特許第5943252号(P5943252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943252
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20160621BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20160621BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20160621BHJP
   C10M 129/76 20060101ALN20160621BHJP
   C10M 133/08 20060101ALN20160621BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20160621BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20160621BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20160621BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M101/02
   !C10M107/02
   !C10M129/76
   !C10M133/08
   C10N20:02
   C10N30:12
   C10N40:25
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-168934(P2012-168934)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-25040(P2014-25040A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186913
【氏名又は名称】昭和シェル石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】小林 泉
(72)【発明者】
【氏名】久保 浩一
(72)【発明者】
【氏名】村上 洸史
(72)【発明者】
【氏名】羽生田 清志
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−126868(JP,A)
【文献】 特開2003−238982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)100℃における動粘度が3〜12mm/s、粘度指数が100〜180、API(米国石油協会)の基油カテゴリーでグループ2、3又は4に分類される基油からなる群より選択される少なくとも1種以上の基油、
(B)炭素数8〜22の炭化水素基を有するモノグリセリド(グリセリンの3つのヒドロキシル基のうち1つに脂肪酸がエステル結合したグリセリン脂肪酸エステル)であり、水酸基価150〜300mgKOH/gであることを特徴とするモノグリセリドを、組成物全量基準で0.3〜2.0質量%、及び
(C)下記(式1)で示されるモノアルキル又はモノアルケニルアミンエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレンオキサイド付加物(ただし、融点が25℃以下のものを除く。)を、組成物全量基準で0.4〜1.5質量%
【化1】
(式中、RはC14〜C22の炭化水素基であり、n及びmはそれぞれ独立して1又は2である)
を含有することを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
(A)100℃における動粘度が3〜12mm/s、粘度指数が100〜180、API(米国石油協会)の基油カテゴリーでグループ2、3又は4に分類される基油からなる群より選択される少なくとも1種以上の基油、
(B)炭素数8〜22の炭化水素基を有するモノグリセリド(グリセリンの3つのヒドロキシル基のうち1つに脂肪酸がエステル結合したグリセリン脂肪酸エステル)であり、水酸基価150〜300mgKOH/gであることを特徴とするモノグリセリド、及び
(C)下記(式1)で示されるモノアルキル又はモノアルケニルアミンエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレンオキサイド付加物(ただし、融点が25℃以下のものを除く。)
【化2】
(式中、RはC14〜C22の炭化水素基であり、n及びmはそれぞれ独立して1又は2である)
を含有し、
前記(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物との質量比(前記(B)モノグリセリドの質量%/前記(C)エチレンオキサイド付加物の質量%)が0.5〜2.7であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記モノグリセリドを、組成物全量基準で0.3〜2.0質量%、及び
前記エチレンオキサイド付加物を、組成物全量基準で0.4〜1.5質量%
含有することを特徴とする請求項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物との質量比(前記(B)モノグリセリドの質量%/前記(C)エチレンオキサイド付加物の質量%)が1.2〜2.25であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記(C)エチレンオキサイド付加物が、ジエタノールアミン類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記(C)エチレンオキサイド付加物が、オレイルジエタノールアミンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記(B)モノグリセリドがグリセリンモノオレエ−トであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項8】
100℃における動粘度が5.6〜15mm/sであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項9】
H/Cの比が1.93〜4である燃料を使用する内燃機関、アイドリングストップ装置が付いた車両の内燃機関、或いは、バイオ燃料又はバイオディーゼル燃料を配合した燃料を使用する内燃機関で用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下エンジンと記載することもある)における省燃費性を実現するために、摩擦調整剤として水酸基価150mgKOH/g以上のモノグリセリド(グリセリンの3つのヒドロキシル基のうち1つに脂肪酸がエステル結合したグリセリン脂肪酸エステル)が配合された省燃費に適した内燃機関用潤滑油組成物であって、内燃機関における燃料の燃焼等によって生じた水蒸気による凝結水等を油中に分散させ、内燃機関の腐食や錆を防止する性能に優れた内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の乗用車は、エンジンの燃料消費量を抑えるために、信号などで乗用車が停止した際にアイドリングストップ機能が働いて、市街地における走行では頻繁にエンジンが停止する。このため、買い物などの近距離の運転等では、内燃機関用潤滑油の油温が充分に上がらず、油中に混入した水が蒸発して排出される前に運転が終了してしまう。同様にPHV(Plug-in-Hybrid:プラグインハイブリッド)車などでも、必要に応じたエンジン回転のon-offにより、近距離での通勤や買い物などの運転では、エンジンが充分に温まらない状態で停止するため、燃料の燃焼によってできる水蒸気がブローバイガスと共にエンジンルームへ入り、エンジンが温まっていないためにエンジンルーム内で凝結して水滴となり、内燃機関用潤滑油に混入することが挙げられる。
【0003】
さらに、近年、地球温暖化対策によるCO削減の観点から、再生可能なバイオ燃料が自動車用ガソリン及び軽油へ適用されつつある。
【0004】
例えば日本国のエネルギー供給高度化法に基づいて、自動車用ガソリンへこれら再生可能なバイオ燃料を配合して、温室効果ガス(CO)の削減を毎年行う計画が進められている。実際に2010年には、自動車ガソリンへ原油換算で21万KL/年のバイオ燃料が適応されており、そして、2017年度までには原油換算で50万KL/年のバイオ燃料の適応を実施することが計画されている。
【0005】
これらのバイオ燃料、具体的には、バイオエタノール、又はバイオETBE(Ethyl tert-butyl ether:エチルtert-ブチルエーテル)は、燃料で使用される炭化水素の中でも、水素元素の比率(H/C)が高い内燃機関用燃料であり、通常の燃料と比較して燃焼に伴う水(水蒸気)の発生が多い。市販のプレミアムガソリン、及びレギュラーガソリンのH/C(炭素水素比)は、非特許文献1の表2.4−1の炭素濃度から算出するとそれぞれ1.763及び1.875である。このプレミアムガソリン及びレギュラーガソリンの3%を(バイオ)エタノール等に置き換えるとおおよそH/Cはそれぞれ1.80及び1.91となる。このように、バイオ燃料をガソリンに適用することにより、H/Cは高くなり、燃焼によるCOは少なくなるものの、水蒸気の発生は多くなる。同じように市販の軽油のH/Cとしては、非特許文献2の表4.1.1−2によると、市販2号軽油相当「BASE」はH/C1.91であり、また非特許文献3の表2によると、ディーゼル軽油JIS2号のH/Cは1.927であり、これらの5%をバイオディーゼル燃料の代表としてステアリン酸メチルへ換えると、H/Cは約1.93と増加し、燃焼によるCOの発生は少なくなるが、一方では水蒸気の発生は多くなる。
【0006】
水素元素の比率(H/C)が高い天然ガスやLPG、プロパンを燃料として使用する車両用のエンジンでも同じようなことが見られる。
【0007】
最新のガソリンエンジン油規格、API−SN+RC(Resource Conserving)、及びILSAC GF−5の規格では、バイオエタノールを含むE85燃料を用いた車両に対しても、燃焼による水や未燃のエタノールが内燃機関油に混入して、金属表面で水滴が析出してその周囲から錆びたり腐食しないように、内燃機関油に(凝結)水やE85燃料を油中にエマルション化して抱き込む性能(ASTM D7563:Emulsion Retention)が要求され、規格化されている。Emulsion retention(エマルジョンリテンション:エマルジョン安定性)は、ASTM D7563に評価方法が規定される試験である。使用する内燃機関油に対して、(凝結)水やE85燃料などが混入しても、各部の内燃機関部品が錆びたり腐食しないよう、表面に析出しないでエマルジョンの形で油中に抱き込み、分離しないかその安定性を確認、評価する試験である。
【0008】
一方、近年、内燃機関における金属間摩擦を低減させ、省燃費性を向上させるために、内燃機関用潤滑油に対して、脂肪酸エステル等の無灰系摩擦調整剤を添加することが行われている(特許文献1、非特許文献4)。
【0009】
使用する摩擦調整剤としては、有機モリブデン化合物なども多く用いられるが、排気ガス触媒やディーゼルパテキュレートフィルター(DPF)等の排気ガス処理装置に悪影響を与えず、また環境にも影響を与えない無灰系(金属やリン等の元素を含まないため、燃焼したときに灰分が出ない)の摩擦調整剤が近年では好まれている。
【0010】
これら内燃機関用潤滑油に添加される無灰系摩擦調整剤は、金属分及びリンなどの元素を含まないため、排気ガス触媒や排気ガス後処理システム等への影響が少なく、内燃機関用潤滑油に適用しやすいことが知られている。その半面、界面活性剤としての効果を持つため、場合によっては内燃機関油の抗乳化性や水分離性が強くなり、表面に水を析出し易くなる。析出した水は、エンジン内の各部に接触することにより錆や腐食を引き起こすことが懸念されていた。
【0011】
特にモノグリセリドの無灰系摩擦調整剤は、摩擦低減効果が高く、内燃機関用潤滑油の組成物に適していることが知られているが、先に示したエンジンの燃料の燃焼に伴った水蒸気の凝結水がエンジン油に混入した際、抗乳化性や水分離性を高めることが懸念されていた。
【0012】
以上のことから、優れた耐摩耗性及び省燃費性(低摩擦特性)を有すると共に、燃料の燃焼等によって生じた水蒸気による凝結水等を油中に分散させ、内燃機関の腐食や錆を防止する性能を有する内燃機関用潤滑油組成物が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004-155881
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】財団法人石油産業活性化センター:平成17年度 自動車用燃料研究成果報告書 PEC-2005JC-16、2-14
【非特許文献2】財団法人 石油産業活性化センター:平成20年度自動車燃料の多様化と高効率利用に関する研究開発成果報告書 14
【非特許文献3】独立行政法人交通安全環境研究所 フォーラム2011資料 国際エネルギー機関(IEA)における自動車用先進燃料の動向と交通研の取り組み
【非特許文献4】トライボロジスト、並木直人、第48巻、第11号(2003年)、903-909
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、優れた耐摩耗性及び省燃費性を有すると共に、燃料の燃焼等によって生じた水蒸気による凝結水等を油中に分散させ、内燃機関の腐食や錆を防止する性能を有する、内燃機関用潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、特定の内燃機関用潤滑油{特に、100℃における動粘度が3〜12mm/s、粘度指数が100以上、API(米国石油協会)の基油カテゴリーでグループ2、3又は4に分類される基油からなる群より選択される少なくとも1種以上の基油}において無灰系摩擦調整剤として用いられている特定構造のモノグリセリドの抗乳化性及び水分離性を確認したところ、当該特定構造のモノグリセリドは、エンジンの燃料の燃焼に伴った水蒸気の凝結水がエンジン油に混入した際、前述した特定の内燃機関用潤滑油との関係にて抗乳化性や水分離性を高め、表面に水を分離しやすくなることが明らかとなった。このため、当該特定構造のモノグリセリドを単独で用いた場合には、防錆性や腐食性が低下し、当該特定構造のモノグリセリドを含む前述した特定の内燃機関用潤滑油組成物は最新のガソリンエンジン油規格API−SN+RCやILSAC GF−5に適合しないことが明らかとなった。
【0017】
さらに、本発明者らは、前述した特定の内燃機関用潤滑油のエマルション安定性を向上させるために、種々の検討と研究を重ねていたところ、前述した特定構造のモノグリセリドの無灰系摩擦調整剤と共に、特定の構造を有するエチレンオキサイド付加物をある特定量潤滑油組成物に加え、且つ、前述した特定構造のモノグリセリドと当該エチレンオキサイド付加物の量及び/又は量比を所定範囲に設定したところ、優れた耐摩耗性及び省燃費性を示すと共に、エマルション安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、より具体的には、下記〔1〕〜〔9〕を提供するものである。
【0018】
本発明〔1〕は、
(A)100℃における動粘度が3〜12mm/s、粘度指数が100〜180、API(米国石油協会)の基油カテゴリーでグループ2、3又は4に分類される基油からなる群より選択される少なくとも1種以上の基油、
(B)炭素数8〜22の炭化水素基を有するモノグリセリド(グリセリンの3つのヒドロキシル基のうち1つに脂肪酸がエステル結合したグリセリン脂肪酸エステル)であり、水酸基価150〜300mgKOH/g以上を示すことを特徴とするモノグリセリドを、組成物全量基準で0.3〜2.0質量%、及び
(C)下記(式1)で示されるモノアルキル又はモノアルケニルアミンエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレンオキサイド付加物を、組成物全量基準で0.4〜1.5質量%
【化1】
(式中、RはC14〜C22の炭化水素基であり、n及びmはそれぞれ独立して1又は2である)
を含有することを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔2〕は、
前記(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物との質量比(前記(B)モノグリセリドの質量%/前記(C)エチレンオキサイド付加物の質量%)が0.5〜2.7であることを特徴とする前記発明〔1〕の内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔3〕は、
(A)100℃における動粘度が3〜12mm/s、粘度指数が100〜180、API(米国石油協会)の基油カテゴリーでグループ2、3又は4に分類される基油からなる群より選択される少なくとも1種以上の基油、
(B)炭素数8〜22の炭化水素基を有するモノグリセリド(グリセリンの3つのヒドロキシル基のうち1つに脂肪酸がエステル結合したグリセリン脂肪酸エステル)であり、水酸基価150〜300mgKOH/gであることを特徴とするモノグリセリド、及び
(C)下記(式1)で示されるモノアルキル又はモノアルケニルアミンエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレンオキサイド付加物
【化2】
(式中、RはC14〜C22の炭化水素基であり、n及びmはそれぞれ独立して1又は2である)
を含有し、
前記(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物との質量比(前記(B)モノグリセリドの質量%/前記(C)エチレンオキサイド付加物の質量%)が0.5〜2.7であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔4〕は、
前記モノグリセリドを、組成物全量基準で0.3〜2.0質量%、及び
前記エチレンオキサイド付加物を、組成物全量基準で0.4〜1.5質量%
含有することを特徴とする前記発明〔3〕の内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔5〕は、
前記(C)エチレンオキサイド付加物が、ジエタノールアミン類であることを特徴とする前記発明〔1〕〜〔4〕のいずれか一つの内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔6〕は、
前記(C)エチレンオキサイド付加物が、オレイルジエタノールアミンであることを特徴とする前記発明〔1〕〜〔5〕のいずれか一つの内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔7〕は、
(B)モノグリセリドがグリセリンモノオレエ−トであることを特徴とする前記発明〔1〕〜〔6〕のいずれか一つの内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔8〕は、
100℃における動粘度が5.6〜15mm/sであることを特徴とする前記発明〔1〕〜〔7〕のいずれか一つの内燃機関用潤滑油組成物である。
本発明〔9〕は、
H/Cの比が1.93〜4である燃料を使用する内燃機関、アイドリングストップ装置が付いた車両の内燃機関、或いは、バイオ燃料又はバイオディーゼル燃料を配合した燃料を使用する内燃機関で用いられることを特徴とする前記発明〔1〕〜〔8〕のいずれか一つの内燃機関用潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた耐摩耗性及び省燃費性を有すると共に、燃料の燃焼等によって生じた水蒸気による凝結水等を油中に安定なエマルジョンになるように分散させ、内燃機関の腐食や錆を防止する性能を有する内燃機関用潤滑油組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一形態を説明する。尚、本形態はあくまで本発明の一形態であり、当該形態に本発明の技術的範囲は限定されない。
【0021】
本形態は、
(A)100℃における動粘度が3〜12mm/s、粘度指数が100〜180、API(米国石油協会)の基油カテゴリーでグループ2、3又は4に分類される基油からなる群より選択される少なくとも1種以上の基油、
(B)炭素数8〜22の炭化水素基を有するモノグリセリドであり、水酸基価150〜300mgKOH/gであることを特徴とするモノグリセリドを、組成物全量基準で0.3〜2.0質量%、及び
(C)下記(式1)で示されるモノアルキル又はモノアルケニルアミンエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレンオキサイド付加物を、組成物全量基準で0.4〜1.5質量%
【0022】
【化3】
(式中、RはC14〜C22の炭化水素基であり、n及びmはそれぞれ独立して1又は2である)
を含有することを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物に関する。ここで、前記(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物との質量比(前記(B)モノグリセリドの質量%/前記(C)エチレンオキサイド付加物の質量%)は0.5〜2.7、好ましくは1.0〜2.5、より好ましくは1.2〜2.25であってもよい。
【0023】
或いは、本形態は、
(A)100℃における動粘度が3〜12mm/s、粘度指数が100〜180、API(米国石油協会)の基油カテゴリーでグループ2、3又は4に分類される基油からなる群より選択される少なくとも1種以上の基油、
(B)炭素数8〜22の炭化水素基を有するモノグリセリド(グリセリンの3つのヒドロキシル基のうち1つに脂肪酸がエステル結合したグリセリン脂肪酸エステル)であり、水酸基価150〜300mgKOH/gであることを特徴とするモノグリセリド、及び
(C)下記(式1)で示されるモノアルキル又はモノアルケニルアミンエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレンオキサイド付加物
【化4】
(式中、RはC14〜C22の炭化水素基であり、n及びmはそれぞれ独立して1又は2である)
を含有し、
前記(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物との質量比(前記(B)モノグリセリドの質量%/前記(C)エチレンオキサイド付加物の質量%)が0.5〜2.7であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物である。ここで、(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物との質量比は、好ましくは1.0〜2.5、より好ましくは1.2〜2.25であってもよい。ここで、当該内燃機関用潤滑油組成物は、前記モノグリセリドを、組成物全量基準で0.3〜2.0質量%、及び、前記エチレンオキサイド付加物を、組成物全量基準で0.4〜1.5質量%含有することが好適である。
【0024】
このように、本形態は、内燃機関用潤滑油組成物における、前記(B)モノグリセリドと前記(C)エチレンオキサイド付加物の量及び/又は量比を特徴とする。
【0025】
<基油>
本潤滑油組成物の基油としては、高度精製基油と呼ばれる鉱油、炭化水素系合成油を使用することができ、特に、API(American Petroleum Institute,米国石油協会)基油カテゴリーでグループ2、グループ3、グループ4などに属する基油を、単独又は混合物として使用することができる。ここで使用する基油は、100℃動粘度が3〜12mm/s、好ましくは3〜10mm/s、より好ましくは3〜8mm/sであってもよい。粘度指数が100〜180、好ましくは100〜160、より好ましくは100〜150であってもよい。硫黄元素分が300ppm以下、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下であってもよい。また15℃密度は0.8〜0.9g/cm、好ましくは0.8〜0.865g/cm、より好ましくは0.81〜0.83g/cmであってもよい。アロマ分(本発明におけるアロマ分はn−d−M分析:ASTM D3238により測定)は3%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは0.1%未満であってもよい。
【0026】
グループ2基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られたパラフィン系鉱油を挙げることができる。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全イオウ分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本形態に好適である。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数(本発明における粘度指数はASTM D2270、JIS K2283にて測定)は好ましくは100〜120がよい。100℃における動粘度(本発明における動粘度はASTM D445、JIS K2283にて測定)は、好ましくは3〜12mm/s、より好ましくは3〜9mm/sであってもよい。また全硫黄分は300ppm未満、好ましくは200ppm未満、更に好ましくは10ppm未満であってもよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満であってもよい。さらにアニリン点(本発明におけるアニリン点はASTM D611、JIS K2256にて測定)は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用してもよい。
【0027】
例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油も好適である。これらの基油はAPIグループ2及びグループ3基油に該当する。粘度は特に制限されないが、粘度指数は100〜150、好ましくは100〜145がよい。100℃における動粘度は、好ましくは3〜12mm/s、より好ましくは3〜9mm/sであってもよい。また全硫黄分は、0〜100ppm、好ましくは10ppm未満であってもよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満であってもよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用してもよい。
【0028】
天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)油は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本形態の基油として好適である。GTL基油の粘度性状は特に制限されないが、通例粘度指数は100〜180、より好ましくは100〜150であってもよい。また100℃における動粘度は、3〜12mm/s、より好ましくは3〜9mm/sであってもよい。
【0029】
また通例全硫黄分は10ppm未満、全窒素分1ppm未満であってもよい。そのようなGTL基油商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)を挙げることができる。
【0030】
炭化水素系合成油としては、例えば、ポリオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなど又はこれらの混合物などを挙げることができる。
【0031】
上記ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
特にポリアルファオレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンが好適であり、これはグループ4基油である。ポリアルファオレフィンは、2種類以上の合成油を混合させたものであってもよい。
【0033】
これら合成基油の粘度は特に制限されないが、100℃における動粘度は、3〜12mm/s、好ましくは3〜10mm/s、より好ましくは3〜8mm/sであってもよい。当該合成基油の粘度指数は、100〜170、好ましくは110〜170、より好ましくは110〜155であってもよい。当該合成基油の15℃密度は、0.8000〜0.8600g/cm、好ましくは0.8100〜0.8550g/cm、より好ましくは0.8250〜0.8500g/cmであってもよい。
【0034】
本形態の潤滑油組成物における上記基油の含有量は特に制限されないが、潤滑油組成物の全量基準で50〜90質量%、好ましくは50〜80質量%、より好ましくは50〜70質量%の範囲を例示することができる。
【0035】
<モノグリセリド>
無配系摩擦調整剤として使用されるモノグリセリドは、脂肪酸の炭化水素基の部分は炭素数8〜22であり、この炭素数8〜22の炭化水素基としては、具体的には例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)やオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基等のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また2重結合の位置も任意で、シス型、トランス型でもよい)が挙げられる。
【0036】
水酸基価としてはJIS K0070による水酸基価の測定法に基づいて150〜300mgKOH/g、より好ましくは200〜300mgKOH/gであることが好適である。また、モノグリセリドの含有量は、組成物全量基準で0.3〜2.0質量%、好ましくは0.4〜1.7質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%の範囲を例示することができる。
【0037】
<エチレンオキサイド付加物>
本形態に係るエチレンオキサイド付加物は、下記(式1)で示されるモノアルキル又はモノアルケニルアミンエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレンオキサイド付加物である。
【0038】
【化5】
【0039】
式中、RはC14〜C22の炭化水素基であり、この炭素数14〜22の炭化水素基としては、炭素数16〜20が好ましく、具体的には例えば、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基等のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また2重結合の位置も任意で、シス型、トランス型でもよい)が挙げられる。ここで、n及びmは、それぞれ1又は2であることが好ましい。また、エチレンオキサイド付加物の含有量は、組成物全量基準で0.4〜1.5質量%、好ましくは0.4〜1.4質量%、より好ましくは0.4〜1.2質量%の範囲を例示することができる。
【0040】
<他の任意成分>
上記した成分のほかに更に性能を向上させるため、必要に応じて種々の添加剤を適宜使用することができる。これらのものとしては、酸化防止剤、金属不活性剤、耐摩耗剤、消泡剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、防錆剤、等や、その他の公知の潤滑油添加剤を挙げることができる。
【0041】
本形態において使用する酸化防止剤としては、潤滑油に使用されるものが実用的には好ましく、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤は、基油100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0042】
前記アミン系酸化防止剤としては、p,p’−ジオクチル−ジフェニルアミン(精工化学社製:ノンフレックスOD−3)、p,p’−ジ−α−メチルベンジル−ジフェニルアミン、N−p−ブチルフェニル−N−p’−オクチルフェニルアミンなどのジアルキル−ジフェニルアミン類、モノ−t−ブチルジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン類、ジ(2,4−ジエチルフェニル)アミン、ジ(2−エチル−4−ノニルフェニル)アミンなどのビス(ジアルキルフェニル)アミン類、オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、N−t−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミンなどのアルキルフェニル−1−ナフチルアミン類、1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−2−ナフチルアミン、N−オクチルフェニル−2−ナフチルアミンなどのアリール−ナフチルアミン類、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、フェノチアジン(保土谷化学社製:Phenothiazine)、3,7−ジオクチルフェノチアジンなどのフェノチアジン類などが挙げられる。
【0043】
硫黄系酸化防止剤としては、ジドデシルサルファイド、ジオクタデシルサルファイドなどのジアルキルサルファイド類、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ドデシルオクタデシルチオジプロピオネートなどのチオジプロピオン酸エステル類、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0044】
フェノール系酸化防止剤としては、2−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン(川口化学社製:アンテージDBH)、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノールなどの2,6−ジ−t−ブチル−4−アルキルフェノール類、2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エトキシフェノールなどの2,6−ジ−t−ブチル−4−アルコキシフェノール類がある。
また、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメルカプト−オクチルアセテート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(吉富製薬社製:ヨシノックスSS)、n−ドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2’−エチルヘキシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−C7〜C9側鎖アルキルエステル(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL135)などのアルキル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート類、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージW−400)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージW−500)などの2,2’−メチレンビス(4−アルキル−6−t−ブチルフェノール)類がある。
【0045】
さらに、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージW−300)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)(シェル・ジャパン社製:Ionox220AH)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2−(ジ−p−ヒドロキシフェニル)プロパン(シェル・ジャパン社製:ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2,6−t−ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL109)、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート](吉富製薬社製:トミノックス917)、2,2’−チオ−[ジエチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL115)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(住友化学:スミライザーGA80)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージRC)、2,2’−チオビス(4,6−ジ−t−ブチル−レゾルシン)などのビスフェノール類がある。
【0046】
そして、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL101)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン(吉富製薬社製:ヨシノックス930)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(シェル・ジャパン社製:Ionox330)、ビス−[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、2−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル−4−(2”,4”−ジ−t−ブチル−3”−ヒドロキシフェニル)メチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチル−ベンジル)−4−メチルフェノールなどのポリフェノール類、p−t−ブチルフェノールとホルムアルデヒドの縮合体、pt−ブチルフェノールとアセトアルデヒドの縮合体などのフェノールアルデヒド縮合体などが挙げられる。
【0047】
リン系酸化防止剤として、トリフェニルフォスファイト、トリクレジルフォスファイトなどのトリアリールフォスファイト類、トリオクタデシルフォスファイト、トリデシルフォスファイトなどのトリアルキルフォスファイト類、トリドデシルトリチオフォスファイトなどが挙げられる。
【0048】
硫黄系及びリン系の酸化防止剤については、内燃機関の排気ガスコントロールシステムへの影響を考慮して、配合量については制限する必要がある。潤滑油全体におけるリンの含有量は0.10質量%以下、硫黄の含有量は0.6質量%以下が好ましく、より好ましくはリンの含有量は0.08質量%以下、硫黄の含有量は0.5質量%以下である。
【0049】
本形態に係る組成物と併用できる金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、4−メチル−ベンゾトリアゾール、4−エチル−ベンゾトリアゾールなどの4−アルキル−ベンゾトリアゾール類、5−メチル−ベンゾトリアゾール、5−エチル−ベンゾトリアゾールなどの5−アルキル−ベンゾトリアゾール、1−ジオクチルアミノメチル−2,3−ベンゾトリアゾールなどの1−アルキル−ベンゾトリアゾール類、1−ジオクチルアミノメチル−2,3−トルトリアゾールなどの1−アルキル−トルトリアゾール類等のベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール、2−(オクチルジチオ)−ベンゾイミダゾール、2−(デシルジチオ)−ベンゾイミダゾール、2−(ドデシルジチオ)−ベンゾイミダゾールなどの2−(アルキルジチオ)−ベンゾイミダゾール類、2−(オクチルジチオ)−トルイミダゾール、2−(デシルジチオ)−トルイミダゾール、2−(ドデシルジチオ)−トルイミダゾールなどの2−(アルキルジチオ)−トルイミダゾール類等のベンゾイミダゾール誘導体がある。
【0050】
また、インダゾール、4−アルキル−インダゾール、5−アルキル−インダゾールなどのトルインダゾール類等のインダゾール誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール誘導体(千代田化学社製:チオライトB−3100)、2−(ヘキシルジチオ)ベンゾチアゾール、2−(オクチルジチオ)ベンゾチアゾールなどの2−(アルキルジチオ)ベンゾチアゾール類、2−(ヘキシルジチオ)トルチアゾール、2−(オクチルジチオ)トルチアゾールなどの2−(アルキルジチオ)トルチアゾール類、2−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジブチルジチオカルバミル)−ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジヘキシルジチオカルバミル)−ベンゾチアゾールなどの2−(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)ベンゾチアゾール類、2−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)トルチアゾール、2−(N,N−ジブチルジチオカルバミル)トルチアゾール、2−(N,N−ジヘキシルジチオカルバミル)トルチアゾールなどの2−(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)−トルゾチアゾール類等のベンゾチアゾール誘導体がある。
【0051】
さらに、2−(オクチルジチオ)ベンゾオキサゾール、2−(デシルジチオ)ベンゾオキサゾール、2−(ドデシルジチオ)ベンゾオキサゾールなどの2−(アルキルジチオ)−ベンゾオキサゾール類、2−(オクチルジチオ)トルオキサゾール、2−(デシルジチオ)トルオキサゾール、2−(ドデシルジチオ)トルオキサゾールなどの2−(アルキルジチオ)トルオキサゾール類等のベンゾオキサゾール誘導体、2,5−ビス(ヘプチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ドデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(オクタデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールなどの2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール類、2,5−ビス(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(N,N−ジブチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(N,N−ジオクチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾールなどの2,5−ビス(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール類、2−N,N−ジブチルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−N,N−ジオクチルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどの2−N,N−ジアルキルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール類等のチアジアゾール誘導体、1−ジ−オクチルアミノメチル−2,4−トリアゾールなどの1−アルキル−2,4−トリアゾール類等のトリアゾール誘導体などが挙げられる。これらの金属不活性剤は、基油100重量部に対して、0.01〜0.5重量部の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0052】
本形態に係る潤滑油組成物に対して、耐摩耗性を付与するために、リン化合物を添加することもできる。本形態に適したリン化合物としては、ジチオリン酸亜鉛、リン酸亜鉛が挙げられる。これらのリン化合物は、基油100重量部に対して、0.01〜2質量%、潤滑油全体を基準にリン含有量は好ましくは0.05〜0.10質量%、より好ましくは0.05〜0.08質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。潤滑油全体を基準にリン含有量を0.10質量%以上配合すると、排気ガスコントロールシステムの触媒等に悪影響を与え、リン含有量を0.05質量%以下では、エンジン油としての耐摩耗性が維持できない。
【0053】
上記ジチオリン酸亜鉛としては、一般に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛、アリールアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。炭化水素基として、例えばアルキル基は、炭素数3〜12の第1級又は第2級のアルキル基が挙げられ、アリール基としてはフェニル基或いはフェニル基を炭素数1〜18のアルキル基で置換したアルキルアリール基が挙げられる。
【0054】
これらのジチオリン酸亜鉛の中でも第2級のアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、炭素数としては3〜12、好ましくは3〜8、より好ましくは3〜6である。
【0055】
本形態に係る潤滑油組成物に対して、低温流動性や粘度特性を向上させるために、流動点降下剤や粘度指数向上剤を添加してもよい。粘度指数向上剤としては、例えばポリメタクリレート類やエチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどのオレフィンポリマー類等がある。その添加量は、基油100重量部に対して、0.05〜20重量部の範囲で使用できる。
【0056】
流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレート系のポリマーが挙げられる。その添加量は、基油100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲で使用できる。
【0057】
本形態に係る潤滑油組成物に対して、消泡性を付与するために、消泡剤を添加してもよい。本形態に適した消泡剤として、例えばジメチルポリシロキサン、ジエチルシリケート、フルオロシリコーン等のオルガノシリケート類、ポリアルキルアクリレート等の非シリコーン系消泡剤が挙げられる。その添加量は、基油100重量部に対して、0.0001〜0.1重量部の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0058】
本形態に係る潤滑油組成物の粘度は特に制限されないが、粘度指数は100以上、好ましくは110以上、より好ましくは120以上であってもよく、粘度指数の上限値は例えば、300以下であってもよい。当該潤滑油組成物の100℃における動粘度は、5.6〜15mm/s、好ましくは5.6〜12.5mm/s、より好ましくは5.6〜9.3mm/sであってもよい。
【0059】
本形態に係る潤滑剤組成物は、内燃機関用潤滑油組成物として使用される。本形態に係る潤滑油組成物は、H/Cの比が1.93〜4(好ましくは2.67〜4)である燃料を使用した内燃機関において用いることができる。前記H/Cの比が1.93〜4である燃料としては、ディーゼル軽油JIS2号の5%をバイオディーゼル燃料の代表としてステアリン酸メチルへ換えた燃料(H/C=1.93)、プロパン(H/C=2.6)、天然ガス(メタンを主成分とするとH/C=4)を挙げることができる。また、本形態に係る潤滑油組成物はアイドリングストップ装置が付いた車両の内燃機関において用いることができる。さらに、本形態に係る潤滑油組成物はバイオ燃料(例えばバイオエタノール、エチルtert−ブチルエーテル、又はセルロース系エタノール)又はバイオディーゼル燃料(例えば脂肪酸メチルエステル、植物及び獣脂等の原料油脂を石油精製の水素化処理技術を応用して分解・精製した水素化処理油、又はバイオマスの熱分解ガスをFT(Fischer Tropsch:フィッシャートロプシュ)法による一酸化炭素と水素から触媒反応を用いて液体炭化水素を合成させてつくる合成油を配合した燃料)を使用する内燃機関において好適に使用される。特に、本形態に係る潤滑油組成物は、バイオエタノールを燃料に3Vol%より多く、好ましくは5Vol%以上、より好ましくは10Vol%以上配合した燃料を使用する内燃機関に好適に使用される。特に、本形態に係る潤滑油組成物は、バイオディーゼル燃料を燃料に5質量%より多く、好ましくは7質量%以上、より好ましくは10質量%以上配合した燃料を使用する内燃機関に好適に使用される。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の優れた耐摩耗性及び省燃費性を有すると共に、燃料の燃焼等によって生じた水蒸気による凝結水等を油中に分散させ、内燃機関の腐食や錆を防止する性能を有する、内燃機関用潤滑油組成物について実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
1.組成材料
実施例及び比較例の調製にあたり、下記の組成材料を用意した。
(1)基油
実施例及び比較例にて使用した基油1〜4は表1の性状を示すものである。ここで、40℃動粘度、100℃動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」によって得られる値である。また、粘度指数は、JIS−K−2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られる値である。流動点(P.P)についてはJIS K 2269、引火点についてはJIS K 2265−4(COC:クリーブランド開放法)、硫黄分についてはJIS K 2541(放射線励式起法)を用いた。さらに、%C、%C及び%CについてはASTM D3238を用いた。
(2)添加剤
(2−1)添加剤A1:グリセリンモノオレエート(花王社製、製品名:エキセルO−95R)
・分子蒸留モノグリセライド
・融点 41℃
・水酸基価 222mgKOH/g
(2−2)添加剤A2:ラウリルジエタノールアミン(ADEKA社製、製品名:アデカキクルーブFM812)
・密度:0.91g/cm分子量
・引火点:182℃
・水酸基価:393mgKOH/g
・塩基価:192mgKOH/g
(2−3)添加剤A3:オレイルジエタノールアミン(ADEKA社製、製品名:アデカキクルーブFM832)
・融点:31℃
・密度:0.92g/cm(25℃)
・動粘度:69.3mm/s @40℃
・引火点:230℃ (JIS K2265−4,COC)
・水酸基価:322mgKOH/g
・塩基価:160mgKOH/g
(2−4)添加剤A4:ポリエステル−ポリエチレンオキシド−ポリエステル−ブロックコポリマー(Croda社製、製品名:HYPERMER B246)
・EINECS No. 215−535−7
・密度:0.94g/cm3
・界面活性剤、縮合した12−ヒドロキシステアリン酸とポリエチレンオキシドとの反応により製造される、モル質量>1000g/モルを有するポリエステル−ポリエチレンオキシド−ポリエステル−ブロックコポリマー
(2−5)添加剤A5:オレイルアミン(ライオン アクゾ社製、製品名:アーミンOD)
・オレイルアミン99%以上
・ヨウ素価、70以上
(2−6)添加剤A6:ポリエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物(ADEKA社製、洗浄剤用界面活性剤、製品名:アデカプルロニックL101)
・融点:15℃
・比重:1.02
・重量平均分子量:3800
・粘度:756mPa・s @25℃
(2−7)添加剤B:GF−5パッケージ
内燃機関油用添加剤パッケージで、潤滑油中に本添加剤を8.9-10.55質量%配合すると、API−SN、ILSAC GF−5規格に適した性能が得られることがオロナイト社の商品カタログに記載されている。実施例中では、本添加剤Bの配合量を9.05質量%としてILSAC GF−5規格に適した配合量を使用しているが、添加剤Bの配合量が特に制限されるものではない。
(2−8)添加剤C1:粘度指数向上剤−1
ポリメタアクリレート系粘度指数向上剤。非分散タイプ。
【化6】
(2−9)添加剤C2:粘度指数向上剤−2
オレフィンコーポリマー系粘度指数向上剤。非分散タイプ。
【化7】
(2−10)添加剤D:消泡剤溶液
軽油にジメチルポリシロキサンタイプのシリコーンオイルを3質量%溶解した消泡剤溶液。
2.潤滑油組成物の調製
上記した組成材料を用いて、表2及び3に示す組成により実施例1〜8、比較例1〜13の潤滑油組成物を調製した。
3.試験
実施例1〜8及び比較例1〜13の潤滑油組成物について、その性能を見るために以下に示す各種試験を行った。
(1)100℃動粘度
100℃動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定した。
(2)低温粘度
−30℃及び−35℃における低温粘度はASTM D5293に準拠して測定した。
(3)シェル式4球摩耗試験
シェル式4球試験は、ASTM D4172に準拠して、回転数1800rpm、油温50℃、荷重40kgf、及び時間は30分の条件で実施した。試験後、試験片を取り出して、摩耗痕幅を測定し、結果を示した。
(4)摩擦係数測定試験
摩擦特性を見るために、ASTM−G−133(American Society for Testing and Materials)で使用されるCAMERON−PLINT・TE77試験機を用いて摩擦係数を測定、評価した。上部試験片はSK−3製で直径6mm、長さ16mmの円筒形とし、下部試験片はSK−3製の板を用い、試験温度80℃、荷重300N、振幅15mm、往復振動数10Hzで10分間試験を実施し、安定した最後の1分間に測定した摩擦係数の平均値を記した。摩擦係数が小さいほど摩擦低減性が優れていることを示す。
(5)乳化性試験
潤滑油のエマルジョン安定性(水を抱き込む性能)を評価するために、ASTM D7563に準拠した以下の乳油化性試験を実施した。
市販の高速で撹拌が可能なブレンダー、例えば今回の評価では株式会社エム・エフ・アイ社製のステンレス製容器を用いたWARING BLENDER 7011H (現在は7011S)を使用して、試作のE85燃料、蒸留水を使って評価試験を実施した。試験手順は以下の通り。
室温(20℃±5℃)下で、200mlメスシリンダーで評価する試験油を185ml計測し、ブレンダー7011Hへ投入、次に100mlメスシリンダーで試作E85燃料を15ml計測、ブレンダー7011Hへ投入し、最後に100mlメスシリンダーで蒸留水を15ml計測、7011Hへ投入する。その後直ちに容器のふたをして、回転数15000rpmで、60秒間撹拌する。撹拌が終了したら、直ちに蓋ができる摺りガラス栓付の100mlメスシリンダーへ混合溶液を100ml入れて、既定の温度(−5〜0℃もしくは20〜25℃)の恒温槽へ24時間静置する。撹拌してから恒温槽に24時間静置後、油-エマルジョン−水の量をメスシリンダーの目盛で計測し、水の分離が見られたものは水分離、水の分離が見られなかったものは水分離無しで、表2及び表3に示した。
試作E85燃料については、市販のJIS1号自動車ガソリン150mlと和光純薬工業の特級エタノール850mlをメスシリンダーで測り、常温で混合したものを使用した。
試験に必要な混合は、規定された時間内に短期間で終了し、使用にあたっては軽質分が揮発しないようにしっかりと密閉できる容器に入れて、室内の冷暗所に保管した。
比較例5及び実施例4については、米国の独立研究開発機関であるSouth West Research Institute にてASTM D7563を実施し、同じ結果を得た。
4.考察
比較例1は、グリセリンモノオレエートを含まないエンジン油で、乳化性試験では水の分離は見られなかった。しかし、グリセリンモノオレエートを含まないため、摩擦係数測定試験の結果は摩擦係数が0.112と高く、エンジン摩擦低減による省燃費性の効果が得られない。
比較例2及び3は異なる粘度指数向上剤を使用した0W−20グレードのエンジン油で、それぞれにグリセリンモノオレエートを添加し、摩擦係数は0.1以下の結果が得られ、摩擦係数低減による省燃費性の効果が得られた。しかし一方では、グリセリンモノオレエートを使用したこれらの油種では、その界面化学作用が強いため、水と油類とが比較的早く分離してしまうことがわかった。
比較例2、3及び4の結果を比較することにより、使用する非分散タイプの粘度指数向上剤のタイプ(ポリ(メタ)アクリレート、オレフィンコーポリマー)、濃度による違いによる乳化性の違いは見られないことが明らかとなった。
比較例9、10及び11では、アミンのエチレンオキサイド付加物以外の界面活性剤を添加した。強い塩基性を示すオレイルアミン以外の界面活性剤ではグリセリンモノオレエートによる強い水分離性を解除することができなかった。オレイルアミンは、グリセリンモノオレエートの強い水分離性を改善し、Emulsion-Retention(エマルション安定性)を向上させる効果は非常に高いが、一方ではエンジン油の耐摩耗性を著しく低下させることがシェル式4球摩耗試験の結果からわかった。
シェル式4球摩耗試験結果で0.50mm以上のものは、耐摩耗性が好ましくない。比較例-1は摩耗痕径0.39mmであり、この結果と比べて摩耗痕径が大きくなるものは、耐摩耗剤の働きを阻害するため、摩耗痕径が増加し、悪化する。ゆえに好ましくない。0.45mm以下が好ましく、比較例−1本来の耐摩耗性を保持するためには0.39mmの+10%以内の摩耗痕径(=0.43mm)がより好ましい。
比較例5、及び6、7では、モノラウリルアミンのエチレンオキサイド付加物を、濃度0.3〜0.9質量%の範囲で変化させた時の乳化性、耐摩耗性、摩擦係数を測定した。
その結果、アルキル基の炭素数がC12では、耐摩耗性、摩擦係数に対しては大きな影響を与えない一方、乳化性に対しても全く改善効果が見られず、アミンのエチレンオキサイド付加物でも炭素数が短くては乳化性を改善することが非常に困難であることがわかった。
比較例8及び比較例12では、オレイルアミンのエチレンオキサイド付加物の濃度が0.4質量%未満では、グリセリンモノオレエートの水分離性を解除することが困難であった。
実施例1〜6では、基油の硫黄含有量及び不飽和度が少ないグループ2、3、及び4の場合では、オレイルアミンのエチレンオキサイド付加物が0.4質量%以上添加されていれば、グリセリンモノオレエートの強い界面活性効果による水分離性を解除し、Emulsion-Retentionを改善することができた。また、耐摩耗性及び、摩擦係数低減効果も維持できることも明らかとなった。実施例7では、既定の性状を示すAPIのグループ3基油の中でも、フィッシャートロプシュ法によって合成されたGTL(ガストゥリキッド)基油を使用した。
アミンのエチレンオキサイド付加物による特定の濃度範囲であればフィッシャートロプシュ法によって合成された基油に対しても、良好な耐摩耗性及び摩擦低減効果を維持しながら、水分離性を解除し、Emulsion-Retentionを維持することができることが明らかとなった。

【表1】

【表2】

【表3】
【0061】
注−1)白色ペースト状、融点41℃、引火点(COC)220℃、酸価1.0mgKOH/g、水酸基価222mgKOH/g
注−2)液状、淡黄色、密度0.91g/cm、引火点(COC)182℃、水酸基価393mgKOH/g
注−3)うすい褐色ペースト状、融点31℃、引火点(COC)230℃、水酸基価322mgKOH/g
注−4)EP0000424の教示に従う、縮合した12−ヒドロキシステアリン酸とポリエチレンオキシドとの反応により製造される、モル質量>1000g/モルを有するポリエステル−ポリエチレンオキシド−ポリエステル−ブロックコポリマー
注−5)融点23℃、ヨウ素価70
注−6)重量平均分子量3800、比重25/25℃ 1.02、粘度@25℃ 756mPa・s、融点15℃
注−7)非分散タイプのポリ(メタ)アクリレート
注−8)非分散タイプのオレフィンコーポリマー