【実施例】
【0121】
[実施例1]
図9は、スイッチング電源回路をモデル化したブロック構成の回路図であり、ディクソン型のチャージポンプの構成例を示している。
【0122】
このスイッチング電源回路は、特定のエネルギー蓄積素子の一端にバイアス電圧を与えることによりスイッチ素子および/又は整流ダイオードをスイッチング動作させることによって、特定のエネルギー蓄積素子を含むエネルギー蓄積素子部に対してエネルギーを入出力するスイッチング電源回路である。
【0123】
特定のエネルギー蓄積素子の一端に与えるバイアス電圧は、一周期内のクロック信号によってスイッチング動作する。本発明の回路シミュレーション回路では、各第1のスイッチ変数u
2および(1−u
2)は、スイッチ素子又は整流ダイオードのスイッチング動作の時間変化に応じて1と0との間の値を採ることによって、異なる回路状態を連接して一つの状態変数方程式とする。
【0124】
ディクソン型のチャージポンプは、はじめの期間において入力直流電圧V
inからダイオードを介して容量素子を充電し、さらに次の期間で容量素子の一端の電圧をクロック信号の電圧で持ち上げることで容量素子の他端の電圧を昇圧し、この昇圧した電圧を別のダイオードと容量素子で整流することによって、入力直流電圧V
inから昇圧された所望の直流出力電圧V
outを得る構成である。
【0125】
図9(a)はディクソン型のチャージポンプの一構成例であり、入力直流電圧V
inを約2倍に昇圧する回路構成の例を示している。ダイオード接続されたトランジスタM
n1、M
n2、容量素子C
1、出力容量素子C
out、負荷電流I
out、電圧が0〜V
clk間を遷移するクロック電圧源V
CLKによって構成される。クロック電圧源V
CLKが出力するクロック信号がチャージポンプの回路内の容量素子C
1に流入し、その容量素子C
1に蓄えられたエネルギーを出力端子に接続される出力容量素子C
outに転送する2段階の動作により昇圧が行われる。
【0126】
図9(a)の回路において、クロック電圧源V
CLKの電圧がロー(通常は接地電位0Vに近い電圧とするので、ここでも0Vとする)である場合には、出力電圧V
out>入力直流電圧V
inとすればV
f1(t)>0,V
f2(t)<0となるので、ダイオード接続されたトランジスタM
n1は順バイアス状態となり道通する。一方、ダイオード接続されたトランジスタM
n2は逆バイアス状態となるためカットオフされる。
【0127】
図9(b)は、クロック電圧源V
CLKの電圧がローの状態を表わしている。入力直流電圧V
inの入力側と出力電圧V
out(t)の出力側は切り離されて2つの独立な回路となる。この時、容量素子C
1には入力直流電圧V
inからダイオード接続されたトランジスタM
n1を通して電流が流れ込み、その結果電荷が蓄積されて容量素子C
1の両端間の電圧V
c1は、
V
c1(t)=V
in−V
f1(t) ・・・(1)
となる。
【0128】
続いて、クロック電圧源V
CLKの電圧がハイ(通常は入力直流電圧V
inと同一の電圧とするが、ここではV
clkの電圧とする)である場合には、
図9(c)に示すように容量素子C
1の他端Aの電圧V
Aは、V
A(t)=V
clk+V
c1(t)となり、ダイオード接続されたトランジスタM
n1は逆方向バイアス状態となり、ダイオード接続されたトランジスタM
n2は順方向バイアスとなって道通する。
【0129】
その結果、出力容量素子C
outの両端の電圧V
out(t)は、
V
out(t) =V
A(t)−V
f2(t) = V
in+V
clk−V
f1(t
H)−V
f2(t) ・・・(2)
となる。
【0130】
ただしV
f1(t
H)はクロック電圧源V
CLKの電圧がローである場合のV
f1(t)の最終値である。V
f1(t
H)、V
f2(t)とも零に近いと仮定すれば、出力電圧V
out(t)は入力直流電圧V
inとクロック電圧源V
CLKの電圧V
clkの和となり昇圧動作が行われる。ただしこの場合、V
out(t)を安定化するための負帰還はかかってはいない。
【0131】
クロック電圧源V
CLKの電圧がローの時(V
clk=0)の回路モデルにおける各状態変数V
c1(t)とV
out(t)(=V
Cout(t))に係る状態変数方程式は以下の微分方程式で表される。
【0132】
【数1】
・・・(3)
【0133】
【数2】
・・・(4)
【0134】
ただし、トランジスタM
n1の電圧V
DS(=V
GS)は以下の式で表される。
【数3】
・・・(5)
【0135】
ここで、β、gm1、Rm1は以下の式で表される。
【数4】
・・・(6)
【0136】
ダイオード接続されたトランジスタM
n1は流れる電流により両端の電圧が変化するが、上記式では、これを抵抗R
1(t)で表している。
【0137】
また、V
th1(t)はトランジスタM
n1のソース電圧の関数であり、以下の関係がある。
【数5】
・・・(7)
【0138】
ここで、V
SBはトランジスタM
n1のソース端子とグラウンド間の電圧差、つまりV
C1と一致する。またφ
Fはビルトインポテンシャルと言われる電圧である。更に、u
31(t)はトランジスタM
n1に逆流電流が流れるのを防ぐための第2のスイッチ変数の一つである。
【0139】
図9(b)において、仮に容量素子C
1の両端の電圧が(V
in−V
th1(t))よりも高ければ、電流は容量素子C
1から入力直流電圧V
inに向かって逆流する。
【0140】
しかし、トランジスタM
n1がダイオードと等価な機能を果たすように接続されているため、このような逆流現象は実際には起こらない。そこで、上記した状態変数方程式は、回路モデルの誤動作を防ぐために第2のスイッチ変数のうちの一つであるu
31(t)を導入する。u
31(t)は逆流が無い場合は1の値を採り、逆流が検出された場合には0の値を採る。逆流の有無は容量素子C
1の電流の方向によって判断することができる。
【0141】
一方、クロック電圧源V
CLKの電圧がハイの時(V
clk=1)の回路モデルにおける各状態変数v
c1(t)とv
out(t)に係る状態変数方程式は以下の微分方程式で表される。なお、
図9の回路例では、v
out(t)はコンデンサCの両端電圧v
Cout(t)である。
【0142】
【数6】
・・・(8)
【0143】
【数7】
・・・(9)
【0144】
第2のスイッチ変数のうちの一つであるu
32(t)はトランジスタM
n2に逆流電流が流れるのを防ぐために設けられている。u
32(t)は、逆流が無い場合は1をとり、逆流が検出された場合には0をとる。逆流の有無は容量素子C
1の電流の方向によって判断することができる。
【0145】
数値演算のプログラム上に上記の回路モデルから求められた状態変数方程式を組み込むために、期間1と期間2の2つの状態変数方程式をひとつの式に纏める。このために各第1のスイッチ変数u
2(t)および(1−u
2(t))を用いる。第1のスイッチ変数u
2(t)および(1−u
2(t))は、期間によって分離される回路構成に対応する。u
2(t)は、クロック電圧源V
CLKの電圧がローの時(V
clk=0)にu
2(t)=1の値を採り、クロック電圧源V
CLKの電圧がハイの時(V
clk=1)の場合にu
2(t)=0の値を取る。これに対し、(1−u
2(t))は、クロック電圧源V
CLKの電圧がローの時(V
clk=0)に(1−u
2(t))=0の値をとり、クロック電圧源V
CLKの電圧がハイの時(V
clk=1)の場合に(1−u
2(t))=1の値をとる。
【0146】
期間1か期間2かの場合分け、および第1のスイッチ変数u
2(t)および(1−u
2(t))が1か0の場合分けは、クロック電圧源V
CLKの電圧値が1か0かで決まるため、V
CLK=0は、u
2(t)=1および(1−u
2(t))=0に対応する。また、V
CLK=1は、u
2(t)=0および(1−u
2(t))=1に対応する。したがって、第1のスイッチ変数u
2(t)および(1−u
2(t))の制御はクロック信号により行うことができる。
【0147】
期間1の状態と期間2の状態を同時に記述した状態変数方程式は、以下の式(10)、(11)で表すことができる。
【0148】
【数8】
・・・(10)
【0149】
【数9】
・・・(11)
【0150】
上記の状態変数方程式が、数値演算のプログラム上でディクソン型チャージポンプの動作を表す記述式として取り扱われる。
【0151】
[実施例1の比較例]
図10は本発明の回路シミュレーションを数値演算でシミュレーションした結果と、アナログ処理のシミュレーションソフトによる結果との比較図である。
【0152】
図10中のNSTVRで示すシミュレーション結果は、MATLAB/Simulink(登録商標)の汎用数値演算プログラムに本発明の回路シミュレーション手法を適用したプログラム(NSTVR)で得られるシミュレーション結果であり、
図10中のSPICEで示すシミュレーション結果は、アナログ回路のシミュレーションソフトであるSPICE(登録商標)を用いて得たシミュレーション結果である。
図10では、NSTVRによるシミュレーション結果を実線で示し、SPICEによるシミュレーション結果は破線で示している。
【0153】
図10のシミュレーション結果は、
図9のディクソン型DC−DCコンバータ回路について、通常のSPICE回路シミュレーションプログラムにより解析したシミュレーション結果と、本発明の回路シミュレーション手法で構成した状態変数方程式を、MATLABを用いた数値演算による解析で得たシミュレーション結果とを比較して示している。
【0154】
このシミュレーション結果は、
図9の回路の入力直流電圧V
inを5Vとし、負荷電流I
outを零(無負荷という)とした場合について、出力電圧V
outの過渡変化について示している。このシミュレーションでは、クロック周波数を1MHzとし、解析する時間間隔を1nsとして全体の解析時間を0〜400μsとしている。シミュレーション結果によれば、出力電圧V
outは0Vから7.5Vまで立ち上がる。
【0155】
SPICEによるアナログ解析と、本発明のシミュレーション手法をプログラム化したNSTVRによる解析とにおいて、シミュレーション時間の比較を表1に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
過渡解析において、SPICEによるアナログ解析は約58秒のCPU時間を要する。一方、本発明の回路シミュレーションのNSTVRによる解析では約38秒である。また、
図10に示すシミュレーション結果では、出力電圧において150mVの電圧差が生じている。この電圧差は、出力電圧7.5Vに対して約2%(=0.15/7.5)である。
【0158】
比較結果によれば、CPU時間に大きな差異は現れていないが、CPU時間は回路規模に依存するため、回路規模が大きい場合にはCPU時間の差は顕著となると推定される。
【0159】
また、比較結果の出力電圧の誤差が約2%であることから、本発明の回路シミュレーションはSPICEによるアナログ解析と同等の精度を得ることができる。したがって、比較結果によれば、本発明の回路シミュレーションは、SPICEによるアナログ解析よりも高速でシミュレーションでき、さらに、アナログ解析と同等の精度を得ることができることを示している。
【0160】
[実施例2]
ディクソン型チャージポンプは、多段接続による構成とすることができる。
図11は多段構成の例を示している。
【0161】
図11において、容量素子C
1にはクロック電圧源V
CLKを接続し、容量素子C
2にはクロック電圧源V
CLK/を接続する。クロック電圧源V
CLKとクロック電圧源V
CLK/とは相補的な電圧を出力する。これによって、トランジスタM
n1、M
n2、M
n3、・・・は順にオン・オフの動作を行う。
【0162】
多段構成の場合についても、前記した実施例1に示した場合と同様に適用することができる。例えば、入力端側から出力端側に向かって奇数番目の容量素子Cの両端電圧を状態変数とする場合には、式(10)において、奇数番目のスイッチ素子に関わる回路ブロックの状態変数方程式に第1のスイッチ変数u
2(t)を乗じて得られる状態変数方程式と、偶数番目のスイッチ素子に関わる回路ブロックの状態変数方程式に他方の第1のスイッチ変数(1−u
2(t))を乗じて得られる状態変数方程式とを加算することによって一周期中の状態変数方程式を求めることができる。
【0163】
[実施例3]
ディクソン型チャージポンプの多段接続の構成では、前記した
図11に示す構成例のMOSトランジスタをダイオードに代えることができる。
図12は、ディクソン型チャージポンプの多段接続構成を、ダイオードを用いて構成した例を示している。この回路動作は、MOSトランジスタがダイオードに代わっただけの違いであって、モデル化の点では同様であるため、回路モデルおよび状態変数方程式は同じとなる。
【0164】
[実施例4]
次に、スイッチ型チャージポンプの例について
図13〜
図15を用いて説明する。スイッチ型チャージポンプは、ディクソン型チャージポンプのダイオード接続を行うトランジスタを、CMOSインバータを使った1極2投のスイッチ素子に置き換えた構成である。
図13は差動構成によるスイッチ型チャージポンプの構成例を示し、
図14は
図13の差動構成の動作原理を説明するための構成図を示している。また、
図15は、直列接続されるスイッチ素子が同時にオン状態となったときにスイッチ素子を通して流れる漏れ電流を、クロック信号の切り替わり時にのみ値を持つ電流源として扱う状態を説明するための図である。
【0165】
図13(a)はスイッチ型チャージポンプの回路構成と、回路を駆動するクロック信号例を示し、
図13(b)はクロック信号中の丸付き符号1で示した時点における等価回路を示し、
図13(c)はクロック信号中の丸付き符号2で示した時点における等価回路を示している。
【0166】
図14(a)の動作原理図は、
図13において丸付き符号1で示される時点の回路の動作状態を示している。クロック信号電圧V
clkが容量素子C
1に加わると、これによって丸付き符号bで示す点の電圧V
bは昇圧され、以下で示される電圧となる。
V
b=V
clk+V
c1(t)
【0167】
NMOSトランジスタM
n1によるトランジスタスイッチSW
Mn1は、昇圧されたV
bにより制御されてオン状態となる。このとき、PMOSトランジスタM
p1によるトランジスタスイッチSW
Mp1はオフ状態である。したがって、容量素子C
2はNMOSトランジスタM
n1によるトランジスタスイッチSW
Mn1を通して電圧V
in に充電される。これにより、NMOSトランジスタM
n2によるトランジスタスイッチSW
Mn2はオフ状態で、PMOSトランジスタM
p2によるトランジスタスイッチSW
Mp2がオン状態となるため、V
bの電圧がPMOSトランジスタM
p2によるトランジスタスイッチSW
Mp2を通して出力容量素子C
outに伝達される。つまり、出力容量素子C
outの両端はV
bとなり(ただし容量素子C
1,C
2>出力容量素子C
out)、出力端子の電圧V
outは昇圧される。
【0168】
丸付き符号1で示される時点において成立する回路(
図13(b),
図14(a)に対応)は、以下の状態変数方程式で記述することができる。
【0169】
【数10】
【0170】
・・・(12)
【数11】
・・・(13)
【0171】
【数12】
・・・(14)
【0172】
ただし、トランジスタM
n1、M
p2によるトランジスタスイッチSW
Mn1,SW
Mp2のオン抵抗をそれぞれR
Mn1,R
Mp2としている。
【0173】
図14(b)の動作原理図は、
図13において丸付き符号2で示される時点の回路の動作状態を示している。クロック信号電圧V
clkが容量素子C
2に加わると、これによって、丸付き符号aで示す点の電圧V
aは昇圧され、以下で示される電圧となる。
V
a=V
clk+V
c2(t)
【0174】
NMOSトランジスタM
n2によるトランジスタスイッチSW
Mn2は、昇圧されたV
aにより制御されてオン状態となる。このとき、PMOSトランジスタM
p2によるトランジスタスイッチSW
Mp2はオフ状態である。したがって、容量素子C
1はNMOSトランジスタM
n2によるトランジスタスイッチSW
Mn2を通して電圧V
in に充電される。これにより、NMOSトランジスタM
n1によるトランジスタスイッチSW
Mn1はオフ状態で、PMOSトランジスタM
p1によるトランジスタスイッチSW
Mp1がオン状態となるため、V
a電圧がPMOSトランジスタM
p1によるトランジスタスイッチSW
Mp1を通して出力容量素子C
outに伝達される。つまり、出力容量素子C
outの両端はV
aとなり(ただし容量素子C
1,C
2>出力容量素子C
out)、出力端子の電圧V
outは昇圧される。
【0175】
図14(b)の動作原理図は、
図13において丸付き符号2で示される時点の回路の動作状態を示している。丸付き符号aで示す点の電圧V
aは昇圧され、以下で示される電圧となる。
V
a=V
clk+V
c2(t)
【0176】
丸付き符号1で示される時点と同様に、丸付き符号2で示される時点において成立する回路(
図13(c),
図14(b)に対応)は、以下の状態変数方程式で記述することができる。
【0177】
【数13】
・・・(15)
【0178】
【数14】
・・・(16)
【0179】
【数15】
・・・(17)
【0180】
ただし、トランジスタスイッチSW
Mp1,SW
Mn2のオン抵抗をそれぞれR
Mp1,R
Mn2としている。
【0181】
上記した、丸付き符号1で示される時点と丸付き符号2で示される時点の状態変数方程式を各第1のスイッチ変数u
2(t)、(1−u
2(t))を用いて纏めると、各状態変数についてそれぞれ以下に示す1つの状態変数方程式で表すことができる。
【0182】
【数16】
・・・(18)
【0183】
【数17】
・・・(19)
【0184】
【数18】
・・・(20)
【0185】
ただし、NMOSトランジスタスイッチSW
Mn1,SW
Mn2のオン抵抗をそれぞれR
Mn1,R
Mn2とし、PMOSトランジスタスイッチSW
Mp1,SW
Mp2のオン抵抗をそれぞれR
Mp1,R
Mp2としている。
【0186】
図13(b)の回路から
図13(c)の回路への回路変化、あるいは、
図13(c)の回路から
図13(b)の回路への回路変化が起きる場合、NMOSトランジスタスイッチSW
Mn1とPMOSトランジスタスイッチSW
Mp1の両方、または、NMOSトランジスタスイッチSW
Mn2とPMOSトランジスタスイッチSW
Mp2の両方が同時にオン状態となる期間が、クロック信号が変化する期間で発生する。
【0187】
NMOSトランジスタスイッチSW
Mn1とPMOSトランジスタスイッチSW
Mp1、およびNMOSトランジスタスイッチSW
Mn2とPMOSトランジスタスイッチSW
Mp2はCMOSインバータ回路の構成であり、NMOSトランジスタスイッチとPMOSトランジスタスイッチの両方が同時にオン状態となる期間において、貫通電流に相当する漏れ電流が生じる。
【0188】
発明の回路シミュレーションでは、この漏れ電流の発生をモデル化するために、漏れ電流をクロック信号の切り替わり時のみの電流源として状態変数方程式に組み込む。
【0189】
図15は、スイッチが同時にオンしている期間のみ流れる漏れ電流を電流源I
leakに置き換えた回路構成を示している。また同時にオン状態となるスイッチは、
図14(a)または
図14(b)で示される通常状態にあるとして、漏れ電流を表す電流源だけが加わる形で表す。
【0190】
図15に示す回路について状態変数方程式を求めると、各状態変数について以下の状態変数方程式で表される。
【0191】
【数19】
・・・(21)
【0192】
【数20】
・・・(22)
【0193】
【数21】
・・・(23)
ただしI
leakは漏れ電流である。
【0194】
[実施例5]
スイッチ型チャージポンプは、多段構成とされる。
図16は多段構成のスイッチ型チャージポンプの一構成例を示しいている。
【0195】
クロック信号源は、クロック信号源V
CLK1,V
CLK3,V
CLK5のクロック信号電圧V
clk1,V
clk3,V
clk5は同相であり、対応するクロック信号源V
CLK2,V
CLK4,V
CLK6のクロック信号電圧V
clk2,V
clk4,V
clk6は逆相で駆動する。この場合、入力直流電圧V
in=5Vとして、クロック信号源V
CLK1,V
CLK2に0〜5Vのクロック信号電圧を、クロック信号源V
CLK3,V
CLK4に0〜10Vのクロック信号電圧を、クロック信号源V
CLK5,V
CLK6に0〜20Vのクロック信号電圧を入力すると、出力容量素子C
out1の電圧は10Vとなり、出力容量素子C
out2の電圧は20Vとなり、出力容量素子C
out3電圧は40Vとなる。
【0196】
回路のモデル化は、漏れ電流の数式化を含めて、実施例4の2段構成と同様に行うことができる。
【0197】
[実施例5の比較例]
図17は本発明の回路シミュレーションツールNSTVRでシミュレーションした結果と、アナログ処理のシミュレーションソフトウェアであるSPICEにより得られる結果との比較図である。
【0198】
図17中のNSTVRで示すシミュレーション結果は、MATLAB/Simulink(登録商標)の汎用数値演算プログラムに本発明の回路シミュレーション手法を適用したプログラム(NSTVR)で得たシミュレーション結果であり、
図17中のSPICEで示すシミュレーション結果は、アナログ回路のシミュレーションソフトであるSPICE(登録商標)を用いて得たシミュレーション結果である。
【0199】
入力直流電圧V
inを5Vとし、0Vから5Vまで立ち上げた場合の出力電圧V
outの変化を示している。出力電圧V
outを40Vとし、負荷電流I
outを零(無負荷という)としている。また、クロックパルスを1MHzとし、1ns刻みで0〜400μsで過渡解析を行っている。
【0200】
以下に、シミュレーション時間の比較を表2に示す。
【表2】
【0201】
本発明による過渡解析において、SPICEを用いた解析では約188秒のCPU時間を要し、一方、本発明の回路シミュレーションについてNSTVRを用いた解析では約37秒ほどであった。
【0202】
図17に示すシミュレーション結果では、出力電圧において約202mVの電圧差が生じている。この電圧差は、出力電圧40Vに対して約0.5%(=0.202/40)である。また、シミュレーション時間は約1/5(37秒/188秒)であって高速化が達成されている。この高速化の効果は、回路規模に応じてより顕著となることが期待される。
【0203】
したがって、
図17と表2に示すシミュレーション結果によれば、本発明の回路シミュレーション手法を汎用数値演算プログラム上に実現したプログラムであるNSTVRによる解析は、アナログ回路のシミュレーションソフトのSPICEによる解析と比較して高速であり、また、精度において殆んど変わらないことを示している。
【0204】
この実施例によれば、チャージポンプ回路においても本発明の回路シミュレーション手法を用いたNSTVRの適用が可能であり、種々のDC−DCコンバータにおいて各状態変数を1つの状態変数方程式によって、高速で正確にシミュレーションを行うことができることが確認される。
【0205】
[実施例6]
次に、昇降圧型DC−DCコンバータの例について
図18を用いて説明する。昇降圧型DC−DCコンバータは、昇圧および降圧が可能なDC−DCコンバータである。
【0206】
図18(a)において、昇降圧型DC−DCコンバータはQ号が0(ロー)の時にスイッチトランジスタM
pがオン状態となり、Q信号が1(ハイ)の時にスイッチトランジスタM
pがオフ状態となるため、
図18(b)に示すように2つの回路状態となる。
【0207】
図18(b)において、Q信号が0(ロー)の時には、スイッチトランジスタM
pがオン状態となる。この時、出力端子の出力電圧V
outは負であるので、ダイオードDはオフ状態となる。なお、R
Mp−onはスイッチトランジスタM
pのオン抵抗である。
【0208】
続いて、
図18(c)において、Q信号が1(ハイ)の時には、スイッチトランジスタM
pがオフ状態となるが、インダクタ素子Lには図中の矢印で示す方向に電流が流れ続けるためダイオードDはオン状態となり、出力端子には負の電圧が現れる。なお、ダイオードDの順方向電圧は流れる電流により変化するので、これを固定電圧と電流依存性を持つ抵抗により置き換えている。
【0209】
図18(b)の回路状態と
図18(c)の回路状態を切り替えるために各第1のスイッチ変数u
2(t)、(1−u
2(t))を用いる。また、
図18(c)でダイオードDに逆方向電流が流れないようにするために更に第2のスイッチ変数u
3を導入する。
【0210】
第1のスイッチ変数u
2(t)、(1−u
2(t))を導入する事で、
図18(a)に示す昇降圧型DC−DCコンバータの出力回路を、単一の状態変数方程式で記述することができる。
【0211】
以下に、
図18の構成例の昇降圧型DC−DCコンバータの状態変数方程式を示す。
【0212】
【数22】
・・・(24)
【0213】
【数23】
・・・(25)
【0214】
【数24】
・・・(26)
【0215】
[実施例7]
次に、昇圧型DC−DCコンバータの例について
図19を用いて説明する。昇圧型DC−DCコンバータは、実施例6の昇降圧型DC−DCコンバータの場合と同様にしてモデル化して状態変数方程式を形成し、シミュレーションを行うことができる。
【0216】
図19(a)において、昇圧型DC−DCコンバータは、Q信号が1(ハイ)の時にスイッチトランジスタM
nがオン状態となり、Q信号が0(ロー)の時にスイッチトランジスタM
nがオフ状態となるため、
図19(b)に示すように2つの回路状態となる。
【0217】
図19(b)において、Q信号が1(ハイ)の時にスイッチトランジスタM
nがオン状態となり、ダイオードDは逆バイアス状態でオフ状態となる。なお、R
Mn−onはスイッチトランジスタM
nのオン抵抗である。
【0218】
続いて
図19(c)に示すように、Q信号が0(ロー)の時にはスイッチトランジスタM
nがオフ状態となるが、インダクタ素子Lには図中の矢印の方向に電流が流れ続けるためダイオードDはオン状態となり、出力端子には入力直流電圧V
inから昇圧された電圧が現れる。
図19ではダイオードDの順方向電圧は流れる電流により変化するので、これを固定電圧と電流依存性のある抵抗により置き換えている。
【0219】
図19(b)の回路状態と
図19(c)の回路状態を切り替えるために各第1のスイッチ変数u
2(t)、(1−u
2(t))を用いる。また、
図19(c)でダイオードDに逆方向電流が流れないようにするために更に第2のスイッチ変数u
3(t)を導入する。
【0220】
各第1のスイッチ変数u
2(t)、(1−u
2(t))を導入する事で、
図20(a)に示す昇圧型DC−DCコンバータの出力回路を、単一の状態変数方程式で記述することができる。
【0221】
以上のように本発明の回路シミュレーション手法を汎用の数値演算プログラムに適用したNSTVRプログラムによって、ディクソン(Dickson)型チャージポンプ、スイッチ(SW)型チャージポンプ、昇降圧型DC−DCコンバータ、昇圧型DC−DCコンバータおよび降圧型DC−DCコンバータなどの電源システムについて、過渡解析および周波数特性のシミュレーションを、高速で忠実にシミュレーションを行うことができる。