特許第5943152号(P5943152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943152
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20160616BHJP
   B60C 5/00 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
   B60C19/00 G
   B60C19/00 B
   !B60C5/00 F
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-528770(P2015-528770)
(86)(22)【出願日】2014年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2014082563
(87)【国際公開番号】WO2015087879
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-257640(P2013-257640)
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隼人
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−326536(JP,A)
【文献】 特開2012−025318(JP,A)
【文献】 特開2007−301165(JP,A)
【文献】 特開昭53−125146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内面に、2つの部材A、Bに分離することができてさらにそれら部材A、Bどうしを係合させることができる一対の機械的留め具のうちの一方の部材であってかつタイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aを1つ以上有し、該機械的留め具部材A、Bは、前記係合をロックさせるロック機構を有し、前記一対の機械的留め具部材のうち、タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aは、外径の小さな突出柱と平板状基部を有するベース部と、該突出柱の径よりも大きな内径の挿入孔を有する被せ部からなり、前記ベース部と前記被せ部はタイヤ部材を挟んで相互に固定されて前記機械的留め具部材Aを構成し、前記外径の小さな突出柱が、筒状の柱状を呈しており、該筒状の柱状は中心の孔が貫通しておらず、前記平板状基部は、円形の平板状を呈していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aと対になる機械的留め具部材Bは、前記タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aと係合する際に、該機械的留め具部材Aが機械的留め具部材Bと接触して該機械的留め具部材Bを押圧することにより、該機械的留め具部材Bから、前記機械的留め具部材Aの側面に設けられた溝部と嵌合する爪部が突出することにより、機械的留め具部材A、Bどうしが嵌合するように構成されて、前記ロック機構を構成していることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベース部と前記被せ部が、タイヤ部材である補強部材を挟んで、相互に固定されて、前記機械的留め具部材Aを構成していることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記補強部材が、ゴム引き補強繊維層を含んでなることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が、前記機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度よりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が0.5〜100N/mm2であり、前記機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度が0.2〜50N/mm2 であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が1.0〜80N/mm2 であり、前記機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度が0.5〜30N/mm2 であることを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【0002】
更に詳しくは、空気入りタイヤの内面に、特定の物体を取り付けるための一対の機械的留め具部材のうちの一方を設け、その他方を該特定の機能を有する物体側に設け、それら一対の機械的留め具部材を係合させることにより、空気入りタイヤの内面に特定の機能を有する物体を配設するように構成した空気入りタイヤにおいて、特に、それら係合された一対の機械的留め具材の係合が簡単には解除されることがなく、該特定の機能を有する物体を、タイヤ内面に安定してかつ強固に保持することができる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
近年、空気入りタイヤの内周面などに、さまざまな機能を有する物体を配設することが種々検討されてきている。
【0004】
たとえば、生タイヤのインナーライナー等に、フック・アンド・ループ方式による留め具あるいはフック・アンド・フック方式による留め具などの、所謂、面ファスナーを用いてタイヤタグ(高周波識別タグ)あるいはチップ等を取付けるという取付け方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に、面ファスナーを加硫接着し、そのタイヤ内表面に該面ファスナーを介して吸音材を取付けたという空気入りタイヤが提案されている(特許文献2)。
【0006】
これら特許文献1、同2に提案されている面ファスナーを利用したものは、取付けている時において比較的強い係合力を実現し、また、取付け作業の際にも、多少の位置的なズレなどを問題にせず面状での係合を実現できる点で好ましいものである。
【0007】
しかし、面ファスナーの場合、空気入りタイヤの内周面が湾曲した環状の曲面であることなどにより、面ファスナーの個々の係合素子の係合状態が理想的なものとならずに、面ファスナーの端部や中央部などでその一部が浮いてしまい、得られる係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき、タイヤ間でのばらつき)を生じることがあった。このため、期待どおりの係合力が得られないことがあった。
【0008】
また、タイヤとしての走行使用を開始した後、温度が比較的高めの状況のもとで、高速での転動によるタイヤ全体の変形と圧縮が長時間繰り返されることにより、部分的な物理的劣化の発生と、それが進行していくことによる面ファスナー全体の係合力の経時的な劣化・低下が生じる。そのため、所望おりの係合力を長期間にわたって維持することが難しい場合があった。
【0009】
さらに、面ファスナーは、取付けにあたり、多少の位置的なズレなどを問題にせず面状での係合を実現できる点で好ましいとも言える。しかし、一方で、取り付けられる機能性物体が測定機器の場合などでは、取り付け位置はより正確で精度が良いことが要請され、その点では面ファスナーで取り付けることに向かない機能性物体もある。
【0010】
一方、本発明者らは、先に、得られる係合力が大きく、かつその大きさにばらつき(タイヤ内での位置的なばらつき、タイヤ間でのばらつき)が生じることがほとんどなく、さらに比較的高温下かつ高速でのタイヤ転動に伴う変形と圧縮が長時間繰り返される過酷な使用条件によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少なく、長期にわたって所望の係合力を維持できる空気入りタイヤとして、いわゆるホックあるいはスナップと呼ばれる機械的留め具をタイヤ内面に接合して、該機械的留め具を介して、所望する機能を有する各種の物体を取り付けることを提案した(特許文献3、同4、同5など)。
【0011】
具体的には、代表的には特許文献3の特許請求の範囲に記載されるように、タイヤ内面に、ホックあるいはスナップなどの2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具を有する空気入りタイヤを提案したものであり(特許文献3の特許請求の範囲(請求項1))、更に具体的には、該一方の留め具が、少なくとも2つの構成部品からなるものであり、それら2つの構成部品がタイヤ部材またはタイヤ補強材を挟んで固定されて該一方の留め具を構成している空気入りタイヤを提案した(特許文献3の特許請求の範囲(請求項2))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本国特表2005−517581号公報
【特許文献2】日本国特開2006−44503号公報
【特許文献3】日本国特開2012−25318号公報
【特許文献4】日本国特開2012−25319号公報
【特許文献5】日本国特開2012−240465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献3〜同5に記載されたホックあるいはスナップと呼ばれる機械的留め具をタイヤ内面に接合して所望する物体を取り付ける方式によれば、機械的留め具を介してタイヤ内面に物体を係合させて取付けることができ、一般に、得られる係合力が大きく、かつその係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき、タイヤ間でのばらつき)が生じることがない。そして、さらに、所定の位置に精度良く取り付けることができ、かつ長時間繰り返される過酷な使用条件によってその係合力に経時的な劣化や低下が生ずることがほとんど少なく、長期にわたり所望の係合力を維持できるという優れた空気入りタイヤが実現された。
【0014】
特に、タイヤ内面に取り付けられる一方の機械的留め具が、少なくとも2つの部品からなるものであり、それら2つの部品がタイヤ部材またはタイヤ補強材を挟んで固定されて該一方の留め具を構成しているものを用いれば、その固定がさらに強固であり耐久性も良く、さらに優れたものであった。
【0015】
しかし、該方式によるものでも、取り付けられる物体が、大きな物体や重い物体である場合、さらに走行する路面の状態によって、該機械的留め具どうしの係合が解除されてしまい、特定の機能を有する物体側が保持状態から脱落してしまう場合があった。特に、比較的大きなサイズでかつ重い特定の機能性物体を一対の機械的留め具部材どうしの係合により取り付ける場合には、タイヤの高速回転移動につれて、それらの係合が解除されやすくなり、いったん解除がされると、変形などにより機械的な係合力が低下する場合もあり、再び係合させたとしても、大きな係合力が十分には得られない場合も考えられる。
【0016】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、空気入りタイヤの内面に、特定の機能を有する物体を取り付けるための一対の機械的留め具部材のうちの一方を設け、その他方を前記特定の機能を有する物体側に設け、それら一対の機械的留め具部材を係合させることにより、空気入りタイヤの内面に特定の機能を有する物体を配設するように構成した空気入りタイヤにおいて、特に、それら係合された一対の機械的留め具部材の係合が簡単に解除されることがなく、該特定の機能を有する物体をタイヤ内面に安定して、かつ強固に保持することができるようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、下記(1)の構成を有する。
(1)タイヤ内面に、2つの部材A、Bに分離することができてさらにそれら部材A、Bどうしを係合させることができる一対の機械的留め具のうちの一方の部材であってかつタイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aを1つ以上有し、該機械的留め具部材A、Bは、前記係合をロックさせるロック機構を有し、前記一対の機械的留め具部材のうち、タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aは、外径の小さな突出柱と平板状基部を有するベース部と、該突出柱の径よりも大きな内径の挿入孔を有する被せ部からなり、前記ベース部と前記被せ部はタイヤ部材を挟んで相互に固定されて前記機械的留め具部材Aを構成し、前記外径の小さな突出柱が、筒状の柱状を呈しており、該筒状の柱状は中心の孔が貫通しておらず、前記平板状基部は、円形の平板状を呈していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【0018】
また、かかる本発明の空気入りタイヤにおいて、以下の(2)〜(7)のいずれかの構成を有することが好ましい。
(2)前記タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aと対になる機械的留め具部材Bは、前記タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aと係合する際に、該機械的留め具部材Aが機械的留め具部材Bと接触して該機械的留め具部材Bを押圧することにより、該機械的留め具部材Bから、前記機械的留め具部材Aの側面に設けられた溝部と嵌合する爪部が突出することにより、機械的留め具部材A、Bどうしが嵌合するように構成されて、前記ロック機構を構成していることを特徴とする上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(3)前記ベース部と前記被せ部が、タイヤ部材である補強部材を挟んで、相互に固定されて、前記機械的留め具部材Aを構成していることを特徴とする上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(4)前記補強部材が、ゴム引き補強繊維層を含んでなることを特徴とする上記(3)に記載の空気入りタイヤ。
(5)前記機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が、前記機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度よりも大きいことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(6)前記機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が0.5〜100N/mm2であり、前記機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度が0.2〜50N/mm2であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(7)前記機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が1.0〜80N/mm2であり、前記機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度が0.5〜30N/mm2 であることを特徴とする上記(6)に記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0019】
請求項1にかかる本発明の空気入りタイヤによれば、空気入りタイヤの内面に、特定の機能を有する物体を取り付けるための一対の機械的留め具部材のうちの一方を設け、その一対となる機械的留め具部材の他方を前記特定の機能を有する物体側に設け、それら一対の機械的留め具部材を係合させることにより、空気入りタイヤの内面に特定の機能を有する物体を配設するように構成した空気入りタイヤにおいて、特に、それら係合された一対の機械的留め具部材の係合が簡単に解除されることがなく、該特定の機能を有する物体をタイヤ内面に安定してかつ強固に保持することができるようになる。
【0020】
請求項2または請求項3のいずれかにかかる本発明の空気入りタイヤによれば、上記した請求項1にかかる本発明の空気入りタイヤにより得られる効果を、より確実に発揮することができて、特に、一対の機械的留め具部材どうしの係合が解除することを確実に抑制できて、そのことにより取り付けた物体が落下するなどのことが少なく、該物体が有する機能を安定して長期間にわたり発揮させることができる。
【0021】
請求項のいずれかにかかる本発明の空気入りタイヤによれば、上記した請求項1にかかる本発明の空気入りタイヤにより得られる効果、さらに上記した請求項2または請求項3のいずれかにかかる本発明の効果を有する他に、特に、機械的留め具部材Aがより強固にタイヤ内面に固定されていて、そのことにより、取り付けた物体が落下するなどのことが非常に少なく、該物体が有する機能を安定して長期間にわたり発揮させることができる空気入りタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示した一部破砕断面斜視図であり、タイヤ内面に設けられた機械的留め具部材周辺を示した特に示したものである。
図2図2は本発明の空気入りタイヤで使用できる2つの部材A、Bに分離することができて、さらにそれら部材A、Bどうしを係合させることができる一対の機械的留め具の構造例を示したもので、分解図で示したものである。
図3図3は本発明の空気入りタイヤで使用できる機械的留め具部材Aの構造例を示したもので、分解図で示したものであり、図2で示している機械的留め具部材Aの図と同様なものである。
図4図4は本発明の空気入りタイヤで使用できる一対の機械的留め具部材A、Bの構造例を示したもので、分解図で示したものであり、図2で示している機械的留め具部材A、Bの図と同様なものであるが、機械的留め具部材Aのベース部は図示していない。
図5図5は本発明の空気入りタイヤで使用できる機械的留め具部材Aの他の構造例を示したもので、分解図で示したものであり、図2図3で示している機械的留め具部材Aと相違する点は、補強材を介してタイヤ内面に固着されるものを示している点である。
図6図6は本発明の空気入りタイヤで使用できる2つの部材A、Bに分離することができて、さらにそれら部材A、Bどうしを係合させることができる一対の機械的留め具の他の構造例を示したもので、図2図4と同様、分解図で示したものである。
図7図7(a)、(b)は、いずれも本発明で採用する機械的留め具部材の固定強度の測定方法を説明する斜視図である。
図8図8(a)、(b)は、いずれも本発明で採用する機械的留め具部材の固定強度の測定方法を説明する概略図であり、機械的留め具に引張試験用軸状治具を係合させる方法を示したものである。
図9図9は本発明で採用する機械的留め具部材の固定強度の測定方法を説明する概略図であり、機械的留め具に係合される引張試験用軸状治具の構造例をモデル的に示したものである。
図10図10は実施例で採用した機械的留め具部材の固定位置をモデル的に示したものであり、タイヤ子午線方向断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、更に詳しく本発明の空気入りタイヤについて説明する。
【0024】
図1に示したように、本発明の空気入りタイヤ1は、タイヤ内面2に、2つの部材A、Bに分離することができて、さらにそれら部材A、Bどうしを係合させることができる一対の機械的留め具のうちの一方の部材3であってかつタイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aを1つ以上有し、該機械的留め具部材A、Bは、前記した相互間の係合をロックさせるロック機構を有することを特徴とする。図1において、4はトレッド部、5はサイドウォール部、6はビード部である。
【0025】
本発明において、機械的留め具とは、2つの留め具部材に分離することができ、かつそれらを再度、物理的に係合させることができ、この係合と分離を繰返して自在に行える一対の留め具部材で構成されるものをいい、係合自体のメカニズムは、前述した特許文献3〜同5で記載しているものと基本的に同様なものである。
【0026】
その代表的なものとして、ホックあるいはスナップと呼ばれる機械的留め具があり、衣料業界等で一般に、より具体的には、スナップボタン、リングスナップ、リングホック、アメリカンスナップ、アメリカンホック、アイレットホック、バネホックおよびジャンパーホックと呼ばれるもの等を総称し、係合箇所の面積が全面積で無限である所謂「面ファスナー」とは相違して、係合箇所が小面積(例えば、好ましくは1〜115mm2 程度など。さらに好ましくは、4〜90mm2 程度)の、いわば点状の留め具をいう。すなわち、例えば、1〜115mm2 程度等の小面積での係合であっても、機械的な雌雄構造等によって強い係合がなされるものをいい、それ自体は公知の構造のものであってよい。その材料は、金属を使用できる他、合成樹脂、硬質のゴムなどを使用して形成することができる。
【0027】
本発明においては、機械的留め具部材A、Bは、相互間の係合状態をロックさせるロック機構を有するものである。すなわち、係合機構の他に、ロック機構を有するのである。このロック機構を有することにより、該機械的留め具部材A、Bの相互間の係合が解除されることが抑制され、該機械的留め具部材を介してタイヤ内腔内に配設した特定の機能を有する物体を、脱落、落下から防止でき、確実にタイヤ内腔内に保持することができる。
【0028】
ここで、本発明において、「機械的留め具部材A、Bは、相互間の係合をロックさせるロック機構を有する」とは、下記する(a)〜(c)の要件を全て満足する機構を有することである。
(a)機械的留め具部材A、Bを係合させる際には、AとBを接近させる方向に力を加えることにより係合し、
(b)かつ、機械的留め具部材A、Bを係合解除させる際には、AとBを離間させる方向に力を加えて係合を解除する構造の機械的留め具において、
(c)係合を解除する前の段階で、上記(b)の方向とは別の方向に力を作用させることによって機能する機構を有し、その機構が働いてはじめて、上記(b)の動作が可能となる構造を有していること。
【0029】
この(a)〜(c)の要件のうち、特に(c)要件を実現する構造を有していることが重要であり、「この(c)要件が実現されながら係合がなされている状態」が、該係合がロックされている状態というものである。
【0030】
該係合がロックされている状態を形成するためには、上記(a)の係合をさせた後に、改めて力を加えることによって形成する場合と、上記(a)の係合をさせると同時に自動的に該状態が形成されて完了する場合の2つのやり方があり、本発明ではいずれのやり方のものであってもよい。
【0031】
本発明において、一対の機械的留め具部材A、Bのうち、タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aは、その代表的構造の例は、図2に示しているように、外径の小さな突出柱11と平板状基部12を有するベース部13と、該突出柱11の径よりも大きな内径の挿入孔14を有する被せ部15からなるものである。前記ベース部13はタイヤ内部(図示せず)に埋没し、該被せ部15はタイヤ内表面に露出し、該ベース部13と該被せ部15はタイヤ部材(図示せず)を挟んで、相互に固定されて機械的留め具部材Aを構成していることが好ましい。本発明者らの知見によれば、この組み合わせ構造が、機械的留め具部材Aを最も高い固定強度のもとで、タイヤ内面に固定することができる。
【0032】
そして、機械的留め具部材A、Bが、相互間の係合をロックさせるロック機構として有する構造は、特に図示のもののみに限定されないが、例えば、1例として、図2にモデル図を示しているように、タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aと対になる機械的留め具部材Bは、前記タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材Aと係合する際に、該機械的留め具部材Aが機械的留め具部材Bと接触して該機械的留め具部材Bを押圧することにより、機械的留め具部材Bから、前記機械的留め具部材Aの側面に設けられた溝部16と嵌合する爪部17が突出することにより、機械的留め具部材A、Bどうしが嵌合するように構成され、ロック機構が構成されるものなどが好ましい。この態様において、機械的留め具部材Bの機械的留め具部材Aと接して押圧される部分18は、押圧すると反対側(図上、上方側)に凹むバネ特性を有するものであり、反対側に凹むと同時に爪部17が中心軸方向に向いて突出する。該突出した爪部17は両部材A、Bの係合状態が進むにつれて、部材Aの溝部に嵌り込んで、両部材の係合状態はロックされる。このロック機構は、比較的簡単な構成でありながら、動作が確実であるので好ましいものである。本発明では、機械的留め具部材A、Bの係合のロック機構を採用していることにより、外力(遠心力や過大な路面入力)により機械的留め具部材の係合(嵌合)が解除されなくなる。
【0033】
なお、押圧するとその押圧方向に凹むバネ特性は、塗料などを入れる一斗缶などの金属蓋で古くから使用されている特性である。ロックの解除は、機械的留め具部材Bの頭頂部を下方に押して凹ませることにより、突出した爪部17は元の状態に広がり、溝部16から離れ、係合は解除される。
【0034】
図6は、本発明の空気入りタイヤで使用できる一対の機械的留め具の他の構造例を示したもので、図2図4と同様、分解図で示したものである。図2図4に例示したものとの相違点は、留め具部材Aの被せ部15が、軸方向断面縁線が円弧状を呈して外周側に膨らみ凸状部を形成していることである。留め具部材Bもその被せ部15に嵌ることができるように形状が作られている。その凸状部を有した形状のため、いったん突出した爪部17が溝部16と嵌合すると、ロック効果は極めて大きくなる。
【0035】
本発明において、機械的留め具部材Aを構成するベース部13をなす外径の小さな突出柱11は、筒状の柱状を呈しており、該筒状の柱状は中心の孔が貫通しておらず、前記平板状基部は、円形の平板状を呈していることが好ましい。該筒状の柱状は、中心の孔が貫通している場合には、タイヤの加硫成形中に該孔を通して未加硫ゴムが、被せ部15側(タイヤ内腔側)に流れてくることがあり、その部分においてタイヤ成形がうまくなされなくなるので好ましくない。筒状の柱状の中心の孔の非貫通状態の形成は、平板部(柱状の底部)に板状などの封止材を貼ってもよく、あるいは筒状部に栓をしてもよい。
【0036】
また、平板状基部は、円形の平板状を呈していることが、機械的留め具部材Aの固定強度を全方向に、より均一なものとすることができるので好ましい。平板状基部12の径は、被せ部15の最大径部の外形よりも大きいことが、機械的留め具部材Aの固定強度を大きくする上で好ましい。
【0037】
また、機械的留め具部材Aは、図5に示したように、ベース部13と、被せ部15からなり、ベース部13はタイヤ内部に埋没し、被せ部15はタイヤ内表面に露出し、該ベース部13と該被せ部15はタイヤ部材である補強部材19を挟んで、相互に固定されて機械的留め具部材Aを構成していて、該機械的留め具部材Aの固定強度は、0.5〜100N/mm2 の範囲であることが好ましい。
【0038】
この機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度は、機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度よりも大きくなるようにして、機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定や機械的留め具部材A、Bの係合構造が形成されていることが好ましい。その理由は、タイヤ内面に係合させて取り付けた物体の質量等の理由により、タイヤとしての走行開始後に、徐々にその係合取り付け状態が破壊されていく場合に、機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定状態が破壊されるに至るよりも前に、機械的留め具部材A、Bの係合ロック状態が破壊されてしまうことが、タイヤ本体側へのダメージを与えることが少ないので好ましいのである。
【0039】
ただし、機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度は、一定レベル以上を有することは、むろん重要であり、本発明者らの知見によれば、該係合強度は0.2〜50N/mm2 であることが好ましい。
【0040】
したがって、全体の構成として、好ましいのは、機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が、前記機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度よりも大きく、かつ、機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度が0.5〜100N/mm2 、機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度が0.2〜50N/mm2 であることである。
【0041】
これらの条件を全体として満足することにより、機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定状態を確実に維持しながら、該機械的留め具部材A、Bの係合ロック状態が破壊されるまでの、長期間にわたり、タイヤ内面に係合させて取り付けた物体の機能特性を発揮させることができるものである。機械的留め具部材Aのタイヤ内面への固定強度は、1.0〜80N/mm2 の範囲内にあることが、取り付ける物体の一般的な質量の点などから、実際的で好ましい。また、機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度は、より好ましくは、0.5〜30N/mm2 である。
【0042】
本発明において、機械的留め具部材3(A)の取付け位置は、図1に示したようなタイヤ内面でのタイヤ赤道付近などのほか、特に限定されるものではない。トレッド部4では、タイヤ回転による遠心力を強く受けることになるので、また、タイヤ転動に伴うタイヤ内面の形状変化を繰り返し受けることになるので、そうした影響の少ないビード部6付近あるいはサイドウォール部5付近のタイヤ内面に設けることでもよい。該機械的留め具部材3(A)は、何カ所に分散させて、複数個が設けられていてもよい。一個のものが使用できなくなっても、他のものを使用することができるようにするためである。
【0043】
機械的留め具部材3の固定強度が上述した範囲(0.5〜100N/mm2 )内であれば、本発明者らの知見によれば、ほぼ大半のタイヤ内腔内に取り付けたい物体の取り付け固定に十分に対応できる。0.5N/mm2 未満では、重量の大きい物体を取り付けるのに対応できない。一方、100N/mm2 を超える固定強度のものを実現しようとすれば、その方法として固定部分のタイヤ構造のみ部分的に剛性を高くする場合には、タイヤの周方向の剛性が不均一になるためユニフォーミティが悪化するため好ましくなく、または、その方法としてタイヤ全周にわたり剛性を高くする場合には、製造コストが不必要に上昇するため好ましくない。
【0044】
ここで、タイヤ部材とは、ゴム、樹脂などからなるタイヤの構成部材をいい、具体的にはインナーライナー、カーカスなどが該当する。あるいはまた、タイヤ内面に、留め具部材Aのベース部13と、被せ部15に挟まれて存在することを専用の目的にして使用されたゴム層、ゴム引き補強繊維層あるいは樹脂層、さらにそれらの複数を積層した補強用の層を、補強部材19として付加して設けてもよいものである。そうした構成にすると、一般にタイヤ内の空気遮断性能が向上し好ましい。
【0045】
空気入りタイヤの内面に配設される特定の機能を有する物体は、その所望の特性に対応して決定されればよく、特に限定されるものではないが、例えば、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体である場合などが好ましいものである。
【0046】
本発明の空気入りタイヤは、タイヤ外径が0.8m以上の建設車両用、あるいは産業車両用、あるいは重荷重用タイヤであることが実際的であり好ましい。そうしたタイヤは、タイヤ内腔内の空気圧などをモニタリングチェックするために空気圧測定計を装着することが多いにも関わらず、それに用いられるホイールは空気圧測定計を取り付けにくい形状を一般に有しているため、タイヤ内面に取り付けることになることが通常だからである。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて、本発明の空気入りタイヤについて説明する。
【0048】
なお、本発明において、機械的留め具部材Aの固定強度、および、機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度は、以下に記載の測定方法によるものである。
【0049】
(A)機械的留め具部材Aの固定強度の測定法
機械的留め具部材3を設置したグリーンタイヤを加硫し、本発明にかかるタイヤを製造した後、機械的留め具部材3の周辺でタイヤを切り出して試験サンプルSとする(図7(a))。試験サンプルの機械的留め具部材3に一対の穴20(図8(a))を開け、該一対の穴20に棒状の貫通冶具22を通し、該貫通治具22を介して、引張試験用軸状治具23を試験サンプルに取り付ける(図8(b))。引張試験用軸状治具23は、図9にモデル図を示した構造のものであり、円筒状の端部近くに一対の穴21を有している。
【0050】
機械的留め具部材3を引張試験用軸状治具22を介して引き抜くに際しては、図7(b)、図8(b)に示したように、機械的留め具部材3の周囲のタイヤ内面2に固定板24を固定的に設置して、該固定板24に対して、垂直方向に機械的留め具部材3を引き抜く際の破断力を求める。引き抜き速度は500±50mm/分で行う。
【0051】
なお、固定板24には、機械的留め具3の突出部の径dの1.30〜1.35倍の径DEの穴をあけたものを使用する。上記した機械的留め具部材3を引き抜くに際して、固定板24は上昇しないようにしっかりと固定をする。その上で、引張試験用軸状治具22を上に引張り、機械的留め具3がタイヤ構造から外れた時点まで間の引張力の最大値を破断力とする。
【0052】
求められた該破断力の値は、機械的留め具部材3の最大断面積で除した値(N/mm2 )として単位断面積当たりの値とし3つの試験サンプルで同じ試験を行い、その平均値を固定強度(N/mm2 )とする。
【0053】
なお、上記の測定方法は、測定法の具体的な一例と言うべきものであり、上述した通りの引張試験法をベースにした方法であれば、機械的留め具の形状如何等によってより適切と考えられるやり方に多少の変更をしてもよい。
【0054】
(B)機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度の測定法
係合ロックさせた機械的留め具部材A、Bの軸方向に引張試験(引張速度500±50mm/分。基本的に、上記(A)機械的留め具部材Aの固定強度の測定法での引張速度と同じとする。)を行い、係合ロックされている部分の面積(係合ロックされている部分が環状の場合は囲まれた内部の面積も含める)でわり、機械的留め具部材A、Bの係合ロック時の係合強度(N/mm2 )を求めた。試験は、3つの試験サンプルで同じ試験を行い、その平均値を該係合強度(N/mm2 )とする。
【0055】
実施例1、比較例1
機械的留め具部材として、両部材AとBの係合を図2図4に示した機構によりロックすることができる本発明の空気入りタイヤを製造した。
【0056】
タイヤ内面への機械的留め具部材の固定は、図5に示したように、ゴム引き補強繊維層(ナイロン繊維糸を経糸と緯糸に用いて製織した織物に、ゴムを充填させたもの)19を部材Aと部材Bの間に挟んでタイヤの加硫成形工程に供することにより固定した。
【0057】
すなわち、該空気入りタイヤは、産業車両用のもの(直径:約2670mm)であり、図10に示したようにトレッド部内周面の赤道部に1個の機械的留め具部材3をタイヤ加硫成形工程で加硫接着させて設けたものである(実施例1)。
【0058】
一方、機械的留め具部材として、両部材AとBの係合を特別なロック機構を設けないで行うこと以外は、上述した実施例1と全く同様の機械的留め具部材を有する空気入りタイヤを製造した(比較例1)。
【0059】
得られた各試験タイヤにおいて、機械的留め具部材の固定強度、機械的留め具の両部材A、Bの係合強度の比較を行った。
【0060】
結果は、表1に記載したとおりであり、本発明の実施例1によるものは機械的留め具の両部材A、Bの係合強度が、比較例1のものと比べて格段と優れている。
【0061】
両試験タイヤにおいて、それぞれ機械的留め具部材を用いて、空気圧センサー(送信機付き)を固定させた。
【0062】
両試験タイヤを、強制的回転試験(30km/h)に供したところ、比較例1のものは、20時間を経過した時点で、機械的留め具の両部材A、Bの係合が解かれることにより空気圧センサー(送信機付き)のタイヤ内面への固定ができなくなった。それに対して、本発明の実施例1によるものは、100時間を経過した後も、機械的留め具部材の固定状態、機械的留め具の両部材A、Bの係合状態のいずれも問題はなかった。
【表1】
【符号の説明】
【0063】
1:空気入りタイヤ
2:タイヤ内面
3:機械的留め具部材
4:トレッド部
5:サイドウォール部
6:ビード部
11:突出柱
12:平板状基部
13:ベース部
14:挿入孔
15:被せ部
16:溝部
17:爪部
18:機械的留め具部材Aと接して押圧される部分
19:補強部材
20:試験サンプルの機械的留め具部材に開けられる一対の穴
21:引張試験用軸状治具の一対の穴
22:貫通治具
23:引張試験用軸状治具
24:固定板
A:タイヤ内腔側に固定されている機械的留め具部材
B:機械的留め具部材Aと対を構成する機械的留め具部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10