特許第5943467号(P5943467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5943467ジフェニルスルホン誘導体、それよりなるホスト材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943467
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ジフェニルスルホン誘導体、それよりなるホスト材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/86 20060101AFI20160621BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20160621BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C07D209/86CSP
   C09K11/06 690
   H05B33/14 B
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-89999(P2012-89999)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-216630(P2013-216630A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年4月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構、産学イノベーション加速事業[戦略イノベーション創出推進]に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
(72)【発明者】
【氏名】笹部 久宏
(72)【発明者】
【氏名】清野 雄基
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−220931(JP,A)
【文献】 特開2000−021572(JP,A)
【文献】 特開2010−140976(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/146883(WO,A1)
【文献】 特開2010−189588(JP,A)
【文献】 特開2010−150215(JP,A)
【文献】 特開平05−224439(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102447078(CN,A)
【文献】 特開2005−044791(JP,A)
【文献】 Journal of the American Chemical Society,2012年,134(36),14706-14709
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09K11/06
H05B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記式のいずれかで表されるジフェニルスルホン誘導体。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のジフェニルスルホン誘導体よりなることを特徴とするホスト材料。
【請求項3】
一対の電極間に少なくとも1層の有機層が積層されてなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、請求項1に記載のジフェニルスルホン誘導体を含む層を備えていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
一対の電極間に1層又は複数層の有機層が積層されてなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、請求項記載のホスト材料にリン光材料がドープされた発光層を備えていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジフェニルスルホン誘導体、それよりなるホスト材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、電流注入型の自己発光素子であり、高視野角、高コントラスト、極薄構造、低電圧駆動及び高速な応答速度等の特長を有することから、次世代のフラットパネルディスプレイとして注目されており、近年、盛んに研究開発が行われている。
有機EL素子は、一部の製品で実用化が始まっているが、大型ディスプレイや照明分野への応用のためには、素子のさらなる高効率化が最重要課題の一つである。特に、高色純度かつ高効率で白色発光を実現するためには、青色有機EL素子の高効率化及び長寿命化が重要な課題となっている。
【0003】
この課題を解決するために、従来の蛍光素子と比較して4倍の高効率化が可能なリン光有機EL素子が注目されている。一般に、リン光素子の発光材料であるイリジウム錯体は、対称性が高く、凝集性が高い。このため、リン光素子の高効率化を図るためには、適切なホスト材料の開発が非常に重要である。このホスト材料には、エネルギー閉じ込めの観点から、高い三重項エネルギーを有すること、また、発光量子効率向上の観点から、ゲスト材料の凝集抑制等の特性が求められる。さらに、有機EL素子の特徴の一つである低電圧駆動のために、バイポーラ性を有すること、すなわち、優れたキャリア注入輸送性を有することが望まれる。
【0004】
しかしながら、これらの特性を同時に発現させることは非常に困難である。
最近、スルホン部位を有するバイポーラ性ホスト材料が開発された(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Fang-Ming Hsu, et al., J.Mater. Chem., 2009, 19, 8002-8008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載されたホスト材料は、スルホン部位の導入により高い電子注入性が発現されたものの、分子内電荷移動によるエネルギーギャップの縮小に伴う三重項エネルギー縮小のため、色純度の高い青色リン光有機EL素子に応用するのに十分な三重項エネルギーは持ち合わせていない。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、バイポーラ性を発現させつつ、高い三重項エネルギーを維持した、リン光材料に適したホスト材料によって、低電圧駆動で高効率な有機EL素子を得るのに有用な新規なジフェニルスルホン誘導体、それよりなるホスト材料及びそれを用いた有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るジフェニルスルホン誘導体は、下記式のいずれかで表される。
【0009】
【化1】
【0010】
上記のような構造からなるジフェニルスルホン誘導体によれば、バイポーラ性を備えているため、正孔注入輸送性及び電子注入輸送性を高め、かつ、π共役系拡大の抑制による高い三重項エネルギーを維持することができる。
【0011】
また、本発明によれば、前記ジフェニルスルホン誘導体よりなるホスト材料が提供される。
前記ジフェニルスルホン誘導体は、リン光材料のホスト材料として好適である。
【0012】
また、本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に少なくとも1層の有機層が積層されてなる有機EL素子であって、前記ジフェニルスルホン誘導体を含む層を備えていることを特徴とする。
【0013】
あるいはまた、本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に1層又は複数層の有機層が積層されてなる有機EL素子であって、前記ホスト材料にリン光材料がドープされた発光層を備えていることを特徴とする。
このように、本発明に係るジフェニルスルホン誘導体を用いることにより、低電圧駆動で高効率な有機EL素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る新規なジフェニルスルホン誘導体は、バイポーラ性及び高い三重項エネルギーを有しているため、青色リン光材料を効率よく発光させるホスト材料として好適である。
したがって、本発明に係るジフェニルスルホン誘導体を用いることにより、高効率な有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例2に係る有機EL素子の層構造を模式的に示した概略断面図である。
図2】実施例2における各有機EL素子の電流密度−外部量子効率曲線を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係るジフェニルスルホン誘導体は、前記一般式(1)で表される化合物である。
前記式(1)中、置換基R1〜R10のうちの少なくとも1つがカルバゾール基であり、それ以外の置換基R1〜R10は、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基を含有するアルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキルアミノ基、シアノ基及びフェニル基のうちのいずれかから選ばれた基である。
このようなジフェニルスルホン誘導体は、新規化合物であり、正孔輸送性かつ高い三重項エネルギーを有するカルバゾール基と、電子受容性の高いスルホン部位を有していることを特徴としている。
【0017】
前記一般式(1)で表される化合物のうち、具体例としては、下記に示すようなものが挙げられる。
【0018】
【化2】
【0019】
上記に例示したジフェニルスルホン誘導体のうちでも、前記一般式(1)の置換基R2〜R4及びR7〜R9のうちの少なくとも1つがカルバゾール基であることが好ましい。特に、下記に示す化合物(順に1CzSO、2CzSO、3CzSO、4CzSOと略称する)が代表例として挙げられる。
【0020】
【化3】
【0021】
上記のような本発明に係るジフェニルスルホン誘導体の合成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、下記実施例に示すような方法により合成することするができる。
【0022】
本発明に係るジフェニルスルホン誘導体は、カルバゾール基による正孔注入輸送性の向上及びスルホン部位による電子注入性の向上が図られ、かつ、π共役系拡大の抑制による高い三重項エネルギーを維持することができる。
したがって、リン光材料のドーパントのホスト材料として好適に用いることができる。
【0023】
上記のようなジフェニルスルホン誘導体を含む層を備えた本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に少なくとも1層の有機層が積層された構造からなる。具体的な層構造としては、陽極/発光層/陰極、陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極等の構造が挙げられる。
さらに、正孔注入層、正孔輸送発光層、電子輸送発光層等をも含む公知の積層構造であってもよい。
また、本発明に係る有機EL素子は、1つの発光層を含む発光ユニットが電荷発生層を介して直列式に複数段積層されてなるマルチフォトンエミッション構造の素子であってもよい。
【0024】
前記有機EL素子において、本発明に係るジフェニルスルホン誘導体は、前記有機層のいずれに用いられてもよく、正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料とともに分散して用いることや、この分散させた層中へ発光色素をドープすることも可能である。さらに、前記ジフェニルスルホン誘導体に、酸化性ドーパントを作用させることにより正孔注入輸送層として、また、還元性ドーパントを作用させることにより電子注入輸送層として用いることもできる。
【0025】
特に、前記ジフェニルスルホン誘導体をホスト材料として用い、これにリン光材料をドープした発光層を構成することにより、リン光材料を効率よく発光させることができる。
【0026】
なお、前記有機EL素子においては、本発明に係るジフェニルスルホン誘導体以外の各層の構成材料は、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができ、低分子系又は高分子系のいずれであってもよい。
前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
上記各層の形成方法は、蒸着法、スパッタリング法等などのドライブプロセスでも、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等のウェットプロセスであってもよい。
【0028】
また、電極も、公知の材料及び構成でよく、特に限定されるものではない。例えば、ガラスやポリマーからなる透明基板上に透明導電性薄膜が形成されたものが用いられ、ガラス基板に陽極として酸化インジウム錫(ITO)電極が形成された、いわゆるITO基板が一般的である。一方、陰極は、Al等の仕事関数の小さい(4eV以下)金属や合金、導電性化合物により構成される。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
下記合成例1〜4に示す各工程により、本発明に係るジフェニルスルホン誘導体の代表例を合成した。
(合成例1)1CzSOの合成
以下のような工程により、前駆体を合成後、対応するフェニルボロン酸との反応により、1CzSOを合成した。
【0030】
【化4】
【0031】
まず、温度計、窒素導入管及び還流管を備えた200ml四つ口フラスコに、3−ブロモヨードベンゼン8.49g(30.0mmol)、ヨウ化銅(I)571mg(3.00mmol)、炭酸カリウム8.29g(60.0mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)150mlを加え、窒素雰囲気下、100℃まで加熱撹拌した。3,5−ジクロロベンゼンチオール5.37g(30.0mmol)を加え、4時間反応させた。薄層クロマトグラフィ(TLC)にて原料の消失を確認した。
水100mlを反応液に加え、分液漏斗に移し、ヘキサン:酢酸エチル=1:1の混合溶媒で抽出し(100ml×2回)、有機層を飽和食塩水100mlで洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去し、透明黄色液体を得た(収量9.51g、収率95.1%)。目的物(mBrDClS)の同定は、1H−NMRスペクトルにて行った。
【0032】
【化5】
【0033】
次に、温度計、還流冷却器、塩化カルシウム管及び滴下漏斗を備えた500ml四つ口フラスコに、ジクロロメタン(DCM)250mlを加え、0〜5℃に冷却した後、30%m−クロロ過安息香酸32.7g(56.8mmol)を加えた。撹拌しながら、mBrDClS9.50g(28.4mmol)をジクロロメタン100mlに溶解させた溶液を0〜10℃で30分間かけて滴下した。滴下終了後、室温下で2時間反応させた。TLCにて原料の消失を確認した。
反応容器に、撹拌しながら飽和重曹水175mlを少量ずつ加え、加え終わった後30分間撹拌し、分液漏斗に移して有機層を回収した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ別後、溶媒を留去した。エタノールを用いた分散洗浄にて精製し、減圧下乾燥後、白色固体を得た(収量8.76g、収率84.2%)。目的物(mBrDClSO)の同定は、1H−NMRスペクトルにて行った。
【0034】
【化6】
【0035】
そして、温度計、窒素導入管及び還流管を付えた200ml四つ口フラスコに、mBrDClSO3.66g(10.0mmol)、カルバゾール1.67g(10.0mmol)、炭酸カリウム4.15g(30.0mmol)を加え、窒素フローした。これに、乾燥キシレン150mlを加え、1時間窒素バブリングした。酢酸パラジウム(II)89.8mg(0.40mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン0.376ml(1.60mmol)を加え、20時間還流した。TLCにて原料の消失を確認した。
水100mlを反応液に加え、分液漏斗に移し、ヘキサン:酢酸エチル=1:1の混合溶媒で抽出し(100ml×2回)、有機層を飽和食塩水100mlで洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた茶色固体を、トルエンを用いた再結晶法により精製した(収量1.80g、収率39.8%)。目的物(CzDClSO)の同定は、1H−NMR及びマススペクトルにて行った。
【0036】
【化7】
【0037】
さらに、温度計、窒素導入管及び還流管を備えた100ml四つ口フラスコにCzDClSO1.58g(3.50mmol)、2‐フェニル‐4,4,5,5‐テトラメチル‐1,3,2‐ジオキサボロラン(PhDOB)1.43g(7.00mmol)、1.35Mリン酸三カリウム水溶液15.6ml(21.0mmol)を加え、1時間窒素バブリングした。これに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.160g(0.175mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン0.147g(0.525mmol)を加え、1時間還流した。TLCにて原料の消失を確認した。
反応液に水100mlを加え、分液漏斗に移し、ヘキサン:酢酸エチル=1:1の混合溶媒で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下、溶媒を15ml程度まで濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにて、ヘキサン:酢酸エチル=5:1の混合溶媒を用いて精製し、茶色固体を得た。再度、シリカゲルカラムクロマトグラフィにて、トルエンを用いて精製し、無色透明粘体を得た。これをメタノールを用いた分散洗浄にて精製し、白色固体を得た(収量0.53g、収率28.3%)。目的物(1CzSO)の同定は、1H−NMR及びマススペクトルにて行った。
さらに、得られた白色固体(1CzSO)を昇華精製した後、元素分析による同定も行った。
【0038】
(合成例2)2CzSOの合成
以下のような工程により、前駆体を合成後、対応するカルバゾールとの反応により、2CzSOを合成した。
【0039】
【化8】
【0040】
まず、温度計、窒素導入管及び還流管を備えた200ml四つ口フラスコにヨードベンゼン15.0g(73.5mmol)、3,5−ジクロロベンゼンチオール15.8g(88.2mmol)、銅粉4.67g(73.5mmol)、炭酸セシウム28.7g(88.2mmol)、ジメチルスルホキシド(DMSO)100mlを加え、170℃で窒素雰囲気下、20時間反応させた。TLCにて原料の消失を確認した。
反応液をセライトろ過し、ろ液を水200mlで2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにて、ヘキサンを用いて精製し、無色透明溶液4.50g(収率23.9%)を得た。目的物(2ClS)の同定は、1H−NMRにて行った。
【0041】
【化9】
【0042】
次に、温度計、還流冷却器、塩化カルシウム管及び滴下漏斗を備えた300ml四つ口フラスコに、ジクロロメタン(DCM)100mlを加え、0〜5℃に冷却した後、30%m−クロロ過安息香酸21.3g(37.0mmol)を加えた。撹拌しながら、2ClS4.50g(17.6mmol)をジクロロメタン50mlに溶解させた溶液を0〜10℃で20分間かけて滴下した。滴下終了後、室温下で1時間反応させた。TLCにて原料の消失を確認した。
反応容器に、撹拌しながら飽和重曹水80mlを少量ずつ加え、加え終わった後30分間撹拌し、分液漏斗に移して水で洗浄した(100ml×4回)。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ別後、溶媒を留去した。得られた白色固体をエタノールで分散洗浄し、不溶物を吸引ろ過にて単離した。単離した固体を、トルエンを用いた再結晶法にて精製し、黄白色固体を得た(収量3.13g、収量62.0%)。目的物(2ClSO)の同定は、1H−NMR及びマススペクトルにて行った。
【0043】
【化10】
【0044】
そして、温度計、窒素導入管及び還流管を備えた100ml四つ口フラスコに、2ClSO1.15g(4.00mmol)、カルバゾール1.34g(8.40mmol)、炭酸カリウム3.32g(24.0mmol)を加え、窒素フローした。これに、乾燥キシレン70mlを加え、1時間窒素バブリングした。次に、酢酸パラジウム(II)35.9mg(0.16mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン0.15ml(0.64mmol)を加え、14時間還流した。TLCにて原料の消失を確認した。
反応液を、シリカゲルを用いて吸引ろ過した。ろ液を水で洗浄し(100ml×2回)、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィにて、トルエンを用いて精製し、飴状固体を得た。これをメタノール30mlで分散洗浄し、白色固体を得た。得られた白色固体を減圧下乾燥した(収量1.46g、収率66.7%)。目的物(2CzSO)の同定は、1H−NMR及びマススペクトルにて行った。
さらに、得られた白色固体(2CzSO)を昇華精製した後、元素分析による同定も行った。
【0045】
(合成例3)3CzSOの合成
以下のような工程により、前駆体を合成後、対応するカルバゾールとの反応により、3CzSOを合成した。
【0046】
【化11】
【0047】
まず、温度計、窒素導入管及び還流管を備えた100ml四つ口フラスコに、1−クロロ−4−ヨードベンゼン5.00g(21.0mmol)、3,5−ジクロロベンゼンチオール3.75g(21.0mmol)、炭酸カリウム8.71g(63.0mmol)、DMF70mlを加え、30分窒素バブリングした。これに、ヨウ化銅(I)0.40g(2.10mmol)を加え、100℃で窒素雰囲気下、22時間反応させた。TLCにて原料の消失を確認した。
反応液を吸引ろ過し、DMF50mlで洗浄した。ろ液を濃縮し、クロロホルム60mlを加え、不溶物を単離した。さらに、ろ液を30ml程度まで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製し、橙色液体を得た(収量6.48g、収率96.0%)。目的物(3ClS)の同定は、1H−NMR及びマススペクトルにて行った。
【0048】
【化12】
【0049】
次に、温度計、還流冷却器、塩化カルシウム管及び滴下漏斗を備えた200ml四つ口フラスコに、ジクロロメタン(DCM)100mlを加え、0〜5℃に冷却した後、30%m−クロロ過安息香酸23.8g(41.4mmol)を加えた。撹拌しながら、3ClS6.00g(20.7mmol)をジクロロメタン50mlに溶解させた溶液を0〜10℃で15分間かけて滴下した。滴下終了後、室温下で1時間反応させた。TLCにて原料の消失を確認した。
反応容器に、撹拌しながら飽和重曹水115mlを少量ずつ加え、加え終わった後30分間撹拌し、分液漏斗に移して有機層を回収した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ別後、溶媒を留去した。得られた白色固体をエタノールで分散洗浄し、不溶物を吸引ろ過にて単離した。得られた桃色固体を減圧下乾燥した(収量5.08g、収量76.3%)。目的物(3ClSO)の同定は、1H−NMR及びマススペクトルにて行った。
【0050】
【化13】
【0051】
そして、温度計、窒素導入管及び還流管を備えた200ml四つ口フラスコに、3ClSO2.57g(8.00mmol)、カルバゾール4.01g(24.0mmol)、炭酸カリウム9.95g(73.0mmol)を加え、窒素フローした。これに、乾燥キシレン160mlを加え、1時間窒素バブリングした。次に、酢酸パラジウム(II)71.8mg(0.32mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン0.301ml(1.28mmol)を加え、9時間還流した。TLCにて原料の消失を確認した。
反応液を、シリカゲルを用いて吸引ろ過した。ろ液を水で洗浄し(100ml×2回)、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた黒緑色飴状固体をヘキサン:トルエン=2:1の混合溶媒15mlで分散洗浄し、不溶物を単離した。さらに、得られた白色固体をトルエン160mlに加熱溶解させ、不溶物を単離した。ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィにてトルエンを用いて精製し、飴状固体を得た。これをメタノール30mlで分散洗浄し、白色固体を得た。得られた白色固体を減圧下乾燥した(収量2.28g、収率39.9%)。目的物(3CzSO)の同定は、1H−NMR及びマススペクトルにて行った。
さらに、得られた白色固体(3CzSO)を昇華精製した後、元素分析による同定も行った。
【0052】
(合成例4)4CzSOの合成
合成例3における出発原料の1−クロロ−4−ヨードベンゼンを3,5−ジクロロヨードベンゼンに変えて、合成例3と同様の工程により、前駆体としてビス(3,5−ジクロロフェニル)スルフィド、次いで、ビス(3,5−ジクロロフェニル)スルホンを合成した(国際公開WO2010/018858 A1参照)。合成したビス(3,5−ジクロロフェニル)スルフィドと、対応するカルバゾールとの反応により、4CzSOを合成した。
【0053】
【化14】
【0054】
温度計、窒素導入管及び還流管を備えた100ml四つ口フラスコに、ビス(3,5−ジクロロフェニル)スルホン1.42g(4.00mmol)、カルバゾール2.74g(16.4mmol)、炭酸カリウム6.63g(48.0mmol)を加え、窒素フローした。これに、乾燥キシレン80mlを加え、1時間窒素バブリングした。次に、酢酸パラジウム(II)35.9mg(0.16mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン0.15ml(0.64mmol)を加え、3.5時間還流した。TLCにて原料の消失を確認した。
反応液を、シリカゲルを用いて吸引ろ過した。ろ液を水で洗浄し(50ml×2回)、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた茶色固体をクロロホルム15mlで分散洗浄し、不溶物を吸引ろ過にて単離した。単離した白色固体を、トルエンを用いた再結晶法にて精製した(収量1.63g、収量46.3%)。目的物(4CzSO)の同定は、1H−NMRにて行った。
さらに、得られた白色固体(4CzSO)を昇華精製した後、元素分析による同定も行った。
【0055】
(実施例1)リン光スペクトル測定
上記において合成した各ジフェニルスルホン誘導体について、ジフェニルスルホン誘導体:5wt%Ir(ppz)3の共蒸着膜のリン光スペクトル測定を行い、スペクトルの立ち上がりから三重項エネルギーを見積もった。
その結果、いずれの誘導体も2.8eV以上の三重項エネルギーを示し、青色リン光発光材料での十分な三重項励起子閉じ込めが可能であることが認められた。
なお、Ir(ppz)3の構造を下記に示す。
【0056】
【化15】
【0057】
(実施例2)素子評価
上記において合成した各ジフェニルスルホン誘導体をホスト材料として用い、青色リン光材料であるFIrpicをドープした発光層を有する有機EL素子を作製した。素子構成は、その概要を図1に示すように、基板1/陽極2/正孔輸送層3/発光層4/電子輸送層5/電子注入層6/陰極7とした。具体的には、ITO/TAPC(20nm)/ホスト:11wt%FIrpic(10nm)/B3PyPB(50nm)/Liq(1.5nm)/Alとした。
なお、FIrpic、TAPC及びB3PyPBの各化合物の構造を下記に示す。
【0058】
【化16】
【0059】
各素子について、発光輝度100cd/m2、1000cd/m2のときの駆動電圧、電力効率、電流効率、外部量子効率の測定を行った。
これらの測定結果を表1にまとめて示す。
また、図2に各素子の電流密度−外部量子効率曲線を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
上記評価結果から、本実施例において合成したジフェニルスルホン誘導体は、高い三重項エネルギーを持つため、ホスト材料として用いることにより、青色リン光材料を効率よく発光させることができ、高効率な有機EL素子を提供可能であることが認められた。
【符号の説明】
【0062】
1 基板
2 陽極
3 正孔輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 陰極
図1
図2