特許第5943406号(P5943406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5943406ビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943406
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20160621BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20160621BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20160621BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20160621BHJP
   A23K 20/00 20160101ALI20160621BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   A61K31/7048
   A61K35/745
   A61P1/00
   A23L1/30 Z
   A23K1/16 303D
   A23K1/16 304B
   A23L1/30 B
   C12N1/20
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-90684(P2011-90684)
(22)【出願日】2011年4月15日
(65)【公開番号】特開2012-224551(P2012-224551A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191755
【氏名又は名称】森下仁丹株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】伊東 秀之
(72)【発明者】
【氏名】西田 典永
(72)【発明者】
【氏名】長友 暁史
(72)【発明者】
【氏名】吉野 智恵
(72)【発明者】
【氏名】小崎 敏雄
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/119667(WO,A1)
【文献】 特開2007−097594(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113595(WO,A1)
【文献】 特表2010−529962(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/028164(WO,A1)
【文献】 特開2004−155727(JP,A)
【文献】 特表2009−529902(JP,A)
【文献】 World J Microbiol Biotechnol,2011年 1月,Vol.27,No.1,Pages 123-128
【文献】 J. Agric. Food Chem.,2009年,Vol.57,No.18,pages 8344-8349
【文献】 Eur Food Res Technol ,2011年 3月,Vol.232,No.3,Pages 397-403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 35/00−36/9068
A23L 1/30
A23K 1/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プニカリンを含有する、飲食品、医薬品、飼料またはペットフード中におけるビフィズス菌の生存維持用組成物(ただし、成長促進用組成物を除く)。
【請求項2】
前記プニカリンが、ザクロ属植物、シクンシ属植物、ゴジアオイ属植物、モモタマナ属植物およびヨツバネカズラ属植物からなる群から選択される少なくとも1つの植物の一部から抽出されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記プニカリンを含む、ザクロの溶媒による抽出物を含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
飲食品、医薬品、飼料またはペットフードに添加して用いられる、請求項1から3のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項5】
キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物、およびビフィズス菌を含有する飲食品。
【請求項6】
前記溶媒が酢酸エチル、ブタノール、および水から選ばれるいずれかの溶媒である、請求項の飲食品。
【請求項7】
プニカリンを飲食品、医薬品、飼料またはペットフードに添加することにより、飲食品、医薬品、飼料またはペットフード中におけるビフィズス菌の生存を維持する方法。
【請求項8】
プニカリンを含有する菌株保存用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
病気の発症を予防し、健康を維持するために腸内細菌叢を最適に保つことが重要であると認識されるようになってきた。プロバイオティクスとは、宿主に有益に働く生きた細菌(有用菌)そのものと定義されており、ラクトバシラス属(Lactobacillus)属やビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)などがこれに該当する。これらの細菌は人の腸内にも常在している菌である。プロバイオティクスは難消化性成分の分解、免疫系の促進、食物アレルギーや腫瘍の抑制、ビタミン産生、コレステロールや脂肪の代謝、ミネラルの生体内利用の促進など人の健康に有益な作用をもたらす。
【0003】
プレバイオティクスとは、腸内の特定の有用菌の栄養源となり、それらの増殖を促進させ、宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分と定義されており、オリゴ糖や食物繊維などがこれに該当する。現在ではオリゴ糖(ガラクトオリゴ糖、フルクトオリゴ糖、ラクチュロースなど)や一部の食物繊維(イヌリンなど)がプレバイオティクスとして認められている。また、プレバイオティクスとして、糖質のものが大半であるが、最近では、非糖質のプロピオン酸菌発酵由来成分である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(DHNA)(特許文献1)なども認められている。さらに、ハマナス花に含まれるタンニンであるTellimagrandin IIが僅かにビフィズス菌を増殖させる作用があると報告されており(非特許文献1)、糖質以外のものにもプレバイオティクス効果が見出されている。
【0004】
腸内細菌叢は健康な時は安定しているが、宿主の生理機能、疾病、薬物、ストレス、食物などによって影響を受ける。特に食品中の成分は有用菌数を増減させて腸内細菌叢に影響を与える。植物由来の加水分解型タンニン、縮合型タンニン、フラボノイドなどのポリフェノールは食事により1日平均あたり1gが摂取されるとされている。それらは普段食される果物、野菜、お茶などに含まれ、腸内の病原菌に対して選択的に増殖を阻害し抗菌性を示すことが知られている。
【0005】
ザクロ果皮にはプニカリン(Punicalin)およびプニカラジン(Punicalagin)などのタンニンが多量に含まれており、中国では止瀉、止血、駆虫などに用いられている。またプニカラジンは黄色ブドウ球菌およびウェルシュ菌に代表されるクロストリジウム属(Clostridium)菌などに対する強い抗菌活性を有する一方でビフィズス菌であるビフィドバクテリウム・ブレーヴェ(Bridobacterium breve)に対する増殖促進作用を有し、プニカリンはビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)に対する僅かな増殖促進作用を有すると報告されている(非特許文献2)。しかし、ポリフェノールの腸内有用菌に対する生存維持作用は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−193903号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Manjiro Kamijoら、Biosci.Biotechnol.Biochem.、2008年、第72巻、第3号、p.773−777
【非特許文献2】Dobroslawa Bialonskaら、J. Agric. Food Chem.、2009年、第57巻、p.8344−8349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腸内有用菌であるビフィズス菌または乳酸菌の生存を維持するための、植物由来で安全な組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、ザクロなどの植物の抽出物中のポリフェノールがビフィズス菌または乳酸菌の生存を維持することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、ポリフェノールを含有するビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物を提供する。
【0011】
1つの実施態様では、上記ポリフェノールがプニカリンである。
【0012】
1つの実施態様では、上記組成物は、プニカリンを含む、ザクロ属植物、シクンシ属植物、ゴジアオイ属植物、モモタマナ属植物およびヨツバネカズラ属植物からなる群から選択される少なくとも1つの植物の一部またはその抽出物を含有する。
【0013】
1つの実施態様では、上記組成物中のプニカリンのプニカラジンに対する質量比が2以上である。
【0014】
1つの実施態様では、上記組成物は、ポリフェノールを含む、ザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツまたはアマの溶媒による抽出物を含有する。
【0015】
1つの実施態様では、上記組成物は胃腸疾患の予防および/または治療用である。
【0016】
1つの実施態様では、上記組成物は、飲食品、医薬品、飼料またはペットフードに添加して用いられる。
【0017】
1つの実施態様では、上記組成物は、菌株保存用培地に添加して用いられる。
【0018】
本発明は、また、プニカリン、またはザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物、およびビフィズス菌または乳酸菌を含有する飲食品を提供する。
【0019】
本発明は、さらに、ペットまたは家畜の腸内のビフィズス菌または乳酸菌の生存を維持する方法を提供し、該方法は、プニカリン、またはザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物を含有する飲食用組成物をペットまたは家畜に投与する工程を含む。
【0020】
本発明は、さらにまた、発酵飲食品の製造方法を提供し、該方法は、プニカリン、またはザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物を添加する工程を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、腸内有用細菌であるビフィズス菌または乳酸菌の生存を維持するための、植物由来で安全な組成物を提供することができる。本発明の組成物は、ビフィズス菌または乳酸菌の生存を維持し、腸内細菌叢を好適な状態に保つことができる。そして、腸内細菌叢を好適に保つことで病気の発症を予防し、健康を維持することができる。本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持作用は増殖促進作用とは異なる。生存維持作用によりビフィズス菌や乳酸菌が腸内で長く生きながらえるため、それらの菌が有する整腸効果や免疫増強効果などを奏する。
【0022】
本発明の組成物はまた、飲食品中のビフィズス菌または乳酸菌の生存期間を長期化することができる。菌株保存用培地に添加することにより、保存時の菌の生き残り数を高めることができる。菌株培養用培地に添加することにより、ビフィズス菌または乳酸菌の培養効率を上げることができる。さらに、発酵飲食品製造時に添加することにより製造工程中の菌の死滅を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の抽出物の抽出工程の一例を示す工程図である。
図2】ザクロ抽出物のビフィズス菌に対する生存維持効果を示すグラフである。
図3】プニカリンとプニカラジンのビフィズス菌に対する生存維持効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物中に含有されるポリフェノールは、植物中に含有される成分であり、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を有する。本発明のポリフェノールとしては、好適には、ザクロ属植物、シクンシ属植物、ゴジアオイ属植物、モモタマナ属植物、ヨツバネカズラ属植物、キンモクセイ、オオバゲッキツまたはアマに含有されているポリフェノールが挙げられる。
【0025】
本発明の組成物中に含有されるポリフェノールとしては、好適にはプニカリンが挙げられる。プニカリンは、次の構造を有する。
【0026】
【化1】
【0027】
プニカリンはザクロ属植物、シクンシ属植物、ゴジアオイ属植物、モモタマナ属植物、ヨツバネカズラ属植物などに含まれており、これら植物から抽出、精製して得ることができる。また、合成によって得ることができる。
【0028】
上記ザクロ属植物は、ザクロ科に属する。好適にはザクロ(石榴)(Punica granatum)が用いられる。抽出に用いられる部位としては果実、幹皮、枝皮または根皮が挙げられ、好適な部位としては果皮が挙げられる。例えば、ザクロの乾燥果皮から含水アセトン、含水エタノール、水などによって抽出する。
【0029】
上記シクンシ属植物は、シクンシ科に属する。好適にはシクンシ(Quisqualis indica)が用いられる。この植物の成熟果実は、「使君子」と呼ばれ、古くから薬用に使われている。特に駆虫薬として有名である。抽出に用いられる部位としては果実、種子が挙げられる。
【0030】
上記ゴジアオイ属植物は、ハンニチバナ科に属する。ゴジアオイ属は20の種を含む。好適には、Cistus ladaniferus、Cistus populifoliusが用いられる。
【0031】
上記モモタマナ属植物は、シクンシと同様にシクンシ科の植物である。好適には、Terminalia arborea、Terminalia calamansanai、Terminalia catappa、Terminalia chebula、Terminaria horrida、Terminalia trifloraが用いられる。
【0032】
上記ヨツバネカズラ属植物もシクンシ科に属する。好適には、Combretum glutinosumが用いられる。
【0033】
プニカリンの原料としては、上記植物またはその植物の一部、それらの加工物(乾燥物、破断物、細断物、またはこれらを粉末化した乾燥粉末、乾燥物を粉砕後成形したものなど)、またはこれらの粗抽出物が用いられ得る。本明細書において、単に植物という場合は、植物の加工物(乾燥物、破断物、細断物、またはこれらを粉末化した乾燥粉末、乾燥物を粉砕後成形したものなど)も包含する。植物の一部とは、果実、果皮、花、茎、葉、幹、種子などの植物の一部分のことである。本明細書において、抽出物とは、上記植物またはその加工物を溶媒で抽出して得られる抽出液、その希釈液または濃縮液、あるいはそれらの乾燥物を意味する。
【0034】
上記植物の抽出物は、植物またはその加工物を溶媒で抽出することによって得られる。抽出に使用される溶媒としては、水、エタノール、メタノールなどの低級アルコール、酢酸エチル、酢酸メチルなどの低級エステル、アセトン、およびこれらと水との混合物(含水有機溶媒)が挙げられる。中でも、ヒトが摂取するものであることから、水単独、エタノール単独またはエタノールと水との混合物(いわゆる含水エタノール)を使用するのが好ましい。特に30%(v/v)以上の濃度でエタノールを含むエタノール/水混合物を使用するのがより好ましい。
【0035】
抽出は、例えば、後述する実施例では、ザクロからの抽出において、アセトン/水混合物(70:30v/v)を使用しているが、これに代えて、30%(v/v)以上のエタノール/水混合物を用いることも可能である。
【0036】
抽出方法は特に限定されないが、使用における安全性および利便性の観点から、できるだけ緩やかな条件で行うことが好ましい。例えば、原料植物部位またはその乾燥物を粉砕、破砕または細断し、これに5〜20倍質量の溶媒を加え、0℃から溶媒の還流温度の範囲で30分〜数週間、例えば加熱下では30〜48時間、静置、振盪、撹拌あるいは還流などの任意の条件下にて抽出を行う。溶媒を加えた後にホモジェナイズして抽出してもよい。抽出後、濾過、遠心分離などの分離操作を行い、不溶物を除去して、必要に応じて希釈、濃縮操作を行うことにより、抽出液を得る。さらに必要に応じて、不溶物についても同じ操作を繰り返してさらに抽出し、その抽出液を合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明において好ましいプニカリンの精製手順および条件については、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相ODSカラムクロマトグラフィーおよび分取HPLCなどを組み合わせ、好適な条件下において、溶離剤(例えば、水、またはヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、メタノールおよびn−ブタノールなどの各種有機溶媒、またはこれらの混合物)を用いて行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0038】
本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物の1つの実施態様は、プニカリンを含むザクロ属植物、シクンシ属植物、ゴジアオイ属植物、モモタマナ属植物、ヨツバネカズラ属植物の一部またはその抽出物を含有する。本発明の組成物を食品または医薬品として使用する点などを考慮すると、本発明の組成物は好適には抽出物を含む。
【0039】
植物、植物の一部、抽出物、抽出方法については、上記と同様であり、同一の概念および意味を有する。
【0040】
本発明の組成物が含有する抽出物は、そのままあるいは濃縮して、液状物、濃縮物、ペースト状で、あるいは、さらにこれらを乾燥した乾燥物の形状で用いられる。乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、流動乾燥などの当業者が通常用いる方法により行われる。抽出物は、当業者が通常用いる精製方法によりさらに精製してもよい。
【0041】
本発明の組成物が含有する抽出物は、上記の手順により得られる水または溶媒抽出物および超臨界二酸化炭素抽出物、得られたこれらの抽出物を当該分野において公知の減圧乾固または噴霧乾燥(スプレードライ)などの方法で溶媒を除去して得られる固形分、およびさらにこれらを精製して得られる画分をも包含する。
【0042】
本発明において好ましい精製手順および条件については、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相ODSカラムクロマトグラフィーおよび分取HPLCなどを組み合わせ、好適な条件下において、溶離剤(例えば、水、またはヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、メタノールおよびn−ブタノールなどの各種有機溶媒、またはこれらの混合物)を用いて行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0043】
本発明の組成物中のプニカリンは、高純度であることが好ましい。特にプニカラジンより含有量が多いことが好ましい。好ましくは、プニカリンのプニカラジンに対する質量比が2以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。実質的にプニカラジンが含有されていない組成物が最も好ましい。プニカリンのプニカラジンに対する質量比が2以上であることにより、ビフィズス菌または乳酸菌の生存維持効果が特に高くなる。
【0044】
本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物は、また、ポリフェノールを含む、ザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツまたはアマの溶媒による抽出物を含有する。該組成物には、ザクロの溶媒による抽出物、キンモクセイの溶媒による抽出物、オオバゲッキツの溶媒による抽出物またはアマの溶媒による抽出物の2以上を含有している組成物も含む。
【0045】
本発明で用いるザクロ(石榴)は、ザクロ科植物、Punica granatumである。抽出に用いられる部位としては果実、幹皮、枝皮または根皮が挙げられる。好適な部位としては、果皮が挙げられる。例えば、ザクロの乾燥果皮から含水アセトン、含水エタノール、水などによって抽出する。
【0046】
本発明で用いるキンモクセイ(金木犀)はモクセイ科植物、Osmanthus fragransである。桂花とも呼ばれる。抽出に用いられる好適な部位としては花、葉が挙げられる。
【0047】
本発明で用いるオオバゲッキツ(大葉月橘)は、ミカン科植物、Murraya koenigiiである。別名はカレーツリーであり、その葉はカレーリーフと呼ばれる。抽出に用いられる好適な部位としては葉(カレーリーフ)が挙げられる。
【0048】
本発明で用いるアマは、アマ科植物、Linum usitatissimumである。亜麻仁油は、成熟したアマの種子から得られる、黄色っぽい乾性油であり、アマの種子(亜麻仁)を圧搾して、またはこれをつぶして溶媒で抽出することにより得られる。抽出に用いられる好適な部位としては種子が挙げられる。
【0049】
本発明で用いる溶媒としては、水、含水有機溶媒などが挙げられる。好ましくは、含水有機溶媒が用いられる。含水有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノールなどの低級アルコール、酢酸エチル、酢酸メチルなどの低級エステル、またはアセトンと水との混合物が挙げられる。
【0050】
ザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物の意味、概念は上記と同様であり、抽出方法、精製手順についても上記方法と同様の方法が用いられる。
【0051】
本発明の組成物が生存を維持できるビフィズス菌および乳酸菌は腸内細菌叢を形成する有用菌であれば特に限定されない。ビフィズス菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolesentis)、ビフィドバクテリウム・ブレーヴェ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)が挙げられる。
【0052】
乳酸菌としては、例えば、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピシズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピシズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピシズ・サーモフィラス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)、ロイコノストック・メセントリズ・サブスピシズ・クレモリス(Leuconostoc mesenterides subsp. cremoris)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・デルブルギ・サブスピシズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブルギ・サブスピシズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・プランタム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaseus)が挙げられる。
【0053】
本発明における、ビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物は、腸内細菌叢、飲食品、培養用培地、保存用培地などに存在するビフィズス菌または乳酸菌の生存を維持するものである。生存維持作用はビフィズス菌または乳酸菌の死滅を抑制し生存期間を長期化する作用であり、菌の分裂を活性化する増殖作用とは異なる作用である。ビフィズス菌または乳酸菌を増殖させるには、それらの菌に選択的な栄養源となる必要があるが、本発明の生存維持作用は、栄養源となるわけではなく、それらの菌が生存する上で障害となる酸素や酵素等から菌を防衛する作用と推測され、増殖作用とは全く異なる。
【0054】
本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物の形状は限定されない。固体、半固体や液状が例示される。本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物はヒトまたは動物に直接飲食、摂取、投薬されるものを含む。また、飲食品などに添加されるものを含む。添加する対象としては、飲食品、医薬品、飼料またはペットフード菌培養用培地、菌保存用培地、ビフィズス菌または乳酸菌含有飲食品などである。また、発酵食品の製造工程中に添加されるものである。
【0055】
ヒトまたは動物に直接飲食、摂取される組成物は、ビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用に特別に加工された健康食品やサプリメントが含まれる。例えば、飲料、麺類、菓子、ゼリー状の食品などを含む。飲食用に製剤化されていてもよい。粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤(懸濁剤、乳剤などを含む)などが例示される。当業者が通常用いる添加剤(例えば、デキストリン、デンプン、糖類、リン酸カルシウムなどの賦形剤、溶剤、香料、香油など)と混合して製剤化することができる。ヒトまたは動物に投薬される医薬組成物は、プニカリンまたは前記抽出物を当業者が通常用いる添加剤(例えば、デキストリン、デンプン、糖類、リン酸カルシウムなどの賦形剤、溶剤、香料、香油など)と混合して製剤化することができる。例えば、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤などが挙げられる。
【0056】
カプセル剤の製造方法としては、内容物としてプニカリンまたは前記抽出物を用いること以外は、従来公知のカプセルの製造方法に従えばよい。例えばソフトカプセルの製造法としては、カプセル皮膜シートを用いて、ロータリー式充填機で内容物を封入し、カプセル製剤を成型する方法、または滴下法によりシームレスカプセルを製造する方法などが挙げられる。
【0057】
また、顆粒剤については、公知の各種湿式、乾式などの造粒法が適用でき、適切な結合剤および賦形剤とともに成形する。錠剤については、上記植物または抽出物を含有する顆粒あるいは抽出物そのものに、適切な結合剤、賦形剤、崩壊剤および必要に応じて滑沢剤を添加し、公知の打錠法により調製することができる。さらに、飲料については、適切な糖、酸、香料などを添加して香味を調整し、公知の製法により調製することができる。
【0058】
飲食品などに添加される組成物は、粉状、液状など添加しやすい形状であれば限定されない。食品添加剤、栄養補助剤、食品補助剤などが例示される。ふりかけのように飲食する者が飲食物に添加混合できるような形状と量を含有する組成物、飲食品加工時に添加するための形状と量を含有する組成物など、添加方法、用途によって組成物の形状、量、加工度は異なるが、本発明の組成物はそれら全てを含む。
【0059】
本発明の組成物の1つの実施態様は、胃腸疾患の予防および/または治療用の組成物である。当業者が通常用いる方法により、例えば、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤などに製剤化される。投与方法は経口投与が好ましく、1日に1回または複数回投与される。ビフィズス菌または乳酸菌の生存維持作用により胃腸疾患を予防および/または治療できる。
【0060】
本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物は、飲食品、医薬品、飼料またはペットフードに添加して用いることができる。添加される飲食品は特に限定されるものではない。加工食品、飲料、調味料、粉ミルク、健康食品、サプリメントなどが例示される。飼料やペットフードは家畜やペットに与える餌であり、家畜やペット用の飲料も含む。
【0061】
本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物は菌株保存用培地に添加して用いることができる。本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物が菌株保存用補助剤として用いられるものであり、ビフィズス菌または乳酸菌の保存中の死滅を抑制するものである。
【0062】
また、本発明は、プニカリン、またはザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物、並びにビフィズス菌もしくは乳酸菌を含有する飲食品に関する。プニカリン、またはザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物を含有することにより、飲食品中のビフィズス菌もしくは乳酸菌の死滅が抑制され長期間生存可能になり、長期間飲食品としての価値が保持される。
【0063】
さらに、本発明は、プニカリン、またはザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物を含有する飲食用組成物をペットまたは家畜に投与する工程を含むペットまたは家畜の腸内のビフィズス菌または乳酸菌の生存を維持する方法に関する。飲食用組成物とは、餌や飲料であり、ペットや家畜の腸内細菌叢を好適にして健康を維持できる。
【0064】
さらに、本発明は、プニカリン、またはザクロ、キンモクセイ、オオバゲッキツもしくはアマの溶媒による抽出物を添加する工程を含むビフィズス菌または乳酸菌の発酵飲食品の製造方法に関する。プニカリンなどを添加することにより、製造工程中および発酵飲食品中のビフィズス菌または乳酸菌の生存が維持され、効率的な生産が可能となる。発酵飲食品中へのプニカリンの添加量は、好ましくは、0.00001〜0.01w/w%、より好ましくは、0.0001〜0.001w/w%、さらに好ましくは、0.0002〜0.0006w/w%である。発酵飲食品中への前記抽出物の添加量は、好ましくは、0.0001〜1w/w%、より好ましくは、0.001〜0.1w/w%、さらに好ましくは0.005〜0.02w/w%である。
【実施例】
【0065】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
(植物からの抽出物の調製)
乾燥させた、アスナロ(葉)、アマ(種子)、エバーラスティングフラワー(花)、大麦若葉(葉)、オリーブ(葉)、オレガノ(葉)、訶子(果実)、オオバゲッキツ(葉)、キンモクセイ(花)、ザクロ(果皮)、沙棘(果実)、サンシュユ(果実)、ジャーマンカモミール(花)、蘇梗(茎)、ニゲラ(種子)、ノニ(葉)、ハイビスカス(花)、冬葵(葉)、モッカ(果実)、モモ(花)、レモングラス(葉)、ローズペタル(花弁)、およびローマンカモミール(花)のそれぞれ600gに6.5Lの70%(v/v)アセトン水溶液を加え混合してホモジェナイズした。濾過後、濾液を集め、減圧濃縮および乾燥させて抽出物を得た。
【0067】
(実施例2)
実施例1で得られたザクロの果皮のエキスをエーテル、酢酸エチル、およびブタノールによって分画し、エーテル抽出物、酢酸エチル抽出物、ブタノール抽出物および水抽出物を得た(図1)。
【0068】
(実施例3)
実施例2で得られたブタノール抽出物500mgをMCI(登録商標)GEL(1.2cm I.D.×45cm)カラムを用いて水(150mL)、10%メタノール(550mL)、20%メタノール(250mL)、30%メタノールで順次溶出することにより活性化合物の単離を行った。その結果、10%メタノール溶出部のフラクション2〜8よりプニカリンを、フラクション33〜48よりプニカラジンを得た。プニカリン溶液中には、プニカラジンを実質的に含有していなかった。それぞれH−NMR、13C−NMR、MSのスペクトルデータの解析結果に基づき、プニカリンおよびプニカラジンと同定した。なお、各化合物の2次元NMR分析により帰属を行った。プニカリンのNMRデータを表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(実施例4)
(Bifidobacterium longum (B. longum)菌に対する生存維持作用評価試験)
【0071】
(1)実施例1で得られた抽出物の生存維持作用
実施例1で得られた抽出物の生存維持作用を下記の生菌数測定方法1によって評価した。
【0072】
生菌数測定方法1
被験サンプルはDMSOで溶解し、各サンプルの終濃度が0.01%になるようにした。Bifidobacterium longum BB536をMRS培地で37℃にて18時間以上嫌気的条件下で前培養した。前培養した菌をGAM培地(日水製薬)に1%容量添加し、37℃で嫌気的条件下で培養した。培養開始後12時間後に菌液を希釈後BL寒天培地(日水製薬)に播種し、さらに培養開始後24時間後も同様の操作を行い37℃、48〜72時間嫌気的条件下で培養後、BL寒天培地上のコロニー数をカウントし生菌数をCFU/mLで表した。生存維持作用の評価は、生菌数の増殖分を考慮して、コントロールと各抽出物についてそれぞれ培養開始後12時間後の生菌数と24時間後に生菌数を比較し、以下の式により相対残菌値を算出した。
【0073】
【数1】
【0074】
結果を表2に示す。表2からわかるように、B. longum菌に対して生存維持作用が認められたものはアマの種子の抽出物、キンモクセイの花の抽出物、オオバゲッキツの葉の抽出物であった。
【0075】
【表2】
【0076】
(2)実施例1で得られたザクロの果皮の抽出物および実施例2で得られたエーテル抽出物、酢酸エチル抽出物、ブタノール抽出物および水抽出物について、下記の生菌数測定方法2によって評価した。
【0077】
生菌数測定方法2(減衰期の始まりに被験サンプルを添加する方法)
Bifidobacterium longum BB536をMRS培地に播種し、37℃にて18時間以上嫌気的条件下で前培養した。前培養した菌をGAM培地(14.75g/250mL水)に1%容量添加し、37℃にて12時間嫌気的条件下で培養し、121℃にて20分間滅菌した試験管に10mLずつ分注した。各試験管にDMSOに溶解した被験サンプル(サンプルエキス1mg/100μL DMSO)を添加した(サンプルの終濃度は0.01%)。さらに37℃、24時間嫌気的条件下で培養し、菌液を希釈しBL寒天培地に播き、37℃、48〜72時間嫌気的条件下で培養後、寒天培地上のコロニー数をカウントし生菌数をCFU/mLで表し評価した。
【0078】
エーテル抽出物ではコントロールに対して生菌数は顕著に少なく、B. longumの生存を維持しないことが認められた。酢酸エチル抽出物、ブタノール抽出物および水抽出物ではコントロールに対して生菌数は多く、ザクロ全エキスよりも生存維持作用が強い結果となり、B. longumの生存維持作用が認められた。それぞれの生存維持作用の程度は、コントロールに対して酢酸エチル抽出物は1.41倍、ブタノール抽出物は1.42倍、水層抽出物は1.43倍であった。結果を図2に示す。
【0079】
(3)実施例1で得られたザクロの果皮のアセトン抽出物および実施例3で得られたプニカリンおよびプニカラジンについて、上記生菌数測定方法2によって評価した。結果を図3に示す。
【0080】
図3からプニカラジンではコントロールに対して生菌数が少なくなり(0.77倍)、プニカリンではコントロールに対して生菌数が顕著に多い(1.41倍)という結果となり、プニカリンは、B. longumに対して生存維持作用が認められた.
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のビフィズス菌または乳酸菌の生存維持用組成物は強いビフィズス菌または乳酸菌生存維持作用を有し、腸内細菌叢を最適にし、ヒトや動物の健康維持に有用である。また、発酵食品などへの添加、細胞保存培地、細胞培養用培地への添加にも有用である。
図1
図2
図3