特許第5943357号(P5943357)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943357
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】検出装置、検出方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   G05B23/02 302V
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-189210(P2014-189210)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-62258(P2016-62258A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2016年1月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108501
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 俊博
【審査官】 後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−75125(JP,A)
【文献】 特開2005−285005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00−23/02
G01H 1/00−17/00
G01M 13/00−13/04
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に動作する動作体の異常を検出する検出装置であって、
前記動作体の動作を検出したデータ列を時間方向において複数の分割データ列に分割する分割部と、
前記複数の分割データ列のそれぞれを時間方向の回帰モデルにより学習して、各分割データ列をモデル化したモデル成分を算出するモデル学習部と、
前記複数の分割データ列のそれぞれと、対応する前記モデル成分との相違を示す相違成分を算出する相違算出部と、
前記複数の分割データ列のそれぞれに対する前記相違成分に基づいて、前記動作体の異常を検出する異常検出部と、
を備える検出装置。
【請求項2】
前記分割部は、前記データ列を、前記動作体の動作周期に応じて前記複数の分割データ列に分割し、
前記異常検出部は、動作周期に基づいて分割した前記複数の分割データ列に対する複数の前記相違成分に基づいて、前記動作体の異常を検出する
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記複数の分割データ列のそれぞれについて、前記相違成分の特徴量を含む分割データ特徴量を算出する特徴量算出部を更に備え、
前記異常検出部は、前記複数の分割データ列のそれぞれに対する前記分割データ特徴量に基づいて、前記動作体の異常を検出する
請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記特徴量算出部は、前記複数の分割データ列のそれぞれについて、前記相違成分の分散、偏差、および平均の少なくとも1つを含む前記分割データ特徴量を算出する請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記特徴量算出部は、前記動作体の平均動作周期を含む前記分割データ特徴量を算出する請求項3または4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記特徴量算出部は、前記複数の分割データ列に対する複数の前記分割データ特徴量のそれぞれを、各要素が前記複数の分割データ列の中での要素値の大きさによる順位付けを示す値をとる順位特徴量に変換し、
前記異常検出部は、前記複数の分割データ列のそれぞれに対する順位特徴量に変換された前記分割データ特徴量に基づいて、前記動作体の異常を検出する
請求項3から5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記異常検出部は、
前記動作体の周期に応じた前記複数の分割データ列のそれぞれの異常度を算出し、
前記複数の分割データ列についての複数の異常度に基づいて、前記動作体の異常を検出する
請求項2から5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項8】
前記異常検出部は、前記複数の異常度の平均値に基づいて、前記動作体の異常を検出する請求項7に記載の検出装置。
【請求項9】
それぞれに前記動作体の異常の有無を示す学習用の目標データが対応付けられた学習用の複数のデータ列を取得する学習データ取得部と、
学習用の前記複数のデータ列および複数の前記目標データを用いて、前記異常検出部が出力する異常度を学習させる学習処理部と、
を更に備える請求項2から8のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項10】
前記動作体は、回転する回転体を備え、
前記異常検出部は、前記回転体の回転周期に基づいて分割した前記複数の分割データ列に対する前記複数の相違成分に基づいて、前記回転体の異常を検出する
請求項2から9のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項11】
前記分割部は、前記回転体の回転に応じて検出された加速度に基づく前記データ列を前記複数の分割データ列に分割する請求項10に記載の検出装置。
【請求項12】
前記分割部は、前記動作体の動作を検出した時系列データを予め定められた時間間隔で区切って複数のデータ列を生成し、
当該検出装置は、前記複数のデータ列のそれぞれに応じて前記動作体の異常を検出する
請求項1から11のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項13】
周期的に動作する動作体の異常を検出する検出方法であって、
前記動作体の動作を検出したデータ列を時間方向において複数の分割データ列に分割する分割段階と、
前記複数の分割データ列のそれぞれを時間方向の回帰モデルにより学習して、各分割データ列をモデル化したモデル成分を算出するモデル学習段階と、
前記複数の分割データ列のそれぞれと、対応する前記モデル成分との相違を示す相違成分を算出する相違算出段階と、
前記複数の分割データ列のそれぞれに対する前記相違成分に基づいて、前記動作体の異常を検出する異常検出段階と、
を備える検出方法。
【請求項14】
コンピュータに、請求項1から12のいずれか一項に記載の検出装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置、検出方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周期的に動作する動作体等の動作に応じた振動等を検出し、検出した時系列データを周波数データに変換し、周波数スペクトルを解析することによって、当該動作体の異常を検出することが知られていた(例えば、特許文献1および2参照)。
[特許文献1] 特開2013−30015号公報
[特許文献2] 特開2011−59790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、動作体等の正常動作を示すスペクトル信号は、当該動作体の実装状態、温度等の周囲環境、および摩耗等による物理的な変化等により、信号強度および発生周波数が経時的に変動してしまうことがある。また、当該スペクトル信号は、個体差もあり、予め定められた周波数等のスペクトル解析で異常を検出することは困難であった。また、正常動作を示すスペクトル信号は、理想的な輝線スペクトルとは異なり、雑音成分を有するので、当該動作体の異常動作を示す雑音成分と重畳してしまい、雑音成分の増減で正確に異常を検出することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、周期的に動作する動作体の異常を検出する検出装置であって、動作体の動作を検出したデータ列を時間方向において複数の分割データ列に分割する分割部と、複数の分割データ列のそれぞれを時間方向の回帰モデルにより学習して、各分割データ列をモデル化したモデル成分を算出するモデル学習部と、複数の分割データ列のそれぞれと、対応するモデル成分との相違を示す相違成分を算出する相違算出部と、複数の分割データ列のそれぞれに対する相違成分に基づいて、動作体の異常を検出する異常検出部と、を備える検出装置、検出方法、およびプログラムを提供する。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態に係る検出装置100の構成例を示す。
図2】本実施形態に係る検出装置100の動作フローを示す。
図3】本実施形態の動作体が正常動作している場合に検出されたデータ列の、周波数特性の一例を示す。
図4】本実施形態の動作体に初期の損傷が発生した場合に検出されたデータ列の、周波数特性の一例を示す。
図5】本実施形態の動作体に損傷が発生した場合に検出されたデータ列の、周波数特性の一例を示す。
図6】本実施形態に係る分割データ列の平均の回転数に対する振幅値の分散値の一例を示す。
図7】本実施形態に係る分割データ列の平均の回転数に対する非周期成分の分散値の一例を示す。
図8】本実施形態の特徴量算出部160が算出した特徴量の一例を示す。
図9】本実施形態の特徴量算出部160が分割データ列の特徴量の順位を定めた例を示す。
図10】本実施形態の特徴量算出部160が分割データ列の特徴量を線形変換した例を示す。
図11】本実施形態に係る検出装置100の変形例を示す。
図12】本実施形態に係る検出装置100の変形例の動作フローを示す。
図13】本実施形態に係る検出装置100として機能するコンピュータ1900のハードウェア構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、本実施形態に係る検出装置100の構成例を示す。検出装置100は、周期的に動作する動作体等の動作に応じて検出される時系列の検出信号に基づき、当該動作体が正常動作する場合に取得されるべき時系列のデータを学習により予測し、予測したモデル成分と検出信号との相違成分に応じて、当該動作体の異常を検出する。
【0009】
ここで、動作体は、周期性を有する振動等の動作を一定時間繰り返す。また、動作体は、点または直線を軸とした回転運動をする回転体を備えてもよい。例えば、動作体は、風力発電、化学生成プラント、ロボットアーム、および減速機等の機器に組み込まれたベアリング等でよい。検出装置100は、このような動作体の劣化および損傷等の異常動作を検出する。検出装置100は、検出データ取得部110と、記憶部120と、分割部130と、モデル学習部140と、相違算出部150と、特徴量算出部160と、異常検出部170と、を備える。
【0010】
検出データ取得部110は、動作体の周囲または近傍に配置され、動作体の動作を検出する検出装置の検出データを取得する。検出データ取得部110は、時間的に連続したデータ列の検出データを取得する。ここで、検出装置は、動作体の周期的な動作を検出するセンサであり、例えば、加速度センサ、回転数センサ、および磁気センサ等である。検出装置は、複数の軸方向の加速度等を検出する多軸型の検出センサでもよい。
【0011】
検出データ取得部110は、このようなセンサに接続され、動作体の加速度、振動周期、および回転数等の検出データを取得する。これに代えて、検出データ取得部110は、予め定められた形式で記憶された検出データを読み出して取得してもよい。また、検出データ取得部110は、ネットワーク等に接続され、当該ネットワークを介して検出データを取得してもよい。検出データ取得部110は、取得した検出データを記憶部120および分割部130に供給する。
【0012】
記憶部120は、検出データ取得部110に接続され、検出データ取得部110から受け取った検出データを記憶する。また、記憶部120は、検出装置100が異常を検出する過程における中間データおよび算出結果等をそれぞれ記憶してもよい。また、記憶部120は、検出装置100内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してよい。例えば、記憶部120は、検出データ取得部110に接続され、検出データ取得部110から検出データを受け取る場合、当該検出データを記憶する。そして、記憶部120は、分割部130の要求に応じて記憶した検出データを当該分割部130に供給する。
【0013】
分割部130は、検出データ取得部110および/または記憶部120に接続され、動作体の動作を検出したデータ列を時間方向において複数の分割データ列に分割する。分割部130は、時系列に並ぶデータ列を、予め定められた時間間隔に分割して分割データを生成してよい。
【0014】
また、分割部130は、データ列を、動作体の動作周期に応じて複数の分割データ列に分割する。分割部130は、例えば、データ列を時間的に複数の分割データ列に分割してから、当該複数の分割データ列を動作体の動作周期に応じた順に配列する。また、分割部130は、動作体が回転体の場合に、当該回転体の回転に応じて検出された加速度に基づくデータ列を複数の分割データ列に分割してもよい。分割部130は、複数の分割データ列を記憶部120に記憶してよい。分割部130は、複数の分割データ列をモデル学習部140に供給する。
【0015】
モデル学習部140は、分割部130に接続され、複数の分割データ列のそれぞれを時間方向の回帰モデルにより学習して、各分割データ列をモデル化したモデル成分を算出する。モデル学習部140は、複数の分割データ列に基づき、周期的に動作する動作体の正常な動作状態において、取得されるべき時系列データに相当するモデル成分を算出する。モデル学習部140は、算出したモデル成分を相違算出部150に供給する。
【0016】
相違算出部150は、モデル学習部140に接続され、複数の分割データ列のそれぞれと、対応するモデル成分との相違を示す相違成分を算出する。相違算出部150は、記憶部120に接続され、分割部130が記憶した複数の分割データ列を読み出してよく、これに代えて、分割部130からモデル学習部140を介して複数の分割データ列を受けとってもよい。相違算出部150は、例えば、動作体が周期的な動作に応じた成分(周期的な成分)を、対応する分割データ列から差し引き、動作体の周期的な動作とは異なる(非周期的な)成分を算出する。相違算出部150は、複数の分割データ列に対応する複数の相違成分を、特徴量算出部160に供給する。
【0017】
特徴量算出部160は、相違算出部150に接続され、複数の分割データ列のそれぞれについて、相違成分の特徴量を含む分割データ特徴量を算出する。特徴量算出部160は、例えば、複数の分割データ列のそれぞれについて、相違成分の分散、偏差、および平均の少なくとも1つを含む分割データ特徴量を算出する。また、特徴量算出部160は、動作体の平均動作周期を含む分割データ特徴量を算出してもよい。特徴量算出部160は、算出した特徴量を異常検出部170に供給する。
【0018】
異常検出部170は、複数の分割データ列のそれぞれに対する相違成分に基づいて、動作体の異常を検出する。異常検出部170は、動作周期に基づいて分割した複数の分割データ列に対する複数の相違成分に基づいて、動作体の異常を検出する。即ち、異常検出部170は、複数の分割データ列を、対応する動作体の動作周波数および相違成分に基づき、動作体が異常動作したか否かを検出する。また、異常検出部170は、動作体が回転体の場合、当該回転体の回転周期に基づいて分割した複数の分割データ列に対する複数の相違成分に基づいて、回転体の異常を検出する。
【0019】
異常検出部170は、特徴量算出部160に接続され、複数の分割データ列のそれぞれに対する分割データ特徴量に基づいて、動作体の異常を検出する。異常検出部170は、例えば、動作体の周期に応じた複数の分割データ列のそれぞれの異常度を算出し、複数の分割データ列についての複数の異常度に基づいて、動作体の異常を検出する。ここで、異常検出部170は、複数の異常度の平均値に基づいて、動作体の異常を検出してよい。
【0020】
以上の本実施形態の検出装置100は、センサ等が動作体の動作を検出した検出データに基づき、周期的に動作する動作体の異常を検出する。検出装置100の検出動作について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る検出装置100の動作フローを示す。検出装置100は、図2に示す動作フローを実行して、動作体の異常を検出する。本実施形態において、検出装置100は、風力発電装置等の機器に搭載されたベアリングの異常動作を検出する例を説明する。また、検出装置は、3つの3次元の加速度センサ、および1つの回転数センサから検出データを取得し、当該ベアリングの動作を検出する例を説明する。
【0021】
まず、検出データ取得部110は、検出データを取得する(S200)。検出データ取得部110は、予め定められた時間毎に検出装置が検出する検出データを取得してよい。本実施形態において、検出データ取得部110が、検出装置が動作体を10分間検出した時系列データを取得する例を説明する。
【0022】
検出データ取得部110は、一例として、3つの3次元加速度センサと、1つの回転角センサの出力を取得する。即ち、検出データ取得部110は、加速度センサのXYZ軸に対応する3つの出力を3組と、回転角センサの1つの出力との、合計10の時系列データを検出データとして取得する。ここで、3つの3次元の加速度センサの検出データをCH1からCH9とし、回転角センサの出力をCH10とする。
【0023】
次に、分割部130は、取得した検出データを時間的に分割する(S210)。分割部130は、一例として、10分間の時系列データを1分間隔に分割して、10セットの分割データ列を生成する。即ち、各セットは、CH1からCH10の検出データを1分毎に分割した分割データ列をそれぞれ備える。
【0024】
次に、分割部130は、10セットの分割データ列をベアリングの回転数でソートし、回転数の大きい(または小さい)順に配列する(S220)。分割部130は、それぞれのセットに含まれる回転角センサの出力(CH10)の平均値をそれぞれ算出して、当該平均値をそれぞれのセットの回転数としてよい。このようにして、分割部130は、検出データを回転数に応じて配列した10セットの分割データ列に分割する。
【0025】
次に、モデル学習部140は、正常動作しているベアリングの周期的な成分に対応する時系列データを、分割データ列を用いた学習によるモデル成分として算出する(S230)。ここで、周期的に動作するベアリング等の動作体が正常動作する場合、加速度センサ等は、当該周期等に応じた周波数成分を有するデータ列を検出する。
【0026】
図3は、本実施形態の動作体が正常動作している場合に検出されたデータ列の、周波数特性の一例を示す。図3は、スペクトラムアナライザ等の測定装置によって、データ列を周波数成分に変換した結果の一例であり、横軸は周波数を示し、縦軸は振幅強度を示す。また、当該周波数成分は、検出装置が6秒間取得したデータ列を周波数成分に変換した結果の一例である。データ列の周波数成分は、特定の周波数にピークを有し、当該ピークとピーク以外の周波数成分(雑音成分)との差が明確である。このような周波数特性が得られている場合、ベアリングは損傷無く動作している。
【0027】
図4は、本実施形態の動作体に初期の損傷が発生した場合に検出されたデータ列の、周波数特性の一例を示す。図4は、図3と同様に、検出装置が6秒間取得したデータ列を周波数成分に変換した結果の一例であり、横軸は周波数を示し、縦軸は振幅強度を示す。データ列の周波数成分は、特定の周波数にピークを有するものの、ピークの数が増大し、かつ、ピーク以外の雑音成分が増大している。図3に示す周波数特性から図4に示す特性に変化した場合、ベアリングは、微小なキズ、微小なヒビ、微小な割れ、および微小な欠け等の初期の損傷が発生したことを示す。
【0028】
図5は、本実施形態の動作体に損傷が発生した場合に検出されたデータ列の、周波数特性の一例を示す。図5は、図3と同様に、検出装置が6秒間取得したデータ列を周波数成分に変換した結果の一例であり、横軸は周波数を示し、縦軸は振幅強度を示す。データ列の周波数成分は、特定の周波数のピークとピーク以外の雑音成分との差が不明瞭となり、ピークが消失している。図4に示す周波数特性から図5に示す特性に変化した場合、ベアリングは、初期の損傷が悪化して、キズ、ヒビ、割れおよび欠け等の損傷に発展したことを示す。
【0029】
このように、周期的に動作するベアリング等の動作体は、突発的な非周期的な動作によって損傷が発生し、損傷が悪化するにつれて非周期的な挙動が増加することがわかる。したがって、このような周波数領域における雑音成分の増加、ピークの増加、およびピーク強度の増加等に基づき、ベアリングの損傷を検出することが特許文献1および特許文献2のように知られていた。
【0030】
しかしながら、図3から図5に示すように、ベアリングが正常動作している場合でも、雑音成分は発生しており、また、ピークの個数および周波数位置は個体差があるため、周波数特性をオペレータ等が確認して判断しなければ、正確に判断することが困難であった。特に、正常動作の状態と、初期損傷状態とは、差異を判別することが困難になることがあり、熟練したオペレータでも正確に判断することが困難になることがあった。したがって、ベアリングの動作を検出したデータ列に基づき、当該ベアリングの異常を自動で正確に識別することはできなかった。
【0031】
また、個々のベアリングの劣化状態は、実装環境、配置、および動作状態等により大きく変動するので、このようなベアリングの異常は、動作時間の累積および回転数の累積等で正確に判断することもできない。その一方で、ベアリング等が大きく損傷すると、ベアリングを搭載する機器およびシステム等に深刻な影響を及ぼすこともあり、交換等によって対処すべく、このような大きな損傷の前段階である初期損傷状態を正確に検出することが望まれていた。
【0032】
そこで、本実施形態のモデル学習部140は、ベアリングの動作を検出したデータ列に基づき、時間領域におけるベアリングの正常な周期的な動作を、時間方向の回帰モデルによって算出する。そして、検出装置100は、検出された時間領域のデータ列から、算出した時間領域の周期的成分を差し引くことで、周期的な動作とは異なる非周期成分を算出し、当該非周期成分に基づき、ベアリングの異常を検出する。
【0033】
モデル学習部140は、一例として、検出された時間領域のデータ列(即ち、センサ出力である時間波形)を用い、線形自己回帰モデルによってベアリングの周期的な動作を示す時系列データを予測する。ここで、モデル学習部140は、分割部130が分割した10セットの分割データ列毎に線形自己回帰モデルを用い、分割データ列毎に時系列データを予測する。例えば、モデル学習部140は、一の分割データ列の時刻tにおける検出データCH1からCH9をx〜xとし、xを次式のようにモデル化する。
【0034】
【数1】
【0035】
即ち、モデル学習部140は、分割データ列のうちxを除くデータを用いて、xをXとしてモデル化する。ここで、dは1以上の自然数であり、t−dは、時刻tよりも過去の時刻を示す。本実施形態においては、一例として、d=29としてモデル化した。即ち、モデル学習部140は、分割データ列のうちxを除く269個(=9×30−1)のデータを用いて、モデル化した例を説明する。また、ベクトルaは、m個(=9×(d+1)−1、即ち、269個)の要素を有する列ベクトルである。
【0036】
モデル学習部140は、xと同様に、x〜xについても、分割データ列のうちxを除く269個のデータを用いて、xをXとしてモデル化する。モデル学習部140は、x〜xに対応するモデルX〜Xについて、次式が成立するようにそれぞれ学習する。
【数2】
【0037】
ここで、argmin f(x)は、f(x)が最小となる場合のxを示し、(数2)式が最小となる場合のベクトルaを算出することを意味する。即ち、時刻tからt−dにおいて、例えば、測定装置の実測値xに、モデルXを最も近づけるベクトルaを算出することに相当する。(数2)式の第1項は、2乗ロス関数として既知である。(数2)式の第2項の|a|L1は、L1正則化項を示し、次式で示される。
【数3】
【0038】
第2項のL1正則化項は、第1項の2乗ロス関数の成分のほとんどが零となる疎行列にすべく、加えられた正規化項である。即ち、モデル学習部140は、L1正則化項を導入することで、より少ない(例えば、269個のデータのうちより少ない個数の)データを用いて検出データをモデル化するベクトルaを算出することになる。ここで、正規化項の大きさを設定するλは、推定される2乗ロス関数に含まれる零要素の個数をコントロールするパラメータであり、ユーザ等によって予め定められる正則化パラメータである。ここで、正則化パラメータλは、一例として、0.01程度以下の値に設定する。以上の説明で示した(数2)式は、線形自己回帰モデルとして既知の方法である。
【0039】
本実施形態のモデル学習部140は、以上の説明のように、1点のデータ値に対して269個のデータ値を用いて回帰させ、同一の時刻tに対してCH1からCH9の検出データに対応する9つの予測データを学習により算出する。そして、モデル学習部140は、同一のモデルによって、一のセットのデータ列に対応する予測データ列を算出する。モデル学習部140は、他のセットの分割データ列に対応する予測データ列を、それぞれ異なるモデルによって((数2)式において、異なるベクトルaを用いて)、予測データ列を算出する。
【0040】
このように、モデル学習部140は、分割データ列のセット毎に、分割データ列をモデル化して予測データ列を算出するので、それぞれの分割データ列をより精密に予測することができる。そして、モデル学習部140は、周期的な信号成分の周期よりも数倍以上の十分に長い時間間隔のデータ列を用いることで、当該周期成分を正確に予測することができる。モデル学習部140は、一例として、検出装置の5kHzサンプリングのデータを30点分の時間領域で回帰モデルを形成するので、2.5kH以下の領域の周波数成分を正確に予測することができる。
【0041】
ここで、突発的に生じた非周期成分が分割データ列に含まれていても、モデルに用いるデータ列(例えばデータ30点分の時間領域)全体の時間において一定の振幅を有する周期成分に比べて、分割データ列における非周期成分の発生は、時間的には短時間になる。したがって、モデル学習部140は、周期成分の予測結果と比べて、非周期成分の予測結果はより低い値を算出することになる。即ち、モデル学習部140は、当該非周期成分の影響をほとんど受けない予測データ列を算出することができる。以上のように、本実施形態のモデル学習部140は、分割データ列をモデル化し、分割データ列のうち非周期成分を除く周期成分をモデル成分として算出する。
【0042】
次に、相違算出部150は、分割データ列およびモデル成分との相違である非周期成分を算出する(S240)。相違算出部150は、例えば、モデル学習部140が第1セットの分割データ列に基づいて算出した第1モデル成分を、当該第1セットの分割データ列から差し引くことで、第1非周期成分を算出する。相違算出部150は、同様にして、10セットの分割データ列に対応する10セットの非周期成分をそれぞれ算出する。
【0043】
以上のように、本実施形態の検出装置100は、分割データ列の非周期成分を算出することができるので、当該非周期成分に基づき、ベアリングの異常を検出することができる。分割データ列の非周期成分について、図6および図7を用いて説明する。
【0044】
図6は、本実施形態に係る分割データ列の平均の回転数に対する振幅値の分散値の一例を示す。横軸は分割データ列の平均回転数、縦軸は当該分割データ列の分散値を示す。図6は、分割データ列を取得した後、実際にベアリングの損傷等を検査することで、各データを正常、初期損傷、および損傷に分類してプロットした例を示す。図6より、正常、初期損傷、および損傷を示すそれぞれのデータは、回転数および分散値に対して特定の傾向を得ることができない。特に、正常および初期損傷のデータは、ほぼランダムに混在してるので、回転数および分散値に基づいて判別することはできない。
【0045】
図7は、本実施形態に係る分割データ列の平均の回転数に対する非周期成分の分散値の一例を示す。図6と同様に、横軸は分割データ列の平均回転数、縦軸は非周期成分の振幅値の分散値を示す。また、図7は、図6に用いた分割データ列を用いて回帰モデルで学習し、算出したモデル成分に応じて算出された非周期成分を示す。図7より、正常、初期損傷、および損傷を示すそれぞれのデータは、回転数および分散値に対してそれぞれ特定の領域に存在することがわかる。例えば、正常および初期損傷のデータは、図中のA−A'線によって、ほぼ分離することができる。
【0046】
したがって、検出装置100は、分割データ列の回転数および非周期成分に応じて、ベアリングの異常を判別することができる。また、検出装置100は、このような判別を容易に高精度で、かつ自動で実行すべく、回転数および非周期成分に基づく特徴量を用いてベアリングの異常を検出する。
【0047】
即ち、特徴量算出部160は、相違算出部150が算出した非周期成分に基づき、当該非周期成分の特徴量を算出する(S250)。特徴量算出部160は、相違成分の分散、偏差、および平均の少なくとも1つを含む分割データ特徴量を算出して、ベアリングの異常を判別してよい。本実施形態の特徴量算出部160は、これに加えて、準位特徴量を算出する。
【0048】
特徴量算出部160は、複数の分割データ列に対する複数の分割データ特徴量のそれぞれを、各要素が複数の分割データ列の中での要素値の大きさによる順位付けを示す値をとる順位特徴量に変換する。特徴量算出部160が分割データ特徴量を準位特徴量に変換する例を、図8から図10を用いて説明する。
【0049】
図8は、本実施形態の特徴量算出部160が算出した特徴量の一例を示す。図8において、サンプル1からサンプル3は、一例として、第1セットから第3セットの分割データ列を示す。また、i1からi3は、例えば、相違成分の分散、偏差、および平均等の、特徴量算出部160が算出した特徴量を示す。また、i4は、一例として、回転数の平均値を示す。次に、特徴量算出部160は、i1からi4のそれぞれの特徴量について、それぞれの分割データ列の準位を定める。
【0050】
図9は、本実施形態の特徴量算出部160が分割データ列の特徴量の順位を定めた例を示す。図9のサンプル1からサンプル3およびi1からi4は、図8の同一符号のものと略同一であるので、説明を省略する。図9は、特徴量算出部160が、i1からi4のそれぞれの特徴量について、値が小さい順にそれぞれの分割データ列の準位を定めた例を示す。ここで、特徴量算出部160は、予め定められたi番目の特徴量の準位に応じて、各サンプルを並べ替えてもよい。次に、特徴量算出部160は、それぞれの特徴量の準位に応じて、当該特徴量の準位を予め定められた値の範囲に線形変換する。
【0051】
図10は、本実施形態の特徴量算出部160が分割データ列の特徴量を線形変換した例を示す。図10のサンプル1からサンプル3およびi1からi4は、図8および図9の同一符号のものと略同一であるので、説明を省略する。図10は、特徴量算出部160が、1位のサンプルを0、最下位のサンプルを1とするように線形変換した例を示す。図10に示す特徴量は、特徴量の準位に応じて変換された準位特徴量となる。
【0052】
ここで、図8に示す特徴量の値の範囲は、例えば、i1が3〜33の範囲であり、i4は1000から3000の範囲と、取り得る数値の範囲が異なるので、異なる特徴量を考慮して総合的に判断することが困難である。そこで、特徴量算出部160は、図10に示すように、全ての特徴量の値の範囲を予め定められた値の範囲に変換する。これによって、検出装置100は、異なる特徴量であっても、略同一の数値範囲で比較考慮することができる。
【0053】
次に、異常検出部170は、複数の分割データ列のそれぞれに対する順位特徴量に変換された分割データ特徴量に基づいて、動作体の異常を検出する(S260)。異常検出部170は、例えば、分割データ特徴量をサポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)に入力して、分割データ特徴量に対応する分割データ列のセットの異常確率を算出する。SVMは、入力されたデータを線形に分離する手法として既知である。
【0054】
即ち、特徴量算出部160が複数の分割データ列を対応する準位特徴量に変換しているので、異常検出部170は、SVMおよびロジスティック回帰等の既知の識別手法を用いて、複数の特徴量に応じた分割データ列の異常確率を算出することができる。異常検出部170は、一例として、第1から第10セットの異常確率の平均値を算出し、算出した平均値を検出データ取得部110が取得した検出データ全体の異常確率を示す異常度スコアとする。
【0055】
異常検出部170は、算出した異常度スコアと、予め定められた閾値等と比較することにより、検出データに対応するベアリングの異常の有無を検出する。異常検出部170は、異常度スコアが閾値以上の場合に、異常を検出したと判断して、音声、光、および画像等による警報の出力、異常検出の表示、ならびに他のシステム等への通知を実行してよい。
【0056】
検出装置100は、ベアリングの異常検出を終了するか否かを判断する(S270)。検出装置100は、外部からの入力およびユーザからの入力等に応じて、ベアリングの異常検出を終了するか否かを判断してよい。検出装置100は、ベアリングの異常検出を続行する場合(S270:No)は、検出データの取得の段階(S200)に戻って、検出すべきデータを取得する。また、検出装置100は、異常検出を終了する場合(S270:Yes)は、当該処理を停止する。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る検出装置100は、時間領域の時系列データを回帰モデルによって学習し、ベアリングの周期的な動作に応じた検出信号の周期的な成分を算出するので、検出信号から当該周期的な成分をキャンセルして、非周期的な成分を取得することができる。このように、検出装置100は、周期的な成分および非周期的な成分を同時に解析することなく、非周期成分を抽出するので、より正確にベアリングの異常を検出することができる。また、検出装置100は、複数の特徴量を用いることで、動作状態を正確に判別する。検出装置100は、例えば、ベアリングの回転数および非周期的な成分に基づく特徴量を用いることにより、当該ベアリングの、正常動作状態と初期損傷状態とをより正確に判断することができる。
【0058】
以上の本実施形態の検出装置100は、異常検出部170が特徴量から変換された準位特徴量に基づいて動作体の異常を検出する例を説明した。これに代えて、異常検出部170は、特徴量算出部160が算出する特徴量に基づき、動作体の異常を検出してもよい。この場合、異常検出部170は、非周期成分の絶対値の大きさ、平均値、分散、および2乗平均等を用い、予め定められた値等と比較することで動作体の異常を検出する。
【0059】
図11は、本実施形態に係る検出装置100の変形例を示す。本変形例の検出装置100において、図1に示された本実施形態に係る検出装置100の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。本変形例の検出装置100は、学習データ取得部300と、学習処理部310とを更に備え、回帰モデルを評価して精度の高い異常検出を実行する。
【0060】
学習データ取得部300は、それぞれに動作体の異常の有無を示す学習用の目標データが対応付けられた学習用の複数のデータ列を取得する。学習データ取得部300は、一例として、モデル学習用データと、モデル評価用データと、モデル学習用データおよびモデル評価用データのそれぞれに対応する目標データと、を有する学習データを取得する。モデル学習用データは、回帰モデルの学習に用いられ、モデル評価用データは、学習した回帰モデルの評価に用いられる。
【0061】
学習データ取得部300は、例えば、ユーザ等の入力によって、学習データを取得する。また、学習データ取得部300は、予め定められた形式で記憶された学習データを読み出して取得してもよい。また、学習データ取得部300は、ネットワーク等に接続され、当該ネットワークを介して学習データを取得してもよい。学習データ取得部300は、取得した学習データを学習処理部310に供給する。図11において、学習データ取得部300は、検出データ取得部110とは別個独立に示しているが、これに代えて、学習データ取得部300は、検出データ取得部110と同一であってもよい。
【0062】
学習処理部310は、学習用の複数のデータ列(即ち、モデル学習用データおよびモデル評価用データ)および当該モデル学習用データおよびモデル評価用データに対応する複数の目標データを用いて、異常検出部170が出力する異常度を学習させる。学習処理部310は、学習データ取得部300に接続され、受けとったモデル学習用データを用いて、回帰モデルを学習させる。ここで、学習処理部310は、記憶部120に接続され、受けとった学習データを記憶してよい。学習処理部310は、分割部130およびモデル学習部140に接続され、回帰モデルの学習を指示してよい。
【0063】
また、学習処理部310は、異常検出部170に接続され、学習した回帰モデルおよびモデル評価用データを用いて算出される検出結果を当該異常検出部170から受け取り、学習した回帰モデルを評価する。学習処理部310は、評価結果に基づき、モデル学習部140が学習した回帰モデルの学習を指示する。本変形例の検出装置100の動作について、図12を用いて説明する。
【0064】
図12は、本実施形態に係る検出装置100の変形例の動作フローを示す。まず、学習データ取得部300は、学習データを取得する(S400)。本実施形態において、学習データ取得部300が、正常動作をしている10のベアリングと、異常動作になった7のベアリングとの、合計17のベアリングの動作を検出した時系列データを、学習データとして取得する例を説明する。
【0065】
学習データ取得部300は、一例として、正常動作状態の8の時系列データと、異常動作状態の5の時系列データとをモデル学習用データとして取得する。また、学習データ取得部300は、正常動作状態の2の時系列データと、異常動作状態の2の時系列データとをモデル評価用データとして取得する。また、学習データ取得部300は、合計17の時系列データのそれぞれがベアリングの正常動作および異常動作のいずれのデータであるかを示す対応関係を目標データとして取得する。ここで、目標データは、時系列データのそれぞれがモデル学習用データおよびモデル評価用データのいずれのデータであるかを示す対応関係を含んでよい。
【0066】
次に、学習処理部310は、目標データの対応関係に応じて、学習データのうちモデル学習用データを用いて回帰モデルを学習する(S410)。学習処理部310は、記憶部120にモデル学習用データを供給し、分割部130に当該モデル学習用データの分割を指示する。分割部130の分割データ列への分割、および分割以降の動作は、図2で説明したのでここでは省略する。学習処理部310はモデル学習部140に、合計13の時系列データを有するモデル学習用データに対応する回帰モデルを学習させる。
【0067】
次に、学習処理部310は、学習した回帰モデルと、モデル評価用データを用いて、回帰モデルを評価する(S420)。学習処理部310は、記憶部120にモデル評価用データを供給し、分割部130に当該モデル評価用データの分割を指示する。また、学習処理部310は、モデル学習部140に、学習した回帰モデルを用いてモデル成分を算出するように指示する。モデル学習部140のモデル成分の算出、およびモデル成分の算出以降の動作は、図2で説明したのでここでは省略する。
【0068】
学習処理部310は、4の時系列データを有するモデル評価用データに対応する4の検出結果を、異常検出部170から取得する。学習処理部310は、取得した検出結果と、目標データとを比較して、回帰モデルを評価する。学習処理部310は、例えば、異常を検出した数のうち、実際に異常を示す時系列データであった数の比率を、正解率として算出する。また、学習処理部310は、実際に異常を示す時系列データの数のうち、異常を検出できなかった数の比率を、取りこぼし率として算出してよい。
【0069】
学習処理部310は、評価結果に応じて、回帰モデルの評価を終了するか否かを決定する(S430)。学習処理部310は、例えば、正解率および取りこぼし率と予め定められた目標値とを比較し、比較結果に応じて評価を終了するか否かを決定する。
【0070】
学習処理部310は、評価を継続する場合(S430:No)、モデル学習部140にパラメータの変更を指示する(S440)。学習処理部310は、例えば、回帰モデルの回帰係数、および正則化パラメータλ等のパラメータを変更する。モデル学習部140は、パラメータを変更してから、モデル学習用データを用いて再び学習する(S410)。学習処理部310は、正解率が目標値以上となるまで、および/または取りこぼし率が目標値以下となるまで、回帰モデルの学習(S410)と評価(S420)を繰り返す。
【0071】
学習処理部310は、正解率が目標値以上になった場合、および/または取りこぼし率が目標値以下となった場合、回帰モデルの評価を終了する(S430:Yes)。また、学習処理部310は、回帰モデルの学習と評価を、予め定められた回数繰り返した場合、回帰モデルの評価を終了してもよい。
【0072】
検出装置100は、評価した回帰モデルを用いて、次回以降の検出データの異常検出を実行してもよく、これに代えて、評価の過程において決定したパラメータを用いて、回帰モデルの学習をして、検出データの異常検出を実行してもよい。以上のように、本変形例の検出装置100は、予め検出結果となるべき目標データを用いて回帰モデルを学習および評価するので、正解率および取りこぼし率を向上させて、精度の高い異常検出を実行することができる。
【0073】
以上の本実施形態に係る検出装置100は、検出データ取得部110が予め定められた時間毎に検出装置が検出する検出データを取得する例を説明した。これに代えて、検出データ取得部110は、より多くの検出データ、例えば、検出データ全体を取得してもよい。この場合、分割部130は、動作体の動作を検出した時系列データを予め定められた時間間隔で区切って複数のデータ列を生成する。即ち、例えば、検出データ取得部110が3時間分の検出データを取得しても、分割部130は、1分毎の分割データ列を10セット生成する。
【0074】
そして、当該検出装置100は、複数のデータ列のそれぞれに応じて動作体の異常を検出する。検出装置100は、一例として、10セットの分割データ列毎に動作体の異常を検出し、当該検出を18回繰り返して3時間分の検出データ全ての検出を実行してよい。また、動作体が完全に破壊して、例えば、周波数領域に変換すると図5に示すような波形が検出される場合、当該動作体は、正常に動作することはない。したがって、検出装置100は、予め定められた時間以上、継続して異常を検出したベアリングに対しては異常検出を省略してもよい。この場合、検出装置100は、異常検出が継続することをユーザまたはシステム等に通知してよい。
【0075】
以上の本実施形態に係る検出装置100は、分割部130が分割した分割データ列において、モデル学習部140が、時刻tのデータxを時刻tからt−dにおける時間的に隣接するデータを用いてモデル化することを説明した。これに代えて、モデル学習部140は、データを間引いて、時刻tからt−d'(d<d')におけるデータを用いてxをモデル化してもよい。
【0076】
ここで、d'は、dに比べて数倍以上のより大きな値でよく、例えば、モデル学習部140は、隣接する異なる分割データ列のデータを用いてもよい。モデル学習部140は、時間的により長い間隔のデータを用いてモデル化することで、突発的に生じる非周期成分の影響をより低減することができ、非周期成分を除いて周期的な成分をモデル成分として正確に算出することができる。
【0077】
以上の本実施形態に係る検出装置100は、モデル学習部140が(数2)式の2乗ロス関数にL1正則化項を加えた線形自己回帰モデルを用いることを説明した。これに代えて、モデル学習部140は、ロス関数をよりロバストな関数にしてもよく、また、L1正則化項を次式で示すL2正則化項にしてもよい。
【数4】
【0078】
これに代えて、モデル学習部140は、正則化パラメータを0.01より小さい値にしてよく、また、正則化項を無くしてもよい。このように、モデル学習部140は、正則化項の影響を低減させることで回帰モデルを過学習させて、時間波形の周期的な成分を算出してよい。また、モデル学習部140は、非線形の自己回帰モデルを用いてもよい。
【0079】
図13は、本実施形態に係る検出装置100として機能するコンピュータ1900のハードウェア構成の一例を示す。本実施形態に係るコンピュータ1900は、ホスト・コントローラ2082により相互に接続されるCPU2000、RAM2020、グラフィック・コントローラ2075、および表示装置2080を有するCPU周辺部と、入出力コントローラ2084によりホスト・コントローラ2082に接続される通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、およびDVDドライブ2060を有する入出力部と、入出力コントローラ2084に接続されるROM2010、フレキシブルディスク・ドライブ2050、および入出力チップ2070を有するレガシー入出力部と、を備える。
【0080】
ホスト・コントローラ2082は、RAM2020と、高い転送レートでRAM2020をアクセスするCPU2000およびグラフィック・コントローラ2075とを接続する。CPU2000は、ROM2010およびRAM2020に格納されたプログラムに基づいて動作し、各部の制御を行う。グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等がRAM2020内に設けたフレーム・バッファ上に生成する画像データを取得し、表示装置2080上に表示させる。これに代えて、グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等が生成する画像データを格納するフレーム・バッファを、内部に含んでもよい。
【0081】
入出力コントローラ2084は、ホスト・コントローラ2082と、比較的高速な入出力装置である通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、DVDドライブ2060を接続する。通信インターフェイス2030は、ネットワークを介して他の装置と通信する。ハードディスクドライブ2040は、コンピュータ1900内のCPU2000が使用するプログラムおよびデータを格納する。DVDドライブ2060は、DVD−ROM2095からプログラムまたはデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。
【0082】
また、入出力コントローラ2084には、ROM2010と、フレキシブルディスク・ドライブ2050、および入出力チップ2070の比較的低速な入出力装置とが接続される。ROM2010は、コンピュータ1900が起動時に実行するブート・プログラム、および/または、コンピュータ1900のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。フレキシブルディスク・ドライブ2050は、フレキシブルディスク2090からプログラムまたはデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。入出力チップ2070は、フレキシブルディスク・ドライブ2050を入出力コントローラ2084へと接続すると共に、例えばパラレル・ポート、シリアル・ポート、キーボード・ポート、マウス・ポート等を介して各種の入出力装置を入出力コントローラ2084へと接続する。
【0083】
RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供されるプログラムは、フレキシブルディスク2090、DVD−ROM2095、またはICカード等の記録媒体に格納されて利用者によって提供される。プログラムは、記録媒体から読み出され、RAM2020を介してコンピュータ1900内のハードディスクドライブ2040にインストールされ、CPU2000において実行される。
【0084】
プログラムは、コンピュータ1900にインストールされ、コンピュータ1900を検出データ取得部110、 記憶部120、分割部130、モデル学習部140、相違算出部150、特徴量算出部160、および異常検出部170として機能させる。
【0085】
プログラムに記述された情報処理は、コンピュータ1900に読込まれることにより、ソフトウェアと上述した各種のハードウェア資源とが協働した具体的手段である検出データ取得部110、 記憶部120、分割部130、モデル学習部140、相違算出部150、特徴量算出部160、および異常検出部170として機能する。そして、この具体的手段によって、本実施形態におけるコンピュータ1900の使用目的に応じた情報の演算または加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の検出装置100が構築される。
【0086】
一例として、コンピュータ1900と外部の装置等との間で通信を行う場合には、CPU2000は、RAM2020上にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理内容に基づいて、通信インターフェイス2030に対して通信処理を指示する。通信インターフェイス2030は、CPU2000の制御を受けて、RAM2020、ハードディスクドライブ2040、フレキシブルディスク2090、またはDVD−ROM2095等の記憶装置上に設けた送信バッファ領域等に記憶された送信データを読み出してネットワークへと送信し、もしくは、ネットワークから受信した受信データを記憶装置上に設けた受信バッファ領域等へと書き込む。このように、通信インターフェイス2030は、DMA(ダイレクト・メモリ・アクセス)方式により記憶装置との間で送受信データを転送してもよく、これに代えて、CPU2000が転送元の記憶装置または通信インターフェイス2030からデータを読み出し、転送先の通信インターフェイス2030または記憶装置へとデータを書き込むことにより送受信データを転送してもよい。
【0087】
また、CPU2000は、ハードディスクドライブ2040、DVDドライブ2060(DVD−ROM2095)、フレキシブルディスク・ドライブ2050(フレキシブルディスク2090)等の外部記憶装置に格納されたファイルまたはデータベース等の中から、全部または必要な部分をDMA転送等によりRAM2020へと読み込ませ、RAM2020上のデータに対して各種の処理を行う。そして、CPU2000は、処理を終えたデータを、DMA転送等により外部記憶装置へと書き戻す。このような処理において、RAM2020は、外部記憶装置の内容を一時的に保持するものとみなせるから、本実施形態においてはRAM2020および外部記憶装置等をメモリ、記憶部、または記憶装置等と総称する。本実施形態における各種のプログラム、データ、テーブル、データベース等の各種の情報は、このような記憶装置上に格納されて、情報処理の対象となる。なお、CPU2000は、RAM2020の一部をキャッシュメモリに保持し、キャッシュメモリ上で読み書きを行うこともできる。このような形態においても、キャッシュメモリはRAM2020の機能の一部を担うから、本実施形態においては、区別して示す場合を除き、キャッシュメモリもRAM2020、メモリ、および/または記憶装置に含まれるものとする。
【0088】
また、CPU2000は、RAM2020から読み出したデータに対して、プログラムの命令列により指定された、本実施形態中に記載した各種の演算、情報の加工、条件判断、情報の検索・置換等を含む各種の処理を行い、RAM2020へと書き戻す。例えば、CPU2000は、条件判断を行う場合においては、本実施形態において示した各種の変数が、他の変数または定数と比較して、大きい、小さい、以上、以下、等しい等の条件を満たすかどうかを判断し、条件が成立した場合(または不成立であった場合)に、異なる命令列へと分岐し、またはサブルーチンを呼び出す。
【0089】
また、CPU2000は、記憶装置内のファイルまたはデータベース等に格納された情報を検索することができる。例えば、第1属性の属性値に対し第2属性の属性値がそれぞれ対応付けられた複数のエントリが記憶装置に格納されている場合において、CPU2000は、記憶装置に格納されている複数のエントリの中から第1属性の属性値が指定された条件と一致するエントリを検索し、そのエントリに格納されている第2属性の属性値を読み出すことにより、所定の条件を満たす第1属性に対応付けられた第2属性の属性値を得ることができる。
【0090】
以上に示したプログラムまたはモジュールは、外部の記録媒体に格納されてもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク2090、DVD−ROM2095の他に、DVD、Blu−ray(登録商標)、またはCD等の光学記録媒体、MO等の光磁気記録媒体、テープ媒体、ICカード等の半導体メモリ等を用いることができる。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバシステムに設けたハードディスクまたはRAM等の記憶装置を記録媒体として使用し、ネットワークを介してプログラムをコンピュータ1900に提供してもよい。
【0091】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0092】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0093】
100 検出装置、110 検出データ取得部、120 記憶部、130 分割部、140 モデル学習部、150 相違算出部、160 特徴量算出部、170 異常検出部、300 学習データ取得部、310 学習処理部、1900 コンピュータ、2000 CPU、2010 ROM、2020 RAM、2030 通信インターフェイス、2040 ハードディスクドライブ、2050 フレキシブルディスク・ドライブ、2060 DVDドライブ、2070 入出力チップ、2075 グラフィック・コントローラ、2080 表示装置、2082 ホスト・コントローラ、2084 入出力コントローラ、2090 フレキシブルディスク、2095 DVD−ROM
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13