(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るCO
2ヒートポンプ式給湯装置は、蒸発器冷媒流路の内径を4.3mm〜4.9mmとし、ヒートポンプ式給湯装置の水に対する加熱能力をQとし、前記蒸発器冷媒流路の流路分岐数をPとした場合に、下記関係式(1):
P≦64/33×Q ・・・(1)
を満足することを主な特徴とする。
【0014】
以下に、本発明のCO
2ヒートポンプ式給湯装置の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明における前後上下の方向は、鉛直方向上方を上側とし、蒸発器に流入する空気の上流側を前側とした
図2に示す上下前後方向を基準とする。また、以下の説明における左右の方向は、空気流の上流側から蒸発器を見て向かって右方を右側とする
図2に示す左右方向を基準とする。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るCO
2ヒートポンプ式給湯装置のシステム図である。本実施形態のCO
2ヒートポンプ式給湯装置(以下、単に「ヒートポンプ給湯機」と称することがある)は、ヒートポンプサイクルと水側サイクルとを有している。
【0016】
図1に示すように、ヒートポンプサイクルは、圧縮機100、水冷媒熱交換器101、膨張弁102、及び蒸発器103の各要素をループ状(環状)に接続した流路内に、CO
2冷媒を封入した構成となっている。
また、水側サイクルは、貯湯タンク104、循環ポンプ105、及び水冷媒熱交換器101の各要素をループ状(環状)に接続した流路内に、水を満たした構成となっている。
【0017】
蒸発器103は、流路を複数(
図1では6流路)に分けて熱交換を行うために、膨張弁102との間に分配器1が配置され、圧縮機100との間に合流部2が配置されている。
【0018】
図2は、蒸発器103の斜視図であり、
図1における膨張弁102から合流部2までの構成をも具体的に示している。
図2に示すように、蒸発器103は、クロスフィンチューブ型のものであり、空気側の伝熱面であるフィン群3と、複数の蒸発器冷媒流路4(蒸発器冷媒流路群)と、を備えている。具体的には、フィン群3は、板状の複数のフィンからなり、フィンの板面同士が所定の隙間を空けて対向するように重ねられて構成されている。そして、空気は、フィン群3のフィンの板面同士の間を流れるようになっている。
【0019】
蒸発器冷媒流路4は、図示しないがフィン群3の各フィンに対してほぼ直交するように貫通し、各フィンに固定されている。具体的には、蒸発器冷媒流路4は、フィン群3の各フィンに対してほぼ直交するように貫通した後、折り返して再びフィン群3の各フィンに対してほぼ直交するように貫通している。つまり、フィン群3を貫通する複数の蒸発器冷媒流路4(蒸発器冷媒流路群)は、蒸発器冷媒流路4の長さ方向が空気流に直交する方向に並ぶように配置されることとなる。ちなみに、本実施形態での蒸発器冷媒流路4を構成する配管は、その内径が4.6mmに設定され、その外径が5.0mmに設定されている。
このような蒸発器103は、空気の入口側(前列側)と出口側(後列側)との合計2列で構成されている。
【0020】
次に、膨張弁102から蒸発器103を経由して合流部2までの流路の構成について説明する。
膨張弁102から分配器1の分岐点までの分岐前流路5を形成する配管の内径D
edは、4mmに設定され、分岐前流路5を形成する配管の長さL
edは、60mmに設定されている。
【0021】
分岐前流路5は、分配器1にて第1分岐後流路6、第2分岐後流路7、第3分岐後流路8、第4分岐後流路9、第5分岐後流路10、及び第6分岐後流路11の計6本の流路へと分岐する。
【0022】
分岐した各分岐後流路6〜11のうち、第1分岐後流路6、第3分岐後流路8、及び第5分岐後流路10は、蒸発器103の後列左側へと接続され、フィン群3の各フィンに対してほぼ直交するように貫通して蒸発器103の後列右側に臨む。ちなみに、フィン群3を貫通する第1分岐後流路6、第3分岐後流路8、及び第5分岐後流路10は、前記の蒸発器冷媒流路4を形成している。
【0023】
蒸発器103の後列右側に臨んだ第1分岐後流路6、第3分岐後流路8、及び第5分岐後流路10は、図示しないが、上方に延びる途中で左側に折り返して再びフィン群3を貫通して蒸発器103の後列左側に再び臨む。また、第1分岐後流路6、第3分岐後流路8、及び第5分岐後流路10は、蒸発器103の上方で同様に更に一往復フィン群3を貫通して蒸発器103の後列左側に再び臨んだ後、前側に延びて蒸発器103の前列左側に接続される。
【0024】
蒸発器103の前列左側に接続された第1分岐後流路6、第3分岐後流路8、及び第5分岐後流路10は、フィン群3の各フィンに対してほぼ直交するように貫通して蒸発器103の前列右側に臨む。そして、図示しないが、前列右側に臨んだ第1分岐後流路6、第3分岐後流路8、及び第5分岐後流路10は、下方に延びる途中で左側に折り返して再びフィン群3を貫通して蒸発器103の前列左側に再び臨む。また、第1分岐後流路6、第3分岐後流路8、及び第5分岐後流路10は、蒸発器103の下方で同様に更に一往復フィン群3を貫通して蒸発器103の前列左側に再び臨み、前側の合流部2に向かって延出する。
【0025】
一方、分岐した各分岐後流路6〜11のうち、第2分岐後流路7は、前記の第1分岐後流路6の下方でこれに隣接するように蒸発器103の後列左側に接続される。第4分岐後流路9は、前記の第3分岐後流路8の下方でこれに隣接するように蒸発器103の後列左側に接続される。第6分岐後流路11は、前記の第5分岐後流路10の下方でこれに隣接するように蒸発器103の後列左側に接続される。
【0026】
蒸発器103の後列左側に接続された第2分岐後流路7、第4分岐後流路9、及び第6分岐後流路11は、フィン群3の各フィンに対してほぼ直交するように貫通して蒸発器103の後列右側に臨む。ちなみに、フィン群3を貫通する第2分岐後流路7、第4分岐後流路9、及び第6分岐後流路11は、前記の蒸発器冷媒流路4を形成している。
【0027】
蒸発器103の後列右側に臨んだ第2分岐後流路7、第4分岐後流路9、及び第6分岐後流路11は、図示しないが、下方に延びる途中で左側に折り返して再びフィン群3を貫通して蒸発器103の後列左側に再び臨む。また、第2分岐後流路7、第4分岐後流路9、及び第6分岐後流路11は、蒸発器103の下方で同様に更に一往復フィン群3を貫通して蒸発器103の後列左側に再び臨んだ後、前側に延びて蒸発器103の前列左側に接続される。
【0028】
蒸発器103の前列左側に接続された第2分岐後流路7、第4分岐後流路9、及び第6分岐後流路11は、フィン群3の各フィンに対してほぼ直交するように貫通して蒸発器103の前列右側に臨む。そして、図示しないが、前列右側に臨んだ第2分岐後流路7、第4分岐後流路9、及び第6分岐後流路11は、上方に延びる途中で左側に折り返して再びフィン群3を貫通して蒸発器103の前列左側に再び臨む。また、第2分岐後流路7、第4分岐後流路9、及び第6分岐後流路11は、蒸発器103の上方で同様に更に一往復フィン群3を貫通して蒸発器103の前列左側に再び臨み、前側の合流部2に向かって延出する。
【0029】
なお、合流部2に向かって延出する第1分岐後流路6及び第2分岐後流路7同士、第3分岐後流路8及び第4分岐後流路9同士、並びに第5分岐後流路10及び第6分岐後流路11同士は、蒸発器103の前列左側でそれぞれ隣接するように配置されている。
そして、各分岐後流路6〜11は、蒸発器103から合流部2に接続され、再び1本の流路となる。
【0030】
次に、本実施形態に係るCO
2ヒートポンプ給湯装置の動作について
図1及び
図2を参照しながら説明する。
CO
2冷媒は、圧縮機100で、圧縮されて高温・高圧状態になる。この高温・高圧のCO
2冷媒は、貯湯タンク104から循環ポンプ105によって送られてきた水と、水冷媒熱交換器101にて熱交換し、水をお湯に沸き上げる代わりに熱を失う。このときのCO
2冷媒から水への単位時間当たりの熱移動量が加熱能力Qとなる。この加熱能力Qは、特許請求の範囲にいう「加熱能力」に相当し、本実施形態では、4.5kWに設定することを想定している。
【0031】
次に、CO
2冷媒は、膨張弁102で縮流部(図示省略)を通過することで低温・低圧状態の気液混合状態(気液二相流)となる。そして、CO
2冷媒は、分配器1にて分岐後流路6〜11に分流される。そして、CO
2冷媒は、分岐後流路6〜11に分かれてフィン群3をそれぞれ貫通する蒸発器冷媒流路4を流れる際に、空気から熱を受け取ることで蒸発する。次いで、蒸発器103から流出した冷媒は、合流部2で合流して1本の流路に戻った後、圧縮機100へと戻り、再び圧縮されてヒートポンプサイクルに送り出される。
【0032】
次に膨張弁102から分配器1までのCO
2冷媒の動作について更に詳しく説明する。
図3は、膨張弁102の下流側の流動状態を示す模式図である。
図3に示すように、膨張弁102から流出したCO
2冷媒は、圧力の低下によって気体と冷媒の2相状態となる。具体的には、CO
2冷媒は、膨張弁102近傍では連続相としての気体冷媒中に液体冷媒が混合した噴霧流(又は連続相としての液体冷媒中に気体冷媒が混合した気泡流(図示せず))となり、膨張弁102から離れた領域では液体冷媒が流路の内周壁を覆うように流れる環状流となる。
【0033】
噴霧流(又は気泡流(図示省略))から環状流への遷移点は、流路の内径が大きい程、冷媒流量が大きいほど、膨張弁102の冷媒出口部から遠くなる。また、蒸発器103に対する冷媒分配を考慮すると、環状流では分配器1の傾きによる気液の偏りや、CO
2冷媒自体の偏流によって分配が不均一になり、結果として本来得られるはずの蒸発器性能が得られない場合がある。これに対して、噴霧流ではこれらの影響を受けずに安定かつ均等な分配が可能となる。
したがって、分岐後流路6〜11のように多分岐の流路にて蒸発器冷媒流路4を形成する場合に、環状流と噴霧流との比較では噴霧流で分配することが性能の低下防止のために特に重要となる。
【0034】
次に参照する
図4は、CO
2冷媒の噴霧流、気泡流等を形成する気液混合領域と、CO
2冷媒の環状流を形成する気液分離領域との遷移点の測定結果を示すグラフであり、横軸は加熱能力Q(kW)を表し、縦軸は、x/D
ed0.28(但し、xは、
図3に示す膨張弁102からの流路長さ(m)であり、D
edは、
図2に示す膨張弁102の下流側における分岐前流路5の内径(m)である)を表している。
ちなみに、
図4に示す気液混合領域と気液分離領域との遷移点は、加熱能力4.5kWのヒートポンプ給湯機の性能表示に必要とされる試験条件のうち、CO
2冷媒の流量が最小となる着霜期条件にてシミュレーション試験を行って求めたものである。
【0035】
図4に示す、x/D
ed0.28=0.169Q
0.36の関係式を満たす曲線は、気液混合領域と気液分離領域との遷移点を表すものであり、当該曲線よりも上の領域(x/D
ed0.28が大きい領域)が気液分離領域、つまり環状流を形成する領域であり、当該曲線よりも下の領域(x/D
ed0.28が小さい領域)が気液混合領域、つまり噴霧流ないしは気泡流を形成する領域である。
したがって、本実施形態においては、噴霧流ないしは気泡流のCO
2冷媒を分配器1にて分配するためには、後に具体的に説明する次式(3):
L
ed/D
ed0.28<0.169Q
0.36 ・・・(3)
(但し、L
edは、
図2に示す膨張弁102から分配器1の分岐点までの分岐前流路5の長さ(mm)、D
edは
図2に示す膨張弁102の下流側における分岐前流路5の内径(mm)、Qは加熱能力(kW)である)
の関係式を満たすことが望ましい。
【0036】
本実施形態では、前記のように、流路内径D
edを4mm、加熱能力Qを4.5kWとしているため、APF(Annual Performance Factor:通年エネルギー消費効率、以下、APFに同じ)の算出に必要な全ての試験条件において噴霧流ないしは気泡流のCO
2冷媒を分配器1にて分配するためには、
図3に示す膨張弁102からの流路長さx(m)は、61.9mm未満(x<61.9mm)とする必要がある。
以上のことから、本実施形態では、膨張弁102から分配器1の分岐点までの分岐前流路5の長さL
ed(
図2参照)を60mmに設定した。
【0037】
次に、本実施形態に係るCO
2ヒートポンプ給湯装置における、分配器1による分岐前流路5の分岐数と、蒸発器冷媒流路4の内径との関係について説明する。
次に参照する
図5は、CO
2冷媒に対する流動様式線図であり、横軸は冷媒乾き度、縦軸は質量速度(kg/m
2s)である。
図5に示すように、線ABCDに囲まれた領域は、気体冷媒と液体冷媒とが配管内で偏って2層になって流れる層状流を形成する領域を表している。
【0038】
また、線Aと線Cとの間で線Dよりも質量速度が大きい領域は、気体冷媒と液体冷媒とが配管内で前記の環状流を形成する領域を表している。熱伝達率の観点から層状流と環状流とを評価すると、環状流は管壁全体にて沸騰蒸発と対流蒸発が発生することで高い熱伝達率が得られる。これに対し、層状流は、配管の内周面の一部が気体冷媒と接するため、その部分で沸騰蒸発が発生せず、環状流に比べて熱伝達率が低くなる。したがって、同一の伝熱面積でより高い伝熱性能を得るためには、流路内を環状流とすることが必要となる。
【0039】
そして、本実施形態では、
図5に示す質量速度と冷媒乾き度との関係に基づいて、蒸発器冷媒流路4内が一部でも環状流となる閾値をシミュレーション試験によって演算した。その結果を
図6に示す。
図6は、分配器1による分岐前流路5の分岐数と、蒸発器冷媒流路4の内径との関係に基づいて蒸発器冷媒流路4内が一部でも環状流となる閾値をシミュレーション試験によって演算した演算結果を示すグラフであり、横軸は、蒸発器冷媒流路4の内径(mm)であり、縦軸は、分配器1による分岐前流路5の分岐数であり、
図6中、それぞれ「蒸発器冷媒流路内径(mm)」及び「流路分岐数」として記す。ちなみに、層状流から環状流となる遷移点は、加熱能力4.5kWのヒートポンプ給湯機の性能表示に必要とされる試験条件のうち、CO
2冷媒の流量が最小となる着霜期条件にて演算したものである。
【0040】
図6中、黒丸印「●」を直線で結んだ線が、層状流及び環状流相互間の遷移が生じる閾値である。この線よりも流路分岐数が大きい領域が熱伝達率の低い層状流の領域を示し、分岐数が小さい領域が熱伝達率の高い環状流の領域を示している。なお、
図6中の縦軸の流路分岐数は自然数刻みとなるため、縦軸上の所定の流路分岐数を示す位置で互いに並ぶ2つの黒丸印「●」同士の間で規定される蒸発器冷媒流路内径(mm)の範囲内で最適の蒸発器冷媒流路4の内径を決定することができる。具体的には、例えば
図6中、流路分岐数が6の場合に環状流となる閾値は、蒸発器冷媒流路内径(mm)が4.4mm〜4.7mmの範囲内となる。
【0041】
次に、本実施形態に係るヒートポンプ給湯装置における蒸発器103の仕様と性能との関係について説明する。
図7は、蒸発器冷媒流路4の内径(mm)とヒートポンプ給湯機の性能を表すAPFとの関係の計算結果を示すグラフであり、横軸は、蒸発器冷媒流路4の内径(蒸発器冷媒流路内径(mm))、縦軸は、APFである。
【0042】
なお、ここでの蒸発器冷媒流路4の内径に対応する、分配器1による分岐前流路5の分岐数(流路分岐数)には、
図6に示した閾値を適用した。これは流路分岐数が大きくなるほど蒸発器出入口間の圧力損失が小さくなることから、熱伝達率の高さと圧力損失の低さを両立することで最大の性能を得る目的がある。また、APFの計算は、蒸発器103の空気側伝熱面であるフィン材価格と、蒸発器冷媒流路4となる冷媒管価格の総和を一定として行った。
【0043】
図7に示すように、蒸発器冷媒流路4の内径(
図7中、横軸の蒸発器冷媒流路内径(mm))を小さくするほどAPFが大きくなってヒートポンプ給湯装置の性能が向上することがわかる。これは、蒸発器冷媒流路4の内径を細くするほど冷媒流路の伝熱面積を一定量保つために流路の本数が増え、同時に流路同士の間隔も狭くなるためと考えられる。つまり、フィン群3に対して熱が均等に伝わってフィン効率が向上するためであると考えられる。但し、蒸発器冷媒流路4の内径の減少に伴う性能の向上率は、内径4.6mmを境に緩慢になることがわかる。この原因については次の
図8、
図9を用いて説明する。
【0044】
図8は、蒸発器冷媒流路4の入口から出口までの冷媒温度分布を模式的に示すグラフであり、横軸は、蒸発器冷媒流路の長さ(mm)、縦軸は、冷媒温度(℃)である。
蒸発器103(
図2参照)は、液体冷媒を気体冷媒に蒸発させるという特性上、
図8に示すように、蒸発器103の出口側近傍で蒸発が完全に終了し、冷媒の温度上昇ΔT(℃)が起こる。
【0045】
次に参照する
図9(a)は、
図2に示す第3分岐後流路及び第4分岐後流路において、CO
2冷媒が、蒸発器103の冷媒入口部から冷媒出口部まで通流する際のCO
2冷媒の温度変化を、
図8に示すCO
2冷媒の温度上昇ΔTに対応させて示す概念図である。
図9(b)は、比較例としての第3分岐後流路及び第4分岐後流路において、蒸発器の冷媒入口部から冷媒出口部までCO
2冷媒が通流する際のCO
2冷媒の温度変化を、
図8に示すCO
2冷媒の温度上昇ΔTに対応させて示す概念図である。
【0046】
図9(a)に示すように、前記実施形態での第3分岐後流路8及び第4分岐後流路9は、前記したように、分配器1(
図2参照)から延びる第3分岐後流路8及び第4分岐後流路9同士は互いに隣接する位置でフィン群3に接続されて蒸発器103の冷媒入口部を構成している。また、蒸発器103から合流部2に(
図2参照)に向かう第3分岐後流路8及び第4分岐後流路9は、前記したように、互いに隣接する位置で蒸発器103の冷媒出口部を形成している。
【0047】
これに対し、
図9(b)に示す比較例の第3分岐後流路8及び第4分岐後流路9は、
図9(a)に示す第3分岐後流路8及び第4分岐後流路9と異なって、蒸発器103の冷媒入口部及び冷媒出口部は、フィン群3の上下方向に配置される3段分の蒸発器冷媒流路4を介して互いに離間するように形成されている。
【0048】
そして、
図9(a)及び(b)に示すように、フィン群3を貫通する蒸発器冷媒流路4は、フィン群3のフィンを介して互いに隣り合うもの同士で白抜き矢印の示すように熱交換を行う。フィン群3による熱交換が無いと仮定した場合に比べて、前記の熱交換が行われると、一般には高温側の蒸発器冷媒流路4が冷却されてヒートポンプ給湯機の性能が低下することとなる。
【0049】
また、熱伝導による熱移動量は、蒸発器冷媒流路4同士の間隔が狭くなるほど多くなる。そのため、蒸発器冷媒流路4を細くして流路密度を高めるほど、ヒートポンプ給湯機の性能は熱伝導の影響で向上しにくくなる。なお、フィン群3のフィンの熱伝導によるヒートポンプ給湯機の性能低下は、蒸発器103の出口の冷媒過熱度が高いほど強く現れる。また、ヒートポンプサイクル内に冷媒量調整機能を備えていないヒートポンプ給湯機は、外気温度が高いほど冷媒過熱度が上昇するという特性を持つ。
【0050】
ところで、
図9(b)に示す比較例での「蒸発器103の冷媒出口部」での蒸発器冷媒流路4内のCO
2冷媒、つまり
図9(b)中、「温度高」で示されるCO
2冷媒は、これの下方で隣接する蒸発器冷媒流路4内の「温度低」で示されるCO
2冷媒と熱交換する。よって、
図9(b)に示す比較例では、熱伝導によるヒートポンプ給湯機の性能低下量が大きい。これに対して、
図9(a)に示す本実施形態では、「蒸発器103の冷媒出口部」での蒸発器冷媒流路4内の「温度高」で示されるCO
2冷媒は、これに隣接する蒸発器冷媒流路4内の「温度中」で示されるCO
2冷媒と熱交換する。
よって、
図9(a)に示す本実施形態では、「蒸発器103の冷媒出口部」での蒸発器冷媒流路4同士(
図9(a)の第3分岐後流路8及び第4分岐後流路9同士)を互いに隣接させることで、ヒートポンプ給湯機の性能を向上させることができる。
【0051】
以上、
図4から
図9について説明したとおり、蒸発器冷媒流路4の内径としては4.6mmが適切であり、更に
図9(a)に示す流路構成を適用することで熱伝導による性能低下を緩和できる。そして、製造のばらつきなどを考慮すると、許容可能な蒸発器冷媒流路4の内径の範囲を規定する必要もある。
【0052】
図6にて既に説明したとおり、蒸発器冷媒流路4の内径に4.6mmを選択した場合の流路分岐数は6となるが、もし製造のばらつきなどで流路内径が4.6mmからずれてしまった場合でも、
図6の横軸に示す蒸発器冷媒流路4の内径が4.4mm〜4.7mmの範囲であれば最適な流路分岐数Pを対応させる(設定する)ことができる。
【0053】
再び
図7を参照して、冷媒流量の選択によっては、流路分岐数が7(
図7の上側横軸参照)の場合に、許容される蒸発器冷媒流路4の内径範囲が4.3mm〜4.6mmとなり、流路分岐数が6(
図7の上側横軸参照)の場合に、許容される蒸発器冷媒流路4の内径範囲が4.6mm〜4.9mmとなる。つまり、製造のばらつきなどによる蒸発器冷媒流路4の内径が4.6mmからずれることを考慮しても、
図7に示す蒸発器冷媒流路4の内径が4.3mm〜4.9mmの範囲であれば、最適な流路分岐数Pを対応させる(設定する)ことができる。ちなみに、
図7の上側横軸の流路分岐数(6又は7)に対応する蒸発器冷媒流路4の内径範囲は、着霜期などの低冷媒流量条件では層状流を許容するものとしてシミュレーション試験にて演算したものである。
【0054】
次に、ヒートポンプ給湯機の加熱能力Q(kW)と、分配器1による分岐前流路5の最適な分岐数(流路分岐数P)との関係について説明する。
図10は、ヒートポンプ給湯装置の加熱能力Qと、分配器による分岐前流路の最適な分岐数(流路分岐数P)との関係を示すグラフであり、横軸は、加熱能力Q(kW)、縦軸は、流路分岐数Pである。つまり、
図10に示すグラフは、前記のように、蒸発器冷媒流路4の内径を4.6mmとした場合に、蒸発器冷媒流路4内のCO
2冷媒が環状流となる加熱能力Qと流路分岐数Pとの関係をシミュレーション試験にて演算して得たものである。
図10にはAPFを演算する条件のうち、冷媒流量が最も少ない着霜期条件の結果を破線で示し、冷媒流量が最も大きい夏期条件の結果を実線で示した。
【0055】
図10に示すように、着霜期条件に対する閾値は、P=4/3×Qで表され、夏期条件に対する閾値はP=64/33×Qで表される。そして、それぞれの閾値よりも流路分岐数Pが少ない領域が、蒸発器冷媒流路4内でのCO
2冷媒が環状流となる領域となる。
したがって、夏期条件基準で前記した式(1):
P≦64/33×Q ・・・(1)
の関係式を満足する加熱能力Q(kW)及び流路分岐数Pを設定することで蒸発器冷媒流路4内のCO
2冷媒を環状流とすることができる。
【0056】
また、着霜期条件基準で、式(2):
P≦4/3×Q ・・・(2)
の関係式を満足するとすればAPFの算出に必要な全条件にて、蒸発器冷媒流路4内のCO
2冷媒を環状流とすることができる。本実施形態では、全条件で高い性能を確保するため、式(2):P≦4/3×Qにおいて加熱能力Qが前記の4.5kWである場合を想定して、流路分岐数Pを6とした。
なお、本実施形態では加熱能力Qが4.5kWものについて記載したが、本発明の課題を阻害しない限り、適宜加熱能力Qを設定することができる。
【0057】
以上のような蒸発器103を備える本実施形態に係るCO
2ヒートポンプ式給湯装置によれば、蒸発器冷媒流路4の内径を4.3mmから4.9mmの範囲内とし、流路分岐数Pと加熱能力Qの関係を前記式(1):P≦64/33×Qとすることで、CO
2ヒートポンプ式給湯装置の性能を表すAPFの算出に必要な試験条件の内、冷媒流量が最大となる条件において、蒸発器冷媒流路4の内部の流動様式が熱伝達率の高い環状流となるため、高い性能を得ることが可能となる。
【0058】
また、このCO
2ヒートポンプ式給湯装置によれば、流路分岐数Pを前記式(2):P≦4/3×Qの範囲内の値とすることで、APFの算出に必要な全ての試験条件において、蒸発器冷媒流路4における流動様式を熱伝達率の高い環状流することができるため、全ての条件で高い性能が得られるようになる。
【0059】
また、このCO
2ヒートポンプ式給湯装置によれば、流路分岐数Pを前記式(2):P≦4/3×Qの関係を満たすPの自然数の最大値(例えば、本実施形態での前記流路分岐数P=6)とすることで、熱伝達率の高さだけでなく、冷媒側圧力損失の低減効果も得られるため、更に高い性能を得ることが可能となる。
【0060】
また、このCO
2ヒートポンプ式給湯装置によれば、複数の蒸発器冷媒流路4の冷媒出口部を互いに近接させるように配置することで、複数の蒸発器冷媒流路4の冷媒出口部が近接しない場合に比べてフィン群3を介した熱伝導の影響による性能低下を防止し、蒸発器103の性能を特に高めることが可能となる。
【0061】
また、このCO
2ヒートポンプ式給湯装置によれば、蒸発器103は必然的に多分岐となるため、性能を十分に引き出すためにはCO
2冷媒の均等分配が必要となるが、次式(3):
L
ed/D
ed0.28<0.169Q
0.36 ・・・(3)
(但し、L
ed、D
ed及びQは前記と同義である)
を満たす値とすることで、膨張弁102から流出した冷媒流が気液混合状態を維持したまま流路分岐部に流入し、流路分岐数Pにかかわらず均等な流量及び乾き度で分配することが可能となる。
【0062】
このような本実施形態によれば、任意の加熱能力Qに対して製造のばらつきを考慮した最適な蒸発器冷媒流路4の内径範囲と、流路分岐数Pとを選択することができるため、加熱能力Qに応じて性能を最大化することができる蒸発器103を備えるCO
2ヒートポンプ式給湯装置用蒸発器を提供することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。以下に説明する他の実施形態においては、前記実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
次に参照する
図11は、他の実施形態に係るCO
2ヒートポンプ給湯装置における蒸発器の斜視図である。
図11中、符号1は分配器、符号2は合流部、符号3はフィン群、符号5は分岐前流路、符号6は第1分岐後流路、符号7は第2分岐後流路、符号8は第3分岐後流路、符号9は第4分岐後流路、符号10は第5分岐後流路、符号11は第6分岐後流路、符号102は膨張弁、符号103は蒸発器である。
【0064】
図11に示すように、他の実施形態に係るCO
2ヒートポンプ給湯装置における蒸発器103は、
図2に示す前記実施形態での蒸発器103に比べて、フィン群3の列数が1列増え、合計3列の構成となっているため、流路構成が異なっている。なお、
図11に示す蒸発器103を備えるヒートポンプ給湯機の加熱能力Qは6.0kWを想定している。
図11に示す蒸発器103は、
図2に示すものに比べてフィン群3の列数が増加したことで蒸発器冷媒流路4が長くなっている。そのため、蒸発器103の冷媒出入口間の圧力損失が高い仕様となっている。
【0065】
一方、
図10に示した数式には、圧力損失の項目が存在しないため、前記実施形態と同様の理論が適用できる。
つまり、式(2):P≦4/3×Qに加熱能力Qの6kWを適用するとP≦8となるため、圧力損失の低減化の観点から流路分岐数Pの最大値である「8」とすることが適切となる。しかし、量産性の観点から見た場合、4.5kW出力と6.0kW出力の機体で流路分岐数Pを統一することが望ましく、流路分岐数を「6」とし、複数の加熱能力Qについて高い性能を発揮できる仕様とした。
【0066】
また、前記実施形態では、
図1に示す圧縮機100、水冷媒熱交換器101、膨張弁102、及び蒸発器103を有するヒートポンプサイクルについて説明したが、本発明はさらに冷媒量調整機構や高圧側と低圧側の冷媒を熱交換させる内部熱交換器などが含まれているヒートポンプサイクルについても適用できる。