【実施例】
【0025】
本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は特に異なる注記をしない限り体積基準である。
【0026】
試料
炭化水素としてデカン、ドデカンまたはテトラデカン(いずれも和光純薬工業株式会社製)を用いた。
界面活性剤としては非イオン性界面活性剤であるBrij97(Sigma−Aldrich製)を用いた。Brij97の化学式を以下に示す。
【0027】
【化1】
【0028】
実験装置(超臨界水供給装置)
高温・高圧下で水と炭化水素の均一溶液を作った後、界面活性剤の水溶液と混合・急冷することで、微小油滴を析出させると同時に安定化する流通型装置を開発し、実験を行った。装置の概略図を
図2に示す。炭化水素や界面活性剤は高温で処理すると熱分解してしまうが、この装置での加熱時間は数十秒以内であるため、高温下での熱分解を防ぐことができる。
図2に示す装置の各部分の体積は、以下のとおりである。
T1-T2:0.7 mL
T2-T3:0.2 mL
T3-T4:0.2 mL
【0029】
実験操作
図2に概略図を示した装置を用い、予熱コイルによって超臨界状態まで加熱された水に炭化水素を流し込み均一溶液を作った後、界面活性剤と混合し、その後冷却装置によって急冷した。急冷することにより微小油滴が析出し、エマルションが形成される。このとき圧力は、予熱コイルから圧力バルブまでの間で25MPaに保たれている。また、T1、T2、T3はそれぞれ温度計を示している。本装置では、1.処理温度、2.水、炭化水素、界面活性剤の流速、3.水と炭化水素の割合、4.炭化水素の種類、5.界面活性剤の種類・濃度など数多くのパラメータを制御できる。以下では、主に流速、処理温度、界面活性剤の濃度を変えて実験を行った。その変更条件を表1に示した。界面活性剤の濃度とは、T3で添加した界面活性剤水溶液中での濃度である。最終乳化物中での界面活性剤濃度は、表中の値の1/2となる。
【0030】
〈変更条件について〉
・処理温度…処理温度とは、
図2の概略図に示したA、B、Cの設定加熱温度のことである。
(A:予熱コイル、B:水と炭化水素が混合する点、C:炭化水素を混合する点と界面活性剤を混合する点の間)
・流速…水、炭化水素、界面活性剤の流速をそれぞれ変えた。
【0031】
【表1】
【0032】
平均直径の測定
乳化物中の炭化水素液滴の平均直径及び多分散度は、動的光散乱法によって求めた。動的光散乱法による平均直径の測定は、乳化物を水で10,000倍希釈した後、大塚電子株式会社製のFDLS−1200を用いて、25℃で行った。測定を始めるまでの放置時間は全て15分で統一した。
【0033】
各実験結果を
図3〜9に示す。
【0034】
流速、界面活性剤濃度の影響
図3は、水、炭化水素、界面活性剤の流速と、界面活性剤の濃度を変えていった場合の油滴のサイズ変化を示したものである。青線は水8ml/min、炭化水素2ml/min、界面活性剤10ml/min、赤線は水4ml/min、炭化水素1ml/min、界面活性剤5ml/min、黄線は水2.4ml/min、炭化水素0.6ml/min、界面活性剤3ml/minにした時の結果である。このとき圧力は25MPa、処理温度は、予熱コイルを440℃、水と炭化水素が混合する点を440℃、水と炭化水素が混合する点と界面活性剤が混合する点の間を445℃で統一した。この結果から、界面活性剤の濃度を上げていくと油滴サイズは小さくなるが、20mM以上の濃度ではほとんど変化がなく、また流速は油滴サイズにはほとんど影響しないということがわかった。油滴サイズは最小で159 nmとなり、その条件は流速20mL、界面活性剤濃度60mMであった。
【0035】
図4は、水、炭化水素、界面活性剤の流速と、界面活性剤の濃度を変えていった場合の多分散度を示したものである。条件は
図3の場合と同じである。この結果から、界面活性剤濃度が高くなるほど多分散度は小さくなる傾向にあることがわかった。しかし、流速20ml/minと10mi/minにおいて、70mM以上では多分散度が徐々に大きくなっているのは、界面活性剤が濃すぎたためにスムーズに流れず、均一に混合されなかったことが原因だと考えられる。
【0036】
流速が20mL、界面活性剤濃度が30mMの条件下では、多分散度が最も小さく、平均粒子径が181 nmで、サイズの揃った安定なエマルションが得られた(
図5)。
【0037】
処理温度の影響
表2に各処理温度における粒径、多分散度、そして温度計T1、T2、T3で測定された温度を示した。
【0038】
図6−1は、処理温度(T1、T2、T3)を変えた場合に対する油滴のサイズ変化を示したものである。四角(■)は界面活性剤を混合する点の温度T3、△(▲)は界面活性剤を混合する点と炭化水素を混合する点の中間の温度T2、丸(〇)は炭化水素を混合する点の温度T1の結果である。このとき、圧力は25 MPa、流速は水8ml/min、炭化水素2ml/min、界面活性剤10ml/minに設定した。また、界面活性剤の濃度(T3で添加した界面活性剤水溶液中での濃度)はすべて30mMで統一した。
図6−2に示すように、温度T2を下げていったとき、ある温度を境に急激に粒子サイズが大きくなったことから、粒径には水と炭化水素が溶解する温度、特に温度T2が関係していると考えられる。
【0039】
図7−1は、処理温度(T1、T2、T3)を変えた場合に対する多分散度の変化を示したものである。条件はすべて
図6の場合と同じである。これらの結果から、粒径が小さくなるにつれて粒子のサイズが揃うことがわかった。これは、ある特定の温度以上で水と炭化水素が溶解し、均一に核形成が起こっているためだと考えられる。この結果から、処理温度が高くなるほど平均粒子径は小さくなり、単分散になることがわかった。また、
図7−2に示すように、温度T2が、特定の温度以下になると炭化水素の溶解度が低下し、均一に混合しなくなるため、粒子サイズは大きくなり多分散になる。粒子サイズと温度との関係でも、温度T2が、重要と考えられる。
【0040】
図8は、各処理温度に対する油滴のサイズ分布を示したものである。
図9は経過時間に対する油滴サイズの変化率を示したものである。いずれも21℃、272℃及び323℃の結果のみを図示する。
図8、
図9に示した温度は、界面活性剤が混ざる点の温度T3(表2中の界面活性剤Mixing Ptの温度)を記録したものである。どちらも条件は
図6の場合と同じであり、表2に示すとおりである。また、表2から、
図8、
図9に示した結果のT2の温度も分かる。即ち、T3が21℃の場合、T2は22℃であり、T3が272℃の場合、T2は382℃であり、T3が323℃の場合、T2は406℃であった。
【0041】
図8から、処理温度(T2及びT3)が高くなるほど油滴サイズは小さくなり、分布も狭くなることがわかった。また、
図9から、低い温度(T2及びT3)で処理した場合は時間が経過するにつれて油滴のサイズが小さくなっていくのに対し、高い温度(T2及びT3)で処理した場合は時間の経過とともにサイズが大きくなっていくことがわかる。これは、高い温度で処理した場合、均一な大きさの油滴どうしが互いに合一することによってサイズが大きくなっていったと考えられる。一方低い温度で処理した場合、サイズの大きな油滴と小さな油滴が混ざっており、時間が経つにつれて大きな油滴が浮いていき、レーザーの当たる底の方に小さな油滴が集まっていたためにこのような結果になったと考えられる。これらのことから、小さな粒子サイズと多分散度には水と炭化水素が溶解(相溶)する温度(T2)が特に関係していると考えられる。即ち、本例の装置においては、界面活性剤を混合する点と炭化水素を混合する点の中間の温度T2が、水と炭化水素が相溶する温度以上の温度であることが、粒子サイズが小さい乳化物を調製する上で重要であることが分かる。
【0042】
【表2】
・処理温度…
図2の概略図に示したA、B、Cの設定加熱温度のことである。
設定温度はA、B、Cともに同一である。
(A:予熱コイル、B:水と炭化水素が混合する点、C:炭化水素を混合する点と界面活性剤を混合する点の間)
・界面活性剤 Mixing Pt…
図2の概略図に示したT3の温度計が示した温度である。
・中間…
図2の概略図に示したT2の温度計が示した温度である。
後続の冷却工程の影響でT1より低めの温度を示す。
水と炭化水素 Mixing Pt…
図2の概略図に示したT1の温度計が示した温度である。
【0043】
実施例1:デカン/水乳化物の調製
市販のデカンと水を1:4の割合で、444℃、25MPaで混合した後、444〜406℃の温度で約4.5秒間加熱した。圧力を保ったまま、混合物と30mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合し、混合物を約1.6秒間で42℃(
図2中の温度T4、以下同様)にまで冷却した。さらに冷却後、脱圧し、ドデカン10%、Brij97 15mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、デカンが平均直径181nmの油滴として分散されていることが分かった。
【0044】
実施例2:デカン/水乳化物の調製
実施例1と同様にしてデカンと水を1:4の割合で、400℃、25MPaで混合した後、400〜374℃の温度で約4.5秒間加熱した。圧力を保ったままで、混合物と30mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合し、混合物を約1.6秒間で44℃にまで冷却した。さらに室温まで冷却後、脱圧し、ドデカン10%、Brij97 15mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、デカンが平均直径231nmの油滴として分散されていることが分かった。
【0045】
実施例3:デカン/水乳化物の調製
実施例1と同様にしてデカンと水を1:4の割合で、348℃、25MPaで混合した後、348〜308℃の温度で約4.5秒間加熱した。圧力を保ったままで、混合物と30mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合し、混合物を約1.6秒間で42℃にまで冷却した。さらに室温まで冷却後、脱圧し、ドデカン10%、Brij97 15mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、デカンが平均直径393nmの油滴として分散されていることが分かった。
【0046】
参考例1: デカン/水乳化物の調製
実施例1と同様にしてデカンと水を1:4の割合で、21℃、25MPaで混合した。次に圧力を保ったままで、混合物と30mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合後、脱圧し、ドデカン10%、Brij97 15mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、デカン液滴の平均直径は538nmであった。
【0047】
参考例2:デカン/水乳化物の調製
実施例1と同様にしてデカンと水を1:4の割合で、246℃、25MPaで混合した後、246〜218℃の温度で約4.5秒間加熱した。圧力を保ったままで、混合物と30mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合し、混合物を約1.6秒間で35℃にまで冷却した。さらに室温まで冷却後、脱圧し、ドデカン10%、Brij97 15mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、デカン液滴の平均直径は485nmであった。
【0048】
実施例4:ドデカン/水乳化物の調製
市販のドデカンと水を0.2:9.8の割合で、440℃、25MPaで混合した後、440〜403℃の温度で約4.5秒間加熱した。圧力を保ったまま、混合物と10mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合し、混合物を約1.6秒間で57℃にまで冷却した。さらに冷却後、脱圧し、ドデカン1%、Brij97 5mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、ドデカンが平均直径79nmの油滴として分散されていることが分かった。
【0049】
参考例3:ドデカン/水乳化物の調製
実施例4と同様にしてドデカンと水を0.2:9.8の割合で、19℃、25MPaで混合した。次に圧力を保ったままで、混合物と10mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合後、脱圧し、ドデカン1%、Brij97 5mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、ドデカン液滴の平均直径は651nmであった。
【0050】
参考例4:ドデカン/水乳化物の調製
実施例4と同様にしてドデカンと水を0.2:9.8の割合で、343℃、25MPaで混合した後、343〜321℃の温度で約4.5秒間加熱した。圧力を保ったままで、混合物と10mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合し、混合物を約1.6秒間で50℃にまで冷却した。さらに室温まで冷却後、脱圧し、ドデカン1%、Brij97 5mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、ドデカン液滴の平均直径は436nmであった。
【0051】
参考例5:ドデカン/水乳化物の調製
実施例4と同様にしてドデカンと水を0.2:9.8の割合で、396℃、25MPaで混合した後、396〜377℃の温度で約4.5秒間加熱した。圧力を保ったままで、混合物と10mMのBrij97を含む水を、1:1の割合で混合し、混合物を約1.6秒間で56℃にまで冷却した。さらに室温まで冷却後、脱圧し、ドデカン1%、Brij97 5mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、ドデカン液滴の平均直径は355nmであった。
【0052】
実施例5:テトラデカン/水乳化物の調製
市販のテトラデカン(和光純薬工業株式会社製)と水と20mMのBrij97を含む水を0.2:5.0:5.0の割合で、438℃、25MPaで混合した後、438〜396℃の温度で約3.0秒間加熱した。圧力を保ったまま、混合物と水を、10.2:9.8の割合で混合し、混合物を約1.3秒間で62℃にまで冷却した。さらに冷却後、脱圧し、テトラドデカン1%、Brij97 5mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、テトラデカンが平均直径89nmの油滴として分散されていることが分かった。
【0053】
参考例6:テトラデカン/水乳化物の調製
実施例5と同様にしてテトラデカンと水と20mMのBrij97を含む水を0.2:5.0:5.0の割合で、23℃、25MPaで混合した。次に圧力を保ったままで、混合物と水を、10.2:9.8の割合で混合後、脱圧し、テトラドデカン1%、Brij97 5mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、テトラデカン液滴の平均直径は620nmであった。
【0054】
参考例7:テトラデカン/水乳化物の調製
実施例5と同様にして、テトラデカンと水と20mMのBrij97を含む水を0.2:5.0:5.0の割合で、244℃、25MPaで混合した後、244〜215℃の温度で約3.0秒間加熱した。圧力を保ったまま、混合物と水を、10.2:9.8の割合で混合し、混合物を約1.3秒間で36℃にまで冷却した。さらに冷却後、脱圧し、テトラドデカン1%、Brij97 5mMを含む乳化物を得た。
この乳化物の動的光散乱の測定により、テトラデカン液滴の平均直径は334nmであった。