【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「血中分子・遺伝子診断自動化システムの研究開発(血中がん遺伝子診断の検体処理自動化システム)」共同研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2004), 101, [29], p.10501-10504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に開示されたような検出装置を用いると、目的細胞110と非目的細胞120の全てが同一平面上、すなわち細胞の下端の位置が同一となるように展開されるため、
図7(a)の焦点位置Aにおける「焦点位置Aでのシグナル量」と「板状部材の端部からの距離」との関係を示したグラフ(
図7(b))から明らかなように、目的細胞110に合わせて焦点位置Aを設定しても、非目的細胞120のシグナル(
図7(a)の一点鎖線で示した領域のシグナル)も一緒に検出してしまう場合があった(
図7(b)では4箇所のシグナルを検出)。
【0009】
このような場合、検出された全てのシグナルを1箇所ずつ解析し、実際に目的細胞110のもので有るか、非目的細胞120のものであるかの判断が必要となる。この判断は例えばシグナルが検出された全ての箇所を撮像手段で撮像して、これを画像解析することで検出された細胞が目的細胞110で有るか否かの判断がなされる。
【0010】
このため、スキャニング速度が速くなっても、検出された細胞のシグナルに目的細胞110のものとは異なる非目的細胞120のものが多く含まれている場合があるため、結局、更なる画像解析が必要となり、目的細胞110で有るか否かの解析に多大な時間を要しているのが現状である。
【0011】
本発明はこのような現状に鑑みなされたものであって、検体細胞中の目的細胞を高速でしかも高精度に検出することのできる細胞検出方法および細胞検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前述したような従来技術における問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明の細胞検出方法は、
細胞懸濁液中に混在する種々の大きさの細胞を平面状に展開し、展開された細胞の中から目的細胞を検出する細胞検出方法であって、
前記細胞検出方法は、
細胞の粒径により細胞の下端の高さ位置が異なるように細胞を支持する凹凸部が設けられた板状部材に、前記細胞懸濁液を供給し、前記細胞懸濁液中の細胞を前記凹凸部に支持させて細胞を平面状に展開する工程と、
前記板状部材に平面状に展開された細胞に対して、あらかじめ設定された焦点位置で検出手段を用いてスキャニングすることにより、目的細胞を検出する工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の細胞検出システムは、
細胞懸濁液中に混在する種々の大きさの細胞を平面状に展開し、展開された細胞の中から目的細胞を検出する細胞検出システムであって、
前記細胞検出システムは、
細胞を平面状に展開させた際に、細胞の粒径により細胞の下端の高さ位置が異なるように細胞を支持するための凹凸部が上面に設けられた板状部材と、
前記板状部材の上面に前記細胞懸濁液を供給して前記細胞懸濁液中の細胞を前記凹凸部に支持させて平面状に展開された細胞に対して、あらかじめ設定された焦点位置でスキャニングして目的細胞を検出する検出手段と、
を有することを特徴とする。
【0014】
これにより、板状部材の凹凸部に細胞懸濁液を供給した際に、各細胞の粒径の違いに応じて細胞の下面の位置が変わるため、目的細胞と非目的細胞とを顕著に分別でき、目的細胞の粒径に応じた焦点位置で細胞をスキャニングすることで、高速でしかも高精度に目的細胞を検出することができる。
【0015】
また、本発明の細胞検出方法は、
前記目的細胞を検出する工程の後、
さらに前記板状部材に平面状に展開された細胞に対して、前記あらかじめ設定された焦点位置とは異なる焦点位置で再度スキャニングする工程を有することを特徴とする。
これにより、目的細胞の検出精度をより向上させることができ、また生死によって目的細胞の大きさが若干異なるとの特性から、目的細胞の生死をも判別することができる。
【0016】
また、本発明の細胞検出方法は、
前記目的細胞を検出する工程において、
前記あらかじめ設定された焦点位置は、前記凹凸部に支持される目的細胞の高さ位置に対応して前記検出手段で目的細胞を検出するための焦点位置であることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の細胞検出方法は、
前記目的細胞を検出する工程において、
前記あらかじめ設定された焦点位置は、目的細胞の粒径に対応して前記凹凸部に支持される目的細胞の位置する高さ範囲内のいずれかの位置であることを特徴とする。
【0018】
このように焦点位置を設定することで、目的細胞の検出を確実に行うことができる。なお、具体的な焦点位置については、目的細胞の検出部位,検出感度,非目的細胞の粒径などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0019】
また、本発明の細胞検出方法は、
目的細胞を蛍光分子で標識する工程をさらに有することを特徴とする。
これにより、細胞の粒径の違いを利用した目的細胞の検出に加え、さらに蛍光標識でも目的細胞を検出できるため、検出精度をさらに高めることができる。
【0020】
また、本発明の細胞検出方法は、
前記目的細胞を蛍光分子で標識する工程及び前記細胞を平面状に展開する工程の後、
前記板状部材に展開された細胞に対して、レーザー光を照射して前記蛍光分子を励起させ、励起された前記蛍光分子の蛍光を前記検出手段で検出する工程をさらに有することを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明の細胞検出システムは、
前記板状部材の前記凹凸部に支持させて平面状に展開された細胞に対して、レーザー光を照射する光源を有することを特徴とする。
【0022】
このように凹凸部に展開された細胞に対してレーザー光を照射することにより、蛍光標識された目的細胞に対して、特定波長のレーザー光で蛍光発光させ、その蛍光を検出することができるため、希少な目的細胞であっても高感度に検出できるとともに目的細胞の検出精度をさらに高めることができる。
【0023】
また、本発明の細胞検出方法は、
前記目的細胞を検出する工程の後、
検出された目的細胞を撮像手段で撮像する工程をさらに有することを特徴とする。
さらに、本発明の細胞検出システムは、
前記検出手段で検出された目的細胞を撮像する撮像手段を有することを特徴とする。
【0024】
このように目的細胞を撮像手段で撮像することにより、あらかじめ設定された焦点位置で検出された細胞が、真の目的細胞であるか、偽の目的細胞であるかを正確に解析することができ、さらに高精度に目的細胞を検出することができる。さらに、目的細胞の状態や大きさなどを詳細に調査することもできる。
【0025】
また、本発明の細胞検出方法は、
前記細胞を平面状に展開する工程の後、
前記凹凸部の上にカバー部材を配設する工程を有することを特徴とする。
【0026】
さらに、本発明の細胞検出システムは、
前記板状部材の前記凹凸部の上に、カバー部材が配設されていることを特徴とする。
また、本発明の細胞検出方法は、
前記細胞を平面状に展開する工程において、
前記凹凸部の上に、前記細胞懸濁液の液面を規制するためのカバー部材が配設されていることを特徴とする。
【0027】
このように凹凸部の上にカバー部材を設けることにより、凹凸部内に細胞を集め易くすることができる。さらに、カバー部材により細胞懸濁液の液面が一定の高さとなるため、表面張力によって凹レンズの働きをしてしまうことを防止することができ、また、液面の凸凹によって生ずるノイズも防止することができる。
さらに板状部材に細胞懸濁液を展開する際にカバー部材を配設している場合には、細胞の移動方向を規制でき、凹凸部内に細胞を秩序良く整列させることができる。
【0028】
また、本発明の細胞検出方法は、
前記細胞懸濁液が、生体試料であることを特徴とする。
さらに、本発明の細胞検出システムは、
前記細胞懸濁液が、生体試料であることを特徴とする。
【0029】
このように細胞懸濁液に生体試料を適用することにより、医療における細胞を対象とした検査、例えば血液中の癌細胞などのレア細胞を対象とした検査に用いるのに好適である。
【0030】
また、本発明の細胞検出システムは、
前記板状部材の前記凹凸部が、同じ溝幅,同じ溝深さの複数の溝から成ることを特徴とする。
【0031】
このように同じ溝幅,同じ溝深さとすることで、板状部材の底面から一定の同高さに目的細胞が並ぶことになるため、目的細胞を検出する焦点位置を容易に設定でき確実に目的細胞を検出することができる。
【0032】
また、本発明の細胞検出システムは、
前記複数の溝が、前記板状部材上に並設されていることを特徴とする。
このように溝を並設させることにより、溝の形成方向に合わせて細胞が並ぶことになるため、細胞の観察をし易くすることができるとともに、例えば溝の形成位置の上だけをスキャニングするようにして、スキャニングの範囲を少なくすることもできる。
【0033】
また、本発明の細胞検出システムは、
前記溝幅が1〜100μmの範囲内であるとともに、前記溝深さが1〜100μmの範囲内であることを特徴とする。
このような大きさとすることにより、大きな細胞から小さな細胞までを確実に検出することができる。
【0034】
また、本発明の細胞検出システムは、
前記溝が、断面V字状であることを特徴とする。
【0035】
このような形状とすることにより、細胞懸濁液中の複数の大きさの細胞を細胞の粒径に応じた高さ位置で溝内に支持させることができ、確実に平面状に細胞を展開することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、板状部材の凹凸部に細胞懸濁液を供給した際に、凹凸部によって細胞の粒径の違いに応じて細胞の下端の位置が変わることとなるため、従来よりも目的細胞と非目的細胞とを顕著に分別でき、高速でしかも高精度に目的細胞を検出することのできる細胞検出方法および細胞検出システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の細胞検出システムおよび細胞検出方法は、細胞懸濁液中に混在する種々の大きさの細胞(目的細胞+非目的細胞)を平面状に展開し、展開された細胞の中から目的細胞を高速でしかも高精度に検出するためのものである。
【0039】
以下、まずは本発明の細胞検出方法に用いられる細胞検出システム10の一実施形態について図面に基づいて説明する。
【0040】
<細胞検出システム10>
本実施形態の細胞検出システム10は、
図1に示したように、まず細胞懸濁液中の細胞(目的細胞60+非目的細胞62)を平面状に展開させるための板状部材20と、この板状部材20の上面に細胞懸濁液を供給して展開された細胞のうち、板状部材20の凹凸部24に支持される目的細胞60の高さ位置に対応してあらかじめ焦点位置Aを設定し、展開された細胞を、設定された焦点位置Aでスキャニングして目的細胞60を検出する検出手段40を備えている。
【0041】
焦点位置とは、検出手段40を含む板状部材20より検出手段40に至る受光系の焦点位置をいう。また、目的細胞60を検出するために細胞を照射する光源を用い、その照射光に収束ビームを用いる場合は、照射光の焦点位置と受光系の焦点位置とは一致する状態であることが好ましい。
【0042】
また検出手段40と板状部材20とは、相対的に縦横高さ方向(3軸方向)に移動できるような移動手段(図示せず)を備えている。
なお、細胞懸濁液としては特に限定されるものではなく、例えばヒトや動物などの生体試料、詳しくは血液,体液(腹水,唾液,汗,尿,糞,髄液,乳汁など),リンパ液,組織液などが挙げられる。
【0043】
また細胞懸濁液は、生体試料そのままでも良いし、生体試料をリン酸緩衝食塩水(PBS)で希釈して展開され易い粘度に調整したものであっても良いものである。
さらに、生体由来の生体試料に限定されず、試験や研究などのために人工的に細胞を懸濁させて調製した細胞の分散液であっても良い。
【0044】
また細胞懸濁液は、目的細胞(例えば、がん細胞)の他に、免疫細胞等の非目的細胞を含んでいてもよい。ここで免疫細胞とは、白血球、すなわち顆粒球,リンパ球,単球などの細胞をいう。例えば血液のように、がん細胞(目的細胞)の他に、白血球,赤血球,血小板等の細胞(非目的細胞)が分散されていても良い。
【0045】
なお、がん細胞は、悪性になると転移する性質を有し、その際には上述した血液等の体液に漏出する。血液に混入して生体内を循環できる状態になったがん細胞は、血液循環がん細胞(CTC)(または循環腫瘍細胞)と呼ばれている。したがって、細胞懸濁液は、血液循環がん細胞を含む血液であってもよく、この血液循環癌細胞を目的細胞としてもよい。
【0046】
さらに、特定のがん細胞(目的細胞)を予め蛍光標識しておいても良いものである。
また検出手段40の例としてはCCDカメラ,顕微鏡,PMT(光電子増倍管),フォトダイオードなどが挙げられる。
【0047】
さらに本実施形態の細胞検出システム10では、展開された細胞にある特定波長のレーザー光を、ダイクロイックミラー32を介して照射する光源30と、上記検出手段40によって検出された細胞を、ハーフミラー52を介して撮像する撮像手段50も備えている。
【0048】
なお、上記の光源30は、特定波長のレーザー光を出射するレーザー光源であることが好ましいが、レーザー光源に限らずLEDや白色ランプ等の各種ランプなどを用いても良い。レーザー光源は、いくつかの異なる波長のレーザー光を選択して照射できるものであることが好ましい。本実施形態の光源30には、レーザー光源を用いた。
【0049】
また、上記のダイクロイックミラー32は、特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するものであり、ハーフミラー52は、入射した光の半分を反射し、もう半分を透過するものである。
【0050】
さらに、図中の符号34,42,54は集光レンズ、符号46,58はピンホール部材、符号44,56はエミッションフィルターである。
本実施形態の細胞検出システム10では、最低限、板状部材20と検出手段40があれば目的細胞60を検出できるようになっている。
図1に示した本実施形態における細胞検出システム10では、板状部材20以外の構成について、基本的に既に公知の共焦点レーザー顕微鏡と同様の構成である。
【0051】
ところで、本実施形態の細胞検出システム10に用いられる板状部材20は、
図2に示したように、上面に溝状の凹凸部24が複数並設されている。
この凹凸部24は、
図3(a)に示したように、板状部材20の上面に細胞懸濁液を供給し、細胞(目的細胞60+非目的細胞62)を平面状に展開させた際に、細胞の下端の位置が細胞の粒径に対応して異なるように細胞を支持するよう構成されたものである。
【0052】
このような構成を有する板状部材20を用いることが、本発明の細胞検出システムの特徴的な部分である。
このような板状部材20は、凹凸部24を構成する各溝22の溝幅Tが1〜100μmの範囲内、溝深さHが1〜100μmの範囲内に設定されることが好ましい。
【0053】
溝22の寸法をこのような範囲内にすることにより、先に説明した細胞懸濁液中に混在する種々の大きさの細胞を各溝22内に確実に展開することができる。
また上記寸法の溝22は、溝幅Tと溝深さHとを同じ寸法とすることが好ましい。このように設定すれば、一度溝22内に入った細胞が別の溝22に移動し難くなるとともに、溝22内に入った細胞が、他の細胞を堰き止めてしまうようなことも抑制できる。
【0054】
このような板状部材20は、例えばアクリル板に公知の微細加工技術で凹凸部24を加工するなどにより形成しても良いが、市販のプリズムシートを代用することもできる。
通常、プリズムシートは、同じ大きさの溝が複数列状に並設されたものであり、本発明の凹凸部24が形成された板状部材20に好適である。
【0055】
なお、溝22の断面形状としては、
図3(a)に示したような断面三角状に限定されるものではなく、例えば
図4(a)に示したような断面半円状、
図4(b)に示したような断面矩形状、
図4(c)に示したような断面U字状などとすることができる。
【0056】
要は、目的細胞60と非目的細胞62の下端の高さ位置が一定ではなく、検出手段を一定の焦点位置でスキャニングした際にできる限り目的細胞のみを検出できるように、高さ位置が異なるよう目的細胞と非目的細胞とを支持することのできる形状であれば、如何なる形状でも構わないものである。
【0057】
さらに溝22の底面にスリット(図示せず)を設け、細胞懸濁液中の細胞以外の水分をスリット(図示せず)から排出できるようにしても良いものである。なおスリット(図示せず)を設ける場合には、細胞の展開時の流動性が損なわれない程度にスリットの大きさを設定し、水分の排出量を調整することが好ましい。
【0058】
また板状部材20は、大きさが特に限定されるものではないが、展開する細胞数を加味すると、A5(150mm×210mm)程度の大きさとすることが好ましい。
ここで板状部材20をA5(150mm×210mm)程度とした場合には、10ml程度の血液(細胞懸濁液)を、板状部材20の凹凸部24上に密に整列させることができる。なお細胞懸濁液中の細胞の量が多ければ、板状部材20をA5(150mm×210mm)以上の大きさとすることは当然である。
【0059】
さらにこの板状部材20は、
図5に示したように、凹凸部24を構成する溝22内に細胞懸濁液を供給した後、凹凸部24の上にカバー部材26を配設するか、または凹凸部24を構成する溝22上にカバー部材26を先に配設した状態で、凹凸部24内に細胞懸濁液を供給するようにすることが好ましい。
【0060】
このようにカバー部材26を備えれば、凹凸部24内に細胞を集め易くすることができる。さらに、カバー部材26により細胞懸濁液の液面が一定の高さとなるため、液面のメニスカスによる凹凸によって生じるノイズの発生を防止することができる。
【0061】
さらにカバー部材26により、細胞の移動が1軸方向へ制御されるようになるため、凹凸部24を構成する各溝22内に細胞を秩序良く整列させることができる。
なお、上記細胞検出システム10では、板状部材20の両側面に至るまで溝22が形成されているため、細胞懸濁液が溝22外に流れ出す可能性を有する構造である。これを防止するために別途両側面に壁(図示せず)を設け、細胞懸濁液が溝22の両端部から外に流れ出ないようにしても良いものである。
このような細胞検出システム10を用いた細胞検出方法について下記に説明する。
【0062】
<細胞検出方法>
まず始めに、
図2に示したような板状部材20を用意する。
次いでこの板状部材20の上面にシリンジなどの液供給手段(図示せず)を介して目的細胞60の含まれた細胞懸濁液を供給し、板状部材20の凹凸部24内に細胞懸濁液中の細胞を展開する。
【0063】
今度は、
図1に示したように、展開された細胞のうち、目的細胞60の高さ位置に対応する焦点位置Aに検出手段40を設定し、この検出手段40で、板状部材20の凹凸部24内に展開された細胞をスキャニングする。
【0064】
目的細胞60の焦点位置Aは、目的細胞60の頂(上端の高さ位置)から底(下端の高さ位置)までの範囲内のいずれかの位置であれば良いが、頂付近ではシグナル量が少なくなってしまい、逆に底付近では非目的細胞の粒径が目的細胞よりも小さい場合には非目的細胞も検出されてしまう可能性がある。このため、
図3(a)のように目的細胞60の中心付近に焦点位置Aを設定することが好ましい。
【0065】
ここで
図3(b)に示したように、目的細胞の中心付近に設定した焦点位置において得られた「焦点位置Aでの目的細胞60のシグナル量」と「板状部材20の端部からの距離」との関係をグラフ化すると、非目的細胞62の位置(板状部材の端部からの距離)に対応した箇所にノイズ成分が確認されることなく、目的細胞60の位置に対応する箇所に大きなシグナル量が確認できる。
【0066】
これは、板状部材20の凹凸部24によって、細胞懸濁液中の細胞が粒径の違いで顕著に高さ方向に分別されたからである。
さらに、
図3(b)に示したグラフにおける目的細胞60のシグナルの山の幅と位置は、目的細胞60の粒径および板状部材20の端部からの位置と一致していることが確認できる。
【0067】
従来のように、単に平板上に細胞を展開させた場合、細胞懸濁液中の細胞は、下端が一定の高さで展開されるため、細胞の粒径に違いがあっても、その差が出難い構造であった。したがって、目的細胞のシグナルのみを検出したくても、
図7(b)に示したグラフのように非目的細胞のシグナルも検出されてしまうこととなっていた。
【0068】
本発明では板状部材20の凹凸部24により、目的細胞60と非目的細胞62とが高さ方向に分別されるため、検出手段40によるスキャニングの際に、ほぼ目的細胞60のみがスキャニングされることとなる。
【0069】
したがって、あらかじめ設定された一定の焦点位置でスキャニングすることにより検出された細胞に対して、改めてその細胞が本当に目的細胞60で有るか否かを確認することが必ずしも必要ではなく、結果として目的細胞60の検出速度を速め、高精度に目的細胞60の検出を行うことができる。
【0070】
以上説明した細胞検出方法は、本発明に最低限必要な、細胞を平面状に展開する工程および目的細胞を検出する工程について説明したが、他に様々な工程を経ても良いものである。
【0071】
例えば、目的細胞60を検出する工程の後、さらに目的細胞60を検出するための高さ位置に対応する焦点距離であって、あらかじめ設定された焦点位置Aとは異なる焦点位置A'で、凹凸部24内に展開された細胞を再度スキャニングするようにしても良い。
【0072】
このようにすれば、目的細胞60の検出精度をより向上させることができる。また目的細胞60は死(ネクローシス)によって大きさが若干大きくなり、また死(アポトーシス)であれば通常の大きさよりも若干小さくなるとの特性を有するため、この特性から例えば目的細胞60として検出された位置からさらに上方に焦点位置Aを移動させて、通常では目的細胞60が検出され得ない位置で目的細胞60のシグナルを検出したら、その目的細胞60が死んでいる(特にネクローシスにより死んでいる)と判断することができる。
【0073】
なお、目的細胞60が蛍光分子で標識されたものである場合には、
図1に示した光源30から、目的細胞60を標識した蛍光分子を発光させる波長のレーザー光を照射し、焦点位置Aで目的細胞60から生ずる発光を検出手段40で検出するようにすれば良い。
【0074】
なお従来では、目的細胞60を蛍光標識する場合、非目的細胞62の一部が誤って蛍光標識してしまう現象、いわゆる非特異染色が生ずる場合があった。この場合には、非特異染色が生じた非目的細胞も目的細胞とともに検出されるため、再度、非特異染色を判断するための染色を新たに行う必要があった。
【0075】
しかし本発明の細胞検出方法では、仮に非目的細胞62の非特異染色が生じたとしても、非特異染色が生じた非目的細胞62と目的細胞60の位置が顕著に高さ方向に位置ずれしているため、目的細胞60の焦点位置Aにおいて、非特異染色が生じた非目的細胞62が検出されないようになっている。
【0076】
したがって不要な再染色を行う必要がなく、目的細胞60の検出に要する時間を従来よりも短縮することができる。
なお、念のため、目的細胞60を検出する工程の後、検出された目的細胞60を撮像手段50で撮像することで、画像による目的細胞60の確認をしても良いことは当然のことである。これにより非目的細胞62を誤って目的細胞60として検出する量を減少させた上で、そこで検出された目的細胞60に対して、更により確実な目的細胞60の確認を行うことができる。
【0077】
さらに、細胞を展開する工程の後、凹凸部24の上にカバー部材26を配設するか、または細胞を展開する工程の前において、板状部材20の凹凸部24の上に、カバー部材26を配設しても良い。
【0078】
このカバー部材26については、上記した細胞検出システムで説明したとおりであるが、このようにカバー部材26を備えれば、凹凸部24内に細胞を集め易くすることができる。さらに、カバー部材26により細胞懸濁液の液面が一定の高さとなるため、液面の凸凹によって生じていたノイズの発生を防止することができる。
【0079】
さらにカバー部材26により、カバー部材26を配設した状態で、細胞懸濁液を供給し細胞を展開させた場合には、細胞の移動方向が規制され、細胞の移動が1軸方向へ制御されるようになるため、凹凸部24内に細胞を秩序良く整列させることができる。
【0080】
このように、本発明の細胞検出方法を用いれば、細胞懸濁液中から目的細胞60を高精度でしかも高速で見つけ出すことができる。
すなわち、目的細胞60が例えば血液中のがん細胞などであった場合には、これを早くに精度良く見つけ出すことで早期に臨床学的診断ができ、結果的に適切な治療方針を導き、患者への身体的および精神的な負担が軽減されることにもつながる。
【0081】
以上、一実施形態を基に本発明の細胞検出方法および細胞検出システムについて説明したが、本発明は上記の形態および方法に限定されるものではないものである。
例えば上記実施形態では、目的細胞が非目的細胞よりも粒径が大きな場合を例に説明したが、逆に目的細胞が非目的細胞よりも小さな場合にも適応可能であり、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【実施例】
【0082】
[実施例1]
がん患者から採血された末梢血を用いた細胞懸濁液を用意し、末梢血中の種々の細胞の検出、特には血液循環がん細胞(CTC)の検出を行った。
【0083】
<細胞懸濁液>
細胞懸濁液は、末梢血そのものでも良いし、末梢血を適切な緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)等で希釈し凹凸部24上に展開され易くしたものでも良いが、ここでは末梢血をリン酸緩衝食塩水(PBS)で希釈した細胞懸濁液を用いた。
【0084】
また細胞懸濁液は、板状部材20の凹凸部24上に展開した後、光学検出にて細胞を同定するために、あらかじめ血液循環がん細胞(CTC)および白血球を蛍光標識した。
上記あらかじめ蛍光標識された細胞懸濁液の調整方法は以下の通りである。
【0085】
まず細胞懸濁液1mlに、パラホルムアルデヒド(和光純薬社製)を4%になるように加えて、緩やかに混和し、室温暗所にて15分間反応させた。ここに、リン酸緩衝食塩水(PBS)を充分量加えて混和し、遠心分離にて洗浄を行い、次に細胞膜透過処理用として0.1%Tweenを含むリン酸緩衝食塩水(PBS)を1ml、および血液循環がん細胞(CTC)標識用にAlexa Flour647で標識した抗CK抗体(Micromet社製)溶液10μlおよび白血球標識用にAlexa Flour488(インビトロジェン社製)で標識した抗CD45抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)溶液10μlを添加し、緩やかに混和しながら、室温暗所にて30分反応させ、最後の5分間、細胞核染色用にDAPI(同仁化学社製)溶液10μlを添加して反応させた。
この後、遠心分離により細胞に結合していない抗体試薬を除去し、新たにリン酸緩衝食塩水(PBS)を添加して再懸濁させ、これを本実施例で用いる細胞懸濁液とした。
【0086】
<細胞検出方法>
まず、
図6(a)に示したように、凹凸部24を構成する溝22が、溝幅T:20μm,溝深さH:20μmである板状部材20を用意し、この凹凸部24上に、用意した細胞懸濁液を展開した。
【0087】
ここで、溝幅Tと溝深さHを20μmとした理由としては、血液循環がん細胞(CTC)の粒径が20μm程度であり、血液循環がん細胞(CTC)を溝22の上部で捕獲するためである。
【0088】
このような寸法の溝22とすれば、細胞懸濁液中の血小板(直径2〜4μm程度),血液循環がん細胞(CTC)の残骸(数μm程度),一部の赤血球(直径7〜8μmで厚み2μm程度),小リンパ球(6〜9μm程度),大リンパ球(直径9〜15μm程度),顆粒球(直径10〜17μm程度)が、溝22の下方に落ちることとなる。
【0089】
次いで、溝22の上端から上方10μmの位置、すなわち血液循環がん細胞(CTC)の焦点位置Aに、血液循環がん細胞(CTC)標識用に標識したAlexa647を励起するHe−Neレーザー(波長633nm)を光源30から照射し、板状部材20の凹凸部24上に展開された全細胞のシグナルを検出手段40で検出して測定したところ、血液循環がん細胞(CTC)のシグナルのみが検出された。
このように、目的細胞(本実施例では血液循環がん細胞)を凹凸部24より突出して支持し得る溝22を備えた板状部材20を用いて、目的細胞以外の白血球等の他細胞が目的細胞よりも溝22の下方側に支持される細胞懸濁液を展開することが、目的細胞の高速且つ高精度検出に特に好ましい。
【0090】
[実施例2]
上記した実施例1の後、今度は
図6(b)に示したように、偽陽性(非特異染色)を確認するため、白血球(非目的細胞62)検出用に標識したAlexa488を励起するArレーザー(488nm)を光源30から照射し、検出手段40でシグナルを検出したところ、シグナルは全く検出されなかった。
【0091】
したがって、仮に白血球(非目的細胞62)に非特異染色が生じていたとしても、本細胞検出システム10を用いた細胞検出方法では、非特異染色が生じた白血球(非目的細胞62)のシグナルは検出されず、血液循環がん細胞(CTC)(目的細胞60)のシグナルのみを検出することができることが確認できた。
【0092】
[実施例3]
実施例1で用いたのと同じ板状部材20を用意し、この凹凸部24上に、用意した細胞懸濁液を展開した。
【0093】
図6(c)に示したように、溝22の上端の位置から2μmずつ、10umの距離に至る各焦点位置A〜EでHe−Neレーザー(波長633nm)を光源30から照射し、溝22上のシグナルを検出手段40で検出測定した。
【0094】
次いで、各焦点位置A〜Eでシグナルを検出した板状部材20の上面箇所を、同様に今度は撮像手段50で撮像した。
各焦点位置A〜Eのシグナルから得られた血液循環がん細胞(CTC)の粒径と、撮像手段50で撮像して得られた実際の血液循環がん細胞(CTC)の粒径とが、略同じであった。
【0095】
したがって、血液循環がん細胞(CTC)の粒径についても、本細胞検出システムおよび細胞検出方法で判別可能であることが確認できた。
このため、例えば血液循環がん細胞(CTC)は、死により細胞の粒径がネクローシスであれば通常の大きさよりも若干大きくなり、またアポトーシスであれば通常の大きさよりも若干小さくなるが、この大きさの違いについても検出が可能であり、血液循環がん細胞(CTC)の生死の判別も可能であると言える。
【0096】
この場合、通常の生きた血液循環がん細胞(CTC)の場合には、例えば焦点位置A〜Bまでしかシグナルが得られないはずのところ、焦点距離B以上(
図6(c)では焦点距離C〜D)でもシグナルを検出した場合、死んだ血液循環がん細胞(CTC)(この場合はネクローシスにより死んだ目的細胞60')があると判断ができる。
【0097】
[比較例1]
図7(a)に示したような従来型の上面が平面の板状部材100上に、実施例1〜3で用いたのと同じ細胞懸濁液を展開し、血液循環がん細胞(CTC)検出用に標識したAlexa647を励起するHe−Neレーザー(波長633nm)を光源より照射し、板状部材100上の全細胞のシグナルを検出手段で検出測定した。
【0098】
なお、このときの焦点位置Aは板状部材100の底面から10μmの位置とした。
得られたシグナルが血液循環がん細胞(CTC)のものであるか、偽陽性であるかを確認するため、白血球(非目的細胞)検出用に標識したAlexa488を励起するArレーザー(488nm)を光源より照射したところ、全体の20%でシグナルを検出した。
【0099】
したがって、比較例1の細胞検出方法では、血液循環がん細胞(CTC)以外のシグナルも一緒に検出されてしまうことが確認された。
【0100】
<結果>
実施例1〜3のように、凹凸部24を有する板状部材20を用いて細胞懸濁液の展開をした場合、大きさの異なる細胞を上下方向に分離することができ、したがって目的細胞である血液循環がん細胞(CTC)のシグナルのみを検出できることが確認された。
【0101】
さらに血液循環がん細胞(CTC)のシグナルのみを検出することができるため、シグナルを得た箇所で血液循環がん細胞(CTC)の撮像を行っても、偽陽性が略検出されず、血液循環がん細胞(CTC)を高速でしかも高精度に検出できることが確認された。
【0102】
また、本実施例では行っていないが、末梢血液中に存在する非血球細胞としては、循環血管内皮細胞(CEC)や循環内皮前駆細胞(CEP)などもあり、これらは一般に直径10〜15μm程度の大きさを有する。
【0103】
したがって、溝幅Tを10μm,溝深さHを10μmとした溝22を有する板状部材20を用いれば、循環血管内皮細胞(CEC)や循環内皮前駆細胞(CEP)などを高精度に検出可能と思われる。
【0104】
他にも同様にして末梢血中の胎児有核赤血球、末梢血,骨髄液,組織中の幹細胞などのレア細胞、また体液(腹水,唾液,汗,尿,糞,髄液,乳汁など)中に剥離した細胞の検出などにも利用され得ると考えられる。