物質粒子の成分及び製法は、第1の態様の負極活物質粒子の成分及び製法と同様であるとよい。
【0185】
第4の態様において、第1の態様と同様に、負極活物質粒子の表面には被膜が形成されているとよい。また、負極活物質粒子の粒度を調製するために、例えば、遠心機を用いるサイクロン分級、乾式分級、湿式分級、ふるい分け分級などを行うと良い。負極活物質粒子の成分、負極活物質粒子の製法は、第1の態様と同様である。
【0186】
第4の態様において、上記の特徴をもつ負極活物質粒子は、集電体の少なくとも表面を被覆する負極材を構成する。一般的に、負極は、上記負極材を負極活物質層として集電体に圧着されることで構成される。集電体は、例えば、銅や銅合金などの金属製のメッシュや金属箔を用いるとよい。
【0187】
負極材は、上記負極活物質粒子を主たる負極活物質とした上で、既に公知の他の負極活物質(たとえば黒鉛、Sn、Siなど)を添加して用いてもよい。
【0188】
第4の態様において、第1の態様と同様に、負極材には、前記負極活物質粒子の他に、結着剤や、導電助材などを含んでいても良い。
【0189】
第4の態様において、リチウムイオン二次電池に用いられる正極は、第1の態様と同様に、集電体と、正極活物質粒子を有し集電体の表面を被覆する正極材とからなるとよい。また、セパレータも、第1の態様と同様に、必要に応じて用いられるとよい。
【0190】
電解質は、非水電解液に含まれているとよい。非水電解液は、有機溶媒に電解質を溶解させたものである。電解質は、フッ化塩であることがよく、有機溶媒に可溶なアルカリ金属フッ化塩であることが好ましい。アルカリ金属フッ化塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、NaPF
6、NaBF
4、及びNaAsF
6の群から選ばれる少なくとも1種を用いるとよい。
【0191】
非水電解液の有機溶媒は、非プロトン性有機溶媒であることがよく、たとえば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エーテル類などを用いるとよい。電解液の溶媒は、環状エチレンカーボネートを含む環状カーボネートと、鎖状カーボネートとを有することが好ましい。環状カーボネートは誘電率が高く、鎖状カーボネートは粘性が低いためLiイオンの移動を妨げず、電池容量を向上させることができる。
【0192】
電解液の溶媒全体を100体積%としたとき、環状カーボネートは30〜50体積%以下であり、前記鎖状カーボネートは50〜70体積%であるとよい。環状カーボネートは、電解液の誘電率を高くする一方、粘性が高い。誘電率が上がると電解液の導電性が良くなる。粘性が高いとLiイオンの移動が妨げられ導電性が悪くなる。鎖状カーボネートは、低い誘電率であるが、粘性は低い。両者を上記の配合比の範囲でバランスよく配合することで、溶媒の誘電率をある程度高く、また粘性も低くして、導電性のよい溶媒を調整でき、電池容量を向上させることができる。
【0193】
環状カーボネートは、フッ素化エチレンカーボネートを必須成分とし、そのほか、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、及びガンマバレロラクトンの群から選ばれる1種以上を含んでいても良い。
【0194】
フッ素化エチレンカーボネートは、分子内に少なくとも1つのフッ素基をもつ環状カーボネートであり、このフッ素基が、負極活物質粒子表面に形成される被膜の構成元素となり、被膜を安定で強固にするからである。フッ素化エチレンカーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートなどを用いることが好ましい。耐酸性を考慮すると、このうちFECを用いるのが特に好ましい。
【0195】
電解液の溶媒全体を100体積%としたときに、フッ素化エチレンカーボネートは、1体積%以上30体積%以下であることが好ましい。この場合には、充放電のサイクル特性を効果的に向上させることができるとともに、電解液の粘性も低く抑えてLiイオンを移動させやすくして電池容量を更に向上させることができる。一方、フッ素化エチレンカーボネートが1体積%未満である場合には、サイクル特性向上の程度が低くなるおそれがある。フッ素化エチレンカーボネートが30体積%を超える場合には、電解液の高温特性が低下し、高温によってフッ素化エチレンカーボネートが分解し、その分解生成物により電池の内部抵抗が高くなる原因となる。
【0196】
有機溶媒に用いられる鎖状カーボネートは、鎖状であればよく、特に限定しない。例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、及び酢酸アルキルエステルから選ばれる一種以上を用いることができる。
【0197】
また、有機溶媒に用いられるエーテル類として、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等を用いることができる。
【0198】
第4の態様において、その他の点は、第1〜第3の態様と同様であるとよい。
【0199】
(5)その他
上記の第1〜第4の態様の中から、好ましい態様を抽出して結合することができる。例えば、以下の態様が挙げられる。
・a)リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化反応可能な元素又は/及びリチウムと合金化反応可能な元素化合物からなる負極活物質粒子を含む負極材。
・b)前記a)において、前記負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が粒径1μm以上である負極材。
・c)前記a)又はb)において、前記負極活物質粒子のBET比表面積が6m
2/g以下である負極材。
d)前記a)〜c)のいずれかにおいて、前記負極活物質粒子のD
50が4.5μm以上である負極材。
・e)前記a)からd)のいずれかにおいて、前記負極活物質粒子の粒度範囲が0.4μm以上30μm以下である負極材。
・f)前記a)からe)のいずれかにおいて、前記負極活物質粒子のD
10は3μm以上である負極材。
・g)前記a)からf)のいずれかにおいて、前記負極活物質粒子のD
90が8.0μmを超えて大きい負極材。
・h)集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層とからなるリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極活物質層は、前記a)〜g)のいずれかの負極材から構成されており、前記負極活物質層の厚みは、前記負極活物質粒子のD
90の1.4倍以上であるリチウムイオン二次電池用負極。
・i)集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層とからなるリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極活物質層は、前記a)〜g)のいずれかの負極材から構成されており、前記負極活物質層の厚みは、前記負極活物質粒子のD
10の3倍以上であるリチウムイオン二次電池用負極。
・j)前記a)〜g)のいずれかにおいて、前記負極活物質粒子を含む負極と、Liイオンを吸蔵、放出し得る正極活物質をもつ正極と、電解質を溶媒に溶解してなる電解液と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液の前記溶媒は、フッ素化エチレンカーボネートを有するリチウムイオン二次電池。
・k)前記h)又はi)のリチウムイオン二次電池用負極と、Liイオンを吸蔵、放出し得る正極活物質をもつ正極と、電解質を溶媒に溶解してなる電解液と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記電解液の前記溶媒は、フッ素化エチレンカーボネートを有するリチウムイオン二次電池。
【0200】
(二次電池の作製)
調製された試料1〜4の各負極活物質粒子と、導電助材としての天然黒鉛粉末とケッチェンブラックと、結着剤としてのポリアミドイミドとを混合し、溶媒を加えてスラリー状の混合物を得た。溶媒は、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)であった。負極活物質粒子と、天然黒鉛粒子と、ケッチェンブラックと、ポリアミドイミドとの質量比は、百分率で、負極活物質粒子/天然黒鉛粒子/ケッチェンブラック/ポリアミドイミド=42/40
/3/15であった。
【0201】
次に、スラリー状の混合物を、ドクターブレードを用いて集電体である銅箔の片面に成膜し、所定の圧力でプレスし、200℃、2時間加熱し、放冷した。これにより、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極が形成された。
【0202】
次に、正極活物質としてのリチウム・ニッケル系複合酸化物LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2と、アセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合してスラリーとなし、このスラリーを集電体としてのアルミニウム箔の片面に塗布し、プレスし、焼成した。リチウム・ニッケル系複合酸化物とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとの質量比は、リチウム・ニッケル系複合酸化物/アセチレンブラック/ポリフッ化ビニリデン=88/6/6とした。これにより、集電体の表面に正極活物質層を固定してなる正極を得た。
【0203】
正極と負極との間に、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質膜を挟み込んだ。この正極、セパレータ及び負極からなる電極体を複数積層した。2枚のアルミニウムフィルムの周囲を、一部を除いて熱溶着をすることにより封止して、袋状とした。袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、更に、電解液を入れた。電解液は、電解質としてのLiPF
6が、有機溶媒に溶解してなる。有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、質量比でEC/EMC/DMC=3/3/4との配合比で混合して調製した。電解液中のLiPF
6の濃度は、1mol/dm
3であった。
【0204】
その後、真空引きしながら、アルミニウムフィルムの開口部分を完全に気密に封止した。このとき、正極側及び負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とし、リチウムイオン電池を得た。
【0205】
リチウムイオン電池にはコンディショニング処理を行った。コンディショニング処理は、25℃で充放電を3回繰り返して行った。1回目は充電条件を0.2C、4.1VのCC(定電流)充電とし、放電条件を0.2C、3V、カットオフのCC放電とした。2回目は充電条件を0.2C、4.1VのCC−CV(定電流定電圧)充電とし、放電条件を0.1C、3V、カットオフのCC放電とした。3回目は充電条件を1C、4.2VのCC−CV充電とし、放電条件を1C、3V、カットオフのCC放電とした。
【0206】
<放電容量維持率>
リチウムイオン二次電池のサイクル試験を行った。サイクル試験は、25℃で行い、充電条件を1C、4.2VのCC(定電流)充電とし、放電条件を1C、2.5VのCC(定電流)放電とした。コンディショニング処理後の最初の充放電試験を1サイクル目とし、150サイクル目まで同様の充放電を繰り返し行った。1サイクル目及び150サイクル目の充放電の際に、放電容量を測定し、150サイクル目放電容量維持率を算出した。150サイクル目放電容量維持率は、150サイクル目の放電容量を初回の放電容量で除した値の百分率((150サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100)で求められる値である。150サイクル目放電容量維持率を
図2及び表2に示した。
【0207】
図2及び表2に示すように、試料2〜4の負極活物質粒子を用いた電池は、試料1の負極活物質粒子を用いた電池よりも150サイクル目放電容量維持率が極めて高かった。更に、試料2〜4の中でも試料4の負極活物質粒子を用いた場合には、放電容量維持率が更に高かった。
【0208】
図3には、試料1、3、4の負極活物質粒子のD
10と100サイクル目放電容量維持率との関係を示した。各試料毎に上記と同様の二次電池を作製し、100サイクル目の放電容量を測定した。100サイクル目放電容量維持率は、100サイクル目の放電容量を初回の放電容量で除した値の百分率((100サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100)で求められる値である。
【0209】
図3及び表2に示すように、試料3,4の負極活物質粒子を用いて作製された電池は、試料1の場合よりも、100サイクル目放電容量維持率が格段に高かった。
【0210】
これらのことから、負極活物質粒子のBET比表面積が6m
2/g以下で、前記負極活物質粒子のD
50が4.5μm以上であることにより、電池のサイクル特性を向上させることがわかった。また、前記負極活物質粒子の粒度範囲が0.4μm以上30μm以下であるか、又はD
10が3μm以上の場合には、更に電池のサイクル特性が向上することがわかった。極活物質粒子のD
90は8.0μmを超えて大きいことがよく、更にはD
90が8.5μm以上であることがよいことがわかった。また、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が1μm以上の粒径をもつことがよいこともわかった。更に、負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が1μm以上の粒径をもつことがよいこともわかった。
【0211】
<初回放電容量>
次に、試料1〜4の負極活物質粒子を用いた電池の初回放電容量を測定した。初回放電容量は、コンディショニング処理後に行う第1回目の放電時の容量である。
図4及び表2に示すように、試料2〜4の負極活物質粒子を用いた電池は、試料1の負極活物質粒子を用いた電池よりも初回放電容量が高かった。試料2〜4の中でも、試料2,3の場合、更には試料3の場合の初回放電容量が高かった。
【0212】
このことから、前記負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が粒径1μm以上であり、負極活物質粒子のBET比表面積が5m
2/g以下で、負極活物質粒子のD
50が5.0μm以上8.0μm以下であることにより、初回放電容量が高くなることがわかった。
【0213】
更に初回放電容量を高めるために、負極活物質粒子の粒度範囲が0.4μm以上20.0μm以下であることがよく、また、負極活物質粒子のD
50が5.7μm以上7.2μm以下であることがよく、負極活物質粒子のBET比表面積が2.5m
2/g以上5.0m
2/g以下であることがよく、負極活物質粒子のD
90が8.0μmを超えて大きいことがよいこともわかった。
【0214】
また、このことから、負極活物質粒子のBET比表面積が6m
2/g以下で、負極活物質粒子のD
50が4.5μm以上8.0μm以下、負極活物質粒子の粒度範囲が0.4μm以上30μm以下であることにより、初回放電容量が高くなることがわかった。また、負極活物質粒子のD
10は3.0μm以上、D
50が5.7μm以上7.2μm以下であることがよく、負極活物質粒子のBET比表面積が2.5m
2/g以上5.0m
2/g以下であることがよく、負極活物質粒子のD
90が8.0μmを超えて大きいことにより、更に初回放電容量が高くなることがわかった。負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その85体積%以上が1μm以上の粒径をもつことがよく、さらには負極活物質粒子は、全体を100体積%としたときに、その95体積%以上が1μm以上の粒径をもつことが好ましいことがわかった。
【0215】
<負極の反応抵抗>
試料1〜4の負極活物質粒子を用いて作製した負極の反応抵抗を測定した。負極の反応抵抗を測定するために、負極を用いて作製した上記二次電池について交流インピーダンス測定を行った。電流の周波数は1M〜0.05Hzであり、1C、25℃の条件で定電流定電圧(CCCV)で4.2Vまで充電した。充電した状態の二次電池を周波数1M〜0.05Hzの条件で交流インピーダンス測定を行った。測定結果を
図5に示した。
図5において、横軸は、抵抗の実数部を示し、縦軸は抵抗の虚数部を示す。
図5に示す線部において、円弧状部の両端部間の幅は負極活物質粒子の被膜抵抗及び粒子界面での粒子内部へのLiイオン拡散抵抗を示し、円弧状部よりも実数部の大きい抵抗部分は負極活物質粒子内でのLiイオン拡散抵抗を示す。
【0216】
図5に示すように、試料2〜4の負極活物質粒子を用いた負極の反応抵抗は、試料1よりも小さかった。試料2〜4の中でも、試料3が最も反応抵抗が小さかった。このことは、試料3の負極活物質粒子の初回放電容量が極大となる要因となる。
【0217】
図4の初回放電容量の結果と照らし合わせると、以下のことが推定される。負極の反応抵抗は、負極活物質粒子の被膜抵抗及び粒子界面での粒子内部へのLiイオン拡散抵抗を合わせた値を示す。負極活物質粒子の粒径が小さくなるほど粒子内部へのLiイオン拡散抵抗が小さくなる。負極活物質粒子の界面には被膜が形成されている場合には、粒子表面での被膜が薄くなるほど、負極活物質粒子の被膜抵抗が小さくなる。一方で、負極活物質粒子の粒径が小さいほど被膜が厚く形成される。粒子内部へのLiイオン拡散抵抗を大きくしない程度で、SEI被膜の薄い粒径となるちょうどバランスのとれた範囲の粒径で、インピーダンスを小さくすることで、電池の初回放電容量を大きくすることができたと考えられる。
【0220】
(2)本発明の第3の態様のリチウムイオン二次電池を以下のように電池1〜6の6種類作製し、充放電のサイクル評価試験を行った。電池1〜6は本発明の実施例である。
【0221】
(電池1)
まず、市販のSiO粉末を、不活性ガス雰囲気中で、900℃の温度下で、2時間加熱処理を行った。これにより、SiO粉末が不均化されて、負極活物質粒子が得られた。この負極活物質粒子について、CuKαを使用したX線回折(XRD)測定を行ったところ、単体珪素と二酸化珪素とに由来する特有のピークが確認された。このことから、負極活物質粒子には、単体珪素と二酸化珪素が生成していることがわかった。
【0222】
不均化された負極活物質粒子の粒度分布を測定し、その結果を
図7に示した。また、表3に示すように、負極活物質粒子のBET比表面積は6.6m
2/gであり、D
10は1.4μm、D
50は4.4μm、D
90は8.0μmであった。粒度範囲は0.34〜18.5μmであった。
【0223】
調製された各負極活物質粒子と、導電助材としての天然黒鉛粉末とケッチェンブラックと、結着剤としてのポリアミドイミドとを混合し、溶媒を加えてスラリー状の混合物を得た。溶媒は、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)であった。負極活物質粒子と、天然黒鉛粒子と、ケッチェンブラックと、ポリアミドイミドとの質量比は、百分率で、負極活物質粒子/天然黒鉛粒子/ケッチェンブラック/ポリアミドイミド=42/40/
3/15であった。
【0224】
次に、スラリー状の混合物を、ドクターブレードを用いて集電体である銅箔の片面に成膜し、ロールプレス法でプレスし、200℃、2時間加熱し、放冷した。これにより、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極が形成された。負極活物質層の厚みは、15μmとし、負極活物質層全体の質量を100質量としたときの負極活物質粒子の比率は、42質量%とした。
【0225】
次に、正極活物質としてのリチウム・ニッケル系複合酸化物LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2と、アセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合してスラリーとなし、このスラリーを集電体としてのアルミニウム箔の片面に塗布し、プレスし、焼成した。リチウム・ニッケル系複合酸化物とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとの質量比は、リチウム・ニッケル系複合酸化物/アセチレンブラック/ポリフッ化ビニリデン=88/6/6とした。これにより、集電体の表面に正極活物質層を固定してなる正極を得た。
【0226】
正極と負極との間に、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質膜を挟み込んだ。この正極、セパレータ及び負極からなる電極体を複数積層した。2枚のアルミニウムフィルムの周囲を、一部を除いて熱溶着をすることにより封止して、袋状とした。袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、更に、電解液を入れた。電解液は、電解質としてのLiPF
6が、有機溶媒に溶解してなる。有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、体積%でEC/EMC/DMC=30/30/40の配合比で混合して調製した。電解液中のLiPF
6の濃度は、1mol/L(M)であった。
【0227】
その後、真空引きしながら、アルミニウムフィルムの開口部分を完全に気密に封止した。このとき、正極側及び負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とし、リチウムイオン二次電池を得た。
【0228】
リチウムイオン二次電池にコンディショニング処理を行った。コンディショニング処理では、25℃で充放電を3回繰り返して行った。
【0229】
(電池2)
電池1の負極活物質粒子にサイクロン分級を行って、電池2の負極活物質粒子を調製した。サイクロン分級では、サイクロン分級は、粉体分級機(ターボクラシファイア:日清エンジニアリング製)を用い、回転数10000rpm、総空気量3.0m
2/分、負極活物質粒子の供給量1.5kg/時の条件で行った。分級ロータに投入された負極活物質粒子は、分級の回転による遠心力と、半径中心方向に流れる空気による抗力を受ける。これらの粒子のうち遠心力>抗力の関係が成り立つ粗い粒子は、分級ロータの外方向に飛ばされ、遠心力<抗力の関係が成り立つ細かい粒子は空気とともに半径中心方向に移動される。外方向に飛ばされた粗い粒子を電池2とした。
【0230】
電池2の粗い粒子のBET比表面積は2.8m
2/g、D10は4.4μm、D50は6.4μm、D90は9.2μmであり、粒度範囲は2.31〜18.5μmであった。回収した電池2の負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、粒径2μm以上のものが100体積%であった。電池2の粒度分布を
図7に示した。電池2のその他の点は、電池1と同様である。
【0231】
(電池3)
電池1の負極活物質粒子にサイクロン分級を行って、電池3の負極活物質粒子を調製した。サイクロン分級では、電池2を分級したときと同じ装置を用い、回転数4000rpm、総空気量2.0m
3/分、負極活物質粒子の供給量1kg/時の条件で行った。表3に示すように、回収した電池3の負極活物質粒子のBET比表面積は2.7m
2/g、D
10は5.4μm、D
50は7.2μm、D
90は10.0μmであり、粒度範囲は3.27〜18.5μmであった。回収した電池3の負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、粒径4μm以上のものが99.3体積%であった。その他は、電池1と同様である。
【0232】
(電池4)
電池1の負極活物質粒子を用いて、電池4を作製した。電池4の電解液の有機溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、体積%でFEC/EC/EMC/DMC=4/26/30/40の配合比で混合して調製した。その他は、電池1と同様である。
【0233】
(電池5)
電池2の負極活物質粒子を用いて、電池5を作製した。電池5の電解液の有機溶媒は、電池4と同様に、体積%でFEC/EC/EMC/DMC=4/26/30/40の配合比で混合して調製した。その他は、電池1と同様である。
【0234】
(電池6)
電池3の負極活物質粒子を用いて、電池6を作製した。電池6の電解液の有機溶媒は、電池4と同様に、体積%でFEC/EC/EMC/DMC=4/26/30/40の配合比で混合して調製した。その他は、電池1と同様である。
【0237】
<充放電のサイクル試験>
電池1〜6について、充放電のサイクル試験を25℃で行った。サイクル試験の充電条件を1C、4.2VのCC(定電流)充電とし、放電条件を1C、2.5VのCC(定電流)放電とした。コンディショニング処理後の最初の充放電試験を1サイクル目とし、500サイクル目まで同様の充放電を繰り返し行った。
【0238】
図8に示すように、電池1,2,3の順に、サイクル特性が向上した。これは、負極活物質粒子のD
10及びD
50が大きくなるほど、また負極活物質粒子の比表面積が小さくなるほど、サイクル特性が向上したことを示している。
【0239】
電解液の有機溶媒にFECを添加した電池4は、FEC無添加の電池1〜3よりも著しくサイクル特性が向上した。これは、FECが、被膜中のLiFの構成成分になり、安定で強固な被膜が生成され、負極活物質が電解液に直接接触することが抑制され、電解液の分解が抑えられたためであると考えられる。
【0240】
図8に示すように、電池5,6は、電池4に比べて格段にサイクル特性が向上した。これは、電解液にFECを添加していること、更に電池5では負極活物質粒子の全体が2μm以上であり、電池6では負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに4μm以上のものが99.3体積%であって、比較的小さい微粒子を殆ど含んでいない。微粒子の負極活物質粒子は、表面に形成される被膜が厚くなりやすく、負極活物質粒子の体積変化により被膜表面部に亀裂が生じやすい。電池5,6の負極活物質粒子では、このような微粒子を殆ど含んでいないため、被膜が損傷する負極活物質粒子が極めて少なくなり、電解液の劣化を抑えることができる。また、負極活物質粒子の粒径が大きくなると、表面に形成される被膜の構造が粗くなり、Liイオンが円滑に通過することができる。このため、電池5,6のリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れていると考えられる。
【0241】
<充放電サイクルの安定性試験>
電池5の負極活物質を用いて, 負極活物質粒子と、天然黒鉛粒子と、ケッチェンブラックと、ポリアミドイミドとの質量比が、百分率で、負極活物質粒子/天然黒鉛粒子/アセチレンブラック/ポリアミドイミド=32/50/8/10の電極を作製し、層の厚みを変更した場合の充放電サイクルの安定性試験を行った。表5に示すように、負極活物質層の厚みを14.7μmとした場合を負極1、負極活物質層の厚みを19μmとした場合を負極2とした。負極1、2は実施例である。
【0242】
各負極1、2の平面方向の位置の異なる2箇所から所定面積分の負極活性物質層を切り出し、各負極活物質層の切り出し部分を、この切り出し部分と同質量の正極活物質層を持つ正極と組み合わせて二次電池を組み立てた。電池内の電解質は1M(mol/dm3)のLiPF
6とし、溶媒は、体積%でFEC/EC/EMC/DMC=4/26/30/40の配合比で混合して調製したものを用いた。
【0244】
充放電のサイクル試験は、25℃で行い、充電条件を1C、4.2VのCC(定電流)充電とし、放電条件を2C、3VのCC(定電流)放電とした。コンディショニング処理後の最初の充放電試験を1サイクル目とし、500サイクル目まで同様の充放電を繰り返し行った。
【0245】
図9に示すように、負極1の2つの切り出し片(
図9の黒線状部)は、互いに放電容量維持率が異なった。負極1の一方は、負極2と同程度の放電容量維持率を示し、他方は負極2の放電容量維持率よりも低かった。負極1の2つの切り出し片は、充放電サイクル数が増加するにつれて、放電容量維持率の差は広がった。一方、負極2の2つの切り出し片(
図9の白抜き線状部)は、互いに同じ放電容量維持率を示した。このことから、負極2を用いた電池はサイクル安定性に優れており、負極2を用いた電池はサイクル安定性がよくないことがわかった。この理由は、以下のように考えられる。
【0246】
負極1,2はともに、同じ負極活物質粒子を用いており、この負極活物質層内の負極活物質粒子全体が粒径2μm以上である。この場合、
図6に示すように、負極活物質層1中の負極活物質粒子全体の粒径が2μm以上となり、負極活物質層1の表面に存在する負極活物質粒子の比較的大きな大粒子11の間に凹凸が形成され、この凹凸の凹部10が負極活物質粒子の微粒子で埋められず、負極活物質層1の表面粗さが大きくなる。
【0247】
負極1,2とも、負極活物質粒子のD
90に対する負極活物質層の厚みが1.4倍以上であるため、サイクル特性が比較的安定していた。
【0248】
負極1のように、負極活物質粒子のD
90に対する負極活物質層の厚みが2.0倍未満の場合には、負極活物質層の部分によって厚みに差異が生じやすい。負極活物質層1の薄い部分では、電解液が内部まで浸透しやすい。この場合、負極活物質粒子表面に形成される被膜に亀裂が発生していると、負極活物質粒子を構成している負極活物質と電解液とが接触しやすく、サイクル特性が低下しやすい。一方、負極活物質層1の厚い部分では、電解液が内部まで浸透しにくい。このため、被膜に亀裂が生じていても、薄い部分に比べて電解液と負極活物質とは接触しにくく、サイクル特性が低下しにくい。このように、負極1では、負極2に比べて、サイクル特性にバラツキが生じやすい。
【0249】
一方、負極2では、負極活物質粒子のD
90に対する負極活物質層の厚みが2.0倍以上であるため、負極活物質層の部分による厚みの差異が生じにくい。このため、負極活物質層1の表面に大きな凹凸が形成されにくくなる。このため、負極2は、負極1に比べて、負極活物質層の厚みのバラツキが少なくなり、充放電サイクル特性が安定化する。
【0250】
(3)本発明の第4の態様のリチウムイオン二次電池を以下のように電池7〜13の7種類作製し、充放電のサイクル評価試験を行った。電池7〜11は本発明の参考例であり、電池12,13は本発明の実施例である。
【0251】
(電池7)
まず、市販のSiO粉末をボールミルに入れて、Ar雰囲気下で、回転数450rpmで20時間ミリングし、その後、不活性ガス雰囲気中で、900℃の温度下で、2時間加熱処理を行った。これにより、SiO粉末が不均化されて、負極活物質粒子が得られた。この負極活物質粒子について、CuKαを使用したX線回折(XRD)測定を行ったところ、単体珪素と二酸化珪素とに由来する特有のピークが確認された。このことから、負極活物質粒子には、単体珪素と二酸化珪素が生成していることがわかった。
【0252】
不均化された負極活物質粒子の粒度分布を測定し、その結果を
図10に示した。また、表6に示すように、負極活物質粒子のBET比表面積は6.6m
2/gであり、D
10は1.4μm、D
50は4.4μm、D
90は8.0μmであった。粒度範囲は0.34〜18.5μmであった。負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、粒径1μm以上のものが93.3体積%であった。
【0253】
調製された各負極活物質粒子と、導電助材としての天然黒鉛粉末とケッチェンブラックと、結着剤としてのポリアミドイミドとを混合し、溶媒を加えてスラリー状の混合物を得た。溶媒は、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)であった。負極活物質粒子と、天然黒鉛粒子と、ケッチェンブラックと、ポリアミドイミドとの質量比は、百分率で、負極活物質粒子/天然黒鉛粒子/ケッチェンブラック/ポリアミドイミド=42/40
/3/15であった。
【0254】
次に、スラリー状の混合物を、ドクターブレードを用いて集電体である銅箔の片面に成膜し、所定の圧力でプレスし、200℃、2時間加熱し、放冷した。これにより、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極が形成された。
【0255】
次に、正極活物質としてのリチウム・ニッケル系複合酸化物LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2と、アセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合してスラリーとなし、このスラリーを集電体としてのアルミニウム箔の片面に塗布し、プレスし、焼成した。リチウム・ニッケル系複合酸化物とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとの質量比は、リチウム・ニッケル系複合酸化物/アセチレンブラック/ポリフッ化ビニリデン=88/6/6とした。これにより、集電体の表面に正極活物質層を固定してなる正極を得た。
【0256】
正極と負極との間に、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質膜を挟み込んだ。この正極、セパレータ及び負極からなる電極体を複数積層した。2枚のアルミニウムフィルムの周囲を、一部を除いて熱溶着をすることにより封止して、袋状とした。袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、更に、電解液を入れた。電解液は、電解質としてのLiPF
6が、有機溶媒に溶解してなる。有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、体積%でEC/EMC/DMC=30/30/40の配合比で混合して調製した。電解液中のLiPF
6の濃度は、1mol/L(M)であった。
【0257】
その後、真空引きしながら、アルミニウムフィルムの開口部分を完全に気密に封止した。このとき、正極側及び負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とし、リチウムイオン二次電池を得た。
【0258】
リチウムイオン二次電池にコンディショニング処理を行った。コンディショニング処理では、充放電を3回繰り返して行った。1回目は充電条件を0.2C、4.1VのCC−CV(定電流定電圧)充電とし、放電条件を0.2C、3V、カットオフのCC放電とした。2回目は充電条件を0.2C、4.1VのCC−CV充電とし、放電条件を0.1C、3V、カットオフのCC放電とした。3回目は充電条件を1C、4.2VのCC−CV充電とし、放電条件を1C、3V、カットオフのCC放電とした。コンディショニング処理の後に、リチウム二次電池を常温(25℃)に戻した。
【0259】
(電池8、9)
電池7で用いた負極活物質粒子にサイクロン分級を行った。サイクロン分級では、サイクロン分級は、粉体分級機(ターボクラシファイア:日清エンジニアリング製)を用い、分級ロータ径300mm、回転数7000rpm、総空気量2.0m
3/分、負極活物質粒子の供給量1kg/時の条件で行った。分級ロータに投入された負極活物質粒子は、分級の回転による遠心力と、半径中心方向に流れる空気による抗力を受ける。これらの粒子のうち遠心力<抗力の関係が成り立つ粗い粒子は、分級ロータの外方向に飛ばされ、遠心力>抗力の関係が成り立つ細かい粒子は空気とともに半径中心方向に移動される。分級ロータの中心方向に移動された細かい粒子は、負極活物質粒子として電池8で用いた。外方向に飛ばされた粗い粒子は、負極活物質粒子として電池9で用いた。
【0260】
電池8で用いた細かい粒子のBET比表面積は9.5m
2/g、D
10は0.8μm、D
50は2.7μm、D
90は5.0μmであり、粒度範囲は0.37〜11.0μmであった。回収した電池8の負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、粒径2μm未満のものが33体積%であった。
【0261】
表6に示すように、電池9で用いた粗い粒子のBET比表面積は2.8m
2/g、D
10は4.4μm、D
50は6.4μm、D
90は9.2μmであり、粒度範囲は2.31〜18.5μmであった。回収した電池9で用いた負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、粒径2μm以上のものが100体積%であった。電池9で用いた粒子の粒度分布を
図10に示した。
【0262】
電池8,9のリチウムイオン二次電池のその他の点は、電池7のリチウムイオン二次電池と同様である。
【0263】
(電池10)
電池7の負極活物質粒子にサイクロン分級を行って電池10の負極活物質粒子を調製した。サイクロン分級では、電池8,9を分級したときと同じ装置を用い、分級ロータ径300mm、回転数4000rpm、総空気量2.0m
3/分、負極活物質粒子の供給量1kgトン/時の条件で行った。表6に示すように、回収した電池10の負極活物質粒子のBET比表面積は2.7m
2/g、D
10は5.4μm、D
50は7.2μm、D
90は10.0μmであり、粒度範囲は3.27〜18.5μmであった。回収した電池10の負極活物質粒子全体を100体積%としたときに、粒径4μm以上のものが99.3体積%であった。その他は、電池7のリチウムイオン二次電池と同様である。
【0264】
(電池11)
電池7の負極活物質粒子を用いて、電池11のリチウムイオン二次電池を作製した。電池11のリチウムイオン二次電池の非水電解液の有機溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、体積%でFEC/EC/EMC/DMC=4/26/30/40の配合比で混合して調製した。その他は、電池7のリチウムイオン二次電池と同様である。
【0265】
(電池12)
電池9の負極活物質粒子を用いて、電池12のリチウムイオン二次電池を作製した。電池12のリチウムイオン二次電池の非水電解液の有機溶媒は、電池11と同様に、体積%でFEC/EC/EMC/DMC=4/26/30/40の配合比で混合して調製した。その他は、電池7のリチウムイオン二次電池と同様である。
【0266】
(電池13)
電池10の負極活物質粒子を用いて、電池13のリチウムイオン二次電池を作製した。電池13のリチウムイオン二次電池の非水電解液の有機溶媒は、電池11と同様に、体積%でFEC/EC/EMC/DMC=4/26/30/40の配合比で混合して調製した。その他は、電池7のリチウムイオン二次電池と同様である。
【0268】
<充放電のサイクル評価試験>
電池7〜13のリチウムイオン二次電池について、充放電のサイクル試験を行った。試験条件は、電池1〜6と同様とした。
【0269】
図11に示すように、電池8、7、9、10の順に、サイクル特性が向上した。これは、負極活物質粒子のD
10及びD
50が大きくなるほど、また負極活物質粒子の比表面積が小さくなるほど、サイクル特性が向上したことを示している。
【0270】
非水電解液の有機溶媒にFECを添加した電池11は、FEC無添加の電池7〜10よりも著しくサイクル特性が向上した。これは、FECが、SEI被膜中のLiFの構成成分になり、安定で強固なSEI被膜が生成され、負極活物質が電解液に直接接触することが抑制され、電解液の分解が抑えられたためであると考えられる。
【0271】
電池11,12は、電池10に比べて格段にサイクル特性が向上した。これは、非水電解液にFECを添加していること、更に電池12では負極活物質粒子の全体が2μm以上であり、電池13では負極活物質粒子の全体を100体積%としたときに4μm以上のものが99.3体積%であって、比較的小さい微粒子を殆ど含んでいない。微粒子の負極活物質粒子は、表面に形成される被膜が厚くなりやすく、負極活物質粒子の体積変化により被膜表面部に亀裂が生じやすい。電池12、13で用いた負極活物質粒子では、このような微粒子を殆ど含んでいないため、SEI被膜が損傷する負極活物質粒子が極めて少なくなり、電解液の劣化を抑えることができる。また、負極活物質粒子の粒径が大きくなると、表面に形成されるSEI被膜の構造が粗くなり、Liイオンが円滑に通過することができる。このため、電池12、13のリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れていると考えられる。