特許第5943361号(P5943361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943361
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】トリアシルグリセロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   C12P7/64
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-502194(P2014-502194)
(86)(22)【出願日】2013年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2013054701
(87)【国際公開番号】WO2013129289
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2014年9月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-42604(P2012-42604)
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507186687
【氏名又は名称】株式会社セラバリューズ
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都筑 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 典裕
(72)【発明者】
【氏名】蓑田 歩
(72)【発明者】
【氏名】今泉 厚
【審査官】 鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−103288(JP,A)
【文献】 MIZUNO, Y. et al.,Sequential accumulation of starch and lipid induced by sulfur deficiency in Chlorella and Parachlore species.,Bioresour. Technol.,2012年11月16日,Vol.129,pages 150-155
【文献】 HSIEH, C. and WU, W.,Cultivation of microalgae for oil production with a cultivation strategy of urea limitation.,Bioresour. Technol.,2009年,Vol.100 No.17,pages 3921-3926,Abstract, Figures 2 and 3
【文献】 TAKAGI, M. et al.,Effect of salt concentration on intracellular accumulation of lipids and triacylglyceride in marine microalgae Dunaliella cells.,J. Biosci. Bioeng.,2006年,Vol.101 No.3,pages 223-226
【文献】 RODOLFI, L. et al.,Microalgae for oil: strain selection, induction of lipid synthesis and outdoor mass cultivation in a low-cost photobioreactor.,Biotechnol. Bioeng.,2009年,Vol.102 No.1,pages 100-112,Abstract, Figures 4-7
【文献】 LIU, Z. et al.,Effect of iron on growth and lipid accumulation in Chlorella vulgaris.,Bioresour. Technol.,2008年,Vol.99 No.11,pages 4717-4722,Abstract, Figure 3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類を培養して、その培養物からトリアシルグリセロール(TG)を採取して製造する、TGの製造方法であって、
光合成により油脂および脂肪族炭化水素の少なくとも一方を含む脂肪族化合物を蓄積し得る種の微細藻類を培養して、油脂および脂肪族炭化水素の少なくとも一方を含む脂肪族化合物を蓄積させる培養工程において、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養してTGを優先的に蓄積させる培養工程を含む、TGの製造方法。
【請求項2】
微細藻類を、脱水処理後に培養して、気相中にて固体上培養して、あるいは高濃度の微細藻類の細胞液を徐々に乾燥させて、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養する、請求項1に記載のTGの製造方法。
【請求項3】
培養が、更に、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて行われる、請求項1または2に記載のTGの製造方法。
【請求項4】
硫黄欠損の培養液により、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養が行われる、請求項3に記載のTGの製造方法。
【請求項5】
培養が、通気されながら行われ、かつ自然光、または人工光による光独立栄養的に行われる、請求項1から4のいずれかに記載のTGの製造方法。
【請求項6】
光独立栄養的培養の光源として、太陽光または光照射が供されて培養が行われる、請求項5に記載のTGの製造方法。
【請求項7】
炭素源として、微細藻類の細胞内の有機物を利用して、あるいは、空気中のCO、または細胞外の有機物が供されて培養が行われる、請求項1から6のいずれかに記載のTGの製造方法。
【請求項8】
前培養して濃度を高めた微細藻類を培養する、請求項1から7のいずれかに記載のTGの製造方法。
【請求項9】
微細藻類が、乾燥条件に耐性な可食微細藻類である、請求項1から7のいずれかに記載のTGの製造方法。
【請求項10】
微細藻類が、トレボキシア藻を含む広義の緑藻、珪藻、真眼点藻、紅藻、ラン藻およびユーグレナ藻からなる群から選ばれるものである、請求項1からのいずれかに記載のTGの製造方法。
【請求項11】
微細藻類が、トレボキシア藻を含む広義の緑藻である、請求項10に記載のTGの製造方法。
【請求項12】
微細藻類が、クロレラ属、ドナリエラ属、スピルリナ属、およびユーグレナ属から選ばれる可食の微細藻類である、請求項10に記載のTGの製造方法。
【請求項13】
微細藻類が、クロレラ属である、請求項12に記載のTGの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアシルグリセロール(以下、TGと略記する)の製造方法に関する。更に詳細には、食用油脂の提供を目的とした微細藻類におけるTGの高効率な蓄積により、TGを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な人口増加による食糧需要の増加、異常気象による農作物の収穫量減少、穀物、および食用植物性油脂のバイオ燃料への転用、および投資資金流入などにより、コメや小麦、トウモロコシ、豆類などの主要穀物、食用植物性油脂などの価格高騰が問題となっている。
【0003】
光合成微生物は、淡水や海水、あるいは湿潤な場所に生息するほか、温泉、極寒の湖、熱海水、ソーダ湖などの極限の地域にも生息する。なかでも、微細藻類は油脂や脂肪族炭化水素を蓄積することが知られており、食用油脂や食用家畜飼料への転用が提案されている。しかし、動物性油脂や植物性油脂の主成分であるTGを、増殖速度の早い微細藻類を用い、その培養ストレスによって優先的に蓄積させる方法の報告例はない。
【0004】
微細藻類が蓄積する脂肪族化合物中の組成や量は、不利な環境条件下や様々なストレスによって変化することが知られている。なかでも、窒素欠乏や栄養塩類欠乏ストレス、培養条件を調整することにより、細胞の乾燥重量当たりの脂肪族化合物の蓄積量や組成が変化するとの報告があり、より簡便かつ高効率なTGの産生方法が検討されている。(例えば非特許文献1および2参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Siaut, et al. BMC Biotechnology, 11: 7-21 (2011) Oil accumulation in the model green alga Chlamydomonas reinhardtii: characterization, variability between common laboratory strains and relationship with starch reserves.
【非特許文献2】Chen CY, et al. Bioresour Technol, 102(1): 71-81 (2011) Cultivation, photobioreactor design and harvesting of microalgae for biodiesel production: A critical review.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細藻類が蓄積する脂肪族化合物の食用油脂や食用家畜飼料への転用を検討するにあたり、直接的な食経験を有する可食微細藻類やその野生株の利用は安全保障の面から有利となる。また、産業利用を検討するうえで、温度や湿度、日照などの環境条件の変化、育成に不利な環境、および各種ストレスに耐性な微細藻類を利用することが重要となる。
【0007】
微細藻類は脂肪族化合物を蓄積することが知られているが、増殖速度の早い微細藻類を用い、その培養ストレスによって動物性油脂や植物性油脂の主成分であるTGを優先的に蓄積させる培養方法の報告例はない。
【0008】
本発明は、培養における各種ストレス負荷の違いに由来するTGの蓄積効率の変化に着目し、乾燥や高温条件に耐性な可食微細藻類の野生株を用いて、微細藻類の培養条件の最適化と、培養工程におけるストレス負荷、とりわけ乾燥ストレス負荷、および更に、硫黄欠乏ストレス負荷を施して、TGを微細藻類に高効率に蓄積させて、培養物からTGを採取してTGを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、微細藻類を培養して、その培養物からTGを採取して製造する、TGの製造方法であって、微細藻類を培養して、油脂および脂肪族炭化水素の少なくとも一方を含む脂肪族化合物を蓄積させる培養工程において、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養してTGを優先的に蓄積させる培養工程を含む、TGの製造方法が提供される。
【0010】
微細藻類を、脱水処理後に培養して、気相中にて固体上培養して、あるいは高濃度の微細藻類の細胞液を徐々に乾燥させて、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養するのが好ましい。
【0011】
培養が、更に、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて行うこともできる。
【0012】
硫黄欠損の培養液により、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養を行うことができる
【0013】
培養が、通気されながら行われ、かつ自然光、または人工光による光独立栄養的に行われるのが好ましい。
【0014】
光独立栄養的培養の光源として、太陽光または光照射が供されて培養が行われるのが好ましい。
【0015】
炭素源として、微細藻類の細胞内の有機物を利用して、あるいは、空気中のCO2、または細胞外の有機物が供されて培養が行われるのが好ましい。
【0016】
前培養して濃度を高めた微細藻類を培養するのが好ましい。
【0017】
微細藻類が、トレボキシア藻を含む広義の緑藻、珪藻、真眼点藻、紅藻、ラン藻およびユーグレナ藻からなる群から選ばれるものであるのが好ましい。
【0018】
微細藻類が、クロレラ属、ドナリエラ属、スピルリナ属、およびユーグレナ属から選ばれる可食の微細藻類であるのが好ましい。
【0019】
微細藻類が、クロレラ属、またはパラクロレラ属から選ばれるものであるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件で本培養を行った微細藻類における脂質蓄積を、ナイルレッド染色による細胞内中性脂肪の染色により分析した結果を示す。
図2図2は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件で本培養を行った微細藻類における脂質蓄積を、薄層クロマトグラフィーにより分析した結果を示す。
図3図3は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件で本培養を行った微細藻類における脂質蓄積量の経時的変化を示す。
図4図4は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件で本培養を行った微細藻類における脂肪酸の不飽和度の経時的変化を示す。
図5図5は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件で本培養を行った微細藻類におけるクロロフィル量と細胞の乾燥重量の経時的変化を示す。
図6図6は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件で本培養を行った際の濾紙中の水分残存量の経時的変化を示す。
図7図7は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件、および参考例1の硫黄欠乏ストレス負荷条件で本培養を行った微細藻類における脂質蓄積量の割合の比較を示す。
図8図8は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件、および参考例1の硫黄欠乏ストレス負荷条件で本培養を行った微細藻類における脂肪酸の不飽和度の比較を示す。
図9図9は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件、および実施例2のGb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条条件で本培養を行った微細藻類における脂質蓄積量の比較を示す。
図10図10は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件、および実施例2のGb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条件における各条件で本培養を行った微細藻類におけるクロロフィル量の比較を示す。
図11図11は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件、および実施例2のWash、Triple、LL、VLL条件で本培養を行った際の濾紙中の水分残存量の比較を示す。
図12図12は、実施例1の乾燥ストレス負荷条件、および実施例2のGb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条件で本培養を行った微細藻類における脂肪酸の不飽和度の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明のTGの製造方法は、微細藻類を培養して、微細藻類に油脂および脂肪族炭化水素の少なくとも一方を含む脂肪族化合物を蓄積させる培養工程において、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養してTGを優先的に蓄積させる培養工程を含むものである。本発明の培養工程は、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて行うことも出来る。また、本発明では、前培養して濃度を高めた微細藻類を培養するのが好ましく、したがって、前培養工程を含むのが好ましい。本発明による微細藻類の培養物からTGを採集する採取工程によりTGを得ることができる。
以下に各工程の詳細について説明する。
【0023】
本発明に用いる微細藻類は、トレボキシア藻を含む広義の緑藻、珪藻、真眼点藻、紅藻、ラン藻およびユーグレナ藻からなる群から選ばれるものであるのが好ましい。例えば、クロロフィルを有する酸素発生型光合成を行う可食の水中生物であることが望ましく、培養中の光合成により藻類内外に油脂および脂肪族炭化水素の少なくとも一方を含む脂肪族化合物を蓄積、分泌しうる種の微細藻類であれば、いずれの微細藻類でもよい。本発明では、可食微細藻類が好ましく、特に、クロレラ属、ドナリエラ属、スピルリナ属およびユーグレナ属からなる群から選ばれる少なくとも1種の微細藻類が好ましい。クロレラ属としては、例えば、クロレラ・ケスレリ(Chlorella kessleri 11h)、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、クロレラ・ピレノイドサ(Chlorella pyrenoidosa)、クロレラ・サッカロフィラ(Chlorella saccharophila)、クロレラ・レギュラリス(Chlorella regularis)、クロレラ・ソロキニアーナ(Chlorella sorokiniana)等が挙げられる。ドナリエラ属としては、例えば、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil) 、ドナリエラ・サリーナ(Dunaliella salina)等が挙げられる。スピリルナ属としては、例えば、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)、スピルリナ・ゲイトレリ(Spirulina geitleri)、スピルリナ・サイアミーゼ(Spirulina siamese)等が挙げられる。ユーグレナ属としては、例えば、ユーグレナ・グラシス(Euglena gracilis)、ユーグレナ・ビリデス(Euglena viridis)等が挙げられる。これらは、いずれも当業者が容易に入手できるものである。
【0024】
微細藻類により産生される脂肪族化合物としては、油脂および脂肪族炭化水素が挙げられる。油脂としては、脂肪族カルボン酸と、1価、または3価の脂肪族アルコールからなる脂肪族エステルが挙げられ、微細藻類が産生するものであれば、これら以外にもラウリン酸メチル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸メチル等でもよい。脂肪族炭化水素としては、微細藻類が産生するものであれば特に限定されず、常温で固体、または液体の脂肪族炭化水素が挙げられ、炭素数15〜40の範囲にある飽和、または不飽和の直鎖状脂肪族炭化水素が挙げられる。本発明の製造方法の目的物であるTGは、1分子のグリセロールに、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などの脂肪酸3分子がエステル結合したものである。
【0025】
本発明では、前培養工程において、微細藻類を通常の方法により培養して、微細藻類の濃度を高めるのが好ましい。培養するための培地としては、微細藻類を通常の方法により培養して、微細藻類の濃度を高めることが可能な培地であれば、CHU培地、JM培地、MDM培地などの一般的な無機培地を用いることが出来る。例えば、培地としては、ガンボーグB5培地、BG11培地、HSM培地、または、これらの各種培地の希釈液が好ましい。無機培地には、窒素源としてCa(NO3)2・4H2OやKNO3、NH4Clが、その他の主要な栄養成分としてKH3PO4やMgSO4・7H2O、FeSO4・7H2Oなどが含まれる。また、培地には、微細藻類の生育に影響を与えない抗生物質等を添加してもよい。培地のpHは3〜10が好ましい。乾燥ストレス負荷、更には、硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養へ移行するまでの培養期間は、接種する微細藻類の濃度に依存し、OD730≒0.5程度まで培養することが望ましい。
なお、前培養工程においても、本発明の乾燥ストレス負荷条件での培養、あるいは硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養を行ってもよく、また、それらの条件で培養を順次あるいは同時に行ってもよい。
【0026】
本発明のTGの製造方法では、好ましくは前培養工程に次いで、微細藻類に油脂および脂肪族炭化水素の少なくとも一方を含む脂肪族化合物を蓄積させる培養工程において、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養してTGを優先的に蓄積させる培養工程が行われる。乾燥ストレス負荷条件での培養は、例えば、培養液という微細藻類の標準的な液相生育環境を、気相生育環境中に移すことにより行われる。この乾燥ストレス負荷条件での培養は、通常の液体培地で前培養により増殖させた微細藻類を、脱水処理後の培養、気相中での固体上培養、あるいは高濃度の微細藻類の細胞液を徐々に乾燥させることにより行うことができる。脱水処理の方法としては、遠心分離、ろ過等による物理的方法、あるいは蒸発による方法が挙げられる。脱水処理後、通常の方法により光照射をして培養を継続することができる。固体上培養としては、例えば、寒天培地、ガラスファイバーフィルター、ろ紙、布などでの培養が挙げられる。気相中での固体上培養における培地は、上記と同じ組成の固体培地を用いることができる。高濃度の微細藻類の細胞液を徐々に乾燥させる場合には、培養リアクターなどの培養器中で徐々に乾燥させて培養することによって行うことができる。乾燥ストレス負荷条件での培養は、効率的に水分が除去され、かつ微細藻類内外の脂肪族化合物が酸化劣化を受けない条件で行うことが好ましい。例えば、気相中に設置した多段の培養用リアクター等を用いることにより、微細藻類を温度30℃、湿度90%の条件にて30〜100時間程度培養するのが望ましい。
このように、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養することにより、TGを優先的に微細藻類の体内に蓄積させることができる。
【0027】
本発明のTGの製造方法では、上記した乾燥ストレス負荷条件に加えて、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養を行うことも出来る。更に硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養を行うには、上記した乾燥ストレス負荷条件での培養の前または後に、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養を行うこともできる。
硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養は、前培養で用いるCHU培地、JM培地、MDM培地などの一般的な無機培地を硫黄欠損の培養液に置き換えることにより、前記した前培養条件と同様の条件で培養することにより行うことができる。
あるいは、乾燥ストレス負荷条件での培養と、硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養とを同時に行うこともできる。同時に行うには、例えば、前培養後の微細藻類の培養液を、ガラスファイバーフィルター、ろ紙、布などに滴下し、蒸留水で洗浄して硫黄を含む培養液を流し、吸引ろ過して乾燥した後に培養する方法、または、前培養後の微細藻類の培養液を、硫黄を含まない蒸留水を染み込ませたガラスファイバーフィルター、ろ紙、布などの積層体に、滴下して、培養する方法などにより実施できる。
【0028】
上記した乾燥ストレス負荷条件での培養、あるいは更に加えて、硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養を行うに際しては、培養が、通気されながら行われ、かつ自然光、または人工光による光独立栄養的に行われるのが好ましい。光独立栄養的培養としては、太陽光または光照射が供されて培養が行われるのが好ましい。また、炭素源として、微細藻類の細胞内に蓄積しているデンプンなどの有機物を利用して、あるいは、空気中のCO2、または細胞外のアセテートなどの有機物が供されて培養が行われるのが好ましい。
【0029】
培養物からTGを採集する採取工程では、先ず、培養工程で培養した微細藻類を培地、または寒天培地、ガラスファイバーフィルター、ろ紙、布などから分離する。培地からの分離は、ろ過や遠心分離等の固液分離手段を用いて微細藻類を培地から分離する、例えばglass micro fiber filterおよびアスピレーターによる分離が好ましい。得られた微細藻類からTGを得る手段としては、有機溶剤による抽出法や圧搾法を用いることができ。有機溶剤としてはエタノール、ヘキサン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、石油エーテル、アセトン等を用いることができ。また、例えば、超臨界抽出法なども有効な手段として使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および参考例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
本実施例では、高温条件での培養に耐性を有するクロレラ属野生株、クロレラChlorella kessleri 11h株の培養における乾燥ストレス負荷条件、硫黄欠乏ストレス負荷条件による脂肪族化合物蓄積とTG蓄積効率の検討を行った。
【実施例1】
【0032】
1.前培養条件
クロレラChlorella kessleri 11h 株を、1/4ガンボーグB5培地にて、温度30℃、2%-CO2を加えた空気を発泡管(キノシタボールフィルター 木下理化工業株式会社)から通気し、東芝蛍光灯フィッシュルクス20Wを用いて光強度15W/m2で光独立栄養的にOD730≒0.5になるまで育成させた。
【0033】
2.本培養条件:乾燥ストレス負荷条件での培養
乾燥ストレス負荷条件にて培養を行うため、前培養を行った細胞を、glass micro fiber filter (Whatman GF/C)に20mL滴下し、aspiratorで7秒間吸引ろ過することで前培養に使用した培養液を除去した。それを横26.5cm×幅35.5cm×高5.5cmの細胞培養容器(株式会社エンテック Hi-PACK, ポリプロピレン製)にて、温度30℃、湿度90%以上、光強度3.8W/m2、通気2%‐CO2の条件に置き、光独立栄養的に培養を継続した。本培養にて、0時間と96時間でサンプルを回収、および分析を実施した。
参考例1
【0034】
1.前培養条件
クロレラ Chlorella kessleri 11h 株を、培養用試験管(内容量50mL程度のガラス製)を用いて、3/10HSM培地にて、温度30℃、2%-CO2を加えた空気を発泡管(キノシタボールフィルター 木下理化工業株式会社)から通気し、東芝蛍光灯フィッシュルクス20Wを用いて光強度15W/mで光独立栄養的OD730≒0.5になるまで育成させた。
【0035】
2.本培養条件:硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養
硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養を行うため、前培養を行った細胞を、3000rpm、4℃、10min遠心を行い、上澄み除去後、3/10HSM液体培地(-S)を50mL加えて撹拌し、上記条件にて遠心を行うことで硫黄を洗い流した。この工程を2回行い、硫黄欠乏ストレス負荷条件を設定した。上澄み除去後の細胞を前記の硫黄欠損培地50mLにて懸濁し、温度30℃、光強度15W/m2、通気2%-CO2の条件に置き、光独立栄養的に培養を継続した。96時間培養の後、細胞培養液全量50mLの内、10mLをglass micro fiber filterにて吸引ろ過し、乾固させて乾燥重量を測定した。また、細胞培養液30mLを3000rpm、4℃、10min遠心し、細胞中の脂質抽出、および分析を実施した。
【実施例2】
【0036】
培養時条件として、濾紙への塗布方法、培養温度、CO2濃度、湿度、光源および光強度は特に記載がない限り、実施例1の乾燥ストレス負荷条件での培養と同様の条件で、かつ、以下に説明するGb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条件にて本培養を実施した。
【0037】
1.前培養条件
クロレラChlorella kessleri 11h 株を、1/4ガンボーグB5培地にて、温度30℃、2%-CO2を加えた空気を発泡管(キノシタボールフィルター 木下理化工業株式会社)から通気し、東芝蛍光灯フィッシュルクス20Wを用いて光強度15W/mで光独立栄養的に、ベックマン社DU700分光光度計にてOD730≒0.5になるまで育成させた。
【0038】
2.本培養条件:Gb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条件での培養
乾燥ストレス負荷条件であるGb条件、乾燥ストレス負荷条件かつ硫黄欠乏ストレス負荷条件であるD.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLLの各種条件で培養した。具体的には、Gb条件は、200mLの培養液(1/4ガンボーグB5液体培地)を染み込ませたキムタオル(2枚)、網、濾紙の順に積層し本培養を実施した。D.w条件は、200mLの蒸留水を染み込ませたキムタオル(2枚)、網、濾紙の順に積層し本培養を実施した。Wash条件は、濾紙上の細胞を50mLの蒸留水にて洗浄後、吸引濾過し本培養を実施した。Triple条件は、濾紙上への細胞量を3倍量の60mLとして本培養を実施した。Dark条件は、光条件を暗条件として本培養を実施した。LL (Low light:1 W/m2)、VLL (Very low light:0.4 W/m2) 条件は、弱光条件で本培養を実施した。
【0039】
試験例1
実施例1および2、参考例1での培養について、各種の試験を行って評価した。
【0040】
試験方法
1.サンプリング
サンプリングでは、クロロフィル定量用に1サンプル、湿重量および乾燥重量測定用に1サンプル、脂質定量用に2サンプルのサンプリングを実施し、これを計4回繰り返すことで再現性を検討した。
【0041】
2.クロロフィル定量
培養後の細胞重量を測定後、100%メタノールを1mL加えてボルテックスを用いて懸濁した。5min静置後、室温にて10000rpmで10min遠心した。上清に対して665nmと650nmにおける吸光度を測定した。計算式「Chla+b=4.0×A665+25.5×A650」によりクロロフィル量を定量した。
【0042】
3.Nile Redによる中性脂質の染色
細胞液1mLに対してアセトン1mLに0.5gのNile Red(9-diethylamino-5H-benzo[[a]phenoxa-]phenoxazine-5-one)を溶解した溶液を50mL添加し、サンプルを調製した。サンプルをスライドガラスに乗せ、UV光で励起(フィルター:WIG、励起光520から550nm、透過光580nm‐)しながら光学顕微鏡で観察した。
【0043】
4.湿重量・乾燥重量測定方法
あらかじめ用いる濾紙の質量を測定した。その後、本培養後の細胞を回収した。回収した細胞はそのまま湿重量を測定した後、55℃の乾燥器に5時間以上置き、完全に乾固させ乾燥重量を測定した。湿重量は、濾紙の質量、細胞の乾燥重量を引いて、濾紙に含まれている水分の質量のみを求めた。乾燥重量は、濾紙分の質量を引いて、細胞の乾燥重量を求めた。なお、濾紙上に残った無機塩類の質量は最大でも0.4mg程度である為、考慮しなくてもよい。
【0044】
5.脂溶性成分の抽出
本培養後の濾紙上の細胞にメタノール、クロロホルムを10mLずつ加え、ボルテックスを用いて懸濁し、脂溶性成分を細胞から完全に分離した。蒸留水を5mL加え、3000rpm、4℃、15min遠心し、メタノール/水層、クロロホルム層の2相に分離させた。その後、クロロホルム層を回収し、エバポレーターで溶媒を留去することで濃縮し、クロロホルム:メタノール=2:1(v/v)溶液に溶解し、脂溶性成分とした。
【0045】
6.薄層クロマトグラフィーによる各脂質の分離
薄層クロマトグラフィープレート(5721 Silica gel60,MERCK,Darmsadt,Germany)を120℃、2時間処理し、水分を完全に飛ばした。抽出した脂溶性成分を薄層クロマトグラフィープレートにスポットし、ドライヤーにより溶媒を乾燥させた。展開溶媒として、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=70:30:1を用いて約45min展開した。薄層クロマトグラフィープレートの溶媒を乾燥後、プリムリン溶液(アセトン:蒸留水=4:1(v/v)を溶媒として0.01%プリムリン(東京化成工業)溶液を調製)を噴霧し、365nmの励起光により各脂質を確認した。
【0046】
7.データ解析
定量にはデータ処理装置(C-R7 pulas, SHIMADZU, Kyoto, Japan)により得られたデータを用いた。アラキジン酸を含めた各成分のピーク面積から重量比を計算し、アラキジン酸のモル数から各成分のモル数を計算した。
【0047】
8.不飽和度の計算
二重結合の数を相対的に求めた。それぞれの脂肪酸の割合に2重結合の数を掛け、次式により算出した。{[(18:1)+(16:1)×1]+[(18:2)+(16:2)×2]+[(18:3)+(16:3)×3]}/全脂肪酸量=不飽和度
【0048】
9.脂溶性成分の定量
薄層クロマトグラフィーで分離されたスポットをスパーテルで削り取り、5%(w/v)塩酸メタノール溶液を加えた。90℃、3時間熱処理を施すことにより、脂質中のアシル基、遊離脂肪酸がメチルエステル化される。これを冷却後に、ヘキサン2mLを加えた後静置することにより2層分離し、上層のヘキサン層を回収した。下層には、再びヘキサン2mLを加え同様の回収を3回行うことで回収率を向上させた。回収後のヘキサン溶液をエバポレーターにより溶媒留去することで濃縮し、ガスクロマトグラフを用いて定量した。また、あらかじめアラキジン酸(Sigma, St.Louis, USA)をネジ蓋式ガラス試験管の中に添加し、窒素ガスで蒸散乾固しておくことで、指標とした。
【0049】
試験結果
1.乾燥ストレス負荷条件での培養による中性脂質の蓄積
Nile Redを用いて、細胞内の中性脂質を染色し、波長520-550nmの光により励起させて顕微鏡観察を行った。実施例1において、乾燥ストレス負荷条件にて96時間培養を行った結果、黄色い蛍光で示される中性脂質が顕著に増加することが示された(図1)。
【0050】
2.乾燥ストレス負荷条件での培養による薄層クロマトグラフィーによる
脂溶性成分の分離
薄層クロマトグラフィーにより、抽出した脂溶性成分中の中性脂質を分離した。この結果、実施例1において、乾燥ストレス負荷条件にて96時間培養することにより、TGを含む中性脂質が増加していることが確認された(図2)。
【0051】
3.乾燥ストレス負荷条件での培養におけるTGの蓄積
実施例1の培養において、乾燥ストレス負荷条件での培養時間経過に伴うTGの濃度変化を図3、および表1に示す。フィルター上での微細藻類の乾燥重量は23.6mgから60.0mgへと約2.5倍の増加に留まったが、全脂肪酸量は、1.5mgから12.9mgへと8.6倍に大幅な増加を示した。TG量は0.07mgから8.5mgへと増加しており、全脂肪酸量の増加の大半がTGに起因していた。この結果は、TGを構成する脂肪酸がストレス負荷前は全脂肪酸量の4.7%であったのに対して、ストレス負荷後に全脂肪酸量の65.9%に増加したこと、さらには、TGが微細藻類乾燥重量の14.2%に達したことを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
4.乾燥ストレス負荷条件での培養における脂肪酸組成と不飽和度の経時的変化
実施例1の培養において、総脂質における脂肪酸組成の不飽和度の経時的変化を図4、および表2に示す。全脂肪酸量での脂肪酸組成の割合における不飽和度は培養時間の経過とともにわずかに低下する傾向がみられた。一方、TGにおける不飽和脂肪酸の割合に大きな変化がみられず、図3に示した全脂肪酸におけるTG量は24時間目以降で増加する傾向がみられたため、96時間目における不飽和脂肪酸量の総和は増加すると考えられる。
【0054】
【表2】
【0055】
5.乾燥ストレス負荷条件での培養におけるクロロフィル量、および乾燥重量の測定
実施例1の培養において、クロロフィル量、および細胞乾燥重量の経時的変化を図5、および表3に示す。クロロフィル含有量は本培養開始から経時的に減少する傾向がみられた。この条件においては、48時間目以降、細胞増殖は横這いとなり、乾燥重量あたりのクロロフィル量は、5%から2%程度まで減少した。特に, 24-48時間後までの減少が顕著であった。
【0056】
【表3】
【0057】
6.乾燥ストレス負荷条件での濾紙中の水分残存量の変化
実施例1の培養において、乾燥ストレス負荷条件での濾紙中の水分残量の経時的変化を図6に示す。濾紙中の水分残量は、約0.5g強から0.2g強となり、ゆるやかに減少していた。これは、細胞培養容器内の湿度を90%以上に維持している為であると考えられ、屋内(湿度:30-50%)で乾燥させた場合では、数時間で乾燥してしまい、Nile Redでの染色結果においても脂質の増加がみられなかった。この為、脂質の蓄積にはゆるやかな乾燥ストレスを付加することが重要であることが示唆された。
【0058】
7.乾燥ストレス負荷条件と硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養におけるTG蓄積
実施例1の乾燥ストレス負荷条件と参考例1の硫黄欠乏ストレス負荷条件での培養について、湿重量・乾重量測定、脂溶性成分の抽出、薄層クロマトグラフィー、脂溶性成分の定量、およびデータ解析は上記方法と同様に実施した。硫黄欠乏ストレス負荷条件で培養した結果、乾燥重量あたりの総脂質蓄積量では乾燥ストレス負荷条件、および硫黄欠乏ストレス負荷条件における培養と同程度であったが、総脂質蓄積量あたりのTG量が52%と低い値となった(図7、および表4)。
【0059】
【表4】
【0060】
8.乾燥ストレス負荷条件と硫黄欠乏ストレス負荷条件における脂肪酸の不飽和度の比較
実施例1の乾燥ストレス負荷条件と、参考例1の硫黄欠乏ストレス負荷条件における全脂肪酸、および脂質中の脂肪酸の不飽和度の比較を図8、および表5に示す。乾燥ストレス負荷条件と硫黄欠乏ストレス負荷条件において、脂肪酸組成に大きな変化がみられなかったが、18:3においては乾燥ストレス負荷条件が僅かに多い結果となった。
【0061】
【表5】
【0062】
9.乾燥ストレス負荷条件とGb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条件の脂質蓄積量の比較
実施例1の乾燥ストレス負荷条件と実施例2に記載の各条件でのTGの蓄積の比較を図9、および表6に示す。GbとD.w条件の比較において、Gb条件では、脂質蓄積量の増加が小さい一方、細胞の乾燥重量増加は大きく、D.w条件では、脂質蓄積量の増加が大きく、細胞の乾燥重量増加が小さかった。D.w条件の脂質蓄積量は、乾燥ストレス負荷条件と比較して少ない為、乾燥ストレス負荷条件における脂質蓄積量の多さは単なる栄養欠乏ストレスではないと推測でき、細胞体における脱水ストレスであることが示唆された。Wash条件では、乾燥重量増加と脂質蓄積量は実施例1の乾燥ストレス負荷条件と同程度となり、乾燥ストレス負荷条件時の濾紙中に残った栄養培地の有無は、96時間後の脂質蓄積量に関係しないと考えられる。Triple条件では、細胞あたりの脂質蓄積量は実施例1の乾燥ストレス負荷条件の半値程度となった。濾紙上の細胞量が3倍となり細胞密度が高くなった結果、細胞あたりで使用しうる光エネルギーが減少することによるものと考えられる。LL、VLL条件では、TGの蓄積、細胞の乾燥重量共に低下し、Triple条件同様、弱光条件となったことに由来すると考えられる。
【0063】
【表6】
【0064】
10.乾燥ストレス負荷条件とGb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条件のクロロフィル量の比較
実施例1の乾燥ストレス負荷条件と実施例2に記載の各本培養条件でのクロロフィル量の比較を図10、および表7に示す。乾燥ストレス負荷条件、およびD.w、Wash、Dark条件において、細胞の乾燥重量あたりのクロロフィル量が小さい値となった。実施例1の乾燥ストレス負荷条件、およびD.w、Wash条件では、乾燥や蒸留水への溶媒置換による浸透圧変化、栄養欠乏状態への変化により細胞へのダメージが生じた結果であると考えられる。また、Dark条件では、暗条件であることからクロロフィルが減少したものと考えられる。TG蓄積量の増加が小さいLL、VLL条件では、クロロフィル量が大きい傾向がみられた。
【0065】
【表7】
【0066】
11.乾燥ストレス負荷条件とWash、Triple、LL、VLL条件の水分残存量の比較
実施例1の乾燥ストレス負荷条件と実施例2に記載の各本培養条件での水分残存量の比較を図11、および表8に示す。TG蓄積量の増加が小さいLL、VLL条件では、クロロフィル量と同様に水分残存量が大きい傾向がみられた。乾燥ストレス負荷条件にて乾燥が不十分な場合、脂質蓄積が減少することを実験的に確認しており、LL、VLL条件でTG蓄積量が小さい値となった理由として、水分残存量が大きいことが原因の一つとして考えられる。
【0067】
【表8】
【0068】
12.乾燥ストレス負荷条件とGb、D.w、Wash、Triple、Dark、LL、VLL条件における脂肪酸の不飽和度の比較
実施例1の乾燥ストレス負荷条件と実施例2に記載の各本培養条件での脂肪酸の不飽和度の比較を図12に示す。各条件で脂肪酸組成に大きな変化はみられなかったが、LL、VLL、Dark条件でのTGの不飽和度が低くなった。TGを構成する脂肪酸の二重結合を作る際に単結合と比較して多くのエネルギーが必要となるため、弱光条件において不飽和度が低下した可能性が考えられる。
【0069】
以上の結果から、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養することにより、TGを優先的に微細細胞内に蓄積できることが明らかとなった。また、前培養した微細藻類を、硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養することにより、TGを優先的に微細細胞内に蓄積できることも明らかとなった。更には、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件かつ硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養することにより、TGを優先的に微細細胞内に蓄積できることも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のTGの製造方法は、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養することにより、TGを優先的に微細細胞内に蓄積させて、TGを製造するものであり、乾燥ストレス負荷条件での培養では、培地供給等を行う必要がないため、安価で簡便にTGを製造することができる。TGの蓄積割合が高いため、効率的にTGを微細藻類の細胞から採取することができ、TGを効率的に製造することができる。また、微細藻類を乾燥ストレス負荷条件にて培養することに加えて、更に硫黄欠乏ストレス負荷条件にて培養することにより、TGを優先的に微細細胞内に蓄積でき、効率的にTGを製造することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
図12