(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
供給された軸状ワークを下方から水平状態で支持すると共に前記軸状ワークの軸方向に所定間隔で配置された前後2組でそれぞれ一対のローラを有する支持ローラと、前記前後2組の支持ローラの対向面間に配置された加熱コイル及び冷却ジャケットと、前記加熱コイルに高周波電流を供給可能なトランジスタインバータと、前記冷却ジャケットに冷却水を供給可能な冷却水供給部と、を備え、
前記前後2組の支持ローラの一対のローラは、その対向面側の外周面に、該支持ローラ上に位置する軸状ワークの軸方向への移動を抑制する磁石が埋設され、該磁石の磁力が、前記加熱コイルからの磁力で軸状ワークが軸方向に移動しようとする力を打ち消すことが可能な大きさに設定されていることを特徴とする軸状ワークの高周波焼入装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような高周波焼入装置にあっては、軸状ワークを誘導加熱する際に、軸状ワークが支持ローラ上で移動すると、軸状ワークの焼入品質が劣るため、軸状ワークを押さえローラ等により軸状ワークの回転を阻害しない程度の押圧力で上方から軽く押えながら誘導加熱している。ところが、この押さえローラによる支持方法では、軸状ワークの径方向(上下方向)の移動は規制できるものの、加熱コイルに高周波電流が供給された際に加熱コイル自体から発生する磁力により、軸状ワークが加熱コイルの貫通孔に進入する際に加熱コイル側に引っ張られたり、あるいは軸状ワークが加熱コイルの貫通孔から出る際に押し出される力が作用する。その結果、加熱コイルに対する軸状ワークの移動速度に微妙な変化が生じ、軸状ワークの焼き入れの開始位置や終了位置を均一化することが難しく、軸状ワークの外周面の所望位置に安定した高品質の焼入層を形成することが困難となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、加熱コイルによる誘導加熱時の軸状ワークの軸方向への移動を抑制して、軸状ワークに高品質な焼入状態を安定して得ることが可能な軸状ワークの高周波焼入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、供給された軸状ワークを下方から水平状態で支持すると共に前記軸状ワークの軸方向に所定間隔で配置された前後2組でそれぞれ一対のローラを有する支持ローラと、前記前後2組の支持ローラの対向面間に配置された加熱コイル及び冷却ジャケットと、前記加熱コイルに高周波電流を供給可能なトランジスタインバータと、前記冷却ジャケットに冷却水を供給可能な冷却水供給部と、を備え、前記前後2組の支持ローラの一対のローラは、その対向面側の外周面に、該支持ローラ上に位置する軸状ワークの軸方向への移動を抑制する磁石が埋設され
、該磁石の磁力が、前記加熱コイルからの磁力で軸状ワークが軸方向に移動しようとする力を打ち消すことが可能な大きさに設定されていることを特徴とする。
【0008】
また
、請求項2に記載の発明は、前記加熱コイルと冷却ジャケットが一体化されていることを特徴とする。さらに、
請求項3に記載の発明は、前記軸状ワークを支持ローラ上で軸方向に移動させる押し棒と、該押し棒の先端と軸状ワークの接触状態を検知可能な通電検出器を備え、前記通電検出器の検出結果に基づいて焼き入れされた軸状ワークの良否が判定可能に構成されていることを特徴とする。また、
請求項4に記載の発明は、前記押し棒の軸状ワークとの接触部を除く部分が、セラミックの溶射もしくは七宝焼により絶縁処理されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、前後2組の一対の支持ローラの対向面間に配置された加熱コイル及び冷却ジャケットと、トランジスタインバータ及び冷却水供給部等を備え、前後2組の支持ローラの一対のローラの対向面側の外周面に、支持ローラ上に位置する軸状ワークの軸方向への移動を抑制する磁石がそれぞれ埋設されているため、磁石の磁力で誘導加熱時に加熱コイルから発生する磁力による軸状ワークの軸方向への移動を抑制(阻止)できて、軸状ワークに高品質な焼入状態を安定して得ることができる。
【0010】
また、磁石の磁力が、加熱コイルからの磁力で軸状ワークが軸方向に移動しようとする力を打ち消すことが可能な大きさに設定されているため、加熱コイルに対する位置を安定させて軸状ワークの所望位置を焼き入れできて、一層高品質の焼入状態を得ることができる。
【0011】
また、
請求項2に記載の発明によれば、
請求項1に記載の発明の効果に加え、加熱コイルと冷却ジャケットが一体化されているため、前後の2組の支持ローラ間に例えば冷却ジャケットの機能を有する加熱コイルを確実に配置させて支持ローラの対向面間の間隔を狭めることができ、支持ローラ上に軸状ワークを安定支持することができる。
【0012】
さらに、
請求項3に記載の発明によれば、
請求項1または2に記載の発明の効果に加え、通電検出器で押し棒と軸状ワークの非接触状態が検出された際に、軸状ワークを不良品と判定可能に構成されているため、押し棒で軸状ワークを押した状態で焼き入れされた軸状ワークのみを良品と判定できて、例えば連続焼入作業であっても、軸状ワークに一層高品質の焼入状態を安定して得ることができる。
【0013】
また、
請求項4に記載の発明によれば、
請求項3に記載の発明の効果に加え、押し棒の軸状ワークとの接触部を除く部分が、セラミックの溶射もしくは七宝焼により絶縁処理されているため、高温に晒され易い押し棒の耐久性を高めて、焼入装置の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜
図7は、本発明に係わる軸状ワークの高周波焼入装置の一実施形態を示している。
図1に示すように、高周波焼入装置1は、例えばモータシャフト等のように、直径が5〜10mm程度で長さが60mm程度の小径の軸状ワークWを下方から支持する前後方向(
図1の左右方向)に配置された2組の支持ローラ2A、2Bと、この支持ローラ2A、2Bの対向面間に配置された噴射コイル3と、前記軸状ワークWを支持ローラ2A、2B上で軸方向に押して移動させる押し棒4と、前記支持ローラ2A、2B上の軸状ワークWを上方から軽く押える前後一対の押さえローラ5A、5B等を備えている。
【0016】
また、前記支持ローラ2A、2Bには、支持ローラ駆動部6が接続されると共に、前記噴射コイル3には、トランジスタインバータ7と冷却水供給部8が接続されている。また、前記押し棒4には、押し棒駆動部9が接続されると共に、前記押さえローラ5A、5Bには、押さえローラ駆動部10が接続されている。そして、前記支持ローラ駆動部6、トランジスタインバータ7、冷却水供給部8、押し棒駆動部9及び押さえローラ駆動部10は、マイコンやシーケンサ等を有する制御装置11に接続され、この制御装置11には、直流電源12aと、リレー等の検出器12bからなる通電検出器12が接続されている。
【0017】
前記前後2組の支持ローラ2A、2Bは、
図1及び
図2に示すように、導電性の金属材により円筒形状に形成された左右方向(
図1の上下方向)に一対のローラ2aをそれぞれ有し、各ローラ2aは、その一方の端面である対向面が軸状ワークWの移動方向イに所定の間隙14を有する如く、水平状態で平行に配置された2本の回転軸2bに固定されている。そして、各組の一対のローラ2aの上面で軸状ワークWの載置面が形成され、各回転軸2bが
図1の矢印ロの如く所定方向に回転することにより、各回転軸2bに固定されたローラ2aが所定方向に回転して、載置されている軸状ワークWが所定方向に回転可能となっている。
【0018】
また、前後2組の支持ローラ2A、2Bの4個の各ローラ2aには、その対向面側の外周面に周方向に沿って一定間隔で永久磁石15が埋設されている。すなわち、
図3及び
図4に示すように、各ローラ2aの端部の外周面に断面円形で所定深さの磁石固定孔16が周方向に一定間隔で形成され、この各磁石固定孔16内に円柱形状の永久磁石15がそれぞれ嵌挿されている。そして、各磁石固定孔16の開口端部の複数箇所(直径位置もしくし十字位置等)が加締め部17で加締められることにより、各磁石固定孔16内に永久磁石15がそれぞれ埋設状態とされている。
【0019】
この永久磁石15の極性と磁力は、軸状ワークWに所定の吸着力が作用して、後述する軸状ワークWの誘導加熱時の噴射コイル3から発生する磁力による軸状ワークWの支持ローラ2A、2B上での軸方向の移動を阻止する磁力(微力)に設定されている。また、永久磁石15の各ローラ2aへの埋設数も、回転状態の軸状ワークWの誘導加熱時の移動を阻止可能な磁力が得られる所定数(例えば20〜30個程度)に設定されている。なお、永久磁石15の形状は、図示した円柱形状に限らず例えば円盤形状でもあっても良い。
【0020】
前記押し棒4は、
図5に示すように、銅等の導電性の金属により形成され、その先端部に軸状ワークWの端面に接触(当接)可能な接触部4aが設けられると共に、この接触部4aを除く他の部分の外周面は絶縁材4bで被覆されている。この絶縁材4bは、例えばセラミックス粉末を押し棒4の外周面に溶射処理することで形成されたり、あるいは七宝焼きの手法を利用してホーロ処理することにより形成されて、押し棒4自体の耐熱性と耐久性が高められている。この押し棒4の例えば基端部が、前記押し棒駆動部9に接続され、この押し棒駆動部9が作動することにより、押し棒4が支持ローラ2a上を
図1の矢印イの如く移動するようになっている。
【0021】
そして、この押し棒4の基端部には、前記通電検出器12が接続されている。すなわち、
図1に示すように、通電検出器12を構成する直流電源12aのプラス側が押し棒4の基端部に接続され、直流電源12aのマイナス側が検出器12bを介して前記支持ローラ2Aの所定のローラ2aに接続されている。このとき、検出器12bはリレーで形成され、そのリレーコイルの一端が直流電源12aのマイナス側に接続され他端がローラ2aに接続されており、押し棒4の接触部4aが支持ローラ2A、2B上の軸状ワークWの端面に接触することで、それぞれ導電材で形成された押し棒4、軸状ワークW及びローラ2aが接続(導通)状態となって、リレーコイルに直流電流が供給されて通電状態となり、リレーの接点が閉となる。また、押し棒4の接触部4aと軸状ワークWの端面が非接触状態になると、リレーコイルへの通電が遮断されて、リレーの接点が開となるようになっている。この通電検出器12による検出信号が制御装置11に入力されて、後述する如く、軸状ワークWの誘導加熱時の位置(状態)が検出されることになる。
【0022】
前記噴射コイル3は、
図6に示すように、銅の丸パイプや角パイプを円形に加工するか、あるいは内壁、外壁、上下壁からなる各壁材をロー付けすることにより、中心位置に軸状ワークWが通過可能な貫通孔3aを有すると共に内部に冷却水流路3bを有する略円環形状に形成されている。この噴射コイル3の内壁には、冷却水流路3bと貫通孔3aを連通する複数の噴射孔3cが所定パターンで貫通孔3aの中心に指向する状態で形成されている。この噴射孔3cは、噴射コイル3の幅方向である軸状ワークWの移動方向イの下流側に形成されて該部分が冷却ジャケットとして機能し、上流側にはこの噴射孔3cが形成されず加熱コイルとして機能するように設定されている。また、噴射コイル3は、その端部が非接触状態とされて1ターンの加熱コイルとして機能するようになっている。
【0023】
そして、前記噴射コイル3の端部に設けた図示しない端子が前記トランジスタインバータ7の出力端子にケーブルを介して接続されると共に、該端部に設けた図示しないホースコネクタが冷却ホースを介して前記冷却水供給部8に接続されている。これにより、端子を介してトランジスタインバータ7から所定周波数の高周波電流が噴射コイル3の加熱コイル部分に供給されると共に、ホーコネクタを介して冷却水供給部8から噴射コイル3の冷却水流路3bに冷却水19が供給され、この冷却水19が、
図6の矢印ニの如く噴射孔3cから軸状ワークWの外周面に向けて所定圧で噴射されるようになっている。
【0024】
つまり、前記噴射コイル3は、前述したように、高周波電流の供給により磁束を発生させて軸状ワークWを渦電流により誘導加熱する加熱コイル機能と、冷却水流路3b内に供給される冷却水19を噴射孔3cから噴射することにより軸状ワークWの加熱面を急速冷却して焼き入れする冷却ジャケット機能の両機能を合わせ持っている。なお、噴射コイル3の構造は、この例に限定されず、例えば、加熱コイル部分と冷却ジャケット部分をそれぞれ別部材で形成し、これらの部材をロー付け等により固着して一体化した構成とすることも勿論可能である。
【0025】
前記前後の押さえローラ5A、5Bは、金属等の適宜の材質で例えばそれぞれ円盤形状に形成されて軸状ワークWの長さに対応し前後方向に所定間隔で配置され、押さえローラ駆動部10の作動により、
図2の矢印ハの如く上下動して、その外周面で支持ローラ2A、2B上の軸状ワークWの外周面を下方にそれぞれ所定圧で押さえるようになっている。この押さえローラ5A、5Bによる押圧力は、支持ローラ2A、2B上に載置された軸状ワークWが、各一対のローラ2aの回転に追従して該ローラ2a上で所定速度で回転可能となるような力に設定されると共に、軸状ワークWの上下方向の移動が阻止されるように設定されている。
【0026】
なお、前記前後2組の支持ローラ2A、2Bのうち前方の支持ローラ2Aの近傍には、
図2に示すように、ワーク供給用のホッパ18が接続配置されている。このホッパ18は、軸状ワークWを傾斜面18aに沿って移動させつつ先端に設けた供給口18bから側方に排出して、支持ローラ2A上に1本ずつ供給するようになっている。なお、ホッパ18としては、図示した例に限定されず、支持ローラ2A上に軸状ワークWを1本ずつ供給可能な適宜構成のものを使用することができる。
【0027】
次に、前記高周波焼入装置1を使用した軸状ワークWの焼き入れ作業の一例を
図7の工程図に基づいて説明する。先ず、支持ローラ2A、2Bを回転(K01)させ、この状態で前記ホッパ18から軸状ワークWが供給(K02)されると、この軸状ワークWは、前方の支持ローラ2Aの一対のローラ2a上に載置されて回転状態となり、この状態で制御装置11の制御信号により、押し棒駆動部9が作動して押し棒4が前進(K03)する。
【0028】
この押し棒4の前進により、支持ローラ2A上の回転している軸状ワークWが噴射コイル3方向に押圧されて、貫通孔3a内を所定の一定速度で移動する。この貫通孔3a内の移動時に、制御装置11の制御信号により押さえローラ駆動部10が作動して前後一対の押さえローラ5A、5Bが下降(K04)して、支持ローラ2A、2B上の軸状ワークWの外周面が軽く押さえられる。この軸状ワークWの押さえローラ5A、5Bによる押さえにより、軸状ワークWの上下方向の移動が阻止された状態となり、この状態で制御装置11の制御信号により、トランジスタインバータ7が作動(K05)して、噴射コイル3に所定周波数の高周波電流が供給される。
【0029】
噴射コイル3に高周波電流が供給されると、該噴射コイル3の加熱コイル部分から発生する磁束により、噴射コイル3の貫通孔3a内に位置する軸状ワークWの外周面に渦電流が誘起され、この渦電流により軸状ワークWが誘導加熱される。このとき、噴射コイル3に高周波電流が供給されると、その磁束による磁力が金属(磁性体)からなる軸状ワークWに作用して、該軸状ワークWを移動させるようとする。しかし、前記支持ローラ2A、2Bの場合、各ローラ2aの対向面側の外周面に永久磁石15が埋設されると共に、その磁力が予め所定に設定されていることから、永久磁石15の磁力が噴射コイル3からの磁力を打ち消す状態となって、噴射コイル3の磁力で軸状ワークWが支持ローラ2A、2B上を軸方向に移動することがなくなる。
【0030】
特に、軸状ワークWの軸方向の両端部に対応した支持ローラ2A、2Bの各ローラ2aの外周面に、その周方向に沿って一定間隔で永久磁石15が埋設されているため、軸状ワークWが誘導加熱時に回転しつつ移動しても、当該軸状ワークWに所定の磁力を常時作用させることができて、誘導加熱時の軸状ワークの軸方向の位置ずれ等を阻止することができる。これにより、軸状ワークWが貫通孔3a内に進入する際に噴射コイル3から引っ張られる磁力(すなわち軸状ワークWを押し棒4の先端部から離間させる力)が作用しても、この引っ張り力を永久磁石15の磁力で打ち消し、また、軸状ワークWが貫通孔3aから出る際に噴射コイル3から押し出す磁力が作用しても、この押し出し力を永久磁石15の磁力で打ち消すことができる。
【0031】
つまり、支持ローラ2A、2Bへの永久磁石15の埋設により、誘導加熱時に回転しつつ一定速度で移動する軸状ワークWの軸方向の移動、すなわち軸状ワークWの移動速度の変化が確実に抑制されて、押し棒4の移動速度に応じた一定速度で軸状ワークWを移動させることができ、押さえローラ5A、5Bによる上下方向の移動阻止と合わせ、軸状ワークWを支持ローラ2A、2B上の所定位置で焼き入れを開始したり焼き入れを終了できて、軸状ワークWの焼入位置や焼入状態等を安定させることが可能になる。
【0032】
そして、噴射コイル3の加熱コイル機能により該噴射コイル3の貫通孔3a内を回転移動しつつ誘導加熱された軸状ワークWは、制御装置11の制御信号により冷却水供給部8が作動して、噴射コイル3の冷却水流路3b内に供給されている冷却水19(
図6参照)が噴射孔3cから誘導加熱された軸状ワークWに向けて噴射(K06)される。冷却水19の噴射により、誘導加熱された軸状ワークWが急速冷却されてその加熱面が
焼き入れされ、この焼き入れ完了後に、押さえローラ5A、5Bを上昇させ、かつ押し棒4を後退(K07)させて、それぞれ初期状態に戻す。
【0033】
そして、焼き入れされた軸状ワークWを支持ローラ2B上から排出(K08)することで、一つの軸状ワークWの焼入作業が終了する。なお、工程K05と工程K06における誘導加熱と急速冷却は、略連続状態で短時間のうちに実行され、また、工程K08における排出は、押し棒4が加熱・冷却位置からさらに前進して、焼き入れされた軸状ワークWを図示しない排出装置を作動させて、後方の支持ローラ2Bから退去させることで行うことができる。
【0034】
ところで、前記工程中のうち工程K05のトランジスタインバータ7の作動時において、押し棒4の接触部4aが軸状ワークWの端面に接触して所定圧で押圧していることから、軸状ワークWの軸方向の戻り(移動)が押し棒4自体で阻止されると共に、押し棒4と軸状ワークWの接触状態が前記通電検出器12で検出されている。そして、制御装置11により、この接触状態がトランジスタインバータ7の作動中連続して検出された場合に、当該軸状ワークWの誘導加熱が正常に行われたと判断し、前記工程K08において、当該軸状ワークWを良品と判定して良品箱に排出する。
【0035】
一方、トランジスタインバータ7の作動中に、通電検出器12により非接触状態が検出された場合は、制御装置11が当該軸状ワークWが正常に誘導加熱(焼き入れ)されたものではないと判定して、当該軸状ワークWを工程K08において不良品箱に排出する。つまり、通電検出器12により押し棒4と軸状ワークWの接触状態がトランジスタインバータ7の作動中連続して検出された場合にのみ、焼き入れされた軸状ワークWを良品と判定することになり、軸状ワークWを連続して焼き入れする場合の、焼き入れ品質の良否を制御装置11により自動的に高精度に判定できることになる。
【0036】
なお、以上の工程においては、トランジスタインバータ7の作動中、軸状ワークWを噴射コイル3の貫通孔3a内で所定速度で移動させつつ行ったが、例えば軸状ワークWを噴射コイル3の貫通孔3a内で所定時間停止させて行うこともできる。また、焼き入れされた軸状ワークWの排出や供給を、前記支持ローラ2A、2Bを利用して行うようにしたり、所定の工程を並行して行うようにしても良い。
【0037】
このように、前記高周波焼入装置1によれば、それぞれ一対のローラ2aを有する前後2組の支持ローラ2A、2B間に噴射コイル3を配置すると共に、噴射コイル3に高周波電流を供給するトランジスタインバータ7及び冷却水19を供給する冷却水供給部8等を備え、前後の支持ローラ2A、2Bの対向面側の外周面に永久磁石15が埋設されているため、永久磁石15の磁力で誘導加熱時に噴射コイル3から発生する磁力による軸状ワークWの軸方向への移動を阻止(抑制)することができる。
【0038】
また、永久磁石15の磁力が、噴射コイル3からの磁力で軸状ワークWが軸方向に移動しようとする力を打ち消すことが可能な
大きさに設定されているため、押し棒4による軸状ワークWの軸方向の移動動作に支障をきたすことなくスムーズな移動が可能になると共に、噴射コイル3の貫通孔3aに対する焼き入れの開始位置や終了位置を簡単かつ確実に設定することができる。さらに、支持ローラ2A、2B上の軸状ワークWを押さえローラ5A、5Bで上方から、その回転に影響のない力で軽く押さえることができるため、軸状ワークWの上下方向の移動を阻止することができると共に、押し棒4の先端の接触部4aが軸状ワークWの端面に接触状態とされるため、押し棒4自体により軸状ワークWの誘導加熱時の後退移動を阻止することもできる。
【0039】
また、噴射コイル3が加熱コイルと冷却ジャケットの機能を有しているため、2組の支持ローラ2A、2Bの対向面間に噴射コイル3を確実に配置して、前後2組の支持ローラ2A、2B間の間隔を狭めることができ、支持ローラ2A、2B上に軸状ワークWを安定支持することができる。また、外周面に一定間隔で永久磁石15が埋設された各ローラ2aで軸状ワークWを支持回転させつつ誘導加熱や急速冷却を行うことができるため、軸状ワークWの外周面を均一加熱したり均一冷却することができる。これらのことから、例えば軸状ワークWが連続供給される場合であっても、各軸状ワークWの噴射コイル3に対する誘導加熱位置を常に安定化させて、各軸状ワークWに高品質な焼入状態を容易に得ることが可能になる。
【0040】
また、制御装置11により、通電検出器12で押し棒4と軸状ワークWの非接触状態が検出された際に、軸状ワークWを不良品と判定するため、押し棒4で軸状ワークWを押した状態(接触状態)で焼入された軸状ワークWのみを良品と判定できて、前述した連続焼入作業であっても、軸状ワークWに一層高品質の焼入状態を安定して得ることができると共に、作業能率を高めて焼入コストの低減化を図ることができる。
【0041】
またさらに、押し棒4の軸状ワークWとの接触部4aを除く部分が、セラミックの溶射もしくは七宝焼により絶縁処理された絶縁材4bで被覆されているため、高温に晒され易い押し棒4の耐久性等を高めて、高周波焼入装置1の長寿命化を図ることができる。また、加熱コイルと冷却ジャケットが一つの部材としての噴射コイル3で形成されているため、高周波焼入装置1自体の小型化が図れると共に、そのコストの低減化を図ることができる。
【0042】
なお、前記実施形態における、噴射コイル3の形態、永久磁石15の埋設構造、支持ローラ2A、2B、押さえローラ5A、5Bや押し棒4の構造、通電検出器12の構成等は、一例であって、例えば前記噴射コイル3の代わりに、加熱コイルと冷却ジャケットを別部材で形成してこれらを別体で配置したり、検出器12aとしてリレー以外の部品を使用する等、本発明の各発明に係わる要旨を逸脱しない範囲において適宜の構成を採用することができる。