特許第5943388号(P5943388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5943388塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943388
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20160621BHJP
   C04B 7/44 20060101ALI20160621BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20160621BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C04B7/60ZAB
   C04B7/44
   B09B3/00 304G
   B01D53/50 245
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-528655(P2012-528655)
(86)(22)【出願日】2011年8月4日
(86)【国際出願番号】JP2011067861
(87)【国際公開番号】WO2012020691
(87)【国際公開日】20120216
【審査請求日】2014年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-238089(P2010-238089)
(32)【優先日】2010年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-179104(P2010-179104)
(32)【優先日】2010年8月10日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 淳一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紳一郎
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−001176(JP,A)
【文献】 特開2007−119830(JP,A)
【文献】 特開2006−347831(JP,A)
【文献】 特開2003−236503(JP,A)
【文献】 米国特許第06331207(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/36− 7/60
B01D 53/34−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、
前記回収された塩素バイパスダストを分級し、該分級によって得られた微粉をスラリー化して前記塩素バイパス設備の排ガスに接触させることを特徴とする塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記スラリーに接触させる塩素バイパス設備の排ガスに含まれるSO2量(前記塩素バイパス設備の排ガス量と該排ガス中のSO2濃度の積)により、前記塩素バイパスダストを分級する際の分級点を制御することを特徴とする請求項1に記載の塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記分級点を10μm通過分で70質量%以上100質量%以下とすることを特徴とする請求項2に記載の塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項4】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスを粗粉と、微粉を含むガスとに分離し、該微粉を含むガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、
前記粗粉を分級して得られた微粉と前記回収した塩素バイパスダストとをスラリー化し、前記塩素バイパス設備の排ガスに接触させることを特徴とする塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項5】
前記塩素バイパス設備の排ガスと接触させるスラリーのpHを3.0以上10.5以下とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項6】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、 前記回収された塩素バイパスダストをスラリー化し、該塩素バイパス設備の排ガスに接触させ、該接触させた後のスラリーのpHを7.0以上10.5以下とすることを特徴とする塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項7】
前記塩素バイパス設備の排ガスと接触させた後のスラリーを固液分離して固形分を得て、該固形分をセメント仕上工程に供給することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項8】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、
前記回収された塩素バイパスダストをスラリー化した後、該スラリーを脱水し、
得られたケークを再溶解させ、
該ケークが再溶解したスラリーを該塩素バイパス設備の排ガスに接触させて、該排ガスの脱硫を行うことを特徴とする塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項9】
前記抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する前に分級によって得られた粗粉をさらに分級し、該分級によって得られた微粉を前記塩素バイパスダストとともにスラリー化した後、該スラリーを脱水し、得られたケークを再溶解させ、該ケークが再溶解したスラリーを該塩素バイパス設備の排ガスに接触させて、該排ガスの脱硫を行うことを特徴とする請求項8に記載の塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法。
【請求項10】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備に付設され、
前記回収された塩素バイパスダストをスラリー化する第1の溶解槽と、
該第1の溶解槽で生成されたスラリーを固液分離する固液分離装置と、
該固液分離装置で生成されたケークをリパルプする第2の溶解槽と、
前記第2の溶解槽で生成された再溶解後のスラリーを該塩素バイパス設備の排ガスに接触させて、該排ガスの脱硫を行う溶解反応槽とを備えることを特徴とする塩素バイパスダスト及び排ガス処理装置。
【請求項11】
前記固液分離装置から排出されたろ液から塩を回収する塩回収装置と、
前記抽気ガスから回収した熱を前記塩回収装置における塩回収に利用するガスガスヒータとを備えることを特徴とする請求項10に記載の塩素バイパスダスト及び排ガス処理装
置。
【請求項12】
前記ガスガスヒータは、前記抽気ガスを集塵する高温集塵機の排ガスから熱回収することを特徴とする請求項11に記載の塩素バイパスダスト及び排ガス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造設備に付設されている塩素バイパス設備から回収される塩素バイパスダスト及び塩素バイパス設備から排出されるガスを処理する方法及び装置に関する。
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素を除去する塩素バイパス設備が用いられている。近年、廃棄物のセメント原料化又は燃料化によるリサイクルが推進され、廃棄物の処理量が増加するに従い、セメントキルンに持ち込まれる塩素等の揮発成分の量も増加し、塩素バイパスダストの発生量も増加している。そのため、塩素バイパスダストの有効利用方法の開発が求められていた。
【0003】
かかる見地から、特許文献1及び2に記載のセメント原料化処理方法では、塩素を含む廃棄物に水を添加して廃棄物中の塩素を溶出させてろ過し、得られた脱塩ケーキをセメント原料として利用するとともに、排水のpHを調整して重金属を沈殿回収し、重金属回収後の排水を、塩分を回収した後又はそのまま放流する。
【0004】
また、特許文献3に記載の塩素バイパスダストの処理方法及び装置では、塩素バイパスダストに水を加えてスラリーとして貯留し、貯留したスラリーをクリンカ、石膏及び混合材の少なくとも一つとともにセメント仕上工程へ供給し、セメント製造用のミルで混合粉砕する。
【0005】
一方、上記塩素バイパス設備から排出されるガス(以下、「塩素バイパス排ガス」という)には、高濃度のSO2が含まれているため、脱硫処理が必要となる。そこで、例えば、特許文献4及び5では、塩素バイパスダストを回収した後、塩素バイパス排ガスをセメントキルン系に戻して処理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特許第3304300号公報
【特許文献2】日本国特許第4210456号公報
【特許文献3】日本国特許第4434361号公報
【特許文献4】日本特開2010−180063号公報
【特許文献5】日本特開2010−195660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1及び2に記載の発明では、脱塩ケーキに重金属が残留するとともに、排水処理で回収された汚泥に重金属が含まれるため、脱塩ケーキや汚泥をセメント原料系に戻すと、セメント焼成系で重金属が循環濃縮するため、排水処理のための薬剤費が増加したり、クリンカ中の重金属濃度が増加する虞がある。
【0008】
また、特許文献3に記載の処理方法では、塩素バイパスダストに水を加えてスラリーとすると、塩素バイパスダスト中のCaOが消和してCa(OH)2となる。そのため、スラリー中のカルシウム化合物として未反応で残ったCaO、Ca(OH)2及びCaCO3等が混在し、このスラリーをセメント仕上工程へ供給すると、製造されたセメントのCaO、Ca(OH)2含有率が安定せず、凝結時間等の物性に影響を及ぼす虞がある。
【0009】
一方、上記塩素バイパス排ガスを、セメントキルン系に戻して脱硫を行うと、硫黄分の濃縮により、セメントキルンやプレヒータでのコーチングトラブルが増加したり、塩素バイパス設備からの低温の排ガスが導入されることでプレヒータ等での熱損失が大きくなり、セメントキルンのクリンカ生産量の低下に繋がるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、薬剤費及びクリンカ中の重金属濃度の増加を防止し、セメントの品質の安定性を確保しながら塩素バイパスダストを処理するとともに、セメントキルン等でのコーチングトラブルを回避し、プレヒータ等での熱損失を防止し、クリンカ生産量の低下を招くことなく塩素バイパス排ガスを処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、前記回収された塩素バイパスダストを分級し、該分級によって得られた微粉をスラリー化して前記塩素バイパス設備の排ガスに接触させることを特徴とする。
【0012】
そして、本発明によれば、塩素バイパスダストを含むスラリーを塩素バイパス設備の排ガスに接触させることにより、スラリー中のCaO及びCa(OH)2を前記排ガス中のSO2と反応させて石膏(CaSO4)とすることができ、スラリーのCaO、Ca(OH)2の含有率を低下させることができる。また、塩素バイパス設備の排ガスに含まれるSO2と反応させることで、塩素バイパス設備の排ガス中の酸性ガス(SOx)を低コストで熱ロスを抑えながら脱硫処理することができる。さらに、スラリー化する塩素バイパスダストのCaO含有率を制御し、塩素バイパス設備の排ガスと接触した後のスラリーのpHを効率よく制御することができる。
【0014】
また、前記スラリーに接触させる塩素バイパス設備の排ガスに含まれるSO2量(塩素バイパス設備の排ガス量と該排ガス中のSO2濃度の積)により、前記塩素バイパスダストを分級する際の分級点を制御することができる。これによって、塩素バイパス設備の排ガスと接触した後のスラリーのpHを効率よく制御することができる。この際、前記分級点を10μm通過分で70質量%以上100質量%以下とすることができる。
【0015】
さらに、本発明は、塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスを粗粉と、微粉を含むガスとに分離し、該微粉を含むガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、前記粗粉を分級して得られた微粉と前記回収した塩素バイパスダストとをスラリー化し、前記塩素バイパス設備の排ガスに接触させることを特徴とする。これにより、回収した塩素バイパスダストのスラリーのみでは塩素バイパス設備の排ガスと接触した後のスラリーのpHの制御が困難な場合にも容易に対応することができる。
【0016】
前記塩素バイパス設備の排ガスと接触させるスラリーのpHを3.0以上10.5以下とすることができる。pHが3.0未満の場合には、塩素バイパス設備の排ガスの脱硫効果が低下し、pHが10.5を超えると、該スラリーを取り扱う装置においてスケールトラブルが発生するため好ましくない。
【0017】
また、本発明は、塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、前記回収された塩素バイパスダストをスラリー化し、該塩素バイパス設備の排ガスに接触させ、該接触させた後のスラリーのpHを7.0以上10.5以下とすることを特徴とする。このpHが7.0未満の場合、及び10.5を超える場合には、重金属の不溶化が不十分となるため好ましくない。
【0018】
さらに、前記塩素バイパス設備の排ガスと接触させた後のスラリーを固液分離して固形分を得て、該固形分をセメント仕上工程に供給することができる。この固形分は、CaO、Ca(OH)2の含有率が低いため、セメントに添加した場合でもセメントの品質を安定した状態に維持することができるとともに、この固形分をセメント原料系に戻さないため、薬剤費及びクリンカ中の重金属濃度の増加を防止することができる。
【0019】
また、本発明は、塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備において、
前記回収された塩素バイパスダストをスラリー化した後、該スラリーを脱水し、得られたケークを再溶解させ、該ケークが再溶解したスラリーを該塩素バイパス設備の排ガスに接触させて、該排ガスの脱硫を行うことを特徴とする。
【0020】
この方法によれば、塩素バイパス排ガスをセメントキルン系に戻さないため、セメントキルンやプレヒータでのコーチングトラブルを回避することができるとともに、プレヒータ等での熱損失を防止することができ、クリンカ生産量の低下を招くことなく塩素バイパス排ガスを処理することができる。
【0021】
また、塩素バイパスダストをスラリー化した後、脱水して得られたケークを再溶解させ、塩素バイパス排ガスの脱硫に用いるため、塩素濃度の低い環境下で脱硫を行うことができ、スケールトラブルの原因となる石膏の溶解を最小限に押さえ、コンクリート強度を低下させる要因となるシンゲナイト(K2Ca(SO42)の生成を抑制しながら塩素バイパス排ガスを処理することができる。
【0022】
上記塩素バイパスダスト及び排ガスの処理方法において、前記抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する前に分級によって得られた粗粉をさらに分級し、該分級によって得られた微粉を前記塩素バイパスダストとともにスラリー化した後、該スラリーを脱水し、得られたケークを再溶解させ、該ケークが再溶解したスラリーを該塩素バイパス設備の排ガスに接触させて、該排ガスの脱硫を行うことができる。これにより、回収した塩素バイパスダストのスラリーのみでは塩素バイパス排ガスの脱硫を充分に行うことができない場合にも、別途消石灰等の薬剤を購入することなく容易に対応することができる。
【0026】
さらに、本発明は、塩素バイパスダスト及び排ガス処理装置であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから塩素バイパスダストを回収する塩素バイパス設備に付設され、前記回収された塩素バイパスダストをスラリー化する第1の溶解槽と、該第1の溶解槽で生成されたスラリーを固液分離する固液分離装置と、該固液分離装置で生成されたケークを再溶解させる第2の溶解槽と、前記第2の溶解槽で生成された再溶解後のスラリーを該塩素バイパス設備の排ガスに接触させて、該排ガスの脱硫を行う溶解反応槽とを備えることを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、スケールトラブルの原因となる石膏の溶解を最小限に押さえ、シンゲナイトの生成を抑制しながら塩素バイパス排ガスを処理することができる。
【0027】
上記塩素バイパスダスト及び排ガス処理装置において、前記固液分離装置から排出されたろ液から塩を回収する塩回収装置と、前記抽気ガスから回収した熱を前記塩回収装置における塩回収に利用するガスガスヒータとを備えることができる。これにより、抽気した燃焼ガスの熱を有効利用しながら塩回収を行うことができる。
【0028】
前記ガスガスヒータは、前記抽気ガスを集塵する高温集塵機の排ガスから熱回収することができ、除塵した高温ガスから熱回収することで熱効率が向上する。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、薬剤費及びクリンカ中の重金属濃度の増加を防止し、セメントの品質の安定性を確保しながら塩素バイパスダストを処理するとともに、セメントキルン等でのコーチングトラブルを回避し、プレヒータ等での熱損失を防止し、クリンカ生産量の低下を招くことなく塩素バイパス排ガスを処理することなどが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第1のを示す概略図である。
図2】セメントキルン抽気ダストの10μm通過分(質量%)と該ダストのCaO濃度の関係を示すグラフである。
図3】本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第2のを示す概略図である。
図4】(a)は、粗粉の粒群毎のCl寄与率を示すグラフ、(b)は、粗粉の粒度分布を示すグラフである。
図5】本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第3のを示すフローチャートである。
図6】K+、Cl-及びSO42-と、シンゲナイトの生成量との関係を示すグラフである。
図7】本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第4のを示すフローチャートである。
図8】本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第5のを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第1のを示し、この塩素バイパス設備1は、セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部Gを冷却しながら抽気するプローブ3と、プローブ3で抽気した抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離するサイクロン4と、サイクロン4から排出された微粉D2を含む抽気ガスG2を冷却する熱交換器5と、熱交換器5からの抽気ガスG3を集塵するバグフィルタ6と、熱交換器5及びバグフィルタ6から排出されたダスト(D3+D4)を分級する分級機7と、分級機7から排出されたダストD5を一時的に貯留するダストタンク8と、ダストタンク8から排出されたダスト(塩素バイパスダスト)D6を水に溶解させた後、バグフィルタ6の排ガスG4と接触させる溶解反応槽9と、溶解反応槽9から排出されたスラリーS1のpH調整を行い重金属を不溶化させる調整槽10と、調整槽10から排出されたスラリーS2を固液分離する固液分離機11等で構成される。プローブ3〜バグフィルタ6の構成については、従来の塩素バイパス設備と同様の構成であるため、詳細説明を省略する。
【0033】
分級機7は、熱交換器5及びバグフィルタ6から排出されたダスト(D3+D4)を分級し、後述するように、溶解反応槽9に供給されるダストD5の粒度分布を調整して溶解反応槽9に供給されるCaOの量を調整する。この分級機7には、慣性力分級機(エアセパレータ、スターテバンドセパレータ、ハイドタイプセパレータ他)、遠心力分級機(ミクロンセパレータ、ターボクラシフィア他)等、供給するダストの粒度分布を調整できる装置であればいずれも用いることができ、2段、又は数段に分けてもよい。
【0034】
溶解反応槽9は、ダストタンク8からのダストD6を水(又は温水)を用いてスラリー化するとともに、溶解反応槽9にバグフィルタ6からのSO2ガスを含む排ガスG4が供給され、スラリーに含まれるカルシウム化合物と、SO2ガスとを反応させるために備えられる。尚、溶解反応槽9として、充填塔、多孔板塔、ベンチュリースクラバー、スプレー塔、ミキシング型スクラバー又は散気盤等を使用することができ、また、これらは連続式、バッチ式のいずれでもよい。また、ダストD6の供給は、スラリー化後であっても、又はダストD6を直接溶解反応槽9に投入し、槽内でスラリー化を行う方式のいずれでもよい。
【0035】
調整槽10は、溶解反応槽9から排出されたスラリーS1にpH調整剤を添加してpH調整を行い、鉛等の重金属を不溶化させるために備えられる。pH調整剤として、NaOH、Ca(OH)2、CaO、Mg(OH)2、さらに硫酸等を用いることができる。
【0036】
固液分離機11は、調整槽10から排出されたスラリーS2を固液分離するために備えられ、フィルタープレス、遠心分離機、ベルトフィルター等を用いることができる。
【0037】
次に、上記構成を有する塩素バイパス設備1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0038】
セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路からの燃焼ガスの一部Gは、プローブ3において、冷却ファン(不図示)からの冷風によって冷却され、塩素化合物の微結晶が生成される。この塩素化合物の微結晶は、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に偏在しているため、サイクロン4で分級した粗粉D1をセメントキルン系に戻す。
【0039】
サイクロン4によって分離された微粉D2を含む抽気ガスG2は、熱交換器5に導入されて抽気ガスG2と媒体との熱交換が行われる。熱交換によって冷却された抽気ガスG3は、バグフィルタ6に導入され、バグフィルタ6において抽気ガスG3に含まれるダストD4が回収される。バグフィルタ6で回収されたダストD4は、熱交換器5から排出されたダストD3とともに、分級機7で分級された後、ダストタンク8に一旦貯留され、溶解反応槽9に導入される。尚、分級機7の分級点については後述する。
【0040】
溶解反応槽9に導入されたダストD6は、溶解反応槽9内の水と混合されてスラリーとなる。ここで、スラリー中には、カルシウム化合物として、CaO、CaCO3及びCa(OH)2が混在するが、CaO、Ca(OH)2は、排ガスG4に含まれるSO2と反応してCaSO4へと転換される。このCaO及びCa(OH)2と、SO2との反応の際には、溶解反応槽9における排ガスG4の減少率(SO2ガスの減少率)、溶解反応槽9内のスラリーのpH、ダストD6の化学分析値等によって、溶解反応槽9内のスラリーの滞留時間や、ダストD6の投入量、ダストD6を溶解させたスラリーの供給量を調整する。
【0041】
溶解反応槽9では、反応槽内のスラリーのpHを、3〜10.5に調整し、より好ましくはpHを3〜7、さらに好ましくはpHを3〜6に調整し運転する。pHが3未満の場合には、塩素バイパス設備の排ガス脱硫効果が低下し、pHが10.5を超えると、該スラリーを取り扱う装置においてスケールトラブルが発生する原因となる。
【0042】
また、上記分級機7の分級点は、溶解反応槽9に導入される排ガスG4が含有するSO2量(処理ガス量×処理ガス中のSO2濃度)と、溶解反応槽9に導入されるダストD5が含有するCaOの量(濃度×ダスト量)に基づいて制御する。すなわち、溶解反応槽9内のスラリーのpHが一定になるように制御している際に溶解反応槽9に導入されるSO2量(処理ガス量が一定ならば、SO2濃度でも代用可能)が増加した場合や、溶解反応槽9内のスラリーのpHを上昇させたい場合には、ダストD6が含有するCaOの量を増加させる必要があるため、分級機7の分級点を変化させる。ここで、ダストD6の10μm通過分(質量%)とCaO濃度は、図2に示すような相関関係がある。これを利用して分級点を10μm通過分で制御し、例えば、70質量%〜100質量%の間で調整することができる。
【0043】
次に、溶解反応槽9から排出されたスラリーS1を調整槽10に供給し、スラリーS1にアルカリ源を添加してpHを7〜10.5に調整し、鉛、カドミウム、銅、亜鉛等の重金属を不溶化させる。溶解反応槽9の排ガスG5は、セメントキルン2に付設されたプレヒータの出口に導入される。
【0044】
次に、調整槽10から排出されたスラリーS2を固液分離機11において固液分離し、得られた固形分Cをセメント仕上工程へ供給する。一方、固液分離機11から排出されるろ液Lには、塩と重金属が含まれているため、製品としてのセメントの品質を考慮しながらセメント仕上工程に添加することで塩及び重金属処理を行うことができる。尚、セメント仕上工程に添加できなかったろ液Lは、塩及び重金属を回収した後放流する。
【0045】
上述のように、本実施の形態によれば、セメントに添加した場合に、製品の品質に影響を与える虞のあるCaO及びCa(OH)2をSO2と反応させてCaSO4に変化させた後、脱水して得られた固形物をセメント仕上工程へ供給するため、CaO及びCa(OH)2の含有率の低いセメントを製造することができ、凝結時間等の物性に影響を与えず、セメントの品質の安定性を確保することができる。
【0046】
また、上記固形分をセメント原料系に戻さないため、セメント焼成系で重金属が循環濃縮することがなく、排水処理のための薬剤費を低減することができるとともに、クリンカ中の重金属濃度が増加することもない。
【0047】
さらに、バグフィルタ6からのSO2ガスを含む排ガスG4、すなわち塩素バイパス設備1の排ガスには、酸性ガス(SOx)が含まれているが、この排ガスを上記CaO及びCa(OH)2との反応に利用するため、酸性ガスを低コストで熱ロスを抑えながら処理することができ、環境負荷を増加させることもない。
【0048】
次に、本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第2のについて、図3を参照しながら説明する。この塩素バイパス設備21は、熱交換器5及びバグフィルタ6の後段に配置されていた分級機7を削除し、サイクロン4から排出された粗粉D1を分級する分級機27を設け、分級機27で分級した微粉側ダストD7を溶解反応槽9に導入するルートを設けた点が図1に示した塩素バイパス設備1と異なり、他の構成は塩素バイパス設備1と同様である。そこで、図3において、図1と同じ構成要素、物質等については同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0049】
分級機27は、サイクロン4から排出された粗粉D1を分級し、分離された微粉側ダストD7を溶解反応槽9に供給し、粗粉側ダストD8をキルン系に戻するために備えられる。この分級機27には、図1の分級機7と同様のものを用いることができる。
【0050】
次に、上記構成を有する塩素バイパス設備21の動作について、図3を参照しながら説明する。
【0051】
セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路からの燃焼ガスの一部Gは、プローブ3において、冷却ファン(不図示)からの冷風によって冷却され、塩素化合物の微結晶が生成される。この塩素化合物の微結晶は、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に偏在しているため、サイクロン4で粗粉D1と、微粉D2を含む抽気ガスG2とに分離し、粗粉D1を分級機27に供給するとともに、微粉D2を含む抽気ガスG2を熱交換器5に導入する。尚、分級機27の動作及び分級点については後述する。
【0052】
熱交換器5において、抽気ガスG2と媒体との熱交換が行われ、熱交換によって冷却された抽気ガスG3は、バグフィルタ6に導入され、バグフィルタ6において抽気ガスG3に含まれるダストD4が回収される。バグフィルタ6で回収されたダストD4は、熱交換器5から排出されたダストD3とともにダストタンク8に一旦貯留され、溶解反応槽9に導入される。
【0053】
溶解反応槽9に導入されたダストD5は、溶解反応槽9内の水と混合されてスラリーとなる。ここで、スラリー中には、カルシウム化合物として、CaO、CaCO3及びCa(OH)2が混在するが、CaO、Ca(OH)2は、排ガスG4に含まれるSO2と反応してCaSO4へと転換される。このCaO及びCa(OH)2と、SO2との反応の際には、溶解反応槽9における排ガスG4の減少率(SO2ガスの減少率)、溶解反応槽9内のスラリーのpH、ダストD5の化学分析値等によって、溶解反応槽9内のスラリーの滞留時間や、ダストD5の投入量、ダストD5を溶解させたスラリーの供給量を調整する。
【0054】
分級機27は、溶解反応槽9に導入される排ガスG4が含有するSO2量(処理ガス量×処理ガス中のSO2濃度)と、溶解反応槽9に導入されるダストD5が含有するCaOの量(濃度×ダスト量)に基づいて制御する。すなわち、溶解反応槽9内のスラリーのpHが一定になるように制御している際に溶解反応槽9に導入されるSO2ガスの量が多くなった場合や、溶解反応槽9内のスラリーのpHを上昇させたい場合には、ダストD7が含有するCaOの量を増加させる必要があるため、分級機27で粗粉D1を以下に示す要領で分級し、微粉側ダストD7を溶解反応槽9に添加する。
【0055】
上述のように、プローブ3で冷却されて生成した塩素化合物の微結晶は、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に偏在しているため、分級機27において分級された微粉側ダストD7でも、微粉を多く含むものを溶解反応槽9に導入することが、塩素除去の観点から好ましい。
【0056】
図4は、サイクロン4において分級された2種類の粗粉側ダストD1(粗粉A及び粗粉B)について、それらの粒度分布と、塩素濃度等を比較したグラフを示す。
【0057】
図4(a)は、粗粉A、Bの粒群と、粗粉中の塩素(粗粉Cl)の寄与率を示す。このグラフを作成するにあたっては、まず、(1)粗粉を粒群毎に篩い分けて粒度分布(重量割合)を算出し、(2)粒群毎に塩素濃度を測定し、(3)粒群毎に塩素量(重量×塩素濃度)を算出し、(4)粗粉塩素量への寄与率(粒群の塩素量/総塩素量)を算出した。このグラフより、粒径が32μm以下のダストのClの寄与率が高いことが判る。尚、図4(b)は、粗粉A、Bの粒度分布、表1は、粗粉A、B各々の塩素含有率及びCaO含有率、各々の粗粉を得た時の塩素バイパスダストの塩素濃度を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
以上のように、本実施の形態によれば、分級機27によってサイクロン4から排出された粗粉D1を分級し、分離された微粉側ダストD7を溶解反応槽9に供給することで、ダストタンク8からダストD5を溶解反応槽9へ供給するだけではCaOの量が不足する場合にも柔軟に対応することができる。
【0060】
尚、上記実施の形態においては、塩素バイパス設備1、21に各々分級機7、27を設けた場合を例示したが、塩素バイパス設備に同時に分級機7、27を設けることもできる。また、分級機7、27が両方とも存在しない構成であっても、ダストタンク8に回収された塩素バイパスダストをスラリー化し、塩素バイパス設備の排ガス(バグフィルタ6の排ガスG4)と接触させることにより、溶解反応槽9内のスラリー中のCaO及びCa(OH)2を排ガス中のSO2と反応させて石膏(CaSO4)を生成させ、該スラリーのCaO、Ca(OH)2の含有率を低下させることができ、塩素バイパス設備の排ガス中の酸性ガス(SOx)を低コストで熱ロスを抑えながら処理することができ、セメント焼成系での重金属が循環濃縮を回避し、排水処理のための薬剤費を低減し、クリンカ中の重金属濃度の増加も回避できる。
【0061】
図5は、本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第3のを示し、この塩素バイパス設備31は、セメントキルン32の窯尻から最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部Gを冷却ファン34、35からの冷風で冷却しながら抽気するプローブ33と、プローブ33で抽気した抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離するサイクロン36と、サイクロン36からの粗粉D1から分取した粗粉D3を分級する分級機40と、サイクロン36から排出された微粉D2を含む抽気ガスG2を冷却する冷却器37と、冷却器37からの抽気ガスG3を集塵するバグフィルタ38と、冷却器37及びバグフィルタ38から排出されたダスト(D6+D7)を貯留するダストタンク39と、ダストタンク39から排出されたダスト(塩素バイパスダスト)D8等を第2の固液分離機47からのろ液L2に溶解させる第1の溶解槽41と、第1の溶解槽41から排出されたスラリーS1を固液分離する第1の固液分離機42と、第1の固液分離機42から排出されたケークCを再溶解(リパルプ)させる第2の溶解槽44と、第2の溶解槽44から排出されたリパルプスラリーRを用いてバグフィルタ38の排ガス(塩素バイパス排ガス)G4を脱硫する溶解反応槽46と、溶解反応槽46から排出されたスラリーS2を固液分離する第2の固液分離機47と、第1の固液分離機42から排出されたろ液L1から塩を回収する塩回収装置48等で構成される。プローブ33〜ダストタンク39の構成については、従来の塩素バイパス設備と同様の構成であるため、詳細説明を省略する。
【0062】
分級機40は、サイクロン36から排出された粗粉D1から分取した粗粉D3を分級するために備えられ、分級機40で分級された微粉D5は第1の溶解槽41へ供給され、粗粉D4はセメントキルン32に付設されたプレヒータ等にセメント原料として戻される。尚、サイクロン36から排出された粗粉D1のうち余剰となる分は分級機40に供給せず、粗粉D1’としてそのまま前記プレヒータ等にセメント原料として戻される。
【0063】
第1の溶解槽41は、ダストタンク39からのダストD8、及び分級機40からの微粉D5を第2の固液分離機47からのろ液L2を用いてスラリー化するために備えられる。
【0064】
第1の固液分離機42は、第1の溶解槽41から排出されたスラリーS1を固液分離するために備えられる。固液分離されたケークCは第2の溶解槽44へ、ろ液L1は塩回収装置48へ供給される。
【0065】
第2の溶解槽44は、第1の固液分離機42から排出されたケークCを再溶解させるために備えられ、リパルプしたスラリーRは、溶解反応槽46においてバグフィルタ38の排ガスG4の脱硫に利用される。
【0066】
溶解反応槽46は、バグフィルタ38からファン45を介して供給された排ガスG4を第2の溶解槽44から供給されたリパルプしたスラリーRを利用して脱硫するために備えられる。脱硫によって生じた二水石膏を含むスラリーS2は第2の固液分離機47へ、脱硫された排ガスG5は、セメントキルン32の排ガス系へ戻される。
【0067】
第2の固液分離機47は、溶解反応槽46から供給されたスラリーS2を固液分離するために備えられ、固液分離されたろ液L2は第1の溶解槽41で再利用され、固液分離されたケーク側に二水石膏Gyが回収される。
【0068】
塩回収装置48は、第1の固液分離機42から排出されたろ液L1に含まれる塩を回収するために備えられる。
【0069】
次に、上記構成を有する塩素バイパス設備31の動作について、図5を参照しながら説明する。
【0070】
セメントキルン32の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路からの燃焼ガスの一部Gをプローブ33によって抽気しながら、冷却ファン34、35からの冷風によって冷却する。これによって、塩素化合物の微結晶が生成される。この塩素化合物の微結晶は、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に偏在しているため、サイクロン36で分級した粗粉D1をセメントキルン32に付設されたプレヒータ等にセメント原料として戻す(D1’)か、分取して(D3)分級機40に供給して、後述するように脱硫に利用する。
【0071】
サイクロン36によって分離された微粉D2を含む抽気ガスG2を冷却器37に導入し、抽気ガスG2と媒体との熱交換を行う。熱交換によって冷却された抽気ガスG3をバグフィルタ38に導入し、バグフィルタ38において抽気ガスG3に含まれるダストD7を回収する。バグフィルタ38で回収したダストD7は、冷却器37から排出されたダストD6とともにダストタンク39に一旦貯留し、第1の溶解槽41に導入する。
【0072】
一方、サイクロン36から排出された粗粉D1の一部を分取し、分級機40に供給して分級する。分取しなかった粗粉D1’はそのままセメントキルン32に付設されたプレヒータ等にセメント原料として戻す。分級機40で分級された微粉D5を第1の溶解槽41へ供給し、粗粉D4を前記プレヒータ等へ戻す。尚、分級機40の制御方法の詳細については後述する。また、粗粉D1の一部を分取せずに、粗粉D1の全量を分級機40に供給してもよい。
【0073】
第1の溶解槽41に導入された微粉D5、及びダストタンク39からのダストD8は、第1の溶解槽41内において、第2の固液分離機47から供給されたろ液L2と混合されてスラリーS1が生成される。
【0074】
次に、第1の固液分離機42によって、第1の溶解槽41から排出されたスラリーS1を固液分離する。スラリーS1を固液分離しながら固液分離して得られるケークを水洗して塩素分を除去する。塩素分が除去されたケークCを第2の溶解槽44へ供給して再溶解させ、リパルプしたスラリーRを溶解反応槽46に供給して脱硫に利用する。尚、脱硫後の排ガスG5は、セメントキルン32の排ガス系へ導入する。
【0075】
ここで、上記リパルプしたスラリーR中には、カルシウム化合物として、CaO、CaCO3及びCa(OH)2が混在するが、これらは、溶解反応槽46でバグフィルタ38の排ガスG4に含まれるSO2と反応して二水石膏(CaSO4・2H2O)へと転換される。この際、第1の固液分離機42においてカリウム分や塩素分を除去したため、リパルプしたスラリーRの塩素含有率が低く、スケールトラブルの原因となる石膏の溶解を最小限に押さえることができるとともに、シンゲナイト(K2Ca(SO42)の生成を抑制することができる。
【0076】
さらに、溶解反応槽46に導入される排ガスG4が含有するSO2量(処理ガス量×処理ガス中のSO2濃度)と、溶解反応槽46に導入されるリパルプしたスラリーRが含有する脱硫に寄与するカルシウム(CaO、Ca(OH)2、CaCO3)の量(リパルプしたスラリーRに供する固形分中のCa濃度×再溶解(リパルプ)させる固形分量)に基づいて分級機40を制御する。すなわち、溶解反応槽46に導入されるSO2ガスの量が多くなった場合には、リパルプしたスラリーRが含有する脱硫に寄与するカルシウムの量を増加させる必要があるため、分級機40に供給する粗粉D3を増加させ、分級して得られた微粉D5を第1の溶解槽41に添加する。
【0077】
逆に、前記排ガスG4が含有するSO2量が減少した場合は、分級機40に供給する粗粉D3を減少させ、得られた微粉D5を第1の溶解槽41に添加するか、分級機40に全く粗粉D3を供給せず、ダストD8のみで脱硫する。
【0078】
また、上記分級機40の分級点は、溶解反応槽46に導入される排ガスG4が含有するSO2量(処理ガス量×処理ガス中のSO2濃度)と、溶解反応槽46に導入されるリパルプしたスラリーRが含有する脱硫に寄与するカルシウムの量(例えば、CaO濃度×ダスト量)に基づいて制御する。すなわち、溶解反応槽46に導入されるSO2量(処理ガス量が一定であれば、SO2濃度でも代用可能)が増加した場合には、リパルプしたスラリーRが含有するCaOの量が増加するように分級機40の分級点を変化させる。上述のように、プローブ33で冷却されて生成した塩素化合物の微結晶は、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に偏在しているため、分級機40において分級された微粉D5でも、微粉を多く含むものを溶解反応槽46に導入することが、塩素除去の観点から好ましい。
【0079】
表2は、ダストタンク39からのダスト(塩素バイパスダスト)D8と水との混合割合を変化させ、溶解反応槽46に供給し、pHが4〜6となったスラリーS2を固液分離した後のろ液L2のpH及び化学分析値、並びにケークGyに含まれるシンゲナイト及び二水石膏の含有割合を示す。同表に示すように、溶解反応槽46に供給するスラリーR、すなわち塩素バイパスダストを溶解させたスラリー又は/及び塩素バイパスダストをスラリー化した後、脱水して得られたケークを再溶解させたスラリーのカリウム濃度、塩素濃度を6質量%以下とすることで、二水石膏の生成量に対してシンゲナイトの生成量の割合が小さくなる。
【0080】
【表2】
【0081】
また、塩素バイパスダストを溶解させたスラリー又は/及び塩素バイパスダストをスラリー化した後、脱水して得られたケークを再溶解させたスラリーに含まれるK+、Cl-及びSO42-と、シンゲナイトの生成量とは図6に示すような関係があるため、スラリーRのカリウム濃度、及び塩素濃度を6質量%以下、また前記スラリーRのSO42-濃度を10000mg/L以下とすることで、上記シンゲナイトの生成を低く抑えることができる。
【0082】
次に、溶解反応槽46から排出されたスラリーS2を第2の固液分離機47で固液分離し、得られたろ液L2を第1の溶解槽41で再利用するとともに、ケーク側に二水石膏Gyを回収する。この二水石膏Gyの純度は75%以上である。
【0083】
一方、第1の固液分離機42で固液分離して得られたろ液L1を塩回収装置48へ供給し、塩を回収し、排水処理後放流する。
【0084】
次に、本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第4のについて図7を参照しながら詳細に説明する。尚、図7において、図5に示した塩素バイパス設備31と同一の構成要素については、同一の参照番号を付して詳細説明を省略する。
【0085】
この塩素バイパス設備61は、塩素バイパス設備31の冷却器37に代えてガスガスヒータ62を設けたことを特徴とし、他の構成要素は塩素バイパス設備31と同様である。
【0086】
ガスガスヒータ62は、サイクロン36から排出された抽気ガスG2によって周囲から取り入れた空気A1を加熱し、ガスガスヒータ62で加熱された高温空気A2を後段の塩回収装置48において塩回収に利用するために備えられる。これにより、抽気した燃焼ガスの熱を有効利用しながら塩素バイパス排ガスを処理することができる。また、ガスガスヒータ62で回収した熱を溶解反応槽46の排ガスG5の昇温に利用してもよい。
【0087】
次に、本発明にかかる塩素バイパスダスト及び排ガス処理方法を適用した塩素バイパス設備の第5のについて図8を参照しながら詳細に説明する。尚、図8において、図5に示した塩素バイパス設備31と同一の構成要素については、同一の参照番号を付して詳細説明を省略する。
【0088】
この塩素バイパス設備71は、塩素バイパス設備31の冷却器37、バグフィルタ38及びダストタンク39に代えて高温集塵機72を設け、高温集塵機72の後段にガスガスヒータ73を配置し、第1の固液分離機42及び第2の固液分離機47に代えて1台の固液分離機74を設けたことを特徴とし、他の構成要素は塩素バイパス設備31と同様である。
【0089】
高温集塵機72は、例えば、セラミックフィルタを備え、900℃程度までの耐熱性を有する高耐熱型のバグフィルタや電気集塵機であって、サイクロン36から排出された微粉D2を含む抽気ガスG2を冷却せずに集塵し、集塵したダスト(塩素バイパスダスト)D9を第1の溶解槽41に供給する。
【0090】
ガスガスヒータ73は、高温集塵機72から排出された抽気ガスG6によって周囲から取り入れた空気A3を加熱し、ガスガスヒータ73で加熱された高温空気A4を後段の塩回収装置48において塩回収に利用するために備えられる。これにより、抽気した燃焼ガスの熱を有効利用しながら塩素バイパス排ガスを処理することができる。また、空気A3との熱交換により、溶解反応槽46で脱硫する排ガスG7の温度の調整が可能となり、固結の発生を抑制することができる。また、ガスガスヒータ73で回収した熱を溶解反応槽46の排ガスG5の昇温に利用してもよい。
【0091】
固液分離機74は、第1の溶解槽41から排出されたスラリーS1の固液分離と、溶解反応槽46から供給されたスラリーS2の固液分離を時分割で行うために備えられる。スラリーS1を固液分離して得られたケークCは第2の溶解槽44へ、ろ液L1は塩回収装置48へ供給される。また、スラリーS2を固液分離して得られたろ液L2は第1の溶解槽41で再利用され、固液分離されたケーク側に二水石膏Gyが回収される。
【0092】
この塩素バイパス設備71においても、抽気した燃焼ガスの熱を有効利用しながら塩素バイパス排ガスを処理することができるとともに、固液分離機の台数を減らすことで設備コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 塩素バイパス設備
2 セメントキルン
3 プローブ
4 サイクロン
5 熱交換器
6 バグフィルタ
7 分級機
8 ダストタンク
9 溶解反応槽
10 調整槽
11 固液分離機
21 塩素バイパス設備
27 分級機
31 塩素バイパス設備
32 セメントキルン
33 プローブ
34、35 冷却ファン
36 サイクロン
37 冷却器
38 バグフィルタ
39 ダストタンク
40 分級機
41 第1の溶解槽
42 第1の固液分離機
44 第2の溶解槽
45 ファン
46 溶解反応槽
47 第2の固液分離機
48 塩回収装置
61 塩素バイパス設備
62 ガスガスヒータ
71 塩素バイパス設備
72 高温集塵機
73 ガスガスヒータ
74 固液分離機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8