【実施例】
【0064】
本発明にかかる個人モデルデータの生成方法の一実施例を説明する。同時に個人モデルデータの生成プログラムおよび生成システムの実施例についても説明する。
【0065】
実施例の説明では、数値人体モデルとして日本人成人男性のモデル(以下、ソースモデルと表記することがある)を用い、変形対象である個人として日本人成人女性のモデル(以下、ターゲットモデルと表記することがある)を用いる。ソースモデルとして日本人成人男性のモデルを、そしてターゲットモデルとして日本人成人女性のモデルを用いた理由は、両者は、筋肉組織および脂肪組織の量が大きく相違するため、組織形状変形処理の必要性を顕著に示すことができるからである。
【0066】
実施例の説明に先立ち、
図1〜
図4について説明する。
【0067】
図1は、ソースモデル(a)およびターゲットモデル(d)から、ソースモデルに体形変形処理を施しボリュームリフィリングを行い(b)、さらに組織形状変形処理を施して、個人モデルデータ(c)を生成した例を示したものである。
【0068】
図1(a)〜(d)に示す各モデルにおける、筋肉組織組織(Muscle)、脂肪組織(Fat)、およびその他の組織(Other)のボクセルパーセントは、
図2における4本の棒グラフVP1〜VP4に示されている。棒グラフVP1〜VP4は、それらの下部領域が筋肉組織のボクセルパーセントを示し、中間領域が脂肪組織のボクセルパーセントを示し、上部領域がその他の組織のボクセルパーセントを示している。例えばソースモデルのボクセルパーセントを示す棒グラフVP1では、筋肉組織が39.76%、脂肪組織が29.63%、そしてその他の組織が30.61%である。
【0069】
図3は本発明にかかる個人モデルデータの生成のフローチャートであり、
図4は内部組織レジストレーションのフローチャートである。以下、本発明をこれらフローチャートを中心に説明する。
【0070】
<ポリゴンメッシュ抽出>
第一段階の処理は、ポリゴンメッシュ抽出(STEP10)から行われる。ここでは、ソースモデルのボリュームデータから体表面をポリゴンメッシュ(数値人体モデルポリゴンメッシュ)として抽出する(STEP11)。ターゲットモデルのボリュームデータから体表面をポリゴンメッシュ(個人ポリゴンメッシュ)として抽出する(STEP12)。
【0071】
こうしたポリゴンメッシュの抽出は、公知のアルゴリズムや、前述した「体表面のポリゴンメッシュ抽出」で示した頂点座標付加のアルゴリズムに基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0072】
図5は、本発明を実施するためのシステム(以下、本システムと表記することがある)の一例を示したものである。本システムにおけるポリゴンメッシュ抽出手段は、上記コンピュータプログラムを収納するコンピュータ10で実現することができる。ここでコンピュータプログラムの収納は、恒常的な収納はもとより、一時的な収納であってもよく、さらにコンピュータプログラムが一時的な収納のために通信回線を経由して伝達されるものであってもよい(コンピュータプログラムの収納について以下同様)。
【0073】
コンピュータ10は、必要に応じLANなどの通信回線を介して、ソースモデルのボリュームデータSDを蓄積したソースデータベース11、ターゲットモデルのボリュームデータデータTDを蓄積したターゲットデータベース12、および生成された個人モデルデータPDを蓄積する個人モデルデータベース13などと接続される。また本システムは、必要に応じ、画像モニタ14や、図示しないプリンタ、X線CT装置などの医療機器に接続されてもよい。
【0074】
抽出された両ポリゴンメッシュは、ラプラシアンを適用するフェアリング処理(STEP13およびSTEP14)が施されて滑らかにされる。
図6はポリゴンメッシュ(a)にフェアリング処理を施して体表面を滑らかにする例を示した図であり、同図(b)はラプラシアンを2回適用した例であり、同図(c)はラプラシアンを4回適用した例である。
【0075】
<体表レジストレーション>
体表レジストレーション(STEP20)では、大域的な近似(STEP21)および局所的レジストレーション(STEP22)の何れか一方または双方が選択され行われる。
【0076】
大域的な近似は、ソースモデルのメッシュの形状の画像とターゲットモデルのメッシュの形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化することによって行われる非剛体レジストレーションである。大域的な近似は、前述した「レジストレーションベースの大域的な近似処理」および「組織形状変形処理」で示したアルゴリズム(式10〜式20等)に基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0077】
局所的レジストレーションは、ソースモデルのメッシュ頂点すべてに対して、ターゲットモデルのメッシュの頂点の中で一番近い点をサーチして、その一番近い点に前記数値人体モデルのメッシュ頂点を移動させるレジストレーションである。局所的レジストレーションは、前述した「局所的な近似処理」で示したアルゴリズムに基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0078】
ここで局所的レジストレーションは、メッシュ頂点を移動させるレジストレーションだから自動化しても必ず収束し、またパラメータをマニュアルで設定する必要がなく演算の再現性が高い。また大局的な近似は、両メッシュの形状の画像の間の差分量エネルギーを最小化するものだから自動化しても必ず収束し、パラメータをマニュアルで設定する必要がなく演算の再現性が高い。
【0079】
したがって大域的な近似および局所的レジストレーションを自動的に実行する手段は、
図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる(以下、レジストレーションによって変形したソースモデルのメッシュを、変形人体モデルのメッシュと表記することがある。)。
【0080】
ソースモデルのメッシュは、
図1(a)においてその体形の輪郭(男性の特徴を有している)となって示されている。同様に変形人体モデル(
図1(b))は、同図上においてその体形の輪郭(女性の特徴を有している)を示している。生成された変形人体モデルの体表面形状は、このように、ターゲットモデルの体表面形状に高精度で近似している。
【0081】
<ボリュームリフィリング>
ボリュームリフィリング(STEP30)では、変形人体モデルのメッシュを2値ボリューム化(STEP31)した後、ボリュームリフィリングを適用して、変形人体モデルのメッシュに内部組織構造が埋め込まれる(STEP32)。こうして埋め込まれた内部組織を変形人体モデルの内部組織と表記し、その構造を変形人体モデルの内部組織構造と表記することがある。
【0082】
ボリュームリフィリングは、前述した「ボリュームリフィリング」で示したアルゴリズム(式10〜式20等)に基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0083】
ここでボリュームリフィリングは、前述したとおり、その解が必ずユニークに存在するから自動化しても必ず収束し、またパラメータをマニュアルで設定する必要がなく、演算の再現性が高い。したがってボリュームリフィリングを自動的に実行する手段は、
図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる。
【0084】
こうして、
図1(b)に示すように、変形人体モデルのメッシュ(ターゲットモデルである女性の体表メッシュ)に、ソースモデルである男性の内部組織構造が埋め込まれる。
【0085】
しかし、変形人体モデルの内部組織のボクセルパーセントを示す
図2の棒グラフVP2に示されたように、変形人体モデルでは、筋肉組織が40.91%、脂肪組織が30.50%、その他の組織が28.59%である。
【0086】
これらをターゲットモデルにおけるボクセルパーセントを示す
図2の棒グラフVP4(筋肉組織30.45%、脂肪組織41.44%、およびその他の組織28.11%)と比較すると、変形人体モデルとターゲットモデルは、それらのボクセルパーセントに差異がある一方、変形人体モデルのボクセルパーセントは、ソースモデルのボクセルパーセント(棒グラフVP1に示された筋肉組織が39.76%、脂肪組織が29.63%、その他の組織が30.61%)に近い。すなわち変形人体モデルの内部組織構造は、ターゲットモデルよりも、ソースモデルに近い。
【0087】
たとえば
図7は、後述する筋肉組織における組織形状変形処理の例を示す図であるが、
図7(a)のモデルは、変形人体モデル(女性モデルの体形に変形されたモデル)のメッシュに男性モデルの筋肉組織だけを埋め込んだものであり、ここでは変形人体モデルの筋肉組織構造(例えば腿は、筋肉がたくましく男性的である)は、ターゲットモデル
図7(c)の筋肉組織構造よりも、ソースモデル(男性)の筋肉組織構造に近い。
【0088】
ここまでが「第一段階の処理」である。
【0089】
このようにまだソースモデルに近似している、変形人体モデルの内部組織構造を、ターゲットモデルの内部組織構造と近似させる内部組織レジストレーションが、以下に述べる「第二段階の処理」である。
【0090】
<内部組織レジストレーション>
第二段階の処理(前述した「組織形状変形処理」である)では、人体の中でもシミュレーションに重要な組織(例えば脂肪、筋肉、骨格)に限定した簡易的な組織同定を行う(STEP41)。これらの組織に関しては、CT/MRIデータでの値が比較的分離しやすいので、簡単な閾値処理で同定することができる(自動化を阻害する要因はない。)。ここではまた、それ以外の組織について、その他の組織として1つにまとめて仮想的な組織として同定する(同じくSTEP41)。
【0091】
なお組織臓器数が51である数値人体モデル(非特許文献1)では、51の組織臓器にそれぞれIDが付されており、上記組織同定がなされると、同定された組織のIDが付される(その他の組織については、新たなIDを付す。)。
【0092】
内部組織レジストレーションは、体表レジストレーションにおける大域的な近似と同じアルゴリズムによって行うことができる(STEP42)。すなわち、前述した「レジストレーションベースの大域的な近似処理」および「組織形状変形処理」で示したアルゴリズムに基づく演算を実施する工程で行われる。またこれら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0093】
こうした大局的な近似は、前述したとおり自動化しても必ず収束するから、パラメータをマニュアルで設定する必要がなく、演算の再現性が高い。したがって内部組織レジストレーションを自動的に実行する手段は、
図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる。
【0094】
例えば筋肉組織に組織形状変形処理を施す場合には、変形人体モデルのメッシュに、ソースモデルの筋肉組織だけを埋め込んで生成された
図7(a)のモデルの筋肉組織構造に、さらに内部組織レジストレーションを施して、ターゲットモデル
図7(c)の筋肉組織構造と近似させる(
図7(b)のモデル参照)。
【0095】
この筋肉組織のレジストレーションによって、変形人体モデルにおける筋肉組織のボクセルパーセント40.91%(
図2の棒グラフVP2参照))が30.85%と変化して(
図2の棒グラフVP3参照)、ターゲットモデル(女性モデル)の筋肉組織構造のボクセルパーセント30.45%(
図2の棒グラフVP4参照))と近似する。
【0096】
同様にして、脂肪組織を対象とする組織形状変形処理を行う。この処理によって、変形人体モデルにおける脂肪組織のボクセルパーセント30.50%(
図2の棒グラフVP2参照))が、42.12%と変化して(
図2の棒グラフVP3参照)、ターゲットモデル(女性モデル)の脂肪組織構造のボクセルパーセント41.44%(
図2の棒グラフVP4参照))と近似する。
【0097】
図8は、その他の組織における組織形状変形処理の例を示す図である。
図8(a)のモデルは、変形人体モデルのメッシュにソースモデルの他の組織だけを埋め込んだものであり、
図8(c)のモデルは、ターゲットモデルのその他の組織構造を示すものであり、
図8(b)のモデルは、
図8(a)のモデルのその他の組織に内部組織レジストレーションを施して、ターゲットモデルのその他の組織に近似させたモデルである。
【0098】
この処理によって、変形人体モデルにおけるその他の組織のボクセルパーセント28.59%(
図2の棒グラフVP2参照))が、27.03%と変化して(
図2の棒グラフVP3参照)、ターゲットモデルのその他の組織構造のボクセルパーセント28.11%(
図2の棒グラフVP4参照))と近似する。
【0099】
<マルチチャンネルレジストレーションと統合処理>
内部組織レジストレーション(STEP40)では、さらにマルチチャンネルレジストレーションと統合処理が行われる。前述した「マルチチャンネルレジストレーションと統合処理」で述べたように、内部組織間に隙間や内部組織間の重なりが生じるからである。
【0100】
そこで「マルチチャンネルレジストレーションと統合処理」で示したように内部組織間の隙間を埋め(STEP43)、同じく例示した優先順位で内部組織を上書きして、内部組織間の重なりを修正する(STEP44)。
【0101】
内部組織間の隙間は、処理対象となる複数の内部組織のデータが存在しない領域として必ず自動的に検出できるから、高い再現性をもって脂肪組織を埋め込むことができる。また内部組織間の重なりは、処理対象となる複数の内部組織のデータが重複する領域として必ず自動的に検出できるから、高い再現性をもって優先される内部組織で上書きする処理を実施できる。こうしたマルチチャンネルレジストレーションと統合処理をへて個人モデルデータが生成される。
【0102】
こうした埋め込み処理および上書き処理は、コンピュータプログラムによって実行することができ、埋め込み処理および上書き処理を自動的に実行する手段は、
図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる。
【0103】
なお本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を変更することなく適宜変形して実施することができる。