(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943241
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】排煙窓開放装置
(51)【国際特許分類】
E05F 11/04 20060101AFI20160621BHJP
E06B 5/10 20060101ALI20160621BHJP
E06B 7/04 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
E05F11/04
E06B5/10
E06B7/04
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-254525(P2014-254525)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102388(P2016-102388A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2015年9月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397077737
【氏名又は名称】株式会社ノルム
(72)【発明者】
【氏名】中村 昭生
【審査官】
家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】
実公平07−015989(JP,Y2)
【文献】
実用新案登録第2599550(JP,Y2)
【文献】
実公昭61−014540(JP,Y2)
【文献】
特開昭55−085784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 1/00−17/00
E06B 5/00− 5/20
E06B 7/00− 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉排煙窓に設けられ常に窓を押し開こうとするダンパーの力を、一方を固定していて窓に適宜設けた滑車にワイヤーを囲繞して、既定の高さに設置されたハンドル操作ボックスに該ワイヤーの他方を巻き取ることにより窓を閉鎖状態とし、このハンドル操作ボックスに巻き取られたワイヤーの巻き取りを解除することにより窓を開放するようにした排煙窓開閉装置において、前記ハンドル操作ボックスに他方を巻き取られたワイヤーの巻き取りを解放することなく、前記ワイヤーの一方を固定及び解除する非常時用排煙窓開放装置をハンドル操作ボックスと別途に設けると共に、この非常時用排煙窓開放装置専用の煙感知器を設け、この煙感知器の感知信号により非常時用排煙窓開放装置におけるワイヤーの固定を解除することにより非常時自動的に窓を開放するようにし、前記非常時用排煙窓開放装置はワイヤーの一方を固定するワイヤークリップと、非常時に煙感知器からの信号で作動して前記ワイヤークリップに固定されているワイヤーの固定を解除する電磁ソレノイドと、該電磁ソレノイドを作動させるバッテリーとからなり、前記ワイヤークリップに固定する前にワイヤーを複数回回繞してワイヤーの窓を閉鎖する方向へのテンションを保持するテンションキャッチャーを設けた排煙窓開放装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
開閉排煙窓に設けられ常に窓を押し開こうとするダンパーの力を一方を固定していて窓に適宜設けた滑車にワイヤーを囲繞して、既定の高さに設置されたハンドル操作ボックスに該ワイヤーの他方を巻き取ることにより窓を閉鎖状態とし このハンドル操作ボックスに巻き取られたワイヤーの巻き取りを火災等の緊急時に解除することにより窓を開放して排煙するようにした排煙窓開閉装置に関するものである。
【0002】
2001年2月東京新宿歌舞伎町ビル火災で44名。2009年8月群馬県渋川市の老人ホーム火災で10名。2013年2月長崎市のグループホーム火災で4名。そして、2013年10月、福岡市の整形外科医院火災で10名。死者の殆どの死因は煙中に含まれる一酸化炭素を吸い込むことによる中毒死であった。建築基準法では特殊建築物に排煙窓の設置が義務付けられ、有害な煙を有効に外部に排出することで避難路を確保することとなっている。しかしながら、排煙窓は規定により天井面から下に80cmまでしか認められていないこともあり、手がとどかないことで排煙窓開閉装置(ハンドル操作ボックス)を手の届く既定の高さに設置、ボタンを押す、レバーを下げる、取っ手を引くなどの一動作で排煙窓の開放が出来るようになっている。ところが、火災の現場では煙に巻かれようとする状況の中で冷静にボタンを押せたり、取っ手を引いたり出来る余裕など殆どなく煙に巻かれて亡くなられる方が多い。せっかくの建築基準法が生かされておらず切なる人命救助達成の観点から今回の発明に至った。
【0003】
なお、2013年10月に福岡市で起きた整形外科医院火災以降、建築基準法を改正し関係者に防災扉の定期点検が義務付けられたが、規定が順守されたとしても煙の浸入を阻止することは不可能であるため、火災時の無臭無色の一酸化炭素の濃度を下げ避難路を確保するためには煙を外部へ排出する方策しかないからである。
【背景技術】
【0004】
特許文献1(特開2000−213233号公報)には、「建物の壁に埋設され、建物の窓に連結されたワイヤーを巻回したドラムを内蔵した操作箱と、この操作箱に対して押圧可能に設け、押圧操作により前記ドラムから前記ワイヤーを繰り出して前記窓を開放するための操作部材と、前記操作箱に対して設けられ前記ドラムを回転して前記ワイヤーを巻き取ることにより前記窓を閉鎖するためのハンドルと、火災などの非常時には通電により強制的に前記ドラムのロックを解除し、前記ワイヤーの繰り出し方向に回転許容して窓を開放するための自動開放装置とを備えてなる高窓開閉操作箱装置」(請求項1)が記載されている。
【0005】
そして、この公報段落[0004]には「・・・さらに、本発明の高窓開閉操作箱装置においては、前記自動開放装置はスイッチ手段を備え、該スイッチ手段により前記カムの回転により前記クランクレバーを所定だけ回転させるとともに、電源スイッチに対する前記電動機への通電復帰を行うようになっていることを特徴とする。また、本発明の高窓開閉操作箱装置において、前記スイッチ手段はリミットスイッチからなることを特徴とする。加えて、本発明の高窓開閉操作箱装置においては、前記操作部材は押しボタンであることを特徴とする」旨説明されている。
【0006】
また、この公報段落[0011]には「・・・この自動開閉装置36は、火災などの非常時に窓を開放して排煙の促進に対処するために中央管理室または、煙感知器(図示せず)などと電気的に連動している」旨述べられ、この公報段落[0011]にその詳細が説明されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、火災等の非常時の窓の開放は基本的には高窓開閉操作箱装置の押しボタンによる手動で行うものである。したがって、本発明の如くワイヤーの一方を固定及び解除する非常時用排煙窓開放装置を別途に設け、この非常時用排煙窓開放装置に専用の煙感知器を接続して、その煙感知器の感知信号により非常時用排煙窓開放装置におけるワイヤーの固定を解除することにより非常時に自動的に窓を開放するものではない。また、火災などの非常時には中央管理室または、煙感知器(図示せず)などと電気的に連動している旨説明されているが、中央管理室は建物全体を管理しているため、各部屋の煙感知
器等の配線工事は規模が大掛かりで手間を要し、また各高窓開閉操作箱装置の電源確保も容易でない。
【0008】
また、現状は、この公報記載のように「煙感知器」が建物全体に配置されていて、これらが中央管理室において管理されているため、建物の一部で発生した小さな火災の煙をも感知して、開放の必要ない又開放してはならない窓等、操作によっては建物全体の窓を開放してしまう。これにより開放した窓の外部より大量の酸素が流入してしまい火災規模をより助長したり、煙の拡散を招く原因にもなる。さらに、開放後の窓の閉鎖作業が建物全体に及び容易でない。本発明は、建築基準法の規定により設置された排煙窓開閉装置を中央管理室を介さないで、装置一台に対し一台の、開放装置専用の煙感知器の感知信号により、自動的にワイヤーの固定を解除し、煙を感知した場所のみ排煙窓を開放する。
【0009】
さらに、前記ワイヤーは閉鎖時は高窓開閉操作箱装置に何重にも巻き取られている。このワイヤーには通常含浸油が含まれており、この油の枯渇やワイヤー自体の錆付き、巻き癖等によりワイヤー自体の弾力性がなくなり滑りが悪くなる。これにより、高窓開閉操作箱装置において、巻き取られたワイヤーの固定を解除しても、ワイヤー自体の抵抗により円滑に繰り出すことができず高窓の開放に支障を来したりする。これに対し、本発明におけるワイヤーの固定は極めて容易に解除することができる。
【0010】
建築基準法に基づき設置された排煙窓開閉装置(手動、電動、煙感連動式等)の規格基準その他仕様等を変更することなく、火災発生等の非常時のみに本発明の装置が提供されるものであり、平常時に於いては前記ワイヤーの一方の固定を保持し続ける為、ハンドル操作ボックスにより現行のまま使用することができる。即ち、建築基準法に基づき設置された排煙窓開閉装置をメイン装置とすれば、本発明の排煙窓開放装置はこれを絶対的に補助するサブ装置として一対一の関係と言える。
【先行技術文献】
【0011】
【特許文献1】 特開2000−213233号公報
【0012】
本発明においては、ハンドル操作ボックスに巻き取られたワイヤーの巻き取りを解放することにより開放するようにした窓開閉装置において、前記ハンドル操作ボックスに他方を巻き取られたワイヤーの巻き取りを解放することなく、前記ワイヤーの一方を固定及び解除する非常時用排煙窓開放装置をハンドル操作ボックスと別途に設けると共に、この非常時用排煙窓開放装置専用の煙感知器を設け、この煙感知器の感知信号により非常時用排煙窓開放装置におけるワイヤーの固定を解除することにより非常時に自動的に窓を開放するようにした排煙窓開放装置を提供することを課題とするものである。
【0013】
請求項1の発明は、開閉排煙窓に設けられ常に窓を押し開こうとするダンパーの力を、一方を固定していて窓に適宜設けた滑車にワイヤーを囲繞して、既定の高さに設置されたハンドル操作ボックスに該ワイヤーの他方を巻き取ることにより窓を閉鎖状態とし、このハンドル操作ボックスに巻き取られたワイヤーの巻き取りを解除することにより窓を開放するようにした排煙窓開閉装置において、前記ハンドル操作ボックスに他方を巻き取られたワイヤーの巻き取りを解放することなく、前記ワイヤーの一方を固定及び解除する非常時用排煙窓開放装置をハンドル操作ボックスと別途に設けると共に、この非常時用排煙窓開放装置専用の煙感知器を設け、この煙感知器の感知信号により非常時用排煙窓開放装置におけるワイヤーの固定を解除することにより非常時に自動的に窓を開放するようにした排煙窓開放装置を提供するものである。
【0014】
この発明においては、操作ボックスに他方を巻き取られたワイヤーの巻き取りを人の操作又は中央管理室からの信号により解放することなく、前記操作ボックスとは別途に非常時用排煙窓開放装置を設け、これに固定されたワイヤーの一方をその非常時用排煙窓開放装置に接続する専用の煙感知器の感知信号により自動的に解除することにより窓を開放することができる。
【0015】
また、既存の排煙装置1台に対して本発明の非常時用排煙窓開放装置が専用の煙感知器と連動するため、中央管理室や防災センター等からの信号を不要とし、防災盤との連動、それらとの配線工事、電源等を不要とし、既存の排煙窓開閉装置1台に対して非常時用排煙窓開放装置を1か所設置するだけで、火災発生時に人的操作不要の排煙窓開閉装置に変えることができる。そして、本装置は火災非常時のみ作動するため、平常時の開閉は現行のまま使用することができる。
【0016】
また、ワイヤーの含浸油の枯渇や錆付き等によりワイヤー自体の弾力性がなくなり滑りが悪くても、ワイヤーを円滑に繰り出すことができ、ワイヤーの固定を極めて容易に解除して高窓の開放に支障を来すことがない。
【0017】
請求項2の発明は、前記非常時用排煙窓開放装置はワイヤーの一方を固定するワイヤークリップと、非常時煙感知器からの信号で作動して前記ワイヤークリップに固定されているワイヤーの固定を解除する電磁ソレノイドと、該電磁ソレノイドを作動させるバッテリーとからなる請求項1記載の排煙窓開放装置を提供するものである。
【0018】
この発明においては、ハンドル操作ボックスに他方を巻き取られたワイヤーの巻き取りを人の操作により解放することなく、前記ワイヤーの一方の固定を本発明の非常時用排煙窓開放装置専用の煙感知器の感知信号により自動的に解除することにより窓を開放することができる。なお、室内が広い場合等、非常時用排煙窓開放装置専用の煙感知器は複数個設けても良い。
【0019】
請求項3の発明は、前記ワイヤークリップのハンドル操作ボックス側にワイヤーを複数回回繞してワイヤーの窓方向へのテンションを保持するテンションキャッチャーを設けた請求項1及び2いずれかに記載の排煙窓開放装置を提供するものである
【0020】
この発明においては、複数の窓の重量やダンパーによるワイヤーのテンションをワイヤークリップに固定する前にワイヤーをテンションキャッチャーに複数回繞してから固定することにより、ワイヤーがワイヤークリップから容易に離脱することなくワイヤーのワイヤークリップでの固定を確実にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態を示す排煙窓開放装置の全体説明図である。複数の開閉窓W・・に設けられ常に窓を押し開こうとするダンパーD・・の力を、ワイヤーの一方Xを固定していて窓に適宜設けた滑車E・・にワイヤー1を囲繞して、既定の高さに設置されたハンドル操作ボックスAに該ワイヤー1の他方を巻き取ることにより窓を閉鎖状態とし このハンドル操作ボックスAに巻き取られたワイヤー1の巻き取りを解放することにより窓を開放するようにした排煙窓開閉装置において、前記ハンドル操作ボックスAに他方を巻き取られたワイヤー1の巻き取りを解放することなく、前記ワイヤー1の一方Xを非常時用排煙窓開放装置Bに固定してその非常時用排煙窓開放装置B専用の煙感知器Cの感知信号により非常時用排煙窓開放装置Bによるワイヤー1の固定を非常時に自動的に解除することにより窓を開放するようにしている。
【0022】
そして、前記非常時用排煙窓開放装置Bは、その平面視を示す
図2及び側面視を示す
図3に示す如く、ワイヤー1の一方を固定するワイヤークリップ2と、非常時煙感知器Cからの感知信号で作動して前記ワイヤークリップ2に固定されているワイヤ−1の固定を連動機構3を介して解除する電磁ソレノイド4と、該電磁ソレノイド4を作動させるバッテリー5とからなる。
【0023】
また、前記ワイヤークリップ2の前段にワイヤー1を数回回繞6aしてワイヤー1の窓方向の重量を保持するテンションキャッチャー6を設けている。ここで使用するワイヤー1の材質はステンレスで、巻きつける胴体6bは心材がステンレスで表面はアルミ金属等の二重構造とすることで摩擦抵抗を相互に付与してワイヤー1の窓側へのテンションTを強固に固定するようにしている。
【0024】
図4はワイヤー1の固定状態を示すワイヤークリップ2の断面図、
図5はワイヤー1の固定解除状態を示すワイヤークリップ2の断面図である。該ワイヤークリップ2は、ワイヤー1周囲を締め付けまたは解除するロックボール7・・・をテーパー状弾性体からなるカラー8内面に付設し、このカラー8の外周はスリーブ10の内端部に添接し、該カラー8はスプリング9により固定方向または固定解除方向へ移動してロックボール8・・・によるワイヤー1の固定又は固定解除をするようになっている。
【0025】
そして、
図4に示すように、ワイヤー1の固定時はスプリング9によりカラー8のロックボール7・・・がワイヤー1周囲を締め付けた状態となっている、一方、
図5に示すように、ワイヤー1の固定解除時は非常時煙感知器Cからの感知信号で電磁ソレノイド4が作動して前記連動機構3を介してスプリング9に抗してカラー8のロックボール7・・・がワイヤー1周囲の締め付けを解除するようにしている。
【0026】
この発明においては、ハンドル操作ボックスに他方を巻き取られたワイヤ−の巻き取りを人の操作又は中央管理室からの信号により解放することなく、前記ハンドル操作ボックスとは別途に非常時用排煙窓開放装置を設け、これに固定されたワイヤーの一方をその非常時用排煙窓開放装置に接続する専用の煙感知器の感知信号により自動的に解除することにより窓を開放することができる。
【0027】
また、既存の排煙装置1台に対して本発明の非常時用排煙窓開放装置が専用の煙感知器と連動するため、中央管理室や防災センター等からの信号を不要とし、防災盤との連動、それらとの配線工事、電源等を不要とし、既存の排煙窓開閉装置1台に対して非常時用排煙窓開放装置を1か所設置するだけで、火災発生時に人的操作不要の排煙窓開閉装置に変えることができる。そして、本装置は火災非常時のみ作動するため、平常時の開閉は現行のまま使用することができる。
【0028】
また、ワイヤーの含浸油の枯渇や錆付き、巻き癖等によりワイヤー自体の弾力性がなくなり滑りが悪くても、ワイヤーを円滑に繰り出すことができ、ワイヤーの固定を極めて容易に解除して高窓の開放に支障を来すことがない。
【0029】
また、この発明においては、操作ボックスに他方を巻き取られたワイヤーの巻き取りを人の操作により解放することなく、前記ワイヤーの一方の固定を本発明の非常時用排煙窓開放装置専用の煙感知器の感知信号により自動的に解除することにより窓を開放することができる。
【0030】
さらに、この発明においては、複数の窓の重量やダンパーによるワイヤーのテンションをワイヤークリップに固定する前にテンションキャッチャーにワイヤーを複数回繞してから固定することにより、ワイヤーがワイヤークリップから容易に離脱することなくワイヤーのワイヤークリップでの固定を確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】 本発明の一実施形態を示す非常時用排煙窓開放装置を設けた排煙窓開閉装置の全体説明図
【
図4】 ワイヤーの固定状態を示すワイヤークリップの断面図
【
図5】 ワイヤーの固定解除状態を示すワイヤークリップの断面図
【符号の説明】
A ハンドル操作ボックス
B 非常時用排煙窓開放装置
C 煙感知器
D・・・ ダンパー
E・・・ 滑車
W 開閉窓
X ワイヤーの一方
1 ワイヤー
2 ワイヤークリップ
3 連動機構
4 電磁ソレノイド
5 バッテリー
6 テンションキャッチャー
7・・・ ロックボール
8 カラー
9 スプリング
10 スリーブ