【文献】
寺内毅 外2名,縮環ドナー分子を用いた塩橋型分子性導体の開発,日本化学会第92春季年会(2012)講演予稿集IV,2012年 3月 9日,p.1642(2PA-118)
【文献】
古川貢 外4名,磁気共鳴法によるTTPCOO系の電子状態研究,日本物理学会講演概要集,2012年 8月24日,第67巻第2号(2012年秋季大会)第4分冊,p. 801(21aEB-7)
【文献】
Xingyuan Yang et al.,A New ex-TTF-Based Organogelator: Formation of Organogels and Tuning with Fullerene,Langmuir,2010年,26(14),pp. 11720-11725
【文献】
TERAUCHI et al.,Protonic defect induced carrier doping in TTFCOO-NH4+: Tunable doping level by solvent,Synthetic Metals,2012年 2月25日,162,p.531-535
【文献】
Yuka Kobayashi et al.,Hydrogen-Bonding-Assisted Self-Doping in Tetrathiafulvalene(TTF) Conductor,J. AM. CHEM. SOC.,2009年,131,pp. 9995-10002
【文献】
KAZUO TANAKA et al.,Transparent Conductive Films Based on Polymer Composites Containing the Mixed-Valence Tetrathiafulvalene Nanofibers,Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry,2009年,Vol. 47,pp. 6441-6450
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水素結合ネットワーク内にプロトン欠陥を含む有機化合物であって、損失した電荷を補うためにラジカルカチオンまたはラジカルアニオンを発生した有機化合物からなる請求項4又は5に記載の金属化された有機物。
水素結合ネットワーク中でカチオンとアニオンの存在比が1:1から外れることにより電荷が不釣り合いとなり、損失した電荷を補うためにラジカルカチオンまたはラジカルアニオンを発生した請求項4又は5に記載の金属化された有機物。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
本実施形態では、稀少金属を用いることなく、典型元素のみから成る有機物で高い透過率を有する電極材料を製造する方法などについて説明する。有機物は原料が安価であるだけでなく、軽量で柔軟な特性を有するため、工業的な利得が大きい。この方法によれば、金属化しただけで有機透明電極を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態で示す化合物は、広域な波長範囲の光に対して高い透過率を有する。
【0036】
有機透明電極の材料は必ずしも有機金属に限られるものではないが、有機金属であれば有機透明電極として使用できる。したがって、以下では、有機金属の製造方法などについて多くのスペースを割いて記載する。
【0037】
本実施形態では、電解酸化法や化学ドーピング法を用いないで有機金属を合成する新しい製造方法を用いる。ここでは、縮環した含硫黄π化合物(縮環テトラチアフルバレン)にカルボン酸官能基を導入し、アンモニア溶液を添加した有機溶媒から再結晶するだけで金属化した有機物を得ることができる。
【0038】
この製造方法は、電解酸化法に必要とされる大掛かりな装置を必要としないだけでなく、化学ドーピングの際に発生する物質の劣化や不安定性を併発しないために、安定な有機金属が一度に大量に簡便に得られる。故に、工業スケールでの大量生産が可能となる画期的な製造方法である。これにより、金属資源の代替物質としての有機材料の可能性を大きく拡げるものである。
【0039】
具体的には、本発明者らは、高い伝導性を有する有機アンモニウム塩を電解酸化やドーパントの添加なしで合成した。電子輸送や分光分析により、この塩は、少なくとも4Kまで金属であり、さらに、室温における磁化率は典型的な電荷移動錯体よりも1桁高く、25K以下で反強磁性的な振る舞いを見せるものである。
【0041】
純粋に軽元素からなる有機金属は、学術的にも工業的にも大変注目されるものである。しかしながら、工業的規模の応用を考えると電解酸化なしで合成することが望ましい。
【0042】
【非特許文献1】(a) Mulliken, R. S. J. Am. Chem. Soc. 1952, 74, 811-824.
【非特許文献2】(b) Akamatsu, H.; Inokuchi, H.;Matsunaga, Y. Nature 1954, 4395, 168-169.
【非特許文献3】(c) Shirakawa, H.; Louis,E. J.; MacDiarmid, A. G.; Chiang, C. K.; Heeger, A. J. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1977, 578.
【非特許文献4】(d) Batail, P. Ed. Chem.Rev. 2004, 104, 11 (special issue for molecular conductors), 4887-5782.
【非特許文献5】(e) Walzer, K.; Maennig, B.; Pfeiffer, M.; Leo, K. Chem. Rev. 2007,107, 1233-1271.
【非特許文献6】(f) Kirtley, J. R.;Mann-hart, J. Nature Mat. 2008, 7, 520-521.
【0043】
本発明者らは、ある電子供与分子と共存したアンモニウム塩が自発的にドープされ、アンモニウム塩形成段階でホールキャリアを発生することを近年見出した。
【非特許文献7】(a) Kobayashi, Y.; Yoshioka, M.; Saigo, K.; Hashizume, D.;Ogura, T. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 9997-10002.
【非特許文献8】(b) Kobayashi, Y.; Yoshioka, M.; Saigo, K.; Hashizume, D.; Ogura, T. Physica B 2010, 405, S23-S26.
【非特許文献9】(c) Kobayashi, Y.; Suzuki, A.; Yamada, Y.;Saigo, K.; Shibue, T. Syn. Met. 2010, 160, 575-583,
【非特許文献10】(d) Furukawa, K.;Nakamura, T.; Kobayashi, Y.; Ogura, T. J. Phys. Soc. Jpn. 2010, 79, 053701-4.
【非特許文献11】(e) Terauchi, T.;Kobayashi, Y.; Iwai, H.; Tanaka, A. Syn. Met. 2012, 162, 531-535.
【0044】
このドーピング法では、(これまでの伝導性高分子のように)ドーパントの添加を必要としない代わりに、アンモニウムイオン部のプロトンが一部欠損することにより電荷の中性を保たれている。テトラチアフルバレンカルボン酸アンモニウム塩(TTFCOO
-NH
4+)
1-x(TTF
・+COO
-NH
3)
x,
x = 0.16, (本明細書ではTTFCOONH
4と略す)は最初に報告されたホールドープの半導体であり、キャリア発生の機構や伝導性発現の起源などが説明された。さらにごく最近には、テトラチアフルバレンカルボン酸アニリニウム塩の単結晶が得られ、このドーピング現象が表面効果によるものだけでなく物質のバルクの性質であることが明らかとなった。これらの事実は、“電荷欠損”ドーパントは電解酸化を用いずに新しい有機金属を創製する高い可能性を示す。
【0045】
本発明者らは、新規の分子系テトラチアペンタレン(縮環テトラチアフルバレン)カルボン酸アンモニウム塩(TTPCOO)
2NH
4 を設計した。ここでは、π軌道部分の重なりを拡げることにより、原子価バンドのバンド幅を広くする狙いがある。
[化合物の物性など]
【0046】
以下では、特定の化合物を例示しながら、それらの化合物の物性などを詳細に説明する。
【0047】
図1は、合成スキームを示す図である。前駆体であるTTPCOOHは合成経路の全段階で一度も金属触媒を用いずに合成された。塩は、TTPCOOHとアンモニア水溶液を有機溶媒(THF/1,4-ジオキサン/ジエチルエーテル)から再結晶することによって92%の収率で黒茶色固体として得られる。
【0048】
その組成は酸:塩基=2:1である。すべてのTTPCOOHがアンモニウム塩へと変換されていることを
1H-NMRスペクトルにより確認した。X線光電子分光でこの塩のN(1s)内殻レベルの測定を行うと、401.3eV, 399.6 eVにピークを有し、これがアンモニウムイオンとアンモニアと同定された。アンモニアは6%程度であることから、正式な記述は[(TTPCOO
-NH
4+)(TTPCOOH)]
1-x(TTP
・+COO
-NH
3)
x,
x = 0.06. となる。一方、ESRスペクトルは32%の大きなラジカルスピン濃度を示す。これはg値2.00575からTTPラジカルカチオンと同定された。
【0049】
次に、本発明者らが合成した3種の縮環テトラチアフルバレン誘導体を示す。
【0050】
1、TTPCOOH, TTPCOOD
【化1】
【0051】
2、TTP(COOH)
2, TTP(COOD)
2
【化2】
【0052】
3、(TTPCOO)
2NH
4, (TTPCOO)
2ND
4
【化3】
【0053】
ここで、
図2は、(化1)、(化2)及び(化3)の電気抵抗の温度依存性を示す図である。そのうち、(化2)及び(化3)は、粉末を加圧成形したペレット試料において金属化が確認された。重水素置換体についてはほぼ同じ挙動であるため、(化2)の例のみ示す。
【0054】
図3は、(化1)、(化2)及び(化3)の室温におけるESRスペクトルを示す図である。(化1)、(化2)及び(化3)については、室温で電子スピン共鳴(ESR)により標準物質DPPHを基準としてスピン濃度を定量するとそれぞれ、37%, 32%, 12%である。
【0055】
図4は、(化3)の窒素原子内殻レベル(1s)の室温におけるXPSスペクトルを示す図である。金属化の起源は、塩橋結合内に生じるプロトン欠陥の損失電荷を補填するためにセルフドープされるためである。そのことは、(化3)(TTPCOO)
2NH
4についてX線光電子分光法により確認された。ここでは、物質中にNH
3種を6%含むため、これがプロトン欠陥の証拠となる。
【0056】
言い換えれば、
図4は、化3のN(1s)の結合エネルギーを示している。最も代表的な物質である化3に含まれるプロトン欠陥量は、光電子分光法(XPS)による窒素1s軌道のNH
3種の混入割合より6%と見積もられる。このプロトン欠陥の存在が結晶中に分子スピンを生じさせる。
【0057】
図5は、(TTPCOO)
2NH
4とTTPCOOHの規格化された近赤外吸収スペクトルを示す図である。これらはいずれも800nm以上に混合原子価状態にあるTTP部の分子間遷移を示す大きな吸収がある。これらは共にフリーキャリアを持ち、分子配列中で非局在化した両性イオンラジカル種[(TTP)
0.5+]COO
-と関連する。自己プロトン化種TTPH
+COO
-はTTPCOOHの中に発生し、アンモニウム塩でプロトン欠陥が担った役割を代替していると考えられる。
【0058】
図6は、(TTPCOO)
2NH
4とTTPCOOHとの電気的性質を示す図である。電気抵抗は加圧成形したサンプルを用いて金ペーストを接触端子として用いて4端子法により4から320Kまで測定した(
図6a)。TTPCOOHの抵抗が100K以下で急峻に上昇していて、半導体的である。一方、(TTPCOO)
2NH
4の抵抗値は測定温度範囲でほとんど変わらない。25K以下で緩やかに抵抗値が上昇しているのは、ペレットサンプル内での粒界抵抗値の増大によるものである。室温における直流伝導度(dc伝導度)は(TTPCOO)
2NH
4が2.3 S/cmで、TTPCOOHは1.2
S/cmである。これらの伝導度はTTFCOONH
4のペレットサンプルよりも4桁高い値である。
【0059】
図6bは、0.1Tの磁場を印加した際の磁化率の温度依存性を示す。有機物の内殻電子由来の反磁性効果は差し引いてある。室温における磁化率の絶対値はTTPCOOH
が4.0 x 10
-4 emu/mol, (TTPCOO)
2NH
4が1.5 x 10
-3 emu/molで、後者は典型的な純粋有機物からなる電荷移動錯体よりも1桁高い値である。さらに、後者は25K以下で反磁性的振る舞いを示す。広幅固体
1H-NMR測定では、(TTPCOO)
2NH
4の核スピンの緩和時間の温度依存性がT
1-1に従っており、金属化していることを証明している。
【0060】
TTP骨格はその拡張されたπ共役部により2次元に集積する傾向があり、このことが両性イオンラジカル種を分子配列中で非局在化させ、金属化を可能にしたのであろう。
【0061】
次に、分子集合構造の概要などについて説明する。
【0062】
図7は、分子間結合と分子間相互作用に着目した立体構造を示す模式図である。図に示すとおり、水素結合ネットワークが形成されている。
【0063】
電気伝導に関しては、重水素化サンプルの誘電分散の周波数依存性から、水素結合が電子伝導にあらわに関与していることが明らかとなっている。
【0064】
アンモニウムは物性発現の鍵になるだけでなく、TTF(ドナー)分子をキャリア輸送現象に適した分子配列に有効に自己集積させる役割を担っている。
【0065】
それらの化合物は、主として、塩橋結合内に生じるプロトン欠陥の損失電荷を補填するためにキャリアドープされる有機物である。
【0066】
有機ラジカル種は、ラジカルスピンの電子状態がHOMO準位にあるために反応性に富み、空気中の酸素等の外的要因により分解する傾向が強い。そこで、有機ラジカル種を化学的に安定な電子状態にするために、一般にシアノ基やニトロ基などの電子吸引性基を分子中に導入して安定化する工夫がなされる。そのように、電子状態に工夫を施して空気中において長期保存しても、合成当初の分子の組成や電子状態を保ち、容易に分解しないラジカルスピンを発生した状態を「ラジカル種が安定に発生」とここで表現している。
【0067】
遷移金属元素のd軌道や希土類金属元素のf軌道は、最外殻のs軌道またはp軌道より内殻に位置し、高い局在性を有する原子軌道であり、より低い軌道エネルギーを有する。このd軌道やf軌道の電子状態を擬似閉殻配置というが、これらの軌道の高い局在性から、そこに占有されたd電子やf電子は化学結合に関与しない傾向にあるため、奇電子を安定化する。擬似閉殻配置をとり、化学結合に参加せず、強く安定化された奇電子の性質が磁性の原因になることが多い。擬似閉殻配置についてはあらためて後述する。
【0068】
なお、有機金属としては、例えば、下記のものが好ましい。
【0069】
(1)電子ドナーもしくは電子アクセプター分子中にプロトン化されうる多重結合を有する塩橋物質で、塩橋形成の際に全体の0.1%以上のラジカル種が安定に発生するもの。さらに好ましくは、ラジカルスピンの電子状態が擬似閉殻配置を有するもの。
【0070】
その根拠は、0.1%以上の濃度でラジカルスピンが発生し、その電子状態が擬似閉殻配置を有する場合には、ラジカルスピン上の電子がフリーキャリアとして動き回り、10
-5S/cm程度以上の電子伝導性を示すようになることが実験によって確認されているためである。
【0071】
(2)水素結合自己集積部を含み、分子量20000以下の低分子量有機化合物にブレンステッド酸または塩基を添加することにより全体の0.1%以上のラジカル種が安定に発生する物質。さらに好ましくは、ラジカルスピンの電子状態が擬似閉殻配置を有するもの。
【0072】
高分子であっても一部水素結合官能基による自己集積部位を有することが好ましく、これを満たすためには分子量20000以下が望ましい。磁気特性を十分に発揮するためには、プロトン欠陥が物質中に均一に導入され、均一なドープ状態が得られることが望ましく、極端に大きい分子量では難易度が上昇することが推測されるため、分子量は10000以下であることがさらに好ましい。
【0073】
次に、下記の2つの化合物の物性について説明する。
【0074】
化合物A: テトラチアフルバレン-2-カルボン酸アニリン塩単結晶 (TTFCOONH
3Ph)
化合物B: テトラチアフルバレン-2-カルボン酸ヒドロキシアミン塩単結晶 (TTFCOONH
3OH)
【0075】
図13は、化合物A及び化合物Bの紫外可視近赤外領域における光学透過率を示す図である。図によれば、これらはいずれも、500
nm付近から高い透過率を示し、530 nmにおいてはいずれも80%を超える高い透過率を有する。また、可視-近赤外領域に至るまで70%前後の透過率を示すことから、光の透過率に関しては実用レベルである。
【0076】
図14は、化合物A及び化合物Bの電気伝導度の温度依存性を示す図である。図によれば、室温ではいずれも0.1 S/cm程度である。共に熱活性化型の温度依存性を示し、バンドギャップはそれぞれ0.11 eV(1)と0.13 eV(2)である。
【0077】
次に、下記の化合物の物性について説明する。
【化2】
【0078】
図15は、(化2)の紫外可視近赤外領域における光学透過率を示す図である。図によれば、これらはいずれも、350nm付近から80%以上の高い透過率を有する。この化合物もまた、光の透過率に関しては実用レベルである。
【0079】
光学透過率を測定するに際し使用した試料は薄膜であった。TTP(COOH)
2有機透明薄膜の作製法は次のとおりである。
【0080】
TTP(COOH)
2 (0.47 mg,
1 mmol)をジメチルスルフォキシド(dimethyl sulfoxide(DMSO), 5 mL)に溶解させて調整した溶液をガラス基板上に0.1 μL-1μLを滴下することで300-2000 nmの波長領域で透過率80%を超える透明薄膜電極を得た。なお、図中の写真は、2 μLを滴下して作製された薄膜電極である。
【0082】
擬似閉殻配置は、キャリア発生の鍵となる酸と塩基とからなる水素結合ネットワークによる自己集積化によって有機ラジカル種を閉殻分子配列の間に埋め込むというシンプルな手法により実現している。擬似閉殻配置(quasi-closed-shell configuration)とは、例えば、遷移金属d軌道や特に希土類金属f軌道で見られる電子配置のことであり、この配置では、スピンは化学結合に関与せず、低い軌道エネルギーを有し、他のエネルギー状態の高い電子に遮蔽されているため原子軌道内部に孤立、局在する。これは、固体状態において強い電子相関効果を誘引し、強相関系金属に特有の種々の高い物性発現の源となる。また、この系のことは、強い電子相関効果から電子の有効質量を増大させるため「重い電子系」とも呼ばれる。これまで説明してきた一連の化合物群は、有機固体で初めて実現されたf電子系金属に位置づけられる。
【0083】
TTPCOO・NH
4塩の4量体中に1分子のラジカル種TTP
・+COO・NH
4が埋没されたモデルを用いた非制限Hartree-Fock法(UHF)/6-31G*による電子状態について説明する。ラジカル種の単占有軌道(singly occupied molecular orbital: SOMO)はフロンティア軌道にはおらず、より安定化された軌道に局在することが明らかとなった。この擬似閉殻配置は、ラジカル種が水素結合を利用した超分子配列中に埋め込まれた形を有する化合物について発現する。
【0084】
例として、有機金属としての効果を発現すると考えられるものを以下列挙する。式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は同一であっても異なっていてもよい。これらの化合物が上述の合成した化合物と同様に有機金属としての効果を奏する理由は、これまでの物質科学の知見から、これらの物質群は水素結合による自己集積が可能であり、かつ、そこにプロトン欠陥を発生しうる可能性が高いこと、そのことが同様に拡張したπ共役部位に非局在化した分子スピンを発生して有機金属となることが予想されるからである。
【化4A】
【化5A】
【0085】
有機金属となる材料であれば有機透明電極として使用できる。
【0086】
さらに、有機金属としての特性を備えていなくても有機透明電極になる化合物がある。これらの化合物もまた、有機透明電極としての使用できる理由は、室温付近において材料としての応用範囲が広い0.0001 S/cm程度以上の伝導率を保つことが可能であるからである。
【0087】
これらの化合物の例として、有機透明電極としての効果を発現すると考えられるものを以下列挙する。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0088】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【0089】
各化合物中のR
1、R
2、R
3、R
4及びR’などの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0091】
次に、化合物の具体的な合成方法について説明する。
【0092】
図8は、 合成スキームを示す図である。
【0093】
Methyl 2-{5-(1,3-dithiol-2-ylidene)-[1,3]dithiolo[4,5-d][1,3]dithiol-2-ylidene}-1,3-dithiole-4-carboxylate
(10). 4
1) (45.8 mg, 0.238 mmol) 及び9
2) (58.4 mg, 0.198 mmol) をtrimethyl phosphite (3 ml) と トルエン (3
ml)の混合溶媒に懸濁させた。120 °C で15時間加熱還流後、室温まで放冷し、n-hexane (6 ml)を加えた。5°C
で2時間静置した後、メンブランフィルター (H010A047A, ADVANTEC) を用いて析出物を濾過した。濾物をトルエン、メタノール、クロロホルムの順に洗浄した。濾物を減圧下で乾燥させ、茶色固体10 (35.8 mg, 9を基準とした収率41%)を得た。
【0094】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6): δ3.76 (s, 3H), 6.80 (s, 2H), 7.88 (s, 1H);
Anal. calcd. for C
12H
6O
2S
8: C, 32.85;
H, 1.38. Found: C, 32.47; H, 1.18.
【0095】
2-{5-(1,3-Dithiol-2-ylidene)-[1,3]dithiolo[4,5-d][1,3]dithiol-2-ylidene}-1,3-dithiole-4-carboxylic
acid (1). 10 (125 mg, 0.285 mmol) を1,4-dioxane (50 ml)、THF (50 ml)、MeOH (50 ml)の混合溶媒に懸濁させ、2N LiOH (28.5 ml, 57.0 mmol)を加えた。室温で15時間激しく撹拌した後、2N HCl (28.5 ml)をゆっくり滴下し、pHを確認しながらさらに2N HCl (2.0 ml)を加えpH 2-3にした。室温で20分間撹拌した後、メンブランフィルター (H010A047A, ADVANTEC) を用いて濾過した。濾物を水、メタノール、クロロホルムの順に洗浄し、減圧下で乾燥させて目的の化合物1 (110 mg, 91%) を光沢のある銀赤色フィルム状固体として得た。
【0096】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6): δ6.80 (s, 2H), 7.73 (s, 1H); Anal. calcd.
for C
11H
4O
2S
8: C, 31.11; H, 0.95. Found:
C, 30.76; H, 0.82.
【0097】
Ammonium 2-{5-(1,3-dithiol-2-ylidene)-[1,3]dithiolo[4,5-d][1,3]dithiol-2-ylidene}-1,3-dithiole-4-carboxylate
(1-NH
4+). 細かくすりつぶした1 (140 mg, 0.330 mmol) を1,4-dioxane
(31.5 ml)、THF (31.5 ml)、Et
2O (7.0 ml)の混合溶媒に懸濁させ15秒間超音波を照射した。さらに28% aq NH
3 (2.8 ml)を加え、15秒間超音波を照射した。室温で14時間激しく撹拌した後、5°C
で1時間静置した。反応混合液をメンブランフィルター (H010A047A, ADVANTEC) を用いて濾過した。濾物を水、THF、Et
2Oの順に洗浄し、減圧下で乾燥させて目的の化合物1-NH
4+
(134 mg, 92%) を暗赤色固体として得た。
【0098】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6): δ6.69 (brs, 1H), 6.79 (s, 2H), 6.96 (brs,
4H); Anal. calcd. for ( TTFCOOH:NH3=2:1; C
22H
11O
4NS
16):
C, 30.50; H, 1.28; N, 1.62. Found: C, 30.56; H, 1.03; N, 1.41.
【0099】
2-{5-(1,3-Dithiol-2-ylidene)-[1,3]dithiolo[4,5-d][1,3]dithiol-2-ylidene}-1,3-dithiole-4,5-dicarboxylic
acid (2). 11
2a) (20 mg, 0.0403 mmol) を1,4-dioxane (4 ml)、THF (2 ml)、MeOH (2 ml) 、toluene (2 ml)、DMF (1 ml)の混合溶媒に懸濁させ、2N LiOH (800μl, 1.60 mmol)を加えた。室温で3日間激しく撹拌した後、2N HCl (800μl)をゆっくり滴下し、pHを確認しながらさらに2N HCl (100μl)を加えpH 4にした。室温で20分間撹拌した後、メンブランフィルター (H010A047A, ADVANTEC) を用いて濾過した。濾物を水、メタノール、クロロホルムの順に洗浄し、減圧下で乾燥させて目的の化合物2 (17.2 mg, 91%) をこげ茶色固体として得た。
【0100】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6): δ6.79 (s, 2H); Anal. calcd. for C
12H
4O
4S
8:
C, 30.75; H, 0.86. Found: C, 30.79; H, 1.19.
【0101】
1) Pittman, Jr. C. U.; Narita, M.; Liang, Y. F. J. Org. Chem. 1976, 41, 2855-2860.
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(b) Misaki, Y.; Matsui, T.; Kawakami, K.; Fujiwara, H.; Yamabe, T.; Mori, T.; Mori, H.; Tanaka, S.; Shiro, M. Synth. Met. 1995, 70, 1149-1150.
(c) Aragaki, M.; Mori, T.; Misaki, Y.; Tanaka, K.; Yamabe, T. Synth. Met. 1999, 102, 1601-1602.
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【0102】
図9、
図10、
図11及び
図12は、NMRスペクトルを示す図である。化合物の構造とともに図示する。
【0103】
なお、実験は自発的にキャリアドープされた塩の多結晶を加圧成型してペレット状にした小片を室温条件でESR測定し、そのESRシグナルを標準物質である2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(2,2-diphenyl -1-picrylhydrazyl) (通称DPPH)のピーク面積と比べてスピンの定量を行ったものである。使用したサンプル量はいずれも規格化されている。
【0104】
[置換TTPカルボン酸誘導体の製造方法]
【0105】
次に、本発明の置換TTPカルボン酸誘導体の製造方法について説明する。
本発明の置換TTPカルボン酸は、例えば、次に示す製造法により製造することができる。
【化13】
【0106】
(式中、R
2 は、水素原子、アルキル基又はアリール基等を表す。)
【0107】
(工程1)
化合物(II)と化合物(III)を不活性溶媒の存在下又は非存在下、還元剤の存在下で反応させることにより、化合物(IV)を製造することができる。化合物(II)は、市販品を使用するか、又は公知の方法( 例えば、P. Wu, G. Saito, K. Imaeda, Z. Shi, T. Mori, T. Enoki, H. Inokuchi, Chem. Lett., 15, 441-444 (1986), E. Gomar-Nadal, C. Rovira, D. B. Amabilino, Tetrahedron, 62, 3370-3379 (2006)など) 又はこれに記載の方法に準じて製造することができる。化合物(III)は、市販品を使用するか、又は公知の方法( 例えば、H. Muller, C. Jouan, F. Salhi, Synth. Met., 85, 1457-1458 (1997)など) 又はこれに記載の方法に準じて製造することができる。
【0108】
ここで必要に応じて使用される不活性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル、N , N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルりん酸トリアミド等の極性有機溶媒又はこれらの有機溶媒の混合溶媒を好適に挙げることができる。
還元剤としては、例えば、亜りん酸トリメチルや、亜りん酸トリエチル、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン等の有機還元物質、亜鉛や錫、アルミニウム等の金属類又は無機塩類が好適に挙げられる
【0109】
反応温度は、主に原料化合物又は使用される溶媒の種類によって異なるが、通常、0℃〜 200℃ で行われるが、好適には、室温〜120℃
である。
反応時間は、主に反応温度、原料化合物又は使用される溶媒の種類によって異なるが、通常、1時間〜48時間であり、好適には 2時間〜12時間である。
【0110】
(工程2)
工程1により得た化合物(IV)を、不活性溶媒中、塩基の存在下で反応させた後、不活性溶媒中、カルボニル化剤の存在下で反応させることにより、化合物(V)を製造することができる。
ここで使用される不活性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、N , N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルりん酸トリアミド等の極性有機溶媒又はこれらの有機溶媒の混合溶媒を好適に挙げることができる。
塩基としては、例えば、トリエチルアミンや、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基類、炭酸カリウムや、炭酸水素ナトリウム、水酸化セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の無機塩基類、ナトリウムメトキシド、カリウムt -ブトキシド等の金属アルコキシド等が好適に挙げられる。
カルボニル化剤としては、例えば、炭酸ビス(トリクロロメチル)や、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)、N , N’-カルボニルジイミダゾール等が好適に挙げられる。
【0111】
反応温度は、主に原料化合物又は使用される溶媒の種類によって異なるが、通常、0℃〜 200℃ で行われるが、好適には、室温〜60℃
である。
反応時間は、主に反応温度、原料化合物又は使用される溶媒の種類によって異なるが、通常、1時間〜48時間であり、好適には 2時間〜24時間である。
【0112】
(工程3)
工程2により得た化合物(V)と、化合物(VI)を、工程1 と同様に、不活性溶媒の存在下又は非存在下、還元剤の存在下で反応させることにより、化合物(VII)を製造することができる。化合物(VI)は、市販品を使用するか、又は公知の方法( 例えば、M. Ngounda, H. L. Bozec, P. Dixneuf, J. Org. Chem., 47, 4000-4002 (1982), F. M. Benitez, J. R. Grunwell, J. Org. Chem., 43, 2917-2918 (1978), L. R. Melby, H. D. Hartzler, W. A. Sheppard, J. Org. Chem., 39, 2456-2458 (1974)など) 又はこれに記載の方法に準じて製造することができる。
【0113】
(工程4)
工程3により得た化合物(VII)を、不活性溶媒中、塩基の存在下で反応させることにより、化合物(VIII)を製造することができる。
ここで、不活性溶媒としては、例えば、メタノールや、エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、N , N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルりん酸トリアミド等の極性有機溶媒又はこれらの有機溶媒と水の混合溶媒を好適に挙げることができる。
塩基としては、例えば、トリエチルアミンや、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基類、炭酸カリウムや、炭酸水素ナトリウム、水酸化セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の無機塩基類、ナトリウムメトキシド、カリウムt -ブトキシド等の金属アルコキシド等が好適に挙げられる。
【0114】
反応温度は、主に原料化合物又は使用される溶媒の種類によって異なるが、通常、0℃〜 200℃ で行われるが、好適には、室温〜60℃
である。
反応時間は、主に反応温度、原料化合物又は使用される溶媒の種類によって異なるが、通常、1時間〜120時間であり、好適には12時間〜72時間である。
[実施例]
【0115】
以下に、本発明について、実施例及び試験例を挙げて、更に具体的に詳述するが、本発明は、これらの実施例及び試験例によって何等限定されるものではない。尚、略号として、m.p. は融点を表す。
【0116】
<実施例1>
<ジメチル 2-[5-{4,5-ビス(メチルチオ)-1,3-ジチオール-2-イリデン}-[1,3]ジチオロ[4,5-d] [1,3]ジチオール-2-イリデン]-1,3-ジチオール- 4,5-ジカルボキシレート(以下の表に示す化合物番号2の化合物2( 以下、同様に表示))の調製>
(a) 2,3-ビス(2-シアノエチルチオ)-6,7-ビス(メチルチオ)-テトラチアフルバレン(化合物(a))の調製(工程1)
亜りん酸トリメチル(124 ml)に、4,5-ビス(メチルチオ)-1,3-ジチオール-2-チオン(3.26 g, 14.4 mmol)(化合物(II)に対応)と、4,5-ビス(2-シアノエチルチオ)-1, 3-ジチオール-2-オン(5.0 g, 17.3 mmol) (化合物(III)に対応)を室温で加えた。120℃で3時間撹拌した後、不溶物を濾過により除去した。濾液を減圧乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(100%トルエン〜トルエン:酢酸エチル=10:1で溶出)により精製し、表題の化合物(a)(4.59 g, 68.3%)を茶色固体として得た。更に、トルエン/酢酸エチルから再結晶することにより、赤茶色針状結晶の表題化合物(a)を得た。
m.p. 118-121 °C;
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.09 (t, J = 7.1 Hz, 4H), 2.75 (t, J = 7.1 Hz, 4H), 2.44 (s, 6H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3): δ = 128.0, 127.6, 117.4, 114.6, 107.7, 31.3, 19.2, 18.9; IR (KBr) 2921, 2246, 1499, 1427, 1314, 1276, 1231, 975, 957, 896, 774 cm
-1; Anal. Calcd for C
14H
14N
2S
8: C, 36.02; H, 3.02; N, 6.00; Found: C 36.09; H, 2.70; N, 5.86.
(b) 5-(4,5-ビス(メチルチオ)-1,3-ジチオール-2-イリデン)-1,3,4,6-テトラチアペンタレン-2-オン(化合物(b))の調製(工程2)
化合物(a) (1.00 g, 2.14 mmol)(化合物(IV)に対応)、アセトン(10 ml)及びメタノール(10 ml)の混合懸濁液に、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(1.0 ml, 5.0 mmol)を加えた。室温で30分間撹拌後、 得られた赤色溶液を0℃に冷却した。予めメタノール(5 ml)に溶解させた無水塩化亜鉛(175 mg, 1.28 mmol)及びメタノール(5 ml)に溶解させたテトラブチルアンモニウムブロミド(830 mg, 2.57 mmol) を加えた後、室温で20分間撹拌した。溶媒を減圧下留去した後、非イオン水(30 ml)を加え懸濁させ、懸濁液を濾過し、漏斗上に得られた固形物を非イオン水及びメタノールで洗浄後、取り出し真空乾燥させた。これにテトラヒドロフラン(25 ml)を加え懸濁させ、0℃に冷却後、予めテトラヒドロフラン(5 ml)に溶解させた炭酸ビス(トリクロロメチル)(520 mg, 1.75 mmol)を加えた。室温で 一晩撹拌後し、トルエン (30 ml) 及びメタノール(10 ml)を加え希釈し10分間撹拌した後、溶媒を減圧下留去した。さらに、非イオン水(20 ml) 及びメタノール(20 ml)を加え室温で20分間撹拌した。生じた懸濁液を濾過し、漏斗上に得られた固形物を非イオン水及びメタノールで洗浄後、取り出して真空乾燥させた。これにジエチルエーテル(250 ml) を加え、20秒間超音波を照射し、室温で10分間撹拌した。生じた懸濁液を濾過し、漏斗上に得られた固形物をジエチルエーテルで洗浄後、取り出し真空乾燥させることにより、表題の化合物(b)( 388 mg, 46.9%)を茶色粉末として得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 2.44 (s, 6H); IR (KBr) 2918, 1667, 1618, 1428, 967, 893, 881, 764, 749 cm
-1; Anal. Calcd for C
9H
6OS
8: C, 27.96; H, 1.56; Found: C 27.65; H, 1.21.
(c) ジメチル 2-[5-{4,5-ビス(メチルチオ)-1,3-ジチオール-2-イリデン}-[1,3]ジチオロ[4,5-d] [1,3]ジチオール-2-イリデン]-1,3-ジチオール- 4,5-ジカルボキシレート(化合物2)の調製(工程3)
亜りん酸トリメチル(50 ml)に、化合物(b) (1.00 g, 2.59 mmol)(化合物(V)に対応)と1,3-ジチオール-2-チオン-4,5-ジカルボキシレート (1.00 g, 3.99 mmol) (化合物(VI)に対応)を室温で加えた。120℃で14時間撹拌した後、室温に戻し溶媒を減圧下留去した。残渣をジエチルエーテル(50 ml)に懸濁させ、室温で30分間撹拌した。この懸濁液を濾過し、漏斗上に得られた固形物をジエチルエーテルで洗浄した。この固形物を取り出してクロロホルム(350 ml)に溶解させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエンで溶出)により精製し、表題の化合物1(413 mg, 27.0%)を得た。更に、クロロホルムから再結晶することにより、こげ茶色平板状結晶の化合物2を得た。
m.p. 188 °C (分解);
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.85 (s, 6H), 2.43 (s, 6H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3): δ=159.7, 131.9, 127.7, 116.3, 115.9, 115.3, 113.7, 113.0, 53.5, 19.3; IR (KBr) 2953, 1730, 1709, 1574, 1433, 1295, 1263, 1189, 1090, 1034, 764 cm
-1; Anal. Calcd for C
16H
12O
4S
10: C, 32.63; H, 2.05; Found: C 32.60; H, 1.72; HRMS (ESI-TOF) m/z: [M + H]
+ Calcd for C
16H
13O
4S
10 588.8015; Found 588.8024.
【0117】
<実施例2>
<2-[5-{4,5-ビス(メチルチオ)-1,3-ジチオール-2-イリデン}-[1,3]ジチオロ[4,5-d] [1,3]ジチオール-2-イリデン]-1,3-ジチオール- 4,5-ジカルボン酸(化合物7)の調製(工程4)>
化合物1(200 mg, 0.340 mmol) をテトラヒドロフラン(40 ml)、メタノール (4 ml)の混合溶媒に懸濁させ、2N 水酸化ナトリウム水溶液 (6.8 ml, 13.6 mmol)を加えた。20℃で3時間撹拌した後、2N 塩酸水 (6.8 ml)をゆっくり滴下し、pHを確認しながらさらに2N塩酸水(0.2 ml)を加えpH 2-3にした。室温で3分間撹拌した後、この懸濁液を濾過した。漏斗上に得られた固形物を水、メタノール、少量のトルエンの順に洗浄し、取り出して真空乾燥させることにより、表題の化合物7(159 mg, 83.2%)を光沢のある銀赤色フィルム状固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ2.43 (s, 6H).
【0118】
上記の実施例と同様にして得た化合物の構造を表1に示す。尚、表中の略号は、Meはメチル基を、nBuはノルマルブチル基を表す。
【0120】
上記化合物の
1H NMRスペクトルを以下の表2に示す。
【0122】
試験例1 室温電気伝導度測定試験
試験方法
化合物1および7、8、9、10については、粉末結晶を乳鉢中、乳棒で粉砕し、油圧ポンプを用いて加圧成形したペレットサンプル(A)を調整し、2,3については有機溶媒の穏やかな蒸発により得られた単結晶サンプル(B)について、それぞれ直径0.01mm純度99%以上の金ワイヤーを試料上に一列に4箇所、金ペーストを用いて端子付けした後に、0.1 μA程度の電流を印加した際の中央2点間にかかる電圧を室温条件で測定することにより評価した。これを試料サイズで規格化した値を試験値とした。
試験例2 室温移動度測定試験
試験方法
A,Bのサンプルの両端に直径0.01mm純度99%以上の金ワイヤーを金ペーストにより端子付けし、その2点を結ぶ線に直角の方向に更に2点、金ワイヤーを端子付けした後に、両端の端子間に0.1 μA程度の電流を印加した際の中央2点間にかかる電圧を室温条件で測定することにより評価した。ホール移動度(μ
h)は、伝導度(σ)、電荷量(e)、キャリア濃度(n)と次式により関係づけられており、これを用いて算出した値を試験値とした。
σ = e*n*μ
h
【0123】
上記試験の結果を以下の表3に示す。尚、表中のサンプルの形状の記号は、Aは粉末結晶を加圧成形したペレットを、Bは単結晶を表す。
【0125】
化合物番号1-10はいずれも単分子かつ純物質でありながら、電荷輸送特性と有機溶媒への溶解性に優れ、薄膜化が可能であることから、タッチパネルや透明電極、および有機電界効果トランジスタへの工業的実施が期待されるものである。
[用途]
【0126】
本実施形態の化合物は多様な用途に使用することができる。電線、情報伝達媒体、電子デバイス、電子素子に利用する電極、スピントロニクス素子、情報通信素子、メモリ素子、磁気シールド、医療用磁気シールド、磁石、磁性半導体、電界効果トランジスタ(FET)、磁石入り絆創膏、ハードディスクドライブのヘッド、高感度再生用GMRヘッド、固体磁気メモリ、磁気抵抗メモリ(MRAM)、ファイバ通信用光アイソレータ、磁界で色が変わる材料、伝導電子スピンと原子磁気モーメントの相互作用を利用した材料などが例として挙げられる。さらに、タッチパネル、ディスプレイ、電子デバイス、液晶ディスプレイ、薄型テレビ、プラズマディスプレイ、電子インク、有機ELにおけるアノード(正孔注入層)、太陽電池、帯電防止剤、電磁波シールド材料、光学コーティング剤、赤外線反射材、ガスセンサー、反射防止膜、表面処理剤、半導体レーザー、光学デバイス、光学素子、曲げ耐性を利用したデバイス、電解コンデンサ、電子機器、リチウムイオン電池の電極、発光素子、有機トランジスタ、導電性高分子をインクとしてインクジェット技術などを利用し直接基板にパターンを作るプリンタブル回路なども例として挙げられる。
【0127】
なお、単結晶ではなくとも、微結晶加圧成形状態で高い物性値を示すことから、ポリマーや液晶へ形態変換し、薄膜化できる可能性が示唆される。塗布による薄膜形成は多くの用途への可能性を拓くものである。
【0129】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0130】
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。