【文献】
ITOH,Naoyuki et al.,Fabrication and Properties of BiFeO3-SrTiO3 Ceramics by Solid State Reaction,Transactions of the Materials Research Society of Japan,日本,日本MRS事務局,2007年 3月,Vol.32, No.1, pp.47-50
【文献】
ROUT,Dibyaranjan et al.,Dielectric and Raman scattering studies of phase transitions in the (100-x)Na0.5Bi0.5TiO3-xSrTiO3 system,Journal of Applied Physics,米国,AIP Publ.;Melville, N.Y.,2010年10月19日,Vol.108, pp.084102-1 to 084102-7,published online 19 October 2010
【文献】
RANJAN,Rajeev et al.,Degenerate rhombohedral and orthorhombic states in Ca-substituted Na0.5Bi0.5TiO3,Applied Physics Letters,米国,AIP Publ.;Melville, N.Y.,2009年 7月31日,Vol.95, pp.042904-1 to 042904-3,published online 31 July 2009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
単斜晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから選択される少なくとも2つの結晶構造を有する単位格子で構成されるペロブスカイト型磁器組成物であり、前記結晶構造は、Glazer法による対称性の表記xn1yn2zn3を用いた場合、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれることを特徴とする磁器組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようにMPB組成を活用して大きな誘電率を得られる磁器組成物は、近年の環境保護の観点から削減もしくは使用禁止が望まれている上述のような鉛を含んだ材料系でしか見られていない。さらに、非鉛系の材料においても菱面体晶と正方晶をただ単に組み合わせただけでは、必ずしも大きな誘電率や圧電定数が得られていない例が存在する。
【0007】
この原因をあきらかにするため、分極ベクトルの動きの観点から考察・実験を行った。非特許文献2に開示されているBi(FeCo)O
3材料では、その単位格子の正方晶から単斜晶への結晶構造変態は分極ベクトルの大きさが変化しないが、さらに、単斜晶から菱面体晶への結晶構造変態では分極ベクトルの回転する過程で分極ベクトルの大きさが変わり分極ベクトルの回転によるモーメントが正方晶から菱面体晶へ連続せず途切れてしまう。このため、この誘電体磁器組成物では、十分な高い比誘電率特性を発現することができないと考えられる。
【0008】
また、非特許文献3に開示されているBiFeO
3−SrTiO
3は、菱面体晶と分極ベクトルを持たない立方晶により構成されているため、分極ベクトルの回転によるモーメントが生じない構造となっている。
【0009】
さらに、特許文献1に開示されているBaTiO
3系材料は、通常電場を印可しても正方晶構造から他の結晶構造へは結晶構造変態しないため、分極ベクトルの回転によるモーメントを生じることはないと考えられる。
【0010】
特許文献2に開示されている常誘電体材料は、そもそも自発分極を持たないため、特定の分極ベクトルをもつことがない。このため、分極ベクトルの回転によるモーメントを生じることはないと考えられる。
【0011】
また、特許文献3の実施例で開示されているBi(CoCr)O
3材料も、BiCoO
3とBiCrO
3との結晶構造の単位の周期が異なるため、同様に分極ベクトルの回転が生じないと考えられる。
【0012】
このため本発明は、上記従来技術の実状に鑑みてなされたものであり、比誘電率が高い磁器組成物としての誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、分極ベクトルの回転をすることができる結晶構造について鋭意解析を進めた。その結果、結晶構造の結晶構造変態の際に分極ベクトルの大きさが変わらない結晶構造に、必要な規則性があることを見出し本発明に至った。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明による第1の磁器組成物では、単斜晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから選択される少なくとも2つの結晶構造を有する単位格子で構成されるペロブスカイト型磁器組成物であり、前記結晶構造は、Glazer法による対称性の表記x
n1y
n2z
n3を用いた場合、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれることを特徴とする磁器組成物とすることにより、大きな分極反転を実現することができ、結果として、大きな誘電率を得ることができる。
【0015】
本発明による第2の磁器組成物では、ひとつは正方晶がGlazer法による対称性の表記で、x=yかつ、x
0y
0z
−の単位格子で構成される磁器組成物であり、もうひとつは正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから選択される少なくとも2つの結晶構造を有する単位格子で構成される磁器組成物であり、前記単斜晶、前記正方晶、前記斜方晶、前記菱面体晶は、Glazer法による対称性の表記x
n1y
n2z
n3を用い、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも1つ選ばれたことを特徴とする磁器組成物である。上記条件を満たす範囲でこの材料を固溶させることによって、大きな分極反転を実現することができ、結果として、大きな誘電率を得ることができる。
【0016】
本発明による第3の磁器組成物では、ひとつは菱面体晶がGlazer法による対称性の表記で、x=y=zであり、x
−y
−z
−の単位格子で構成されていることを特徴とする磁器組成物であり、もうひとつは正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから選択される少なくとも2つの結晶構造を有する単位格子で構成される磁器組成物であり、前記単斜晶、前記正方晶、前記斜方晶、前記菱面体晶は、Glazer法による対称性の表記x
n1y
n2z
n3を用い、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも1つ選ばれたことを特徴とする磁器組成物である。上記条件を満たす範囲でこの材料を固溶させることによって、大きな分極反転を実現することができ、結果として、大きな誘電率を得ることができる。
【0017】
本発明による第4の磁器組成物では、単斜晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから選択される少なくとも2つの結晶構造を有する単位格子で構成される磁器組成物であり、前記単斜晶、前記正方晶、前記斜方晶、前記菱面体晶は、Glazer法による対称性の表記x
n1y
n2z
n3を用い、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれた磁器組成物を特徴とする。上記条件を満たす範囲でこの材料を固溶させることによって、大きな分極反転を実現することができ、結果として、大きな誘電率を得ることができる。
【0018】
本発明による第5の磁器組成物では、単斜晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから選択される少なくとも2つの結晶構造を有する単位格子で構成される磁器組成物であり、前記単斜晶、前記正方晶、前記斜方晶、前記菱面体晶は、Glazer法による対称性の表記x
n1y
n2z
n3を用い、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれ、かつ一般式ABZ
3で表され、AがBa、Bi、Ca、Na、Sr、Kのいずれかから少なくとも1つ選ばれ、BがNb、Ta、Ti、Zr、Fe、Hf、Sn、Co、Mnのいずれかから少なくとも1つ選ばれ、ZがOもしくはNから選ばれたことを特徴とする磁器組成物である。上記条件を満たす範囲でこの材料を固溶させることによって、大きな分極反転を実現することができ、結果として、大きな誘電率を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、比誘電率が高い新たな磁器組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一または同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0022】
本実施形態における磁器組成物とは、単斜晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから少なくとも2つ選ばれる単位格子を主構造とすることを特徴とする磁器組成物であり、前記単斜晶、前記正方晶、前記斜方晶、前記菱面体晶は、Glazer法による対称性の表記をした場合、x
n1y
n2z
n3で表され、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれることを特徴とする。Glazer法は、ペロブスカイト構造に存在する酸素原子で構成される八面体構造の傾斜方向の規則性に着目した分類方法であり、ペロブスカイト構造を23種類に分類することができる。
【0023】
ここでのx、y、zは、結晶構造のh軸、k軸、l軸において、酸素で構成される八面体が、それぞれの軸を中心に回転するようにずれ、このずれ量を八面体全体の傾斜量のx、y、zとして示す。この傾斜量は構成物質によって異なる任意の値である。ここではその傾斜量の大きさを示すために、a、b、cの記号で表記する。すなわち、h軸、k軸、l軸いずれの方位から見て(いずれの軸を中心として)も傾斜量が同じである場合はx、y、zは全てa、bまたはcのいずれか一つの記号で表記し、2種類の傾斜を持つ場合はaとb、aとcまたはbとcで表す。h軸、k軸、l軸全てで傾斜量が異なる場合はa、b、cで表記する。さらに、n1、n2、n3の0、+、−では、傾斜量のずれ方向(傾斜方向)を示し、0が傾きがない場合を示し、+、−は傾斜方向の位相差を示し、+は順位相、−は逆位相を示す。
【0024】
ここで単位格子は、物質の結晶構造の分類であるブラベー格子の7晶系14種類の分類および、さらに細かく分類する方法として空間群という方法で表わすことができる。そして、その空間群を用いた場合は、結晶構造を230種に分類することができる。そしてこの空間群の視点で分類すると、同じ正方晶ペロブスカイト構造であっても、様々な結晶構造に分類することができる。その分類の手段として、ペロブスカイト構造の規則性について詳細に分類することができるGlazer法を用いる。 Glazer法とは、非特許文献1に記載されているペロブスカイト型結晶構造の分類方法である。ここで、x、y、zは、結晶構造のh軸、k軸、l軸方向から見た八面体同士の傾きの角度を示し、n1、n2、n3は0、+、−の内から選ばれ、0は傾きがない場合を表し、+、−は傾き方向の位相差を示し、+の場合は順位相であり、−の場合は逆位相を示している。
【0025】
SrZrO
3とBaTiO
3の正方晶構造でGlazer法による具体的分類を例示する。SrZrO
3は、x=y=zでありその値をaとし、n1=0、n2=0、n3=−でありa
0a
0a
−と表記することができる。そして、BaTiO
3は、x=y=zでありその値をaとし、n1=n2=n3=0でありa
0a
0a
0として表記することができる。ここでx、y、zが全てaで表記されるのは、SrZrO
3の場合、八面体はl軸を中心とする回転ずれaのみを有しているため、八面体全体の傾斜量はaの1種類のみであることを示している。また、BaTiO
3の場合はいずれの軸を中心とした回転ずれも存在しないため八面体全体の傾斜量は1種類のみであるためaのみであることを示している。
【0026】
SrZrO
3の結晶構造は、Sr原子1とZr原子2と酸素原子3と6個の酸素原子3に囲まれる領域の八面体構造4から構成される。
図1は、SrZrO
3の結晶構造を、酸素原子3を修飾した1つの単位格子のl軸方向から見た模式図である。なお
図1では、Zr原子2(
図2)は酸素原子3に囲まれる八面体構造4の体心に位置するが、一つの単位格子に修飾した酸素原子3に隠れており、図示していない。さらに、l軸上Zr原子2と同じ位置にあるものは、重なり図示していない。また、Sr原子1も同様にl軸上同じ位置にあるものは重なり図示していない。一方、l軸を中心にZr原子2の周囲を修飾する酸素原子3は、l軸方向で酸素原子31,32,33を有している。このとき、酸素原子31と33はl軸方向に見たときに(
図1において奥行き方向で)重なっているため、酸素原子33は図示しない。同様に、八面体構造4についても、l軸方向に見たときに(
図1において奥行き方向で)の3つの八面体構造を有し、八面体構造41,42,43としてある。このとき、
図1において奥行き方向で八面体構造41と43は重なっているため、八面体構造43は図示しない。換言すると、八面体構造41と42はl軸を中心としてその周囲方向で回転しずれ傾斜量を有し、その傾斜方向においては逆位相の傾斜位置をとっている。
【0027】
図2は、SrZrO
3の結晶構造において、酸素原子3を修飾した1つの単位格子のk軸方向から見た模式図である。Zr原子2は酸素原子3により構成される八面体構造4の体心に位置する。
図2では、k軸上Zr原子と同じ位置にあるものは、重なり図示していない。一方、k軸方向において八面体構造4はk軸方向(
図2において奥行き方向で)に八面体構造41,42,43となっており、
図2では、
図2において奥行き方向で八面体構造41,42,43が重なっているため、八面体構造42,43は図示しない。また、Sr原子1も同様にk軸上(
図2において奥行き方向で)同じ位置にあるものは重なり図示していない。換言すると、八面体構造4はk軸を中心としてその周囲方向で回転しておらず、八面体の傾斜量に変化はなく、傾斜していないので傾斜方向の位相差もゼロである。
【0028】
図3は、SrZrO
3の結晶構造において、酸素原子3を修飾した1つの単位格子のh軸方向から見た模式図である。Zr原子2は酸素原子3により構成される八面体構造4の体心に位置する。
図3では、h軸上(
図3において奥行き方向)でZr原子2と同じ位置にあるものは、そのh軸上のほかのZr原子2の重なりは図示していない。一方、h軸方向(
図3において奥行き方向)において八面体構造4はh軸方向に八面体構造41,42,43となっており、
図3では、八面体構造41,42,43は重なっているため、八面体構造42,43は図示しない。また、Sr原子1も同様にh軸上同じ位置にあるものは重なり図示していない。換言すると、八面体構造4はh軸を中心としてその周囲方向で回転しておらず、八面体の傾斜量に変化はなく、傾斜していないので傾斜方向の位相差もゼロである。
【0029】
BaTiO
3の結晶構造は、Ba原子5とTi原子と酸素原子3と6個の酸素原子3に囲まれる領域の八面体構造4から構成される。
図4はBaTiO
3の結晶構造において、酸素原子3を修飾した1つの単位格子のl軸方向から見た模式図である。なお
図4では、Ti原子は酸素原子3に囲まれる八面体構造4内に位置するが、一つの単位格子に修飾した酸素原子3に隠れており、図示していない。さらに、l軸上(
図3において奥行き方向)にTi原子と同じ位置にあるものは重なり図示していない。また、Ba原子5も同様にl軸上同じ位置にあるものは重なり図示していない。一方、l軸方向(
図3において奥行き方向)においてTi原子の周囲を修飾する酸素原子3は、l軸方向で酸素原子31,32,33となっている。このとき、酸素原子31,32,33は奥行き方向で重なっているため、酸素原子32,33は図示しない。同様に八面体構造4についても、l軸方向にある3つの八面体構造を八面体構造41,42,43としてある。このとき、八面体構造41,42,43は奥行き方向で重なっているため、八面体構造42,43は図示しない。換言すると八面体構造4はl軸を中心としてその周囲方向で回転しておらず、八面体の傾斜量に変化はなく、傾斜していないので傾斜方向の位相差もゼロである。
【0030】
図5は、BaTiO
3の結晶構造において、酸素原子3を修飾した1つの単位格子のk軸方向から見た模式図である。Ti原子は酸素原子3により構成される八面体構造4内に位置するが、一つの単位格子に修飾した酸素原子3に
図5で奥行き方向に隠れており、図示しない。さらに、
図5では、k軸方向(
図5において奥行き方向)において八面体構造4はk軸方向で八面体構造41,42,43となっており、
図5では、八面体構造41,42,43は奥行き方向で重なっているため、八面体構造42,43は図示しない。また、Ba原子5も同様にk軸上(
図5において奥行き方向)に同じ位置にあるものは重なり図示していない。換言すると、八面体構造4はk軸を中心としてその周囲方向で回転しておらず、八面体の傾斜量に変化はなく、傾斜していないので傾斜方向の位相差もゼロである。
【0031】
図6は、BaTiO
3の結晶構造において、酸素原子3を修飾した1つの単位格子のh軸方向から見た模式図である。Ti原子は酸素原子3により構成される八面体構造4内に位置するが、一つの単位格子に修飾した酸素原子3に
図6で奥行き方向に隠れており、図示しない。さらに、
図6では、h軸方向(
図6において奥行き方向)において八面体構造4はh軸方向で八面体構造41,42,43となっており、
図6では、八面体構造41,42,43は奥行き方向で重なっているため、八面体構造4として図示し、八面体構造42,43は図示しない。また、Ba原子5も同様にh軸上(
図6において奥行き方向)同じ位置にあるものは重なり図示していない。換言すると、八面体構造4はh軸を中心としてその周囲方向で回転しておらず、八面体の傾斜量に変化はなく、傾斜していないので傾斜方向の位相差もゼロである。
【0032】
SrZrO
3の結晶構造の規則性を表すGlazer法による分類a
0a
0a
−はl軸方向のみ逆位相を示す−の構造を有し、
図1、
図2及び
図3に示すとおりl軸方向から見た場合のみ八面体構造41と八面体構造42が交互に逆位相で傾斜しており、図面で奥行き方向に隣接する八面体構造4がそれぞれ見える構造となっているが、h軸およびk軸方向から見ると図面で奥行き方向に隣接するそれぞれの八面体構造4が見えず八面体構造4は傾斜していない。
【0033】
一方、BaTiO
3の結晶構造の規則性を表すGlazer法による分類a
0a
0a
0は結晶構造のh、k、l軸方向のいずれにおいても八面体構造4の傾斜方向を示す表記が0であり、
図4、
図5及び
図6に示すとおり、八面体構造4に傾きがなくh軸、k軸、l軸いずれの方向から見ても図面においての奥行き方向の八面体構造4が重なっている。つまり、BaTiO
3とSrZrO
3の正方晶構造は、SrZrO
3は単位格子中に八面体構造の傾斜を含めた周期構造を持っており、BaTiO
3は単位格子中に八面体構造の傾斜による周期構造を持たないことから異なる結晶構造であることがわかる。
【0034】
また、SrZrO
3およびBaTiO
3以外の物質で、例えば、h軸を中心とする順位相の回転ずれとk軸を中心とする逆位相の回転ずれが存在し、l軸を中心とする回転ずれがない場合は、a
+b
−b
0のように表記できる。
【0035】
これらの単位格子の同定はX線回折や中性子回折データのリートベルト解析および透過型電子顕微鏡(TEM)による電子回折などにより空間群および原子座標を同定することができる。さらに、この空間群および原子座標からGlazer法によってペロブスカイト型結晶構造を分類することができる。
【0036】
結晶構造の周期性は分極ベクトルの大きさに影響する因子であり、分極ベクトルの大きさは分極ベクトルの回転に影響する。すなわち、非特許文献2に記載の菱面体晶のBiFeO
3と正方晶のBiCoO
3の組み合わせであるBi(FeCo)O
3は、Glazer法による分類で表記すると、BiFeO
3がGlazer法による分類a
−a
−a
−、であるのに対して、BiCoO
3がGlazer法による分類a
0a
0a
0であり、2つの結晶構造における八面体構造の傾斜方向の組み合わせが異なる。このためこれらの2つの結晶構造の繰返し単位の周期が異なり、分極ベクトルの長さが異なった構造となる。したがって、分極ベクトルが回転する過程で、結晶構造が変化するためには分極ベクトルの大きさも変化しなければならないため、分極ベクトルの回転が生じない。
【0037】
本発明のGlazer法を用いて選ばれる物質として、そのGlazer法による分類は、例えば、菱面体晶であればa
−a
−a
−のBiFeO
3,(BiNa)TiO
3などが、正方晶であればa
0a
0a
−のSrTiO
3,(CaSr)TiO
3やa
0a
0c
+の(Na,Sr)NbO
3やa
0b
+b
+、a
0a
0c
+などがあり、斜方晶であればa
+a
−a
−のCaTiO
3やa
+b
+c
−、a
+a
+c
−、a
+b
+b
−、a
+a
+a
−、a
+b
−b
−、a
0b
+c
+、a
0b
+c
−、a
0b
+b
−、a
0b
−b
−、a
+b
+c
+、a
+b
+b
+が挙げられる。そして、単斜晶は、菱面体晶、正方晶、斜方晶の固溶体によって生成することが出来る。
【0038】
さらに、これらの結晶構造は、立方晶と非常に似た結晶構造であるため、擬立方晶と呼称されることもあるが、正確な結晶構造の同定にはX線回折のリートベルト解析やTEMなどによる格子定数や原子位置の温度依存性解析などにより解析することが出来る。
【0039】
さらに、分極ベクトルを、結晶構造が電場を印加したときに、正方晶から単斜晶を経て菱面体晶へ変態する現象を、それぞれの結晶構造の繰返し単位の周期を用いて説明する。
【0040】
図7では、正方晶から単斜晶を経て菱面体晶への結晶構造変態の際に、それぞれの結晶構造の繰返し単位の周期が変化しない2つの周期の単位の結晶構造で、電場を印加したときの分極ベクトルの回転を模式的に示す。正方晶7は、2つの結晶構造の繰返し単位の周期(
図7参照)をもち、その2つの正方晶7に渡る[001]方向の分極ベクトル61を有する。そして、電場を印加することによって正方晶7が、2つの結晶構造の繰返し単位の周期を維持したまま単斜晶10に変態する。このとき結晶構造の繰返し単位の周期が維持されているので、2つの結晶構造に渡る分極ベクトル61も大きさをわずかに変えるだけで、分極ベクトル回転経路11を通って、[111]方向の分極ベクトル62となることができる。さらに、電場を印加することによって単斜晶10は、2つの結晶構造の繰返し単位の周期性を維持したまま菱面体晶9に変態する。このときも2つの結晶構造の繰返し単位の周期が維持されるので、[111]方向の分極ベクトル62は、2つの結晶構造に渡る[111]方向の分極ベクトル63として大きさを変えない。
【0041】
つまり、電場を印可したときに[001]方向の分極ベクトル61が分極ベクトルの回転経路11を通り[111]方向の分極ベクトル63へ回転することができるのは、結晶構造の繰返し単位の周期が電場の印加による結晶構造の変態で変わらず維持することが必要である。本発明のGlazer法を用いて選ばれる物質は、2つの結晶構造の繰返し単位を有し、結晶構造の繰返し単位の周期が電場の印加による結晶構造の変態で変わらずその周期性を維持することができる。
【0042】
以上のように、単斜晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶のうちから少なくとも2つ選ばれる単位格子を主構造とすることを特徴とする磁器組成物であり、前記単斜晶、前記正方晶、前記斜方晶、前記菱面体晶は、Glazer法による対称性の表記をした場合、x
n1y
n2z
n3で表され、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つから選ばれる、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれる物質からなる固溶体であれば、結晶構造変態の過程で分極ベクトルの大きさが変わらず、分極ベクトルの回転ができるようになる。このため、分極ベクトルの回転を起因とする比誘電率の高い磁器組成物を得ることが出来る。
【実施例】
【0043】
本発明の内容を実施例と比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1−1〜1−2、比較例1−1〜1−6)
結晶構造の繰返し単位の周期が同じであり、かつ結晶構造が単斜晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶の内から選ばれ、結晶構造が異なる二つの物質として、結晶構造が菱面体晶で、Glazer法でa
−a
−a
−を有するBiFeO
3と室温付近の結晶構造は立方晶であるが、約−160℃以下の低温域では正方晶で、Glazer法ではa
0a
0a
−を有するSrTiO
3をセラミック原料として選んだ。
【0045】
BiFeO
3とSrTiO
3の固溶体である一般式(Bi
1−xSr
x)(Fe
1−xTi
x)O
3で表される誘電体磁器組成物を得るためにセラミック原料として、Bi
2O
3(平均粒径:約200−500nm)、Fe
2O
3(平均粒径:約500nm)、SrCO
3(平均粒径:約200−500nm)、TiO
2(平均粒径:約100nm)を一般式(Bi
1−xSr
x)(Fe
1−xTi
x)O
3で表した場合、x=0、0.3、0.4、0.5、1になるように秤量し、ボールミルで混合し、混合した原料スラリーを130℃で乾燥した後、バインダーであるポリビニルアルコール溶液と混練し、直径12mm、厚さ0.5mmの円板状に加圧成型した。
【0046】
加圧成型した円板状試料を大気中、260℃に加熱し脱バインダー処理を行った後、大気中200℃/時間で昇温し、1000℃、1100℃、1200℃、1400℃でそれぞれ2時間保持、反応焼結し、測定試料を得た。
【0047】
得られた円板試料に対し、電極としてIn−Ga共晶合金を塗布した後、デジタルLCRメータ(ヒューレットパッカード社製 HP4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で、静電容量Cおよび誘電損失tanδを測定した。そして、得られた静電容量、円板試料の厚み、電極面積から、比誘電率(単位なし)を算出した。
【0048】
得られた円板試料に対し、単位格子の同定を、X線回折装置(リガク製SmartLabX線回折装置)とTEM(日本電子製透過型電子顕微鏡 JSF−2100F)による電子回折により空間群および原子座標を同定した。そして、この空間群および原子座標からGlazer法によってペロブスカイト型結晶構造を分類し、その結晶構造の測定結果を表1に合わせ示す。
【0049】
表1から、実施例1においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と菱面体晶(a
−a
−a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。さらに、実施例2においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と正方晶(a
0a
0a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。実施例1と2は、比誘電率も500以上の高い値が得ることができた。
【0050】
一方比較例1は、結晶構造が菱面体晶のみであった。そして、比較例2は立方晶のみであった。これらは、比誘電率が低く十分ではなかった。また、比較例3、4は焼成温度が高く、焼結できず(未焼結)のため比誘電率が測定できなかった。比較例5、6は焼成温度が高く、試料の一部が溶解した。さらに絶縁抵抗が低く比誘電率が測定できず単位格子も立方晶のみであった。
【0051】
【表1】
【0052】
このように単位格子が単斜晶と正方晶あるいは単斜晶と菱面体晶であり、かつGlazer法による対称性の表記をした場合、x
n1y
n2z
n3で表され、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つ、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれる結晶構造を有することにより比誘電率を向上させることができた。
【0053】
逆にこのような組み合わせを取らなかった場合、例えばBiFeO
3とBiCoO
3のような組み合わせを選んだ場合、分極回転ベクトルの回転は発生しない。
図8は、正方晶から単斜晶を経て菱面体晶へ変態する際に、それぞれの結晶構造の繰返し単位の周期が変化する結晶構造で、電場を印加したときの分極ベクトルの周期性を有する単斜晶13に変態する。このとき結晶構造の繰返し単位の周期が変わるので、1つの結晶構造の分極ベクトル71は、2つの結晶構造に渡る[111]方向の分極ベクトル72となる必要が生じる。結晶構造の繰返し単位が変化するため、分極ベクトル71から分極ベクトル72への回転経路がなく、分極ベクトルが回転をすることができない。
【0054】
図9は、正方晶から単斜晶を経て菱面体晶へ変態する際に、それぞれの結晶構造の繰返し単位の周期が変化する結晶構造で、電場を印加したときの分極ベクトルの回転を模式的に示す。正方晶14は、2つの結晶構造の繰返し単位の周期をもち、その2つの正方晶14に渡る[001]方向の分極ベクトル81を有する。そして、電場を印加することによって正方晶14が、2つの結晶構造の繰返し単位の周期を維持したまま単斜晶15に変態する。しかし、単斜晶15にとどまらずさらに、1つの結晶構造の繰返し単位の周期しかもたない菱面体晶16に変態する。このため、分極ベクトルの回転は、2つの結晶構造に渡る[001]方向の分極ベクトル81から、1つの結晶構造に分断され[111]方向の分極ベクトル82となる必要が生じる。しかし、結晶構造の周期が変わるため、分極ベクトル81から分極ベクトル82への回転経路が連続せず経路が形成でき
ない。このため、電場の印加による分極ベクトルは回転することができない。
【0055】
(実施例2−1〜2−3、比較例2−1〜2−2)
実施例2として、結晶構造が菱面体晶で、Glazer法でa
−a
−a
−を有する(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3と室温付近の結晶構造は立方晶であるが、約−160℃以下の低温域では正方晶で、Glazer法ではa
0a
0a
−を有するSrTiO
3をセラミック原料として選び、(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3とSrTiO
3の固溶体である一般式 ((Bi
0.5Na
0.5)
xSr
(1−x))TiO3で表される誘電体磁器組成物を作製した。
【0056】
試料作製方法、および電気特性評価方法、および結晶構造の同定について、実施例1と同様の方法で行った。
【0057】
【表2】
【0058】
表2から、実施例2−1においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と正方晶(a
0a
0a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。さらに、実施例2−2、2−3においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と菱面体晶(a
−a
−a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。実施例2−1〜2−3は、比誘電率も2000以上の高い値が得ることができた。
【0059】
一方比較例2−1は、結晶構造が立方晶のみであった。そして、比較例2−2は菱面体晶のみであった。これらは、比誘電率が低く十分ではなかった。
【0060】
(実施例3−1〜3−2、比較例3−1〜3−2)
実施例3として、結晶構造が菱面体晶で、Glazer法でa
−a
−a
−を有する(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3と、結晶構造が正方晶で、Glazer法ではa
0a
0a
−を有する(Ca
0.35Sr
0.65)TiO
3をセラミック原料として選び、(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3と(Ca
0.35Sr
0.65)TiO
3の固溶体である一般式 ((Bi
0.5Na
0.5)
x(Ca
0.35Sr
0.65)
(1−x))TiO3で表される誘電体磁器組成物を作製した。
【0061】
試料作製方法、および電気特性評価方法、および結晶構造の同定について、実施例1と同様の方法で行った。
【0062】
【表3】
【0063】
表3から、実施例3−1においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と正方晶(a
0a
0a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。さらに、実施例3−2においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と菱面体晶(a
−a
−a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。実施例3−1、3−2は、比誘電率も900以上の高い値が得ることができた。
【0064】
一方比較例3−1は、結晶構造が正方晶のみであった。そして、比較例3−2は菱面体晶のみであった。これらは、比誘電率が低く十分ではなかった。
【0065】
(実施例4−1〜4−2、比較例4−1〜4−2)
実施例4として、結晶構造が菱面体晶で、Glazer法でa
−a
−a
−を有する(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3と、結晶構造が斜方晶で、Glazer法ではa
+a
−a
−を有するCaTiO
3をセラミック原料として選び、(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3とCaTiO
3の固溶体である一般式 (Ca
x(Bi
0.5Na
0.5)
(1−x))TiO3で表される誘電体磁器組成物を作製した。
【0066】
試料作製方法、および電気特性評価方法、および結晶構造の同定について、実施例1と同様の方法で行った。
【0067】
【表4】
【0068】
表4から、実施例4−1においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と菱面体晶(a
−a
−a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。さらに、実施例4−2においてペロブスカイト型結晶構造であり、かつ単位格子が単斜晶(a
−b
−b
−)と斜方晶(a
+a
−a
−)の混晶状態が得られていることが確認された。実施例4−1、4−2は、比誘電率も500以上の高い値が得ることができた。
【0069】
一方比較例4−1は、結晶構造が菱面体晶のみであった。そして、比較例4−2は斜方晶のみであった。これらは、比誘電率が低く十分ではなかった。
【0070】
このように単位格子が単斜晶と斜方晶あるいは単斜晶と菱面体晶であり、かつGlazer法による対称性の表記をした場合、x
n1y
n2z
n3で表され、n1、n2、n3は+と−のうち少なくとも1つ、または0、+、−の中から少なくとも2つ選ばれる結晶構造を有することにより比誘電率を向上させることができた。