特許第5943491号(P5943491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5943491-ポリエステルを調製するプロセス 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943491
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ポリエステルを調製するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/85 20060101AFI20160621BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C08G63/85
   C08G63/08
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-539160(P2013-539160)
(86)(22)【出願日】2011年11月14日
(65)【公表番号】特表2013-543037(P2013-543037A)
(43)【公表日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】EP2011005722
(87)【国際公開番号】WO2012065711
(87)【国際公開日】20120524
【審査請求日】2014年9月18日
(31)【優先権主張番号】10014743.8
(32)【優先日】2010年11月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ミュレン,ヴァン デル インゲ
(72)【発明者】
【氏名】フイジュサー,サスキア
(72)【発明者】
【氏名】ガベルス,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ハイセ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥチャトー,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】コニング,コルネリス エルネ
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0055612(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/110460(WO,A1)
【文献】 特開2003−064174(JP,A)
【文献】 特表2008−535987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00−63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを調製するプロセスであって、
9から40の炭素原子の環サイズを有する、必要に応じて置換されたラクトンを提供する工程、および
下記一般式(I)の化合物を触媒として使用して、前記ラクトンに金属媒介開環重合を行う工程、
を有してなるプロセス:
【化1】
式中、
・Mは、Al、Ti、V、Cr、MnおよびCoからなる群より選択され、
・XおよびX’は、独立して、ヘテロ原子であり、
・YおよびY’は、独立して、O、N、S、P、C、SiおよびBからなる群より選択され、
・Zは、水素、水素化ホウ素、水素化アルミニウム、カルビル、シリル、水酸化物、アルコキシド、アリールオキシド、カルボキシレート、カーボネート、カルバメート、アミド、チオレート、リン化物、およびハロゲンからなる群より選択され、
・L1およびL2は、独立して、それぞれ、XとYを互いに結合させる有機配位子およびX’とY’を互いに結合させる有機配位子であり、
・L3は、YとY’を互いに結合させる随意的な有機配位子である。
【請求項2】
前記触媒が、下記一般式(II)の化合物である、請求項1記載のプロセス:
【化2】
式中、M、Z、L1、L2、およびL3は、請求項1に記載したものと同じ意味を有する。
【請求項3】
1およびL2は、同一であり、下記からなる群より選択される、請求項1または2記載のプロセス:
【化3】
式中、Q1は、Yおよび/またはY’に結合する部分の位置を表し、Q2は、Xおよび/またはX’に結合する部分の位置を表し、
・R1は、水素、C1-6アルキル、およびフェニルからなる群より選択され、
・R2およびR3は、独立して、水素、C1-10アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1から4のヘテロ原子を含有する5員または6員の複素環からなる群より選択され、
・R4、R5およびR6は、独立して、水素、C1-10アルキル、C1-10ハロゲン化アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1から4のヘテロ原子を含有する5員または6員の複素環からなる群より選択されるか、またはR4およびR5が一緒に、1から4のヘテロ原子を必要に応じて含有する5員または6員の環状系を形成するか、またはR5およびR6が一緒に、1から4のヘテロ原子を必要に応じて含有する5員または6員の環状系を形成し、
・R7およびR8は、独立して、水素、C1-10アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに5員または6員の複素環からなる群より選択される。
【請求項4】
前記触媒が、下記一般式(III)の化合物である、請求項1から3いずれか1項記載のプロセス:
【化4】
式中、
・L3は、請求項1に記載したのと同じ意味を有し、
・R1-4は、独立して、水素、C1-10アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1から4のヘテロ原子を含有する5員または6員の複素環からなる群より選択され、
・R5は、水素(H)、水素化ホウ素(BH4-xx、式中、xは0〜3の整数であり、Rはカルビル、アルコキシドである)、水素化アルミニウム(AlH4-xx、式中、xは0〜3の整数であり、Rはカルビル、アルコキシドである)、カルビル(任意の炭化水素、−CR3、−Ar(アリール)、−CR=CR2、−C≡CR、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、シリル(−SiR3、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、水酸化物(−OH)、アルコキシド(−OR、式中、Rは必要に応じて置換されたアルキル)、アリールオキシド(−OAr)、カルボキシレート(−OC(=O)R、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、カーボネート(−OC(=O)OR、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、カルバメート(−OC(=O)NR2、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、アミド(−NR2、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、チオレート(−SR、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、リン化物(−PR2、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、およびハロゲン(F、Cl、Br、I)からなる群より選択される。
【請求項5】
1、R2、R3、およびR4の内の少なくとも2つが同一である、請求項4記載のプロセス。
【請求項6】
5が、アルコキシド(−OR、式中、Rは必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、カルボキシレート(−OC(=O)R、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、アミド(−NR2、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、チオレート(−SR、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、または水素化ホウ素(BH4-xx、式中、xは0〜3の整数であり、Rは必要に応じて置換されたアルキル、(置換)アリールである)である、請求項4または5記載のプロセス。
【請求項7】
1、R2、R3、およびR4が、独立して、水素、およびt−ブチルから選択され、
5が、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、およびベンゾキシからなる群より選択される、請求項4記載のプロセス。
【請求項8】
前記ラクトンが、9−ノナラクトン、10−デカラクトン、11−ウンデカラクトン、12−ドデカラクトン、13−トリデカラクトン、14−テトラデカラクトン、15−ペンタデカラクトン、16−ヘキサデカラクトン、4−メチルカプロラクトン、1,5−ジオキセパン−2−オン、リシノール酸のラクトン、13−ヘキシルオキサシクロトリデカン−2−オン、5−テトラデセン−14−オリド、11−ペンタデセン−15−オリド、12−ペンタデセン−15−オリド、7−ヘキサデセン−16−オリド、9−ヘキサデセン−16−オリド、10−オキサヘキサデカノリド、11−オキサヘキサデカノリド、12−オキサヘキサデカノリド、12−オキサヘキサデセン−16−オリド、6−デカノリド、6−ドデカノリド、8−ヘキサデカノリド、10−ヘキサデカノリド、12−ヘキサデカノリド、および6−デセン−6−オリドからなる群より選択される、請求項1から7いずれか1項記載のプロセス。
【請求項9】
前記ラクトンと前記触媒との間の分子比が、20:1〜1000:1の範囲にある、請求項1から8いずれか1項記載のプロセス。
【請求項10】
前記開環重合が、脂肪族または芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化脂肪族または芳香族炭化水素溶媒、またはエーテル溶媒の存在下で行われる、請求項1から9いずれか1項記載のプロセス。
【請求項11】
前記触媒が開始剤と組み合わせて用いられる、請求項1から10いずれか1項記載のプロセス。
【請求項12】
前記ポリエステルが、ポリスチレン較正を使用した160℃での1,2,4−トリクロロベンゼン中のサイズ排除クロマトグラフィーにより測定された、10,000g/モル以上の数平均分子量を有する、請求項1から11いずれか1項記載のプロセス。
【請求項13】
前記開環重合が、70〜180℃の範囲の温度で行われる、請求項1から12いずれか1項記載のプロセス。
【請求項14】
請求項1に定義された少なくとも2種類の異なるラクトン、または請求項1に定義された1種類のラクトンと請求項1に定義されたラクトンとは異なるモノマーとに、前記金属媒介開環重合が行われる、コポリマーを調製するための、請求項1から13いずれか1項記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルまたはエステル官能基を含有するコポリマーを調製するプロセスに関し、より詳しくは、金属媒介開環重合、さらにより詳しくは、いわゆる、マクロラクトン(macrolactones)の金属媒介開環重合を使用した、ポリエステルまたはエステル官能基を含有するコポリマーを調製するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、この材料が示すことのできる性質のために、非常に興味深い材料である。これらの性質の例としては、生体適合性、生分解性および薬物透過性が挙げられる。したがって、ポリエステルは、医療用途および食品包装用途にとって極めて興味深い。これらの目的に関して、特別に作製された構造を有する材料が望ましく、このことは、重合反応を高レベルで制御する必要性を意味する。その上、ポリエステルは、適切な性質のために、多くの用途においてポリエチレンの興味深い生分解性の代替物を形成できる。例えば、重縮合を使用した従来のポリエステル合成方法では、これらの材料の制御された合成を単調で退屈なプロセスにし得る基本的な問題が生じる。例えば、重縮合によるポリエステルの調製には、化学量論的問題、高い転化率の必要性、および反応中に形成された小分子の除去が伴うことがある。
【0003】
これらの従来の方法の適切な代替案は、ラクトンの開環重合である。この重合は、環状モノマーが「開き」、連鎖プロセスによって高分子鎖を形成するという事実に基づく。しかしながら、開環重合反応も、特に、アニオン開始剤またはカチオン開始剤が使用される場合、制御するのが難しいことがある。
【0004】
開環重合反応は、穏やかな重合条件下において満足な転化率で酵素により行えることが知られている。例えば、カンジダ・アンタルクチカ(Candida Antarctica)・リパーゼB(CALB)などのリパーゼは、ラクトンの開環重合において高活性であり、マクロラクトンについて並外れて速い重合速度を示す。このプロセスにおけるラクトンの反応性は、小さいラクトン(シソイドのエステル結合)の環の大きいひずみではなく、大きい環のラクトンに存在するトランソイドのエステル結合の立体配座をリパーゼが好むことによって、決定される。それゆえ、マクロラクトンは、CALBによって容易に重合できる。例えば、50,000g/モルまでの数平均分子量を有するポリ(ペンタデカラクトン)が報告されている(非特許文献1および非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、結果として得られるポリエステルの分子量および多分散性(特に、2以上の多分散指数)の制御は限られる。さらに、酵素はより高い反応温度には一般に耐えられないので、酵素による開環重合は、適用される温度により強力に制限される。その上、ラクトンの開環重合に使用できる酵素はかなり高価である。
【0006】
酵素による開環重合の制限に鑑みて、適切な代わりの金属媒介開環重合プロセスを見つける試みが行われてきた。そのようなプロセスは、求核性開始剤を使用することにより、ポリマーの分子量、分子量分布、コポリマーの組成とトポロジーおよび末端基を高レベルで制御できるので、特に魅力的である。酪酸の開環重合の背後にある原動力は、エンタルピーのマイナスの変化による、環状エステルからポリエステル鎖への移行、または熱力学的意味での、環の歪みの解放である。結果として、環の歪みは、ラクトンのサイズの増加と共に減少するので、金属媒介開環重合における反応性もそうである。実験的に、このことが、触媒/開始剤としてオクタン酸亜鉛/ブチルアルコールを使用した、様々なサイズのラクトンの開環重合の比較研究において、Dudaにより示された(非特許文献3)。相対的な重合速度は、6員(δ−バレロラクトン)と7員(ε−カプロラクトン)のラクトンについて、それぞれ、2500および330であることが分かり、一方で、12〜17員のラクトンの反応速度はたった1程度であった。その結果、15−ペンタデカラクトンなどのマクロラクトンの金属触媒開環重合のいくつかの例しか文献に見つけられず、一方で、見つけられたそれらの例には、低収率および低分子量しか報告されていない。最良の結果が、イットリウムトリス(イソプロポキシド)を使用して得られ、許容できる転化率および30,000g/モルの絶対数平均分子量までの分子量がもたらされた(非特許文献4)。
【0007】
特許文献1は、式L1aamの少なくとも1種類の触媒の存在下でのラクトンの重合によるポリヒドロキシアルカノエートを製造する方法に関する。
【0008】
特許文献2には、十分に高い熱安定性を有する立体錯体を簡単に製造できるラクトン開環重合触媒が開示されている。このラクトン開環重合触媒は、サレン型金属錯体を含有し、ポリエステルおよびブロックコポリマーを製造するのに、特に、生分解性プラスチックおよび医用材料を製造するに有用である。
【0009】
特許文献3には、ラクチド/ε−カプロラクトンコポリマーを製造する方法であって、それによって、分子量および分子量分布を制御しながら、理想的なランダムコポリマーに近いラクチド/ε−カプロラクトンコポリマーを製造できる方法が開示されている。ラクチドは、触媒としてアルミニウム−サレン錯体を使用することによって、ε−カプロラクトンと共重合される。
【0010】
科学論文「Ring opening oligomerisation reactions using aluminium complexes of Schiff’s bases as initiators」(非特許文献5)には、シッフ塩基由来のアルミニウム開始剤が開示されており、これは、オキシラン、ラクトンおよびラクチドのオリゴマー化にうまく使用できた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2006/108829号パンフレット
【特許文献2】特願2001/255190号明細書
【特許文献3】国際公開第2010/110460号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Focarete et al., J. Polym. Sci. B: Polym. Phys. 2001, 39, 1721
【非特許文献2】De Geus et al., Polym. Chem. 2010, 1, 525
【非特許文献3】Duda et al., Macromolecules 2002, 35, 4266
【非特許文献4】Zhong et al., Macromol. Chem. Phys. 2000, 201, 1329
【非特許文献5】Le Borgne et al., Makromol. Chem., macromol. Symp. 73, 37-46 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術に鑑みて、酵素による開環重合に報告されたものと類似の転化率および分子量を達成できる、ラクトンの金属媒介開環重合のための適切な触媒を提供することが非常に望ましいであろう。さらに、ラクトンの酵素による開環重合の利点を、金属媒介開環重合の熱安定性、並びに分子量、分子量分布および末端基の制御に関する金属媒介開環重合の融通性と組み合わせることが望ましいであろう。
【0014】
本発明の課題は、従来技術で直面した先に概説した問題の1つ以上に対する解決策を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願の発明者等は、この課題に、少なくとも一部には、金属錯体触媒を利用することによって応じられることを発見した。
【0016】
したがって、1つの態様において、本発明は、ポリエステルを調製するプロセスであって、
6から40の炭素原子の環サイズを有する、必要に応じて置換されたラクトンを提供する工程、および
一般式(I):
【化1】
【0017】
による化合物を触媒として使用して、このラクトンに金属媒介開環重合を行う工程、
を有してなるプロセスに関し、
式中、
・Mは、Al、Ti、V、Cr、MnおよびCoからなる群より選択され、
・XおよびX’は、独立して、ヘテロ原子であり、
・YおよびY’は、独立して、O、N、S、P、C、SiおよびBからなる群より選択され、
・Zは、水素、水素化ホウ素、水素化アルミニウム、カルビル、シリル、水酸化物、アルコキシド、アリールオキシド、カルボキシレート、カーボネート、カルバメート、アミド、チオレート、リン化物、およびハロゲンからなる群より選択され、
・L1およびL2は、独立して、それぞれ、XとYを互いに結合させる有機配位子およびX’とY’を互いに結合させる有機配位子であり、
・L3は、YとY’を互いに結合させる随意的な有機配位子である。
【0018】
発明者らは、意外なことに、他の金属錯体触媒とは違って、式(I)の金属錯体触媒は、酵素による開環重合により得られるものと類似の、多分散指数および分子量などの性質を有するポリマーを生成する様式で、ラクトンの金属媒介開環重合を効率的に触媒できることを発見した。さらに、本発明のラクトンの金属媒介開環重合は、ラクトンの開環重合における他の金属に基づく開環触媒と比べて、驚くほど速い重合反応速度を有することが分かり、ラクトンの酵素による開環重合と匹敵するか、またはそれより良い。
【0019】
一般式(I)による化合物において、XとX’が同一であることが好ましい。YとY’が同一であることも好ましい。さらに、L1とL2が同一であることが好ましい。
【0020】
本発明によれば、置換基Zは、特に、水素化ホウ素または水素化アルミニウムであり得る。水素化ホウ素(例えば、BH4)および水素化アルミニウム(例えば、AlH4)は、水素化物を通じて結合する陰イオン種である。これは、M(μ−H)2AH2(M=先に定義されたもの、A=B、Al)と示してもよい。
【0021】
有機配位子L1、L2、およびL3の例としては、四配座配位子(ポルフィリン、並びにサレンおよび関連するシッフ塩基など)、三配座配位子(トリスピラゾリルボレート、およびトリスピラゾリルメタンなど)、および二配座配位子(フェノキシイミン、(フェノキシ)ケチミン、およびエノラートイミンなど)が挙げられる。
【0022】
XとX’の両方がOであることが好ましい。YとY’の両方がNであることが好ましい。したがって、本発明の好ましい実施の形態において、以下の式(II)の触媒が使用される:
【化2】
【0023】
式中、M、Z、L1、L2、およびL3は、上述したものと同じである。
【0024】
1およびL2は、有機部分の以下のリストから選択されることが好ましい:
【化3】
【0025】
式中、Q1は、Yおよび/またはY’に結合する部分の位置を表し、Q2は、Xおよび/またはX’に結合する部分の位置を表し、
・R1は、水素、C1-6アルキル(メチル、エチルまたはプロピルなど)、およびフェニルからなる群より選択され、
・R2およびR3は、独立して、水素、C1-10アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1から4のヘテロ原子を含有する5員または6員の複素環からなる群より選択され、
・R4、R5およびR6は、独立して、水素、C1-10アルキル、C1-10ハロゲン化アルキル(フッ素化アルキルなど)、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1から4のヘテロ原子を含有する5員または6員の複素環からなる群より選択されるか、またはR4およびR5が一緒に、1から4のヘテロ原子を必要に応じて含有する5員または6員の環状系を形成するか、またはR5およびR6が一緒に、1から4のヘテロ原子を必要に応じて含有する5員または6員の環状系を形成し、
・R7およびR8は、独立して、水素、C1-10アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに5員または6員の複素環からなる群より選択される。
【0026】
それゆえ、L1に関して、Q1は、Yに結合する部分の位置を表し、Q2は、Xに結合する部分の位置を表し、
それゆえ、L2に関して、Q1は、Y’に結合する部分の位置を表し、Q2は、X’に結合する部分の位置を表す。
【0027】
随意的な基のL3は、2から30の炭素原子を含有し、N、O、F、ClおよびBrから選択される1から10のヘテロ原子を必要に応じて含有する、線状または分岐脂肪族鎖、もしくは環状部分または芳香族部分であることが好ましい。L3が、−(CH22−、1,2−フェニル、および1,2−シクロヘキシルからなる群より選択されることがより好ましい。
【0028】
本発明のプロセスに使用される触媒化合物が、以下の一般式(III)
【化4】
【0029】
の化合物であることがさらにより好ましく、
式中、
・L3は、上述したのと同じ意味を有し、−(CH22−、1,2−フェニル、および1,2−シクロヘキシルからなる群より選択されることが好ましく、
・R1-4は、独立して、水素、C1-10アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1から4のヘテロ原子を含有する5員または6員の複素環からなる群より選択され、
・R5は、水素(H)、水素化ホウ素(BH4-xx、式中、xは0〜3の整数であり、Rはカルビル、アルコキシドである)、水素化アルミニウム(AlH4-xx、式中、xは0〜3の整数であり、Rはカルビル、アルコキシドである)、カルビル(任意の炭化水素、−CR3、−Ar(アリール)、−CR=CR2、−C≡CR、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、シリル(−SiR3、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、水酸化物(−OH)、アルコキシド(−OR、式中、Rは必要に応じて置換されたアルキル)、アリールオキシド(−OAr)、カルボキシレート(−OC(=O)R、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、カーボネート(−OC(=O)OR、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、カルバメート(−OC(=O)NR2、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、アミド(−NR2、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、チオレート(−SR、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、リン化物(−PR2、式中、Rは、水素、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、およびハロゲン(F、Cl、Br、I)からなる群より選択される。
【0030】
本出願で使用される「カルビル」という用語は、全ての種類の炭化水素(アルキル、アリール、ビニル、アセチレンなどを含む)を称することが意図されている。
【0031】
置換基R1、R2、R3、およびR4は、独立して、水素、C1-10アルキル、シリル、C1-6アルコキシ、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、並びに酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1から4のヘテロ原子を含有する5員または6員の複素環からなる群より選択される。より大きい嵩張る置換基には、重合速度にマイナスの影響があることが分かった。理論により拘束することを意図するものではないが、発明者等は、嵩張る残基R1、R2、R3、およびR4が、アルミニウム中心の周りに立体障害を誘発すると考えており、このことが、モノマーがこの中心に近づくためのエネルギー障壁を増大させると考えられる。このことは、転じて、反応の速度を実質的に減少させる。したがって、好ましい実施の形態において、置換基R1、R2、R3、およびR4は比較的小さい。置換基R1、R2、R3、およびR4は、例えば、独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、2,2−ジメチルブタン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、シクロヘキサン、メトキシド、エトキシド、(n−/t−)ブトキシド、アリールオキシド、ハロゲンから選択して差し支えない。置換基R1、R2、R3、およびR4が、独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、およびt−ブチルからなる群より選択されることがさらにより好ましい。置換基R1、R2、R3、およびR4が、独立して、水素、メチル、エチルからなる群より選択されることが最も好ましい。
【0032】
ある実施の形態において、置換基R1、R2、R3、およびR4の内の少なくとも2つが同一である。別の実施の形態において、置換基R1、R2、R3、およびR4の内の少なくとも3つが同一である。さらに別の実施の形態において、置換基R1、R2、R3、およびR4の全てが同一である。実際的見地から、この最後の実施の形態が好ましい。
【0033】
置換基R5は、アルコキシド(−OR、式中、Rは必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、カルボキシレート(−OC(=O)R、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、アミド(−NR2、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、チオレート(−SR、式中、Rは、必要に応じて置換されたアルキル、必要に応じて置換されたアリール)、または水素化ホウ素(BH4-xx、式中、xは0〜3の整数であり、Rは必要に応じて置換されたアルキル、(置換)アリールである)であることが好ましい。これらの置換基は、開環重合反応をそれら自体で開始することができる。異なるR5置換基(金属アルキルまたは水素化物など)を有する一般式(III)による化合物を、アルコール、水、カルボン酸またはアミンなどの適切な開始剤化合物と組み合わせて使用することができる。開環重合の機構および開始が、当業者に十分に周知されており、例えば、「Handbook of Ring-Opening Polymerization, 2009, Eds. Philippe Dubois, Olivier Coulembier, Jean-Marie Raquez, Wiley-VCH, ISBN: 978-3-527-31953-4」に記載されている。
【0034】
好ましい実施の形態において、R5は、水素、メチル、エチル、n−オクチル、メトキシ、エトキシ、およびベンゾキシ(−OCH265)からなる群より選択される。
【0035】
良好な結果が、一般式(I)による化合物で得られた。この式において、R1、R2、R3、およびR4は、独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチルから選択され、R5は、水素、メチル、エチル、i−プロピル、t−ブチルから選択される。
【0036】
本発明のプロセスに使用されるラクトンは、6から40の炭素原子の環サイズを有するラクトンである。6未満の炭素原子の環サイズでは、転化率が許容できないほど低くなり、分子量が非常に小さくなる。さらに、γ−ブチロラクトンの5員環は、開環が難しいほど熱力学的に安定であり、したがって、γ−ブチロラクトンを本発明のプロセスに効率的に使用できない。ラクトンが、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、7−ヘプタノラクトン、8−オクタラクトン、9−ノナラクトン、10−デカラクトン、11−ウンデカラクトン、12−ドデカラクトン、13−トリデカラクトン、14−テトラデカラクトン、15−ペンタデカラクトン、および16−ヘキサデカラクトンからなる群より選択されることが好ましい。これらの表記の各々において、接頭辞は、複素環における炭素の数を特定する(すなわち、主鎖に沿った関連するエステル基の間の距離)。したがって、接頭辞は、ラクトン環のサイズも示す。本発明のプロセスに使用されるラクトンは、好ましくは9〜40の炭素原子の環サイズ、さらに好ましくは、12〜40の炭素原子の環サイズなどの、10〜40の炭素原子の環サイズを有する。比較的大きい環サイズを有するそのようなラクトンを使用する場合、重合速度は比較的速い。
【0037】
ある実施の形態において、ラクトンは、10−デカラクトン、11−ウンデカラクトン、12−ドデカラクトン、13−トリデカラクトン、14−テトラデカラクトン、15−ペンタデカラクトン、および16−ヘキサデカラクトンからなる群より選択される。
【0038】
良好な結果が、例えば、10−デカラクトン、11−ウンデカラクトン、15−ペンタデカラクトン、および16−ヘキサデカラクトンからなる群より選択されるラクトンに得られた。
【0039】
ラクトンは、開環重合反応に干渉しない1つ以上の置換基により置換されてもよい。そのようなラクトンの例としては、例えば、4−メチルカプロラクトン、1,5−ジオキセパン−2−オン(2位でのエーテル置換基)、リシノール酸のラクトン((ω−1)位で分岐したヘキシルを有する10員環)、13−ヘキシルオキサシクロトリデカン−2−オン(ω位にヘキシル分岐を有するマクロ環)などが挙げられる。
【0040】
さらに、ラクトンが環に1つ以上の不飽和を含むことも可能である。そのようなラクトンの例としては、5−テトラデセン−14−オリド、11−ペンタデセン−15−オリド、12−ペンタデセン−15−オリド(グロバリドとしても知られている)、7−ヘキサデセン−16−オリド(アンブレットリドとしても知られている)、9−ヘキサデセン−16−オリドが挙げられる。
【0041】
環に1つ以上のヘテロ原子を有するラクトンも用いてよい。そのようなラクトンの例としては、10−オキサヘキサデカノリド、11−オキサヘキサデカノリド、12−オキサヘキサデカノリド、および12−オキサヘキサデセン−16−オリドが挙げられる。
【0042】
それに加え、環サイズが最大ではないラクトンを使用することも可能である。そのようなラクトンの例としては、6−デカノリド、6−ドデカノリド、8−ヘキサデカノリド、10−ヘキサデカノリド、12−ヘキサデカノリド、および6−デセン−6−オリドが挙げられる。
【0043】
本発明のプロセスにおいて、ラクトンと触媒との間の分子比は、20:1〜1000:1の範囲、好ましくは40:1〜750:1の範囲、より好ましくは50:1〜500:1の範囲にあることが好ましい。
【0044】
上述したように、ある場合には、本発明のプロセスに使用される触媒は、好ましくはほぼ等モル比で、開始剤と組み合わせて適用してもよい。本発明のプロセスのための適切な開始剤としては、アルコール、水、カルボン酸、およびアミンが挙げられる。そのような開始剤は、当業者に十分に周知であり、その例は、例えば、ここに引用する、Clark et al., Chem. Commun. 2010, 46, 273-275に見つけられる。
【0045】
開環重合を開始剤の存在下で行う場合、開始剤と触媒との間の分子比は、開始剤として使用される試薬が連鎖移動剤としても使用されているのでなければ、通常は約1:1である。それゆえ、ラクトンと開始剤との間の分子比は、ラクトンと触媒との間の分子比と同じとなる。ラクトンと開始剤との間の分子比(それゆえ、本質的に、ラクトンと触媒との間の分子比)は、調製されるポリエステルまたはコポリマーの分子量を調節するための手段として使用できる。発明者等は、ポリエステルまたはコポリマーの分子量が、ラクトン対開始剤の比の増加と共にほとんど線形に増加することを発見した。
【0046】
開始剤が連鎖移動剤として使用される場合、その開始剤は、活性部位当たりの複数の鎖を生じさせるために触媒に対して過剰に加えられる。適用される触媒の量は、触媒の効率が増加するために、連鎖移動剤の存在下で減少させることができる。連鎖移動剤が存在する場合、そのモル量は、一般に、触媒のモル量の1〜10,000倍の範囲、好ましくは触媒のモル量の10〜100倍の範囲にある。
【0047】
開環重合反応は、窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で行われることが好ましい。アルミニウムセレン錯体触媒が、不活性雰囲気下で、好ましくは水の(多量には)ない状況下で、よりうまく働くことが一般に知られている。
【0048】
所望であれば、本発明の開環重合は、脂肪族または芳香族炭化水素(例えば、ヘプタン、トルエン)、ハロゲン化脂肪族または芳香族炭化水素(例えば、ジクロロメタン、ブロモベンゼン)、エーテル(例えば、ジエチルエーテル)などの溶媒の存在下で行って差し支えない。ラクトンを溶解させるため、および/または重合反応速度および選択性を増加させるため、溶媒を使用してもよい。
【0049】
本発明のプロセスは、15,000g/モル以上、または20,000g/モル以上などの、ポリスチレン較正を使用した160℃での1,2,4−トリクロロベンゼン中のサイズ排除クロマトグラフィーにより測定された、10,000g/モル以上の数平均分子量を有するポリエステルまたはコポリマーの調製に使用できる。ある実施の形態において、本発明のプロセスにより調製されるポリエステルまたはコポリマーの数平均分子量は、10,000〜200,000g/モルの範囲にある。得られた正確な分子量は、ラクトンと触媒との間の分子比に依存し、さらに、反応に利用されるラクトンの種類に依存する。本発明の特別な実施の形態において、使用されるラクトンは9超の環サイズを有し、生成されるポリエステルは、100,000〜200,000g/モルなどの、100,000g/モル以上の数平均分子量を有する。
【0050】
本発明のプロセスにより調製されるポリエステルまたはコポリマーは、1.5〜3.2の範囲などの1.2〜3.5の範囲の多分散指数を有し得る。
【0051】
本発明のプロセスは、他の金属系触媒および酵素によるラクトンの開環重合と比べて、速いラクトン重合速度を有することが分かった。本発明のプロセスにおける開環重合は、100℃のプロセス温度で測定して、0.02分-1、または0.03分-1などの、0.01分-1以上の重合速度で生じ得る。本発明のプロセスにおける重合速度は、例えば、100℃のプロセス温度で測定して、0.25分-1、または0.30分-1ほど速いことがあり得る。
【0052】
有利には、本発明のプロセスは比較的高いプロセス温度で行うことができ、その温度では、ラクトンの酵素による開環重合に使用される酵素は、通常は劣化してしまうであろう。一般に、本発明のプロセスは、80〜175℃の範囲、または90〜150℃の範囲などの70〜180℃の範囲の温度で行うことができる。
【0053】
特別な実施の形態において、金属媒介開環重合反応において、ここに記載された2種類以上のラクトンを適用することによって、またはここに記載された1種類のラクトンおよびここに記載されたラクトンとは異なるモノマーを適用することによって、コポリマーの調製に本発明のプロセスを使用することができる。ラクトンとは異なるモノマーは、例えば、(D−,L−,またはD,L−)ラクチド、グリコリド、モルホリンジオン、エポキシと無水物、環状カーボネート、エポキシドとCO2/CS2、オキセタンと無水物、オキセタンとCO/CS2、アジリジンと無水物、アジリジンとCO2/CS2などからなる群より選択することができる。これにより、例えば、(ランダムまたはブロック)コポリエステルおよびポリ(エステルカーボネート)を調製することができる。
【0054】
本発明のプロセスに使用される触媒の量から、ポリマー生成物から触媒を分離する必要は直接ない。しかしながら、どのような理由であれ、ポリマーから触媒を分離する必要がある場合には、その触媒は、例えば、適切な溶媒中にポリマーを沈殿させることによって、ポリマーから分離することができる。
【0055】
一般式(III)の化合物は、比較的容易に得ることができる。サレン配位子は、従来、1,2−ジアミンとサリチルアルデヒドとの間の直接の縮合反応により得られる。この反応は縮合反応である。次の工程において、トリエチルアルミニウム(AlEt3)が、サレン配位子のヒドロキシル基の内の1つと反応する。エタンが形成され、その反応からガスとして排出される。酸素とアルミニウムとの間に共有結合が形成され、窒素とアルミニウムとの間に配位結合が形成される。この工程は、非常に速く、極めて発熱性である。その後、より適時に、立体配座転位が起こる。この転位後、エタンの分子が再びなくなり、アルミニウムサレン錯体が残される。
【発明の効果】
【0056】
本発明のプロセスにより得られるポリエステルおよびコポリマーは、数平均分子量、多分散指数などのそれぞれの性質に応じて、多種多様な用途に使用できる。いくつかの非限定的例示の用途には以下のものがある。前記ポリエステルおよびコポリマーは、機械的強度の高い繊維の製造に含まれてもよい。特に、分子量の大きいポリエステルおよびコポリマーがこの目的に適している。繊維用途には、ポリマーが比較的低い多分散指数を有することがさらに好ましい。さらに、前記ポリエステルおよびコポリマーは、生物医学用途に使用してもよい。この点に関して、コポリマーの分解性は、コモノマーの選択により調節できることが非常に有利である。生物医学用途の例としては、ネジ(骨用など)、足場、縫合糸、薬物送達装置などが挙げられる。その上、本発明のプロセスにより得られるポリエステルおよびコポリマーは、ポリエチレンの一般的な代替物として使用してもよい。しかしながら、本発明のポリエステルおよびコポリマーは、有利には、生分解性(生分解性の速度は、1種類以上の適切なコモノマーを選択することによって、調節することができる)および生体適合性である。それゆえ、適用されたポリマーの残物は、ポリエチレンの長い間のタイム・スパンと比べて、数ヶ月から数年のタイム・スパンで、やがて完全に分解する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】スキーム1は錯体の化学構造を示し、図1は、様々なサレン錯体を使用したペンタデカラクトンの重合の転化率対時間を示すグラフである
【実施例】
【0058】
ここで、決して制限を意図していない以下の実施例により、本発明をさらに説明する。
【0059】
γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、15−ペンタデカラクトン、16−ヘキサデカラクトン、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、11−ウンデカラクトン、メシチレンおよびベンジルアルコールは、Aldrich社から購入した。10−デカラクトンは、Macromolecules 2006, 39, 5021-5027にVan der Mee等により記載された手法にしたがって合成した。全てのモノマー、メシチレンおよびベンジルアルコールは、使用前に蒸留した。トルエンおよびトリクロロベンゼンは、Biosolve社から購入した。トルエンは、使用前にアルミナカラムで乾燥させた。アルミニウムサレン錯体は、Inorg. Chem. 1986, 25, 2858-2864にDzugan等により記載された手法にしたがって合成した。
【0060】
方法
1Hおよび13C NMR分光法を、CDCl3中においてVarian Mercury 400MHz NMRで行った。VNMRソフトウェアを使用して、データを獲得した。テトラメチルシラン(TMS)に対する化学シフトがppmで報告されている。低分子量サイズ排除クロマトグラフィー(LMW−SEC)を、Waters 2486 UV検出器および50×7.5mmのPolymer Labortories PLgelガードカラム(5mmの粒子)と、その後に直列した2 PLgel 5mm Mixed−Dカラムを備えたWaters Allianceシステムにて40℃で行った。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、Waters 2487分離モジュール、Waters 2414屈折率検出器(40℃)、Waters 2487二重吸光度検出器およびPSS SDV5mガードカラムと、その後に5mの直列した2 PPS SDV linearXLカラム(8×300)を備えたWaters Allianceシステムにて40℃で行った。ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)で安定化させたテトラヒドロフラン(THF、Biosolve)を1ml/分の流量で、LMS−SECおよびSECの溶離液として使用した。分子量をポリスチレン基準(Polymer Laboratories、Mp=580からMp=7.1×106g/モルまで)に対して計算した。分析を行う前に、サンプルを0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルタ(13mm、ポリプロピレン(PP)筐体、Alltech)に通して濾過した。高温サイズ排除クロマトグラフィー(HT−SEC)を、直列の3PLgel Olexis(300×7.5mm、Polymer Laboratories)カラムについて、Polymer Laboratories PLXT−20Rapid GPC Polymer Analysis System(ポンプ、屈折率検出器および粘度検出器を含む)にて160℃で行った。1,2,4−トリクロロベンゼンを1ml/分の流量で溶離液として使用した。ポリスチレン基準(Polymer Laboratories、Mp=580からMp=7.1×106g/モルまで)に対して計算した。Polymer Laboratories PLXT−220ロボット式サンプル取扱システムをオートサンプラーとして使用した。マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI−tof−MS)を、ポジティブ・リフレクタ・モードでPerSeptive Biosystem Voyager−DE STR Biospectrometry−Workstationにて行った。20,000Vの加速電圧、83.2%のグリッドおよび320nsの遅延時間およびスペクトル当たり1000ショットを使用した。Flukaからのトランス−2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチル−プロペニリデン]−マロノニトリル≧99%をマトリクスとして使用し、トリフルオロ酢酸カリウムを塩として、1:4;4の塩:マトリクス:サンプルの比で用いた。サンプル調製のために、ポリ(ペンタデカラクトン)(PPDL)をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に溶解させ、他のポリラクトンサンプルをTHF中に溶解させた。
【0061】
合成方法
太字の数字が、スキーム1にそれぞれの構造を示している。
【0062】
N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−ジアミノエチレンエチルアルミニウム(1)
サリチルアルデヒド(3.9g;32ミリモル)およびエチレンジアミン(1.0g;16ミリモル)を、100mLの一口フラスコ内の40mLのエタノールに加えた。この混合物を室温で3時間に亘り撹拌した。形成された沈殿物をブフナー漏斗で濾過した。沈殿物を20mLのメタノールで3回洗浄した。固体を収集し、真空下において40℃で一晩乾燥させた。中間体配位子のN,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−ジアミノエチレンを、80.5%の収率(3.62g;13.5ミリモル)で黄色の固体として得た。1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 13.19 (s, 2H, PhOH), 8.36 (s, 2H, N=CH), 7.15 (m, 4H, PhH), 6.95 (m, 4H, PhH), 3.94 (s, 4H, NCH2)。得られた中間体配位子のN,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−ジアミノエチレン(2.14g;7.9ミリモル)を乾燥アセトニトリル中に分散させた。AlEt3の0.95Mのトルエン溶液(8.5mL;8.08ミリモル)を加えた。容積が50%減少するまで、黄色の透明溶液を加熱した。冷却の際に、黄色の針状物質が沈殿し、残りの液体をカニューレにより除去した。固体を石油エーテルで二回洗浄し、真空下において室温で乾燥させた。薄黄色の針を、78.5%の収率(1.99g;6.2ミリモル)で得た。1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 8.27 (s, 2H, N=CH), 7.36 (t, 2H, PhH), 7.13 (d, 2H, PhH), 7.08 (d, 2H, PhH), 6.69 (t, 2H, PhH), 3.91 (h, 2H, NCH2), 3.64 (h, 2H, NCH2). 0.74 (t, 3H, AlCH2CH3), -0.32 (q, 2H, AlCH2CH3)。
【0063】
N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−ジアミノエチレンエチルアルミニウム(2)
3,5−ジ−tert−ブチルサリチルアルデヒド(4.46g;18ミリモル)およびエチレンジアミン(0.57g;9.5ミリモル)を、100mLの一口フラスコ内の40mLのエタノールに加えた。この混合物を室温で3時間に亘り撹拌した。形成された沈殿物をブフナー漏斗で濾過した。沈殿物を20mLのメタノールで3回洗浄した。固体を収集し、真空下において40℃で一晩乾燥させた。中間体配位子のN,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−ジアミノエチレンを、92.9%の収率(4.35g;8.8ミリモル)で黄色の粉末として得た。1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 13.64 (s, 2H, PhOH), 8.39 (s, 2H, N=CH), 7.36 (m, 2H, PhH), 7.06 (s, 2H, PhH), 3.92 (s, 4H, NCH2), 1.44 (s, 9H, C(CH3)3)。得られた中間体配位子のN,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−ジアミノエチレン(2.04g;4.14ミリモル)をトルエン中に溶かした。AlEt3(3.5mL;4.55ミリモル)を注射器で加え、混合物を3時間に亘り還流させた。還流後、黄色の透明溶液を室温まで冷却した。冷却後、真空下で溶媒を蒸発させた。薄黄色の固体を、70.2%の収率(1.58g;2.9ミリモル)で得た。1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 7.86 (s, 1H, N=CH), 7.50 (s, 1H, N=CH), 7.05 (m, 4H, PhH), 3.15 (m, 2H, NCH2), 2.63 (m, 2H, NCH2), 1.80 (s, 9H, C(CH3)3), 1.39 (s, 9H, C(CH3)3), 1.15 (t, 3H, AlCH2CH3), 0.05 (q, 2H, AlCH2CH3)。
【0064】
N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−ジアミノエチレンベンジルアルコキシアルミニウム(3)
アルミニウムサレン錯体(1)(1.044g;3.24ミリモル)をトルエン中に分散させた。BnOH(0.748g;6.68ミリモル)を注射器で加え、混合物を一晩100℃で撹拌した。これにより、透明な液体中に白色の固体が生成した。分散液を氷浴中で冷却し、15mLのトルエンで二回洗浄した。これにより、79.6%の収率(2.57ミリモル)で薄白色の結晶が生成した。1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 8.24 (s, 2H, N=CH), 7.41 (m, 2H, PhH), 7.15 (m, 2H, PhH), 7.07 (m, 2H, PhH), 6.75 (t, 2H, PhH), 4.62 (s, 2H, OCH2), 4.02 (h, 2H, NCH2), 3.66 (h, 2H, NCH2)。
【0065】
N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−ジアミノエチレンベンジルアルコキシアルミニウム(4)
アルミニウムサレン錯体(2)(0.338g;0.62ミリモル)をトルエン中に溶かした。BnOH(0.157g;1.5ミリモル)を注射器で加え、混合物を一晩100℃で撹拌した。その後、真空下で溶媒を蒸発させた。得られた黄色の固体を5mLのPET−エーテルで洗浄した。高真空およびヒートガンを使用して、残りのBnOHを蒸発させた。これにより黄色の粉末が生成した。1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 8.28 (s, 2H, N=CH), 7.51 (d, 2H, PhH), 7.03 (m, 5H, PhH), 6.97 (d, 2H, PhH), 4.56 (s, 2H, OCH2), 4.02 (m, 2H, NCH2), 3.66 (m, 2H, NCH2), 1.55 (s, 18H, C(CH3)3), 1.31 (s, 18H, C(CH3)3)。
【0066】
15−ペンタデカラクトンの例示の化学開環重合
15−ペンタデカラクトン(1.0g;4.2ミリモル)、スキーム1に示されたアルミニウムサレン触媒、およびベンジルアルコール(共開始剤)を窒素雰囲気下でバイアルに加えた。スキーム1の錯体1または3を使用した場合、ベンジルアルコールのみを加えた。ベンジルアルコール対触媒のモル比は1:1に一定に維持したのに対し、モノマー対開始剤の比は44から520まで変動させた。次いで、バイアルを閉じ、4時間に亘り100℃で撹拌した。溶液中の反応のために、加熱前に、重合にトルエン(2mL)を加えた。反応後、混合物を氷浴中で冷却し、溶媒を蒸発させた。さらに沈殿反応を行わずに、生成物を分析した。
【0067】
反応速度実験
モノマー(1ミリモル)およびアルミニウムサレン触媒(10μモル)を、N2雰囲気下においてグローブボックス内で5mLのクリンプキャップ・バイアルに加えた。重合反応当たり、8つのサンプルを作製した。サンプルをグローブボックスから取り出し、トルエン中40μモル/mLの濃度でBnOHを含有する0.25mLの原液を加えた。100:1:1のモノマー:触媒:BnOH比を得た。モノマーの濃度は4モル/Lであった。バイアルを、100℃に予熱した回転式反応器内に置き、所定の時間で、サンプルを4mlの冷たいメタノールで急冷した。分析前に、サンプルを室温で空気乾燥させた。全てのサンプルをガスクロマトグラフィー(GC)、HT−SEC、および1H−NMRで分析した。
【0068】
ポリバレロラクトン:1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 7.38 (s, 5H, PhH), 5.08 (s, 2H, PhCH2O), 4.07 (t, 2H, CH2O), 2.34 (t, 2H, CH2C=O), 1.62 (m, 4H, CH2CH2O)。
【0069】
ポリカプロラクトン:1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 7.38 (s, 5H, PhH), 5.11 (s, 2H, PhCH2O), 4.04 (t, 2H, CH2O), 2.31 (t, 2H, CH2C=O), 1.66 (m, 4H, CH2CH2O), 1.37 (m, 2H, CH2CH2)。
【0070】
ポリデカラクトン:1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 7.35 (s, 5H, PhH), 5.11 (s, 2H, PhCH2O), 4.04 (t, 2H, CH2O), 2.30 (t, 2H, CH2C=O), 1.61 (m, 4H, CH2CH2O), 1.31 (m, 10H, CH2CH2)。
【0071】
ポリウンデカラクトン:1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 7.33 (s, 5H, PhH), 5.10 (s, 2H, PhCH2O), 4.06 (t, 2H, CH2O), 2.28 (t, 2H, CH2C=O), 1.60 (m, 4H, CH2CH2O), 1.27 (m, 12H, CH2CH2)。
【0072】
ポリペンタデカラクトン1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 7.35 (s, 5H, PhH), 5.10 (s, 2H, PhCH2O), 4.05 (t, 2H, CH2O), 2.26 (t, 2H, CH2C=O), 1.59 (m, 4H, CH2CH2O), 1.24 (m, 20H, CH2CH2)。
【0073】
ポリヘキサデカラクトン:1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 7.34 (s, 5H, PhH), 5.09 (s, 2H, PhCH2O), 4.05 (t, 2H, CH2O), 2.28 (t, 2H, CH2C=O), 1.60 (m, 4H, CH2CH2O), 1.23 (m, 22H, CH2CH2)。
【0074】
結果
ラクトンの重合における触媒の高効率が、高速反応から直ちに明らかであった。反応媒体の粘度が数分以内に急激に増加し、約20分の撹拌後に停止した。転化による迅速な粘度増加が酵素的合成(例えば、ポリペンタデカラクトンの)から公知であるけれども、金属触媒について、ラクトン(ペンタデカラクトンなど)の開環重合に関するそのような速い重合反応速度は注目に値する。様々なモノマー対触媒比(M:C)を使用した等モル量のBnOHの存在下で1により触媒された開環重合の結果のいくつかが表1に示されている。
【0075】
モノマー対1の低い比について、1H−NMR分光法(表1、エントリー1および2参照)が、1時間の適用反応時間内でほぼ定量的なモノマー転化率を示した。比を増加させた場合、モノマー転化率は、たぶん、反応混合物の高粘度により生じる拡散の制限のために、70%と74%の間で横這い状態になった(表1、エントリー4および5)。より高い分子量のポリペンタデカラクトンのモノマー転化率は、ジューテロ化クロロホルム中のポリペンタデカラクトンの低い溶解度のために、過小評価されているようであることに留意すべきである。
【0076】
表1の測定された数平均分子量は、それぞれ、44のモノマー対触媒の比に関する24,000g/モルから、424の比に関する118,000g/モルまでに及ぶ。分子量が、モノマー対触媒の比の増加とほぼ線形に増加することは注目に値する。得られたポリペンタデカラクトンの多分散指数(PDI)は2.1から2.8に及び、これは、アルミニウムサレン触媒がシングルサイト触媒であるという予測を支持する。このことは、エステル交換反応の存在も示唆する。
【表1】
【0077】
触媒系としてベンジルアルコールと組み合わせて錯体1を使用した重合に加え、触媒系としてベンジルアルコールと組み合わせて錯体2を使用した重合、触媒系として錯体3を使用した重合、および触媒系として錯体4を使用した重合を行った。これらの錯体の化学構造がスキーム1に示されている。
【0078】
図1(様々なサレン錯体を使用したペンタデカラクトンの重合の転化率対時間を示す、[錯体]=0.16M、[ラクトン]0=1.5M、T=100℃、t=4時間;●=1、▲=2、◆=3、■=4)から観察されるように、錯体1または2を使用した重合により、完全な転化が生じた。錯体4を使用して到達した最高の転化率は87%であり、錯体2を使用した場合には93%であった。これは表2から分かる。この表は、様々な錯体を使用したペンタデカラクトンの開環重合の結果を示している(表2において:[錯体]=0.16M、[ラクトン]0=1.5M、T=100℃)。
【表2】
【0079】
重合したラクトンの環サイズの影響を研究するために、様々な環サイズに関して反応速度研究を行った。全ての重合は、同じ条件下(不活性雰囲気下において100℃)で行い、1:1:100の同じ触媒:開始剤:モノマーの比を適用した。これらの結果が表3に要約されている(表3において:[錯体]≒15mM、[ラクトン]0≒15mM、t=100℃;β−BL=β−ブチロラクトン;γ−BL=γ−ブチロラクトン;VL=δ−バレロラクトン;CL=ε−カプロラクトン;DL=10−デカラクトン;UL=11−ウンデカラクトン;PDL=15−ペンタデカラクトン;およびHDL=16−ヘキサデカラクトン)。より大きいラクトンに基づくポリマーのTHF中の低い溶解度のために、全てのSEC測定は、160℃で1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)中で行った。錯体は、β−ブチロラクトン(β−BL)の重合に対して、事実上、反応性がない。転化率は3%を超えず、低分子量の生成物(Mn=850g/モル)しか得られなかった。5員環の熱力学的安定性に基づいて予測されるように、96時間後に、γ−ブチロラクトン(γ−BL)の重合は観察されなかった。
【表3】
図1