(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943318
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】透明導電膜作成方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20160621BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20160621BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20160621BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
H01B13/00 503B
B32B9/00 A
C23C14/06 P
H01B5/14 A
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2011-166506(P2011-166506)
(22)【出願日】2011年7月29日
(65)【公開番号】特開2013-30399(P2013-30399A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年7月14日
【審判番号】不服2015-16314(P2015-16314/J1)
【審判請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】山田 容士
(72)【発明者】
【氏名】一柳 成治
(72)【発明者】
【氏名】久保 衆伍
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】舩木 修平
【合議体】
【審判長】
小曳 満昭
【審判官】
千葉 輝久
【審判官】
山澤 宏
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/016608(WO,A1)
【文献】
特開2010−080740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板にGZO膜とNTO膜とをこの順に形成したのちにアニール処理し、同基板にGZO単層膜を形成してアニール処理したものより低抵抗化した膜を得ることを特徴とする透明導電膜の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜作成方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
ITOは優れた透明導電膜であるが、Inが希少元素であるため、その代替素材の開発が進められている。ZnO系透明導電膜(例えば、GZO:GaがドープされたZnO)やTiO
2系透明導電膜(例えば、NTO:NbがドープされたTiO
2)は、有力候補の一つである。
【0003】
しかしながら、ZnO系透明導電膜は、化学的に必ずしも安定でなく、その後の電極パターン処理等の既存のプロセスにおいて、透明性を消失するなどの技術的困難がともない、また、NTO膜は、化学的に安定であるもののITO膜に比べて数倍抵抗値が高く、より低抵抗の素材開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−199986号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって
、低抵抗な透明伝導膜の製造方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、透明基板に
GZO膜とNTO膜とをこの順に形成したのちにアニール処理し、
同基板にGZO単層膜を形成してアニール処理したものより低抵抗化した膜を得ることを特徴とする透明導電膜の作成方法である。
【0007】
本願において、膜形成は、DCまたはRFマグネトロンスパッタリング法などを挙げることができるが、これに限定されない。また、膜厚は、要求物性に応じて種々設定することができる。例えば、それぞれ200nmとすることができる。アニーリング温度は膜厚やアニーリング時間に応じて種々決定すればよい。例えば、300℃×1時間、500℃×0.5時間とすることができる。
【0008】
なお、Nbのドープ量は、NbとTiの合計量に対して、2at%〜9.5at%とすることができ、好ましくは4at%〜6at%である。また、透明基板の例としては、ガラス基板、可撓性のあるフィルムを挙げることができる。透明は、有色透明、無色透明の何れも含まれるものとする。
【0009】
Gaのドープ量は、GaとZnの合計量に対して、2at%〜9.5at%とすることができ、好ましくは4at%〜6at%である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られるGZO膜+NTO膜の二層膜については、単にNTO膜
やGZO膜をアニール処理したものより低抵抗であり、また、GZO膜もNTO膜も何れも透明導電体であってかつ上層が化学的耐性を有するNTO膜であるので、その後の工業的プロセスに好適な製品を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】GZO膜の厚みを200nmとして固定し、NTOの膜厚を変えた二層膜試料のアニール前後の抵抗率を測定した結果を表した図である。
【
図2】二層膜の元素分布を測定した結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
10mm×10mmのガラス基板(精研硝子社製)上に、RFマグネトロンスパッタリング法により、Gaを5at%添加したZnO膜(GZO膜)を形成した。膜厚は約200nmとした。
【0013】
なお、スパッタリングにおいては、ターゲットはGaを5at%添加したZnOターゲット(AGCセラミックス社製)、を用い、キャノンアネルバ製(E−400S)のスパッタリング装置を用い、動作ガスArとして0.5Pa、室温の条件のもと、成膜をおこなった。
【0014】
次に、その上層に、同じくRFマグネトロンスパッタリング法により、Nbを9.5at添加したTiO
2ターゲットを用いてNTO膜を形成した。膜厚は約200nmとした。ターゲットはAGCセラミックス社製のものを用い、同じスパッタリング装置を用い、動作ガスArとして1Pa、室温の条件のもと、成膜をおこなった。
【0015】
この二層膜の抵抗は、膜厚にも依存するがおおよそ2×10
−3Ωcmであった。一方、同条件でガラス基板に200nmのNTO単層膜を形成し抵抗を測定したところ、1×10
−1Ωcm以上であった。従って、二層膜はNTO単層膜に比較して、約一桁以上低い抵抗率であることが確認された。
【0016】
次に、作成した二層膜を0.3Pa以下の真空中で500℃×30分加熱し、アニーリングをおこなった。酸化チタンについてはX線回折によりアナターゼ型であることを確認した。この二層膜の抵抗率を測定したところ、5×10
−4Ωcmであった。
【0017】
一方、上述のNTO単層膜を同条件でアニーリングした後、抵抗率を測定したところ、5×10
−3Ωcm〜50×10
−3Ωcmであった。また、同条件で別途ガラス基板上に形成した200nmのGZO単層膜の抵抗率は、8×10
−4Ωcmであった。このことから、アニーリングすることにより二層膜が何れの単層膜より低抵抗化したことが確認できた。
【0018】
次に、GZO膜の厚みを200nmとして固定し、NTOの膜厚を、20nm、50nm、100nm、200nmとした二層膜試料のアニール前後の抵抗率を測定した。
図1に結果を示す。
【0019】
図1から明らかなように、アニール処理をおこなうことにより、
NTOの膜厚に関係なく、抵抗率が低下するだけでなく、NTO単層膜(10
−3Ωcmオーダー)やGZO単層膜より小さな値となることが確認できた。
【0020】
次に、低抵抗化の要因を調べるべく、SIMS(二次イオン質量分析法)により、膜厚方向の元素分布の変化を測定した。測定には、GZOの膜厚200nm、NTOの膜厚100nmの二層膜の試料を用いた。
図2は、二層膜の元素分布を測定した結果である。
【0021】
図2から明らかなように、アニール処理することにより、NTO層へZnが拡散していることがわかる。よって、ZnとNbとがドープされたTiO
2結晶が形成されることにより、低抵抗化が進むことが確認できた。
【0022】
なお、Nbがない、TiO2焼結体とZnとを用いてスパッタリングをおこない、ガラス基板上に、Znが拡散したTiO2膜をいくつか条件を変えて作成し、これを500℃でアニール処理をおこなったものの導電性を調べたところ、何れも100Ωcm程度以上の抵抗率または絶縁体であった。従って、ZnとNbとをドープしたTiO2膜をアニーリングすることにより、NTO膜より低抵抗となることが確認できた。
【0023】
なお、本実施の形態における二層膜は、何れも透明である。
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、ITOに近似する抵抗値ないし抵抗率を有する透明伝導膜を簡便に作成することができる。また、耐酸性等に劣るZnO膜をNTO膜で保護する膜と捉えることもでき、工業的用途を広げることも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明を利用して、例えば色素増感型太陽電池を得ることができる。