(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943229
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】無線通信タグ付き物品
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
G06K19/077 248
G06K19/077 280
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-559852(P2015-559852)
(86)(22)【出願日】2015年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2015050684
(87)【国際公開番号】WO2015115170
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2016年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-13213(P2014-13213)
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100103056
【弁理士】
【氏名又は名称】境 正寿
(72)【発明者】
【氏名】駒木 邦宏
【審査官】
福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3169415(JP,U)
【文献】
特許第4674638(JP,B2)
【文献】
特開2011−10382(JP,A)
【文献】
特開2009−25855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体を有しかつ無線通信タグが付属する物品であって、
前記無線通信タグは、
第1入出力端子および第2入出力端子を有する無線通信用集積回路、
前記第1入出力端子に接続された一端と開放された他端とを有する第1導体、および
前記第2入出力端子に接続された一端と開放された他端とを有する第2導体を備え、
前記第1導体の前記開放された他端と前記第2導体の前記開放された他端とを結ぶ線が螺旋を描くように前記金属体の近傍に配置されており、
前記第2導体の前記開放された他端と前記金属体との最短距離が、前記第1導体の前記開放された他端と前記金属体との最短距離よりも小さくなるように、前記金属体の近傍に配置されている、無線通信タグ付き物品。
【請求項2】
前記第1入出力端子から前記第1導体の開放端までの電気長および前記第2入出力端子から前記第2導体の開放端までの電気長の各々はλ/4を示す、請求項1記載の無線通信タグ付き物品。
【請求項3】
前記無線通信タグは所定の共振周波数を有する給電回路をさらに備え、
前記第1導体および前記第2導体はそれぞれ前記給電回路を介して前記第1入出力端子および前記第2入出力端子に接続される、請求項1または2記載の無線通信タグ付き物品。
【請求項4】
前記第1導体および前記第2導体はフレキシブルな金属膜で構成されており、かつ、フレキシブル基材に形成される、請求項1ないし3のいずれかに記載の無線通信タグ付き物品。
【請求項5】
前記金属体は柱状体を含み、前記第2導体の前記開放された他端が前記柱状体の一方端面に隣接配置されている、請求項1ないし4のいずれかに記載の無線通信タグ付き物品。
【請求項6】
前記螺旋の軸は前記柱状体の軸と平行に延びる、請求項5記載の無線通信タグ付き物品。
【請求項7】
前記柱状体はスピンドルである、請求項5または6記載の無線通信タグ付き物品。
【請求項8】
前記物品は前記金属体の近傍に設けられた絶縁性の筒体をさらに有し、
前記無線通信タグは前記螺旋が描かれるように前記筒体に収められる、請求項1ないし7のいずれかに記載の無線通信タグ付き物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信用集積回路とこれに接続された導体とを備える無線通信タグが付属する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の背景技術の一例が、特許文献1に開示されている。この背景技術によれば、ICタグは、金属構造物に収容装着される。金属構造物には、ICタグの位置よりも深い凹部と構造物の外周面に到達する切り欠きとが設けられる。これによって、電波或いは磁界の通り道が確保され、金属の影響を受けやすい周波数対応のICタグが金属材に装着されても読み取り装置と確実に交信できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−6599号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、背景技術では、切り欠きを形成し、かつこれを充填材によって塞ぐ必要があるため、製造コストが増大するという問題がある。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、低コストで高周波伝送特性を高めることができる、無線通信タグ付き物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の無線通信タグ付き物品は、金属体を有しかつ無線通信タグが付属する物品であって、無線通信タグは、第1入出力端子および第2入出力端子を有する無線通信用集積回路、第1入出力端子に接続された一端と開放された他端とを有する第1導体、および第2入出力端子に接続された一端と開放された他端とを有する第2導体を備え、第1導体の開放された他端と第2導体の開放された他端とを結ぶ線が螺旋を描くように金属体の近傍に配置されており、第2導体の開放された他端と金属体との最短距離が、第1導体の開放された他端と金属体との最短距離よりも小さくなるように、金属体の近傍に配置されている。
【0007】
好ましくは、第1入出力端子から第1導体の開放端までの電気長および第2入出力端子から第2導体の開放端までの電気長の各々はλ/4を示す。
【0008】
好ましくは、無線通信タグは所定の共振周波数を有する給電回路をさらに備え、第1導体および第2導体はそれぞれ給電回路を介して第1入出力端子および第2入出力端子に接続される。
【0009】
好ましくは、第1導体および第2導体はフレキシブルな金属膜で構成されており、かつ、フレキシブル基材に形成される。
【0010】
好ましくは、金属体は柱状体を含み、第2導体の開放された他端が柱状体の一方端面に隣接配置されている。
【0011】
或る局面では、螺旋の軸は柱状体の軸と平行に延びる。
【0012】
他の局面では、柱状体はスピンドルである。
【0013】
好ましくは、物品は金属体の近傍に設けられた絶縁性の筒体をさらに有し、無線通信タグは螺旋が描かれるように筒体に収められる。
【発明の効果】
【0014】
無線通信タグをコンパクト化しつつ、周波数特性を安定化させるとともに通信距離を大きくし、高周波伝送特性を高めることができる。特に、物品そのものや、元来、物品に備えられている金属体を無線通信用に特別に加工する必要が無いため、高周波伝送特性の改善を低コストで実現できる。
【0015】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この実施例のRFIDタグを斜め上から眺めた状態の一例を示す斜視図である。
【
図2】(A)は
図1に示すRFIDタグを側部から眺めた状態の一例を示す側面図であり、(B)は
図1に示すRFIDタグ(フレキシブル基材を除く)を下方から眺めた状態の一例を示す下面図である。
【
図3】
図1に示すRFIDタグに適用されるRFICパッケージの構造の一例を示す図解図である。
【
図4】
図3に示すRFICパッケージに設けられた給電回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図5】
図1に示すRFIDタグがバルブに装着された状態の一例を示す図解図である。
【
図6】バルブを構成するスピンドルとRFIDタグとの位置関係の一例を示す図解図である。
【
図7】バルブを構成するスピンドルとRFIDタグとの位置関係の他の一例を示す図解図である。
【
図8】(A)はバルブを構成するスピンドルと他の実施例のRFIDタグとの位置関係の一例を示す図解図であり、(B)はバルブを構成するスピンドルとその他の実施例のRFIDタグとの位置関係の一例を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の無線通信タグは、代表的には、UHF帯を通信周波数とするRFID(Radio Frequency IDentification)タグである。
【0018】
図1,
図2(A)および
図2(B)を参照して、この実施例のRFIDタグ10は直方体状のRFIC(Radio Frequency Integration Circuit)パッケージ12を含む。この実施例では、RFICパッケージ12をなす直方体の長さ方向,幅方向および厚み方向にX軸,Y軸およびZ軸をそれぞれ割り当てる。これを踏まえて、RFICパッケージ12の下面(=Z軸方向の負側を向く面)には、X軸に沿って並ぶ2つのI/O端子12aおよび12bが設けられる。
【0019】
フレキシブル基材18は、樹脂フィルムを材料として、X軸方向に直線状かつ帯状に延びる。また、フレキシブル基材18の幅は、RFICパッケージ12の幅を僅かに上回る。フレキシブル基材18の上面(=Z軸方向の正側を向く面)には、フレキシブル基材18の長さ方向中央部を除いて、導体が印刷される。このうち、X軸方向の正側に印刷された一部の導体が第1導体14であり、X軸方向の負側に印刷された他の一部の導体が第2導体16である。したがって、第1導体14および第2導体16もまた、フレキシブル基材18とほぼ同幅の直線状かつ帯状に形成される。なお、フレキシブル基材18,第1導体14および第2導体16を含んで構成される励振用ストラップST1がRFIDタグである。
【0020】
第1導体14の一端(=X軸方向における負側端部)から第2導体16の一端(=X軸方向における正側端部)までの距離は、RFICパッケージ12に設けられたI/O端子12aからI/O端子12bまでの距離とほぼ一致する。I/O端子12aは導電性の接合材20によって第1導体14の一端に接続され、I/O端子12bは導電性の接合材22によって第2導体16の一端に接続される。第1導体14の他端および第2導体16の他端は、いずれも開放端とされる。
【0021】
図3を参照して、RFICパッケージ12は、各々が板状に形成された給電回路基板12cおよび封止層12dを有する。封止層12dは、その側面(=X軸およびY軸の各々に直交する面)が給電回路基板12cの側面と面一となるように、封止層12cの上に積層される。無線通信用集積回路を構成するRFICチップ12eは給電回路基板12cに搭載されており、これをもって、RFICパッケージ12が構成されている。
【0022】
上述したI/O端子12aおよび12bは、給電回路基板12cの下面に形成される。また、給電回路基板12cの上面には、別のI/O端子12fおよび12gが形成される。封止層12dにはRFIC12eが埋め込まれ、RFIC12eの下面にはバンプ状の第1入出力端子12hおよび第2入出力端子12iが形成される。第1入出力端子12hはI/O端子12fと導電性の接合材を介して接続され、第2入出力端子12iはI/O端子12gと同じく導電性の接合材を介して接続される。
【0023】
給電回路基板12cには、
図4に示す給電回路12jが設けられる。
図4によれば、コンデンサC1の一端はI/O端子12aと接続され、コンデンサC1の他端はI/O端子12fひいては第1入出力端子12hと接続される。また、コンデンサC2の一端はI/O端子12bと接続され、コンデンサC2の他端はI/O端子12gひいては第2入出力端子12iと接続される。インダクタL1の一端はコンデンサC1の一端と接続され、インダクタL1の他端はコンデンサC2の一端と接続される。
【0024】
RFICタグ10の共振周波数は、給電回路12jを構成するインダクタL1およびコンデンサC1〜C2によって規定される。規定された共振周波数は、無線通信用のキャリア周波数帯域(=900MHz帯域)に相当する。第1導体14の開放端から第2導体16の開放端までの電気長は、給電回路12jを含み、高周波信号の波長の1/2(=λ/2)に設定される。また、第1入出力端子12hから第1導体14の開放端までの電気長はλ/4に設定され、第2入出力端子12iから第2導体16の開放端までの電気長もλ/4に設定される。この結果、RFICタグ10は、ダイポール型アンテナとして機能する。
【0025】
図5を参照して、高圧ガスバルブ30は、弁38を収納する弁室RM1が形成された弁箱32と、スピンドル36を介して弁38の位置を調整するハンドル34とを有する。高圧ガスバルブ30は、弁箱32の下面が高圧ガス容器40の開口によって塞がれるように、高圧ガス容器40に装着される。
【0026】
ハンドル34は、樹脂を材料とした絶縁体で構成されていて上下方向に延びる円筒をなし、弁箱32の上方に配置される。円筒の上端は大きく開口し、円筒の下端は円の中心位置を上下方向の延びる貫通孔HL1を除いて閉口する。換言すれば、ハンドル34は下に凹む凹部CC1を有し、凹部CC1の底面の中央に貫通孔HL1が形成される。
【0027】
弁箱32は、金属を材料として作製される。弁箱32の下面には高圧ガスを弁室RM1に取り込むための吸気孔VT1が形成され、弁箱32の側面には弁室RM1に取り込まれた高圧ガスを排出するための排気孔VT2が形成される。また、弁箱32の上面には、貫通孔HL1の内径と一致する内径を有して弁室RM1に達する貫通孔HL2が形成される。
【0028】
スピンドル36は、金属を材料として円柱状に形成される。円柱の外径は、貫通孔HL1およびHL2の各々の内径とほぼ一致する。スピンドル36は上下方向に延び、その上端は貫通孔HL1を経て凹部CC1に達する一方、その下端は貫通孔HL2を経て弁室RM1に達する。
【0029】
弁38は、金属を材料として円板状に形成される。円板の一方主面は上方を向き、円板の他方主面は下方を向く。円板の外径はスピンドル36の外径よりも大きく、弁室RM1に達したスピンドル36の下端は円板の一方主面の中央で弁38と結合される。弁38はハンドル34の操作に従って上下し、これによって排出孔VT2からの高圧ガスの排出量が調整される。
【0030】
図6をさらに参照して、RFIDタグ10は、ハンドル34に形成された凹部CC1の内周面に装着される。このとき、第1導体14の開放端,第2導体16の開放端を結ぶ線(=RFIDタグ10の長さ方向に延びる仮想線)がスピンドル36の中心軸と重なって上下方向に延びる軸AX1の周りで螺旋を描くように(つまり、捩れが掛かるように)、RFICパッケージ12の上面,第1導体14および第2導体16が凹部CC1の内周面に貼着される。螺旋の周回数はほぼ1回であり、軸AX1の一端から眺めたときRFIDタグ10はほぼ真円を描く。そして、RFIDタグ10は、第2導体16の開放端とスピンドル36の端部とを結ぶ距離が、第1導体14の開放端とスピンドル36の端部とを結ぶ距離よりも小さくなるように、スピンドル36近傍に配置されている。
【0031】
第2導体16の開放端の位置は、軸AX1の径方向において第2導体14の開放端の位置と重複せず、これによってダイポール型アンテナとしての初期の高周波伝送特性が維持される。つまり、第2導体16の開放端が第1導体14の開放端に近づくと、両開放端の間に形成された容量によって共振周波数が低下し、所望の周波数特性が得られなくなってしまうが、両開放端は互いに離されるため、所望の周波数特性が得られる。こうして装着されたRFIDタグ10は、第2導体の開放端にて、スピンドル36と電磁界結合(主に容量結合)し、RFIDタグ10から出力された高周波信号はスピンドル36および弁38、さらには弁箱32やガス容器40を介して外部に放射される。
【0032】
以上の説明から分かるように、高圧ガスバルブ30は、いずれもが金属を材料とするスピンドル36、弁38、弁箱32およびガス容器40を有し、かつRFIDタグ10は、第1導体14の開放端から第2導体16の開放端を各導体に沿って結ぶ仮想線が螺旋を描くように、かつ、第2導体16の開放端とスピンドル36との最短距離が、第1導体14の開放端とスピンドル36との最短距離よりも小さくなるように、スピンドル36の近傍に配置される。
【0033】
第1導体14の開放端から第2導体16の開放端までの電気長をλ/2以上、特にλ/2に設定することで、RFIDタグ10はダイポール型アンテナとして機能する。このようなアンテナをスピンドル36の近傍に、第1導体14および第2導体16からなる帯状導体を螺旋状に、かつ、第2導体16の開放端とスピンドル36とは容量結合するが、第1導体14の開放端とスピンドル36とは実質的に容量結合しないように(あるいは第2導体16の開放端とスピンドル36との間に形成される容量よりも極めて小さな容量になるように)配置することで、RFIDタグ10をコンパクト化しつつ、周波数特性を安定化させるとともに通信距離を大きくし、ゆえに、高周波伝送特性を高めることができる。また、第1導体14および第2導体16を螺旋状に配置したRFIDタグ10をスピンドル36の近傍に配置するだけでよいため(つまり、ハンドル34の加工などの作業が不要であり、かつ、バルブや容器そのものを加工する必要も無いため)、コストを抑えることができる。また、深さがλ/2に満たないサイズのハンドル34の内壁に配置できるので、バルブやボンベの外にタグを張り付ける場合に比べて、タグの信頼性を大幅に向上させることができる。
【0034】
なお、この実施例では、スピンドル36の中心軸と重なる軸AX1の周りで螺旋を描くようにRFIDデバイス10を配置するようにしている。しかし、
図7に示すように、軸AX1と平行に延びる軸AX2をスピンドル36の周辺に定義し、この軸AX2の周りで螺旋を描くようにRFIDデバイス10を配置するようにしてもよい。
【0035】
また、この実施例では、RFID10が描く螺旋の周回数は、ほぼ1回である。しかし、螺旋の周回数は、
図8(A)に示すように1回を上回ってもよく、
図8(B)に示すように1回未満であってもよい。
【0036】
さらに、この実施例では、高圧ガスバルブ30にRFIDタグ10を装着するようにしている。しかし、RFIDタグ10を装着する対象は、高圧ガス容器40の本体そのものであってもよいし、その他、金属体を有する物品である限り、高圧ガスバルブ30以外の物品であってもよく、たとえばスパナなどの金属製の工具、ボリューム調整用のツマミ付きスピンドル等が想定される。
【符号の説明】
【0037】
10 …RFIDタグ(無線通信タグ)
12e …RFICチップ(無線通信用集積回路)
12h …第1入出力端子
12i …第2入出力端子
12j …給電回路
14 …第1導体
16 …第2導体
18 …フレキシブル基材
30 …高圧ガスバルブ(物品)
36 …スピンドル(金属体)
38 …弁(金属体)