【実施例】
【0036】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
実施例1
アルミニウムめっきの基本液として、ジメチルスルホンと塩化アルミニウムとを両者のモル比(ジメチルスルホン/塩化アルミニウム)が10/2となるように混合し、110℃に保ったものを用いた。この基本液にテトラエチレンペンタミンをジメチルスルホン10モルあたり0.003モル添加することにより、めっき液を得た。
【0038】
電析基板(陰極)として、エメリー紙で研磨した銅板またはニッケル板を用い、対極(陽極)にはアルミニウム板を用いた。
【0039】
次に、電析基板(陰極)および対極(陽極)を前記めっき液中に浸漬し、110℃の温度で60mA/cm
2にて600秒間の定電流電解を行なった。
【0040】
その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウムめっき皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウムめっき皮膜を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察するとともに、外観、表面粗さおよび正反射率を以下の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
〔外観〕
形成されためっき皮膜を目視にて色彩および光沢を観察し、光沢については、以下の評価基準に基づいて評価した。
(光沢の評価基準)
○:光沢に優れている。
△:半光沢である。
×:光沢がない。
【0042】
〔表面粗さ〕
アルミニウム皮膜の表面粗さは、表面粗さ測定器〔(株)東京精密製、サーフコム1400D−12M〕を用いて測定した。
【0043】
〔正反射率〕
アルミニウム皮膜の正反射率は、分光光度計〔大塚電子(株)製、瞬間マルチ測光システムMCPD−7700〕を用いて測定した。
【0044】
実施例2
実施例1において、テトラエチレンペンタミン0.003モルの代わりに塩化ジルコニウム0.01モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
実施例1において、テトラエチレンペンタミン0.003モルを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウムのめっき皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示された結果から、各実施例で得られためっき皮膜は、比較例1で得られためっき皮膜と対比して、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、光沢に優れ、表面が平滑であることがわかる。また、実施例2では、重金属であるジルコニウムを含む塩化ジルコニウムが用いられているが、その使用量が少なくても光沢に優れ、表面が平滑で光沢を有するめっき皮膜を有するアルミニウム材料が得られることがわかる。
【0048】
次に、実施例1〜2および比較例1で得られためっき皮膜の光学写真を
図1に示す。
図1において、(a)は比較例1で得られためっき皮膜の光学写真、(b)は実施例1で得られためっき皮膜の光学写真、(c)は実施例2で得られためっき皮膜の光学写真である。
【0049】
図1(a)に示されるように、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムを使用しなかった場合には、めっき皮膜の表面全体に凹凸が存在しているため、入射光を散乱することから、目視では無光沢となることがわかる。これに対して、実施例1〜2では、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、
図1(b)および(c)に示されるように、めっき皮膜の表面全体に凹凸が存在しておらず、その表面が平滑であるので、入射光が散乱しないことから、目視では光沢を有することがわかる。
【0050】
したがって、実施例1および2によれば、表面が平滑であり、光沢を有するめっき皮膜が形成されることがわかる。
【0051】
また、実施例1〜2および比較例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真を
図2に示す。
図2において、(a)は比較例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真、(b)は実施例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真、(c)は実施例2で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【0052】
図2(a)に示されるように、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムを使用しなかった場合には、めっき皮膜の表面全体に粒径が1〜20μmのアルミニウム結晶粒子が存在していることがわかる。これに対して、実施例1〜2では、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、
図2(b)および(c)に示されるように、めっき皮膜の表面全体に粒径が20nm以下であるアルミニウム結晶微粒子が存在していることがわかる。
【0053】
これらのことから、実施例1および2によれば、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているのでアルミニウム結晶微粒子が生成するので、表面が平滑であり、光沢を有するめっき皮膜が形成されるのに対し、比較例1では、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムが用いられていないため、粗大なアルミニウム結晶が析出し、めっき皮膜の表面が粗くなることから、光沢が失われることがわかる。
【0054】
次に、実施例1〜2および比較例1で得られためっき皮膜の正反射率の測定結果を
図3に示す。
図3に示された結果から、実施例1〜2で得られためっき皮膜は、いずれも、幅広い波長において反射率が高いことがわかる。なかでも、実施例2で得られためっき皮膜は、波長450〜1000nmの範囲で60%以上の高反射率を有することがわかる。これに対して、比較例1で得られためっき皮膜は、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムが使用されていないため、波長450〜1000nmの範囲でほぼ一定の20%という非常に低い反射率を有することがわかる。これらのことから、実施例1〜2で得られためっき皮膜は、光沢性に優れていることがわかる。
【0055】
実施例3
実施例1において、テトラエチレンペンタミンの量を0.02モルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0056】
実施例4
実施例1において、テトラエチレンペンタミンの量を0.001モルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0057】
実施例5
実施例2において、塩化ジルコニウムの量を0.005モルに変更したこと以外は、実施例2と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約5μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0058】
実施例6
実施例2において、塩化ジルコニウムの量を0.015モルに変更したこと以外は、実施例2と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約15μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0059】
実施例7
実施例1において、テトラエチレンペンタミン0.003モルの代わりにジエチレントリアミン0.003モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示された結果から、各実施例で得られためっき皮膜は、比較例1と対比して、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、光沢に優れ、表面が平滑であることがわかる。また、実施例5および6では、重金属であるジルコニウムを含む塩化ジルコニウムが用いられているが、その使用量が少なくても光沢に優れ、表面が平滑で光沢を有するめっき皮膜を有するアルミニウム材料が得られることがわかる。
【0062】
実験例
実施例2で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板または比較例1で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板を25℃の0.1M塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、当該電析基板を陰極として用い、銀−塩化銀参照電極を用いて陰極電位を−1.0Vから徐々に高めることによってアルミニウムめっき皮膜を酸化させたときの電流密度の変化を調べた。
【0063】
その結果、実施例2で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板を用いた場合には、初期の電流密度は0mA/cm
2であり、陰極電位が−0.4Vを超えたあたりから電流密度が0mA/cm
2から上昇して酸化電流が生じたのに対し、比較例1で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板を用いた場合には、初期の電流密度は0mA/cm
2であり、陰極電位が−0.6Vを超えたあたりから電流密度が0mA/cm
2から上昇して酸化電流が生じ、陰極電位が−0.5Vに到達するまでに電流密度が30mA/cm
2を超えた。したがって、実施例2で得られたアルミニウムめっき皮膜は、比較例1で得られたアルミニウムめっき皮膜と対比して、格段に耐食性に優れていることがわかる。
【0064】
以上の結果から、本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によれば、耐食性に優れたアルミニウムめっき皮膜を有する光沢アルミニウム材料が得られることがわかる。